ミセ*゚ー゚)リ変な森のようです

9 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 20:53:49.30 ID:SSfTRjIFO


 お母さん、わたしね、強くなるよ。

 お父さん、わたしね、友達出来たの。


 その友達を守りたいの。
 その友達を泣かせたくないの。


 だからわたしね、強くなるよ。

 まだまだよわっちいけど
 まだまだ痛いとすぐ泣いちゃうけど


 わたし、強くなるよ。


12 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 20:57:02.78 ID:SSfTRjIFO

 【ミセ*゚ー゚)リ 変な森のようです】


  第七話 『ひがいしゃ。』 後編
     閲覧注意


 でもどうすれば強くなれるかよく分からない、強いって何だろう。



17 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 20:59:08.76 ID:SSfTRjIFO

 見開いたミセリの右目に感じる違和感。

 目の前は銀色と、黒。
 世界が半分に分けられた様な、色の違い。

 時が止まったかの様に、束の間の静寂が世界を包んでいた。

 ミセリは何が起きたのか分からず、驚きを隠せずに目を丸くする。
 そんな目から何かが引き摺り出された時、どろ、と目から溢れた体液。

 その瞬間、ミセリの顔に激痛が駆け抜けた。


ミセ; Д )リ「ぁ、ぁあっ、あ゙あ゙あ゙ぁああああああああああぁぁあッ!!!?」

(;ノAヽ)「っ、み、ミセリぃっ!!?」

(;´−`)「ミセリッ、ミセリッ!!」


 咄嗟に右目を押さえて、ミセリがその場に蹲る。

 どくんどくんと、激しく脈打つ痛みが頭全体に響いていた。


19 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:01:49.06 ID:SSfTRjIFO

 右目を押さえるミセリの手には、不思議な感覚。
 閉じた右目に手を当てているのに、瞼に膨らみを感じない。

 突然の痛みに絶叫するミセリの元に、三人が駆け寄る。

 地面に額を擦り付けて泣き叫ぶミセリ。
 その肩に手を乗せて狼狽えるノーネと、心配そうに背中を撫でるネーヨの尾。

 ネーヨの頭の上では、ビコーズが立ち尽くす銀色を睨み付けていた。
 小さな小さな敵意ではあるものの、
 銀の塊は僅かに怯えた様に、自分の手を見下ろす。


 立ち上がったロボットの左手は、ドリルの様に変形していた。

 左手のドリル、細い先端。

 そこには、赤くぬめる白い球体が突き刺さっていた。


23 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:04:46.59 ID:SSfTRjIFO

 どくん、どくん、顔全体が脈打つかの様に熱い。

 ぺたんこになった右目を押さえる。
 腕や背中を切られた時に比べれば、血はそこまで多く出ない。
 けれど痛みの、傷の種類が違う。

 頭や心臓に近ければ近いほど、痛みは激しくなるもの。
 それも切られた殴られたではなく、抉り取られたのだ。

 右の眼球を持っていかれた痛みは、想像を絶する物だった。
 背中や腕とは違う痛み、痛みの種類が違うため、それは比較のしようもない激痛。


 右目から後頭部を突き抜ける様な痛みは、ミセリに耐えられる物ではなく。

 ただただ、喉を潰さんばかりに叫んだ。
 体液が溢れる目を押さえて絶叫するミセリ。

 汚れきっていたブラウスが、更に汚されて行く。


25 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:07:03.90 ID:SSfTRjIFO

ミセ; Д )リ「あっ、あぁっ、ぁああぁあああああッ!!
     な、っ! ミセっ……目っ……うぁあああああぁあああッ!!!!」

(;ノAヽ)「ミセリ、ミセリぃッ!!」
  _,
(#´凵M)「……ッてめぇ! 何しやがんだヨッ!?」

( ∵)「ゴェェェェ!!」


|::━◎┥


 ネーヨが体を震わせて目を押さえるミセリから、銀色に顔を向ける。

 ひたすらミセリを呼び続けるノーネと違い、
 明らかな敵意を見せながら睨み付け、言葉を荒くする。
 その上ではビコーズも同じ様に声を上げ、精一杯の威嚇をしていた。

 尾を地面に叩き付け、体勢を低くして
 ミセリから銀色を遠ざけようと、ネーヨがじり、と動く。

 それに対して、銀のロボットは自分の手を見下ろしたまま動こうとはしない。
 ただ、血に濡れた己の左手を見つめるだけ。


28 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:09:10.52 ID:SSfTRjIFO

 自分が何をしたのか、歯車王は理解できていなかった。
 ただ体が勝手に動き、目の前に居た人間に手を突き出した。

 ずっと眠っていた、眠る様に沈黙を守っていた。

 それなのに、なぜ自分は動いたのか。
 眠っていた筈なのに、
 生き物が近くに居るのは分かっていたが、動こうとはしなかったのに。

 どうして、どうして目覚めてしまったのか。


 目覚めの引き金を引いたのは、一体何なのか。
 歯車王は呆然と、鈍い頭に思考を巡らせる。


 音がしたのだ。

 戦いの、音が。


29 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:11:15.94 ID:SSfTRjIFO

 痛みに悶えるミセリと、ミセリにしがみつくノーネ。
 威嚇をするネーヨにビコーズ、沈黙する歯車王。

 その輪から離れた場所で、一人ぽつんと佇む森の人。

 手にしていた猟銃を地面に落として、帽子を外して胸に抱いた。
 突然の事に驚いている、それだけではない。

 顔色を無くしたニダーは震えながら、ミセリ達を呆然と見つめる。


 あのロボットが動いたのは、何故だ。
 何故かは分からない。

 けれど、一つ分かる事がある。

 一つ、そう、一つ。


 それは、引き金を引いた瞬間に、あのロボットが動いたと言う事。


34 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:13:33.04 ID:SSfTRjIFO

 最近はあまり使っていなかったから、
 そう、猟銃を使わなくても食材を得る事が出来たから。
 ネーヨやビコーズが仲間になって、食材が前より多く手に入る様になった。
 それに先日の海でお土産に保存食も頂いた。
 だから猟銃を使う機会が減ってそれででもたまには手入れをしなきゃいざと言う時に使えなくなるから
久々に掃除なんかをして点検が終わったから試し撃ちを試し撃ちをしようと弾を込めて空めがけて引き金を引き金を引き金を


 取り落とした猟銃に、目を向けた。
 鈍い鉄の色、木のパーツ。

 引き金を引いたのは、自分。

 帽子をぱさり、とその場に落とし、ニダーの体が小刻みに震えた。
 そして奥歯をかちかちと鳴らせ、その細い目がどんどん涙に潤む。

 血を吐く様に、痛みに叫ぶミセリ。
 その傷を負わせたのは、誰だ?


