- 6 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:14:14.93 ID:Rpg++fh4O
オマエの大事なモノを壊す。
だから怒ってみろよ。
あの時みたいに泣きながら逃げるんじゃなくて。
あの時みたいに怒って、全力でかかってこいよ。
その代わり、あの時みたいに倒れたら
今度はそのまま壊してやる。
サイゴにしよう、サイゴにしようぜ。
サイゴのサイゴに遊ぼうぜ。
俺もイノチ賭けてやる、ゼンブ賭けてやる。
だからオマエも賭けろよ、ゼンブ賭けろよ。
オマエは俺のオモチャだ。
だから楽しもう、遊ぼうよ。
オソロイの片目、そこにお互いだけを映して。
- 8 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:16:34.51 ID:Rpg++fh4O
【ミセ*゚ー゚)リ 変な森のようです】
第八話 『ひずむせかいうつるせかい。』 後編
閲覧注意
これでサイゴだ、サイショでサイゴの俺とオマエの遊びなんだ。
- 11 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:18:24.71 ID:Rpg++fh4O
突然、群れで姿を現した赤い森の人。
森一番の狂気を誇る、アヒャ族。
弱者をいたぶり、血を見る事を娯楽とする狂気の森の人。
その思考には快楽を求める事しか存在せず、刃物を巧みに扱う。
そんなアヒャ族と会うのは、ミセリとノーネにしてみれば、三度目。
一度目は、旅を初めてすぐの時。
二度目は、森の妖精の集落にて。
そして訪れた三度目。
出来る事なら、もう会いたくはなかった相手。
けれどアヒャ族との間に出来た因縁。
それは簡単には切れる物ではなく、再び出会う事はある程度予想していた。
ミセリは腕の傷跡を押さえて、アヒャ族を睨む。
今度こそ、負けはしない、と。
- 13 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:20:21.93 ID:Rpg++fh4O
ミセ;%ー゚)リ「やっぱり来たね……そろそろかなって、思ってたんだよね……」
(;ノAヽ)「……勝てる……ノーネ?」
(;´ー`)「勝てなかったら、死ぬだけだヨ」
<;ヽ`Д´>「……死んでたまるか、ニダ」
ミセ;%ー゚)リ「そのとーり、逃がしちゃくれないだろーしね……」
(;´ー`)「でもま、ちょっと覚悟はしとけヨ」
(;ノAヽ)「……しょーちのすけなノーネ」
<;ヽ`Д´>「把握ニダ……」
じり、と荷物を囲む様にして、ミセリ達が臨戦態勢に入る。
ミセリがマントと襟巻きを脱ぎ捨て、腰に結わえたナイフを鞘から抜く。
荷物の中から弾丸を取り出したニダーは、猟銃に弾を込めた。
戦う術を持たないノーネは、ビコーズを持ってネーヨの後ろに身を隠す。
そんな二人を守る様に、ネーヨがいつでも炎を吐ける様にと力を入れていた。
- 17 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:22:22.77 ID:Rpg++fh4O
十数匹のアヒャ族が、素早い動きでミセリ達を取り囲む。
ネーヨの背中に乗ったニダーが、狙撃の為に銃を構えた。
アヒャ族が動けば、こちらも動く。
いつ仕掛けてくるのかと、向こうの出方を待つ。
しかし、待てど暮らせど、アヒャ族は動かない。
何かを待つ様に、待ち遠しいと言わんばかりにうずうずと落ち着かない。
刃物を揺らして、その場で跳ねて、ちらちらと草むらを見ている。
_,,
ミセ;%−゚)リ「……? 何してんだろ、こいつら……」
(;´ー`)「さーな……なんとなく、分かるけどヨ……」
_,,
ミセ;%−゚)リ「え、?」
<ヽ`Д´>「! ミセリ、あれ!!」
- 20 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:24:17.22 ID:Rpg++fh4O
ネーヨの上に立つニダーが、何かを見つけた。
その言葉に草むらの方をよく見てみると、遠くで何かが動くのが見えた。
がさがさがさ、と草むらを揺らす何か。
その何かが、少しの間を置いてから、勢い良く動いた。
しげる草むらの間を縫って、一直線にこちらへと駆けてくる何か。
落ちた視力に眉を寄せるミセリ。
その目に、草むらを揺らす正体が映った時には
もう、赤い影が草むらから飛び出した後だった。
( ∀ )「アーッヒャッヒャッヒャッヒャアッ!!」
_,,
ミセ;%−゚)リ「ッ!?」
( ∀ )「アヒャァ─────ヒャヒャヒャアッ!!」
_,,
ミセ;%−゚)リ「しまっ……!!」
- 21 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:26:40.55 ID:Rpg++fh4O
ざん、と地を蹴って飛び上がった赤い影が、刃物を構えたまま地面に降り立つ。
その刃は真っ直ぐにミセリを狙っていた。
すんでの所で飛び退き、刃をかわしたミセリ。
空を切り裂いて着地したアヒャが、ぐらりと傾きながら顔を上げる。
( ゚∀メ)
潰れた左目、歪んだ笑顔。
ミセリのトラウマそのものが、そこに立っていた。
_,,
ミセ;%−゚)リ「っぶねぇ…………やっぱり、あんたか……片目」
( ゚∀メ)「ヒャヒャッ、アヒャヒャヒャッ!!」
_,,
ミセ;%−゚)リ「……出来れば、おんびんに済ませたいんだけど……なー」
( ゚∀メ)「アヒャア? アヒャヒャッヒャヒャッ!」
そんなの聞くわけないだろ。
片目のアヒャが、ぐにゃりと笑った。
- 22 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:29:26.32 ID:Rpg++fh4O
( ゚∀メ)「アヒャヒャヒャ!」
_,,
ミセ;%−゚)リ「……逃がしては、くれないわけね」
( ゚∀メ)「アーッヒャヒャヒャ!」
_,,
ミセ;%−゚)リ「だと思ったよ……本当は、逃げたいんだけどね」
( ゚∀メ)「アヒャー?」
旅を始めてすぐに出会った、赤い森の人。
その時に、ミセリが片目を奪ったアヒャ族。
この片目は、ミセリに固執している。
アヒャ族屈指の力を持つ彼の、左目を奪った。
それだけで、このアヒャがミセリに固執するには十分な理由。
片目の強さは、妖精の集落でいやと言うほど目にしていた。
素晴らしく切れ味の良い刃物で、仲間を躊躇いなく虐殺するその残虐性。
あの時ミセリ達を助けた理由はただ一つ。
自分のオモチャを自分の手で壊すため。
- 25 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:31:08.48 ID:Rpg++fh4O
自分に傷を負わせたミセリを、真っ向勝負で壊したい。
ただそれだけの理由で仲間を殺し、立ち去った。
ミセリ達の脳裏に、ぶわりと仲間に殺されたアヒャ族の姿が浮かぶ。
森の人の形が分からなくなる様な殺し方。
しばらくは生肉を調理するのを躊躇う様な死体。
むせかえる鉄臭さ、ぬめる赤に溢れる臓物。
胃の奥から込み上げる吐き気を、飲み込む。
そして、これから起こるであろう惨劇に備えた。
ただのアヒャ族だけではなく、片目が来た。
それは、普通よりもグロテスクな物を
目に焼き付けなくてはならない、と言う事。
流れる冷や汗を拭い、ミセリ達は身構える。
覚悟は出来た、と。
- 27 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:33:18.80 ID:Rpg++fh4O
片目が空いている片手を持ち上げると、アヒャ族が刃物を構えた。
そして、
( ゚∀メ)「────アヒャアッ!!」
やれ、と言わんばかりに振られた手。
命令らしき声を上げた片目の言葉に、アヒャ族が、一斉に飛び掛かる。
<;ヽ`Д´>「来たニダッ!」
(;´ー`)「はいはい…………ヨっと!」
ゴウッ!!
