( ・∀・) 夢都市のようです (゚、゚トソン

1 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 15:07:09 ID:pjD1kZAc0


(; ∀ )「あ゛ぁ…ぶ……はっ」



冷たい苦しい沼の中。
息を吸おうとしても咥内に入ってくるのは臭い泥ばかりで。
こんなことはなら、いっそう死んでしまった方がマシだと思った。



(; ∀ )「ぶぁはっぐっふぅ…ぅ」



これは夢だ。そんなことわかってる。いつものように…いつものように冷静にここから這い上がればいい。
けれど、何故かいつもなら自由に動く手足は、恐怖に弄ばれ言うことを聞いてくれなかった。
霞む視界で見上げた空は星一つない暗闇で、黒い空の真ん中には青白く光る鋭い三日月が
こちらをにんまりと見下ろしている。


ああ、苦しい、クルシイ。

2 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 15:12:10 ID:pjD1kZAc0


(; ∀ )「はぁっ…は、ぅ゛、ん゛」



何故僕はこんな場所で溺れているのだろう。
何故僕らがあんな目に合わなければならないのだろう。
がぼり、と大量の泥が喉の奥に流れ込んできて、息が詰まった。
これは夢だというのに、苦しくてたまらない。冷たくてたまらい。

意識が遠のいていく中、もう殆ど暗い影に覆われていた視界の中を、一線の銀色の光が走った。
とたん、今まで体に纏わり付いて重くのしかかっていた泥がサァッと消え去り、
喉の奥に詰まっていたはずの物も、酸素の足りない息苦しさも、まるで幻の様に消える。

3 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 15:17:30 ID:pjD1kZAc0


(; ∀ )「…ッハァ!」



一瞬何が起こったのか把握できず、慌てて自由になった手足でその場を這い回る。
けれどすぐに、もうどこにも泥の沼がないことに気が付いた。
それどころか、手足にも着ている服にも、体のどこにも泥は付いていない。
安心してドキドキと五月蝿くなっていた心臓を落ち着かせ、両手を地に付けたまま顔を上げる。





そこには―――






.

4 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 15:22:27 ID:pjD1kZAc0





(;・∀・)











( #゚;;)





.

5 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 15:27:22 ID:pjD1kZAc0









――夢とは、

・睡眠中あたかも現実の経験であるかのように感じる、
 一連の観念や心像のこと。睡眠中にもつ幻覚のこと。
・将来実現させたいと思っていること。願望。


                         (Wikipedia引用)









( ・∀・) 夢都市のようです (゚、゚トソン



.

6 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 15:32:56 ID:pjD1kZAc0

【20XX年5月10日

 またあの場所に行った。銀色と黒で構成された入り組んだ駅。
 今回は前よりも人通りが少なかったけれど、
 誰かから逃げなくちゃならないのは変わらなかった。

 いつものホームのいつもの車両に乗り込んで、その「誰か」を撒いた。
 外の風景は相変わらずぐちゃぐちゃ。
 私の乗り込んだ車両の人数も、顔が見えないのも変わらない。
 今回は、次の駅に着いたところで目が覚めた。

 夢占いのサイトによれば、駅は人生の岐路を示し、電車は現実からの逃亡を示し、
 追跡者から逃げ切ることが出来るのは悩みの解決を示す…、らしい。
 らしいけど、やはりこういうネットの情報はあまり
 あてにしないほうがいい、と聞いたことがある。

 実際、私の悩みが解決する兆しなんて、欠片も感じない。
 眠っている間のただの映像に、そんなものが隠されているなんて
 私には到底思えない。】


(゚、゚トソン パタン

(-、-トソン フー…

7 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 15:37:17 ID:pjD1kZAc0





日々漠然と、何の感動もなく生きている。






  第一話「腐敗する夢」





.

8 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 15:42:01 ID:pjD1kZAc0

(゚、゚トソン「おはようございます」

朝。平日。トソンは誰もいないリビングに挨拶をすると、テレビをつけて適当なチャンネルにあわせた。
そして画面の右上に出た時刻を見て、今日も学校に行くのは諦めることにする。

現在時刻は午前八時半。トソンの家から彼女が属する高校までは、自転車で二十分かかる。
どう考えても今から家を出て走ったところで、遅刻は確定だった。

さっさと郵便受けから新聞を取り出し、今日こそは学校に行こうと思って着ていたセーラーを脱いで、
その下に着ていたTシャツと短パンになる。
ソファーの上にそれを適当に放ると、トソンはトーストにマーガリンを塗っただけの簡単な朝食を食べながら、
ぼんやりと広げた新聞の一面を眺めた。

