('A`)と歯車の都のようです

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 21:10:08.19 ID:IQJYLaRF0
―――裏通りの、"宝島"と呼ばれる一角。
そこにあるのは人が捨て、人が拾う宝の山。
宝の山々が見下ろすのは、相対する二人の拳銃遣い。
そして、二人が手にするのは、二挺の拳銃。

爪゚ー゚)「……ふ、ふふ」

一人は、10代前半の少女だった。
短い黒髪をベレー帽の下に収め、軍服を着込んでいる。
両手に持った拳銃は、フルオート射撃を可能にする為に改造した、ベレッタ社のM93R。
少女は、口元に笑みを浮かべていた。

(#゚;;-゚)

対するは、顔に大きな火傷の痕を残した無表情な若い男。
まるで、王冠のように見えるオールバックの黒い髪。
髪と同じ色をした黒のロングコートを隙なく着込み、そして、その眼だけは血のように赤かった。
両手に持った拳銃、"帝王の牙"の銃口は、相対する少女に向けられていた。

静かに見下ろす鉄屑の山達は、雄弁だった。
風が吹く度、鉄屑は歓声を上げる。
風が止む度、鉄屑は悲鳴を上げる。
風が凪ぐ度、鉄屑は沈黙を守った。

これから起こる勝負の行く末を、彼等は語らっていた。
捨てられるモノ、拾われるモノ。
それは、まさに彼等と同じモノ。
これから始まるのは、"命"のやり取り。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 21:15:07.42 ID:IQJYLaRF0
果たして、どちらが地に伏し、どちらが生き延びるのだろうか。
捨てられ、ただ拾われる事を待つ鉄屑達は、待ち望んでいる。
新たな仲間を。
新たな敗北者を。

爪゚ー゚)「あんた、馬鹿なことしたね。
     あの時撃っていれば、あんたの勝ちだったのに。
     まぁ、後悔してももう遅いけどね!」

先に口を開いたのは、少女だった。
少女―――じぃは、目の前の男の放つ殺気に気後れする様子が無い。
まるで、そんな物は"まやかしや幻想"だと言わんばかりに。
恐れを隠すのではなく、恐れを飲み込もうとする気概の表れ。

(#゚;;-゚)「……」

その言葉を向けられた男は、無言。
男―――でぃは、じぃの発言にまるで興味を持っていなかった。
まるで、そんな物は"戯言"だと言わんばかりに。
怒りを隠すのではなく、怒りを全てぶつける事を決めた決意の表れ。

爪゚ー゚)「どうした?
     なぁ、どうしたよ?
     何か言ってみろよ!」

吠えるじぃ。
今、じぃは堪らなく興奮している。
こうして待っている時間すら、もどかしいと感じる程に。
指が、腕が、足が、その時を待ち望んでいる。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 21:19:07.23 ID:IQJYLaRF0
銃爪に掛けた人差し指に、僅かな力を込めるだけで命のやり取りは終わる筈だ。
なのに、彼女は銃爪を引かない。
それは、この時を一瞬でも楽しもうと惜しんでいるからではなかった。
これは単に、銃遣いの流儀。

まだ、動かない。
動く必要がないのだ。

(#゚;;-゚)「……」

一方のでぃは無言。
今すぐじぃを射殺したい衝動を押し殺し、彼は冷静に待っている。
両手に構えたデザートイーグル、"帝王の牙"なら射殺する事など容易い。
"射殺の域を超えた射殺"が、この銃なら可能だ。

彼の感じている怒りは、それ以上だった。
射殺ではぬるい。
それでも彼は、その怒りを表に出すことは無かった。
彼は心得ているのだ。

感情に身を任せて、撃ち合いの場に挑んではいけない事を。
撃ち合いの場は、一瞬の油断が、判断の遅れが直接死に繋がる。
だから、彼は感情を押し殺していた。
彼は、感情をぶつける時を待っていた。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 21:23:02.91 ID:IQJYLaRF0
両者は、待っていた。
互いの銃が吠え、相手の命を奪い取る瞬間を。


爪゚ー゚)

(#゚;;-゚)


風が吹く。
もう、鉄屑達は語らわない。
静かに、冷えた風が吹く。
そして、風が凪いだ。

二人の間に、静寂が流れる。
一秒が、まるで一時間のような感覚。
緊張で頭がどうにかなりそうなのを、じぃは必死に堪える。

―――二人の拳銃遣いは、その時を静かに待っていた。

――――――――――――――――――――

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 21:27:02.68 ID:IQJYLaRF0
―――大通り。

一人の女がいた。
そう。
静かに、ただ、静かに。
目の前にいる怨敵を、睨みつけていた。

周囲に転がる、彼女が破壊し、撃墜したハインドから上がる炎に、その美貌が照らされる。
とても。
とても美しい女だった。
意志を持ち、絶対に揺るがぬ絆を持つ女は、とても美しかった。

それは、彼女の人間性が美しいから。
それは、彼女の容姿が美しいから。
例え彼女が数百の人間をその手で殺したと知っても、その美しさは揺るがない。
彼女自身が、それを間違っているとは思っていないからだ。

一人の女がいた。
そう。
待っていた、ただ、待っていた。
自分を睨みつける女を、待っていた。

無法地帯のソマリアで。
戦争一色のリベリアで。
彼女は待っていた。
目の前で自分を睨みつける女を、探し、そして待っていた。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 21:31:06.63 ID:IQJYLaRF0
軍人として戦場にいた頃から、彼女は目の前の女の事を知っていた。
敵味方を問わず暴れ回っていた女の事を、知っていた。
コンゴで彼女の部隊が全滅させられたと聞いた時から、その女を探していた。
そして、遂に見つけた。

二人の女がいた。
そう。
戦いを、ただ、決着を。
相手の死を、願っていた。

互いに"戦乙女"の渾名を持つ者同士、これは避けては通れない道だったのだろう。
こうなる事は、決まっていたのだ。
それぞれの考えなど、意味は無い。
ここは歯車の都、己の意志や思惑は、もっと強大な歯車に動かされてしまう。

だが、そんな事はもはやどうでもいい。
一刻も早く。
一秒でも。
一瞬でも早く、目の前の敵を殺したい。

己の手で殺し、決着を。
それぞれの思いに、終止符を。
この馬鹿騒ぎを、終わらせる。
相手の死で、全てを終わらせる。

1万の男がいた。
一人の戦乙女を囲み、一人の女を援護する為に。
そう。
戦乙女を殺す為に。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 21:34:07.17 ID:IQJYLaRF0
最速を望んで手に入れた男。
一度は死んだ男。
自ら望んで力を手に入れた男。
皆、戦乙女に何かしらの思いを抱いていた。

壊れるまで犯したい。
壊れるまで殺したい。
壊れるまで戦いたい。
壊れるまで嬲りたい。

ノパ听)

神話から飛び出したような格好をした女は、手にした槍の矛先を女に向けていた。
赤い甲冑。
赤茶色の髪、綺麗な青い瞳。
紛う事無き、戦乙女がそこにいた。

/ ゚、。 /

氷から生まれ出たような静かで冷たい女が、戦乙女の視線を受け止めていた。
グレーの軍服。
短い茶髪、氷色の瞳。
冷徹な機械を彷彿とさせる戦乙女が、そこにいた。

( ∴)∴)∴)∴)∴)∴)∴)∴)∴)∴)∴)

白い仮面を被り、男達は手にした突撃銃の銃口を戦乙女に向けていた。
グレーの軍服の上に着た、黒い外套。
青く光る三つの光点。
戦乙女を囲む1万の機械人形が、そこにいた。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 21:38:16.36 ID:IQJYLaRF0
/ ゚、。 /「これだけの精鋭が相手なら、不足はありませんね?」

女―――ダイオードが、挑発的に言葉を投げ掛けた。
最初からこうする事が目的であったかのように、その言葉は自信に満ちている。

ノパ听)「手厚い歓迎だが、これじゃあ不足だ。
     足りない、全然足りない……」

女―――ヒートが、怒りを押し殺した声で答える。
その言葉は、少しでも揺り動かせば爆発しかねない危険な怒りを孕んでいる。

ノパ听)「お前ら全員殺しても、全然足りねぇよ……」

静かに。
ただ、静かに。
戦乙女は破滅の言葉を紡いだ。

ノパ听)「私の可愛いシャキンに手を出して、この私がタダで済ませると思うか?
     皆殺し? 冗談じゃない。
     殲滅だ、滅殺だ、殺戮だ、戮辱だ!
     あらん限りの暴力で、貴様ら全員に惨死をプレゼトしてくれる!」

――――――――――――――――――――

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 21:42:03.54 ID:IQJYLaRF0
―――裏通りの、とある公園。

一度だけ。
ただ、一度だけ。
それだけで、十分だった。
互いの力量を知るには、それで十分だった。
 _、_
(;,_ノ` )

己の拳に付いた傷を見て、中年の男は動揺を隠しきれなかった。
鋼鉄ですら傷つけることなく破砕出来る拳に、如何なる攻撃で傷を付けたのか。
如何なる方法で、如何なる速さで、如何なる技で。
しかし、動揺はやがて興奮へと変わる。

好敵手。
しかも、自分よりも技量のある好敵手。
その存在は、何よりも彼を興奮させた。
久しぶりどころではない。

自分相手に、ここまでやれる相手を彼は知らない。
見た事はあるが、戦った事は無かった。
彼の妻であるダイオードも、ここまでは強くない。
正直、この実力は予想外だった。

男―――渋沢は、振り返りざまに再度構えた。
気、拳、地の融合。
少林寺拳法の中で三合拳と呼ばれる構えを取り、次に備える。
この体勢からなら、素早く強力な迎撃が出来る。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 21:47:02.94 ID:IQJYLaRF0
从'ー'从

