- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 22:41:34.42 ID:2c1Mqo3W0
それは文月半ばのことだった。
少女が育て親の屋敷に入っていくと、つんとした臭いが鼻をついた。
臭いを辿っていけば、育て親の局のすぐ近く。座敷牢があった。
風車を指で回しながら、座敷牢の主はのんびりと謳う。
「ほーう、風はどのようなものなのかえ」
少女は黙って首をかしげた。
座敷牢の主はそれに気づかぬまま、謳い続ける。
「ほーう、わらわはお外が知りたいぞえ」
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 22:44:01.80 ID:2c1Mqo3W0
- 行灯に照らされたその顔は、ひどく汚れていた。
何日も風呂湯浴みをしていないようなその臭いに、少女はかすかに眉をしかめる。
「そなたは、だぁれ?」
少女が問いかけると、座敷牢の主はゆっくりと少女に向き直る。
「そなたは、なぁに?」
心底不思議そうな問いに、座敷牢の主は首をかしげた。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 22:47:05.42 ID:2c1Mqo3W0
- 「わらわはわらわじゃ、他にはない」
ざんばらの髪をかきあげて、座敷牢の主は続ける。
「わらわはわらわじゃ、人の子じゃ」
綺麗に梳いた髪を肩にこぼして、少女は問う。
「そなたは……の……?」
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 22:50:07.18 ID:2c1Mqo3W0
- 座敷牢の主はにまりと嗤うと、牢の中から手を伸ばす。
「そうじゃそうじゃ、……さまはわらわをこのようなところに」
その手に髪を掴まれて、少女は甲高い悲鳴を上げる。
「そうじゃそうじゃ、そなたが代わりに」
その手は少女の簪をむしり取ると、また嗤う。
「ほうれほうれ、わらわのほうがよく似合う」
その簪を髪にさし、座敷牢の主は踊る。
「ほうれほうれ、わらわのほうがずっとかわゆい」
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 22:53:13.81 ID:2c1Mqo3W0
- ざんばらになった髪そのままに、少女は震えて後ずさる。
「そなたはまことに、……なの?」
震える手を握りしめて少女は問う。
「そなたはまことに、人の子なの?」
簪をやった河童のほうがよほどに人間らしい。
震える少女が家人によって救われたのは、数刻の後であったとか。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 22:54:56.14 ID:2c1Mqo3W0
ミセ*゚ー゚)リ謳うようです
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 22:55:40.58 ID:2c1Mqo3W0
弐の巻
終に行く 道とは予て聞きしかど 昨日今日とは 思はざりしを
在原業平朝臣(ありわらのなりひらのあそん)
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 22:57:22.67 ID:2c1Mqo3W0
- 屋敷はにわかに慌ただしくなった。
出立の日までに、みせりの荷物をまとめなくてはならないのだ。
長持ちに詰め込まれる自分の荷物や、宝もの達。
みせりは少しずつ手伝いこそするものの、姫という立場上大したことはできない。
まだ渡せずにいた河童の皿を抱えながら、長持ちのそばをうろうろしていた。
ミセ*゚ー゚)リ「つん、つん。かあさまは?」
ξ゚听)ξ「今はお休みですよ」
ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ、あやは?」
ξ゚听)ξ「おつかいへやっていますよ」
ミセ*゚ー゚)リ「じゃあじゃあ、下男たちと遊んできていい?」
ξ゚听)ξ「いけませんよ、姫ともあろう方が、男と遊ぶなぞ」
