('A`)と歯車の都のようです

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 20:33:58.70 ID:xIw46Hck0
一台のハンヴィーが、暗い路地裏を猛然と駆け抜けている。
ヘッドライトは当然の如く消しており、その速度と相まって発見は困難である。
更にグレーを主体とした市街戦用の迷彩が、その姿を闇と建物の陰に同化させていた。
エンジン音さえ無ければ、遠目からの発見はまず不可能だ。

その車体の所々に銃弾による傷が窺えるが、どれも致命傷には至っていない。
後は、フロントバンパーが僅だが陥没していた。
元々が軍用の車両である為、この程度では全く問題は無い。
もしもこれが、普通乗用車だったのならば、事態は大きく変わっていただろう。 無論、悪い方向に。

車の天井部には、M2重機関銃が備え付けられていた。
ただし、残された弾の帯は30センチほど。
これでは、5秒間の連射すら出来ない。
少しだけ実用的なオブジェとして、今は車の揺れに合わせてガタガタと震えている。

つい先ほどまでその銃座に着いて銃弾を撒き散らしていたミルナは、今は車内で手にしたMP5Kの調子を見ていた。
別に、今は追われているわけではないのだが、油断禁物とはよく言ったものだ。
嘗ての経験上、銃器の調子を見ておく事は半ばミルナの癖である。
M2が使えない今、ある武器はこのMP5Kだけだった。

(;゚д゚ )

ところが実は、ミルナはそれどころではなかった。
MP5Kの整備は、とっくに終わっている。
むしろ、この後MP5Kなんて多分使わないだろうから、整備の必要性は非常に低い。
それでも、ミルナがMP5Kの調子を見ているのには、理由があった。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 20:37:19.73 ID:xIw46Hck0
(-、-トソン「すぅーっ……」

ミルナの肩に寄りかかって寝息を立てているトソンが、ミルナの心を乱しているのだ。
時折、トソンが肩に乗せた頭を動かす度、ミルナの鼻腔を甘い香りがくすぐる。
香水や、シャンプーの香りとは別の種類の香り。
あまり異性に耐性の無いミルナにとって、その香りは未知であると同時に興味の対象であった。

その香りの正体は、女の香りだった。
それも、ミルナの"意中の女の香り"ともなればまた格別。
おまけにそれは、禁断の果実にも似た中毒性がある。
一度嗅いでしまえば、いくら心で拒もうとも、体が求めて止まない。

(;゚д゚ )

目的地であるロマネスク一家までは、後数分と言った所だ。
その間に曲がるカーブの数は、実に5以上。
つまり、少なくとも最低で5回以上はこの拷問にも似た時間を耐えなければならない。
過去の経験上、ミルナは忍耐強い方だったのだが、流石にこれには耐える自信が無かった。

今すぐ鼻の穴を広げて、トソンの香りをもっと堪能したいという衝動を抑えなければ、ミルナの渾名が"変態紳士"になってしまうのは必至。
それだけは御免被るので、ミルナはどうにか意識を他に向ける為にMP5Kの整備に勤しんでいるのだ。
最も、その行為は気休め程度にしかなっていない。
整備が四週目に入った時、ミルナはトラギコがバックミラー越しにニヤついている事に気付いた。

(;゚д゚ )「頼むからこっちを見ないでくれ……!」

トソンが横で寝ている事もあり、ミルナは声をひそめてトラギコに懇願する。
それを聞いたトラギコは、一瞬だけ意地の悪い笑顔を浮かべた。
だが次の瞬間には、不自然な程に澄ました顔で目線を前に向ける。
ハンドルをゆっくりと回しながら、トラギコはこれまた不自然な程に落ち着き払って答えた。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 20:41:06.68 ID:xIw46Hck0
(=゚д゚)「べっつに〜ぃ?  見てないラギよ。 なぁ、ミセリ?」

露骨にそんな事を言ってのけ、トラギコは助手席のミセリに声を掛けた。
あらかじめ打ち合わせていたかのように、ミセリもトラギコと同じ表情を浮かべる。
しかし、トラギコ程上手く落ち着いた表情は浮かべられないようだ。
微妙に口元をゆるめながら、ミセリは何か良いモノでも見たかのように声を弾ませ答えた。

ミセ*゚ー゚)リ「えぇ、私たち、何も見てないですわよ?」

二人とも、まるで"出来たての初々しい恋人同士"を見るような目をしている。
おまけにバックミラー越しに、と言うのが腹立たしい。
だが、おかげでミルナの意識はトソンから僅かだが離れることに成功した。
一応は、感謝をするべきなのだろうか。

(;゚д゚ )「ちくしょう……」

小さく呟き、ミルナは手にしたMP5Kを自身の脇に置いた。
溜息交じりに、目を横に向ける。
普段気を張っているトソンも、流石に寝ている時は気が緩むようだ。
いつもは見せないような表情で、トソンはまどろみの中。

(-、-トソン

よくもこの状況で寝られると感心する半面、ミルナは誇らしくもあった。
如何なる理由かは分からないが、トソンはミルナを信用してくれている。
それは、トソンがミルナに心を許している事の表れだ。
そんな事を思っていると、トソンに変化が訪れた。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 20:45:06.33 ID:xIw46Hck0
(-、-トソン「んっ……」

うっすらと瞼を開き、何度も瞬きをする。
そして、その目をミルナへと向けた。
半ばまで開いた目が、焦点を揃える。
寝ぼけ眼でミルナを見上げ、やがて完全に瞼が開く。

(゚、゚;トソン「あっ……」

ようやく自分の状況を理解したのか、トソンは声を上げて急いでミルナの肩から身を離す。
表情を覆い隠すようにして両手で顔を覆い、そのままの状態で少しだけ黙り込む。
本人を除いた他の三名は、その様子を驚きの表情で凝視した。
トソンが両手を顔から外すと、そこにあったのはいつものトソンの顔だった。

(゚、゚トソン「ふぅ…… 後、どれくらいで着きますか?」

何事も無かったかのように、トソンは運転席に声を掛ける。
思わずこけそうになったのを、ミルナ達は辛うじて堪えた。
流石は"鉄仮面"の渾名を持つだけあり、トソンのポーカーフェイスは一級品だ。
ここまで完璧なポーカーフェイスをされては、誰も何も言えない。

(;=゚д゚)「あ、あぁ…… 後10分、ってところラギ」

多少の戸惑いを見せながら、トラギコはバックミラーから目を離して答える。
もしもその動作が一瞬でも遅れていれば、トソンの視線に耐えかねてトラギコは失禁していたかもしれない。
必死に意識を運転へと移し、トラギコは目的地に着くまで大人しくする事を心に固く決めた。
慣れない口笛を吹いて、自身の無害さをアピールする。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 20:50:12.38 ID:xIw46Hck0
(゚、゚トソン「……そうですか」

それを理解したのか、トソンは一言だけ言って沈黙した。
あのミセリですら、黙って窓の外に目をやっている。
トソンと仲が良いミセリが黙っていると言う事は、それなりに深刻な事態らしい。
触らぬ神に祟りなしとは、正にこの事だ。

絶対零度の沈黙の中、誰も口を開こうとはしない。
むしろ皆、唇が凍りついてしまったかのように、口が開けないのだ。
先程までは気付かなかったが、タイヤが砂利を踏みつけ、エンジンが回転する音は思いのほか大きい。
それはこの沈黙の中では、耳触りで喧しいだけだった。

しかし、その騒音の中で。
横に居るミルナにしか聞こえない声量で、トソンがそっと呟いた。

(゚、゚トソン「すみません、迷惑を掛けてしまったようで……
     あと……」

思わず聞き返そうとしたミルナを、トソンが目で制す。
黙って話しを聞け、と言う事らしい。
どうやら、ミルナ以外には聞かれたくない話のようだ。
トソンはちらりと前に目をやり、二人が気付いていない事を確認する。

腰を浮かせてミルナとの間隔を詰め、トソンはミルナに体を寄せた。
この距離なら、まず他人に聞かれる心配は無いだろう。
ただし、ミルナの高鳴る心臓の鼓動がトソンに聞かれかねない程近い。
あまつさえ、トソンの息使いさえ聞こえてしまう。

(゚、゚トソン「前から訊きたかったのですが、ミルナさんは―――」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 20:54:21.92 ID:xIw46Hck0
  _,
(;=゚д゚)「思ったよりも早く着いたラギよ。
……って、二人で何してるラギ?」

流石のトラギコも、トソンとミルナの状態を見ては眉を顰めざるを得ない。
ミルナを押し倒す形で、トソンが上、ミルナが下。
微妙にエロティックな体勢の為、事情を知らぬ者がその様子を見たら"トソンによる逆レイプ"だと勘違いしただろう。
だが、それとなく事情を理解したトラギコは、気を利かせてそれ以上何も言わなかった。

ミセ;゚д゚)リ「oh!」

しかし、事情を理解出来なかったのか、ミセリが声を出してしまった。
小動物の様にビクリと体を震わせたかと思うと、トソンはそのまま動こうとしない。
徐々にトソンの顔が赤く染まり、口元が震えだす。
"鉄仮面"の威厳と渾名はどこへ行ったのか。

(゚、゚;トソン「ち、ち、ち、ちちが……」

乳?
思わずそう聞き返そうとして、ミルナは結局口を開くことは出来なかった。

(;゚д゚ )「あ、あわ……」

ミルナの瞳を見つめるトソンの眼が、ミルナに発言を許さない。
下手な発言は、寿命を縮めるだけだ。
助けを求めて視線を動かし、旧友を探す。
が、しかし。 トラギコは手も足も出せないという半面、何かを楽しんでいる表情をしていた。

(=゚д゚)「……じゃあ、先に降りるラギ。
     ミセリ?」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 20:58:20.17 ID:xIw46Hck0
ミセ*゚ー゚)リ「そうですわね、じゃあ後は若い者同士に任せて」