灰色の紙の束には、いつもどおり、特に関心を寄せるようなことは書かれていなかった。
でも何もないというわけでもない。そこには、この国や世界のありとあらゆる話題が踊っているのだ。
暗い話から明るい話。地域の小話から世界的事件。世の中は今日も激動に満ちている。

9 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 15:47:21 ID:pjD1kZAc0

(゚、゚トソン(某国が謝罪と賠償を某メーカーに要求)

(゚、゚トソン(五歳の男の子を母親の恋人が虐待)

(゚、゚トソン(溝に詰まった野良犬をレスキュー隊が救助)

(゚、゚トソン(意識不明患者今月に入って四人目、原因は未だ不明)

(゚、゚トソン「ふーん」

アナウンサーが時折噛みながら読み上げるニュースを、右から左へ聞き流し、二枚目のトーストを齧る。
いつもよりも焦げてしまったトーストは、なんだかザリザリして喉に詰まって、口の中がカラカラになりそうだった。
そういえば今日はまだ何も飲んでいないことを思い出し、牛乳を取りに台所へ向かう。
冷蔵庫のドアポケットに入ったそれを掴んで持ち上げると、思っていたよりも軽い手応えに眉を顰めた。
  ,_
(゚、゚トソン(なくなってる……)

10 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 15:52:42 ID:pjD1kZAc0

世界は激動に満ちている、らしい。
でもそんなことは、トソンにとっては道端の石ころと同じくらい関心のないことだった。
はっきり言って、世の中の出来事なんて、直接関わりあわなければ起こっていないも同然なのだ。
どこか遠い場所で羽ばたいた蝶が起した風が、この辺りで台風になるという話くらい、眉唾物で実感が沸かない話。
トソンにとっては、牛乳がない事のほうがよっぽど重要なくらいの話で。




ぶっちゃけ、「ドーテモイイ」。




(゚、゚トソン(牛乳……買いに行きますか)



  ○   ○   ○

11 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 15:57:05 ID:pjD1kZAc0

平日の九時過ぎという時間帯、トソンの住む住宅街は静まり返っている。
主婦は家事に追われ家の中に引っ込んでいるし、男達や子供達は会社や学校に出払っているからだ。
それは彼らにとっては当たり前のことだ。その当たり前からちょっと外れたところに、トソンは立っている。

牛乳の入ったコンビニ袋をガサガサと揺らしながら、トソンはぼんやりと街の様子を眺めながら家に帰っていた。
ここのところは夏日が続いたいたから、外に出るのは少し憂鬱だったのだが。
気温は思ったよりも暑いということはなく、天気もいいからトソンは散歩気分でゆっくり歩く。

ぽかぽかと気持ちのいい日差しに、目を細めて空を見上げた。
今頃学校では皆授業を受けている頃だろうか。

(゚、゚トソン(皆何やってるんですかねー)

トソンは学年が上がった時に貰った時間割表の事を思い出そうとしたが、
もう随分と目にしていないそれは、ぼんやりとしか思い浮かべることが出来なかった。
なんだか、一時間目から体育だったような気がするし、数Iと数Aの二時間ぶっとおしだった気もする。
どっちにしろ嫌な時間割には違いない。

12 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 16:02:11 ID:pjD1kZAc0

(゚、゚トソン(今日で何日目でしたっけ、学校行ってないの)

(゚、゚トソン(そろそろ行かないとやばいですかねえ)

袋を持っていない、空いてる方の手の指を折って、学校に行っていない日数を数える。
確か最後に顔を出したのが、担任から電話を貰った次の日だったから。

(゚、゚トソン(三週間か)

(゚、゚トソン(うん、まだ大丈夫大丈夫)

(゚、゚トソン(ごーるでんうぃーくを挟んでますし)

(゚、゚トソン(たぶん)

もしかしたらそろそろ親に連絡を入れられるかもしれない。
そうなると流石にちょっとまずい。そうならないようにやっぱり明日くらいは顔を出しておいたほうがいいだろう。
明日こそはちゃんと起きようと意気込みながら、ちょうど公園の横を通ったとき。

(゚、゚トソン「あれ…?」

トソンは今この時間ならこんなところに居るはずのない人間を、公園のベンチの上に見つけた。

13 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 16:07:02 ID:pjD1kZAc0

( ><)

昼寝(というには少し時間が早いが)をしているのだろうか。
犇めく住宅の隙間にひっそりとある小さな公園に一つだけあるベンチ。
その上で、小学生と思しき男の子が、膝に本と猫を乗せて、首をこっくりこっくりさせていた。

