( ・∀・) 夢都市のようです (゚、゚トソン

156 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 00:10:00 ID:tiBT7kFY0

【20XX年5月11日

 今回の夢は、なんとまたあの男の人に出会えた!
 ……といっても、実際話してみると想像していた人物像とは随分違っていたけれど。

 また、あの銀色と黒の駅から発車する電車の中で、男の人とは出会った。
 彼の名前はモララーというらしい。そして“片付け屋”という仕事をしているらしい。
 彼は“夢都市”という謎の都市に住んでいて、そこは外側から見たら万華鏡のように
 くるくると形や風景を変える都市だった。

 そこのある工場地帯のような場所の一角にあるアパートで、
 都市のリーダーであるツンさん、“案内屋”のブーンさん、
 美味しいお菓子を作るペニサスさん、“調達屋”のドクオさんと出会った。

157 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 00:13:04 ID:tiBT7kFY0

 そこまで連れて来てくれたのは、真っ黄っきのド派手な、爆音バイクに乗っている
 “運び屋”のジョルジュさん。
 途中までは、足が長ーく伸びたモララーさん(すごく、気持ち悪い)も一緒だった。

 モララーさんやブーンさんたちは、私のことを“新入り”と呼んでいた。
 あと、“ムユウシャ”(漢字はあるのだろうか)なんていう言葉も何度か聞いた。
 他にも、何だか今回の夢はいつも以上にわからないことだらけで。
 そのくせ無駄にリアルな夢だったから、何だか混乱しそうだった。

 今回の夢は、診断サイトは見ないことにする。
 だってどう考えてもどうやって項目に当てはめればいいか、わからないから。】


(゚、゚トソン パタン

(-、-トソン フー…

(゚、゚トソン(あの夢はなんだったんだろうか……)

158 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 00:16:10 ID:tiBT7kFY0






幻は、忘れていた宝物を、彩り照らしている。






  第四話「思い出とパレードの夢」





.

159 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 00:19:08 ID:tiBT7kFY0

午前診に行った結果、案の定、食あたりという診断結果を貰ったトソンは、今回ばかりは仕方なく、
担任に食あたりのために休みますという、久々に正当な理由で学校を休むことになった。

ぎゅるぎゅるとお腹を絞られているような感覚に腹を抱えてベッドに蹲り。
時にはトイレに篭って一時間くらい過ごしたり。
とりあえず、それはもうトソンは初めて体験する辛さだった。

やっと落ち着いてきたのは、次の日のことで。
処方された薬が効いたのか、もともとそんなに重い症状ではなかったのか。
とにかくトソンは、買ってきた牛乳の始末をしたのだった。

腹を壊した日は、“夢都市”の夢を見ることはなく、寧ろ何の夢も見なかった。
夢を見なかったなんてことは生まれて初めてだったため、
トソンはそれを腐った牛乳のせいだと決め付けて怨み節を呟く。

夢は、つまらない日常の中の数少ない楽しみの一つなのだ。

160 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 00:22:07 ID:tiBT7kFY0

(-、-!iトソン(あーもう絶対に腐った牛乳は飲まない……)

まだ時折しくしくと痛み出す腹を撫でさすり、リビングのソファーにごろんと横になる。

先日はすっかり寝込んでいたせいで、勉強もまともにすることが出来なかった。
一日のノルマを増やさなければ、今後もしかしたら学校側にカリキュラムが追い抜かれてしまうだろう。
折角、学校に行ったときに、周りに置いてけぼりを食らわぬように、こまめに勉強をしていたというのに。

先程書き終わって、ソファーの前のテーブルに置いていた“夢日記”を手に取り、ぱらぱらとページをめくる。
書き込んだばかりの一昨日見た夢。
そのページは、今まで記録してきたものの中でも一番長い文章で埋まっている。

なんたって、あんな夢を見たのは今回が初めてだったのだ。
そりゃ、書きたいことも多くなるに決まっている。

ちなみに言うと、今回は途中で頭の中で整理がつかなくなり、
そして書きつづけていたらそのまま延々と書き続けてしまうような気がしたから、渋々書くのをやめた。
だから、本当はもっと長くなるはずだったのだ。

161 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 00:25:32 ID:tiBT7kFY0

(゚、゚トソン(“夢都市”……)

(゚、゚トソン(“片付け屋”“ムユウシャ”……)

(゚、゚トソン(あ、そういえば誰かが“悪夢”が何とか言ってたような…)

ソファーに寝っころがったまま、気になる単語を指でなぞる。
このほかにももしかしたら聞き漏らした言葉もあるかもしれないし、
起きてすぐに忘れてしまった言葉もあるかもしれない。

(゚、゚トソン(でも……)

(゚、゚トソン(なんかこの夢は他の夢みたいに、あんまり霞がかからないんですよね)

くっきりと、気持ち悪いぐらい鮮明に思い出したのは、ペニサスさんの作ったお菓子たち。
他にも、ツンがベランダの手すりから飛んだ瞬間や、ドクオの照れた顔など。
普通の夢ならしばらくすれば忘れてしまいそうなことを、今回トソンは一日たった今でも、
きちんと目の前に思い浮かべることが出来た。

162 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 00:28:12 ID:tiBT7kFY0

バイクの振動と鼓膜を叩くエンジン音。
気分の悪さにトソンを励ますジョルジュの大声。
舞い上がる砂煙の匂いに、見た目の割に頑丈だったアパートの階段。
美味しかったクッキーと紅茶(のような飲み物)。
ドクオの血色の悪い冷たい手。

本当に、気持ち悪いくらい鮮明に、リアルに思い出せる。

(゚、゚トソン(……お昼ごはん作りますか)

