( ・∀・) 夢都市のようです (゚、゚トソン

43 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 20:15:18 ID:QHk5lOM.0

【20XX年5月10日 昼

 公園でうっかり居眠りをしてしまったときに、あの夢を見た。
 いつも通り、暗い家の中を逃げ回る夢。でも、今回はいつもと違う展開があった。
 まず、玄関の鍵が開いてなかったこと。それから、追いかけてくる奴の姿を見たこと。
 そして、そいつに襲われたところに助けがやってきたこと。

 あと、いつもと違って何故か臭いと寒気を感じた。
 公園で出会った男の子が何かの刺激になったんだろうか。
 それともまた別の要因があるんだろうか。

 夢占いのサイトは見てみたけれど、今回はあまり役に立たなかった。
 助けに来てくれた知らない男の人は、スーツに何故かスニーカーだった。
 大きな木槌を振り回し、私を追いかけていた“腐った私”を叩き潰してくれた。

 いつも見る夢のはずなのに、臭いや寒気、スーツの男といい、
 今回は何故か妙にリアルな夢だった。

 ちなみに、公園で眠ってしまっている間に、買ってきた牛乳を放置してしまった。
 もしかしたら夢の中の“腐った私”は、「このままだと牛乳腐るよ〜」
 という警告みたいなものだったのかもしれない――なんちゃって。】


(゚、゚トソン パタン

(-、-トソン (牛乳、大丈夫かな……)

44 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 20:20:07 ID:QHk5lOM.0







彼女はずっと嘘を吐きつづけている。







   第二話「運ばれる夢」





.

45 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 20:25:02 ID:QHk5lOM.0

トソンは夢日記を机のもとあった場所に静かに戻すと、
シャーペンの芯を出したり入れたりしながら日記に書いたことを反芻した。
公園、猫、ビロード、夢占いのサイト、鍵のかかった扉、臭い、寒気、腐った自分、知らない男、牛乳。
……牛乳、大丈夫だろうか。

家に帰った後、トソンはすぐに牛乳を冷蔵庫へ入れた。
まだ開封するのは何となく気が引けて出来なくて、今もまだ売っていたときと変わらない状態で置いてある。
風呂に入った後の牛乳コップ一杯一気飲みを今夜するかどうかが、今の悩みどころだった。

(゚、゚トソン(うーん、腐った牛乳というものを飲んだことがないからどうなるかよくわからない……)
カチカチカチカチ

(゚、゚トソン(最悪、お腹下すんですかね? だとしたら胃腸薬用意しといたほうがいいかな)
カチカチカチポト

(゚、゚トソン(あ、シャー芯出し過ぎた)

机の上に落ちたシャーペンの芯を指で苦心して摘み、シャーペンの先から中へと戻そうとする。
が、突然トソンの短パンのポケットの中から鳴り響く着メロに驚き、ぽろりと床に落としてしまった。
フローリングの板と板の隙間に挟まったシャーペンの芯を見て、
早々に諦めることにしたトソンは、携帯を開いき、通話ボタンを押した。

46 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 20:30:00 ID:QHk5lOM.0

白(゚、゚トソン「はい、もしもし――あ、お母さん? どうしたんです? そっちまだ朝ですよね」

電話の相手は今父親の出張で海外にいるトソンの母親だった。
そうとわかったとたん、トソンの頭の中で様々な言葉や作り話が飛び交い、形を作る。

白(゚、゚トソン「ああ、ええ、元気にしてますよ。ちゃんと食べてます」

嘘。本当は毎日食パンやレトルトで済ませている。

白(゚、゚トソン「学校? 楽しいですよ、新学期に入って友達増えました」

これも嘘。本当はまだ友達なんて一人もいない。
学校だって、そんなに楽しいとは思わないし、第一まともに行っていやしない。
トソンの嘘に気がついていないらしい母親は、携帯の向うでとても安心したように笑っていた。

白(゚、゚トソン「そっちはどうですか? え、お父さんが拗ねてる? なんで」

白(゚、゚トソン「休みの日のデート中にお母さんが金髪碧眼のイケメンにナンパされたから?」

白(゚、゚トソン「それくらいで情けないですね、男なら相手を追い返すくらいしなさい! とトソンが言ってたって伝えてください」

白(゚、゚トソン「ええ、楽しいですよ、元気ですから。安心してください」

白(゚、゚トソン「はい、また夏休みに、バイバイ、元気で」

白(゚、゚トソン ピッ

48 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 20:35:49 ID:QHk5lOM.0

(゚、゚トソン

(゚、゚トソン(……また嘘を吐いてしまった)

(゚、゚トソン

(゚、゚トソン(まあ、仕方ない仕方ない)

何が仕方ないのか自分でもよく考えていないが。
携帯を短パンのポケットに戻し、机の棚から教科書とノートを取り出す。
多分今の範囲はここだろうなあというページを適当に開き、シャーペンに新しい芯を入れなおした。

今、トソンの両親は長期の出張でイギリスに行っている。

本当は、両親はトソンも一緒に連れて行くつもりだったのだが、トソンが日本に残りたいと言ったのだ。
今まであまり自分の願いを口にしなかったトソンの言葉に、両親はとても驚いたらしい。
滅多にないトソンの要望を無視するのも忍びなく、両親は渋々彼女の一人暮らしを許したのだった。

