('A`)と歯車の都のようです

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 21:03:02.32 ID:FvIxArSB0
【時刻――18:00】

―――大通りが喧騒と混乱で満ちている最中。
ロマネスク一家を後にした"カトナップ"は、クールノーファミリー本部でその時が来るのを、静かに待っていた。
裏社会を支配する御三家の本部が連なって建っている事は周知の事実であり、当然ながら"カトナップ"もそれを知っていた。
そこで、彼らは安全かつ便利なクールノーファミリー本部を待機場所として選んだのだ。

空いた時間を有意義かつ効果的、そして最大に使うのは当然のことである。
その為、クールノー・ツンデレの私室で、部屋の持ち主であるツンは机に向き合って腰を下ろしていた。
背もたれにやんわりと背を預け、コンポから流れる音楽に耳を傾けつつ、ツンは手元のライトスタンドを少し傾ける。
白い光が照らしたのは、武骨な銃のシルエット。

ツンは、右耳にかかった髪を右手で掻き上げ、手元の銃に手を掛けた。
カチャカチャと金属が擦れる音が響く。
音が止んだと思った時には、ツンの手元には綺麗に分解された一挺分の部品が出現していた。
木と、金属、そしてプラスチック。

やはり、信頼性のある木と金属で構成された銃はいい。
銃を分解し終えたツンは、満足げにそれらの部品に目を向ける。
目に留まった適当な部品を手に取り、綺麗な布でそれを拭く。
如何に信頼性があるとはいえ、油断は禁物だ。

こう見えて、銃はデリケートな部分がある。
カラシニコフともなれば適当な扱いでいいかもしれないが、ツンはどんな銃でも丁寧に整備する事にしていた。
取り分け、自分の愛銃ならばその手間は何倍もかかる。
そして、今ツンが整備しているのもまた、そんな銃の一つであった。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 21:08:01.48 ID:FvIxArSB0
これから"カトナップ"が実行する作戦は、精密射撃を主とする狙撃任務ではない。
確かに幾つかの狙撃目標が指定されているが、それはあくまでもオマケ程度。
"カトナップ"はこれから、銃弾飛び交う鉄火場へと身を躍らせるのだ。
そこで要求される銃の性能は、速射性と装弾数。

当然、一発毎に装填作業をしなければいけないボルトアクションのライフルは、真っ先に除外される。
更に、狙撃と言う任務がある以上、中距離狙撃が可能な銃が好ましい。
バイクに乗って動き回る任務でもある為、銃身長は短い方がいい。
となれば、これらの要求を満たしている銃は必然的に限定される。

M14も捨てがたいが、銃身長が思いのほか長いので保留。
ワルサー社製の狙撃銃や、H&K社製の銃もあるが、重さや銃身長、装弾数などの点を考慮して、それらも除外。
ここでツンが選んだのは、デジニトクマッシ社製のサプレッサー付きの狙撃銃。
―――VSSヴィントレス。

フルオート射撃にも対応し、装弾数は20発。
重さも弾薬等込みで約3.5kgと軽く、片手での取り回しも容易だ。
もともとが解体しやすいという設計思想である為、このように分解しての整備がしやすいのも魅力の一つである。
幼少期のツンがこの銃を用いて狙撃の訓練を積んでいた経歴もあり、分解する手つきは鮮やかだった。

ツンは慣れた手つきで、取り外したバレルの掃除を始める。
布や棒を使って丁寧にバレル内の汚れを拭き取り、ライトで照らして内部の様子を窺う。
少し、汚れが残っている。
専用の用具を手に取り、その汚れを取る。

今度こそ汚れが拭き取れたのが確認できると、それを机の端に立て置く。
別の部品の整備に取り掛かる前に、ガンオイルを引出しから取り出す。
これを潤滑油として塗っておけば、愛銃の動作は安泰である。
こうして一通りの整備が終わり、ツンはヴィントレスの組み立て作業に移った。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 21:13:02.48 ID:FvIxArSB0
手早く組み立て作業を終え、それを机に立て掛けて床に置く。
一つ伸びをして、固まりかけた筋肉をほぐしてやる。

ξ゚听)ξ「ん……っ……ぅ〜っ」

机の端に置いてあった弾の詰まった箱に片手を伸ばしつつ、ツンは空いた手で肩を揉む。
自分で肩を揉んでもこれといって気持ちよくはないが、何故だかやってしまう動作だ。
手元に引き寄せた箱の中に入っている弾は、通常の弾ではない。
連中の装甲を貫く事が出来る徹甲弾だ。

一つそれをつまみ取り、指の腹でその感触を確かめた。
冷たい銅と真鍮の感触は、いつものように無感情で面白みに欠ける。
だが、これが命を奪い、そして守りもするのだから不思議なものだ。
20個以上用意した予備弾倉には、これと同じ種類の弾がぎっしりと詰まっている。

都合約500発の弾で、果たして事足りるのかという疑念が生まれるが、きっと大丈夫だろう。
あくまでもツン達の目的は敵の陽動と駆除であり、殲滅ではない。
これを履き違えてはいけない。
下手に動きまわって、出来上がっている作戦を邪魔するのは馬鹿のする事だ。

それに、相方が上手い事自分を制御してくれるから、その心配はいらないだろう。
そう考えた時、ふと思った。
何故だろうか。
あいつとの付き合いは短いのに、これほどに信頼できるのは。

まぁ、今はいい。
今必要なのは冷静な判断力と、連携力。
その為に、互いの信頼は非常に重要だ。
死地に乗り込む兵士同士が言葉抜きで信頼し合うが如く、自分もあいつを信用している。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 21:18:02.78 ID:FvIxArSB0
それならそれで、いいではないか。
むしろいい話だ。
さて、今度はサイドアームの整備に取り掛かろう。
ツンがそう意気込んだ時、部屋唯一の扉が控えめに3度ノックされた。

誰が来たのか、それはすぐに分かった。

ξ゚听)ξ「なに? 入ってくれば?」

扉が静かに開かれる。
ツンが机の上に拳銃を置くのと、扉が閉まる音が重なった。
椅子の背に背中を預け、ツンは椅子ごと振り返る。
そこにいたのは、棺桶を背負った奇妙な男。

顔中に巻いた包帯の下から覗く碧眼が、ツンを見据えていた。

【+  】ゞ゚)「……コーヒー淹れたんだが、飲むか……?」

男の両手には、それぞれマグカップが握られている。
ゆらりと立つ湯気と、ここまで漂ってくるコーヒーの香り。
なかなかに気が利く男だ。
彼こそが、"カトナップ"最後の一人にして、ツンの相棒。

棺桶死オサムである。

ξ゚听)ξ「えぇ、飲むわ。 ……ありがとう」

体を机に向け直し、机の上に置いた拳銃を解体し始めた。
最後の言葉は、その作業音で掻き消えてしまうほどにか細かった
オサムには聞こえていないかもしれない。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 21:23:01.34 ID:FvIxArSB0
【+  】ゞ゚)「インスタントだぞ……?
       いいのか……?」

そんなことは気にしていないのか、オサムは相変わらずの尻つぼみの言葉で問うてきた。

ξ゚听)ξ「いいわよ、別に。 砂糖は入ってるの?」

インスタントであろうが豆から淹れようが、関係はない。
コーヒーにこれと言って拘りを持っていないツンからしたら、どちらも同じだ。
要は、淹れる者の心。
それさえあれば、どんなものでも構いはしない。