仰向けの状態から、足で勢いを付けて起き上がり、台所へ入る。
何かめぼしい物はあっただろうかと冷蔵庫を開けた。

中に入っていたのは、中身がもう殆ど入っていないケチャップと、
空っぽのジャムの瓶、それから底に申し訳程度に残っているマーマレードだけだった。



  ○   ○   ○

163 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 00:31:15 ID:tiBT7kFY0

今日は久しぶりに食パン意外の物を食べようと、チンして食べられるタイプの白米を買ったトソンは、
少しだけうきうきした気分で帰路をトロトロ歩いていた。
相変わらず、平日のこの時間、この街の人気は殆どない。

帰ったら一緒に買った新商品のフリカケをかけて食べよう。
そのあとには、これまた新商品の林檎風味のプリンとやらもデザートに買った。

食べることに普段はそこまで執着していないトソンだったが、
“夢都市”の夢の中で見た、“ペニサスさんのお菓子”を思い出すと、
どうしても何か美味しいものが食べたくなったのだ。

(゚、゚*トソン(林檎風味プリン〜)

プリンといえば、そういえばツンはあの後新しいプリンを作ってもらえたのだろうか。

(゚、゚*トソン(ペニサスさんのお菓子美味しかったなあ)

今まで、夢の中で何かを食べたことは多々あった。
でも、こんな風に味を感じ、しかもその事をちゃんと、起きてからも覚えているのは初めてのことだった。
これからは意識さえすれば、他の夢でも食べ物の味を感じることが出来るのだろうか?

164 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 00:34:16 ID:tiBT7kFY0

(゚、゚トソン「あ」

食べたクッキーの味を思い出しながらトロトロ歩いていると、あの公園の前を通った。
時間はあの時よりも少し遅いが、あの男の子は今日も来ているだろうか。
気になったトソンは、公園の入り口から中を覗いた。

見えたのは、いつもの申し訳程度に置かれている遊具に、一つだけあるベンチ。
ベンチの上には今日は、ビロードはいなかった。

(゚、゚トソン(今日はちゃんと学校に行ってるんですかね)

人気のない公園は、何だか少しだけ寂しい。
そういえば、トソンも昔はここでよく遊んでいた覚えがある。
確か、あの頃は、まだここまで遊具は少なくなかった気がした。

165 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 00:37:31 ID:tiBT7kFY0

小さな公園に、ぎゅうぎゅうに詰まった遊具たちは、この地域の子供たちの大切な遊び場だった。
その中でもトソンが大好きだったのが、公園の中央にあった、回転する丸いジャングルジムだ。
最近、ネットを徘徊していて知ったのだが、あれにはグローブジャングルジムという名前がちゃんとあるらしい。
トソンは、あれに掴まって、吹っ飛ばされそうになるぐらいぐるぐる回るのが大好きだった。

それも親たちの「危ないから撤去して欲しい」という声によって消えてしまった。

今では、ここには鉄棒が大小一組と、滑り台だけ。
ちょっと前まではシーソーもあったはずだが、気がついたら消えてしまっていた。

(゚、゚トソン(懐かしいなあ)

雑草がところどころ伸びている地面を踏みしめ、公園の中に入る。
この前は、ビロードを気にしていたため、あまり見ていなかった。
ちょうど、グローブジャングルジムがあった場所に立つ。
小さい頃はここも、トソンにとってはそれなりに大きな公園だった。

(゚、゚トソン(もっかいあれで回れたらなあ…)

167 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 00:40:35 ID:tiBT7kFY0

足元にあった石を蹴飛ばし、滑り台に近寄る。
ここの滑り台は、丸いドーム型の石の建物の外側に、階段と滑る部分が着いているタイプになっている。
そして、中にはトンネルが通っていて、夏は皆その中に入り、太陽から逃げている風景がよく見られる。
トソンも、小さい頃はよくここに雨宿りなどをしていた。

しかし、そのトンネルは公園の入り口からは視覚になっている為、もしも不審者が隠れていても、
すぐには気が付けないかもしれない、という保護者の意見が上がっているらしい。
もしかしたら、この滑り台もそのうちここから消えてしまうのかもしれなかった。

(゚、゚トソン(あら)

滑り台の傍らで思い出にふけっていると、頬にぽつりと水があたり、トソンはふと空を見上げた。
直後、ぽつぽつと地面に黒い染みが現れ、ザアァと急激に雨が降って来る。

(゚、゚;トソン「うわっ」

慌てて、滑り台のトンネルの中に入り、雨を凌ぐ。
トンネルは子供にあった大きさのため、トソンはその場にしゃがみ込まなければならなかった。

168 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 00:43:28 ID:tiBT7kFY0

(゚、゚;トソン(あー、一瞬だけなのに髪の毛びっしょり……)

雨水の滴る前髪を、ポケットに入れていたハンカチで拭ぐう。
きっとにわか雨だろう。ここでしばらく待てばきっと止む。
再び、懐かしい気持ちになりながらトンネルの陰から空を眺めていると、背後で人の気配がした。
誰だろうと思い、振り返る。

(゚、゚トソン「あ」

( 。><)「あ…」

(*‘ω‘ *)「ぽっ!」

トンネルの中にいたのは、白いあの猫を抱えたビロードだった。

(゚、゚トソン「奇遇ですね、ビロードくん」

169 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 00:45:15 ID:tiBT7kFY0

( つ<) グシグシ

( ><)「こ、こんにちわなんです…」

(゚、゚トソン「こんにちわ」

ビロードはトソンに気がつくと、ゴシゴシと袖で目元を擦ってから、小さく会釈した。
トソンは、それににっこりと笑って、ビロードの隣にしゃがむ。

(゚、゚トソン「雨ですねえ」

( ><)「雨なんです…」

トンネルは、こういう時の為に中に水がたまらないよう、中心が少し盛り上がり、
出入り口に向けて緩やかな傾斜がついている。
二人は、ちょうどその頂点、トンネルの真ん中でそれぞれ、両側の出入り口の外を見ていた。

