- 90 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 17:04:31 ID:38SxqkVM0
( 、 !iトソン(20XX年5月10日……)
( 、 !iトソン(あ、今現実は夜中だから)
( 、 !iトソン(20XX年5月11日…今回の夢は………)
( 、 !iトソン(…………)
( 、 !iトソン(くそう、ノートがないから記録できないじゃないですか)
( 、 !iトソン(なんか色々ありすぎて覚えていられるか自信が…)
( 、 !iトソン
( 、 !iトソン(というか、これは本当に私の夢なのか?!)
( 、 !iトソン
( 、 !iトソン「うぇっ」
- 91 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 17:07:27 ID:38SxqkVM0
( ・∀・)「大丈夫かあい、トソーン! バイクに吐いちゃ駄目だよー!」
_
( ゚∀゚)「夢の中で吐くとかねーよ!」
( ・∀・)「そんなこと一概に言えないだろう?!」
( ・∀・)「ここは夢の中なんだから何があったって可笑しくない!」
_
( ゚∀゚)「お嬢ちゃん、あとちょっとで着くからな! それまでの辛抱だぞ!」
( 、 !iトソン
( 、 !iトソン(これは本当に私の夢なのか?!)
( 、 !iトソン「うっ…うぇぇえぇ」
( 、 !iトソン(ああ…吐けない分、ずっと気持ち悪い……)
- 92 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 17:10:49 ID:38SxqkVM0
彼は目的を達成するまで、木槌を振るい続けている。
第三話「アパートの夢」
.
- 93 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 17:13:28 ID:38SxqkVM0
現在、トソンを乗せたジョルジュの運転するバイクと、
バイクと並走する足だけ異様に長くなったモララーは、目的地に入ったばっかりだった。
突然周囲に増えた建物は、遠くから見たときとは違い、形がしょっちゅう変わることはなく、
どこか異国を思わせる町並みの形を保っている。
シックな色合いの建物に、石畳の表通り。
見通しはあまり良くなく、道は真っ直ぐではなく緩やかな波のようにくねくねとしている。
そんな道をジョルジュの運転するバイクはスピードを落とさず、爆走していた。
もしもトソンが夢酔いとモララーの姿のせいで気分を悪くしていなければ、
もっと街並みを楽しむことが出来ただろうに。
しかし、あっちこっちへと激しく揺れる車体の上のトソンには、そんな余裕は微塵もない。
吐きたくても吐けない状況に口元を押さえ、彼女は何度もえづきながらサイドカーに掴まっていた。
- 94 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 17:16:38 ID:38SxqkVM0
表通りを出歩いている人間は誰もいないため、その通りをジョルジュはお構いなく爆走する。
建物の窓は、どれも暗く、その向こう側に人が住んでいる気配はない。
途中、バイクは小さな広場のような場所に出たが、そこもすぐに通り過ぎて後方に遠ざかってしまった。
(゚、゚!iトソン(あれ…)
広場を通ったのは一瞬。
けれど、トソンはその一瞬の間に、広場に人が固まっているのを見た。
町の中をこんな爆音のバイクが走っているのに、彼らはそれには目もくれず、こちらに背を向けて何かをしていた。
何をしていたかまではわからなかった。
でも、トソンは人々の後姿を見たとき、何か嫌な印象を受けたのだ。
心の奥の方に、泥を押し込められたような不快感が、あの場を通った一瞬トソンを襲った。
あれはいったいなんだったのだろう。
- 95 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 17:19:32 ID:38SxqkVM0
- _
( ゚∀゚)「……おい、モララー!」
( ・∀・)「ああ、わかってる」
( ・∀・)「ジョルジュ、トソンをよろしく頼んだ!」
_
( ゚∀゚)「おう、当ったりめぇだ、任せとけ!」
(゚、゚!iトソン「え?」
トソンが後方に遠ざかる広場を、もやもやとした気持ちで見つめていると、
モララーがいきなり長かった足を元の長さに戻して、視界に現れた。
そして、いったいどこに持っていたのか、初めて出会ったときに持っていた木槌を右手に構えると、
バイクの進行方向とは真逆の方向――さっきの広場へと駆け出した。
(゚、゚!iトソン「モ、モララーさん、何しに行くんですか?!」
- 96 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 17:22:22 ID:38SxqkVM0
どんどん遠ざかるモララーにかけたトソンの言葉は、モララーには届かない。
いったいどうしたのだと、今度はすぐ隣でバイクを操るジョルジュを見る。
ジョルジュはトソンの視線に、口端を上げた。
(゚、゚!iトソン「ジョルジュさん、モララーさんは…!」
_
( ゚∀゚)「ああ、あいつは今な」
_
( ゚∀゚)「片付けに行ってんだよ」
○ ○ ○
- 97 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 17:25:13 ID:38SxqkVM0
さっき通り過ぎたばかりの小さな広場には、三十人くらいの人だかりが出来ていた。
美しい街並みの中で、その人だかりが出来ている一角だけが、今は異様な空気を放っている。
どろどろとした、頭の痛くなるような空気。
人だかりのその誰もが皆、再び広場に戻ってきたモララーには気がつかないまま、
背を向けて何かを取り囲んでいる。
取り囲まれているモノは、人が壁となっているために確かめることは出来ないが、
モララーにはもう、そこに何があるのかはわかりきっていた。
背後のバイクがカーブを曲がり視界から消えるのを確かめてから、
モララーは広場の入り口に立って木槌を持ち直した。
そして、目の前の沢山の背中の人数に、改めて呆れる。
( ・∀・)(なんかまた数増えてない?)
