('A`)と歯車の都のようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/08(木) 23:21:37.26 ID:PBInia2r0
水平線会の経営する病院、"ナイチンゲール"の一日が始まるのは夜明けと同時だ。
一日の始まりは、やはり夜が明けてからでなければいけない。
そういった偏屈なこだわりは、看護婦長である、ちんぽっぽ・ボーイングの物だった。
一部のコックなどの従業員を残し、看護婦全員が軍隊のような動きで院内を巡回する様は壮観だ。

そして、"彼ら"が動き出したのも夜明けと同時だった。
仮面の下に冷たい笑みを浮かべ、彼らは完全に統一された動きで計画を実行に移す。
ナイチンゲールの屋上は、入院患者達が入院中に気を紛らわせるように大きく開けている。
その屋上の至る所から、十の影が立ち上がった。

影の正体は、黒い布を頭から被り、仮面を顔に付ける屈強な体つきの男たちだ。
各々が手にしている得物は、FA-MASだ。
装弾数は三十発だが、室内戦においてはアサルトライフルでありながら拳銃と同じだけの力を発することができる。
ブルパップ式のアサルトライフルの利点は、反動を押さえ、尚且つ銃身を縮める事によって近接戦闘が可能な点だ。

男たちが手にしているFA-MASには、レーザーサイトとダットサイトが付いている。
その二つの装備は、狙いをより確実なものにするものだ。
得物が違う三人を残して、全員が院内へと続くドアへと音もなく近付く。
ドアノブを撫でただけで、電子制御された錠が呆気なく解除される。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/08(木) 23:25:02.22 ID:PBInia2r0
全員が中へ入ったのを確認し、三人の内の一人がドアを閉める。
残された三人の獲物は、G3SG狙撃銃だった。
光学照準器と、改造された銃床を備えたそれは、元はG3アサルトライフルが元になっている。
生産ラインから優れた物だけを引き抜き、特別な改造が施されているのだ。

(2∴)「αリーダー、フォローデータリンクニダ」

一方、院内へと侵入した先頭の男が階段の途中で止まって小さく呟く。
仮面についた三つの眼が青く光り、仮面に青い線が走る。
それが後続の全員にも同時に現れ、次の瞬間には全員が何事もなかったかのように走り出した。
不思議な事に、巨躯にもかかわらずその足音は小鳥のさえずり程度にも満たない。

屋上で影が動き出したのと同時に、病院の地下で影が蠢いた。
下水道の中から起き上った彼らには、水滴の一つも付いていない。
ただその仮面には、三つの青白い光点が揺らめいているだけだ。
姿格好は屋上の男たちと同じだが、その数は二十を越えている。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/08(木) 23:29:38.72 ID:PBInia2r0
彼らが手にしている得物は、STEYR(ステアー) AUGだ。
ブルパップ式のアサルトライフルながらも、比較的遠距離の敵へ狙撃が可能なのが特徴だ。
無論、ブルパップであることを生かした接近戦も得意としている。
薬莢の排出口が変更でき、利き手を選ばないのが最大の特徴である。

フォアグリップが付いているため、安定した銃撃が可能なそれには、ドラム式のマガジンが付けられていた。
本来ならあり得ない改造なのだが、更には銃剣まで付いている。
男たちは互いの死角を補い合いながら、ゆっくりと進む。

(3∴)「フェイクリーダー、フォローデータリンク」

先頭を歩いていた男が小さく呟き、男たちが静止した。
三つの光点が、青から赤に変わる。
仮面に走った光は、同じく赤だ。
そのまま下水道の闇に同化し、ついに彼らは肉眼では視認できなくなった。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/08(木) 23:34:00.53 ID:PBInia2r0
下水道の影が蠢いたのと同時に、路地裏の影が立ち上がった。
まるで白昼夢でも見ているかのようなその光景は、奇妙としか言いようがない。
ゴミ箱の影から、建物の影から、人の影から次々と新たな影が立ち上がる。
やがてその数は徐々に増えてゆき、五十近くにまで膨れ上がった。

三つの赤い光点が不気味に輝きを増し、一人の男が裏口のドアを取り外した。
人間離れした力で引きちぎられたドアを捨て、彼らは足音もなく院内へと侵入する。
滑るように移動し、彼らはあっという間に病棟の廊下に現れた。

(4∴)「γリーダー、フォローデータリンクアル」

その呟きに呼応して、院内にいる全ての仮面の光点が鮮やかな青へと変わった。

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9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/08(木) 23:37:15.17 ID:PBInia2r0
その日、ちんぽっぽは朝から一人だけ別行動で病院内の見回りをしていた。
嫌な予感と共に目が覚めた為、ちんぽっぽはいつもより神経を尖らせている。
袖口に隠したデリンジャーをいつでも抜き放てるようにして、周囲に目を走らせる。
相変わらず、清掃員が掃除しているおかげで院内の壁は汚れ一つない。

だが、異質な気配というのか。
手練でしか感じ取れないその気配は、白い壁を伝ってひっそりと院内を汚している。
ちんぽっぽの勘だが、気配の正体である侵入者の数は五十以上はいるだろう。
それもかなりの手練、ちんぽっぽと同じかそれ以上の実力の持ち主だ。

ちんぽっぽのデリンジャーは、独自の改造が施されている。
装弾数は二発、銃身の下に取り付けたナイフはデリンジャーを持ちながらもナイフ戦闘を可能にした。
それだけでなく、デリンジャーごと投擲すれば手投げナイフにもなる。
装填されている弾は、ダムダム弾だ。