【+  】ゞ゚)「あぁ、入ってる……。 余計だったか……?」

むしろ、砂糖を入れてなければ困るところだった。
ツンはコーヒー、紅茶は砂糖を入れて飲む主義である。
紅茶はどうにか砂糖抜きでも飲めるが、砂糖のないコーヒーはどうしても飲む気がしないのだ。
あれを飲むぐらいなら、気の抜けたビールを飲んだ方がマシだ。

ξ゚听)ξ「余計じゃないわよ。
      で、いつまでそこに立ってるの? さっさと来なさいよ」

【+  】ゞ゚)「む……」

言われ、オサムがゆっくりと歩み寄る。
ツンの傍らに来ると、机の邪魔にならない場所にマグカップを置いた。

【+  】ゞ゚)「……その銃は?」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 21:28:01.21 ID:FvIxArSB0
珍しく、オサムが質問をしてきた。
今、ツンが分解して整備している銃の事を言っているのだろう。
野外での分解、整備を想定して工具なしで分解出来る仕様を持つ自動拳銃。
ツン専用の改造を施したスチェッキン、"砂の盾"。

装弾数を2倍にした特殊な弾倉、握りを重視したグリップ。
連射時の反動抑制を狙ったエクスパンションチャンバー。
銃口付近は放熱性の高い素材を使用。
この改造によって、高精度の連射が可能となった。

ξ゚听)ξ「スチェッキンだけど、何か?」

【+  】ゞ゚)「いや、なんでもない……」

何か含みのある言い方だ。
確か、オサムもこの銃を使っていたと記憶している。
そして、あの男も―――

ξ゚听)ξ「そう言えば、ホーネットの整備は終わったの?」

―――嫌なことは考えないに限る。
それとなく話題を振り、その考えを打ち消す。
手元で銃の整備をしつつも、オサムの言葉に耳を傾ける。

【+  】ゞ゚)「あぁ…… 少し苦戦したが、完璧だ……」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 21:33:02.10 ID:FvIxArSB0
きっと、オサムはバイクの整備に慣れていないのだろう。
オサムの目が、少し細まった。
少し、疲れた目をしている。
目の端でそれを見て取ったツンは、ねぎらいの言葉を掛けようか考えた。

ξ゚听)ξ「完璧ならいいわ。
       ……バイクが完璧でも、体調が完璧でないと意味がないからね」

結果、少し歪曲した言葉を掛ける事にした。

【+  】ゞ゚)「ん…… 分かってる……」

答えたオサムの声は、やはり尻つぼみだ。
本当に分かっているのだろうか。
分かっていないと困る。
運転するのはオサムで、ツンはオサムの後ろに乗るのだ。

運転手に身を任せる。
その為には、運転手の体調は非常に重要だ。
当然、精神状態も重要である。
今のオサムは、バイクの整備で疲れているようにも見えた。

ξ゚听)ξ「何? 何か不安なの?」

【+  】ゞ゚)「少しだけ、な……」

いちいちこの男はじれったい。
何かあるのなら、口にすればいいのに。

ξ゚听)ξ「言いなさいよ、気になるでしょ」

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 21:37:02.08 ID:FvIxArSB0
マグカップに手を伸ばし、ツンは銃の整備を一旦止めた。
オサムを見上げる形で、ツンは言葉を待つ。
対して、見上げられる形でオサムは少しの間考える仕草をした。
そして、静かに口を開いた。

【+  】ゞ゚)「今回の騒動、何かある……」

ξ゚听)ξ「お母さ…… デレデレ様の作戦に何か不安があるってこと?」

【+  】ゞ゚)「違う、そうじゃない……
       デレデレさんの作戦は、まず確実に成功するだろう……
       でも、その段階で何か起きたら……」

呆れる男だ。
コーヒーを一口啜り、ツンは溜息を吐いた。
甘苦い香りと味が、口中に広がる。

ξ゚听)ξ「……ふーん。
      あんたってさ、意外と心配性なのね」

【+  】ゞ゚)「何……?」

意外そうな声を上げるオサム。
構わず、ツンは続ける。

ξ゚听)ξ「心配するぐらいなら、それを起こさせないようにすればいいだけの話。
      違うかしら? それに、心配しすぎが逆に失敗を生むのよ。
      これだけ美味しいコーヒーを淹れられるんだから、きっと、大丈夫よ」

【+  】ゞ゚)「……そうだな」

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 21:42:14.49 ID:FvIxArSB0
そう言って、オサムは出口へと足を進めた。
マグカップを片手に持っているのを見るに、どこか別の部屋にでも行くつもりなのだろう。
だが、ここはクールノーファミリーの本部。
部外者であるオサムが、バイクを弄っていた車庫とこの部屋以外に構造を知っているはずはない。

どこに行くのか問おうと思ったが。
これ以上は干渉過多になるので、意識的に止めた。
部屋を出て行くのを見送り、ツンは再度机に向き合う。
スチェッキンの整備を再開する中で、ツンは何故だかほっとしていた。

理由は分からない。
でも、何故だろう。
心があったかい。
やがて、原因はコーヒーにある事に気が付いた。

気持ちを込めて淹れてくれたのだろう。
昔、デレデレが淹れてくれた紅茶も、似た雰囲気の味がしていたのを思い出した。
優しい味。
久しぶりに、満足のいく気持ちになれた。

整備が終わり、組み立て始めたスチェッキンを眺める。
この銃には、これから活躍してもらうのだ。
失敗は許されない。
同時に、この銃でなければいけない気もしてきた。

最後に遊底をはめ込み、組み立てを終える。
弾倉が入っていない状態で、スチェッキンを右手に構える。
照門にライトを合わせ、銃爪を引いた。
撃鉄が勢いよく撃針を叩く。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 21:47:58.97 ID:FvIxArSB0
流石に弾は出ないが、撃針を叩いた音が響いた。
良い調子だ。
銃爪の引きやすさから、撃鉄の硬さまで拘った甲斐がある。
これなら十分である。

机の上に置いて、天井を仰ぐ。
少し、疲れたみたいだ。
ライトを片手で消し、瞼を下ろす。
溜息を一つ吐く。

大丈夫。
自分なら出来る。
これまでそうしてきたではないか。
独りで、どうにかしてみせる。

誰かに迷惑を掛けるわけにはいかない。
如何に絶望的な状況でも、諦めずに独りで。
与えられた任務を遂行し、完遂する。
そうすれば、余計な事を考える必要もない。

本当は怖い。
でも、それを押し殺す術は心得ている。
何も考えず。
何も感じない。

そうすれば、飛び交う銃弾の中でも臆さずに戦える。
これから待ち受ける困難も。
不安定様子を全て乗り越え、貫き、立ち向かう。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 21:49:11.47 ID:FvIxArSB0
ξ゚听)ξ「今度こそ…… 負けない……!」

密かな決意を胸に、ツンはマグカップに手を伸ばす。
温かな香りが、鼻腔をくすぐる。
口にすれば、泣きたくなるぐらい懐かしくも優しい味が。

彼女こそはクールノー・ツンデレ。
別名、"神槍"。
目の前に立ちはだかる万物全てを貫く、"女帝"の"槍"である。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 21:50:36.59 ID:FvIxArSB0
――――――――――――――――――――

('A`)と歯車の都のようです
第二部【都激震編】
第二十五話『怒涛の風を纏う者』

二十五話イメージ曲『Borderline』鬼束ちひろ
ttp://www.youtube.com/watch?v=bUFZEW_g8uA
――――――――――――――――――――

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 21:55:03.86 ID:FvIxArSB0
【時刻――22:00】