おまけに、妙な気まで回してきた。
と、言うか。
二人とも、こちらの反応を楽しんでいる。
好奇の目線を向けたまま、二人は先に下車した。

(゚、゚;トソン

(;゚д゚ )

二人揃って沈黙していると、非常に気まずい。
しかも、この体勢。 もとい、この体位。
あまりに緊張していた為、車外から向けられる複数の視線に二人とも気付けなかった。

(゚、゚;トソン「わ」

(;゚д゚ )「お」

どちらともなく声を上げ、互いに押し黙る。

(゚、゚;トソン「わ、私達も降りませんか?」

結局、ミルナよりも気が動転していたと思われていたトソンが、持ち前の気力で先に声を出した。
丁度ミルナも同じことを言おうとしていた為、壊れた人形の様に頷いて同意する。
先にトソンがミルナから離れ、続いてミルナも離れた。

(;゚д゚ )「す、すみません、自分……」

(゚、゚;トソン「とにかく、降りましょう。 話はまた後で」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 20:59:39.06 ID:xIw46Hck0
兎にも角にも、こうして"サラマンダー"と"ダスク"は無事目的地に到着した。
時は夕方、黄昏時である。

【時刻――16:18】

――――――――――――――――――――

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 21:00:43.22 ID:xIw46Hck0
暗い路地裏の闇を、一筋の白光が切り裂く。
同時に甲高い特徴的なエンジン音が、辺りを支配していた静寂を破り裂いた。
スズメバチの羽音にも似たそれは、一台のネイキッドバイクから発せられている。
バイクの速度は先ほどから落ちる事はなく、150キロを保っていた。

白銀色に輝くその車体には、一組の男女が乗っている。
ハンドルを握るのは、黒衣を纏う奇妙な格好の男だ。
顔中を覆い隠す白い包帯が、黒衣と対になって奇妙さを際立たせていた。
その包帯の下から覗く眼は、モノクロの格好とは異なり、綺麗なスカイブルーをしている。

男の後ろで、振り落とされないようにしっかりと抱き付いている女もまた、綺麗な碧眼をしていた。
ただし、今は瞼を下ろしている為、その碧眼は見ることが出来ない。
前から吹き付ける風に、女の金髪が合わせ靡く。
その姿は、幻想的な絵画よりも尚幻惑的に美しかった。

男、オサムはハンドルを切り、素早くカーブを曲がる。
女、ツンはその度にオサムの腰に回した腕に力を込めた。
オサムの背中に顔を押し付け、ツンは目を閉じ、風の音とオサムの心臓の鼓動に耳を澄ませていた。
力強く吹き付ける風とは違い、オサムの心音はゆっくりとしている。

その心音は聞いているだけで気分が落ち着き、全ての事態を冷静に見ることができる。
先ほど発生した事態も、今では冷静に見ることが出来た。
何故だか解らないが、自分はあの男に銃口を向けるのを躊躇ってしまった。
その原因だけは分からなかったが、それとは別に幾つか判った事がある。

フォックス・ロートシルトは、まず間違いなく自分達の敵であり。
それに付き従っていたブーンもまた、敵である。
次にもし、連中に会ったのならば。
躊躇い無く銃爪を引く。 無論、脳天を撃ち抜いて、だ。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 21:04:05.40 ID:xIw46Hck0
許婚だかなんだか知らないが、もう容赦はしない。
もっとも、あの速度で転倒して、挙げ句の果てに爆発に巻き込まれたのだから、生きているはずがない。
生きていたとしたら、よほど悪運が強いか、人間で無いかの二択だ。
強い決意を胸に抱き、自然とツンは腕に力を込めていた。

【=】ゞ゚)「どうした……?」

それを勘付かれたのか、オサムが声を掛けてきた。
しかし、ツンはオサムの背中から顔を離そうとはしない。
何せ、時速150キロの上にヘルメット無し。
この状態で車体から落ちれば、まずタダでは済まない。

受け身を取る事が出来たとしても、全身複雑骨折を免れる事は出来ないだろう。
当然、そんなヘマはしないが、念の為に。

ξ゚听)ξ「何でも無いわよ、気にしないで」

不器用にそう答え、ツンはそれっきり黙る。

【=】ゞ゚)「さっきの男か……?」

―――見抜かれてしまっていた。
どうにか心の底に押し隠していたのだが、この男にはどうやら嘘は通じないらしい。
腹立たしい半面、驚きだ。 この男、意外と鋭い所がある。
観念して、ツンはそのままの体勢で答えた。

ξ゚听)ξ「……えぇ、そうよ」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 21:08:38.85 ID:xIw46Hck0
だが、見抜かれているとはいえ、オサムに事細かに語る必要は無い。
何せ、オサムは何の関係も無いのだ。
身内ならまだしも、こんな奇妙奇天烈摩訶不思議男に何かを語るなど、金輪際有り得ない。
下手に心を許してしまう程、ツンは耄碌していなかった。

【=】ゞ゚)「そうか……」

それが体越しに伝わったのか、オサムは詳細を訊こうとはしない。
オサムの声がどこか寂しげに聞こえたのは、風の悪戯だったのだろうか。
それっきりオサムは何も言わず、ホーネットのスピードを上げた。
まるで、何かを誤魔化すかのように。

―――ホーネットのエンジン音が、二人の代わりに静寂を破り裂く。

本音を言えばツンは、オサムの事が心の底から大嫌いと言うわけでは無かった。
下手に気を遣わないで済むし、酒の趣味も合う。
抱き心地も良いし、何より一緒に居て落ち着く。
ただそれでも、簡単に心を許すつもりはない。

ツンの心にある"境界線"を越える事が許されるのは、家族だけである。
彼女にとって、家族以外は"他人"でしかないのだ。

【=】ゞ゚)「後少しで着く、そろそろ準備を……」

ふと、物言わぬ彫刻の様に黙り込んでいたオサムが口を開いた。
その言葉に、ツンは目線を周囲の建物へと向ける。
オサムの宣言通り、見慣れた建物が次々と流れて行く。
景色と速度から言って、後1、2分で着くだろう。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 21:12:40.80 ID:xIw46Hck0
つまり、このドライブもあと少しで終わると言う事だ。
一瞬だけ惜しい気もしたが、それもすぐに消える。

ξ゚听)ξ「そう……」

最後に、もう一度だけ。
そう自分に言い聞かせ、ツンは腕に力を込めた。
まるで、随分昔からこうしていたかのように、その感触が腕に馴染む。
デレデレに抱きついているかのように、不思議と心が落ち着く。

腕に確かな存在が。
胸に優しい温もりが。
顔に静かな鼓動が。
心に心地よい安らぎがある。

【=】ゞ゚)「む……」

流石に少し、強く抱きしめ過ぎたか?
今この状況で嘔吐されると非常に困る。
高速で走るバイクの車上で吐かれた場合、その吐しゃ物が誰に掛かるかと言えば。
一にオサム、二にツンである。

その手の趣味は無いので、それだけは御免被る。

ξ゚听)ξ「ご、ごめん……
       強すぎた?」

素直に謝り、ツンは腕の力を弛めた。
しかし、オサムはすぐにそれを否定した。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 21:18:33.62 ID:xIw46Hck0
【=】ゞ゚)「そうじゃない…… ほら、前……」

両手が塞がっているので、オサムは声だけで前を指す。
ヘッドライトが照らす先に、丁度今現れた灰色のシルエットが。
それが、市街戦用の迷彩を施されたハンヴィーだと気付くには、それほど時間を要さなかった。
天井部に銃座が付いていても、敵ではないのだけは判る。

もしも敵であれば、問答無用で撃っている筈だし、何より銃座に誰も着いていない。
しかも、運転席に居るのは水平線会のトラギコだ。
運転の上手さに定評のあるトラギコと共に車内に居るのは。
ツンが視認できるだけで、"空虎"トラギコ・バクスターを除いて三人。

"グレートピンクエロス"ミセリ・フィディック。
"鉄仮面"都村トソン。
"砲煙灰霧"ミルナ・アンダーソン。
ちょうど、"ダスク"と"サラマンダー"の面々だった。

ロマネスク一家の入り口の前に停車し、ツンが先に車上から降りる。
エンジンを切ってから、オサムはツンに続いて降りた。
先程まで警告音を発していたホーネットは、よく見ると細部が改造されているのが窺えた。
もっとも、ツンが見える部分で、の話だ。 バイクに精通した者から見たら、もっと改造されているのかもしれない。

オサムの視線の先に停まっているハンヴィーは、なかなか扉を開かない。
何か不測の事態でも発生したのだろうか。
ツンが目を細めて車内を凝視するも、それらしい事は窺えなかった。
ふと、運転席の扉が開いた。

(=゚д゚)「さーて、どうなることやら……
    って、御譲ラギ! ご無事で?」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 21:22:41.93 ID:xIw46Hck0
汗をぬぐいながら運転席から降りて来たトラギコは、ツンを見るや声を掛けてきた。
そして、助手席の扉を片手で閉じながら降りて来たミセリも、トラギコと同じ反応をする。
心配そうにツンの様子を見て、見える部分での外傷がない事を確認し、ミセリは口を開く。

ミセ*゚ー゚)リ「御怪我はありませんか?」

露出している肌では無く、衣服の下に怪我をしている場合がある。
再確認の意味も込め、ミセリは質問してきたのだ。
当然、怪我をするようなヤワな鍛え方をしていないのでツンに外傷は無い。