一方、渋沢の拳に傷を付けた張本人は、涼しげな笑顔を浮かべていた。
美しい銀髪が、風に靡く。
そして、その赤い瞳よりもずっと紅い鉤爪が怪しく光る。
両手に付けた鉤爪こそが、渋沢の拳に傷を付けた得物の正体。

猛禽類の爪を彷彿とさせる鉤爪の名は、"ケードル"。
ロマネスク一家元No2が持つ、近接戦専用の武器だ。
渋沢の拳がどれだけ硬かろうと、この武器の前には意味がない。
最速かつ柔軟性に富んだ一撃は、確実にダメージを与える。

女―――渡辺は、ゆっくりと振り返った。
 _、_
( ,_ノ` )「やるねぇ、子猫ちゃん」

从'ー'从「……」

渋沢の賞賛の言葉に、渡辺は無反応。
脱力し切った構えのまま、渡辺は渋沢を睨みつけている。
しっかりとした構えの渋沢は、腰を落とし、重心を前に掛けた。
より早い一撃を撃ち出す為に、渋沢は全神経を集中させた。
 _、_
( ,_ノ` )「でも、俺は引けない。
    ここまで来た以上、楽しませてもらうぞ」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 21:51:11.42 ID:IQJYLaRF0
拳から、僅かに力を抜く。
足に力を込め、力を溜める。
集中し、気を拳に集める。
三合拳の神髄は、この3つの融合。

三位一体こそが、この構えの最大の利。
先程のように、遅れは取らない。

从'ー'从「……楽しむ?
     無理ね、貴様には楽しむ暇も、余裕も与えるつもりもない。
     貴様はただ、ここで私に殺されるのよ」

ようやく開いた渡辺の口から聞こえた声には、殺意を感じ取れない。
世間話をするように。
天気の話をするように。
それが、当然であるかのように、それはあまりにも自然すぎた。
 _、_
( ,_ノ` )「そうはいかん。
    お前のような娘に殺されたんじゃ、格好がつかん」

一触即発の緊張が、漂う。

从'ー'从「格好の事を心配するくらいなら、命の心配をしたらどう?
     まぁ、心配した所で何も変わらないのだけれども」

静かに告げる。
静かに備える。
静かに息を吸い、静かに、吐く。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 21:55:03.94 ID:IQJYLaRF0
【時刻――03:16】

魔女の持つ強力な駒。
それは、通常の駒では到底対処できない。
しかし。
しかし、だ。

それは、通常の駒でなければ、対処できると言うことでもある。
そう。
裏社会でも最強に数えられる者達ならば、魔女の駒に対処する事が出来る。
"帝王"、"戦乙女"、"雌豹"の三人ならば、それが容易に出来る。



この大騒ぎも。
この馬鹿騒ぎも。
この乱痴気騒ぎも。
この大騒動も。



―――幕引きの刻は、近い。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 21:58:05.10 ID:IQJYLaRF0





――――――――――――――――――――

('A`)と歯車の都のようです
第二部【都激震編】
第三十一話『絆の力を篤と見よ』

三十一話イメージ曲『Beautiful Fighter』鬼束ちひろ

――――――――――――――――――――





35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 22:00:32.42 ID:IQJYLaRF0
先にその場を動いたのは、でぃだった。
銃口をじぃに向けたまま、でぃは思い切り右に走る。
それに応じて、じぃもその場を動いた。
同じく、銃口をでぃに向けたまま、思い切り左に走る。

―――そして、先に撃ったのはじぃだった。

フルオート射撃で数発ずつに分けて、でぃの行く先に銃弾を撃ち込む。
だが、それを易々と食らうでぃではない。
紙一重で銃弾を躱し、姿勢を低く保ったまま走る。
銃口をじぃに向けたまま、でぃは鉄屑の山の陰に身を隠した。

構わず、じぃはその鉄屑に銃弾を撃ち込む。
右手に構えた銃で細々と撃ち込む中、左手の銃から空になった弾倉を排出する。
素早く装填を終え、今度は右手の銃から弾倉を落とす。
これも装填し、じぃは駆け出した。

が、駆け出した直後、じぃは横に飛んだ。
ほとんど間を開けずに、それまでいた空間を何かが通り過ぎる。
それが、でぃの撃った銃弾だと理解するのに、コンマ数秒。
鉄屑の山を貫通して撃ってきたのだと分かったのと合わせ、一秒掛った。

あまりにも非常識な銃撃に、じぃは堪らず笑む。

爪゚ー゚)「いいねぇ!
    こうでなくちゃ、こうでなくちゃあねぇ!」

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 22:04:05.79 ID:IQJYLaRF0
そう言いつつ、じぃもまた、鉄屑の山に身を隠した。
下手に音を出さなければ、でぃの銃弾がじぃを吹き飛ばすことはない。
冷静に場所を移動しつつ、相手の居場所を探る。
銃弾をそこと思わしき場所に撃ち、反応を待つ。

しかし、帰って来たのはやはり、鉄屑の山を貫通させての銃撃だった。
通常のデザートイーグルでは出来ない芸当だが、でぃの"帝王の牙"なら、それが出来る。
多少威力が落ちるとは言っても、その脅威性が失われることはない。
すぐ脇にあった分厚い鉄板に、拳大の穴が開いたのを見てじぃは更に笑む。

この緊張感がたまらない。
これだから、銃遣いは止められない。

爪゚ー゚)「ひっひひ」

装填作業の煩わしさ。
薬莢の匂い。
廃莢の音。
全てが、生きていることの証。

爪゚ー゚)「どうした!?
    こいよ!」

じぃが叫んだのは、何も興奮から来るモノだけではなかった。
こうして相手に場所を教えることにより、逆に相手の位置を掴もうとしたのだ。
思惑通り、それまでいた場所を銃弾が抉る。
じぃの中にある戦術データリンクが、その方向を計算。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 22:08:02.53 ID:IQJYLaRF0
遂に、でぃの居場所を見つけ出すことに成功した。
如何せん鉄屑の山が邪魔で、じぃの撃つ銃弾が当たらない。
向こうは対物ライフルを撃つ気軽さでこちらを狙えるが、こちらはそうはいかない。
9mmの鉛玉では、とても鉄の山を貫通する事など出来はしなかった。

遮蔽物の無い場所で、こちらの銃口がでぃを捉える事が出来れば、こちらの勝ちだ。
故に、走る。

爪゚ー゚)「っ……!
    見つけ―――」

(#゚;;-゚)「……」

爪;゚ー゚)「―――ひっ」

何の前触れも無く、じぃの前にでぃが出現した。
銃口を向けずにじぃが逃げるようにして横に飛んだのは、でぃの構えた拳銃の銃口が既にこちらを向いていた為である。
連続して足元を銃弾が抉る。
冗談としか思えないほどの大穴が、次々に作られてゆく。

辛うじて山の陰に隠れ、じぃは銃だけをそこから出し、撃つ。
排出された薬莢が、空しく鉄の山に当たり、乾いた音を鳴らす。
それを打ち消すかのように、盛大な銃声が一つ。
出していた右手のM93Rが、銃把だけを残して"食い千切られた"。

衝撃にしびれる手で、それを捨てる。
もう一度、盛大な銃声。
地面に落下する前に、銃把だけになったM93Rは消えた。

爪;゚−゚)「ば、化物かよ……」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 22:12:21.09 ID:IQJYLaRF0
身体能力的にも、経験的にもじぃの方が勝っているはずだ。
自分が劣っているなど、有り得ない。
となれば、これは悪夢だ。
悪夢に違いない。

仮にも"銃神"を名乗るこの自分が、あんな男に劣る筈がない。

爪#゚ー゚)「ちぇい!」

左手のM93Rを右手で持ち替え、じぃはその銃口を真上に向けた。
銃口の先には―――

(#゚;;-゚)「……」

―――鉄屑の山の頂から、こちらに向かって飛び降りたでぃの姿があった。
空中では身動きが取れない。
じぃの戦術データリンクは、勝利を約束した。
銃爪を引こうと、じぃは指先に力を込める。

しかし、じぃはそれを寸前で止めた。

爪;゚ー゚)「……ちぃっ」

データよりも銃遣いの経験を優先したじぃの判断は、銃爪を引かずにその場から退く事を決定した。
その判断は、正しかった。
データリンクの判断は、あくまでも対人間用の一般的なデータを元に算出される。
弾倉の二発しか入っていなかったとしても、相手が人間であれば勝てると判断したのだ。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 22:16:03.45 ID:IQJYLaRF0
だが、じぃはそれを否定した。
二発ぐらい食らった所で、あのでぃが怯むとは思えない。
飛び退いて距離を取ると同時に、右手からM93Rを捨てる。
でぃがコートを翻して着地するのと、じぃが新たな拳銃。

彼女の愛銃でもあるM92Fを取り出すのは、コンマ数秒のズレも無く同時だった。
着地の隙を突く為、じぃは銃口を向ける。
でぃも、着地の隙を補うようにして、同時に銃をこちらに向けていた。
二対の銃口が、互いの急所を睨みつけている。

爪゚ー゚)「っ……」

(#゚;;-゚)「……」

互いに、その格好のまま動かない。
先に動いた方が、負ける。
"ジャンケン"と同じように、後出しが勝つ。
銃遣いの経験が、じぃにそう告げた。

―――対峙したまま、再度激突の時を待つ銃遣い。

鉄屑の山の上に、数羽のカラスが。
否、数羽どころではない。
数十羽のカラスが、鉄屑の山の上に止まっていた。
そして、その内の一羽が高らかに鳴く。

同時。
同時に、銃爪を引いた。
どちらが先で、どちらが後という問題ではない。
完全な同時だった。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 22:20:02.59 ID:IQJYLaRF0
爪;゚−゚)「ちっ、くしょうがぁっ!」

