('A`)と歯車の都のようです

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 19:35:01.11 ID:MZsQ3h6g0
【時刻――02:30】

夜明け前の都の空は、地上にいる者からは想像が出来ない程に美しかった。
普段、都の空は分厚い雲に覆われている為、都の人間が青空を視認する事は出来ない。
青空を知らないで育った子供が居る都にとっては、それが当たり前の事だった。
都の雲は一年中不気味な灰色をしており、それを好き好んで見上げようと思う者は皆無に等しい。

しかし、その不気味な色をした雲の上はこうも美しい空が広がっているのだから、勿体ない話である。
が、こうして雲の上にでも来ない限り、地上にいる者には決して見る事の叶わない光景なのだから、仕方がない。
持つ者と持たざる者の差とは、悲しいものだ。
贅沢な雲の絨毯が、眼下を埋め尽くし、その上に広がるのは満天の星空と大きなが月一つ。

これを絶景と言わず何と言うのだろうか。
これを見ずして、果たして人生に満足なのだろうか。
この景色の為なら、数百万ぐらいだしても惜しいとは思わない。
100万ドルの夜景とは良く聞くが、これの価値はそれ以上だ。

その絶景を、アルヴィン・H・ダヴェンポート、TACネーム"チョッパー"は鼻歌交じりに繰り返し眺めていた。
英雄の都屈指の空のエース部隊、"ラーズグリーズ"の三番機を任されている彼は、陽気な性格の持ち主である。
彼は部隊のムードメーカーであり、そして同時に、空戦のエキスパートだ。
黒く塗装されたF-14D、"スーパー・トムキャット"のコクピット越しに見る空は、やはり何度見直しても美しい。

空は幻想的な群青色と蠱惑的な瑠璃色。
眩い星々がこれでもかと空に散りばめられ、まるで宝石のように輝いている。
おおよそ、下に広がる"どす黒い都"には似つかわしくない程に無垢な色合いだ。
この空と比べたら、下の都はどす黒いでは済まない程に汚らしい。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 19:39:17.85 ID:MZsQ3h6g0
どこかの紛争地域並みの無法地帯でありながらも、奇妙な均衡だけは保たれ、そして動いている。
互いの利益やその他諸々が複雑に噛み合い回る様は、文字通り"歯車"だ。
一刻も早く"灰燼の女王"を成功させ、罪のない一般市民達をこの都から開放する事は、もはや彼等"英雄"にとっての義務である。
それが"傲慢と言う名のキャンバスに、理想と言う名の絵筆で描いた、綺麗事と言う名の糞の絵"だと、彼等はこれまでに一度も思った事はない。

自分達の考えこそが正義であり、それこそが皆が望む理想の形である。
間違いは実力を持って正す。
そんな考えをしているからこそ、結局彼等は"ドン・キホーテ"である事に気付けないのだ。
英雄狂の思考回路には常に正義が付きまとい、そしてそれが彼等の傲慢な性格を生みだした。

―――ただの一度も、彼等は空戦に巻き込まれた地域に住んでいた者達の事を考えた事はない。
撃墜した戦闘機の残骸がどうなるのか、家屋を破壊された人々がどのような思いを抱いたのか。
彼等は、そんな事を考えはしない。
何故なら、彼等にとって"彼等こそが絶対の正義"であるからだ。

正義に間違いはない。
彼等の考えに同意しない者は、全て悪。

チョッパー『いいねぇ、素晴らしき日の夜明け前、って感じだぜ』

感嘆の溜息と共に、チョッパーは無線の向こうにいる仲間に呼びかけた。
空対地ミサイルを限界まで積載した四機のF-14は、全て同じ黒い塗装が施されていた。
その黒い四機のF-14の部隊こそが、"ラーズグリーズ"。

『えぇ、とっても綺麗……』

柔和な中にも、何処か強い意志のようなものを感じ取れる声。
その声の主は、ラーズグリーズ唯一の女性パイロット、ケイ・ナガセ、TACネーム"エッジ"のものだ。
彼女は、ラーズグリーズの隊長機を護る位置に当たる二番機のパイロットである。
女性ながらも凄腕の戦闘機パイロットであり、英雄の都でも有名人であった。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 19:43:18.83 ID:MZsQ3h6g0
ナガセ『まるで、私達を祝福してくれているみたい……』

『じゃあ、神様にでも感謝しますか?』

ナガセの意見に声を挟んだのは、ラーズグリーズの中でも一番の若手であるハンス・グリム、TACネーム"アーチャー"。
四番機に当たる彼は新米だが、歴戦の猛者と肩を並べる程の実力を有している。
頼りなさ気な声ではあるが、それでも戦闘機の操縦は安定している。
初めて彼が戦闘に参加した時の怯え様が、まるで嘘のようだ。

チョッパー『バーカ、神様に何て感謝するんだよ?
       "いつも俺達を祝福してくれてありがとうございます"ってか?
       冗談じゃねえよ』

グリムをからかう様に、チョッパーは言った。
機体を左右に少しだけ揺さぶり、おどけて見せる。

チョッパー『ベイルアウトの装置がブッ壊れて、スタジアムに墜落した時から俺は神をファックするって決めてるんだ。
       あの時、ギリギリ間に合わなければ俺はお前らの守護神になってたぞ』

"謳われない戦争"時、彼は不運にも敵の攻撃を受けて墜落する事になった。
その際、脱出装置の電気系統が壊れ、やむなく無人のスタジアムに墜落させた。
本来なら死んでいたのだが、限界寸前の所で脱出装置が機能し、死を免れたのである。
しばらくの間は療養生活を送る事となり、戦争終結後にようやく仲間達と再会した事は、英雄の都の歴史の教科書に載って新しい。

ナガセ『そうしたら、私が毎日拝んであげるわよ。
     結婚式場でね』

今度は、ナガセがチョッパーを挑発した。
苦笑交じりに、チョッパーは溜息を吐く。
無駄だとは分かっているが、それまで沈黙を守って来た一番機に、チョッパーは声を掛けた。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 19:47:14.51 ID:MZsQ3h6g0
チョッパー『……けっ、おいブービー!
       黙ってないでお前も何か言ってくれよ!』

TACネーム、"ブービー"。
そう呼ばれたのは、ラーズグリーズの中でも最強の男性パイロットである。
理不尽なまでの強運、そして機体性能を無視した操縦技術。
時には"ブレイズ"の名で呼ばれる事もあるラーズグリーズの隊長は、ただ静かに肯定の言葉を述べた。

ブレイズ『あぁ』

普段から無口で、基本的には"はい"か"いいえ"しか喋らない。
そんな彼の何が気に入ったのかは不明だが、ナガセは彼との結婚を決めていた。
どちらがプロポーズをしたのかは定かではないが、お似合いだと思う。
確か、明後日辺りに式が執り行われる予定だったと、チョッパーは何の気なしに思い出した。

一体、どれだけの数の"英雄"が集まって式を祝うのだろうか。
英雄の都の同期生だけでなく、謳われない戦争に参加した者達も来るだろう。
曲芸飛行でも披露すれば、来賓の者達に喜ばれるのは請け合いだ。
どのような飛行をしようか、チョッパーが操縦桿を握りつつ呑気に考えた時だった。

―――短い電子音。

チョッパー『あぁ?』

コンソールに、レーダーロックされたとの警報が表示される。
計器の故障だろうか。
自機のレーダー上には、何も映し出されていない。
だが、だからと言ってそのままにはしない。

チョッパー『ラーズグリーズ3より各機へ、誰かレーダーに機影を捉えてないか?』

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 19:52:03.98 ID:MZsQ3h6g0
一応、編隊から外れ、大きく左に進路を変更する。
彼の質問に、アーチャーが答える。

アーチャー『いえ、何も確認できてません。
       向こうを飛んでる人達にも聞きますか?』

チョッパー『いや、連絡しなくていい。
       ったく、何なんだよ。
       ……ちょっと見て来る!』

そう言って、チョッパーは操縦桿を横に倒し、引く。
機首を反転させ、他の三機とは進路を逆に取った。
そして、アフターバーナーを全開にし、一気に機体を加速させる。
可変翼が後退し、空気抵抗を減らす。

せっかく景色を堪能していたのに、一体どこの誰がレーダー照射なんて無粋な真似をしたのだ。
そもそも、だ。
この都でレーダー照射をする"何か"がいるなんて、聞いていない。
空港の倉庫にあったナイトホークは使用不可能にしたし、まさか民間機がレーダー照射をするとは思えない。

一体どんな民間機だ。
今、彼等の機体には空対空ミサイルが積載されていない。
積載限界量まで空対地ミサイルを積んでいるのもあるが、何より使う事がないからだ。
いつでも機銃を撃てるよう、チョッパーは神経を尖らせる。

未だに彼のレーダーには、機影が映し出されない。
だが、相変わらずレーダー照射の警報だけは鳴っていた。
計器の故障である事を切に願うが、心の片隅は未知の存在との交戦を望んでいる。
やはり、この衝動には逆らえない。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 19:56:16.96 ID:MZsQ3h6g0
チョッパー『どこの誰だか知らねぇが、俺一人で十分だ!』

共通チャンネルに切り替え、チョッパーは叫んだ。
同時に、自機のレーダーを使い、再度所属不明機を探す。
すると、レーダーの片隅にようやく反応があった。
高性能なステルスが相手かと思えば、どうやら長距離からのレーダー照射をしていただけらしい。

拍子抜けしたチョッパーは、一気にドッグファイトに持ち込む事を考えた。
自機が空対空ミサイルを積んでいない以上、空戦の手段は一つしかない。
もしも向こうがそれに乗ってくれば、技術的な差で間違いなくこちらが有利だ。
何者かは知らないが、そこいらの飛行機乗り程度、ミサイルなしでも勝つことはできる。

チョッパー『ラーズグリーズ3、エネミー・タリホー。
       見つけたぞ、チキン野郎!
       お前らの出る幕じゃねぇ、ここは俺に任せろ!』

ミサイル発射警報が鳴り響いたのは、チョッパーの挑発よりも僅かに早かった。
敵のいる方向が分かった以上、チョッパーは急いで機体を90度旋回させる。
レーダー誘導のミサイルを回避するため、チャフを撒き散らした。
アルミの蒸着させられたプラスチックのフィルムが、レーダー波を妨害する。

チョッパー『へっ、残念だっ―――』

その声に重ねるようにして、若い男の声がチョッパーのヘルメット越しに耳朶を叩く。

『残念だったラギね』

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 20:00:30.12 ID:MZsQ3h6g0
楽しげに、それでいて威圧的に。
その声が、チョッパーの全身を震わせた。
恐怖。
英雄とは無縁のはずの、恐怖。

この声の主を、チョッパーは知っている。
否、知り過ぎている。
だからこそ、自分が恐怖した事に何の疑問も無かった。
自機のすぐ傍らに、"それ"が現れたのは必然。

チョッパー『なっ……?!』

どうして、と口に出そうとして思い出した。
『英雄の都から逃げ出した者が、ここに潜伏している可能性がある。』
そんな話を、誰かがしていた事に。
しかも、よりにもよって―――

チョッパー『"空虎"?!』

―――英雄の都屈指の天才が相手だとは、夢にも思わなかった。
その直後、チョッパーの乗るF-14に"赤外線誘導式のミサイル"が直撃した。
何が起きたのか、その事をチョッパーが理解する時間など無い。
相手が"空虎"である事を知っていれば、こうはならなかった。

もしも知っていれば、チョッパーはチャフだけでなくフレアも同時に撒き散らし、回避行動に専念していたはずだ。
レーダー誘導のミサイルのロックオンは、あくまでもブラフ。
本当の狙いは、自身に満ちたその隙を付いた攻撃である。
つまり、レーダー誘導のミサイルだと思わせ、相手にそれに合った回避行動をさせる。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 20:04:29.90 ID:MZsQ3h6g0
後は、チャフに惑わされない赤外線誘導式のミサイルを撃つだけで、事は足りた。
自分の技量を過信しすぎていた事もあり、チョッパーはフレアを撒くなどとは考え付かなかった。
空対地ミサイルとコンフォーマルタンクに空対空ミサイルの直撃を受け、派手に爆発したF-14の残骸が、炎を纏って落下する。
全ては一瞬の事だった。

ベイルアウトは間に合わず、チョッパーの命は空に散った。
仮にも彼は英雄だ。
そんな彼が、こうも呆気なく墜とされるとはラーズグリーズの誰もが想像できなかった。
が、三機に減ったとはいえ、まだその実力は変わらない。

すぐさまチョッパーの仇を取るべく、三機は素早く編隊を組み直す。

アーチャー『あの中佐がこうも簡単に……!』

一人、焦るアーチャーことハンス・グリム。
無理も無い。
"あの英雄"が、こうも簡単に落とされる何て信じろと言われても彼のような経験浅い若者には無理な話だ。
チョッパーが墜とされた場所に機首を反転させ、三機はアフターバーナーを全開にして空を駆ける。

ナガセ『グリム、落ち着きなさい。
    ……見つけた、10時の方向から来るわ!』

その言葉に、ラーズグリーズの全員が10時の方向に目を向ける。
そこにあるのは、背の高い灰色の雲。
月明かりに照らされている雲以外、これといって何もない。

アーチャー『何もいな……っ?!』

―――アーチャーの言葉を否定するようにして雲を突き抜け、"それ"は現れた。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 20:09:11.06 ID:MZsQ3h6g0
大きな翼。
巨大な機影。
白銀に輝くそれは、とても力強く、とても雄々しかった。
怒りや驚き、恐怖よりも感動の方が勝る程に。

MiG-31M、フォックスハウンドをここまで乗りこなせる者を、彼等は一人しか知らない。
英雄の都を逃げ出し、そしてどこかで逃亡生活を送っていると思っていた、ただ一人の男。
歴代屈指の空戦の天才。
トラギコ・バクスター、その人である。

何故、ここまでの接近を許したのか。
彼等の機体に付いているレーダーは、決して張り子のトラではない。
だが、トラギコの駆る機体と彼の戦い方を思い出し、誰もが戦慄した。
虎は、姿勢を低く保ち、襲いかかって来たのだ。

つまり、こちらのレーダーで捉えられない低空から、一気に上昇してきたのである。
彼の戦い方は、さながら肉食獣のそれだ。
ラーズグリーズの面々も、それを知っている。
もう一つ、トラギコに関して分かっている事がある。

彼に空で出会ったらならば、さっさと逃げるか、それとも死ぬ事を覚悟して戦うか。
道は、二つに一つ。
―――でなければ、"空飛ぶ虎"に喰い殺されてしまう。

(=゚д゚)『さぁって! 次に喰い殺されたい奴は誰ラギか?!』

三機と一機の戦闘機が、空中で交錯した。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 20:13:17.44 ID:MZsQ3h6g0





――――――――――――――――――――

('A`)と歯車の都のようです
第二部【都激震編】
第三十話『絆の為に、虎はゆく』

三十話イメージ曲『VENUS』鬼束ちひろ
ttp://www.youtube.com/watch?v=uCNjn3hBCPc
――――――――――――――――――――





22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 20:16:46.34 ID:MZsQ3h6g0
ラーズグリーズと交錯した後、トラギコはすぐさま機体を雲に突っ込ませた。
トラギコの目視と相手の反応から、相手が空対空ミサイルを積んでいない事が分かったからだ。
となれば、相手の攻撃手段は機銃しかない。
目視でもされない限り、トラギコが被弾する事はまずあり得ない。

(=゚д゚)「ミセリ、相手はどう来てるラギ?」

後部座席に乗せているミセリ・フィディックに、トラギコは尋ねた。
レーダーを確認するのは、後部座席に乗っているミセリの仕事である。
不慣れながらも、ミセリはしっかりと状況を伝える。

ミセ*゚−゚)リ「5時方向から反転して、こっちに向かってきています。
      距離は2000、編隊を組んでます」

(=゚д゚)「上出来ラギ。
    ミセリ、ここからリハビリ開始ラギ。
    ……少しの間、付き合ってもらうラギよ!」

言った途端、トラギコは機体を急上昇させ、雲から出した。
首を上げ、空を仰ぐ。
まるで、それに合わせるかのようにして機体が徐々に宙返りを始めた。
機体の背が地面を向くのと同時に、機体を捻り、正常位に戻す。