トソンの独り立ちを願い、彼女に託した我が家。
両親の中では、立派に一人で家事をこなす娘の姿があるのだろう。
だから、トソンは若干の罪悪感を感じつつも、今日も両親の理想とはかけ離れた生活を送っていた。

今日の勉強ノルマを終え、時計を見る。
学校はきっともう放課後だろう。先生は今暇だろうか。連絡でも入れておこうと思った。
再び頭の中をあらゆる言葉が飛び交い、作り話を形作る。家の電話からかけようと思い、リビングへ向かった。

すっかり嘘を吐くことに慣れてしまったことに、少しだけ不安を感じながら、
トソンはそのことに気がつかないふりをする。





49 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 20:40:19 ID:QHk5lOM.0



窓の外の空もすっかりと暮れ、真っ黒な空間に小さな星が輝き始めた頃。
適当にあわせたチャンネルでやっていたバラエティをぼんやり眺めながら、
トソンはインスタントのスープを飲んでいた。

今日の晩御飯は、朝と違い綺麗に焼けたトースト二枚に、それぞれ苺ジャムとマーマレード。
それから、ちょっと怖いが牛乳の入ったコップも、テーブルには並んでいる。
本当はちゃんと米を炊いておかずを作ったほうがいいのだろうし、両親もそれを望んでいるだろう。
一人暮らしの提案のときにも、

+(゚、゚トソン「家庭科の調理実習で一通り習ってるから料理は大丈夫です」

と大見得をトソンは切っていた。
けれど実際は、今まで調理実習は周りがやってくれるのに任せていたため、
トソンは包丁の持ち方もわからないレベルなのだ。
ついでにいうと、調理実習はトソンにとってあまり良い思い出は、どれ一つとしてない。

米を炊く方法も、炒め物の仕方も、何となくしかわからない。
わからないことには手を出さない。失敗したときが怖いから。
そして数少ない使い方のわかるトースターと電子レンジを駆使し、トソンは今まで食事を取っていた。

50 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 20:45:09 ID:QHk5lOM.0

(゚、゚トソン(コンビニ弁当という手もあるにはあるんですけどねえ。でもあれは食べると舌が痛くなるから…)

もそもそとマーマレードジャムを塗りたくったトーストを頬張り、インスタントのスープで飲み下す。
テレビの枠の中では、最近イケメンを売りにしてあちこちに出てきているタレントが笑顔でこちらに微笑みかけている。
しかし、はっきり言ってあんまりイケメンには見えない。
なんだか誰かと誰かを切り貼りしたみたいな中途半端な顔だった。

(゚、゚トソン(最近こういうタレント増えたな)

(゚、゚トソン(イケメンってどういう人のこというんでしたっけ……)

ふと、脳裏に昼間の夢に出てきたスーツの男が浮かんで消えた。
まともに顔を見れる状況ではなかったが、なんだかそれなりにイケメンだった気がする。

(゚、゚トソン(また、会えますかね)

そう簡単に同じ夢を見れるとは限らない。
けれど、いつも同じはずのあの夢に出てきた初めてのイレギュラーに、トソンは強い興味を持っていた。
やっぱり夢は面白い。自分の内面を写しているとかそういうのは信じていないけれど。
でも現実では体験できないことを体験できるあの世界が、トソンは好きだった。

51 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 20:50:08 ID:QHk5lOM.0

(゚、゚トソン(あの人が夢の中ではどういう人物なのかすごく気になる)

(゚、゚トソン(それに……)





   「じゃ、そっちのお嬢さんもバイバイ、またね」





(゚、゚*トソン(……『またね』って言ってくれたし)

そういえば、見た夢のことを細かく思い出したら、
次見た夢もまた同じ夢だということが多々あることを、トソンは思い出した。
だとしたら、あの男のことを鮮明に思い出せば、もしかしたら、もしかするかもしれない。
トーストの最後の一切れを口の中に押し込み、食器を片付けテレビを消す。
さっさと風呂場に向かいながら、トソンはスーツの男の姿を頭の中に詳細に描きだし、好奇心に胸を膨らませた。



  ○ ○ ○

54 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 21:20:09 ID:QHk5lOM.0



ギラギラとしているけれど決して眩しくない、銀色と黒でデザインされた入り組んだ駅の構内。
高い天井はぼんやりと暗く、そこから床へと何本も輝く銀の柱が伸びている。
床は、銀色のベースに黒いラインが緩やかなカーブを描きながら一面を覆い、
どこにあるのかわからないライトの光を反射していた。

行き交う人はいつもよりも疎らで少なく、けれどいつものように人々は厚いコートに身を包み、
目深く帽子を被って俯いて歩いていて。
前方に視線を投げれば、遠くの方には大きな縦に長いガラスの扉。
観音開きのそこから、多くの人間が出入りを繰り返している。

背後からはざわざわと人々の声や足音の波、車両発車のアナウンス。
でも、トソンは振り向いたことがないから、後ろに何があるのかは知らなかった。

(゚、゚トソン(………?)

