- 49 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/07(水) 21:05:44 ID:.7IHk5os0
一般に、我々科学者は次のようなプロセスで新たな法則を見出す。
第一に、当てずっぽうで考えてみる。
笑ってはいけない。これは一番大事なステップである。
次に、その法則でどうなるかを計算してみる。
そして得られた結果を経験と比べてみる。
通常、経験と合わない場合はその法則は間違っている。
だが、今回のような場合はとてもじゃないが経験則を持ち出すことはできない。
なぜなら我々人類はその結果を体験していないからだ。
経験と合わないものは間違っている。
だが、宇宙同士の衝突によって予測される未来を我々はどう経験と照らし合わせればよいのだろう?
リチャード・ファインマン
从 ゚∀从ヤンキー娘がエイリアンと遭遇したらこうなるようです
第2話「探索」
【ネヴカドネザル:生活居住区-1階】
( <●><●>)「酷い……ですね」
ミ,,゚Д゚彡「俺ァその言葉を脳みそで反復し過ぎて、
とっくにゲシュタルト崩壊を起こしてるよ」
ひたり、ひたりと歩く影が四つ。
それぞれの手には工具や鉄棒などが握られている。
勇気を奮い起して進入したネヴカドネザルの船内は殺戮現場そのものだった。
死者累々というわけではなかったけど、ところどころに乗組員の死体が
無惨に転がっていて、三十を超えたあたりからハインは数えることを止めている。
船内も相変わらず薄暗く、ハインたちは宇宙服に取り付けられた
懐中電灯を頼りに僕たちはゆっくりと無人の通路を進んでいた。
- 50 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/07(水) 21:12:53 ID:.7IHk5os0
从 ゚∀从「死体。あんまり腐ってないな」
( <●><●>)「船内の平均気温が摂氏十八度ですからね。
臭いが弱いのがせめてもの救いです……」
一番年下のハインが死体にあまり物怖じしない様子を見て以来、
ワカッテマスはあまりネガティヴな発言をしなくなった。
ただ、バケモノから受けた肩の傷がかなり痛むようで鉄パイプを握る姿も少し弱々しく見える。
ワカッテマスは男らしいという言葉とは無縁のインテリ系だけど、
年下の後輩に情けない姿を見せるほどの甲斐性なしというわけでもない。
ショッキング・ピンクの宇宙服のせいで威厳は半減してしまっているけれど……。
ミ,,゚Д゚彡「大丈夫かワカ。居住区には医療室もある。
痛み止めがあるはずだからそれまで耐えてくれ」
( <●><●>)「申し訳ありません。しかし先ずは幹部室へ行くことを
優先しなくては。出血は止まっているので治療はその後でも可能です」
(´・ω・`)「おい、ちょっと待て」
- 51 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/07(水) 21:14:59 ID:.7IHk5os0
何かに気付いたショボンが明かりを暗闇の一端へ向けた。
その先には死体がひとつ転がっていて、今まで見てきた乗組員とは違う制服を着ていた。
(´・ω・`)「この船の警備員だ」
从;゚∀从「うへ……首から上が無くなってる」
(´・ω・`)「…………」
从 ゚∀从”「あ、ショボン。何処行くんだよ」
皆が見守る中でショボンは躊躇うことなく警備員へと近づき、おもむろに身体を調べ始めた。
ごそごそと服をまさぐる音だけが辺りに響き、やがて「あった」という台詞と共にショボンが
満足そうに僕たちの元へ戻ってきた。
ミ,,゚Д゚彡「何をしていたんだ?」
(´・ω・`)「あの死体が腕につけている腕章は警備員の区画責任者の証だ。
こいつのIDはこの辺りを調べるのに役に立つ。
レベルの低いセキュリティなら無条件でパスできるからな」
そういってショボンは乾いた血が付着した磁気カードをひらひらと見せた。
もう一方の手にはいつの間にか警備員用の拳銃も握られている。
从 ゚∀从「あ。M92Fじゃん! しかもカスタム仕様……」
ミ,,゚Д゚彡「使えるのか?」
(´・ω・`)「まさか。ID銃だからな。正規の持ち主以外ではロックがかかる。
その持ち主もくたばった今、こいつはただの鉄の塊だ」
- 52 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/07(水) 21:23:20 ID:.7IHk5os0
慣れた手つきでクルクルと拳銃を回すショボンを見て、
武器マニアのハインが目をキラキラと輝かせた。
从 ゚∀从「でもさ。ワカならクラッキングして使えるようにできるんじゃないか?
