- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 23:28:47.31 ID:BpWZNTIc0
第十六話【名も知らぬ少女】
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 23:30:35.60 ID:BpWZNTIc0
- 荒巻さんに貰った魔法の松明を片手に、僕は洞窟を進んだ。
ついさっきまで水に浸かっていたからだろうか。
地面はぬめぬめとしていて、少し進むのだけでも一苦労だ。
ところどころ水たまりも残っている。
(;^ω^)「うおっ!?」
案の定足を滑らせた。
辺りは暗闇に包まれてしまった。
松明を水たまりに落としたのだ。
( ^ω^)「魔法の松明のくせに水で消えるのかお」
僕は悪態をつきながら腰をさすった。
こうも暗闇の中で一人きりでいると、自然と独り言が出てしまう。
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 23:33:13.48 ID:BpWZNTIc0
- ( ^ω^)「さて……」
どうしたものか。
完全な闇。
自分の身体がどこからどこまでなのかすら見失ってしまいそうだ。
まるで、暗闇に溶けてしまったようだ。
僕は手探りで前に進んだ。
しばらく進んだところで、石につまづいて顔面から水に突っ込んだ。
(;^ω^)「げほっ……」
こんなんじゃ地上に出る頃には痣だらけだろう。
簡単な火の魔法でも荒巻さんに習っておくべきだったか。
僕はため息をついた。
荒巻さんが松明に火をつけるときの様子を思い出してみた。
何か呪文みたいなものを呟いていたような。
試しに手をかざしてみる。
( ^ω^)「火よ!」
僕の声は洞窟に虚しくこだまするだけだった。
だいたい、魔力の込め方すら知らないのに魔法が使えるわけがない。
せめて光石でも持っていれば。
僕は服のポケットを漁ってみた。
しかし、もちろん何もない。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 23:35:07.12 ID:BpWZNTIc0
- ( ^ω^)「そうだお!!」
我ながら天才かもしれない。
僕は腰の剣を抜いた。
鞘と刃の擦れ合う音が洞窟に心地良く響き渡る。
そして、辺りは青い光に照らされた。
( ^ω^)「まさかこんな用途で勇者の剣を使うとは思わなかったお」
しかし、これで先に進める。
荒巻さんと前の勇者さんに感謝しなければ。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 23:37:29.62 ID:BpWZNTIc0
- それからいくらか進むと、開けた空洞へと出た。
(;^ω^)「わーお……」
目の前の光景に思わずため息が洩れる。
ドーム状の広場の、天井から壁から床まで至る所から所狭しと水晶が生えているのだ。
まるで水晶でできた森のようだった。
こんな綺麗な光景がこの世界にあったなんて。
( ^ω^)「冷たいお」
水晶に手を触れる。
ひんやり冷たく気持ちが良い。
荒巻さんはこの場所を知っているのだろうか。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 23:39:37.81 ID:BpWZNTIc0
- 一歩歩くたびに、足元で細かい水晶の砕ける音が響く。
それがなんだか楽しくて、ステップを踏んでみた。
( ^ω^)「?」
背後で微かに水晶の砕ける音がした。
と同時に、殺気を感じ取る。
人間のそれよりも遥かに凶暴で冷たい。
( ^ω^)「くっ!!」
振り返るとほぼ同時に、剣で防ぐ。
水晶が僕の心臓を貫こうとしていたのだ。
(;^ω^)「これはいったい……」
さっきまで青く美しく輝いていた水晶が、全て血のような朱に染まっていた。
水晶の魔物か。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 23:42:13.30 ID:BpWZNTIc0
- (;^ω^)「くそっ!」
一斉に伸びてきた水晶を剣で砕く。
しかし、いくら砕いてもきりがない。
新しい水晶が次から次へと生えてくるのだ。
本体を見つけて攻撃しないと、どうしようもない。
辺りを見回そうとした、その時だった。
(;^ω^)「!!」
突然、足が凍ったように動かなくなった。
見ると、水晶に足が固められてしまっていた。
やられた。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 23:45:58.06 ID:BpWZNTIc0
