- 4 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/08(木) 23:52:57.58 ID:8Me4YxrEO
第十三話「殴り合い」
- 5 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/08(木) 23:54:08.38 ID:8Me4YxrEO
- (´・ω・`)「おはよう」
('A`)「うっす」
いつも通りのいつもの朝。
俺がこうして再び、このしょぼくれ眉毛にぶっきらぼうに挨拶を返せるのは『適応者』である俺がそう望んだからなのか……
なんて柄にも無い事を考えてしまうのはやはり昨日の件を経たせいだろう。
(´・ω・`)「朝っぱらから眉間に皺寄せちゃって、悪魔にでも会ったのかい?」
もうお決まりとなりつつあるコイツの戯言。
何故コイツはこうも的確に、それでもってさらりと俺の状況を当てられるのだろうか。
('A`)「盗撮機でも持ってんのかお前は」
(´・ω・`)「えっ? 本当に悪魔に会ったのかい?」
あくまでも惚けた面をしやがる。
コイツが嘘をついているか否かは向こう五十年一緒に付き合っても見破れないだろうな。
('A`)「ふん……笑えねー冗談だ」
- 8 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/08(木) 23:56:17.46 ID:8Me4YxrEO
- (´・ω・`)「それよりも……柄にも無く香水なんてつけてるみたいだね。少しキツ過ぎるんじゃないのかい?」
('A`)「ほっとけ」
香水なんて普段はルームスプレー程度にしか利用しない俺だが、今日ばかりは仕方無い。
兄者の血を浴びた俺の身体から滲み出る生臭さが一朝一夕で取れる筈も無く、こうして年甲斐もないババァの如く香水を塗りたくる事を余儀無くされたわけだ。
('A`)「昨日焼肉食べに行った時の匂いが取れねぇんだ。髪の毛からも匂いがプンプンしやがるぜ」
肉というのはあながち間違ってはいない。
もっとも、焼肉ではなく生肉の方だがな。
(´・ω・`)「焼肉……ねぇ」
しょぼくれ眉毛は俺の全身を舐める様に見つめる。
垂れ下がった眉をそのままに目を吊り上げた、何か言いたげな表情がそこにあった。
- 9 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/08(木) 23:57:51.69 ID:8Me4YxrEO
- (;'A`)「んだよ気色悪い」
視線を振りほどく様に手を振る。
それに対してしょぼくれはさして物怖じする事もなく、ゆっくりと腰を引いた。
(´・ω・`)「ん……気に障ったのなら謝るよ。どうにも釈然としないものがあってね」
('A`)「んなモン知るかよ。さっさと自分の席に着け」
はいはい、とまるでガキを宥める様に溜め息をつき、しょぼくれが席を立つ。
だがそれは教室の戸が開かれる音によって遮られた。
( ω^)「…………」
傷を負った右目に乱暴に巻かれた包帯。
普段殴られたり蹴られたりでくたびれた学校指定のブレザー。
髪の毛は短いながらも量が多く、野暮ったさを感じさせる。
内藤ホライゾンが、そこに居た。
('A`)「…………」
俺が内藤に声を掛けようか掛けまいか悩んでいると、しょぼくれが俺に耳打ちしてきた。
- 10 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/08(木) 23:59:08.37 ID:8Me4YxrEO
- (´・ω・`)「何だろうねあの包帯、怪我でもしたのかな?」
('A`)「んな事俺が知るかよ。モララーにでもやられたんじゃないのか?」
ぶっきらぼうに返した直後に俺の肩に何かが触れている事に気付き、反射的に振り返る。
( ・∀・)「人聞きの悪い事言うなよ。俺なら目に見える外傷は与えずにジワジワやるね」
('A`)「モララー……」
その端正な顔を不敵に歪めて、俺の肩をポンポンと叩きながらモララーが言う。
俺とモララーのやり取りを余所に、内藤はいつものニヤけ面で俺達の横を通り抜けようとするが……
( ・∀・)「おっと……」
( ω^)「…………」
咄嗟に前に躍り出たモララーによって内藤の歩は止められた。
やれやれだ。
またいつもの下らない光景を見る羽目になるんだろうな。
- 11 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:00:49.72 ID:8Me4YxrEO
- ( ・∀・)「内藤く〜ん、その怪我どうしたんだい?」
( ω^)「…………」
モララーが猫撫で声で問い掛ける。
だが内藤はそれに対して何も応えず、ただ俯くだけだ。
( ・∀・)「どした? 俺の質問に応えろよ」
(# ><)「モララー君シカトしてると酷い目見るぞなんです!」
どこからともなく現れた腰巾着のビロード。
未だニヤニヤと笑みを絶やさないモララーとは対照的に、大して威圧感も無いつぶらな瞳を大きく見開いて威嚇する。
('A`)(動物かよお前は……)
(# ><)「何か言えなんです! 殺されてぇのかなんです!!」
なおも俯き、沈黙を続ける内藤に業を煮やしたのか、ビロードは内藤の胸倉を掴み、空いた右手を大きく振りかぶる。
- 12 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:02:11.88 ID:8Me4YxrEO
- (-A`)(南無三っ!)
