('A`)と歯車の都のようです

303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 02:18:01.28 ID:dzczF9LG0
―――時間は戻る。
まだ、英雄達が戦うよりも前。
手練達が集い、戦闘準備をするよりも前。
大通りで魔女が宣戦布告するよりも前に、時間は遡る。

【時刻――09:00】

朝とはいえ、歯車祭はかなりの盛り上がりを見せていた。
子供は無邪気に笑い、大人も普段の鬱憤を忘れて笑う。
プレ・パレードを見ようと立ち止る者、屋台に足を運ぶ者。
皆、一様に楽しげだ。

そしてここにも、祭りを楽しむ男が二人。

('A`)「……次はどこに行くよ?」

黒いスーツをしっかりと着込む男、ドクオは周囲の屋台を見渡しながら隣を歩く男に尋ねた。
目元まで伸びた黒髪の下から覗く黒い眼が、その男を見る。
  _
( ゚∀゚)「さっきはタコ焼きだったからなぁ。
    次はあっさりしたのが喰いてぇな」

特徴的な眉毛の男、ジョルジュは手にした出店地図をクルクルと回す。
どこに何の店があるのかは、この地図に詳細に書いてあった。

('A`)「……なぁ、迷ったのなら正直に言ってくれよ。
   俺だってここの住人なんだ、場所ぐらい分かる」
  _
(;゚∀゚)「ち、ちちち、ちげーよ!
    迷ってねーよ、勘違いするなよ!」

308 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 02:21:02.72 ID:dzczF9LG0
そうは言っても、先ほどから"次に行く店"に辿り着いた試しが無い。
タコ焼き屋に行く前は、確かクレープ屋に行くとか言っていたはずだ。
地図をクルクル回している時点で、迷っていると言っているようなものだった。
が、ジョルジュはそれを認めようとはしない。

(;'A`)「だったら地図をクルクルするなよ!」
  _
( ゚∀゚)「ふふふ……」

突然、ジョルジュが笑い始めた。

('A`)「なんだよ、いきなり笑って?」
  _
( ゚∀゚)「いや、なんでもねぇよ。
    やっぱり祭りは良いな、心が躍るぜ」

本心からそう言っているのだろう。
ジョルジュの眼に宿る光は、子供とそれ同じ輝きを持っていた。

('A`)「つーか、さっきから食い物屋ばっかりだな。
   別の店にはいかないのか?」

別に、腹が膨れていると言う訳ではない。
非番とは言っても、一応警備を任されている身である為、常に目を光らせなければならない。
店同士の揉め事や、客同士の揉め事を収めるのも、彼等の仕事の内の一つであるからだ。
その為、食事をしても直ぐに腹が減るのだ。

しかし、いい加減10店も回れば、たまには食べ物以外の店が恋しくなる。

311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 02:24:07.80 ID:dzczF9LG0
  _
( ゚∀゚)「この歳で、クジ引きでもやるって言うのかよ?
    ムリ無理、だいたいあれ、まず当たらねぇじゃん。
    食い物が一番無難だろ」

良心的な店ならまだしも、祭りの的屋は基本的にぼったくりだ。
ハズレなしと謳っている店ほど怪しく、景品に使いかけのティッシュを出す場合もある。
実際、ドクオも使いかけのガムテープを出された経験があった。

('A`)「むぅ……
   お、あれなんかどうだ?
   結構得意だろ?」

ドクオの視線の先には、射的屋があった。
ミルナ達の経営しているのとは別の店だが、景品は悪くない。
軽く人だかりが出来ているのを見るに、なかなか繁盛しているようだ。
つまり、当たると言う事。
  _
( ゚∀゚)「ほほう。
    射的か、あれなら任せろ」

ジョルジュはクルクル回していた地図を、適当に畳んで懐にしまう。
黒いスーツを着た男二人が、年甲斐も無く射的屋へと足を向けた。

313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 02:26:05.00 ID:dzczF9LG0





