( ^ω^)蝿の王のようです('A`)

4 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/07(日) 23:52:02.45 ID:hF2g7qK1O


第十二話「魔王降臨」



5 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/07(日) 23:55:15.28 ID:hF2g7qK1O
内藤の能力その一。
蝿達を球状に形成して爆弾として相手に放つ。
内藤の能力その二。
蝿達を槍状に形成して相手を貫く。
内藤の能力その三。
対象を蝿で包む、或いは蝿を付着させる事で相手を腐敗させる。
内藤の能力その四。
自身を蝿に変える事で相手の攻撃を無力化する絶対防御。
内藤の能力その五。
呼び出した蝿達と視覚を共有する探知能力。
内藤の能力その六。
羽を生やす事で得る飛行能力。

そのどれもが俺が十七年間培ってきた常識を打ち砕くものだった。
だがそれが内藤の力の内の一パーセントにも満たないものだったら?
そんな事考えたくもなかったね。
全くもって……

笑えねー冗談だ。

6 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/07(日) 23:57:02.80 ID:hF2g7qK1O
(; メω^)「現在一パーセント以下にまで制御してるベルゼブブの力を全て解放するお」

(;'A`)「いっ……一パーセント!?」

何てこった……
俺が今まで見てきた力は氷山の一角でしかなかったという事か。

(;'A`)「だがなんだってそんな力があるのに今までそれを抑えてたんだ?」

( メω )「それぐらい察しろお……」

重々しく呟き、俯く。
そして内藤はそのまま地面に座り込んだ。
よく見ると内藤の身体が小刻みに震えているのが分かる。
寒空の下に裸で放り出された幼子の様に、或いは処刑台に立たされた罪人の様に。

( メω )「喰われる……」

('A`)「あ?」

( メω )「喰われるんだお。僕の存在が……僕が生きたという事実が…」

たどたどしく、それでもはっきりと内藤は告げた。

存在が喰われる。

逃れられない現実を……

8 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/07(日) 23:59:32.06 ID:hF2g7qK1O
(#'A`)「ふざけんな!!」

俺がこれからの人生をつつがなく過ごす為にはその方法しか無い。
それが分かっていても俺は怒らずにはいられなかった。

(#'A`)「存在が喰われる? ビビってんじゃねぇぞエセフリークス!!」

( メω )「…………」

俺の暴言を聞いてなお、内藤は力無くうなだれている。
ふざけんな……
そんなお前なんて一生見たくなかったよ!

(#'A`)「俺の人生目茶苦茶にしやがって……存在が喰われるんなら俺が死ぬ気で覚えててやる!」

( メω )「馬鹿言うなお……! 今まで僕の力にビビってたヤツがベルゼブブの力に抗える筈が無いお!」

(#'A`)「関係あるか! 俺は流石兄弟と知り合った時から決めてんだ……俺達が殺した奴等の分まで生きてやるってな!」

10 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:01:03.37 ID:a0LNa22wO
(# メω )「だったら国家の犬どもに保護して貰ってろお! 法的にも償えるし一石二鳥じゃないかお!!」

(#'A`)「それじゃあテメェが救われねぇだろうが!!」

( メω )「…………っ!」

コイツの力は後天的に与えられたものだ。
だが元は俺と同じ人間の内藤がベルゼブブの力をその身に宿す術を知っているわけがない。
となると、コイツに力を与えたヤツが他にいる筈だ。

ベルゼブブ……

お前なんだろう?

(#'A`)「さっさとお前のパトロンを呼びやがれ……ボロ切れになるまで説教してやって、またお前を引きずり出してやるよ!」

はっきり言って上手くいく確証なんて微塵も無い。
サハラ砂漠に落としたビー玉を探し当てるよりも難しい問題だろう。

11 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:03:03.04 ID:a0LNa22wO
だがそれを俺がやらずに誰がやる?
内藤が自分でこの力を望んだのかはよく分からない。
それでもこんな物騒な力に振り回されて生きていくなんて……悲し過ぎるじゃねぇか!