クールノーファミリーの敷地内。
その片隅に、クールノーファミリーが所有する車庫が存在する。
最大収容台数は普通乗用車10台と、大型二輪車が5台。
非常用のシェルターとしても機能するこの車庫の存在は、ファミリー以外にはあまり知られていない。

その最大の理由は、車庫表面に施された迷彩処置である。
遠目から見ればただの木陰、近くで見れば壁にしか見えない。
そしてその薄暗い車庫の中に、一人の男がいた。
顔中に巻いた包帯、背負った棺桶、剣呑な雰囲気。

男の名は棺桶死オサム。
フリーランスの殺し屋である。

【+  】ゞ゚)「……」

オサムの前には、一台の単車が置かれていた。
それは、先ほどオサムが完璧に整備した単車。
白銀に輝く"ホーネット"である。
鏡のように磨き上げた車体に映るオサムの姿は、どこか陰鬱にも見えた。

オサムの手には、白いマグカップが握られている。
中身はコーヒー。
ただし、すっかり冷めてしまっているのだが。
それでもオサムは、何かに魅入られたようにホーネットの車体を見ていた。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 22:00:01.63 ID:FvIxArSB0
否、果たして本当に車体を見ているのだろうか。
視線の先に、たまたまホーネットがあるだけなのかもしれない。
オサムの碧眼はホーネットではなく、もっと遠くの何かを見ている。
ふと、オサムの瞳が怪しげな光を灯した。

鋭く輝くその瞳を、視界の端に移す。
そこには何もない。
あるのはただの影。
だが、オサムはそこを凝視する。

【+  】ゞ゚)「……用件は?」

何もない空間に向かって、オサムは声を掛けた。
天井から吊るされている蛍光灯が、瞬きのように点いたり消えたりを繰り返す。
オサムの視線の先にある影が、僅かだが濃くなった気がした。
果たして、オサムの声に答えたのは影のように薄い声だった。

「いや、そんな怖い声を出すな。
今、俺達は仲間だろ?」

薄いながらも、その声は愉快気だ。
嵐が来て、はしゃぐ子供のように、邪気がない。
しかし、オサムはその声に対して無愛想に答える。

【+  】ゞ゚)「手短に話せ……
       あいつに聞かれるかもしれない……」

「お、結構あいつの事気にしてるのか?」

【+  】ゞ゚)「……黙れ……」

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 22:04:15.13 ID:FvIxArSB0
遂に、オサムの声に不機嫌さが露骨に表れた。
威圧的な声に動じたのか、影が少し動揺したように思えた。

「おぉ……怖い、怖い…… いつまでその調子なんだかね。
まぁいい。 お前の装備に関して言いに来たんだ」

【+  】ゞ゚)「装備は十分のはずだ……」

「ところがそうでもない。
連中の事を調べて分かったんだが、奴らは学習する」

その言葉に、オサムは首をかしげた。

【+  】ゞ゚)「どういうことだ……?」

「戦闘情報の蓄積、共有。
おもしろい設計思想をしてた。 となれば、必然的に新たな装備が必要だろ?」

影の真面目な声に、オサムは黙りこむ。
確かに、一理ある。
新しい攻撃方法を用意していないと、有事の際に何もできない。
その時に備えて準備をしておくのは、当然の話だ。

その様子に、影が少しだけ笑った。
まるで、生物学の教授が新たな研究成果を発表するかのように、影は自慢げに話し始めた。

「そこで、俺自らが改造したこのガバメントを……」

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 22:09:41.43 ID:FvIxArSB0
【+  】ゞ゚)「……いらん」

「は?」

予想外の反応に、影が動揺を示した。
自分の研究成果が根本から否定された教授のように、影はたじろぐ。
それをフォローするようにして、オサムは口を開いた。

【+  】ゞ゚)「勘違いするな…… お前を信頼していないわけじゃない……
       大切なのは、自分自身の腕だ……」

「ふむ…… それもそうだな。
まぁ銃は諦めよう。 だけどな、お前のその棺桶とバイク。
これには流石に手を出させてもらうぞ」

【+  】ゞ゚)「具体的に言ってみろ……」

オサムは、背負っていた棺桶を床に下ろした。
ズシリと重い音が短く響く。

「棺桶の中身はどうなってる?」

【+  】ゞ゚)「あの人の指示通り、タイプFだ……」

「それならいい。 じゃあバイクだ。
確か、"隼"に追いかけられたそうじゃないか」

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 22:14:14.45 ID:FvIxArSB0
【+  】ゞ゚)「あいつが生きていたとは、驚きだったが……」

忌々しげに、オサムは口を開いた。
その様子を見て影は、新たな論文を発表するような声で言った。

「おそらく、精神操作かその類を受けているのだろうよ。
"隼"の速さは実感したと思うが、ホーネットでは太刀打ちできない。
というか、正直な話、ホーネットでは舞台にすら上がれないのが現実だ」

【+  】ゞ゚)「そんなことは解っている……
       あいつがまたこちらを襲うという確証は……?」

「100%だな。 で、だ。
隼に対抗するために、こっちのホーネットに改造をしようと思う」

フルカウルとネイキッド。
その二者は根本的に設計思想が違う。
対するは速さ、対するは操作性。
ホーネットにカウルを付けたぐらいでは、対応できない。

【+  】ゞ゚)「どうするつもりだ……?」

「エンジンを変える。
ニトロで走らせるから、隼以上の速度が出せる」

【+  】ゞ゚)「操作性は落ちないだろうな……」

「安心しろ、その点も考えての改造だ」

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 22:18:03.31 ID:FvIxArSB0
速度を出せばその分安定性が高まるのが、バイクの特徴である。
だが、今回のような激しい軌道が要求される任務の場合は、安全性が著しく下がってしまう。
それが原因で安定性が僅かにでも落ちてしまえば、バイクは横転する。
そうなってしまえば、死は免れられない。

【+  】ゞ゚)「今からエンジンを変えて、整備は間に合うのか……?」

危惧するオサムに、影は笑む。

「エンジンを事前に変えたホーネットと取り換える。
それなら、問題はあるまい?」

【+  】ゞ゚)「……」

「決定だな。 代わりのホーネットは、ここに置いてある」

【+  】ゞ゚)「……光学不可視化迷彩か……」

影の周囲には何もない。
だが、影の申告が確かならそこにバイクは置いてある。
姿が見えないということは、ステルス迷彩を使っているということである。

「ステルス迷彩は俺からのお土産とでも思ってくれればいい。
いざという時、役に立つだろう」

【+  】ゞ゚)「これで用件は終わりか……?」

オサムの言葉に、影は肯く。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 22:23:10.59 ID:FvIxArSB0
「終わりだが、そう邪険に扱わなくてもいいだろ?」

【+  】ゞ゚)「……俺はそもそもお前が苦手なんだ……」

「そうか、それならしかたないな」

さほど残念がる様子も無く、影は言った。
その言葉を言われ慣れた、といった様子だ。
けれども影は、オサムの言葉にショックを受けたのだろうか、声に若干の陰りが孕んでいる。

「……あの女に気を使うのは、一体なぜだ?」

影の質問に対して、オサムは表情一つ、声色一つ変えずに答えた。

【+  】ゞ゚)「さてな、お前には関係のない話だ……」

「こいつはとことん嫌われたもんだ。
ま、俺はどうでもいいけどな」

唐突に、影が実体を成してその場に現れた。
直前に立ちあがった陽炎が、影が光学不可視化迷彩を使用した事を意味していた。
その為、オサムは驚かない。
影の正体は、一人の男だった。