てきぱきと手を動かしながら、つんはみせりの疑問に答えていく。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 23:01:08.06 ID:2c1Mqo3W0
- みせりはつまらなそうに口を尖らせ、皿を撫でた。
ミセ*゚-゚)リ(かあさまといられるのも、もう少しだけなのに)
叔母のもとに文が届き、返事が返ってくるまでにはそう日はかからなかった。
拍子抜けするほどあっさりと、みせりは叔母に引き取られることになったのだ。
ぺにさすは気が抜けたのか、高熱を出して今は寝込んでいる。
故に、河童からもらった皿をまだ渡せないでいた。
ミセ*゚-゚)リ(早く渡さないと……)
早くしないと出立の日となってしまう。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 23:04:33.33 ID:2c1Mqo3W0
- 焦りはあったものの、熱があるということではあまり無理をさせたくない。
普段からぺにさすのもとに入り浸ってはいたが、わきまえるべきことはわきまえていたのだ。
ミセ*゚ー゚)リ「……」
かといって荷造りすら手伝わせてもらえないのでは、手持無沙汰もいいところだ。
ミセ*゚ー゚)リ「つん、わたし散歩をしてくる」
その言葉につんは振り返り、少し微笑んで頷く。
ξ゚ー゚)ξ「ええ、よろしいですよ。けれど下男を一人連れて行ってくださいましね」
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 23:06:56.88 ID:2c1Mqo3W0
- みせりはその言葉に一瞬不服そうに頬を膨らませたが、しぶしぶと頷く。
みせりが頷くのを見て取ると、つんは荷造りを手伝っていた下男の一人に供を命じた。
先日の騒動以来、つんはみせりを一人にすることをひどく嫌がるのだ。
それが愛情ゆえであることは承知している。
みせりはつんが嫌いなわけではないのだ。
だが一人になりたい時などはその愛情は重苦しく、煩わしいものだった。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 23:09:26.12 ID:2c1Mqo3W0
- みせりが歩きだせば後を付いてくる下男をちらりと見上げ、下履きを履く。
ミセ*゚ー゚)リ「ねえ、そなた。つんに秘密でわたしを一人にしてくれない?」
( ・∀・)「いけませんよ姫さま。私が叱られてしまいます」
ミセ*゚д゚)リ「ねえ、少しだけでいいから」
( ・∀・)「いけません。今度こそかどわかされるかもしれませんよ」
固い口調の下男に口を尖らせると、小石を蹴りながら小路を歩く。
みせりは神の池に行きたかった。
月の代わりに皿をくれたあの河童に。
別れの挨拶と、皿をくれたお礼を改めてしたいと考えていたのだ。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 23:12:26.71 ID:2c1Mqo3W0
- ミセ*゚-゚)リ(河童は、わたし一人じゃなくても会ってくれるかしら?)
うつむいて歩きながら、みせりは懐にある皿を触った。
ざらりとした感触が指先に伝わると、不思議と心が落ち着いた。
ミセ*゚ー゚)リ(きっときっと、大丈夫)
視線を上げて、後ろを振り向く。
下男は一喜一憂している姫に、困惑した様子だった。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 23:15:39.88 ID:2c1Mqo3W0
- ミセ*゚ー゚)リ「ねえねえ、そなた。そなたは物の怪を信じている?」
下男はますます困惑した様子で眉を下げる。
( ;・∀・)「え、ええ、逢魔が時は私も恐ろしいですし」
ミセ*゚ー゚)リ「けれど、いい物の怪もいるのよ」
ミセ*゚ー゚)リ「今から逢わせてあげる」
( ;・∀・)「ひ、姫さま!?」
早足で歩きだすみせりの後を、下男は慌てて追う。
二人の息が切れ出すほど歩いたのち。
二人の目の前には青空を映した神の池があった。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 23:20:32.52 ID:2c1Mqo3W0