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('A`)と歯車の都のようです
第二部【都激震編】
ex-18『Other Mind ,Another Kindness ,in Entertainment』

OMAKEイメージ曲『I Pass By』鬼束ちひろ
ttp://www.youtube.com/watch?v=UC7eqpJbu4U
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315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 02:29:02.21 ID:dzczF9LG0
番待ちで並ぶ事、数十分。
遂に、ドクオ達の出番がやって来た。
射的屋にはとても似つかわしくない格好の二人が並ぶ様は、かなり異質である。
その為、後ろでヒソヒソと言われている事に、二人は気付いていた。

オヤジ「へ、へい。 いらっしゃい!
     銃はどうしますか?」

人当たりはよさそうだが、人を見かけで判断するタイプの男が、腰を低く二人の元へとやって来た。
何かの取り立てや、ショバ代を取りに来たヤクザと思われているようだ。
あながち、間違いでもないので何とも言えない。
  _
( ゚∀゚)「自前の銃があるんだけど、そいつは駄目か?」

笑えない冗談を言ったジョルジュ。
彼なりに場の空気を和ませようとしたのだろうが、どう考えても逆効果だ。
周囲の空気が、明らかに冷えた。

オヤジ「す、すみませんが、旦那。
     銃はウチが用意したのを使ってもらうことになっていまして……」

(;'A`)「あぁ、気にしないでください。
    こいつの言っている事は8割冗談なんで」
  _
( ゚∀゚)「あっはっは!」

オヤジ「は、ははは……」

320 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 02:32:01.59 ID:dzczF9LG0
乾いた笑いが返って来た。
が、後ろのギャラリーからは何も帰ってこない。
逆に、数人から"あれは殺人鬼の眼だ"とまで言われている始末だ。

(;'A`)「……うぅ」

陰口を言われ慣れているとはいえ、これは流石に辛い。
どうも、裏社会と表社会にはまだ壁があるようだ。
  _
( ゚∀゚)「ところでオヤジ、銃は何があるんだ?」

オヤジ「へい、一応、リボルバーと、ライフルがあります」

そう言ってオヤジが出したのは、銀色のリボルバーと、木製のライフル。
―――を模した、空気銃だ。
ジョルジュは迷わずリボルバーを手に取り、早速指でスピンさせる。
実銃で無くとも、彼の銃捌きは衰えないらしい。

ドクオは余ったライフルを手に取り、コッキングレバーの硬さを確かめる。
先端にコルクを詰めてエアを入れ、銃爪を引く方式のようだ。
一方、ジョルジュのリボルバーは単純に撃鉄が叩く力を利用してコルクを飛ばす型だった。
  _
( ゚∀゚)「ドクオ、どれが欲しい?」

('A`)「え?」
  _
( ゚∀゚)「ほら、遠慮するなよ。
    あそこに並んでるやつ、どれでも好きなのを取ってやるよ」

322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 02:35:01.63 ID:dzczF9LG0
早速狙いを定めているジョルジュの眼は、真剣だ。
当てて落として取る自身があると言うのか。
実銃とは違い、この手の空気銃は使い勝手が大きく異なる。
更に、射的屋の景品は重りが吊ってある場合が多々ある。

('A`)「そうだな……
   それじゃあ、遠慮なく。
   ……あのメロンキャラメルを取ってくれ」
  _
(;゚∀゚)「……はぁっ?
    メロンキャラメルだぁ?
    お前、もっと別の物があるだろ!
    見ろよ! キャラメルの横に最新のゲーム機だってあるだろ!」

ジョルジュが銃口で指したのは、パソコン会社が発売している最新のゲーム機だ。
転売すればまぁ、1万はいくだろう。
だが、ドクオが所望したのは地方限定のメロン味のキャラメルだった。