('A`)「ここまで罪を塗りたくり合った仲だ。悪党なりのハッピーエンドを迎えるまで付き合ってやるよ!」

( メω^)「…………」

内藤は静かに顔を上げた。
そしていつものニヤけ面で俺を見据えている。

そして……

(;'A`)「…………っ!?」

俺が今まで信じてきた世界。
俺が今まで生きてきた世界に……

硝子を割ったような亀裂が走った。

12 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:05:03.85 ID:a0LNa22wO

−−
−−−
頭が熱を持って痛みを訴えてくる。
どうやら眠っていたようだ。
五体が鉛の様に重い。
脳が徐々に覚醒し始めるのを身体で感じ、ゆっくりと頭を上げるとそこには異形の者がいた。

ベ゚Ω゚)ル「…………」

こめかみに二本の角を生やし、背には髑髏が刻まれた蝿の羽。
体躯は赤黒く、筋骨隆々
下半身は黒い毛で覆われ、足は六本ある。
そして口は昆虫の様に無数のひだが蠢いており、瞳は血の様に赤い。

(;'A`)「ない……とう……?」

間違い無い。
糞山の王、蝿の王。
暴食を司る魔王ベルゼブブだ。

ベ゚Ω゚)ル「ほう……あの少年は我輩が存在を喰らった筈なのだが、貴様は我輩をそう呼ぶのか?」

(;'A`)「こっちが聞きたいさ。何故俺は内藤を覚えている? そりゃあ確かに忘れたくはなかったが……」

13 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:07:07.32 ID:a0LNa22wO
ベ゚Ω゚)ル「ふむ……やはり人の心とは美しいものだな」

(;'A`)「あ?」

この野郎、俺の言葉は完全無視か。
地獄の大魔王様は身分が高過ぎて俺みたいな普通の人間なんて眼中に入ってないんですかはいそーですか。

(;'A`)「俺の質問に応えろ!」

ベ゚Ω゚)ル「だがそれと同時に恐ろしくもある。無力な少年の強い想いが我輩を呼び寄せ、世界を狂わせようとしている」

(#'A`)「聞いてんのか蝿男!!」

なおも俺の言葉を無視し続けるベルゼブブ。
堪らず声を張り上げるがそれも届かない。

ベ゚Ω゚)ル「少年」

('A`)「あ、はい」

今まで俺の事など眼中に無かったように見えたがそうでもなかったようだ。
不意に声をかけられ、返す声は裏返ってしまった。

14 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:08:36.66 ID:a0LNa22wO
ベ゚Ω゚)ル「ドクオといったな、内藤ホライゾンの中からずっと見ておったぞ」

('A`)「はぁ」

地獄の王に名前を覚えられるとは……
つつがなく過ごしてきた筈の俺の人生はとんでもないスケールになってしまったようだ。

ベ゚Ω゚)ル「ふぅむ……良い眼をしておる。内藤ホライゾンが興味を示すのも頷けるな」

ベルゼブブはそう言うと眼を細め、咀嚼する様に俺をジロジロと見つめてきた。

('A`)「俺の事はどうでも良いだろうが。ずっと見てたんなら解るだろ? さっさとティンダロスの猟犬を始末して内藤から出ていけ」

ベ゚Ω゚)ル「…………?」

俺の言葉を聞いたベルゼブブはその赤い眼を大きく見開き、不思議そうな顔をした。

(;'A`)「……? なんだよ……」

それがとても不気味に思えて、俺は頼り無く問い掛けるしかなかった。

15 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:10:26.02 ID:a0LNa22wO
ベ゚Ω゚)ル「少年、我輩の名を言ってみろ」

('A`)「ベルゼブブ、ベルゼバブ、バアルゼブル、正確な名前は分からねぇがそんな感じだろう?」

ベ゚Ω゚)ル「ふむ……」

何だ何だ?
某世紀末漫画よろしく「俺の名を言ってみろ」ってヤツか?
悪いがアンタには七つの傷も極太眉毛も肩パットも見当たらないぞ?
そこまで頭の中で考えたが俺は敢えてそれを口にはしなかった。