ダムダム弾は既存の弾の中でも、強力な弾として名を馳せている。
弾頭に十字の切り込みがあり、標的の内部で弾が四つに分裂する。
それにより、着弾した個所の肉は無残にも抉り取られるのだ。
条令で使用禁止令が出ている程強力なのだが、ちんぽっぽは構わず使用していた。

それが幸いした。
完全に無意識の内に取り出したデリンジャーの銃口を、横に向けて連続で撃ち放つ。
音もなく出現した仮面の男の胸部に着弾したダムダム弾は、ちんぽっぽの命を救った。
もし、一秒でもそれが遅れていたら、ちんぽっぽは男の手にした大型のナイフで首を刈り取られていただろう。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/08(木) 23:38:56.21 ID:PBInia2r0
吹き飛ばされた男が壁に叩きつけられた時には、ちんぽっぽは素早くその場から退避している。
男が飛ばされる直前に投擲されたナイフによって、ちんぽっぽは腕を負傷していた。
掠り傷程度ではあるが、左腕は使い物にならなくなっている。
よほど正確に投擲されたのだろう、左腕の腱が切られているのだ。

どうにか無事な手で取り出したデリンジャーを握りしめ、ちんぽっぽは走り出した。
目的地は、現在この院内の最重要人物のいる部屋。
―――ギコのいる部屋だ。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/08(木) 23:40:53.70 ID:PBInia2r0
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('A`)と歯車の都のようです
第二部【都激震編】
第七話『パンドラの箱』

七話イメージ曲『カオスダイバー』The Back Horn

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13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/08(木) 23:43:37.49 ID:PBInia2r0
ギコは耳に届いた銃声で目が覚めた。
七階にあるこの病室にまで届くともなると、ただの銃弾ではない。
そして、院内でただの銃弾を使う者にギコは心当たりがあった。
婦長のちんぽっぽしかいない。

院内で発砲するということは、何か善からぬことが起きているということだ。
ちんぽっぽの実力は、でぃが見込んだだけあって相当なものである。
トランプ一枚で人を殺すなど造作もなく、素手だとしても並のボクサーなど一捻りだ。
そのちんぽっぽが、発砲ともなると穏やかではない。

枕の下に隠しておいたM8000クーガーを取り出し、遊底を引いて撃鉄を起こす。
兄であるトラギコが見舞いの品としてよこしたそれは、小型ながらも優秀な拳銃だ。
ロータリーコッキングシステムの採用により、反動を押さえて連射時の精度が高くなっている。
ベレッタファンの顰蹙を買ったデザインではあるが、その性能は折紙つきだ。

布団の中でそれを隠し持ち、ギコは寝たふりをすることにした。
やがて、近づいてくる足音。
足音の感覚からするに、どうやら走っているのは間違いない。

(,,゚Д゚)(…? ヒールの音、ちんぽっぽさんか?)

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/08(木) 23:48:30.70 ID:PBInia2r0
ギコが予想したとおり、病室のドアを開け放ったのは肩で息をして、腕を赤に染めるちんぽっぽだ。
思わず起き上がり、ちんぽっぽに何事かと尋ねようとする。
それより早く、珍しく切羽詰まった表情を浮かべながら、ちんぽっぽはギコの枕元へと駆け寄る。

(;'ω' )「まずいっぽ! 変な連中が来t―――」

一瞬、ギコは何故ちんぽっぽが言葉を止めたのか理解できなかった。
だが、ちんぽっぽの背後に不気味な影を見咎めた時にはその理由が理解できた。

(3∴)

サプレッサーを取りつけたステアーの銃口が、ちんぽっぽの後頭部に突き付けられている。
それだけではなく、ギコが一つ瞬きをした時には病室中の影から何かが生えていた。
数にして、三十は越えているだろう。
全員に共通しているのは黒装束に白い仮面を付けていることだ。

三つの光点を見るに、それが目の役割を果たしている事はそれとなく理解できる。
各々が手にしている銃は、室内戦で効果を発揮するブルパップ方式のアサルトライフルで統一されている。
FA-MAS、ステアー、リーダー格らしき男たちは共通してTAVORを持っている。
仮面に描かれている番号が一桁の男たちに共通しているのは、それだけではない。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/08(木) 23:51:44.45 ID:PBInia2r0
他の桁の男たちは機械的な動きにもかかわらず、一桁の男たちはどこか人間味がある動きをしている。
あまつさえ、仮面の下から笑い声さえ聞こえてくる。
そして、その笑い声を上げる男の声に、ギコは聞き覚えがあった。
自分をここに入院させた男、あの金髪のチンピラだ。

(6∴)「ククク… いい気味だな」

仮面からはみ出した金髪は、紛れもなくあのチンピラのものだった。
手にしたTAVORをわざとらしく構え直し、男は仮面を取った。

(*゚∀゚)「よお、久しぶりだな。 ウンコ野郎」

仮面の下から現れた男、つーの笑みは邪悪そのものだった。
悪魔が笑みを浮かべれば、間違いなくこの笑みのはずだ。
男が生きていることに目を奪われ、ギコは布団の中のクーガーの存在を忘れてしまっている。
だからだろう、つーが自然な動作で構えたTAVORの銃口がその手へと向いても反応できなかった。