从 从
,;⌒ミ彡~″シ从
(#´凵M),τ彡 彡ミ∀ )そ
ヾミ~⌒ミ彡从 )て
, 从 ⌒,ミ从
'⌒″ミ从∀ )そ
- 29 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:35:15.36 ID:Rpg++fh4O
飛び掛かってきたアヒャ族が、数匹まとめて炎に飲み込まれる。
腹に力を込めて炎を吐き出したネーヨによって、
森の人の形をした炭が出来上がった。
頭数をいきなり減らされたアヒャ族の足が止まり、ネーヨを遠巻きに見る。
近付いたら勝ち目がないと分かるのか、アヒャ族がネーヨから離れた。
<;ヽ`∀´>「アイゴー……さすがニダ、ネーヨ」
(;´ー`)「恐竜サマをなめんなってんだヨ、近付いたら消し炭にするヨ」
(;ノAヽ)「ぅゎ ヵっ゙ょぃ」
(;´ー`)「言いづれぇヨそれ」
( ∵( ノAヽ)
<;ヽ`∀´>「ビコーズ、大丈夫ニダ?」
( ∵)「ゴェ……」
(;´ー`)「こいつらには良い思い出ねーからな、しょうがネーヨ」
- 31 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:37:06.21 ID:Rpg++fh4O
( ゚∀メ)「アヒャッ!」
ミセ;%−゚)リ「うわっち!」
( ゚∀メ)「アヒャヒャッ!」
ミセ;%−゚)リ「うわ、わわっ!」
( ゚∀メ)「アヒャーッ!」
ミセ;%−゚)リ「うぁっぶねぇ! 刺さる刺さる!」
( ゚∀メ)「アヒャ」
ミセ;%−゚)リ「避けんなって?」
( ゚∀メ)「アヒャ!」
ミセ;%−゚)リ「避けるに決まってんでしょーが! 怖いわ!」
( ゚∀メ)「アヒャー…………ヒャ?」
- 34 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:40:10.37 ID:Rpg++fh4O
ネーヨ達には見向きもせず、執拗にミセリを狙う片目。
繰り出される刃物を必死で避けるミセリは、
その手に握られたナイフを、振るう事はしない。
どうやらそれが気に食わないらしく、片目は拗ねた様に語尾を伸ばす。
避けてばかりではつまらない。
もっと積極的に動いて楽しみたい。
けれどミセリは、自分から攻撃しようとはしない。
ミセリとやり合う事を楽しみにして来た片目にとって、それは大変面白くない。
どうすれば、この逃げてばかりのオモチャを本気にさせられるか。
そう思った片目の狭い視界の端に、緑が映った。
見覚えのある、小さな緑。
それを見た片目が、俯いて歪み笑う。
- 37 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:42:21.14 ID:Rpg++fh4O
とん、と片目が地を蹴った。
ミセリから離れた片目は、真っ直ぐにネーヨの元に走る。
片目の事をミセリに任せていたネーヨは、
突然片目がこちらへ来た事に驚き、即座に対処が出来ず。
炎を吐き出そうと腹に力を入れたと同時に、頭に衝撃。
(; 凵@)「あでっ!」
<;ヽ`Д´>「っ!?」
ネーヨの頭を踏み台にして、ニダーの前、ネーヨの背に降り立つ。
しかし咄嗟に身構えたニダーの隣をすり抜けて、片目はネーヨの後ろへ。
そして、片目の手が何かを掴み、持ち上げた。
- 40 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:44:18.16 ID:Rpg++fh4O
片目が持ち上げた何かを、勢い良くミセリの方へと投げ飛ばす。
こちらへと飛んで来た緑色にミセリは左目を見開いて、
ナイフを投げ捨て、その緑を両腕でキャッチした。
ミセ;%−゚)リ「大丈夫っ!?」
(;ノAヽ)「ぉ……おうふ……びっくらこいたノーネ……」
投げ飛ばされた緑の影は、ノーネだった。
ミセリの腕の中で目をぱちくりさせながら、頭を数回振る。
一体何事だと、皆が片目に視線を集中させた。
しかし片目はそんな視線をまるで気にする素振りも見せず、再び地を蹴る。
ミセリの元まで戻ってきた片目。
銀の刃と残された右の目玉をぎらつかせ、飛び跳ねた。
- 43 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:46:04.34 ID:Rpg++fh4O
( ゚∀メ)「アヒャヒャーッ!」
高く飛び跳ねた片目が狙うは、ミセリの顔面。
突き出した右足が、狙い通りの場所に叩き込まれた。
ぐしゃ、と小さな足が、ミセリの顔にめり込む。
右目を眼帯越しに蹴り飛ばされたミセリは、
そのまま背中から、地面へと倒れ込んだ。
その衝撃で、ノーネがミセリの手から離れて投げ出される。
もちろん、片目がそれを見逃す筈がなかった。
(; A )「のっぎゃっ!?」
( ∀ )
(;ノAヽ)「いっででで……何なノー……ネ……」
( ゚∀メ)
- 44 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:48:29.55 ID:Rpg++fh4O
顔面から地面に着地したノーネが、額を撫でながら起き上がる。
痛みを訴える言葉が途中で切れて、自分を見下ろす赤い影に、硬直した。
にたりにたり、ぎらつく目をして笑う片目。
その姿は、本来自分と変わらない森の人だとは思えなくて。
ノーネはぺたんと尻餅をつき、そのままじりじり後退る。
しかし片目はゆっくりとそれを追い掛け、刃物を握り直した。
(;ノAヽ)「な、ん……ノーネ……」
( ゚∀メ)
(;ノAヽ)「ぁ……あ、ぎゅ……う……」
( ゚∀メ)「────アヒャッ」
(;ノAヽ)「ぇ、? …………ぐぇうっ!!?」
- 46 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:50:10.84 ID:Rpg++fh4O
どすん。
ノーネの腹に、重い衝撃が走った。
突然の息苦しさと痛みに、ノーネが濁った悲鳴を吐き出す。
その痛みに気をとられ、自分を包む浮遊感に、すぐ気付けなくて。
自分が空中へ持ち上げられていると気付いた頃には、時すでに遅く。
鈍い銀のきらめきが、もう降り下ろされた後だった。
ざしゅ、と生々しい音を間近で聞いた。
次にやって来たのは、顔に走る痛みと熱。
ノーネの小さな体が地面へと叩き付けられ、
また、酸素と共に鈍い悲鳴を吐き出した。
耳に届くのは、けたたましい笑い声。
