('A`)と歯車の都のようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:08:00.32 ID:FBum1dKw0
都の大通りは朝にも拘わらず、いよいよ明後日に控えた祭りの準備で異様なほどの熱気に包まれていた。
この時ばかりは裏社会も表社会も関係なく、互いの店の準備を手伝いあっている。
大切なのは利益よりも、互いが気持よく商売できることであり。 利益はその次。
こうして手伝えば、有事の際に思わぬ何かが訪れるかもしれない。

(,,゚Д゚)「オーライ、オーライ」

"情けは人の為ならず"。
そう徹底的に教え込まれたギコは、朝から他店の手伝いに精を出していた。
黄色のヘルメットを被り、他店の設営を指揮している様は工事現場の監督そのものだ。
毎年のようにこうして手伝いをしていると、自然と無駄な知識と経験が身に着く。

テキパキと鉄骨を組み上げた配下達に指示を出し、組上がった屋台の骨組みを持ち上げさせ、その誘導をするなど眼を瞑っていても出来る程に慣れていた。
その俊敏で軽快で適切な指示からは、先日まで入院患者だったとは到底窺い知れない。
先の負傷も既に回復し、ギコはいつもの調子に戻っていた。
"獅子将"の渾名は、伊達では無い。

(,,゚Д゚)「はい、オッケー。 ゆっくり下ろせ、ゆっくりな」

両手で配下を制し、骨組みをゆっくり下ろすように指示を出す。
配下が支える全部で31本の鉄骨の総重量は、実に200キロ。
"ギコの配下4人だけ"には、少し荷が重そうにも見える。
現に彼らは全員顔を真っ赤にし、米神に血管を浮かべていたのだ。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:13:45.34 ID:FBum1dKw0
(,,゚Д゚)「ちょっと待ってろ」

流石に4人だけに任せたのは失敗だったか、プルプルと左側の鉄骨が震え始めている。
それを見過ごすギコでは無く、ギコは指示を中止して鉄骨を支える作業に加わった。
力なく下がり始めた左の鉄骨を持ち、それまでそこで支えていた二人に、右側で支えるよう指示をする。
これで左が一人、右が四人。 パワーバランス的に見て、達の悪い冗談にも思える。
しかし、"たかが一人"と侮るなかれ。

(,,゚Д゚)「そうりゃ!」

気合の一声と共に、下がっていた鉄骨を一気に持ち上げ、水平に保つ。
長くこの姿勢は維持できないが、瞬発的な筋力で地面に下ろすまでは出来る。
何故なら―――
―――彼こそは"獅子将"。

(,,゚Д゚)「いあっ!」

クールノーが誇る二頭の番犬の、その片割れだ。

ゆっくりと鉄骨を地面に置き、ギコ達はたまらず歓喜の声を上げた。
互いに披露しきった顔でハイタッチをし、互いの健闘を称えあう。
ギコの配下は皆、彼の生き様に憧れた者達で構成されている為、ギコの性格にどことなく似ていた。
侠に生き、義に報い。 ただ一人の主に仕える生き様は、漢ならば誰しも憧れざるを得ないだろう。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:18:01.73 ID:FBum1dKw0
珠の様な汗をぬぐいながら、ギコの配下達は次なる指示をギコに乞う。
とは言うが、彼らはかれこれ三日連続で徹夜しているのだ。
これ以上力を披露する余裕は、もう無いだろう。
それを察したギコは首を横に振り、悪戯っぽく口を釣り上げた。

(,,゚Д゚)「おわりだ! ご苦労だったな、向こうに戻ってビールでも呑んでていいぞ。
    何? 発泡酒かって? ちっちっち、今日は、何と! エビスだぞ!」

エビスビール。
地名の元になる程の人気がある、日本が誇る最高峰のビールだ。
熟成度の高い黄金の液体は、一度それを呑んだ者の心を決して離さない。
この都には基本的に発泡酒か、ハイネケンやギネスなどしかない為、このビールは言わば憧れの存在だった。

子供のような喜びの声を上げ、手下達は隣にあるA17の屋台に戻って行った。
それを微笑ましく見送り、ギコは後ろを振り返った。
そこには、白髪雑じりの初老の男性が立っている。
頭に巻いた灰色のバンダナには、薄っすらと汗が滲んでいた。

(,,゚Д゚)「オヤジさん、こんなもんかい?」

腰に手をあて、ギコは祖父に物言う孫の様に口を開いた。
対する男性も祖父が孫に向ける顔で、笑顔を浮かべる。

オヤジ「いやぁ、悪いね手伝ってもらっちゃって。
    後で何かお礼しなくちゃ」

黒字に白で、"ふらんかぁ"と書かれたTシャツの胸元をハタハタさせながら。
男性はギコに頭を下げる。
それを半ばで制し、ギコは自然と口を開いていた。
男性の肩に右手をのせ、左手の親指を天に向かって突き上げた。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:23:01.03 ID:FBum1dKw0
(,,゚Д゚)b「なぁに、気にしなくていいって。
    オヤジさん、明日で還暦なんだろ?
    無茶して腰の骨でも折ったら大変じゃねえか」

バンバンと肩を叩き、ギコは歯を見せて笑う。
男性の方も、それを見て同じような笑みを見せた。
ギコに負けないぐらい強い力で、ギコの腰を叩く。
誰がどう見ても、仲のいい孫と祖父である。

オヤジ「ははは、まだそこまで腐って無いさ。
    ま、お隣同士頑張ろうや!」

(,,゚Д゚)「おうよ。 じゃあ、こっちは仕込みがあるからよ。
    何か手が必要になったら言ってくれ」

互いに別れを告げ、ギコは自らの店に戻った。
そこには、作業の終了を祝う部下達の姿があり、ギコが戻ってきた事に気付いた彼らはより一層声を上げて喜んだ。
ビールジョッキを打ち鳴らす音の喧騒に紛れて、ギコの背後から繊手が首筋に絡みついてきた。
誰だ、と問わないのは。 こんな事をする人は一人しかいないし、何よりこの温もりを間違える筈が無いからだ。

('、`*川「手伝いは終わったの?」

ギコの義姉、"智将"ペニサスである。 "リボルバー"、そして"智将"。 この二つが、ペニサスの渾名だ。
―――その理由を語ると長くなるので今回は割愛する。 耳元で囁くペニサスの声に、ギコは頬を赤らめた。
何せ、囁きながらもペニサスはギコの耳たぶをチロチロと舐めているのだ。
これでは、まともに返事など出来る筈が無い。 悪戯だと分かっていても、流石にこれは堪える。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:28:00.39 ID:FBum1dKw0
(,,゚Д゚)「ええいやああぇ。 オヤジささん結構歳だからぁ、また後で様子見に行きぃまぁすぅ」