トソンは高校の制服を着て、俯き歩く人々の流れの真ん中で突っ立っていた。
学校指定のセーラー服は、その装飾の細部は現実の物とは若干違う。
恐らく、トソン自身があまり自分の高校の制服をそこまで真剣に見たことがなく、
着た回数もそんなに多くないからだろう。

そんなことよりも、トソンはいつもと少し様子の違う駅に首をかしげた。

55 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 21:25:03 ID:QHk5lOM.0

(゚、゚トソン(なんか、いつもより落ち着く)

いつもなら、この夢にやってきたらすぐに“誰か”から逃げ始め、
犇めく通行人を押しのけ前に前にと進むというのに、
今回は何故かいつもの“誰か”の存在も感じなければ、どこかへ逃げなければという不安もない。

通行人も少ないため、前に進むのに人を掻き分ける必要もない。
ギラギラと輝く銀の光も、なんだか自分を包み守ってくれているような気がするくらいだった。
  ,_
(゚、゚トソン

“誰か”の存在がなければ、逃げる必要もない。
トソンはここに居る目的を感じることが出来なくて、少し戸惑った。
戸惑った末、とりあえずいつも通りの手順を踏むことにする。

逃げる必要がなくなったから、いつもは足早に通り過ぎるこの場所をゆっくりと歩いた。
それでも、不安で押しつぶされそうな感覚がないためなのか、
人が疎らなせいなのか、いつもよりもさくさくと進むことが出来た。
普段はちゃんと観察したことのない構内をじっくりと見回しながら、いつもの道を進む。

目的の場所にはすぐにたどり着くことが出来た。大きな縦に長いガラスの扉を下の方から見上げる。
ガラスの扉は他の銀の柱同様、暗い天井の奥に吸い込まれる様に消えていた。
その先で、何かがキラキラと輝いているように見えるが、あれはいったい何だろう?

56 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 21:30:15 ID:QHk5lOM.0

トソンは好奇心に胸を膨らませるが、輝きはあまりに高いところにありすぎる。
その正体を知ることを諦め、トソンは渋々先に進むことにした。

ガラスの扉をくぐれば、その先には白い、幅の広いエスカレーター。
普通のエスカレーターが十機ほど並んだぐらいの幅のエスカレーターに手摺はなく、
まるで階段がぐるぐると回っているように見える。
そして、エスカレーターが登りきった先にあるのは、駅の構内と同じデザインの、銀と黒で装飾された電車。

トソンは迷うことなく電車の中に乗り込むと、誰も座っていない紺色の座席の真ん中に腰掛けて、車内を見回した。
車内にはトソンの他に数人乗客が居たが、皆が皆一様に俯き、
顔はぐちゃぐちゃとした影に覆われ霞んでみることは出来ない。
アナウンスもない、おしゃべりもない、静かな車内に座って、電車が発車するのを待っている。

もしかしたら今回は乗客の顔を見ることが出来るかもしれない、
と少し期待していたトソンは、ちょっとがっかりしてしまった。
ここからはどうやら、いつもと同じという事らしい。

しばらくすると、電車はふしゅーという音をたてて扉を閉め、ゆっくりと走り出した。

最初のうちは真っ暗だった、トソンの向かいの窓の外が、パッと光を取り戻し明るくなる。
けれどそこに風景というものは存在しない。
あるのは、まるで雑誌や写真集や落書きを切り刻み、ぐるぐると回る洗濯機に放り込んだような景色だった。

57 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 21:35:19 ID:QHk5lOM.0

見続けていると目が回りそうな景色から視線を逸らし、トソンも他の乗客と同じように俯く。
窓の外を見続けているとどうしても気分が悪くなってしまうからだ。
それに、この電車に乗るときはいつだってこうだ。そして、現実の電車に乗る時も。

車内で見知らぬ人と目があったり、“見られている”と思われると面倒だから下を向く。
きっと周りの人々も、同じ理由で俯いているのだと、トソンは思った。

そうこうしてその場をしのいでいるうちに、電車の窓の外は再び暗くなる。
それから、次の瞬間にはまたどこかの駅に到着する。
ぷしゅーという音とともに開いた電車の扉の下のほうに、トソンは視線を向けた。

いつもなら、このまま電車には誰も乗ってこないまま扉は閉まり、そして次の駅へと出発する。
次の駅がどんなところかは知らない。いつも、この後トソンは起きてしまうからだ。

この駅の次の駅はいったいどんなところなのだろう。
この前はこの駅に着いても、また発車しない内に目覚めてしまった。
今回はちゃんと行くことができるのだろうか。

そんなことを考えながら、電車の扉が音を立てて閉まるのを見ていたトソンは、
扉が一度完全に閉まる直前になってから、再び開いたことに驚いて、思わず目を見開いた。



一度しまりかけた電車の扉が開く理由は、一つだけ。
それは、ギリギリ乗り損ねた人を迎え入れるためだ。



.