- 広場の奥に、一際大きな水晶が見えた。
その中で、白い肉の塊が脈打っている。
あいつが本体か。
天井から水晶が伸びてきた。
そしてそれは竜へと形を変えた。
赤く透き通った牙を剥き出しにして、僕を睨む。
あらかた、久しぶりの人間の肉を見て興奮してるのだろう。
( ^ω^)「そう簡単に食われてたまるかお」
剣を構えて睨み返す。
しかし、足が動けないせいでうまく戦えないだろう。
あの心臓を貫くのが先か、僕が貫かれるのが先か。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 23:48:43.67 ID:BpWZNTIc0
- 〜〜〜〜〜〜
ξ;゚听)ξ「ぶはぁ!!」
水面から顔を出す。
そこは完全な真っ暗闇だった。
地上の光ももはや見えない。
ξ゚听)ξ「我ながら情けないわね」
思わずひとりごとが洩れた。
ひたすら壁を降りてここまで来るはずだった。
しかし、あろうことか手を滑らせたのだ。
着水する寸前に、拳の衝撃波で落下の勢いを殺したから問題なかったが。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 23:51:17.84 ID:BpWZNTIc0
- しかし、同時に希望も見えた。
地底湖に落ちたのなら、ブーンは生きているだろう。
気を失って湖底に沈んでないといいが。
立ち泳ぎの状態で手をかざす。
簡単な呪文を唱えると、明るい光が手に灯った。
ξ゚听)ξ「?」
目を凝らすと、砂辺が見えた。
小さな人影も見える。
一瞬、私は心を躍らせた。
しかし、近づいてよく見ると、それはブーンではなくただのちっぽけな老人だった。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 23:53:43.54 ID:BpWZNTIc0
- / ,' 3「それを消さんか! 眩しいわい!」
岸に上がると、老人が喚いた。
ξ゚听)ξ「ああ、これ?」
私は手の光を消した。
再び地底湖は闇に包まれた。
あるのは老人の杖に灯った微かな光だけだ。
ξ゚听)ξ「あなただあれ?」
/ ,' 3「わしは荒巻じゃ」
ξ゚听)ξ「ふーん。私はツンよ」
/ ,' 3「ツン? 変わった名前じゃのう」
ξ゚听)ξ「うっさいわね」
荒巻は笑いながら、ひょこひょこと歩いていった。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 23:56:33.71 ID:BpWZNTIc0
- / ,' 3「ついて来なさい。食事を出そう」
ξ゚听)ξ「ごめんなさい。でもそんな暇は……」
荒巻が杖を私に向けた。
勝手に足が動き出す。
ξ#゚听)ξ「何すんのよ!」
/ ,' 3「わしじゃって久しぶりに若い女子と食事がしたいんじゃ!」
ξ#゚听)ξ「そんなの知らん!」
/ ,' 3「年寄りの話は聞くもんじゃ!」
厄介な老人に捕まってしまった。
こんな所で時間を食っている暇はないのに。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 23:58:25.04 ID:BpWZNTIc0
- 気がつくと、荒巻の住処らしき場所まで歩いてきてしまっていた。
/ ,' 3「さ、遠慮せず」
ξ#゚听)ξ「……」
遠慮するも何も、私の体を動かしてるのは向こうだ。
私は座らざるをえなかった。
この老人のどこにいったいこんな魔力が。
/ ,' 3「♪〜」
老人は調子の外れた鼻歌を歌いながら何かを漁っている。
暗闇のせいでよくわからないが、とにかくすごい臭いが漂ってきた。
食事にするんじゃなかったのだろうか。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:00:20.08 ID:Y08v37GI0
- / ,' 3「二人も連続で客人が来ると、出すものがなくなるのう」
ξ゚听)ξ「ちょっと待って!」
今、『二人も』って言ったのは聞き間違えではない。
ξ゚听)ξ「最近誰か来たの?」
/ ,' 3「最近も何も、おぬしが落ちてくる前日までいたわい」
ξ゚听)ξ「どんな人? 男? 歳は?」
私は興奮して、まくし立てるように尋ねた。
/ ,' 3「なんじゃなんじゃ、年寄りにそんなに一度に質問するでない」
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:02:20.88 ID:Y08v37GI0
