- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 22:48:59.22 ID:LiDb9AQR0
第八話【蛇と翼龍】
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 22:51:22.65 ID:LiDb9AQR0
- なんでこんなことになったのか、今でも分からない。
なんで親父が殺されたのか。
本当に勇者が殺したのか。
なんで俺が処刑されなきゃいけないのか。
何もかもが突然すぎて理解できない。
「最期に言い残すことは?」
(,,゚Д゚)「そんなものは無い」
「そうですか」
ただ、ひとつ分かることがある。
俺は間違っていない。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 22:53:24.50 ID:LiDb9AQR0
- 「では」
後ろで剣が振り上げられるのを感じた。
腰を捻り、地面を転がる。
振り下ろされた刃で両手を縛っていた縄を断つ。
「!!」
さらに二撃目をかわし、相手の腕を捻り上げる。
骨の砕ける音と悲鳴。
「殺せ!」
周りの兵士が剣を抜いた。
秘密裏の処刑のおかげで、相手は少ない。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 22:55:53.88 ID:LiDb9AQR0
- (,,゚Д゚)「来いよ。こっちは丸腰だ」
兵士たちは挑発には乗らず、剣を構えながらじりじりと俺に近づいてくる。
全員、俺が武器を持たなくても十分戦えるということを知っている。
(,,゚Д゚)「!」
背後からの殺気。
とっさに身をかがめる。
髪を刃が掠めた。
そのまま足を蹴りあげ、顎を砕く。
さらに二人が剣を振りかぶる。
だが遅い。
体を捌き、足を刈る。
「うわっ!」
兵士の首に、お互いの剣が深く突き刺さった。
同士討ちだ。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 22:58:07.47 ID:LiDb9AQR0
- (,,゚Д゚)「悪いな。死なすつもりはなかったが」
そのとき、肩をを何かが掠めた。
生暖かい血潮が噴き出す。
(;,゚Д゚)「くっ……」
右腕を折られた兵士が剣を投げたのだ。
利き腕だったら首が飛んでたな。
兵士の鳩尾を蹴り飛ばして伸す。
これで全滅といったところか。
(;,゚Д゚)「はぁ……マズいな……」
俺は肩を押さえた。
だが血が止まらない。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:01:41.34 ID:LiDb9AQR0
- 林の中を歩いた。
肩からは血がとめどなく流れ出る。
この状態でVIPには戻るのは無理だ。
ラウンジは遠いか。
とにかくVIPの領土にいたら殺される。
どこかの村に身を隠そう。
(;,゚Д゚)「はぁ……はぁ……」
ひたすら歩いた。
どのくらい歩いたのかもわからない。
日が沈んでも歩いた。
再び日が昇る頃には、もう視界が霞んでいた。
(;,゚Д゚)「くそっ……」
俺は地面に倒れ込んだ。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:03:41.81 ID:LiDb9AQR0
- 仰向けになって空を仰いだ。
しぃは今頃必死で俺を探してるだろうか。
その横でニダーがほくそ笑んでいるのが目に浮かぶ。
気に入らないやつだったが、まさか自分が裏切られるとは。
気がつけば俺は勇者一味に手を貸した大罪人に仕立て上げられていた。
(;,゚Д゚)「あの野郎……」
よく考えてみれば、勇者が親父を殺せるはずがない。
親父が殺される四日前に勇者たちは魔王城にいたんだ。
どうやっても四日でVIPには来れない。
全部ニダーにはめられたってわけだ。
どうせ狡賢いあいつのことだ。
このまま王も世継ぎもいなくなったVIPを手に入れるつもりなのだろう。
そうはさせるものか。
(;,゚Д゚)「くっ……」
俺はなんとか立ち上がった。
この傷を癒やして、兵を集めて、VIPに戻るんだ。
VIPにもまだ俺の声に応じる兵士がいるはずだ。
絶対にあの男の思い通りにはさせない。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:05:44.55 ID:LiDb9AQR0