ベ゚Ω゚)ル「少年、貴様は我輩が怖くないのか?」

なるほどね。
魔王ベルゼブブを前にして平然としている俺に疑問を持っているってわけか。
残念だが……

('A`)「怖くなんかねぇよ。お前の殺気が肌に馴染むぐらいに俺は馴れちまったんだよ」

ベ゚Ω゚)ル「…………」

俺の返しにベルゼブブは再び目を丸くし、じっと俺を見据えた後にその目を細めた。

16 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:12:03.90 ID:a0LNa22wO
ベ゚Ω゚)ル「くくっ……」

('A`)「……?」

ベ*゚Ω゚)ル「くくっ…くははははっ!!」

ベルゼブブは腹を抱えて高らかに笑い出した。
その姿には尊厳も無く、脅威も無く。
それは純粋にそこに在って笑っていた。

(;'A`)「……んだよ気色悪い……」

ベ*゚Ω゚)ル「面白い! 気に入ったぞ少年!!」

そう言うとベルゼブブはその物々しい手で俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。

ベ*゚Ω゚)ル「少年、貴様は我輩の付き人になれ! うんそれが良い! 今死ね! すぐ死ね! そして地獄に墜ちろ!」

(;'A`)「さらっととんでもない事言うなよ! 俺は当分やる事があるから死ぬ気はねぇし殺される気もねぇ!!」

ベ*゚Ω゚)ル「遠慮はせんで良い! 貴様の様などす黒い心の持ち主なら確実に死んだら地獄行きだ。そしたら我輩が手塩にかけて育ててやろう!」

さらっと地獄行き確定宣告されちまった。

18 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:15:10.35 ID:a0LNa22wO
(;'A`)「手ぇどけろっ!」

ベ゚Ω゚)ル「はい、どけた」

このやり取り、姿形は違えどまるで内藤と話しているようだ。
俺は額に手を当てて俯き再び要求した。

('A`)「ティンダロスの猟犬を始末しろ、ついでに警官の方もな。それとそれが終わったら内藤から出ていけ」

ベ゚Ω゚)ル「最後以外は引き受けよう」

最後の要求。
内藤ホライゾンの身体を明け渡す。
やはり簡単にはいかないだろうとは思ったが……
だが何故ベルゼブブはこの要求を飲まないのだろうか。
ベルゼブブが内藤の身体に住み着くメリットはあるのか?

ベ゚Ω゚)ル「勘違いするなよ少年」

('A`)「あ?」

ベ゚Ω゚)ル「内藤ホライゾンから出ていく……それは我輩の力を奪うという事だ。それをあの少年は望んでいない」

19 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:16:42.66 ID:a0LNa22wO
('A`)「お前が内藤の気持ちを尊重する理由なんてあんのかよ」

ベ゚Ω゚)ル「ある」

ベルゼブブはさらに正確には尊重せざるを得んのだがな、と付け加えた。

ベ゚Ω゚)ル「我輩は縛られているのだ。この無力な少年にな……人の心とは恐ろしいものよ」

そう言うベルゼブブは憂いに満ちた表情をしている。
その表情が内藤を哀れむものなのか、自分を哀れむものなのかは分からない。

('A`)「説明して貰おうか」

ベ゚Ω゚)ル「ん……今ここで説明するのは吝かではないが、先に事を済ませてからの方が少年にとっても都合が良いのではないか?」

まるで朝飯前とでも言いたげな口振りだな。
俺達は右腕を吹っ飛ばすだけでも死ぬ思いをしたっていうのに。

('A`)「それでいい、見せて貰うぜお前の力」

20 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:18:08.93 ID:a0LNa22wO
ベ゚Ω゚)ル「うぬ」

ベルゼブブは小さく頷き、右手を宙に伸ばした。
指の先から蝿が現れる。
そしてそれは内藤が使う能力の中で最強の攻撃力を誇る一本の槍へと形成された。

('A`)「ブリューナク……」

ベ゚Ω゚)ル「いかにも。我輩は『真理崩壊の槍』と呼んでいるがな」

ベルゼブブは形成した槍を無表情に、無感動に投げた。
全てを壊す破壊の槍は木々を貫通して直進していった。

('A`)「爆発しないな……刺突百パーセントってやつか」

ベ゚Ω゚)ル「違う」

槍が向かった先で黒いドーム状の力場が発生した。
ここから確認出来るという事はかなりデカいな。

ベ゚Ω゚)ル「破壊百パーセントだ」

音も無く、衝撃も無く、力場は薄らいで消えていった。
本能で解る。
あの場所に居た警官達は一人残らず消え去った。

21 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:19:45.54 ID:a0LNa22wO
ベ゚Ω゚)ル「次はティンダロスの猟犬か」