男の子以外、公園には誰もいない。トソンは少しだけ気になって、
公園に入ると男の子を起さないように近寄った。
隣には黒いランドセルが置いてあり、これは明らかに。

(゚、゚トソン(サボり、ですね)

(゚、゚トソン(いっけないんだー)

(゚、゚トソン(なんて、私も人のこと言えませんけど)

平日のこんな時間に、いるべき場所にいない小学生。
そんな彼に少し親近感を覚えたトソンは、男の子を起さないように気をつけながら、隣に腰かけた。
そして、トソンがベンチに座ったのを気配で感じたのか、男の子の膝で眠っていた猫がパチリと目を開けた。
猫は、男の子の膝の上に座ったままトソンを見上げる。

(*‘ω‘ *)「…………」

(゚、゚トソン(目ちっさ……猫なのに)

14 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 16:12:27 ID:pjD1kZAc0

若干ふくよかな白くて真ん丸い猫は、じっとトソンのことを見上げ、それからくぁっと口を開けてあくびをする。
綺麗なピンク色の口の中に、鋭い白い歯が並んでいるのを覗き込みながら、トソンはふと頬を緩めた。

可愛いなあと思う。
猫といえば、猫目という呼称まで与えられるほど特徴的な、あの釣り上がった大きな瞳だ。
でもトソンは、猫の瞳見つめられると、いつもなんだか何でもこちらのことを見透かされているような、
なんとも居心地の悪い気持ちになってしまって、あまり猫目が好きではなかった。

けれど、この猫みたいなつぶらな瞳なら、とても見ていて落ち着く。素直に可愛いなあと思えた。
ついでにこのままあの甘い声で「ニャ〜」と鳴いてくれれば完璧なのだけれど。

(*‘ω‘ *)

(゚、゚トソン

(*‘ω‘ *)「……ぽっ!」

(゚、゚;トソン「?」

15 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 16:17:13 ID:pjD1kZAc0

そんなことを考えながら、じっと猫の仕草を愛でていたら、猫がこちらをじっと見つめてきた。
トソンも見つめ返す。
すると、猫は突然期待から大きく外れた、凡そ猫らしくない妙な声で鳴き始めた。

(*‘ω‘ *)「ぽっぽ! ぽっぽ!」

(゚、゚;トソン(ええええ、何この変な鳴き方)

(*‘ω‘ *)「ぽぽっ! ぽっぽっぽ!」
      。
( ><)゜....zzZ

( ><) ハッ

( ><)「え、え、ぽっぽちゃん、いきなりどうしたんですか?」

案外大きな猫の声に、今まで穏やかに眠っていた男の子は、ハッと目を覚ますと、
寝起きのまだどこかとろんとした目で、困ったように膝の上でトソンに向かって鳴き続ける猫を抱きかかえた。

(*‘ω‘ *)「ぽっぽ! ぽっ!」

(゚、゚;トソン(この鳴き方…猫に見えるけど本当は猫じゃない…とか?)

16 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 16:22:11 ID:pjD1kZAc0

( ><)「鳴いてるだけじゃわかんないんです! いったい何に向かって鳴いて……」

(;><)そ「うわっ」

(;><)「お姉さん誰なんです!?」

(゚、゚;トソン(今まで気が付いてなかったのか)

男の子は猫の視線を辿ってようやくトソンに気が付いたらしく、彼女に気が付くとビクリと驚いて身を退いた。
その際、反対側に置いてあったランドセルがドサリとベンチから落ちたが、男の子はそれに気が付かずに、
ベンチの端まで猫を抱えてずり下がった。ちなみに膝に乗った本は器用なことにそのままである。

(゚、゚トソン「あ、えっと、私は怪しい者では」

(;><)「じっ、じゃあ絶対怪しい人なんです!」

(゚、゚;トソン「えぇ!? 何で!?」

(;><)「自分でそういう人は怪しい人だって相場が決まってるんです!」

(゚、゚トソン「ああ、言われてみれば……」

(゚、゚;トソン「っていやいやこういうノリは本当に怪しくないほうが多いですよ」

17 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 16:27:17 ID:pjD1kZAc0

トソンは、彼のいうとおり、怪しくないとわざわざいう人間程確かに怪しいな、と納得しかけ、
けれどすぐに我に帰ると、自分は絶対に怪しくないからと男の子両肩を掴んで、
やや怯えた顔をする男の子にしっかり目の高さと目線を合わせて説明した。