装弾数の利を生かし、じぃは連続して銃爪を引く。
放たれた銃弾に対して、でぃは数発の弾丸で答えた。
仰け反ってそれを避けるじぃ。
一方のでぃは、コートを翻すだけ。

(#゚;;-゚)「……」

強靭な防弾繊維で作られたでぃのロングコートの前に、じぃの9mm弾は無力だった。
叩き落とされた鉛玉が、地面に落ちる。
背中から倒れたじぃは、その場を転がって移動した。
じぃが居た場所に、でぃは次々と弾丸を撃ち込んだ。

ここで、じぃに運が回って来た。
でぃが両手に構えた拳銃から、弾倉を排出したのだ。
今なら、この不利な体勢を正す事が出来る。
跳ねるようにして飛び上がり、じぃは地に足がつくと同時に走り出した。

この隙を生かさなければ、じぃに勝機はない。
弾倉を交換し終えたでぃは、スライドストップを外し、初弾を銃身内に取り込む。
大きな音と共に装填し終えた銃を、でぃは構える。
その先に、じぃの姿はない。

(#゚;;-゚)「……」

が、無言のままでぃはゆっくりと歩き出した。
赤い眼が、辺りを静かに見渡す。
ややあって、でぃは立ち止まる。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 22:24:14.09 ID:IQJYLaRF0
(#゚;;-゚)「……そう来たか」

一言呟き、構えを解いた。
じぃの取った行動に、ミスはない。
位置を知られなければ、撃たれることはないからだ。
―――つまり、隠れ潜んだのだ。

拳銃でも、ある程度の距離からなら狙い撃つことはできる。
ロングコートに守られていない個所を撃てば、じぃの勝ちだ。

爪゚ー゚)(ぎ、ギヒヒヒヒ……
     所詮は人間、不便な生き物だ……)

じぃが今身を隠しているのは、でぃの居る場所からかなり離れたクズ鉄の山。
そこにあった、廃車の中に身を隠していた。
しかも、しっかりとでぃの姿を見る事の出来る位置に陣取ることにも成功し、文句はない。
風の影響などを考えつつ、M92Fの狙点を合わせる。

まだだ。
まだ必中ではない。

爪゚ー゚)(この緊張感が……
     気持ちイイ……っ!)

軽く絶頂してしまったじぃではあったが、狙点はずれない。
契機を根気よく待つのが得策である。

(#゚;;-゚)「……」

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 22:28:06.18 ID:IQJYLaRF0
でぃは、その事に気付いていないのだろうか。
立ち止って周囲を見渡していた。

爪゚ー゚)(あはぁっ!)

遂に、その時が来た。
じぃは銃爪を引き、一発の凶弾を放った。
だが、それに当たる程でぃは甘くなかった。

(#゚;;-゚)「……っ」

如何にして弾丸が飛んできた方向を察知したのかは分からないが、でぃは正確にじぃのいる方向を見た。
そして、銃口を向け、こちらも銃爪を引く。
放たれた50口径の弾丸が、飛んで来た凶弾と激突する。
9mm弾を吹き飛ばしただけに止まらず、でぃの放った弾丸は何とじぃのいる場所にまで飛んで来た。

爪;゚−゚)「な、なぁっ!?」

避けようにも、慢心していたじぃにはそれをするだけの余裕がなかった。
精々、体を右に逸らすのが精一杯だ。
顔の代わりに、じぃの左手が手にしたM92Fごと吹き飛ぶ。
狼狽の声と共に、じぃは車内から転がり落ちた。

顔と体を地面に強く打ち付けてしまい、少しの間動く事が出来ない。
バランサー等の計器が正常な状態に戻るまでに、2秒も費やしてしまった。
右手で支えながら起こした体は、恐怖に震えている。
今度は、左肩から先が吹き飛んだ。

爪;゚−゚)「ひ、ひぃ……!」

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 22:32:16.33 ID:IQJYLaRF0
最初の頃の余裕はどこへ行ったのか、じぃはすっかり怯えきっていた。
ここまで圧倒的な相手は、今まで経験がない。
しかも、自分の得意分野であるはずの拳銃での撃ち合いで負けるなんて初めての事だ。

(#゚;;-゚)「どうした……?
    これは、お前の得意分野なのだろう?」

遠くから、でぃの声。
背を向けて走り出そうとするも、体が言う事を聞かない。
どうして、動かないのか。
じぃは焦る。

焦る。
滑稽なほどに、焦る。
無様に躓き、そして転び。
起き上がり、また転ぶ。

顔は涙と鼻水で歪み、恐怖にひきつっている。
勝てる気がしない。
何故。
何故、勝てないのだ。

こちらにはデータリンクの利も、身体的能力の利もあるはずなのに。
何故、勝てない。
何故、歯が立たない。

爪;゚−゚)「こ、来ないでぇ!」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 22:36:08.21 ID:IQJYLaRF0
じぃは遂に、失禁してしまった。
下半身が不快な濡れ方をしていても、無様でも、この際もうどうでもいい。
死にたくない。
何をしてでも、死にたくはない。

形振り構わず、じぃは逃げる。

(#゚;;-゚)「……」

それを、ゆっくりと追うでぃ。
一歩一歩、しっかりと。
一歩一歩、確実に。
でぃは、無言で追う。

ブーツが砂利を踏む音。
銃が風を切る音。
ロングコートの裾が風に翻る音。
そして、自分の心臓の音。

もう、じぃは正気を保つことさえままならない。
息をして、逃げるだけしか考えられない。
余計な感情を撤廃した筈なのに、なぜ恐怖に怯える。

爪;゚−゚)「ひゃあああ!」

叫び、逃げる。
逃げなければ、死ぬ。
壊れる。
心が、体が、矜持が、壊れてしまう。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 22:40:03.24 ID:IQJYLaRF0
否。
否、否、否。
あってたまるか。
あっていいはずがない。

自分は、選ばれた人間なのだ。
全ての人間の頂点に位置する、優等種なのだ。
こんなところで、死ぬはずがない。
死んでいいはずがない。

(#゚;;-゚)「……」

もう何度目になるか分からない転倒。
顔から落ち、起き上がる気力すら湧かない。
そのじぃの元に、でぃが追いついた。
銃口をじぃの両足に向け、銃爪を引く。

両足の膝から先が、醜い肉塊へと変わる。

爪;゚−゚)「ひあぁついいい!!」

痛みに叫び、もがく。
じぃの顔を、でぃがブーツの爪先で思い切り蹴り飛ばした。

爪;゚−゚)「ぶっあ!」

無様な声を上げ、じぃは転げ回る。

(#゚;;-゚)「……終わりか?」

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 22:44:03.29 ID:IQJYLaRF0
更に、でぃはじぃの顔を踵で思い切り踏みつけた。
鼻が折れ、歯が折れ、顔が歪む。
―――二度目の失禁。

(#゚;;-゚)「……どうした?
    声が聞こえんぞ?」

腹を何度も蹴りつけ、じぃの体をサッカーボールのように転がす。
無表情でじぃを蹴り転がす様は、もはや鬼気迫るものがあった。
銃弾などの攻撃を防げる装甲ではあるが、こう言った衝撃は直に食らってしまう。
元が人間だけに、外部装甲は思いのほか柔らかいのだ。

爪;゚−゚)「だ、だずげ、で……」

咳込みながら、じぃは命乞いをした。
呼吸系統の機器が、衝撃のせいで動作不良を起こしている。
そうでなければ、こんな無様な声を上げはしない。
その言葉を聞いたでぃだったが、顔色一つ変えない。

(#゚;;-゚)「……助けて?
    無理だ」

じぃの左足を付け根から吹き飛ばし、でぃは冷たく言い放った。

(#゚;;-゚)「お前は、俺の家族を二人も殺した。
    ……決して許さん。
    もがき苦しんで無様に死ね」

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 22:48:02.74 ID:IQJYLaRF0
言い終え、今度は右足を付け根から吹き飛ばす。
肉片が。
血が。
循環油が舞う。

辺りに、赤黒い液体が不気味な溜まりを作る。
血と油の匂いが、辺りに漂う。
噎せ返るような匂いの中でも、でぃは眉一つ動かさない。

爪;゚−゚)「ふ、二人……?」

(#゚;;-゚)「そうだ、二人だ。
    知らないとは言わせんぞ」

吹き飛ばしたばかりの足の付け根を、蹴る。
痛みに耐える事が不可能と判断したじぃのデータリンクが、痛覚を緊急停止した。
そうしていなければ、今頃ショック死していただろう。
自らの体に内蔵されたゼアフォーシステムに、じぃは感謝した。

しかし、その高性能なシステムの中に、でぃの家族を二人も殺した記憶はない。
じぃはあらぬ罪を誰かに着せられたのだと、口にしようとした。
が、それは結局叶わなかった。

(#゚;;-゚)「俺の娘、ちんぽっぽ。
    ……そして、ジョルジュだ」

爪;゚−゚)「ぞ、ぞんな……!」

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 22:52:18.52 ID:IQJYLaRF0
その名がでぃの口から告げられた時、じぃはその言葉を疑った。
ジョルジュはまだ水平線会に加入していないはず。
彼等マフィアが言う家族とは、その組織の身内の事を示唆しているのが一般的だ。
データリンクにも、そう記述してある。