- 51 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:52:13.42 ID:Rpg++fh4O
ネーヨの目の前に、小さな緑色が転がっている。
顔から血を流した緑色が、体を震わせながら呻いている。
一瞬、何が起きたか理解出来ず、場が静寂に飲み込まれた。
しかしノーネがよろよろと体を起こすと、皆が我に返って声を上げた。
(;´凵M)「ち……チビっ!? 大丈夫かヨ!?」
<;ヽ`Д´>「ノーネッ、ノーネッ!!」
(;#;Aヽ)「いっ……でぇノーネ……」
(;´凵M)「大丈夫かヨ!?」
(;#;Aヽ)「ちょっとかすっただけだから、へーきなノーネ……」
<;ヽ`Д´>「よか、よかった、ニダ……っ早くこっち来るニダ!」
(;#;Aヽ)「うぇぃ……」
- 53 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:54:08.28 ID:Rpg++fh4O
ニダーに手を貸して貰い、ノーネがネーヨの後ろへと再度避難する。
隙を見て飛び掛かるアヒャ族へ、ニダーが軽い動作で猟銃を撃ち
追い討ちにネーヨが溜めていた炎を吐いて、消し炭に。
上手い具合に繋げて攻撃を繰り出して、アヒャ族を少しずつ確実に減らす。
それを横目に、片目がミセリの前に立ち、覗き込む。
ゆっくりと立ち上がり、地面に落としたナイフを取って、
ミセリはスカートに付いた泥を払い、片目を睨んだ。
その目に、片目は喜ぶ。
怒りに燃えるその左目が、嬉しくてしょうがない。
なあ、怒った?
そう問う様に首を傾げる片目。
それの返事と言わんばかりに、小振りのナイフを突き付けて、ミセリが顔を上げた。
- 57 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:56:04.91 ID:Rpg++fh4O
- 蹴り飛ばされた右目、眼帯の下から僅かに血を流すミセリ。
健在の左目は、仲間を傷つけられた事に対して怒り狂う。
ぎり、と奥歯を噛み締めてから、そっと口を開いた。
_,,
ミセ#%− )リ「…………よくも、やってくれたわね……」
( ゚∀メ)「アヒャッヒャヒャ!」
_,,
ミセ#%− )リ「笑ってんじゃ……ねぇよ……」
( ゚∀メ)「アヒャッ! ヒャヒャヒャッ!!」
_,,
ミセ#%Д゚)リ「ッざけんなこらぁあ!! 何笑ってんだてめぇッ!!」
( ゚∀メ)「アヒャッ!」
_,,
ミセ#%Д゚)リ「分かったわよ買ってやるわよその喧嘩ァッ!!
今日こそ決着つけるぞッ! 片目ェッ!!」
( ゚∀メ)「─────アヒャッ!!」
_,,
ミセ#%Д゚)リ「ッくぞオラァァアァアアアアッ!!」
( ゚∀メ)「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!!」
かかった。
- 58 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 21:58:13.96 ID:Rpg++fh4O
自分が相手をする代わりに、他の誰にも手を出すな。
ミセリの言葉に込められたそんな意味を理解して、片目は満足げに頷く。
そうそう、それそれ。
その本気が、その目が、その敵意と怒りが欲しかった。
相手を本気にさせるには、怒らせるのが手っ取り早い。
そして怒らせるには、その相手の大事な物を壊す事が一番。
片目の思惑通りに、
先程までの「出来れば逃げたい」と言う考えを投げ捨てたミセリ。
楽しそうに、嬉しそうに、片目が飛び跳ねて数歩下がる。
そして僅かな血に濡れた刃物を逆手に握って、走った。
( ゚∀メ)「アッヒャア!!」
_,,
ミセ#%Д゚)リ「ッ! 当たるかぁッ!!」
( ゚∀メ)「ヒャヒャアヒャヒャアッ!」
- 62 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:00:29.58 ID:Rpg++fh4O
ミセリを狙う刃を避け、続けて今度はミセリがナイフを突き出す。
それを刃物で軽く受け流した片目は、嬉々として刃物を操る。
他のアヒャ族よりも大振りで、よく研がれた鋭い刃物。
出刃包丁によく似たその形、
普通の物より重いであろうそれを、自分の手の様に扱う片目。
それに比べると、小振りなナイフを持つミセリの手はどこかぎこちない。
使い慣れないナイフに振り回されている様なミセリと、手慣れた片目。
端から見れば片目はひどく有利で、
実際に、ミセリをあっさりと斬り殺す程の実力を持っている。
けれどそれでは楽しくない。
片目にしてみればこれは遊びであって、戦いではない。
ミセリはオモチャで、これは遊戯。
だから片目は、すぐにミセリを殺しはしない。
可能な限り遊んで遊んで楽しんで、最終的に血を見たい。
ただ、それだけ。
- 64 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:02:12.89 ID:Rpg++fh4O
縦横無尽に動き回る、二つの刃。
血を求めて楽しむ片目の、余裕ある動き。
怒りを左目に宿したまま、がむしゃらに動き続けるミセリ。
お互いが、こんな動きをするのは初めてだった。
ミセリは言わずもがな
片目ですらこういった事は初めてで、僅かな戸惑いを胸に置いていた。
普段はもっと、手早く相手を殺して臓物を引きずり出し、血を浴びる。
それは、何かを殺して血を見る事がメインだからこそ。
しかし今回ばっかりはそうはいかない。
何と言っても、どれだけこの遊びを続けて楽しめるかなのだから
すぐに殺しては意味がないし、けれどもすぐに殺さない事も難しい。
手が勝手に、ミセリの首や胸を狙おうとしてしまう。
それじゃダメだ、我慢しろ。
自分にそう言い聞かせて、胸の中に何かをたぎらせ続ける。
それは戸惑いでもあり、初めての事に対する興奮でもあった。
- 67 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:04:10.69 ID:Rpg++fh4O
片目の刃物がミセリの腕をかすめる。
チッとかすった刃物によって、ブラウスの袖が口を開く。
その下にある皮膚も薄く傷付けられて、ビリビリとした痛みが走った。
傷から熱い血が溢れるのを感じたが、ミセリはそれに気をやる余裕は無い。
少しでも片目とその刃物から目を離せば、終わってしまう。
片目の動きは非常に素早く、軽い。
それについて行く事で精一杯のミセリの胸に、焦りが生まれる。