( ・∀・)(前はまだ十三人だったよな)
- 98 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 17:28:10 ID:38SxqkVM0
( ・∀・)(また現実のほうで何かあったな、ドクオの奴)
( -∀-) ハァー
( ・∀・)「おーっし、さっさと片付けようか!」
広場全体に響く声で宣言し、木槌を手の中で一回転させて駆け出す。
何かを取り囲んでいる人々はこちらに気がついていないのか、振り返ることはせず、
ずっと取り囲んだモノを見下ろしているようだった。
近づけば、なにやらブツブツと呟いているのが聞こえるが、その内容には興味がない。
モララーは人々にぶつかる直前で足を止める。
そして、そのままの勢いで振りかぶった木槌を目の前の男の後頭部に叩き付けた。
パァンとはじける様に男はその場から消え去り、代わりに現れたのは六角形の黒い物体。
コロンと石畳の上に転がったそれを拾っている暇は今はない。
- 99 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 17:31:21 ID:38SxqkVM0
突然襲われたにもかかわらず、人々はモララーに見向きもしなかった。
ただ只管、取り囲んでいるモノを見下ろしている。
振り下ろした木槌を、今度は左に振るい、男の隣にいた女二人を薙ぎ払う。
吹っ飛ばされた女二人は、モララーよりも後方の石畳にぐしゃりと落ちたが、呻き声一つ上げなかった。
ただ、じっと一点を見つめ、何かを呟き続けているのだ。
その様子に、モララーは少しだけ背筋がゾクリとし、脳裏にある映像が浮かびかけたが、すぐに思考から追い出した。
女たちの反対側にいた老婆と青年もふっ飛ばし、その前に立っていた女も叩き潰し、
やっと彼らに取り囲まれたモノはその姿を現した。
(;'A`)「モ、モモモモ、モッモモモラララーっ」
( ・∀・)「『モ』多過ぎだから。なんかまた人数増えてるけどなんかあった?」
- 100 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 17:34:17 ID:38SxqkVM0
(;'A`)「そんなそんなそんなこといいいいから早くっ早く助けっ…」
( ・∀・)「あーはいはいわかったから、ほら、ドクオ、さっさとそこから退いて」
そこにいたのは、少し貧相な体格をした、石畳の上に情けなく尻餅をついている青年。
傍らには、蓋が外れ中身が散乱した鞄が転がっている。
ドクオと呼ばれた彼は、長く伸ばした黒い前髪の隙間から、怯えたようにモララーを見上げた。
そして、慌てて言われた通りにモララーの作った隙間から、人の囲いの外に出ようとする。
しかし、ドクオがあとちょっとで囲いから出ようとしたとき。
両側で今までブツブツと何かを呟いているだけだった者たちが、ガシリとドクオの腕を掴んだ。
(;'A`)「ひぃっ」
再び囲いの中に引き戻されそうになる。
が、ドクオは顔を真っ青にして、目立った抵抗なくされるがままになっていた。
恐らく恐怖で身動きできないのだろう。
それを見て、モララーは木槌を振り上げた。
- 101 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 17:37:04 ID:38SxqkVM0
( ・∀・)「もー、何やってんだ、よ!」
ガッとドクオの腕を掴んでいた者の半分を叩き潰す。
続けざまにもう半分もふっ飛ばし、モララーはドクオの服の襟首を掴むと、広場の反対側へと投げ飛ばした。
('A`;)「ぅわああぁぁぁああぁ……ぐふぁっだふっ」
広場の反対側まで飛んだドクオは、そこにあった建物の壁にぶつかると、ぼたっと石畳に落ちた。
どうやら、飛ばされた瞬間に痛みを意識したらしい。
地面に転がったまま、芋虫のように悶えているドクオをみて、モララーは呆れた顔をした。
(; A )「おまっ…モラ、ぐふっ…なにす…っ」
( ・∀・)「いや、そろそろ学習しような。
そういうときに痛み意識したら駄目だって何回言えばいいんだよ」
('A`;)「んなっ…それ…いってぇえぇ」
( ・∀・)「今から速攻でこいつら片付けるから、そこ動くなよ」
- 102 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 17:40:04 ID:38SxqkVM0
痛みに悶えるドクオは、まあ大丈夫だろう。
擦り傷ぐらいは出来ているかもしれないが、それはまた帰ったら手当てしてもらえばいい。
それよりも構うべきは目の前にいる奴ら。
ドクオに向かってのろのろと歩み、ずっと何かを呟いている気味の悪い奴らだ。
モララーはまず最初にふっ飛ばした女たちの上に木槌を振り上げ、叩き潰した。
そしてすぐ背後に迫っていた男の横腹を殴り飛ばし、
続けざまそのすぐ後ろにいた子供の体を地面にめり込ませる。
前回片付けたときと比べて増えているとは言え、
そいつらはモララーにとってはただの掃除の対象でしかなかった。
自分やドクオに近づく者は、片っ端から叩き潰していく。
あちらこちらでパンパンと風船がはじけるような音が響き、黒い物体が転がった。
- 103 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 17:43:15 ID:38SxqkVM0
例え相手がどんな見てくれをしていたって容赦はしない。
男だろうが女だろうが、子供だろうが老人だろうが、叩き潰す。
奴らがいったい何を呟いていたって気にとめることもしない。
奴らはドクオにとって恐怖の対象でしかないのだ。
そして、モララーにとっては片付ける物でしかない――
――“悪夢”なのだから。
都市の皆が平和に心穏やかに暮らしていくために。
モララーがここで目的を達成するまで暮らしていくために。
彼は奴らを、“悪夢”を殴り、叩き、潰す。
( ・∀・)「バイバーイ」
ガッ。
パァンと再び破裂音を立てて叩き潰された老人を最後に、モララーはドクオの“悪夢”の片付けを終えた。
○ ○ ○
- 104 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 17:46:29 ID:38SxqkVM0
モララーと別れてしばらくして、ジョルジュとトソンは目的の場所にたどり着いた。
いつの間にか周りの景色は異国風の町並みから、寂れた工場地帯のような場所に変わっていた。
トタン塀が続く、殺風景な道。
コンクリートで出来た背の高い、表面ののっぺりとした塔のようなものが、
トタン塀の向こう側にずらりと立ち並んでいて、空は白っぽく、灰色の煙がどこからか漂っている。
どこか寒々しく、ここは胸のうちに心細さを植えつけるような気がした。
町の中で立てていた爆音も成りを潜め、ゆっくりとスピードを落として、ジョルジュはバイクを停止させた。
_
( ゚∀゚)「おい、着いたぞ」
( 、 !iトソン「ふぁ…ふぁーい……」
_
(;゚∀゚)「大丈夫かよ……」
( 、 !iトソン「ふぁ……………うぇっ」
- 105 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 17:49:12 ID:38SxqkVM0
サイドカーからふらつきながら降りる。
すると、サイドカーは出現したときと同じように、ぐにゃりと変形するとバイクの中に吸収されて、消えてしまった。
ジョルジュが心配して肩を支えようしてくれたが、トソンは首を振って何とか自力で立つ。
視界がまだあちこちに揺れているが、まあ何とかなるだろう。
深呼吸を何度か繰り返し、気持ちを落ち着ける。
しかし、ジョルジュは目的地についたと言ったけれど、ここはどこだろう?