が、男の子はトソンに掴まれた自分の肩と、トソンを見比べると、おずおずと口を開いて――

( ><)「も……もしかして」

(;><)「しょたこ(゚、゚;トソン「違いますから!」

何かとんでもない誤解が生まれよかけたのを、トソンは必死で遮った。

( ><)「……違うんですか?」

(゚、゚;トソン「違いますから! 私が好きなのは歳は30歳以上で背が3m以上のムキムキマッチョな男性ですから!」

(;><)そ「えぇ!?」

必死のあまり自分でもありえないと思う嘘が口から飛び出たが、
男の子が細い目をほんの一瞬見開き、「へぇ……」と気の抜けたような声を漏らしたのを見た限り、
どうやら信じてもらえたらしい。
まだ少し身構えてはいるけれど。

18 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 16:32:05 ID:pjD1kZAc0

( ><)「違うんならいいんです……」

(゚、゚トソン「そんなことより、きみ」

( ><)「なんですか?」

(゚、゚トソン「ランドセル、落っこちて中身ぶちまけてますよ」

(><;)そ「あっ」



  ○   ○   ○



その後、トソンは男の子のランドセルからぶちまけたものを拾うのを手伝い、
そのまま二人は一緒に並んでベンチに腰かけ、のんびりと午前の暖かい日光を浴びていた。

男の子の名前は、ビロードというらしい。隣街の小学校に通っていて、
この公園にはいつもサボりをするときだけ、わざわざ一時間かけて歩いてくるという。
トソンが、どうして学校をサボるんですか? と軽い気持ちで尋ねてみたら、ビロードは少し俯いて黙ってしまった。

( ><)「……そのぅ」

19 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 16:37:01 ID:pjD1kZAc0

(゚、゚トソン

(゚、゚トソン「ま、お互い様ですよ。私だって学校サボってるわけですし。無理していわなくていいですよ」

(゚、゚*トソン「こんなぽかぽかな気持ちいい場所で、そんなに暗い顔をしているのももったいないですしね!」

( *><)「……はいなんです」

本当にその日は空気がぽかぽかとしていて、
朝っぱらに考えたことも全部どうでもいいと思えるくらい気持ちがよかった。
うーんとベンチの上で両手を万歳し、背中を逸らしてトソンは伸びをする。
隣でもビロードが同じ事をしているのを見て、なんだか微笑ましかった。

彼の隣には、黒いランドセルと、その上に丸まっている白い猫(名前は『ちんぽっぽ』
というらしい、これだから小学生は)。
つやつやとした表面には、大小さまざまな傷が見えた。

実をいうとトソンは、さっきランドセルの中身を拾っている時に、落書きや切り傷でボロボロに
なった教科書を目にしていたのだが、ビロードには黙っていた。多分、見たことは言わないほうがいい。

何より、陽気な光の下では、それすらも自分にとってどうでもいい気がした。

しばらくゆっくり目を閉じて、日の光を満喫する。隣からは、本を読んでいるらしい、ビロードの
ページを捲るかすかな音が聞こえた。

20 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 16:42:00 ID:pjD1kZAc0

(゚、゚トソン「何読んでるんですか?」

( ><)「そーせきさんなんです!」

そーせき。夏目漱石のことだろうか。
ビロードが持っている本は、よく見る児童用の物ではなく、大人が読むような文字の小さい本だった。
ページは少し黄ばんでいて、あちこちに染みがあって、古いのがわかる。

(゚、゚トソン「小学生なのに難しい本読んでるんですね」

( *><)「とってもおもしろいんです!」

と言ってビロードが見せてくれた表紙には、大きな黄色い目でこっちをじっと見てくる猫の絵が描かれていた。
やはり少し黄ばんだ紙に、細い流れるようなしなやかな線に、水彩で淡く色づけされた斑の猫。
今にも動き出しそうなその絵の猫の瞳に、トソンは少しだけ気まずくなり、目を逸らしてしまった。

たかが絵だ。なのにどうしてこんな気まずい気持ちになってしまうのだろう。
見つめられて、見透かされているような。居心地の悪い、そんな気分。

( ><)「どうかしたんですか?」

トソンの様子を不思議に思ったらしいビロードが、俯いた彼女を覗き込み、目があった。

21 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 16:47:01 ID:pjD1kZAc0

(゚、゚トソン「あ…」

それにも何故かドキリとし、トソンはすぐに顔を上げると、ビロードの額辺りを見て微笑んだ。

(゚、゚トソン「すみません、ちょっと眠くなってしまって」

( *><)「それ、ぼくもなんです! おひさまがぽかぽかしててちょっと眠いんです」

ちょっと眠いというのは別に嘘じゃなかった。
ビロードのいう通り、日の光は相変わらず暖かくて気持ちがよくて、気を抜いているとついついあくびが出そうになる。

必死にあくびを噛み殺そうとしていると、隣でビロードが遠慮なく大きな口を開けてあくびをした。
つられてトソンもとうとう、ふぁ……とあくびをする。すると、一気に眠気が押し寄せてきた。