"いい子ね"と呟いて、ペニサスはギコから離れた。
ようやっと解放されたギコは、背後にいるペニサスに向き合う。
人と話をする時は、目を見て話す事が鉄則。
体に叩きこまれて刷り込まれた習慣が、ギコの体を動かしたのだ。

('、`*川「にしても、"フランカー"がウチの横に店を出すとは……」

何事も無かったかのように会話をするあたり、二人の仲の良さが解る。

(,,゚Д゚)「オヤジさんのフランクフルト、美味いからなぁ…
    こいつは強力なライバルですね」

先ほどの初老の男性は、都の中でも有名なフランクフルト職人で。
通称"フランカー"と呼ばれ、人気を博している。
職人気質な性格の為、滅多に他人とコミュニケーションをしない事でも有名だったが。
若いのに礼儀と仁義を弁えているギコには、心を開いていた。

彼のフランクフルトの味は、一度食べたら決して忘れられない。
その味を思い出して、ギコは生唾を飲み込んだ。

('、`*川「お腹が減ったわね」

ふと、ペニサスが口に指をあてて呟いた。

(,,゚Д゚)「そうですか? 俺はさっきタコ焼きとかを試食したんで、腹いっぱいです」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:33:04.54 ID:FBum1dKw0
従業員の腕を確かめる意味合いと朝食を兼ねて、ギコはこの店のメニューを全て食べていた。
当然、胃袋はオーバーフロー直前。
―――では無かった。
確かにフランクフルトの一つや二つなら食べれない事も無いが、今はそれほど食べたくはない。

('、`*川「違うわよ。 私のお腹が、減ったのよ」

あぁ、なんだ。
そう言う事か。 簡単な事じゃないか。

(,,゚Д゚)「じゃあ焼きそばでも食べますか?
    あれならちゃちゃっと作れます」

ここ三日、寝ずに練習した焼きそばの鉄ヘラ裁きを見せる時がついに訪れた。
ギコは内心でガッツポーズと共に、雄叫びを上げた。

('、`*川「駄目ね、ダメダメよ。 "日本人のサッカー"と同じぐらい駄目ね。
     私は"フランカー"の作ったフランクフルトが食べたいの。
     今すぐに」

(,,゚Д゚)「……少し頼んでみます」

最後の部分を強調され、ギコは渋々A18の露店。
フランカーの店に、再度訪れた。 そこには、先ほどの骨組が露出した店はなく。
壁と屋根が装着されており、後は内装と言ったところだ。
あの短時間でここまでやるとはフランカー、恐るべし。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:37:11.60 ID:FBum1dKw0
(,,゚Д゚)「オヤジさーん」

店の入り口から、暗い店内に向かってフランカーを呼ぶ。
店の奥からゆっくりと姿を現したフランカーは、入口の傍に置いてあったバケットを指さした。

フランカー「おう、どうしたギコ坊?
      フランクフルトならそこに作ってあるよ」

驚いた様子でそれを見たギコは、もう一度驚く事になった。
椰子の葉で編まれたバケットの中には、湯気が漏れ出ている紙袋が入っている。
その中身は見ずとも、香りだけで分かる。
フランカー特製の、骨付きフランクフルトの香りがここまで漂っているのだ。

(,,゚Д゚)「聞こえてました?」

気恥かしげに頬を掻き、ギコは頭を下げる。
フランカーはそれを見て、声を上げて笑った。
満足げな顔のフランカーは、笑いまじりに口を開いた。

オヤジ「ははは。 丸聞こえだよ、お前らは本当に仲がいいな!
    ま、俺が腕によりを掛けて作った一品だからな、後でまた手伝ってくれよ?」

ギコがこれをタダで受け取らない事は、フランカーはよく知っている。
だから、あえて交換条件を出してギコを納得させるのだ。
まぁ、後で手伝ってもらう事などたかが知れているが。

(,,゚Д゚)「お安いご用ですよ、オヤジさん」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:37:53.78 ID:FBum1dKw0







ギコは笑顔でバケットを手に取り、その場を後にした。
情けは人の為ならず。
確かに、こうして情けが自分に帰ってくるのは気持ちがいい事で。

ギコは、少しだけくすぐったい気持になった。








25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:39:13.41 ID:FBum1dKw0
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('A`)と歯車の都のようです
第二部【都激震編】
第十七話『構えよ常に、備えよ共に』

十七話イメージ曲『月光』鬼束ちひろ

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27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:44:15.06 ID:FBum1dKw0
机に置いたバケットから、湯気と熱気の漏れ出ている紙袋を取り出す。
紙袋の折口を開き、その中身を確認した。
やはりギコの予想通り、そこにはフランカー特製の骨付きフランクフルトが13本も入っていた。
ここにいる全員分のフランクフルトを用意してくれたとは、後でお礼を兼ねてキチンと手伝いに行かねば。

ギコはそう思い、ひとまず焼きたてのフランクフルトが冷める前に食べる事にした。
無論、一人では食べない。
フランカーの心遣い通り、皆で食べねば失礼である。
それに、こういうものは皆で食べた方が絶対に美味しいのだ。

(,,゚Д゚)「フランクフルトもらったぞ! しかも、骨付き!」

ギコの声に配下達は続々と集まり、紙袋からフランクフルトを取り出して行く。
最後に二本だけ残し、ジョッキとフランクフルトを握りながら、全員元の場所に戻った。
現金な奴らではあるが、当然の反応ともいえる。
ビールとの相性が最高のこの一品、香りだけでも大ジョッキ一杯はいけるのだ。

(,,゚Д゚)「マスタードとケチャップは持ってった……な」

バケットに入っていた特製の調味料が既に無くなっているのを見咎め、ギコは最後の言葉を変えた。
自身の手元に残った二本の内一本を、傍らに来ていたペニサスに差し出す。
まだ湯気が上がっており、猫舌のペニサスには少しきついだろうか。
そんなギコの危惧は、すぐに否定される事になった。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:51:15.07 ID:FBum1dKw0
('、`*川「大丈夫よ、これは熱い内が美味しいんだから」

そう言って、ペニサスは湯気の上がるフランクフルトを口に運ぶ。
それを見てギコは、自分もフランクフルトを食べる事にする。
正直な話、この香りが鼻腔を擽る度、ギコのお腹がこれを求めていた。
ようやっと、その欲望をこれで満たせる。 骨を素手で掴み、ギコもそれを口に運んだ。

(,,゚Д゚)「んあーんぐ」

選りすぐった豚と牛、そして羊の合びき肉を包むのは、厚めの羊の腸だ。
それに歯が食い込み皮が僅かに反発したが、その抵抗はすぐに終わる。
プツリ、と小さく音を立てて喰い破った皮から、合びき肉の脂と肉汁が弾け出る。
一瞬だけ口内に広がった熱の後、肉の脂と肉汁の甘味が口内を満たした。