 それは、自分だ。


35 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:15:45.71 ID:SSfTRjIFO

 間接的に、仲間に傷を負わせた。
 それも、取り返しの付かない傷。

 ミセリの右目を奪ったのは自分だと、しっかり理解した。
 真っ青だった顔色は、更に血の気が失せて死人の様になる。

 そしてニダーが、弾ける様に走り出した。
 猟銃も帽子も、走り出す時に外れたマントもそのままに。


 頭の中は、後悔やら何やらでぐちゃぐちゃ。
 いてもたっても居られ、に走る。

 その先では、ミセリが痛みによる涙を溢しながら顔を上げていた。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう。
 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 どうすれば良いか、何を言えば良いかも分からず
 ニダーはミセリの胸に、勢い良く飛び込んでいた。


39 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:18:44.08 ID:SSfTRjIFO
  _,,
<ヽ;Д;>「うぁあああぁあぁぁああッ!!!」

ミセ; − )リ「っ!?」
  _,,
<ヽ;Д;>「ミ゙ゼリっ……っミセリぃ!!」

ミセ; − )リ「ニ、ダ……? どし、た……の」
  _,,
<ヽ;Д;>「ウリの゙ぜいでっ、ウリのっ……うあぁああぁあああああっ!!!」

ミセ; − )リ「ニダー……?」


 突然、号泣しながらミセリの胸に飛び込んできたニダー。

 言葉にならない言葉を涙と共に吐き出して、
 ブラウスにしがみつくその姿は、いつものニダーからは想像も出来なくて。

 それにはしがみつかれたミセリのみならず、
 ノーネもネーヨもビコーズも、歯車王ですらも驚いた様にニダーに顔を向けた。


41 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:21:42.03 ID:SSfTRjIFO

 途切れ途切れの言葉を聞くと、
 どうやらミセリの怪我の原因は、ニダーの試し撃ちによる物らしい。

 皆は何を言っているのかなかなか理解出来なくて、困った顔をするばかり。

 普段は冷静さを失う事のないニダーが、取り乱して泣きじゃくっている。
 それを見ていると、混乱していたノーネ達の頭は逆に冷静さを取り戻して行く。


 そしてミセリの傍らに座って居たノーネが立ち上がり、
 木の足元に積まれた荷物へと駆け寄った。

 ごそごそと荷物をあさり、何かを探す。
 その間も響くのは、初めて聞いたニダーの泣き声。

 静かに泣いていたのは、出会ってすぐに聞いた。

 けれど、こんなに感情をあらわにして泣き咽ぶのは初めてで
 ノーネ達は戸惑いを隠す事が出来ず、ただただ狼狽えるしかなかった。


44 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:24:10.69 ID:SSfTRjIFO

 ノーネが荷物の中から、小さな包みを見つけた。
 それを左手に握り、右手で水筒を掴んでミセリの元に戻る。

 ミセリは激しい痛みに苛まれているにも拘わらず、
 自分にしがみつくニダーに戸惑い、目を白黒させていた。

 けれどどちらにしろ、ミセリを襲う痛みは生半可な物ではない。
 痛みに泣き叫んではいない物の、脂汗を流しながら呼吸を荒くしている。


 そんなミセリの側に戻ってきたノーネが、左手の包みを器用にも片手で開く。
 そして地面に包みを置くと、白い丸薬をつまんで持ち上げた。


(;ノAヽ)「ミセリ! くち! あー!!」

ミセ; − )リ「ぁ……あー……?」

(;ノAヽ)「うりゃ!!」

ミセ; − )リ「あ、ぁ…………ッ!! に、がっ!!」


47 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:26:39.79 ID:SSfTRjIFO

 ミセリに口を開かせて、その中にぽんと丸薬を放り込む。

 口の中いっぱいに広がる、薬臭さと強い強い苦味。
 一瞬口の中の物を吐き出しかけるが、
 それが一体何なのかをふと理解して、苦しそうな顔でかみ砕き、飲み込む。

 ネーヨが水筒を尾で掴み、ミセリの口許に持って行く。

 早いとこ口いっぱいに広がる苦味を洗い流したくて、
 ミセリは水を溢しながら、少しずつ飲み込んだ。


 ふぅっ、と、頭が軽くなる感覚。

 光を失いかけていたミセリの目が、更に虚ろになる。


 口に放り込まれた丸薬は、レモナに包んでもらった強い鎮痛剤。
 それは直ぐ様効果を見せ、ミセリを襲う痛みをじわりと和らげる。

 それと同時に、副作用によって意識が朦朧とするのが難点なのだが
 今はそんな事を言っている余裕はなく、とにかく少しでも痛みを取り除く。


49 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:29:15.65 ID:SSfTRjIFO
  _,,
<ヽ;Д;>「ミ゙ゼリっ……ミ゙ゼリ゙ぃっ……!!
      ごめっ……ウリの、ぇぐっ……ごめ……ッ!!」


 鎮痛剤はてきめんに効き、目の痛みは随分マシになった。
 その副作用で頭がふわふわとするミセリは、謝罪を繰り返すニダーを見下ろす。

 ああ、え、と、泣いてる。
 すごい、ニダー、いっぱい泣いてる。

 ええと、どうして、だっけ。
 なんだっけ、な。

 え、あ、そう、だ
 つよくなるんだ、つよく。

 みせり、つよく、つよく。


 つよい、て、なに?

 なんだろ、なん、だろう。

 よくわかんない、けど、たぶん、きっと。

 つよいひとは、ないてるの、ほっとかない、な。


55 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:32:11.82 ID:SSfTRjIFO

 虚ろな目、ぼやける視界。
 うすぼんやりとした思考を巡らせて、ミセリは懸命に考える。

 気が狂いそうな痛みからは抜け出して、少しだけ物を考える余裕が出来る。
 自分にしがみついて泣きじゃくるニダーを、どうしてあげれば良いか。
 そんな事を、ぼやける頭で考えて。