この前の火星でやったみたいにさ」
( <●><●>)「できなくはないでしょうが、ちゃんとした道具がないと無理ですよ。
少なくとも電磁石スパナや未使用のIDチップが必要です」
(´・ω・`)「どこかでアンロックできる可能性があるから持っておくにこしたことはねえ。
エイリアン退治には銃と相場が決まっている」
そう言いながらショボンは腰のポーチに拳銃をぶっきらぼうにしまいこんだ。
从 ゚∀从「なあ。どうせ使えないならくれよ」
(´・ω・`)「だが、断る」
从 ゚3从「なんでだよ〜! ケチッ!」
(;´・ω・`)「おまっ……よく考えてもみろ。
使えないとはいえ、猿に銃を持たせたらどうなると思う?」
从 ゚∀从「あ〜確かに。何かの拍子で暴発させたり、下手したら撃れちゃうかもだよな。
ちゃんと賢い人間が管理しないと危な……ちょっと待てコラ」
( <●><●>)「そういえば、ビコーズは軍用兵器でしたよね。
何か武器とかはついていないのですか?」
- 54 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/07(水) 21:32:01 ID:.7IHk5os0
- ふと、思い出したようにワカッテマスが僕を見つめた。
( ∵)「ププ……」
残念ながら期待に添えるようなオプションを僕は持ち合わせていない。
確かに僕は軍用兵器だけど、あくまで斥候や監視といった
スパイ的な行為をするために生み出された存在だから、殺傷武器の類は持っていないのだ。
从 ゚∀从「一応、常備としてスタンガンはあるけど威力なんて殆どないし……。
でも銃とかを持たせたら扱えるぜ。普段は工具を握ってるけど」
(´・ω・`)「確かこのフンコロは世間にゃ公表されていない試作兵器か何かだったろ。
ハイン、お前どうやって手に入れたんだ? うちに来たときから連れていたよな」
ショボンの思わぬ質問にハインは一瞬ギクリとした。
。
非殺傷兵器とはいえ、既に量産されて試験配備までされている最新鋭
ロボットを民間の人間がおいそれと手に入れられるわけがない。
ショボンの疑問も当然だろう。
( ∵)「プーン」
从 ゚∀从(…………)
(´・ω・`)「……?」
実は、ハインは宇宙エンジニアとしてちゃんとしたプロセス……つまり学校に通って宇宙工学免許
を取得し、国際宇宙開発連盟に正式に登録された上で今の職に就いたわけではない。
ある日突然石村屋にやってきて自分を雇ってくれとフサギコさんに頼み込んできたのだ。
詳細な説明は省くけど、フサギコさんたちはそのときとある事件に巻き込まれていた。
その時に色んな段階を踏んだ結果としてハインは石村屋に受け入れられているので、
実は過去の経歴がちょっと怪しい存在なのだ。
- 55 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/07(水) 21:33:47 ID:.7IHk5os0
从 ゚∀从「ち、地球で退役軍人がやってるお店で手に入れたんだよ。
ソフトウェアがちょいと書きかえられてるけど、
スペックダウンもしていないレアものなんだぜ」
(´・ω・`)「はん。まあ確かに便利だわな。市販のロボットと違って
ロボット三原則も適用されていないし、融通が効く」
从 ゚∀从「だろ? 欲しいって言ってもあげないぜ」
(´・ω・`)「いらんわ。そんなウンコみたいなポンコツ」
( ∵)「ピピ!? ビー!! ビー!!」
(´・ω・`)「なんだよ。機械の癖に一丁前に怒ってんのか?」
ミ,,゚Д゚彡「…………」
- 56 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/07(水) 21:36:08 ID:.7IHk5os0
石村屋の中でハインの素性を知っているのはフサギコさんだけだ。
フサギコさんはハインの過去をを知った上で受け入れているし、
ハインもその意味をちゃんと理解していた。
入社した当初は専門用語や独特な宇宙工具に悪戦苦闘していたハインだけど、
もともと機械に対して持っていたセンスもあって、
今ではひとつの仕事を任されるほどの腕前になっている。
もちろん先輩であるワカッテマスやショボンの技術には遠く及ばないけど、
それでも今は皆から仲間として認められていた。
人間の評価は過去ではなく現在の姿でこそ認めるべきだ、というのが石村屋の価値観なのかもしれない。
从 ゚∀从「お、この辺じゃないか? セクションB-2ってここだろ」
そのハインが壁に印字された文字を照らし出した。
セクションB-2は僕たちが目指すニューソク社の幹部たちが使う居住区画を指している。
味気ない一般社員の居住区画とは違い、この区画の床は紅い絨毯で敷き詰められ、
各部屋に繋がる廊下には高級絵画のレプリカや彫刻などが飾られている。