素早く相手と対峙することに成功したトラギコは、レーダー誘導のミサイルで相手をロックオンする。
フォックスハウンドはあくまでもミサイルでの迎撃に特化した機体であり、機銃を使用する格闘戦は苦手だ。
向こうの都合に合わせる必要などない為、遠慮なくトラギコは同時に三機をロックオンする事に成功した。
だが、距離が近すぎる。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 20:21:45.41 ID:MZsQ3h6g0
このままでは、撃った所でまた交錯するのが関の山だ。
ロックオンした状態のまま、トラギコと三機は再度交錯した。
その瞬間、トラギコはアフターバーナーを全開にし、眼下に広がる雲の下へと向かって降下を始める。
一見、逃げのようにも見えるこの行動。

その実、これはトラギコにとって有利な距離を取る行為である。
それぞれに得意とする距離があるように、この機体にもその距離が存在する。
長距離からのミサイル攻撃。
例え雲があろうと、レーダーから逃れることはできない。

大荒れの都上空に出現したトラギコは、操縦桿を横に倒し、機体を横に流す。
直後、それまで機体が居た空間を機銃の雨が穿つ。
一機だけ、編隊を外れてトラギコを追ってくる者の存在をトラギコが見ていたからこそ出来た技だ。

ミセ;゚−゚)リ「4時、6時、8時の方向に確認しました!
      すみません……」

(=゚д゚)「気にしないでいいラギよ。
    次からは頼むラギ!」

言って、トラギコは操縦桿を思い切り引いた。
機体をほとんど垂直にし、一気に上昇。
背後のF-14は、ラーズグリーズの隊長機だ。
上昇速度なら、トラギコの方が早い。

逸早く雲の上に舞い戻ったトラギコは、更に操縦桿を引いた。
機首が地面に向いた時、操縦桿を元に戻し、一気に加速させて頭からもう一度降下を開始。
入れ替わるようにして、三機のF-14が雲を突き抜けて雲上に現れた。

ミセ*゚−゚)リ「連中の相手はしないんですか?」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 20:25:28.22 ID:MZsQ3h6g0
レーダーを凝視するミセリは、トラギコに話しかけた。
そんなミセリとは逆に、トラギコはリラックスし切った声で答える。

(=゚д゚)「勿論するラギよ。
    そうじゃないと、ミセリも退屈しちゃうラギからね。
    でも、ついでに大通りのハインドを落とすラギ」

再度戻って来た都の空。
ミセリは、レーダーに映る小さな影の位置をトラギコに報告した。
トラギコは小さく返事をし、機体を加速させる。
軽く機銃を連射したのを、ミセリは音と振動で理解した。

爆発したハインドの横を、高速で駆け抜ける。

ミセ;゚−゚)リ「トラギコさん、6時方向から二機来ます!」

言うより早く、トラギコは操縦桿を倒し、バレルロールを開始する。
目まぐるしく変わる景色の中で、トラギコだけは冷静に事態を処理していた。
早い話、射線にいなければ後ろの連中がトラギコを撃墜することはできない。
一刻も早い決着の為に、トラギコは連中の後ろを取る必要が―――

ミセ;゚−゚)リ「……っ! 上、12時から一機!」

正面の空を見上げ、舌打ちと共にトラギコはミサイルロックを試みる。
短距離の空対空ミサイルの射程距離に捕らえ、トラギコは躊躇わずミサイルを発射した。
正面から襲い掛かろうとしていた隊長機は、止む無く進路を変更する。
一方、トラギコもただちにその場を離れ、後ろの二機の追撃をやり過ごす。

(=゚д゚)「あぁ、やっぱりラギ……」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 20:30:22.96 ID:MZsQ3h6g0
先ほど放った短距離ミサイルが、今まさにトラギコの視界の先で爆発した。
ただ、問題だったのはその爆発した位置だ。
狙った機に当たるより前の位置で爆発している。
フレアを撒かれて邪魔をされたのだろう。

一応、英雄相手だ。
これぐらいは予想できた。
その一機は上空でトラギコと交錯し、後ろに飛んで行った。

(=゚д゚)「ミセリ、他の連中はまだ来てないラギね?」

ミセ*゚−゚)リ「は、はい。 ですが、距離的にはもう見つかっているかも……」

他の連中とは、ガルム隊と"フライングウィッチ"の事である。
どちらもラーズグリーズよりも遥かに強く、ここで介入された場合トラギコの優位性は皆無となる。
介入される前に、まずはラーズグリーズを全滅させたいところであった。
しかし、以外にもトラギコは冷静だった。

むしろ余裕すら見て取れる。
何かが違う。
そう。
昔のトラギコならいざ知らず、今のトラギコは精神的に大きく成長している。

英雄気取りの連中とは違う。
確かに、空を飛ぶ事に誇りを持っていた時期もあった。
敵機を多く撃墜した事に喜びを感じた事もあった。
だが、今は違う。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 20:34:01.99 ID:MZsQ3h6g0
(=゚д゚)「ミセリ、リハビリをそろそろ終わらせるラギ!
    これから一気に連中を落とすラギ。
    その間、舌噛んじゃうから喋ったら駄目ラギよ」

ミセ*゚−゚)リ「分かりました」

軽く息を吸い込み、トラギコは瞼を下ろす。
ゆっくりと息を吐き出し、同時に瞼をそっと開ける。

(=゚д゚)「行くラギよ!」

機首を持ち上げ、空を目指し駆け上がる。
物凄い勢いでフォックスハウンドは上昇し、瞬く間に都が遠のき、ほとんど一瞬で雲を突き抜けた。
と、ミセリの視界に異常が生じる。
視界が、灰色になっているのだ。

瞬きをするも、変化はない。
自身に起きた以上に、ミセリは焦り出す。

ミセ;゚−゚)リ

しかし、トラギコとの約束がある以上、それを口に出さない。
もっとも、その心配は機体の上昇が止み、機体を水平に戻した所で止んだ。
徐々に視界が元に戻り始め、焦っていたミセリに余裕が戻り始める。
レーダーに目をやると、三つの機影が後ろから迫っているのが分かった。

だが、トラギコにそれすらも告げはしない。
トラギコは言ったはずだ。
一気に連中を落とす間、喋るな、と。
ならば、ミセリはそれを素直に守るだけだった。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 20:39:01.48 ID:MZsQ3h6g0
事実、トラギコはミセリの指示が無くとも後方の三機の存在に既に気付いていた。
彼らがどう動いてトラギコを潰しにかかって来るのかは、理解している。
高確率で、連中は挟み撃ちにしてくるはずだ。
挟撃、おまけにドッグファイトになればこの機体は十分に戦えなくなる。

―――それをさせない為には、三機を一機に減らせばいい。

操縦桿を引き、宙返りの体勢に移る。
大きく円を描きつつ、機体が反転し始めた。
それまで見下ろしていた雲を、見上げる形になる。
宙返りが終わり、機体が正常な体勢に戻り始めた時、眼下に広がっていた雲を突き抜けて三機の戦闘機が現れた。

トラギコの狙い通り、彼等はトラギコよりも上空に行ってしまう。
向こうが体勢を整えるより先に、トラギコはその背後に素早く回り込むと、三機を同時に捉える。
胴体に吊っていた4つのミサイルの内、3つが連続で放たれた。
見敵必殺。

ミサイルを放った途端、三機は編隊を崩してそれぞれチャフとフレアを撒きながら逃げ出した。
トラギコはその中で、最も操縦の若い三番機。
つまり、元四番機に目を付けた。
アーチャーの後ろにぴったりと付け、トラギコは共通チャンネルで話しかけた。

(=゚д゚)『ほらほら。 しっかり逃げるラギよ!
    英 雄 ご っ こ が 大 好 き な 坊 や』

アーチャー『こ、こいつ!
       僕を馬鹿にするのか!』

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 20:44:09.03 ID:MZsQ3h6g0
彼らが常日頃から誇っている英雄と言う肩書を、トラギコは馬鹿にした。
絶対的優位に居る以上、トラギコはこうして馬鹿にする余裕があった。
巧みな軌道でミサイルをどうにかやり過ごしたアーチャーではあったが、もう遅い。
容赦なく撃たれたバルカン砲に装甲を破壊され、アーチャーは上擦った悲鳴を上げた。

僅かな油断が、文字通り命取りとなったのだ。

アーチャー『ひっ、ひい!』

(=゚д゚)『あれ、まだ生きてるラギか?
    しぶといラギね』

言いつつ、更にバルカン砲の斉射。
コクピットに被弾したのを機に、アーチャーは無言になった。
と言うよりかは、直後に爆発した為に悲鳴も絶叫も聞こえなかったという方が正しい。

(=゚д゚)『餓鬼が……ん?』

窓の外に目を向け、仰ぐ。
流石は英雄と言うべきか。
残った二機も、あのミサイルの追跡から逃げ切ったらしい。
その内の一機が、トラギコの後ろを取ろうと揃ってハイ・ヨー・ヨーを開始していた。

こちらの進行方向に先回りするように描くあの機動は、かなり厄介だ。
おまけに速度も上がる為、逃げ切るには加速するしかない。
しかし、そうはさせない。
操縦桿を横に倒し、機体を傾ける。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 20:48:02.05 ID:MZsQ3h6g0
おおよそ45度傾いたところで、操縦桿を引く。
斜め上に宙返りをし、半ばで操縦桿を倒して機体を元に戻す。
進行方向を真逆にした為、一機と対峙する形となった。
こうすれば、こちらが逃げの一手に徹する事は無い。

もう一機の位置は、飛行機雲が教えてくれている。
僅かだが、向こうが来るのよりこちらが交戦するのが早い。

ナガセ『よくもグリムとチョッパーを!』

(=゚д゚)『あぁ、もう。
    面倒くさい奴ラギね……』

ナガセ『二人の魂の為にも、あなたを墜とさせてもらう!』

勇ましい事でも有名なナガセだが、時々無謀な操縦をする事がある。
そこにこそ、利用可能な隙があった。
速度を緩めることなく二機は迫り合う。
すれ違いざまに一撃で終わらせたいらしい。

(=゚д゚)『……そう言えば、あの禿オヤジは随分と無様に死んだラギね。
    頭のお味噌をぶちまけて、酷い死に様だったラギ』

ナガセ『な……っ!』

空戦で一瞬でも気を抜けば、それは死につながる。
完全に頭に血が上ったナガセは、そんな事も忘れてしまった。
トラギコは赤外線誘導の短距離ミサイルを発射し、さっさとその場を脱する。
ミサイルアラートの音で正気に戻ったナガセは、何を思ったかフレアを撒かずに逃げ始めた。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 21:29:04.37 ID:gF9KiDaG0
ナガセ『そんな…… そんなはずはない!』

否定の言葉を呟く声は、遂に途絶えた。
フレアも撒かずに、いつまでも赤外線誘導のミサイルを逃げ切れはしない。
機体の後部を吹き飛ばされ、ナガセの操縦するF-14は爆発、大破した。
コクピット内の鏡を見て、その様子を確認する。

(=゚д゚)『ベイルアウトしたラギか……』

が、それも束の間。
最後の一機が残っている。
側面の雲から飛び出してきたF-14を見咎め、トラギコは冷静に回避行動を取った。

ブレイズ『……』

あっという間に仲間が撃墜されたのを見て、ラーズグリーズの隊長がついに動き出した。
沈黙を守ってはいるが、明らかに怒っている。
回避行動を取ったトラギコの背後を取ろうと、かなり強引な軌道を描く。
ラーズグリーズの中でも、この男が一番の曲者だ。

この男に挑発は意味を成さない。
簡単に挑発に乗るような者では、隊長は務まらないからだ。
そうなると、挑発に乗って撃墜された二人は何なのか、と言うことになる。
所詮、綺麗事で空を飛んでいた連中だ。

それを否定されることに慣れていなかったのが、彼等の運の尽きだった。

(=゚д゚)「……むっ」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 21:33:16.21 ID:gF9KiDaG0
残りのミサイルは、レーダー誘導式のミサイルが一つ、主翼に吊っている赤外線誘導式のミサイルが一つ。
合計二基のミサイルと、残弾が二割程減った機銃。
流石にミサイルを撃ちすぎたか。
背後を取られないよう、トラギコも戦闘機動で対応する。

首を動かし、ブレイズの姿を捉えようとするも、すぐに視界から居なくなってしまう。
互いに互いの背後を取ろうと旋回している為、このままでは埒が明かない。
速度では勝っているが、細かい動きでは完全に負けている。
今は距離を離すことに専念し、機銃の射程から逃げるのが先だ。

機首を下げ、雲の中へと入り込む。
雲を抜け出し、都の空へと戻って来た。
雲の上とは一変して、かなり暗い。
暗視装置など付けていない為、頼みの綱はHUDに映し出される情報だけである。

機体を地面と平行にし、HUDが捉えたハインドを狙う。
逃げている間も、こうして与えられた任務をこなす事を忘れない。
機銃を数発コクピットに撃ち込むと、ハインドは呆気なく墜落した。
機銃の直撃をコクピットに受ければ、パイロットは無事では済まない。

ブレイズ『……』

もっとも、それはブレイズの関心事ではないようで、全くハインドを救おうとはしない。
むしろ、落ちる方が悪いと言わんばかりの無関心様だった。
トラギコ以外、まるで興味がないのだろうか。
復讐の鬼と化したブレイズは、ひたすらにトラギコを追う。

ふと、トラギコはある事を考えた。

(=゚д゚)「ミセリ、レーダーにさっきベイルアウトした奴は映ってるラギか?」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 21:37:09.06 ID:gF9KiDaG0
度重なる戦闘機動のせいで、すっかり滅入りかけていたミセリであったが。
トラギコの声を聞くや否や、すぐにレーダーに目を走らせた。

ミセ*'−`)リ「たぶん、ですけど。
      小さな影が、9時方向にあります。
      距離は15000。 どうするつもりなんですか?」

トラギコはそれを聞き、アフターバーナーを点火、一気に機体を加速させた。
その後ろを、ブレイズの駆るF-14同じようにアフターバーナーを全開にして追う。
トラギコは機首を上げ、もう一度雲の上を目指す。
その途中で、トラギコは悪戯っぽく言った。

(=゚д゚)「なぁに、愛のキューピッドになってやるラギ」

その言葉の意味をミセリが理解しようとしたのと同時に、機体は再度雲上に飛び出た。
機体を地面と平行にして、速度を僅かに落とす。
そんな事をすれば、当然後ろから怒り狂った雄猫が来てしまう。
トラギコともあろう者が、そんな簡単な事に気付いていないはずがない。

彼が何を狙っているのか、ミセリはますます分からなくなった。

(=゚д゚)「ミセリ、今の内に別の奴の動きをしっかり見て置くラギ。
    ここぐらいしか、余裕はないラギよ」

言うが早いか、来るが早いか。
トラギコを追ってきた雄猫が、背後からやって来る。
と、遂に向こうの忍耐力が切れたのか。
まだ射程内でないと言うのに、機銃を撃って来た。

すかさずバレルロールでそれに応じ、トラギコは銃弾を回避する。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 21:41:19.13 ID:gF9KiDaG0
(=゚д゚)『せっかちな男は嫌われるラギよ!』

余裕たっぷりにそう言い、トラギコは機体を横に回転させる。
天と地がひっくり返り、機体は大きく回転しながら何度もバレルロールを繰り返す。
その中で、トラギコはあるものを探していた。
そして、視界の端に一瞬だけ映ったそれを確認すると、背面飛行を始めた。

ミセ;゚д゚)リ「にゅぁ―――!」

(=゚д゚)「はーっはっはっはぁっ!
    ミセリ、そんなに楽しいラギか?」

絶叫マシンと違い、戦闘機にはキャノピーというものがある。
さらにベルトや、様々な装置が付いており、精神的な安全面では絶叫マシンのそれとは比べ物にならない程の充実ぶりだ。
強いて問題があるとすれば、絶叫マシンに乗っていれば必ず見えるレーンが無く、その辺りを意識すると途端に恐くなる事ぐらいである。
ミセリはこれまで、幼い頃にトラギコと行った遊園地の絶叫マシンでしかこのような体験をした事がない。

重力の影響で、ミセリは体が地面に引き寄せられる感覚を味わっていた。
絶叫するのも無理はない。
残念ながら、トラギコはミセリの絶叫を楽しんでのものだと勘違いし、機体をその状態で左右に揺らしだした。
そうなったものだから、ミセリはただただ叫ぶしかなかった。