(゚、゚トソン「眠いですねー……」

( ><)「眠いんです……」

22 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 16:52:57 ID:pjD1kZAc0

こてん、とビロードの頭がトソンの肩に寄りかかる。かと思えば、数秒後には小さな寝息が聞こえてきた。
寄りかかられてしまって動けなくなったトソンは、自分だけは寝まいと必死に目を開けていたが、
暖かい光と、肩に感じるビロードの子供特有の体温に、やはりついついうとうとしてしまう。

(゚、-トソン「んー……」

(-、-トソン「んんー…」

(-、-トソン(あ、今気が付いたけどこのまま寝たら牛乳腐るかもしれない……)

(-、-トソン

(-、-トソン(まあ大丈夫か……多分)

(-、-トソン

そしてとうとう眠気に負けて、トソンの意識はすべるように夢の中へと降りていった。



  ○   ○   ○

23 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 16:57:17 ID:pjD1kZAc0



じっとりと重い薄暗闇。
目を開ければ、視界にはうっすらとこの空間にあるものを捉えることのできるくらいの暗闇。
最初に目に映ったのは、毎日見慣れた茶色の扉だった。

( 、 トソン

トソンは暗い部屋の真ん中に立っていた。
白い壁紙、きちんと整ったベッド、教科書が散乱している机、電源が切れて画面の真っ黒なパソコン、
カーテンの閉まった窓、本が疎らに入った本棚、床にほったらかしてそのままになっている学生鞄。

そして、扉が少し開き濃い闇が隙間から覗くクローゼット。

ここは、自分の部屋だ、とトソンはまず最初に思った。
けれど、トソンはここがすぐにいつもの夢の中だと気付くと、体を強張らせる。
これは、トソンが見る夢の中でも、もっとも見る回数の多い夢だ。

確かに現実のトソンの部屋と、夢の中のトソンの部屋は酷似していた。
けれど、決定的に違うことがひとつだけある。
いつもトソンが制服を掛けている壁のフックに掛かっているのは、ブレザー。
トソンの見たこともないデザインの制服。それに、トソンの学校はブレザーではなくセーラー服だ。
このブレザーが、トソンがいつもこれが夢だと判断する為の手段だった。

24 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 17:02:02 ID:pjD1kZAc0

ハッとして足元を見る。大丈夫、靴は履いている。
廊下へと続く扉は鍵が開いているだろうか?
きっと大丈夫、いつもなら開いている。

前に見たこの夢を思い出しながら、自分から廊下への扉の距離を確認し、
トソンはゆっくりと視線をクローゼットへ移した。

ここは夢の中だ。けれど今、彼女の心臓はドクドクと鋼を打ち、体は微かに震えていた。
ここは夢の中だ。わかってる、ただの夢なのだ。目覚めれば終わる、夢。

自分に言い聞かせながら、クローゼットの僅かな隙間の奥を伺う。
濃い、深い闇は、まるでトソンを飲み込もうとしているようにも見え、思わず目を逸らしたくなる。
でも駄目だ。もしも目を離せば逃げるタイミングを失う。

( 、 トソン

夢の中だからなのか汗は出ない。
けれど、トソンはまるで汗が滲むような気分で、息を殺してただクローゼットの奥を見ていた。
闇の奥に潜む、自分にとって“危険”のある存在に、体が芯から冷えるような気がする。

ふと、闇の奥で何かが動いた気がして、足に力を入れる。
そして、クローゼットの隙間から“そいつ”の指先が覗いた次の瞬間。
トソンは一気に廊下への扉へと駆け出していた。

25 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 17:07:07 ID:pjD1kZAc0

トソンが駆け出したすぐあとから、“そいつ”が追ってくるのを気配で感じる。
クローゼットの中から出てきた“そいつ”は、辺りに腐臭を漂わせながら、
気持ちの悪いうなり声を上げてトソンを追った。

予想通りちゃんと鍵の開いていた扉から転がるように廊下へ飛び出し、フローリングを踏みしめて必死に走る。
ちょっとでも足を滑らせてば、追いつかれるかもしれない。
何度も走ってきた見慣れた家の中を駆け抜ける。