俺は心の中で内藤に向けて合掌する。
だがそれは全くもって無駄な事となった。
殴りかかるビロードの拳を内藤は片手で払い、更に空いた左手でビロードの頭をがっちりと掴む。
そしてそのまま左手を薙ぐ様に、ビロードの顔面を俺の机の角に叩き付けた。
( ><)「ぶへらっ!」
(;'A`)「おいっ!」
ビロードは両手で鼻を抑えながらしゃがみ込む。
その手の間から大量の血が吹き出ているのが見えた。
( ω^)「…………」
(; ・∀・)「え?」
モララーは先程まで不敵に歪めた顔を引きつらせ、後ずさる。
内藤はまるで何事も無かったかの様なニヤけ面で、後ずさるモララーをゆっくりと一歩ずつ追い詰めてゆく。
- 13 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:04:03.03 ID:08JH9kTSO
- ( ω^)「うぜーんだお」
蚊が鳴く様な、だがそれでいてとても怒りに満ちた声で内藤が呟いた。
騒ぎに気付いた女子達の悲鳴がやけに耳につく。
だがそれよりも俺の意識を引きつけるものがあった。
( ω^)「お前もズタズタにしてやろうかお? 『適応者』……」
モララーに向けて放った内藤の言葉。
それが俺に与えられた僅かな安息の時を打ち砕いた。
(;'A`)(クソったれ!)
このままだと学校内で殺人事件が起こりかねん!
若干気が引けたが俺は即座に自分の席を立ち、空いた自分の椅子で内藤の後頭部を殴りつけた。
( ω゚)「がっ……!」
内藤は頭から血を流しながら糸の切れた操り人形の様に崩れ落ちた。
女子達の悲鳴が耳を劈くような金切り声になるのを感じながら、俺は心の中で口癖になりつつある文句を呟いた。
- 15 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:05:39.35 ID:08JH9kTSO
- (;'A`)(笑えねー冗談だ……)
グッバイ、俺の慎ましい学生生活。
これから俺が『普段は物静かだけどキレたら危ない人』なんてレッテルを貼られて、後ろ指を指されながら暗い学生生活を送るのが目に浮かぶ。
(;'A`)「あぁぁ゙っ!! クソったれ! どいつもコイツも人の気も知らねぇで好き勝手やりやがって!」
頭を抱えて無駄にジタバタしてみるが助け船など来る筈も無い。
それどころかもっと悪い知らせが耳に入った。
(;´・ω・`)「どーすんのさこの二人!? もう先生が来ちゃうよ!?」
(;'A`)「……っ!」
しょぼくれが伝える悪い知らせで我に返る。
処理すべき人間は二人。
先ずは鼻血を流して唸っているショタっ子からだ!
(;'A`)「ビロード! お前は泣いてないでさっさと席に着け!」
- 16 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:07:22.63 ID:08JH9kTSO
- (; ><)「うわぁぁんっ! 血が出てるんです! 痛いんです!」
何歳児だよお前は。
(;'A`)「男の子だろうが! もっとシャキッとしなさい!!」
(; ><)「うっ…ぐすっ…ぐすっ」
鼻血を恐る恐る拭いながら自分の席に向かうビロードを横目に、俺は次の難関に目を向けた。
( ω゚)「」
(; ・∀・)「死んでんじゃね? コイツ……」
滅多な事言うんじゃねぇ!
