- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:06:37.16 ID:zNy48YHy0
第七話【悪の勇者】
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:08:46.34 ID:zNy48YHy0
- (;^ω^)「はぁ、はぁ、ちょ、ちょっとタンマだお!」
僕は物凄い勢いで先を突っ走るツンに向かって叫んだ。
ツンは足を止め、肩で息をしながら振り返った。
僕は痛むわき腹を押さえながらしゃがみ込む。
ξ゚听)ξ「何よ情けない。ほら、村が見えて来たわよ」
ツンが遥か先を指差した。
地平線に小さな村が見える。
ただし、見えるだけで決して近いというわけではない。
まだラウンジの平原の半分にも達してないだろう。
(;^ω^)「ちょ、ちょっと、休憩にしないかお?」
やっとのことでそう言い終えて、僕は水を飲んだ。
冷たい水が体の隅々に行き渡るのを感じる。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:11:07.04 ID:zNy48YHy0
- ξ゚听)ξ「ちょっとだけよ。今日中にオカルト山脈を越えるんだから」
そんなの空でも飛ばない限り無理だ。
今日一日中走り続けてやっと村に着くかどうかだろう。
ξ゚听)ξ「暗くなると魔物も出るわ。休んでる暇はないの」
( ^ω^)「せめてブランチを」
ξ゚听)ξ「ダメ!」
僕は石を並べて火をおこす準備をしたが、ツンがそれを蹴り飛ばした。
( ^ω^)「お?」
地面をよく見ると、すでに火の焚いた跡があった。
誰かがここでキャンプをしたのだろうか。
それも大人数でだ。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:13:28.42 ID:zNy48YHy0
- ξ゚听)ξ「どうしたの?」
( ^ω^)「足跡がたくさんあるお」
それは人間のものでは無かった。
ξ゚听)ξ「オークね」
( ^ω^)「かなりの数だお」
ξ゚听)ξ「数と来た方角からして、きっと隠れ村を襲ったオークね」
足跡はあの小さな村に向かっていた。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:15:44.81 ID:zNy48YHy0
- ξ゚听)ξ「村が襲われてないといいけど。さ、行くわよ」
(;^ω^)「もうかお?」
ξ゚听)ξ「急いでるって言ってるでしょ。それにもしかしたらヒートが近いかもしれないわ」
たしかにこのオークたちはヒートをさらったヤツらだ。
もしかしたら追いつけるかもしれない。
僕は水をひとくち口に含んでから立ち上がった。
ξ゚听)ξ「飲み過ぎて後で無くなってもあげないわよ」
そう言ってツンが走り出した。
僕も彼女のあとを追った。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:17:42.78 ID:zNy48YHy0
- 村に着いたのは日が暮れてからだった。
結局僕らはまる一日走っていたことになる。
僕は村の門に手をついて足を伸ばした。
(;^ω^)「疲れたおー」
ξ゚听)ξ「だらしないわね。さ、メイクするわよ」
(;^ω^)「それはどっから取り出したんだお」
ξ゚听)ξ「女の子は常に化粧道具を持ってるもんなのよ」
(;^ω^)「ああそう……」
下らない詮索はよしておこう。
ツンは僕の顔にささっと魔王メイクを施した。
たまには違う変装をしてもいいと思うのだが、彼女はこれが気に入っているらしかった。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:19:50.17 ID:zNy48YHy0
- 静かな村だ。
幸いオークに襲われた形跡はない。
「旅の者かい?」
門番らしき男が近づいてきた。
( ФωФ)「そうですお」
「運がいいね。来たのが昼間だったら村には誰もいなかったよ」
ξ゚听)ξ「どういうこと?」
「みんな避難してたんだよ。オークの大群がこの村に向かってるって情報があったからね」
ξ゚听)ξ「戦ったりしないの?」
「こんな格好してるけど、僕はまったく戦えないんだ。こんな平和な村に兵士なんていないよ」
門番は自分の槍を見ながら笑った。
気の良さそうな人だ。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:21:44.76 ID:zNy48YHy0
- 「ま、ゆっくりしてってね。この辺は天然の温泉で有名なんだよ」
ξ*゚听)ξ「ほんと?」
ツンが目を輝かせた。
( ФωФ)「急いでるんじゃなかったのかお?」
ξ*゚听)ξ「温泉があるなら入んなきゃ! 今日はこの村に一泊ね!」