食いちぎった肉の先端部分を、ギコの舌が奥歯へと運ぶ。
移動させる間にも脂が舌の上に滴り、甘味と旨味の道を描く。
奥歯の上に乗せると、奥歯はそれを待ってたとばかりに肉を一気に噛みつぶす。
直後、ギコの口内に異変が起きた。

唾液がいつもより溢れだし、早く胃へ落とせと騒ぎ立てたのだ。
しかし、それに屈するほどギコは愚かでは無い。
一口目とはいえ、この甘美な味わいの一時を早々に手放すはずが無い。
脂と肉汁があふれ出し、口内には甘味と旨味が奏でる協奏曲が溢れていた。

一噛みする度に、その旨味は増してゆく。
口内を駆け巡る旨味の海に、ギコはその身を委ねたい衝動に駆られた。
あぁ、飲み下すならばビール共に。
エビスビールを一気に呷りながら、この快楽の海に溺れたい。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:55:35.88 ID:FBum1dKw0
('、`*川「ほら、呑みなさい」

そんなギコの心の声が聞こえたのか、ペニサスは自分の大ジョッキをギコに手渡した。
お礼を言う間もなく、ギコはそれを受け取り、一気に呷った。
それまであった野性的な旨味を、ビールの苦みが押し流す。
だが、次の瞬間には舌の上で両者の味がパズルのように組み合わさり、完璧な旨味が衝撃となってギコの全身を痺れさせた。

三口で大ジョッキの中身を全て飲み干し、ついでにフランクフルトの一片も飲み下した。
堪らず、ギコは快楽の唸り声を上げる。

(,,>Д<)つ凵「っくぷっはあぁ!!」

深い深い唸り声の後に、ギコは満足げにため息をついた。
炭酸の影響で涙目になったが、全く気にならない。 むしろ、この涙は清々しい。
素晴らしい心遣いにお礼を言おうと、ギコはペニサスを見た。
―――そして、後悔した。

( 、 *川「……あんたねぇ、私の分まで何呑んでるのよ?」

そこには鬼の形相のペニサスが。

(,,゚Д゚)「え、いや、その、えーっと」

その後、ギコは炭酸以外の影響で涙目になったが。

(,,;Д;)「に゛ゃあああああああああああああ!!」

こういう喧騒は、やはり楽しい物で。
ギコは密かに、穏やかな幸せを肌で感じ取っていた。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:00:17.47 ID:FBum1dKw0
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E19、"バーボンハウス・出張版"と書かれた木の看板が掲げられた店の前で、シャキンは腕を組んでそれを見上げていた。
破壊された旧バーボンハウスのカウンターから流用した木の板に書かれた白色の文字は、お世辞にも綺麗とは言えなかったが。
それは力強く、どこか温かみのある字で、思わず頬が緩んでしまう物だった。
それを書いたのはシャキン自身ではなく、流用を提案したヒートがせっせと書いたのだ。

周囲が薄暗い為、本来は看板をライトアップをしなければならないのだが。
不思議とヒートの書いた字はこの薄暗がりの中でも映え、人々の眼を奪っていた。
ちなみにシャキンが腕を組んでそれを見上げているのは。
"小さな子供が、親から貰ったプレゼントを一日中飽きずに眺めている"のにも似た心境だからだ。

ヒートの力添えのお陰で、店に必要な設備も備品も全て滞りなく揃った。
後は開店を待つだけで、シャキンは特にする事が無い。
片足が義足で無ければ、他店の手伝いに赴けたのだが。
これでは文字通り、足手纏いになってしまう。

かつての栄光に興味も未練も無いが、足手纏いというのは男の矜持的に気に入らなかった。
そんな自分を、足手纏いでなく支えとして見てくれたヒートはやはりシャキンにとって。
―――とても愛おしい存在なのであった。

ふと、背後から短く二回鳴らされたクラクションの音が、シャキンの鼓膜を震わせた。
音の方を見やると、そこにはシャキンの師匠である"のーちゃん"が窓から手を出して振っている。
彼が乗る白い軽トラの荷台には、酒の箱が山積みにされていた。
木箱約50個は軽く積んであるだろう。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:05:06.25 ID:FBum1dKw0
(゚A゚* )「よお! シャキン、元気やったか?」

軽トラから降りてきたのーちゃんは、シャキンに駆け寄るとその肩を勢いよく叩いた。

(`・ω・´)「ええ、おかげ様で」

少しだけ痛みに顔を顰めながらも、シャキンは懐かしい目でのーちゃんを見た。
ロマネスク一家を抜けてからのシャキンの趣味を後押ししたのが、のーちゃんだった。
料理から酒の選び方までを指導したのーちゃんは、時折こうしてシャキンに酒などを提供する仲になったのだ。
事実上、師弟の関係を結んで今に至る。

(゚A゚* )「何だか景気の悪い面やったから、末期癌かと思ったで」

独特の口調で、毒のある冗談を口にする。
決して人を不愉快にしない程度の毒なので、別に気にはならない。
それに、あながち間違いでもないのだ。
そう思い、シャキンは口を開いた。

(`・ω・´)「ある意味、末期の患者ですけどね」

(゚A゚* )「おや、冗談を言い返せるようになりよったのか。
    わいに話してみなさい、な!」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:10:06.24 ID:FBum1dKw0
面白い玩具を見つけた子供のように、のーちゃんは笑みを浮かべた。
シャキンの首に腕をまわし、のーちゃんはシャキンの顔を自身の耳元に寄せる。
のーちゃんは"誰にも言わないから"と小さく呟き、シャキンは小さく頷いた。
少しだけ気恥かしそうにのーちゃんから目を逸らし、ぶっきらぼうに囁いた。

(`・ω・´)「なぁに、聞いて面白いことじゃないですよ。
      恋の末期患者です」

それを聞いたのーちゃんは、一瞬だけ目を見開くと、シャキンを解放した。
シャキンから一歩引いた位置に留まり、場に静寂が訪れた。
眼をパチクリとさせると、呆けていた顔が一瞬で崩壊する。
同時に、静寂も。

(゚A゚* )「だ――――っはっはっは! シャキン、あんた最高やで!
    いつの間に色を覚えたんや? 芸人にでもなるか?
    いやー、こりゃあいいわ。 よし、ウチからの祝いや。
    後で裏に着けてからよ、あの軽トラごと、あんたにくれてやるわ。
    カーセックスするなり、ハネムーンドライブに行くもあんたの好きにしてくれや」