170 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 00:47:06 ID:tiBT7kFY0

(゚、゚トソン「ビロードくん」

( ><)「なんですか?」

(゚、゚トソン「プリン食べます? 林檎風味の」

( ><)「いいんですか?」

(゚、゚トソン「どうせ雨が止むまでここ出られませんし」

(゚、゚トソン「腐ったら困りますから、一緒に食べましょ」

( *><)「…ありがとうなんです」

ビロードと二人、雨が止むまでトンネルの中にしゃがみ込んだまま、顔を見合わせ、微笑みあう。
コンビニ袋から出したプリンの蓋をぺりぺりと剥がせば、狭いトンネルの中には甘い香りが広がった。

171 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 00:50:25 ID:tiBT7kFY0

( *><)「わあ、良いにおいなんです」

(゚、゚トソン「スプーンは一本しかないんですけどいいですか?」

( *><)「大丈夫なんです」

(*‘ω‘ *)「ぽっぽっ」

( ><)「あっ、ぽっぽちゃんは食べちゃだめなんです」

(*‘ω‘ *)「ぽー」

プラスチックのスプーンで、薄黄色の柔らかいプリンを掬い、ぱくりと食べる。
ビロードは美味しそうに目を細めた。

雨はいったい何時になったら止むだろう。
今のところ、止む気配は一向にない。
ビロードから受け取ったスプーンで、一口プリンを食べながらトソンは、
これから暇つぶしになりそうな話題を探した。

172 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 00:52:38 ID:tiBT7kFY0

ふと、ビロードを見て、何故今日はベンチではなくトンネルの中にいるのだ、
という疑問が浮かんだが、それは、彼の頬に残っている涙のあとを見て飲み込む。

代わりに、トソンは“夢都市”の話をすることにした。

(゚、゚トソン「ビロードくん、聞いてくださいよ」

( ><)「なんですか?」

(゚、゚トソン「一昨日、面白い夢見たんですよ」

( ><)「聞きたいんです! どんな夢なんですか?」

ざあざあと雨の降る音を聞きながら、トソンはビロードに夢の話をした。



  ○   ○   ○

173 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 00:55:18 ID:tiBT7kFY0

電子レンジに入れた、チンして食べられるご飯がくるくると回る。
棚からフリカケを出し、割り箸をもって電子レンジの前に立ったトソンは、
レンジのオレンジ色の光に照らされ、くるくると回るご飯を見つめた。
きゅるきゅると空腹を訴えるお腹は、今ではすっかり好調だ。

誰も居ないリビングからは、家に独りしかいない静けさを消すために付けたテレビから、
アナウンサーの読み上げるニュースが聞こえる。

《意識不明者は未だ回復の兆しは見られず、原因の究明の……》

内容は、最近よく見聞きする話題だった。
けれど、特に世の中の事象に興味のないトソンは、すぐに音を聞き流した。
今は、己の空腹を満たすことだけで頭がいっぱいだ。

チン、と可愛らしい音をたてて、レンジの中の光が消える。
トソンは自分の脇にあるティッシュ箱から二枚取り出し、レンジの蓋を開けた。
四つ折にしたティッシュで、熱くなったご飯の容器の端を持ち、調理台に一回置く。
もう一度今度はもう少ししっかり容器を持ち、リビングまで早足で向かった。

174 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 00:57:19 ID:tiBT7kFY0

洗い物を(洗うのが面倒だから)極力減らすため、お茶碗は使わない。
ソファーの前のテーブルにご飯を置き、トソンはその上にフリカケをかけた。
久々の、食パン以外のご飯である。

(゚、゚*トソン(はー、やっぱり米はいいですね)

(゚、゚*トソン(また買ってこようかなー)

ニュース番組はいつの間にか終わり、テレビは料理番組に変わっていた。
画面の中で、残り物でも美味しくできる、と銘打った料理を、
最近流行のまとめ売りアイドルグループのメンバーが作っているが、その様子は見ていて酷いものだった。

(゚、゚トソン(フライパンから零れてる零れてる)

(゚、゚トソン(えっ、そんなにお塩入れちゃうんですか)

(゚、゚トソン(うわあ……)

(゚、゚トソン

(゚、゚トソン(まあ、私も人のこと言えないんですけどね)

料理に挑戦しているだけ、まだマシなのかもしれない。

175 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:00:12 ID:tiBT7kFY0

食べ終わり、空になったご飯の容器をビニール袋に詰め、燃えないゴミに捨てる。
割り箸は半分に折り、チラシに包んで捨てた。
ついでに、だんだん聞いてて五月蝿く感じてきたテレビも消す。
すると、トソンにはもう特にやることがなくなってしまった。

(゚、゚トソン(……暇)

(゚、゚トソン(勉強も今日の分は終わっちゃいましたし)

(゚、゚トソン(ちょっと早いですけど、今日はもう寝ましょうか)

さっさと風呂に入り、ベッドの中に潜る。
枕に顔を埋めたときに思い出したのは、昼間にビロードとした会話だった。

“夢都市”の話を聞いたビロードは、最初驚いた様子でしばらくトソンを見ていた。
変な話をしたせいで戸惑ってしまったのかとトソンは思ったが、
ビロードはすぐに笑顔になり、瞳を輝かせて「面白いんです!」と言ってくれた。

それから、ビロードは少しだけ考えるそぶりを見せると、
“夢都市”には図書館はあるのかと聞いてきた。
結局、都市の中を案内して貰い損ねたトソンには、図書館があるかわからない。
そして、次もまた都市の夢を見ることができるかもわからなかった。

176 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:01:09 ID:tiBT7kFY0

だから、トソンはビロードに首を横に振った。
この返答に、てっきりビロードは残念がるだろうとトソンは思ったが、
予想とは逆に、ビロードは嬉しそうな顔でトソンのほうに身を乗り出し、こう言った。


   「つぎ、“夢都市”に行ったときは必ず図書館に行ってほしいんです!」


そして、慌てて付け加えるように。


   「あ、えっと、その……もしも図書館があったら、どんなところだったか教えてほしいんです」

   「僕、本と図書館が大好きだから……」


手に持っていた本を胸に抱きしめ、片手で猫を撫でるビロードは、嘘を吐いているようには見えなかった。
でも、何故かトソンはあの時の彼に少しだけ違和感を感じたのだ。

177 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:01:50 ID:tiBT7kFY0

(-、-トソン(…………)