と、心の中で突っ込むがモララーがそう言うのも無理は無い。
白目を剥いて倒れている内藤は時折びくびくと痙攣している。
(;'A`)「しょぼくれ! 雑巾をありったけ持って来い!」
(´・ω・`)「ほいさ」
言うやいなや、俺の隣に雑巾が大量に落ちた。
さぁ今から特命病棟二十四時名医鬱田ドクオの奇跡の始まりだ!
このマメなしょぼくれには名助手の称号をくれてやろう。
- 17 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:08:48.49 ID:08JH9kTSO
- 取り敢えず頭を持ち上げてやり、血の流れを抑える。
(;'A`)「しょぼくれ、抗菌ガーゼを寄越せ!」
(;´・ω・`)「君は僕をなんだと思ってるんだ!? そんなの持ってるわけないじゃないか!?」
くそっ! 名助手の称号は剥奪だ。
何か代用出来る物はないかと辺りを見渡していると、横から手が差し出された。
( ・∀・)「ほらよ」
その手には望んでいた抗菌ガーゼが握られていた。
何でこんな物をモララーが持っているのかは突っ込むまい。
(;'A`)「恩に着るぜ」
それを乱暴にひったくり、患部に押し当てる。
真っ白だったガーゼはあっという間に血の赤に染まり、湿った感触が手に伝わる。
(;´・ω・`)「これはかなり不味いんじゃない?」
(;'A`)「大丈夫だ、頭部の怪我で一番危険なのは内出血だ。この様子じゃあその心配は無さそうだからな」
- 18 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:10:45.41 ID:08JH9kTSO
- とは言うものの俺に応急処置の知識は殆ど無い。
今の言葉も素人の付け焼き刃、気休め程度の予備知識でしかない。
(;'A`)「くそっ! 取り敢えず血を隠してモナーを騙すしかないか……」
(;´・ω・`)「そんな目茶苦茶な……」
( -∀・)「良いと思うぜ」
否定意見と肯定意見が一つずつ。
だが知ったことか!
今この場では俺がルールだ。
('A`)「しょぼくれ、モララー、取り敢えず辺りに散った血を拭き取ってくれ!」
( ・∀・)「あいよ」
(;´・ω・`)「バレても僕は知らないからね……」
知るか。
こないだ逃げた罰として巻き添えになってもらうさ。
(#'A`)「間に合えぇぇえっ!!」
各々が血を拭き取る中、俺は内藤の患部を抑えて血を止める事に専念した。
- 19 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:12:36.39 ID:08JH9kTSO
- ( ´∀`)「モナ? 何してるモナ、さっさと席に着かないと遅刻にするモナよ」
勢い良く戸が開かれ、モナー教師が現れた。
教室の空気がどよめく。
モララーとしょぼくれは上手くやったのだろうか。
ちらりと横目で二人の様子を確認する。
(; -∀-)「…………」
雑巾はポケットの中か……よし!
(;´-ω・`)「…………」
雑巾は俺の机の中か……良くない! がここはやむを得ないか。
('A`)「先生」
( ´∀`)「ん、どうしたモナ?」
モナー教師はまだこの惨状に気付いていないようだ。
担任が愚鈍である事を喜ぶのは恐らくこれが初めてだろう。
('A`)「内藤が貧血で倒れたみたいなんで保健室に連れて行きます」
('A`)ノ( ω゚)ダラーン
- 21 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:13:41.80 ID:08JH9kTSO
- (; ゚∀゚)「んぐwwwwww」
(;´゚ω゚`)「ぶっwwwwww」
ええい笑うな!
特にモララー、お前の場合は色々と不味い。
俺だってこんな苦肉の策なんか取りたくなかったさ。
だが仕方無いだろう?
内藤がいつ目を覚ますか分からない状況でこのまま放置しておくわけにもいかない。
かと言って今起きた事を正直に話すなんて俺には出来ない。
(; ´∀`)「何か深入りしたらいけない気がするモナ。じゃあ鬱田、内藤を頼むモナ」
しめた!