――――――――――――――――――――

ミルナとトソンの運営する射的屋は、j18というごくごく平凡な場所に位置している。
準備の最終日とあって、クールノーファミリーから送られてきた景品と、事前に用意してあった景品が山を築きあげていた。
段ボールから取り出した景品を確認し、それを種類別に並べる作業を二人はこなしているのだ。
その山の中に客寄せ商品が一切用意されていないのは、口コミでの集客を予想しての事。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:15:18.34 ID:FBum1dKw0
その案を出したのは、"鉄仮面"都村トソンだった。
祭りの中でも地味な部類に入る射的屋を盛り上げるには、噂による人気の獲得、使用する道具、そして景品の豪華さが必要不可欠。
人気獲得の為の噂は、祭りの開始10分で十分広まる計算だ。
歯車城に特別に設置された巨大モニターでの宣伝に力を入れ、情報による客寄せは他店に決して引けを取らない仕上がりである。

使用する道具も、ただの空気銃では無い。
コッキング操作による空気圧を利用してコルクを発射する、木と鉄で作られたライフルタイプが一般的だが。
今回使用する空気銃は、ハンドガンタイプとライフルタイプの二種類。
それぞれに、実銃をモデルとした銃を三丁用意した。

ハンドガンは、グロック17、ベレッタM8000、ベレッタM92F。
ライフルは、M14、ドラグノフ、PSG-1を模した物。
ミセリの持つ武器の在庫を、千春に魔改造させたのだ。
本物の銃が元とあれば、客が好奇心をくすぐられること必至。

更にこちらで用意した景品は、女子供にも人気のあるアニメ作品と、男共に人気のある商品を数千種類。
後は、クールノーファミリーから送られてきた景品が数十種類。
女子供の為に用意した景品をトソンが確認し、男向け景品はミルナが確認して分類、整理していた。
この作業、思いのほかすぐに終わるので、景品を見て雑談を交わすのもまた一興。

(゚、゚トソン「ミルナさん、もう少し早く作業出来ないんですか?」

―――なのだが、流石は"鉄仮面"の渾名を持つトソンである。
先に作業を終えたトソンは、後ろで黙々と作業をしているミルナに容赦ない言葉を掛けた。
ミルナとのコミュニケーションが嫌なのか、それとも元からこう言う性格なのか。
少しでもトソンと雑談をしたかったミルナは、手にしたぬいぐるみを掴んだまま固まってしまった。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:19:05.24 ID:FBum1dKw0
(゚、゚トソン「……なんですか? そのぬいぐるみは」

"真実の口"よろしく口を開けて固まっていたミルナは、どうにか笑顔を浮かべて振り向く。

( ゚д゚ )「これですか? これはですね…」

ミルナが持っていた人形、それは白くてモファモファとした物だった。
まんじゅうを彷彿とさせる頭に、短い四肢。 女子供に大人気の商品だ。
よく見ればなるほど確かに、女子供に受ける理由も分からないでもない。
ほんのり頬を赤らめている部分など、女の母性本能を直撃する事請け合いだろう。

中身はモファモファ感を出すために、パウダービーズ。
外身はシフシフ感を出すために、特殊ウレタンを間に挟みこんだ3層スパンデックス生地。
抱き枕に良し、枕に良し、クッションに良し、果てはストレス解消の道具にも良し。
"乙女殺し"の異名で呼ばれており、恐ろしい威力を有している。

(゚、゚トソン「……っ!!」

無論、トソンの母性本能にもそれは容赦なく直撃した。
しかし、ここでその事を顔に出さないあたり、流石は鉄仮面。
ミルナの手から白くて丸い、小さな生き物の人形を奪い取った暁には、まず間違いなく。
"それをフモフモしたい程の衝動"に駆られているのに、トソンは眉ひとつ動かさない。

鉄仮面の渾名は、伊達では無い。

( ゚д゚ )「……ひょっとしてこれ、欲しいんですか?」

そう言いながらミルナは、手にしたそれをトソンに差し出す。
組んでいたトソンの腕が、その言葉にビクリと反応する。
一瞬だけ、トソンは己の本能に負けてしまった。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:23:05.37 ID:FBum1dKw0
(゚、゚トソン「いいえ、そんな事はありますん」

それが、口に出た時にはもう遅い。 トソンは軽く自己嫌悪をした。
どうにもミルナと話していると、トソンは自身の仮面が剥がれているような錯覚に陥いる。
調子が崩れると言うべきなのか、この場合は。
そんな事をトソンが考えているとは露知らず、ミルナは口を開いた。

( ゚д゚ )「……すん? いや、欲しいならどうぞ正直に言ってくださいよ。
     別に人形の一つや二つ、後で補正が利きますから」

ついにトソンは、自らの本能に折れる事にした。

(゚、゚トソン「……本当にいいのですか?
     入手するのにだって、相当苦労したのでしょう。
     聞いた話では、直営店ですら売り切れ続出だとか」

少しだけ遠慮気味に声を潜め、トソンはミルナに問いかけた。
一応は売り物である為、販売前の売買は禁止事項だ。
それが超人気商品ともなれば尚更であり、トソンは正直なところ躊躇っていた。
しかし、ミルナは何てことない風に笑顔で答えた。

( ゚д゚ )「いいっす、いいっす。 要は売り上げが出ればいいんです。
     後でポケットマネーから幾らか売り上げに入れておけば、問題は何もないっす」

人形を差し出すミルナを見て、トソンは三秒だけ考え込み。
遂に、懐の財布に手を伸ばす事を決めた。
紙幣とカードだけが入っている、色気も何もない機能性重視の財布。
その中から五枚ほど紙幣を渡せばいいだろうかと、トソンは自然とそんな事を考える。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:27:13.81 ID:FBum1dKw0
(゚、゚トソン「では、私が……」

懐から財布を取り出そうとして、財布に手が触れた時。
ミルナが驚いたように言った。

( ゚д゚ )「いやいやいや。 これぐらいは自分が持ちますよ」

人形を無理やりトソンに押し付ける形で、ミルナは金の受け取りを頑なに拒んだ。
モファっとした人形が、トソンの胸に預けられた。
ミルナが手を離し、反射的にトソンはその人形を抱きとめる。
一瞬だけしっかりと胸元に抱きかかえ、トソンはすぐにミルナにそれを付き返した。

(゚、゚トソン「そうはいきません。 これを手にするのは私です、つまり払う必要があるのは私。
     ミルナさんにお金を出してもらう必要は無いです。 奢ってもらう理由もないですし」