(-、-トソン(図書館、か)

(-、-トソン(またあの夢、見れますか…ね……)

(-、-トソン




(-、-トソン







  ○   ○   ○

178 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:03:19 ID:tiBT7kFY0

どんどんと階段を下りていく。ここはいったいどこの階段なのだろう?
暗いのか明るいのかよくわからないその場所は、ビルでよく見かけるタイプの階段に似ていた。
自分がどの辺りから階段を下りているのかはわからない。何で階段を下りているのかもわかっていない。
今、トソンはとにかく階段を下りることしか考えていなかった。

このまま下り続けていれば、きっといつかどこかへ出るだろう。そこへたどり着くまで、ただ只管下り続ける。
階段の壁には、ところどころ壁を四角くくりぬいて作った窓があり、そこから光が漏れている。
でも、窓の外の景色は見ることが出来ない。見ようとも思わなかった。

足音は聞こえない。自分以外誰かがいる気配もない。こういう夢は珍しくなかった。
夢は何時だってなんだってありえる。夢の中で起こらないことなんてない。
音のない世界だってあれば、自分以外誰もいない世界だってあるのだ。
こうして、階段だけが続く世界だって。

179 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:05:01 ID:tiBT7kFY0

この夢を見たのはこれで五回目だった気がする。
今までの四回の中で、トソンが階段の一番下にたどり着いたことはなかった。
いつも、途中で目覚めてしまうのだ。
今回こそは、一番下までたどり着いてやろうと意気込み、トソンは必死に足を動かし続けた。

足の裏が、階段の一段一段にきちんとついている感覚はない。
階段の手すりに手を置き、それを支えにして、滑るように階段を駆け下りる。
その速度は常に一定。早くなることも遅くなることもない。
途中、踊り場に来たときだけ、足の裏に床の存在を感じた。

ふわりと浮く感覚。次に斜面を滑る感覚。そして踊り場の床を踏みしめ、手すりに体重をかけ方向転換。
くるんと次の階段の前に足を持って行き、再びふわりと浮く感覚。
ちらちらと視界に移る、四角い窓から漏れる真っ白な光。

同じことを繰り返していると、夢の中ならトソンはいつもだんだん楽しくなってくる。
このまま、ずっと階段を下り続けて行ける気がする。
けれど、そんな楽しい時間も長くは続かなかった。

突然、トソンは足の裏にはっきりと、階段の段の存在を感じたのだ。
今まで、滑るように階段を駆け下りていた体は、少しだけ重くなり、
踊り場からふわりと飛び出す感覚もなくなる。

そしてトソンの目の前に現れたのは、木で作られた、古い扉だった。

180 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:07:12 ID:tiBT7kFY0

トソンはすぐに、今自分が居る場所は、階段の一番下なのだと気がついた。
今まで一度もたどり着くことの出来なかった一番下。
この先にはもう階段はない。あるのは、古い木の扉だけ。

体の中に、緊張が生まれる。
階段の手すりから手を離し、トソンはゆっくりと扉に近づいた。
どこかで一度見たことのあるようなその扉は、少し薄汚れていて、あちこちに傷がある。
ドアノブは丸く、真鍮で出来ていた。

そっと、手を伸ばしドアノブに触れる。冷やりとした手触りは、トソンの心臓の鼓動を早めた。
ここから先、扉を開ければきっとトソンの見たことのない夢が広がっているのだ。
いや、もしかしたら既に一度見たことのある夢に繋がっているのかもしれない。
どちらにしろ、自分はこれから、この階段を使って、一度もたどり着くことが出来なかった場所へ行く。

しっかりと握った、真鍮のドアノブをゆっくり回す。
ガチャリ、と音がするのを確認し、ぐっと扉を押した。
扉は、軋んだ音をたてて開く。扉の向うからは、少し埃っぽい匂いがした。

181 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:08:47 ID:tiBT7kFY0

トソンは、自分の足元を見たまま、扉を開け放す。
そして、おずおずと顔を上げ、扉の向うの景色を見る。
果たして、トソンがその目で見た景色とは――




( *^ω^)


ξ*゚听)ξ




(゚、゚トソン




(゚、゚;トソン(……お?)

182 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:10:48 ID:tiBT7kFY0


( *^ω^)「おー、ツン良い匂いだおー」

( *^ω^)「ドクオが持ってきた香水っていうのがなんか気に食わないけど良い匂いだおー」

( *^ω^)「ツンにぴったりだお!」

ξ*゚听)ξ「べ、別にあんたを喜ばせようと思ってつけてるわけじゃないんだからね!」


カップケーキがいっぱい盛ってあるバスケットを前に、ベタベタといちゃついている男女だった。


(゚、゚トソン(……え)

(゚、゚トソン(ここはもしや……)

183 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:12:37 ID:tiBT7kFY0

トソンの目の前に広がるのは、コの字型のおんぼろアパート。
アパートを覆うようなトタンの屋根の穴から漏れる光。
左に見えるのは、二階のベランダにある大きな食卓と、いちゃついているぽっちゃりブーンと美少女ツン。
右に見えるのは、トタンの壁と、内側にだけ取っ手がついているトタンの扉。

ここは、つい最近見たばかりの、まるで自分が他人の家に上がりこんだような気分になる夢。
“夢都市”の中にある、皆が住んでいるあのアパートだった。

(゚、゚トソン「え、あ、うーん……」

(゚、゚;トソン「あ、あのぅ……」

ここは確かに“夢都市”だ。どこをどう見ても、この前のアパートと同じだ。
その証拠に、今トソンは少なからず、また気分が悪くなっている。夢酔いだ。
なら、目の前の二人に声をかけるべきなのだが、トソンは少し声をかけるのを躊躇ってしまった。

