( ^ω^)蝿の王のようです('A`)

4 名前:◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:14:15.30 ID:P6MIdOx9O


第九話「破綻」



5 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:16:35.30 ID:P6MIdOx9O

落とし穴−

小学生の頃、或いはそれより幼い頃、腕白な男子なら誰もが作った事があるであろう古典的ブービートラップ。
それは興味本位、或いは可愛げのある悪戯心によって作られるのが殆どだろう。

だが今ここにあって兄者が嵌まっている落とし穴は違う。

作成人物は高校生、つまり俺。これは可愛げの無い悪意と算段によって作られたブービートラップだ。

('A`)「今どんな気分ですか? 高校三年生にもなって、こんな大事な場面で落とし穴に嵌まってしまった人間の心境には興味がありますね。差し支えなければ教えて欲しいです」

くくっ、と俺は喉を鳴らす。
そして不機嫌そうな内藤でも呆然としている弟者でもなく、穴に嵌まり、今は姿の見えない兄者の反応を待った。

6 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:18:10.16 ID:P6MIdOx9O
「この場に似つかわしくないにもほどがある。笑えねぇ、笑えねぇよ」

まさに地より沸き立つ声といったところか。
姿は穴に嵌まっていて見えないが、その声から苦痛を感じ取れない。どうやら大したダメージは無いようだ。

「こんなもんで俺をどうしようってんだ? 確かに俺が落とし穴に嵌まったのは事実だ。それに関してはお前に対して不覚をとったと言っても良いだろうな」

淡々と、しかし力強く、兄者は喋り続ける。

(メ ´_ゝメ)「だがこんな幼稚なブービートラップじゃあ俺は手折られないぞ?」

ゆっくりと上体を露にする兄者。
身体的ダメージは殆ど無いようだ。
だがそんな事は予想済みだ。

8 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:20:15.69 ID:P6MIdOx9O
俺は一旦腰を深く落とし、足に力を込めた。
地面を蹴る乾いた音と共に両足に心地良い衝撃が走る。

(メ;´_ゝメ)「っ!?」

兄者の表情が焦りに変わる。
そりゃそうだ。こんな戦法は戦法であって戦法ではない。
適切な判断や思考は時に圧倒的な暴力の前では脆くも崩れ去る。

お前はそれを恐れているんだろう?

(メ;´_ゝメ)「やめっやめろおぉぉぉぉっ!!」

聞く耳持たん!

俺は右足に力を込め、殺意も悪意も無く、目の前に転がるサッカーボールを蹴るような気分でそのまま右足を振り抜いた。

10 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:22:21.05 ID:P6MIdOx9O
(メ;´_ゝメ)「ぐぇっ!」

俺の右足は的確に兄者の顎を捉えた。
兄者は虚ろな目を俺に向け、そのまま穴に落ちてゆく。

だが……

('A`)「失神なんてさせませんよ」

俺は落ちゆく兄者を乱暴に掴みあげ、その頬に渾身の平手打ちをお見舞いしてやった。
乾いた音が鳴り響く。心なしか木々のざわめきも消え失せ、この場が水を打ったように静かになった気がした。