('A`)「だがあのワンコ、とんずらかましてんだぞ。どうやって捕まえるんだよ?」

ベ゚Ω゚)ル「知れた事よ」

ベルゼブブは両手を腰に当て、空を仰ぎ言った。

ベ゚Ω゚)ル「来い」

(メ メ_ゝメ)「っ!?」

(;'A`)「ぬぁっ!?」

瞬きの間に猟犬がベルゼブブの眼前に現れた。
内藤が尻尾を捕まえるだけで手をこまねいていたあのティンダロスの猟犬が……
たった一言。
ベルゼブブの『来い』という一言で俺達の前に現れた。

(;'A`)「何をした!?」

ベ゚Ω゚)ル「何もしてないぞ少年。我輩はただこの猟犬に『来い』と言っただけだ。何も不思議に思う事など無いだろう?」

ああ、驚き過ぎて俺の意識が地球を一周しちまったよ。

22 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:21:21.70 ID:a0LNa22wO
ベ゚Ω゚)ル「しかし、なかなかどうして興味深いな。貴様、アザトースの所の悪魔だろう?」

(メ メ_ゝメ)「うぅ゙ぅぅゔゔ……」

アザトースだが何だか知らないが他にも悪魔が出てくるってんなら俺は御免被りたいね。
猟犬は威嚇する様に低く唸り、潰れた目でベルゼブブを睨み付けている。
だがベルゼブブはそんなもの全く意に介していないようで、当然の様に猟犬の両肩に手をかけた。

(メ メ_ゝメ)「っ!?」

ベ゚Ω゚)ル「ああ、貴様の力は使えんよ。我輩が今、使ってはいけないと定めたからな」

(;'A`)「意味分かんねーよ……」

圧倒的な力による圧倒的な圧政。
自身こそが真理であり、その他の理は真理を持って打ち砕く。
努力したって一歩も近付けない。
頂点をブチ抜いた極みの領域の存在。

23 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:23:13.74 ID:a0LNa22wO
魔王ベルゼブブか……

ベ゚Ω゚)ル「取り敢えず、中身をじっくり見せて貰うぞ」

(メ メ_ゝメ)「っ!?」

言うやいなや、猟犬の皮膚が触れられた肩の部分から熔け始めた。
強烈な腐乱臭が辺りに撒き散らされる。

(メ メ_ゝメ)「きゃあぁぁぁ゙あ゙あ゙あ゙!!」

ベ゚Ω゚)ル「うむ、良い悲鳴だ。直ぐには殺さんから安心しろ」

耳を劈くような悲鳴。
肉を溶かす音は恐怖の土台を敷き、ソプラノの悲鳴が土台の上で悲劇を演じる。
半端に溶かされた皮膚は爛れ落ち、内蔵が不快な音を立ててこぼれる。

(メ ;_ゝ;)「ちくしょおぉぉぉおおっ!!」

怨み、辛み、妬み、あらゆるネガティブな感情が込められた悲鳴。
それに先程までの単純な狂気は無かった。
俺の心に染み込む様に響き渡る悲鳴は……

流石 兄者のものだった。

25 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:29:53.41 ID:a0LNa22wO
ベ゚Ω゚)ル「うん? 猟犬は消え失せたか……まぁ良かろう」

こぼれる内蔵を玩具の様に弄りながらベルゼブブは兄者の怒りと恐怖に満ちた顔を舐めるように見つめる。

(メ メ_ゝメ)「あっ……あっ……」

内蔵を強く弄られる度に兄者はびくびくと痙攣する。

(;'A`)「もう止めろっ!! 一思いに殺してやれよ!」

こんなモンを延々と見せつけられたらそれこそ気が狂っちまう!