('A`)「じゃあモララー、しょぼくれ、運ぶのを手伝ってくれ」
(;´・ω・`)「はいはい」
(; -∀-)「りょーかい」
俺の一声で二人がそれぞれ胴と足を抱え上げる。
俺は血が出ている患部を抑える必要があったので頭を抱え上げた。
- 22 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:15:30.47 ID:08JH9kTSO
- ('A`)「……頭を見せるんじゃねーぞ」
( ・∀・)「……分かってらい」
(;´・ω・`)「……何で僕まで」
各々で目配せする。
モナーに悟られぬように教室の後ろ側の戸から廊下へ出る。
そしてしょぼくれが戸を閉めた時、ようやく俺達は安堵の溜め息をつくことが出来た。
(;'A`)「成るように成るもんだな……」
(´・ω・`)「何で僕こんな事してるんだろう……」
(# ・∀・)「さっきからブツブツうるせーぞ八の字眉毛」
それから保健室までの道程を俺達はどうでも良い世間話をしながら歩いていたのだが、保健室まで丁度後半分に差し掛かったところで俺はある違和感に気付いた。
('A`)(軽いな……)
気を失って倒れている内藤の身体は三人がかりで持っているにしても軽過ぎる。
('A`)「…………」
- 23 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:16:38.96 ID:08JH9kTSO
- (´・ω・`)「どうかした?」
('A`)「いや、何でもない」
コイツの前で考え事をするのは今後控えよう。
このしょぼくれ、虫も殺せないような温厚でお人好しそうな顔をしているが俺のやる事、考える事に関しては異常なまでに目を光らせている気がする。
( ・∀・)「おっし、着いたぞ」
俺は内藤の患部を持ち上げつつ、空いた手で振り返らないまま保健室の戸を開けた。
消毒液の臭いが鼻につく。
(´・ω・`)「先生が居ないね」
('A`)「その方が都合が良いさ」
内藤を乱暴にベッドの上へと放り投げ、俺達は揃って安堵の息をついた。
俺、しょぼくれ、モララー。
まさかこんな奇妙な組み合わせで共同作業をする日が来るとは、夢にも思わなかったな。
- 24 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:17:55.77 ID:08JH9kTSO
- (; -∀-)「やれやれだな」
モララーは溜め息を吐きながらブレザーのポケットに手を突っ込み、煙草を取り出した。
(´・ω・`)「副流煙って知ってる? 場所も場所だし控えて欲しいんだけど……」
しょぼくれがあからさまに嫌そうな顔をするがモララーはそんな事お構い無しにオイルライターも取り出す。
( ・∀・)「成績学年一位の俺にそんな質問するか? 手前の意見なんざ聞いてないんだよ」
オイルライター特有の甲高い金属音と共に炎が揺らめいた。
そのままモララーは煙草に火をつけ、大きく吸った。
( ・∀・)「ふぅーっ…一仕事終えた後の一服は旨いな」
煙がみるみるうちに保健室中に立ち込める。
俺は煙草の煙は苦手じゃないが、場所が場所なだけに気に入らない。
コイツは人が来た時の事を考えていないのだろうか。
- 26 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:19:07.91 ID:08JH9kTSO
- ('A`)「先生が来たら俺達まで停学になる。吸うなら余所で吸ってくれ」
( ・∀・)「この時間は誰も来ねーよ。保健教諭も事務作業中だ。知っててここに来たんじゃねーのかよ」
言いつつモララーは俺に煙を吹き掛けてくる。
煙草は苦手ではないとはいえ、非喫煙者の俺がこの煙たさに耐えきれる筈もなく、堪らず俺は咳き込んだ。
(;'A`)「ごほっ…何事もイレギュラーってモンがあるだろうが! そんな事も考えられないほどお前は馬鹿じゃないだろ?」
(; -∀-)「あーもう! うるせぇな、お前普段からそんな堅苦しい事考えてんのかよ。ちったぁ肩の力抜いたらどうだ?」
モララーは舌打ちしながら窓を開け、煙草を指で弾いた。
煙草は赤く揺らめきながら綺麗な放物線を描き、地面に落ちた。