('A`)「いや、あれじゃ駄目だ。
   かさ張るし、何より分けられないだろ?」

それでも、ドクオは頑なにキャラメルを要求した。
  _
( ゚∀゚)「は???」

('A`)「だからさ、二人で分けられないだろ」

325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 02:38:01.29 ID:dzczF9LG0
ドクオがキャラメルを望んだのは、食べ物だったからだ。
食べ物なら、二人で分けられる。
何より、これから長い仕事があるのだ。
簡単に栄養補給が出来るキャラメルを求めたのは、そう言う訳だった。
  _
( ゚∀゚)「……そうかい。
    おっけー、任せな。
    全部取ってやるよ」

('A`)「俺はあっちにある蜂蜜リンゴ味のキャラメルを取る……」

―――僅かの間。

('A`)「だから……」
  _
( ゚∀゚)「だったら……」
     _
('A`)( ゚∀゚)『勝負だぁああああああ!』

立て続けに二人は空気銃を発砲する。
連射速度の差は、圧倒的だった。
ジョルジュはただ撃鉄を起こして銃爪を引くだけなのに対し、ドクオは一発毎に弾込めをしなければならない。
だが、威力ではドクオの方が勝っている。

一撃でキャラメルを落とすドクオに対し、ジョルジュは時折二発撃っている。
勝負は互角かと思われた。

―――結果。

327 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 02:41:01.71 ID:dzczF9LG0
('A`)「……いや、聞いてくれ。
   決して俺の腕の問題じゃないんだ」
  _
( ゚∀゚)「ほほう。
    だとしても、この差はどうなのよ?」

ドクオの取ったキャラメルは、全部で7つ。
対して、ジョルジュは何と18個のキャラメルを手に入れていた。
誰がどう見てもドクオの惨敗だった。

('A`)「途中で……そう、目にゴミが入ったんだ。
   あれは危なかった。
   危うく失明するところだった。
   下手をすれば、もっと危なかった」
  _
(;゚∀゚)「それこそ言い訳だろ!」

('A`)「否定もしないが、肯定もしない!」

取った景品を紙袋に詰めてもらう間、二人は不毛な言い争いを繰り広げていた。
周囲の眼もようやく和み始めたのを見て、ドクオとジョルジュは互いにアイコンタクトで会話する。
上手く行ったようだ。
二人が店を出る時には、その場の空気はすっかり元通りになっていた。

('A`)「どれ、早速食べるか。
   ……ほれ」
  _
( ゚∀゚)「おう、悪いな。
    ほら、メロン」

331 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 02:44:12.79 ID:dzczF9LG0
互いに、一箱ずつ交換し合う。
そして、箱を開け、包み紙を剥がす。

(;'A`)「……すげぇ不自然なまでにメロンの匂いがするな、これ」
  _
(;゚∀゚)「流石に蜂蜜とリンゴの組み合わせはどうだよ……」

一粒口に運ぶと、何とも言えない甘さが口内に広がった。
メロンの香料と分かっているが、それでもこの甘さは嬉しい。
気苦労の絶えないドクオにとって、糖分の補給は大切なものだ。
ジョルジュの方も、なんだかんだいってキャラメルに満足している様子だった。

('A`)「さて、地図を渡してもらおうか」
  _
( ゚∀゚)「ちっ、しかたねぇな。
    迷うんじゃねぇぞ」

ジョルジュが渋々と言った様子で、ドクオに地図を手渡した。
地図を広げ、ひとまず現在位置の確認。

('A`)「えーっと……
   ここは……」

地図の上を指でなぞり、周囲の建物と見比べる。
都の住人ならば基本的に、歯車城さえ見失わなければ大通りで迷うことなどあり得ない。
少なくとも、現在位置程度は直ぐに分かる。

('A`)「おお、ここだよ、ここ。
   丁度いいや、美味いアイスクリーム屋が近くに―――」

335 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 02:47:01.42 ID:dzczF9LG0
(゚L゚)「おいおい、お譲ちゃん!
    どうしてくれるんだよ!
    俺のスーツに何付けてくれてるんだ?
    あぁ? 犯されてぇか?!」