勝って生を打ち立てる。

そう思う事で自分を正当化していたのに、これじゃあまるで……

一方的な虐殺だ。

('A`)「これ以上その趣味の悪い遊びを続けるってんなら俺はてめーを認めねぇ」

例えベルゼブブと言えども、これ以上俺の意に反する権利は無い!

(#'A`)「三流悪魔は黙って俺に従いやがれ!」

26 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:31:49.38 ID:a0LNa22wO
辺りの空気や木々のざわめきが静まったような気がした。
ベルゼブブはとても失礼な事を言われた筈なのだが、しきりに『ふむ……』と言って頷くだけだった。

ベ゚Ω゚)ル「爆ぜよ」

ベルゼブブの両手に黒い光が収束する。
黒い光というのも微妙な表現だが、それはそう表現するしかないほど禍々しく、神々しく、荒々しくて、繊細な光だった。

ベ゚Ω゚)ル「破っ!」

盛大な掛け声と共に兄者の身体は砕け散った。
肉片などという生易しい砕け方じゃない。

『血霧』

それはまさにそう呼ぶしか無い代物だった。

返り血を擦り払い除ける俺とは対照的に、ベルゼブブは顔に付着した返り血を愛しげな表情で舐めている。

('A`)「…………」

これが紛い物の異端者と本物の異端の差なのだろうか。

27 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:33:51.77 ID:a0LNa22wO
ベ゚Ω゚)ル「さて……」

腕に付いた血を舐め終わると、ベルゼブブは俺の方に向き直り言った。

ベ゚Ω゚)ル「少年、貴様は我輩を貴様の価値観で推し量ろうとしたのか?」

淡々と、しかし厳かにベルゼブブは言う。

('A`)「わりーかよ。俺の視点から見る事象は全て俺の価値観で推し量る、俺が間違ってると思えばそれは誰が肯定しようが間違ってるんだ」

そして付け加える。

(#'A`)「俺から言わせてもらうとアンタの存在自体が間違ってんだよ。てめーが存在する事が内藤を苦しめて良い理由になるか? なるわけねーだろうが!!」

ほんの数刻前まで内藤自身を恐れていた俺が言って良い言葉じゃないのは分かってる。
だがアイツがベルゼブブを呼び出す前の顔を見て、事なかれ主義のままで居られるわけないだろう!

29 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:35:04.52 ID:a0LNa22wO
ベ゚Ω゚)ル「ふん……言っている事が全て的外れだぞ少年。もう少し利口なヤツだと思っていたのだがな」

(#'A`)「関係あるか!」

的外れかどうかなんてどうでも良い。
内藤の言う『世界変革』が俺達の罪を荒い流すものなら俺は喜んで協力する。
だが……

(#'A`)「アンタが内藤を縛りつけるのが気に入らないって言ってんだ! これ以上無駄な言い合いを続けるなら力ずくでいかせてもらう!」

俺はそれだけ言うと歯を食いしばり、地面を強く踏み締めた。
だがベルゼブブは一向に動こうとしない。
腕を組み、何かを考え込んでいるようだ。

ベ゚Ω゚)ル「良かろう」

そして顔を上げ、呟く。

ベ゚Ω゚)ル「この少年が我輩の力を使って何をしようとしているか、そして貴様がこの件で感じた疑問の答えを全て教えよう」

ベ゚Ω゚)ル「それを知ってなお、我輩に抗うと言うなら喜んで相手になろうではないか」

ベルゼブブの言葉で全ての謎が解かれようとしていた。

30 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:37:12.06 ID:a0LNa22wO
ベ゚Ω゚)ル「先ずは我輩がこの少年に宿った事から話そう」

そう言うとベルゼブブは六本の足を器用に畳み、座り込む。
それにつられて俺も地面に座り、胡座を掻いた。

ベ゚Ω゚)ル「少年はこの世界が自分の思う様にならない事を嘆いた事があるか?」

('A`)「あるさ。俺以外の人間が笑って過ごしている事自体嘆かわしいね」

質問の意図は俺には分からない。
だがそれが意味のある質問かどうかは俺には判断出来ないので、ここは自分が思う通りに回答する事にした。

ベ゚Ω゚)ル「結構な事だ。だが少年、その理不尽な想いを叶える力を貴様は持っているのだぞ?」

('A`)「はぁ?」

ベ゚Ω゚)ル「想い、強く願う心。それはいとも容易く世界を揺るがす力となる。内藤ホライゾンは我輩の力を強く望んだのだ」

31 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:38:56.83 ID:a0LNa22wO
('A`)「てめーの言う事が罷り通るならこの世界は今頃目茶苦茶になってるだろうよ」