- 落ち着け。
ブーンの安否がわかるかもしれないんだ。
私は深く息を吸ってから、ゆっくり口を開いた。
ξ゚听)ξ「その人の名前はわかるかしら?」
/ ,' 3「名前は言っておらん」
ξ゚听)ξ「何かないの? 特徴とか語尾とか、何でもいいわ」
/ ,' 3「特徴というか職業というかよくわからんが……」
/ ,' 3「なんと、ヤツは勇者じゃった」
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:04:51.24 ID:Y08v37GI0
- その言葉を聞いて、私の中で何かがすっと溶けて消えた。
同時に全身の力が抜けた。
なぜか涙が溢れ出てきた。
ブーンは生きているんだ。
ξ゚听)ξ「よかった……」
思わず言葉がもれた。
/ ,' 3「気の良さそうな青年じゃった。あの若さで世界を背負わせてしまうなんて、本当に申し訳ない」
荒巻は顔を伏せた。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:07:19.81 ID:Y08v37GI0
- ξ゚听)ξ「彼はどこへ向かったの?」
/ ,' 3「知り合いなのか?」
ξ゚听)ξ「ええ」
/ ,' 3「そういえば大切な仲間が待っていると言っておったのう」
荒巻は思い出すように顔を上げた。
ξ゚听)ξ「私は彼を助けにきたの」
/ ,' 3「助けにきたって……まさか、自分の意志でここへ降りてきたのか?」
ξ゚听)ξ「そうだけど」
荒巻は目を丸くして驚いた。
/ ,' 3「あきれた根性じゃ」
ξ゚听)ξ「失礼ね」
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:09:21.25 ID:Y08v37GI0
- / ,' 3「ヤツなら地上へ向かったぞ。あそこが入り口じゃ」
荒巻は暗闇を指差した。
うっすらと洞窟の入り口のシルエットが見える。
ξ゚听)ξ「ありがとう! 私、行くわ!」
そう言って立ち上がると、荒巻は寂しそうな顔をして私を見つめた。
/ ,' 3「せめてスープでも飲んでいかぬか?」
ξ゚听)ξ「……遠慮しておくわ」
そばにある鍋を見ながら答えた。
なにやら得体の知れない物が入っているのが見える。
あんな物食べれるわけがない。
私は荒巻に別れを告げると、洞窟の中へとかけ降りた。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:11:41.83 ID:Y08v37GI0
- 〜〜〜〜〜〜
神経を研ぎ澄ます。
どんな微かな空気の振動も見逃してはならない。
それはすなわち、死を意味する。
( ^ω^)「!!」
とっさに上体を反らす。
胸を赤い水晶がかすめた。
同時に魔物の首が伸びる。
牙が僕を切り裂こうと迫ってくる。
( ^ω^)「くっ!」
剣でそれを弾く。
細かい水晶が舞う。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:13:28.64 ID:Y08v37GI0
- (#^ω^)「隙がデカいお!!」
片手で柄を持ち直し、脳天目掛けて振り下ろす。
紅い水晶が、血のように砕け散った。
( ^ω^)「やったかお……?」
竜の形をしていたそれは、跡形もなく砕けていた。
頭を失った首だけがそこに残っていた。
だが、その直後だった。
( ^ω^)「!!」
粉々に砕け散った水晶が集まり、元通りに再生したのだ。
( ^ω^)「デコイにいくら攻撃しても無駄ってわけかお」
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:15:41.75 ID:Y08v37GI0
- やはり本体に攻撃しないとダメか。
しかし、ヤツの心臓は厚い水晶の壁に守られている。
そもそも、足を固められていてはそこにすら届かない。
まずは足元の水晶をどうにかしなくては。
しかし、剣で砕こうものなら両足ごとぶった斬ってしまいそうだ。
( ^ω^)「どうしたものかお……」
こういうときこそ、魔法や武術が役に立つのに。
剣術しか習わなかった過去の自分を憎んだ。
いや、忘れてしまっただけかもしれないが。
武術無しでこんなもの殴ろうなら、拳が砕けてしまう。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:17:17.39 ID:Y08v37GI0
- そのとき、魔物が吠えた。
明らかに魔力の籠もった咆哮だ。
大技が来る。
( ^ω^)「!!」
