- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 22:35:38.89 ID:x2dB/VUN0
めきり
嫌な音がする
左の手首を掴むミルナの手に力が籠り過ぎている
食い付く力も止まらない
必死に吸い付いているが、うまく吸えないらしい
このままだと、腕がズタズタになるまで噛まれてしまう
_
(; ∀ )(ヤバい!ヤバい!ヤバい!!ヤバい!!!!)
_
(; ∀ )「まっ……!待て…!!おちっ……ぁっ……」
カッターを握ったままの右手でミルナの頭を抑える
前髪で目元が隠れ、表情は見えない
血で濡れた唇から、赤い舌がちらりとのぞいた
息は荒い
どう見ても餓えていた
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 22:36:05.89 ID:x2dB/VUN0
( ゚д゚)食事をするようです
.
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 22:37:31.79 ID:x2dB/VUN0
あれから暫く
ミルナから催促を受けることも、うっかり傷を舐められるようなこともなく
気付けば一ヶ月以上が経過していた
縫合が必要だった深い傷も無事くっつき、今は乾燥でぴりりと痒い
外を見れば景色は移ろい秋の色を魅せ
風は少し湿っぽい木の葉を運んでいる
人を見れば、先日行われた衣替えにより冬服で登下校をする生徒達
中には、早くも学校指定のカーディガンを羽織った生徒もちらほらといる
辺りを見回せば日常が溢れていて、自分もその中に埋もれていた
制服で腕を隠せるようになり、カーディガンは束の間だが クローゼットの中で少しお休みだった
ワイシャツだけを着、ブレザーは持ち歩く程度
過ごしやすい日々だった
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 22:39:01.46 ID:x2dB/VUN0
しかし、いくら平穏でもミルナの存在は放置できない
一ヶ月もの間全く催促をしてこないのは、
傷が増えることを良しとしないミルナなりの気遣いなのだろう が、後が恐いだけだった
きっとまた、暴走する
貪るような、喰い散らかすような『食事』になるだろう
出来ればそこまで理性が壊れる前に、普通に『食事』をしてほしい
もう既に手遅れだと思う程に、ミルナの目は餓えで彩られている
何事もなく、無事に夏を終えたのが 逆効果だったかもしれない
制汗剤では、きっと誤魔化せていなかっただろう
ミルナはよく耐えていた
俺は手遅れ覚悟で、ミルナをカラオケに誘った
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 22:40:02.21 ID:x2dB/VUN0
カラオケボックス
ドアの横 死角になっている壁に椅子を寄せ、背をついていた
背後と右を壁に囲まれ、椅子に乗り上げたミルナに追い込まれる形になっている
死角にきちんと入る為とはいえ、腿の下にミルナの膝が入るほどに近付くのはいただけなかった
20度に設定したクーラーが、火照った全身を冷やしていく
それでも理性が完全にとんでいるミルナを、冷静に戻す力はない
( д )「……はっ………何……」
_
(; ∀ )「待てっ……っ……ガッつき過ぎ……」
( д )「………だから、どうした…………」
_
(; ∀ )「傷口……っふ…増やす、から……」
腕にもう一度カッターを宛がう
左腕はミルナのせいでぐちゃぐちゃで、右手は震えていて 狙いが定まらない
手の震えに合わせて、安物のカッターがカチカチと震えている
左腕を見て、カッターを握る力までが萎えていく
力を込める込めれば込めるほど、手は震え、結局カッターを取り落してしまった
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 22:42:39.91 ID:x2dB/VUN0
- _
(; ∀ )「あっ……ぇ…?」
( д )「…………」
ミルナが、黙ってカッターを拾い上げる
背中を冷たい汗が伝った
ちき ちき ちき ちき ……
刃を出したりしまったりを繰り返している
これは、許可か 催促か
左腕を、そっと差し出した
右手は、自分の体を抱くようにして、カーディガンの裾を握り締めていた
目は固く閉ざし、顔を背けた
全ては、恐怖だ
ミルナの目 傷口の痛み 切られる、恐怖
全てを覚悟して、ミルナを生かしている
自分の中でしっかり腹を括り、「切れ」と 許可を出した
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 22:44:58.88 ID:x2dB/VUN0
ミルナは左手で手首を掴み、右手で強くカッターを握った
肘近く 赤い傷が密集している場所の近くに刃を押し当てる
その力は、自分で切る時よりも強い
刃が 少し弛んでいた
( д )「…………」
沈黙
間をおいて、ミルナは刃を見ながらぽつりと語り出した
( д )「ジョルジュ…………何……泣いてるんだ?」
_
( ゚∀゚)「っ!?」
顔を壁側に背け、手で覆う
右手で拭うと、確かに滴が付いていた
気付かないうちに流れていた涙に、自分でも驚きを隠せない
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[ミルナの顔がおかしい] 投稿日:2011/08/23(火) 22:46:22.20 ID:x2dB/VUN0
- _
(;゚∀゚)「ぇ……あれ……?」