一体、どういうことなのか。

(#゚;;-゚)「……これ以上、話す事は何もない」

爪;゚−゚)「……」

また。
また、捨てられてしまうのか。
フォックスが自分を戦場に厄介払いした時と同じように。
この命は、捨てられてしまうのか。

絶望的な状況にあったじぃに、もう一度戦う意義を教えたのは、他ならぬ彼女の右手に握られたM92Fだった。
でぃは、まだ右腕に撃っていない。
バランサー、各種射撃に必要なセンサーはまだ生きている。
隙が生まれれば、当てられる。

これだ。
この緊張感だ。
一発で勝負が決する、この瞬間。
そして、その"銃爪"に指を掛けているのは自分。

堪らない。
こんな堪らない状況が未だかつてあっただろうか。
スーダンで、ソマリアで、イラクで、コンゴで。
女を、子供を、男を、敵兵を、狂った味方を。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 22:56:03.31 ID:IQJYLaRF0
彼らを殺す瞬間に、果たしてこんな状況があったか。
否、無い。
そうだ。
まだ、まだ"この快楽だけは"。

この快楽だけは、自分を見捨てない。
この拳銃だけが、自分を助ける。
自分だけが、自分を助ける。
今、完全に取り戻した、かつての威厳と自信に満ちた自分を。

(#゚;;-゚)「……だが、俺はお前ほど腐ってはいない。
    このままお前が、自然に死ぬのを待つことにする……」

来た。
勝機だ。
この勝機を、逃す手は無い。
でぃが拳銃をホルスターに戻した今が、最後の勝機。

幸い、まだでぃはこちらが正気を取り戻したことに気付いていない。
今なら、勝てる。
両手に銃を持っていないでぃより先に、こちらが撃つ事が出来る。
全システムを、全装置をフル稼働させ、右手を持ち上げた。

その速さは、もはや人間であるでぃには追いつけない。
今から拳銃を引き抜いた所で―――

(#゚;;-゚)「……」

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 23:00:06.07 ID:IQJYLaRF0
―――引き抜かなければ、いい話だった。
そう。
ちんぽっぽの得意とした、デリンジャーなら、引き抜くことは無い。
つまり、でぃは最初から分かっていたのだ。

じぃがこうして刃向ってくる事を、初めから分かっていた。
分かっていて、あえてM92Fをそのままにしておいたのだ。
じぃが構えるより早く、でぃは裾から飛び出したデリンジャーの銃口をじぃの右手に向けている。
そして、でぃが先に銃爪を引いた。

刹那、じぃは思い出した。
でぃの手にしているデリンジャーは、ちんぽっぽの物だ。
彼女の愛銃を、彼が何故所持しているのか。
右手の甲を貫いた銃弾が、弾倉内の銃弾を抉った。

―――暴発。

右手が文字通り吹き飛び、じぃは驚愕に目を見開いた。
数十発が弾倉内に残っていたのは、彼女にとって不幸以外の何物でもない。
一発ならまだしも、束になった鉛玉の暴発では彼女の装甲も無事では済まない。
丁度、関節部が近かった事も相まって右手が吹き飛んだのだ。

(#゚;;-゚)「……これは、娘の分」

でぃは短く、冷たく言い放つ。
"銃剣"の付いた特殊な形のデリンジャーを、じぃの右目に投げた。
歪な形のデリンジャーが、じぃの右目に突き立つ。
銃剣が、右目を完全に破壊した。

爪;メ−゚)「ぎっゃぁ?!」

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 23:04:18.85 ID:IQJYLaRF0
システムのおかげで痛みこそないが、右目は機能しない。
銃遣いの命とも言える両腕を失い、果ては視力まで失った。
何をどうしようとも、じぃの逆転は有り得ない。
達磨状態のじぃに出来る事と言えば、噛みつくことぐらいしかない。

(#゚;;-゚)「……これは、ジョルジュの分」

今度は、懐から一挺の回転式拳銃を取り出した。
銀色に輝く、"ジョルジュの愛銃"。
スタムルガー・レッドホーク。
銃口をじぃの腹に、ゆっくりと向ける。

連続で、じぃの腹に撃ち込まれるマグナム弾。
着弾の度に小さな体が、大きな衝撃に跳ねる。
至近距離からの連射は、システムに多大な負荷をかけた。
その結果、じぃの下半身のシステムはシャットダウンを余儀なくされた。

爪メ−゚)「う……嘘……い……たの……か」

驚愕に震える声で、じぃは問う。

(#゚;;-゚)「……嘘?
    何の話だ」

でぃは、涼しげに答えて見せた。
撃ち尽くしたレッドホークを懐に戻し、でぃはホルスターに手を伸ばす。
"帝王の牙"をゆっくりと引き抜き、銃口をじぃの顔に向けた。

(#゚;;-゚)「……言っただろう、決して許さないと。
    家族に手を出された父の怒り、しっかりと味わえ」

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 23:08:03.68 ID:IQJYLaRF0
その銃口を、でぃは周囲の鉄屑の山に向け、連続して銃爪を引いた。
何度も何度も、装填と発砲を繰り返す。
地面に4つの空になった弾倉が転がった頃。
ようやく、でぃは発砲を止めた。

(#゚;;-゚)「……」

そのまま裾を翻して踵を返し、ゆっくりと歩いて行く。

爪;メー゚)「ひ、ひっはっははっはっははっ!
     あり、あでぃがど……ござい……ばず……!
     ……た、たずがっ―――」

じぃの声を潰したのは、"鉄屑の山が雪崩を起こした音"だった。
でぃの射撃で安定性を失った鉄屑の山が、一斉にじぃに降り注ぐ。

爪;メ∀゚)「たっぁあありほおおおおおぉおお!!」

スクラップになった車や、その他の金属に押し潰されても、じぃは死ななかった。
丈夫な装甲が、彼女の命を救ったのだ。
しかし、四肢を使い物にならなくされている為、動くことは出来ない。
これが、罰なのか。

爪;;メ;;.`;〕

顔は潰れ、喉も潰れ。
腕も潰れ、胸も潰れ。
腹も潰れ、目も潰れ。
今、じぃには何も出来ない。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 23:12:05.95 ID:IQJYLaRF0
このまま潤滑油と血が流れ続ければ、じぃは死ぬ。
苦しみは、死ぬまで続く。
長く苦しいこの苦痛こそが、でぃの望んだ復讐だと言うのか。
何と、何と恐ろしいのだろうか。

ただ殺すだけでは満足せず、こうして永遠とも言える苦痛を与えて殺すのか。
これが、"帝王"。
これが、水平線会の会長。
ヤクザ達の父親。

怒らせなければ。
怒らせなければよかった。
今になって後悔してももう遅い。
ご丁寧に予備バッテリーまで積んでいる自分だ。

死ぬまでには、余裕で一ヵ月はかかる。
その間、只管にこの暗い場所で過ごさなければいけないと言うのだ。
助けは呼べない。
助けも来ない。

裏社会にいる屍姦好きの変態にすら、見つからずに。
ただ、鉄が錆びるのと同じように。
この、自分を埋める鉄屑の山。
"捨てられた者達"の一部になるのか。

この、どうしようもない歯車の一部に。
この、歯車の都の一部に成り果ててしまうのか。

(#゚;;-゚)「……これは、俺の分だ」

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 23:16:15.05 ID:IQJYLaRF0
そう言い残し、でぃはその場を後にした。
"帝王"の怒りに触れた愚かな者には、死あるのみ。
これを、勝負と呼べるのか。
勝敗は決しこそしたが、果たして、勝負なのだろうか。

一方的なまでの暴力。
一方的なまでの実力。
一方的なまでの経験。
一方的なまでの殺し合い。

大人と子供の喧嘩並みに、圧倒的だった。
力量は拮抗しておらず。
技量も、拮抗していなかった。
これが、これこそが"帝王"の実力。

並みの銃遣いでは、到底太刀打ちできない。
だからこその"帝王"。
じぃは、平伏すのが遅すぎた。
理解するのが遅すぎた。

(#゚;;-゚)「俺は、お前ほど悪趣味ではない……」

―――でぃの姿が闇に溶けて消えた後、闇の中から一発の銃声が響いた。

"帝王の牙"に食い千切られたじぃの頭が、鉄屑にぶち撒けられる。
システムは完全に機能を停止し、長く続くと思われた彼女の苦しみは終わった。

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 23:20:18.89 ID:IQJYLaRF0
――――――――――――――――――――

内心、ダイオードはヒートの力を見誤ったことを後悔していた。
ヒートが出現してから、約一時間。
約一時間の中で、ダイオードは極力自分がヒートと戦わないように采配を振るった。
正直な話、ダイオードではヒートとまともに戦っても勝てはしない。

勝機が生まれる様な事も無い。
全戦力を持っても、危ういだろう。
その為、約一時間前。
ヒートの相手をしたのは、彼女の脅威から逃げることのできる戦力。

つまり、空を自由に飛び回るハインドだった。
機銃にロケット弾という豪華な装備があれば、ヒート相手に奮闘する事が出来るだろう。
そう思った。
だが、現実はそう甘くは無い。

怒りと復讐に燃えるヒートの前に、ハインドはあまりにも無力だった。
いくら上空に逃げようとしても、ヒートはそこら辺に転がっていた物を投擲してハインドを撃墜してくるのだ。
高度からの攻撃と言う利が生かせない以上、ハインドのパイロットは半ばヤケクソでヒートに挑んだ。
低空に滞空し、機銃とロケット弾の一斉射撃を浴びせかけた。

ここまでは、パイロットの行動に何ら非は無い。
むしろ、ヒート相手に挑んだだけ賞賛に値する。
もっとも、ヒートからしたら喧しい蚊トンボが刃向ってきた程度に思っていたらしく。
機銃とロケット弾の一斉射撃をあざ笑うかのように、ハインドのコクピットに飛び乗って来た。