トソンの言う事は全くだ。
しかし、これは理屈とかで語れることでは無い。
何せ、ミルナの憧れが懸かった大チャンス。
ここで引き下がっては、男が廃るのだ。

( ゚д゚ )「奢りたいから奢るんです。 というか、奢らせてください、お願いします!」

人形を頭上に掲げ、ミルナは土下座を決め込んだ。
非の打ちどころが無い程完璧な土下座は、"少し見上げればトソンのハイヒールによる目つぶしを食らう事必至"の際どい体勢だ。
かつて偉い人が言った、"とにかく困った時は土下座だ"、と。
半ば呆れ顔でトソンはミルナを見下ろし、負けたとばかりに溜息をついた。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:31:22.64 ID:FBum1dKw0
(゚、゚トソン「まったく理解できないんですが……。
     まぁ、そんなに言うなら奢ってもらいます。 そこまでされて断るのも、後味悪いですし」

出来の悪い生徒を叱りつけるような声で、トソンは優しく言葉を紡いだ。
対してミルナは、憧れの先生に褒められた生徒の様な表情で顔を上げた。
どこか嬉しそうで、少し気恥ずかしい表情。
ミルナはその生徒の声で、再び勢いよく頭を地面にこすり付けた。

( ゚д゚ )「っ! ありがとうございます!」

見ていて清々しいほどの土下座の仕方を教えたのは、実はギコであった。
その事をトソンが知るのは、もう少し先のお話。

(゚、゚トソン「じゃあ、後でその子をですね…」

優しい溜息まじりの声で、トソンはミルナが掲げる人形を指さした。
そのトソンの言葉を、素早く立ち上がったミルナが途中で止める。

( ゚д゚ )「いえ、今渡しますよ。 まだ仕事が残っているので。
     トソンさんも早めにこれが欲しいでしょう? 少しでもこれをトソンさんに持っていてもらいたいので」

そう言いながら、ミルナは差し出した人形をトソンに差し出す。
今度は押し付けることなく、トソンの意思に任せて。
ミルナが何を言いたいのかさっぱり理解できないトソンは、遠慮なしにそれを受け取った。
しかし、少しだけばつの悪い口調で言った。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:35:08.07 ID:FBum1dKw0
(゚、゚トソン「なにもそこまで気を遣っていただかなくても……
     では、こうしましょう。 私が今からあなたの仕事を手伝います。
     その"見返り"として、先ほどの人形を戴きます。 これなら、公平でしょう?」

途中で名案閃いたトソンは、生徒に魅力的な提案をする。

(゚ー゚トソン「ね?」

珍しく、笑顔を浮かべながら。

( ゚д゚ )「ううっ…… 分かりました、じゃあ。 区別の指揮をしていただければ助かります」

心臓をバクバク鳴らしながら、ミルナはトソンの笑顔を目に焼き付け。
耐えきれず眼を逸らした。
明後日の方向を見ながら、ミルナはそれっぽい理屈を並べてトソンに出来るだけ楽な仕事を任せる事にする。
景品の区別ぐらいミルナ一人で十分な作業なので、実際はトソンに仕事はほとんど無い。

(゚、゚トソン「区別? つまりは女子供むけか、男向け商品かという区別ですね。
     いいでしょう、そんな事は朝飯前です。 ……っ!」

無表情で了承したトソンが、次の瞬間頬を赤らめた。
トソンのお腹から、可愛らしい音が聞こえたのだ。
思わずミルナは小さく吹き出し、何か吹っ切れた笑顔で提案した。
互いに緊張していたのだ、その糸が切れれば笑ってしまうのは無理も無い。

( ゚д゚ )「……本当に朝飯前なんですね。 後で一緒に飯でも買いに行きますか?
     確か、向かいのJ07に美味いタコスを出す店があるんですよ」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:39:15.98 ID:FBum1dKw0
J07に出店するタコス専門の露店、"ターコイズ"。
j18の北西に位置するターコイズの味は、それこそ絶品の逸品。
値段の割には量が多く、食べ応えも腹持ちも十分。
朝御飯を食べていないなら、昼飯も兼ねて食べるのには最適だ。

(゚、゚*トソン「そうですね、実はタコスを食べた事ないんです。
     とても楽しみです」

気恥かしげに頬を赤らめながら、トソンは小さく呟いた。
それを見て、ミルナはよしと頷く。

( ゚д゚ )「じゃあ、始めましょう。 っと、これ結構重い…!
     何が入ってるんだ?」

さり気なくトソンのお腹事情から話題を逸らし、ミルナは手近にあった段ボールを持ち上げて、思わず唸り声を上げた。
ミルナほどの男が、危うくぎっくり腰になりそうになった程の重さの正体を探るべく。
ミルナは"名探偵並の推理力がある家政婦"の心境で、段ボールの蓋を開けた。
そこにあったのは、お世辞にも可愛いとは言い難いネコのぬいぐるみだった。

( ゚д゚ )「何とも不細工な… 何でこんなに重いんだ?
     トソンさん、これどうします? 重いから女子供には向きませんよ」

そう言いながら、ミルナは段ボールの蓋をしめ、近くに転がしていたガムテープで封をする。

(゚、゚トソン「在庫としてそこらへんに積んでおけばいいでしょう」

トソンとミルナの思惑が一致し、ミルナはそれを店の隅に積んだ。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:44:08.24 ID:FBum1dKw0
( ゚д゚ )「あい。 次は……
     これは文句なしに男向けですね」

そう言ってミルナが新たな段ボールから取り出したのは、薄紫と空色でペイントされたゲームに出てくるような銃だった。
外見とは裏腹に、その作りはしっかりとしており、玩具だけでなく鑑賞用としての役割を果たすと、大人の間でも有名な玩具だった。
しかし、トソンは興味なさそうに。

(゚、゚トソン「なんですか、そのBB弾が余計に一発ぐらい出そうな名前の玩具は?」

触れてはいけない部分に、触れてしまった。

(;゚д゚ )「それ以上は言ったらダメっす!」

堪らずミルナは声を張り上げ、制止に入る。
だが、トソンの追撃は止まない。
同じ段ボールに入っている別の玩具を指さし、口を開いた。

(゚、゚トソン「その横にある孔雀が冠を被ったロゴの、霊験あらたかそうなお札は?」

(;゚д゚ )「ノオオオオオン!」

急いでそれらの入った段ボールを覆い隠し、段ボールで二重三重に封をする。
怯えた目でトソンを見上げ、ミルナは小刻みに体を震わせた。
それを不思議そうに見つめ、トソンは口を開いた。

(゚、゚トソン「なんでそんなに必死なんですか?」

( ゚д゚)「いろいろあるんですよ、こっち側には」

( ゚д゚ )「ね?」

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:49:14.55 ID:FBum1dKw0
――――――――――――――――――――

ミセリとトラギコに任された酒処は、k12という極めて奇妙な場所に位置している。
すぐ後ろに路地道、もとい裏道を控えているのだ。
その道は通常の路地裏のそれとは違い、二廻りほど道幅が大きかった。
その訳は、裏通りの中でも最も有名な建物。