( д )「痛いのか?恐いのか?」
_
(;゚∀゚)「い…痛いけどよ……恐くなんか……」
( д )「痛みを感じて恐怖を感じない者など、いるものか」
_
(;゚∀゚)「…………」
ぴしゃりと言いきられてしまえば、何も言えない
恐怖を感じていたのは、事実だった
( ゚д゚)「……すまん 今日は、せっついていたようだな
途中から、お前のことを考えられなくなっていた」
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 22:49:41.18 ID:x2dB/VUN0
カッターの刃をしまい、腕を下ろした
そのままカッターは手を離れ、かつんと音を立てて床に転がる
握られた左手はミルナの右膝の上に置かれている
流れた血がスラックスに染みをつくるが、気にした風はない
( ゚д゚)「……すまない」
項垂れる
表情は見えない
その肩は落ち、小さく見えた
( ゚∀゚)「…………」
その肩に右腕を回し、引き寄せる
耐えられない
ミルナにこんなことを強いているのは自分なのに、何故謝られているのか
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 22:50:46.22 ID:x2dB/VUN0
( ゚∀゚)「……謝んな 頼むから」
( ゚д゚)「…………俺がいなければ、ジョルジュに傷がつくことはないのにな」
_
( ゚∀゚)「 っ」
痛い
心臓を鷲摑みにされるような感覚
ミルナは悪くない
悪いのは、自分だ 自分なのに
_
( ゚∀゚)「そーゆーことは、思っても言うもんじゃねぇよ」
ミルナは、顔が僅かに余所を向いていた
目が泳いでいるのだろう
憂いが見え、本気でそう思っていることが見て取れた
心が 揺れた
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 22:53:44.50 ID:x2dB/VUN0
ミルナを追い詰めるなら、いっそ真実を話してしまおうか、と 思ってしまう
今まで、何度考えても 自分の中では『話さない』と結論が出ていた
自分が耐えれば、いずれミルナは元に戻るのだと思っているから
嫌われたくない と、思ってしまうから
しかし
何も知らないミルナが、自分を責めているのなら?
それは本意ではない
なら、打ち明けてしまおうと思う
自分のエゴでミルナが自己嫌悪に陥るなど、あってはいけない
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 22:55:42.68 ID:x2dB/VUN0
- _
( ゚∀゚)「…………もとはと言えば、俺が悪いんだよ ……ミルナは、何も悪くない」
( ゚д゚)「……なにを」
_
( ゚∀゚)「違うんだ、ミルナ 俺が悪いんだ。お前がこうなったのも俺のせいなんだ
今まで有耶無耶にしてきたけど、お前が自分を責めるなら、それはお門違いだから
……だから…………きちんと、話すから」
腕を緩めると、ミルナが顔を上げてきた
見つめてくる目が真剣で、見つめ返すことが辛い
屈み込んでいてもなお高い目線から、見つめられる
( ゚д゚)「……お前が隠してきたことが俺の食に関わることは知っていたが、
それはお前が自分を責めることなのか?」
( ゚∀゚)「……俺のせいなんだ ミルナ
俺がやらかしたことで、ミルナにこんなことを強要して、でもそれを話すのは怖くて……」
( ゚д゚)「……それでも、話してくれるんだな?」
( ゚∀゚)「……隠してて、ごめん」
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 22:59:44.24 ID:x2dB/VUN0
* * *
少し前に遡る
俺は、己の行動と思考に戦慄していた
右手に持つカッター
左手に握る、ジョルジュの左腕
……今 何を考えた?
嫌悪が止まらなかった
『食事』に夢中になり、傷口に喰い付いて荒らし、血を啜り、更には自らの手でジョルジュの腕を切り開こうとした
冷静になれば、出来ることではなかった
謝罪すら、ふざけていると思った
ジョルジュの顔を見ることが出来ない
傷付いている 怖がっている
申し訳なかった
回された腕も、まだ震えている
いたたまれなかった
ジョルジュをこんなにも傷つけるなら、自分なんか居なくなってしまえばいいと思った
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 23:03:23.95 ID:x2dB/VUN0
*
ジョルジュは、長く隠してきた何かを 話してくれると言っていた
記憶が正しければ、四年もの間 何も話さずに『食糧』に徹していたはずだ
腕に刻まれた傷痕が、それを証明している
それを、話してくれるという
ジョルジュが何をしたのか知らない
四年も自分に喰われ続けることを是とする程、なにをそんなに思いつめているのか わからない
しかし
ジョルジュがきちんと全てを話すのなら、例えどんなことが明かされても、許そうと思う
そして四年もの間、何も強引に聞き出さずに喰らい続けたことを詫びよう
少し大きめに深呼吸をし、腹を括った
話を 促した
( ゚∀゚)「…………ミルナ、ごめん」
ジョルジュの声は震えている
( ゚∀゚)「……お前、もう 一回死んでるんだわ」
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 23:06:43.61 ID:x2dB/VUN0
( ゚д゚)「…………」
眉根が寄る
何と返せばいいだろう
わからない
ジョルジュは今何と言った?