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 23:24:03.55 ID:IQJYLaRF0
よもや、手にした長槍で襲いかかって来るなどとは、夢にも思っていなかったらしい。
ハインドのパイロットに、事前にヒートの情報を伝えていなかったのが失敗だった。
あれよあれよと言う間にハインドは撃墜され、他の場所から飛んでくる地対空ミサイルも相まって、ハインドは全くの役立たずになってしまった。
ここまで来るのに、約一時間。

そして。
時は今。
一万の味方を率いて、ようやくダイオードは覚悟を決めた。
今更後悔しても遅い。

―――後悔先に立たず。

/ ゚、。 /「……それ程に、私に恨みがあるのですか?」

ダイオードが率いている一万の味方は、決して有象無象の集まりではない。
全てが選りすぐった、文字通りの精鋭ぞろいだ。
全員が独立端末を搭載し、先ほど起こった事態にも動じていない。
彼女の夫である渋沢の部隊も導入し、全ての準備は整っている。

ノパ听)「今すぐその顔の皮をひん剥いてやりたいぐらいだ。
     私に喧嘩売っといて、手前が出張らないってのはどういうことだ?」

/ ^、。 /「美味しい料理は、前菜と言うものがあります。
      まずは、是非ともそれを味わっていただかなければ。
      メインディッシュは、最後にお出ししましょう」

そう言ってウィンクをしたダイオードの横から、一人の男がずいと歩み出て来た。
"プレデター"のようなドレッドヘアーが、歩みに合わせて跳ねる。
その風体は汚らしいの一言に尽き、下卑た笑いを顔に張り付けたまま、ヒートの体を舐めまわすように見ている。

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 23:28:11.90 ID:IQJYLaRF0
W,,゚Д゚W「良い、女、ゴロォ……」

浮浪者か何かと見間違えるほどに汚い男の口から出た声は、やはり汚かった。
手に持った大型の軍用ナイフをチラつかせつつ、男は舌なめずりをした。

W,,゚Д゚W「犯す、したい、ゴロォ……」

/ ゚、。 /「覚えていますか、素奈緒ヒート?
      彼は、貴方が頭を潰して殺した元刑事です。
      まずは―――」

ノパ听)「黙れ。
     能書きはいらん、掛かって来いよ」

そう言われてみれば、男の顔にそれとなく見覚えがあった。
確か、ヒートを不審者扱いして付け回した刑事だ。
裏拳で顔を吹き飛ばしたと思っていたが、修復できたらしい。
手にした槍を大きく頭上で回し、構える。

W,,゚Д゚W「威勢、いい、堪らない、ゴロォ……」

対する男は、あくまでも余裕だった。
構えと呼べる姿勢を取らず、あるがままの状態で呟く。
ナイフを宙に放り、手で弄ぶ。

W,,゚Д゚W「……ゴロォ」

突如、男の手からナイフが消えた。
そう思った瞬間には、そのナイフは魔法のようにヒートの指が摘まんでいる。

117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 23:32:11.32 ID:IQJYLaRF0
ノパ听)「隙を突くにしても、もう少し考えて行動するんだな。
     ……ほら、返すぞ」

金切り声を上げて投擲されたナイフは、ドレッドヘアーの男の手に戻った。
ただし、利子が付きで。

W;,,゚Д゚W「ご、ゴロォ?!」

ナイフを受け止めた筈の右腕が、ナイフごと吹き飛んでいたのだ。

ノパ听)「どうした?
     私を犯すとか抜かしてなかったか?」

配線の飛び出た腕を押さえる男に、ヒートは挑発的な言葉を掛けた。
男は下卑た笑いを薄れさせず、ヒートを睨みつける。
ただ、その下卑た笑いの中に明らかな怒りが含まれている事に、ヒートは気付いていた。

W,,゚Д゚W「……ゴロォ」

男は低く唸ると、左手首を軽く捻った。
すると、そこから歪な形の刃が勢いよく飛び出す。
手首から生えた刃を構え、男は静かに腰を落とした。
その様子を、ヒートは心底退屈そうに見ている。

W,,゚Д゚W「ゴ―――ロォ!」

男は跳躍。
そして、自重を利用しての急降下。
ハンマーを振り下ろすようにして、男は左手の刃をヒートの頭目掛けて落とす。

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 23:36:03.40 ID:IQJYLaRF0
ノパ听)「……馬鹿が」

短くそう呟いたヒートは、片手で槍を振り上げる。
男はそれを、振り下ろした刃で受け止めようとした。
確かに、男の刃は狙い通りヒートの長槍の刃と打ち合った。
が、次の瞬間には男の刃は綺麗に"斬られ"ていた。

そのまま男の体も両断し、男の体は空中で二分割される。

ノパ听)「お次はなんだ?」

槍を横に振り、付着した液体を振り払う。
遅れて、両断された男の体が地面に落下した。

/ ゚、。 /「そう焦らないでください。
       食事はゆっくり、楽しむものですよ」

(-@∀@)「えぇ、その通りです。
       正しい教養を受けた人間ならば、分かるでしょう」

今度は、眼鏡をかけた見知らぬ男が現れた。
戦闘よりかは、頭を使った事が得意なように見える。
ただ、これは自分の頭脳の良さに酔いしれている顔だ。

ノパ听)「何だ? 私と頭使って戦うってか?
     数学の問題でも解いて、"僕は頭いいんだぞ"、って自慢したいのか?
     だったら今からその出来の悪い頭潰してやるからよ。
     とりあえず死ね」

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 23:40:03.05 ID:IQJYLaRF0
(-@∀@)「ひっひっひ、まぁそう怒らないでくださいよ。
      僕としても、貴方と殺り合おうとはおもいません。
      どうです、ここで私とゲームでもしませんか?」

ノパ听)「お前の脳みその色を当てるゲームか?
     それなら当ててやるよ。
     正解は、頭を潰してからのお楽しみだ」

その言葉を聞くと、メガネの男はヒートを馬鹿にしたように苦笑した。
まるで、高学歴の人間が自分よりも低学歴な者を見下すように。
不愉快極まりない笑いだった。
ヒートは宣言通り男の頭を潰そうと、心に決めた。

(-@∀@)「……これだから、馬鹿は困るんだよねぇ。
       ほんっと、嫌だね」

そう言って男は懐から、オートマグを取り出した。

(-@∀@)「不愉快だよ。
       実に不愉快だ。
       馬鹿な女は、大人しく股を広げてればいいんだ。
       それなのに、僕みたいな天才に意見しようなんて、生意気で不愉快だ!」

銃口をヒートに向け、笑む。
ヒートは無表情で、それを受ける。

ノパ听)「"頭の良さを自慢している"ようじゃ、手前はただの"救えない馬鹿"だな。
     しかも、それで他人を見下すとなるとつくづく救えねぇ。
     生きる価値のない馬鹿だ」

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 23:44:02.90 ID:IQJYLaRF0
(-@∀@)「頭の悪い奴は、これだから嫌いなんだよぉ!」

銃爪を引き、男はヒートに銃弾を撃ち込んだ。
今撃った弾は、ただの弾ではない。
対ヒート用に特別に作った弾でなければ、ヒート相手に銃を使うなどと言う愚行はしない。
本来は、拳銃に使うような弾ではないのだが。

―――劣化ウラン弾である。

ノパ听)「……へぇ、これがお前の精一杯か」

槍の矛先で止めた劣化ウラン弾を振り落としながら、ヒートは呟いた。
代わりに、そこら辺に落ちていた石ころを矛先に突き刺す。

ノパ听)「弾で私を止めたいなら、ミニガンでも持ってくるんだな。
     まぁ、もっとも―――」

先ほどと同じ動作で、その石ころを振り払った。
―――ように見えた。
矛先に刺さっていた石ころが、銃弾並みの速度で男の顔に激突した。
凄まじい速度で激突した石ころは、男の顔を水風船のように破裂させる。

ノパ听)「―――それを用意させないんだけどな」

/ ゚、。 /「……」

ノパ听)「ポタージュはおしまいか?
    だったら、さっさとポアソンを用意しろ」

(゜3゜)「ブシュ―――!」

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 23:48:10.86 ID:IQJYLaRF0
突如、ヒートの背後から一人の男が襲いかかって来た。
事前に察知していたヒートは、その攻撃を余裕たっぷりに躱す。
あえて迎撃しなかったのは、その男が何かを吐き出しながら襲ってきた為である。
毒液か何かの類だろうか、ヒートがそれまでいた場所に掛った液から、異臭がした。

ノパ听)「っておいおい、スープはもういらんぞ」

珍しい技を使ってきた男を睨みつけ、ヒートは構える。

(゜3゜)「ブシュル、ブシュル……」

口から緑色の毒液を垂らしながら、男はまるでゾンビのように猫背で脱力している。
顔の横に付いたエラのようなものは、おそらく空調機か何かの装置だろう。
白い煙が、男の呼吸に合わせて吐き出されていた。

ノパ听)「……なるほど、魚か。
     毒魚はきっちり処理しなきゃな。
     捌くのは、こう見えて得意なんだ」

(゜3゜)「ブシュルルルルルルルゥ!!」

放水するように、男は毒液を勢いよく噴き出す。
素早くそれを避け、ヒートは槍を短く持ち変えた。
一気に男の背後に回ると、そのままその槍で男の背骨を貫いた。
その状態から、ヒートは強引に槍を振り上げる。

男の胸と顔を両断し、刃は男の体から出る。
間髪いれずに刃を男の肩に振り下ろし、斜めに切り下ろした。
この時点で既に、男の生命活動と呼べるものは完全に機能を停止しており、これ以上はオーバーキルだ。
だが、ヒートにとってそんな物は全くどうでもいい話である。