幸いにも、ギコが握っていたクーガーは体の横に置いてあったため、ギコの体を傷つけることはなかった。
TAVORから放たれた弾丸が、正確にクーガーの銃身だけを撃ち抜いた時にようやくギコは正気に戻った。
エジェクションポートから空薬莢が排筴され、床を叩く。
その音を他人事のように傍聴し、ギコはつーを睨みつけた。

(,,゚Д゚)「なんで…生きてるんだ?」

その問いに、つーは相変わらず邪悪な笑みを浮かべるだけだ。
再び仮面を付け、つーは懐から無線機を取り出した。
それをギコに放って渡し、短く告げた。

(6∴)「さぁ、お前の飼い主に連絡しろ」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/08(木) 23:53:18.77 ID:PBInia2r0
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デレデレは常日頃から酒を呑んでいる。
アルコール中毒という訳ではないが、朝から晩まで呑んでいた。
主にデレデレが呑むのはリキュールで、オリジナルブレンドのリキュールを作るほどの愛飲者でもある。
その日も、デレデレはでぃと一緒に酒を呑んでいた。

ちなみに、でぃが愛飲するのもリキュール(デレデレと呑む)だ。
完全に酒がまわっているデレデレをソファーの上で抱きよせ、でぃはコーヒーリキュールを呷る。
ふと、デレデレの部屋にある備え付けの電話が電子音を奏でた。
不機嫌かつ面倒くさげに手を伸ばし、デレデレは受話器を取った。

(,,゚Д゚)】『ギコです。 今よろしいですか?』

ギコの声を聞いた途端、デレデレは目をスッと細めた。
その冷ややかな顔には、先ほどまで酒を飲んでいたことを微塵も感じさせないほど鋭利に研ぎ澄まされている。
声だけはいつも通りを装い、デレデレはでぃに目配せをする。
でぃから離れ、デレデレはソファーから起き上った。

【(゚ー゚*ζ『どうしたの? こんな朝早くから』

白いスーツの胸元のボタンを外しながら、デレデレは慎重に言葉を紡いでいく。
もし、こちらの考えが電話の向こうに伝わってしまえば元も子もない。
しかしながら平静を装いながらも、緊張感を完全に制御しきれない。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/08(木) 23:55:46.25 ID:PBInia2r0
(,,゚Д゚)】『そろそろ姉御の顔が見たくなりまして。 今日、見舞いに来てはくれませんかね?』

【(゚ー゚*ζ『そうねぇ… 今日は珍しく忙しいから明日にでも行くわ。
      何か持って行くけど、何がいいかしら? とっておきのサクランボのリキュールとか?』

(,,゚Д゚)】『…キルシュですね?』

それを決定打にして、デレデレがでぃに手でサインを送った。

【(゚ー゚*ζ『分かったわ。 また、明日』

そう言って受話器を置き、デレデレは机の上に置かれていた電話を殴り付けた。

ζ(゚ー゚#ζ「やってくれるじゃない…」

クールノーファミリーにおけるサクランボのリキュールは、正確にいえばキルシュではない。
独自のブレンドによって、サクランボの風味を残してはいるが実質はフランボワーズだ。
フランボワーズは木イチゴのリキュールで、本来はサクランボとは無縁の酒である。
しかし、クールノーファミリーにおいてはその常識は適応されない。

その事を知っているのは、デレデレかツンから酌をしてもらった者だけだ。
ギコもその内の一人で、先ほどの電話は以前にペニサスが掛けたのと同様の、暗号を含ませた電話だった。
事前にデレデレから指示がなければ、これほど自然に現状を告げられなかっただろう。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:00:18.79 ID:smw1RENx0
先に自分の名前を名乗るのは、緊急事態を告げるもの。
そして、ギコが姉と呼ぶのはペニサスだけであるため、デレデレを"姉御"と呼んだのはその緊急性の高さを意味している。
この場合の緊急性の高さは、レベル9。
同じ姉を意味する言葉が他にも八つあるが、その中でも上級の言葉が"姉御"だ。

ちなみに、最上級は"お姉ちゃん"である。
さらに、クールノーファミリーしか知らない"サクランボのリキュール"の確認は、事態解決に用いる作戦を意味している。
"フランボワーズ"ならば実力行使、"キルシュ"なら隠密作戦だ。

殴り壊した電話機をよそに、デレデレは肌蹴た胸の谷間からイリジウム携帯を取り出す。
虎の子と呼ばれるそれのボタンを操作し、デレデレはロマネスクに電話を掛けた。
二言三言言葉を交わして通話を終え、デレデレはでぃを見やった。
丁度、でぃも電話が終わったところで、二人は冬の月のような冷たい表情を浮かべた。

(#゚;;-゚)「面倒なことになったもんだ。 どうやら、俺たちに喧嘩を売ろうとしている奴らがいるらしい」

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25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:02:45.39 ID:smw1RENx0
久しぶりの休日を、朝早くから潰された面々はクールノーファミリー本部に緊急招集されていた。
事前に用意されていた迷彩服に着替え、全員が眠い目をこすっている。
モノトーンで彩られたその迷彩服は、室内戦において効果を最大限に発揮する物だった。
いくつも付いているポケットは、弾倉やナイフを収納するためのものだ。

だが、その迷彩服はそれだけではなかった。
対赤外線用の素材で編まれているため、赤外線スコープで視認されることはない。
更に、防弾繊維も同時に使用しているので、ある程度の弾は体を貫くことはない。
欠伸を噛み殺し、ドクオは装備の最終確認をする。

両腰に下げたホルスターのソーコム、胸に差した二本のナイフ。
スモーク、スタン、チャフグレネードに通常のグレネード。
他にも様々な武装を付け、迷彩服の上に着るチョッキに手を伸ばした。