- 〜〜〜〜〜〜
ラウンジを出てから三日。
俺たちはオカルトの山の中にいた。
('A`)「ほら、飯だ」
俺は兄者とプギャーに昼飯を手渡した。
(;´_ゝ`)「こんだけ? なんでおまえはそんな食ってるんだよ!」
兄者が俺の飯を指差してわめいた。
('A`)「俺は魔法使う分腹が減るんだよ。第一、おまえら魔物が出ても戦わないじゃん」
( ´_ゝ`)「あんなバケモンどもに俺が勝てると思うのか!」
( ^Д^)「俺は戦ったじゃないですか!」
('A`)「おまえが戦ったのは魔物じゃなくてただのウサギだよ」
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:08:28.95 ID:LiDb9AQR0
- ( ゚∀゚)「おいカスども。偉大なるジョルジュさまの飯はどうした」
ジョルジュが探知魔法を終えてこちらに歩いてきた。
俺は飯を投げて渡した。
('A`)「どうだった?」
( ゚∀゚)「無理無理。もうクーたちはとっくに山脈を越えてやがる」
ジョルジュは近くの岩に腰かけた。
('A`)「急いだ方がいいな」
( ゚∀゚)「ああ。ニュー速に入る前に合流したかったがな」
( ´_ゝ`)「おい、腹が減ったぞ」
( ゚∀゚)「てめえは今食ってたろ」
(#´_ゝ`)「あんなんで足りるか! 育ち盛りの俺にあんな少ない……」
('A`)「!」
( ゚∀゚)「!」
俺とジョルジュは兄者を制した。
何かの気配がする。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:10:36.03 ID:LiDb9AQR0
- (;´_ゝ`)「なんだよ。魔物か?」
('A`)「わからない」
すぐそこの木の裏にいる。
俺は杖に手をかけた。
全員に緊張が走る。
(;,゚Д゚)「はぁ……はぁ……」
( ´_ゝ`)「人間?」
木の陰から出てきたのは一人の男だった。
男は俺たちをにらみ回して、その場に倒れ込んだ。
(;'A`)「おい、大丈夫か?」
(;,゚Д゚)「飯を……」
(;'A`)「……」
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:12:42.43 ID:LiDb9AQR0
- (,,゚Д゚)「いやー、本当助かったよ」
男はクラムを頬張りながら豪快に笑った。
見た感じ旅人ではなさそうだ。
服は血まみれだった。
肩には深い切り傷がある。
(,,゚Д゚)「おまえたちに会わなかったら餓死していたよ。本当感謝してる」
男は二つ目に手を伸ばした。
あまり食べないでほしいのだが。
( ゚∀゚)「で、おまえなにもんだ? 旅人じゃなさそうだが」
(,,゚Д゚)「たしかに旅人じゃないな。水をくれ」
( ^Д^)「俺のでよかったらどうぞ」
(,,゚Д゚)「ありがと」
男は水を一気に全部飲み干した。
つまりプギャーの分の水は無くなったわけだ。
(;^Д^)「……」
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:16:34.22 ID:LiDb9AQR0
- (,,゚Д゚)「俺はギコっていうんだ。VIPの出身だ」
('A`)「VIPから? 武器も無しにか?」
武器どころか、ギコは何の道具すら持っていなかった。
ニュー速を通らない道で行くとかなり大変なはずだ。
魔物だってたくさんいるだろう。
そこを丸腰で越えてきたというのか。
実は相当強いのかもしれない。
( ´_ゝ`)「その傷はどうしたんだ?」
(,,゚Д゚)「まあいろいろあってな」
明らかに剣でつけられた傷だ。
薬草で治療してあるようだが。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:19:33.44 ID:LiDb9AQR0
- (,,゚Д゚)「ところで、ここはどの辺りかわかるか?」
('A`)「ニュー速とVIPとラウンジの領のちょうど境だ」
(,,゚Д゚)「ずいぶんと歩いたな」
ギコは手を組んで考える素振りを見せた。
右手の人差し指に指輪がある。
( ゚∀゚)「ん? その指輪……」
ギコは慌てて指輪を隠した。
( ゚∀゚)「名前、なんつったっけ?」
(,,゚Д゚)「……キコだ」
('A`)「嘘をつくな嘘を」
(,,゚Д゚)「……ギコです」
( ゚∀゚)「なるほどね」