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 23:52:03.28 ID:IQJYLaRF0
何故なら、男の体に付いた傷。
正確に言うなら、男の体にある穴と言う穴から毒液が流れ出して来たのだ。
一刻も早くこの男の体を切り刻み、毒の流出する場所を限定する必要があった。
袈裟斬りにされた男の体が、ゆっくりとズレ落ちる。

が、それが完全に落ちる前にヒートは逆方向の肩に刃を食いこませていた。
バラバラに解体された男の死体が、綺麗に半分に分かれ、毒液の水たまりに落ちた。
自らの体内は毒液に耐える構造をしていたらしいが、外装はそうなっていなかったらしい。
奇妙に変形しながら、男の体は溶けた。

ノパ听)「で?
     次は肉料理だ、歯応えあるのを出せよ」

/ ゚、。 /「まぁ、そう焦らず。
       ねーやん、相手をしてあげなさい」

从゚×ナ从「えー、まじ魑魅魍魎やわ」

一見してそれが、機械の塊である事をヒートは見抜いた。
人間らしい言葉や、立ち振舞いをしているがこれは機械そのものだ。
戦闘兵器とでも言えば、一番当てはまるのだろう。
先ほどのエラ男よりもよっぽどヤれそうだ。

女形の戦闘兵器は、気だるげにヒートと対峙する。
そして、無造作に両手をヒートに向けた。

从゚×ナ从「生意気な顔してるなぁ……」

ノパ听)「手前の態度ほどじゃねぇよ。
     出来そこないのスクラップビッチが」

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 23:56:03.46 ID:IQJYLaRF0
瞬間、女の指が"火を噴いた"。
その正体は、女の指に仕込まれた短機関銃だ。
フルメタルジャケットの9mm弾の斉射を、ヒートは軽々と躱す。
女の短機関銃のフルオーケストラが終わるのと、ヒートが槍を構えるのはほとんど同時だった。

ノパ听)「……礼儀が出来てねぇな」

从゚×ナ从「へぇ、"グラスホッパー"を避けるとは、大した奴や。
      どれ、一つ本気で行かせてもらおうかいな」

この女の指に仕込まれた短機関銃は、並みの短機関銃ではない。
MP5短機関銃をベースとして改造をして、発射速度を極端に上げた短機関銃"グラスホッパー"である。
言ってみれば、この短機関銃の横薙ぎの一閃はレーザー兵器のそれと同等の意味を持つ。
避ける事など、そうそう出来る芸当ではない。

ノパ听)「……」

何も言うまいと、ヒートは黙る。

从゚×ナ从「ほな、いくで!」

一瞬でヒートに肉薄してきた女に、ヒートは目を向けない。
代わりに、槍の柄で女の腹を殴った。
野球の要領でふっ飛ばされた女は、そのまま建物の壁に激突。
大の字で壁に埋まった。

ノパ听)「弱ぇくせに、最初から本気で来ないから―――」

从゚×ナ从「ぬるいなぁ!」

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/27(日) 23:59:32.90 ID:IQJYLaRF0
ヒートの言葉を否定するように、女は壁から飛び出す。
そして、ヒートの前に着地すると、笑い始めた。

从゚×ナ从「誰が弱いって言ったんや?
      鋼の体の、この私が弱いって言ったんか?
      ん?」

大きく凹んだ腹を気にしていないのか、女はピンピンしている。
流石は純機械と言ったところか。
痛みなどと言う概念とは程遠い存在なのだから、この程度の損傷は損傷でもないらしい。

ノパ听)「調子に乗るなよ、雑魚が。
     斬られなかったからそう言えるって事を、教えてやろうか?」

从゚×ナ从「邪ッ!」

不意打ちの典型例で、女は襲いかかって来た。
ヒートは冷静に、槍の切っ先を"ある物"に突き刺す。

ノパ听)「……ほらよ」

そして、それを軽く放った。
まるでボールをパスするように軽く放られたそれは、女にとっては目暗まし程度の意味しかない。
手でそれを弾き、女はほくそ笑み―――

从;゚×ナ从「そんなも……のぼがぁ?!」

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 00:01:12.86 ID:l083/cxH0
―――軽く放られたそれに手を触れてしまったのが、女の失敗だった。
"毒液の滴る"それに触れ、女の手が異臭を放ちながら溶けた。
一瞬の狼狽の隙を突き、ヒートは槍を構えて踏み込む。
地面が凹むほど強く踏み込み、そしてその状態から放たれた突きは、女の顔の中心を貫いた。

从;゚×ナ从「ち、魑魅……魍魎……っ!」

それでも絶命しなかったのは、やはり女が機械だからだ。
醜く裂けた顔が、更に醜くなったかと思うと、そこから灼熱の炎が噴き出した。

ノパ听)「肉はレアが好きなんだ、私は」

その炎が自分に届く前に、ヒートは女を放り捨てた。
炎を撒き散らしながら、女の体は空中で爆発。
結果として、自分で吐き出した炎に身を包まれ、女の体は地面に落ちる。

ノパ听)「焼き過ぎ御注意ってな。
     火加減ぐらい覚えとけ、この間抜け」

/ ゚、。;/「くっ……」

ここでようやく、ダイオードの顔に焦りが現れた。
ここまで圧倒的な戦力を前に、"余裕ぶる余裕"はない。

ノパ听)「ほら、口直しの時間だろ?
     それとも、もう終わりか?」

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 00:05:28.60 ID:l083/cxH0
ダイオードに向かって、ヒートは歩み寄る。
ゆっくり。
その歩みは。
戦乙女が死を告げに来る合図。

―――逃げても、無駄。

ダイオードは、ヒートの歩みに合わせて後ずさる。
合わせて、ダイオードの部下達が歩み出る。
機械はただ、指示に従うだけ。

( ∴)「鈴木様、お下がりください。
    後は、我々―――」

( ∴)「―――1万の精鋭が、この女の相手をします」

一斉に構えた戦斧の音が、辺りに響く。

ノパ听)「そうだよ、最初から全員で来いよ。
     それでも足りねぇんだ。
     ……必死で掛かって来い!」

言われるまでも無く、ゼアフォー達は一気に駆け出した。
"演奏隊"も、加速装置の出力を限界まで上げる。
亜音速にまで加速させた状態から、先陣を切ってヒートに挑む。
FA-MASには手を付けずに、己の拳を握り固めた。

ノパ听)「……それが貴様等の必死か?」

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 00:09:07.24 ID:l083/cxH0
暴力的な一撃。
暴風を纏った一閃。
四方八方から襲いかかっていた"演奏隊"は、半数をその一撃で失った。
体を引き千切られ、斬り裂かれた仲間の死体を越え、残された"演奏隊"が迫る。

―――この間、一秒。

ノパ听)「邪魔だぁあああああああっ!!」

"長槍"と言う長物の短所など、ヒートには関係ない。
構え直す時間を破壊的なまでに短縮したヒートは、もう一閃を見舞った。
亜音速だろうとなんだろうと、ヒートの一閃の方が圧倒的に早い。
空中で薙ぎ払われ、"演奏隊"は呆気なく全滅した。

―――ここまで、二秒。

しかし、彼等"演奏隊"の努力は無駄ではなかった。
ヒートに迎撃されずに接近する事が出来た他のゼアフォー達が、戦斧を振り被っている。
必殺とも言える距離。
一つの餌に群がるイナゴのように、ゼアフォー達はヒートに挑む。

ノパ听)「退け、雑魚がぁあああ!」

その集団を、ヒートは雄叫びと共に吹き飛ばした。
手にした長槍で周囲を薙ぎ払い、接近を許さない。
ただでさえリーチの長い得物なだけに、ゼアフォー達は成す術も無い。
だが、挑まなければ道は開けない。

特攻隊のようにして、ゼアフォー達は死体と化した仲間を踏み越え、ヒートに襲い掛かる。

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 00:13:24.38 ID:l083/cxH0
ノパ听)「ぬるい、ヌルイ、温い!」

長槍を振り回すのを止め、ヒートは一気に走りだした。
その先に居るのは、怨敵ダイオード。

( ∴)「〜〜ッッ!!
   絶対に行かせるな!」

守るべき目標の危機に、ゼアフォー達は形振り構わずヒートに挑むことにした。
そうしなければ、どうしようもないからだ。
手にした戦斧を投擲し、ヒートの進行を妨害する。
待ってましたとばかりに、ヒートはその戦斧をはじき返した。

自分の顔に帰って来た戦斧は、ゼアフォー達を次々と破壊する。
それでも、まだ残りは七千。
まだやれる。
物量戦で挑むなら、一気に行くしかない。

ノパ听)「最初からこうしてろ!」

ヒートが槍を一振りする度、味方は体を吹き飛ばされて死体と化す。
大通りの地面の上に、グロテスクな人形の残骸が次々と出来上がった。
返り血を浴び、ヒートの甲冑に赤みが増す。
死体の山の頂で、ヒートは更に叫ぶ。

ノパ听)「これだけかぁっ!!
     貴様等は、これだけなのかっ!!」

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 00:17:25.45 ID:l083/cxH0
その姿は、まさに戦乙女。
死を運ぶ世にも美しき女。
死闘を望む、世界最強の美女である。

( ∴)「リミッター解除。
    ―――潰せ!」

ノパ听)「誰が誰を潰すって?!」

ヒートは死に物狂いで迫って来るゼアフォー達を一瞥すると、腰を深く落として姿勢を低くする。
そして、槍を長く持つ。
最大のリーチを得たヒートは、長槍で"眼の前を一気に薙ぎ払った"。
吹き飛ぶゼアフォーの体が、舞う。