次の瞬間、大量の水晶の刃が僕目掛けて飛んできた。
(;^ω^)「ちっ!!」
空中でそれらを叩き割る。
だが、数が多すぎた。
左腕に鋭い痛みが走る。
(;^ω^)「痛っ……」
防ぎそこねた一本の水晶が、僕の左腕を貫いていた。
尖った水晶の先から、僕の血が滴った。
魔物の口元が歪んだ。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:19:15.23 ID:Y08v37GI0
- ( ^ω^)「この程度……」
それを引き抜こうとした瞬間、今度は激痛に襲われた。
(;^ω^)「ぐぁぁっ!!」
あまりの痛みに思わず叫び声をあげた。
見ると、赤い水晶が僕の腕を侵食していたのだ。
まるで木の根のように、僕の皮膚を突き破る。
(;^ω^)「ぐっ……はっ……」
痛みを堪えるので精一杯だった。
激痛で視界が霞む。
もはや戦ってる余裕などなかった。
気がつくと、目の前に魔物の牙が迫ってきていた。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:21:36.32 ID:Y08v37GI0
- 牙が僕の首筋に突き刺さろうとした、そのときだった。
「だりゃぁぁぁぁぁ!!!」
かん高い叫び声と同時に、再び竜の顔面が粉々に砕け散った。
(;^ω^)「!?」
痛みに霞む目を凝らす。
薄暗い中に、金髪の少女が立っていた。
歳は僕と同じくらいか。
その瞬間、彼女の姿が見えなくなった。
いや、瞬間的に移動したのが辛うじて目で終えた。
直後、水晶の砕け散る音が鳴り響いた。
それを見て、僕は目を疑った。
心臓を守っていたあの厚い壁を、拳一撃で砕いたのだ。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:23:49.98 ID:Y08v37GI0
- 「もらったぁぁぁ!!」
彼女は腰の短剣を抜き、それで魔物の心臓を貫いた。
断末魔の叫びが、洞窟の中にこだました。
洞窟を覆っていた水晶が、溶けるようにして赤い血へと変わっていった。
それと同時に、僕の足も解放された。
左腕の水晶も溶けて無くなった。
(;^ω^)「……」
僕は見るも無惨な姿になった左腕を見た。
ぴくりとも動かせない。
痛みを通り越して感覚は麻痺し、もはや自分の腕とは思えなかった。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:26:03.29 ID:Y08v37GI0
- 「全く、心配したんだから!」
暗闇の中、金色の髪をなびかせて少女が振り向いた。
整った顔立ち。
ややつり上がり気味の目。
しかしそれが可愛らしくもあった。
身長は僕より低い。
この小柄な体のどこに、水晶の壁を砕く力があったのだろう。
ξ゚听)ξ「ま、別に、助けに来たわけじゃないけどね!」
彼女はそう言って、僕に手を差し伸べた。
( ^ω^)「あ、ありがとうだお」
僕は戸惑いつつ、彼女の手を取った。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:28:01.28 ID:Y08v37GI0
- ξ゚听)ξ「早くこんな所おさらばしましょ。みんな、あんたが死んだと思って心配してるわよ」
みんなというのはドクオたちのことだろうか。
まるで、彼女は僕のことを知っているかのようだった。
しかし、僕の知り合いに素手で水晶を砕くような少女などいない。
ならば、彼女は誰なのか。
僕は思考を巡らせた。
すぐに思いあたる節は見つかった。
呪いだ。
きっと、時の剣の呪いが、彼女に関する記憶を奪ってしまったのだろう。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:29:41.53 ID:Y08v37GI0
- 言おうか言うまいか迷った。
しかし、言うならなるべく早い方がいい。
いつまでもごまかしていると、兄者の時みたいに面倒くさくなる。
( ^ω^)「……ごめんなさいだお」
思い切って口を開く。
彼女は不思議そうな目で僕を見つめた。
( ^ω^)「すごく言いづらいんだけど……」
ξ゚听)ξ「なあに?」
( ^ω^)「僕には君が思い出せないんだお」
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:31:58.32 ID:Y08v37GI0
- 彼女は驚かなかった。
ただ、一度悲しそうに目を伏せ、それから再び顔を上げた。
ξ゚听)ξ「うん、いいの」
彼女は泣き出したいのを堪えるように笑った。