ジョルジュは何かわかったような顔をした。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:21:53.15 ID:LiDb9AQR0
- ( ゚∀゚)「おまえ、VIPのギコ・ハニャーンだな?」
( ´_ゝ`)「ハニャーン? 変な名前だな」
('A`)「フサギコ・ハニャーンなら知ってるけど」
フサギコ・ハニャーンはVIPの国王だ。
そういえば殺されたんだっけか。
しかも俺たちのせいになっているはずだ。
( ゚∀゚)「ギコはその息子だよ」
('A`)「同姓同名とかじゃなくて?」
( ゚∀゚)「その指輪は王族のだろ?」
よく見ると金剛石があしらってある。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:24:03.65 ID:LiDb9AQR0
- (,,゚Д゚)「まあ、バレちゃしょうがないな」
ギコは笑って、お手上げだとでも言うように手をあげた。
(,,゚Д゚)「いかにも、第九十四代VIP国王フサギコ・ハニャーンの息子、ギコ・ハニャーンだ」
しかしとても王の息子の格好には見えない。
第一、こんな山の中にいること事態おかしい。
('A`)「王子さまがなんでこんな所にいるんだ?」
(,,゚Д゚)「処刑されかけたんだ。国ではたぶん死んだことになってるよ」
彼は笑いながらそう言った。
そんな状況で笑えるのだから、相当タフなのだろう。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:26:14.42 ID:LiDb9AQR0
- ('A`)「なんで処刑なんか……」
(,,゚Д゚)「勇者の国王殺害に手を貸した罪だとよ。まったく、どこに証拠があるってんだ」
思わず俺はどきっとした。
(,,゚Д゚)「第一本当に勇者が犯人かどうかも疑わしいもんだ」
(;'A`)「で、ですよねー」
( ゚∀゚)「どうして勇者が犯人扱いされてんだ?」
(,,゚Д゚)「あいつだよ! 全部ニダーって男が仕組んだんだ!」
ギコは声を荒げた。
(,,゚Д゚)「あの野郎に国を渡してたまるか! 絶対ぶっ殺してやる!」
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:30:35.67 ID:LiDb9AQR0
- ( ゚∀゚)「そのニダーってヤツは魔王軍の手下だろうな」
ジョルジュが俺に囁いた。
('A`)「ついでに息子も殺して国まで奪おうってわけか」
( ´_ゝ`)「そういや勇者一行って国王殺害の罪までかかってんだよな。おまえらも大変だなー」
(,,゚Д゚)「え?」
('A`)「……」
どうしてこのバカがついて来るのを許してしまったんだろうか。
俺はため息をついた。
(#゚∀゚)「おいてめえ、ちょっと来い」
( ´_ゝ`)「?」
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:32:43.81 ID:LiDb9AQR0
- ('A`)「まあ、そういうわけで、俺たちは勇者の仲間なんだ」
結局、俺たちの事情も全て話すことになってしまった。
なるべく隠しておきたかったが、バレてしまった以上話してもかわりはない。
その原因となった兄者はジョルジュにボコボコにされて伸びている。
(,,゚Д゚)「濡れ衣を着せられて、おまけに仲間ともはぐれたってわけか。散々だな」
ギコは豪快に笑った。
自分の状況も相当酷いのには気づいてないのだろうか。
(,,゚Д゚)「しっかしまあ……」
ギコは俺たちを見回した。
(,,゚Д゚)「本気でこの人数でニュー速に行くつもりなのか?」
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:35:15.55 ID:LiDb9AQR0
- ( ゚∀゚)「本当は二人で行くはずだったんだぜ?」
( ^Д^)「俺と兄者さんは数にいれなくていいですから」
ギコは呆れたように笑った。
(,,゚Д゚)「ニュー速にいる魔王軍の数は約十万だぞ?」
(;^Д^)「じじじじゅうまん!? 噂では二万くらいって……」
(,,゚Д゚)「最近物凄い勢いで増えてるんだ」
十万か。
魔王城のときの軽く三倍以上はいくな。
あのときですら相当辛かったんだ。