ここは、今までトソンが見たことのない夢だった。
トタン塀だけが延々と続いている殺風景な場所。
さっき別れてしまったモララーが言うには、ここに“案内屋”がいるということだが。
そんな人物はどこにもいるように見えないし、店や家のようなものもあるようには見えない。
只管、トタンばかりが目に付く場所に人気はなかった。
(゚、゚!iトソン「……えっと、ジョルジュさん」
_
( ゚∀゚)「なんだ、立ち直ったか?」
- 106 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 17:52:27 ID:38SxqkVM0
(゚、゚!iトソン「はい、まあ。……あの、目的地はここであってるんですか?」
_
( ゚∀゚)「あってるぞ」
(゚、゚!iトソン「トタン塀と変な塔しかないように見えるんですけど」
_
( ゚∀゚)「あー、確かにパッと見はそうだよなあ。俺も初めて来たときは同じこと思ったわ」
ジョルジュはトソンの言葉に、懐かしそうに頷きながら、バイクをトタン塀の脇に止める。
そこから少しだけ離れた場所にあるトタン塀に掌を付けると、ぐいっと力を込めた。
すると、その箇所のトタンにだけ、人ひとりが通れるくらいの穴が開いた。
いや、穴が開いたのではなく、そこにどうやら扉があったらしい。
(゚、゚*トソン
まるで秘密の組織の隠し扉のようなそれに、トソンは思わず鼓動が早くなった。
好奇心と緊張が混ぜこぜになったような感覚。
電車の中で、モララーと再び出会ったときのような感覚。
トソンはすっかり夢酔いのことなんて忘れて、トタンに開いた穴に魅入っていた。
- 107 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 17:54:32 ID:38SxqkVM0
ジョルジュは扉の中に体を半分だけ滑り込ませたところで、トソンが着いて来ていないことに気がついた。
_
( ゚∀゚)「おい、さっさと来いよ。仲の奴らにお嬢ちゃんのこと紹介するから」
(゚、゚*トソン「あ、はい!」
呼ばれて、トソンも慌ててジョルジュに続く。
トタン塀の穴を潜った先には、外とは全く印象の違う風景が広がっていた。
一見、そこは現実ではオンボロアパートと言われる類の建物だった。
二階建ての、ぽろぽろの鉄骨とトタンで出来た建物。
廊下やそれぞれの部屋の扉は木で出来ていて、窓ガラスはところどころ割れている。
建物全体はコの字型になっているらしい。
二階の通路の曲がり角に当たるところが、両側とも壁が黒く塗られているのが奇妙だった。
ちょうどトソンの正面の二階部分には大きなベランダのようなものがあり、
そこには大きなテーブルと椅子が置いてある。
建物を覆うように被さっている高いトタンの天井には、ところどころ穴が開いていて、
そこから光が漏れて、木漏れ日のように地面にさしていた。
- 108 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 17:57:02 ID:38SxqkVM0
とても綺麗な場所とは言えない。
でも、雰囲気は決して寂れた感じはなく、寧ろどこか暖かい場所だった。
_
( ゚∀゚)「あれ? 誰もいねえなあ」
ジョルジュはアパートを見回し、頭を掻いた。
_
( ゚∀゚)「っかしいなあ、この時間なら皆あそこで何か食ってるんだが」
指差した先は、大きなテーブルと椅子のある場所。
どうやらあそこは食卓らしい。
よく見れば、テーブルよりも奥の壁際に、キッチンの陰が見える。
(゚、゚トソン「ここに住んでいる方たちは皆あそこで食事をしているんですか?」
_
( ゚∀゚)「ああ、ここに住んでなくてもタイミングが合えば皆で食うぞ」
_
( *゚∀゚)「り、料理の上手い人がひとりいて、その人が、いつも作ってくれるんだ。
その人の料理、すっげぇ旨いんだぞ」
- 109 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:00:13 ID:38SxqkVM0
突然頬を染めて、恥ずかしそうにジョルジュは説明してくれたが、
今の話の中に頬を染めるような部分が見当たらなくて、トソンは首をかしげた。
他にも、夢の中で食事をする、ということにもやや疑問を感じる。
夢の中ではたしか食べ物は味を感じなかった気がするのだ。
まあ、痛覚の件もあるから、これも意識の問題なのかもしれない。
もしかしたらこの夢自体がどこか可笑しいのかもしれない。
いや、可笑しい以前にまず夢なのだろから、
夢の中の人物が夢の中の食べ物を美味しいと言っていても何も可笑しくはないのか。
(゚、゚トソン
(゚、゚;トソン(結局この夢は私の夢なんでしょうか……?)