これまでに叫ばなかったのは、単純に叫ぶ余裕が無かったからだ。
僅かだが余裕が生まれた今、遠慮なしにミセリは叫んでいた。

(=゚д゚)「こらこら、これはまだ本番じゃないラギよ!
    っと……!」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 21:45:28.70 ID:gF9KiDaG0
今度はミセリを脅かせる為でなく、飛んでくる銃弾を避ける為に機体を揺らす。
鏡で確認し、更には目視を加えての視認。
ヤケクソとも言える機銃の乱射に、トラギコは苦笑を浮かべた。

ブレイズ『……す』

(=゚д゚)『あぁ? 何か言ったラギか?』

共通チャンネルから、初めてブレイズの声が聞こえてきた。
だが、その声はとても沈んでおり、上手く聞き取れない。

ブレイズ『殺す』

(=゚д゚)『おおぅ、怖いこと言うラギね。
    でも、お前みたいな奴に俺を撃墜出来るラギか?』

トラギコの言葉を否定するかのように、機銃が撃ち込まれる。
逃げるようにして、トラギコは背面飛行のままで雲の中へと潜り込む。
そして、機体が雲を突き抜けた時、ミセリはトラギコの目的を理解した。

ブレイズ『殺す』

知らず、トラギコを追って高速で降下を開始するブレイズ。
雲を突き抜け、都の上空へと到着した瞬間。
ブレイズもまた、トラギコの作戦を理解した。
彼の視線の先、トラギコ達が過ぎ去った場所。

―――そこには、辛うじてベイルアウトに成功した、ブレイズの婚約者であるナガセが居た。

ブレイズ『……ッッッ!』

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 21:48:03.26 ID:gF9KiDaG0
―――バードストライクと言う言葉がある。
それは、飛行機乗りがある意味不運に見舞われた際に起こる事故で、文字通り鳥がその原因となっている。
鳥が飛行機のエアインテークや、コクピットに衝突するする現象をこう呼ぶ。
飛行中にコクピットに鳥が激突すると、速度等の関係上コクピットを突き破って鳥がパイロットの顔面に衝突。

そして、そのままパイロットは不運極まりない死を遂げるのである。
今現在ではコクピットの素材が強化され、死亡率は減少の一途を辿っていた。
無論、ラーズグリーズの駆るF-14にも同様の措置が施され、鳥の一匹や二匹では砕けない強度を手に入れていた。
だが、今回問題だったのは、激突してしまったのが鳥よりも遥かに硬い素材だったと言う事だ。

気付いた時には、もう遅い。
強化ガラスを砕き、ブレイズの婚約者であるナガセは彼の元に戻った。
かなり熱烈な飛び込み様だったのだが。

(=゚д゚)『いつまでもお幸せにっ!』

背面飛行からそのまま掬い上げるようにして上昇する機動を選んだのは、ブレイズがトラギコよりも後ろの場所で高度を下げるのを誘発する為だった。
ベイルアウトしたナガセをやり過ごし、トラギコは直ぐに操縦桿を引いた。
それをレーダー上で見ていたブレイズは、トラギコの正面に機銃を撃ち込もうとすぐさま高度を下げる。
するとそこには、上手い具合にベイルアウトしたナガセの姿が。

後は、自然と劇的な再会を果たすと言うわけである。
ここまで上手くいくとは思いもしなかったが、概ねトラギコの狙い通りで理想的な展開だ。
力を失った鳥のように墜落するF-14にわざとらしく敬礼をして、トラギコは雲の上に舞い上がった。
せいぜい、何もない世界で自分達の無力を嘆くといい。

そんな感慨に耽る隙も与えないかのように、ミセリの声が響いた。
それは、何処か悲鳴じみた声。
混乱と焦りに彩られた声だ。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 21:51:08.33 ID:gF9KiDaG0
ミセ;゚−゚)リ「トラギコさん!
      6時方向、距離14500から二機来ます!」

来たのが二機と聞いた時、トラギコは安心した。
どうにか、間に合った。

『……よう相棒。 いい眺めだ。
ここから見れば、どこの国も大して変わらん。
だが、相手と状況だけはいつも違うな』

『毎度ながら眺めもそうだが、撤退も許可されていない。
油断するな。 相手はあの"空虎"だ。
喰い殺されないように努力しろ』

『だろうな。 報酬上乗せだ。
このままじゃ、どう考えても割に合わん』

先ほどのラーズグリーズと比べたら、現れたのはその半分の量。
だがその実、数倍の実力を有する名実ともに最強クラスのエースだ。
そう。
かつて起きた"ベルカ戦争"で名を馳せた、真のエース。

―――ガルム隊。
"円卓の鬼神"と"片羽の妖精"で構成されたこの隊は、人によって作られた英雄ではない。
自らが望んでなった英雄ですらない。
彼等は、ただ戦い、そして自然と英雄に昇華した。

紛う事無き、正真正銘の英雄である。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 21:54:02.05 ID:gF9KiDaG0
(=゚д゚)「来たラギよ、ミセリ。
    本番を始めるラギ!」

言うより早く、トラギコはアフターバーナーに点火し、機体を一気に加速させる。
いい加減、ミセリはこの急激な加速に慣れてきた。
これまでに幾人もの男に体を許してきた事に比べたら、こんな事は苦にならない。
むしろ、楽しもうと考える余裕すら生まれる。

始めての時を除けば、それ以外は最悪だったあの日々。
好きでもない男達と肌を重ねたあの頃を考えれば、まだ大丈夫。
ミセリは、自分自身にそう言い聞かせる。

(=゚д゚)「ミセリ、距離!」

あくまでド素人のミセリに対し、トラギコは手短に、かつ分かりやすく用件を伝えた。
本来なら阿吽の呼吸で必要な事項を伝える後席の役割を、素人に求めるのは酷というものである。
だからこそ、トラギコは比較的優しめに伝えたのだ。
空で冷静さを失えば、発狂するのは必至である。

ミセリを心配させないよう、トラギコはここまで相当気を配っていた。
ラーズグリーズと対峙した時に余裕があるかの様に、トラギコは演じた。
トラギコの誇りであり、生きる目的であり、生きた証であるミセリ。
自分自身の半身のように尊く、そして愛しいミセリ。

そんな彼女に、心配など決してさせない。

ミセ;゚−゚)リ「5時と7時に別れて来ます!
      距離は、5時が6200。
      7時が8300です!」

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 21:57:21.76 ID:gF9KiDaG0
次第に空が明るくなっている事にも、ミセリは気が付かない。
それが絶景である事にも、まるで気付く余裕がない。
今はただ、目の前にあるレーダーに目を配るのが精一杯だ。
表示されている距離と、目で見た方角。

それは、パイロットにとっては己の目以上に重要なものである。
死角に存在する脅威、遠くにいる脅威。
それらを把握する事により、自身への脅威を軽減させる事は引いては命を護ることへと繋がる。
ミセリはその事を、ラーズグリーズとの交戦前に言い聞かされていた。

これだけは、決して忘れてはいけないと。
珍しくトラギコが真剣な声色で言った言葉だ。
その他諸々の操作の権限をトラギコが掌握する代わりに、ミセリはひたすら敵の存在に気を配る。
この機体の最大の強みは、高性能なレーダーだ。

長距離に位置する敵機の存在を把握し、それを撃墜する能力。
それを備えたこの機体は、やはり近距離戦闘、つまりは格闘戦に弱い。
その理由が、小回りの利かない機体構造だ。
エンジン等々、それらは遠距離からの攻撃に特化した構造であり、格闘戦に必要な小回りが備わっていない。

ならば、必勝の距離は自然と限られる。
遠距離の低空から、無慈悲な一撃。
それがこの機体の特技であり、最も特化した能力であった。
逆を言えば、小回りが利かない事だけが最大の欠点。

F-14程ではないにしろ、相手のF-15はMiG-31よりも小回りが利く。
即ち、未だ機体性能の差では、トラギコが不利だと言う事である。
空対空ミサイルの差では勝ってはいても、それも残り二基。
当初搭載していた八基の空対空ミサイルの全てが、敵機を撃墜できるとは思っていない。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:00:15.75 ID:gF9KiDaG0
だが、レーダー誘導式のミサイルが三基全て避けられたのは流石に痛い。
ほぼ必殺のミサイルであるレーダー誘導式ミサイルが、残り一基。
後は、そこまで必殺を狙えない赤外線誘導式のミサイルが一基。
武装の差では勝っているが、それでもやはり戦力的には互角だ。

ピクシー『……見えない所で落ちたのはいいんだが。
      あそこまで弱かったか、あいつら?』

通称、"片羽の妖精"が陽気に言った。
共通チャンネルで通信しているのは、つまりは挑発している事に他ならない。
片羽の妖精こと、ピクシーにはそれをするだけの実力がある。
何も、慢心や思い上りではない。

機体の片羽を奪われても尚生還した彼ならば、全ては経験から来る行動だ。

サイファー『相手はあの"空虎"だ。
       あいつらには手に余る相手だった。
       ……遊んでいる余裕はないらしい』

ピクシー『所詮は、イミテーションヒーローってことか。
      まぁいいさ。 少なくともPJよりかはやれそうだな。
      ……潰すぞ!』

ミセ;゚−゚)リ「9時と3時に広がりました!
      挟み撃ちにされます!」

(=゚д゚)「……ちいっ!」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:03:16.14 ID:gF9KiDaG0
この二機を無力化する方法を、トラギコはすでに考えていた。
その方法を実現するためには、まずは逃げる事が求められる。

ピクシー『乱痴気騒ぎか、それとも久しぶりの戦争か。
      "空虎"、お前はどれを俺達にくれるんだ!』

(=゚д゚)『上手く俺と踊れたら、ご褒美にガム買ってやるラギ!』

両側から襲いかかって来る鷲と、猟犬が空中で交差する。
ここからが、始まりである。
トラギコは左後ろに首を向け、覗き込むようにしてその先を見た。
F-15のアフターバーナーの炎を見咎め、今度は右後ろ。

(=゚д゚)「ミセリ、位置は?!」

右後ろに飛んで行った機体だけが見当たらず、トラギコは"眼"を使うことにした。

ミセ;゚−゚)リ「7時に一機、後はろ―――」

(=゚д゚)「!」

咄嗟に、トラギコは機体を右に逸らした。
直後、曳光弾がそれまでいた空間を薙ぎ払う。
いつの間にか、残された一機がトラギコの背後を取っていたのだ。
早く、正確で、そして容赦がない。

今度は機体を左に逸らし、操縦桿を最大に引く。
斜めに上昇する機体。
そして、斜めの状態からの宙返り。
相手もトラギコに合わせ、上昇を始めた。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:06:43.86 ID:gF9KiDaG0
相手のF-15のお家芸とも言える、インメルマンターン。
先ほど、ブレイズに対してトラギコが行ったスプリットSと呼ばれる機動の逆のものだ。
上昇の途中で機体を逆に捻り、ループの頂点で水平になる。
この機動を使えば、効率よくトラギコの背後を取る事が出来る。

先ほどよりも距離を詰めて背後を取ることに成功したのは、右翼が赤く塗装されたF-15。
"片羽の妖精"、ラリー・フォルク。
TACネームはピクシー、ガルム隊の二番機である。

ピクシー『どうした? 来いよ!』

機銃を撃たれる事を予想していたトラギコは、機体を右に旋回した。
対して、ピクシーは機体を左に旋回。
両者は示し合せたかのように、今度は逆に旋回を始めた。
二機が描く機動は、まるで鋏のように交差している。

互いが互いの背を取ろうと、この動作を繰り返す。

ミセ;゚−゚)リ「もう一機が、12時から来ます!
      距離1100!」

(=゚д゚)「ナイスアドバイス!」

先に交差を止めたトラギコは、機体を左斜めの状態で保ち、降下を開始した。
それを追って、ピクシーも、トラギコの正面から来ていたサイファーも合わせて降下。
遥かな高みから、三機の戦闘機が高速で雲を突き破り、都の上空へと姿を現した。
蠅のように飛んでいたハインドの姿が、確実に減っていた。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:09:12.83 ID:gF9KiDaG0
地上の部隊がハインドを処理してくれたのだろう。
幾分かは空を飛びやすくなった事により、トラギコはいよいよ覚悟を決めた。
ここからが本番であると同時に、ここが正念場。
ようやく、トラギコの体に染みついていた経験達が目を覚ました頃だ。

トラギコが空戦の天才と謳われたのには、理由がある。
それは、幼くして戦闘機を駆り、敵機を撃墜したからだ。
つまり、彼には天性の才能があった。
この都に逃げてきてからも、度々飛行機を操縦する機会があった。

練習と呼ぶには程遠いが、それでも感覚だけは失わないよう、心がけてきた。
長らく戦闘機に乗って空戦をしていないとはいえ、トラギコには才能がある。
その才能の高さは、先の戦闘で十分過ぎるほどに証明された。
"英雄狂のラーズグリーズ"を、たった一機で全滅させるだけの才能。

だが、長い空白は相当な重荷だ。
易々とそんな相手に後れを取っているようでは、英雄とは呼べない。
今トラギコが相手にしているガルム隊は、並みの英雄ではない。
トラギコと互角の力を有する、この隊を相手にする事はトラギコにとっての本番だ。

全力で戦わなければ、トラギコに勝ち目はない。

ピクシー『逃げてばっかりじゃつまらないだろう!
      来いよ、臆病者!』

サイファー『吊ってるミサイルは飾りか?
       久しぶりの強敵だ、楽しませてくれよ!』

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:12:02.03 ID:gF9KiDaG0
大通りの上を過ぎ、トラギコは機体を雲の上に逃がす。
ここは暗い。
それ故に、下手に機銃も撃てない。

ピクシー『とんだところで、エスケープキラーをする羽目になったんだ。
      英雄の都の鉄則を忘れたんじゃないだろう?
      ここで、お前は終わりだ!』

(=゚д゚)『っ、こいつ……!』

共通チャンネルで"その単語"を口にされ、トラギコは怒りに目を見開いた。
当然聞かれていただろう。
その言葉を、単語を。

ミセ;゚−゚)リ「え……?
      トラギコ、さん?」

質問を遮るように、トラギコは叫ぶ。

(=゚д゚)『このままタダで死ねると思うなよ……
    ハラワタ引きずり出して、喰い殺してやるラギ……!』

後で言うはずだった事を、先に言われた。
まだ、ミセリには早すぎる。
トラギコにとって、ミセリはまだまだ子供だ。
自分が付いていなければ、必ず迷ってしまう。

今は亡きミセリの母親、グレン・フィディックから頼まれた事を忘れはしない。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:16:36.07 ID:gF9KiDaG0
(=゚д゚)『……妖精を食うのは初めてラギ。
    歯応えがあると嬉しいラギ!』

機体を垂直にして、一気に空へと駆け上る。
まるでスペースシャトルのように上るトラギコを、二機のF-15が追う。
が、一機だけがその追跡を中断した。
両翼を青で塗装したF-15は、何かを恐れるように。

―――まるで、茂みの向こうに虎を見つけた者のように、それから背を向けた。

ピクシー『サイファー、なにやってるんだよ!
      俺一人に殺らせるつもりか?!』

いくら英雄とは雖も、トラギコと一対一で戦うのは難しい。
"Four as One"が信条のラーズグリーズは、四機掛かりで負けたのだ。
ガルム隊も、二機揃ってこその強さがある。

サイファー『ピクシー、駄目だ!
       そいつは……!』

数秒だけ、警告が遅れた。
それはサイファーにとっての誤算であり、トラギコにとっての計算だった。
無論、ピクシーにとっては意味不明だ。

ピクシー『しまっ!』

気付いた時には、勢い余ったピクシーの駆るF-15はトラギコのMiG-31を追い越していた。

ピクシー『オーバーシュート……!』

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:19:49.18 ID:gF9KiDaG0
背後に顔を向け、"先に速度を極端に落としたトラギコ"に振り返る。
視線の先で、機関銃のマズルフラッシュと曳光弾を捉えた時には、F-15の装甲は穴だらけにされていた。
片羽で生還した英雄も、焦りと好奇心を完全に殺すことはできなかった。
その隙が、彼を死へと導く。

燃料やらミサイルに引火し、空中で大爆発を起こす。
仮にベイルアウトしていたとしても、この爆発では生き残れまい。
その脇を駆け抜き、残る一機に話しかける。

(=゚д゚)『さて、後は一人で出来るラギか?』

サイファー『……戦う理由が出来た!』

刹那。
トラギコは上昇を止め、機体を水平にすると同時に大きく左右に振り始めた。
その動作が一瞬でも遅れていれば、機体のどこかに被弾していたはずだ。
文字通り、間一髪の所で弾丸の雨を避け切る。