('A`)(随分と物騒な装備ばっかだな…)

どこかの国の軍隊並の完全武装に戸惑うのは、ドクオだけではなかった。
ジョルジュなど、手にしたアサルトライフルを震えで取り落としてしまっている。
P90は、ブルパップ式のアサルトライフルの中でも最も有名な物として知られている。
未来的な形のそれは、ブルパップ式の中でも屈指の性能の高さを誇っている。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:04:57.47 ID:smw1RENx0
装弾数は50発、それでいて銃身は拳銃並。
長さもM16の半分ほどにも関わらず、その射撃精度は決して他に引けを取らない。
他のブルパップと決定的に違うのが、弾倉の形と位置だ。
半透明の弾倉を銃身と平行に装着し、弾薬は銃身と交差した形で複列装弾で保持されている。

専用の弾丸を用い、貫通力にも破壊力にも優れている。
更に、利き手を考慮して様々な動作がどちらからでも可能な点もある。
排筴口(エジェクションポート)は銃身の下にあるため、薬莢が顔に当たる心配がない。
ダットサイトなどのアクセサリーが装着でき、様々な使用方法がある。

屋内線において最強と言っても過言ではないそれは、この場にいる全員に渡されていた。
二丁拳銃の形を取っても、何ら問題がないため一人二丁渡されている。
ヒートだけ迷彩服の仕様が異なり、ドクオたちより多めの武装が装着できる形となっていた。
その為ヒートは当たり前のように、予備弾倉とナイフを大量に身に着けている。

ノパ听)「そろそろ、作戦を説明してもらおうか」

髪を後ろで縛りながら、ヒートが椅子に腰かけているデレデレへと視線を向ける。

ζ(゚ー゚*ζ「よろしい、諸君。 現刻より状況を開始する」

ξ;゚听)ξ「説明、説明が抜けてます!」

ζ(^ー^*ζ「おっと、じゃあ説明するわね」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:08:18.20 ID:smw1RENx0
作戦概要はこうだ。
病院内で発生した緊急事態を解決するため、隠密行動で作戦を開始する。
敵にこちらの動きを悟らせてはいけないし、敵に知られてはいけない。
その為、敵を駆除するための手段はナイフなどの音のしない武装に限る。

銃にはサプレッサーを付け、インカムのマイクは喉の振動を伝えるものへと変えている。
これなら、囁く程度でも十分に声が伝わる。
敵の武装の詳細は分からないが、おそらくブルパップの物が使われている可能性が高い。
尚、敵の正体は不明だが、以前襲撃してきた仮面の男たちと見てまず間違いはない。

以前襲撃をしてきた男たちを調べてみると、敵の仮面には赤外線ゴーグルや暗視装置が備わっていた。
だから、今回の作戦で使用する迷彩服にはその対策が施されているのだ。
敵の体の素材は、ちょっとやそっとでは撃ち抜けないハニカムとチタンの複合装甲だった。
その為、今回使用するのは徹甲弾とFMJの混血弾だ。

ζ(゚ー゚*ζ「おそらく、病院が占拠されてるわ。
       無論、屋上と下水道にも敵がいるに違いない。
       だから、今回は三グループに分けて行動するわ」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:11:27.66 ID:smw1RENx0
第一グループ、"カトナップ"。
狙撃担当のグループで、ツンとオサムのグループだ。
狙撃地点は病院から二キロ離れたビルの屋上。
ツンでなければ狙撃不可能な距離であり、観測手としては適当なオサムを宛がった。

第二グループ、"ケードル"。
人質救出担当のグループで、ジョルジュとハインの二人組だ。
目的は下水道から侵入し、人質になっているギコ等の重要人物の保護。
隠密行動を得意とするハインのサポートとして、近距離の精密射撃を得意とするジョルジュを組ませた。

第三グループ、"ヤーチャイカ"。
本作戦で最重要のグループで、ヒートとドクオの二人だ。
屋上から院内へと侵入、そして内部の敵の殲滅が目的である。
高高度からのパラシュート降下を経て、屋上へと着地するのが最も困難な点だ。

作戦の説明が終わり、即座に全員が所定へと移行する。
文句の一つでも言いたいものだったが、今回は事が事だけに誰も文句は言えない。
ステルスミッションを経験したことがあったのは、その中で二人しかいない。
ハインとヒートを除いた全員が、このようなステルスミッションはおろか、人質救出を目的とした作戦を経験したことがなかった。

从 ゚∀从(なるほど、これが……)

―――作戦名、"パンドラの箱"が開始された。

――――――――――――――――――――

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:14:43.40 ID:smw1RENx0
歯車の都を覆う黒雲の遥か上空、高度二万メートル。
その空を一機の飛行機が飛んでいる。
漆黒の機体色、角ばった装甲。
F-117ナイトホークは、世界で最も有名なステルス攻撃機だ。

ナイトホークは本来、一人乗り専用の機体なのだが、この時は三人乗り合わせていた。
一人は操縦席に、そして後の二人は爆弾を格納する庫に身を屈めて入っている。
一人はヒート、もう一人はドクオだ。
赤色灯が二人の顔を照らしているが、互いに互いの顔が見えない格好となっていた。

ヒートが後ろで、ドクオが前。
もっと詳しく言えば、ドクオがヒートを背負っているような格好である。
タンデムジャンプと呼ばれるその格好は、スカイダイビング初心者が恐怖心を和らげるために上級者と組むものだ。
上級者の腹に初心者が体を固定するそれは、つまり、ドクオが初心者でヒートが上級者であることを意味している。