照明がちゃんと機能していればどこかのリゾートホテルの一角と見違えてもおかしくないだろう。
- 57 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/07(水) 21:37:06 ID:.7IHk5os0
(´・ω・`)「ふーん。いい趣味してんじゃん」
( <●><●>)「豪勢な作りですね。一介の採掘船にこのような設備を設けるとは……」
ミ,,゚Д゚彡「外部へのパフォーマンス的な意味合いが強いんだろうな。
有力な支援者なんかを招いて会合をするのさ。
支援金を貰う為に……見ろ、会食用のホールまである」
フサギコさんが指すインフォメーションボードにはこの区画一帯の簡単な見取り図が掲載されていた。
部屋は応接室や今僕たちのいるエントランスホールを含めて二十ほどある。
ひとつの船にこれほど沢山の部屋がいるのかとも思ったけど、
恐らく来賓者が泊まるための客室も兼ねているのだろう。
从 ゚∀从「船長室はどこだよ」
ミ,,゚Д゚彡「流石に固有の名前は書いていないな……テロ対策だろうが」
( <●><●>)「地道にひとつずつ調べていくしかないようですね」
(´・ω・`)「警備員のIDが効けばいいが、あまり期待は―――――――!!」
- 58 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/07(水) 21:38:28 ID:.7IHk5os0
四人の人間が一斉に背後を振り向いた。
顔には緊張の色。
手にする武器がいつにもまして強く握り絞められ、
心臓の鼓動は高くなり、暗闇に対する暗順応で大きくなった瞳がさらに大きく見開かれる。
ミ,,゚Д゚彡(……聴こえたか?)
姿勢を低くしながらフサギコさんが小声で問い掛ける。
(;<●><●>)(はい。あの右側の通路から)
胸元の懐中電灯の光源を弱くしながらワカッテマスが暗闇の奥を震える手で指差す。
紅い絨毯が続く先は光が弱過ぎて殆ど何も見えないけど、
グチャクチャという気味の悪い音と大きな何かが蠢いている音が確かに聞こえる。
从 ゚∀从(あのバケモノか?)
ミ,,゚Д゚彡(わからん。今のところ、こちらに気付いている様子はないようだが……)
( <●><●>)(う、迂回しますか? こちらに来る前に移動すべきです)
(´・ω・`)(これからこの区画を調べるのにか?
野放しになったバケモノのいる場所で
冒険ごっこはあまり気が進まねえな)
- 59 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/07(水) 21:45:42 ID:.7IHk5os0
確かにその考えも一理ある。
もし暗闇の先に蠢くものがあのバケモノならば僕たちの行動は大きく制限されてしまう。
ここで何か手を打たないとまともな調査はできないだろう。
ミ;-Д-彡(…………)
皆がフサギコさんの決断を待っていた。
非常時のとき、リーダーは一人以上いてはいけない。
指揮系統が混乱すれば組織の統率力が崩れてしまうからだ。
ましてやここは本来人間が活動しえない宇宙空間。
統率の乱れが事故に直結するなんてこともザラにある。
命令権のある人間のプライオリティは厳格に定められ、
例えそれがトップであっても逸脱と反故は許されない。
これは宇宙船だけでなく、戦闘艦や潜水艦といった閉鎖環境の中でも普及しているものだ。
ハインもワカッテマスもショボンもそういった事柄を根本的に理解していたし、
なによりフサギコさんの能力を全面的に信頼していた。
ミ,,゚Д゚彡(考えろフサギコ。最も効率よく、かつ安全に目的を達成できる手段を……)
だから、こういった未曾有の事態に陥っても他人が不思議に思うほどにハインたちは冷静でいられる。
伊達に同じ釜の飯は食っていないというわけだ。
- 60 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/07(水) 21:48:52 ID:.7IHk5os0
ミ;-Д゚彡(こちらは四人いる。相手が一匹だけなら何とか倒せるかもしれないな)
しかし、リスクが低いわけでもない。
何せ石村屋が持っている得物といえば鉄パイプと大型スパナとレーザー採掘銃ぐらいだ。
採掘銃は殺傷能力が大きいし、あのバケモノにも効果があることは先ほどの騒ぎで
実証されているけど射程距離はせいぜい二メートル前後……
倒すにはある程度の距離まで接近しなくちゃいけない。
しかし、なるべくならあの悪魔のような鎌腕には近づきたくないものだ。
从 ゚∀从(社長! どうすんだよ)
ミ,,゚Д゚彡(……わかった。迂回しよう。
あの通路から離れた場所から調べていく
このホールから伸びている通路は五本。
残りの四本に当たりがある確率は高い)
(´・ω・`)(なかったら?)