184 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:14:27 ID:tiBT7kFY0


  イチャイチャξ*゚听)ξ(^ω^* )イチャイチャ



(゚、゚;トソン

なんというか、あんな風に二人だけの世界を作られてると、間に入りにくい……かなり、入りづらい。
もしも今彼らの邪魔をすれば、間違いなく気まずい空気を作ってしまうような気がしてならなかった。
あまり人付き合いが得意でないトソンにとって、それはあまり陥りたくない状況だ。
それは例え夢だとしても同じ。

幸い、どうやら彼らもこちらには気がついていないようだし、トソンはとりあえず今は二人には声をかけずに、
他にも誰かアパート内にいないか探すことにした。
二人に気がつかれないように、そっと今自分が出てきた扉を閉じる。

185 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:16:19 ID:tiBT7kFY0

閉じた扉の目線の高さにあるプレートには、【黒25り△】と刻印がされていた。
どうやらそれは、このアパートの二階にある一室の扉だったらしい。
隣にも、閉じた扉と同じ、けれど違う刻印のプレートがついた扉が並んでいる。
通りで見たことがあるわけだった。

試しに、一度閉じた扉をもう一度、そっと隙間を覗いて中を見てみる。
その向こうはもう階段ではなく、真っ暗でなにも見えない闇だった。

足音をたてないように、トソンは静かにアパートの廊下を歩く。
一歩歩くごとに、夢酔いのせいで目の前が揺れたが、何とか堪える。
そして、この前ブーンたちが飛び出してきた黒い通路の前にやってくると、足を止めた。
すぐ隣では、ブーンが何かしたのか、顔を真っ赤にしたツンに殴られている。

黒い通路は、四方の壁が真っ黒に塗られた、トンネルのようなものだった。
どこか、現実の近所のあの公園の滑り台のトンネルを思い出させる様子に、思わず足を踏み入れる。
距離はあまりなく、数歩歩いただけで向こう側についてしまった。

(゚、゚トソン(あ…)

186 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:18:10 ID:tiBT7kFY0

(゚、゚トソン(コの字型じゃなくて、H型だった……)

通路の向こう側にあったのは、ほぼ反対側と同じ形のアパートだった。
違うところは、こっち側にはベランダと食卓がないというところと。
それから。

(゚、゚トソン(公園がある)

反対側のアパートの、何もなかったこの前ツンが暴れていた空き地の部分にあたる、中庭のような場所。
そこには、こぢんまりとした小さな公園があった。
ブランコ、二対のシーソー、小さな砂場、滑り台、そして――グローブジャングルジム。

(゚、゚*トソン(わあっ、回るジャングルジムあるじゃないですか!)

公園の真ん中には、カラフルなグローブジャングルがゆっくりくるくると回っていた。
トソンは、すぐにアパートの階段を下りると、それに駆け寄り、飛びつく。
すると、ジャングルジムは誰も回していないというのに、勢いよく回り始めた。

187 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:20:03 ID:tiBT7kFY0

(゚、゚*トソン「うわー!」

ぐるんぐるんと回るジャングルジムに、トソンは昔に戻ったような気持ちになった。
視界が、世界が勢いよく回り、景色が混ざりあい、きらきらとはじける。
子供の頃は、この混ざりあう景色と、体にかかる力が好きで好きでたまらなかった。

体にかかる力は、夢の中だからか感じることはなかったし、
現実では景色がこんな風に光り輝いたりすることはなかったけれど。
それでもこれは、子供の頃の思い出を鮮明に思い出すには十分だった。

夢酔いのことも忘れ、トソンはぐるぐると回り続けた。

(>、<*トソン「わああー!」


「あれ、いつのまにか公園が出来てるじゃないか」


(((゚、゚;トソン))「うおっ」

188 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:22:08 ID:tiBT7kFY0

がくん、と声が聞こえるのと同時に、突然ジャングルジムの回転が止まり、
トソンは慌てて勢いに投げ飛ばされぬよう、足を地面につけた。
ジャングルジムから手を離すと、それは再び、ゆっくりと自転を始める。

せっかく楽しんでいたのを邪魔されたトソンは、邪魔をした人物――モララーの方を見ると、
普段感情は受け流している彼女にしては珍しく、不機嫌なのをあらわにして不満を口にした。
  ,_
(゚、゚トソン「何するんですか、モララーさん。せっかく人が楽しんでるところを…」

( ・∀・)「やあトソン、来てたんなら向うでいちゃついてる二人に言えば良かったのに」
  ,_
(゚、゚トソン「人の話聞いてます?」

( ・∀・)「聞いてる聞いてる」

( ・∀・)「いやあ、何だかこっちから人の声が聞こえるなあと思ったら、見たことのない公園が出現していて」

( ・∀・)「その上君がぐるんぐるん回って叫んでるもんだからびっくりしちゃって、つい」

189 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:24:20 ID:tiBT7kFY0

(゚、゚トソン「見たことない公園って……これ、前からあるものではないんですか?」

( ・∀・)「うん、前は向こう側と同じで何もなかったよ」

( ・∀・)「……ああ、そういえばまだ案内が済んでなかったんだっけ」

( ・∀・)「ちょうど良かった。ブーンは向うに居るんだし、二人で水でも差しに行こう」

( ・∀・)「ほらおいで、トソン」

(゚、゚;トソン「え、水でも差すって……あ、待ってください」

楽しんでいるところを邪魔されたことに関しては、まだ文句を言いたい気分だった。
けれど、案内をしてもらわなければならないのは事実だ。
また後で来れたら来ればいいと、名残惜しい気持ちを押し込め、
トソンはモララーと公園から離れ、階段を登る。

