( ^ω^)僕の知らない地球 のようです

29 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 12:35:22 ID:GiXmvU5kO
 
──



 コロンビア北部の町、ニコドー。

 ヤオイストリートで化け物に襲われてから二日後。
 同じように廃れきったニコドーの町に、ようやく歩き着いた。


( ^ω^)「…ヤオイストリートと同じだお」


 建造物はボロボロになり、雑草がいたるところに伸びきっている。
 ということは、このニコドーにもあの町と同じ化け物がいるのだろうか。

30 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 12:36:05 ID:GiXmvU5kO
 
(;^ω^)「……」


 思い出すだけでも背筋が凍る。
 人間だと思っていたものが、どこかの映画のようなモンスターになっていた。

 人間を超越した身体能力を持つ化け物。
 そして、それをあっさりと殺した自分。

 名前すらわからない、得体の知れない自分という人間が、何よりも怖い。


(;^ω^)「……」

 銃のセーフティーを解除し、建物の壁に添って歩き進む。
 途端、何かが足元に触れた。

31 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 12:37:36 ID:GiXmvU5kO
 
( ^ω^)「糸…?」


 はっと顔を上げ、その場から飛び退き、銃を構える。

 トラップか?いや違う。攻撃トラップならとっくに怪我をしている。

 なら、一体これは何だ。


(;^ω^)「…不発?」

('A`)「ハズレだ」


 知らない男の声。南米なまりのスペイン語。
 その直後、後頭部に銃口が当てられるのを感じた。

32 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 12:38:17 ID:GiXmvU5kO
 
('A`)「こいつが揺れると敵侵入を示すランプが点滅する。それだけだ」

(;^ω^)「……」

('A`)「ああ動くなよ。まだお前が"人間"かどうかを知らない」


 人間かどうかを知らない?それはこっちの台詞だ。
 そう思った途端、またも体が自然に動いた。


(;^ω^)「シッ!」

(;'A`)「!!」

 素早く振り向きながら、拳銃を持った相手の右手首を掴み、その肘を曲げて内側に回す。
 体勢が崩れた相手から拳銃を奪い、そのまま後ろに回って銃を突き返した。

33 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 12:40:56 ID:GiXmvU5kO
 
(;'A`)「近接戦闘術…!?」

(;^ω^)「……」


 逆に後頭部に銃口を当てられてしまった男は、そのまま両手をゆっくりと上げた。
 攻撃の意思は無さそうだ。

 コロンビアの民兵だろうか。
 薄汚れた私服に武器を持ったその姿は、少なくとも国軍に関係する人間では無いように思えた。


(;'A`)「…やっぱりテメエ、"ミュータント"だったか」

(;^ω^)「ミュータント?何の話だお」

(;'A`)「え?」

34 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 12:42:49 ID:GiXmvU5kO
 
 何故知らないんだ、とでも言いたげな声を上げる男。
 妙な空気になってしまったので、とりあえず男から話を聞くことにした。


( ^ω^)「とにかく、聞きたいことが山ほどあるお。…ていうか、僕には記憶が全く無いんだお」

(;'A`)「…それって何も知らないってこと?」

( ^ω^)「だお」

(;'A`)「あー…わかった、まだ俺んちには入れらんないが、話ならしてやるよ」

( ^ω^)「助かるお」


 拳銃を返し、目の前の建物の中へ入る。
 あまりにも信じ難い話を聞かされるのは、それからすぐのことだった。


──

35 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 12:44:02 ID:GiXmvU5kO
──


 現在、西暦2012年4月30日。
 過去より世界の終わりと予言された年。

 文字通り、世界はほとんど終わってしまった。
 そこには文明も経済も無い、基本的な社会性くらいしか持たない、"人間の形をした化け物"が人類を滅亡においやった。


( ^ω^)「…どうしてこんな事態になったんだお?」

('A`)「化け物はどこからともなく沸いてきたわけではない。人災だよ」

( ^ω^)「人災…」

36 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 12:45:38 ID:GiXmvU5kO
 
 全ては、ある薬がアメリカで開発されたことから始まった。
 その薬の特性は「一定時間の間、痛みを全く感じない」こと。

 最初は医療でのみ使われる薬だった。
 だが、そのうちドーピング薬としてスポーツ界(特に格闘技)に流出。
 更には軍部が兵士達への薬の使用を国に認めさせ、米軍は史上最強の名を伸ばしていった。