これまでスカイダイビングをしたことがないドクオをヒートがサポートするのは当然ではあったが、性別が違うと精神的に厄介だ。
ましてや、胸が大きなヒートが後ろともなると嫌でも背に当たる柔らかい感触を意識せざるを得ない。
本来なら喜ぶところだが、作戦内容が内容であるためそれは押し隠すことにした。
ちなみに、ジョルジュが代わってくれと本気で泣きながら懇願してきたのだが、ハインに殴られて連れて行かれてしまった。

デレデレのプライベート用の攻撃機に乗せられ、空港から飛び立って早10分。
高度二万メートルに到着した途端に、ヒートが降下体制に入った。
そして、今に至る。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:17:12.44 ID:smw1RENx0
ノパ听)「こちら"ヤーチャイカ1"。 降下準備完了」

準備が完了したことを、作戦本部であるクールノーへと通信する。
それに答えたのは、珍しく真面目な声のデレデレだ。

ζ(゚ー゚*ζ『こちら"デイジー"、そのまま待機せよ』

本部の名称は"デイジー"。
構成は実行部隊を除いた、裏社会の三大勢力の手練達。
無論、でぃとロマネスクも含まれており、ペニサスもその内の一人だ。

('、`*川『"ヤーチャイカ1"、作戦目的はあくまでも敵の殲滅。 民間人に被害を出さないように』

ノパ听)「ヤヴォール」

――――――――――――――――――――

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:20:27.16 ID:smw1RENx0
時刻は朝の三時、都の夜明けは比較的早い。
夜明けの基準は仇かではないが、日の出が基準でないのだけは確かである。
黒雲に覆われたこの都では、朝陽を拝むことすら敵わないからだ。
その暗さは運が悪い時には、真昼にもかかわらずライトなしでは互いの顔を確認できないほどであった。

そんな状況の中、一組の男女が雑居ビルの屋上に現れた。
暗視ゴーグルを付けた男女は、無言のまま屋上の淵へと駆け足で近寄る。
少女は豪奢な金髪を抱き、まだあどけなさの残る顔立ちだが、その手にしているのは銃身が通常の四倍はある狙撃銃だった。
SVD-ドラグノフ、独自の改造が施されたその銃は少女が母親から譲られたものだ。

少女、―――ツンは暗視ゴーグルを取り外し、ドラグノフに付いている特殊な光学照準器のふたを外して、試しにそれを覗き込む。
緑と黒の映像が眼に映るが、それは暗視装置越しに見る映像だからである。
そして、その装置が映し出すのは都の街並み、ビルの森だ。
中でも、特に一際巨大な建物が視界の端に映る。

ラウンジタワー、都と言わず世界で最も高い建造物だ。
荒巻コーポレーションが金に物を言わせて建てさせたそれは、ツンにとっては忌々しい思い出しかない。
内心で舌打ちをし、ツンは照準器から目を外した。
一方、傍らで佇む男、オサムはツンとは別に望遠鏡を覗いていた。

 狙撃手は観測手と組んでこそ真価を発揮するのだ。
 ……前回はブーン、優秀な観測手だったが自分の失敗のせいで死なせてしまった。
 今回はオサムの足を引っ張らず、自分一人だけでも何とかしてやる。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:24:17.63 ID:smw1RENx0
そう自分に言い聞かせ、ツンは望遠鏡を覗きこんでいるオサムの肩を叩いた。

ξ ゚听)ξ「時間よ、準備開始」

【+  】ゞ゚)「了解…」

ツンはその場に這いつくばり、ドラグノフの銃身を縁へと乗せた。
すぐに照準器を覗き込み、ストックを肩へと当てる。
安全装置を解除、遊底を引いて初弾を装填する。
ツンの視線は、ナイチンゲールの屋上へと向けられている。

暗視装置の付いた光学照準器に映ったのは、複数の動く影だ。
手にしている得物の種類は分からないが、敵の姿勢と得物の長さからして狙撃銃であるようだ。
数は三人、後は観測手の答えと照らし合わせるだけである。
座り込みながら望遠鏡を覗きこむオサムが、口を開いた。

【+  】ゞ゚)「数は三人、獲物はG3SG。 ヘッドショット、エイム」

オサムが答えを言うのとほぼ同時に、狙点を敵の頭に合わせる。
今回の任務の要は、ツンの狙撃の速さにある。
敵が連絡する間も与えず、敵が引き金に指を掛けるより早く屋上の連中を殲滅しなくてはならない。
屋上の敵の殲滅が完了して初めて、ヒートたちが降下できるのだ。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:26:28.96 ID:smw1RENx0
だからだろうか。
その重要性を担うのは自分の腕であり、指でもある。
緊張で震える指を引き金に掛け、小さく深呼吸。

【+  】ゞ゚)「ファイヤ」

オサムの声より一瞬だけ早く引き金を引き、初弾を撃ち込む。
続いて、次の敵の頭へと狙点を素早く合わせ、引き金を引く。
まだ一発目の薬莢が音を立てて転がっているにも関わらず、三発目の薬莢が排筴された。
三人の狙撃手が仮面ごと顔を砕かれて地面に倒れ伏すまでの時間、実に二秒。