58 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 21:40:13 ID:QHk5lOM.0

再び開いた扉の向うに居た人物、なんだか見たことのあるスニーカーが車内に乗り込んでくる。
スニーカーは車内の通路の真ん中で一度立ち止まり、
つま先をこちら、トソンのほうへ向けると、ずんずんと近づいてきた。

トソンは体中に期待と不安が広がるのを感じた。
視線を上げ、こっちに近づいてくる人物の顔を確かめたい気持ちと、
もし予想と違っていたらという気持ちが押し合う。
電車の扉が閉まり、ゆっくりと視界の端に映る窓の外の景色が動き出す。

スニーカーの主は、車内の座席はどこもがら空きで座り放題だというのに、
迷うことなくトソンの隣に座ると足を組んだ。
トソンのすぐ側で、やはり見覚えのあるスーツのズボンとスニーカーが揺れている。
これはもしかしなくても、間違いない、明らかにあのスニーカーとスーツだ。

意を決したトソンは、パッと顔を上げると隣に座る男の顔をしっかりと視界に入れた。


(・∀・ )


(゚、゚*トソン「!」

.

59 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 21:45:20 ID:QHk5lOM.0

やっぱりだ、やっぱりあの男だった。
すらりとした細身の体系に、明るい色の髪。そしてピシッとしたスーツにスニーカーを履いている。
あの大きな木槌は今日は持っていなかったけれど、でも間違いない。
トソンは再びこの人物と出会えたことに感動と興奮を覚えながら、男が自分を見るのを待った。

(゚、゚*トソン

(・∀・ )

(゚、゚トソン

(・∀・ )

(゚、゚;トソン

無言。
男は、なにやら楽しげな表情でただ窓のぐちゃぐちゃな景色を見ているだけで、
トソンのほうはチラリとも見ようとはしなかった。
もしかしたらこちらのことは忘れてしまっているのかもしれない。

それに、これは夢なのだ。夢の中の人物に何度もあったからと言っても、
相手に前に会った時の記憶があるかなんてわからない。
むしろ、無いときの方が圧倒的に多い。
いや、それよりもまず、この場合それは記憶と言っていいのだろうか?

60 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 21:50:06 ID:QHk5lOM.0

まあそれは今はともかく。

(゚、゚;トソン

そのことにやっと気が付いたトソンは、一瞬腹の底が冷えたような気分になった。
すっかり一人で浮かれてしまっていたのが、すごく恥ずかしい。
でも、ここは夢であって自分以外現実の人間なんて一人も居ない、だから恥ずかしがる必要もないのだ。
なんとか腹の底から沸きあがる羞恥心を抑え、もう一度男のことをじっと見る。

(・∀・ )

ここは自分の夢なのだと割り切ったトソンは、遠慮することなく、現実なら不躾なくらいじろじろと男を眺めた。
どこか浮世離れした雰囲気に、なんだか不思議な色合いをしている瞳。
スーツには皺も染みも無く、スニーカーは近所の小学生が履いているものと同じメーカーのものだった。
  ,_
(゚、゚トソン(んー……)

やはり、何故か違和感を感じる。ここは自分の夢の中だというのに、
この男だけはまるで別の場所の異物のように思えるのだ。

男は、トソンに見られていても気にすることなく楽しげなままだ。
こちらにはきっと気がついているのだろう。
というか、こんなにじろじろと見られていて気がついていないわけがない。
だんだん、トソンはこの男にからかわれているような気がしてきた。

そして、それを決定付ける行動を、男がとった。

61 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 21:55:04 ID:QHk5lOM.0

(・∀・ )

( ・∀・) チラ

(゚、゚トソン「!」

(・∀・ )彡フイ

(・∀・ ) ニヤァ
  ,_
(゚、゚トソン(こいつ……)

確信犯だった。
男は、己が行動を起さないことでトソンが戸惑っているのを楽しんでいるようだ。
さっきよりもいっそう楽しげにニヤニヤと窓の外を眺める横顔を、ぐっと睨みつける。
  ,_
(゚、゚トソン「……あの」

(・∀・ )
  ,_
(゚、゚トソン「あの、今日の昼間会いましたよね!」

言ってから、そういえば昼間の夢は夢の中では夜だったことを思い出したが、
言ってしまったものは仕方が無い。

62 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 21:59:57 ID:QHk5lOM.0

それに、トソンの言葉に男はきちんと、初めてまともな反応を返してくれた。
今まで窓の外を見ていた視線をこちらに向け、パァッと明るい笑顔を浮かべた男は、
「その通り!」と言うと握手をトソンに求めた。

( ・∀・)「やあやあ、やっと話しかけてくれた、よろしく、僕の名前はモララー。君は?」

(゚、゚;トソン「え、あ、都村トソンです」

( ・∀・)「トソンくんか、いやあ君の夢は便利だね、乗り物だなんて」

(゚、゚トソン「へ? はあ、ありがとうございます」

( ・∀・)「これで都市の交通の便も少しはよくなるかなあ」

(゚、゚トソン「都市?」

( ・∀・)「そう、都市。今まではこんな夢を持った人なんて夢遊者にいなかったからずっと徒歩が主流でさあ」

( ・∀・)「目的地が遠い場合でもいっちいち歩かなくちゃならないしね」

( ・∀・)「個人でバイクとか自転車とか持ってる奴はいるんだけどねえ、でもやっぱり大半は徒歩だったから」

( ・∀・)「運び屋は新入りは乗せてくれるけど古参はあんまり乗っけてくれないんだよ」

( ・∀・)「あいつらケチだよな、こちとら毎日皆が平和に暮らせるようにせっせと片付けしてるってのに」

( ・∀・)「本当に助かったよー、ありがとう」

(゚、゚;トソン「……ええっと」

63 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 22:05:25 ID:QHk5lOM.0

突然のマシンガントークにトソンは口を挟む暇もなく、わけのわからない話を聞かされた。
“都市”や“夢遊者”といった単語や、徒歩が主流だとか交通の便がどうだとか。

わけがわからない、というのは確かに夢の専売特許だ。
だがなんだろうこのなんともいえない感覚は。
言われていることはわけがわからないのに、この男――モララーと話していると夢だという実感がまるで沸かない。
何故か現実でわけのわからないことに遭遇しているような感覚だった。