ましてやブーンもツンもクーもいない今じゃ、かなり厳しい戦いになるだろう。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:37:29.37 ID:LiDb9AQR0
- ( ゚∀゚)「魔王復活に向けて戦力を蓄えてやがるってわけだな」
(,,゚Д゚)「魔王復活だと? どういうことだ?」
( ゚∀゚)「“死の石”って知ってんだろ? あれを使おうとしてんだよ」
(,,゚Д゚)「“死の石”か。その手があったか」
ギコが舌打ちした。
(;^Д^)「魔王復活ってヤバいんじゃないんスか?」
( ゚∀゚)「やべえってレベルじゃねえよ。世界中はもう魔王は消え去ったと思って油断してやがる」
(,,゚Д゚)「ああ。復活すれば一瞬にして世界は闇に堕ちるだろうな」
プギャーが隣で身震いした。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:40:12.59 ID:LiDb9AQR0
- ( ゚∀゚)「やっぱし魔王がいねえ今のうちにニュー速をぶっ潰すべきじゃね?」
(,,゚Д゚)「たった四人で十万を潰せると思うのか?」
('A`)「俺たちは四人で魔王城を落とせたぞ?」
(,,゚Д゚)「あのときはVIPとラウンジの兵が味方したのも大きかっただろう?」
そういえばそうだ。
彼らが“魔城門”で魔王軍と戦ってくれていた。
そのおかげで敵がだいぶ減ったんだ。
(,,゚Д゚)「今はもう味方なんていないさ。俺にも、おまえたちにもな」
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:41:59.31 ID:LiDb9AQR0
- ( ´_ゝ`)「ちょっと待て」
兄者が顔を押さえながらむくりと起き上がった。
('A`)「生きてたのか」
( ´_ゝ`)「俺はあのくらいじゃ死なんよ。それより……」
兄者はギコに向き直って言った。
( ´_ゝ`)「あんた王子なんだろ? 兵ぐらい動かせないのか?」
( ゚∀゚)「てめえは人の話を聞いてなかったのか」
(,,゚Д゚)「いや、動かせるぞ」
ギコが顔をあげた。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:43:33.75 ID:LiDb9AQR0
- (,,゚Д゚)「俺が生きてるとわかれば、きっと兵は俺に従うはずだ」
('A`)「本当か?」
(,,゚Д゚)「問題はニダーだ。もし俺がVIPに戻ったら間違いなく俺を殺しにくるだろうな」
( ´_ゝ`)「そのニダーってやつをぶっ倒せば、兵が集まるってことだろう?」
(,,゚Д゚)「ぶっ倒すって簡単に言ってくれるが、相当の強敵だぞ? 少なくとも俺一人じゃ無理だ」
( ´_ゝ`)「そこらへんはまかせろ。こいつらに」
兄者が俺とジョルジュを指差した。
どうやら自分は戦わないつもりらしい。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:46:12.01 ID:LiDb9AQR0
- ( ゚∀゚)「この全員でVIPに行って国を取り戻し、そのまま兵を連れてニュー速へ向かうってわけか」
('A`)「その間にクーと弟者が死ぬぞ」
( ゚∀゚)「いや、だったらもう遅いくらいだ」
ジョルジュが言った。
たしかにそうだ。
クーたちがワイバーンに乗って移動しているとしたら、もうとっくにニュー速に着いているだろう。
( ゚∀゚)「まあ捕まってもすぐに殺されるってことはないだろ。クーなんか特に」
ジョルジュが下品な笑いを浮かべた。
( ゚∀゚)「そんな睨むなって。冗談だよ」
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:47:51.84 ID:LiDb9AQR0
- ( ´_ゝ`)「とにかく、最善の策はそれだろうな」
( ゚∀゚)「こっから本気で走って、明日にはVIPにつくぜ?」
('A`)「決まりだ」
俺は立ち上がった。
('A`)「まずはVIPのニダーってやつをぶっ飛ばす」
( ´_ゝ`)「よしきた」
(,,゚Д゚)「助かる」
( ゚∀゚)「俺らに濡れ衣着せやがった魔王軍の幹部だ。潰すなら早めにだ」
行き先変更。
俺たちはVIPを目指した。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:49:38.91 ID:LiDb9AQR0
- 〜〜〜VIP城〜〜〜
報せを聞いたのは朝だった。