ミ,,゚Д゚彡(そのときに考える)
(´・ω・`)(…………)
- 61 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/07(水) 21:50:27 ID:.7IHk5os0
正しい判断だ。
自慢ではないけど、石村屋は今までいろんな危険を乗り越えてきた宇宙活動のプロ集団だ。
宇宙のプロとは危機回避、リスク判断、即断即決に長けている者を指す。
彼らは戦闘のプロでもなければトレジャーハンターでもない。
僕たちが最もすべきことはこの船から脱出することであってバケモノ退治ではないのだ。
ミ,,゚Д゚彡(よし行くぞ。やばくなったら直ぐに退く。
ハイン、万一のときはお前の武器が頼りだ。無茶するなよ)
从 ゚∀从(任せておけ!!)
何をしているのか想像したくもない音を立てている"ソレ"に気付かれぬよう
僕たちは慎重に反対側にある通路を進む。
豪奢な廊下は左右に蝋燭を模したホログラムがチカチカと揺れていている。
適度な暗さの中で金縁の絵画たちが僕たちを見つめる様は中世ヨーロッパの古城を連想させるけど、
真っ赤な絨毯の所々に染みる黒い斑点がそれら幻想的な雰囲気を一気にゴシック・ホラーの世界へと
引きずり込んでいた。
- 62 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/07(水) 22:00:24 ID:.7IHk5os0
ミ,,゚Д゚彡「よし、先ずはこの部屋からだ。
ワカッテマス。頼むぞ」
( <●><●>)「承知しました」
個室と廊下を隔てるスチール製の扉にはカードリーダーが取り付けられている。
本来は部屋の持ち主がIDカードを通して中に入るけど、この幹部区画では
従来のものよりもセキュリティレベルが一段高く設定されているようで、
ショボンが手に入れた警備員責任者のIDではパスすることができなかった。
( <●><●>)「そこで工学セキュリティ担当の私の出番というわけです。
これでも昔は2ちゃんでちょっと名の通ったハッカーをしていましてね……」
从 ゚∀从ノ「行け!ハッカー(笑)」
(´・ω・`)「頑張れスーパーハッカー(爆)」
( <●><●>)「…………」カチャ カチャ
从 ゚∀从「速くしろハッカー(藁)」
(´・ω・`)「仕事おせーなハッカー(滅)」
( <●><●>)「次に集中力を削ぐようなことを言ったら、
貴方達のパソコンのUSB指すところに粘土詰めますからね。
あまり私を怒らせない方がいい……。」
ワカッテマスの宇宙服の左腕には小型のパソコンキーボードが内臓されている。
服の首元に取り付けられた『ブック』と呼ばれる立体ホログラムに表示される情報を見ながら、
カードリーダーに小さなコードを指し込み、慣れた手つきで作業をこなしていく。
( <●><●>)「ふむ。天下のニューソク社といっても流石に個室にまでは
強力なセキュリティを走らせていませんね。直ぐに終わりますよ」
- 63 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/07(水) 22:18:40 ID:.7IHk5os0
自信ありげな様子でワカッテマスが少しずつ電子のパズルを解いていく。
そのときだった。
ガシャーン!
何かが割れる激しい音が緊張の糸が張られた空間を大きく揺るがした。
見ると、床には粉々になったブルーオニオン調の高級マイセン陶磁器が散らばっている。
そしてそれを足元に「やっちまった」という何とも言えない表情をした少女が
手をぷるぷると震わせていた。
ミ;゚Д゚彡「バッ……!! なにしてんだお前は!!」
从;゚∀从「い、いや。なんか高そうな皿だな〜って見てたら」
(;<●><●>)「なんでわざわざ固定されている磁器を外したのですか?
全くもって考えられません。
バカですか? あなたはバカなのですか?