『死んでいる』と言ったか
では何故自分はこうして動いている
生きているではないか
( ゚∀゚)「四年前……中一の七月だ
下校中に、お前音楽聞いてて…本も読んでた」
( ゚∀゚)「……で、…………俺さ、その頃、ヤンチャだったじゃん?馬鹿だったんだよ」
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 23:10:15.28 ID:x2dB/VUN0
( ∀ )「…脅かそうと思ってさ……後ろから近付いて…………脅かすように…
た、体当たりしたんだ……」
ジョルジュの全身が、ガタガタと震える
最初、目を見て話し始めたジョルジュの視線は泳ぎ、今は少し下の辺りを彷徨っている
::( ∀ )::「俺……周りも見ないでそんなことして…………
体当たりしたら、丁度通りに出ちまってさ……」
呼吸が荒くなり、少しずつ鼻を啜るような音が混じりはじめた
嫌な予感がする
今更だが、聞きたくない気持ちが急速に膨らんでいった
肩を抱き寄せても、震えも止まらなければ言葉も止まらない
口を塞いでしまおうかとも 思った
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 23:12:29.21 ID:x2dB/VUN0
::( ∀ )::「…俺達、そのまま道路に飛び出して…っ…… くっ…車……」
( д )「…………」
聞きたく、ない
::( ∀ )::「ミルナを倒した時に、目と鼻の先にタイヤが掠っていったんだ……」
::( ∀ )::「右の前輪で、ミルナの心臓んとこ轢いてった……!!」
目をぎゅっと瞑る
ジョルジュを掻き抱くようにして、体に 心臓に密着させる
苦しくなる程に、一際大きな脈を打った
まるで偽物が存在に気付かれて、跳ね上がったかのように 強く 大きく
ジョルジュが、声を上げて泣いた
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 23:16:42.48 ID:x2dB/VUN0
::(; ∀ )::「ミルナ…!ミルナごめん!!俺最低でごめん!!こんなこと隠してた…!!
お前に黙ってこんな生き方させといて……!!自分で死なせたくせに!殺したくせに!!
怖くて、ずっと黙ってた!!っ…ごめん……ごめん、ごめん、ごめん ごめん……」
縋りついて泣くジョルジュ
きつく抱き締めた
自分も、混乱している
死んでいた?本当に?
動いてる でも死んでいる
――― 知っている
後ろから体当たりをくらった衝撃と クラクション
( д )「…………」
そこから先が、思い出せない
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 23:20:09.67 ID:x2dB/VUN0
しゃくり上げながらも、ジョルジュは話し続ける
かいつまんでいうなら
病院に変な男が現れ、自分は心臓を抉られたらしいこと
ジョルジュがそれを喰い、俺に血を与えたこと
男は自らを、吸血鬼だと言ったこと
昔読んだ吸血鬼伝説の本の内容が、脳内に去来する
吸われた者は吸血鬼になること
また、血を吸い続ければ『生命』は満たされ、ヒトに戻ること
ジョルジュは自分に、『食事』として己を提供している
これはつまり、ジョルジュの『生命』を喰らっているということで………… ―――
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 23:25:29.01 ID:x2dB/VUN0
(; д )「……ぅっ…………」
食欲をそそる匂いも 甘い血も 貪りつきたくなるような体液も
全ては ジョルジュの命……
本の一文が、一言一句違わずに思い出された
『古くから血液は生命の根源であると考えられており、死者が血を渇望するという考えがある
悔いを残した体から命が抜け、『生』を渇望する体は『生命の根源』である血を欲する』
では血を渇望して、こうして『食事』をしている自分は……
耐えられない
右手で口元を覆う
禍々しさに、吐き気を催した
自分は今まで、ジョルジュの命を喰らっていたことになる
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 23:30:48.01 ID:x2dB/VUN0
禍々しい 悍ましい
どんな言葉を使っても、表現しきれない
なんてことをしていたんだ
何故四年もの間、平然とそんなことを続けてきたのか
何故ジョルジュは、四年もの間、何も言わずに命を削ってきたのか
答えは 自責 か
自分の死にも驚いたが、それよりも生き永らえている理由に愕然としていた
ジョルジュは自責の念だけで、己の命を自分に捧げるつもりなのだ
冗談じゃない
そんなこと、させるものか
こんなこと、今すぐやめさせるべきだった
必然的に、一つの覚悟をした