疲れ始めた手足に気持ち、少しずつ増えて行く小さな傷達。
腕を、頬を、足を、露出した様々な場所に刻み込まれる片目の強さ。
少しずつ自分の血にまみれて行くミセリに比べて、片目は傷一つついていない。
あまりにも大きな力の差を、痛い程に実感する。
ぜぇ、とミセリが苦しそうに胸を鳴らす。
乱れた呼吸、流れる汗、溢れる血がミセリの動きを邪魔していた。
- 70 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:06:20.53 ID:Rpg++fh4O
( ゚∀メ)「アッヒャヒャ!」
_,,
ミセ#%Д゚)リ「っらぁ!」
( ゚∀メ)「ヒャヒャヒャヒャッ、アヒャッ!?」
いくらナイフを振り回しても、片目には当たらない。
ならば、とミセリがその場にしゃがみ、傷だらけの脚を勢い良く伸ばして。
がしゅ、と片目の足に引っ掛け、転ばせた。
見事にミセリの足払いを食らって、片目が横向きに倒れ込む。
その体を狙って、ミセリがしゃがんだまま腕を、伸ばした。
しかし、
ざくり。
白い脛に、痛みが走る。
- 71 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:08:07.27 ID:Rpg++fh4O
- _,,
ミセ;%Д )リ「ぎゃっ、ぁ……ぐっう……ッ!!」
( ゚∀メ)「アヒャッ♪」
ばーか。
にこにこ笑う片目の刃物が、ミセリの脛に噛み付く。
そして血を流す伸ばしたままの脚を片目が掴んで、立ち上がった。
ぐい、と持ち上げられた右足。
しゃがんでいた体勢から、地面に背中を付けて倒れる形に変わった。
ずきずきと痛む右足、高く持ち上げられたそれ。
そのままマウントポジションを取ろうとする片目を、強く睨んだ。
_,,
ミセ#%Д゚)リ「てっ……めぇ……!」
( ゚∀メ)「アヒャー?」
_,,
ミセ#%Д゚)リ「うっさい! 離せ!!」
( ゚∀メ)「アーヒャヒャッ……アギャンッ!」
- 76 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:10:10.99 ID:Rpg++fh4O
イロケのねーヤツだな。
肩をすくめて笑う片目。
何を言っているのか何となく察したミセリが、片目の頭に踵落としを叩き込んだ。
ぎゃんっと間抜けな声を上げて、片目がミセリの脚を離して頭を押さえる。
自分の脚を放り出して蹲る片目を睨み付けたまま、ミセリが足を庇って立ち上がり
痛む右足を持ち上げて、思い切り、片目の顔を蹴り上げた。
頭を押さえていた腕ごと蹴られたため、片目は受け身をとる事が出来ず
軽い体がボールの様に、ぽんと数メートルほど蹴り飛ばされる。
再び地面へと転がった片目の手から、刃物がこぼれ落ちて地面に突き刺さった。
右足から血を流し、ミセリがそれを追いかける。
しかし脛に感じる痛みが、走る時に力を入れて強く感じ
数歩進んだところで、どさりと崩れ落ちてしまった。
- 78 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:12:07.41 ID:Rpg++fh4O
もうちょっとで、片目を。
そんなところで転んだミセリは奥歯をぎりり噛み締めて、ナイフを強く握る。
ミセリに蹴られた額から血を流して、片目が苦しそうに呻く。
痛みにより力が抜けていたお陰で、そこまでひどい怪我はしなかった。
しかし人間の力で小さな頭を目一杯蹴られたのだ。
脳は揺れ、額から頭全体へと鈍くも激しい痛みが襲う。
ぐらぐらと揺れる脳に、ひどい吐き気を感じる。
それと同時に痛む、左目の古傷。
レモナや歯車王に手当てをしてもらったミセリとは違い
片目の傷は、ほとんど放置して自然に治したに等しい。
その所為で、傷の具合が良くない。
下手をすれば、化膿して中から腐りかねない傷なのだ。
それ故に、この古傷は時おり、ひどく痛む。
脳に響く鈍く重い痛みが、片目を襲っていた。
そして痛みに息を吐きながら、ゆらりと体を起こした片目の目に
同胞たるアヒャ族の姿が、ぼんやり映った。
- 80 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:14:17.66 ID:Rpg++fh4O
自分と同じように倒れたミセリ。
その側に立つのは、ネーヨ達を狙っていた赤い森の人。
近くに倒れたミセリを見逃さず、刃物を持ち上げて笑う。
ネーヨ達を殺せないなら、これを殺そうと。
それに気付かず、何とか起き上がろうとするミセリ。
ミセリの背中を狙う、同胞の刃。
ダメだ、手を出すな。
そんな言葉を吐き出すより早く、片目が俊敏な動作で立ち上がり、駆けた。
離れた場所に突き刺さる武器を取る暇は無い。
取りに行っていては、ミセリを壊されてしまう。
だから片目は、素手で同胞に掴みかかり。
ずしゅ。
- 84 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:16:51.07 ID:Rpg++fh4O
突然、片目が武器も取らずにこちらへと走って来た。
それも先程までの楽しそうな笑顔ではなく、
どこか切羽詰まった様な、怒りを抱いた様な顔で。
何事かとミセリが目を見開いて、身構えようと体に力を入れた。
しかし片目は自分の横をすり抜けて、その向こう側に駆け寄り。
すぐ近くで、肉を切る音。
(; ゚∀゚ )「ア……アヒャ……?」
(# ∀メ)「……」
(; ゚∀゚ )「ヒャ、アヒャ……」
(# ∀メ)「…………アヒャッ」
(; ∀ )「ヒャ、ア……アギャッ、グ、ェッ!」
(# ∀メ)「アヒャヒャッ……アヒャッ!」
(; ∀ )「ェ、ォグッ、……ギャッ、アギュッ!」
ころり。
転がる、赤い頭。
- 86 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:19:06.69 ID:Rpg++fh4O
ごとりと何かが落ちる音を聞いて、ミセリがはっと起き上がった。
そして片目が居るであろう、自分の少し後ろを振り返る。
(# ∀メ)「…………アヒャア」
_,,
ミセ;%−゚)リ「片、目……?」
(# ∀メ)「ヒャッ、アヒャッ! アヒャアッ!」
_,,
ミセ;%−゚)リ「片目っ、ちょっと片目っ!? 何してんのよっ!?」
(# ∀メ)「アヒャッ! アヒャッ!! アヒャヒャヒャヒャッ!!」
_,,
ミセ;%−゚)リ「ちょっ、片目っ!! あんたの相手はミセリでしょっ!?