ドクオのすぐ横で、金髪の若い男がいきなり怒鳴り始めた。
何事かと、ドクオが目を向けると。
そこには、二人の幼い少女がいた。

*(‘‘)*「知らないわよ!
     だって、前を見てなかったのはおじさんじゃない!」


( '-')「ぅ……」

リボンを付けた今にも泣きそうな少女を庇う様にして立つ、髪を二つに結った少女。
お互いに手を握り合っているのを見る限り、姉妹だろう。
そして、その手には肝心のアイスが無くなったコーンが握られていた。

(゚L゚)「はぁ?
    なに? え、何?
    俺が悪いって言いたいの?
    え? お前馬鹿か? 馬鹿だよな?」

こんな小さな子供相手に、何を怒鳴っているのか。
スーツと言っていたが、誰がどう見ても質と趣味の悪いワイシャツである。
確かにアイスが付着しているが、この場合どちらが悪いかと言うのは一目瞭然だ。

337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 02:50:01.32 ID:dzczF9LG0
(゚p゚)「おーい、どうした?
    うっわ、これひでぇな。
    このシャツ高かったんだろ?
    十万だったよな?

    あーあ、弁償だ、弁償。
    それと、警察でも呼ぶか?」

あらかじめ打ち合わせしてあったかのように、もう一人の男が現れた。
格好はもう一人と同じで、趣味の悪いワイシャツと金のアクセサリー。
あからさま過ぎて、溜息しか出ない。
しかし、少女を威圧するには十分だった。

涙目になり、オロオロしてしまっている。
  _
( ゚∀゚)「ドクオ、そんなの放っておいて、アイス買いに行こうぜ」

ジョルジュがドクオの先に行こうとする。
が、ドクオはそれに続かない。
片手で少し待っていてくれと合図をして、面倒くさげに頭を掻く。

('A`)「おい、そこのバカ二人」

(゚L゚)「あぁ?」

(゚p゚)「ぁあ?」

二人揃って、ドクオにガンを飛ばす。
正直な話、全く怖くない。
これなら、犬神三姉妹の舌打ちの方がよっぽど怖い。

340 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 02:53:01.15 ID:dzczF9LG0
('A`)「子供相手にそんなに意気がるなよ。
   それと、その趣味の悪いシャツとアクセサリーだけは止めた方がいい。
   恥ずかしくないのか?」

(゚L゚)「……おい、手前。
    俺達に喧嘩売ってんの?
    何? 死にたいの?」

男がドクオの胸倉に手を伸ばす。

('A`)「……」

―――しかし。
ドクオの方が早い。
チンピラ程度では、文字通り命がけで仕事をしているドクオに敵う筈がない。
逆に、ドクオが男の胸倉を掴み上げていた。

(゚L゚)「んッだよ!
    離せよ!」

('A`)「今日はもう帰りな。
   そんでもって代わりに、……そうだな、詩でも書いてろ。
   社会に対する不満を書いた詩でも作って、自分に酔いしれてるのが一番平和的だ」

(゚L゚)「〜〜ッッ!」

何かを言おうとする男の胸倉を、更にきつく締める。

('A`)「分かったな?」

344 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 02:56:01.12 ID:dzczF9LG0
(゚p゚)「手前!」

もう一人の男が、ドクオに殴りかかろうとする。
反射的に、ドクオは空いた手を懐に伸ばしていた。
そこにあるM8000の冷たい銃把に触れた瞬間、ドクオは我に返った。
ここで銃を出すのはマズイ。

舌打ちをして、ドクオは大人しく一発殴られるのを覚悟した。
  _
( ゚∀゚)「はーい、ストップ。
    これ以上は駄目だ」

殴りかかろうとした男の髪を掴み、ジョルジュがようやくこの揉め事に介入した。
しかし、周りは見て見ぬふりをして通り過ぎている。
仲裁に入ろうと思う者など、皆無であった。