 わからない、わからないけど。


 考える事が面倒になって、ミセリはそっと腕を広げた。
 そして、ぎゅう、とニダーを抱き締める。

 小さな体を強く抱き締めて、背中を撫でる。
 一瞬驚いた様だが、ニダーの涙は止まらない。

 次に何をすれば良いか。
 未だ痛む右目を開いて、空っぽの眼窩を晒しながら思考をぐるぐる。


 頭の中がふわふわする。
 霧のベッドに横たわっている様に、くらりと揺れる頭。

 ノーネ達が心配に見つめる中、ミセリはのったりと口を開いた。


57 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:34:19.35 ID:SSfTRjIFO

ミセ; ー )リ「ニダー……泣くない、泣くの、やめて」
  _,,
<ヽ;Д;>「ミゼリ゙……っ!!」

ミセ; ー^)リ「ミセリ、へーき……へーき、だから……泣くの、やめれ?」
  _,,
<ヽ;Д;>「〜〜〜〜〜ッ!!」

ミセ; ー^)リ「い、こ……いーこ……いーこ……ニダー、悪くらい、から」
  _,,
<ヽ;Д;>「う、うぅぅ……っ、ぇ、ぐっ……っひぐ……」

ミセ; ー^)リ「らいりょーぶ……みせり、へーきよ……」

(;ノAヽ)「ミセリ……」


 薬の副作用で、ろれつが回らない。
 血の気の失せた顔をしながら、それでもミセリは笑う。

 ニダーを抱き締めて、頭を撫でて、右目から血を流したまま笑う。


61 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:36:07.35 ID:SSfTRjIFO

 そのミセリの姿に、ノーネ達は唖然とした。

 つい先程まで痛みに叫んでいた少女が、仲間を気遣って笑う。
 その姿はひどく、ひどく不思議な物だった。


ミセ; ー^)リ「らいりょぶらから……なくない、ない……ニダーなからいろ……」


 ミセリの胸に顔を埋めて、ニダーが声を上げるまいと喉を絞る。
 それでも溢れる嗚咽に、ミセリはその頭を撫でるばかり。

 小刻みに震える背中をとんとんと叩いて、ひどく穏やかな顔をする。
 痛みも苦しみも感じていない様な、暖かな笑顔だった。

 そしてニダーを抱き締めたまま、ミセリの左目が銀色に向けられる。
 それに気付いたネーヨが、再び威嚇の体勢に入った。

 視線を浴びる銀色、歯車王は戸惑いを隠せず
 赤く丸い、ランプの様に光る目を辺りに泳がせた。


63 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:38:10.65 ID:SSfTRjIFO

 罵られるだろう、憎まれるだろう、それは当然の事。
 だから、これからぶつけられるであろう言葉や力を静かに受け入れよう。

 無意識とは言え、傷付けなくて良い相手を傷付けた。
 それを理解していた歯車王は、ミセリに向き直って真っ直ぐ見つめる。
 もう手は出すな、自分にそう命令する歯車王。


 その頭に、ミセリの小さな手が乗せられた。


ミセ; ー^)リ「ごめんれ、びっくりさせれ」

|::━◎┥!

  ( ∵)
(;´−`)「なっ、!?」

(;ノAヽ)「み……ミセリ?」

ミセ; ー^)リ「びっくりしたよれ……ごめんれ、ロボットさん」


67 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:40:42.26 ID:SSfTRjIFO

 歯車王が、変わらない表情の内側でぽかんとしていた。

 自分の苔むした頭をよしよし撫でる、人間の娘。
 しかもその娘は、眼球を抉られたにも拘わらず、ふやけた笑顔を自分に向ける。

 薬でぼんやりしているとは言え、普通、目を奪った相手に笑いかけるのか。

 人間とは、そんなに不思議な生き物なのか。


 戸惑いに戸惑いが重なって、冷静を装いながら、内心ひどく狼狽えていた。

 今まで出会ってきた人間のデータと照らし合わせ、
 この奇妙な出来事の対処法を探す。

 しかし歯車王の中には偏ったデータしか存在しない。
 大体、一般の人間と言うデータがまず存在しなかった。


 この人間は何なのだ。
 どうしてへらへらと笑いながら、謝罪などが出来るのか。

 被害者はお前だろうと、叫びたい衝動を押さえ込む。
 どうすれば良い、どうすれば良い、誰かその機能を自分に入れてくれ。


72 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:42:37.93 ID:SSfTRjIFO

ミセ; ー^)リ「ろしたの? びっくりさせたから、おこってる?」

|::━◎┥

ミセ; ー^)リ「ごめんれ、こんなとこれごはんしたから……じゃまらったよれ?」

|::━◎┥

ミセ; ー^)リ「すぐあっちいくから、ごめんらひゃい」

|::━◎┥


 ああ違う、待ってくれ。
 謝罪をするのは、そう、こっちなんだ。

 だからそう、やわらかな新芽の様な笑顔を向けないでくれ。

 誰か謝罪のしかたを教えてほしい。
 そんな機能は付いていない、必要なかったから存在しない。

 どうすれば良い、冷たく固い、血の通わない頭では分からない。

 ああ、自分が悪いと泣きじゃくる仲間を抱いて、
 ろれつの回らない謝罪を口にして、笑顔のまま立ち去るのは止めてくれ。

 どうか、どうか止めてくれ。


74 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:45:05.29 ID:SSfTRjIFO

 ミセリがゆっくり立ち上がり、
 ふらふらとネーヨに助けられながら、歩き出す。

 寝てるのを邪魔したから怒ったんだよ、とミセリは笑う。
 そんな事で納得出来る訳がないが、今のミセリには逆らえず
 ノーネとネーヨ、ビコーズは困った顔で頷くだけ。


 少しずつ少しずつ遠ざかる、後ろ姿。
 ふらつく足取りに、泣きじゃくる森の人。

 へにゃへにゃ笑うミセリの声が、異様なまでに切なくて、苦しくて

 ずっと聞いていると回路がおかしくなる気がして、歯車王は頭を押さえた。


 そして、森に響いた機械音声。


77 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:47:18.99 ID:SSfTRjIFO

|::━◎┥「ガッ──ガガガッ───待、テ」

(;ノAヽ)「ノネっ!? しゃ、喋ったノーネ!?」


 久しく使っていなかった機能。
 がりがりとノイズを混じらせて、歯車王が言葉を吐き出す。

 長い間整備もせずにほったらかしていた為、
 その声は、ひどく不安定に上下する。

 けれど何とかミセリ達を呼び止めたくて、調整をしながら劣化した声を出した。


|::━◎┥「待、テ…………待っテ、クれ……」

(#´−`)「……んだヨ、やる気かヨ?」

|::━◎┥「違ウ、違、う……謝罪、を、さセロ……」

(;ノAヽ)(命令なノーネ……)

( ∵)(ゴェ……)