(メ;´_ゝメ)「うぅ……お前、嗜虐性あるぜ……まさに生かさず殺さずってか?」

('A`)「まだそんな減らず口を叩けるんですね。被虐性の高い人だ」

兄者の安い挑発に対し、俺も安い挑発で返す。
もっとも、今の俺達の状況において挑発などという姑息な真似は何の意味も成さない。

言いたい事を言うだけだ。

11 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:24:30.30 ID:P6MIdOx9O

そう−

言いたい事。
言うべき事。

それを伝えるのには何の駆け引きも要らない。ただ伝えるだけ。
俺は兄者の耳元で兄者だけが聞き取れるように囁いた。

('A`)「こんなところで寝ちゃあいけないんですよ。俺達が出張った時点で貴方達の死は確定している。それは覆らない、何があってもだ」

ならば−

('A`)「貴方達に世話になった俺がしてあげられる唯一の事、それは兄者先輩に弟者先輩の最期をきっちり見届けさせる事」

('A`)「諦めて受け入れろとは言わない。貴方が抵抗するならそれを受け止める。俺達の事は憎んでも良い、むしろ……」

('A`)「憎んで下さい」

(メ ´_ゝメ)「…………」

13 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:26:41.37 ID:P6MIdOx9O
俺はそれから何も言わず、ただ兄者を掴む手に力を込めた。
兄者も俺がもう何も言う事が無いのだと察したのだろう。力強く、憎しみに満ちた目で俺を睨みつけている。

(メ ´_ゝメ)「ドクオ、お前は敵か?」

('A`)「はい」

(メ ´_ゝメ)「俺を殺したいか?」

二つ目の質問で心が揺らいだのが自分でも分かった。
俺はどうしたい?
言動、心境は首尾一貫、支離滅裂。
死にたくない。
逝きたくない。
生きたい。
その感情を幹としたか細い木は内藤の力を見た時から今に至るまで揺れ続けている。

('A`)「俺は……」

だがもうそれも終わりだ。
たった今から俺は迷わない。省ない。揺らがない。

('A`)「貴方を殺したい」

兄者は俺の答えに「そうか」とだけ答えた。

そして再び均衡は保たれた。

14 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:29:11.35 ID:P6MIdOx9O
静かに睨み合う。
今の兄者の眼光には僅かな気負いさえも気取られ殺される、そんな威圧感を感じさせるモノがあった。
だがそう感じつつも俺自身、兄者が放つ威圧感に負けていない自信がある。
明確な根拠や理由があるわけでもない。
だがその自信が、今俺がこの場で生きている要因となっている、そんな気がした。

( メω^)「ドクオ」

不意に聞こえた声。言うまでもなく内藤のものだ。

( メω^)「まさか君がここまで動ける人間だとは思わなかったお。正直、最初にこの方法を聞いた時には本気で殺してやろうかと思ったお」

おっかねぇ話だ。

( メω^)「だけど君は見事に結果を残した。次は僕が結果を残す番だおね?」

兄者から目を切れないため、内藤の表情を伺う事は出来ないが、声色から喜々としているのが分かった。

15 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:31:09.01 ID:P6MIdOx9O
( メω^)「この作戦を次のフェイズに移行するお。僕がするべき事は……」

( メω゚)「流石 弟者を徹底的に壊し、殺す事」

(;'A`)「っ!?」

何秒か前までの均衡を保たれていた空気は今、この瞬間に壊れた。
振り返らなくても分かる。
今の内藤は殺気を隠す事もせず、狂気に顔を歪めているのだろう。

(;'A`)「…………」

(´<_`;メ)「…………」

(メ;´_ゝメ)「…………」

この兄弟は今、どんな気持ちなのだろうか。
たとえ内藤との交流が浅いにしても、コイツから放たれる殺気は充分に感じ取れるだろう。
だが、この殺気の裏にある禍々しい感情まで感じ取れているのだろうか。

16 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:33:22.54 ID:P6MIdOx9O

俺には分かる。

コイツの放つ殺気の裏にある感情。
それは怒りでも喜びでも、ましてや悲しみでもない。余計な感情などそこには一切無い。

純然たる狂気。
破壊のみを生産する非生産的感情。

この狂気は今までのものより遥かに濃く、黒い。

(´<_`;メ)「うわぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ!!!」

内藤から一番近い場所にいた弟者が叫ぶ。

咆哮、そして発狂。

無理もない、俺ですら吐き気と身体の震えで頭がどうかなりそうな勢いだ。
目の前にいる兄者もまさに顔面蒼白といった表情で歯を震わせている。

そんな狂気を。

(;<_; メ)「あぁぁぁぁああ゛っ!!!」

弟者は目の前で見せつけられ、壊れた。

17 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:35:07.67 ID:P6MIdOx9O
(メ;´_ゝメ)「あっ……あぁ…」