色々ありすぎて考えるのが遅れていたが、トソンは未だこの夢が自分の夢なのか自信が持てていなかった。
現実でないことは確かだ。現実で人間の足が伸びたり、乗り物の形があんな風に変形するなど考えられない。
でも、電車の中でモララーと再開してからというもの、どうしても違和感が拭えなかった。
- 110 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:03:11 ID:38SxqkVM0
最初は自分の頭の中に異物が入ったような違和感だった。
しかし、今はその逆。
まるで、自分がこの世界にとって異物のような感覚をトソンは感じていた。
初めて来た土地にやってきたような、新鮮な感覚。
夢の中だと例え初めて訪れた場所でも、今までずっとそこにいたような馴染みがあるはずだ。
なのに、今トソンは他人の家に上がりこんでいるような緊張を感じている。
_
( ゚∀゚)「おーい! 誰かいねぇのかあ!」
人気のないアパートに向かって、ジョルジュは声を張り上げた。
すると、アパートの奥から、なにやらこちらに走ってきているらしい、騒がしい足音が響いた。
次の瞬間、二階の通路の左側の曲がり角――だと思っていた場所にあった黒い壁から、人が飛び出した。
(;^ω^)「ぶほっ…はいはいはあい! 今行くお!」
.
- 111 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:06:06 ID:38SxqkVM0
- _
( ゚∀゚)「お、ブーン! おいおい、そんなに慌ててどうしたんだよ」
(;^ω^)「いやっはあははは」
黒い壁だと思っていた場所はどうやら、通路があったらしい。
そこから飛び出してきたのは、白いパーカーを着た、少々ぽっちゃりした青年だった。
彼は慌てるように黒い通路からすぐに離れると、アパートの左側の一番端にある階段を使ってこっちに降りてきた。
そして、その直後黒い通路の奥から、今度はまた別の人物が飛び出す。
ξ#゚皿゚)ξ「コルァアアアブゥウウウウゥン!」
現れたのは、白い薄手の、華やかなフリルのついたチュニックに、
紺色のホットパンツを着た、金髪碧眼華奢で色白の超美少女だった。
黒い通路から飛び出し、クルクルと巻いた金髪のツインテールを揺らし、こちらを見下ろす。
- 112 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:09:10 ID:38SxqkVM0
しかし、その表情は阿修羅の如く。
折角の美貌も台無しになるほど、彼女は何故か怒っていた。
_
(;゚∀゚)「げぇっ! ブーンお前何したんだよ、ツンめっちゃ怒ってんじゃねぇか!」
(゚、゚;トソン「え? え?」
(;^ω^)「ツンのプリン間違って食べちゃったんだおー!」
_
(;゚∀゚)「ちょっ…アホ!」
ツンと呼ばれた彼女はアパートの階段の最後の段を踏んでいるブーンと呼ばれた青年を見つけると、
階段の方には向かわずに、食卓のあるベランダの手すりに足をかけた。
トソンは一瞬何をしようとしているのかわからなかったが、ジョルジュにはすぐにわかったらしく、
彼はトソンの手を引くと慌ててその場を離れて、アパートの右側へと避難した。
- 113 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:11:06 ID:38SxqkVM0
(;^ω^)そ「えっちょ、ジョルジュ呼んでおきながらどこ行くんだお?!」
_
(;゚∀゚)「巻き込まれて堪るかっての!」
(;^ω^)「この薄情者! ツンー! この通りだから、許してくれおお!」
ξ#゚皿゚)ξ「 問 答 無 用 !!」
ブーンが、さっきまでジョルジュとトソンがいた場所にやってきて土下座をするのと、
ベランダの手すりに足をかけていたツンが、そこから跳躍したのは同時だった。
(゚、゚;トソン「うわ……」
ひらりとまるでモンシロチョウのように身軽にベランダから飛び降りたツンは、
綺麗な弧を描いて真っ直ぐにブーンのいる場所へと飛ぶ。
空中で振りかぶり握り締めた拳を、落下するタイミングに合わせて、ブーンへと叩き込んだ。
瞬間、隕石が落下してきたかのような轟音が響き、辺りを砂煙が覆う。
- 114 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:14:03 ID:38SxqkVM0
(゚、゚トソン「え」
(゚、゚;トソン「ぇええええなんですかこれえ!」
_
( ゚∀゚)「今回も派手にやったなあ」
(゚、゚;トソン「えええっその程度のリアクションでいいんですかこれ!」
_
( ゚∀゚)「まあよくあることだし」
(゚、゚;トソン「よくあるんですか?!」
_
( ゚∀゚)「おう、お嬢ちゃんもそのうち慣れるよ」
もうもうと砂煙のたつ中、ジョルジュは完全に傍観者の位置で暢気にそういうと、
とりあえず二階に避難しとくか、とすぐ側にある階段を登った。
トソンもそれについて、階段を登る。
今にも板が抜けそうな見た目に反して、階段はしっかりとした作りになっていた。
- 115 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:17:18 ID:38SxqkVM0
「なんであんたは何度言っても私のプリン食べちゃうのよ!!」
「悪かったお! 悪かったから殴らないで…って、あひぃそこはだめえぇ!」
未だ収まらない砂煙の中から響く声。
声のほかにも何やら柔らかいものを殴るような音も聞こえる。
砂煙のおかげで姿が見えなくてよかったとトソンは思った。
きっと今頃あの中では目も当てられないような事が繰り広げられているに違いない。
(゚、゚トソン「……止めなくていいんですか?」
_
( ゚∀゚)「俺が入ったところで止まんねーよ。逆に俺も殴られて終いだ」
アパートの二階の手すりに寄っかかり完全に見物を決め込むジョルジュの隣に立つ。
相変わらず砂煙はやむことなく、ブーンとツンを包んだままだ。
はっきり言えば、置いてけぼりの状況である。
何のためにここに連れて来られたのかわからなくなりそうだった。
- 116 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:20:04 ID:38SxqkVM0
(-、-;トソン(うーん…)
自分は一体どうすればいいのだろうとトソンが考えあぐねていると、
さっきブーンとツンが飛び出してきた黒い通路から、今度は三人目が飛び出してきた。
('、`;川「ツンちゃん、やめてやめて! プリンならまた作ってあげるから!」
飛び出してきたのは、黒い髪の垂れ目の淡い色のワンピースを着た女性で。
彼女は手すりから身を乗り出すと、ブーンに暴力を振るっているであろうツンに必死になって呼びかけた。
しかし、ブーンを成敗することに夢中のツンは気がついていないらしく、全く止まる様子はない。
女性はしばらく呼びかけていたが、いつまでたってもツンが止まらないことを確認すると、
彼女は手すりの一部を掴んで、ばっとそこから一階へと飛び降りた。
すると、彼女に掴まれていた手すりがぐにゃりと曲がって、伸びた。
- 117 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:23:09 ID:38SxqkVM0
ずるーんと柔らかい飴のように伸びた手すりは、女性をゆっくりと地面へと下ろす。
そして女性が手を離すと、びゅるんっと、ゴムのように元の形に戻った。
(゚、゚;トソン(なんと!)