82 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:49:31.45 ID:SSfTRjIFO

(#´−`)「……どうするヨ、ミセリ」

ミセ; ー^)リ「んぇ?」

(#´−`)「……謝罪、だってヨ」

ミセ; ー^)リ「んあ、ごえんらひゃい」

(;ノAヽ)「ミセリー、まえ見えてるノーネー?」

ミセ; ー^)リ「みえれるよーネーヨ」

(;ノAヽ)「ダメだこりゃ、アホになってるノーネ」

(;´−`)「水飲めヨ水、どっかトンでるヨ」

ミセ; ー^)リ「しっけーらぞあんたら」

(;ノAヽ)「微妙に正気なノーネ……」


87 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:51:37.68 ID:SSfTRjIFO

(#∵)「ゴェ!」

|::━◎┥「…………スまナカっタ」

(#∵)「ゴェゴェェ」

|::━◎┥「言イ訳に過ギン……」

( ∵)「……ゴェェ!」

|::━◎┥「…………無意識、ダッた」

( ∵)「ゴェ、ゴェ?」

|::━◎┥「……音、ガ」

( ∵)「ゴェ……ゴェェゴェ」

|::━◎┥「スマなイ……本当、ニ」

( ∵)「ゴェッ、ゴェゴェェゴェ」

|::━◎┥「アア……そうダナ」


89 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:53:29.22 ID:SSfTRjIFO

 取り敢えずミセリを地面に座らせて、水筒を渡す。
 ニダーを膝に乗せたまま、水筒を受け取ってそれに口をつけた。

 こくん、こくん、と小さく喉を鳴らせてミセリが水を飲む。
 冷たさが喉から胸へと降りて行く感覚に、頭が少しだけ落ち着いた。

 そして、ふぅと息を吐く。
 すると目の前に、銀色が軋みながらやって来て。


ミセ* ー゚)リ「あ……ロボット」

|::━◎┥

ミセ* ー゚)リ「ろしたの……?」

|::━◎┥「おイ、小さイモノ」

( ノAヽ)「ノネ?」


95 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:55:36.76 ID:SSfTRjIFO

|::━◎┥「薬ト、布を持テ」

(;ノAヽ)「え?」

|::━◎┥「早クしロ!!」

(;ノAヽ)「ノネ! ちょ、ちょい待つノーネ!」

|::━◎┥「大きイモノ、水を持テ」

(#´凵M)「指図すんなヨ、何すんだヨ」

|::━◎┥「手当てダ、このママでハ化膿すルゾ」

(#´凵M)「…………オマエ、ムカつくヨ」

|::━◎┥「……」


 小さく舌打ちをして、ネーヨがのそりと動き、水を汲みに行く。

 ミセリを傷付けた本人に指図され、従う。
 それは癪にさわってしょうがないが、自分達には手当てが出来ない。

 だから嫌々従うしかなくて、とんでもなく不本意だった。


96 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:57:15.04 ID:SSfTRjIFO

 歯車王に言われるがまま、ノーネが鎮痛剤や軟膏と布を持って戻ってくる。
 ミセリはぼんやりと、ニダーを抱き締めたままそれらを見ていた。

 ビコーズが無言で薬草を摘んでいると、ネーヨが桶に水を汲んで来た。
 てっとこてっとこ戻ってきたビコーズは、歯車王に薬草を差し出す。


 静かに布を水に濡らして、歯車王がミセリの顔を拭く。
 血で汚れた顔が少し綺麗になると、次は慎重に右目を拭いた。

 そしてゆっくり汚れを落としてから、左手を変形させる。
 ドリルの形になったそれを、傷付けない様に右目に差し込み
 力を込めて、ドリルを熱した。

 熱されたドリルで右目の傷を焼いて、止血を施してから
 レモナお手製の軟膏を塗り、洗った薬草を張り付けて布を当てる。

 それを見ていたノーネは、言われる前にミセリのマントの裾を裂き
 少し汚れた、粗末な包帯を作って、歯車王に渡した。

 手際よく巻き付けられる包帯、押さえられる布。
 あっという間に、右目の手当てが終わった。


100 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 21:59:10.29 ID:SSfTRjIFO

|::━◎┥「……終わッタゾ」

(;ノAヽ)「ミセリっ、大丈夫なノーネ!?」

ミセ*//ー゚)リ「ん? うん、らいじょぶだよ」

(;ノAヽ)「ほへぇ……」

( ´−`)「……おい、オマ

( ノAヽ)「おいこらロボト」

|::━◎┥「何ダ」

( ノAヽ)「礼は言うノーネ、ありがとなノーネ」

|::━◎┥「……」

( ノAヽ)「あと歯ぁくいしばるノーネ」

|::━◎┥


104 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:02:22.16 ID:SSfTRjIFO

     パーン
( ノAヽ)
 ⊂彡☆)):━◎┥


( ノAヽ)つ" ヒリヒリ

( ノAヽ)


   パパパパパーン
      ☆)):━◎┥
     ∩☆)):━◎┥
( ノAヽ)彡☆)):━◎┥
    ⊂彡☆)):━◎┥
     ☆)):━◎┥


( ノAヽ)つ" ヒリヒリ


(#ノAヽ)「かてぇ!!」

  ( ∵)
(;´ー`)「そりゃそうだヨ……」


108 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:04:06.26 ID:SSfTRjIFO

|::━◎┥「……」

( ノAヽ)「……取り敢えず、これで勘弁してやるノーネ」

ミセ*//ー゚)リ「ノーネ、手ぇらいじょぶ?」

( ノAヽ)「いてぇノーネ」

ミセ*//ー゚)リ「おくすりのむ?」

(;ノAヽ)「ダンコキョヒするノーネ」

( ´−`)「……」

ミセ*//ー゚)リ「……ネーヨ、ミセリらいじょぶだから、怒らないで」

( ´−`)「…………おうヨ」


 諭すように言われてしまえば、頷く事しか出来なかった。
 怪我をした本人がそう言うのだ、自分が怒る事は出来ない。


111 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:06:12.20 ID:SSfTRjIFO

 しん、と場が静まり返る。
 ひくひくしゃくりあげるニダーの声だけが響く空間。

 皆が何を口にすべきか分からなくて、
 ノーネがちらと、ネーヨに乗るビコーズを見上げた。

 ビコーズは小さく頷いて、ネーヨの頭を軽く叩く。


( ∵)「ゴェェ」

( ´ー`)「あん? 薬?」

( ノAヽ)「クスリの材料、集めるノーネ」

( ´ー`)「何だヨいきなり」

( ノAヽ)「さっきのでずいぶん減ったノーネ、今の内に集めとくノーネ」

( ´ー`)「ああ、なるほど……」

( ∵)「ゴェ」

( ´ー`)「わぁったヨ、行きゃいんだろ」


117 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:08:21.13 ID:SSfTRjIFO

( ノAヽ)「ミセリ、ちょっと行ってくるノーネ。荷物頼んだノーネ」

ミセ*//ー゚)リ「ん、いってらっしゃーい」


 ノーネがネーヨの背中に飛び乗り、森の奥へと消えて行く。
 ビコーズが居れば薬の材料も分かるだろうし、あの三人なら心配要らない。

 三人の背中を見送って、ミセリは歯車王に顔を向けた。

 申し訳なさそうに俯く歯車王。
 今でも謝罪の為の言葉を探して、見つからない。


ミセ*//ー゚)リ「……ね、ロボットさん」

|::━◎┥「何ダ」

ミセ*//ー゚)リ「名前、おしえて?」


119 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:10:21.17 ID:SSfTRjIFO

|::━◎┥「…………歯車王」

ミセ*//ー゚)リ「はぐるまおう……強そう」

|::━◎┥「昔ハ、強かッタ」

ミセ*//ー゚)リ「いまは?」

|::━◎┥「弱い」

ミセ*//ー゚)リ「なんで?」

|::━◎┥「戦ウ必要がナイカラだ」

ミセ*//ー゚)リ「それは、よわいんじゃないよ」

|::━◎┥「何故ダ?」

ミセ*//ー゚)リ「たたかうひつよーないって、分かるのは強いからだよ」

|::━◎┥「……分かラン理屈ダ」


121 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:12:09.41 ID:SSfTRjIFO

ミセ*//ー゚)リ「はぐるまおうは、どこから来たの?」

|::━◎┥「遠イ地カラだ」

ミセ*//ー゚)リ「ミセリといっしょだね」

|::━◎┥「……」

ミセ*//ー゚)リ「ん?」

|::━◎┥「…………痛ム、カ?」

ミセ*//ー゚)リ「ううん、レモナのおくすり効いてるから」

|::━◎┥「レモナ?」

ミセ*//ー゚)リ「んとね、ミセリのともだちでノーネのおかーさん」

|::━◎┥?