如何にもインテリといった風体と気配。
面倒くさげな表情に、黒の高級スーツ。
オサムは、この男の名を知っている。
また、歯車王暗殺に関わったツンもこの男の名を知っている。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 22:28:03.67 ID:FvIxArSB0
( ´_ゝ`)「……後は、任せたぞ」

それだけを言い残し、影の主。
流石・兄者は、再び影に同化して消えた。

【時刻――00:30】

ツンとオサムは、ツンの私室で作戦の最終確認をしていた。
デレデレから渡された計画表の内容を再度確認すると同時に、その裏にある意図を汲み取る。
互いの意見を出し合う中で、この作戦の真の意図が薄らと見えてきた。
ここまで徹底した作戦を短時間の間に作るとは、流石は"女帝"である。

自分の親ながら、誇らしく思えた。

ξ゚听)ξ「……で、この狙撃目標だけど、何の意味があるのかしら?」

計画表に書かれている一文に、ツンは指を合わせた。
そこに書かれていたのは、作戦開始時に狙撃する目標である。
写真と地図付きで位置とその全貌が分かりやすく、ツンの事を考慮して作られている。
そして、ツンが指を合わせた一文には"歯車祭実行委員会第08支部に置かれた装置の、この端子"の文字が。

写真が掲載されているが、何の装置かまでは分からない。
ただ、多くのケーブルが繋がれていることと、小さなディスプレイとその横にツマミが付いていることだけは分かる。
AV機器のようにも見えるが、それにしてはディスプレイが小さすぎる。
そして、その装置の一番端に付いているケーブルに印がつけられていた。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 22:33:02.72 ID:FvIxArSB0
【+  】ゞ゚)「……これを破壊して、何かが起きる。
       それぐらいしか予想できないな……」

オサムと同様、ツンも同じ考えを抱いていた。
だが、これを破壊して何が起きるのか、それが分からない。
むしろ、破壊したことによって起きることに対しての利害。
それが気になる。

ξ゚听)ξ「今、祭りの会場でこの機材が動いているか否か、それが問題ね。
      動いていればそれに干渉する事が目的、動いていなければ起動させるのが目的」

【+  】ゞ゚)「このケーブルが最大の問題だな……
       写真を見る限り、太さは直径約2cm……
       敵に見つからない位置からの狙撃となれば、困難だぞ……」

オサムの心配はもっともだ。
細いケーブルを狙撃するのは、人間を狙撃するのとは難易度が違う。
むしろ、次元が違うと言い換えてもいい。
それほどに、この狙撃は難しいのだ。

如何に狙撃に定評のあるツンとは雖も、これは厳しいはず。
だが、ツンはいつもの強気な目でオサムを見据えた。

ξ゚听)ξ「平気よ。
      この程度のケーブルだったら、700mの場所からヴィントレスで撃ち抜けるわ」

自信に満ちた声と瞳に、オサムは黙るしかない。
母親よりも狙撃の才能があるツンならば、可能かもしれないが。
流石に、荷が重い気がしたのだ。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 22:38:02.00 ID:FvIxArSB0
【+  】ゞ゚)「……」

ξ゚听)ξ「そんな顔で心配しないでよ」

【+  】ゞ゚)「俺の顔が見えるのか……?」

ξ゚听)ξ「見えないけど、見えるわよ。
      ……あんたって、本当に不器用ね」

包帯で覆い隠されたオサムの表情など、分かるわけがない。
だが、何故だか知らないがツンはオサムの表情が陰ったのが分かった。
そして、オサムが内心でツンを心配している事も同時に見抜いた。

ξ゚听)ξ「私がこれだけ自信を持って挑むってことは、少なからずあんたに期待してるってことなのよ?
       それぐらい、自覚してちょうだい」

【+  】ゞ゚)「む……」

申し訳なさそうにオサムは頭を垂れた。

ξ゚听)ξ「分かったなら、この装置が何か把握しておきましょう」

とは言ったものの、装置を見ただけでこれが何かなんて分かるはずがない。
機械に詳しい者が見ても、分る者は少ないだろう。
ツンは思案した。
機械の形状から予測するのではなく、その用途と祭りとの関連性を考える。

祭りで使用している装置は、それほど多くはない。
そして、ツンは一つの考えに思い至った。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 22:42:02.81 ID:FvIxArSB0
ξ゚听)ξ「……これって、あのスピーカーに関係があるんじゃない?」

大通り全域に設置された特殊なスピーカー。
それの操作は歯車祭実行委員会の各部署が、それぞれ分担している。
指示書に書かれている第08支部は、歯車城東部に位置するスピーカーの操作を担当していたはずだ。
となれば、そのスピーカーを利用した作戦に違いない。

【+  】ゞ゚)「なるほど…… つまり、音が関係しているのか……」

音を利用する作戦など、そう多くはない。
ここは無難に、襲撃の際に発生する音を掻き消す狙いがあると予測しておくのが妥当だ。

ξ゚听)ξ「これで、問題は解決ね。
      でも、まだ時間の問題があるわね……」

【+  】ゞ゚)「残されたのは約2時間、か。 目標地点は約6km先。
       ホーネットのエンジン音が聞かれると厄介だな……」

その独特のエンジン音で、敵を翻弄するのが目的であるが故の欠点。
先ほどの改造で換装したエンジン、"ニトロプラス"のせいでホーネットの重量は200kg以上にまで増加している。
音を出さない為にそれを押して歩いていれば、当然の如く時間はかかるし、要らぬ疲労もする。
おまけに、そんな事をすれば上空のハインドに見つけてくれと言っているようなものだ。

狙撃地点を確保しなければならない点も考慮すれば、ここが考えどころだ。
如何にして狙撃任務を完遂し、敵に見つからずに翻弄できるか。

ξ゚听)ξ「問題はないわ。 ここの直線で一気に加速して、その途中で狙撃する」

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 22:47:05.33 ID:FvIxArSB0
御三家の建物から離れ、曲がり角を一つ右折すれば後は大通りまで一直線。
距離にして約3kmの道を突き進めば、そこにあるのは目的の実行委員会第08支部。
その途中で、ツンは狙撃するというのだ。
それも、バイクに乗ったまま。

無謀にも程がある。
口まで出かかったその言葉を、オサムは飲み込んだ。
ツンの自信を支えているのは、他でもない自分の運転なのだ。
自分が全力で挑めば、ツンはそれに全力で応える。

【+  】ゞ゚)「分かった…… 少しでも安定した状態を作るよう、努力する……
       だが、速度が半端じゃないぞ……」

ξ゚听)ξ「あのねぇ、私はこう見えてもバランス感覚はいい方なのよ?
      無礼ないでちょうだい」

【+  】ゞ゚)「分かってる…… 何かあれば、全力で―――」

オサムの言葉を遮り、ツンが口を出す。

ξ゚听)ξ「何も起こさせない、そうでしょう?」

【+  】ゞ゚)「……全力で、期待に応えるとしよう……」

目を通し終えた指示書をファイルケースにしまい、オサムは部屋を出ようと踵を返す。
だがその途中で、オサムが固まった。
それはまるで、野生のトラに遭遇した野兎のようだった。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 22:52:02.84 ID:FvIxArSB0
ξ゚听)ξ「……」

【+  】ゞ゚)「……」

その正体は、ツンから放たれる異常なまでの殺気。
しかも対象は、よりにもよってオサム。
何故だ?
少なくとも今は、敵ではないのに。

【+  】ゞ゚)「何だ……?」

恐怖には勝てず、オサムが口を開く。
切れ長の吊り目に睨まれては、無視を決め込むのは不可能である。
控えめに見ても美人に分類されるツンの視線を浴びては、尚更だ。

ξ゚听)ξ「……待ちなさいよ。
      少しぐらい、話をしていきなさいよ」

【+  】ゞ゚)「……え……?」

思わず、間の抜けた声を出したオサム。
それだけの為に、あの殺気を出したというのか?