兄者が何か言いたそうな顔をして口を動かしているがそれも言葉になっていない。
コイツも廃人コース確定か。
俺が胸倉を掴んでいた手を話すと兄者は再び穴へと落ちた。

(;'A`)「さて……と」

これで気になっていたが見る事が出来なかった後ろの状況を確認出来る。
俺は出来る限り平常心を取り戻すよう深呼吸をして振り返った。

(;<_; メ)「うわぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁっ!! 死にだぐないっ! 助げでぐれっ!!!」

( メω゚)「…………」

弟者は跪き、許しを乞う。
内藤はそれを路傍の石を見るような冷ややかな目で見つめる。

('A`)「違う……」

俺が想定した結末はこんな異常な終わりじゃない。
これじゃあ駄目だ。

これなら……

('A`)「死んだ方がマシじゃねぇかよ」

18 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:37:29.78 ID:P6MIdOx9O
( メω゚)「ドクオ。目を逸らさずにこの状況を目に焼き付けろお」

もし視線に物理的破壊力があるとするなら俺の身体は木っ端微塵になっているだろう。
そんな強い視線が俺に向けられた。

( メω゚)「人間は自分に忠実な生き物なんだお。汚く、幼稚で、愚かしい生き物だお」

( メω゚)「そんな醜い本性の上に理性という仮面を被り、それをあたかも本当の自分だと思い込んでいる」

内藤は俺に返事や反論など求めてはいないのだろう。ただ一方的に言葉を紡いでいく。

( メω゚)「胸糞わりーお。汚い、醜い、大いに結構じゃないかお。それを理性で隠し、周りの目を気にするがゆえに他者を蹴落とし、優位に立つ。それこそ凶悪というものだお。だから僕は……」

( メω゚)「その仮面を打ち砕いてやった」

19 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:39:17.10 ID:P6MIdOx9O
ただそれだけの事だお。
内藤は最後にさも興味なさげに呟き、口を閉ざした。

('A`)「…………」

嗚咽を漏らす弟者の声だけが響く。
俺から見て完璧な存在だった流石 弟者。
その人格像は本当に弟者が被った仮面に過ぎなかったのだろうか。
だが俺が考えたところでその真偽を確かめる事は出来ない。
唯一その答えを知る流石 弟者は比喩表現でも何でもなく、壊れてしまったのだ。

( メω゚)「…………」

内藤ホライゾン。
魔王ベルゼブブ。
蝿の王。
糞山の王。

この純粋なる狂気の塊は死よりも辛い崩壊を敵に与える事によって全てを終わらせた。

最初に内藤自身が提示した条件は満たせていない。
つまりこれは……

('A`)「バッドエンドってやつですか」

20 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:41:37.22 ID:P6MIdOx9O
( メω^)「あながちバッドエンドでもないんだお」

言いながら振り返る内藤はいつもの不快なニヤけ面に戻っていた。
('A`)「どういう事だ?」

( メω^)「まず君を死なせずに済んだ。それだけでも大きな収穫だお」

('A`)「それって……」

内藤は俺を心配していたのか?
狂気の赴くままに破壊を繰り返すこの盲目白痴の悪魔が?