トソンは一瞬、いったいどんな構造をしているのかと目を見張ったが、すぐに、脳内にモララーの声が再生された。
そうだ、ここは夢の中だ。それを忘れてはいけない。何が起こったって可笑しくないのだ。
そんな方法で一階へと降りた女性は、翻ったスカートの裾を一回はらうと、
慣れた様子で砂煙に向かって走り、中へと突っ込んだ。
「もうやめな――さい!」
砂煙の奥から声が響く。
それとほぼ同時に、今まで砂煙の中から聞こえてきた打撃音がやんだ。
今までツンが暴れていたためにずっと舞い上がっていた砂煙が、だんだんと晴れていく。
少しずつ薄い膜の向こうから現れた光景は、女性に抱きつかれてバタバタもがいているツンと、
案外傷一つなく、けれど地面の上で大の字になって伸びているブーンだった。
○ ○ ○
- 118 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:26:08 ID:38SxqkVM0
カタリと目の前に置かれたのは、華奢なティーカップ。
中には、透き通った琥珀色の、香り高い紅茶の水面が揺れている。
大きな食卓の中央には、クッキーが山盛りになっているバケット。
他にもバスケットの周りには、ベイクドチーズケーキやベリータルトなど、様々なお菓子が所狭しと並んでいた。
女性はそれらをすべて並べ終えると、トソンの向かいの席に座ってにっこりと優しく微笑む。
('、`*川「どうぞ、遠慮なく食べて」
(゚、゚トソン「あ、ありがとうございます」
('、`*川「ツンちゃんもジョルジュさんもどうぞ」
ξ*゚听)ξっ「わーい」
_
( *゚∀゚)っ「い、いただきますっ」
( *^ω^)っ「お!」
- 119 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:29:01 ID:38SxqkVM0
食卓についた全員がお菓子に手を伸ばす。
けれど、女性はブーンの手だけをぺちりと軽く叩くと、彼からお菓子の皿を遠ざけた。
('、`*川「ブーンくんは今回はだめよ?
ツンちゃんのプリン食べちゃったペナルティ」
(;^ω^)っ「……おーん」
('、`*川「もー、ごめんなさいね。来て早々でびっくりしたでしょ?」
(゚、゚トソン「ああ、いえ、まあ」
トソンはなんと返せばいいかわからなかった。
ブーンとツンのことは確かに驚いたといえば驚いた。
リアクションも大いに取った。
だけれど、トソンはここにくるまでにも、十分に驚くことに遭遇していたため、少しだけ体制がつきかけていた。
- 120 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:31:17 ID:38SxqkVM0
今はここにいないモララーの言う通り、ここは夢なのだ。
何かが起こる度に驚いていたらキリがないだろう。
とりあえず曖昧に頷き、トソンはティーカップを手に取った。
さっきも疑問に思っていたが、味を感じることは果たしてできるのだろうか?
鼻先までカップを持っていき、香りを嗅いでみる。
(゚、゚トソン(ん……?)
ふわりと香ったのは、今まで嗅いだことのない種類の香りだった。
これはなんの紅茶だろう?
ダージリンでもアールグレイでもなければ、その他の紅茶の香りにも似ていない。
もしかしたら目の前の女性のオリジナルブレンドなのだろうか。
試しに、一口だけ口に含んでみる。
(゚、゚トソン(……んー?)
- 121 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:34:09 ID:38SxqkVM0
味は確かにちゃんとした。
これで、最初の疑問は解決したのだが。
トソンは首を傾げて紅茶を見た。
いや、これは紅茶と言っていいのだろうか。
今まで飲んだことのない味は、トソンの知っている紅茶のどの味にも当てはまらなかった。
といっても、トソンがそんなにたくさんの紅茶の味を知っている訳でもないけれど。
それでも、この味は紅茶ではないとは思った。
なんと表現すればいいかわからないが、とりあえずこれだけは言える。
(゚、゚*トソン(すごく美味しい)
次いで、トソンは食卓中央の山盛りのクッキーに手を伸ばした。
一つだけ手に取り、端をかじって紅茶(のようなもの)を啜る。
(゚、゚*トソン(おお〜……!)