ξ゚听)ξ「えぇ、大丈夫です。 互いに無事なようで何より」

そう言い、ツンはふと疑問を口にした。

ξ゚听)ξ「ところで、ミルナさん達は?」

それを聞くと、ミセリとトラギコの二人は苦笑を浮かべ。
親指で背後のハンヴィーを指した。
すると、それに合わせたかのように扉が開く。

(;゚д゚ )「お、御譲!」

(゚、゚;トソン「つ、ツンさん!」

何故だか二人とも同じ扉から下車し、共に焦った表情を浮かべている。
一応、自分の事を心配して言う事は分かるが、焦っている理由が解らない。
そんなツンの疑問に、トラギコは小声で答えた。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 21:26:55.34 ID:xIw46Hck0
汗をぬぐいながら運転席から降りて来たトラギコは、ツンを見るや声を掛けてきた。
そして、助手席の扉を片手で閉じながら降りて来たミセリも、トラギコと同じ反応をする。
心配そうにツンの様子を見て、見える部分での外傷がない事を確認し、ミセリは口を開く。

ミセ*゚ー゚)リ「御怪我はありませんか?」

露出している肌では無く、衣服の下に怪我をしている場合がある。
再確認の意味も込め、ミセリは質問してきたのだ。
当然、怪我をするようなヤワな鍛え方をしていないのでツンに外傷は無い。

ξ゚听)ξ「えぇ、大丈夫です。 互いに無事なようで何より」

そう言い、ツンはふと疑問を口にした。

ξ゚听)ξ「ところで、ミルナさん達は?」

それを聞くと、ミセリとトラギコの二人は苦笑を浮かべ。
親指で背後のハンヴィーを指した。
すると、それに合わせたかのように扉が開く。

(;゚д゚ )「お、御譲!」

(゚、゚;トソン「つ、ツンさん!」

何故だか二人とも同じ扉から下車し、共に焦った表情を浮かべている。
一応、自分の事を心配して言う事は分かるが、焦っている理由が解らない。
そんなツンの疑問に、トラギコは小声で答えた。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 21:28:06.23 ID:xIw46Hck0
(=゚д゚)「人間、素直が一番ってことラギ」

意味深な発言を残し、ミセリもそれに頷いて同意を示す。
首を傾げ、ツンは少しの間だけ思案したが、時間の無駄だと言う結論に思い至った。
自慢の金髪を風に揺らし、ツンは既に開いていた鋼鉄の扉を通る。
それを予想していたのだろう、殆ど間を開けずにオサムがツンの後に続く。

その後に、トラギコとミセリ。
最後にミルナとトソンが、門を抜ける。
鋼鉄不動の門が、今は頼もしく。
魔王が住まう地獄の門が、今では最後の砦にすら思えた。

ξ゚听)ξ【=】ゞ゚)

玄関入口まで続く石畳を、固い靴底がリズミカルに叩く。
まるで映画のワンシーンの様に、その音は一つに重なって響いた。

(=゚д゚)ミセ*゚ー゚)リ

表社会で生きる事を止め、裏社会で生きることを決めた者達。

( ゚д゚ )(゚、゚トソン

彼等は、報復を誓っていた。
それぞれが見捨てた表社会が、彼らに牙を向けた。
その事は、決して許される事ではない。
"魔の眷属"に牙を向けた、飼い猫の末路は"死"だけである。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 21:33:05.88 ID:xIw46Hck0
"魔女の飼い猫"を殺すのは必至としても、その為の作戦を立てるのは"眷属"の仕事ではない。
"魔王"、"帝王"、"女帝"。
裏社会の御三家こそが、眷属を従える主。
彼らの命令に従順に従い、眷属は猫と飼い主を徹底的に追い詰める。

それこそが、"眷属"の仕事だ。
今回、基本的に作戦の全権を担っているは"女帝"。
都で最も美しく、最も恐ろしく、そして賢い、クールノーファミリーのゴッドマザーである。
特殊極まりない関係図を持つこの御三家ならば、従える主が違えども、それは何の意味もない。

風が吹き、服の裾が翻る。
風が舞い、髪が宙を踊る。
風が押し、歩みが速まる。
風が止み、辺りに静寂が。

"カトナップ"、"ダスク"、"サラマンダー"が揃って玄関の扉を開いた。

【時刻――16:25】

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 21:37:17.41 ID:xIw46Hck0
―――――――――――――――

路地裏を、一台の原動機付自転車が走り抜ける。
事情を知らぬ者がその単車を見たら、夕刊を配る新聞配達員かその類だと思っただろう。
しかし、夕刊を配るには少しばかり速度が出過ぎていた。
当然、この速度では夕刊など配れるはずがない。

ハンドルを握る男は、苦虫を潰したような顔をしていた。
男の顔に浮かぶ表情は、怒りや焦り、憤りや悔しさといった負の感情で満ちている。
新聞配達員にしては、おおよそ似つかわしくない顔である。
無論、男は新聞配達員でも郵便局員でも無い。

男の本職は何でも屋であり、確かに配達もこなせる。
だが今、男に与えられた仕事は配達では無かった。
本来ならば今頃、男は歯車祭の警備に当たっている筈だったのだが。
如何せん、馬鹿共のせいでそれがご破算となってしまった。

男の怒りの理由はそれだけでは無い。
スーパーな単車と称して渡されたのが、原動機付自転車。
おまけにスーパーカブ。
人を馬鹿にしているとしか思えない。

(#'A`)

それでも男、ドクオ・タケシは怒りに身を任せて乱暴なハンドリングをする事は無かった。
内心でこみ上げる複雑な怒りを押し殺し、ただ冷静にカーブを曲がる。
最後の曲がり角を左に曲がり、ドクオは速度を上げる。
これで後ろに"蕎麦"でも乗せていれば、配達に遅れた蕎麦屋の図が出来あがっただろう。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 21:41:13.60 ID:xIw46Hck0
ただし、配達先は地獄の一丁目。
泣く子も黙るロマネスク一家の本家である。
繰り返すようだが、ドクオの本来の仕事は祭りの警備であって、配達では無い。

('A`)

目的の建物のシルエットが徐々に大きくなるにつれて、ドクオの心も落ち着きを取り戻し始めた。

('A`)「って、あれ?」

ふと、ヘッドライトが入口の門の前に停まっている物を照らし出した。
それは、一台のネイキッドバイクと、一台のハンヴィーだ。
門の前にまで来ると、ネイキッドバイクの車種がはっきりと判った。
白銀のホーネットが、上品に駐車されている。

('A`)「おいおい、こいつはひでぇぜ……
   まるで俺だけ泥の船に乗せられた気分だ」

ハンヴィーの横に停めたカブから降り、ドクオは独り言ちる。
何ともなしに、ドクオは視線を門に向けた。
重々しい鋼鉄の扉が、ドクオを見降ろしている。
黒い空と相まって、その門は文句なしに"地獄の門"を連想させた。

その地獄の門は既に開かれており、ドクオが来るより前に誰かが来た事になる。
当然、それはがハンヴィーやバイクの運転手達なのは明確だ。
とりあえず、ドクオは門を潜る事にした。
敷地内に一歩踏み入れた時、それは聞こえた。

「動くな」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 21:46:03.72 ID:xIw46Hck0
その声に一瞬、ドクオは反射的に懐に手を伸ばす。
だがしかし、そこに入っているのは銃把とスライドの間が大きく抉れている拳銃だ。
ただでさえ繊細な構造のM8000に、こんな損傷があっては最早役には立たない。
伸ばしかけた手を、ドクオは大人しく腰に当てる事にした。

丁度ドクオの死角で待ち伏せていた人物に、呆れ混じりにドクオは声を掛ける。

('A`)「なぁ、手前は何をやってるんだ?」

从´ヮ`从ト「ちっ、面白味の無い奴ですね〜」

死角である門の陰から、千春が現れた。
相変わらずの表情で、相変わらずの格好をしている。
給仕の服に、獣の耳と尻尾のセット。
手にしたバレットM82A1対物ライフルは、千春のトレードマークだった。

無論、魔改造済みである。

从´ヮ`从ト「まぁ、今回はいいですよ。
       とりあえず、ドクオさんで最後なので、急ぎましょう」

対物ライフルを肩に乗せ、千春は先を促す。
その際に、金属同士が擦れ合う重い音が響いた。
銃弾は当然として、明らかにそれ以外の奇妙な金属音もした。
嫌な想像を本能的に止め、ドクオは千春の2歩後ろに付いて行く。

从´ヮ`从ト「そういえば」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 21:50:25.26 ID:xIw46Hck0
金属音と靴底が石畳を叩く音の中、千春が口を開いた。
一応は客人であるドクオの為に、無言の間を作らないよう気遣ったのだろう。
少しだけ千春を見直し、ドクオは言葉の続きを待つ。

从´ヮ`从ト「あの状況で、一体何があったんですか?」

いつもとは違い、僅かにシリアスな声色にドクオは戸惑う。

('A`)「あぁ、あの時か。 ヒートに教えてもらった秘儀があってだな」

その言葉に、明らかな驚きを顔に浮かべたまま千春は振り向く。
数瞬だけ考え込む動作を見せるが、次の瞬間にはいつもの表情に戻る。

从´ヮ`从ト「秘儀、ですか? それは一体?」

聞き上手とは、この事を言うのだろう。
相手が気分を害することなく、話題を振り、話を聞く。
そんな事を知らないドクオは、千春のペースに乗せられ言葉を紡ぐ。

('A`)「世間一般に言う"走馬燈"の応用だとさ。
    どんな原理かは知らないけど、死に物狂いでやれば出来るらしい。
    まぁ、出来たんだかな」

从´ヮ`从ト「な・る・ほ・ど・ね」

妙な口調で答えた千春は、口元を緩めた。
千春なりに納得したのか、今度は別の話題を提供する。

从´ヮ`从ト「ところで、先程懐に手を伸ばしましたよね?」

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 21:54:19.90 ID:xIw46Hck0
('A`)「あ? あぁ、確かに伸ばしたけど、それが?」

千春は、出来る限りゆっくりと、且丁寧に言葉を並べた。

从´ヮ`从ト「壊れたM8000で、何をしようと?
       そもそも、ドクオさんにM8000は向いていないんですよ。
       確かに、ドクオさんにはFNやH&Kよりもベレッタの方が向いていますが。
       M8000みたいに繊細な銃は、もっと戦闘のプロが使うモノなんです。