食事も喉を通らなかった。
地下室の冷たい床に横たわり、涙が枯れるくらい泣き続けた。
今でも信じられない。
信じたくない。
「やっと見つけましたニダ」
ひたひたと石の上を歩く音。
闇の底から響くような冷たい声。
<ヽ`∀´>「辛いのはわかりますが、会議にも出席なさらないというのはどうかと思いますニダ」
まるで死人のように青白い肌。
蛇のように鋭く細い目。
冷たい笑みを浮かべながら、ニダーが歩みよってきた。
私はこの男が嫌いだった。
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:53:04.41 ID:LiDb9AQR0
- <ヽ`∀´>「お気持ちは察ししますニダ。二人も愛する人を失ったニダ」
言葉と裏腹に、口元は醜く歪んでいる。
<ヽ`∀´>「しかしあなたには悲しんでいる暇はないニダ」
ニダーの手が肩に触れた。
<ヽ`∀´>「会議の結果、あなたが王位継承者に決定しましたニダ」
(*゚ー゚)「私が?」
思わず声を上げた。
どうして私が。
私にはとてもそんなことはできない。
<ヽ`∀´>「きっと元老院の奴らは、しぃ様が一番扱いやすいと思ったに違いないニダ」
(*゚ー゚)「……」
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:55:04.86 ID:LiDb9AQR0
- <ヽ`∀´>「心配ありませんニダ。ウリは長く国王様に尽くしてきたニダ。ウリがしぃ様をお助けするニダ」
生暖かい吐息が首筋に吹きかかる。
ニダーは私の耳元で囁いた。
<ヽ`∀´>「ウリを摂政にするニダ」
(*゚ー゚)「なんですって?」
<ヽ`∀´>「ウリがしぃ様の代わりになるニダ」
私は耳を疑った。
この男は国を奪うつもりだ。
そうとしか聞こえない。
(*゚ー゚)「それがあなたの狙いだったのね」
腰の短剣を抜き、ニダーの首もとに突きつけた。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/29(金) 23:57:43.06 ID:LiDb9AQR0
- <ヽ`∀´>「何をなさるニダ」
(*゚ー゚)「お父様を殺したのも、ギコくんの処刑も、全部あなたが仕組んだことなのね」
ギコくんはいつも言っていた。
『ニダーは信用できない』と。
彼は正しかったんだ。
<ヽ`∀´>「あなたは気が動転しておられるニダ」
ニダーは両手をあげたまま笑った。
<ヽ`∀´>「すべては会議の結果ニダ。ウリには何の関係もないニダ」
(*゚ー゚)「蛇のように良く舌が回るわね。切り落としてあげましょうか」
<ヽ`∀´>「王子妃様はそんな乱暴な言葉を使ってはいけないニダ」
ニダーが意地の悪い笑みを浮かべる。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/30(土) 00:00:04.07 ID:7DoeLSGL0
- <ヽ`∀´>「王子を失った悲劇の姫は、部屋にこもって泣いてるのがお似合いニダ」
突然、全身に寒気が走った。
ニダーが短剣を素手で掴んだ。
手から血が流れる。
それをニダーは舌ですすった。
<ヽ`∀´>「ウリが蛇なら、あなたは巣から落ちた哀れな雛鳥ニダ」
(;*゚ー゚)「!?」
体が動かない。
まるで凍りついたかのように、指一本動かすことができない。
<ヽ`∀´>「丸呑みにされ、体内で苦しみもがきながら少しずつ腹の中で溶けていくニダ」
寒い。
奴の目の奥の冷たい闇にだんだんと吸い込まれていく。
<ヽ`∀´>「あなたはもはやウリの血肉でしかないニダ」
(;* ー )「私は……」
かろうじて声が出たが、言葉にはならなかった。
そしてそのまま、私は暗闇に堕ちた。
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/30(土) 00:02:00.53 ID:7DoeLSGL0
- 〜〜〜〜〜〜
川 ゚ -゚)「見えたぞ」
ああ、ついにここまで来てしまった。
昼だというのに空は暗い。
黒い煙を上げる、巨大な漆黒の要塞。
その邪悪で不気味な姿が地平線の先に見えてきた。
(´<_`;)「あれがニュー速……」
思わず身震いした。
あそこに二万以上ものオークの大軍がいるのか。
川 ゚ -゚)「あれを見ろ」
クーさんが北を指差した。
黒い塊が蟻の大軍のように地面を蠢いている。
あれは一体なんだ?