ξ゚听)ξ「ずっと覚悟はしてたから」
( ^ω^)「……」
その悲痛な表情を見て、胸が張り裂けそうになった。
ドクオやクーのことを忘れてしまったと気づいた時の辛さ。
その何倍もの痛みが、心に突き刺さる。
ξ゚听)ξ「覚悟してたのにね……」
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:34:02.49 ID:Y08v37GI0
- 仄暗い闇の中、彼女の目で涙が光った。
ξ;;)ξ「もう何があっても、ブーンの前だけでは絶対泣かないって決めてたのに……」
彼女は声を震わせた。
ξ;;)ξ「泣いてもいい……?」
僕は黙ったままだった。
彼女は声をあげて泣いた。
洞窟中に、彼女の泣き声が響いた。
僕にはどうすることもできない。
ただ、黙って見ているだけだった。
ぼろぼろになった左腕よりも、胸のほうが痛んだ。
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:36:09.65 ID:Y08v37GI0
だいぶ長く洞窟の中にいたせいか、地上は眩しすぎた。
ξ゚听)ξ「ここはどの辺りかしら」
ツンは辺りを見渡した。
目はまだ赤く腫れていた。
『私はツンって言うの』
彼女はあの後しばらくして泣き止み、そう名乗った。
もちろん、僕には聞いたことのない名前だった。
それから、ツンは目を擦りながら笑ってこう言った。
『ブーンが生きててよかった』
その笑顔には、何か特別な感情がこもっているようにも見えた。
ドクオが僕に抱いてくれていた友情とはまた別のものだった。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:38:16.07 ID:Y08v37GI0
- 洞窟を二人で歩いている間、ツンはたくさんの話を聞かせてくれた。
故郷の村のこと。
旅立ちの前日の祭りのこと。
魔法使いの村でドクオと出会ったこと。
旅の宿でクーと出会ったこと。
砂漠の街を魔物から救ったこと。
竜騎士との死闘。
魔王軍との戦い。
時折楽しそうに、時折寂しそうに、ツンは話してくれた。
僕は何ひとつ覚えていなかった。
まるでお伽話のようで、その主人公が僕だなんて信じられなかった。
でも、なぜかそれを聞いてると嬉しくなった。
夢中になって話を聞いていて、気づいたら地上に出ていた。
ξ゚听)ξ「結構歩いたかしら」
洞窟を抜けて、山の反対側に出たようだ。
ニュー速の要塞は、山の陰に隠れてしまって見えない。
遥か西には、噴煙を上げる黒い山が見える。
あれが死の山。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:40:07.18 ID:Y08v37GI0
- 久しぶりの青い空。
雲がゆっくりと流れていく。
( ^ω^)「いい風だお」
吹き抜ける風はとても気持ちがよかった。
岩山から草原を見下ろしながら、僕は大きく息を吸った。
( ^ω^)「こういう高い所は気持ちがいいお」
ξ゚听)ξ「その辺は変わんないんだ」
( ^ω^)「?」
ξ゚听)ξ「村に帰ったら、いいとこに連れてってあげる」
ツンはそう言って微笑んだ。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:41:43.54 ID:Y08v37GI0
- 故郷か。
ツンの話を聞くまで、全く考えていなかった。
僕にはもう故郷の記憶も無いんだ。
草の匂い。
川のせせらぎ。
子ども達の声。
大きな風車。
パンの焼ける香り。
彼女がどんなに懐かしそうにそれを語っても、僕には全く思い出せなかった。
( ^ω^)「村に帰ってみたいお」
ξ゚听)ξ「もちろんよ」
ツンは顔を赤く染めながら、頷いた。
ξ゚听)ξ「一緒に村に帰るって約束したじゃない」
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:43:46.15 ID:Y08v37GI0
- ξ゚听)ξ「これからどうしよっか?」
ツンが岩に腰掛けながら言った。
ξ゚听)ξ「私はいちおうVIPに帰るつもりでいたけど」
( ^ω^)「VIP?」
ξ゚听)ξ「あれよ」
ツンが指差したずっと先に、白い山のようなものが見えた。
目を凝らしてよく見ると、それが人間の造った建物だとわかった。
ξ゚听)ξ「クーやドクオはみんなあそこにいるわ」
( ^ω^)「じゃあ、そこへ行くお」
みんな、僕のことを心配しているらしい。
ツンも僕にとても優しく接してくれる。