       外さず、当たらず、見つからない。
       最低でもこの三要素を会得しないと、この先辛いですよ。
       お姉ちゃん達も、地味に心配してましたし」

達、という事は銀と狼牙の事を指し示すのだろう。
正直、意外な話だ。
特に狼牙。
あの粗雑な女が、自分を心配していたなどとは、にわかに信じがたい。

リi、゚ー ゚イ`!「おい、誰が粗雑だって?あぁん?」

いつの間にか左隣に現れた狼牙が、ドクオの肩に手を回しながら耳元で囁いた。
声を上げて驚きたい所だったが、どうにか押し殺す。
何せ、人の心を勝手に読んだのだ。
油断はできない。

イ从゚ ー゚ノi、「その態度が粗雑だと言っているのだろう、のう?」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 21:58:38.93 ID:xIw46Hck0
今度はドクオの右隣りに、銀が笑みを浮かべながら姿を現した。
トンデモ三姉妹だ。
内心でひっそりと考えれば、読まれはしないだろう。
その考えが、甘かった。

イ从゚ ー゚ノi、「おいドクオ。 誰がトンデモ三姉妹じゃって?」

流石のドクオも、これには驚きを隠せない。

(;'A`)「ど、どうなってるんだ……
    俺の考えが読まれるだなんて!」

その疑問に答えたのは、先頭を歩く千春だった。

从´ヮ`从ト「だって、ドクオさんってすぐに顔に出るんですもん。
       小学生だって解りますよ。 と、いうか解りやす過ぎです」

狼牙は回した腕を離し、自分の胸の前で腕を組む。
出来の悪い弟に言い聞かせるように、狼牙は笑みを浮かべた。

リi、゚ー ゚イ`!「お前の悪い癖だな、それは」

あらかじめ打ち合わせしていたかのように、今度は銀が続ける。

イ从゚ ー゚ノi、「思った事を口に出さないのは確かに、優れた処世術じゃ。
       じゃがの、褒められた事ではない。
       何が原因かは知らんが、今後は控える事じゃな。
       でないと今後、それが命取りとなるかもしれん」

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 22:03:32.63 ID:xIw46Hck0
そう言って、銀はドクオの頭を撫でた。
くしゃりと髪を撫でつけられ、ドクオは"反射的に"身をすくめる。
その様子を微笑ましい目で見つめていた千春は、その顔を引き締めた。

从´ヮ`从ト「さてさて、ほのぼのしている暇はありませんよ。
       今後の話をデレデレ様が、地下会議室で行います。
       急いで行きましょう」

玄関前まで到着し、千春がその扉に手を掛ける。
ゆっくりと、木の軋む音が響く。
ドアノブまわるのが、嫌にゆっくりに感じた。
ドアが開き、その先に広がる空間が目に飛び込む。

そこには―――

(;'A`)「な、なななな?!」

玄関から溢れんばかりの人、人、人。
女男に拘わらず、皆一様に険しい顔と、黒ずくめの格好をしている。
その風貌は明らかに裏社会の人間だ。
動揺するドクオに、先導する千春が話しかけた。

从´ヮ`从ト「何を慌てているんですか?
       ひょっとしてドクオさん、彼等を見た事が無いんですか?」

当たり前だ。
何せ、彼等は―――

从´ヮ`从「"シュトラッセ"、"ディフレ"、"タルスン"などの首領。
       つまり、御三家の下に付く勢力の御偉いさん方です」

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 22:07:12.96 ID:xIw46Hck0
御三家の陰に隠れ、御三家を陰で支える組織の首領達だったのだ。
ドクオ如き何でも屋が、知る筈がない。

从´ヮ`从ト「舞台は、既に準備されているんですよ?
       さぁ、行きましょう」

楽しげにそう言って、千春達はドクオを地下へと導く。

【時刻――16:30】

それは、金やコネでは作る事の敵わない歯車。
それは、力や言葉では操る事の敵わない歯車。
それは、夢や理想では惑わす事の敵わない歯車。

魔女の姦計を打ち破る為の歯車が全て、"女帝"の元に集まった。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 22:12:04.06 ID:xIw46Hck0





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('A`)と歯車の都のようです
第二部【都激震編】
第二十二話『追うは愚者、挑むは義者』

二十二話イメージ曲『キズナソング』The Back Horn
ttp://www.youtube.com/watch?v=bJOSgvd3KFw&feature=related
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68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 22:16:05.96 ID:xIw46Hck0
ロマネスク一家の地下三階には、祭りの説明の際にも使われた会議室がある。
部屋の中央に巨大な円卓を置き、その周りには20の席が付けられている。
そして今、遅れてそこに入ってきた犬神三姉妹とドクオが着席し、19の席が埋まった。
ドクオ達が着席したのを確認して、着席していた一人が立ち上がる。

その者は、豪奢な金髪を冠する女だった。
蒼穹のように澄み渡った碧眼で、皆を見渡す。
女の名はクールノーファミリーのゴッドマザー、クールノー・デレデレ。
デレデレは慈母の様な笑みを浮かべ、口を開いた。

ζ(゚ー゚*ζ「さて、揃ったわね」

ここであえて、"みんな"と言わなかったのは、当初の予定と異なり一人揃わなかった為だ。
重傷を負って入院しているシャキンの席を、デレデレは一瞬だけ見やる。
だが、すぐに視線を元に戻した為、誰もその瞳に憂いの光が宿った事に気付いていない。
直前まで憂いを帯びていた瞳には、今では力強い優しさが宿っている。

ζ(゚ー゚*ζ「ひとまず、状況を整理して説明します」

デレデレのその言葉に合わせ、デレデレの背後からホワイトスクリーンが降りてきた。
それまで薄らと灯っていた明かりが消え、室内は闇に包まれる。
円卓の中央に置かれていたプロジェクターから、光がスクリーンに当てられた。
そこに映し出されたのは、都の地図だった。

大通りが中央に描かれ、その他目ぼしい建物の名前と場所が書かれている。
そして、大通りには赤い丸がびっしりと描かれている。
地図の右下に、その表示は"ENEMY"、との説明書きがあった。
対して、地図の右上。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 22:20:19.63 ID:xIw46Hck0
ロマネスク一家の上には、青い点が7つ描かれていた。
その表示は"FRIEND"、との説明書きがある。
つまり、この地図上には双方の勢力が描かれ、この図を用いて説明するつもりなのだろう。
デレデレは温厚な教師めいた声で、説明を始めた。

ζ(゚ー゚*ζ「敵勢力の数は、約6万。
       あくまでもこれは推測の為、これ以上になるかもしれません」

いつの間にか取り出した指揮棒で、大通り全体をぐるりと囲って指し、最後に赤い点を叩く。
すると、赤い点の上に文字が表示された。
どうやら用意されているのは、そこら変にある一般的なホワイトスクリーンではないらしい。
デレデレの指揮棒と連動して、変幻自在に使える新型のホワイトスクリーンのようだ。

ζ(゚ー゚*ζ「まずは、敵勢力の説明を行います」

その文字をデレデレが叩くと、今度は文字が画面一杯に表示される。

ζ(゚ー゚*ζ「大通りを占拠している集団の装備は、エンフィールド L85。
       その他の装備で詳しくは、ここに書いてある通りです。
       連中の戦闘能力は、百戦錬磨の海兵隊と同等と思っていて結構」

画面の一部に、銃の画像が映し出された。
その画像は、デレデレの言ったエンフィールド L85のそれだ。
装弾数から重さ、果ては不具合の発生率まで全ての情報が載っている。
あまり良い事は書かれていないが、それは情報への自信の裏付けである証しだ。

デレデレが画面の端を軽く叩くと、今度は別の画像が画面を覆い尽くす。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 22:24:46.71 ID:xIw46Hck0
ζ(゚ー゚*ζ「これが、敵の親玉です。
       知っている人は知っていると思いますが、FOX社の社長。
       フォックス・ロートシルトが、今回の騒動を考えた大馬鹿者よ」

画面を覆い尽くした画像は、見る者が見れば精神的ブラクラとして分類されたかもしれない。
だが、知っている者から見たら、その画像はテレビのワンシーンからキャプチャーされた物だと解る。
ワイングラスを片手に、カメラ目線で妖艶な笑みを浮かべるのはフォックス本人だ。
正直、趣味の良い画像では無い。

ζ(゚ー゚*ζ「そして、この馬鹿の意見に賛同して手を組んだ者達がいます」

5人を除いて、全員が驚愕の目をデレデレに向けた。
この短時間の間でどのようにして、そこまで調べ上げたのだろうか。
もしくは、事前に調べておいたと言うのか。
そんな事は知らないと言った風に、デレデレは画面を叩く。

ζ(゚ー゚*ζ「まずは、貞子鉄鋼業の創始者。
       貞子・ノーマス」

先程のフォックスの顔写真が縮小され、画面の左上端に移動する。
そして、画面の5割程を別の顔写真が覆った。
出来の悪い日本人形の様な、気味の悪い笑みを浮かべる黒髪の女。
貞子・ノーマスの顔写真だ。

ζ(゚ー゚*ζ「何でも最近、新しい金属の開発に成功したは良いんだけど、開発費がすごかったらしくてね。
       あまりにも大赤字だったから、秘密裏に社員を4割減らしたんですって。
       多分、"手伝ったら大金をやろう"とでも言われたんでしょ」

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 22:28:06.29 ID:xIw46Hck0
貞子鉄鋼業は、文字通り自社で製造した金属を売る企業だ。
ただの鉄鋼業風情がFOX社を押さえて、都で2位の大企業になったのには理由がある。
それは、自社が独自に開発研究して生み出した新型金属の販売であった。
その開発した金属は、有名企業から中小企業まで幅広く使われ、おかげで貞子鉄鋼業は毎年大儲けをしていた。