彼女の部屋動揺暗い家の中は、彼女の現実の家と似ているようで僅かに違う。
廊下の曲がる方向、階段の長さ、リビングの位置、玄関への通路。
どれか一つでも現実と混同してしまえば駄目だ。
トソンはしっかりと今までの夢の記憶を辿り、立ち止まることなく家の中を走った。

夢だとわかっていても、トソンは怖かった。
腹の底から泣き喚きたいほど怖かった。
“そいつ”にだけは捕まってはいけないと思っていた。
捕まればいったいどうなるのかはわからない。
でも、本能的に捕まってはいけないとトソンにはわかっていた。

最後の廊下の角を曲がり、目の前に現れた玄関扉に飛びつくように駆け寄る。
そして力任せにノブを握って扉を押した。

26 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 17:12:09 ID:pjD1kZAc0

( 、 ;トソン「!?」

ところが、いつもならここですんなり開いてくれるはずの扉が、今回は閉まっていた。
ガンッと腕に響く衝撃に、腹の底がサアッと冷たくなり、流れないはずの汗が滲む。
けれど驚きに呆けている暇はない。

すぐ背後に“そいつ”の腐臭と気配を感じ、慌ててノブの下についている鍵を開ける。
外に飛び出せば、目の前にはいつもの見慣れた、けれど微妙に現実とはちがう薄暗い街があった。

家を飛び出せば後はどこへでも、とにかく扉を閉めて“そいつ”に捕まらないよう逃げれば勝ち。
この夢はやっと終わる。
ところが、慌て過ぎたせいで足が縺れたトソンは、家の外の道路まで走ったところでその場で転んでしまった。

( 、 ;トソン

がくんっ、と道路の真ん中に倒れ、腹を強かに打ち付ける。
今まで五月蝿いくらいに鼓動を打っていた心臓が一瞬止まった。

耳が痛いくらいの静寂
聞こえるのは荒い自分の息遣い。
少しずつ近づいてくる足音。

背後まで迫った気配と腐臭にトソンは恐る恐る振り返った。

27 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 17:17:03 ID:pjD1kZAc0





(゚、゚;トソン




(゚#ρ。;:トソン





そこにいたのは、ドロドロに腐って顔が崩れ、ボロボロのセーラーを着た自分だった。

28 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 17:22:02 ID:pjD1kZAc0

( 、 ;トソン「あ……」




(゚#ρ;:。トソン




( 、 ;トソン「ぅあ…ああああああああああっ!!」





体が一気に冷たくなる。
トソンはすぐ目の前にいる“そいつ”から少しでも距離をとろうと、振るえる腕でその場からずり下がろうとしたが、
それよりも先に、“そいつ”が両腕をトソンの首へと伸ばした。
腐ってねとついた指がトソンの首を掴み、ゆっくりと締めあげる。

これは夢だ。夢なら覚めればいいのだ。早く覚めろ。この悪夢から覚めろ。
苦しい、夢なのに、いつもならこんなことになる前に覚めるはずなのに。なのに、なんでこんなにも苦しいのか。
だんだんと腐った指喉に食い込み、息が出来なくなる。
トソンの必死の願いは叶うことなく、目の前の“そいつ”は一向に消えてくれない。

29 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 17:27:22 ID:pjD1kZAc0

ドロドロに溶け、左目が眼孔から垂れ下がった顔がトソンの顔に近づく。
濁った右目が、恨めしげにトソンを睨んでいた。



( 、 ;トソン



意識がだんだん遠くなる。
これが夢のはずなのに、何故こんなに感覚はリアルなのだろう。
頭がグラグラと煮立ち、手足が痺れる。
ああ、このまま行けば私は死ぬんだな。
トソンがそう、考えかけた時。
そして、いっそう首を絞める両の手の力が強くなった直後。



突然“そいつ”が、何かに撥ね飛ばされたかのようにトソンの目の前から消えた。



( 、 ;トソン「カハッ……んぐ、はあっ……はあっ」

トソンは自由になった呼吸に一瞬混乱したが、すぐに深呼吸をした。
足りない酸素を補給し、眩暈や手足の痺れが直るのを待つ。

30 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 17:32:10 ID:pjD1kZAc0

(゚、゚;トソン「はあ…はあ……」

落ち着いたところで、トソンはいったい何が起こったのかと顔を上げた。
すると、トソンから少し離れた場所に、“そいつ”が苦しげに横たわってこちらを睨んでいるのが見えた。
そして、“そいつ”よりもトソンに近い場所に立っていたのは。



( ・∀・)