"ホテルニューソク"が、その道の一直線上に建っているからだ。
北西の端に位置するラウンジタワーと反対に、歯車城の東南の端、10キロ地点にホテルニューソクは建っていてた。
先の歯車王暗殺の際、レールガンの直撃を受けて営業が停止に追い込まれさえしなければ。
今頃は観光客が金を落とし、賑わいを見せていただろう。

レールガンの直撃によって破壊された建物の一部の修理は、思いのほか難航していた。
如何なるわけか、裏社会の業者達は悉く修理の依頼を拒否し、表社会の業者達もなかなか首を縦に振らなかったのだ。
おかげ様で、素人の作業員で構成された超弱小業者がその工事を受け持って今に至る。
進み具合の程は最悪で、まだ設計図すら描き終えていないそうだ。

かつてラウンジタワーとその売り上げを競い合った事など、もはや過去の錆びれた栄光だ。
その錆びれた栄光にトドメを与える事になったのが、k12の酒処だった。
一応、その他の道からそこに行くこともできるのだが。
例外なく裏路地を右に左に動き回り、素人の作業員はそこに辿り着く前に身ぐるみ剥がされ野良犬の餌必至。

観光客が勝手に路地裏に入らないように、今はフェンスの代わりとして店舗がそれを塞いでいた。
つまり、ホテルニューソクの復興は祭りの期間中の復活は不可能であり、ホテルニューソクの経営者はその権利を先日、誰かに譲り渡したとの事。
誰がその権利を購入したのかは今のところ分かっていないが、相当な金額だったのだけは確かだ。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:53:10.04 ID:FBum1dKw0
ミセ*゚ー゚)リ「トラギコさん、このグラスどうします?」

そんな事とは関係なく、やはり世界の歯車は回っていた。
例えば、そう。 祭りの準備に邁進するミセリとトラギコも、例外では無い。
ミセリはグラスの入った段ボールを長方形のテーブルの上に置いて、トラギコに振り返った。
視線の先ではトラギコが酒の入ったケースを抱え、丁度それを床に置いたところだ。

(=゚д゚)「あー、それラギか。 それは、そうラギね……
     そこの棚に飾ってけばいいと思うラギ」

そう言ってトラギコは、ミセリの背後を指さした。
そこにはグラスを収納する為の棚が、雄々しく備わっている。
トラギコの提案にミセリは頷き、笑みを浮かべた。

ミセ*゚ー゚)リ「分かりましたわ。 ありがとうございます」

感謝の言葉を述べたミセリの声に、トラギコは眉をひそめた。
  _,
(=゚д゚)「……礼儀正しいのはいいことラギ。
    でも、"偽って"話しかけるのは感心しないラギ。
    どうして人と話すときに反射的に偽るラギ?」

その言葉に、ミセリは一瞬だけ動揺した。

ミセ*゚ー゚)リ「何のことですか?」

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:57:06.64 ID:FBum1dKw0
聞き返したミセリの声が、少し震えているのにトラギコが気付けたかどうか。
出来るだけ冷静を装い、ミセリは笑顔を崩さない。

(=゚д゚)「まぁ、この先連携を乱すわけにはいかないラギ。
    だから、今は特には言わないラギよ。
    だけど、これだけは言っておくラギ」

そう言いつつ、トラギコはミセリに歩み寄る。
特に威圧的な雰囲気はなく、あるのは柔和な雰囲気。
だからミセリは、トラギコがすぐ目の前にまで歩み寄って来ても特に警戒はしなかった。
その手が、"ゆっくりと上がっているのを見ても尚"、ミセリは眉ひとつ動かさない。

(=゚д゚)ノ「気張らずに、そのままでいいラギ。
     あんまり気張ってると、その内自分を見失うラギよ」

そう言って、トラギコはミセリの頭に手を乗せて。
優しく撫でまわした。
猫のように眼を細め、ミセリはそれを受け入れる。
その図は、仲の良い兄妹その物だ。

もともと一人っ子だったミセリにとって、この温もりは心地よく。
心がとても温かくなる。
まるで、春の陽だまりで日向ぼっこをしているような。 満開の桜の下で、春風に吹かれるような、そんな温もり。
だからミセリはもう少しだけ、このままでいたいと願った。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 23:02:20.60 ID:FBum1dKw0
―――ATTENTION!!―――
ここから先、作者が閲覧注意と判断した表現、展開が待ち構えております。
心の準備をしないでいると、思わぬ衝撃を受ける可能性があります。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 23:06:36.56 ID:FBum1dKw0
ドクオは目の前の光景が、冗談にしか思えなかった。
何を初めに言ったらいいものか。
兎に角、状況を整理しよう。
ファミレスに入り浸っていたら店員から追い出しを喰らい、都のパトロール開始までの暇な時間を自宅で潰そうとしたのだが。

この時までドクオはすっかり忘れていた。
あの拡大会合以来、自宅に帰らなかったのはドクオに非がある。
それは認めよう。 何せ、ドクオは漢だ。
忘れていたのは帰宅の事ではなく、"自らドアを破壊してしまった事"だった。

この都で閉じまりをしていない家なら、まず間違いなく空き巣の被害を被る。
ドアが破壊されている家となれば、尚更だ。
無論、ドクオの部屋も被害を被っていた。
何もカビたドアをわざわざ踏み抜き、布団を蹴散らして荒らさなくてもいいのに。

独自の進化を遂げたカビたちも、流石に防犯能力は手に入れていなかったらしい。
見る限り、タンスの中にしまっていた通帳も盗まれているだろう。
さて、この行き場の無い憤りをどうしてくれようか。
そうドクオが思案していると。

「……マジでバーローな奴がいるもんだなぁ!
 家のドア壊しっぱなしで外出するなんて!」

ウンコ座りで独り言を呟いている金髪の馬鹿がいた。
どうやらこの家が空き巣の被害にあったのは数分前の事で、更にその犯人は間抜けにも。
"犯行現場から立ち去らずにドクオに背を向ける形"で、台所の片隅で収穫物を眺めている。
どう見てもまともな教育を受けた雰囲気は感じられず、どこかの勘違いした高校二年生がそのまま五歳、年を取ったように見える。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 23:10:17.58 ID:FBum1dKw0
('A`)「おいそこの馬鹿。
   警察には通報しないでやろう、だから盗んだ物を全部戻して、部屋を掃除して、ドアの修理代をよこせ。
   な?」

足音を立てずに男の背後に近づき、ドクオは出来るだけ優しく空き巣の男に話しかけた。
しかし、心の底から湧き上がる憤怒を男にくれてやる事は忘れない。
ドクオの声に、男はそれまでの独り事を中断した。
室内は薄暗いが、男の顔を視認するには問題ない。