こうなってしまえば、ドッグファイトは避けては通れない。
いよいよ覚悟を決め、トラギコは不利な戦いへと挑む。
ここからは、全てが目視。
己の眼と腕がモノを言う世界だ。

必殺の間合いとタイミングにこの男を捉えなければ、ミサイルで撃ち落とす事は困難である。
ピクシーよりもずっと強い。
"円卓の鬼神"が相手だ。
"空虎"にとって、不足はない。

―――夜明けが近い。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:22:20.47 ID:gF9KiDaG0
空の瑠璃色が次第にその色を増し、地平線が白み始める。
幾千の星々は、その姿を群青色に隠す。

(=゚д゚)「……ミセリ?」

これから来る苛烈なGとの戦いを前に、トラギコはミセリに話しかけた。
だが、反応が無い。
いつもならすぐにでも反応するのに、やはりあれが原因だろう。
あの馬鹿が口走ってしまった、"英雄の都"という単語。

嗚呼。
やはりこうなってしまったか。
だから、トラギコは言い渋っていたのだ。
ミセリはまだ幼い。

これまであった何かが、急激に変化する事に対して耐性がないのだ。
まだ、幼い。
まだ、若い。

(=゚д゚)「訳は後で話すラギ。
     だから、今は……」

ミセリから返事はない。
分かっていた事だ。
長年信じてきた人に裏切られれば、誰だってこうなる。

(=゚д゚)「……頑張るラギよ」

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:25:02.34 ID:gF9KiDaG0
持っていた余裕の全てをその言葉に託し、トラギコはアフターバーナーを全開にする。
燃料はまだ半分以上も残っている。
とは言っても、あまり長くは戦えない。
まだ、相手には残っている。

最悪のワイルドカードが。

サイファー『行くぞ……!』

言葉に応じて、トラギコは宙返り。
サイファーもまた、それを追って宙返り。
相手を見失わないよう、トラギコは常に見上げる体勢となった。
今、トラギコの背後にサイファーが辛うじて付いてきている状態だ。

これを引き離し、更には逆転を狙う。
その為の場所を、トラギコは選び出した。
あえて自機に不利な、低空。
都の上空を、戦いの場にする。

機首が地面を向いた瞬間、トラギコは一気に機体を加速させる。
重力の影響を受け、機体は信じられない程に加速した。
視界が赤に染まり始めるが、まだ大丈夫だ。

サイファー『ふっふふ……
       いいだろう。 その勝負、受けた!』

互いに雲を突き破り、何度目になるか分からない都の空へとやって来る。
音速を超えて都上空に侵入したトラギコは、思い切り操縦桿を引く。
機体を持ち上げ、どうにか水平に戻した。
安堵する間もなく、トラギコは背後に首を向ける。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:27:05.19 ID:gF9KiDaG0
来た。
僅かだが出遅れ、鬼神が虎を狩ろうとやって来た。
今、トラギコが降りて来たのは奇しくも歯車城のすぐ横だった。
城に衝突しないよう、操縦桿を左に傾ける。

それでも尚、後ろに向けた眼は逸らさない。

(=゚д゚)『ちっ、楽しそうラギね!
    少しは手加減してくれても、バチは当たらないと思うラギ!』

悪態を吐きつつ、機体を左へ。
大周りでラウンジタワーの横を過ぎ去ると、トラギコはそれを目印に更に機体を左へ。
それを後ろで見ていたサイファーは、ラウンジタワーよりも手前で左に機体を動かした。
先回りをする形で、サイファーはトラギコの先を目指す。

が、それは速度の差で叶わなかった。
サイファーよりも数秒早く左折に成功したトラギコは、今度は右折を始めた。
常に相手から距離を取り、背後を奪う。
これが、トラギコの狙いだ。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:29:04.68 ID:gF9KiDaG0
しかし、それをサイファーが予想しないはずがない。
彼もトラギコとほぼ同時に右折を始めていた。
トラギコとの距離は、機銃の必殺の範囲ではなかった。
が、それでも機銃を細かく撃ち、トラギコに警戒心を植え付けてくる。

弾が尽きる前にトラギコを落とすとなると、向こうは何か考えがあるに違いない。
そうトラギコは考え、後ろから迫って来るF-15を振り払うようにして、バレルロール。
少しだけ遅れて、F-15もバレルロール。
ふと、トラギコにある考えが浮かんだ。

上手くいけば、かなり面白い事になる。
失敗すれば、まぁそれまでだ。
やるだけの価値はある。

(=゚д゚)「……ミセリ?」

ただ、問題が一つある。
後席に乗せているミセリだ。
今、まともにトラギコの話を聞いてくれるだろうか。
そうでなければ、この考えは実行に移せない。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:32:13.35 ID:gF9KiDaG0
正確に言えば、移せない事も無い。
だが、危険が伴ってしまう。
レーダーを見る者がいなければ、この闇の中で正確な操縦は困難極まりない。

(=゚д゚)「……」

逆を言えば、トラギコが我慢をすれば乗り切れる。
乗り切らなければならない。
ならば、自分だけが我慢すればいい。
意を決し、トラギコは音速を超えた機体を、強引に右に曲げる。

そして、間髪いれずに機体を左に曲げた。
それを追うF-15も、トラギコとほとんど同じ軌道を描く。
都の大通りを飛び越え、ビルの上を駆け抜ける。
機体をゆっくりと回転させ、飛んでくる機銃の一閃を避ける。

大通りの明かりのおかげで、辛うじてビルの影が見えた。
それでも厳しい。
もっと低空を飛びたいところだが、これではそれも無理だ。
いつ高層ビルに激突するか分からない緊張の中、トラギコはまだ高度を上げない。

限界まで引きつけなければ、"円卓の鬼神"は落せない。

サイファー『逃げているだけか!
       男だろ、エースだろ、英雄だろう!』

機銃を撃ちながら追って来るF-15の猛攻を、トラギコは戦闘機動だけで躱す。
主にバレルロールを用いて躱す間、決してF-15から目を離さない。
更に、トラギコは速度を可能な限り上げ、機銃のギリギリ射程外を維持している。
撃墜を急ぐサイファーに対し、トラギコは逃げの一手だった。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:35:09.99 ID:gF9KiDaG0
――――――――――――――――――――

ミセ*゚−゚)リ「……」

次第に激しさを増す機動の中、ミセリは己の気持ちを整理していた。
英雄の都の鉄則は、ミセリも耳にした事がある。
それは、他ならぬトラギコ自身が他愛のない噂話として聞かせてくれたからだ。
あの時は、トラギコは自分達には全く関係のない話だと言っていた。

だが、先ほど無線で聞いたことが事実だとすると―――
―――もう、事実で間違いないだろう。
マフィアの人間がここまで戦闘機を動かせるなんて、非常識もいい所だ。
つまり、トラギコは"元・英雄"。

ミセリの身を守る為に、彼は嘘を吐いていたのだ。
それなのに、自分はトラギコに過去の詮索をした。
何度も、何度も。
小さい頃から、ずっと。

兄の事をもっと知ろうとしていたのは、何もただの好奇心からだけではない。
好きな人の事を知りたいと思うのは、誰だって同じだ。
だが。
それがトラギコの枷になっていた事に、先ほど気が付いてしまった。

知ってはいけない。
彼が護ろうとしていた自分を護る為に。
絶対に、知ってはいけなかった。
知ろうと思ってもいけなかった。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:39:02.31 ID:gF9KiDaG0
なのに、なのに、だ。
知ってしまった。
その事に、一瞬だけ喜びを感じてしまった自分が嫌だ。
ようやく分かったと、喜んでしまった。

直後に、後悔した。
聞かなければよかった、と。
ほとんど放心状態となったミセリには、もう何も聞こえない。
ただ、今後自分はどんな顔をして、どんな声をして、トラギコに接すればいいのかが分からない。

それだけを、ミセリは考えていた。
先ほどから引っ切り無しに、視界に異常が生じていても、もうどうでもいい。
そんな事を感じる余裕がない。
不謹慎なのは重々承知している。

この状況下で、自分の事しか考えていないのだ。
最低と言われても、仕方がない。
でも。
"ミセリにとってのヒーロー"は、どう考えているのだろう。

どう感じているのだろう。
知ってしまったミセリの事を、どう見るのだろうか。
距離を開けてしまうのだろうか。
それとも、いままでと変わらないのだろうか。

これだけが、気掛かりだ。

ミセ;゚−゚)リ「と、トラギコさん?」

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:42:27.79 ID:gF9KiDaG0
ようやく、ミセリは口を開いた。
こうしないと、トラギコが何処か遠くに行ってしまう気がしたからだ。
返って来たのは、いつもと変わらない声。

(=゚д゚)「お、どうしたラギか?」

宙返りにもバレルロールにも順応してきた為、ミセリは逆さまになった体勢でも叫ぶ事はなかった。

ミセ;゚−゚)リ「あ、あの……」

(=゚д゚)「……そろそろあいつは終わるラギ。
    それまでは、ゆっくり考え事をしてていいラギよ。
    俺なら大丈夫ラギ、今は自分の事を考えるラギ」

何故、トラギコはこんなに真っ直ぐに答えられるのだろうか。
少しでも、その真っ直ぐさを分けて欲しい。
怖くはないのだろうか。
何かが音を立てて壊れる事が。

何かを失う事が、怖くないのか。
どうして。
どうして、そこまで強いのか。
あの頃から、何一つ変わらずに。

ミセリとトラギコが始めて逢ったあの日から、何一つ変わっていない。
優しさも、不器用さも、鈍感さも、そして強さも。
はにかんだ笑顔も、ミセリを撫でる手つきも、ミセリに接する態度も。
トラギコは変えない。

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:45:02.83 ID:gF9KiDaG0
今だってそうだ。
こんな時ですら、トラギコはミセリに心配を掛けまいとした。
少しぐらい、心配させてくれたっていいだろう。
ミセリにとって、トラギコの優しさはある種の檻だ。

優しい檻。
優しい虎。
虎と少女が戯れる為には、檻が無くてはいけない。
檻の向こうに、踏み込んでしまえば、後戻りは出来ない。

檻の向こうに行ってしまえば、これまでの関係は失われる。

ミセ;゚−゚)リ「うぅ……」

今、檻は無くなった。
虎はただ、いつものように優しい目で少女を見ている。
少女は、虎の元に歩み寄るか、それとも逃げ出すかを迷っている。
何をすべきか、何をすれば、自分にとって、虎にとって幸せになるのか。

決めるのは虎ではなく、少女自身。
つまり、ミセリが決めるのだ。
多くはないが、それを決める時間は与えられた。
逃げるも寄るも、ミセリ次第。

そうは分かっていても、なかなか決められない。
本当に、大丈夫なのだろうか。
それだけが唯一の心配事だった。
果たして少女は、虎と戯れる事を選ぶのか。

それとも―――

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:48:06.78 ID:gF9KiDaG0
――――――――――――――――――――

トラギコは、己の勝利を確信した。
慢心でも、過信でもない。
もう、あの鷲は戦えない。
―――飛べないのだ。

空を飛べない鷲が、地上で生き残れる道理はない。
そう、トラギコが狙っていたのは至極単純なものだった。
"燃料切れ"である。
追加燃料を積んでいるとしても、都の空にそう長時間も滞空出来はしない。

おまけに、ドッグファイトに持ち込まれ、アフターバーナーをこれでもかと使ったのだ。
当然、あっという間に燃料は足りなくなってしまう。
補給しようにも、ここには空中給油機は居ない。
基地に降りようとすれば、それをトラギコは見逃さない。

容赦なく落とす。

もう、何がどう転んでも"円卓の鬼神"は空に散る運命にあった。
その事に気付いた所で、向こうが焦る様子はない。
燃料が尽きる前に、トラギコを落とせばいいだけの話だからだ。
もっとも、それが出来れば苦労はしない。

トラギコが戦わずに鬼神から逃げれば、トラギコの勝ちである。
無理をしてトラギコは鬼神を落とす必要がない。
勝手に落ちてくれるのだから。
"円卓の鬼神"と、"空虎"の勝負は、こうして幕を閉じ―――

ミセ;゚−゚)リ「と、トラギコさん……」

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:51:02.83 ID:gF9KiDaG0
―――ふと、ミセリが何かに怯えた声で尋ねて来た。
今はそれに答える余裕がある為、トラギコはいつものように答える。

(=゚д゚)「どうしたラギ?」

ミセ;゚−゚)リ「2時にいるあれ……あれは、何なんですか?
      ……レーダーに映っていないんです」

(=゚д゚)「……え?」

言われて、トラギコは2時の方向に目をやる。
レーダに映っていないで、目視が出来る物とは一体なんであるか。
それだけでなく、ミセリを怯えさせるものなど、空にはそうそうない。

(=゚д゚)「何……ラギ?」

そこには、"黒い何か"が停滞していた。
一見して、それは魔女の箒にも見える。
が、それは魔女の箒でもUFOでもない。
もっと恐ろしい、異質な何かだ。

同じ高度で、同じ場所にずっと浮き続けているあれを、トラギコは見た事がない。
この空にいる以上、戦闘機の類だろう。
しかし、ただの戦闘機ではない。
トラギコの勘が告げる。

―――あれは、ヤバい。

『そんな逃げてる奴一人落とせないなんて、あぁ、本当に使えないわねぇ』

104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:54:52.43 ID:gF9KiDaG0
その声に、トラギコは残された最後の一枚。
相手が用意した、最悪のワイルドカードの存在に思い至った。
"英雄の都史上"、最強の空のエース。
あのリボン付き"メビウス1"をも落とした、"裏切り"の英雄。

―――"フライングウィッチ"、ジャンヌ・ロートシルト。

サイファー『貴様、何をしていた……!
       何故手を貸さなかった!』

ノリ, ^ー^)li『いやだわぁ、私、今さっきここに来たばかりなのよぉ?
       それをあなた、仮にもレディに向かって、そんな言い方はないんじゃないのかしらぁ?』

共通チャンネルから聞こえて来た声は、若い女の声だった。
まるで中世の貴婦人のような変わった口調に、ミセリは戸惑った。
場違い。
その言葉が一番当てはまるだろう。

怒っているサイファーに対し、ジャンヌの声色は全く変わらない。
むしろ、哀れみすら聞いて取れる。
ともすれば、どこか嘲笑っているような不快感。

サイファー『嘘を吐け!
       何時ものように高みの見物か!
       ……この売女!』

ノリ, ゚−゚)li『……下衆が。 立場を弁え、言葉を選びなさい』

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 22:58:02.34 ID:gF9KiDaG0
トラギコは確かに見た。
あの黒い戦闘機から、機銃が放たれるのを。
しかも、その狙いの先は―――

サイファー『っ!』

―――味方であるはずの、"円卓の鬼神"であった。

僅かな悲鳴を残し、サイファーの乗るF-15は爆散した。
レーダーからも、その反応が消える。

ノリ, ^ー^)li『燃料も考えて飛べない馬鹿は、こうするに限るわぁ……。
       ジャジャーン! お久しぶりねぇ、トラギコ君?
       元気にしてたかしらぁ?
       あなたが居なくなってから、私、毎日寂しい思いをしていたのよぉ』

(=゚д゚)『……また味方を撃ち落としやがったラギね。
    これで何人目ラギか? 味方を殺したのは』

ノリ, ^ー^)li『ツレないわねぇ。
       あなたと私の仲じゃない。
       細かい事は気にしないでよぉ。
       それに、雑魚を減らす手間を省いて上げたのよぉ?