- 28 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:20:05.79 ID:08JH9kTSO
- (;´・ω・`)「ごほっごほっ…臭いが染み付いたら洒落にならないや。僕は先に行くからね」
しょぼくれはそれだけ言うと足早に廊下に出て、ぴしゃりと戸を閉めた。
よっぽど嫌だったんだろう。
モララーに代わって謝っておこう、心の中でだがな。
( ・∀・)「なぁドクオ」
('A`)「あ?」
出ていったしょぼくれからモララーの方へ視線を移す。
モララーは内藤ほどではないが、邪気を含んだ笑みを浮かべていた。
( ・∀・)「お前って意外にブッ飛んだヤツだったんだな」
モララーは顎で内藤を指す。
( ・∀・)「椅子で人をブン殴るなんてよっぽど喧嘩慣れしてねぇと躊っちまうモンなんだがな」
値踏みするような視線。
全く、俺も人の事を言えないが『適応者』ってのはどいつもこいつも一筋縄ではいかないな。
- 30 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:21:18.47 ID:08JH9kTSO
- ('A`)「クラスのゴミを潰すのに何を躊う事があるんだ?」
( ・∀・)「違うね」
俺の言葉をモララーは即座に否定する。
( ・∀・)「それはお前の本心じゃない、それくらい俺でも分かるぜ?」
( ・∀・)「『適応者』がどうとかって言ってたよなコイツ。俺が聞いてなかったとでも思ってんのか?」
モララーは矢継ぎ早に言葉を連ねてゆく。
その言葉は俺が今最も触れて欲しくない核心へと近付いてきた。
( ・∀・)「お前、面白そうな事に一枚噛んでんだろ? 勿体ぶらずにここで全部吐き出しちまえよ」
(;'A`)「…………」
不味い事になってきた。
コイツがただの不良ならしらばっくれれば良い。
最悪、バレたとしても良いだろう。
一介の高校生が迂闊に手を出せるようなことじゃないからな。
- 31 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:22:48.49 ID:08JH9kTSO
- だが内藤の言葉が真実だとするとモララーは間違いなく『適応者』だ。
恐らく……次に俺達の犠牲者になる人物。
ベルゼブブが言う世界を揺るがす力を持つ人間が、それぞれその自覚を持ちながらにして一堂に介する事になればどうなる?
(;'A`)(考えたくもねぇぜそんな事……)
それこそ世界変革どころの話じゃない。
そうなってしまえばもう後の祭り、人類は血祭りだ。
( ・∀・)「だんまりかよ。俺としては武力行使にでても良いんだがな……」
モララーは俺の肩に手をかけ、静かに力を込める。
骨が軋むような痛みと不快感が俺を襲った。
(#'A`)「いっ……!」
堪らずその手を振り払い、威嚇の意味を込めて未だ笑みを絶やさないモララーを睨みつける。
- 32 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:24:06.47 ID:08JH9kTSO
- ( ・∀・)「何だぁその目は? 内藤の時は気圧されちまったがよぉ……お前、俺とまともにやり合って勝てると思ってんのか?」
モララーは未だに笑みを絶やさないでいるが、目は全く笑っていない。
獲物を狩る狼の様に凶悪で、狡猾な瞳。
それは他の何者でもなく、俺だけを真直ぐに見据えていた。
(;'A`)「ちっ…うっせーな……」
( ・∀・)「反省してまぁすってか? つまんねーんだよボケが!!」
怒号とともに大振りなローキックが俺の左足に向かってきた。
俺はそれを咄嗟に空手の下段払いの要領でを左腕で受け止める……だが。
(;'A`)「ーーーっ!?
受け止めた筈の左腕が押し負けて弾かれた。
それと同時に強烈な痺れが腕を襲う。
- 33 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:25:44.65 ID:08JH9kTSO
- 痺れた腕を労る間も無く、モララーの追撃が襲いかかる。
先程蹴りに使った右脚を軸にした後ろ回し蹴り。
相手を一撃で屠る鈍器と化したモララーの左脚が俺の側頭部に狙いをつけてくる。
(;'A`)(くっ……!)