ベ゚Ω゚)ル「足りぬのだ」

('A`)「あ?」

ベ゚Ω゚)ル「この世界に生きる者全てが強く願う心を持っていたら世界は貴様が言う様に目茶苦茶になるだろう」

ベ゚Ω゚)ル「だが実際はそうではない。強く願う、ただそれだけの事が出来ぬのだ」

大半の人間はな、とベルゼブブは付け加えた。
だがいまいち要領を得ない。
神頼みなんて下らない事はガキの頃からしなかった俺だが、それでも俺が今まで生きてきた中で何かを強く願う事が無かったかと言うと、その答えはNOになる。
それらの想いが全て現実に反映されたかと言うと、その答えもNOだ。

('A`)「つまりはどういう事なんだ? 内藤の想いがその世界を揺るがす力になるほど強かったって事か?」

ベ゚Ω゚)ル「その通りだ。やはり利口だな、少年」

32 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:40:28.48 ID:a0LNa22wO
ベ゚Ω゚)ル「これは蛇足だが……少年が強く願えば我輩を倒す事も可能だ」

('A`)「そんなものなのか?」

ベ゚Ω゚)ル「そうだ。現に少年の強い想いが内藤ホライゾンの存在をこの世界に繋ぎ止めているだろう?」

なるほどね。
それで人の心は云々なんて言ってやがったのか。
この世界はえらくご都合主義で満ちていたんだな。

ベ゚Ω゚)ル「この少年の心も大したものだ。我輩に喰われ、残留思念となった今も我輩の中で強く願い、抗っている」

('A`)「へぇ……じゃあ更に俺が内藤の復活を望めばアンタも危ないんじゃないのか?」

ベ゚Ω゚)ル「うぬ。非常に危ない」

まぁそれにはまだ早いがな。
内藤を助けるのはコイツが知っている事を洗いざらい吐いて貰ってからだ。

('A`)「じゃあ次の質問だ。ティンダロスの猟犬も兄者が強く願ったから発現したのか?」

33 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:41:38.89 ID:a0LNa22wO
恐らく肯定の返事が聞けるだろうと思ったが、ベルゼブブは首を縦には振らなかった。

ベ゚Ω゚)ル「半分は正解だ」

('A`)「もう半分を聞こうか」

ベ゚Ω゚)ル「うぬ。ティンダロスの猟犬は元々兄者の中に居たのだ。流石 兄者が幼き頃から望んだ事によってな」

何の悩みも無いように見えた。
だが俺は流石 兄者について何も分かっていなかったんだな。
なんだってあんなモノを宿しちまったんだ。

ベ゚Ω゚)ル「強い好奇心、非日常を望む心によって猟犬はアザトースの元を離れ、あの少年に宿った。それが内藤ホライゾンの狂気、つまり内なる我輩の力に触れて無理矢理目覚めさせられたのだ」

アザトースってのはあの猟犬のパトロンか。
だがおかしい、狂気に触れてあれが目覚めたのなら津出 麗子や弟者、それに俺にも何か起きる筈じゃないのか?

34 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:43:31.95 ID:a0LNa22wO
俺は思った事をそのまま口にした。

ベ゚Ω゚)ル「津出 麗子は何よりも内藤ホライゾンの無事を願った。流石 弟者は狂気を前に壊れて楽になる事を願った」

ベ゚Ω゚)ル「貴様らが今まで殺してきた者達は皆、強く願い、それを叶える心を持っていたのだ。それを内藤ホライゾンは『適応者』と銘打っていたようだがな」

('A`)「適応者……」

強く願う心を持つ者達。
俺達が殺した人間が皆、その適応者だったのは偶然ではないだろうな。

('A`)「っつー事はもしかして……俺も『適応者』なのか?」

ベ゚Ω゚)ル「うぬ。それも飛び切り強い心を持つ『適応者』だ。我輩も永い年月を生きてきたが貴様のような人間は初めてだ」

とんでもない事実だな。
内藤が俺を選んだ真の理由はこれだったのか。

35 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:44:39.08 ID:a0LNa22wO
('A`)「次の質問だ。何でアンタは内藤の身体から離れられないんだ? それも想いの力ってヤツのせいなのか?」