その力を利用して、周囲を薙ぐ。
只管に薙ぐ。
ゼアフォー達は必死に迫る。
只管に迫る。

息一つ切らさずに、ヒートはゼアフォー達を滅していた。
相手はたった一人なのに。
一万の兵力が、まるで無力。
最新鋭の装備が、まるで玩具。

認められるはずがない。
こんな馬鹿げた光景を、認められるはずがない。
科学が。
進化が。

155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 00:21:03.66 ID:l083/cxH0
全てが、あんな非常識な女一人に否定されていいはずがない。
このまま驕らせていいものか。
新人類としての最終到達点。
ゼアフォーが、否定されていいものか。

ここで負けたら。
彼らが信じた未来が、丸ごと否定されることになる。
そうしたら、彼等に勝ちは無くなる。
ゴミと同じ、無意味、無価値。

ノパ听)「潰すんじゃなかったのか?
     どうしたんだよ!」

負ける。
負けた。
負けている。
負けてしまう。

残り数十体のゼアフォーで、何が出来ると言うのか。
何も出来ない―――
―――否、一つだけある。

( ∴)「……」

それまで青く輝いていた光点が、黄色に変わる。
手にしていた得物を全て捨て、彼等は地面に片膝を突いた。

ノパ听)「土下座でもするってか?
     そんなもん―――」

161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 00:25:24.73 ID:l083/cxH0
刹那。
ヒートの脳裏に、ある考えが浮かんだ。
それは、ゼアフォー達がこれから仕掛けようとしている考えと同じだった。
理解した時には、ゼアフォー達は"クラウチングスタート"を開始していた。

ノパ听)「……っ! 遅い!」

次々に駆けて来たゼアフォーを、ヒートは槍で突き殺す。
直後、爆発。
その隙を突き、他のゼアフォー達もヒートに接近すると同時に爆発した。
彼等は、"自爆"したのだ。

本来は機密保持の為のシステムなのだが、それをこのタイミングで使用したのだ。

ノパ听)「危ねぇな」

―――だが、それは無駄に終わった。
傷一つ負わず、ヒートは爆風の中から歩いてきた。

/ ゚、。;/「何故……!」

ノパ听)「さぁ? なんでだろうね。
     そんなことより、顔面潰される覚悟は出来てるんだろうな?」

/ ゚、。;/「……ちっ! オメガスリー!」

ダイオードは、"最後の伏兵"を呼び出した。
それまでどこにいたのか、ダイオードの背後から、ぞろぞろと三人の男が姿を現す。

163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 00:29:05.03 ID:l083/cxH0
Ω「ほう」
Ω「我々を」
Ω「選ぶとは」

ΩΩΩ<御目が高い!

Ω「しかも」
Ω「このタイミングで」
Ω「我々に」

ΩΩΩ<御目が参るとは!

Ω「ならば」
Ω「我々は」
Ω「その」

ΩΩΩ<御眼鏡にかなうよう全力で戦いましょう!

Ω「おっと」
Ω「なんと」
Ω「ヒートと」

ΩΩΩ<御目が合ってしまった!

Ω「おまけに」
Ω「眼の前の」
Ω「ヒートは」

ΩΩΩ<御目が据わっている!

172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 00:33:10.09 ID:l083/cxH0
言い終わるか終らないかと言う時に、ヒートが駆け出した。
慌てて迎撃態勢に入る三人だったが、ヒートの一閃によって呆気なく上半身を吹き飛ばされた。

ノパ听)「……で? これで終わりか?」

いよいよダイオードは覚悟を決め、得物を取り出す。

/ ゚、。 /「えぇ、これで終わりです。
       何もかも!」

言うより先に、ダイオードは手にした鎖鎌の分銅を投げていた。
ヒートはそれを、易々と避ける。

ノパ听)「まぁ待てよ。
     お前相手に、わざわざ"慈悲"を使う必要はない。
     ……生憎だが、槍は使わねぇ」

そう言って、ヒートは手にした長槍を足元に突き刺した。
手甲に覆われた指を鳴らしつつ、首の骨も鳴らす。

ノパ听)「どれ、一つ面白い物を見せてやろう」

腕を胸の前で組み、ヒートは笑んだ。

ノパ听)「お前は、私のシャキンを"倒した"と思ってるようだが。
     それはとんだ思い違いだ。
     あいつは、私と唯一まともに勝負が出来る男だ。
     お前にやられたのは、あくまでも私を庇う為。

     ……シャキンの技でお前の相手をして、私の手で殺してやる」

175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 00:37:35.55 ID:l083/cxH0
/ ゚、。 /「そんな余裕を―――」

ノパ听)「―――歯ァ喰いしばれ」

一瞬で目の前に現れたヒートの姿を見咎めた時には、ヒートの回し蹴りがダイオードの顔を襲っている。
反応すら出来ずに、ダイオードは文字通り吹き飛んだ。
頑丈な装甲が功を奏し、一撃で破壊されることはなかった。
手を突いて立ち上がろうとしたダイオードの顔面を、ヒートは容赦なく蹴り上げる。

強制的に立ち上がらせられたダイオードは、反撃や反応どころではない。
映像が回復しないカメラのせいで、視界は揺れに揺れている。
その顔に、駄目出しのもう一撃。
ヒートの踵落としが、ダイオードの皮膚を抉り取った。

/ ゚益。;/「ぎっ……!」

喉元までせり上がった悲鳴を、ダイオードはどうにか堪える。
痛覚センサーが遮断されず、焼けつくような痛みが顔に広がる。
剥き出しになった金属の骨格が、血で赤黒く輝く。
ヒートはその顔に、容赦なく蹴りを見舞う。

悲鳴を上げながら、ダイオードの体が地面を転がる。

/ ゚益。;/「がぁっ……!」

受け身もままならず、ダイオードはただ成されるがままだ。
あまりにも一方的。
しかも、ヒートは宣言通り足技しか使っていない。

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 00:41:07.92 ID:l083/cxH0
ノパ听)「あぁ? どうしたよ。
     立てよ。 必死になって立ちあがって、泣き喚きながら掛かって来いよ」

腕を組み、片足を上げた体勢のヒートが恫喝するように呟く。
頑丈な装甲故に、そう簡単には壊れられない。
ダイオードは、片手で顔を押さえつつ、残った手で体を支えながら立ち上がった。

/ ゚益。 /「……っ!」

その瞬間、ダイオードの体がまたもや宙に浮いた。
ヒートに蹴り上げられたダイオードの体は、優に5メートルは上がっただろう。
それより高く跳躍したヒートが、ダイオードの顔に向かって足を振り下ろす。
後頭部から落とされ、脆い頸部にダメージが。

/ ゚益。;/「ひぎゃっ……!」

冷酷な機械にも、悲鳴と言う概念があるらしい。
頸部に与えられたダメージは、激痛となって彼女の全身に流れる。
痛覚を管理するシステムは、まだシャットダウンをしない。
まだ許容範囲の痛みである為、システムがそれを許さないのだ。

痛覚を司るシステムは、触覚のシステムと直結している。
片方を切断すれば、もう片方も同時に切断されてしまう。
そうなれば、戦闘に何かしらの支障が出る為、そう簡単にはシャットダウンはしないのだ。
ヒートがそれを知っているかどうかは分からないが、シャットダウンギリギリの攻撃を仕掛けている。

ノパ听)「立てよ、ほら。
     立てって言ってるだろ!」

183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 00:45:04.69 ID:l083/cxH0
戦斧を振り下ろすように、ヒートの踵落としがダイオードの顔に迫る。
寸前の所で、ダイオードはそれを避けた。
コンクリートの地面に小型のクレーターを作った踵落としをまともに食らっていれば、顔面のさらなる変形は避けられなかっただろう。
恐怖で呼吸が乱れ、ダイオードはようやく立ち上がった。

ノパ听)「ブチ切れたフランス人形みたいな面しやがって。
     で? 分かったか。
     これがシャキンの実力だ」

ややあって、ヒートは嘯く。

ノパ听)「だが、私もまだまだ、だな。
     足技は、あいつ程じゃない」

ニヤリと笑み、ヒートはダイオードを哀れむようにして一瞥した。
否、憐みではない。
それは、あろうことか自嘲だった。
何処か遠くにいる、未だ追いつけない者の背を見るように、ヒートは目を細める。

ノパ听)「……さて、そろそろ終わりにしようか」

/ ゚益。;/「くぅっ!」

ダイオードは咄嗟に、最後の得物である鎖鎌を構える。
分銅と鎌の真ん中の鎖を持ち、そして、両端を高速で回転させた。
自身の周りに、結界のようにしてそれを展開し、ヒートの蹴撃に備える。

ノパ听)「覚悟は、いいな?」

/ ゚益。 /「ちぇあああああああああ!」

191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 00:49:18.81 ID:l083/cxH0
ヒートの機先を制そうと、ダイオードが動いた。
分銅と鎌を、ほとんど同時にヒートに向かって振り下ろしたのだ。
しかも、左右同時。
避ける手段はバックステップぐらいだ。

もしそうなったとしても、ダイオードは単に、片方の鎖の長さを変えてやればいいだけの事。
勝率は、これで少しは上がる。

ノパ听)「……せっ!」

ただし、それはヒートの得物が槍だった場合は、例外になる。
ヒートは飛来した二つの凶器を、前進する事で避けた。
更に、地面に突き刺していた槍を引き抜き、それを―――

/ ゚益。;/「あっがっ……
       があああああああ?!」

―――ダイオードの胸に、思い切り投擲した。
まるで戦車砲の直撃を受けたかのように、ダイオードは吹き飛ぶ。
そのまま、スクラップとなった戦車に叩きつけられ、張り付けの格好となる。
逃げようにも、深々と刺さった槍はビクともしない。