避けるには少し反応が遅過ぎた。
使える右手を出すのも間に合わない。
ならば……
(#'A`)「受け止める!」
狙われた頭部を脚にぶつけてやる。
骨張った感触と激しい衝撃が俺の脳を揺さぶる。
(;'A`)「ぐぁっ!」
(; -∀・)「っつ……!」
頭のダメージはかなりのものの、モララーもそれなりのダメージを受けているようだ。
渾身の蹴りを放つ足に渾身の頭突きによるカウンター。
両者共に無事でいられる筈がない。
- 34 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:26:53.29 ID:08JH9kTSO
- (; -∀・)「いってーなおい……」
モララーは片足立ちで左足を擦っている。
これで何とかイーブンとまではいかないが一矢報いる事が出来たようだな。
(;'A`)「っつ……!」
だが脳の揺れと左腕の痺れは治まらない。
頭も腕も蹴りを一発ずつ食らっただけなのだがこの有様だ。
(;'A`)(化け物かよコイツは……)
その華奢な身体の何処にそんな力があるのだろうか。
プロの格闘家ですらストリートファイトの舞台なら倒してしまう。
そんな化け物染みた強さすら感じる。
( ・∀・)「お前なかなかやるじゃん。多分俺が今までやり合ったヤツの中でも五本の指に入る強さだぜ」
そりゃどうも。
言いながらモララーは鼻歌交じりに構える。
- 35 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:28:36.18 ID:08JH9kTSO
- ( ・∀・)「来いよ」
舌を鳴らし、俺を挑発してくる。
その挑発に乗れるのならどれだけ気が楽だろうか。
しかしモララーの構えに隙は無く、どこを狙っても強烈なカウンターをお見舞いされる未来しか見えない。
ならば……
('A`)「…………」
( ・∀・)「ブレザー脱いでどうすんの? 喧嘩の時に上着を脱ぐなんて漫画の見過ぎだっつーの!」
モララーの挑発を余所に俺は脱いだブレザーを未だに痺れる左手で掴む。
悪いなモララー、ちょっとばかし汚い手使わせて貰うぜ。
('A`)「こうすんだよ!」
(; ・∀・)「なっーー!?」
掴んだブレザーをモララーに被さるように投げる。
俺の予想外の動作にモララーの動きが鈍る。
その隙を……
逃さない!
- 38 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:30:37.13 ID:08JH9kTSO
- (; ∀ )「がっ……!」
首筋に手刀。
崩れ落ちる頭を掴み顔面にアッパーカット、駄目押しの前蹴り。
その全てに充分過ぎる手応えを感じながら、俺は天井を仰ぎ言った。
('A`)「悪いなモララー、まともにやり合ってたら十中八九俺の負けだろうが……」
(-A-)「これは試合じゃなく喧嘩。まぁ今回は、ズル賢く立ち回れなかったお前の負けってことだ」
(; ∀ )「ぐっ……」
モララーは力無く倒れた。
計らずも俺のブレザーが敗北したモララーを労る様に覆い被さった。
('A`)「まぁ俺はそこまで好戦的な人間じゃないし、お前との喧嘩も今回限りだろうけどな」
あるとすれば内藤を含めた二対一の殺し合いだ。
お前が『適応者』だとすれば……だがな。
- 39 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:32:42.55 ID:08JH9kTSO
- ('A`)「立てるか?」
(; ∀ )「さわんな……!」
俺が差し出した手を払い、モララーは倒れたままポケットから煙草のボックスを取り出した。
そしてその中から煙草を二本取り出し、一本を俺に差し出してきた。
('A`)「俺は煙草吸わねぇぞ?」
( -∀-)「良いから吸えって、喧嘩した仲だろうが……付き合いわりーぞ?」
そこまで言われると悪い気はしない。
差し出された煙草を口に咥え、一つのオイルライターの火で二人顔を近付けて煙草に火を点ける。
そして大きく吸い、肺の中が煙で満たされるのを確認してから吐く。
煙がゆらゆらと宙を舞い、束の間の存在感を醸し出して消えてゆく。
- 40 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:33:47.67 ID:08JH9kTSO
- ( -∀-)「ふぅ……お前吸い方わかんのか?」