そして頭に襲ってくるのは、昼間見た夢でも感じた違和感、不快感。
しかも今度はそれがよりいっそう強くなり、まるで電車に酔ってしまったかのような気分だった。

( ・∀・)「あれ、どうかしたのかい?」

(゚、゚;トソン「いえ、なにも…」

グラグラする頭を抑え、トソンはモララーから電車の床に視線を落とした。
モララーは、それを気にする様子もなく、電車の窓の外を眺めながら嬉しそうにしている。

( ・∀・)「それにしても今日はいい日だ」

( ・∀・)「電車は開通するし、トソンくんにもちゃんとまた会えたし、目立った悪夢の目撃情報もない」

( ・∀・)「都市の皆も喜ぶだろうな」

64 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 22:10:16 ID:QHk5lOM.0

再びモララーが口にした“都市”という言葉が、頭にひっかかる。
そういえばこの電車は今どこに向かっているのだろう?
もしやその“都市”という場所に電車は向かっているのだろうか?

自分の夢なのに、何度も飽きるほど見てきた夢のはずなのに、
トソンはこの先いったい何が起こるのか全くわからなかった。

電車酔いのような症状が、一時的かもしれないが波が引き、少しだけ楽になる。
トソンは何度か瞬きをしてから顔を上げた。

(゚、゚トソン「あの」

( ・∀・)「ん、なんだい?」

(゚、゚トソン「その都市って、どこの都市ですか?」

( ・∀・)

(゚、゚トソン「他にもさっき言ってた夢遊者とか悪夢とかはいったい……」

(゚、゚;トソン「これは…私の夢、ですよね?」

65 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 22:15:40 ID:QHk5lOM.0

( ・∀・)

( ・∀・)「……うんまあ、それらの質問は次の駅に着いたら教えてあげるよ」

(゚、゚トソン「次の駅……」

(゚、゚トソン「今この電車はいったいどこに向かってるんですか…?」

三度モララーに投げかけた質問の直後、
今までごちゃごちゃと極彩色に溢れていた窓の外がふと暗くなった。
それにすぐに気がついたモララーが、トソンの視線を窓の外に向けさせる。

( ・∀・)「そんなの決まってるじゃないか」

( ・∀・)「次の駅は、君が今僕に尋ねた場所」

暗かった窓の外が、今度はサァッと明るくなり、突然の強い光にトソンは目を瞑った。
電車がゆっくりと減速し、停止する。
扉の開く音がする。
モララーに手を引かれ、目が眩んだまま電車を降りる。

少しずつ瞼を開き、トソンの視界に映ったのは――






( ・∀・)「ようこそ、我らが“夢都市”へ」





.

66 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 22:20:21 ID:QHk5lOM.0

(゚、゚;トソン「これは……」


そこにはまるで、極彩色のおもちゃ箱をひっくり返したような光景が広がっていた。

トソンが立っているのは見たことがあるようでないような駅のホームだった。
ところどころ出発した駅に似ている銀と黒のデザインの中に、古い駅のような鉄骨が見える。
トソンたちの背後の電車からは、いったい今までどこに乗っていたんだという数の人が車両から降りていた。

駅はどうやら小高い丘の上にあるらしい。
すぐ側にある改札から雪崩れるように人が出て行く端で、トソンは呆然と目の前の町を見下ろした。

電車の窓から見えた景色と同じようなコラージュのように継接ぎの景色。
一見、遊園地のアトラクションが所狭しと並んでいるかのようにも見えるし。
けれどよく見れば、それはちゃんと街の形をしているようにも見えた。
かと思えば廃れた過疎地のようにも見え、瞬きをすれば繁華街にも近代都市にも姿を変える。
朝と昼と夜が空に張り付くように揺らめき、僅かに歪んでいる。

少し首を動かしただけでまるで万華鏡を覗きこんでいるかのような景色が広がる現象に、
またトソンは一瞬眩暈を覚えた。
トソンの隣で相変わらずモララーは笑みを浮かべている。

67 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 22:25:21 ID:QHk5lOM.0

(゚、゚;トソン「な、え……なん、ですかこの街は」

( ・∀・)「言っただろう、“夢都市”だよ。君がさっきどこにあるのかって質問してきた都市」

( ・∀・)「まあ最初のうちはこの光景を見てるのも大変だろうけど。慣れれば結構綺麗だよ」

(゚、゚;トソン「夢、都市……」

今まで見てきた夢のどれにも似つかない夢。
これは本当に自分の夢なのか、疑わしくなったトソンは試しに自分の頬を抓ってみた。
じんわりと頬に広がる痛みは、今まで夢の中では一度も感じたことがない。