(゚p゚)「いって、痛てえよ!
    離せよ!」
  _
( ゚∀゚)「ここで大人しく祭りを過ごすか。
    それとも、両手両足と両目を失くして武勇伝を作るか。
    どっちがいい?」

こうなってしまえば、高校生風情には何もできない。
二人はようやく状況を理解したのか、大人しくなり始めた。
ドクオはゆっくりと手の力を抜く。
それでも、気は抜かない。

こう言った手合いは、こうして油断させてから何かをする場合があるからだ。

347 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 02:59:09.29 ID:dzczF9LG0
(゚L゚)「ちっ……お前らの顔、覚えたからな!
    ヤマグティ組の組長はな、俺のオヤジの兄ちゃんの友達なんだぞ!
    お前らなんかすぐに殺せるんだ!
    謝ったって遅いからな!」

教科書にでも載っていそうな捨て台詞を残し、二人は走って逃げだした。
  _
( ゚∀゚)「……どうして、わざわざ面倒事に首を突っ込んだんだ?」

その姿を見送りつつ、ジョルジュはドクオにそっと尋ねた。

('A`)「見過ごしたら、嫌な気分になるからな。
   それに、祭りは楽しむもんだ。
   胸糞悪い気持ちのまま、祭りを楽しめって言う方が無理な注文だよ」
  _
( ゚∀゚)「そんな生き方、疲れるだけだ。
    それに、何の得も無いだろ?」

仮にも裏社会の人間なら、損得勘定は出来る筈だ。
得にならない事を進んでするドクオは、裏社会ではかなりの変わり種である。
しかし、ドクオは顔色一つ変えずに答えた。

('A`)「いいや、得ならあるさ。
   何もしないよりよっぽど胸がスッキリする。
   それだけで十分だ。
   それに……」

それっきり、ドクオは無言になる。
代わりに、ドクオの後ろから声が掛けられた。
鈴の鳴るような、可愛らしい声。

353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 03:02:01.13 ID:dzczF9LG0
*(‘‘)*「あ、ありがとう……ございました……」

('A`)「……こんな素敵な報酬まで貰えたんだ。
   むしろ、お釣りが来るぐらいさ」

振り返りざまにジョルジュにそう言って、ドクオは屈んで少女に目線を合わせる。
出来るだけ怖がらせないよう、笑顔を作った。
こうして笑う事に慣れていない為、不器用な笑顔になってしまった。
それでも、二人を和ませる事は出来たようだ。

('A`)「どういたしまして。
   お譲ちゃん達は、ここの都に住んでいるのかい?」

*(‘‘)*「ううん。 潮騒の都から来たの!」

潮騒の都と言えば、海に隣接する海洋都市だ。
水産業や漁業が盛んで、おまけに観光名所としても有名である。
しかし、国内総生産はあまり高くない。
有り体に言えば、貧乏な都だった。

('A`)「おお、潮騒の都か。
   あそこは海や空が綺麗だから羨ましいな」

( '-')「……ぁぃ……ぅ」

子猫の鳴くような小さな声で、もう一人の少女が呟いた。
上手く聞き取れなかったが、アイス、と発言したようだ。

*(‘‘)*「もうお金が無いんだから、我慢しよう?
     お姉ちゃんも我慢するから」

358 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 03:05:01.16 ID:dzczF9LG0
('A`)「……ところで、お譲ちゃん達はどんなアイスが好きなんだ?
   俺はチョコミントが好きだな。
   あの甘いのが大好きだ」

貧乏な都から、わざわざこんな都にまで観光に来たのだ。
少女達の両親は、かなり頑張って資金を貯めたのだろう。
気の毒な話ではあるが、当然、二人に渡される小遣いは少なくなってしまう。
祭りの出店の物価は、通常のものよりもずっと高い。