       少しぐらい、感謝してもいいんじゃないかしらぁ?』

(=゚д゚)『よくそんな事が言えるラギね。
    その様子じゃ、俺以外殺し損じた奴は居ないみたいラギね』

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 23:01:18.32 ID:gF9KiDaG0
トラギコは臆することなく、その魔女に食って掛かった。
それでも、ミセリがこれまでに聞いたことのないような声色をしていた。
何が二人の間に起きたのかは知らないが、トラギコが相当怒っている事だけは分かる。

ノリ, ^ー^)li『殺すだなんて、人聞きの悪い事言わないでぇ。
       私はただ、邪魔な蚊を潰してただけよぉ?
       それに、どうでもいいじゃない、もう死んじゃった人達の事なんてぇ。
       死んだ人達だって、過去を忘れて未来に生きてほしいって願っているはずよぉ。

       私達は、そんな彼らの為に明日を精一杯生きなきゃあ』

(=゚д゚)『死んだ人間は何も思わないし、願わないラギ。
    しかも、お前の勝手な妄想で、これまでの裏切りを正当化するんじゃないラギ!
    俺を潰し損ねた事を、ここで後悔させてやるラギ!』

ノリ, ^ー^)li『いいわぁ、その声ぇ。
       トラギコ君の怒った声、私大好きぃ。
       悲鳴は、もぉっと好きよぉ!
       だからぁ……』

ノリ, ^ー^)li『いい声で叫んで、私を思いっきり喜ばせて頂戴!!』

英雄狂の魔女が駆る黒い箒が、トラギコの機体目掛けて一気に突っ込んで来た。
トラギコは機体を回転させつつ、上昇を図る。
機体同士が擦れる寸前で、二機は交差した。

ノリ, ^ー^)li『嗚呼…… いいわぁ、やっぱりいい!
       トラギコ君と飛ぶと、子宮が疼くわぁ!』

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 23:04:44.20 ID:gF9KiDaG0
その言葉に余裕があるのに対し、トラギコは微塵の余裕も無かった。
先ほどのガルム隊と対峙した時よりも緊張し、そして集中している。
相手は百戦錬磨、そして最強の英雄。
かつてトラギコを撃墜した、裏切り者。

ミセ;゚−゚)リ「トラギコさん、やっぱりレーダーには反応がほとんどありません!」

レーダーには、時々ではあるが機影が映る。
だが、それはほんの一瞬映るだけだ。
つまり、ほとんど役に立たない。
戦闘は全て肉眼で行うしかなかった。

トラギコは舌打ちをして、バイザーを下ろす。

(=゚д゚)「ミセリ、バイザーを下ろすラギ。
     そろそろ夜明けラギ!」

最後の指示をして、それきりトラギコは黙り込んだ。
相手はステルス。
それも、かなり高性能な機体だ。
交差して、向こうは雲の中に逃げ込んだ。

対して、こちらは雲の上。
状況は圧倒的に不利だ。
向こうはレーダーを使えるだろうし、目視もできる。
だが、こちらはレーダーを使えない。

117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 23:07:02.29 ID:gF9KiDaG0
しかも、それだけならまだいい。
相手は、空中に停滞して飛んでいた。
それはつまり、相手が特殊な戦闘機動を可能としたエンジンを搭載しているということである。
機体性能でこちらが勝っているものと言えば、最高速度しかない。

ノリ, ^ー^)li『ねぇ、もっとぉ……
       もっと私を興奮させてよぉ!』

ミセ;゚−゚)リ「3時、ほとんど真下から来ます!」

トラギコは急いで機体を左にバレルロールし、突き上げるようにして雲から飛んで来た魔女を躱す。
後少しでも遅れていれば、確実に激突していた。
追突をも辞さないのだろうか。
冷や汗を背中に感じつつ、トラギコは上に目を向ける。

夜明けが近いとはいえ、まだ空は暗い。
星明りと月明かりの中に、黒い魔女の箒を見つけ、トラギコは機首を持ち上げる。
上を取られれば、ますますトラギコが不利になるからだ。
視界に魔女の箒を捉えたまま、機体は急上昇する。

ノリ, ^ー^)li『……あらぁ?
       トラギコ君、後ろに彼女さんを乗せてるのかしらぁ?
       やだわぁ、イヤらしい。
       いつからそんなプレイボーイになったのかしらぁ?

       私、嫉妬しちゃうじゃなぁい』

ミセ;゚−゚)リ「か、彼女じゃ―――」

(=゚д゚)『お前には一生関係ないラギ!』

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 23:10:05.16 ID:gF9KiDaG0
ノリ, ^ー^)li『へぇぇ……
       そんなこと言っちゃうんだぁ。
       私という者が在りながら、よくそんな事言えちゃうねぇ、出来ちゃうねぇ!』

ほとんど高度を変えずに、魔女の箒がその向きを変えた。
その時には、トラギコも魔女の箒と同じ高度に来ている。
宙返りをして、またもや突っ込んできた魔女を避ける。
すれ違い様に、トラギコは相手がアフターバーナーをほとんど使っていないことに気が付いた。

レーダー捕捉が出来ない中、唯一頼みの綱だった赤外線誘導も望み薄となってしまった。

ノリ, ^ー^)li『でもねぇ。
       私は寛容だから、そんなトラギコ君も大好きよぉ!
       だからほらぁ、私も同じぐらいに愛してよぉ!』

空中で素早く方向を切り替えた魔女が、遂にトラギコの後ろに付いた。

(=゚д゚)『お断りラギ!
    俺はお前が大嫌いラギ!』

操縦桿を倒し、更に高度を落とす。
が、魔女は離れない。
ラーズグリーズとガルム隊を手玉に取ったトラギコの操縦技術は、決して魔女に引けを取らない。
機体性能の差が、信じられない程に桁違いなのだ。

となれば、トラギコに出来るのは逃げるだけ。
こうもあっさりと後ろを取られるとは思いもしなかったが、文句は生きて帰ってから言うとしよう。
今は、墜とされないように逃げるしかない。
あわよくば、あの魔女を地獄に叩き落とせば―――

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 23:13:01.61 ID:gF9KiDaG0
ノリ, ^ー^)li『私を落とせると、本気で考えているのかしらぁ?』

―――魔女の否定の言葉が、トラギコに久しぶりの恐怖を思い出させた。
操縦桿を握る手が、意味も無く震える。
それすらも否定する為、トラギコは荒技を試みようと周囲を見渡す。
高度は十分、速度も十分だ。

が、足りない。
度胸だけが、足りない。
かつてトラギコが撃墜された時も、この技を試みようとしたのだ。
しかも、今は後ろにミセリが乗っている。

あの機動に、素人のミセリが耐えられるはずがなかった。
義兄としてのトラギコの責任感が、結局その技を止めさせた。
代わりの機動を考えるも、いい案が浮かばない。

ノリ, ^ー^)li『ほらぁ、返事はぁ?
       淑女をじらすなんて、トラギコ君のイ・ケ・ず・ぅ!』

魔女が共通チャンネルで話しかけてきていなければ、トラギコは機体を急降下させなかっただろう。
MiG-31Mが描いた飛行機雲を、曳光弾の驟雨が引き裂く。

(=゚д゚)『話すか追うか、撃つか殺すかはっきりするラギ!』

悪態を吐き、トラギコは結局機体を低空へと逃がすことにした。
幾ら得意な上空で戦っても、勝ち目がないからだ。
それならば、せめて―――

(=゚д゚)『……』

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 23:16:08.04 ID:gF9KiDaG0
トラギコは、覚悟を決めた。
繰り返しはご免だ。
それに。
それに、だ。

ミセリを巻き込むわけにはいかない。
これは、トラギコの問題だ。
個人的な問題に、義妹は関係ない。
だから代わりに、ミセリにはやってもらう事がある。

ノリ, ^ー^)li『あらぁ? 私をどこに連れて行ってくれるのかしらぁ?
       ようやく、その気になってくれたのかしらぉ?
       あぁ、いいわぁ…… ゾクゾクしちゃうぅ……
       どんな事をしてくれるのか考えただけで、もうイッちゃいそうぅ!』

都合がいい事に、魔女は何やら悦に浸っている。
魔女があの調子なら、きっとトラギコの思惑通りに事を運べるだろう。
一気に地上目掛けて降下したトラギコの後を、魔女はピタリと付ける。
トラギコは操縦桿を左に倒し、機体を90度傾けた。

歯車城の脇を低空で通り抜け、機体を元に戻す。
寸分違わぬ機動で、魔女も通り抜けて来た。

(=゚д゚)『おい、ジャンヌ!
    そんなに俺と一騎打ちをしたいラギか!』

その言葉に、魔女は嬉しそうに答えた。

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 23:19:08.16 ID:gF9KiDaG0
ノリ, ^ー^)li『えぇ、えぇ!
       それはもう、トラギコ君とまた一つになれるのだったら、私、どんな事でも我慢できちゃうぅ!
       ねぇ、早くぅ…… 早く頂戴ぃ! あなたの熱いのを、熱くて太いあれを頂戴ぃ!
       あれを私にブチ込んで頂戴ぃぃぃぃぃィィィイイ!

       私をイカせるのは、トラギコ君しかいないのよぉ!
       トラギコ君じゃなきゃ、私満足出来ないよぉぉお!』

相変わらずのキチガイぶりに、トラギコは安堵した。
英雄狂の魔女は、今やトラギコとの再戦以外に興味を示していない。
が、その時。
全く予想していない人物から、トラギコに言葉がかけられた。

ミセ#゚−゚)リ「……トラギコさん、あの人とどういう関係だったんですか?
      まさか、"関係"があるとか?
      そうなんですか?
      どうなんですか?!」

怒りの方向性が間違っている気がしないでもないが、気になるのも理解できる。
事実、あの魔女の言葉には卑語がふんだんに使われている。
"グレートピンクエロス"の渾名の通り、ミセリは卑語に人一倍敏感だ。
最も、魔女の言った卑語は意図的なものではなく、無意識で使っているにすぎない為、ミセリの徒労だった。

(=゚д゚)「あー、落ち着くラギ。
    俺はあんな奴に興味はないラギ。
    ……なぁ、ミセリ。
    これから言う事を、しっかりと聞いて欲しいラギ。

    いいラギか?」

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 23:22:08.26 ID:gF9KiDaG0
無線のスイッチを切り、これから話すことを魔女に聞かれないようにする。

ミセ#゚−゚)リ「はい?」

ミセリは少しだけ不機嫌な声で、返事をした。
"最後に聞いた声"が、ミセリらしくて、トラギコは安心した。
始めて逢ってから、この日に至るまでの間に聞いて来たミセリの声。
忘れはしない。

どれもこれもが、トラギコにとっての宝だからだ。
変に取り繕った声やしぐさではなく、ありのままのミセリの声。
それが聞けただけでも、なかなかいい。
今日は、運がいい。

本当に、運がいい。
自分は、本当に運がいい。
トラギコは内心で、何度も何度もミセリに感謝した。
言葉では伝えきれない思いが、溢れ出す。



―――軽く息を吸い込んで、胸にたまった言葉を一気に紡いだ。



132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 23:25:23.17 ID:gF9KiDaG0
(=゚д゚)「今まで、色々とありがとうラギ。
    俺はお前の笑った顔が大好きだったラギ。
    これからも、その笑顔を大切にしてほしいラギ。
    体には気を付けるラギよ?

    お前は時々無茶をするから、気が気じゃないラギ。
    デレデレさん達の言う事をしっかりと聞いて、いい子にするラギ。
    お前ぐらい美人で優しい子なら、すぐにいい男が見つかるラギ。
    本当だったら、俺はお前の花嫁姿を見てみたかったラギ。

    これから先、大変な事が沢山あると思うラギ。
    でも、お前ならきっと大丈夫ラギ。
    お前は強い子ラギ。 強くて、優しい子ラギ。
    その事は、誰よりも良く知っているラギ。

    お前はもう、俺が居なくても十分やっていけるラギ。
    お前がこんなに立派になってくれて、俺は本当に誇らしいラギ。
    それと、俺みたいな馬鹿な男を"兄"って呼んでくれて、ありがとうラギ。
    本当に嬉しかったラギよ、お前がそう呼んでくれて。

    お前には、他にも沢山言い損ねた事があるラギ。
    でも、それはまた今度言うラギ。
    約束するラギよ。
    なぁに、心配しなくていいラギ。

    俺が今まで、お前との約束を破った事があるラギか?
    それじゃあ、少しの間お別れラギ。
    これだけは、忘れないでほしいラギ。
    本当に、俺は本当にお前の事が大好きだったラギ。
    ……じゃあ、またな。 ミセリ」

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 23:29:10.97 ID:gF9KiDaG0
直後、ミセリは自身に何が起きたのかを理解できなかった。
突然キャノピーが吹き飛んだかと思うと、ミセリの体が座席ごと宙に飛んでいたのだ。
それが、トラギコによってベイルアウトさせられたのだと気付いた時には、トラギコだけが乗るMiG-31Mは都の空高くへと舞い上がっている。
それを追って、魔女の箒も上昇した。

ミセ;゚−゚)リ「にい、さん……?」

返事は、当然無い。

ミセ;゚−゚)リ「嘘、でしょう……」

それでも、ミセリは呟く。

ミセ;゚−゚)リ「なんで……」

パラシュートが開き、落下速度が落ちる。

ミセ;゚−゚)リ「なんで、今さら……」

眼下に広がる都の景色には目もくれず、ミセリはトラギコの消えていった空を仰ぐ。

ミセ;゚−゚)リ「そんな……
      大好きだなんて……」

驚きと現実が、ようやくミセリの意識に追いついた。

ミセ;゚−゚)リ「あ……あぁ……」

トラギコが、何をしたのかも、何故したのかも。
全て、分かった。

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 23:32:07.90 ID:gF9KiDaG0
ミセ;゚−゚)リ「いや…… いやだ……
      兄さん…… 兄さん!
      やだ、やだ!
      私を一人にしないで!

      大好きなんだったら、一人にしないでよ!」

喚くも、その声はトラギコには届かない。
おそらく、もう二度とミセリの声が届く事はないだろう。

ミセ ;−;)リ「兄さん!!
      やだ、やだぁ!
      やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!
      嫌だぁぁぁああああ!!」

そんな考えを、強引に否定しようと叫ぶ。
否定の言葉を叫ぶ。
絶望の言葉を叫ぶ。
最愛の人の名を、叫ぶ。

無駄だと知りつつも、理解しつつも叫ぶ。

ミセ ;−;)リ「どうして、今さら!
      私、まだ……
      ……私の気持ちを、まだ言ってないのに!
      自分だけ勝手な事言わないでよ!

      私にも、ちゃんと言わせてよ!」

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 23:36:24.08 ID:gF9KiDaG0
【時刻――03:00】

―――夜明け。
瑠璃色の空を、空に浮かぶ月と同じ色の戦闘機が斬り裂く。
それを追うのは、夜の忘れ物。
夜空のように黒い、魔女の箒。

黒一色の、"魔女の箒"を駆るのは。
英雄狂の魔女、"フライングウィッチ"、ジャンヌ・ロートシルト。

ノリ, ^ー^)li

対して、白銀の戦闘機を駆るのは。
元英雄、"空虎"、トラギコ・バクスター。

(=゚д゚)

夜明けの空に舞い戻ったトラギコは、すでに気持ちを切り替えていた。
いつまでも未練がましくしていても仕方がない。
ここで、刺し違えてでも魔女を落とす。
その思いだけが、今のトラギコの気持ちを支配していた。

(=゚д゚)『……気を遣わせたラギね。
    一応、例を言っておくラギ』

ノリ, ^ー^)li『気にしないでいいわぁ。
       これで、トラギコ君が"心おきなく全力で"私だけを見てくれるのだもの。
       あれぐらい、安いわよぉ。
       ところであの子、やっぱりトラギコ君の彼女?』

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 23:40:03.07 ID:gF9KiDaG0
(=゚д゚)『自慢の義妹ラギ。
     どこに出しても恥ずかしくない、立派な義妹ラギ。
     ……俺の誇りラギ』

ミセリを殺そうと思えば、そう出来た筈だ。
が、ジャンヌはそれをしなかった。
それは、トラギコが確信した通りの展開だった。
今、ジャンヌはトラギコとの決着にしか興味が無い。

それ以外の事には、全く興味が無い状態だ。
一人ぐらいベイルアウトした所で、気に留める事も無い。
つまり、余裕があるのだ。

(=゚д゚)『それじゃ、さっさと―――』

ノリ, ^ー^)li『―――決着をつけましょうか!』

先に行動を起こしたのは、魔女の方だった。
可変翼が後退し、一気に速度を上げてトラギコの機体へと迫る。
が、それはトラギコも同じだった。
魔女の箒よりも速度で勝るトラギコは、限界まで高度を上げる。

―――朝陽が、二機を照らす。

久しく見ていなかったスカイブルーの空。
群青色の空。
瑠璃色の空。
朝色の空。

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 23:44:15.02 ID:gF9KiDaG0
後ろから飛んでくる曳光弾を、トラギコは器用に機体を回転させ、避ける。
操縦桿を、思い切り手前に引き続ける。
機体が海老反りになり、やがて、それまで上を向いていた機首が下を向く。
そこで操縦桿を元に戻し、一気に重力を利用しての加速。

魔女の箒はと言えば、速度を落とし、推力偏向ノズルを思い切り使う。
ほとんど高度を変えずに行われた宙返り、"クルビット"。
同時に、魔女の箒の特殊な可変翼が、前進した。
前進翼の形態となった魔女の箒は、先ほどよりも距離を縮めてトラギコの後を追う。

ノリ, ^ー^)li『腕は鈍っていないようねぇ。
       でも、時代は変わっているのよぉ?
       私もねぇ!』

(=゚д゚)『お前は変わってねぇラギ!』

曳光弾の間をすり抜けるようにして、トラギコは機体を細かく動かす。
そして、眼下に広がっている雲の上ギリギリで、機体を水平に戻した。
機体が雲の上を過ぎた後、そこにあった雲が裂ける。
僅かに遅れて、曳光弾が雲に穴を開けた。

が、不思議な事に。
その裂け目は、すぐに塞がってしまった。
もっとも、そんな事には誰も気を取られない。

ノリ, ^ー^)li『あっふふふふ!
       どうしたのかしらぁ?
       逃げるだけぇ?
       ねぇ、逃げるだけぇ!』

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 00:00:06.31 ID:dzczF9LG0
そうは言っても、機体性能の差が如何ともし難い。
クルビットが出来る機体と、それが出来ない機体では格闘戦での優位性が格段に違う。
例えこちらが相手の背後を取ったとしても、すぐに逆転されてしまう。
今はただ、逃げるしかない。

ノリ, ^ー^)li『ねぇ、逃げないでよぉ!
       折角の再会なのよぉ!
       一緒に楽しみましょう!
       あっふふふふはぁっ!』

(=゚д゚)『だったらその化物機体をどうにかするラギ!』

ノリ, ^ー^)li『あらぁ? 言い訳かしらぁ?
       この状況をどうにかしてみてよぉ!
       退屈だったのよぉ?
       トラギコ君がいなくなってから、骨のある人達が居なくなっちゃってぇ!