【+  】ゞ゚)「ヘッドショット ヒット。 エリアクリアー」

ξ ゚听)ξ「こちら"カトナップ1"より"ヤーチャイカ"、屋上の制圧完了」

――――――――――――――――――――

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:29:03.22 ID:smw1RENx0
夜よりも暗い下水道を、ハインとジョルジュは無言のまま進んでいた。
冷たく湿っておまけに臭い空気を肌で感じ取り、ジョルジュのストレスゲージが爆発寸前にまで高まっていた。
手にしたP90のダットサイトを覗き込み、慎重に歩みを進めていれば尚更だ。
もし、一緒に行動しているのが女でなければ、ジョルジュは一瞬で白髪になってしまったかもしれない。

ダットサイトは電池を使い、従来の照準器よりも狙点が合わせやすくなった設計になっている。
難点を上げれば、過酷な使い回しをすればあっという間に使い物にならなくなる点が一つ。
そして、電池で動いているため電源が切れれば役に立たないという点だ。
だが、予備の電池と変えの光学照準器を持って来ているため最終的には問題はない。

このダットサイトを使うのは、あくまでもこの下水道にいる間だけである。
そして、ハインとジョルジュがその歩みを止めた。
先頭のハインが指で指示を出し、二人ともその場で腹ばいになる。
ハインがその格好のまま、後ろにいるジョルジュに指で状況を説明する。

从 ゚∀从(数二、梯子の左右に展開中)
  _
( ゚∀゚)(了解)

从 ゚∀从(合図で殲滅。 お前は右、私は左。 狙いは頭、一撃で)

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:32:05.15 ID:smw1RENx0
  _
( ゚∀゚)(π)

ハインとジョルジュがその場でP90のダットサイトを覗き込む。
その先にあるのは下水道から生還するために必要な梯子、そして仮面をつけた二人の男だ。
ダットサイトの光点が仮面をつけた男の頭に合わさる。
ハインが左手の指を三本立ててジョルジュに見せた。

从 ゚∀从(3カウント)

ハインがその手を自身のP90に添えてから、瞬く間に三秒が経過した。
そして、仮面の男たちが倒れ伏したのもあっという間だった。
サプレッサーによって押さえられた銃声は、どこか気の抜けたものであったが、その威力は男たちの顔を見れば言うまでもない。
仮面ごと顔の半分を抉り取られ、脳漿と機械をさらけ出したその死体が完全に動かないことをサイト越しに確認して二人は立ち上がった。

地面に落ちた鉄製の薬莢を下水路に蹴り飛ばし、その死体へと歩み寄る。
顔を踏み潰し、反応がないことを確かめ、ハインは小さく呟いた。

从 ゚∀从「"ケードル1"、下水道の敵を殲滅。 人質回収を開始する」

二人はダットサイトを取り外し、光学照準器へと取り換えた。

――――――――――――――――――――

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:34:27.92 ID:smw1RENx0
"カトナップ"と"ケードル"の報告を聞き咎め、ドクオが力んだ時だった。

ノパ听)「ドクオ、お前には怖いものはあるか?」

ドクオの体が小刻みに震えているのを感じ取ったのだろう、ヒートが心配そうに話しかけてきた。

('A`)「今まさに、この状況が怖い…」

ノパ听)「そうか、実は私にも怖い物があるんだ」

ハッチ解放十秒前のアナウンスが流れる。

(=゚д゚)『素敵な空の旅まで、後十秒ラギ。 準備するラギ』

赤色灯が赤から青へと変わる。
二人が酸素マスクを装着し、ヒートの声がくぐもる。

ノパ听)「誰にも言うなよ?」

三秒前。

ノハ*゚听)「注射が、怖いんだよ」

恥じらいながら告白したヒートの声は、年頃の乙女の声に相違なかった。
ハッチが解放され、二人が虚空へと放たれた。

――――――――――――――――――――

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:37:06.99 ID:smw1RENx0
('、`*川「…始まりましたね」

耳に掛けたヘッドフォンセットを取り外し、ペニサスは安堵の息を漏らした。
弟であるギコを助けるための作戦である以上、姉が心配しないはずがない。
デレデレの手前であるにもかかわらず、ペニサスは珍しく酒瓶に手を伸ばした。
ペニサスは酒が強い方ではない、むしろ弱い方だ。

その為、デレデレを護れなくなるという懸念から酒を控えていたのだ。
だが、今回はロマネスク達がいるため心配せずに酒を呑める。
ギコのいるナイチンゲールが占拠されたという報告を受けてから、まだ三十分と経っていないにもかかわらずペニサスの疲れ具合は異常だった。
グラスに注いだ酒を一舐めした途端、深い眠りへと落ちてしまったのだ。

そしてペニサスは、懐かしい夢を見た。
ギコと出会った、あの頃の夢を。

* * *

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:39:13.09 ID:smw1RENx0
ペニサスとギコが出会ったのは、二十年前以上の雨季のことだった。
その日は、都には名物である豪雨が降りしきっていた。
その時のペニサスはまだ幼く、物心がついたばかりの歳だ。
当時は幼くして両親に捨てられるなど、この都では珍しくないことだった。

ペニサスもその捨てたられた内の一人で、いつもと同じように路地裏で仕事をしていた。
親に捨てられた子供が生きるためには、文字通り必死に生きるか、体を売るかしかない。
無論、ペニサスとてそれは例外ではなかった。
ペニサスが選んだ道は、文字通り必死に生きる道だった。