何であんた、仲間ぐっちゃぐちゃにしてんのよ!?」
( ∀メ)「アヒャ?」
_,,
ミセ;%−゚)リ「もう死んでるじゃんかっ! やめなさいよっ!!」
( ゚∀メ)
_,,
ミセ;%−゚)リ「……な、に? 何、よ……?」
- 87 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:21:04.51 ID:Rpg++fh4O
ミセリの背中に降り下ろされた刃を、刺さる直前で片目の腕が止めた。
ミセリに刺さる筈だった刃は片目の左腕に突き刺さり、同胞が目を丸くする。
何をしてるんだとアヒャ族が片目を見上げると、そこには怒りに満ちた片目の顔。
背中にぞくりと冷たく嫌な物が走った時には、
アヒャ族の顔面に、小さな拳がめり込んでいた。
腕に同胞の刃を刺したまま、片目はその同胞に馬乗りになる。
そして拳を振り上げ、怒りをあらわにしながら同胞の顔に叩き付ける。
同胞が濁った悲鳴を上げて、手足を動かしてもがく。
しかし片目はそんな事にはお構い無しで、ただただ拳を振るっていた。
怒りに任せた重い拳が叩き付けられる度、顔が潰れて行く。
めきめき元の形を無くして行く、アヒャ族の顔。
それを遠巻きに見ていた他のアヒャ族やネーヨ達は、声も上げずに顔を青くする。
顔のパーツがいっしょくたになり、もはやただの肉塊にしか見えない。
その変形した頭を両手で掴んだ片目は、手を捻り
ぶちり、と力任せに首を引きちぎった。
折れていた首の骨と裂けた皮膚、顔と一緒に殴られていた筋肉はずたぼろで
引きちぎるのに、そんなに苦労はしなかった。
だがそれでも腹の虫がおさまらないのか、
もはや物でしかない同胞の頭や体を殴って、蹴って、踏みつけて、徹底的に壊す。
- 90 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:23:10.02 ID:Rpg++fh4O
そんな片目の姿に、ミセリは戸惑いを隠せず声を荒くした。
てっきり自分を襲うのだろうと思ったら、
その後ろに居た仲間を殴り殺して居たのだから無理はない。
しかもその赤くて細い人形の様な腕に刺さった刃物を、ぶら下げたまま。
そんな片目の姿にミセリが驚かない道理が無く、半ば心配そうな顔をしてしまう。
狼狽えるミセリの姿と言葉に、怒りに歪んでいた片目の表情が和らぐ。
そしていつも通り、笑顔になって。
( ゚∀メ)「アヒャー! アヒャヒャッ!」
_,,
ミセ;%−゚)リ「は……は? 何? 何よ、いきなり」
( ゚∀メ)「アッヒャ!」
_,,
ミセ;%−゚)リ「へ? へ? ちょ、片目? あんた、何して、?」
- 92 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:25:12.49 ID:Rpg++fh4O
どこか嬉しそうに、足元に広がる死体を蹴散らしながら片目が飛び跳ねる。
それに合わせて揺れる、腕に刺さりっぱなしの刃物。
向こう側に貫通したそれに視線をやり、刃物の柄を握る。
そしてそのまま、自分の左腕を切り落とした。
少しだけ顔を歪めたが、片目はすぐに笑顔でミセリを見る。
切り離した左腕を掴んで、ずいとミセリに差し出した。
_,,
ミセ;%−゚)リ「…………は?」
( ゚∀メ)「アヒャ!」
_,,
ミセ;%−゚)リ「……いや、いらない、よ?」
( ゚∀メ)「……アヒャー?」
_,,
ミセ;%−゚)リ「や……いらないでしょ、普通……」
( ゚∀メ)「ヒャアー……ヒャッ!」
_,,
ミセ;%Д )リ「あでっ!」
( ゚∀メ)「アッヒャッヒャッ!」
- 94 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:27:33.00 ID:Rpg++fh4O
物と化した左腕でミセリの頭を叩き、楽しげにはしゃぐ片目。
わけが分からんといった顔で、ミセリが眉を寄せて頭を押さえる。
緊迫している様な、和やかな様な奇妙な空気。
お互いが傷を負い、血を流して痛みを感じている。
それなのに、何故か二人は平然と会話? をしていて。
先程まで青い顔をしていたネーヨ達も、呆れた顔をせざるをえない。
_,,
ミセ;%−゚)リ「……わっけわからん……」
( ゚∀メ)「ヒャー!」
_,,
ミセ;%−゚)リ「いって! 腕で叩くな! ぐろい!」
( ゚∀メ)「ヒャヒャー!」
_,,
ミセ;%−゚)リ「だっからもう! 何なのよあんたは!?」
( ゚∀メ)「ヒャン?」
_,,
ミセ;%−゚)リ「かわいこぶるな!」
- 96 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:29:11.84 ID:Rpg++fh4O
ひとしきり自分の腕で遊んでから、ぽいと腕を投げ捨ててミセリから離れる。
地面に刺さった刃物を取りに戻る片目。
ミセリが捨てられた片目の左腕を拾い、その背中目掛けて投げ付けた。
べしん、と微妙な音を立てて背中の上に命中した腕が数回バウンドして、転がる。
前のめりになった片目が恨めしそうな顔でミセリを振り返り、頬を膨らませる。
お互いがお互いに「変な奴だ」と小さく呟いて、再び武器を片手に構えた。
( ゚∀メ)「……アッヒャ!」
_,,
ミセ;%−゚)リ「……マジメにやろっか、そろそろ」
( ゚∀メ)「アヒャヒャ!」
_,,
ミセ;%−゚)リ「聞いてないなこいつ……」
( ゚∀メ)「ヒャーン?」
_,,
ミセ;%−゚)リ「ひゃーんじゃないっての……アホか」
(# ゚∀メ)「ヒャッ!」
_,,
ミセ;%−゚)リ「……今ムカつくこと言った?」
- 100 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:31:04.07 ID:Rpg++fh4O
何故か出来ている、意思の疎通。
言葉のない会話を成り立たせながら、ミセリと片目が対峙する。
傷痕だらけの隻眼ミセリに、隻腕隻眼の片目アヒャ。
端から見れば、とんでもない姿の二人。
しかし二人にとって、そんな事はどうでも良かった。
ノーネを傷つけられた事に対する怒りが消えたわけではないが、
残されたミセリの左目は、どこか純粋に片目との戦いを望んでいる様に見えた。
仲間を殺してまで、ミセリとの遊びを求める片目。
その意味とプライドを尊重する様に、
ミセリは静かに、小さなナイフを逆手に握った。
向こうは遊びのつもりかも知れないが、
だからと言って、軽い気持ちで相手をしてはいけない。
片目が本気で、自分の全てを賭けてミセリに向かってきている。
