- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/11(火) 22:48:58.26 ID:baQlN5PL0
-
Chapter IV
可能性なら、何処にでも転がっている。
県外の海辺にあるあのショッピングモールかもしれないし、面倒な店員に捕まったあの洋服屋かもしれない。
はたまた、屋上の錆びたベンチに腰かけ、夕日を浴びつつコーヒーを飲んだあのデパートかもしれない。
ともすれば、県境の、曲がりくねった山道にある名もないコンビニかもしれないし、
美人女将二人と変わり者の男性が切盛りするあの旅館かもしれない。山間の菖蒲畑ということもある。
だが何故かモララーには、それらが全くありえないものに感じられた。
雨降りしきる中、ずぶ濡れになりつつも、モララーは走り回った。
そう、当てなんて元々ないのだ。それでもモララーには走るしかなかった。
水溜りを思い切り踏みつけ、泥を散らし被ってもお構いなしだった。
脚が悲鳴を上げ、土下座するかのように倒れこんだ彼は、このときになってやっと辺りが見えた。
それは丁度、空を吐き出すまんまるい月のよう。
このとき、モララーの脳裏によぎった姿は――――
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/11(火) 22:50:01.76 ID:baQlN5PL0
-
_
, イ´'リハ
川 ゚ -゚)
/イ´ッ ='〉
|il| | !
lli| | i
!ll| | ハ モララーと不思議な消しゴムのようです_ Chap. IV
i|llじ' /:::|
. サ /:::::|
. ! /::::::|
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/11(火) 22:55:10.52 ID:baQlN5PL0
-
ざあざあ降りだった天気は一転、思いとは裏腹に、
雲が裂け日が射すまでに回復していく。
この分では、間もなく雲たちは押し流され、足元が汚れることもなくなるだろう。
離れる彼に月桂樹は溜めた涙を零し、それを糸杉が受けとめた。
モララーはふらふらになりつつも、家へと戻ってきた。
もう彼には、そうするしかなかったのだ。
水滴など気にも留めず、モララーは家の中を隅々まで捜し直した。
それこそ重箱の隅を突くように、同じところだって何度も何度も探した。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/11(火) 22:57:02.95 ID:baQlN5PL0
-
それからどれだけ時間が経っただろうか。
部屋は烏に啄まれた亡骸のように、
ありとあらゆるものが四散し、かつての面影など微塵も感じさせない。
日が落ち始め、薄暗くなった中、
モララーは覚めない眠りに就くかのごとく、ゆるりと仰向けになった。
( ・∀・)「‥‥」
( ・∀・)「‥‥‥‥?」
何やら、臀部に違和感を覚えた。
ポケットに手を突っ込み、弄(まさぐ)ってみる。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/11(火) 22:58:26.46 ID:baQlN5PL0
-
それは。
使いこまれ、黒ずみ、小さく、丸くなった“消しゴム”。
( ∀ )「‥‥‥‥」
それを手に、魂が抜けたかのように黙り込んでしまった。
ようやく、モララーは総てを理解した。
理解したと言っても、独り善がりな自己完結かもしれない。
ただ、確信めいた何かが彼にそう結論付けさせた。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/11(火) 23:01:36.05 ID:baQlN5PL0
-
trrrr....
trrrr....
携帯電話が着信している。
モララーは、音のする方へと這いつくばる。
それは居間の机の上にあって、不気味な振動音を鳴らしていた。
( ∀ )「はい‥‥」
『 モララー君!聞こえるかね!! 』
耳鳴りがしそうな程の大声が、向こう側から響いた。
この声は聞きなれたものだ。
( ∀ )「なんでしょうか」
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/11(火) 23:02:19.45 ID:baQlN5PL0
-
『 彼女が‥‥会社の屋上から飛び降りたと‥‥!! 』
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/11(火) 23:03:43.99 ID:baQlN5PL0
-
( ∀ )「‥‥‥‥」
『 いいか、いますぐ会社の、支社の方へ来るんだ!