(;^ω^)「そんなことしたら、他国が黙ってないんじゃ…」

('A`)「もちろんだ。他国の政府はアメリカの目に見えた軍備強化を批判した」


 だが、アメリカはそれを無視し続け、軍事力を拡大させていった。

37 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 12:46:32 ID:GiXmvU5kO
 
( ^ω^)「…その薬はそんなに凄いもんなのかお?ただ痛みを感じないだけなのに」

('A`)「痛みを感じないことがどれだけ便利か。例えば戦争だと、一度銃弾を受けたら戦う意思が削がれ、しかも負傷者扱いで戦場の死角へ引きずり込まれる」

('A`)「ところが痛みがないとどうだ。銃弾を受けても大したことはないから、失血で気分が悪くなるまで戦える。ただそれだけで、攻撃力は何倍にも膨れ上がる」

(;^ω^)「……」


 こうして軍事力を上げていったアメリカに、恐れていた事態が起こった。

 スポーツ界に流出していた薬が他国に密輸され、それが他国の軍部に行き届いたのだ。
 調子に乗っていたアメリカに、薬を手にした連合軍が忠告、宣戦布告。

 第三次世界大戦の幕開けであった。

38 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 12:47:29 ID:GiXmvU5kO
 
('A`)「そっからはもう滅茶苦茶さ。アメリカとヨーロッパ諸国が、まるで冷戦の時のように味方を吸収しまくった。それはアジア全土、アフリカにまで影響が及んだ。この南米もそうさ」