レストランの残飯を漁る仲間を尻目に、ペニサスは半ば強盗紛いの事をしていた。
幼い子供に性的な興奮を抱く変態は、この都にたびたび観光という名目の下で来ていた。
そういった変態どもはペニサスを見るや否や、即座にホテルに連れ込もうとしたものだ。
ペニサスは道端で拾ったリボルバーを得物に、そういった変態どもから金品を巻き上げていた。

その日、いつものように変態から金品を巻き上げようとして、ペニサスは初めて仕事をしくじってしまった。
よもや、そのロリコンの変態に、屍姦趣味まであるとは想像できるはずはない。
ペニサスが手にしたリボルバーを向けてもなお、その変態は44口径のマグナムをペニサスに向けてきた。
銃口を向けるのはいい加減慣れたが、向けられることに関して言えば全く慣れていなかった。

全身が恐怖で震え、思わずリボルバーを落としてしまう。
後ずさって逃げようと試みるが、変態は仮にも大人である。
子供であるペニサスが逃げられるはずもなく、建物の外に逃げ出すだけでも精いっぱいだった。
建物から出たところで変態に腕を掴まれ、ペニサスは死を覚悟した。

その時だった―――

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:42:43.81 ID:smw1RENx0
(,,゚Д゚)「な、なにしてんだゴルァ!」

ペニサスよりも幼い少年―――ギコが、両手に構えたリボルバーの銃口を変態に向けている。
何故この少年が自分を助けようとしているのだろうか、そんな事をペニサスが考える暇はなかった。
捨て子たちの間では、自分の身は自分で守るのは常識である。
だからこの少年が、自分を助けるなど考えられなかったのだ。

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「この私に銃口を向けるか。 よかろう、命を賭けるのだな、少年よ!
      私は少年でもかまわん、死体のあの締まり具合が私は好きなのだよ!」

変態は撃鉄を起こし、輪胴弾倉を回転させる。
リボルバーはオートマチックとは違い、遊底を引く必要がない。
引き金を引くだけで輪胴弾倉が回転し、撃鉄が雷管を叩いて弾丸を放つ。
そしてもう一つ、リボルバーには特徴があった。

(,,゚Д゚)「おねーちゃんに手を出すな!」

変態の44マグナムが火を噴くより早く、ギコが手にしたリボルバーが火を噴いた。
だが、銃弾は変態の右肩を掠めただけだ。
痛みに瞠目し、男は怒りで顔を赤らめた。
少年の分際で、リボルバーを当てるなどとは考えられなかったのだ。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:47:04.43 ID:smw1RENx0
 彡⌒ミ
(#´_ゝ`)「こ、この糞ガキが!」

素早く引き金に力を込めようと試みるが、右手が引き金を引くことは遂に無かった。
幸運にも、ギコの放った銃弾は男の右手の腱を切り裂いたのだ。
激痛に顔をゆがめ、変態は左手でマグナムを構え直す。
だが、ギコが次に取った行動は変態の予想を凌駕した。

(,,゚Д゚)「むむむ…」

ギコにマグナムの銃身を押さえられ、変態は思わず不気味な笑みを漏らした。
銃身を押さえられる距離にいるということは、マグナムの直撃を逃れられるはずはない。
ましてや相手は年端もいかない少年だ、奇跡でも起きない限り、銃弾は逸れることはないだろう。
ゆっくりと引き金に力を込め、ギコの顔がグロテスクな肉塊に変わる様を幻視した。

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「なん…だと…?」

リボルバーの最大の特徴は、安全装置が無い事にある。
何故なら、輪胴弾倉を押さえてしまえば絶対に撃鉄が雷管を叩くことはない。
弾詰まりが無い事の代償に、安全装置がむき出しなのだ。
それをギコが知っていたか否か、そんなことを考えていた変態はそのまま脳漿をぶちまけて倒れた。

血の混じった脳漿が雨に流され、後に残されたのは無残な姿の男の死体だけだ。
思わずギコの手を取り、ペニサスは駆け出した。
男を殺めたマグナムとギコの手をしっかりと握りしめ、ペニサスは息を切らせながらアジトへとたどり着く。
そして、まだ恐怖で震える手で少年を叩こうとして、遂にその手を上げることはできなかった。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:50:34.16 ID:smw1RENx0
(,,゚Д゚)「おねーちゃん、大丈夫?」

('、`*川「っ…!」

命を懸けて自分を護る理由はどこにもないだろう、そう言って叩けたらどれほど楽か。
ペニサスもギコも、まだ幼すぎたのだ。
でなければ、疑いもせずに互いを受け入れる事などできなかっただろう。
ギコを叩く代わりに、ペニサスは少年を抱きしめることにした。

まだ震える少年の体は、栄養が足りていないのだろう。
骨と皮だけと言っても過言ではないほどにやせ細ったその少年は、本当に先ほど自分を助けてくれた少年なのだろうか。
あまりにも弱々しく、餓死寸前の子猫を彷彿とさせる少年にペニサスは同情以上の感情を抱いた。
家族愛に近いそれは、姉が弟に抱く感情にも似ている。

感謝の言葉の代わりにギコを抱きしめ、ペニサスは今更になって体が震えてきた。
震える体同士、抱きしめる様は奇妙でもあった。
小さく啜り泣き、少年は屈託のない笑顔を浮かべる。
それをペニサスが見ることはできなかったが、ペニサスも笑みを浮かべる。

ペニサスはこれまでずっと一人ぼっちだったため、張りつめていた糸が緩んだのだ。
誰かに頼ることも、頼られることもなかったペニサスにとって少年の存在は救済そのものであった。
その時から、ペニサスと少年、―――ギコは姉弟の関係を結んだ。
どんな時も一緒に過ごし、いつしか姉弟愛は別の感情へと変わって行く。