123 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:14:07.88 ID:SSfTRjIFO

ミセ*//ー゚)リ「つよくてよわくて、かわいいおんなのこなの」

|::━◎┥「ソウ……か」

ミセ*//ー゚)リ「はぐるまおうは、ともだちいた?」

|::━◎┥「歯車王は道具、友人ナド要らヌ」

ミセ*//ー゚)リ「ほんとに?」

|::━◎┥「アア」

ミセ*//ー゚)リ「さみしくない?」

|::━◎┥「アア」

ミセ*//ー゚)リ「うそつき?」

|::━◎┥「機械ハ、嘘を吐ケヌ」

ミセ*//ー゚)リ「うそ、つきたい?」

|::━◎┥「……」


126 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:16:08.38 ID:SSfTRjIFO

ミセ*//ー゚)リ「はぐるまおうのせかいって、どんなとこらったの?」

|::━◎┥「巨大な都市、機械化シタ文明、人間ガ腐ってイタ」

ミセ*//ー゚)リ「どろーって?」

|::━◎┥「腹ノ中がナ」

ミセ*//ー゚)リ「すげー」

|::━◎┥「意思ノ疎通が出来テイない様ダ」

ミセ*//ー゚)リ「はぐるまおうむつかしーことゆーね」

|::━◎┥「普通ダ」

ミセ*//ー゚)リ「ふつー?」

    ξ
|::━◎┥


129 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:18:12.26 ID:SSfTRjIFO

ミセ*//ー゚)リ「ごめんれ、ミセリまだふらふらしてるみたい」

|::━◎┥「見れバ分カル」

ミセ*//ー゚)リ「それ、目?」

|::━◎┥「押すナ、ボタンでハナい」

ミセ*//ー゚)リ「ろけっとぱーんち」

|::━◎┥

|::━◎┥  三⊃ ポーン

ミセ*//ー゚)リ「とんだ! すげぇ!」

|::━◎┥

ミセ*//ー゚)リ「あきれてんれしょ」

|::━◎┥ ギクシ


134 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:20:12.12 ID:SSfTRjIFO

ミセ*//ー゚)リ「はぐるまおうは、どんなひとだったの?」

|::━◎┥「人でハナい、マシンだ」

ミセ*//ー゚)リ「でも、いしがあるれしょ?」

|::━◎┥「……ソレでモ、歯車王は機械ダ」

ミセ*//ー゚)リ「からだが機械なだけれしょ?」

|::━◎┥「…………」

ミセ*//ー゚)リ「はぐるまおう、ミセリにけがさせたのがいやなんれしょ」

|::━◎┥「……何故、ソウ思ウ」

ミセ*//ー゚)リ「みればわかる」

|::━◎┥「人ノ言葉を使ウのハ褒めラレん」

ミセ*//ー゚)リ「機械じゃないの?」

|::━◎┥「ウ」


136 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:22:11.36 ID:SSfTRjIFO

ミセ*//ー゚)リ「ね、はぐるまおうってどんなことしてたの?」

|::━◎┥「……殺戮ダ」

ミセ*//ー゚)リ「さつりく?」

|::━◎┥「人ヲ殺シタ、歯車王は兵器だッタ」

ミセ*//ー゚)リ「……」

|::━◎┥「……」

ミセ*//ー゚)リ「何かをころすの、つらかった?」

|::━◎┥「…………分カラぬ」

ミセ*//ー゚)リ「どうして?」

|::━◎┥「歯車王はソノ為の道具だッタ、殺ス事が仕事だッタ」

ミセ*//ー゚)リ「だから、わかんない?」

|::━◎┥「……」


138 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:24:03.89 ID:SSfTRjIFO

ミセ*//ー゚)リ「ころすの、へーき?」

|::━◎┥「平気ダ」

ミセ*//ー゚)リ「今でも?」

|::━◎┥「平気ダ」

ミセ*//ー゚)リ「なんで?」

|::━◎┥「ソノ為の兵器ダ」

|::━◎┥

ミセ*//ー゚)リ「ちょっとはずかしい?」

|::━◎┥「黙レ」

ミセ*//ー゚)リ「やだ」

|::━◎┥「我儘ナ」
  _,,
ミセ*//Д゚)リ「んだとこんなろ」


141 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:26:04.47 ID:SSfTRjIFO

|::━◎┥「……怖がラヌのカ?」

ミセ*//ー゚)リ「なにを?」

|::━◎┥「歯車王をダ、歯車王は兵器ダぞ」

ミセ*//ー゚)リ「いまもへーきなの?」

|::━◎┥「……」

ミセ*//ー゚)リ「ミセリにけがさせてもやもやしてるのが、へーきなの?」

|::━◎┥「…………」

ミセ*//ー゚)リ「そんなへーき聞いたことないよ
      へーきがひとにけがさせてへーきじゃないなんて」

|::━◎┥「ソノ前に伸ばスナ、ちゃント言え、判断シ難い」

ミセ*//ー゚)リ「わがままな」

|::━◎┥" イラッ


147 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:28:06.52 ID:SSfTRjIFO

ミセ*//ー゚)リ「はぐるまおう、どーしてここにいるの?」

|::━◎┥「貴様ハ何故、此処に居ル?」

ミセ*//ー゚)リ「まよいこんだから」

|::━◎┥「同じダ」

ミセ*//ー゚)リ「はぐるまおうも、森にはいっちゃったの?」

|::━◎┥「森の遺跡ニ捨てラレた」

ミセ*//ー゚)リ「すてられたの?」

|::━◎┥「アア、用済ミになッタ」

ミセ*//ー゚)リ「それで、ここにきたの?」

|::━◎┥「気が付ケバ此処に居タ」

ミセ*//ー゚)リ「へー、じゃああるいてはいったんじゃないんらね」

|::━◎┥「先程ソウ言ッタ筈だガ」

ミセ*//ー゚)リ「そうだっけ?」


149 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:30:03.83 ID:SSfTRjIFO

|::━◎┥「……貴様は不思議ダ」

ミセ*//ー゚)リ「ミセリ?」

|::━◎┥「アア、歯車王を恐れナイ」

ミセ*//ー゚)リ「だってこわくないもん」

|::━◎┥「何故ダ? 歯車王は貴様ノ目を奪ッタ」

ミセ*//ー゚)リ「うん、そだね」

|::━◎┥「痛ミ、苦しミ、恐怖、感じタ筈ダ」

ミセ*//ー゚)リ「うん、そだね」

|::━◎┥「他者ノ事ヲ考えル余裕ナド、ナイ筈だ」

ミセ*//ー゚)リ「なんで? いたいのはお薬でなくなったよ?」

|::━◎┥「痛ミだけデはナイ筈ダ、何故、貴様ハこの状況デ笑えル?」


151 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:32:06.90 ID:SSfTRjIFO