そういえば彼女は温泉が大好きだったことを思い出した。
まったく、僕の記憶も変なことは覚えているものだ。
僕らは門番と別れ、温泉付きの宿を探すことにした。
( ФωФ)「あ、あそこにバーボンハウスがあるお」
ξ゚听)ξ「バーボンハウスじゃ温泉入れないでしょ!」
(;ФωФ)「いやでも旅の準備とか……」
ξ゚听)ξ「それはあと!」
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:24:04.97 ID:zNy48YHy0
- しばらく歩くと村の広場に出た。
掲示板の周りに人だかりができている。
( ФωФ)「何か大きなニュースでもあったのかお?」
ξ゚听)ξ「ラウンジのワイバーンのことでしょ? 別に見なくていいわよ」
僕は通り過ぎる時にちらっと掲示板に目をやった。
そこに書かれていた言葉に思わず目を疑う。
(;ФωФ)「“勇者、ワイバーンの大群と共にラウンジ襲撃”!?」
掲示板に駆け寄って確認した。
ξ;゚听)ξ「ちょっと……なによこれ……」
「勇者ってのはおっそろしいねえ」
隣で掲示板を眺めていたおばさんがそう呟いた。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:26:24.33 ID:zNy48YHy0
- 「ワイバーンって地獄から来たドラゴンだろ?」
「そんなヤツらを連れて街を襲うなんてもはや魔王以上の悪だな」
「魔王を倒したのも自分が世界を征服するためだったりしてね」
「さんざん良い顔して、俺たちを騙してたってわけかい」
「何が勇者だ。ただの悪党じゃないか」
耳元を何かが掠めた。
それと同時に掲示板が粉々に砕け散った。
「え!?」
「何? 何が起きたの?」
僕には、辛うじてツンの拳を目で追うことができた。
村人たちは何が起こったのか理解できずに慌てふためいている。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:28:57.74 ID:zNy48YHy0
- ξ#゚听)ξ「行くわよ」
ツンが僕の腕を引っ張った。
(;ФωФ)「痛いお痛いお! そんなに強く掴んだら骨折れるお!」
僕らは砕け散った掲示板と騒いでいる村人たちをあとにしてその場を離れた。
ξ#゚听)ξ「ああもう、最悪の気分だわ!」
ツンが石を蹴った。
矢よりも速く石は飛んでいき、木を貫通した。
人に当たったら死ぬだろうな。
( ФωФ)「僕はなんとも思ってないし、気にすることはないお」
本心だ。
僕には勇者の記憶は無いんだし、勇者の悪口を言われても何ともなかった。
ラウンジの事件が自分たちのせいにされたのにはさすがに驚いたが。
しかしツンは気が収まらないようだ。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:31:21.91 ID:zNy48YHy0
- ξ#゚听)ξ「わ・た・し・が・ム・カ・つ・く・の!!」
ツンが足で地面を踏みつけた。
土が抉れて小さな波紋が出来た。
この人は本当に人間だろうか。
ξ#゚听)ξ「魔王軍のやつら、絶対に許さないんだから! 頭蓋骨砕けるまで殴ってやるわ!」
( ФωФ)「あのう……」
ξ#゚听)ξ「なによ!」
(;ФωФ)「宿……」
僕は恐る恐る看板を指差した。
“温泉宿 わかんない湯”と書いてある。
ツンは黙って宿へ向かってずかずかと歩いていく。
僕もそのあとを追う。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:33:53.85 ID:zNy48YHy0
- ξ#゚听)ξ「ごめんくださーい!」
(;><)「ひぃっ!」
ツンさんツンさん。
ドア壊れましたけど。
(;><)「な、何名様なんです?」
ξ#゚听)ξ「二人よ!」
(;><)「御案内いたします……」
幼い顔をした青年が僕らを二階の部屋へと案内した。
(;><)「こちらなんです……」
ξ#゚听)ξ「温泉は!」
(;><)「か、階段を降りて右の廊下を進んだところです」
ξ#゚听)ξ「わかったわ!」
ツンはそういうと上着を脱いで部屋を出て行った。
さすがに部屋のドアは壊さなかった。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:36:26.00 ID:zNy48YHy0
- (;ФωФ)「ご迷惑おかけしましたお。これ、ドア代ですお」
僕はツンの上着から財布を取り出して銀貨を数枚青年に渡した。
( ><)「女の人って大変なんですね」
( ФωФ)「え?」
( ><)「彼女、生理なんですか?」
(;ФωФ)「違うと思うし、もしそうだとしても僕が知るわけないですお」