すらりとした細身の体系に、明るい色の髪。
そしてピシッとしたスーツにスニーカーを履いて大きな木槌を抱えた男。
トソンは、一応今まで見てきた夢の大半、建物の細部から登場した人物や動物、怪物をきちんと記憶している。
けれど、今目の前にいる男のことは、今まで一度も、夢の中でも、ましてや現実でも見た覚えはなかった。

彼は、トソンと“そいつ”の間に立つと、呆然と自分を見上げているトソンににっこりと微笑み、ピッと“そいつ”を指差した。

( ・∀・)「あれ、君の夢?」

(゚、゚;トソン「はえ?」

31 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 17:37:03 ID:pjD1kZAc0

唐突の質問に、トソンは間の抜けた声を声してしまう。今の状況に、さっぱり頭が付いていけていなかった。
というよりも、自分の夢に出てきた人間が何故その夢の主にそんなことを聞くのか、わけがわからない。
今までこの夢で起こったことのない事態に混乱したまま、とりあえずトソンは男の質問に力強く頷いた。

(゚、゚;トソン「え、あ、えっと、はい」

いつもと事態は若干異なってはいるが、ここはやっぱりいつも訪れる夢の中だし、
“そいつ”もいつもどおり自分を追いかけてきたのだ。
妙に噴出す汗や息苦しさなど、普段と違うリアルさに違和感はあったが、
それでもここは自分の夢だとはっきり断言できた。

しっかりと頷いたトソンに、男はよりいっそう笑みを深くする。

( ・∀・)「ん、そっか、わかった」

( ・∀・)「そんじゃあ」




( ・∀・)「さっさと片しちゃおうか」




男の瞳が、一瞬怪しく光ったような気がした。




.

32 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 17:42:16 ID:pjD1kZAc0

ざわり、と何故か鳥肌が立ち、トソンはぶるっと身を震わせた。少しだけ気分が悪い。
なんだか、自分の頭の中に異物が入ってしまったかのような違和感。
何故か夢がいつもよりリアルなことへの違和感にも似た感覚に、寒気がする。

我慢できずに額に手を当て俯いたトソンを一瞥し、男はにやりと笑うと“そいつ”の方へ向きなおった。

ぶんっと音をたてて、男は持っていた木槌を手の中で一回転させて構える。
それとほぼ同時に、今まで地面に這い蹲っていた“そいつ”は体制を立て直すと、己を弾き飛ばした男へと飛び掛っかた。
男の首に掴みかかろうとした“そいつ”を男は容易くかわし、そのまま勢いよく振り向きざまに木槌を振りぬく。

まるで野球のバットを振るようなスイング。
木槌は確実に“そいつ”の顔面を捉える。
“そいつ”は木槌を避ける暇もなく、べきゃっと大きな音をたてて再び吹っ飛ぶと、
家の塀にぶつかり、ずるずると地面に落ちた。

その間、たった数秒の出来事。

塀の隅に崩れ落ちいてる“そいつ”の首が、人間ではありえない方向に曲がっている。
なのにまだその場でもがいている“そいつ”に男は歩み寄ると、木槌を大きく振り上げた。

33 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 17:47:28 ID:pjD1kZAc0

( ・∀・)「バイバーイ」

ガッ。

振り下ろされた木槌は重い音を響かせ、“そいつ”はあっさりと潰された。
瞬間、“そいつ”はまるで弾けるように辺りに四散し、消えてしまう。
その場に残ったのは、今まで“そいつ”がいた場所に転がる六角形の黒い物体と、男とトソンのみ。

男は、木槌を持ち直して一度、もう何もいないかと辺りを見回し安全を確認すると、
六角形の物体を屈んで手に取り、彼の背後で絶句しているトソンの方を振り返った。
そして、ぱっと空いた方の手を顔の横に上げると、ちょいちょいと指差きを折り曲げる。

( ・∀・)「じゃ、そっちのお嬢さんもバイバイ、またね」

(゚、゚;トソン「え?」

にこやかに手を振る男。
トソンが今の状況と男の言葉わ理解する前に、突然今までトソンが手を突き体を支えていた地面が消えた。

34 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 17:52:06 ID:pjD1kZAc0

(゚、゚;トソン「え!?」

がくんと後ろに倒れる。

斜めになった視界に映ったのは、だんだん上空へと吸い込まれる様に消えていく夢の中の我が家と、周囲の住宅地。
真っ黒な空も、まるで画用紙をくしゃくしゃに丸めるみたいに小さくなって、消えていく。
それとは逆に地面はあらゆる大きさの四角形に切り分けられ、暗闇の底に落ちていく。