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 23:35:26.29 ID:x2dB/VUN0
( ゚д゚)「ジョルジュ」
吐き気と嫌悪を抑え、腕を緩めた
ジョルジュは顔を上げない
髪を梳きながら、話しかける
( ゚д゚)「ジョルジュ すまなかったな……そんなことを四年も溜めこんでいたんだ 辛かっただろう
……なぁ、ジョルジュ もういいんだ。俺はお前を怒るつもりもないし、もう傷を増やすつもりもない」
ぴくり と、小さく肩が震えた
( ゚д゚)「もう、やめにしよう こんなこと」
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 23:39:39.04 ID:x2dB/VUN0
やめる 断食を指す
末路が、ジョルジュにも見えたようだ
_
(;゚∀゚)「やめられるか!!そんなことしたらっ……おま……」
( ゚д゚)「死者が、生者の命を啜って生きていていいわけがないんだ」
_
( ゚∀゚)「お前をそんなふうにしたのは俺だ!」
( ゚д゚)「だからと言って、今の生活を続けていていいわけがない」
_
( ゚∀゚)「ふざけんな!!何の為に四年もお前に喰われ続けたと思ってんだ!!」
表情が変わる
めねつけるような眼差しで、牙をむいている
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 23:43:48.92 ID:x2dB/VUN0
自分勝手だとは思わない
今まで明かさなかったことも、きっとジョルジュなりの配慮だったのだろう
だから言わない
だが、これだけは譲ってはならない
( ゚д゚)「俺はもう十分だ お前も長く苦しんだ」
_
( ゚∀゚)「嫌だ!!」
( ゚д゚)「もう、『食事』はしない」
_
(# ∀ )「だったら、もう俺に意味なんてねぇんだ!!!!」
突き飛ばされた
ジョルジュが落ちたカッターを拾い上げてめいっぱい刃を押し出す
ぢきぢきぢきぢきっ
嫌な音だ
背筋に冷たい汗が、一筋だけ流れた
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 23:46:23.39 ID:x2dB/VUN0
* * *
押し出した刃を、傷がついていない右腕に宛てた
利き手でないせいで扱いづらいが、そんなことは関係ない
手首の静脈に刃を押し当て、押し込むようにしながら横に引き抜いた
刃が、まだ薄い皮膚を裂く
びりっとした痛みの後、筋を切るあり得ないような痛みが全身を駆け巡る
ばつん と、いやな感触がした
_
(; ∀ )「ぅあ゙ぁっ!!」
全身が跳ねる
両手がいうことをきかず、カッターはまた床に落ちた
右腕を覆う左手が、あっという間に真っ赤に染まる
更に指の間から漏れた血が、制服や椅子に斑をつくっていく
脂汗が止まらない
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 23:49:37.11 ID:x2dB/VUN0
- _
(; ∀ )「ぐっ……くあっ……!」
(; ゚д゚)「馬鹿!!脈をそんなふうに切る奴があるか!!」
一瞬 世界が真っ白に染まった
次に来たのは、白い灼熱
焦った罵声が辛うじて聞こえたが、それだけだ
ミルナは何もしてこない
驚愕で動けないのか
欲と戦っているのか
考えるまでもないだろう
卑屈さが女々しい と、我ながら思う
_
(; ∀ )「はっ…ぁっ……」
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 23:52:35.56 ID:x2dB/VUN0
前髪の隙間から見えたミルナは、右手が宙を掻いている
_
(; ∀ )「……どうしたよ………っ…喰わねぇなら、流れるだけだぞ……」
(; ゚д゚)「だからもう『食事』はしないと……!」
_
(; ∀ )「俺はお前を殺したんだぞ なのに、お前を生き返らす、方法に恵まれた …っ……
償いになんか、なんねーよ はっ… わかってるよ…… ただの、自己満足だ」
_
(; ∀ )「お前を、生き返らすための命だ …… いらねぇってんなら、もう、意味なんて……」
(; ゚д゚)「そんなことをする必要なんてない!」
_
(; ∀ )「だぁから、自己満足……っ……だっつの
……何度自殺しようと思ったか くっ……役目があるから、生きて来れたんだ ……」
まだ腕が、脳が痺れている
それでも、視線だけは辛うじて上げられる
じんじんと響く波に顔は歪むが、それ自体はもう慣れた
見せることにも恥じらいはない
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 23:53:58.43 ID:x2dB/VUN0
- _
(; ∀ )「……はっ…… なぁ、ミルナ……お前の飯である俺が、何食って生きてるか、知ってるか?