(;-A-)「分かるが……頭がクラクラするな…」
脳に染み渡るニコチンが浮遊感に似たような感覚を引き起こす。
( ・∀・)「ははっ、やっぱり初めての喫煙でセブンスターは厳しいか」
モララーは立ち上がり、赤くなった鼻から流れる鼻血を拭う。
それとは逆に、俺はニコチンのせいで立っているのも怠くなり座り込む。
(-A-)「怠くなるな。もう捨てていいか?」
俺は目頭を抑え俯いた。
どうも煙草ってヤツは俺の身体には合っていないらしい。
「良いぜ、どっちみち持ってられなくなるからよ」
モララーの謎めいた言葉と共に脇腹に衝撃が走る。
(;'A`)「ーーっ!?」
痛みと衝撃に耐えられず、身体が横っ飛びする。
持っていた煙草が手から離れ、宙で揺らめいた。
- 41 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:34:57.29 ID:08JH9kTSO
- ( ・∀・)「はっはー! 昨日の友は今日の敵ってなぁ! 違うか?」
(;'A`)「くっ……そ…」
痛みとニコチンの毒で身体が上手く動かない。
そうこうしている内にモララーが俺の眼前まで歩み寄ってきた。
( ・∀・)「こいつぁ試合じゃなく喧嘩だ。今回はズル賢く立ち回れなかったお前の負けだ」
モララーの台詞に既視感を覚える。
返事を返す間も無く俺の顔面に拳がめり込んだ。
(;゚A゚)「ぶふっ……!」
痛い、なんて表現じゃあチープ過ぎる痛み。
脳の揺れと共に強烈な吐き気が俺を襲う。
(;'A`)「ぉえ゙ぇぇっ!」
( ・∀・)「きたねーモンブチ撒けてんじゃねぇぞ!」
身体が安息を求めるが、上を見るとモララーの追撃の手。
両手が組み合わされた形でハンマーの様に俺に迫る。
- 43 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:36:54.79 ID:08JH9kTSO
- だがその手が俺に届く事は無かった。
「爆ぜろ」
モララーの背中で小規模の爆発が起こる。
何度も助けられた、異形の者の力。
(; ∀ )「ぐぁあ゙ぁぁっ!!」
モララーは悲痛の叫びを上げながら俺の嘔吐物の上に倒れ込んだ。
狙って来た様なタイミングで乱入しやがって……
それなら最初から手伝えよ。
内藤……
(;'A`)「寝たフリはもうお終いか? つくづく趣味が悪いぜ」
( ω^)「お? いつから気付いてたのかお?」
見慣れたニヤけ面がそこに立っていた。
('A`)「お前を抱えてここまで来る時だ。知ってたか? 気ぃ失った人間ってのは力が抜けてる分、運ぶ時には重くなるもんなんだぜ?」
( ω^)「それは迂闊だったお」
- 44 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:39:46.81 ID:08JH9kTSO
- コイツを運ぶ時の違和感は気のせいではなかった。
事もあろうかこの胸糞悪いニヤけ面は俺達が四苦八苦しているのを内心で笑いつつ、気絶したフリをしていたのだ。
( ∀ )「いてぇ……いてぇぞこら…」
('A`)「内藤、力を使うのは良いがちょっとは場所を考えてくれよ」
( ω^)「考えとくお」
(# ∀ )「俺を無視して呑気に話すんじゃねぇ!!」
モララーの怒号が響き、室内は水を打った様に静かになった。
('A`)「まだやんのか? さっきの食らって分かっただろうが……自分から首突っ込んで良い世界じゃないぜ?」
俺のモララーに対する最終警告。
有り触れた日常から、糞ったれの非日常になる最後の壁が……
( ∀ )「うるせぇ……」
破られた。
- 45 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:41:17.71 ID:08JH9kTSO
- ( ∀ )「ない……とぉ…」
モララーは端正な顔を般若の様に歪め、重い足取りで内藤に近付く。
( ω^)「やる気かお? 僕に普通の攻撃は効かないけど……」
内藤は構えるわけでもなく、ただニヤニヤ笑いながらモララーを見据えている。
だが何だろうかこの胸騒ぎは。
内藤は既にモララーの前で蝿の力を使ったのだから、蝿の絶対防御も隠す必要は無い。
だが……
(;'A`)「内藤!!」
(; ω^)「ぁぐっ……!」
モララーの拳が内藤の頬を捉えた。
クソが! 俺の悪い予感はどうしてこうも的中するんだ?