ツンが聞いていたらこの青年の命は無かっただろう。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:38:39.84 ID:zNy48YHy0
- ( ^ω^)「ふぅー」
薄緑色の湯に肩まで浸かる。
自然と溜め息がもれた。
魔力が籠もっているのだろうか。
肩の傷が癒えていくのがわかる。
( ^ω^)「はぁー」
昼間走った疲れがどんどん抜けていく。
温泉というものを発見した人はすごいと思う。
( ^ω^)「ほぇー」
今日一晩止まったら、明日はオカルト山脈か。
死の山はまだまだ遠い。
もし死の山に行かなかったらどうなるんだろう。
このままツンのことも忘れてしまうというのは寂しいな。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:41:44.14 ID:zNy48YHy0
- ( ^ω^)「ひぃー」
それから、魔王が復活して、世界は再び闇に包まれるだろう。
そしたら人々はまた勇者に助けを求めるのだろうか。
当の勇者は全ての記憶を失って、ただの廃人になっているかもしれないのに。
( ^ω^)「へぉー」
「うっさいわね! 静かに入りなさいよ!」
柵の向こうからツンの声と共に桶が飛んできた。
この向こうにツンがいるのか。
見たいという気持ちは全く起きなかった。
ああ、僕はすでに男のロマンも忘れてしまったというのか。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:43:30.84 ID:zNy48YHy0
- ξ*゚听)ξ「いい湯だったわー」
僕が温泉を出てから相当経ってからツンがバスローブ姿で出てきた。
のぼせているのだろうか、少し頬が赤らんでいる。
機嫌もなんだか良くなっていた。
ξ*゚听)ξ「牛乳ある?」
( ^ω^)「そこの箱に冷えてるお」
ツンは鼻歌を唄いながら箱から牛乳を取り出した。
手を腰に当て、牛乳を一気に飲み干す。
ξ*゚听)ξ「ぷはぁー!」
ドアをノックする音がした。
ξ*゚听)ξ「どうぞー」
どうぞーって、その格好であかの他人の前で平気なのだろうか。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:45:26.20 ID:zNy48YHy0
- ( ><)「夕飯の支度が……」
青年は口を開けたまま立ち尽くした。
彼はツンの格好に驚いているわけではなかった。
僕を指差して、口をぱくぱくさせている。
(;><)「ゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ……」
(;^ω^)「ゆばっておいしいですよねー」
( ><)「ですよねー」
(;><)「って、勇者ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
(;^ω^)「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ξ#゚听)ξ「うるさぁい!」
物凄い音が鳴り、ツンの拳が壁に刺さった。
僕も青年も思わず口を塞いだ。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:47:46.44 ID:zNy48YHy0
- ξ゚听)ξ「こいつはただのそっくりさんよ」
(;><)「いや、でも……」
青年は壁の手配書と僕の顔と見比べた。
ξ゚听)ξ「よく見なさい。口が違うわ」
(;><)「いや、全くおなj」
ξ゚听)ξ「違うわ」
(;><)「はい。違うんです。すみません。人違いだったんです」
ξ゚听)ξ「それと、この宿の個人情報の管理は大丈夫かしら?」
(;><)「お客様のプライバシーが第一なんです」
ξ゚听)ξ「おっけー! じゃ、夕ご飯にしましょ!」
ツンはその格好のまま食堂へ降りていった。
(;^ω^)「どうもご迷惑をおかけしますお」
(;><)「は、はぁ……」
彼には悪いが、気の弱そうな青年で助かった。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:49:46.42 ID:zNy48YHy0
- ξ゚听)ξ「明日は街で食糧を買いためて、オカルト山脈に入るわ」
ツンが口の周りを拭きながら言った。
( ^ω^)「だいたい何日ぐらいかかるかお?」
ξ゚听)ξ「来るときは四日かかったから、今回は二日の予定で」
(;^ω^)「ほわっと?」
ξ゚听)ξ「オカルト山脈越えたら……」
(;^ω^)「ちょっと待つお」
ξ゚听)ξ「なによ」
(;^ω^)「もう一度日程のらへんからゆっくり言ってもらえませんかお」
ξ゚听)ξ「一泊二日でオカルト山脈を越えるわ」
いやいやいやいや。
来るときは四日かかったんじゃないのか?