だがまぁ悪い気はしない。
人に想われるという事は幸せな事。
俺はその事を流石兄弟から学んだのだ。
ここは礼を言っておくのが筋というものだろう。

('A`)「まぁ…なんというか、ありがとな」

ここしばらく人に心からの礼など言った記憶が無い。
ゆえに少し気恥ずかしいモノがあったがそれは我慢してやるとしよう。

( メω^)「…………はぁ?」

だが内藤からの返事は意外なものだった。

21 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:43:05.92 ID:P6MIdOx9O
( メω^)「何か勘違いしてないかお? 殺しの構想を練る君がいなきゃお話にならないって事だお。君に死なれたらこ ま る ん で す お。ただそんだけの事だお」

('A`)「…………」

何これ、ツンデレ?
男のツンデレなんて誰が得するんだ?
これをそうだな……
津出 麗子辺りが言えばグッとくるものがあるんだろうが。
あぁ間違いない、きっとアイツならこんな事言ってそうだ。

( メω^)「もしかしてツンデレが云々なんて考えてるのかお? 君は僕に何を求めているんだお?」

黙れ。

(;'A`)「考えてねーよ! っとそれより……」

柄にもなく図星を突かれて狼狽してしまった。
この話題で話し続けるのは俺の人格上色々と危険だな。

('A`)「まだバッドエンドじゃない理由があるんだろ? それを教えて貰おうか」

22 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:45:06.06 ID:P6MIdOx9O
( メω^)「おっ、君が馬鹿げた事を言ってるから忘れるところだったお」

人の心からの礼を平気で馬鹿げた事だと言ってのける。
コイツには人としての良識や人情というものが無いのか? 恐らく無いんだろうな。

( メω^)「まぁ見てなさいお」

俺の心の葛藤を知ってか知らずか、内藤は俺の方に見向きもせず指を鳴らす。
そして内藤はモノと化した弟者の方へと向き直った。

(´<_` メ)「…………」

先ほどまでの堰を切ったような悲鳴はもう無い。
聡明かつ強い意志を宿していた瞳は濁り、どこを見るわけでもなくただ虚空を眺めていた。

( メω^)「お疲れ様だお」

内藤らしくもない発言。
皮肉でもなんでもなく、へたりこんだ弟者の頭を慈しむかのように撫で、内藤は言った。

23 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:48:22.94 ID:P6MIdOx9O
( メω^)「君はこの世界で完璧な自分を演じて生きてきた。どんな気分だったかお?」

狂気という毒に侵された弟者が答える事は無い。
だが内藤は問うた。まるで言葉の通じない愛玩動物を相手にするかのように。

( メω^)「辛かったかお? 苦しかったかお? 偽りの仮面を外せなくなっていたのかお?」

('A`)「おい……」

何なんださっきから。らしくないにも程があるぞ?
頼むからこれ以上俺が頭を悩ませなければならない状況を作るのは止めてくれよ。

( メω^)「もう苦しむ必要は無いお。君の魂は新たな世界に旅立つ権利を持っているお。だから……」

新たな世界? 旅立つ権利?
内藤の言葉は突拍子の無いものばかりだったが、それでも俺はこの言葉が何か重大な意味を持っているであろう事を理解していた。

24 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:52:16.46 ID:P6MIdOx9O
('A`)(世界変革……)

そう。俺達が津出 麗子を殺した時に内藤が俺に告げた単語。
それらが何かの繋がりを持っているような……そんな気がした。

( メω^)「僕が連れて行ってあげるお」

言い終わると同時に弟者の頭を撫でていた内藤の手が蝿に変わる。
そして……

(´<_`;メ)「っ!? あぁぁあぁあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あぁっ!!」

溶ける。
髪の毛から順に頭皮、頭蓋骨、そして脳へと。
腐敗の波はあっという間に進行し、先の弟者の叫びが断末魔の叫びとなってしまった。

('A`)「結局殺すのか」

言葉と行動が噛み合わない。
内藤も俺もだ。
いや、そもそも俺と内藤が出逢う事で始まったこの胸糞悪い物語も、矛盾と綻びに溢れているのかもしれない。

25 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:54:25.97 ID:P6MIdOx9O
破綻。
俺の立案は流石兄弟の強さと内藤の狂気により破綻した。
俺が自覚する俺自身が抱える迷いと黒い感情は流石兄弟の優しさと内藤の言葉により破綻した。
そして流石兄弟という存在は圧倒的力によって破綻した。