- ミセ*゚ー゚)リ「河童や河童。そこにいるかや?」
呼びかけにこたえるように、ぽかりと唐辛子の簪が浮き上がってきた。
( ;・∀・)「ひ、ひぃいいぃい……」
下男はたったそれだけで腰を抜かしたのか、その場に座り込んでしまう。
それを無視するように、みせりはもう一度呼びかけた。
ミセ*゚ー゚)リ「河童や河童。今日は連れがいるの」
また呼びかけにこたえるように、今度は河童の眼だけがぽかりと浮きあがってきた。
( ;∀;)「は、母上ぇええぇ……」
下男はよほど驚いたのか、泣き出してしまった。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 23:27:10.32 ID:2c1Mqo3W0
- ミセ'A`)「どうした幼子や、何ぞ困ったことでもあったのか」
河童は顔を口まで出すと、そう問うた。
みせりは池のほとりにしゃがみ込み、河童に笑いかける。
ミセ*゚ー゚)リ「今日は、そなたにお礼が言いたかったの、河童」
にこにこと笑って、みせりは続ける。
ミセ*゚ー゚)リ「かあさまはきっときっと喜んでくれる」
ミセ*゚ー゚)リ「ほんとうにありがとう」
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 23:32:34.05 ID:2c1Mqo3W0
- ミセ'A`)「礼ならほうれ、この間もらったもので十分じゃ」
河童は頭に付けた簪を示してみせると、ほう、と鳴いた。
ミセ'A`)「それにほうれ、人間に親切にするのもたまにはいいことじゃ」
河童は笑ったように目を細めると、ほう、と鳴いた。
みせりはその様子に楽しそうな声をあげて笑った。
だが、その顔はすぐに曇る。
ミセ*゚-゚)リ「それと、河童。わたしはもう、河童に会えないの」
ミセ'A`)「それはまたどうして?」
ミセ*゚-゚)リ「わたしは、遠い叔母さまのおうちに行かなきゃならないの」
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 23:38:23.40 ID:2c1Mqo3W0
- ミセ'A`)「それはまたどうして?」
ミセ*゚-゚)リ「かあさまのおからだがお悪いから、そばにいてはいけないの」
みせりの悲しそうな顔に、河童は甲高い声でほうと鳴いた。
ミセ'A`)「人間の体とは難儀なものよのう」
河童は再びほうと甲高い声で鳴いた。
ミセ'A`)「人間は悲しい生き物よのう」
みせりは涙を流しかけた目を強くこすると、無理やりに笑った。
ミセ*゚ー゚)リ「仕方がないの」
ミセ*゚ー゚)リ「でも、ありがとう河童」
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 23:41:35.87 ID:2c1Mqo3W0
- みせりはそう言って、立ち上がる。
河童はみせりが立ち上がったのを見て取ると、手を振りながら沈んでいった。
みせりはそれを見送り、振り返る。
そこには下男が涙を流しながら失神していた。
ミセ;゚ー゚)リ「いやだ……ねえねえ、起きて?」
みせりが彼を揺らしても、一向に起きる気配はない。
結局彼が起きたのは日も傾き始めたころだったとか。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 23:47:09.95 ID:2c1Mqo3W0
- --------------------------------------------------------------
文月に入った、もやも晴れない朝の刻。
みせりに旅装束を着せるつんの姿が局にはあった。
ξ゚听)ξ「姫さま……乳母が付いていけないのは心苦しゅうございますが……」
ミセ*゚ー゚)リ「大丈夫よ、つん」
ミセ*゚ー゚)リ「あやがいてくれるもの」
つんには乳母としての役目よりも、ぺにさすの世話をする女房としての役目が優先された。
みせりにつくのは古参の女房が数名と、あやだけ。
姫としてはあまりにも心もとない供の数であった。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 23:53:28.28 ID:2c1Mqo3W0