ミセ*//ー゚)リ「んー……なんでだろ」

|::━◎┥「……何故、傷付けラレて笑えル。普通は、怒ル筈ダ」

ミセ*//ー゚)リ「はんせーしてるひとに怒って、どーすんの?」

|::━◎┥「……歯車王ハ」

ミセ*//ー゚)リ「人だよ」

|::━◎┥「…………違ウ、歯車王ハ、」

ミセ*//ー゚)リ「人だよ、はぐるまおうは」

|::━◎┥「違ウッ!!」

ミセ*//ー゚)リ「違わない」

|::━◎┥「ッ……! 何故、何故、断言出来ル……!?
      歯車王ハ機械、道具、兵器! 人デはナイッ!!」


155 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:34:20.76 ID:SSfTRjIFO

ミセ*//ー゚)リ「……」

|::━◎┥「何故笑ウ!? 何故歯車王を機械ト、兵器とシテ見ナイ!?」

ミセ*//ー゚)リ「…………だって、はぐるまおう」

|::━◎┥「歯車王はマシンだ! それ以外ノ何物デもナイ!!
      ナノに何故貴様は歯車王ヲ機械トして接しナイ!?」

ミセ*//ー゚)リ「きみは、じつにばかだなあ」

|::━◎┥「ナッ!?」

ミセ*//ー゚)リ「機械は、そうやってかんじょーてきになるの?」

|::━◎┥「ッ!」

ミセ*//ー゚)リ「はぐるまおうは人だよ、もう機械じゃない
      はぐるまおうは、もう人なんだよ」

|::━◎┥「何故……何故、ダ……」


158 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:36:23.92 ID:SSfTRjIFO

ミセ*//ー゚)リ「ねぇ、はぐるまおう」

|::━◎┥「止メロ……歯車王カラ、存在価値ヲ奪ウナ……」

ミセ*//ー゚)リ「……」

|::━◎┥「歯車王ハ兵器、マシンだカラ役立てタ……
      この力を欲すル者ニ従い命ヲ奪ッタ……ソレは、マシンだカラだ」

ミセ*//ー゚)リ「それが、はぐるまおうのしたかった事?」

|::━◎┥「…………違、ウ……」

ミセ*//ー゚)リ「……はぐるまおうは、後悔してんでしょ?」

|::━◎┥「後悔……? マシンが、後悔……?」

ミセ*//ー゚)リ「機械は後悔なんかしない、だってふつーの機械は意志がないもん」

|::━◎┥「…………ア、」

ミセ*//ー゚)リ「意志をもつはぐるまおうは、後悔してる
      それはもう、機械じゃないからだよ」


160 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:38:04.27 ID:SSfTRjIFO

|::━◎┥「……歯車王、ハ……機械では、ナイ……?」

ミセ*//ー゚)リ「からだは機械かもしれない、でもはぐるまおうは心があるよ」

|::━◎┥「心がアレば、人ナノか?」

ミセ*//ー゚)リ「ほかの人と通じる心があるなら、それは人だとおもう」

|::━◎┥「人間以外ノ獣ハ、喋れヌ機械は違ウノカ?」

ミセ*//ー゚)リ「いしのそつー、でしょ?」

|::━◎┥「……?」

ミセ*//ー゚)リ「おたがい、ことばが分かんなきゃ心があるか分かんないよ」

|::━◎┥「ア……」

ミセ*//ー゚)リ「犬に心があるかどうかは、ことばが分からないから分かんない
      ほかの機械も、木や花も、分かんない」

|::━◎┥「……」

ミセ*//ー゚)リ「でも、もしかしたら心があるのかも知れない
      けどミセリには分かんない、だから判断できないよ」


163 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:40:07.47 ID:SSfTRjIFO

|::━◎┥「貴様、ハ……」

ミセ*//ー゚)リ「本当はみんな人なのかもしんない、でもミセリにはわかんない
      でもはぐるまおうは言葉が分かる、ノーネ達とも分かる」

|::━◎┥「……待て」

ミセ*//ー゚)リ「ん?」

|::━◎┥「アノ小さナ生物はどうナル? ゴェゴェ言ウ」

ミセ*//ー゚)リ「………………あれは、妖精、だから」

|::━◎┥「ソノ間は何ダ」

ミセ*//ー゚)リ「……ミセリ、実はね……かんがえて喋ってないの……」

|::━◎┥「知ッテいル」

ミセ*//ー゚)リ「何かしつれーだ」


165 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:42:14.93 ID:SSfTRjIFO

|::━◎┥「……貴様ハ、可笑しナ人間ダ」

ミセ*//ー゚)リ「やっぱりしつれーだ」

|::━◎┥「ダガ、落ち着ク」

ミセ*//ー゚)リ「ぜんげんてっかいしとく」

|::━◎┥「シカシ妙ダ」

ミセ*//ー゚)リ「どこまでもしつれーだ」

|::━◎┥「褒メテいル」

ミセ*//ー゚)リ「うれしーのにうれしくなーい」

|::━◎┥「……人間とハ、奇妙なモノなのダナ」

ミセ*//ー゚)リ「……ミセリだけだとおもうよ?」

|::━◎┥「自覚がアルのカ」

ミセ*//ー゚)リ「さすがにね」


167 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:44:15.03 ID:SSfTRjIFO

|::━◎┥「歯車王ヲ道具扱いしナイ人間は、初めテだッタ」

ミセ*//ー゚)リ「……」

|::━◎┥「歯車王ノ側に居た人間共ハ、他者ノ事ナド考えモしなかッタ」

ミセ*//ー゚)リ「……」

|::━◎┥「貴様は、歯車王にとッテ、初メテ接するタイプの人間ダ」

ミセ*//ー゚)リ「ちょっと、嬉しいかも」

|::━◎┥「……」

ミセ*//ー゚)リ「……ん?」

|::━◎┥「貴様、は……歯車王ヲ、求む……カ?」

ミセ*//ー゚)リ「え……」

|::━◎┥「答えロ」


172 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:46:16.89 ID:SSfTRjIFO

ミセ*//ー゚)リ「……ミセリは、みんな求める、みんな、みんな」

|::━◎┥「……」

ミセ*//ー゚)リ「だって、ミセリは一人じゃ生きられない
      いろんな人やいろんなものがそばになきゃ、生きられない」

|::━◎┥「ソウ、か」

ミセ*//ー゚)リ「ミセリは求めるよ、ほしいよ、はぐるまおうが」

|::━◎┥「…………」

ミセ*//ー゚)リ「……はぐるまおう?」

|::━◎┥「……すマナかッタ」

ミセ*//ー゚)リ「へ……」


175 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:48:09.72 ID:SSfTRjIFO

 ぎし、と歯車王がミセリから顔をそらして立ち上がる。