四角く切り取られ落下する地面の一つの上ににこやかなまま立った男は、
トソンが瞬きを一つした次の瞬間には消えていた。

崩壊する世界の中、トソンは結局いったい今がどういう状況なのか掴めぬまま、
四角い地面と共に暗闇の底へと落下していった。



  ○ ○ ○ ○ ○ ○

35 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 17:57:15 ID:pjD1kZAc0



ゴッ、という側頭部への衝撃。のちに襲ってきた強烈な痛みに、トソンは顔を歪めてゆっくりと瞼を開けた。
  ,_
(-、;トソン「ッツゥ……」

若干涙目になりながら、右側の頭を抑えて体を起す。
そして、肌に感じた風の冷たさに、ぶるっと身を震わせた。

気がついてみれば、空で輝く太陽はもう随分と傾いてしまっていて、
小さな公園には近所の小学生がわらわらと集まっていた。
公園の中央にある時計を見る限り、どうやら結構長い間眠ってしまっていたらしい。
しかも寝こけてベンチから落ちたとは……絶対にここにいる子供たちの数人には見られただろう。

ふと、そういえば眠ってしまうまで一緒にベンチに座っていたビロードがいなくなっていることに気がつき、トソンは辺りを見回した。
てっきり、公園に来た友達と遊んでいるのかと思ったが、わらわらと数少ない遊具を取り合っているちびたちの中に彼はいない。
ランドセルももうどこにも見当たらないから、眠っている間に帰ってしまったのだろうか。

とにかくトソンは地面から立ち上がると、服に付いた砂を払ってベンチに座りなおした。

(゚、゚トソン ボー

夕暮れ近い冷たい風に、腕を擦りながらぼんやりと空を見上げる。
当然、いつまで見ていたって、現実の空は画用紙を丸めたみたいに、くしゃくしゃになって消えたりしはしない。

36 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 18:02:34 ID:pjD1kZAc0

それにしても、変な夢だった。否、変というよりも“妙”と言った方がいいんだろうか?
トソンは、夢の中で見た腐った自分と、暗い闇を思い出す。

あの夢は、中学の三年生半ば辺りになった頃から、週に二三度見るようになった夢だった。
腐った自分を見たのは今回が初めてだったが、それまでの行動や出来事は、いつも同じ。僅かなぶれも今まではなかった。
いつもなら家から飛び出し、すぐに玄関扉を閉めてその場から立ち去れば終わる夢だった。
恐ろしい、けれど手順さえしっかり踏めば安全に終わる夢。

なのに、今回は違った。

にっこりにこやかな男の顔を思い浮かべ、小さく呻る。
彼はいったい何者なのだろう。
トソンの夢のイレギュラー。

(゚、゚トソン(ビロードくんと会ったことで私の心境に変化が現れた、とか?)

(゚、゚トソン(いやいや、特に心が動いたとかそういうのはなかったですし)

(゚、゚トソン(帰ったら一応あのサイト行ってみますか)

(゚、゚トソン(あんまり信用は出来ないけど)

37 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 18:07:20 ID:pjD1kZAc0

(゚、゚トソン(帰ったら……あれ、私なんで外に……)

(゚、゚トソン

(゚、゚トソン「あ」

(゚、゚;トソン

(゚、゚;トソン(牛乳……)

トソンはすばやく立ち上がると、自分の脇に今まで忘れ去られ放置されていた牛乳の入ったコンビニ袋を鷲掴み、
我が家の方向へ歩き出した。
かなり時間は経っているが、途中から空気も涼しくなっていたようだし、きっと大丈夫だろう。

(゚、゚トソン(うん、大丈夫大丈夫)

(゚、゚トソン(……多分)

まあ、もし、万が一あたったとしても死にはしないだろう、多分。

38 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/03(木) 18:12:06 ID:pjD1kZAc0

コンビニ袋をぶんぶんと振り回しながら歩いている最中、
ふと、夢の中で嗅いだ腐臭を思い出し、トソンは眉間に皺を寄せた。
本当、妙な夢だった。普段なら臭いだって寒気だって夢の中では感じなかったというのに。
人間が腐れば、本当にあんな臭いを発するのだろうか。

腐った自分の姿を思い浮かべかけ、首を振る。
あまり思い出さないほうがいい。
次、あの夢を見たときは、今回のようなことはない様にしないと。
いつだってあの男が助けてくれるとは限らないのだから。

色を変え始めた空を見上げ、トソンはまだ鼻先に香る腐臭の記憶を振り払うように、
よりいっそうコンビニ袋をぐるぐると振り回しながら、誰も居ない我が家へと急いだ。









第一話「腐敗する夢」  おわり


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