- 下男は荷を運ぶものと馬の世話役。用心棒として多少剣の心得があるもの。
山賊に襲われないことを願うばかりである。
つんは着物の袖で流れかけた涙を拭うと、いつものような凛とした視線をみせりに向ける。
ξ゚听)ξ「さ、ぺにさす様にご挨拶をなさいませ」
ミセ*゚ー゚)リ「はい」
みせりはひとつ、深呼吸をした。
ぺにさすと別れることに、泣かない自信がない。
けれど泣けば心やさしい母親が悲しむのはわかっていた。
涙腺を緩ませないよう気合を入れ、みせりはぺにさすの局へと足を向ける。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/04(水) 23:59:12.28 ID:2c1Mqo3W0
- 局では、ぺにさすはいつもの寝間着を改め、小袿姿で座っていた。
('、`*川「みせり、わたくしの子」
微笑んで、ぺにさすはみせりを抱き寄せる。
('、`*川「ほんとうに、ごめんなさい」
('、`*川「あちらへ行っても、元気でやるのですよ」
みせりは浮かぶ涙を必死に拭い、ぺにさすに笑いかけた。
ミセ*゚ー;)リ「はい、かあさま」
ミセ*゚ー゚)リ「かあさまも、お元気で」
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/05(木) 00:03:47.67 ID:38hH1jQG0
- みせりはぺにさすの腕をすり抜けると、今度は自分でぺにさすに抱きつく。
普段は叱られる行為だが、ぺにさすは黙っていた。
しばし、そうしていたか。
みせりは体を起こすと、懐から河童の皿を取り出した。
ミセ*゚ー゚)リ「そうだ、かあさま。かあさまに贈り物があるの」
ぺにさすの手をとり、皿をもたせる。
ぺにさすは目を瞬かせて、手の中の感触を確かめる。
('、`*川「これ、は……?」
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/05(木) 00:06:23.05 ID:38hH1jQG0
- ミセ*゚ー゚)リ「物の怪に取ってもらった、月よ」
ミセ*゚ー゚)リ「かあさまはお月さまを見られないもの」
ミセ*゚ー゚)リ「だから、物の怪に取ってもらったの」
ぺにさすは、手の中のものが月ではないとわかっただろう。
けれど娘の思いやりに、尽きることなく涙を流した。
- 35 名前: ◆w.sE9tReRZ7q 投稿日:2009/11/05(木) 00:12:38.39 ID:38hH1jQG0
- ------------------------------------------------------------
ぺにさすの妹、くうるの屋敷までは行程にして七日ほどだ。
都近くの大きな町に、屋敷はある。
その間山を越え、いくつもの宿場を越えて行かねばならない。
その間、みせりたちの一行は、下男の一人がスリに遭うだけで済んだ。
戦の匂いもし始めた昨今、それは非常に幸運なことだった。
( ・∀・)「災難だ……」
- 36 名前: ◆w.sE9tReRZ7q 投稿日:2009/11/05(木) 00:17:15.11 ID:38hH1jQG0
- やがて一行は目的地へと到着し、都のぬるい荒廃ぶりの影響を受けた町を抜け。
くうるの屋敷へとたどり着いたのである。
------------------------------------------------------------
川 ゚ -゚)「よく来た、みせり」
川 ゚ -゚)「待っていたよ」
都の流行だろうか。
出迎えたのは、派手な衣装に身を包んだ館の主人であった。
ミセ*゚ー゚)リ「お世話に、なりますおばさま」
- 37 名前: ◆w.sE9tReRZ7q 投稿日:2009/11/05(木) 00:21:23.80 ID:38hH1jQG0
- まだ湯浴みもできていない格好ではあったが、そう言ってみせりはお辞儀をする。
くうるは全く表情を変えず、それを見下ろした。
川 ゚ -゚)「とにもかくにも、旅の垢を落とすといい」
川 ゚ -゚)「湯浴みの用意はさせてある。行ってきなさい」