ならば、それに本気を返さなければいけない。
逃げるだの見逃すだの、そんな下らない事を考えてはいけない。
- 105 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:33:04.91 ID:Rpg++fh4O
だったら、そう。
自分も、全部賭けて、向かわなきゃいけない。
残った左目も、腕も足もこの命も。
片目と同じ様に、全部賭けなくちゃいけない。
片目はミセリをバカにはしているが、悪意があるわけじゃあない。
ただ心から、対等に遊んで、戦って、殺し合いたいのだ。
その理由はミセリにはよく分からない。
けれど、自分が奪ったあの右目。
あの強さを持ちながら、弱いミセリとの戦いを求める気持ち。
邪険に扱ってはいけない。
真っ向から、本気で受け止めなければ片目に失礼だ。
何かを悟ったのか、ミセリの目が落ち着く。
そして、やっと片目と同じ舞台へと上がった。
- 107 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:35:06.07 ID:Rpg++fh4O
- _,,
ミセ %−゚)リ「……行くよ、片目」
( ゚∀メ)「……アヒャ!」
その短いやり取りを皮切りに、二人だけの戦いが再開された。
途中で邪魔が入ったが、仕切り直された戦いに
二人は血を撒き散らしながら、互いの武器を操り駆け回る。
片目が刃を振るえば、ミセリはそれを肌で受け止めてやり返す。
ミセリが刃を振るえば、片目はその身で受け止めてやり返す。
動けば動くほど増えて行く傷が、二人の体を埋める。
小さな傷も大きな傷も関係ない。
動けるならば、相手の手足胴体顔に向かってひたすら刃物を噛み付かせる。
致命傷にはならない傷。
確実に増えるそれに顔を歪める事もせず、地を蹴った。
飛び散る二人の血、響き渡る金属の触れ合う音。
驚くほどに体が軽い、普段は出来ない動きが出来る。
ああ、楽しい。
- 109 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:37:09.83 ID:Rpg++fh4O
自然と、笑みが浮かぶ。
生傷だらけの血まみれなのに、楽しくてしょうがない。
命を賭けた殺し合いが楽しい。
それはミセリが相手であり、片目が相手だからこそ。
他の誰かでは、こんなに楽しくはならない。
ミセリは誰かを殺す時に心を痛めるし、片目はただの一方的な娯楽でしかない。
けれどこれは、対等。
同じ場所で、同じ気持ちで、同じ物を求めている。
それは相手、もしくは自分の死を意味するのだが。
今は、胸が痛まない。
楽しい、楽しい、ただひたすらに楽しい。
歪んだ快楽だと分かっていても、この胸の高鳴りは抑えられない。
気持ち良くて楽しくて、どうしようもないほどに楽しいのだ。
二人は心の深い深い場所で、互いを良い好敵手てして見て、認めていた。
だからこそ、あらゆる同じが、たまらない。
たまらない、たまらないのだ。
- 111 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:39:04.79 ID:Rpg++fh4O
転げ回る様に、はしゃぎ回る様に、遊びに夢中になった。
ミセリの額や頬に、血の混じった汗が流れる。
額からこぼれ落ちた汗が目に入り、眉を寄せた。
目が鬱陶しく痛み、うざったそうに目元を手の甲で拭った。
その瞬間
( ゚∀メ)「アッヒャヒャ!」
_,,
ミセ;%Д )リ「あっ! ぎゃ、ぁうっ!!」
( ゚∀メ)「ヒャヒャヒャ!!」
_,,
ミセ;%Д )リ「い、っぎ……ぐ、ッ!!」
他の事に気をとられたミセリの脇腹が、ざくり、口を開いた。
- 114 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:42:13.93 ID:Rpg++fh4O
- ぶしゅ、と切り裂かれた脇腹から血が噴き出す。
左手でそれを押さえ、ミセリがぐらりと揺れた。
その傾いた腕へ、頬へ、脚へ肩へ胸へ。
片目の刃が食らい付き、赤い跡を残す。
びりびり、鋭い痛みが全身にまとわりつく。
隙を見せるからだと笑う片目を見上げて、ミセリも脂汗を流して笑った。
脇腹からの痛みは強く、膝にうまく力が入らない。
それでもにやりと、片目と同じ様に歪んで笑った。
まだまだ、これからだ。
楽しみながら死ぬまで続ける、それだけがこの遊びの、暗黙のルール。
真っ赤になった手のひらをボロボロのスカートで乱暴に拭い、
先程までと変わらぬ動きで、ミセリが駆けた。
まだまだ殺し合おうぜ、──。
- 116 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:44:12.64 ID:Rpg++fh4O
お返しにと片目の肩へ抉り込まれるナイフ。
一瞬だけよろめいて、すぐに笑顔に戻って凪ぐ。
互いに刻まれる傷が、少しずつ深くなる。
呼吸は荒くて汗だくで、血まみれの怪我まみれ。
そんな二人は、もう力加減が出来なくなっていた。
興奮状態で痛みは大して感じない。
しかし体の方は正直に、「そろそろ限界だ」と告げている。
限界が近付く肉体、どれだけ気力があろうとも
体が壊れてしまえば、もう動けなくなってしまう。
大きく口を開く、脇腹や肩の傷。
それと変わらぬ大きさの傷が、増えて行く。
ああ、もうすぐ終わりだね。
ああ、もっと続けばいいのにな。
ああ、どうしてヒトはこんなに脆いんだろうね。
ああ、名残惜しい、名残惜しいな、寂しいな。
最後のサイゴまで、刻み付けようね。
- 118 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:46:06.15 ID:Rpg++fh4O
視線だけの会話。
ろくに動かない手足。
駆け回っていたミセリのナイフを片目の刃が弾き飛ばし、
最後の力を振り絞って、ミセリを押し倒し、その肩を地面に押し付ける。
背中から倒れ込んだミセリが、疲れた目で片目を見上げた。
疲れたね。
ああ。
短い視線の会話。
ミセ %ー )リ「……」
( ∀メ)「……」
ミセ %ー )リ「…………片目、……楽しかった、ね」
( ∀メ)「…………アヒャッ」
- 120 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:48:06.65 ID:Rpg++fh4O
片目に馬乗りにされながら、ミセリは手足を投げ出して転がっている。
その手には、ナイフは握られていなかった。