破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻破綻。

ここらで俺は知るべきなのかもしれない。
この物語が何処へ向かおうとしているのかを、そして俺の命はこの物語においてどれほどの価値があるのかを。、そして俺の命はこの物語においてどれほどの価値があるのかを。

('A`)「内藤」

( メω^)「どうしたお?」

内藤は、首から上が腐敗しきってしまい、物言わぬ物になってしまったモノを乱暴に蹴り飛ばしつつ俺の呼び掛けに応じる。

26 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:56:56.87 ID:P6MIdOx9O
('A`)「教えてもらうぞ。お前の目的、『世界変革』とやらの全貌を。そして……」

('A`)「俺達はこれからをな」

言い終えて俺は下唇を強く噛み締める。

( メω^)「……君もそろそろ知っておくべきだおね。『世界変革』の全て、そして……」

( メω^)「君自身の魂の価値を」

言い終えて内藤は目を細め、口元も歪ませた。

はてさて、これで俺は晴れて非日常の世界の住人になるわけだ。
自分の壁を塗り固め、他人を蔑むくだらない日常はもう終わりだ。
俺は迷わない、省ない。
だから俺を失望させるようなオチだけはやめてくれよ?
俺達が手にかけたヤツが浮かばれねぇ。

見せてもらうぞ、フリークス。いや………

同志よ。

27 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 17:58:20.22 ID:P6MIdOx9O
( メω^)「と、まぁその前に……」

内藤は何か思い出したかのように大袈裟な動作で自分の頭を小突く。
そして礼の黒い球(そろそろ命名してやる必要があるな)を作りだし、ある場所へ投擲した。

('A`)「……っ!」

俺が日中に汗水垂らして作り上げた落とし穴がある地点、つまり流石 兄者がいる場所だ。
横目でちらりと内藤を見る。

( メω^)「……」

内藤が右手を横に一振りする。
それに同調して黒い球が数個発現した。
それはすぐに飛んでゆくと思いきや、内藤の側で停滞していた。

( メω^)「これがバッドエンドじゃないもう一つの理由だお」

噴煙舞い上がるその先を見据えながら内藤が呟く。
俺にその先の状況を知る術は無いが、それでもこれから何が起こるのかが分かってきた。
そして次に内藤が呟くであろう言葉を。

( メω^)「流石 兄者は壊れていない」

28 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 18:00:22.78 ID:P6MIdOx9O
( メω^)「君の案は当初の物からかけ離れてしまったけれども、戦いはまだ終わってないお」

内藤の言葉に耳を傾けながら俺はただ一点を見つめる。
内藤は感じているのだろうか、この肌にひしひしと伝わる怒りの籠った視線を。

『俺達の事を憎んでも良い、むしろ……』

『憎んで下さい』

俺が最後に兄者に投げかけた言葉が頭の中で木霊する。
俺がこの言葉を発していなければ、今俺が感じているこの怒りも鎮める事が出来たのだろうか。それとも変わらずこの怒りを受ける事になっていたのだろうか。
まぁどちらにしても……

('A`)(興味ねぇな……)

そう、どちらにしても結果論に過ぎない。
人の心ほど後付けの理が型に嵌まるものはそう無いからな。

29 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 18:02:03.93 ID:P6MIdOx9O
だが今の俺は結果論なんて望んでいない。
過ぎてしまった『if』を唱えたところで何の解決にもなりはしないのだ。
そんな下らない事を考えるよりも今は…