川 ゚ -゚)「北の人間どもだな。ざっと一万か」
(´<_`;)「人間?」
あれが全部人間だというのか。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/30(土) 00:03:59.73 ID:7DoeLSGL0
- 川 ゚ -゚)「魔王軍の呼びかけに応じたんだろう」
(´<_`;)「まさか、あれが全部ニュー速に?」
川 ゚ -゚)「だろうな」
なんてことだ。
魔王軍なんて魔王がいなくなって滅んだのかと思っていた。
それどころか着々と数を増やしていただなんて。
川 ゚ -゚)「魔王復活の日も近いというわけか」
(´<_`;)「魔王復活?」
川 ゚ -゚)「ああ。どうやらそんなことを企んでいるらしい」
(´<_` )「VIPやラウンジはそのことは気づいてるんですか?」
川 ゚ -゚)「知らないだろう。奴らは私たちを捕まえるのに必死だからな」
大国まで魔王軍に惑わされているわけか。
こんなときに魔王が復活したら。
考えるだけでもぞっとする。
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/30(土) 00:05:59.11 ID:7DoeLSGL0
- 突然、バンタが鳴き声をあげた。
久しぶりに聞く、攻撃的な鳴き声だ。
(´<_` )「どうした?」
それに少し遅れて、別の鳴き声が遠くで何回も木霊する。
川 ゚ -゚)「お出迎えのようだな」
クーさんがバンタの背中の上で立ち上がった。
彼女が弓を構えるその先に、いくつかの黒い影がこちらに向かって飛んでくるのが見える。
(´<_`;)「ワイバーンだ!」
川 ゚ -゚)「落ち着け。ワイバーンなら私たちの下にもいるだろ」
そりゃそうだが。
向こうは完全に敵意丸出しじゃないか。
怖さが違う。
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/30(土) 00:07:50.50 ID:7DoeLSGL0
- (´<_` )「また誘惑呪文でなんとかできないんですか?」
川 ゚ -゚)「もっと落ち着いた場所じゃなきゃ無理だ。ましてや空中だぞ。それに……」
そう言いながら弓を引き絞る。
川 ゚ -゚)「敵も乗ってるぞ」
(´<_` )「オークですか?」
川 ゚ -゚)「人間だろうな。オークがワイバーンに乗るのは無理だ」
クーさんが弓を放った。
一つの黒い影が地面へと落ちていく。
さすが“弓使いのクー”というべきか。
よくこの距離で当てられるものだ。
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/30(土) 00:09:41.96 ID:7DoeLSGL0
- 川 ゚ -゚)「突破するぞ」
バンタがスピードを上げる。
その間にもクーさんはワイバーンを射落としていく。
だんだんと距離が縮まってくる。
向こうも弓を構えているのが見えた。
「撃て!!」
何本もの矢が放たれる。
幸いバンタには当たらなかった。
俺はクーさんの後ろに隠れていれば平気だった。
彼女が全部止めてくれる。
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/30(土) 00:11:51.01 ID:7DoeLSGL0
- 川 ゚ -゚)「来るぞ」
急旋回。
敵のワイバーンの爪をかわす。
俺は片手でバンタの背中に掴まり、反対の手で剣を抜いた。
(´<_`;)「クーさん、落ちないでくださいよ」
川 ゚ -゚)「平気だ」
クーさんはすました顔をしながら敵を射抜いた。
よくこの状況で弓を構えながら立っていられるものだ。
川 ゚ -゚)「おっと」
屈んだ彼女の頭上を矢が掠めていった。
(´<_` )「食らえ!」
すれ違い様に斬りつける。
翼を失ったワイバーンは悲鳴をあげながら地面へと落ちていった。
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/30(土) 00:14:15.18 ID:7DoeLSGL0
- (´<_` )「よっしゃぁ! 一体倒しましたよ!」
川 ゚ -゚)「私は五体目だ」
(´<_`;)「……」
しかしまだ数体のワイバーンが俺らの周りを飛び回っている。
(´<_`;)「くっ!」
剣で爪を弾く。
その隙に、背中に乗った人間をクーさんが射抜いた。
川 ゚ -゚)「ナイスアシストだ」
(´<_` )「どうも」
急降下。
頭の先を敵の鉤爪が掠めた。
思わず鳥肌が立つ。
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/30(土) 00:16:02.91 ID:7DoeLSGL0