ξ゚听)ξ「……暇だから、話し相手になりなさいよ」

【+  】ゞ゚)「音楽でも聞いていればいいだろう……
       ……それに、俺は話が苦手なんだ……」

ξ゚听)ξ「じゃあ、聞いてるだけでもいいわ」

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 22:57:05.40 ID:FvIxArSB0
これと言って断る理由がないので、オサムは大人しく元いた位置に戻る。
何故だか、ツンは満足げな顔をしていた。
その理由は、ツン自身にも分からない。
ただ、ツンは何故だかオサムともっと話したいと思ったのだ。

ξ゚听)ξ「さっき、バイクで逃げてるときに追いかけ来た奴。
      あいつね、前の仕事で私の事を庇って死んだと思ってた奴だったの。
      でも、生きてた。
      そして、その事を思い出して私はあいつを真正面から撃てなかった」

澄んだ瞳が、オサムの姿を写している。
冬の朝のように澄み切った瞳には、一切の邪気や邪念がない。
スカイブルーの碧眼が、少し潤んでいるように見えた。

ξ゚听)ξ「撃ってやる、って決めてたのに、撃てなかった……
      あいつ、記憶がないらしくてね。
      ひょっとしたら、私の事を思い出してくれるかも、って思ったのかもね。
      そしたら、護ってもらった借りを返せるからね」

【+  】ゞ゚)「……そんな考え、この都では不要だ。
       外見と中身は違う……」

素っ気無くオサムは言い放つ。

ξ゚听)ξ「えぇ、自分が甘い事はよく知ってるし、理解しているつもりよ。
      それでも私は、借りは必ず返す主義なの。
      とりあえず、あいつを直接撃たなかった。
      その事で、借りは返したつもりだわ」

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 23:01:03.58 ID:FvIxArSB0
【+  】ゞ゚)「……そうか」

ξ゚听)ξ「だから、今度会ったら迷うことなく頭を撃ち抜く。
      ……そう思ってるんだけど、ね」

ツンの声が暗く沈む。
オサムは、黙って続きを待つ。

ξ゚听)ξ「……何故でしょうね。
      撃てる気がしないのよ、あいつを。
      どうしても、あいつが黙ってフォックスに付いているとは思えないの。
      何か裏がある、そう考えちゃうのよ……」

【+  】ゞ゚)「愚かな…… それが命取りとなるかもしれないぞ……」

オサムの言葉に、ツンは自嘲気味に口を開く。

ξ゚听)ξ「知ってるって、そんなことは。
      だから、あんたにこの事を聞いて欲しかったの」

【+  】ゞ゚)「……? 何故俺なんだ?」

その言葉を聞いて、ツンは黙り込んだ。
言おうか、言うまいか迷っているといった感じである。
たっぷりの間を開け、ツンが呟いた。

ξ゚听)ξ「……一応、相棒だから」

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 23:05:05.53 ID:FvIxArSB0
蚊が鳴くように小さく、オサムの鼓膜には最初の方しか聞き取れていない。
顔を反らしたツンの表情は伺えなかった。
ほんの少しだけ、頬が桜色に染まっているようにも見える。
指摘したら殴られそうなので、オサムは黙っている事にした。

ξ゚听)ξ「有り得ないかもしれないけど、何故だかあいつがまだ生きている気がしてならないの。
      いざとなったら、私の代わりにあいつを撃ってちょうだい。
      たぶん大丈夫だとは思うけど、念のために、ね」

しばしの間無言で考えて、オサムはツンの頼みに対して答える。

【+  】ゞ゚)「……分かった。
       あいつを必ず殺す……」

それを聞いて、ツンは内心でほっと胸を撫で下ろした。
自分の私情で作戦が失敗したり、仲間や家族が危険に晒されたりするのは困る。
となれば、自分が出来ない場合は他人に頼むしかない。
そこで、ツンはオサムにその役割を頼んだのだ。

信頼に値する人間でなければこんな事、そう簡単には頼めない。
自分に代わって標的を仕留めてもらうなんて、恥晒しも良いところだ。

ξ゚听)ξ「悪いわね、こんな事頼んで」

【+  】ゞ゚)「気にするな……
       俺の任務はお前のサポートだ……」

ξ゚听)ξ「……あぁ、あともう一つ。
      その呼び方、止めてくれる?」

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 23:09:26.95 ID:FvIxArSB0
【+  】ゞ゚)「……何故だ?」

オサムは首を傾げる。
別に呼び名など、どうでもいいのではないか。
そう無言で問いかけた。

ξ゚听)ξ「私には"ツンデレ"っていう立派な名前があるの。
      お前、なんて名前じゃないわ」

【+  】ゞ゚)「つまり、ツンと呼べと……?」

ξ゚听)ξ「それでいいわ。
      くれぐれも、今度から間違えないように」

有無を言わせぬ物言いに、オサムは肯くしかない。

【+  】ゞ゚)「……分かった」

ξ゚听)ξ「そう言えば、あんたの得物。
      今回は何を使うつもりなの?」

相方の装備を知っておいても損はない。
話題の変更には丁度良かった。

【+  】ゞ゚)「モーゼルミリタリーにしようかと思ったが、スチェッキンにした……」

ξ゚听)ξ「……なんであんた、私と同じなのよ!」

いつもの調子で、ツンは憤慨した。
どこか微笑ましい憤慨の仕方だった為、オサムはそれほど気にも留めずにそっぽを向く。

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 23:14:04.20 ID:FvIxArSB0
ξ#゚听)ξ「おいこら、答えなさいよ!」

【+  】ゞ゚)「別に……」

ξ#゚听)ξ「私と同じ、っていうのが気に入らないのよ!」

【時刻――02:25】

雨音を聞くと心が落ち着くと言ったのは、どこの誰だっただろうか。
数十年前に会った馬鹿だったかもしれないし、両親だったかもしれない。
一つ思い出して分かったのは、随分と昔に親しい者から聞いた言葉だという事。
とはいえ、やはり雨音と言っても限度がある。

例えば、そう。
都の名物である豪雨。
この雨音となると、もはや騒音問題である。
だが、おかげさまでホーネットのエンジン音が掻き消えるので助かるのではあるが。

倉庫内でその騒音紛いの雨音を聞きながら、ツンはオサムの後ろで装備の最終チェックを行っていた。
この豪雨の中、果たしてヴィントレスは壊れずに動作してくれるのだろうか。
太もものホルスターに入れたスチェッキンは問題ないとしても、常に手に持ち、おまけに狙撃をするヴィントレスは不具合が起きてもおかしくない。
雨風の中に晒されれば、ほとんどの銃が壊れてしまう。

限界まで使用を避けるのが賢明だ。
棹桿操作をして、初弾を装填する。
耳に付けたインカムが正常に機能している事を確認。
最後に、光学照準器に不具合がない事を確認し、ツンは長い深呼吸をした。

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 23:18:04.05 ID:FvIxArSB0
ξ゚听)ξ「行けるわ」

【+  】ゞ゚)「了解……」

上空のヘリに発見される可能性がある為、バイクのヘッドライトは点けられない。
その為、オサムは特殊な暗視装置を右目に付けていた。
これなら、暗闇の中でも運転が可能だ。