(メ メ_ゝメ)「…………」

このくたばりぞこないを何とかしないとな。

('A`)「内藤」

( メω^)「なんだお?」

('A`)「どうして壊れていないのかは後で聞く。それよりも、もう条件は満たしているはずだ。さっさと片付けようぜ」

( メω^)「了解したお」

言うや否や、内藤は即座に停滞させていた球を射出し、ブリューナクを展開する。
球は兄者がいる地点で爆ぜ、ブリューナクは完全に射出体勢に入った。

だが…

('A`)「ぐっ!?」

( メω^)「がぁっ!?」

ブリューナクが射出されようとするところで頭に衝撃が走る。
不意打ちなどという生易しいモノじゃない。

31 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 18:04:04.34 ID:P6MIdOx9O
(;'A`)「なんだ!?」

( メω^)「くっ……」

のけ反り、距離を取りつつも俺は何が起きたのかを冷静に判断する。
やったのは流石 兄者だ。
俺達が立っていたところの中間地点で兄者は青い煙のようなモノを身体から放ち、立っていた。

(;'A`)「ありゃなんだ!?」

(; メω^)「……ティンダロスの猟犬」

俺の問いに内藤は静かに答えた。
だが何だって? ティンダロスの猟犬なんて聞いた事も無い。
まさか兄者も内藤のような別次元パワーを持っていたのか?

(;'A`)「こうなったら一時撤退だっ! 体制を立て直すぞ」

何もかもが予想の斜め上を行きやがる。
いや、斜め上の更に裏側ってところか…
っとそんな事はどうでも良い! さっさとこの場を離れないと不味いぞこれは。

32 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 18:05:08.49 ID:P6MIdOx9O
だが逃げ腰の俺とは違い、内藤はその場に立ち尽くし逃げずにいる。

('A`)「なにやってんだっ! さっさと……」

(# メω^)「黙ってろおっ!」

罵声。
何なんだこいつは。
まさかこの化け物相手に正面からやり合うつもりなのか? こっちはそんなの御免だ。
化け物に立ち向かう勇者も、化け物同士の戦いに巻き込まれる村人Aも、俺にはどちらも荷が重い。

いくら自分自身でアブノーマル宣言をしたところでそれはあくまでも内面上だけだ。
俺はどこから見ても立派で弱小な一般人なんだからな。

( メω^)「君はもう少し博識な人間だと思っていたお。まさかティンダロスの猟犬も知らないなんて……」

知ってたまるかそんなもん。

33 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 18:07:33.07 ID:P6MIdOx9O
(; メω^)「まさかブリューナクの鋭角を利用されるとは思わなかったお」

角? なんのこっちゃ。
一体お前は何を知ってるんだ?

( メω^)「ティンダロスの猟犬……僕達とは別次元の住民、物や部屋の九十度以下、つまり鋭角を媒体に現われると言われているお」

懇切丁寧な説明をどうも。
鋭角を媒体にするという事はかなり厄介だな。
辺りを見渡すがここは林の中、木、木、木、つまりは鋭角のバーゲンセールだ。

('A`)「逃げられない、つまりは八方塞がりってことか」

( メω^)「そういう事だお。ティンダロスの猟犬は執念深い、どこへ逃げても無駄って事だお」

絶望させる補足はもう要らないが受け取っておこう。

34 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/02/10(水) 18:09:04.46 ID:P6MIdOx9O
('A`)「弱ったな……逃げられないんじゃどうしようもねぇぞ」

( メω^)「じゃあこのままアイツに殺されるかお?」

内藤は俺がぽつりと漏らした弱音を拾い上げ、この状況でぬけぬけと皮肉を言う。

('A`)「まさか」

ティンダロスの猟犬だか何だか知らないが人様にくれてやる命なんざ持ち合わせてはいない。
兄者がこうなってしまった以上、俺は死ぬ気で死なない努力をするまでだ。

('A`)「そういうお前こそこれは今までに無いピンチなんじゃないか?」

( メω^)「否定はしないお。でも僕は死んでやる気なんてさらさらないお」

('A`)「奇遇だな俺もだ」

(メ メ_ゝメ)「殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス……」

('A`)「さっさと死ねよ(お)死に損ない!」(メω^ )

再び俺達の戦いという名の邂逅が始まる。


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