(`ェ´)「あぁん? なんだお前?」

そう言って男は振り返り、ドクオを睨み上げた。
巻き舌で高圧的な態度を取っているのを見て、ドクオは思わず吹き出しそうになった。
ここまでテンプレート通りの馬鹿がいるとは。
そう考えている事が顔に出たのか、男は顔を歪めながら立ち上がった。

(`ェ´)「っ手前! 俺を馬鹿にしてるのか?!
     ぶち殺して犬の餌にするぞ!」

男が叫ぶのと、その手が腰の凶器に伸びるのは同時だった。
乱雑に抜き放ったベレッタM92Fを銃口がドクオに向け、撃鉄を起こす。
その眼に狂気が宿っているのを、ドクオは冷静に見咎めた。
銃を構える手が震えていることから、"危ない薬か白い粉"をやっているのは間違いない。

(`ェ´)「おい、どうしたよ? さっきの威勢はどこにいったんだよ!
     ブルっちまってるのか? なぁ、そうだろう、そうだよな!」

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 23:15:35.41 ID:FBum1dKw0
これはいよいよ、本格的にイカレている。
話している間にも声の調子が変わる男に、ドクオは全く恐怖を感じない。
それでもわざとらしく両手を上げて、ドクオはこれ見よがしに溜息を吐いた。
ドクオの思惑通り、男はその行動に喰らい付く。

(`ェ´)「馬鹿にしてっと、本当にぶっ殺すぞ!」

目線が明後日の方向に向いているのを見るに、薬が切れて来たのだろうか。
唾を飛ばしながら、男は構えた銃を前に突き出す。
確かに威圧感は与えられるかもしれないが、ドクオから見たら。
―――典型的な馬鹿だ。

('A`)「お前なぁ、せめて安全装置ぐらい解除しろよ…」

(`ェ´)「え?」

ドクオの指摘に、男は手元の拳銃に目線を向けた。
親指の近くに備え付けられた安全装置に目を凝らすが、安全装置は上がっていない。
つまり、安全装置は掛かっていないという事だ。
ドクオの吐いた嘘に、男は顔を真っ赤にして怒りを露わにした。

(`ェ´)「て、手前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

充血した右目だけをドクオに向け、男は銃爪を引いた。
だが、男が銃爪を引き切る事は遂に無かった。
いつの間にか接近したドクオが、男の拳銃に手を伸ばし。
"強引に安全装置を掛けた"のだ。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 23:20:19.77 ID:FBum1dKw0
('A`)「安全装置が掛かってたら、撃鉄は起こせない。
   それも知らないのか、本当に救いようの無い馬鹿だな」

(`ェ´)「ぐ、ぐぐ、ぐぐ!」

何度も銃爪を引くが、決して引き切る事はない。
男の手から拳銃を強引に奪い取り、ドクオはその銃床で男の鼻っ面を思い切り叩いた。
拳銃の中でも最も硬い部位で叩かれたのだ、男は折れた鼻を押さえながら悶絶する。
その頭上に、ドクオはもう一度銃床を叩きつける。

(`ェ´)「オブフゥッ!?」

銃床に血の付いた拳銃を投げ捨て、ドクオは自身の懐からM8000を素早く抜き放つ。
わざわざ男に聞こえる様に撃鉄を起こし、何の前触れもなく男の左耳を"撃ち抜いた"。
撃ち抜いたというよりは、吹き飛ばしたという表現が適切だろうか。
耳たぶだけを残して跡形もなく"消し飛んだ"男の左耳から、ダラリと血が垂れる。

(`ェ´)「ビャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア?!」

激痛に顔を歪め、男は床に転がって絶叫を上げる。
そんな事をすれば、余計に血が流れると言うのに。
と言うより、床に血が付いて後々面倒な事になるのだ。
"掃除"をする人の身にもなってほしい。

('A`)「五月蠅い、少しは黙れないのか?」

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 23:25:35.20 ID:FBum1dKw0
男の腹部を思い切り蹴り付け、のた打ち回るという迷惑極まりない行為を止めさせる。
しゃがみ込んで、床にうずくまる男を虫けらのように見つめるドクオの両眼には、暗い光が宿っていた。
耳と鼻を押さえる男の頬に銃口を抉り込むように押し付け、ドクオは小さく呟く。

('A`)「修理代、それをよこせば命だけは助けてやるよ。
   金を出せ」

(`ェ´)「ビャ、ビャアアアアアアアアアア!!」

ところが左耳を吹き飛ばされた男には、ドクオの言葉が聞こえていないのだろうか。
男はただ、絶叫を上げて悶絶するだけだ。
仕方が無い、今度は膝でも撃つか。
―――ドクオがそう考えた時だった。

(`ェ´)「うぉらああああ!!」

耳から流れ出る血をドクオの眼元に投げつけ、男は左ポケットから取り出した"折りたたみ式のナイフ"を二動作で抜き放つ。
それをドクオの心臓に向けて突き出すが、ドクオには無意味だった。
"奇襲を仕掛けるのに、奇声を上げて"どうするのか。 持っていた拳銃を放り捨て、ドクオは迎え撃つ。
男の攻撃を紙一重で"往なした"ドクオは、突き出されたナイフではなく、男の左手首を掴み上げる。

掴んだ手首に梃の原理を利用して、手首の骨に対して激痛を与える。
その気になれば男の手首の骨をへし折れるのだが、残念ながらドクオにその力は無い。
激痛の中でもナイフを手放さない男の心意気は賛嘆に値したが、この場合は"無謀"だった。
手首を掴んでいるのとは別の手で、ドクオはナイフを掴む男の手を握る。

―――否、正確に言えば。
"ナイフごと男の手を握った"のだ。
折りたたみ式のナイフの利点を利用して繰り出されたその一撃は、幸か不幸か、"男の左手の指四本を切り落とした"。
ボトリボトリと、男の指が床に落ちる。 男の左手に残っていた最後の一本も、ドクオは容赦なく後ろに折った。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 23:30:29.17 ID:FBum1dKw0
('A`)「言わんこっちゃない。 ほら、財布はどこだよ?」

面倒くさげに溜息を吐き、ドクオは傍に落ちた自分の拳銃を拾い、容赦なく男の腿を撃ち抜いた。
二発、三発と連続して発砲し、男の精神を完全にへし折る。
それまで絶叫を上げていた男は遂に大人しくなり、怯えた眼でドクオを見上げた。
流石の薬中も、激痛と命の恐怖には素直になるしかなくなったのだ。

(`ェ´)「み、右のポケット…! た、助け」

('A`)「知らん」

そう言ってドクオは男の体をひっくり返し、右ポケットを探る。
取り出した財布の中身を確認し、現金だけを抜き取った。
これだけあれば、ファミレスにまた入り浸れるだろう。
そもそも、この家はもう見切る事にしたのだ。 さようなら、カビ。