ベ゚Ω゚)ル「そうだ。この少年は我輩の力を手放す事を良しとしない。それでもって今も我輩の支配を打ち破ろうとしている。我儘な事だ」

(;'A`)「なんだって内藤はこんなリスキーな力に拘るんだよ。それも世界変革の鍵ってヤツなのか?」

内藤が考える事がさっぱり理解出来ない俺は頭をがりがりと掻きながら問う。
それに対してベルゼブブは今までの淡々とした返答ではなく、重々しい口調で答えた。

ベ゚Ω゚)ル「そう、この少年は我輩の力を使って『世界変革』を起こし、神になるつもりだ。我輩よりも悪魔染みた少年だよ」

(;'A`)「か……神だと?」

36 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:46:15.16 ID:a0LNa22wO
(;'A`)「その世界変革ってのは何なんだ!? 俺達が『適応者』を殺してきたのもその為なのか!? 応えろ!!」

ベ゚Ω゚)ル「いきり立つな少年、焦らずとも教えてやろう」

神になるという内藤の目的を聞いて口調が荒れた俺を諭すようにベルゼブブは言う。

ベ゚Ω゚)ル「世界変革とは、今は『適応者』しか持たない理想を現実に変える心を全ての人間に持たせ、その状態で世界を内藤ホライゾンが望む様に作り変える事なのだ」

('A`)「そんな事したら……」

ベ゚Ω゚)ル「世界は大きく歪む。悪魔や天使といった想像上の存在とされた我輩達のような存在がはびこる世界になるのだ」

おいおい内藤、お前は一体全体何がしたいんだよ。
それがお前が言う『何が何でも捨てたくない世界』なのか?

38 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:47:59.32 ID:a0LNa22wO
ベ゚Ω゚)ル「それらの存在の力を自身のモノにし、仮初の神から真の神へと昇華する。それがこの少年の目的だ」

ベ゚Ω゚)ル「それは必然、確実に行われる。貴様ら人間と我輩達は仮初の神となった内藤の手の内で踊らされるのだ」

魔王ベルゼブブでも抗えない運命。
だが今はその黒幕である内藤はベルゼブブに喰われた残り滓になっている。
俺は望んで良いのか? 内藤が再びこの地を踏む事を。

ベ゚Ω゚)ル「これを聞いて貴様も考えが変わっただろう。だがそれも無駄な事だ。『適応者』を殺し、力を高めたこの少年の望みは必ず果たされる」

ベ゚Ω゚)ル「作られた新たな世界でどう動くかを考えよ。それが我輩が伝えたかったこと……」

ベ゚ ゚)ル「……だ…」

39 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/03/08(月) 00:50:16.01 ID:a0LNa22wO
(;'A`)「おいっ!?」

ベルゼブブの身体が真っ二つに割れた。
どす黒い血が噴出し、中にあったモノがその腕を掲げて頭を下げている。

( メω )「はぁ……はぁっ…」

内藤ホライゾン。
悪魔を殺し、神となる者。

( メω )「勝手に……殺すんじゃねぇお糞ったれ……!」

内藤は身体中にへばり付いた悪魔の内蔵を剥ぎ取り、乱暴に投げ捨てながら俺の元へ歩み寄ってくる。

( メω )「取り敢えず礼は言っておくお……君が僕の存在を『望んだ』から僕は抗う事が出来た……」

(;'A`)「…………」

( メω )「ベルゼブブから聞いたおね? それを踏まえて君に問うお……」

俺の目と鼻の先にまで歩み寄った内藤は、そこでようやく顔を上げた。

( メω゚)「僕に……従うかお?」

内藤の瞳は仮でも何でもなく、正真正銘の魔王の瞳だった。


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