( ∀ )「へへ……へ…」
内藤は予測していなかったのだろう。
モララーの拳を前に成す術無く吹っ飛んでゆく。
モララーはそれに対し追撃するわけでもなく、ふらふらとした足取りで床に落ちた煙草を拾って開いた窓の縁に足を掛けた。
- 47 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:44:05.42 ID:08JH9kTSO
- (;'A`)「何処に行く!?」
俺の問い掛けに対しモララーは気怠そうに振り向き、未だに火が消えていない煙草を俺に見せつけて言った。
( ∀ )「サービス」
('A`)「は?」
俺がモララーの筋違いな返答に対して何を言えば良いか考えている内に、モララーは窓を飛び越えて去って行った。
窓辺に立ち、惚けていると内藤の呻き声が聞こえた。
('A`)「大丈夫か?」
( ω^)「大丈夫なわけあるかお。右目の傷も頭の傷も痛みを取り除いて身体を騙してるだけなのに……」
内藤は皮肉たっぷりに頭を撫でている。
('A`)「お前が場所も考えずに殺気立てるからだろうが……ああでもしないと教室の中で力を打っ放してただろ?」
( ω^)「まぁそれは反省するお」
- 48 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:45:35.26 ID:08JH9kTSO
- あくまで飄々とする内藤。
ベルゼブブの中から出てきた時の目は何だったのだろうか。
('A`)「……と、んな事より、何で蝿になって攻撃を受けなかったんだ?」
( ω^)「受けれなかったんだお」
頬を撫でながらぶっきらぼうに言う。
( ω^)「正確には蝿になったけれどアイツの拳が僕に触れた瞬間、力をかき消された」
内藤は自分の両手をグーにしてぶつけ、片方の拳を開いた。
開いた拳をヒラヒラと振る動作でようやく、俺はその拳が内藤とモララーを表している事に気付く。
('A`)「これも『適応者』の力ってやつか……」
( ω^)「そういう事だお」
モララーは一体何を望んだから内藤を殴れたのだろうか。
またティンダロスの猟犬みたいなのが出てくるのは御免だぜ?
- 50 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:48:12.10 ID:08JH9kTSO
- ( ^ω^)「まぁ単に僕を殴りたかっただけなら大した問題じゃないお」
('A`)「その言い方だと他の可能性もあるみたいだな」
内藤のような人間がこういう含みのある言い方をする時、往々にして事柄はその他の最悪の可能性が選択される。
それがどういうメカニズムを以てそうなっているのかを俺が知る術は無いが、それを素直に受け止める事が出来る程のタフな心を俺は獲得しつつあった。
('A`)「どうせ今回も一筋縄ではいかないんだろ? 勿体ぶらないでお前の見解を言え」
( ω^)「悪魔だお」
俺の言葉に対して即答で返された言葉に、俺は先日の光景を重ねた。
また昨日みたいな大惨事が起きるのか?
これが馬鹿げた夢ならどんなに気が楽だろうか。
- 51 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/04/09(金) 00:49:40.14 ID:08JH9kTSO
- ('A`)「またあんな厄介なモンを相手にすんのか?」
( ω^)「違うお」
これまた即答。
( ω^)「恐らくティンダロスの猟犬よりも遥かに高位の悪魔だお」
(;'A`)「…………」
思わず息を呑んでしまった。
猟犬よりも高位の悪魔となれば昨日の件より多くの犠牲者が出かねない。
猟犬対ベルゼブブであの戦いだ。
下手すればこの街全てを巻込む大惨事になるのではないだろうか。
(;'A`)「どうすんだよ!」
( ω^)「どうもこうも……戦うしかないお」
そして内藤は言葉を続ける。
( ω^)「次のターゲットはアイツだお。条件は哀しみの中で殺す事、たまには全面的に役に立つ策を考えてくれお」
俺が内藤の言葉に何も返せないでいると保健室の戸が開く。
そこでようやく俺はモララーの去り際の言葉の意味に気付いた。
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