僕は誰ひとりとして覚えていないのに。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:45:15.34 ID:Y08v37GI0
- 〜〜〜〜〜〜
('A`)「自分の体の中を水が流れていくイメージだ」
ノパ听)「水……」
('A`)「その水を全部手の先に集める」
ノハ;゚听)「むぅ……」
('A`)「それを杖に注ぎ込みながら、呪文を唱える」
ヒートはたどたどしく、覚えたばかりの呪文を唱えた。
直後、激しい光と爆音。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:47:54.16 ID:Y08v37GI0
- ノハ;゚听)「おぉ……」
見ると、ヒートの手にあったはずの杖が灰の塊になっていた。
(;'A`)「呪文唱えてから、杖に魔力を込めただろ。逆だって」
ノパ听)「魔法って難しいな!!」
ヒートは灰と化した杖の残骸を放り投げた。
しかし、つまり彼女は初回から杖無しで魔法を発動したわけだ。
しかも、本来なら杖の先に小さな火が灯る程度の初心者魔法だ。
あんな威力が出るわけがない。
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:50:27.08 ID:Y08v37GI0
- ('A`)「やっぱすげえな」
ノパ听)「?」
ヒートは炎のように赤い瞳で不思議そうに俺を見つめた。
本人は何がすごいのか理解してないらしい。
('A`)「新しい杖を貰ってくるよ」
ノパ听)「おう!!」
ヒートは間違いなく最強の魔法使いになれる。
俺はその師になれるかもしれない。
心を躍らせながら俺は立ち上がった。
そのとき、部屋の扉が開いた。
ジョルジュが部屋に入ってきた。
( ゚∀゚)「さっきの爆発はなんだ?」
ジョルジュが部屋を見回す。
灰の塊とヒートを見てから、ジョルジュは俺を睨んだ。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:52:10.03 ID:Y08v37GI0
- ( ゚∀゚)「何してんだよ」
('A`)「ヒートが魔法教えてほしいって言ってきたから」
ノパ听)「私も戦うのだ!!」
( ゚∀゚)「ヒートはダメだ」
ノハ;゚听)「ええええええええ!!」
ヒートが甲高い声で叫んだ。
( ゚∀゚)「一般人は地下に避難を始めてんだろ。ほら、おまえも行け」
ジョルジュがヒートの襟を引っ張った。
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:53:50.64 ID:Y08v37GI0
- ノハ;゚听)「いやだぁぁぁ! 私も戦うんだぁぁぁぁぁ!!」
ヒートは必死にベッドにしがみついて離れようとしない。
('A`)「いいじゃないか。ヒートも戦いたがってるんだし」
( ゚∀゚)「まだガキだ」
('A`)「その辺の兵士よりは全然強いぞ?」
( ゚∀゚)「ダメなものはダメだ」
ノハ#゚听)「ジョルジュの意地悪! オタンコナス! スカポンタン!!」
('A`)「ロリコン!」
(#゚∀゚)「うるせぇ!!」
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:55:55.02 ID:Y08v37GI0
- (*゚ー゚)「どうしたんです?」
しぃさんが部屋に入ってきた。
いつもの綺麗な服装ではなく、戦闘用の装備に身を包んでいた。
腰には剣をさげている。
(*゚ー゚)「城中に声が響いてますよ」
('A`)「ケンカですよ」
(*゚ー゚)「あら、大人気ない」
(#゚∀゚)「ケンカじゃねえ!」
('A`)「しぃさんも戦うんですか?」
(*゚ー゚)「もちろんです。国の一大事には、女だって武器を取ります」
ノハ#゚听)「そうだそうだ!!」
( ゚∀゚)「てめえはガキだろ」
(,,゚Д゚)「おまえもダメだ、しぃ」
振り返ると、ギコがドアに寄りかかっていた。
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 00:58:06.66 ID:Y08v37GI0
- (*゚ー゚)「なんでよ! 私も戦いたいの!」
しぃさんはギコを睨みつけた。
(*゚ー゚)「みんな戦うのに、私は黙って隠れてろって言うの?」
(,,゚Д゚)「そうだ。おまえが戦って何になる」
(*゚ー゚)「私だって戦えるわ!」
そう言ってしぃさんは剣を引き抜いた。
だが直後、ギコがそれをはたき落とした。
(,,゚Д゚)「ほら見ろ。今死んだぞ」