途中、回っている間は忘れていた夢酔いが再びやってきて、
それに気がついたモララーにあの薬を貰い、二人は向こう側へと戻った。

190 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:26:09 ID:tiBT7kFY0

ベランダの食卓では、まだブーンとツンがいちゃついていた。

( *^ω^)「ツンの髪の毛はいつも綺麗だおー」

ξ*゚听)ξ「あ、あんたに言われなくてもそんなことわかってるわよ!」

ξ*゚听)ξっ「それよりほら、ブーンもカップケーキ食べなさいよ」

( *^ω^)っ「ありがとうだお!」

( ・∀・)「そこのお二人さん、乳繰り合ってるところ悪いんだけど、トソンが来てるよー」

ξ゚听)ξ ヒョイパク

(;^ω^)「あっ」

ξ゚〜゚)ξ ムグムグゴクン

ξ゚听)ξ「え、トソン? わーっ、いらっしゃい!」

(;^ω^)

191 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:27:12 ID:tiBT7kFY0

いちゃついていた二人のうち、ツンの方はモララーに声をかけられると、すぐにぱっとブーンから離れ、
彼に渡そうとしていたカップケーキを自分の口に放り、飲み込んだ。
あまりの変わり身の早さに、目前でカップケーキを引っ込められたブーンはしばらく固まっていたが、
すぐに彼もトソンに気がつくと、嬉しそうに笑顔で迎えてくれた。

( ^ω^)「おー! トソンおかえりだお!」

(゚、゚トソン(おかえり…?)

(゚、゚トソン「あ、この間はごめんなさい、まともに挨拶できずに…」

( ^ω^)「いやいやそんなこといいんだお、新入りさんにはよくある事なんだお」

(゚、゚トソン「そうなんですか」

192 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:28:11 ID:tiBT7kFY0

( ^ω^)「まだまだここでの感覚とかに慣れてないからだお」

ξ゚听)ξ「慣れればトソンも、そのうち自分が目覚めるタイミングがわかるようになるわよ」

(゚、゚トソン「へぇ〜」

( ^ω^)「それよりまた会えてよかったお、じゃあ早速ここを案内するお!」

ブーンはそういうと、食卓の上のカップケーキの入ったバスケットから一つ掴み、口に放り込んで席を立った。



  ○   ○   ○

193 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:30:01 ID:tiBT7kFY0

人は誰でも、生きている中で「疲れた」と思う瞬間がある。
己の思い通りにならない自分に嫌気が差し、無気力な気分になることがある。
自分には出来ないことを夢に見て、想像や空想、妄想の世界を広げる。
昔の自分に思いを馳せ、戻りたいと願う時がある。

現実に疲れ、嫌になり、逃げたいと、どこか現実とは違う所に行ってしまいたいと考える時がある。

ブーン曰く、“夢都市”はそんな人々が眠りの中で見つけた、避難所のような場所だそうだ。

(゚、゚トソン(現実からの避難所……)

( ^ω^)「ここにはいろんな人がいろんな理由で住んでいるんだお」

( ^ω^)「皆が皆、ここで現実での疲れを癒し、失望や絶望を希望に変えているんだお」

(゚、゚トソン「へぇ……」

194 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:32:02 ID:tiBT7kFY0

( ・∀・)「そんな風にいうと、なんか聞こえがいいねぇ」ボソッ

( ^ω^)「なんか言ったかお?」

( ・∀・)「いんや、続けて」

(゚、゚トソン(つまり、ここに居る人たちは皆、ただの夢の存在ではなく、現実にもいる)

(゚、゚トソン(という“設定”……? いや、でも確かに皆さんすごくリアルで……)

(゚、゚トソン(うーん……)

( ^ω^)「僕らは、僕らを含めたここに住む人々のことを“夢遊者”と呼んでいるお」

(゚、゚トソン「“ムユウシャ”…それってどういう意味ですか?」

ξ゚听)ξ「“夢”で“遊”ぶ“者”と書いて、まんま“夢遊者”よ。私たちは夢で遊んでるわけ」

( ^ω^)「ここで自分の思うように遊んでいるうちに、疲れを取るんだお」

195 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:34:11 ID:tiBT7kFY0

ゾロゾロと、四人で連れ立って、何もない工場地帯をトタン塀沿いに歩いていく。
前回この辺りを来たときは、爆走バイクに乗って激しい夢酔いに襲われていたため、
まともに景色を見ることが出来なかった。

今回落ち着いて、こうしてゆっくり歩いていて気がついたことが、一つある。
それは、無機質なコンクリートの建物ばかりが立ち並ぶその隙間に、
一本だけ淡い暖かい色合いをした、建物があるということだった。

灰色の群の中で、唯一色のついた建物は嫌に目立ち、思わず目で追いかけてしまう。
そんなトソンの視線に気がついたのか、ブーンとツンがあれがいったい何の建物なのか、説明してくれた。

( ^ω^)「あれはこの都市の中心にある“時計台”だお」

(゚、゚トソン「時計なんですか?」

ξ゚听)ξ「名前だけよ。実際はあれを見ても時間なんかわかんないわ」

ξ゚听)ξ「見た目が、どこぞの国の時計台っぽいっていう安直な理由から、皆にそう呼ばれてるだけよ」

196 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:36:02 ID:tiBT7kFY0

(゚、゚トソン「え、じゃああれって何の建物なんですか?」

ξ゚听)ξ「さあね、知らないわ」

( ^ω^)「たまに先端から何かキラキラしたものが出てくるけど、それも何かはわかってないんだお」

(゚、゚;トソン「ええー」

聞くところによると、“時計台”は“夢都市”が出来たころから都市の中心に立っていたらしい。
どこから見ても見ることが出来るくらい背の高い“時計台”は、今になってもその存在理由がわからないとか。
時折先端辺りから、吐き出されるように飛び出す、なにやらキラキラしたものは最早名物になっているという。

( ・∀・)「ま、ここは夢なんだ。意味のわからないものがあったって、なんら変じゃないさ」

(゚、゚トソン「そうですけど……」

まだわからない、調べていないといわれると、何だか自分で調べたくなってしまう。
普段現実で暮らしているときの無関心がまるで嘘みたいに、
トソンは自分の中で好奇心が膨らんでいるのに気がついていた。
随分と前に忘れていた気持ちが、都市の夢を見るようになってから、また蘇って行く。