ξ゚听)ξ「そろそろ出ないとまずいんじゃないの?」

【+  】ゞ゚)「あぁ、行くか……」

ツンが自分の背にしっかりとしがみ付いたのを確認し、オサムはアクセルを捻った。
車庫から外に出ると、そこはまるで滝壺のような豪雨だった。
こんな中では、エンジン音どころか会話すらまともに出来ないだろう。
急いで狙撃地点に移動し、速やかに狙撃を。

それにしても、もの凄い豪雨だ。
視界が利かない。
狙撃手であるツンの目をもってしても、精々50m。
常人ならば良くて5mだろう。

周囲が夜と言う事もあり、ますます視界が利かない。
これは予想外だ。
狙撃など不可能と言ってもいい。
視界が利かない中での超精密狙撃は、どんな奇跡が起ころうが成功はしない。

【+  】ゞ゚)「心配はない……」

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 23:23:36.46 ID:FvIxArSB0
豪雨に掠れて、オサムの声はインカム越しでも上手く聞き取れない。
だが、何を言ったのかは、それとなく聞き取れた。

ξ゚听)ξ「えぇ、分かった……」

何か勝算があるのだろう。
オサムの言葉を信じ、ツンは意識を集中させる。
クールノーファミリーの敷地から外に、二人を乗せたバイクが出る。
独特のエンジン音は、幸い豪雨で完全に消えていた。

速度は時速120km。
予定時刻には間に合うだろう。
問題は、上空のハインドがこちらの存在に気付くか、という点だ。
赤外線暗視装置を用いれば、この豪雨の中でもこちらの姿は見える。

一応、対赤外線繊維で作られた服を着ているから発見率は下がるかもしれないが。
それでも、不安である。
オサムの腰にまわした手に込めた力が、自然と強くなった。
目に雨が入らないよう、オサムの背に頭を預ける。

【+  】ゞ゚)「…………」

バイクで風と雨を切り裂く二人の格好は、全身黒ずくめだった。
オサムは黒のロングコートを羽織り、それを風に靡かせている。
そして、黒のバイク用グローブに、黒のライディングブーツ。
その装備の全てに、対赤外線処置が施されている。

ξ゚听)ξ「…………」

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 23:28:03.48 ID:FvIxArSB0
一方、ツンもまた、黒のコートを羽織っていた。
右手には狙撃銃。
太ももには拳銃。
そして、左手にはオサムの腰。

自慢の金髪は雨に濡れ、靡く事はない。
しかし、それでも持ち前の気高い美貌は失われることはなかった。

【+  】ゞ゚)「……構えろ!」

【時刻――02:28】

唯一の曲がり角を曲がり終えると同時に、ツンはヴィントレスを構える。
案の定、視界はゼロに近い。 大通りの明かりが辛うじて見える程度だ。
当然、狙点の先にある狙撃目標はおろか、大通りさえ見えない。
光学照準器越しに見る世界は、あまりにも霞み過ぎていた。

照準器のレンズに雨滴が付着しているせいもあり、まともな映像が見えない。
オサムの右肩に押し当てるようにして銃身を固定し、ツン自身は右手だけで構えている。
見えない目標を撃ち抜く技術は、確かに存在する。
しかし、それはあくまでも壁越しに対物ライフルで、遮蔽物を撃ち抜くような狙撃に限る話だ。

今回のような、目隠しで狙撃するような状況の場合。
残念ながら、成す術はない。
豪雨さえ止めば、或いは可能かもしれない。
一瞬、ほんの一瞬でも照準器に標的を収めさえすれば、後はツンの技量でカバーできる。

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 23:33:04.50 ID:FvIxArSB0
【時刻――02:29】

豪雨が止む気配は一向に感じ取れない。
予定時刻が迫るにつれ、次第に焦りが燻り出した。
心臓の鼓動が速い。
この燻りを収め、冷静な思考を取り戻せ。

銃把を握る手に、再度力を込める。
銃爪に掛けた指の震えを、意志で抑える。
早く、速く、疾く。

【+  】ゞ゚)「落ち着け……
       デレデレさんが言った事を、思い出すんだ……」

母親が言った事?

ξ゚听)ξ「っ……濃霧!」

そう、都には豪雨や歯車の他に名物がある。
例えば、発生原因不明の濃霧。
それが最大規模で発生すると、確かにデレデレは言っていた。
信頼に足る情報なので、まず確実に発生するだろう。

そして、その濃霧には特徴がある。
濃霧が発生している時、天候は必ず曇りなのだ。
つまり、濃霧が発生すれば、必然的に雨が上がる。
その隙をつけば、狙撃は可能だ。

まだ、チャンスはある!

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 23:38:17.58 ID:FvIxArSB0
【時刻――02:30】

案の定、豪雨が上がった。
同時に、周囲から次第に霧が発生する。
霧が辺りを満たすより早く標的を撃ち抜かなければ、チャンスは二度とない。
急いで、照準器を覗き込む。

狙点が機材を捉える。
標的であるケーブルを、瞬時に発見。
狙点を微調整。
風、湿度、振動、反動、それら全てが生み出す誤差を修正。

濃霧が、辺りを満たす。
チャンスは一度。
焦らず、しかし風よりも疾く。
そして、長年の狙撃手としての経験が、遂に銃爪に掛ったツンの右手人差し指を動かした。

サプレッサーに抑え込まれ、特殊な口径によって極限まで削られた銃声。
同時に、マズルフラッシュ。
僅かな反動が、ツンの右手を震わせる。
薬室から、薬莢が排出された。

手応え、有り。
そして遂に、辺りを濃霧が完全に満たした。
同時に、周囲のスピーカーから大音量でクラシックの音楽が流れ出す。
ひとまず、こちらの作戦は成功というわけだ。

【+  】ゞ゚)「このままいくぞ、準備はいいか……!」

117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 23:43:06.53 ID:FvIxArSB0
ξ゚听)ξ「あったりまえでしょ!」

勇ましく答え、ツンとオサム。
"カトナップ"は渦中へと急ぐ。

【時刻――02:31】

カトナップが大通りに到着した途端、周囲を覆っていた濃霧が嘘のように晴れた。
これは僥倖とばかりに、ツンは目の前に居たゼアフォー達にヴィントレスを撃ちまくる。
それでも、無駄弾は一切撃たない。
全てが一撃必殺。

ヒートでさえ一目置く実力を持つツンの狙撃能力の前に、不意を突かれたゼアフォー達は無残に倒れ崩れてゆく。
反撃とばかりに撃たれた弾は、反対方向に居た別のゼアフォーの体に命中する。
胴体に命中したところで、彼らには大したダメージはない。
だが、衝撃はそのまま伝わる。

たまらず踏鞴を踏んだゼアフォーを、ツンは見逃さない。
流れるようにして銃口を向け、躊躇いなく銃爪を引く。
徹甲弾の直撃を受け、ゼアフォーの脳漿がぶちまけられた。
仰け反るようにして背後に吹っ飛び、ゼアフォーが背中から落ちる。

瞬く間に、弾倉を一つ消費し切った。

ξ゚听)ξ「ローディング!」

その言葉を受け、オサムがスロットルを思い切り捻る。
一気に速度を上げ、敵の間を縫うようにして駆け抜ける。
隣のブロックで、ヒート達が奮闘しているのが辛うじて見えた。
時速300kmの中、ツンは弾倉を交換する。

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 23:48:06.58 ID:FvIxArSB0
弾倉の交換を終え、ツンはオサムの腰にまわした手で二回、腹を軽く叩く。
速度が落ち、ツンの狙撃可能限界速度、時速200kmになる。
だが、速度が落ちたとは雖もその速さに対応できる者はまずいない。
ゼアフォーが撃った弾は空しく夜闇を撃ち抜き、もしくは味方に命中する。

目まぐるしく変わる姿勢の中でも、ツンの狙撃は変わらず正確だった。
そして、霧が晴れた今。
光学照準器越しに、敵の急所を狙い撃つのはそこまで難しくはない。
ふと、エンジン音に紛れて聞こえた異質の音に、ツンは耳を澄ませる。

重くて、硬い。
鈍くて、強い。
遅くて、巨大。
無限軌道が地面を掻いて進む音だ。

間違いない。
事前の情報と、この目で見て確認した敵の主力部隊。
戦車だ。
流石に来るのが早い。

ξ゚听)ξ("パンドラ"の援護はまだ?!)