…植物や動物……生きてたもん、食ってんだぜ?」
(; ゚д゚)「っ…」
_
(; ∀ )「俺だって、俺達だって、…他の命食って生きてんだ ……くっ…
お前と、なんも違わないんだぞ ……」
(; ゚д゚)「全然違う!!」
_
(; ∀ )「違わねぇよ 命を喰わなきゃ、生きていけないんだ …っ……いきもってのは
自然の摂理? 食物連鎖…? ……なんだかしらねぇけど、よ……そんなもんだ」
(; ゚д゚)「違う!断じて違う!!ヒトなんか食していいはずが…!!」
_
(;゚∀゚)「邪魔してんのは、倫理か?」
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 23:56:25.71 ID:x2dB/VUN0
- _
(;゚∀゚)「そうさせてるのは、俺だ ……お前は、何も悪いことしてねぇんだぜ?」
喉の奥から、引き攣った笑いが込み上げてくる
笑ってみせようとしたが、失敗だったようだ
ミルナはしばし視線を彷徨わせた後、放り出されていた鞄に目を付け、飛びついた
中から『ランチセット』を取り出し、あるだけのガーゼを取り出した
勿論、宛てさせてやる気はない
話を逸らさせてなんかやらない
(; ゚д゚)「手を退けろ!出血が全く止まってない」
_
(;-∀゚)「へへ……やーなこった」
ミルナの爪が左手首を掻き毟る
むっと血の匂いが強くなり、ミルナは眉間に皺を寄せ、目元は歪められていた
口角が、吊り上る
悪戯をしてやろう
血で真っ赤に染まった左手を、手首から離してミルナの口元に運んだ
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 23:58:21.31 ID:x2dB/VUN0
(; ゚д゚)「っ!!」
唇を噛み締めて断固拒否する
目を瞑って顔を背けた瞬間に、その唇に紅をさしてやった
動揺している
右手の甲で口元を拭っているが、それだけでは落ち切らない
瞳も鋭くなってきた
そのまま舐めてしまえ と思った
口にすれば、きっとこの傷の血も舐めきってしまうだろう
『食事』をさせる為に、自分は生きてきた
自分が死なせてしまったミルナが人として元に戻るなら、自分は喜んで、この身を捧げる
そう決めて生きてきた
もうミルナを、死なせはしない
卑劣な手段でも 本人が『食事』を拒否しても
命を与えなければならない
返さないと、自分の気が済まない
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 23:59:53.06 ID:x2dB/VUN0
- _
( ゚∀゚)「舐めちまえよ」
( ; д )「っ……断る」
_
( ゚∀゚)「…………」
目が霞んできている
思ったよりも傷が深いらしい
速攻で救急車を呼ばないとまずい気もしたが、いまはミルナを説得させることが最優先だ
説得 というより、『食事』をさせてしまえばいい
くらくらと白んできて思考がまとまらない
『食事中』の感覚によく似ていた
余談だが、男は生命の危機を感じると、子孫を残そうと体が頑張るらしい
頭が、どうにかなってきた
_
( ∀ )「なるようになれ」
止まらない右腕の血を口に含み、ミルナを椅子から突き落とした
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 00:03:04.09 ID:YT7eLNN50
(; д )「っ!?」
突き落とし、馬乗りになる
ミルナは上手く受け身をとったようだが、硬い床に背中を打ち、息が漏れた
酸素を求める口を塞いでやる
暴れる腕は押さえてやった
身長差があるとはいえ、体位の有利さと運動部の強みが出た
唇の隙間に舌を滑らせ血の混じった唾液を流し込んでやれば、すぐにミルナの様子が変わった
鉄の匂いがする口付けに雰囲気もクソもないが、そんな雰囲気すら自分達には必要ない
捻じ込んだ舌が、噛み千切られるんじゃないかというくらい迎撃される
最初は押し出そうとするかのように
舌の表面をざらりと擦り合わせてやれば、次第に絡み、吸い付くようになっていく
血が抜け、クーラーで冷えきった全身が蕩けそうになる
ミルナの理性を壊すつもりが、気付けば自分の快楽に変わっている
攻守逆転されてしまったら失敗に終わる
気を引き締めて『食糧』に徹した
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 00:05:26.29 ID:YT7eLNN50
(; д )「っ……はっ…!……」
理性を壊す甘い食糧
口付けの熱
酸欠
ミルナを壊していく
腰の横辺りに膝をついて、手首を掴んだまま肘をつき、体を重ねる
顔を上げると、ミルナは苦しそうに呼吸を荒げた
(; д )「はっ、は…………ばっ、ばかっ…!」
_
(;゚∀゚)「はっ…はぁ…………へっ!馬鹿で結構」