どういう計算をしたら半分になるんだ。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:51:36.54 ID:zNy48YHy0
- ξ゚听)ξ「歩いて四日なんだから走れば二日でしょ?」
ダメだ。
彼女の目は真剣だった。
というかまた走るのか。
ツンは話を続けた。
ξ゚听)ξ「そんでもってオカルト山脈越えたらVIPね。ま、たぶん私たちは街にすら入れないわ」
( ><)「あのう……」
青年が横から割って入った。
ξ゚听)ξ「なによ。私たちは今大事な話をしてるのよ」
( ><)「オカルト山脈を越えたらまずニュー速なんです」
( ^ω^)「ニュー速?」
ツンが僕のために説明してくれた。
ニュー速。
魔王軍が築いた悪の要塞。
魔王が死ぬ前は第二の魔王城として猛威を奮っていた。
今も数万ものオークがいるという。
そんな所、僕は行きたくない。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:53:59.40 ID:zNy48YHy0
- ξ゚听)ξ「ま、ついでだし潰してく?」
ツンが真顔でそう言った。
僕も青年も彼女の発言に耳を疑った。
(;^ω^)「数万のオークがいるって説明したのはツンだお」
ξ゚听)ξ「しょせんオークでしょ?」
(;^ω^)「トロルとか悪い魔法使いとかだっているんだお」
ξ゚听)ξ「余裕よ」
(;^ω^)「ワイバーンとかその他もろもろとか」
ξ゚听)ξ「まあ倒せるでしょ」
行く気満々だ。
僕はため息をついた。
こうなったら彼女の意見を変えることは僕にはできない。
諦めるしかない。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:56:53.39 ID:zNy48YHy0
- 夕飯を食べ終わり、僕らは二階へと戻った。
部屋の入り口で、また青年が声をかけてきた。
( ><)「本当に勇者じゃないんですか?」
( ^ω^)「そっくりさんですお」
( ><)「なんだか信じれるようになってきたんです」
青年は微笑んだ。
子供っぽい顔つきが余計幼く見えた。
( ><)「勇者ならもっと凶悪なオーラ放ってると思うんです。それに、勇者にしては弱そうなんです」
弱そうは余計だ。
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/21(木) 23:58:59.46 ID:zNy48YHy0
- ( ><)「本気でニュー速に向かうんですか」
( ^ω^)「まあツンが行くって言ってるししょうがないお」
( ><)「戦うんですか?」
( ^ω^)「まあたぶん」
( ><)「すごいんです」
青年は羨ましそうな顔をして部屋の中に立てかけてある剣を見た。
( ><)「僕、一度剣を握ってみたいんです」
( ^ω^)「持ってみるかお?」
( ><)「いいんですか?」
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/22(金) 00:02:14.12 ID:l6cpNqdF0
- 青年は目を輝かせた。
べつに減るもんじゃないし。
青年はゆっくりと柄を掴み、鞘から引き抜いた。
重そうに、それでも嬉しそうに彼は刃を見つめた。
一度空を斬る。
気持ち良い風切り音が鳴る。
( ><)「僕も剣で戦ってみたいんです。かっこいいんです」
( ^ω^)「兵士に志願すればいいんじゃないかお?」
( ><)「こんなへなちょこな僕じゃ無理なんです」
青年は自嘲的な笑みを浮かべた。
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/22(金) 00:04:53.13 ID:l6cpNqdF0
- ( ><)「実は僕には弟がいるんです」
( ^ω^)「へぇ」
( ><)「四日前にラウンジの兵士に志願したんです」
( ^ω^)「ラウンジ……」
( ><)「『一族の誇りだ』って言って両親も見送りに行っちゃって、だから僕が店番してるんです」
彼はまだラウンジの事件を知らないのだろう。
しかし僕にはそれを伝えることができなかった。