アイスを買う金が無いとなると、祭りで何も買えない事になる。

*(‘‘)*「えっとね、ヘリカルはチョコレートが好き!」


( '-')「ぁヵゎぃ……」

('A`)「そうか、そうか。 俺はその二つも好きだぞ。
   ……ちょっとここで待っててくれ。
   ジョルジュ、ちゃんと見ててくれよ」
  _
( ゚∀゚)「あ、あぁ。 分かった……」

何か言いたげなジョルジュを残し、ドクオは人混みの中へと消えていった。
数分後。
戻って来たドクオの手には、2つのアイスクリームが握られていた。

('A`)「さっき、変な人にアイス駄目にされただろ?
   ほら、これは俺からのプレゼントだ。
   チョコと赤ワインとチョコミントのトリプルだけど、いいかな?」

362 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 03:08:40.84 ID:dzczF9LG0
*(‘‘)*「えっ!もらっていいの!?」


( '-')「……ぃぃ?」

('A`)「でも、パパとママには内緒だぞ。
   何か困った事があれば、おじさん達と同じような格好をした人に言うんだ。
   ……それと、ほら。
   少ないけど、これで他の店も行ってみるといい」

三段重ねのアイスを手渡し、ドクオは懐から財布を取り出す。
そこから、5枚の高級紙幣を取り出し、少女に渡した。

*(‘‘)*「すごーい!
     おじさん、ありがとう!」


( '-')「ぁ……ぅ……」

自然と、ドクオは二人の笑顔につられて笑んでいた。
作り笑いや、愛想笑いではない、自然な笑み。
一体、いつ以来だろうか。
こうして自然に笑えたのは。

('A`)「なぁに、気にするな。
   じゃあ、祭りを楽しんでくれ」

そう言って、ドクオは二人の頭に手を乗せ、優しく撫でる。
二人は飛びきりの笑顔を浮かべ、仲良く手をつないで走り去った。

367 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 03:11:23.25 ID:dzczF9LG0
  _
(;゚∀゚)「……お前、ロリコンか?」

心なしか距離を開けたジョルジュが、訝しげに聞いた。

(;'A`)「違うから、それは無いから!
    俺は年上好きだ!」
  _
( ゚∀゚)「だからって普通、五万も渡すかよ?」

五万と言えば、大金である。
ドクオが一ヵ月に稼ぐ金の、四分の一の金額だ。

('A`)「いいだろ、別に。
   どうせ、人間いつかは死ぬんだ。
   それだったら、自分が気持ちのいいように生きた方がいい。
   だいたい、金なんて使わなきゃ意味無いんだから。

   ああやって使うのが、一番さ」
  _
( ゚∀゚)「……そう思うのか、本当に?」

('A`)「あぁ、そう思うね。
   それに……子供は皆、幸せであってほしいもんだ。
   あれであの子たちが幸せを感じるなら、俺は満足だよ」
  _
( ゚∀゚)「変な奴だな……
    だが、悪くねぇ。
    悪くねぇな、その"義"を貫く生き方。
    やっぱり、俺の思った通りの男だよ、お前は!」

372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/21(月) 03:14:08.55 ID:dzczF9LG0
ドクオの肩に手を回し、ジョルジュは大声で笑う。

(;'A`)「な、なんだよ、急に……」
  _
( ゚∀゚)「はっはっは!
    あの娘達が将来、巨乳の美人になる事を考えたら、確かにお前の投資は割に合うな!
    今日は全部おれのおごりだ、ドクオ。
    好きなだけ、何でも買ってやろう!」

何故か急に上機嫌になったジョルジュ。
何かが吹っ切れたような、清々しい顔をしていた。
ジョルジュは、ニヤリと歯を見せて笑う。
  _
( ゚ー゚)「ただし、店は行き当たりばったりで決めるけどな!」

そう言って、二人は祭りで賑わう都を練り歩く。
これはまだ、英雄達が戦うよりも前。
手練達が集い、戦闘準備をするよりも前。
大通りで魔女が宣戦布告するよりも前の話。



―――二人の男の、奇妙な絆の話である。



第二部【都激震編】
OMAKE 了


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