- 122 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:37:08 ID:38SxqkVM0
- _
( ゚∀゚)「美味いか」
(゚、゚*トソン「はい、とっても!」
_
( *゚∀゚)「だろだろ? これ全部ペニサスさんが作ったんだぜ……!」
(゚、゚トソン「ペニサスさん?」
('、`*川「そういえばまだ自己紹介してなかったわね。
ツンちゃんやブーンくんもまだじゃない?」
( ^ω^)「お、そうだったお。僕としたことがすっかり忘れてたお」
ξ*゚听)ξ゛モグモグコクコク
_
( ゚∀゚)「そういや、俺もまともに名乗ってなかったな」
女性の言葉に、その場にいた皆はいったん食べるのをやめた。
- 123 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:40:01 ID:38SxqkVM0
(゚、゚トソン「えっと、私は都村トソンといいます」
(゚、゚;トソン「突然ここにやってきてしまって、右も左もわからない状態なんですが…」
('、`*川「ああ、気にしないで。最初のうちは皆そんなものだから」
_
( ゚∀゚)「じゃあ改めて、まずは俺から。
俺の名前はジョルジュ……つっても、もう知ってるよな」
_
( ゚∀゚)「『運び屋』ていう配達の仕事をしてる。ちなみに荷物担当だ。
新入りの夢遊者をここまで連れてくるのも俺の役目だ」
('、`*川「ペニサスよ。
ここではみんなのご飯係と、時々怪我しちゃう子の手当なんかをしてるの」
('、`*川「クッキーと紅茶、気に入って貰えて良かったわ」
(゚、゚トソン(あ、これやっぱり紅茶なのか……)
- 124 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:43:24 ID:38SxqkVM0
自己紹介の終わったジョルジュが再びお菓子に手を伸ばす。
それを見てトソンも、もう一口紅茶(らしい飲み物)を飲んだ。
作った本人であるペニサスが紅茶と言っているのだから、やはりこれは紅茶なのだろう。
正直得体が知れないが、味は申し分ないので、その辺は今は黙っておく。
ξ*゚听)ξ モグモグ…ゴクン
ξ*--)ξ フゥ…
ξ゚听)ξ「私はツン。一応この都市のリーダーみたいなことしてるわ」
次に自己紹介をしたのは、お菓子を食べてやっと機嫌が直ったらしい、
先の阿修羅のような顔をしていた超美少女のツンだ。
ツンは、すっかり怒気が抜けたために、素の表情でトソンに微笑みかけた。
ξ゚ー゚)ξ「何か困ったことがあったらことがあったら、遠慮なく言ってね」
(゚、゚*トソン「あ……はい、よろしくお願いします」
- 125 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:46:02 ID:38SxqkVM0
彼女が笑えば、柔らかいツインテールがしゃらんと揺れる。
意志の強そうな碧い瞳は細められ、優しい視線がなんだか気持ちがよかった。
先程の阿修羅の顔とのギャップも相まって、彼女の笑顔はとても綺麗だった。
そして、歳はトソンと変わりないように見えるのに、何だか頼りになりそうな雰囲気。
最初にこの都市のリーダーと聞いたときは少し以外だった――どちらかというと、大人の女性である
ペニサスさんの方がリーダーっぽいと思ったのだ――が、この感じなら確かに頷ける。
ツンの微笑みに少し惚けてしまっていたトソンの肩をつついたのは、
隣でお菓子のお預けを食らっていたブーン。
( ^ω^)「ツンに見惚れてるところ悪いけど、自己紹介するお」
(゚、゚;トソン「はっ…あ、すこません」
( ^ω^)「僕はツンの補佐みたいなことと、
新入り夢遊者さんの都市案内をしているブーンだお」
- 126 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:49:11 ID:38SxqkVM0
ブーンはぽっちゃりと丸い顔で、ニコニコと人当たりのいい笑みを浮かべながらよろしくと言った。
弓なりになった目の奥の瞳は、どこか不思議な色に輝いていて、
誰だったか忘れたが、最近見た誰かを思わせる気がする。
( ^ω^)「わからないこととかは僕に聞いてくれれば何でも答えるお」
(゚、゚トソン「あ、モララーさんの言ってた案内屋って」
( ^ω^)「そうそう、それ、僕のこと」
( ^ω^)「…ん? モララーにはもう会ってるのかお?」
_
( ゚∀゚)「お嬢ちゃんと最初に会ったのはモララーだぞ」
( ^ω^)「おっ、そうだったのかお。で、そのモララーは?」
_
( ゚∀゚)「最初は一緒にこっちに向かってたんだけどな。あいつは片付けのために途中で別れたんだ」
_
( ゚∀゚)「今頃はもう片付け終えてドクオと一緒にこっちに向かってんじゃねぇかな」
- 127 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:51:38 ID:38SxqkVM0
(゚、゚トソン(片付け……)
“片付け”とはいったいなんだろう。
この単語はモララーと出合った時にも彼が言っていた。
モララーとはあの異国風の街で別れたきりだが、
あの時ジョルジュも確かに、モララーは“片付け”をしにいったと言っていた。
何だか、この夢の中にやってきてから、知らない単語がどんどん出てきている気がする。
それも、現実では聞きそうもない妙な言葉ばかりだ。
“片付け”は言葉自体は聞く事はあるが、恐らく使われ方が現実とは異なるのだろう。
現実で聞く言葉のニュアンスとは少し違った意味を彼らの会話の中でトソンは感じていた。
あと、ドクオとは誰だろう。
ξ゚听)ξ「あら、片付け対象ドクオのなの?」
_
( ゚∀゚)「おう、あれはどう見てもドクオのだった。なんか人数増えてるように見えたけどな」
ξ゚听)ξ「そう……また現実の方で何かあったのね。ちょっと悪いことしちゃたかなあ」
- 128 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:54:07 ID:38SxqkVM0
('、`*川「ツンちゃん、ドクオくんと何かあったの?」
ξ゚听)ξ「うん…前にドクオが見つけてきてくれた香水の香りが好みだったから、
また探してきて欲しいってこないだ言ったの」
( ^ω^)「あの好い匂いの、ドクオが見つけたのかお」
ξ゚听)ξ「場所はパレードの街?」
_
( ゚∀゚)「おう、パレードは今回はやってなかったけどな。だから思いっきり爆走してやった」
ξ゚听)ξ「あーじゃあやっぱり香水探しに行ってくれてたんだわ。
あいつがここに来たら謝らなくっちゃ」
(゚、゚トソン「あの」
( ^ω^)「なんだお?」