分かったな! ‥‥じゃあな 』
( ∀ )「‥‥‥‥」
モララーは別段驚きも悲しみもしなかった。
よろめきながらも立ち上がり、湿ったスーツ姿で鍵も閉めずに部屋から出た。
それはさながら、墓場よりの死者であった。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/11(火) 23:07:47.32 ID:baQlN5PL0
-
彼自身にもどうやってここまで来たのかは分からないが、とにかく会社に到着した。
辺りは騒然としていて、野次馬や警官がうろうろしている。
人の壁を切り崩しつつ進んだ先には、生々しく地を染める赤があった。
その近くにさえも、黒々とした者達がいる。
( ∀ )「‥‥」
その場に暫く立ちつくした後、彼はネクタイを締め直し、会社の中へと歩みを進める。
すっかり混乱してしまった人が廊下で転び、何事もなかったかのようにしている人は彼をかわし、煙草臭い人と階段でぶつかったりした。
そんななか、いつの間にモララーは、いかにもサラリーマンといった不器用な早歩きを取り戻していた。
[ 了 ]
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/12(水) 00:18:46.17 ID:yE02mM7j0
-
第 四 章
可能性なら、何処にでも転がっている。
県外の海辺にあるあのショッピングモールかもしれないし、面倒な店員に捕まったあの洋服屋かもしれない。
はたまた、屋上の錆びたベンチに腰かけ、夕日を浴びつつコーヒーを飲んだあのデパートかもしれない。
ともすれば、県境の、曲がりくねった山道にある名もないコンビニかもしれないし、
美人女将二人と変わり者の男性が切盛りするあの旅館かもしれない。山間の菖蒲畑ということもある。
だが何故かモララーには、それらが全くありえないものに感じられた。
雨降りしきる中、ずぶ濡れになりつつも、モララーは走り回った。
そう、当てなんて元々ないのだ。それでもモララーには走るしかなかった。
水溜りを思い切り踏みつけ、泥を散らし被ってもお構いなしだった。
脚が悲鳴を上げ、土下座するかのように倒れこんだ彼は、このときになってやっと辺りが見えた。
それは丁度、空を吐き出すまんまるい月のよう。
このとき、モララーの脳裏によぎった姿は――――
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/12(水) 00:19:34.21 ID:yE02mM7j0
-
, ,、 、
,ハハヾヽ
(゚、゚トソン
レソレ'´ ヽ
( V .) 〉
)_|__./_/
|iiiiiiiヽソ
|iiiiiiiiiii|| モララーと不思議な消しゴムのようです_ 第四章
「 | ̄ |
|| .|
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/12(水) 00:22:44.30 ID:yE02mM7j0
-
光に魅せられた虫のように、それに吸い寄せられていった。
足元のベンチへ、モララーは崩れるように腰かける。
あの時のように、缶コーヒーでも買ってこようか?
後ろのポケットを叩く。しかし財布のような感触は無かった。
( ・∀・)「‥‥‥‥」
( ・∀・)「‥‥?」
何やら、違和感を覚えた。
ポケットに手を突っ込み、弄(まさぐ)ってみる。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/12(水) 00:26:42.82 ID:yE02mM7j0
-
それは。
使いこまれ、黒ずみ、小さく、丸くなった“消しゴム”。
( ∀ )「‥‥‥‥!」
それを手に、魂が抜けたかのように黙り込んでしまった。
ようやく、モララーは総てを理解した。
理解したと言っても、独り善がりな自己完結かもしれない。
ただ、確信めいた何かが彼にそう結論付けさせた。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/12(水) 00:31:54.35 ID:yE02mM7j0
-
(;・∀・)「よし‥‥」
モララーは再び走り出した。
言うことを聞かない脚は何度となくもつれる。
だが、どれだけ汚れ傷ついても、モララーは気にせず走り続けた。
雲は徐々にちぎれはじめ、所々では陽が差しはじめている。
その下では蛙も急いで隠れ、人々はカーテンを開くのであろう。
普段多くの人が行き交うアベニューは寂しく、どす黒い雲に覆われたままであった。
雨が明かりを、そして行き先までもを暈(ぼか)すも、モララーは一心に、脚に鞭打ち続けた。
そんな彼を、周囲は傘や合羽で視界から除ける。
水が打ちつける音と、モララーが駆ける音だけしかここには無い。
オフィス街まで行き着き、ある建物の前で立ち止まると、彼は躊躇せず踏み入れた。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/12(水) 00:34:43.89 ID:yE02mM7j0
-
受付を抜け、オフィスへ。
しゃんとしたスーツ姿の同僚たちが、変わり果てたモララーを見つめる。
お局さんは彼を見て、怪訝な顔をしつつもお喋りのネタになると内心ほくそ笑んでいる。
見かねた警備員が彼に事情を聞こうと近寄るも、モララーは無視して階段の方へ歩を進める。