(゚、゚;トソン「…痛い、え、痛い、まさか…」

まさか現実なわけがない。こんな光景が現実にあってたまるものか。
それに確かにさっきまで自分はいつもの見慣れた夢の中にいたのだ。
いつのまにか現実の世界を歩いていたなんて夢遊病を患っていた覚えはない。

68 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 22:30:22 ID:QHk5lOM.0

トソンがさらに混乱して視線をあちこちに漂わせていると、
隣で彼女の様子を見ていたモララーは少しだけ表情を硬くした。

( ・∀・)「……言っとくけどここは現実じゃないよ」

(゚、゚;トソン「でも……痛みが」

( ・∀・)

( ・∀・)「うーん……」

( ・∀・)「君がまさかこれくらいで混乱するとは思わなかったなあ…」
  ,_
(゚、゚;トソン「は…? え?」

( -∀-) フー…

( ・∀・)「それは君が『頬を抓ると痛い』ことを知ってるから痛いんだよ。現実だからじゃない」

言われた言葉がいまひとつ飲み込めず、トソンはもう一度確かめるように頬を抓る。
やはりじんわりと広がる痛みに変わりはなかった。

69 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 22:35:35 ID:QHk5lOM.0

(゚、゚;トソン

とりあえずはここは現実ではないと考えよう。
だとしても、トソンはこの痛みに関しては何だか納得がいかなかった。

今までだって現実なら痛みを感じるような夢を見てきたはずだ。
けれどもそれらの夢の中でトソンは一度も痛みを感じたことはなかった。
なのに何故今更、頬を抓ったくらいで痛みを感じたのだろう?

( ・∀・)「それは君が『痛み』を意識しながら頬を抓ったからだよ」

( ・∀・)「今までどんなに夢の中で酷い目に合おうと、君は夢の中では痛みなんて感じないと思っていた」

( ・∀・)「だから今まで君は夢の中で痛みを感じたことはなかったんだろう」

( ・∀・)「でもさっき君はここが夢なのか僅かながらも疑いつつ頬を抓った」

( ・∀・)「痛みを感じる可能性を意識していたから、痛みを感じたんだよ」

( ・∀・)「夢の中で痛みを感じないなんて誰が最初に言ったんだろうね」

70 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 22:40:32 ID:QHk5lOM.0

表情をあまり感じさせない笑みをモララーは浮かべる。
トソンはやはりいまひとつ言われたことを飲み込めないまま、抓った頬を撫でた。

( ・∀・)「さて、まずはどこに行こうか」

そういいながら、モララーはさっさと改札機に向かって歩き出した。
さっきまでは五月蝿いくらいいた人の波も消え、そこはすっかり静まり返っている。
トソンは慌ててモララーの後にくっ付いて、開きっぱなしになっている改札口の扉を通り抜けた。
一瞬、切符もないのに通り抜けていいのだろうかと不安になりかけ、ここが夢の中だということを思い出す。

( ・∀・)「トソンはどこに行きたい?」

(゚、゚トソン

(゚、゚トソン「どこと言われましてもここがどこだか未だによくわかってません」

( ・∀・)「そっかあ、そうだよねえ」

(゚、゚トソン(さっきこの人ナチュラルに呼び捨てにした…)

71 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 22:45:25 ID:QHk5lOM.0

( ・∀・)「まあ僕はここの案内人ってわけじゃないし」

( ・∀・)「じゃあとりあえずは――」



「おー、モララーじゃねえか!」



モララーが何かを言おうとしたとき、どこからか声がかかった。
そして声と一緒に聞こえてきたのは、低く轟くエンジン音。
声の方に視線を向けると、モララーはにっこり笑って片手をあげた。

( ・∀・)「やあジョルジュ、配達かい?」
  _
( ゚∀゚)「おう、兄者に頼まれた奴をさっき届けたとこだ」

( ・∀・)「そりゃお疲れさん」

暴走族にも似た音を発してやってきたのは、濃い黄色に塗られた車体の、
バイクに似た乗り物に乗った、短い金髪の、眉毛の濃い若い男だった。
男の乗ってきたバイクは、だいたいの形とエンジンの音で何となくバイクとトソンは思ったのだが、
実際形は現実のバイクに比べると随分デフォルメされていた。

72 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 22:50:13 ID:QHk5lOM.0

まるでアメコミに出てきそうなそれに跨る男は、親しげにモララーと談笑している。
身につけているのはバイクと同じく、けれどこっちは目が痛くなるような鮮やかな黄色のロングコート。
はめている手袋も履いている靴も暖色で、頭の先から足の先の隅々まで男は明るい色をしていた。

トソンがその派手な見てくれに目をぱちくりさせていると、男は「ところで……」と視線をトソンの方に寄越した。
好奇心に溢れた視線に、思わずモララーの陰に隠れる。
  _
( ゚∀゚)「配達から帰ってる最中に、今まで何もなかった所にいきなり見たことない駅が現れやがったから、
     もしやと思って来てみたんだが……そこのお嬢ちゃん、新入りか?」