他の企業が成長すれば、それに伴ってこの企業も成長するシステムが、最大の要因と言えるだろう。
だが、毎年新たな金属を生み出す事が求められる為、その研究費は馬鹿にならない。
デレデレの言う事が正しいのならば、自業自得としか言えない話だ。
気になるとすれば、一体どんな金属を生み出したのか、という事だけである。

言い終わり、デレデレが画面を叩くと、また新たな画像が画面を覆う。

ζ(゚ー゚*ζ「次に、淳PMC(民間軍需企業)社長。
       淳・シュール」

画像の女は、どこかの立食パーティーの呼ばれたのだろうか。
群青色のドレスを身に纏い、料理を手に無愛想な顔をしていた。
もう少し愛想があれば、芸能界に居てもおかしくない程の美貌を持っている。
しかし、その実態は手練の傭兵を派遣し、その界隈で名を馳せている女だ。

都でも、度々要人警護の際にここから傭兵を雇う事がある。
その護衛能力と戦闘能力には定評があり、決して損な買い物ではないと評判だった。
昨年、某大国が内戦に介入する際、ここから多くの傭兵を雇った事でも知られている。

ζ(゚ー゚*ζ「この女はね、外の世界にまで名を広めたいらしいの。
       まぁ、PMCなんてのは評判次第でどうにでもなるからね。
       ある意味、一番賢い選択かもしれないわ」

"だけど"、と付け加える。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 22:32:32.88 ID:xIw46Hck0
ζ(゚ー゚*ζ「私達に喧嘩を売ったのは、賢くないわね」

シュールの画像を指揮棒で二回叩き、デレデレは溜息を吐いた。
画像が縮小して移動されるが、先程とは違い新たな画像が出てこない。
デレデレは少しの間だけ眼をつぶり、すぐに開く。
まるでこれから、何か嫌なモノに直面する前に覚悟を決めるように。

ζ(゚−゚ ζ「そして最後。 荒巻コーポレーション社長。
       荒巻・スカルチノフ」

その名を呼んだ瞬間、デレデレの顔から笑みが消え失せた。
いつも浮かべている笑みも、この瞬間だけは影も形も無い。
だが、それは一瞬だけ。
次の瞬間には、元通りの顔になる。

ζ(゚ー゚*ζ「理由は単純明快。
       私達に対する個人的な恨みね」

"達"、という部分にその場の全員が反応を示した。

ζ(゚ー゚*ζ「手っ取り早く言うと、私達幼馴染に対して恨みがあるの。
       まぁ、とりあえず写真を……」

指揮棒で画面を叩き、新たな画像を呼び出す。
現れたのは、顔に大傷を負った初老の男の画像だった。
この世の全てを憎み、見下しているかのような顔は誰かに好かれる顔ではない。
獣に裂かれたような傷を負う顔には、不思議と同情すら湧かなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「この顔の傷の恨み、とでも言った方がいいかしら。
       五年前の事だから、詳しくは全部終わってからね」

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 22:35:37.12 ID:xIw46Hck0
汚物を扱うように、デレデレはその画像を指揮棒で選択した。
そして、ゴミを掃き飛ばす様にして、画面の外へと飛ばす。
所詮は電子の世界の話なので、実際に外に飛んだわけではない。

ζ(゚ー゚*ζ「それでね、連中に共通しているのもそれなの。
       私達幼馴染に、なんでか知らないけど恨みを持っているのね」

指揮棒で何もない空中に円を描くと、画面の映像が最初の地図へと戻った。

ζ(゚ー゚*ζ「さて、これからが本題。
       これから、この場に居る人たちを7つの部隊に纏めます。
       準備はいいかしら?」

言われずとも皆、既に準備は完了している。
デレデレは一つ咳払いをして、指揮棒を持ち直した。
そして、7つある青い点の内、一つをそれで指す。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 22:39:20.28 ID:xIw46Hck0
ζ(゚ー゚*ζ「チーム01。 "カトナップ"。
       人員はツンちゃんとオサムちゃん」

ツンとオサムが互いに手を挙げるが、どちらも会釈をしなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「任務は敵のかく乱、及び狙撃。
       オサムちゃんが観測主兼運転手をお願い。
       移動方法は、ここまで来たのと同じでいいわ。
       流石に車上だと"槍"は使いにくいから、VSSのほうがお勧めね」

点を指したまま、それをゆっくりと地図上で走らせる。
表通りに一旦突っ込み、そこからある地点で狙撃に移動。
それを数回繰り返し、デレデレは点から棒を外した。
この説明を見るに、スピードとコンビネーションが要求される任務だという事が解る。

確かに、ツンとオサムは適任であった。
その事は、二人をよく知らないドクオから見てもハッキリと分かった。
何と言ったらいいのだろうか、二人の間には目に見えない何かがある。
本人ですら気付いていていないような、それほどに薄い何かが。

ζ(゚ー゚*ζ「状況に応じて、そっちで作戦を変更していいから。
       後で狙撃目標をまとめた指示書を渡すから、それに従って頂戴。
       ただし、最終的な作戦目標は忘れないように」

愛娘の事なら何でも知っているデレデレは、ツンの性格を考慮して最後に一つ附け加えた。
その事が吉と出るか凶と出るか、今は分からない。
"さて"、とデレデレは新たな青い点を指す。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 22:41:38.44 ID:xIw46Hck0
ζ(゚ー゚*ζ「チーム02。 "ヤーチャイカ"。
       人員はハインちゃんとヒートちゃん」

小さく手を挙げ、今度の二人は小さく会釈をした。
デレデレは指した点を、大通りの真ん中へと動かす。
当然そこには、敵を示す赤い点がびっしりと存在していた。
自ら敵の群れの中へと突っ込むのは、"常人"ならば自殺行為だ。

ζ(゚ー゚*ζ「任務は敵の掃討。
       "カトナップ"が混乱させた相手を狩って頂戴。
       危険度が比重に高い為、くれぐれも油断しないように。
       "スターリングラード戦"並みに、ハードルが高いわ」

高速戦闘を得意とする、ハインリッヒ。
理不尽な程高い戦闘能力を持つ、"戦乙女"ヒート。
敵に少しだけ黙祷してもいいのでは、と思わざるを得ない程強力なメンバーだ。
新たな青い点を指し、デレデレは次の話に移行した。

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 22:45:17.27 ID:xIw46Hck0
ζ(゚ー゚*ζ「続いてチーム03。 "ダスク"。
       人員はミルナとトソン」

ここまで来くれば、皆気付いただろう。
この部隊分けは、祭りの部隊を参考にしているのだ。
空いたシャキンの席にハインを置いた事を除けば、今の所全て同じだった。
呼ばれた二人は、手を挙げて会釈をする。

ζ(゚ー゚*ζ「任務は敵ECM(妨害電波)の破壊及び、敵戦車隊への遠距離攻撃。
       で、拠点はここ」

指した青い点を、地図の南東にあるホテルニューソクへと移した。

ζ(゚ー゚*ζ「この前ここを買い取って、色々と改造してあるから存分に使ってね。
       さっき、千春に武器を置いて来てもらったから、籠城しようと思えば出来るわ。
       籠城はお勧めしないけど、拠点として使うのが賢い選択ね」

先日、このホテルニューソクが買収された事は周知の事実だ。
だがしかし、誰が買ったかまでは誰も知らなかった。
一体どこまで予想して、どこまで行動してるのだろうか。
ドクオには、皆目見当も付かない。

ζ(゚ー゚*ζ「連中はECMでこっちの通信の8割を封じてるわ。
       私が渡したインカムではECMの影響は無くても、そこまで遠くに通信できないの。
       だからつまり、ECMの破壊はこっちにとってある意味、活路を開く事に繋がるわ。
       如何せん、ECMの数までは把握できなかったわ。 でも、屋外よりも屋内に設置されている可能性が非常に高い。

       そうね、大体20から30は設置されていると想定していたら、お釣りがくるかもしれないわね」

続いて、デレデレはロマネスク一家上の青い点に指揮棒を戻し、新たな点を選ぶ。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 22:49:54.82 ID:xIw46Hck0
ζ(゚ー゚*ζ「次はチーム04。 "サラマンダー"。
       人員はトラギコとミセリ」

トラギコとミセリが手を挙げ、会釈する。
点を指したまま、デレデレは続ける。

ζ(゚ー゚*ζ「任務は敵航空勢力の掃討。
       向かってもらう場所は、当然ここよ」

指揮棒をスッと動かし、西南にある空港へと持ってきた。

ζ(゚ー゚*ζ「先日の"パンドラの箱"の際、トラギコ。
       貴方、沢山のコンテナを見たって言ってたわね?」

(=゚д゚)「はい。 そりゃあもう沢山あったラギ」

それを聞いて、デレデレは口元を緩めた。

ζ(゚ー゚*ζ「そのコンテナの中身は、今頃都の空を飛んでいる筈よ。
       約30機分のハインドが分解して、そのコンテナに収納されていたの。
       昨日、新しい便が来たから多分数は増えるわ」

その単語を聞き、その単語の意味を理解出来たのはごく少数の人間だった。
より正確に言えば、その単語が持つ危険性を理解出来た人間。
トラギコとミルナ、この二人以外はハインドと戦った事は無い。
あれと対峙した時の恐怖は、戦った者以外には理解出来ない話だ。

ζ(゚ー゚*ζ「方法に関して言えば、そうね……
       "懐かしいあれ"が、39番倉庫の地下に隠してあるわ。
       好きに使って良いわよ」

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 22:53:10.53 ID:xIw46Hck0
意味ありげに笑むと、デレデレは次の点に指揮棒を重ねる。

ζ(゚ー゚*ζ「で、次はチーム05。 "パンドラ"。
       人員はギコとペニサス」

二人が互いに頷き合い、準備の完了を伝える。
"クールノーの番犬"が行う任務とは、一体どのようなモノであろうか。
ドクオは、不謹慎ながらもその内容に期待していた。
少しだけ心配げな声色で、デレデレはギコに尋ねる。