197 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:38:11 ID:tiBT7kFY0

(゚、゚トソン

そんな中で、ふと、再びあの疑問が頭の中に浮かんだ。

(゚、゚トソン「……あの」

( ^ω^)「なんだお?」

(゚、゚トソン「こんなこと聞くのはなんか、変かもしれませんけど」

ξ゚听)ξ「何よ、言ってみなさいよ。遠慮しなくてもいいのよ」

(゚、゚トソン「前に一度、モララーさんに聞いて、答えてもらっていないことなんですけど」

( ・∀・)「ん?」

(゚、゚トソン「……ここは」

(゚、゚トソン「ここは、私の夢……ですか?」

198 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:40:16 ID:tiBT7kFY0

未だトソンは、ここが自分の夢なのかどうか判断しかねていた。
ブーンたちの話を聞く限りじゃ、ここがまるでたくさんの人が共有の夢のような口ぶりだ。
でも、まさか同じ夢をたくさんの人が見ているなんて、それも共有しているだなんて。

俄かには信じ難かった。
どれもこれも、自分の夢だと割り切ってしまいたい。
でも、どうしてもそうとは思わせてくれない感覚が、ここにはある。

やってくるたびに感じる、違和感や緊張感、落ち着かない感覚。
今まで見たことのない夢に、生き生きとした、リアルな住人たち。
体験しないとわからない、この感覚。

ここには、ここが自分の夢だと思わせてくれる要素は、あまりなかった。
たまに感じる親しみはあれど、それもほんの僅かな時間や、数で。

つい、現実と勘違いしてしまいそうな世界。
けれど、現実とは全く違う世界。


ここは、いったい――

199 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:42:19 ID:tiBT7kFY0


( ・∀・)「ここは」

トソンの問いに口を開いたのは、モララーだった。

( ・∀・)「ここは君の夢だよ」

(゚、゚;トソン

その言葉に、トソンは一瞬、まったく違う感情が体の中でぶつかる様な、妙な気分になった。
やっと答えてもらった言葉だというのに、胸の奥に生まれたのはやはり疑問。
納得したいはずなのに、納得できない。モララーの答えに、思わず「違う」と言ってしまいそうになる。

モララーは、トソンの様子を見てほくそ笑むと、言葉を続けた。

( ・∀・)「でも、それと同時に、ここはもう君だけの夢じゃない。
      君の夢はこの“夢都市”に受け入れられ、取り込まれ、一つになり、そして僕らの夢にもなったんだ。
      君が見る夢は、これから都市の一部になり、この世界を広げていく」

( ・∀・)「ほら、たとえば君がこの前乗ってきたあの電車とあの駅。それからさっきの公園だよ。
      この前までまではあの丘にはあんなものはなかったし、あそこにあんな公園はなかった。
      駅が君の夢なのは明確だし、公園の方も恐らく君の夢だ。だって君が一番最初に見つけたからね」

200 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:44:21 ID:tiBT7kFY0

( ・∀・)「ああして僕らの“夢都市”は発展して行く。誰か新入りがやってくるたびに都市の姿は少しずつ変わっていく。
      僕らの夢が溶け込み、都市は形を成していくんだ。
      だからここは、君の夢であり、僕らの夢なんだよ、トソン」

(゚、゚;トソン「………」

( ・∀・)「説明はこんなもんでいいかい、ブーン?」

(;^ω^)「えーっと、ずいぶんわかりにくかった気がしないでもないけど、まあ間違いではないお」

いっきに捲くし立てられてしまうと、頭の処理が追いつかなくなる。
それでもトソンは、何とかモララーにいわれたことを理解しようと必死になっていた。
夢酔いをぶり返しそうになりながら呻っていると、ツンがぽんっと肩を叩く。

ξ゚听)ξ「トソン、あんまり難しく考えてたら駄目よ、頭爆発しちゃうから。
      ここではあんまり深く考えず、とにかく楽しむことがコツなの」

(゚、゚;トソン「は、はあ……」

201 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:46:14 ID:tiBT7kFY0

ξ゚听)ξ「まあ、どうしても考えたいっていうなら、またあとでにしときなさい。
      もうすぐ面白いもの見れるから」

(゚、゚トソン「面白いもの?」

ξ゚听)ξσ「ほら、来たわ」

気がついてみれば、トソンたち四人はもう工場地帯ではなく、あの異国風の街の中を歩いていた。
いったいいつ、景色が変わったのかトソンは全く覚えていない。
まあ、こういうことにはもう既にトソンは慣れつつあったので、あまり気には留めず、
トソンはツンが指をさした方向を見た。

視界に入ったのは、なんの変哲もない、緩やかなカーブを描く、街道。
背の高い建物に挟まれた、人気のない石畳の道。
最初トソンは、いったいこの道のどこが面白いのかと思ったが、
そんな考えは、耳に入ってきた音楽にすぐに消えた。

チンドン屋が演奏するものに似た音楽が、道の曲がった先から聞こえてくる。
しばらくすると、それはだんだん騒がしく、にぎやかな音楽に変わり、辺りに響きだした。
音と一緒にまずやってきたのは、頭上から舞い落ちる紙吹雪。
だんだんと淡く輝き出す視界に、それはキラキラと陽の光を反射して映った。

202 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:48:36 ID:tiBT7kFY0

歩みを止めず、トソンたちは音がするほうに向かう。
そして、緩やかなカーブを曲がった先で出会ったのは、まさに“パレード”だった。

(゚、゚*トソン「わあ……」

( ・∀・)「おお、今日は何だか一段とにぎやかだね」

( ^ω^)「きっとトソンのことを歓迎してるんだお」

煌びやかな音楽を纏い、“パレード”はこちらに前進してくる。
先頭を行くのは、大きなティーポットの形をした家のような車。

薄橙色をしたティーポットの側面にある窓から、華やかな仮装をした人々が手を振り、
花びらを撒き、クラッカーを鳴らし、楽器を演奏している。
ポットの注ぎ口からはもくもくといろんな色の湯気が上がり、辺りは心地のよい香りに包まれた。