(゚、゚トソン「え、新入り?」
  _
( ゚∀゚)「何だ、違うのかよ」

(゚、゚トソン「え、あの」

( ・∀・)「いや、新入りだよ」

(゚、゚トソン「え?」
  _
( ゚∀゚)「だよなあ、新入りじゃなかったらこんなとこ来れねぇもんな。
     その様子だと、まだ自覚はないって感じか?」

( ・∀・)「だね」

73 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 22:55:05 ID:QHk5lOM.0

なにやらトソンにはよくわからない話を始める二人。
新入りとはいったい何の新入りなのだろう?
トソンは自分が最近何かのグループに参加したり所属したりといった記憶は全くなかった。
なによりもここは夢の中だ。

さっきから夢の中のはずならないような出来事ばかりで、トソンは頭が痛くなりそうだった。
収まっていた酔いのような気持ち悪さもまた波が来ている気がする。
訳が分からないことには下手に口を挟まない方がいい。
深く深呼吸をしつつ、トソンは大人しく二人の会話を聞いていようと思った。
けれど、そう思った直後、モララーが妙なことを言い出し、トソンは首を傾げた。

( ・∀・)「さっき僕もここで偶然会ってね」

( ・∀・)「ちょうどここのことを説明してたとこなんだよ」

(゚、゚トソン「え、モララーさんさっき私と一緒に…っでぇ!」

モララーの言葉を訂正しようとしたトソンは、
彼にジョルジュからは見えない角度で二の腕をつままれ、
それをトソンが認識した瞬間思いっきり抓られて、痛みに悶えた。

74 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 23:00:09 ID:QHk5lOM.0

(;、;トソン「っくぅ〜」
  _
( ゚∀゚)「ん、どうしたんだ?」

( ・∀・)「頭痛だよ」

( ・∀・)「いやあ、まだここに来てばっかりで、彼女夢酔いしてるみたいで」
  _
( ゚∀゚)「ああ、夢酔いは確かに辛ぇよな」

( ・∀・)「今薬持ってる?」
  _
( ゚∀゚)「おう、あるぞ。ちょっと待て、今渡すから」

結局訂正をできないまま、トソンはジンジンと痛む二の腕を押さえていた。
モララーはそれを横目で一瞥しただけで、謝るそぶりはない。
憎々しげにトソンはモララーを睨んむと、一発蹴りを彼のスネにかまそうとしたが、
ひょいとあっさり避けられてしまった。

ジョルジュがバイク(だと思われる乗り物)の荷台をがさごそと漁る。
取り出したのは、なにやらきらきらと光る粒状の何かが入っている瓶だった。
ジョルジュは瓶の蓋を開けてそこから三つほど粒を取り出し、トソンに粒の乗った手のひら差し出す。

75 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 23:05:21 ID:QHk5lOM.0
  _
( ゚∀゚)「夢酔いにはこれが一番だ。噛み砕かずに飲み込め」

( ・∀・)「普通の錠剤と違って水なしでも飲めるから」

(゚、゚トソン「あ、ありがとうございます……」

渡された粒は、大きさは一粒が指先に乗るくらいの小さなもので、
これもまた町の風景同様見る角度によって色や模様が様々に変化した。

言われたとおりに、噛み砕くことはせず口に放り込むと、一気に飲み込む。
一瞬異物が喉を通るのを感じた後、薬は胃に落ちた。
とたん、今までずっとぐらぐらしていた重い頭が少しだけ軽くなった気がした。

( ・∀・)「あ、効果は服用しないと現れないから」
  _
( ゚∀゚)「ここに来るたびに三粒ずつな」

――気がするだけだったらしい。
  _
( ゚∀゚)「んじゃ、そろそろ行くか」

76 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 23:10:28 ID:QHk5lOM.0

トソンが薬を飲み込んだのを確認すると、ジョルジュは停止させていたバイクのエンジンを吹かす。
すると、単車だったはずのバイクの脇が突然ぐにゃりと変形し、何もなかった場所にサイドカーが現れた。
ジョルジュはサイドカーが完全に形を作るのを見届け、トソンに視線で乗れと促す。

(゚、゚トソン「あの、行くって……どこへ?」

( ・∀・)「君を案内屋のいるところまで案内するんだよ」
  _
( ゚∀゚)「ほら、さっさと乗れ」

(゚、゚;トソン「あ、はい」

( ・∀・)「ねえねえ、ジョルジュ」
  _
( ゚∀゚)「んだよ」

( ・∀・)「このサイドカー、一人乗りに見えるんだけど」
  _
( ゚∀゚)「そうだぞ、それがどうした」

(゚、゚トソン「あの、ヘルメットとかは…」

77 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 23:15:47 ID:QHk5lOM.0
  _
( ゚∀゚)「ヘルメット? そんなもんいらねえいらねえ、ここをどこだと思ってんだ?」
  _
( ゚∀゚)「落っこちたら痛ぇくらいだ、心配すんな、死なねえよ」

(゚、゚;トソン(痛みはあるのか)