- 川 ゚ -゚)「早く全部倒さないと、このままニュー速に着くぞ」
そう言いながら彼女はワイバーンの頭を射抜いた。
見ると、いつの間にかニュー速がこんなに近い。
川 ゚ -゚)「私の予定だと、こっそりニュー速に侵入する予定だったんだが」
(´<_` )「もう無理でしょう」
川 ゚ -゚)「いや、まだ諦めないぞ」
クーさんがバンタの背中を叩くと、バンタはいきなりスピードをあげた。
俺は振り落とされまいと背中に掴まる。
そのあとを敵が追ってくる。
川 ゚ -゚)「直線上の方が狙いやすいな」
彼女の矢は確実にワイバーンの喉元に刺さっていく。
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/30(土) 00:18:55.48 ID:7DoeLSGL0
- 川 ゚ -゚)「ラストっと」
最後の一頭を射落として、クーさんは息をついた。
(´<_` )「さすがですね」
川 ゚ -゚)「まあな」
(´<_` )「おまえもよくやったぞ」
俺はバンタの背中を撫でた。
バンタが誇らしげに鳴くのを聞いて、なんだか愛着が沸いてきた。
ワイバーンも元は気の弱い小さな翼竜だったとクーさんは言っていた。
それが、闇の魔法で邪悪な心になってしまったのだという。
クーさんが首を撫でると、バンタは嬉しそうに声をあげた。
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/30(土) 00:21:10.68 ID:7DoeLSGL0
- 川 ゚ -゚)「よし、このままニュー速にこっそり侵入だ」
クーさんが振り返って言った。
しかし、もうこっそりというわけにはいかないだろう。
(´<_` )「さっきの奴らが来たってことは、もう見つかったんじゃ?」
川 ゚ -゚)「報告がいく前に全滅させたから大丈夫だろう」
(´<_` )「そうですか」
その瞬間、眩い閃光に一瞬視界を奪われた。
遅れて爆音。
一気にバランスが崩れる。
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/30(土) 00:22:44.32 ID:7DoeLSGL0
- (´<_`;)「なっ……!」
川;゚ -゚)「バンタ!」
バンタの胸を雷撃が貫いた。
(´<_`;)「バンタ、大丈夫か!」
川 ゚ -゚)「あそこか!」
クーさんが弓を構えた。
塔の上に人影が見える。
川 ゚ -゚)「くっ!」
二撃目。
雷は翼を掠めた。
バンタが苦しそうに悲鳴をあげる。
- 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/30(土) 00:24:31.96 ID:7DoeLSGL0
- (´<_`;)「あと少しだ! 頑張れ!」
あと少しで塔に着く。
しかしその屋上には魔法使いらしき姿が見える。
(´<_`;)「あいつをなんとかしなきゃ!」
塔の先から稲妻が走る。
川 ゚ -゚)「Calad berio min」
(´<_`;)「え?」
眩い光の壁が雷撃を弾いた。
弾き返された雷は塔の先に直撃した。
魔法使いは瓦礫と共に崩れ落ちた。
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/30(土) 00:26:31.45 ID:7DoeLSGL0
- (´<_` )「やった!」
しかしバンタの気力はもはや残っていなかった。
必死に破れた翼を羽ばたかせる。
塔はもう目の前だが、そこまで届かない。
川 ゚ -゚)「飛び移るぞ」
俺とクーさんは塔へ飛び移り、振り返った。
あと数回羽ばたけば、塔に足が届く。
しかしそれも彼にはもう無理なようだ。
(´<_`;)「バンタ! あともう少しだ! 頑張れ!」
俺たちが声をかけると、バンタは誇らしげに鳴いた。
まるで自分の務めを終えたかのように嬉しそうだった。
そして、観念したように静かに目を瞑り、遥か下の闇へと落ちていった。
- 79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/30(土) 00:29:21.38 ID:7DoeLSGL0
- (´<_`;)「……」
俺は膝を地面についた。
川 ゚ -゚)「……行くぞ」
クーさんが静かに呟いた。
仲間を失うことが、こんなに辛いとは思わなかった。
それが例え人間じゃない、言葉の通じない翼龍でも。
せっかくあの鳴き声にも慣れたというのに。
聞こえるのは風の音だけになった。
もうあの鳴き声も聞こえない。
俺はクーさんを追って階段を降りた。
つづく
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