ζ(゚ー゚*ζ「任務は敵戦車の破壊。
       出来るかしら、ギコ?」

(,,゚Д゚)「あい、任せてください!」

正気の沙汰ではない。
ドクオは正直、そう思った。
人間が戦車に挑むなど、あまりにも馬鹿げている。
だが、姉の横で勇ましい声を上げ、ギコは姿勢を正した。

どうやら、本気で戦車に挑むつもりらしい。

ζ(゚ー゚*ζ「そして、チーム06。 "デイジー"。
       人員は私達幼馴染とジョルジュ、後は上に居る人たちとその部下。
       人数は、そうね…… ざっと1万ってところね」

敵の戦力と比べて圧倒的に不利な数字を口にしながらも、デレデレは至って普通だった。
むしろ、この戦力で十分だと言わんばかりの自信さえ窺えてしまう。
確かに、デレデレ達御三家の戦闘能力は群を抜いて高い為、十分なのかもしれない。
一つだけ気になる事があるとしたら、何故ジョルジュがそこに加わっているのかという点である。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 22:57:37.41 ID:xIw46Hck0
ζ(゚ー゚*ζ「任務は敵地上部隊の殲滅。
       詳しくは、こっちで話すから気にしなくていいわ」

そして、デレデレは最後に言った。

ζ(゚ー゚*ζ「最後に、チーム07。 "ジングル"。
       人員は犬神3姉妹と、そしてドクオ」

遂に自分の名が呼ばれ、ドクオの全身に緊張が走った。
これからデレデレが言う言葉を、一字一句聞き逃さないように全神経を集中させる。
その緊張が表に出たのだろうか、デレデレはドクオを落ち着かせるような声色で言葉を紡いだ。

ζ(゚ー゚*ζ「この部隊が、本作戦の中でも一番重要な存在です。
       さっき説明した敵の親玉を、この部隊に抹殺してもらうわ」

青い点をそのままに、デレデレは続ける。
ドクオの横に控える三姉妹に目線を向け、笑みを浮かべた。

ζ(゚ー゚*ζ「ただし、犬神三姉妹はあくまでもドクオちゃんのサポートに回ってもらいます。
       敵の親玉、つまりフォックスを殺るのは、ドクオちゃん、貴方よ」

如何なるわけか、御三家の首領以外の全員が一人の例外も無く、全く同じ反応をした。
驚愕が完全に一つになって響き、大気を振動させる。

『えっ?!』

一斉に向けられた疑問の目に、ドクオは戸惑いを隠せない。
そうはそうだ。
何せ、ドクオ自身も全く理解できていないのだ。
自分も声を上げた身として、デレデレに質問する事にした。

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 23:03:31.18 ID:xIw46Hck0
(;'A`)「な、なんで俺が?」

本来なら、四人の中で一番戦闘能力の高い銀辺りが、その役を担うのが一般常識だ。
それが、何故よりにもよって自分なのか。
ドクオは軽くパニックを起こし、意味もなく辺りを見回す。
迷子の子供をあやす様にして、デレデレは笑みを浮かべた。

ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、落ち着きなさいな。
       連中の作戦を打ち破るには、貴方が一番適任なの」

諭す様にして、デレデレは優しく話す。

ζ(゚ー゚*ζ「いい? 連中は、貴方に対しては全く見向きもしていない。
       つまり、貴方の事を甘く見ているっていう事。
       それが意味するのは、油断、慢心、怠惰。
       そこに附け込んで、あの馬鹿魔女を殺れるのは貴方しかいないの」

(;'A`)「で、でも俺…… 武器がないっ……?!」

未練がましくも言い訳をしようと試みるが、デレデレには通用しなかった。
真っ直ぐに目を見られ、ドクオはまともに言い訳の言葉を紡げない。
蒼穹色の碧眼が、ドクオの意識から言い訳を消し去る。
遂に観念し、頷く事にした。

(;'A`)「わ、分かりました……」

ζ(゚ー゚*ζ「よしよし、いい子ね。
       任務は、ラウンジタワーの地下に居る標的の抹殺。
       銀達も一緒だから、そんなに緊張しなくていいわよ」

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 23:07:45.23 ID:xIw46Hck0
ようやく得体の知れない緊張から解放されたドクオは、大きく溜息を吐く。
それを"見ていた"ロマネスクが、付け加えるように言った。

( ФωФ)「銀、狼牙、千春。 しっかりとサポートするのだぞ」

声を掛けられた三人は、無言で頷く。
ふと、千春が思い出したように口を開いた。

从´ヮ`从ト「それは当然なのですが、1つ。
       ドクオさんの武器、どうするんですか?」

M8000が壊れてしまった今、ドクオに武器は無い。
もしも千春が発言しなければ、ドクオは丸腰で敵地に乗り込んでいただろう。
デレデレはどうしたものかと考えるが、それはヒートによって止められた。

ノパ听)「……千春、銃は私の私物をドクオに渡す。
     弾だけ、ドクオにくれてやってくれ」

そう言って、ヒートは懐に手を伸ばす。
そして何かを掴み、ドクオに放り投げた。
宙で投げられた物を受け取り、ドクオはその冷たく硬い感触を手に感じ取った。

('A`)「これは?」

ノパ听)「昔、私が使ってたやつだ。 手入れはちゃんとしてある。
     ついでに、使いやすいように幾らか改造をしてあるから、お前にも使えるはずだ」

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 23:11:47.36 ID:xIw46Hck0
正直、ドクオはあまり銃の種類に詳しくない。
撃てて当たって殺れればいい、という考えの為、そこまで種類に興味が無いのだ。
しかし、形を見ればその会社程度なら分かるほどには知識を持っている。
ヒートから渡されたのは、オープン型スライドが特徴的なベレッタ社の物だった。

从´ヮ`从ト「おや? M84ですか?
       これまたマニアックな選択ですね」

銃に目が無い千春が、ちらりと見ただけでその型名を言い当てた。
流石は"鉄狸"の渾名を持つだけあり、一目見ただけで銃の種類を当てるなど造作も無いのだろう。
だが、頼んでもいないのに、千春は嬉々として銃の説明を始めた。

从´ヮ`从ト「.380ACP弾を使用する、複列弾倉の中型自動拳銃。
       これと言って特徴が無いのが特徴の、正にドクオさんみたいな銃ですね。
       だけど、あえて初期型を選んでいるのは良い選択です。
       この初期型の特徴は、トリガーガードが緩やかな曲線を描いている事によって、抜きやすく仕舞い易くなっている点です。

       ついでに、癖が無いのでM8000と違って少しなら乱暴な取扱いをしても問題はありません」

一応は、簡単に説明してくれたおかげで、ドクオはこの銃の特徴を理解した。
要するに、良い意味で何も無い銃。
余計な装備も、余計な機能もない。
おまけに、手に持ってわかる事だがM8000よりも一回り小さい。

そして、軽い。

从´ヮ`从ト「不要な部分を全て削って軽量化。 グリップも削ってありますね。
       おや、よく見ればスーパールミノヴァ加工までしてあるじゃないですか。
       後いじってあるとすれば、内部の事になりますね」

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 23:15:37.40 ID:xIw46Hck0
言われて、ドクオは手にした銃の金属照準器を見た。
そこには、青色に輝く3ダットが。
どんな暗闇でも輝く蓄光塗料による加工は、金属照準器の弱点である命中精度の悪さを補う為の物だ。
千春の説明が終わるのを待っていたかのように、ヒートはドクオと目を合わせる。

ノパ听)「一応、グリップはお前の手に合わせて削ったつもりだ。
     祭りが終わってから渡そうと思ってたんだが、今はそうも言ってられないからな」

ドクオ自身も忘れていた約束を、ヒートが覚えていた事にドクオは驚いた。

('A`)「あの時の事、覚えてたのか……」

ノパ听)「一応、な。 お前には、ある種の可能性があると私は見てる。
     もっと経験を積めば、お前はもっと強くなる。
     その為に、私は投資をしたんだ」

その時初めて、ドクオはヒートの様子がおかしい事に気が付いた。
いつも溢れていた柔和な雰囲気が、今は微塵も感じ取れない。
代わりに鋼鉄の殺意と憤怒が、ヒートの周囲を静かに漂っている。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、これで一応は皆自分達の役割を持ったわね。
       続いて、作戦概要について説明するわ」

その場の全員が、デレデレの言葉に耳を傾ける。
訓練された兵隊でさえ、ここまで一斉に集中する事は不可能だろう。
皆が視線と心をデレデレに向け、続きを待つ。
場が十分に熟したのをデレデレは感じ取り、口を開いた。

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 23:19:08.17 ID:xIw46Hck0
ζ(゚ー゚*ζ「本作戦の目的は、全部で3つ。
       1つ、敵勢力の殲滅」

デレデレは右手の親指を挙げた。

ζ(゚ー゚*ζ「2つ、敵勢力の目的の阻止」

敵勢力の目的は、裏組織の一掃。
そして、歯車王の殺害。
つまり今回、歯車王暗殺に関わった者達が歯車王を護る事になる。
デレデレはそう附け加え、人差指を挙げた。

ζ(゚ー゚*ζ「3つ、歯車祭の復活」

最後に中指を挙げ、デレデレは"だって"、と続ける。

ζ(^ー^*ζ「私、このお祭り楽しみにしてたんだもん♪」

デレデレは少女のような、屈託の無い無垢な笑みを浮かべた。
思わず皆頬をほころばせ、緊張の糸を緩める。

ζ(゚ー゚*ζ「さて、この作戦を成功させる為には一つ、大きな注意点があります。
       それは、各部隊は複数同時に指示した任務を開始する、という点です」

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 23:23:05.49 ID:xIw46Hck0
作戦を整理すると。