そしてある日、二人は出会った。
弱冠十三歳の少女に。
豪奢な金髪を頭に冠し、誰もが惹かれてやまない笑顔を浮かべる、その少女に。
少女は名をクールノー・デレデレと言った。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:52:47.56 ID:smw1RENx0
ζ(゚ー゚*ζ「こんにちわ」

この裏社会には大よそ似つかわしくない笑みのまま、デレデレはペニサスとギコに手を差し出した。
これほど眩しい人をこんな場所で見られるとは、夢にも想っていなかった。
だからペニサスもギコも、デレデレの差し出した手を掴めずにいる。
寒空の曇天の下、二人で肩を寄せて震えながらデレデレを見上げた。

ζ(゚ー゚*ζ「私の名前は、クールノー・デレデレ。
       よろしくね」

いつまで経っても自分の手を取らない二人の手を、強引に掴む。
そして、デレデレはそのまま二人を抱き寄せた。
まるで旧友を抱きしめるかのように優しく、それでいて力強いその抱擁はあまりにも心地よすぎる。
無意識のうちに、ペニサスは涙を流していた。

ζ(^ー^*ζ「あなた達、行くところがないのでしょう?
        だったら、私と家族にならない?」

唐突すぎるその誘いは、当然のことながらペニサス達を狼狽させた。
咄嗟にギコと共に心地よい抱擁から逃れ、一歩下がる。
だが、狼狽しながらもペニサスは弟の手前である以上、冷静に行動することができる。
姉はいかなる状況でも弟を護る者である、これしきの事で冷静に行動できなくて何のための姉か。

('、`*川「家族、どういうこと?」

ζ(゚ー゚*ζ「うーんとね、分かりやすく言うなら…
       家族計画ってやつね」

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:55:30.64 ID:smw1RENx0
可愛らしく考える仕草をして紡がれた言葉は、幼かったペニサスには理解できなかった。
だが、単語の組み合わせを考えると、疑似家族を作るということだろう。
そう簡単に考えてしまったことが、ペニサスとギコの人生を大きく変えることになる。
だからだろう、ペニサスにはその言葉があまりにも魅力的なものに聞こえた。

ζ(゚ー゚*ζ「私がお母さん役、あなた達は姉弟役。
       父親役の人もいるから、問題はないわよ」

('、`*川「分かりました、でも……」

ペニサスはそれから、いくつかの疑問をデレデレに問いかけた。
何故自分達を助けたのか、家族になるのに必要な事、物。
様々な問いをしたにもかかわらず、デレデレは答えようともせずに笑みを浮かべるだけだ。
そして、ペニサスの問いが終わるとデレデレはひどくご機嫌な様子で頷いた。

ζ(^ー^*ζ「よしよし、合格。 あなた、頭の回転がいいわね。
       そしてそこな少年、君は度胸がいい、そしてこの人の事をとても信頼している。
       あなた達には私の家族に必要な物が全て揃っているわ。
       私の家族の正体、クールノー・ファミリーはマフィアよ」

マフィア、それはこの都とは切っても切れない関係にあるものだ。
カルテル、マフィア、ヤクザ、シンジゲート、トライアド、ありとあらゆる悪の組織がこの都には存在している。
ロマネスク一家を筆頭としたそれらは、幼子ですら文字を学ぶより早く知っていることだ。
それを知らなければ、待っているのは非業の死だ。

(;,,゚Д゚)「ま、マフィア…」

ペニサスに抱きつきながら怯えるギコは、潤む瞳でデレデレを見上げた。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:58:26.09 ID:smw1RENx0
ζ(゚ー゚*ζ「そう、マフィア。 銃弾と血潮と策謀でできた混沌の世界よ。
       常に命を懸け、あらゆる障害から家族を護る。 障害がなければ、ただの幸せな大家族。
       それこそが私の家族よ」

返事は決まり切っていた。

クールノーファミリーに入り、ペニサスとギコは天性の才を生かして、クールノーファミリーの手練として育った。
特にペニサスのリボルバーに関する扱いは、神技と言い換えても過言ではないほどであった。
ギコとも男女の一線を超え、心身ともに一心同体となり、二人の絆は揺るぎないものになっている。
そんなある日、ペニサスは同じ布団にいるギコに腕枕をしながらそれまで抱いていた疑問を投げかけた。

('、`*川「なんであんた、あの時私を助けたの?」

当然の疑問だった。
そして、それに答えたギコの言葉はペニサスの想像以上のものだった。

(,,゚Д゚)「いやぁ、恥ずかしい話なんですけど。 ペニ姐をずっと前に見て、憧れてですね。
    あの日、ペニ姐に告白しようとしていたって訳で……」

('、`*川「…馬鹿?」

(,,゚Д゚)「馬鹿って言われても仕方ないですけど、俺は本気ですぜ」

('、`*川「馬鹿よ、あんた」

(,,゚Д゚)「いやぁそれほどでも……って、なんですか、それ?
    え? ディルドー? えーっと、使用方法は……
    いやいやいや、いけませんって、倫理機構的にもアウトですって!」

(,, Д )゚ ゚「うあああああああああああああああああああ?!」

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/09(金) 00:59:57.96 ID:smw1RENx0



―――懐かしくも微笑ましい、夢だった。

第二部【都激震編】
七話 了


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