ちょうど、トソンたちがポットの隣を通ったとき、一番彼らに近い窓から顔を出した、
オレンジ色の髪の、顔にペイントを施した少女が、手に持っていた篭から何かを掴んでこちらにばら撒いた。
トソンたちの頭に降って来たそれを、トソンは両手で受け止める。それは、紅茶の飴玉だった。

203 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:50:02 ID:tiBT7kFY0

続いてやってきたのは、ガラスで出来た地球儀をたくさん吊るした棒を持った、花のような衣装の乙女たちの列。
彼女たちは、くるくると踊りながら、時折隣の乙女のガラスの地球儀と自分の地球儀を打ち合わせ、音を奏でた。
その度に、あらゆる色の光が弾け、辺りに舞い散る。
弾けた光からは、楽しそうな笑い声が響き、乙女たちの踊りを彩る。

彼女たちの後ろからやってきたのは、カラフルなキリンの群れだった。
うっとりと夢見るような目元のキリンたちは、ゆったりとした歩みで、けれど大きな一歩を踏みしめる。
彼らの周りには小さな蝶たちが飛び回り、輝く鱗粉を降らせていた。

その後ろにも、延々と煌びやかなパレードは続き、賑やかな音楽も鳴り止まない。
まさに、夢のような光景に、トソンは思わず吐息を漏らした。

(゚、゚*トソン「綺麗ですね…」

ξ゚听)ξ「でしょ? こんなのが、いつもこの街ではどこからともなく現れるの。
      だから、この街の通称は“パレードの街”。皆の娯楽の場よ」

204 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:52:20 ID:tiBT7kFY0

気がついてみれば、街道にはトソンたち以外にもパレードを眺めている人たちがいた。
皆が皆、楽しそうな、幸せそうな表情でポットやキリンを見上げ、乙女たちに見惚れている。

(゚、゚トソン「あの人たちも“夢遊者”の方たちですか?」

( ^ω^)「あれは違うお。あれはこの街の一部、夢だお」

(゚、゚トソン「え、どういうことですか?」

( ・∀・)「つまり、現実に実態を持たない完全な夢で出来たの人たちさ」

(゚、゚トソン「……人間じゃないんですか?」

( ・∀・)「うん、彼らは実体を持たない故に、形が定まっていない」

( ・∀・)「だから、今ここでパレードが終わって彼らが消えて、次のパレードが始まっても、
      今ここでパレードを見ていた人たちがまた現れるとは限らないんだ」

(゚、゚トソン「実体を持たない……」

205 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:54:09 ID:tiBT7kFY0

( ・∀・)「陽炎みたいなものだと思えばいいさ」

( ・∀・)「ま、中には何度もしつこく出てくる夢もいたりするけどね」

自分の隣に立つ親子にちらりと目をやる。
父親に肩車をされた少年は、頭上に降ってくる光に手を伸ばし、きゃっきゃっと笑い声を上げている。
母親はその隣で、少年がはしゃいで落ちないように気を配っていた。
親子は、幸せな家庭そのもので、とても彼らが現実には存在しないなんて、トソンには思えなかった。

トソンが、親子に気を取られていると、彼女の耳元にモララーが顔を近づけ、囁いた。

( ・∀・)「トソン、忘れちゃいけないよ、ここは夢だ。あの親子もあのパレードも皆、幻だよ」

(゚、゚トソン「……モララーさん?」

( ^ω^)「モララー、さっきから僕の仕事とらないで欲しいお。
      お前“案内屋”じゃなくて“片付け屋”だろうがお」

( ・∀・)「こういうのは言ったもん勝ちだよー」

206 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:56:05 ID:tiBT7kFY0

何故か真剣味を帯びた囁きに、トソンは訝しく思ってモララーのことを見ようとしたが、
モララーはブーンに声を掛けられてすぐにトソンから離れてしまった。

トソンはもう一度、隣に親子を見た。
けれど、モララーに変なことを言われたせいか、もうあまり彼らのことに興味はわかなかった。

ξ゚听)ξ「ていうかあんた、別についてこなくても良かったのに。
      さっきまで片付けてたんでしょ? 休まないの?」

( ・∀・)「せっかくトソンが着たんだ。ついてかなきゃ勿体無いだろ」

ξ゚听)ξ「やけにトソンに拘るわね」

( ・∀・)「最初に彼女を見つけたのが僕だから、なんか保護者的な?」

(゚、゚;トソン「えっ私子ども扱いですか」

( ・∀・)「えっ高校生なんて子供だろ?」

ξ゚听)ξ「変なこと吹き込んだりしないでよ」

( ・∀・)「しないしない」

三人に説明を受けているうちに、パレードの最後尾はいつの間にか随分後ろの方に行ってしまっていた。
遠ざかる賑やかな音楽に耳を澄ましながら、前方に見える“パレードの街”の出口へと足を向ける。
パレードから離れてしまうのは、少しだけ残念だった。

207 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/30(木) 01:58:02 ID:tiBT7kFY0

街の出口の外には、またこことは違う風景がちらほら見えている。
ブーンによればどうやら、アパートから他の場所に行くためには、必ずこの街を通らないといけないそうだ。
なら、パレードはまた次の時に見ればいい。

( ^ω^)「さ、これから紹介する場所や人がたくさんいるお」

ξ゚听)ξ「面白い場所ばっかりだから楽しみにしてて」

( ・∀・)「住人は変な奴ばっかりだけどね」

( ^ω^)「お前がそれを言うかお」

遠くの方で、パレードの音が聞こえている。
その音に、小さく「また今度」と呟いて、トソンは“パレードの街”から一歩、足を踏み出した。









第四話「思い出とパレードの夢」  おわり


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