('A`)「ミサイルを飛ばし合い、兵士を送り合い、"痛みのない"殺し合いが始まった。それが全ての始まりだ」

(;^ω^)「……」


 なんということだ。
 たった一つの薬が、世界を壊滅に追いやったのか。

 しかし気になることが一つ残る。


(;^ω^)「それで、あの化け物達は一体なんなんだお」

('A`)「…ただ戦争が起きたくらいじゃ、国はここまで廃れねえ」

('A`)「薬にはとんでもない副作用があったんだ」

39 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 12:48:50 ID:GiXmvU5kO
 
 薬を使い続けると、体にある変化が見られる。
 痛みを感じなくなる時間が飛躍的に伸びるのだ。

 数時間だった効果が、数日間、数週間もの間現れる。
 そして、遂には半永久的に痛みが無くなる。

 その状態になってしまうと、もはや他の人間の手に負えなくなる。
 人々はその状態になった人間を「ミュータント」と呼んだ。


( ^ω^)「ミュータント…」

('A`)「それから、ミュータントはミュータント同士で集まるようになり、ある理念が奴らに刻まれた」


 周りの人間からは「人間を超越した」と言われ、自分達自身、身体能力の伸びも見られた。
 そのことから、ミュータントは自分達のことを人間以上の存在だと考えた。

40 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 12:50:29 ID:GiXmvU5kO
 
('A`)「そして、奴らはこう唱えたんだ。"愚かな戦争ばかり繰り返す人間共に生きる道は無い。我々が裁きを下す"ってね…」

( ^ω^)「"裁き"…」

('A`)「結局はイカレた盲信者と変わりはしねえ。あいつらも人間の子だよ」


 だが、ミュータントの戦力は凄まじかった。
 そのうちミュータントとしての副作用が生まれ、それが人間達を恐怖の底に陥れ、まともに戦えない状態にした。


( ^ω^)「ミュータントとしての副作用?」

('A`)「お前も見ただろ?あいつら、激しい感情に見舞われると、目が黒くなって口がやけに大きくなる。まさに人外の化け物だよ」


 この化け物はなんだ。これが同じ人間だった者の姿か。
 ミュータントのその姿を見た途端、人類は漸く、薬に対する恐怖を感じた。

41 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 12:51:09 ID:GiXmvU5kO
 
 もう薬は使うべきではない。
 人間達の間でそう結論されるも、既に薬を使い続けていた者が大半で、ミュータントは続々と増えていった。


('A`)「薬を使い続けることでミュータントになるんだから、その場で薬をやめていれば、ミュータントにはならなかった」

('A`)「だが話はそう簡単じゃない。人類は"痛みのある戦い"に恐れを抱き、麻薬中毒者のように薬を摂取し続けた。痛みが無いということは、一種の安心に繋がるんだ」

( ^ω^)「なるほど…」


 人類に裁きを下すため、ミュータントは女子供関係なく殺していった。
 薬が開発されてこの間、約五年ほどだった。

42 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 12:52:08 ID:GiXmvU5kO
 
( ^ω^)「ところで…」

('A`)「ん?」

( ^ω^)「人間とミュータントはどうやって違いを見分けるんだお」

('A`)「あー…」


 そう、目下の悩み所はこれだ。
 人間ではないとはいえ、ミュータントも普段は人間の姿をしているのだ。
 それを見分ける方法が欲しい。


('A`)「一番ポピュラーだったのが、"私は人間だ"と言ってみることだな。すると奴らはなりふり構わずすぐに姿を変える」

('A`)「奴ら自身、ミュータントであることを誇っているから、"私は人間だ"なんて意地でも言えないんだ」

( ^ω^)「なるほど…」

43 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 12:52:59 ID:GiXmvU5kO
 
('A`)「それにしても、まさかこの町に生き残りがいたとはなぁ…」

( ^ω^)「お、僕のことを人間だと信じてくれるのかお?」

('A`)「ああ。ここまで話して変身しないはずがないからな」

('A`)「俺はドクオだ。よろしくな」


 おもむろに近づき、手を差し伸べるドクオ。
 自己紹介をしながら手を握り返したかったが、自分の名前すらわからない。

 とりあえず手を握り返しながら、咄嗟に出てきた名前を口に出した。


(;^ω^)「僕は、えっと、…ブーン!ブーンだお!よろしく!」

(;'A`)「お、おお…?よろしくな」

44 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 12:55:34 ID:GiXmvU5kO
 
 固い握手を交わし、ようやく落ち着いた二人。

 直後、建物の奥から物音が聞こえた。


(;^ω^)(;'A`)「!!」


 同じ方向に、ほぼ同時に銃を向ける二人。

 その銃口の先。
 暗闇の中から、五つの人影が浮き出てきた。


(;'A`)「5人か…やっかいだな」

( ^ω^)「いや…」


 いや、いける。
 得体の知れない確信が、体の中を駆け巡る。

45 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 12:56:17 ID:GiXmvU5kO
 
(;'A`)「いや…ってなんだよオイ」

( ^ω^)「ドクオ」

(;'A`)「あん?」


 五つの影が、徐々に近づいてくる。
 拳銃を向けて冷や汗をかくドクオに、AKS-74Uを手渡した。


(;'A`)「え…?」

( ^ω^)「援護を頼むお」

(;'A`)「援護って…ちょ、オイ!!」


 五つの影が人間か否かなど、すぐにわかった。
 彼らは既に変身していたからだ。

 黒い目、大きな口。
 その五体のミュータントへと、ブーンが走り出した。

46 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 13:00:30 ID:GiXmvU5kO
 
(;'A`)「おい!!」

( ^ω^)「フッ!」


 一体目。
 大振りの拳を潜り抜け、足を払いながらラリアットの形で仰向けに倒す。
 そして、その首にナイフを走らせた。


[]#●皿●]「人間風情が…!」

ハハ+)皿●)「裁きをオオ!!!」


 その両隣にいた二体のミュータントが、怒りを露わにしながら同時に飛びかかる。
 紙一重のタイミングで二体の間を抜け、その片方の首を掴み、同時に膝を折り、脳天にナイフを突き立てた。