       ハートブレイクワンも噂ほどじゃなかったし、ソーズマンなんて糞以下だったわぁ!』

距離を少しずつ離すのを忘れずに、トラギコは返事をする。

(=゚д゚)『その味方を殺す癖は、いい加減に治らないラギか?』

ノリ, ^ー^)li『癖じゃないわよ、サガよぉ!
       だって、みんな偽者なのよぉ?
       本当の英雄なら、負けるハズないじゃない!
       最後まで勝って、生き延びた者が英雄なのよぉ!』

157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 00:04:06.34 ID:dzczF9LG0
それが、彼女の英雄観だ。
ある意味、それはガルム隊の"片羽の妖精"と似たような英雄観である。
しかし、彼女の場合は味方も巻き込む。
生き延びるのは、常に自分一人で十分だと言わんばかりに。

(=゚д゚)『激しく同意ラギね! その考え!』

トラギコもまた、彼女と似た英雄観を持っている。
ただ、トラギコのそれは"片羽の妖精"と同じ。
要は、戦場で長生きした者が英雄呼ばわりされる、それだけだ。
人殺しの英雄。

爆撃した地域の住人からは悪魔呼ばわりされ、逆に加担した国からは英雄呼ばわり。
子供からは石を投げられ、大人からは唾を吐きかけられ。
また、別の子供からは夢だと謳われ、別の大人からは正義だと讃えられた。
けれども、トラギコはただの人殺しだ。

長生きして、たくさん殺しただけ。
空を飛び、街を、人を焼き、敵を墜とした。
沢山の声を聞いた。
沢山の死を見た。

こんな才能、本当は欲しくは無かった。
英雄の都になど、生まれたくなかった。
それら全てを、今ここで断ち切る。
トラギコは、自然と叫んでいた。

(=゚д゚)『――――――ッ!』

160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 00:07:11.85 ID:dzczF9LG0
声にならない雄叫び。
飛行速度は限界に達し、羽が、機体が、雲を、大気を、夜を、瑠璃を、朝を、空を切り裂く。
音速を超え、あっという間に魔女を引き離す。
トラギコの眼に映る世界は、もう正常ではない。

それどころか、頭が割れそうなほどに痛い。
この速度は、魔女の箒には到達できない領域だ。
ここからが、トラギコの覚悟の見せどころだ。

ノリ, ^ー^)li『……あらぁ。
       いいわぁ、いいわねぇ!
       その覚悟、潰し甲斐があっていいわぁ!』

魔女は、追うのを止め、機体をその場に停止させる。

ノリ, ^ー^)li『トラギコ君の覚悟か、私の実力が上か?
       どっちが本当の"英雄"に相応しいか、ここで決めましょう!』

トラギコは一旦、機体を雲の下に逃がす。
そして、ラウンジタワーのすぐ横を、速度を落とすことなく通過。
ソニックウェーブが、タワーのガラスのほとんどを破壊した。
そうしてから、機体を上昇させる。

一気に自機にとって有利な高度へと舞い上がり、トラギコは目を細める。

何と、何と美しい朝なのだろうか。
朝日が、瑠璃色に染まるこの空が、これほどに美しいとは。
何故、これまで気付かなかったのか。
何故、大切な事に気付けなかったか。

164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 00:10:17.43 ID:dzczF9LG0
己の不甲斐なさを、トラギコは悔いた。
今となっては、全てが遅すぎる。
自分はもう、引き返せない場所に来てしまった。
過去の清算と言えば聞こえがいいが、これは単にツケが回って来ただけだ。

殺され損ねたツケ。
だが、ツケは利子を付けて返すのが常識である。
即ち、トラギコから魔女への返礼。
しっかりと受け取ってもらわねば、トラギコとしては困る。

ノリ, ^ー^)li『恋? ねぇ、それって恋なのぉ?!
       あの子への恋心がトラギコ君を変えたのかしらぁ!?
       妬けるわ、妬けちゃうわぁああああ!!
       心がとっても妬けちゃうわぁあああ!!』

(=゚д゚)『恋だぁ?!
     そんなのじゃ、全然足りないラギ!
     あいつは、俺の人生そのものラギ!』

ノリ,#^ー^)li『嫉ぃぃぃっ妬おおおぉぉぉ!!
       しちゃうよおおぉぉぉ!!』

HUDに、魔女の箒が映る。
照準に、捉える。

(=゚д゚)『ルガァァアアアアア!』

ノリ,#゚−゚)li『うぁあああああ!』

169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 00:13:27.89 ID:dzczF9LG0
決着は、一瞬。
その瞬間は、ただ一回。
正面で交差した、その一回だけ。
その一回で、全ては決まった。

まるで、フラッシュバックのように刹那的に。
人生のように、あっという間に。
呆気なく、儚く、瞬く間に。
勝負は、一撃で決した。







(= д )


ノリ, ^ー^)li








―――トラギコの機体から、炎と煙が上がり
     雲の下へと、落ちて行った。

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 00:16:38.27 ID:dzczF9LG0
――――――――――――――――――――

ノリ, ^ー^)li『……ふ、ふふはぁっはははっはぁっ!』

トラギコが落ちる様子を見下ろしながら、高らかに笑った。
まるで、火炙りにされた魔女が世界を嘲笑う様に残酷に。
狂った世の中を哀れむかのような、そんな笑い声は、すぐに止まった。
代わりに、ジャンヌの口からおびただしい量の血が流れ出る。

ジャンヌは、己の下半身を見た。

ノリ, ^ー^)li『そう…… そう言うことだったのねぇ……
       何だぁ、やっぱり……
       私が……』

そこには、血で染まったパイロットスーツがあった。
そして、そこに―――

ノリ, ^ー^)li『あっふ……あっふふふふふぁっははははっ!!
       本当に気持ちいいわぁ!
       あぁ、最高に気持ちいいわぁ!
       焼けるように熱くて気持ちいいわぁ!

       私、やっとぉ!
       やっと、本当の英雄にぃ!
       皆が認める本物の英雄になれたぁ!』

―――彼女の下半身は、無かった。
代わりに、醜い肉片と血がそこにあり、白い何か、灰色の何か、緑色の何かがあった。

176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 00:20:11.58 ID:dzczF9LG0
ノリ, ^ー^)li『褒めてよ、ねぇ!
       皆、私を褒めてよぉ!
       よくやったって、凄いって、偉いってぇ!
       褒めよぉおおおおお!

       お願いよぉ……
       誰でも、誰でもいいからぁ……
       何でもするから…… 誰か、私を……
       褒めてよぉおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

それだけだった。
最初は、本当にそれだけだった。
ただ、誰かに褒めて欲しかっただけなのだ。
だが、英雄の都では誰もが英雄になる為の道を歩む。

ジャンヌもただ、彼女の両親から愛されたかっただけ。
友達が欲しかっただけ。
だから、戦った。
誰にも負けないよう、誰にも馬鹿にされないよう、誰にでも好かれるように戦っただけなのだ。

絵本の中にしかいない英雄を、目指した。
善を愛し、悪を憎み、滅し、どんな困難からもたちどころに逆転。
殺し損ねた悪は、生涯ただ一人だけだった。
が、それも今墜とした。

これで晴れて、彼女の経歴は完璧になったのだ。
目指していた英雄。
それが如何に脆く、儚く、下らないか。
今でさえ気付かない。

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 00:23:04.48 ID:dzczF9LG0
今はただ、達成感に浸るだけ。
己の死など、"有り得る筈がない"。
英雄に死など、"有り得てはいけない"。
だから、これは"有り得ていない"。

ノリ,; ー )li『ご……っ……
       ちが……う……のぉ……
       わた……私はぁ……』

ただ、夢を叶えようとしていただけだとは、遂に言えなかった。
正確に言うならば、もう、魔女に喋るだけの気力は無かった。
笑みを浮かべたまま、目を見開いたまま、魔女は力なく突っ伏す。
操縦桿が前に倒され、機首が地面を向く。

―――否、地面ではない。
雲を突き抜け、真っ先に飛び込んできた景色。
それは、建物の屋上だった。
その屋上には人だかりと、大砲が微かに窺える。

魔女の箒が、その屋上目掛けて落下する。
そして、その建物とは、即ち―――

―――ホテル・ニューソク。

魔女は地に墜ち、虎は―――

181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 00:26:14.77 ID:dzczF9LG0
【時刻――03:15】

ホテルニューソクに墜落した魔女の箒が、盛大に爆発を起こした。
建物をほとんど一瞬で崩壊に導き、大きな狼煙を上げる。
都の空には、もう何もいない。
あるのはただ、分厚くて黒い雲だけ。

誰かの思いも。
誰かの決意も。
誰かの覚悟も。
誰かの命も。

全ては、廻る歯車の一部。
声を上げて泣く少女の悲痛な叫びも。
目の前の光景に声を失った女も。
皆、歯車。

そして、それら全ての歯車を統べ、また動かすのは。
この都には一人しかいない。
仮面を被り、黒髪を風に靡かせる孤独な王。


―――歯車王、ただ一人。

187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 00:31:13.44 ID:dzczF9LG0
――――――――――――――――――――

控えめにノックされた扉から入って来たのは、ネイビーブルーの軍服を身に纏った若い男だった。
きっちりと着込んだ軍服は、まだ新しい。
おそらく、つい最近配属された兵だろう。
書類から視線を移し、顔を見る。

なるほど、若い。
だが、それなりの力はあるようだ。
コッド・モーウェア大尉は、自慢の無精髭を扱きつつ、咳払いをした。
若い男は、慌てて姿勢を正す。

ただでさえ真っ直ぐな背が、反り返るぐらいに伸びた。

「失礼いたしました!
エコン中尉より、歯車の都に派遣した隊についての報告書が届きました。
これが、その書類です」

言いつつ、若い男は手に持っていた茶封筒を差し出す。
コッドはその姿に、若い頃の自分を重ねて見た。
おそらく、自分が新米だった頃はこんな様子だっただろう。
苦笑しつつ、コッドは書類を机の上に置くよう指示した。

コッド「御苦労。 楽にしていいぞ」

「はっ!」

そうは言っても、男はその言葉に従わない。
上官の言葉を鵜呑みにする程若くない。
よほど、彼の指導を担当した者が意地悪をしたのだろう。

189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 00:35:23.40 ID:dzczF9LG0
コッド「ふむ……
    …………なんと」

コッドはあえて、この若い男が興味を示すように振る舞った。
案の定、男の眼がチラチラと動いている。

「あの、恐縮ですが……」

コッド「気になるか?」

「はっ!」

コッド「お前、名前は?」

「自分は、陸軍第二特殊部隊所属、クィンシー・ソープ二等兵であります!」

堅苦しい敬礼をしたまま、ソープと名乗った若い男は固まる。
瞬き一つしないのは、流石にやり過ぎだろう。

コッド「陸軍なら、ミルナ・アンダーソンを知っているか?」

ソープ「はっ! 逃亡者であると記憶しています!」

英雄の都の軍人なら、"逃亡者"の顔と名前は全て記憶していて当然である。

コッド「空軍のトラギコ・バクスターは?」

ソープ「同じく逃亡者であります!」

コッド「そいつ等が、歯車の都で見つかった」

194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 00:38:07.61 ID:dzczF9LG0
ソープ「!」

コッドの言葉に、ソープは顔を輝かせる。
逃亡者殺しは、一階級特進が出来る。
これを機に、彼も出世を狙おうと思ったのだろう。

コッド「……だが、両名とも死んだ」

ソープ「そうですか……」

コッド「おまけに、"ラーズグリーズ"、"ガルム隊"、"フライングウィッチ"を同時に失った」

ソープ「そんな…… だって、彼等は"英雄"ですよ?!
    そう簡単に……」

感情的になるのも分かる。
事実、コッドも内心ではかなり動揺していた。
かつて自分の部下だったミルナが見つかり、ミルナと同時に逃げたトラギコも見つかった。
それにも拘らず、二人とも死んだ。

出来る事なら、彼の手で部下の不始末を付けたかった。
それだけではない。
何より、"英雄の都の看板"とも言える三大英雄を失ったのだ。

コッド「残念ながら、事実だ。
    トラギコは"フライングウィッチ"が命がけで墜とした。
    ミルナは向こうの兵に射殺された。
    ……受け入れろ、これが事実だ」

ソープ「大尉、自分は……」

197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 00:41:01.41 ID:dzczF9LG0
否定したいだろうが、そうはいかない。
これらの情報は、英雄の都の所有する人工衛星が1秒毎に撮影した映像を元にしている。
その証拠に、ソープに手渡された書類にはその際の写真が添付されていた。
トラギコの機体が火を上げて墜落する様子、ミルナが心臓を撃たれて倒れたその瞬間。

そして、魔女の箒がミルナの居た建物に突っ込んだ瞬間。

コッド「ほら、これだ」

それらの写真を、コッドは机の上に投げ出す。
ソープは、目だけをそれに落とし、眉を顰める。

ソープ「確かに…… これではもう死んでいますね。
    しかしこの写真、雲だらけ、ですね」

コッドは頷き、溜息を吐く。

コッド「あの都は、何故か知らないが年がら年中分厚い雲に覆われている。
    こうして写真が撮れただけ、奇跡に近い。
    トラギコとジャンヌが飛んでいなければ、まず撮れなかっただろうよ」

より鮮明な写真の方が好ましいが、まともに姿が映されているのはこの数枚だけだ。
だが、この数枚から十分に展開と結末は想像できる。
何にしても、この英雄の都にとっての問題は全て解消されたのだけは確かな事である。

コッド「……これで、俺達の都の面汚しは居なくなったわけだ。
    どれ、肩の荷が下りた記念だ。 一緒に飲みに行くか?
    無論、俺のおごりだ」

ソープ「恐縮であります! 喜んで、お供させていただきます!」

202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 00:44:01.57 ID:dzczF9LG0
――――――――――――――――――――

時間は少しだけ戻る。
まだ、ホテルニューソクが倒壊するよりも前に。
それは、ミルナが撃たれた直後。
ミルナが倒れ伏した瞬間に、時間は戻る。

軍人「おい、フライ大尉何をしてるんだ!
    生きたまま連れて来いと言われただろ!」

ミルナを撃った軍人、フライの襟を掴み、彼の上官である男は怒鳴り付けた。
フォックスからの指示で、ミルナ達は極力生きたまま連れて帰る事が求められていた。
なのに、心臓を撃ち抜いてしまえば死は免れられない。
取り返しがつかないのだ。