各部隊は予定時間まで、所定の位置にて待機。
時間になり次第、各部隊は与えられた任務を開始する。
最も目立つ存在の御三家及び手練達が、大通りで大交戦するとなれば、敵の眼はそこに釘付けになる。
その間に、各部隊は秘密裏に任務を完遂させ、この騒動を静める。

"カトナップ"が敵を惑わし、"ヤーチャイカ"が敵を刈り取る。
"ダスク"がECMを破壊して、"サラマンダー"が空を舞う敵を墜とす。
"パンドラ"が大通りを占拠する戦車隊を蹴散らし、"デイジー"が敵の注意を引きつける。
そして"ジングル"が、この一連の騒ぎに乗じて敵の大将を仕留める作戦だ。

作戦名、"トリック・スター"。
全ての部隊が一つの歯車となって、この巨大な作戦を成功へと導く。

ζ(゚ー゚*ζ「各作戦の詳細は手元の封筒に入ってるから、後で確認してね。
      作戦開始時刻は、明日の朝。
      0230時に、開始します」

(,,゚Д゚)「あれ、どうして今すぐじゃないんですか?」

その質問にデレデレは、よくぞ聞いてくれたとばかりに、口元を釣り上げる。

ζ(゚ー゚*ζ「明日のその時刻、"都の名物"が最大規模で発生するの。
       それこそ、どんなに高性能な装置を使っても対応できないぐらいにね。
       目が潰れれば、連中の動きも鈍る。 そこが展開点よ」

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 23:27:14.86 ID:xIw46Hck0
都の名物で"発生する"と言えば、一つしかない。
如何なる原因で発生するか、未だに原因が特定できていない名物。
全てを覆い尽くし、そして覆い隠す純白の悪魔。

―――濃霧だ。

ξ゚听)ξ「ところで、どうしてここまで準備が出来たのですか?
       予測したとしても、フォックス以外の人間を割り出すなんて、不可能かと」

完璧とも思えたデレデレの作戦に、ツンが疑問を提唱した。
確かに、ここまで相手の情報があるとなると、何者かの作意を感じざるを得ない。
ツンの疑問は、的を射ていた。
だが、デレデレは笑みを浮かべたままだ。

ζ(゚ー゚*ζ「さて、ここで問題です。
       私はどうやって、相手の戦力等を知る事が出来たのでしょうか?」

ξ゚听)ξ「内部告発者、ですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、ある意味そうね。
       ……入ってらっしゃいな」

デレデレはそう言うと、手を二回叩いた。
その直後、会議室の入り口の扉を叩く音が響く。
三回叩き終え、扉が軋む音を立てて開いた。

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 23:31:45.89 ID:xIw46Hck0
( ´∀`)「どうもですモナ」

扉から顔を覗かせ、元ロマネスク一家男がおずおずと入ってくる。
その男の顔に、ツンは見覚えがあった。
ラウンジタワーの最上階、9000メートル上空からダイブして着地したゴンドラに乗っていた男。
更に記憶を辿れば、またんきを獲り逃す要因となった男だ。

( ´∀`)「ロマネスク様、お久しぶりですモナ」

恭しく頭を下げ、男はロマネスクに挨拶をする。
ロマネスクも、開かれていない目を男に向けた。

( ФωФ)「おう、モナ―であるか。 最近どうだ、レモナとは仲良くやっているか?」

モナ―と呼ばれた男は、恥ずかしげに頬を染めた。

ζ(゚ー゚*ζ「ツンちゃん、彼が今回の情報提供者よ。
       "リードマン"モナ―、読唇術や盗聴に長けた諜報のプロよ。
       戦闘はからっきしだけどね」

元ロマネスク一家の"リードマン"と言えば、都随一の諜報員だった男の事だ。
仕事上のヘマと、恋人との結婚を機に、その家業から足を洗い。
デレデレに紹介された清掃業をこなしていた男は、デレデレの言葉に苦笑をする。

(;´∀`)「そ、そんな本当の事言わなくても良いモナ……」

ξ゚听)ξ「でも、たかが一清掃業者が何でそんな事を?」

如何にラウンジタワーに出入りしているとはいえ、そう簡単に秘密の会話を聞けるはずがない。
ましてや、強風の吹き荒れる高層ビルの外ならば内部の音が聞こえる事も無い。

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 23:36:17.34 ID:xIw46Hck0
( ´∀`)「あぁ、たまたま暇つぶしに唇を読んだモナ。 その時に、あまり穏やかじゃない単語が読めたんで、一応報告したんだモナ。
      それに、何も高い場所だけがモナーの仕事場じゃ無いモナよ」

少しだけ自慢げに語り、モナ―は胸を張った。

( ´∀`)「何日も連続で同じ人間が出入りしているとなれば、いい加減顔を覚えるモナ」

ζ(゚ー゚*ζ「こう見えてもね、彼は記憶力も良いのよ。
       彼からの情報で、私はある程度の作戦が立てられたの。
       じゃあ、皆でお礼を言いましょう。
       さん、ハイ」

手を叩き、デレデレは皆に促す。
小学生の校外学習の最後の場面を彷彿とさせるその行為に、苦笑する者は誰一人としていなかった。
むしろ、皆デレデレの指示に進んで従った。
皆の感謝の声が一つとなって、モナ―に浴びせかけられる。

ζ(゚ー゚*ζ「あ、そうだ」

感謝の声が止むのと、デレデレが何かを思い出した仕草をしたのは同時だった。
ドクオの方に視線を動かし、やんわりと付け加える。

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオちゃん、貴方達"ジングル"だけ、外に行くルートが違うの。
       他のみんなも聞いておいて頂戴ね。
       皆は目的地まで、どんな手段を使っても良いけど絶対に見つかったら駄目よ。
       これは全部隊共通した条件ね。 作戦開始までに、見つかったり気取られたりしたらこっちの負け。

       ただの市街戦とは違うから、その辺を理解しておいてね。
       で、皆は基本的にここから地上に上がって、各々で移動してもらうんだけども。
       ドクオちゃん達だけは、"別ルート"を通ってもらうわ」

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 23:40:13.97 ID:xIw46Hck0
(,,゚Д゚)「まさか、俺達が通ったルートですか?」

無関係のはずのギコが、何か嫌な事を思い出したかのような声を上げた。
"獅子将"が恐れるモノは、この都にはそうない。
となれば、ギコが恐れる何かがデレデレの言葉の中に有ったのだろう。
そして、それはルートに関係している事柄であるのは、容易に想像が出来た。

ζ(゚ー゚*ζ「そうよ。 あのルートを使って、私達の切り札を連中の懐に潜り込ませるの。
       ドクオちゃん、ヒートちゃん。 "パンドラの箱"の時に、大きな爆発があったのを覚えているでしょう?」

ノパ听)「あぁ、えらくド派手に爆発したのを覚えてる。
     地下まで続く大穴が…… あっ! まさかあれ……」

ζ(゚ー゚*ζ「その通り。 流石ね、ヒートちゃん。
       阿部に頼んで、ここの地下とナイチンゲールを強引に繋いでもらったの。
       地下からナイチンゲール内に入って、そこで待機。 連中からしたら、完全な不意打ちね」

オサムの横で腕を組んで座っていた"穴掘り"阿部は、デレデレの紹介で立ち上がって会釈をした。
"穴掘り"阿部と言えば、都でも大手の土木建築業の社長で知られている。
同時に阿部は、男色家でも有名であった。
水平線会とクールノーファミリーの傘下に居る彼は、デレデレの事を"我が母"と、でぃの事を"我が父"と呼び慕っている。

ζ(゚ー゚*ζ「さて、そろそろ始まるわね。
       ひとまず、各自これにて解散。
       "デイジー"はここに待機していてちょうだい、じゃあ……」

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 23:43:11.81 ID:xIw46Hck0
デレデレはそう言って、"勇ましくも優しい笑み"を浮かべた。
皆、この笑みが見たかった。
誰もが惹かれて止まない、この笑みを。
見る者全てに勇気を、決意を、そして自信と安らぎを与える魔法の笑み。

ζ(゚ー゚*ζ「魔女狩りを始めましょうか」

【時刻――17:00】

"女帝"の掛け声に、義者達が呼応した。

――――――――――――――――――――

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 23:47:16.94 ID:xIw46Hck0
/ ,' 3「かっ、まったく役に立たない奴らじゃの!
    口ほどにもない!」

荒巻スカルチノフの第一声は、明らかな敵意と軽蔑を孕んでいた。
部屋中に響くほどの大声に、聞いていた者達は耳を塞ぎたい気持ちで一杯になる。
その事を皆顔に出さないのは、荒巻の言葉が間違っていないからだ。
確かに、彼らには力と情報があり、それに頼って油断していたのは言い逃れの出来ない事実だった。

文句の一つでも言いたい所だが、彼らは持ち前の忍耐力でそれを押し殺す。
それに対して荒巻は気を良くしたのか、更に暴言を並べ始めた。

/ ,' 3「だいたいなんじゃ?貴様等、高い給料を貰っているのに、何故誠意を見せようとしない?
    本当にやる気があるかどうか、一度確認したいのう……」

そう言って荒巻は下品な笑みを浮かべ、ダイオードの体を舐め回すように見る。
荒巻にとって、女とは戦闘員でも社員でも、ましてや部下ではない。
性欲処理の道具としてしか、荒巻は女を見ないのだ。
しかも、性欲処理の為ならば場所や状況を選ばない。

/ ,' 3「ダイオード、こちらに来い。
    その躰に、やる気があるかを直接訊くことにする」

袖の下に忍ばせている鎖鎌の分銅で荒巻の脳天を砕きたい衝動に駆られながらも、ダイオードは無表情に歩み出そうとした。
だが、一本踏み出そうとした矢先、それを制する声が上がる。