制止させようと意気込んだその人の顔目掛けて、彼は社員証を放り投げた。
会社の中で、モララーは異質な存在となった。
だが、そんなことモララーにとって大したことじゃなかった。
彼にも、もっと大切なものがあって、彼はそれに気付いたのだ。
( ・∀・)「‥‥‥‥」
滴る水がモララーの足跡となって、入口から彼を結ぶ。
そうして辿り着いた屋上の扉は、施錠などされていなかった。
開く扉に、溜息が漏れた。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/12(水) 00:39:34.79 ID:yE02mM7j0
-
『 ――――トソン! 』
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/12(水) 00:46:44.33 ID:yE02mM7j0
-
呼ばれた彼女は振り向く。
(゚、゚トソン「傘もささずに‥‥どうしたの一体」
( ∀ )「――――!!」
(゚、゚;トソン「うわっ」
ずぶ濡れのモララーに顰面(しかみづら)をしつつも、
トソンは、彼を突っ撥ねたりはしなかった。
(゚、゚;トソン「な、なんなのよ」
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/12(水) 00:56:03.54 ID:yE02mM7j0
-
( ´・ω・`)「やれやれ‥‥」
ショボンが視線を外す。表情はいつものままだ。
( ´・ω・`)「最後の最後で、か」
( ・∀・)「‥‥‥‥」
(゚、゚;トソン「きゃっ」
出し抜けに、強い風が吹いた。
幸いトソンは傘を飛ばされずにすんだが、
それなのにショボンは傘を攫われてしまった。
( ´・ω・`)「ははっ。もうさいごか」
ショボンは笑った。
これを機に、強い風が辺りに居座る。
彼の大きな黒い傘は、雨に呑まれてどこかへ消えてしまった。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/12(水) 01:01:37.29 ID:yE02mM7j0
-
ショボンは濡れた柵に身を預け、
胸ポケットから煙草とライターを取りだした。
火をつけようとしている様子だったが、案の定それは叶わない。
( ´・ω・`)「‥‥ふふ。雨だなぁ」
薄気味悪く頬を緩ませると、ショボンは煙草とライターを後ろに放り投げた。
( ´・ω・`)「じゃあ、さいごにちょっとだけ話そうか」
( ・∀・)「‥‥‥‥」
風が少しだけ弱まった気がした。
傘をさしていたはずのトソンも、先までの風と、
ひたひただったモララーのおかげですっかり濡れてしまっていた。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/12(水) 01:05:42.02 ID:yE02mM7j0
-
屋上は海のようになっていて、風が小さな波を起こしている。
雲はさらに散り散りになるも、俄然この辺りの雨が止むことはない。
( ´・ω・`)「あの娘は私の知り合いの中でも、
特に美しい子だよ。君もそう思うだろ、モララー」
( ・∀・)「‥‥」
(゚、゚トソン「?」
( ´・ω・`)「しかし私にとっての一番は“つー”という女性だ」
ショボンは落ちてくる雨と向かい合うように空を仰いだ。
( ´・ω・`)「でも彼女は重病なんだよ。それに、
彼女自身はまだ知らないが、もう時間が無い」
(゚、゚トソン「え、なんて言ったのか聞こえな‥‥」
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/12(水) 01:08:50.36 ID:yE02mM7j0
-
( ´・ω・`)「ところで、あの娘の苗字は“スナオ”というんだ」
(;・∀・)「!」
( ´・ω・`)「大して肉付けされてない考えだったが、
ガチガチな計画の方が、ややもすると失敗しやすいものだ」
(;・∀・)「ま、まさかそんな」
( ´・ω・`)「ああ。それとね。
警官と警備員を信用しちゃダメだ。
少なくとも、この辺りの奴等はね」
ショボンは体を後ろに逸らせ、雨を受けながらも空を見つめる。
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/12(水) 01:13:10.61 ID:yE02mM7j0
-
( ´・ω・`)「それからは、君がココに来てから言った通りさ。
すまないが‥‥。後はよろしく頼むよ。
当然、こうなったときのことも考えてあるんだ」
擦り減って‥‥小さくなった彼女を、今度こそ無くしたりするんじゃないぞ。
(;・∀・)「えっ、あ」
最後の雲が流れ、陽が押し寄してくる。
それはそれは強い、おそらく最後であろう風を伴っていた。
そして、まるでショボンは、その風を待っていたかのようであった。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/12(水) 01:14:02.29 ID:yE02mM7j0
-
序 章
ある男は消しゴムだったかもしれないし、そうではないかもしれない。
ある女は消しゴムだったかもしれないし、そうではないかもしれない。
ある人は消しゴムだったかもしれないし、そうではないかもしれない。
これは、そんなお話。 [ 了 ]
戻る