右手を強く握れば、傷口が歪んで血が溢れだす
指先まで滴った雫を、ミルナの口の中に落とした
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 00:07:34.71 ID:YT7eLNN50
途端、ミルナの左手が、右腕を掴んだ
離したせいだったが、もう遅い
抵抗しようと腕に力を入れた時、逆に利用されて引き倒された
形成が逆転する
_
(;゚∀゚)「ぅおっ」
(; д )「っ……」
覆い被さる肩は、自分よりも広い
失敗か そう思った
(; д )「……この、大馬鹿者」
掴んだままの右腕に滴る血を、きれいに舐め取る
肘にまで滴っていたものを、手首にかけて舐め上げる
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 00:09:25.26 ID:YT7eLNN50
- _
(; ∀ )「ぁっ…!」
血が止まらない傷口に、おもいっきりしゃぶりついた
傷口が、いびつに歪む
牙を突き立てられ、神経が悲鳴を上げる
体は震え、涙が浮かび、嗚咽が漏れる
それでも、ミルナを眺め続ける
泣きそうな目元をして喰らい続けるミルナを、目に焼き付ける
これでいいんだ と、自分に言い聞かせた
お互いの呼吸が乱れている
血だらけの唇の端から、つぅ と一筋の血が流れた
おそらく、そこで意識を手放した
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 00:13:05.40 ID:YT7eLNN50
* * *
気付くのに、時間がかかった
あらかた満足するまで喰らいつくし、目を向ければ、ジョルジュは目を瞑っていた
口元に少量の血、頬には涙の痕
満足したように、少しだけ吊り上っている唇
瞬間 怖気が走った
血が付いたままの手を首筋に宛て、脈を確認する
脈は ある
が、力無く、遅い
青白い頬に触れる
生きているとは思えないくらい、冷たかった
(; ゚д゚)「ジョルジュ!?」
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 00:16:22.97 ID:YT7eLNN50
頬や口元、首や胸元 シャツや手首などに散らされた血が、ジョルジュを彩っているように見えて
――― まるで 血化粧 のように見えて……
戦慄した
人の血液の量は、体重の8%といわれている
このうち1/3の失血で生命に危険が及ぶ
ジョルジュの体重から、おおよそで血液の量を割り出していく
血液は、体重1kgあたり80mlなので、約1700mlの出血で死に至る
一日に二度の『食事』 しかも、普段よりも多く喰った
流血時間も長かった
血を吸って真っ赤に染まっているシャツやスラックス
ここからは見えないが、椅子の上も血まみれだろう
流石に致死量ほどは出血していないだろうが、危険な状態に変わりない
ガーゼで傷口を押さえ、サージカルテープで血管をきつくしめた
すぐにフロントに電話をし、救急車を手配してもらうよう頼んだ
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 00:19:25.72 ID:YT7eLNN50
店舗内は騒然とした
ジョルジュや自分の口元についた血は、全て拭き取った
それでも、服や肌、椅子や床に残った血が、凄惨さを醸し出していた
ジョルジュは救急車で病院へ、自分はそのまま警察署へ連れて行かれた
事情聴取では、無言を貫いた
凶器のカッターから、自分の指紋も検出されている
何を聞かれても、答えられなかった
全てはジョルジュに委ねてしまおうと思った
一週間飲まず食わずで無言を貫き通し、精神鑑定が行われた
薬が出たが、勿論拒否した
更に半週経っても 倒れる兆しもなければやつれる様子もなかったので、周りは気味悪がり始めていった
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 00:23:27.17 ID:YT7eLNN50
ある日
比較的心を砕いて話しかけてくるフサギコという刑事が、ジョルジュのことを教えてくれた
今日はその顔が、何故か疲れ切っているように見えた
ミ,,゚Д゚彡「長岡君、本当に仲のいい友達だったんだな 学校の子から聞いたよ」
( ゚д゚)「……」
ミ,,゚Д゚彡「…………なんでこうなっちまったのかな」
( ゚д゚)「…………」
ミ,,゚Д゚彡「……俺達は、君と彼に諍いでもあったのかと思ったんだ お年頃だしね」
( ゚д゚)「…………」
ミ,,゚Д゚彡「彼、本当は 先週くらいには意識を取り戻してたんだ」
( ゚д゚)「!! ジョルジュが!?もう大丈夫なんですか!?」
初めて見せた反応に刑事は感心し、それでも痛ましい表情をして、話を続けた