対戦車用の狩猟部隊、"パンドラ"。
"獅子将"ギコが率いる屈強で勇猛な者でのみ構成された、クールノーファミリーの切り札の一枚である。
作戦開始と同時に、陸上最強の兵器である戦車を三台も破壊してのけたのだ。
"f、g、h"の戦車を破壊してくれたのは嬉しいが、その穴を埋める為に新たな戦車がこちらに来ている。

更に、もう一つ。
圧倒的な脅威が空から舞い降りてきた。

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 23:53:03.41 ID:FvIxArSB0
ξ゚听)ξ「……っ、戦闘ヘリ!」

上空を舞っていたハインドが、激戦区と化したこの場所めがけて殺到している。
予想以上に対応が早い。
おまけに、タイミングも最悪だ。
バイクで駆け回って、気が付けば場所はfブロック南部。

奇襲はあくまでも初撃が全て。
深追いは禁物である。
それをあえて、この作戦は深追いするのだ。
その作戦を可能とさせるのは―――

【+  】ゞ゚)「来るぞ……!」

―――直後、空に花火が上がった。
否、それは花火などでは決してない。
遠距離から放たれた地対空ミサイル、スティンガー。
それが、フレアを撒く暇すら与えずにヘリを撃墜したのだ。

粉々に爆散したハインドの破片が、鉄屑の雨として降り注ぐ。
オサムの運転のおかげで、ツン達に破片は掠りもしなかった。
この攻撃は、"パンドラ"とは別のグループ。
"デイジー"である。

他の場所からも、対空砲火とばかりにRPG-7の弾頭が飛んでいる。
流石にあれに当たるほど、相手のパイロットも愚かではないだろう。
円を描くようにしてランチャーから距離を取り、すかさず反撃に転じている。
しかし、その隙はツンが待っていたものだった。

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/13(日) 23:57:03.39 ID:FvIxArSB0
ツンに与えられた狙撃目標は、一つだけではない。
ハインドが後生大事に吊っている空対地ミサイル。
あれを、撃ち抜くのだ。
空対地ミサイルと機銃なら、どう考えても空対地ミサイルの方が脅威だ。

建物に隠れていても、あれを当てられてしまえば隠れている建物が墓石となってしまう。
そこで、デレデレからの指示でハインドの吊っているミサイルを破壊し、同時にハインドも撃墜。
文字通り一石二鳥の狙撃目標だ。
ただ、問題があるとすれば。

相手は空を飛び回り、こちらは地面を常に駆け回る。
おまけに、ヘリコプターのローターから発生する風によって弾道も変わってしまう。
狙撃目標として、ヘリコプターの存在は極めて難しいものだった。
大混戦の中で果たして、上手く撃ち抜けるか。

―――答えは、可。

ξ゚听)ξ「ローディング!」

装填の合図に合わせ、再びオサムがスロットルを捻る。
素早く弾倉を交換し、棹桿を引く。
加速する世界の中、ツンは銃口を天に向けた。
狙いが定まるも、ハインドはすぐに移動してしまう。

機銃が火を噴き、薬莢が雨のように降ってくる。
ミサイルを撃ち抜くだけで、事は終わる。
慎重に相手の動きを先読みし、狙点を大きくずらした。
―――そして、銃爪を引き絞る。

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/14(月) 00:01:04.64 ID:NtnDpxVq0
着弾。
だが、着弾点はハインドの右羽。
初弾は失敗。
冷静に、第二射。

今度はミサイルに掠った。
そして、続けて第三射。
着弾、そして爆発、爆散。
右羽で起きた爆発は、ハインドのバランスとコントロールを失わせるには十分すぎた。

銀杏の種のようにクルクルと回りながら、ハインドが落下してくる。
7t以上にも及ぶ鋼鉄の塊が落下してくるとなれば、落下地点に居る者は否応なしに逃げるしかない。
ツン達から離れた場所に落下したハインドは、2〜30人を巻き添えにして大破した。
大混乱の大通りを、二人を乗せたバイクが悠々と、そして颯爽と駆け抜けた。

無論、行きがけの駄賃として銃弾をくれてやる事を忘れない。

ξ゚听)ξ(戦車は?!)

視線を巡らせ、今現在最も厄介な存在の位置を確認する。
南、ヒート達が戦っている地域とは真逆の場所に、それを見つけ出した。
そして、砲塔が鈍い唸りを上げて回り、ある一点で止まる。
まさか、とツンが思った直後―――

―――砲声。
エイブラムスの主砲、120mm滑空砲が火を噴いたのだ。
だが、その砲弾が飛んでいった方向はヒート達のいる方向。
幸か不幸か、敵はヒートに夢中だったらしい。

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/14(月) 00:06:12.82 ID:NtnDpxVq0
と、いうより。
高機動なバイクを相手にするのは不利だと判断したのだろう。
賢明な判断だ。
確かに、鈍重な戦車ではバイクに傷を付けることはできない。

だが同時に、ツンのヴィントレスでは戦車に掠り傷一つ付けられない。
それに、空にはハインドがまだ大量に残っている。
あれの援護さえあれば、エイブラムスは安泰だ。
敵がそう思ってしまうのは、無理からぬことだ。

―――事情を知らなければ、ツンもそう思っただろう。

一際盛大な爆音が轟いた。
それは、ホテルニューソクの屋上から放たれた120mm砲。
それの直撃を受けた戦車が、文字通り吹き飛んだ音だ。
これは、"ダスク"の仕業だ。

120mm砲による遠距離砲撃は、戦車を破壊するには十分すぎた。
その衝撃が、ホーネットを揺らす。
オサムは冷静に、その衝撃を受け流した。

【+  】ゞ゚)「むっ……?!」

突如、オサムが呻いた。
否、呻きにも似た狼狽の声。
何事かと、ツンはヴィントレスを撃ちながらオサムに尋ねようとした。
だが、その答えは―――

ξ゚听)ξ「……なるほどね」

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/14(月) 00:11:21.34 ID:NtnDpxVq0
―――ヴィントレスの光学照準器の向こうに、その答えは居た。
漆黒のバイクに跨るその姿は、さながら魔女の使い。
となれば、魔女の使いが駆る漆黒のバイクは、まるで地獄の猟犬。
攻撃的ながらも空気力学に基づいて設計されたカウル。

"隼"本来のフォルムは、そこには微塵も残されていなかった。
だが、その犬のような外見の中に唯一。
"隼"らしきものを上げるとすれば。
本体正面に付いた特徴的な配置の3つのライトのみ。