[];●皿●]「グ……ガ…」

( ^ω^)「フンッ!!」

47 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 13:01:52 ID:GiXmvU5kO
 
 勢い良くナイフを引き抜き、もう片方に目を向ける。
 直後、コンクリートの欠片を持った左腕が、ブーンの眼前に迫ってきた。


ハハ+)皿●)「裁きを!!」

(;^ω^)「!」

 その腕をよけながら、自らの腕で相手の手首を払う。
 そのまま背後に回りながら腕を絡め、相手の腕を背中に固定する。
 そして、その状態のまま頸動脈にナイフを滑らせた。


(;^ω^)「フッ!!」

 あと二体。
 残りのミュータントがいた方へ構えると、その二体が勢い良く崩れ落ちた。

48 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 13:02:35 ID:GiXmvU5kO
 
( ^ω^)「!」


 思わず振り返る。
 そこには、手慣れた様子でAKS-74Uを構えるドクオの姿があった。


('A`)「援護は俺の仕事だろ?」

( ^ω^)「…そうだったお」


 互いに親指を立て、笑顔を向け合う。
 五体のミュータントは、いともあっさりと片付いた。


('A`)「んなことより、さっさと此処から出よう。俺んちに案内してやる」

( ^ω^)「有り難いお」

49 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 13:04:25 ID:GiXmvU5kO
 
 建物を出て、夕暮れの中を慎重に進む二人。


('A`)「コロンビアにはもう生き残った人間はいないと言われている。その方が都合がいいと思って、最近ここに住むようになったんだ」

( ^ω^)「都合がいいって、どうしてだお?」

('A`)「誰も疑わずに済むからさ。…さ、ここだ」

( ^ω^)「…学校?」


 コンクリート一階建ての小学校。
 その地下へと案内されていく。


('A`)「地下への扉は発見されづらいし、頑丈なロックをかけられる。唯一の安全地帯だよ」

( ^ω^)「なるへそ」

50 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 13:05:17 ID:GiXmvU5kO
 
 金庫のような地下室に入ると、すぐにドクオが電灯をつけた。
 狭い部屋だが、生活するには充分な食料と寝床が揃っている。


('A`)「コーラでも飲むか」

( ^ω^)「いただくお」


 どこから持ってきたものなのだろうか。
 この部屋に不釣り合いな小さな冷蔵庫から、ドクオがコーラを2つ取ってきた。


( ^ω^)「ありがとうだお」

('A`)「それにしてもお前、ずいぶん強いな」

( ^ω^)「え?」

51 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 13:05:59 ID:GiXmvU5kO
 
 コーラを開け、ドクオのコーラと軽く合わせ、口に含む。
 懐かしいような新しいような、不思議な味が口に広がった。


('A`)「お前のその戦闘術…米軍で培ったモンだろ。それも特殊部隊の」

( ^ω^)「…わかんないお。本当に記憶が無いんだお」

('A`)「そうか…」


 コーラを何度も口にしながら、ドクオが話を続ける。


('A`)「いやな、見覚えがあるんだ。その動き」

( ^ω^)「え?ドクオも米軍の人間だったのかお?」

('A`)「いやいや、俺はただのコロンビアの民兵だよ」

52 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 13:06:47 ID:GiXmvU5kO
 
( ^ω^)「じゃあどうして…」

('A`)「……」


 ドクオが一気にコーラを飲み干し、大きく息を吐いた。


('A`)「戦争が起こった時、ヨーロッパ諸国とアメリカが対立したのは話したな?」

( ^ω^)「聞いたお」

('A`)「このコロンビアは…というより南米は、ヨーロッパに戦力吸収されたんだ」

( ^ω^)「…ということは」

('A`)「ああ」

53 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 13:07:48 ID:GiXmvU5kO
 
 目を伏せながら、腰にある拳銃を机に置くドクオ。
 その表情から感情を読み取ることは、ブーンにはとてもできなかった。


('A`)「米軍に攻められたんだ。ここ南米はな」

(;^ω^)「……」


 その言葉を聞いた途端、ブーンは無意識にズボンに刻まれた米軍のマークを手で覆っていた。



 第二話 終


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