ミセ*゚ー゚)リ「は、い……」
取りつくしまもなく、くうるは裳をさらさらと滑らせて奥へと引っ込んでしまった。
みせりは女房たちの案内で、湯殿まで行くことになったのである。
- 38 名前: ◆w.sE9tReRZ7q 投稿日:2009/11/05(木) 00:27:42.11 ID:38hH1jQG0
- 湯殿は生家のものよりもずっと大きかった。
何人もの湯女が湯の世話をし、垢をこすり落とす。
その強引さにみせりは時折顔をしかめたが、来たばかりで文句の言えようはずもない。
湯から上がるころには背中がひりひりと痛んでいた。
それから丹念に髪を梳かされ、小袿姿を着せられた時には疲れ切っていた。
( ´∀`)「くうる様は今お忙しいので……しばしこの局でお待ちください」
ミセ*゚ー゚)リ「あの……わたしの供たちは…」
( ´∀`)「相応の振る舞いをさせていただいております。ご安心を」
すこしふっくらとした女房は、それだけ言い残すと奥へと引っ込んでしまった。
- 39 名前: ◆w.sE9tReRZ7q 投稿日:2009/11/05(木) 00:32:39.81 ID:38hH1jQG0
- みせりは大きなため息をつくと、ぐるりと周囲を見回した。
調度品は、いずれも贅沢なものばかりだ。
くうるは、最近羽振りが良いとは聞かされていたが、ここまで来ると嫌味なものである。
みせりは疲れてはいたものの、すぐに局を抜け出した。
叔母や女房たちに圧倒されてはいたものの、生来の好奇心の強さが出たのだ。
- 40 名前: ◆w.sE9tReRZ7q 投稿日:2009/11/05(木) 00:33:55.56 ID:38hH1jQG0
- あたりを散策していると突然、つんとした臭いが鼻をついた。
臭いを辿っていけば、くうるのものであろうの局のすぐ近く。座敷牢があった。
風車を指で回しながら、座敷牢の主はのんびりと謳う。
川 ゚ 々゚)「ほーう、風はどのようなものなのかえ」
みせりは黙って首をかしげた。
座敷牢の主はそれに気づかぬまま、謳い続ける。
川 ゚ 々゚)「ほーう、わらわはお外が知りたいぞえ」
行灯に照らされたその顔は、ひどく汚れていた。
何日も風呂湯浴みをしていないようなその臭いに、みせりはかすかに眉をしかめる。
- 41 名前: ◆w.sE9tReRZ7q 投稿日:2009/11/05(木) 00:35:42.15 ID:38hH1jQG0
- ミセ*゚ー゚)リ「そなたは、だぁれ?」
みせりが問いかけると、座敷牢の主はゆっくりとみせりに向き直る。
ミセ*゚ー゚)リ「そなたは、なぁに?」
心底不思議そうな問いに、座敷牢の主は首をかしげた。
川 ゚ 々゚)「わらわはわらわじゃ、他にはない」
ざんばらの髪をかきあげて、座敷牢の主は続ける。
川 ゚ 々゚)「わらわはわらわじゃ、人の子じゃ」
- 42 名前: ◆w.sE9tReRZ7q 投稿日:2009/11/05(木) 00:38:05.16 ID:38hH1jQG0
- 綺麗に梳いた髪を肩にこぼして、みせりは問う。
ミセ*゚ー゚)リ「そなたはおばさまの娘?」
座敷牢の主はにまりと嗤うと、牢の中から手を伸ばす。
川 ゚ ∀゚)「そうじゃそうじゃ、かあさまはわらわをこのようなところに」
その手に髪を掴まれて、みせりは甲高い悲鳴を上げる。
川 ゚ ∀゚)「そうじゃそうじゃ、そなたが代わりに」
その手はみせりの簪をむしり取ると、また嗤う。
ミセ ゚ ∀゚)「ほうれほうれ、わらわのほうがよく似合う」
その簪を髪にさし、座敷牢の主は踊る。
ミセ ゚ ∀゚)「ほうれほうれ、わらわのほうがずっとかわゆい」
ざんばらになった髪そのままに、みせりは震えて後ずさる。
- 43 名前: ◆w.sE9tReRZ7q 投稿日:2009/11/05(木) 00:39:05.67 ID:38hH1jQG0
- メ;゚ー゚)リ「そなたはまことに、従妹どのなの?」
震える手を握りしめてみせりは問う。
メ;゚ー゚)リ「そなたはまことに、人の子なの?」
簪をやった河童のほうがよほどに人間らしい。
みせりは震え、助けを願うばかりであった。
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