ついに終わりかと感慨深げに俯く片目。
もう周りには仲間は居らず、疲れきったノーネ達が二人を見つめるだけ。
はらはらして二人を見ていた、何度も止めようとしたけれど
邪魔なんか出来る空気ではなくて、静かに見守るだけにした。
最終的にミセリか片目が死ぬだろうと分かっていた。
だから本当は止めたかったけれど、そんな無粋な事は出来なくて。
片目が、傷だらけの右手に握られた刃を掲げる。
ミセリのナイフと何度もぶつかった事で、ひどく刃こぼれしているそれ。
ゆっくりと頭上高く掲げてから、ミセリの胸を狙って、
どさり。
片目の体が、くたりと倒れた。
- 122 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:50:11.43 ID:Rpg++fh4O
ミセ;%−゚)リ「……かた、め……?」
(; ∀メ)「ア……ヒャ」
ミセ;%−゚)リ「どした、の? ね、片目……ッ!?」
ミセリの胸へと倒れ込んだ片目が、その上から地面へずり落ちる。
その小さな背中に刺さる物が、ミセリの視界に入った。
さっき片目に弾かれた、小振りのナイフ。
森に来てすぐ、村長のモナーから貰ったあのナイフ。
あの時と同じ様に、弾き飛ばされたナイフが片目を襲ったのだ。
ナイフは赤い小さな背中から不恰好に生えていて、その下から血を流している。
さっと顔色を無くしたミセリが身を起こし、力なく横たわる片目を抱き起こした。
ミセ;%−゚)リ「片目、片目ッ!?」
(; ∀メ)「ヒャ……ア」
ミセ;%−゚)リ「ちょっと、ねぇ! 何、な、ぁっ……何よ、こんな、死に方なのッ!?」
- 124 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:52:12.98 ID:Rpg++fh4O
ぐったりして動かない片目の背中から、ナイフを引き抜く。
ぶしゅりと溢れた血に、慌てて傷を手で押さえた。
指の隙間からぼたぼた流れる血の熱に、熱くなっていた頭の中が冷える。
間近に迫った死に、改めて恐怖を抱いた。
おろおろと狼狽えるミセリが、片目の頬を叩いて、名前を呼ぶ。
けれど片目は返事もせず、静かにぼやけた目を揺らしている。
どうすれば良いか分からなくて、ミセリの目に涙が浮かぶ。
異変に気付いたノーネ達が慌てて二人の元に駆け寄り、
覗き込んで、ひどく悲しそうな顔をした。
ミセ;%−゚)リ「ねぇ片目ッ! 片目ったら!」
( ∀メ)「ア……ヒャ…………」
<ヽ`Д´>「……ミセリ、」
ミセ;%−゚)リ「あ、に、ニダー! どうしよう、どうしようっ!」
- 129 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:54:06.92 ID:Rpg++fh4O
小さなナイフだから、そこまでひどい傷ではない筈だとミセリは思っていた。
しかしそれは、相手が人間だった場合。
ミセリよりも小さく脆い森の人には、
その小振りのナイフによる傷ですら致命傷になると言う事が、頭から抜けていて。
片目の傷を見たニダーが、苦々しい顔をした。
背中の傷は思いの外深く、骨の隙間を縫って内臓まで傷付けていた。
出血もひどく、内臓をやられている。
しかも傷は一つだけではなく、ここまで深くはないが全身に傷を負っているのだ。
流れ出た血の量も、もう限界だ。
助けられは、しない。
自分たちは医者じゃない。
医者だとしても、この状態から助けられる確率なんて、果てしなく低い。
ニダーが真面目な顔で、低くミセリを呼ぶ。
けれど狼狽え混乱したミセリは、泣きそうな顔と声でニダーを見るばかり。
そんな、現実を伝えにくい顔をしないで。
- 130 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:56:09.08 ID:Rpg++fh4O
困って言葉を無くしたニダーに気付いたのか、片目がそっと口を開いた。
小刻みに震える手が、熱を無くしてゆく。
( ∀メ)「アヒャ……ァ……」
<ヽ`Д´>「……ニダ」
悪いな。
そう囁く様に、ニダーへ言葉を投げ掛ける。
ああ、告げなくちゃいけないんだ。
これが現実なんだと、告げるのは自分の役目なのか。
だって、片目が自分に、言ったのだから。
ニダーが、神妙な顔でミセリに向き合った。
相変わらず泣きそうな顔をするミセリに、胸が痛む。
- 134 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 22:58:08.80 ID:Rpg++fh4O
<ヽ`Д´>「…………ミセリ……」
ミセ;%−゚)リ「ニダーっ! ねぇ、ねぇ手当てしたげてっ!?」
<ヽ`Д´>「…………もう、無駄ニダ……手当てしても、もう助からないニダ」
ミセ;%−゚)リ「そっ……な! 片目死んじゃうよ、っ!!」
( ∀メ)「ア、ヒャ……」
ミセ;%−゚)リ「な、にっ? 何よ片目、動いたら駄目だって!」
ニダーの言葉に頭を横に振り、何とか片目を助けようとするミセリ。
ついさっきまで殺し合いを楽しみ、それを求めていたにも拘わらず
実際に死に近付く姿を目の当たりにすれば、背中が痛く冷たくなってしまう。
そんなミセリを見上げる片目が、そっと右手を持ち上げ
血の伝う汚れたミセリの頬に、指を当てた。
わらえ。
- 136 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 23:00:09.20 ID:Rpg++fh4O
声を出さずに、口の動きだけで片目が言った。
弱々しい力で押し上げられた、ミセリの頬。
その意味と言葉に、ミセリは奥歯を噛み締める。
ミセ;%ー )リ「は……ぁ、は……あははっ……」
( ∀メ)「ヒャ……アヒャ」
ミセ;%ヮ )リ「あはっ、あは、ははっ…………ね、ぇ……これで、良いの……?」
( ∀メ)「アヒャー……」
ぐ、と溢れかけた涙を飲み込んで、ミセリは笑った。
そう、そうだ、強がらなきゃ。
強がって、強がって、いつか、ホントに強くなるから。
だから、だから、笑って、
笑えない、よ、こんなの。
楽しく、ない、よ。
- 140 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 23:02:05.82 ID:Rpg++fh4O
ミセ;%ヮ )リ「あは……ははっ、あはっ……」
_,
ミセ;%ヮ )リ「はっ……ぁ、あは……」
_,,
ミセ;%д )リ「ぁ、あ゙……あぁぁ……っ」
_,,
ミセ;%Д;)リ「うぁっ、あ、っ……あーっ……あぁーっ……!