爪'ー`)y‐「おっと、その前に」

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 23:51:10.95 ID:xIw46Hck0
手にした葉巻で荒巻を指し、声の主であるフォックスは指を鳴らした。
それに合わせて、フォックスの背後にあるスクリーンに映像が映る。
その映像は、都の上空から大通りを見下ろしているモノだった。
僅かな映像の揺れから、それがヘリコプター上から撮影されたモノだと判る。

爪'ー`)y‐「今から、"灰燼の女王"を、プランαからβに移行する」

それを聞いた瞬間、タバコを咥えていた中年の男が手を挙げた。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「いいのかい?βは最終手段だろ?」

爪'ー`)「だから、何か?」

間髪入れずに返答したフォックスは、まだ殆ど吸っていない葉巻を机に押し付けた。
その際、フォックスの浮かべた笑みに気付いた者はいなかった。
辺りはフォックスと渋澤の吐き出した紫煙のせいで、濃霧の様に白み掛かっている。
その為、周囲からフォックスの表情は窺えない。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「いや、悪かったな。あんたの指示に従うさ」

両手を挙げておどけて見せ、渋澤は再びタバコを口に咥えた。
フォックスの考えは、今この場にいる誰にも理解できない。
渋澤は理解できないながらも、内心で笑みを浮かべていた。
プランβは、渋澤が最も好む作戦なのだ。

屍姦と同様に人間の倫理的にはアウトだが、それでも渋澤は好きだった。

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 23:55:11.20 ID:xIw46Hck0
爪'ー`)「プランβについて、再確認しよう。
     ブーン」

フォックスの呼び掛けに、傍らに控えていたブーンが面を上げる。
プログラムによる命令を受けた機械の様に、ブーンは事務的な声を発した。

( ^ω^)「プランβ、大規模戦闘によるローラー作戦」

言い方を変えれば、都を戦場にして、一気に勝負を付ける作戦だ。
例え民間人でも邪魔になるのであれば、容赦無く排除する。
己の欲に忠実に動き、標的が動きを見せた瞬間に一斉に襲い掛かる。
本来なら、この作戦は歯車王を捕らえる為のモノだった。

都を戦場ではなく、狩場にするプランα。
その最終段階に用いる筈だった作戦で、何をしようというのか。
プランαの初期段階で民間人に捕らえさせて、味方に改造する筈だった標的達に悉く逃げられてしまったせいで、予定の戦力は揃っていない。
今の戦力で御三家だけならまだしも、歯車王までも捕らえるのは不可能だ。

爪'ー`)「そうだ、ブーン。正解だよ。
     今回はプランβに予定されていた、全100機のハインドによる人間狩りに加えて―――」

フォックスは新たな葉巻をくわえ、火を点す。
ゆっくりと紫煙を吸い込み、一気に吐き出した。
焦らす様にして、フォックスは辺りに漂う濃霧めいた紫煙が消えるのを待つ。
紫煙が消え、渋澤達の目にフォックスの笑みが映った。

爪'ー`)y‐「英雄の都から雇った連中を投入する」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「っ……!」

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/05(日) 23:59:20.92 ID:xIw46Hck0
渋澤は歓喜した。
戦争狂と呼ばれ、故郷から逃げ出した渋澤にとって戦争は生き甲斐であり。
また、性交よりも高い快感を手に入れる唯一の手段であった。
英雄の都という単語を聞いた瞬間、渋澤の脳裏に懐かしい戦場の光景が浮かんだ。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「雇った連中、とは?」

子供の様に目を輝かせ、普段無口な渋澤は饒舌になる。
渋澤の恋人であるダイオードは、その様子を黙ったまま見つめていた。

爪'ー`)y‐「"ラーズグリーズ"、"円卓の鬼神"、"片羽の妖精"、"フライングウィッチ"。
      あの都の中でも、伝説レベルの空の連中さ」

数多の戦場を生き延び、英雄と呼ばれるのは簡単な話ではない。
更に、戦場が空ともなると寄り一層難しい話だ。

爪'ー`)y‐「最早、躊躇する必要が無くなった。
      "女帝"を相手にするならば、遠慮をするのは無礼と言うものだ。
      全力で相手をしてやる!」

あの"魔女"が持ち得る戦力、知力を全て導入して挑む相手とは、どれほどの者なのだろうか。
渋澤は、まだ見ぬ戦場に想いを馳せた。

――――――――――――――――――――

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/06(月) 00:03:28.62 ID:LCRk3T4l0
都の上空。
高度3000メートルに浮かぶ雲に隠れていたそれが、一斉に降下を始めた。
Mi-24P、通称ハインドE。
トソンがマスコミ関係のヘリだと思っていたそれは、当然民間用のそれでは無い。

軍事用の戦闘ヘリであるこのハインドEは、たった一機だけでも恐るべき戦闘力を持つ。
機銃は元より、対戦車ミサイル、ロケット砲、機関砲、爆弾。
空飛ぶ殺戮兵器は、人間相手に対して絶大な威力を有する。
そのハインドが、合計で30機。

黒雲から堕天使の如く舞い降りたハインドは、都の大通りに沿って編隊を組む。
まるで、戦車を護衛するように滞空する。
グレーの迷彩を施し、黒雲に溶け込んではいるがその音は誤魔化せない。
複数の悪魔の羽音が、都の大通りに響く。


都の南西。
都に一つしかない空港は、これまでで一番賑わっていた。
空港のあちらこちらに、巨大なコンテナが所狭しと置かれている。
滑走路にまではみ出しかねない程のコンテナの中身は、全て空になっていた。

何故なら、その中身は全て組み立て終わっているからだ。
総勢70機にも及ぶ鋼鉄の堕天使が、滑走路の隅でメインローターを回転させ始めている。
都の大通りに沿って滞空しているのと同じ、ハインドE。
次の瞬間、鋼鉄の堕天使達が一斉に羽ばたいた。

奇妙な叫び声を上げ、重火器で武装した堕天使は空へと舞う。
地獄の底から湧き上がるような、低い音。
都の空を、堕天使の唸り声が支配する。
黒雲の下、堕天使達がダンスを踊る。

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/06(月) 00:07:28.00 ID:LCRk3T4l0
空港の滑走路へと続く進入路。
今まさに、4つの機影がそこに現れた。
英雄の都から魔女が呼び寄せた、伝説の中にしかいない空の英雄達。
"ラーズグリーズ"。

謳われない戦争を生き抜き、英雄にまで登り詰めた部隊。
現れた4つの機影は、皆一様に黒のカラーリングが施されている。
特徴的な可変後退翼を持つ艦上戦闘機、F-14Dスーパートムキャット(雄猫)。
進入路をゆっくりと回り、先頭の一機が離陸の位置に着く。

静かに大気を震わせ、間隔を開けて搭載された二基のエンジンから青白い焔が噴き出した。
次の瞬間、轟音と共にF-14が滑走路を駆け抜ける。
轟音を従え、F-14は空へと上がった。
それに倣って、後続の三機も次々と空に昇る。

四機が空に消えたのに続いて、新たに二機の戦闘機が進入路に現れた。
二機の制空戦闘機、F-15Cイーグル(鷲)。
一機は両翼の端に青いカラーリングを施し、もう一機は右翼の端に赤いカラーリングを施している。
先頭を行く青のパイロットは、"円卓の鬼神"。

後に続く赤のパイロットは、"片羽の妖精"。
両者とも、ベルカ戦争における伝説的傭兵だ。
先程離陸した"ラーズグリーズ"よりも前に名を馳せた二者は、その力量で言えば"ラーズグリーズ"よりも優れている。
先程と同じように、その二機も空へと上がって行った。

そして、最後に。
異質にして異形の機体が、進入路に現れた。

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/06(月) 00:11:57.84 ID:LCRk3T4l0
その機体を言い現すなら、"黒"としか言えなかった。
機体の全てが黒一色に塗装され、エンブレムらしきものも窺えない。
コクピットにまで黒の塗装が施され、パイロットの姿はおろか人数すら分からない。
そして、その機体は世界に二つとない完全オリジナルの機体だった。

"魔女の箒"の名が与えられた、FOX社製の大型制空戦闘機、FX-705。
大型の特殊可変翼は、状況に応じて人工知能が前後に動かす判断を下す。
その機能のおかげで、低速、高速戦闘中でもバランスを崩す事は決してない。
更にカナード翼と二基の推力偏向ノズルの搭載により、クルビットなどの特殊軌道が可能となった。

"フライングウィッチ"ジャンヌの為だけに、特別に開発されたこの機体は現代戦闘機の最終到達点と言っても過言ではない。
全てが黒に統一された"魔女の箒"が、離陸体勢に入る。
だが次の瞬間、信じられない事が起こった。
機体が、その場で真っ直ぐ宙に浮かんだのだ。

STOVL(短距離離陸垂直着陸機)。
現代戦闘機の中でも限られた機体しか行えないその技を、"魔女の箒"は平然とやってのけた。
空中でアフターバーナーを点火し、一気に加速する。
その際に焔が現れなかったのも、この機体の特殊な性能の内の一つだ。

加速に合わせて、特殊可変翼が後退して風の抵抗を軽減する。
その姿は正に、"魔女の箒"のシルエットその物だ。
"魔女の箒"は、魔女の金切り声の様な音を立てて空気を切り裂いて進む。
都の上空に浮かぶ黒雲に、その姿が溶けて消えた。

142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/06(月) 00:16:43.84 ID:LCRk3T4l0
【時刻――17:00】

魔女に導かれ、英雄がやって来たのは歯車の都。
群雄割拠のこの都に、果たしてその力がどこまで通じるのだろうか。
英雄達が挑むのは、都の姦雄達。
この戦いの果てにあるものは、いったい何であろうか。

歯車は回る。
それが例え、どんな結果を招く事になろうとも。
歯車は回る。 王の手のひらの上で。
何故なら、ここは―――

人の思惑廻る、歯車の都。

第二部【都激震編】
第二十二話 了



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