さてはバカですね? バカなんでしょう?」
从;゚∀从「バカバカ言うなよ! ピンク色のくせに!」
(;<●><●>)「ピンクは関係ないデス!!」
(´・ω・`)「まずいな。今の音、奴にまで届いてるかもしれねぇ」
ミ;゚Д゚彡「部屋に隠れるぞ。ワカ、まだ開けられないのか?」
(;<●><●>)「無茶を言わないで下さい。ゲームや映画の世界じゃないんですよ?」
从;゚∀从b「し、シーッ! 何か来る……」
- 64 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/07(水) 22:20:57 ID:.7IHk5os0
明らかに僕たちのものではない足音が聞こえてきた。
絨毯を裸足で歩く、衣擦れにも似た音。
本来ならば神経を集中させなければ気付かないようなその音が
今の石村屋にはひたすら不安を煽る警鐘のようにも感じられた。
少しずつ大きくなる異常な存在感。
ところが、ある距離にまで近づくとそれがパタリと止まってしまった。
ミ;゚Д゚彡「…………」
僕たちの動きを窺っているのだろうか。
それとも獲物として見定めているのだろうか。
ひゅー、ひゅー、という呼吸音が暗闇の奥から発せられている。
フサギコさんたちは微動だにできなかった。
指一本でも動かせばこの沈黙の均衡が破れてしまうのではという錯覚に囚われていたのだ。
そんな緊張感の中で、ワカッテマスが組み込んだクラッキングプログラムが
部屋の施錠を解放しようと必死に走り回っている。
クラッキング完了まであと十パーセントという表示がワカッテマスのブックに浮き出ていた。
- 65 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/07(水) 22:34:15 ID:.7IHk5os0
(;<●><●>)「…………」
ミ;゚Д゚彡「…………」
(´・ω・`)「…………」
从;゚∀从「……ッ」
州,"(●)'' {"(●)リ「ッア゛アあ゛ア゛ァぁア゛アアア゛アア゛ァ!!!!」
ミ;゚Д゚彡「来たぞおおおおおおおおおおおお!!!」
来る!
初めて出会ったときとは比較にならないほどの恐ろしい絶叫と速度で
あの鎌腕を持つバケモノがハインたちに向かって突っ込んできた。
さっきのヤツと同じ奴なのか?
一瞬の疑問が皆の頭の中に湧いたけど、それを確認するような余裕はなかった。
もう部屋の解錠を悠長に待つことはできない。
僕たちはすぐさま通路の奥へと全速力で駆け出した。
州,"(●)'' {"(●)リ「あぎゃげげげえ!! hgdぎゃういぇ!!!」
(´・ω・`)「くっ……! 速い。追いつかれるぞ!」
(;<●><●>)「ハイン! 撃って下さい! 撃ってぇ!!」
顔を真っ青にして走るハインがレーザー採掘銃を追手に向かって手当たり次第に発射した。
しかし、ろくに後ろも見ずに引き金を引くのでバケモノには一発も当たらない。
- 66 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/07(水) 22:44:44 ID:.7IHk5os0
州, "(●)'' {"(●)リ「おびょへへhei!! っジャア!!」
从il゚∀从「ぐあっ!? うわあああ!!」
最後尾にいたハインが倒された。
バケモノの跳躍を使った体当たりに巻き込まれてしまったのだ。
(;<●><●>)「そんな!? ハイン逃げて下さい!!」
ミ,,゚Д゚彡「いかん! いくぞショボン!!」
(´・ω・`)「ったく。世話のやける小娘だぜ」
州, "(●)'' {"(●)リ「べべべっべべえええ!!」
从il゚∀从「うわああ!! うわあああああ!!!!」
バケモノに馬乗りにされたハインは悲鳴を挙げながら
あの凶悪な鎌腕から必死に身を守っていた。
ワカッテマスの宇宙服をいとも簡単に切り裂いたバケモノの鎌はリーチがとても長く、
今のハインのような密着状態では逆に使い辛いようだ。
そこでバケモノは真っ二つに裂けた大きな口で獲物の喉を喰い破ろうとするけど、
ハインの必死の抵抗にてこずり、思うように噛みつけない。
- 67 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/08(木) 02:20:34 ID:rZmZOHPE0
从;゚∀从「うわわああああ! 来るなっ。助けて!」
(#´・ω・`)「一本いっとけコラ!」
州, "(●)'' {"(●)リ「ギャイ!!」