(゚、゚トソン「ドクオさんというのは」
( ^ω^)「あー、あいつはまた会った時に紹介するお。
それよりもまずはこの都市についてのことを説明しなきゃならんのだけど…」
- 129 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 18:57:21 ID:38SxqkVM0
ξ゚听)ξ「じゃあすればいいじゃない、何渋ってんの?」
( ^ω^)「んー、先にモララーに会ったの考えると」
('、`;川「ああ、彼たまに新入りさんにあることないこと吹き込むものね」
( ^ω^)「クーなんか最初の頃はそれのせいで勘違いが酷かったお……」
ξ゚听)ξ「ハインも少しだけ洗礼受けてたわね」
_
( ゚∀゚)「ああ、お化けアパート『ラウンジ』な」
('、`*川「それ懐かしいわねえ」
ξ゚听)ξ「確かにお化けアパートは別にあるんだけどね」
( ^ω^)「ハイン、嘘だって知るまでビクビクしながらここを出入りしてたおね」
( ^ω^)「ま、そういうわけで、新入りが最初の頃にモララーと二人っきりの時間が長かった場合、
この都市について嘘八百言われることがあるんだお」
( ^ω^)「トソンはどうだお? モララーから何か聞いたかお?」
- 130 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 19:00:10 ID:38SxqkVM0
(゚、゚;トソン「あー……」
トソンはブーン言われ、すぐに今までのモララーとの会話を思い出した。
モララーに言われたことは、今までトソンが認識していた夢の中の常識からは、
俄かには信じられないことが多かったのは確かだ。
でも、それらは、すぐにこの夢の中では本当だとわかった。
だから強いて嘘っぽいことがあると言えば、ジョルジュとの吐く吐かないという会話くらいだろう。
トソンは凄く吐きたかったが、結局吐くことはできなかった。
ブーンにそれを伝えれば、それじゃあ大丈夫だと安心したようだった。
( ^ω^)「それじゃあまずはこの付近を簡単に散策しながら説明しようと思――」
「たっだいまー!」
噂をすればなんとやら。
ブーンの言葉を遮ってアパート中に響いたのは、先程別れてからしばらく聞いていなかった声。
- 131 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 19:01:15 ID:38SxqkVM0
( ・∀・)「おお、皆お集まりのようで。ほらドクオ、ペニサスさんのお菓子の香りがするよ」
(!i'A`)「…………うぇっ」
( ・∀・)「こらこら、『うぇっ』はないだろ。ペニサスさんに失礼じゃないか」
(!i'A`)「いや…これお前のせいだから……なんだよあれ…足長過ぎ…気持ち悪過ぎ…」
( ・∀・)「君もジョルジュと同じこというのか。あと僕の上では絶対吐くなよ」
_
( ゚∀゚)「何度も言うけど、夢の中で吐くとかねーから!」
トソンたちが入ってきたトタン塀にある入り口。
そこから入ってきたのは、貧相な体格の青年を背負ったモララーだった。
モララーは二階の食卓に人が集まっているのを見つけると、貧相な青年を背負ったまま、
左の階段を使ってこちらへとやって来た。
恐らく、あれがドクオという人物なのだろう。
トソンはモララーに背負われている、顔色の悪い青年を見て、そう思った。
その予想通り、階段を登っている最中にモララーは青年のことをドクオと呼んでいた。
- 132 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 19:04:04 ID:38SxqkVM0
周りの人々は、モララーの背中でぐったりしているドクオを見ると、皆一様に心配そうな顔をする。
('、`;川「どうしたの? ドクオくん、大丈夫?」
ξ;゚听)ξ「ま…まさか“悪夢”にどこか喰われたんじゃ…」
( ・∀・)「いや、その心配は全くないよ」
( ^ω^)「じゃあどうしてそんな具合悪そうなんだお?」
( ・∀・)「ああ、それは……」
(!i'A`)「モララ…の足…長……キモ…チ悪………うぇっ」
_
( ゚∀゚)「な、ドクオもやっぱり気持ち悪いと思うよな!」
(!i'A`)「うぇっ」
(゚、゚;トソン(ああ、把握)
- 133 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 19:07:02 ID:38SxqkVM0
('、`*川「あら、ちょっと両膝小僧と両肘と顎擦り剥いてるじゃない!」
('、`*川「モララーくん、ドクオくんそこの椅子に下ろして。今消毒液持ってくるから」
( ・∀・)「はいはい」
( ・∀・)「……で、トソン」
(゚、゚トソン「はい?」
モララーは背負っていたドクオをぽすんと軽く、椅子の一つに座らせると、
自分は立ったまま食卓の上のベリータルトに手を伸ばしつつ、トソンを見た。
不思議な色合いをした瞳が、トタンの屋根の穴から漏れる陽に、キラリと光る。
( ・∀・)「僕と別れて結構時間経つけど、都市の案内とかはもう終わったのかい?」
(゚、゚トソン「あ、それならさっきちょうど行くところだったんですけど」
( ^ω^)「モララーたちが帰ってきて話が中断されたんだお」
( ・∀・)「そりゃ悪かったね。でも良かったや、僕が帰ってくる前に終わってなくて」
- 134 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 19:10:07 ID:38SxqkVM0
もごもごと、言葉の合間にベリータルトを頬張っては飲み込む。
なんとも器用な行為だ。
というよりも、トソンには何だかモララーの口の動きが何だか霞んでよく見えなかった。
これも、モララー曰くの「夢だから」なのだろうか。なのだろう。
( ・∀・)「だって折角僕が見つけた新入りに僕が構えないなんて詰まんないもんね」
(;^ω^)「構うのはいいけど、あんまり変なことは吹き込んだりしないで欲しいお」
( ・∀・)「ええ? 僕がいつ誰に変なこと吹き込んだっていうのさ」
ξ゚听)ξ「よく言うわ、全く」
モララーは、本当に何を言われているのかわからない、と言った様子で、首をかしげている。
本人はもしかしたら自覚がないのかもしれない。
もしかしたら、わざとそうしているのかもしれない。
どっちにしろ、トソンは最初にモララーに抱いた印象が、この夢の中でガラガラと崩れて行くのを感じていた。
まあ、もともとそんなに期待していたわけでもないから、別段ショックはないが。
- 135 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 19:11:20 ID:38SxqkVM0