 そしてミセリの隣からに正面に移動し、座り込んだ。

 泣き疲れて眠ったニダーを抱いたまま、ミセリは首を傾げる。
 時間が経って副作用と共に効果が薄れたのか、右目がじくりと痛んだ。


ミセ*//ー゚)リ「……はぐるまおう、どしたの?」

|::━◎┥「歯車王の腹ヲ、開けロ」

ミセ*//ー゚)リ「あける……?」

|::━◎┥「ソノ取っ手ヲ出して、引ケ」


 歯車王の腹をよくよく見てみると、細く小さな板があった。
 板の横にある窪みに指先を当てて、爪で板を引く。

 すると、かしゃりと音を立てて取っ手が出来た。


177 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:50:14.92 ID:SSfTRjIFO

 それをそっと握って、歯車王の顔を見てから、ゆっくりと引いた。

 きぃぃ、金属的な軋む音。
 油の切れた蝶番はゆっくり、けれども確かに動いて
 腹に、四角く小さな穴を開ける。


 ミセリが取っ手から手を離す時には、歯車王の腹は開け放たれていた。
 腹部の小さなドアを開かれた歯車王が、そこに視線をやる。

 暗く狭い腹の中、コードや歯車が幾重にも絡まり合うそこ。
 その中心に、黒い何かがぼんやりと光を放っていた。


ミセ*//ー゚)リ「はぐるまおう……これ……?」

|::━◎┥「歯車王ノ、コアだ」

ミセ*//ー゚)リ「こ、あ……?」

|::━◎┥「簡単に言ウなラバ、心臓ダ」

ミセ*//ー゚)リ「へ……出して、いいの? しんぞー……」

|::━◎┥「構わン」


180 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:52:06.33 ID:SSfTRjIFO

ミセ*//ー゚)リ「はぐるまおう……あの……これ、?」

|::━◎┥「手を入レロ」

ミセ*//ー゚)リ「へ……」

|::━◎┥「見えルノだロウ、黒イ歯車王ノ心臓が」

ミセ*//ー゚)リ「見えてる、けど……」


 どこか重みのある命令に、ミセリは少し悩んでから従う。
 おずおずと右手を伸ばし、そっと歯車王の心臓に触れた。

 熱くて少し固い、鞣した革の感触が指先から伝わる。

 腹の中を覗き込んでみると、コードに繋がる心臓がよく見えた。
 どうやら何かが黒い革に包まれているらしく、革の隙間から光が洩れている。

 いくつもの革を縫い合わせて作られた、心臓の外側。
 それは、歯車王を動かす原動力。


182 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:54:03.02 ID:SSfTRjIFO

 脈打つ事はなく、ただ僅かに震えるだけ。
 けれどこの革の中には、心臓がある。

 熱くて少し柔らかい、不思議な感触にミセリは困った様な顔をする。
 ここからどうすれば良いのかわからず、歯車王の顔を見上げた。

 歯車王は静かに「握レ」とだけ命令した。
 ミセリは言葉に従い、心臓を優しく握る。

 手のひらから伝わる熱が、高くなった。


 円筒形の歯車王。
 その中心に存在する、黒い心臓。

 それは人に近く、人から遠い。
 人になりきれない人工物。


 そして歯車王は、次に「引き千切レ」と命令した。


186 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:56:16.68 ID:SSfTRjIFO

ミセ;//−゚)リ「わかっ…………え、?」

|::━◎┥「従エ」

ミセ;//−゚)リ「ま、待って……だってはぐるまおう、それじゃ」

|::━◎┥「歯車王はヤレと言ッタ、従エ」

ミセ;//−゚)リ「だって、だってっ! それじゃはぐるまおうっ!」

|::━◎┥「ヤレッ!!」

ミセ;//− )リ「っ! …………ばかぁっ!!」


 荒くなる言葉、強い命令。

 ミセリは顔を歪めながら、その命令に従う。
 従わなければいけない、そんな気がして。


 心臓を握った手を、手前に思い切り引いた。


188 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 22:58:02.64 ID:SSfTRjIFO

 ぶちぶちぶち、心臓と繋がっていたコードが引きちぎられて跳ねる。

 何本ものコードをちぎるのに、力は大して要らなかった。
 ずいぶん劣化が進んでいたのだろう、
 脆くなった歯車王の内部は、簡単に壊れてしまった。

 眉を寄せたまま、右手に乗る心臓を見つめる。
 黒い革、光を無くしたその中身。

 顔を上げて、歯車王を見た。
 変わらない筈の表情が、少し柔らかくなった気がした。


ミセ;//− )リ「……はぐるま、おう」

|::━◎┥「ヨク、やッタ」

ミセ;//− )リ「これ、はぐるまおうの、しんぞー……」

|::━◎┥「アア……貸して、ミロ」


192 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 23:00:02.94 ID:SSfTRjIFO

ミセ;//− )リ「はぐるまおう、まだ……動け……?」

|::━◎┥「予備電源がアル、数分ハもつ」

ミセ;//− )リ「……ねぇ、何で……しんぞー…………」


 歯車王の、Uの字の手に心臓を乗せた。
 器用にもその手で心臓を掴み、表皮の端を反対側の手で掴む。

 そして、びぃっ、と心臓の革を剥いだ。

 レモンの様な形の革が一枚、べろりと剥がされ地面に落ちる。
 心臓を包む何枚もの革を、まるで玉ねぎでも剥くかの様に剥ぐ。
 しかし地面に落とされる革は、どれも劣化して色褪せている。


 そんな中、やっと歯車王の手が止まる。

 最後の一枚をそっと引き剥がせば、
 歯車王の手に残されたのは、ピンポン玉ほどの大きさをした球体。


195 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 23:02:07.63 ID:SSfTRjIFO

 もう光らない、赤く透き通る球体。
 心臓だったそれをミセリに差し出す。

 無言で歯車王を見ていたミセリは、それを受けとる。
 手の中でころりと転がる、元心臓。

 さっきまで野球ボールくらいの大きさだったそれは
 革を全て剥がした事でずいぶん小さくなってしまった。

 これをどうすれば良いのか問おうと、ミセリが顔を上げる。
 その瞬間、歯車王がミセリの右目を覆う包帯を引っ張り、ほどいた。


ミセ; −゚)リ「え……はぐるまおう……?」

|::━◎┥「……」


 突然包帯を外されて、ミセリが驚いたように目を丸くする。
 布を当てた右目をそっと撫でて、歯車王が手を伸ばした。


198 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 23:04:05.53 ID:SSfTRjIFO