3つ目の猟犬を駆るのは、一人の男。
男の片手には短機関銃が握られ、ヘルメットはしていない。
男の姿が接近するより早く、オサムはホーネットをフルスロットルで急加速させた。
どこに行って何をするのか、それはこれから考えよう。

速度計は、時速350kmを示している。
振り落とされないようオサムの背中にしがみ付き、ツンはヴィントレスをスリングベルトに預けた。
代わりに、太ももにしまっていたスチェッキンを抜く。
後ろを見ずに、ツンはフルオートで弾丸をまき散らした。

この速度、この状況でのリロードは不可能と判断し、ツンは空になった弾倉を排出してスチェッキンをしまう。
今の一撃は、よくて牽制程度の役割を果たしてくれれば十分だ。
だが、ツンの期待は耳元を弾丸が掠め飛んで行った音が否定した。
もう、あの男は駄目だ。

両手でオサムにしがみ付きつつ、ツンは後ろを振り返る。
やはり、見間違いではない。
目算で約100m後方に居る男は、手にした短機関銃をこちらに向かって発砲してきた。
それだけではない。

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/14(月) 00:15:05.93 ID:NtnDpxVq0
まさかとは思ったが、あいつは生きていた。
バイクで転倒した上に、その爆発に巻き込まれたのにも拘らず。
あの男は、生きている。
あれは人間ではない。

いや、ひょっとしたら運がいいだけの人間かもしれない。
この際、どちらでも構わない。
戦場に介入してきた厄介な男から、今は一刻でも早く逃げなくては。
作戦を遂行するどころか、続行すら困難になってしまう。

オサムは迷いなく、路地裏へと続く曲がり角を曲がる。
車体を限界ギリギリまで傾け、速度を殺すことなく曲がり切った。

【+  】ゞ゚)「……提案がある。
       あいつは俺が食い止める……
       お前は作戦を続行するんだ……」

突如、オサムが言い放った。

ξ゚听)ξ「はぁ?!」

当然、ツンは聞き返す。
対して、オサムは冷静に返した。

【+  】ゞ゚)「……勘違いするな……
       お前に、あいつが殺れないと思っているわけじゃない……
       俺達の任務は、どこか一つでも欠けたら補填も修正も利かない……
       と、なれば、最低お前だけでも作戦を遂行するのが最善だ……」

諭すように、オサムは言う。

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/14(月) 00:20:03.93 ID:NtnDpxVq0
【+  】ゞ゚)「違うか……?」

ξ゚听)ξ「っ……」

唇を噛みしめ、ツンは考えた。
今は時間が惜しいし、オサムの言うことにも一理ある。
集めた歯車が一つでも欠ければ、物語は進まない。
そうなってしまえば、魔女に対抗する術は無くなってしまう。

ξ゚听)ξ「分かった…… でも、どこで私が降りるの?」

これが問題だった。
高速で走行中のバイクから、どのようにして別れるのか。
後ろから変態が追って来ているのに、悠長に靴を履き替えるバカはいない。

【+  】ゞ゚)「……違う……
       俺が、降りるんだ……」

ξ゚听)ξ「こういう時の冗談は大嫌いなんだけど?」

カーブを曲がりつつも、オサムは冷静だった。

【+  】ゞ゚)「バイクの運転ぐらい、出来るだろ……?
       時間が惜しい、文句は後でいくらでも聞く……」

ξ゚听)ξ「勝算があるのなら、いいわよ」

【+  】ゞ゚)「俺が負けるとでも思うか……?」

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/14(月) 00:25:23.73 ID:NtnDpxVq0
即答だった。
そして、その答えをツンは予想していた。

ξ゚听)ξ「いいわ。 じゃあ、こっちは私に任せて」

直後、オサムはバイクのバランスを崩すことなく跳躍した。
一瞬の躊躇いも無く、オサムは棺桶を背負ったまま飛んだのだ。
間を置かず、ツンがバイクのハンドルを握る。
こうして、バイクの操縦をツンが担うことに成功した。

―――まさに、曲芸。

ξ゚听)ξ「いい? さっさと終わらせるのよ!」

【+  】ゞ゚)

返事は、なかった。
声に出す返事は、なかった。
けれど、オサムは心の中で返事をしていた。
『当然だ』、と。

だがしかし、如何にしてオサムは投げ出した身を守るのか。
高速走行中のバイクから飛んだ人間に、何ができるというのか。
その答えは、至極簡単。
けれども、それはまさに捨て身。

しかし。
オサムは捨て身の行動など起こしていない。
全て考えている。
勝算はあるのだ。

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/14(月) 00:30:03.99 ID:NtnDpxVq0
跳躍と同時に、オサムは背負った棺桶を外し。
それをスケートボードのボードのようにして、棺桶の上に立つ。
地表と寸手のところでそれが間に会い、着地の衝撃と速度を棺桶が押し殺した。
それでも完全に速度が殺せるはずもなく、慣性の法則に従い、オサムは後ろ向きに滑ってゆく。

振り返るともう、ツンの姿はない。
彼女は己を曲げることなく進んだのだ。
ならば、自分も進むだけである。
碧眼に強い意志の炎を宿し、オサムは目の前の暗がりを睨みつけた。

黒い猟犬に跨る男の姿が、肉薄する。
このままこちらに突っ込んでくるつもりなのだろう、進路を変更する気配がない。
それをこちらが狙っているとは気付かずに。

【+  】ゞ゚)「ふ……っ!」

短く気合いを入れ、オサムは棺桶に付いた足に力を込める。
直後、それまで地面を滑走していた棺桶ごとオサムの体が宙に浮いた。
そして、その高さ―――

―――それは、黒い猟犬を駆る男の胸の高さと同じ。

【+  】ゞ゚)「よぉ……」

棺桶が男の胸を直撃する瞬間、オサムはそう呟いた。
男は、仰け反りながらもオサムの姿を真っ直ぐに見据える。

( ^ω^)「……」

149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/14(月) 00:35:08.88 ID:NtnDpxVq0
文字通り、バイクから吹き飛んだ男が地面を転げ回り、オサムはスケートボードの要領で着地を決めた。
主を失った黒い猟犬は、空しく建物に激突して爆発した。
その爆発音を背中で聞きつつ、棺桶から足を退け、オサムは棺桶を背負い直す。
そして、振り返った。

【+  】ゞ゚)「……」

( ^ω^)「俺の邪魔を、するなお」

オサムの視線の先で、男は平然と立っていた。
間違いない。
この男の体はもう、人間のそれではない。
時速300km以上で棺桶に突っ込み、そして転げ落ちて。

それでも立ち上がるなど、人間ではない。

【+  】ゞ゚)「悪いが、その意見は聞けない……
       大切な約束があるんだ……
       だから―――」

オサムは静かに、懐からスチェッキンを取り出す。
自分自身に言い聞かせるようにして呟きながら、撃鉄を起こし。
銃口を男に向けた。

( ^ω^)「あの女は、俺のものだお。
     壊れるまで犯しつくす、壊れても犯すお。
     だから―――」

151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/14(月) 00:40:07.46 ID:NtnDpxVq0
同時に、男も懐からスチェッキンを取り出していた。
それが生きる目的であるかのように呟きながら、撃鉄を起こし。
銃口をオサムに向ける。



【+  】ゞ゚)「―――ここは譲れん……!」



( ^ω^)「―――そこを譲れお!」



合わせたかのように、互いに咆哮。
銃声が、同時に轟いた。




第二部【都激震編】
第二十五話 了


戻る 次へ

inserted by FC2 system