( ^ω^)「まあ、そんなわけでさっきトソンに話してたドクオも来たんだし」
( ^ω^)「ほら、ドクオ、新入りさんのトソンだお、自己紹介自己紹介」
(!i'A`)「お……おぅ…」
ドクオは頭をぐらぐらと揺らしながらも、何とかブーンの言葉に頷く。
どうやら相当辛いらしい。
彼がモララーに背負われてきたことを考えれば、トソンには痛いくらいその気持ちがよくわかった。
きっとモララーの背中の上は、がくがくと上下に揺れて非常に居心地が悪かっただろう。
加えて、恐らくモララーはあの長い足の状態だったことは間違いない。
それで気持ち悪くならないはずがない。
トソンはドクオに同情すると、彼の血色の悪い手をそっと取った。
(゚、゚トソン「初めまして、都村トソンといいます」
(!i'A`)「俺……ドクオ」
(゚、゚トソン「ドクオさんのお気持ち、すごくよくわかります」
- 136 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 19:13:02 ID:38SxqkVM0
(!i'A`)「おぉ…おう」
(゚、゚トソン「今はまだ気分が優れないかもしれませんが、終わらない気持ち悪さはありません!」
(!i'A`)「……」
(゚、゚*トソン「またきっとすぐに元気になれますよ! 私がついてます!」
('A`)
(*'A`)(……かわいい)
(*'A`)「あ、あの」
(゚、゚トソン「はい、なんですか?」
(*'A`)「俺、調達屋っつって…この都市探索して見つけたものを…それが必要な奴に渡すっていう仕事してて……」
(゚、゚トソン「はい」
- 137 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 19:19:08 ID:38SxqkVM0
(*'A`)「で…たまに、頼まれたものを探しにいくっていうのも…やってるんだけど……」
(゚、゚トソン「はい」
(*'A`)「な、なんか必要なものがあったら…言って欲しいな……俺、探してくるから」
(゚、゚トソン「はい、よろしくお願いします、ドクオさん!」
(*'A`)「よ…よろしく……」
ドクオは照れくさそうに頭を掻くと、俯いてしまった。
もう少し、トソンは何か言おうかと思ったが、彼女が口を開くよりも先に、ブーンが二人の間に割ってはいる。
( ^ω^)「はい、じゃあお互い自己紹介も終わったところで。
トソン、これからこの都市のこと説明しながら、実際歩いて案内しようと思うお」
(゚、゚トソン(あ、そうだった。忘れてた)
本当なら、もう少し前にブーンの案内を受けていたはずだったのだ。
それが、いつの間にやらいろいろとずれてしまっていた。
もともと予定なんて合ってなきが如しだが、案内してもらう以上、彼に迷惑をかけるわけにはいかない。
- 138 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 19:21:07 ID:38SxqkVM0
ついて来てくれ、と手招きするいうブーンに、トソンはすぐに駆け寄ろうとした。
ところが、一歩踏み出したとたん、視界がガクッと傾き、思わず立ち止まる。
眩暈とはまたちがう、目の前の世界と自分が、グラグラと揺れる感覚に、トソンは目を白黒させた。
(゚、゚;トソン「あ……あれ?」
( ^ω^)「お、どうしたお?」
(゚、゚;トソン「なんか、地震? が……」
( ・∀・)「ブーン、あれだよ、時間切れ。ほら、今現実も多分」
( ^ω^)「お…」
(;^ω^)「おー、本当だお。皆でわいわいしてたらもうこんな時間だお」
(;^ω^)「時間切れなら仕方がないお。トソン、案内はまた今度ここにトソンが来たときにするお」
(゚、゚;トソン「は、え?」
突然辺りをきょろきょろ見回し、額に手をやって「しまったしまった…」と呟きだしたブーンに、
トソンは疑問の表情を浮かべつつ、どうやら己だけに起こっているらしい地震と戦っていた。
自分の頭が揺れているのか、自分の足元が揺れているのか全く判別できない感覚に、
また、あの夢酔いがぶり返す気がして、口元を押さえる。
- 139 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 19:23:02 ID:38SxqkVM0
食卓の周囲でお菓子を食べていたジョルジュ、ツンや、
ドクオの手当てをしていたペニサスもトソンの様子に気がつくと、
皆一様に残念そうな表情を浮かべて、口々に「じゃあ」「バイバイ」「またね」と言い出す。
トソンはいったい何が何だかわからず、縋るようにモララーの方を見れば、
彼は最初に出会ったときの別れ際の瞬間と同じ顔をして、こちらに掌を向けて、くいくいと指の先を曲げた。
( ・∀・)「じゃあね、トソン、また今度」
( ・∀・)「ちなみに今君はめちゃくちゃ揺れてると思うけど、それも慣れればなくなるからね!」
(゚、゚;トソン「え? モララ、さん、え? あ、れ、わ、ちょ、お――」
( 、 ;トソン「 ! 」
一回揺れるごとに、視界が白んでいく。
一回グラつくごとに、頭から思考が飛んで行く。
そうして、トソンは最終的に、真っ白に眩む世界に放り出された。
○ ○ ○
- 140 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 19:25:56 ID:38SxqkVM0
耳元で、激しい邦楽ロックが鳴り響く。
携帯のスピーカーから流れる音は、普通にイヤホンで聴くときよりも、
高温が耳を刺す様な響き方をしていて耳障りだった。
正直、あまり朝っぱらから聞きたくない音域だったが、
トソンの携帯には今、この曲しか彼女が起きれるアラーム曲はない。
布団の中から手を出し、目を瞑ったまま手探りで携帯を掴み、停止ボタンを押す。
ついでにスヌーズも解除してしまい、布団を体の上から跳ね除けた。
時刻は午後七時半。今から準備しても、十分に学校に間に合う時間だった。
が、しかし。
(゚、゚トソン
,_
(゚、゚;トソン「……う、ん」
,_
::( 、 ;トソン::(お腹……痛い…)
*
- 141 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 19:27:26 ID:38SxqkVM0
その日、トソンは腐ったものを摂取してしまったことによる腹痛で、
久々に仮病を使わずに学校を休むことになったのだった。
,_
::( 、 ;トソン::(もう絶対……)
,_
::(;、;トソン::(日向に置いといた牛乳は飲みません……!!)
第三話「アパートの夢」 おわり
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