フライ「まぁいいじゃあないですか、クレイマー大将。
    報酬が減るとは言っても、精々200万だけですよ?
    大事の前の小事ってやつです」

成功報酬は、ミルナに掛けられた賞金と同額だ。
500億から200万を引いた所で、これといって問題はない。

クレイマー「……ちっ。
       ただし、お前の取り分からその額を引いておくから覚悟しておけよ」

フライ「了解であります」

クレイマー「それと、お前が撃ったんだ。
       運ぶのはお前がやれ。
       言っておくが、くれぐれも傷を付けるなよ」

207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 00:47:08.32 ID:dzczF9LG0
回収した死体はフォックスが自分の手駒として改造する予定の為、傷を付けるわけにはいかない。
渋々と言った様子で、ミルナを撃ったフライはミルナを担ぎ上げる。
ズシリとした重みが、フライの体にのしかかる。
ミルナの装備と、彼の鍛えられた肉体の重みは、相当なものだ。

フライ「ぬぅ……っ!
    お、重いっ!」

その重量は軍人であるフライも、担ぎ上げた時に思わず唸るほどだった。
完全に脱力した状態の人間は、こうも重いのか。
今さらながら、フライはミルナを撃った事を後悔した。
こんなことになるなら、ミルナに歩かせた方が楽だった。

そんな事を考えた所で、何かが変わるわけではない。
全部自分が悪いのだ。
とはいえ、腹が立っていた事もあったので、それは忘れることにした。
幾ら後悔した所で、もう全て終わった事だ。

何の解決にもならない。

フライ「……ったく、面倒くせぇ。
   あー、面倒くせ。
   面倒くせぇ面倒くせぇ。
   死んでるくせに、本当に面倒な奴だな」

そうぼやいた瞬間。

―――風が、フライの頬を撫でた。

209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 00:50:01.19 ID:dzczF9LG0
フライ「をっ……?」

直後、フライはいきなり自分の視界が傾いだ事に驚いた。
が、すぐに視界が黒に染まる。
そして、意識が消える。

クレイマー「なっ?!」

狼狽するクレイマー達。
"首を切断されたフライ"の前に現れた男に、その視線は注がれている。

( <●><●>)

クレイマー「貴様、何者だ!」

一斉に銃口を向けられても、男は動じなかった。
表情一つ変えずに、男は手にした戦斧に付着した血を払い飛ばす。

( <●><●>)「通りすがりの演奏家、とでも言っておきましょうか?
        それとも、貴方達の敵と言った方がいいのでしょうか?」

良く見れば、男の手にしているのは戦斧ではない。
戦斧に似た形状をしているが、それはギターだ。
ただ、あまりにも特殊な変形ギターである為気がつかなかった。
太さの異なる6本の弦が付いていなければ、ギターだと分からなかっただろう。

クレイマー「ちっ、構わん!
       こいつを―――」

が、その声が他の軍人の耳に届く事は無かった。

213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 00:53:03.01 ID:dzczF9LG0
クレイマー「あ、あがっああああああ!」

皆一様に耳を押さえ、悶絶する。
しかし、その場には遠くから聞こえる銃声以外何も聞こえてこない。
当然、耳を塞がなくてはいけないような大きな音もしない。
彼等は、自分達に何が起きたのか理解できていなかった。

突如耳鳴りがしたかと思った時には、もう自制心やその他の感情が完全に消し飛び。
残されたのは、ただ耳を塞ぐという行動だけだった。
こうでもしていないと、頭がおかしくなりそうなのだ。
かといって、耳を塞いでも事態は一向に変わらない。

偏頭痛よりも、二日酔いよりもずっと激しい痛みが彼等の脳を襲っていた。
気が狂う一歩手前で、彼等はどうにか踏みとどまっている。

( <●><●>)「分かってます、分かっていますよ。
        鼓膜のその奥、頭が痛いのでしょう。
        ですが、もうしばらく我慢してください」

毒ガスの実験に使われる動物に語るような口調で、男は軍人達に告げた。
そこに同情は欠片も無く、むしろ、嘲っているようにも感じる。
それほどまでに男の顔には表情が乏しく、そして、大きな目がより一層不気味さを際立たせていた。

( ><)「予定と違いますけど、目標を保護したんです!
      もう時間が無いんです!」

首の無いフライの死体から、ミルナを担ぎ上げた別の男。
その男が、ギターを持った男の横に並ぶ。
並んで見ると、二人はまるで生き写しの様に似ている。
違いと言えば、その"眼"ぐらいだ。

215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 00:56:04.35 ID:dzczF9LG0
( <●><●>)「そうですか。
        では、長居は無用です。
        撤退しましょう」

ようやく表情らしきものを浮かべた男は、その横の男と並んで屋上の端に行く。
縁に足を掛け、二人揃って軽く下を見下ろす。

クレイマー「ま、がぁあああああ!」

ここまで来て逃すまいと、クレイマーは取り落としたM4の代わりに、腰に提げたコルトを引き抜いた。
が、それまで。
軍人の彼に出来たのは、それが精一杯だった。
一際強く頭痛がすると、遂に彼等の精神が崩壊した。

それまであった頭痛が嘘のように消え去り、彼等に訪れたのは安息。
中にはリラックスするあまり、失禁する者さえいた。
ある者は射精し、ある者は口からよだれを垂らして呆けている。
それは屋上だけでなく、ホテルニューソクの付近にいた全ての軍人に起きていた。

その様子を見る事も無く、二人の男は互いに向き合って頷き合う。







( <●><●>)「ミルナさん、少し揺れますが我慢出来ますね?
        貴方が生きているのは、分かってます。
        ―――"死んだふり"をしなくても、もう大丈夫ですよ」

222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 00:59:05.14 ID:dzczF9LG0
(;゚д゚ )「こいつは……驚いたな……
     どうして分かったんだ?
     ……完全にアドリブ……だったのに」

呻きつつ、ミルナは答えた。
何故、彼は生きているのか。
心臓を撃ち抜かれて死んだ筈ではないのだろうか。
―――否、死んでなどいない。

ミルナは、しっかりと生きている。

( ><)「あれ? 分かんないんですか?
      ちんぽっぽお姉ちゃんの同僚なのに、分かんないんですか?」

ミルナを背負った男が、水平線会の同僚の名を上げた事に驚く。
彼女はそこまで有名人だっただろうか。
有名な事は有名だが、それは暗殺者の間だけの話だ。
こんな、どう見てもギタリストの二人が知っているとはとても思えない。

( <●><●>)「ミルナさん、詳しくはまた今度機会があればお話しします。
        ワカンナイデス君、行きましょう」

言うなり、二人は屋上から勢いよく飛び降りた。
そのまま隣のビルの屋上、そこからまた別の屋上へと飛び移る。
2、3個程離れたビルの屋上に着地した時、ホテルニューソクがミルナの予想よりも勢いよく爆発した。
何が起きたのかは知らないが、当初の予定とは異なり、周りの建物を巻き込んで倒壊している。

( <●><●>)「……ミルナさん、私達は貴方が生きている事は知っていました。
        だけど、一つだけ分からない事がありました。
        どうして、あのライフル弾を受けても生きていられたのですか?」

226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:02:03.44 ID:dzczF9LG0
ビルが倒壊する様子を眺めながら、ミルナを背負っていない方の男が問うた。
それもそうだ。
防弾繊維と防弾プレートを貫通したライフル弾を、如何にして凌いだのか。
幾ら鍛えているとはいえ、ヒートのように銃弾を止められるはずがない。

だが、ミルナの心臓はしっかりと無事だ。

(;゚д゚ )「あ、あぁ……それか……
     それが……気になってたのか……
     なぁに……簡単な……事だ」

言いつつ、ミルナは男の背でもぞもぞと右腕を動かす。
左の懐。
丁度、ライフル弾を撃ち込まれた場所をまさぐる。
そして、そこからある物を取り出した。

(;゚д゚ )「ほれ……この……携帯電話だよ……
     元が頑丈だったから……ギリギリで……銃弾を止められたんだ。
     とは言っても、やっぱり……いてぇ……
     やっぱ……、携帯電話は頑丈なのに……限るな……ハッハハ」

ミルナが取り出した携帯電話のヒンジの部分が、大きく抉れている。
それの奥には、変形した鉛玉がへばりついていた。
つまり、タネが分かってしまえばどうという事は無い。
折り畳み式の携帯電話の、最も頑丈な個所が丁度ミルナの心臓を守るようにして入っていたのだ。

撃たれた瞬間にその事に気付いたミルナは、咄嗟に死んだふりをした。
これまで沢山の死に直面した経験を持つだけあり、その演技は真に迫っていた事だろう。
動けなかったのではなく、動かさなかった。
呼吸が出来なかったのではなく、しなかったのだ。

229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:05:01.33 ID:dzczF9LG0
( ><)「ええぇ!? そんなタネだったんですか!
      あまりにも陳腐でチープなんです!
      ちんぽっぽお姉ちゃんが聞いたら、きっとミルナさんの尻子玉を引っこ抜いてるんです!」

( <●><●>)「タネが分かってしまえば、どうと言うことはありませんね。
        ひとまず、ミルナさんの応急手当をしましょう。
        後で病院に連れて行きますので、ご安心ください」

(;゚д゚ )「それより先に……
     お前ら、一体……」

( <●><●>)σ「……おや、残念です。
         見てください、あれ」

(;゚д゚ )「……おおぅっ?!」

言われて、ミルナは男の指さした方向に目をやる。
最初、そこには何もいないと思った。
が、明らかにおかしい物がある事に気が付いた。


―――そこには、こちらに向かって落ちてくる一機の戦闘機が居た。

235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:08:02.57 ID:dzczF9LG0
――――――――――――――――――――

時間は少しだけ戻る。
まだ、魔女が地に墜ちるよりも前に。
それは、虎と魔女がすれ違った直後。
勝負が決した瞬間に、時間は戻る。

機体の背に数発の機銃を受けたものの、トラギコの駆る機体は辛うじて飛行出来ていた。
だが、それはほとんど飛行とは呼べないものだった。
言い換えればそれは、ゆっくりと墜落していた。

(=゚д゚)「……そうそう上手くはいかないラギ、か」

そんな状況にもかかわらず、トラギコはとても落ち着き払っていた。
何が起ころうとも、もうジタバタする必要も無い。
今は、出来る事を全て為した後。
つまり、灰と化していた。

撃墜されるのを覚悟で挑み、見事に勝利を収めはしたものの。
受けた打撃は、もうどうしようもなかった。
飛行が不可能なら着陸を、と試みるも滑走用のタイヤが降りない。
おまけに、ベイルアウトすらも出来なくなっていた。

電気系統の一部が、使えないようだ。
胴体着陸を視野に入れ、トラギコは裏通りの適当な場所にコンフォーマルタンクを投棄した。
機体を大きく旋回させ、都の空を舞う。
いよいよ、振動が冗談でなくなってきた。

236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:11:02.75 ID:dzczF9LG0
風一つで、機体全体が大きく揺れる。
主翼と機体の腹に吊っているミサイルを、どうにかした方が良い。
トラギコは尻尾を巻いて逃げているハインドに、ミサイルのレーダーを照射した。
そして、発射。

機体の腹から放たれたレーダー誘導ミサイルは、文字通り一瞬でハインドに追いつき、そして爆発した。
残りは、一基。
赤外線誘導のミサイルだ。
最後の一機となったハインドは、必死に逃げる。

が、トラギコは逃さない。
仕事は仕事。
しっかりと完遂させる。
照準に捉え、トラギコは機体を加速させた。

ハインドはフレアをこれでもかと撒き散らし、ビルの間を縫うようにして逃げる。

(=゚д゚)「逃がすと思ったラギか?」

手負いとはいえ、"空虎"の実力は健在である。
機銃を惜し気も無く撃ち込み、ハインドの行く先を曳光弾が貫く。
そして、必中必殺の距離にハインドを捉え、遂に最後の一発を発射した。
ハインドはそれを避けようとして、表通りのビルに突っ込んだ。

(=゚д゚)「……これで、お仕舞いラギ。
    ぜーんぶ、お仕舞いラギ」

239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:14:11.88 ID:dzczF9LG0
操縦桿を倒し、機体を傾ける。
目指すのは、裏通りの中でも比較的広い道だ。
そこなら、或いは胴体着陸が出来るかもしれない。
高度を低くし、速度を限界以上にまで落とす。

侵入経路を決め、いよいよ実行に移す。

(=゚д゚)「……ミルナ、悪いけど、俺は先に逝かせてもらうラギよ。
    あの世なんてものがあれば、そこでまた逢おうラギ」

生涯で最愛の友に、別れの言葉を告げる。
高度と速度が低くなり、遂にはビルよりも低い高度に来た。
だが、速度だけはまだ早い。
この機体の特性が、こんなところで仇になるとは。

人生、思い通りに行かないものだ。

進入角度は大丈夫。
もう。 後は、運に身を任せるしかない。
揚力を失い始めた機体が、揺れる。

トラギコは瞼を下ろし、操縦桿から手を離した。
胴体が、地面に近付く。
辛うじて揚力が残っているのは、まだこの機体の速度が完全に落ち切っていない何よりの証拠だ。
それは、もともと滑走路に見立てた路地が短い為である。

勢いを殺しきれないで胴体着陸をすれば、結果は明らかだ。
が、だからと言ってこれ以外に最良の方法は無い。
むしろ最良どころではなく、方法が無い。
一際大きな衝撃がトラギコを襲った時には、トラギコの意識は完全に消えていた。

240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:17:22.44 ID:dzczF9LG0
【時刻――03:15】

懐かしい。
懐かしい夢を、見ていた。
ほんの一瞬の間に見た夢は、自分の記憶だった。
本当に、懐かしい夢だった。

(=゚д゚)「ぐ……っおおお……」

痛みで目を覚ましたトラギコは、薄らと瞼を上げる。
最初に、完全に壊れた機器が映った。
コクピットのガラスが割れ、機器の上に散らばっている。
痛みの正体は、トラギコの腹部にあった。

(=゚д゚)「あぁ……くそ……」

生きていた事に一先ず感謝したが、恨みもした。
トラギコの腹部は何か鋭利なもので切られたのだろう、パイロットスーツもろとも、大きく裂けている。
そこからはおびただしい量の血と、トラギコの腸がはみ出ていた。
幾ら自分の腸とはいえ、見たくなどない。

これでは、楽に死ねない。
苦しんで死ぬしかない。
だが、これが今の自分には相応なのかもしれない。
ミセリを残して死ぬ男に、楽な死など許されるはずがない。

残りの時間は、ミセリに対しての懺悔をして過ごすとしよう。
トラギコは、激痛を受け入れ、瞼を下ろした。
徐々に、トラギコの意識に霞みが掛り。
ミセリに言いたい事も、何もかもが―――

242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:20:02.19 ID:dzczF9LG0
「……すか?」

―――ふと、コクピットのガラスが叩かれる音がした。
音の方に首を向け、瞼を上げる。
そこには、一人の大男が居た。
そしてトラギコは、その大男を知っている。

「トラギコどん、大丈夫でごわすか?
しっかり生きているでごわすか?」

(=゚д゚)「あ……ぉ……」

「おお、良かったでごわす。
少し待っていてほしいでごわす。
今、これを退かすでごわすよ」

退かすと言ったが、何を退かすと言うのか。
まさか、この戦闘機を退かすと言うのか?
それとも、他の何かだろうか。
大男は、キャノピーに手を掛け、まるでシールを剥がすかのように簡単にそれを剥がした。

目の前の光景は、決して幻想や妄想ではない。
剥がしたキャノピーを放り捨て、大男はトラギコの体を見て声を上げた。

「あら、これは大変でごわすね」

(=゚д゚)「ど……て……」

245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:24:14.48 ID:dzczF9LG0
どうして、ここまで素早く自分を助けに来れたのか。
どうして、あの頑丈なキャノピーを剥がせたのか。
どうして、と聞こうとしても激痛が邪魔をして声にならない。
そんなトラギコの様子を見て、大男は叱りつけるように言った。

「まぁ、細かい事は気にしたら駄目でごわすよ」

―――焼鳥屋の店主が、どうして。

「……っと。 腸がはみ出てるでごわすね。
待ってるでごわす。
今、助けるでごわすから」

言って、店主はその逞しすぎる腕で、トラギコをコクピットからそっと引き揚げた。
その際、ベルトなどをしっかりと外す事も忘れない。
見かけによらず、この店主の手つきは優しかった。