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 00:27:29.67 ID:YT7eLNN50
ミ,,゚Д゚彡「山はとっくに越えていたし、ショックで目を覚まさないだけだろうって話だったんだけどな
…彼 意識が戻った時、一度暴れたんだ」
ミ,,゚Д゚彡「点滴で輸血してたんだけど、それを見ていきなり叫びだしてね」
( ゚д゚)「……」
輸血
なんとなく、ジョルジュが何を思ったのかがわかった気がした
ミ,,゚Д゚彡「それから鎮静剤打って、ICUから普通の病室……っても個室なんだけど、そっちに移ったんだ」
ミ,,゚Д゚彡「この一週間、意識はあるのにずっと寝たきりで、食事も摂っていなかったんだ
あー……そういえば君も食事は摂っていないね」
( ゚д゚)「……必要が、ありません」
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 00:30:24.21 ID:YT7eLNN50
ミ,,゚Д゚彡「あるだろ 彼だって、点滴で栄養だけは摂ってたんだぞ。何回も勝手に引き抜いてたけど」
( ゚д゚)「…………」
ミ,,゚Д゚彡「なに笑ってるんだ」
( ゚д゚)「いえ で、ジョルジュは……」
ミ,,゚Д゚彡「あ?情報だけ引っ張ろうなんて最近のガキぁ……
えーと……そうそう、昨日の話だ」
( ゚д゚)「昨日……?」
ミ,,゚Д゚彡「長岡君、ご両親が目を離した隙に病室を抜け出して、病院の五階の窓から飛び降りたんだ」
( ゚д゚)「…………」
飛び降りた
即死だったらしい
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 00:33:58.20 ID:YT7eLNN50
そうなるような気はしていた
輸血が行われるだろうことも覚悟して、救急車を呼んだ
他人の血が混ざってしまったジョルジュの血を、自分の体が受け付けることはないだろう
出来れば、ジョルジュにはそこで諦めてほしかった
しかしジョルジュは、諦めるのではなく絶望した
目撃者の話によると、廊下の奥から裸足で駆け抜け、
『混血なんて意味がないんだ』などと叫んで、換気の為に開けられていた廊下の突き当たりの窓に飛び込んだらしい
どこまでいってもジョルジュらしい行動に、思わず口元が緩んでしまう
刑事が眉根を寄せる
ミ,,゚Д゚彡「何がおかしい」
( ゚д゚)「……彼らしい、と思いました」
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 00:37:31.18 ID:YT7eLNN50
ジョルジュが死んだ
自分を繋ぐものも、自分を生かすものもなくなった
次は自分の番だ
腹を括ると、とても清々しい気持ちになれた
ミ,,゚Д゚彡「……友達が亡くなったってのに、なんでそんな顔…」
( ゚д゚)「刑事さん」
話の腰を折ってしまう
何かを言われる前に、成し遂げてしまいたかった
( ゚д゚)「刑事さん ジョルジュの失血量と現場の血痕に、疑問を抱いていましたね」
ミ,,゚Д゚彡「……ああ、そうだ。現場の血痕や服に付着した血では、どう考えても少なかった」
怪訝な顔のままの刑事を見て、にたり、と笑う
笑ってしまう
誰も『食事』のことは知らない
消えた血液がどこにいったのか、誰も 想像も出来はしないだろう
- 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 00:40:57.61 ID:YT7eLNN50
( ゚д゚)「ジョルジュが言っていました
生き物というのは、他の命を喰わなければ生きていけないんだ と」
ミ,,;゚Д゚彡「あ?……んまぁ、そうだな。肉も魚も、もとは生きてるもんだから
で?それが何か関係あんのか?」
( ゚д゚)「…………僕は、『食事』が嫌いでした。自分の為に他が血を流す
悍ましいとすら感じました」
ミ,,;゚Д゚彡「んなこと言ったって、食わなきゃ生きていけないだろうが」
( ゚д゚)「そこまでして、生きていたくはありませんでした。
ジョルジュは、そう言う僕を叱りました」
ミ,,゚Д゚彡「…お?おう」
( ゚д゚)「しかし、ジョルジュは死んでしまいました。
あれは、僕のせいです」
ミ,,;゚Д゚彡「は?それはどういう……」
( ゚д゚)「そしてもう、僕には命を繋ぐ術がありません」
ミ,,;゚Д゚彡「待て、意味が解らん。詳しく……」
が り っ
- 79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 00:43:27.20 ID:YT7eLNN50
* * *
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 00:46:35.64 ID:YT7eLNN50