ただ、彼の家族が無事なのを祈ることしかできなかった。
( ><)「あ、部屋の前でこんな無駄話に付き合ってもらって申し訳ないんです」
青年は剣を鞘に収めた。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/22(金) 00:07:17.83 ID:l6cpNqdF0
- ( ><)「とにかく、えっと……」
( ^ω^)「ホライゾンでいいお」
( ><)「ホライゾンさんたちはかっこいいんです。気ままに旅をして、剣で戦ったりして、僕の憧れの姿なんです」
(*^ω^)「そんな言われると照れるお」
( ><)「ニュー速への旅、気をつけてくださいなんです。今晩はゆっくり体を休めてくださいなんです」
青年は早口でそう言い終えると、ちょこちょこと階段を降りていった。
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/22(金) 00:09:30.00 ID:l6cpNqdF0
- ξ゚听)ξ「何話してたの?」
部屋に入るとツンがベッドに横になりながら顔をこちらに向けた。
( ^ω^)「宿の青年と仲良くなったお」
ξ゚听)ξ「ふーん」
( ^ω^)「良い人だったお」
ツンは興味なさそうだった。
彼女はしばらく僕の顔をじっと見つめていた。
それからいきなり僕のベッドに飛び込んだ。
何がしたいのだろう。
( ^ω^)「ツン、そこは僕のベッドだお」
ξ゚听)ξ「べつにいいじゃない」
( ^ω^)「それじゃあ僕が寝れないお」
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/22(金) 00:11:32.55 ID:l6cpNqdF0
- ツンは僕を無視し、仰向けになって足を広げた。
( ^ω^)「ツン、見えるお」
ξ゚听)ξ「……」
ツンが何か呟いたが、僕には聞き取れなかった。
彼女は黙って自分のベッドに戻り、布団を被ってしまった。
よくわからない。
怒っているのだろうか。
( ^ω^)「灯り、消していいかお?」
返事は無かった。
僕は灯りを消してベッドに横になった。
いったい彼女はどうしてしまったんだろう。
そんなことを考えながら僕は眠りに落ちた。
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/22(金) 00:13:22.18 ID:l6cpNqdF0
- 翌朝、顔面に強烈なビンタを喰らって目を覚ました。
ξ゚听)ξ「起きなさい! 朝よ!」
僕はひりひり痛む頬を押さえながらベッドから体を起こした。
(;^ω^)「何もビンタするこたないいお」
ξ゚听)ξ「あんまり気持ちよさそうに寝てたからムカついたのよ!」
いつものツンツンした彼女に戻っていた。
心なしか彼女の目は赤く腫れてるような気がした。
ξ゚听)ξ「朝食食べ終わったら出発するわよ」
( ^ω^)「旅の準備とかはどうするんだお?」
ξ゚听)ξ「宿の男の子が用意しといてくれたわよ。『ホライゾンさんのためなんです』って。ところでホライゾンさんって誰?」
( ^ω^)「僕のことだお」
ξ゚听)ξ「偽名使うならもっとマシな名前にしなさいよ」
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/22(金) 00:15:46.33 ID:l6cpNqdF0
- 朝食を食べ終え、ロビーに降りた。
ちょうど青年がリュックを運んでくれていたところだった。
( ><)「あ、ホライゾンさん! 旅の準備が必要だって言ってたんで、僕が用意したんです!」
彼は僕を見つけると子供のように目を輝かせた。
( ^ω^)「わざわざすみませんお」
リュックの中身は四日分の食糧と水。
鍋や皿などの食器。
さらには寝袋まで用意してあった。
僕はリュックを肩に背負った。
( ><)「二人とも気をつけて行ってくださいなんです」
ξ゚听)ξ「ん。ありがと」
ツンが青年からリュックを受け取りながら礼を言った。
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/22(金) 00:17:46.69 ID:l6cpNqdF0