 ぴたり、と何かが顔に当てられる。

 少し暖かくて、固い様な柔らかい様な、不思議な感触。
 それは、心臓を包んでいた黒い革。

 銀のビスが付いた、最後の一枚。
 やっと見つけた綺麗な革を、
 引っ張って少し伸ばしてから、ミセリの右目に。


ミセ;%−゚)リ「……あ、う……?」

|::━◎┥「アア……ヤハリ、良い大きサダ」

ミセ;%−゚)リ「へ……」

|::━◎┥「ずット包帯デハ、味気ナイだろウ?」

ミセ;%−゚)リ「? …………っ! はぐるまおう、まさか、」

|::━◎┥「……少し不釣リ合いダガ、似合わナクはナイな」

ミセ;%−゚)リ「なっ……な、んで……こんなっ」


201 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 23:06:22.07 ID:SSfTRjIFO

 包帯の代わりに付けられた、黒い眼帯。
 心臓を包み守っていた黒い革は、ミセリの頭にぴったりの大きさ。

 歯車王の赤い目が、少しずつ光を失う。


ミセ;%−゚)リ「はぐるまおう……あんた、ミセリの……」

|::━◎┥「歯車王ノ計算に狂イハなかッタな、上手ク覆えタ」

ミセ;%−゚)リ「ミセリの目をかくすためにしんぞー取ったっての!?
     ば、ばかじゃないの!? そんなことのために何してんの!!?」

|::━◎┥「騒ぐナ、起きルゾ」

ミセ;%−゚)リ「うっさい! うっさいばか!!」

|::━◎┥「煩いノハ貴様ダろう、馬鹿者」

ミセ;%−゚)リ「ばかはあんただぁっ!!」


203 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 23:08:08.92 ID:SSfTRjIFO

 歯車王が、ふらふらと元居た場所に戻って行く。
 がしゃ、と半ば崩れ落ちる様にして、瓦礫を背に座り込む。

 それを追いかけ、ミセリが歯車王の前まで移動する。
 薬が切れかけているのか、右目がじくじくと痛んだ。

 薬の効果と共に、副作用も消えかけてろれつが回る様になってきた。
 先ほどより、ずっとはっきりした意識。

 しっかりとした思考を取り戻した事で、
 歯車王の身に起きている事がどう言う事か理解できる。

 理解できない方が、楽だったかも知れない。


ミセ;%−゚)リ「ねぇはぐるまおう、はぐるまおうっ!」

|::━◎┥「何、ダ」

ミセ;%−゚)リ「まってよ、ねぇ待って! これ返すから!」

|::━◎┥「無駄ダ、ソレはモウ、戻せン」


207 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 23:10:32.85 ID:SSfTRjIFO

ミセ;%−゚)リ「なんでっ……なんで!?
      なんでこんな事のために心臓とっちゃうのっ!?」

|::━◎┥「……歯車王ハ、疲れタ」

ミセ;%−゚)リ「はぁ!? ふ、ふざけないでよっ!!」

|::━◎┥「フザケてハいナイ……歯車王ハ、モウ生きタクはナイ」

ミセ;%−゚)リ「な、によ……それ…………何なの、よ……」

|::━◎┥「…………ミセリ、だッタか」

ミセ;%−゚)リ「……うん」

|::━◎┥「すまナかッタ、右目ヲ、奪ッテ……傷を焼イたカラ、目は戻セン……」

ミセ;%−゚)リ「いい、よ……そんなの……」

|::━◎┥「ソンナの、カ……」


211 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 23:12:30.86 ID:SSfTRjIFO

ミセ;%−゚)リ「ねぇはぐるまおう、歯車王っ! 死なないでってば、ねぇ!」

|::━◎┥「死なナイ、壊れルだケダ……歯車王ヲ、受け取レ、右目、デ」

ミセ;%−゚)リ「そー言う問題じゃないっ!! ばかぁっ!!」

|::━◎┥「は、はハハ……ヤハリ貴様ハ、奇妙ナ人間、ダ……」

ミセ;%−゚)リ「うっさい! 死ぬなって!!」

|::━◎┥「……人と言ッテくレテ、有り難ウ」

ミセ;%−゚)リ「っ」

|::━◎┥「…………歯車王、ハ、疲れ、タ……モウ、眠らセ、テク、レ」

ミセ;%−゚)リ「歯車王……待ってよ、待ってよ歯車王……っ」

|::━◎┥「……オヤ、ス、ミ……ニ……ン、ゲ……ン…………」

ミセ;%−゚)リ「ぁ……」


213 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 23:14:11.21 ID:SSfTRjIFO

 Uの字の手が、眼帯越しに右目を撫でる。

 そして歯車王の赤い目から、ふぅっと灯りが消えた。
 それと同時に、ミセリの目を撫でていた手が地面に落ちる。

 静かに静かに事切れた、歯車王のその命。


 冷たい歯車王の頭を撫でて、ミセリが顔をくしゃくしゃにする。
 すやすや眠るニダーを抱き締めて、心臓だった赤い玉を握り締めて。

 必死に声を殺しながら、涙をぼろりと溢した。


 出会って数時間しか経っていない。
 右目を奪った相手と、少し会話をしただけ。

 歯車王に傷つけられた、二つしかない目玉の片割れを奪われた。


 それなのに、胸が痛くて痛くて、しょうがない。

 どうしてこんなに、胸が苦しい。


219 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 23:16:03.98 ID:SSfTRjIFO

 ぽろぽろ、と涙を溢した。

 もう動かない。
 ノイズ混じりの声も、古い機械独特の軋みも聞けない。
 油と鉄が混じった匂い、冷たい手、ボタンの様な丸い目。

 歯車王を見ていると、何故か涙が込み上げる。
 ごしごしと腕で目元を擦ると、右目に痛みが走った。

 そして赤い玉に視線を落としてから、それをポケットに仕舞った。
 何故か許せてしまう、憎んでもおかしくない相手。


 ミセリがゆっくり立ち上がり、両腕でニダーを抱き締める。

 誰かを傷付けるのは、こんなにも苦しい。


 分かっていた筈なのに、改めて思い知る。
 歯車王の事は分からない、本人に聞いた事しか分からない。

 けれど、きっと、歯車王も被害者だったのだろう。


223 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/05/31(日) 23:18:03.13 ID:SSfTRjIFO

 三人が、漸く森から戻ってくる。
 泣きながらニダーを抱き締めるミセリに、ひどく驚いた顔をしていた。

 ミセリが泣きながら歯車王の話をして、眼帯を見せる。
 三人はなんとも言えない顔をしながら花を摘み、歯車王の足元に置いた。


 そして荷物をネーヨの背中を縛り付け、ミセリ達は旅を再開する。

 ネーヨの隣を歩く、森に嫌われているミセリ。
 その髪の色が、変わり始めていた。


 時間がない。

 それに気付く事はなく、ミセリは歯車王を思って胸を痛めるばかり。

 彼の心臓を包んでいた眼帯を撫でて、少しずつ森に愛され始める。


 時間が、ない。



七話、おわり。


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