(=゚д゚)「おっご……ぉっ」

「救出完了でごわす。
……お、丁度いいタイミングでごわすね。
一緒に病院に連れていけるでごわすか?」

店主はトラギコに応急処置を施しつつ、振り返らずに尋ねた。
それは決して、トラギコに向けられたものではない。
別の誰か。

「任せて欲しいんです!」

「全く、手の掛かる二人ですね」

248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:27:05.11 ID:dzczF9LG0
双子にしては、似た声、似た体格をしていた。
まるで、聖歌隊の歌い手のように澄んでいて、そして不思議な声色だ。

「それじゃあ、任せたでごわす。
おいどんは、まだ仕事が残っているでごわす」

「あなたが忙しいのは分かってます」

大きな目をした男が、トラギコを背負った。
小柄ながらも、力はあるようだ。

(=゚д゚)「な……をお……」

「何を言いたいのか分かんないです!」

もう一人の男も、別の者を背負っていた。
しかし、その男の顔を見た瞬間、トラギコは息を飲んだ。

(;=゚д゚)σ「あ……お前……なに……して……」

(;゚д゚ )「よぅ……」

ボロボロになったミルナが、そこにいた。

「トラギコさん、あなたが何を言いたいのか、私には分かってます。
私達の名を、聞きたいと言うのでしょう?」

( ゚∋゚)「あぁ、名前でごわすか。 確かに、名前は大切でごわすね。
    おいどんの名前は、クックル。
    クックル・アームストロングと言うでごわす」

251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:30:45.35 ID:dzczF9LG0
( ><)「僕は、ワカンナイデス・ビロードなんです」

( <●><●>)「私は、ワカッテマス・ビロードと言います」

クックルと名乗った大男は、焼鳥屋の店主。
そして、他の二人を、トラギコは祭りで見た事を思い出した。
そう。
セミ・パレードで"取りの演奏"をしたあの二人だ。

(;=゚д゚)「お……う……」

トラギコは、ゆっくりと意識を失い始める。
ミルナに何があったのかも、全ての理由も。
それは、もう一度目が覚めてから聞くとしよう。
今はただ。


―――絆の為に命を懸けた愚直の英雄達に、静かな眠りを。


第二部【都激震編】
第三十話 了

264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:39:45.29 ID:dzczF9LG0
結構登場人物が出そろってきたので、その一覧(体験版)です。
あまり興味のない方は、天井のシミでも数えてお待ちください

――――――――――――――――――――
('A`)
名前:
 ドクオ・タケシ(本名???)
容姿:
 目が少し隠れるぐらいまで伸びた黒髪。
 気だるげに垂れた黒い目。
その他:
 裏社会の人間でありながら、どこか裏社会の人間らしからぬ行動を取る事がある。
 解離性同一性障害の疑いがある。
 皆が認める主人公。
――――――――――――――――――――
( ^ω^)
名前:
 内藤・ブーン・ホライゾン
容姿: 
 黒髪オールバック。
 空のように透き通った青い瞳。
 一見して太っているようにも見えるが、実は鍛え上げられた体。
その他:
 ツンの幼馴染にして許婚。
 護る事に関しては超一流であり、その為にはどんな手段も辞さない。

266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:41:01.20 ID:dzczF9LG0
――――――――――――――――――――
ζ(゚ー゚*ζ
名前:
 クールノー・デレデレ
容姿:
 肩まで伸びた巻き気味の金髪、優しく垂れた碧眼。
 十代半ばの少女のあどけなさを残した、大人の女性。
その他:
 クールノーファミリーのゴッドマザーにして、ツンの母親。
 ロマネスク達と幼馴染。
――――――――――――――――――――
(#゚;;-゚) 33歳
名前:
 でぃ(本名???)
容姿:
 王冠のようにまとめた黒髪オールバック。
 切れ長の吊り目、血のように赤い瞳。
 全身に重度の火傷の跡がある。
その他:
 5年前の抗争時に、とある事情で全身に重度の火傷を負ってしまった。
 現水平線会の会長。
 仲の良いデレデレ達とは幼馴染。

269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:43:02.10 ID:dzczF9LG0
( ФωФ)
名前:
 杉浦・ロマネスク
容姿:
 白髪が大分混じったやや短めの黒髪。
 実は黄金色の瞳をしている。
 瞼の上に大きな傷を負っており、今眼は開かれていない。
その他:
 香木の仕込杖を使って普段は生活をしている。
 でぃ達と幼馴染である。
――――――――――――――――――――
( ・∀・)
名前:
 モララー・ルーデルリッヒ
容姿:
 少し長い黒髪、碧眼。
 渋い声をしているが、身だしなみはだらしがない。
その他:
 武器商人を営んでおり、歯車王暗殺のメンバーである。
 シャム双生児。
――――――――――――――――――――
( ´_ゝ`)
名前:
 流石・兄者
容姿:
 如何にもインテリと言った風体。
 青い瞳の細目で、清潔感のある短い黒髪。
その他:
 レールガンを作れる程の才能の持ち主である。
 歯車王暗殺に加担した。

271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:45:02.05 ID:dzczF9LG0
ノパ听)
名前:
 素奈緒・ヒート
容姿:
 肩まで伸びて、外に跳ねた赤茶色の髪、碧眼の吊り目。
 真剣で戦う時は戦乙女の格好をする。
その他:
 本気で筋肉に力を込めれば、銃弾程度は弾ける。
 かつて軍人として戦場にいた経験あり。
 シャキンよりも頭一つ小さい。
――――――――――――――――――――
ξ゚听)ξ
名前:
 クールノー・ツンデレ
容姿:
 腰まで伸びた巻き気味の金髪、母親譲りの碧眼、切れ長の吊り目。
 ブーンとほとんど同じ背丈。
その他:
 狙撃の天才。
 ブーンの幼馴染にして、許婚。
――――――――――――――――――――
川 ゚ -゚)
名前:
 素直・クール
容姿:
 腰まで伸びた黒髪、赤い瞳の切れ長の吊り目。
その他:
 情報屋として歯車王暗殺に加担した。
 戦闘よりかは後方支援に長けていた。

274 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:47:41.44 ID:dzczF9LG0
(`・ω・´)
名前:
 シャキン・ションボルト
容姿:
 短くツンツンした茶髪で、土色の瞳をしている。
その他:
 ロマネスク一家の元No2。
 足技に関して言えば、ヒートを凌ぐとも言われている。
――――――――――――――――――――
从'ー'从=从 ゚∀从
名前:
 渡辺・フリージア=ハインリッヒ・高岡
容姿:
 普段は短めの銀髪をヘアバンドで止め、それを外して片目を隠したのがハインリッヒ。
 優しげな吊り目、血のように赤い眼。
 笑顔を絶やさないが、怒ると非常に怖い。
その他:
 ロマネスク一家の元No2。
 高速戦闘の中でも最高峰の技、"クレイドル"を使いこなす。
――――――――――――――――――――
【+  】ゞ゚)
名前:
 棺桶死・オサム
容姿:
 顔中に包帯を巻いている。
 そこから覗くのは、黒髪と綺麗な碧眼。
その他:
 棺桶を背負っている。
 変人扱いされるも、ツンには結構気に入られている。

277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:49:11.91 ID:dzczF9LG0
  _
( ゚∀゚)
名前:
 ジョルジュ・長岡
容姿:
 特徴的な太い眉毛をした、自称ナイスガイ。
 首まで伸ばした黒髪と、青い瞳をしている。
その他:
 リボルバーの扱いに関してはピカイチで、早撃ちもすごい。
 ドクオを気に入っており、弟のように思っていた。
――――――――――――――――――――
( ゚д゚ )
名前:
 ミルナ・アンダーソン
容姿:
 子供の頃は黒だったが、成長の過程で茶髪に。 円らな金色の瞳をしている。
その他:
 水平線会の手練。
 かつて、英雄の都で砲兵隊をしていた。
 トラギコとは旧知の仲。
――――――――――――――――――――
(=゚д゚)
名前:
 トラギコ・バクスター
容姿:
 ツンツンした金髪、吊り目の碧眼。
その他:
 水平線会の手練。
 かつて、英雄の都で空軍にいた。
 ミルナとは苦楽を共にした仲。

278 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:51:12.44 ID:dzczF9LG0
(゚、゚トソン
名前:
 都村トソン
容姿:
 頭の後ろで止めた茶っぽい黒髪、少し吊りあがった黒い眼。
その他:
 昔からミセリを知っており、年齢のこともあってミセリを義妹のように扱っている。
 千春にも何故だか甘い。
――――――――――――――――――――
ミセ*゚ー゚)リ
名前:
 ミセリ・フィディック
容姿:
 横に跳ねたセミロングの茶髪。
 円らな青紫色の眼。
その他:
 風俗界ではかなりの有名人。
 性技に関しては何でもござれの床上手。
――――――――――――――――――――
('、`*川
名前:
ペニサス・伊藤
容姿:
 長い黒髪、黒い垂れ眼。
 いつも気怠げな表情をしている。
その他:
 クールノーファミリーではギコと共に戦い、恐れられている。
 ギコのことが大好きで、可愛さ余っていじめることも多々ある。

281 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:53:08.10 ID:dzczF9LG0
(,,゚Д゚)
名前:
 ギコ・マギータ
容姿:
 茶髪ツンツンで、ライオンのような髪型。
 円らな吊り目の碧眼。
その他:
 クールノーファミリーの手練。
 筋肉には自信があり、かなり鍛えてある。
――――――――――――――――――――
(*‘ω‘ *)
名前:
 ちんぽっぽ・ボーイング
容姿:
 ショートボブの黒髪、円らな茶色い眼。
その他:
 水平線会の手練。
 暗殺に関しては天才であり、最近はナイチンゲールで看護婦長を任されていた。
 小さい子供の面倒をみるのが好き。
――――――――――――――――――――
( ´∀`)
名前:
 モナー・モナ
容姿:
 綺麗に切りそろえた黒髪、黒い瞳。
その他:
 元水平線会の人。
 読唇術を得意としており、リードマンと呼ばれる。
 ラウンジタワーでの清掃業に勤しんでいた。

282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:55:01.32 ID:dzczF9LG0
ハハ ロ -ロ)ハ
名前:
 ハロー・サン
容姿:
 金髪碧眼のメガネをかけた人。
その他:
 ミセリの元で働いている。
 少し、人間として大切な歯車が欠如している。
――――――――――――――――――――
イ从゚ ー゚ノi、
名前:
 犬瓜銀
容姿:
 腰まで伸ばした銀髪と、薄ら赤い瞳の吊り目。
その他:
 ロマネスク一家の手練三姉妹、犬神三姉妹の長女。
 儚げな美貌の和服美人であり、現ロマネスク一家のNo2。
 料理が下手で、いつも失敗している。
 ドクオの事を弟のように扱っている。
――――――――――――――――――――
リi、゚ー ゚イ`!
名前:
 犬良狼牙
容姿:
 肩まで伸ばしたウェーブ気味の赤い髪、琥珀色の吊り目。
その他:
 ロマネスク一家の手練三姉妹、犬神三姉妹の次女。
 暴力的な性格の半面、優しさのある娘。
 料理が超下手。
 ドクオの事を弟のように扱っている。

284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:57:04.05 ID:dzczF9LG0
从´ヮ`从ト
名前:
 犬里千春
容姿:
 柔らかい栗毛の髪と、優しげな青い瞳。
その他:
 ロマネスク一家の手練三姉妹、犬神三姉妹の三女。
 柔和な性格で、三姉妹の中である意味一番の平和主義。
 料理はそこそこ出来るが、やはり下手。
 ドクオの事をかなり可愛がっているが、恋愛感情は皆無。
――――――――――――――――――――
爪'ー`)
名前:
 フォックス・ロートシルト
容姿:
 肩まで伸ばした黒髪、妖艶に垂れた黒い瞳。
その他:
 厚化粧の性格ブスとは彼女の事。
 性格も性癖もそうとう歪んでおり、アブノーマルなプレイが好き。
 デレデレの事をライバル視している。
――――――――――――――――――――
/ ゚、。 /
名前:
 鈴木・ダイオード
容姿:
 短い茶髪、冬色の瞳。
 色白の長身。
その他:
 渋沢とは夫婦だが、別姓。
 ヒートに並々ならぬ興味がある。

286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 01:59:04.01 ID:dzczF9LG0
 _、_
( ,_ノ` )
名前:
 渋沢・昭夫
容姿:
 白髪交じりの黒髪、細くて黒い眼。
その他:
 ダンディズムの塊。
 高速で駆け、拳で戦う。
 鈴木とは夫婦だが、別姓。
――――――――――――――――――――
爪゚ー゚)
名前:
 じぃ・バレット
容姿:
 短い黒髪、黒い瞳。 見かけは12歳ぐらい。
その他:
 性格はフォックス同様、歪んでいる。
 自信過剰の節があり、いつも痛い目を見ている。
 フォックスのクローン。
――――――――――――――――――――
川д川
名前:
 貞子・ノーマス
容姿:
 長すぎる黒髪で顔を隠している。
 瞳の色も同じく黒だが、髪のせいでめったに見れない。
その他:
 鉄鋼会社の女社長。
 何やら社命を掛けて製作した金属があるとか。

287 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 02:01:02.26 ID:dzczF9LG0
lw´‐ _‐ノv
名前:
 淳・シュール
容姿:
 腰まで伸ばした黒髪、赤茶色の瞳。
その他:
 PMCの社長。
 何を考えているのか良く分からない。
――――――――――――――――――――
/ ,' 3
名前:
 荒巻・スカルチノフ
容姿:
 薄くなった白髪、碧眼。
 顔に大きな引っかき傷がある。
その他:
 水平線会の元会長。
 性欲に忠実。
 デレデレ達に相当な恨みがある。
――――――――――――――――――――
(・∀ ・)
名前:
 またんき・ルーデルリッヒ
容姿:
 少し長い黒髪、円らな碧眼。
その他:
 行動、言動、容姿、全てが子供っぽい。
 ナイフ投げに関してはかなりのヤリ手。

291 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 02:03:02.30 ID:dzczF9LG0
(*゚ー゚)
名前:
 しぃ(本名???)
容姿:
 ショートカットの黒髪、黒い瞳。
その他:
 性格は非常に礼儀正しく、物腰も柔らかい。
 が、怒るとかなり怖い。
――――――――――――――――――――
( ゚∋゚)
名前:
 クックル・アームストロング
容姿:
 ソフトモヒカンの赤茶色の髪、黄色の瞳。
その他:
 岩のような筋肉を搭載している。
 見た目とは裏腹に優しい性格。
 でも怖い。
――――――――――――――――――――
(´・ω・`)
名前
 ショボン・ションボルト
その他:
 シャキンと何やら関係がありそうな男。
 見かけも、眉毛以外似ている。

293 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 02:05:24.44 ID:dzczF9LG0
(´<_` )
名前:
 ???
容姿:
 緑色の瞳、清潔感漂う短い黒髪。
その他:
 兄者にそっくり。
――――――――――――――――――――
( ><)
名前:
 ワカンナイデス・ビロード
容姿:
 短い黒髪、黒い瞳。
その他:
 謎の多い男。
――――――――――――――――――――
( <●><●>)
名前:
 ワカッテマス・ビロード
容姿:
 短い黒髪、黒い瞳。
その他:
 謎の多い男。
 ワカンナイデスとかなり似ている。
――――――――――――――――――――
\(^o^)/
名前:
 オワタ
その他:
 あまり話すのが上手くない。

295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 02:07:21.42 ID:dzczF9LG0
( ∵)
名前:
 ビコーズ
その他:
 仮面を掛けた謎の集団。
 黒い外套を羽織っていたりする。
――――――――――――――――――――
( ∴)
名前:
 ゼアフォー
その他:
 フォックス製作の新しい形の人間。
 仮面を掛けていたり、外套を羽織っていたりと、ビコーズにインスパイアされている。
――――――――――――――――――――
ノリ, ^ー^)li
名前:
 ジャンヌ・ロートシルト
容姿:
 長い黒髪、碧眼。
その他:
 卑語をやたらと使う。
――――――――――――――――――――
|::━◎┥
名前:
 歯車王
容姿:
 腰まで伸びた黒髪、一つ目の仮面、黒いロングコート、もしくは外套を着ている。
 2mの身長。
その他:
 謎の多い都の王。


戻る 次へ

inserted by FC2 system