- ( ><)「またいつか来てくださいなんです!」
( ^ω^)「旅が終わったらまた来るお!」
( ><)「待ってるんです!」
彼は嬉しそうに笑った。
僕らは彼に見送られて壊れた戸をくぐった。
ちょうどすれ違い様に誰かが宿に入った。
三人組で、見た感じ兵士のようだ。
一人は胸のあたりに木箱を抱えていた。
ξ゚听)ξ「ラウンジの兵士よ」
ツンが小声で僕に囁いた。
肩のあたりにラウンジの紋章がある。
僕はばれないように顔を伏せた。
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/22(金) 00:20:22.13 ID:l6cpNqdF0
- 「ワカンナインデス=ビロードさんですね?」
( ><)「そうなんです」
胸騒ぎがする。
嫌な汗が首筋をつたう。
「大変言いづらいのですが……」
(;><)「はい?」
箱を持った兵士が前に出た。
「先日、ラウンジがワイバーンの大群に襲撃されまして」
(;><)「え……」
「その際に……」
止めてくれ。
それ以上言うな。
「弟さんが殉死されました」
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/22(金) 00:22:33.43 ID:l6cpNqdF0
- 彼の顔から一瞬にして血の気が引いた。
「御遺体なんですが……」
兵士は青年に木箱を渡して会釈をすると、宿を出て行った。
あの大きさの箱に人間の体は“全ては”入らないだろう。
彼は木箱を受け取り、そのまま床に膝をついた。
ξ゚听)ξ「……行きましょう」
( ^ω^)「でも……」
ξ゚听)ξ「私たちは何も言ってやれないわよ」
僕らはそっと宿を離れた。
彼は怒りもせず、泣きもせず、まるで人形のように無表情で空を見つめていた。
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/22(金) 00:24:21.49 ID:l6cpNqdF0
- ξ゚听)ξ「彼の弟、ラウンジの兵士だったのね」
村を出るまで僕らは一言も話さなかったが、門を出てしばらくしてツンが呟いた。
( ^ω^)「先日志願したばかりらしいお」
ξ゚听)ξ「かわいそうに……」
( ^ω^)「彼は、勇者を憎むのかお?」
ξ゚听)ξ「憎むでしょうね」
( ^ω^)「……いったい勇者ってなんなんだお」
命をかけて、自分の記憶すら犠牲にしてまで世界を救って。
それなのに人々に憎まれて、罵られて。
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/22(金) 00:25:57.91 ID:l6cpNqdF0
- ( ^ω^)「勇者がいなければ、彼の弟はきっと死ななかったお」
ξ゚听)ξ「……勇者がいなかったら、世界から善きものは消え去っていたわ」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「もっとしゃきっとしなさいよ。あんたは世界を救ったのよ?」
僕が世界を救ったんじゃない。
世界を救ったのは僕の知らない僕だ。
ξ゚听)ξ「そのうち、みんなあんたの偉大さに気づくわよ」
ツンは立ち止まって僕の目を見つめた。
- 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/22(金) 00:28:07.89 ID:l6cpNqdF0
- ξ゚听)ξ「だから、早く記憶取り戻して、一緒に村に帰りましょ?」
そう言ってから彼女は頬を赤く染めた。
嬉しかった。
なんでこんなに僕のためを思ってくれるのかわからない。
でも、彼女のおかげで、折れかけていた心が少しばかり楽になった。
( ^ω^)「ありがとうだお」
ξ///)ξ「く、くだらないこと言ってるヒマあったらさっさと行くわよ!」
もう全部忘れてしまえたらと思っていた。
だけど、彼女のことだけは忘れたくない。
つづく
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