* * *
( ・∀・)「ギコー!こっちこっち!!」
(,,;゚Д゚)「花束抱えてるだけの奴ぁいいよなゴルァ」
( ・∀・)「ここ聞き出したの俺なんだからなっ!」
11月の終わり
先日四十九日が終わり、忌明けとして遺骨が墓に納められたばかりだ
俺達は、花束を抱えて二人の墓参りに来ていた
住んでいた地域が同じなせいか、二人とも同じ墓地だ
墓石もさほど離れてはいない
掃除は、墓自体はきれいだったので積った木の葉だけを掃き出すだけになった
花を供え、線香を供える
( ・∀・)「これであってる?」
(,,゚Д゚)「お前はお盆とかに墓参りしないのか」
( ・∀・)「うちはとくべつだからね」
(,,゚Д゚)「そうかよ。 ほら、こっちにも線香あげろ」
( ・∀・)「おっ ミルナごめんなー」
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 00:49:27.65 ID:YT7eLNN50
詫びを入れ、きちんと両方に線香を供えた
ギコに並んで一緒に手を合わせ、次に来るときは作法を覚えてくると約束をする
( ・∀・)「また頻繁に来るんだからな!」
(,,゚Д゚)「余裕だなぁ 来年から受験生だってのに」
( ・∀・)「二人に会いに来るくらい、ちゃんと時間割くよ」
下のお寺で借りてきたバケツと柄杓を担ぎ上げる
中身は掃除で使い切っていた
墓地を出、バケツと柄杓を返しに寺へ向かう
舗装されきっていない道の端で、ススキが我が物顔で群れを成している
それを横目で見ながら、ずっと避けていた話題をギコにふってみた
- 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 00:52:24.06 ID:YT7eLNN50
( ・∀・)「……なん、だったんだろうね」
(,,゚Д゚)「…………なんだったんだろうな」
最初少しだけ考え、ギコは 俺が言わんとすることを酌んでくれた
顔は余所を向いている
( ・∀・)「二人とも、だったね」
(,,゚Д゚)「…………親父が教えてくれたんだけどよ
ミルナ、ジョルジュが飛んだって聞いて、舌噛み切ったらしいぜ」
( ・∀・)「この二人デキてんのかなーとは思ってたけどね」
(,,゚Д゚)「本気で言ってんなら、俺はお前の友達やめるわ」
( ・∀・)「ひどいな」
- 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 00:55:30.42 ID:YT7eLNN50
会話は淡々と進んでいく
冗談を交えても、お互い笑うことはない
(,,゚Д゚)「……ジョルジュが運ばれた日、現場は血が沢山散ってたらしい
でも、ジョルジュの失血はあれだけじゃないはずだったんだと」
( ・∀・)「なにそれ あいつ献血にでも行ってからカラオケ行ったの?」
(,,゚Д゚)「そこまで馬鹿ではないと信じたいな」
( ・∀・)「ジョルジュならやりかねないけどね」
(,,゚Д゚)「ミルナが、何に関してかはわからんが「自分のせいだ」とか言ったんだと」
( ・∀・)「なんのことだろうね」
(,,゚Д゚)「ジョルジュの死か、血の話か」
( ・∀・)「…………」
(,,゚Д゚)「…………」
- 87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 00:59:35.34 ID:YT7eLNN50
( ・∀・)「そういえばさ、ジョルジュの最期は、『混血なんて意味がないんだ!!』だったよな」
(,,゚Д゚)「だな」
( ・∀・)「…………」
(,,゚Д゚)「…………」
( ・∀・)「…………なんでかな 俺、美術の時の事思い出した」
(,,゚Д゚)「……ジョルジュが怪我した時か?」
( ・∀・)「そ。ほぼ無意識でミルナが指舐めたやつ」
(,,゚Д゚)「…………血、か」
( ・∀・)「…………意味、わかんないね」
(,,゚Д゚)「……だな」
- 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/24(水) 01:04:35.89 ID:YT7eLNN50
風が吹いた
乾いた風がススキを凪いで、音を立てる
あおられた髪を撫でつけ、小さく深呼吸をすると、枯草と鉄錆が混じったような 秋独特の匂いがした
ふと 血の匂いに似てるな と、思った
乾いた風の後に残る、きんとした冷たさ
冬が来る
コートのポケットに手を入れて、柄杓とバケツを担いだ
( ・∀・)「早く帰ろう 暗くなる」
(,,゚Д゚)「あぁ」
蚊帳の外だった俺達に蟠りを残して、一つの季節の終わりを告げた
*
( ゚д゚)食事をするようです 後編・了
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