(*゚ー゚)「……ひどい!!」
しぃさんは剣を拾い直すと、頬を膨らませて部屋の出口へ向かった。
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 01:00:10.52 ID:Y08v37GI0
- ( ゚∀゚)「あー、ついでにコイツも連れてってくれ」
ノハ#゚听)「嫌だぁぁぁぁぁ!! ジョルジュのバカァァァァァ!!!」
(*゚ー゚)「行きましょ」
ノパ听)「!」
しぃさんはヒートを手招きすると、ヒートはぴたりと叫ぶのを止めた。
二人は大人しく部屋を出て行った。
('A`)「……」
しぃさんがヒートを呼んだとき、伝心呪文を使ったのが見えた。
おそらく何か良くないことを企んでいるのだろう。
ジョルジュもギコも気づかなかったようだが。
果たして俺はそれを伝えるべきなのだろうか。
('A`)「はぁ……どうしたものか……」
( ゚∀゚)「独り言かよ。きめぇな」
コイツには絶対教えてやらねえ。
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 01:02:28.74 ID:Y08v37GI0
- ( ゚∀゚)「それにしても、姫さんだいぶキレてたぜ?」
確かに、ギコの言い過ぎだったようにも見えたが。
('A`)「しぃさんだって戦う覚悟はあるんだろ?」
(,,゚Д゚)「そういう問題じゃない」
ギコは天井を見つめながら呟いた。
(,,゚Д゚)「あいつに俺の死ぬところなんて、見せらんねえよ」
そう言ってギコは部屋を出て行ってしまった。
('A`)「やっぱ言うべきだったかな……」
( ゚∀゚)「何をだ?」
('A`)「おまえには教えねえ」
(#゚∀゚)「あ?」
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 01:04:49.29 ID:Y08v37GI0
- 〜〜〜〜〜〜
( ゚д゚ )「ひどいですね」
ミルナが医務室の崩れ落ちた壁から、外を見下ろして言った。
(=゚ω゚)ノ「門の前の広場が崩壊してんじゃんかょぅ」
正面の大橋も途中で崩れ落ちている。
(=゚ω゚)ノ「ハインは何してたんだょぅ」
( ・∀・)「だっさwwww」
从 ゚∀从「うっせえな……」
ハインは体中に包帯を巻いて、砕けたベッドに腰掛けていた。
从#゚∀从「あのクソエルフ、次会ったらぶっ殺す」
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 01:06:33.89 ID:Y08v37GI0
- (´・ω・`)「すぐに会えると思うよ」
急に背後で声がした。
振り返ると、しょぼくれ眉の男が立っていた。
いつの間に現れたんだ。
まるで、闇の中から湧き出たようだった。
( ゚д゚ )「やっと帰ってきましたか」
(´・ω・`)「様子が気になってね」
( ・∀・)「ロマネスクが死んで以来、バーボンハウスに籠もりっぱなしでしたよねー」
(´・ω・`)「まあね。ちょっと落ち込んでたんだ」
モララーの態度でわかった。
この男がショボンか。
(´・ω・`)「君が竜人族の頭のぃょぅだね?」
(=゚ω゚)ノ「そうだょぅ」
(´・ω・`)「思ったより若いな」
そう言ってショボンは握手を求めた。
手を握ると、まるで体の底に氷が流れ込んだような感覚に襲われた。
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 01:08:21.74 ID:Y08v37GI0
- (´・ω・`)「エルフって、弓使いのクーのことだろ?」
从 ゚∀从「ああ、そんな名前だったかもな」
(´・ω・`)「彼女は強いよ」
ショボンは笑いながら言った。
从 ゚∀从「関係ねえよ。ぶっ殺す」
(´・ω・`)「頼もしいねえ」
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/01(土) 01:10:42.15 ID:Y08v37GI0
- (´・ω・`)「今夜、VIPを滅ぼそう」
ショボンが静かに呟いた。
( ・∀・)「待ってました!」
モララーが手を叩いた。
( ゚д゚ )「まあ正直いつでも潰せましたけどね」
(´・ω・`)「今なら赤子の手を捻るより簡単だ」
(=゚ω゚)ノ「ついでにエレメンタルとやらも捕らえるってわけかょぅ」
(´・ω・`)「その通りだ」
(´・ω・`)「魔王復活の前夜祭だ。派手にやろう」
つづく
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