(;´・ω・`)「なっ!?」
バケモノの背後に立ち、手にした鉄パイプで渾身の一撃を振るうショボン。
が、まるで背中に眼がついているかのようにバケモノは“肩から出た腕”でそれを受け止めてしまっていた。
(;´ ω `)「ぐぅ!!」
鬱陶しい虫を払うかのようにバケモノはショボンを掴みあげ、投げ飛ばす。
それはもの凄く速い動作で、ショボンは自分が何をされたのか全く理解できないほどのものだった。
ミ,,-Д゚彡「ショボォォン!!」
後に続いていたフサギコさんがそ素早く反応し、空中を舞うショボンを身体を張って受け止める。
それでも大の大人を軽々と投げ飛ばす怪力の勢いに耐えきれず
二人揃って床へ倒れこんでしまった。
从;゚∀从「社長! ショボン!」
州, "(●)'' {"(●)リ「ぎゃひひひひひひ! ひひ!!」
さあ、お楽しみの続きだ。とでも言うかのようにバケモノは満足そうな
気味悪い声を出しながら再びハインへと向き直る。
一瞬の隙を突いて向けたハインの工具銃はいともたやすく奪い取られ、
抵抗していた両腕もいつのまにかバケモノの“腹の腕”が
ガッシリと組み伏されてしまっている。
もう、ハインを守る術はなかった。
- 68 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/08(木) 02:38:32 ID:rZmZOHPE0
(;<●><●>)「ハィイイイン!!! あきらめちゃダメです。今助けます!!」
ミ#-Д゚彡「ちくしょう!! 武器! 何か武器は!?」
(;´ ω・`)「…………」
从;゚∀从「わっ。あっ! あっ!? 止めろ!」
州, "(●)'' {"(●)リ「うびぶっばししゃしゅ……キヒヒヒ」
从;゚∀从「いやだああああ!! 助けて! 誰かァ!!」
恐怖に染まるハインの顔を愛おしそうに眺めるバケモノ。
そして邪魔が入らぬうちに己の顎を大きく横に裂き、一気に頭へとかぶり付いた。
州;"(○)'' {"(○)リ「ゲビッ!? グフッ!!」
从; ∀从「!?」
かぶり付いたが、頭骨を一瞬で噛み砕く強靭な顎は空を噛んだ。
真横から入れられた強烈な衝撃によって身体ごと吹き飛ばされたからだ。
从; ∀从「……? ??」
州;"(●)'' {"(○)リ「ゲヒャ!? ガハッ、ゴホッ」
さきほどのショボンのように、今度は自分が宙を舞ったバケモノは
不意の攻撃による苦痛に身体を捩じらせ、床をのたうち回る。
攻撃された当人を含め、いったい何が起きたのか全くわからない。
ハッキリしていることは、ハインが無事だったということ。
だけど今の石村屋にとってはそれだけで充分だ。
- 69 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/08(木) 02:44:31 ID:rZmZOHPE0
ミ;-Д゚彡「な、なんだ……今、何かが……」
(;<●><●>)「社長!」
ミ;-Д゚彡「俺は大丈夫だ。それよりハインとショボンを頼む」
(;<●><●>)「承知しました。ハイン、さあ速く。
今のうちに奥へ逃げるのです!
呆けてないで、さあ!!」
从;゚∀从「あ……う、うん……」
(´・ω・`)「…………」
(;<●><●>)「ショボン! 貴方もです!
何をボーっとしているのですか!?らしくないですよ!!」
(´・ω・`)「来る」
(;<●><●>)「え?」
- 70 名前: ◆GOO3eNv.Vk 投稿日:2011/09/08(木) 02:52:25 ID:rZmZOHPE0
そのときだった。
僕たちが逃げようとした方向の通路から何かがやって来た。
それは重くて、強靭で、そして速かった。
床を踏みしめる一歩一歩の音は力強く、同じ高速移動でも
バケモノのそれとはまるで異質なものだった。
(;<●><●>)「わっ!?」
ミ;-Д゚彡「おおっ!?」
大質量を伴った旋風の如く、それは僕たちの間を駆け抜け
思わぬ襲撃から体勢を整えようと立ち上がった化け物を再び吹き飛ばした。
州, "(●)'' {"(○)リ「ゲハッツ!!」
猛烈な膝蹴り。
旋風は人の形を成していた。
ィk=--ト、
以R[゚::7「うーん。ハットトリック」
黒いボディ。
鈍銀色の金属兜。
青白く光るバイザー。
現代世界に舞い戻った西洋の騎士がそこにいた。
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