( ・∀・)「ねえねえ、ジョルジュ」
  _
( ゚∀゚)「なんだよ」

( ・∀・)「僕はどこに乗ればいいのかな?」
  _
( ゚∀゚)「ねーよんなもん」

( ・∀・)「なんだい僕は置いてけぼりかい?」
  _
( ゚∀゚)「お前なら自力でついて来れるだろうが」

( ・∀・)「疲れるから嫌だ」
  _
( ゚∀゚)「バーカ嘘吐け。夢の中で疲れた奴なんて見たことねーよ」

( ・∀・)「いやいやいや本当だって、めちゃくちゃ疲れるんだって」
  _
( ゚∀゚)「俺の夢遊者暦なめんなよ。誰がそんなホラ信じるかっての」

78 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 23:19:17 ID:QHk5lOM.0
  _
( ゚∀゚)「そらお嬢ちゃん、しっかり掴まってな。
     スピードは遅めにしといてやるけど万が一落ちたりしたら拾うのが面倒だから――な!」

(゚、゚;トソン「ぅわっ――」

( ・∀・)「あっちょっ置いてくなよ!」

言葉とともにジョルジュがバイクのアクセルだと思われる場所を触ると、
一瞬トソンには周りの景色が吹き飛んだように見えた。
体も一緒に吹っ飛びそうな感覚に、思わずサイドカーに掴まる。

けれどもそれはほんの一瞬のことで、しばらくすればトソンの周囲にはちゃんと景色が戻ってきた。
といっても、速度は僅かに遅くなっただけ。
今にも振り落とされそうなのは変わらないまま、トソンは必死でサイドカーに掴まった。

いったいどのくらいのスピードが出ているのか、バイクはもう駅から随分離れ、
目の前の都市へと続く丘の一本道を爆走している。
夢の中だからなのか、風は感じないため、目は開いていることが出来た。
  _
( ゚∀゚)「お嬢ちゃん大丈夫かー!?」

(゚、゚;トソン「はいー! なんとかー!」

79 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 23:23:27 ID:QHk5lOM.0

爆音のエンジン音の隙間を縫う様に聞こえてきたジョルジュの声に、トソンも声を張り上げて答える。
聞こえたかどうかわからないが、その後ジョルジュは何も言わないから多分聞こえたのだろう。
トソンはもう一度しっかりとサイドカーに掴まりなおすと、
置いてけぼりを食らってしまったモララーの様子を見ようとちらりと後ろを振り返った。

ジョルジュは彼に自力でついて来れるだろうと言っていた。
けれどトソンにはモララーが何か乗り物になりそうなものを持っていた記憶はない。
走ってついてくるということも考えられるが、このスピードについて走ることなんて出来るのだろうか……。


(゚;トソン チラ

(、゚;トソン「え」

( 、 !iトソン「えええー…」


そんなトソンの心配はあっさり消えることになった。

.

80 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 23:27:03 ID:QHk5lOM.0

( ・∀・)「なにそんなポカンとしてるんだい、トソン!」

( ・∀・)「僕がこんな風になってるのに驚いたのかい?!」

( ・∀・)「忘れちゃいけないよ!」

( ・∀・)「ここは夢の中だ! 夢の中なんだよ、トソン!」

呆然とモララーを見上げているトソンに、モララーはあっはっはと楽しげな笑いを落とした。
今、モララーの身長は優に五メートルを越しているかもしれない。
元から背は高いほうだったが、まさかいきなりこんなに人の背が高くなるなんて誰が予想しただろうか。

それに、単に背が高くなっただけだったらトソンはこんな気持ちにはならなかった。
なんというか、はっきり言って気持ちが悪い。
夢酔いをしている中で、こんなものを見せられて、トソンの気分の悪さは絶頂にたどり着きそうだった。
ここが夢の中でなかったら胃の中のものを吐き出してしまっていたかもしれない。

現在のモララーは、手や胴はは今までどおりのサイズで、足だけが妙に長くなっているのだ。

81 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 23:30:43 ID:QHk5lOM.0

いちいち、ぶんっぶんっと音がしそうなほどの大降りな一歩。
本人はきっと普通のスピードで歩いているくらいの感覚なのかもしれない、
けれど、ちゃんとモララーはジョルジュのバイクのスピードについて来ていた。
関節はいったい幾つあるのだろう、まるで何かの化け物のような見た目は、只管悪寒を誘う。
  _
( ゚∀゚)「相っ変わらずキモチワリィ見た目だなあ!」

( ・∀・)「失礼だなあ、だったら僕もバイクに乗せろよなあ!」
  _
( ゚∀゚)「やーなこったぁ!」

やっとバイクに追いつき、並走するモララーを見上げ、ジョルジュは怒鳴った。
それに負けじと、モララーも声を張って言い返す。
けれどトソンには、そんな二人のやり取りを傍観する余裕もなく、
必死にサイドカーから落ちないようにしながら気分の悪さと戦っていた。

( 、 !iトソン(なんだかとんでもない所に来てしまった気がする……)

82 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/06(日) 23:33:07 ID:QHk5lOM.0

駅はどんどん後方へと遠ざかる。
夢都市はだんだんと目の前に近づいてくる。
これからトソンの身には、いったいどんなことが待っているのだろう?
出来れば、これ以上気持ちが悪いことには遭遇したくない、とトソンは心の底から願った。





( 、 !iトソン「うぇっ」









第二話「運ばれる夢」  おわり


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