('A`)「俺はお前に生きるチャンスをくれてやった。
   それを捨てたのは、お前自身だ。 もう少しこの都のシステムを理解してれば、長生きできただろうよ。
   おまけに、お前は薬をやってる。 "最低の親不孝者の屑"には、死が相応だ」

ドクオは現金を懐にしまい込み、代わりに携帯電話を取り出した。
なじみの店に電話を掛け、二言三言交わして電話を閉じる。

('A`)「じゃあな」

ドクオの言葉と、乾いた銃声が響いたのは同時。
薬莢が床に落ちるのと、吹き飛んだ男の脳漿が床にぶちまけられるのも同時だった。
階段を下りるドクオの足音と湿った空気だけが、その場に残った。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 23:36:30.75 ID:FBum1dKw0
―――――――ATTENTIONここまで――――――――

各々が死力を尽くして露店の準備を完成させた翌日。
祭りの前日と言う事もあって、拡大会合の場は緊張と疲労と興奮で満ちていた。
死んだように机に突っ伏しているギコ、その頭を撫でるペニサス。
明日の予定に念入りに目通しするヒート、それをサポートするシャキン。

異様に眼が輝いているミルナ、腕を組んで眼を閉じているトソン。
商品の酒を味見しているトラギコ、同じく酒を飲んでいるミセリ。
明日の露店組はそれぞれの思惑を抱いたまま、今この場にいた。
一方で、明日の遊撃隊は妙なざわめきを胸に感じていた。

台風が来る前の曇天、もしくは遠足の前夜。
そんなざわめきの正体は、おそらくは明日のプレ・パレードに対する期待だろう。
総勢30万人の参加が予定されている、今回のプレ・パレード。
如何なるパフォーマンスが繰り広げられるのか、興味に堪えない。

ζ(゚ー゚*ζ「さて、いよいよ明日に歯車祭が始まります。
       興奮しすぎて眠れなくならないように、今夜は寝酒でも呑んでください。
       あと、いまさらだけど幾つか追加点があるから。
       別に対して問題ない事だから、心配しないでね」

デレデレが口を開いたため、全員はそれまでの雑談をぴしゃりと止める。
突っ伏していたギコも、声を聞いて反射的に表を上げた。
全員が聞く姿勢になったのを確認し、デレデレはコホンと小さく咳払いをする。
そして、どこまでも透き通った声で続ける。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 23:41:13.12 ID:FBum1dKw0
ζ(゚ー゚*ζ「私達御三家の"親"は、ギコ達の店に所属するから。
       以降、私達のグループは"デイジー"と呼称します。
       流石に二人じゃ、あの店は回しきれないでしょう?」

想いもよらぬ優しさに、ギコはボロボロと涙をこぼした。
しゃっくりを上げ、どう見ても大人の男の泣き方では無い。
ギコの疲労がピークに達している事もその要因であったが、別の要因もあった。
デレデレの飴と鞭の使い方は、目を見張るものがある。

だからだろう、彼女の元に惹かれた人が自然と集まるのは。
ガタイの良い男、"阿部"と呼ばれていた男もその内の一人だった。
通称"穴掘り"。 ミセリの弟子であり、都で数少ないゲイバーを経営する男だ。

ζ(゚ー゚*ζ「あっーと、忘れるところだった。
       当日、これを全員首から下げてください」

そう言ってデレデレは、どこからか大きめの赤い巾着袋を取り出した。
中に手を突っ込み、中身を掴んでそれを皆に見せる。
それは、少し大きめの赤色の御守りだった。
シンプルながらも温かみがあるそのデザインは、明らかに手製のそれだ。

ζ(゚ー゚*ζ「私頑張ったわよ〜。 一つ一つ縫うの、これがまた大変でね〜。
       針が指に刺さったから、思わずでぃに舐めてもらっちゃったわよ キャッ♪」

可愛らしく御守りの説明をしていたデレデレが、その表情を変えた。
子供の悪戯を咎める優しい母の、その表情。
クールノーファミリーの一員ならば、誰もが恐怖を感じざるを得ない表情だ。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 23:46:39.10 ID:FBum1dKw0
ζ(゚、゚*ζ「そうそう、くれぐれも中身を開けて確認するなんて事はしないように。
      ね、ヒートちゃん?」

さり気なく御守りの中身を見ようとしていたヒートは、デレデレの言葉を聞いて思わず体をビクッとさせた。
母親に悪戯が見つかった子供のように、ヒートは明後日の方向に目を逸らす。
しかし、如何なる力かデレデレが澄んだ瞳を向けているだけなのに、ヒートの背中には冷や汗が流れていた。

ノハ;゚听)「ご、ごめんなさい……」

"あのヒートが"不思議な力に負け、デレデレの眼を真っ直ぐに見て謝罪の言葉を述べる。

ζ(^ー^*ζ「よろしい。 さて、まだ配る物はあります」

満足げに頷き、デレデレは元通りの笑みを浮かべた。
今度はデレデレの横に控えていたでぃが、これまたどこからか取り出した二つのジュラルミンケースを円卓の上に置いた。
一つは黒塗り、もう一つは銀色のケースだ。

(#゚;;-゚)「売り上げを入れるケースだ。 こちらが指示を出すまで、決して開けないように。
     もしも指示なく開ければ。 ケースは無事だが、開けた者は火星まで吹っ飛ぶ」

でぃのさらりと恐ろしい言葉に合わせて、犬神3姉妹がそれぞれの店舗の担当者の前に同型の2ケースを置いた。

ζ(゚ー゚*ζ「さーて、これで会合は終了!
       いよいよ全部が始まるわよ! これからが楽しいんだから、みんな精一杯頑張りましょう!」

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 23:52:43.15 ID:FBum1dKw0
手を打ち鳴らし、デレデレは全員に起立を求めた。
如何なる訓練を積めば、これほど綺麗に起立出来るのだろうか。
音もタイミングも完全に一致し、その場で着席していた全員が背筋をまっすぐに伸ばして起立し、デレデレを注視した。
デレデレが次に紡ぐ言葉に、全員が期待をする。

ζ(^ー^*ζ「全力で、燃え尽きるまで、炭ではなく、燻りもしない、真っ白な灰になるまで!
        一緒に頑張りましょうね! Let's prepare for warfare!」

世界の何もかもを抱擁する笑みで、全てをすり抜けるほど透明な声で。
デレデレは言葉を紡いだ。
それに対し、その場の全員が返したのは。
"全てが一つとなった声"、だった。

        『Yes,Ma'am!』

会議室が空気が、音の衝撃で振動する。
しかしそれはとても頼もしく、決して騒音の類には分類されない。
それはまさに、母に絶対の信頼を置く者達の心の声であり、唄だった。

―――もう二度と揃う事の無い、唄だった。

第二部【都激震編】
第十七話 了


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