うぁあぁぁぁあっ!! うわあぁあぁぁあぁああああああんっ!!」
この涙が、押さえきれる筈がなくて。
こんな気持ちで、笑える筈がなくて。
ミセリが、子供の顔をして泣き叫んだ。
しなないでしなないで
子供のワガママを撒き散らして、
全部吐き出す様に、ひたすらに泣き叫んだ。
でも、もうそのワガママ、きいてやりたいけど、無理なんだよ。
困った様に、片目は笑った。
- 144 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 23:04:09.27 ID:Rpg++fh4O
自分はもう生きられないコトくらい、分かっている。
大体このニンゲンは、自分も傷だらけで何を言うんだ。
ああ、おかしい。
笑ってしまう、笑ってしまうさ。
おかしなニンゲンのコムスメだ。
ジブンで傷付けて、死ぬコト分かってたのに、それでも。
ああ、こんなにおかしいと、笑いが止まらないじゃないか。
( ∀メ)「アヒャッ……ヒャ……ヒャヒャッ……」
_,,
ミセ;%Д;)リ「笑っ……う、な……笑うなって、のよ……っのバカ!
ばかぁっ! 死んじゃうでしょおっ!?」
( ∀メ)「……ヒャ……ヒャヒャヒャッ……」
いつの間にか、コイツがただのエモノじゃなくなった。
サイショはエモノで、次は目を奪ったヤツ。
それでさっきまではオモチャ、だったんだ、
- 147 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 23:06:04.15 ID:Rpg++fh4O
じゃあいったい、今のコイツは何なのか。
そりゃ、アレだ、ほら、アレだ、バカだよ、バカ。
バカで、オモチャで、エモノで、ええと、
ええと、
_,,
ミセ;%Д;)リ「片目ぇっ! 片目ってばぁ!
死ぬなバカ、このバカっ!! バカぁあっ!!」
( ´−`)「止めろヨ……もう、放っといてやれヨ」
_,,
ミセ;%Д;)リ「やだよバカぁっ! ほっといたら見殺しになるっ!!
死ぬな片目、片目っ! もうっ、血ぃ止まんないよぉっ!!」
ええと、ええと、
ああもう、
バカにバカって言われちゃ、笑えて考えられないだろ。
ええと────ええ、と────
- 149 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 23:08:05.16 ID:Rpg++fh4O
- _,,
ミセ;%Д;)リ「片目……片目っ!? ちょっと片目っ! 返事しろこらバカぁっ!!」
( ∀メ)
_,,
ミセ;%Д;)リ「ねぇ片目、片目ったら!! ミセリまだあんたに謝ってない!!
謝られてもない!! ねぇ片目!! 死んじゃダメってばぁっ!!!!」
ああもう、うるさいヤツだな。
こんなにうるさいと、ろくに考えるコトも出来やしない。
面白い、ニンゲンだなぁ。
もっと違うカタチで会ってたら
会ってたら、
ムダだな
どんなカタチで会っても、きっと、こうなった。
それだけ相性がよかったんだ、コイツと俺は。
だから、コイツとはさっきまで楽しくて、殺しあえて、
そういや、俺、こんなにボロボロ初めてだ。
強いんだな、オマエ。
- 151 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 23:10:11.67 ID:Rpg++fh4O
そうだ、これ、やろう
この刃物、オマエにやるよ
オマエ強いから、使えるよ、俺の。
あれ、おかしいな、声が出ない。
おかしいな、おかしいな、
いろんなコト、謝ろうかとも思ったんだけどな、
おかしいな、
ああ泣いてるよこいつ、顔ぐしゃぐしゃで
これやるから、泣くなよ、笑えよ、ほら。
なあ、なあ、オマエ、俺の、なあ
おかしいな、おかしいな、おかしいな、
おかしい、な、
アヒャヒャ──────
- 156 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 23:12:04.73 ID:Rpg++fh4O
ミセリの頬に触れていた手が、ミセリが握っていた小さな手が
するり、と力を無くして滑り落ちる。
ぱたん。
軽い音をさせて、小さく赤い手が地面に横たわる。
もう動かず、温かくなる事もない手。
最後に地面へ突き刺さった自分の刃物に、ゆるりと視線をやってから
片目は穏やかな笑顔で、呼吸を止めた。
もう聞こえない鼓動、もう聞けない笑い声。
あんなに怖くて嫌でどうしようもなかった筈なのに
どちらかが死ぬと分かっていて、それを求めて殺し合っていたと言うのに、
どうして、胸がこうも痛い。
どうして、この涙は止まらない。
どうしてこんな、友達を、いや、
もっと近くて、大事な何かを失った様な気持ちに、なるのだろう。
わたしにとって、君は、何だったのだろう。
- 158 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 23:14:08.40 ID:Rpg++fh4O
( ∀メ)
_,,
ミセ %−;)リ「…………片、目……」
( メAヽ)「ミセリ…………埋めて、やるノーネ」
_,,
ミセ %−;)リ「……うん…………」
( ∵)
( ´−`)「……泣いちゃいけないなんてコト、ねーんだヨ……ミセリ」
_,,
ミセ %−;)リ「う、ん……うん……っ」
<ヽ`Д´>「ミセリ……先に、傷の手当てしなきゃ、ニダ」
_,,
ミセ %−;)リ「…………ん……」
あんなの、勝ったなんて言えない。
あんなの殺したなんて言えない。
あんなの、やだ。
- 163 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 23:16:48.57 ID:Rpg++fh4O
ミセリが負った傷は、致命傷は無いものの、相当深く多い。
一番ひどい脇腹の傷を消毒し、レモナのレシピ通りに作った薬を塗る。
出来るだけ綺麗な布を当ててから、マントを裂いて作った包帯を巻き付けた。
腕にも、足にも、同じ様に包帯を巻く。
小さな傷は、綺麗にしてから薬を塗るだけ。
ひどく痛々しいミセリの姿に、ノーネ達は閉口する。
今のミセリの気持ちは、誰にも、本当に誰にも理解できない。
この場に居る全員が、ああいった殺し合いなど経験した事がない。
そして、ミセリと片目の様な、複雑な様で簡単な関係の相手もいない。
埋葬を終え、いくつもある墓の中
ひときわ大きく、多い花を供えられた墓。
その前に座るミセリの背中が、悲しくてしょうがなかった。
- 165 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/06/14(日) 23:18:15.76 ID:Rpg++fh4O
傷だらけの背中にかける言葉が見付からなかったから、
ノーネはそっと、その背中にしがみついた。
同じ様にビコーズも腕にしがみつき、反対側にニダーが座り、寄り添う。
ミセリの後ろにネーヨがのっそりと座って、
首を伸ばし、ミセリの頭に頬を擦り付けた。
言葉をかけられないなら、温もりだけでも与えたい。
言葉もなく静かに涙を流すミセリは、その暖かさに奥歯を噛み締める。
生きるよ、片目の分も。
どんな目にあったって、しぶとく生きてやる。
あんたの命、ちゃんと、受け取ったから。
どこか遠くで、笑って。
ミセリも笑う、いっぱい笑うから。
だから、笑っててよ
やっぱりオマエは弱いな、バカだなって。
八話 後編、おわり。
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