ノパ听)「言っただろ?
     お前は私の手で殺すってな」

ゆっくりとダイオードの元に歩み、ヒートはもがき苦しむダイオードを見上げる。
その顔には、やり場のない怒りの色が浮かんでいる。
こうして復讐したとしても、シャキンの手足は戻らない。
だが、何もしない程ヒートはお人よしではなかった。

197 名前:('益`) 投稿日:2009/12/28(月) 00:53:09.70 ID:l083/cxH0
だからこそ、こうして憂さ晴らしをしたのだ。
大した気晴らしにもならなかったが、シャキンの仇を討つ事は出来た。
このまま放置して、精々苦しみながら死んでもらうとしよう。

ノパ听)「私の最愛に手を出したんだ。
     これぐらい、まだ安い方だ。
     本当だったら、手前を達磨にして変態に犯させながらゆっくり殺したいところだな。
     生憎と、私はそこまで暇じゃない。

     手前の為に時間を割くぐらいなら、シャキンと一緒にいる。
     じゃあ、精々ゆっくり死ねよ、糞ビッチが」

これで最後とばかりに、ヒートはダイオードの顔に向かって拳を突きだした。
凹むどころの変形では済まず、その顔は戦車の装甲に埋まる。
言葉を紡ぐ事も出来ず、ダイオードは生きながらに標本にされた。
ただ、彼女の四肢が痙攣を起こし、必死に何かをしようとする様は―――


―――あまりにも、無様で滑稽だった。


――――――――――――――――――――

201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 00:56:03.20 ID:l083/cxH0
深く静かに吸い込んだ空気を吐き出すのと同時に、渋沢は地面を蹴った。
その際、地面からの反発を最大限に生かす。
更に、拳に気を込め、圧倒的なまでの破壊力を拳が宿した。
この一撃、ロマネスク一家元No2は如何にして防ぐか。

―――渋沢は、内心で期待しつつその拳を突き出した。
 _、_
( ,_ノ` )「邪ッ!」

渡辺は、その拳をヒラリと避ける。
その様は、さながら蝶のように優雅で、そして軽やかだった。
交差する二者。
膝を突いたのは、渋沢だった。
 _、_
(;,_ノ` )「こ、こいつ……」

左目を押さえつつ、渋沢は呻く。
押さえつけられた左目からは、赤い血が流れている。
そして、渡辺のケードルに、異形の何かが突き刺さっていた。

从'ー'从「おや?
     飼い馴らすとか、そんな世迷言を言っていなかった?」

ケードルの爪先に突き刺さった"渋沢の眼玉"を払い捨て、両者は再度向き合う。
 _、_
(;,_ノ` )「……どうも、見くびり過ぎていたらしいな。
    だが、目玉の一つや二つを奪った所で、俺は負けん!」

音速にも迫る勢いで、渋沢はもう一度拳を突きだした。
しかし、それを避け様に見舞われた渡辺の一撃によって、渋沢は地面に接吻をする事となる。

207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 01:00:16.67 ID:l083/cxH0
 _、_
(;,_ノ` )「何を……したんだ?」

即座に体勢を戻し、渡辺の背を睨む。
速度なら、この自分の方が早いはずだ。
人間如きが、この速さに追いつける筈がない。
つまり、自分が不覚を取るなど、有り得ない。

从'ー'从「……さぁ?」

嘲るようにそう言って、渡辺はゆらりと振り返る。
渋沢とは異なり、その構えは脱力し切っていた。
否、脱力と言うより、それはまるで―――
 _、_
(;,_ノ` )「……なるほど。
    それが、かの有名な"クレイドル"か……」

―――赤子をあやす揺り籠のように、優しい構えだった。
無音高速戦闘の中でも、ロマネスク一家のNo2にだけ伝えられる技。
機械が生み出した高速とは違い、完全に人体の力でのみ生み出される高速の世界。
道理で、敵わなかった筈だ。

从'ー'从「分かった所で、何が出来るわけでもない。
     さて、次は何を潰してほしい?」
 _、_
( ,_ノ` )「邪ッ!」

もう一度、拳を突き出す。
しかし、届かない。
三度目の交差で渋沢が払った代償は、突き出した右腕の拳だった。

208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 01:04:18.18 ID:l083/cxH0
从'ー'从「御自慢の拳も、こうなったらお終いね」

足元に転がった渋沢の拳を踏み潰しながら、渡辺は告げる。
 _、_
(;,_ノ` )「流石としか言えないな……
    ……だがっ!」

渋沢は理解していた。
自分と渡辺の戦力差を。
そして、それは決して埋めようのない程深い溝である事も。
残された左手の拳を固め、加速。

辛くも、渡辺の横を通り過ぎてしまい、渋沢は最後の攻撃を当てることが出来なかった。
横を通り過ぎた渋沢の事など意に介さず、渡辺はゆっくりとロマネスクに歩み寄る。

从'ー'从「ロマネスク様、その後お変りがないようで、何よりです」

心の底からそう言い、渡辺はロマネスクの横に腰掛けた。
ロマネスクは、水筒の蓋に玄米茶を入れ、それを渡辺に手渡す。

( ФωФ)「あぁ。
       お主も元気そうで、なによりだ」
 _、_
(;,_ノ` )「ちぃっ! 俺を無視して―――」

大地を蹴り、振り被る。
 _、_
(;,_ノ` )「―――呑気に話をするな゛あ゛!」

211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 01:08:15.47 ID:l083/cxH0
手負いの獣を彷彿とさせる咆哮と共に、渋沢はロマネスクの脳天目掛け、拳を振り下ろそうと駆ける。
万が一、空中で迎撃されても大丈夫なよう。
既に、リミッターは完全に外している。
渋沢は生きた砲弾と化し、捨て身にして必殺の一撃を―――

从'ー'从「……あれれ〜?
      これ、誰の心臓かな〜?」

―――が、渋沢は恐怖した。
絶望した。
失望した。
 _、_
(;,_ノ` )「ば、ばがな゛あ゛!
    いつの間に!」

いつの間に、渡辺は"渋沢の心臓"を抜き取っていたのだ。
しかも、痛みも無く。
触られた記憶も無い。
狼狽する渋沢に、いつものダンディズムはもう一片も残されていなかった。

そんな渋沢を、渡辺はぞっとするほど冷たい眼で睨みつける。
絶対凍土の大地を思い起こさせるその眼とは裏腹に、その顔には笑みが浮かんでいた。

从'ー'从「……?」

物知らぬ無垢な笑み。
その純真無垢な笑みで、渡辺は手にした渋沢の心臓を握り潰した。
動揺と恐怖と混乱で狙いを見誤った渋沢の体が、近くにあった砂場に頭から突っ込んだ。
渡辺は握り潰した心臓を乱暴に捨て、ケードルに付いた血を振り払った。

217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 01:12:04.69 ID:l083/cxH0
( ФωФ)「しかし、お主には本当に苦労を掛けるな」

気にした様子も無く、ロマネスクは労いの言葉を掛ける。

从'ー'从「いいえ。
      これぐらい、お安いご用です」

( ФωФ)「この騒ぎも、もうそろそろ終わるな」

閉じられた目で、ロマネスクは空を仰ぐ。
渡辺も、共に仰ぐ。

从'ー'从「……一体、どういう結末になるのでしょうか?」

( ФωФ)「さてな。
        そればっかりは、人次第としか言えぬな」

しばしの間。

( ФωФ)「……いつの時代も、全ては人次第だ。
       となれば、吾輩達にできる事は"トイレットペーパー以下の糞虫"に祈ることではない。
       ましてや、信じるなどと言う不確かな事でもない。
       やれることを、何時でも全力でやるだけである」

香木の杖を手に取り、ロマネスクはゆっくりと立ち上がる。
その際、ケードルをしまった渡辺が手を貸した。

从'ー'从「そう、ですね……」

219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 01:16:03.34 ID:l083/cxH0
そう呟くように言った渡辺の声は、少し沈んでいた。
何か、言い表しようのない深い後悔の念が、それから薄らと窺える。

从'ー'从「……では、私はこれで」

( ФωФ)「御苦労であった。
        また、何かあれば……」

最後まで聞かずに、渡辺はその場から姿を消した。
一陣の風が吹き、後に残されたロマネスクの眉が寂しげ垂れた。

(´ФωФ)「む……」

その様子はまるで、思春期の娘に嫌われた父親のように寂しげで。
どこか、哀愁感漂う姿だった。
しかし、ロマネスクは直ぐに元通りになると、砂場に顔を向けた。

( ФωФ)「……」

そこにいたはずの渋沢の死体は無く、ただ、砂場が抉れているだけだ。
杖を突いた姿勢のまま、ロマネスクは溜息を吐く。

( ФωФ)「……下らん」

ロマネスクの背後に、非常電源でどうにか一命を取り留めた渋沢の姿が現れても、構えない。
僅かに体を動かしただけで、ロマネスクはその襲撃を避けた。
 。、。
( ,_ノ` )「ハカイ…… ハカイ……」

( ФωФ)「どれ、久しぶりに運動をしてみるか」

222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 01:20:03.65 ID:l083/cxH0
一瞬にして"魔王"へと変貌を遂げたロマネスクは、杖を宙高く放り投げた。
その隙をついて、意志無き機械人形と化した渋沢が拳のない右手で殴りかかる。
ロマネスクは避けようとも、動こうともしない。
そして、渋沢の腕がロマネスクの顔へとめり込む。

―――その寸前で、渋沢の腕が止まった。

違う。
正確に言えば、止められた。
より詳しく言えば、"12の刃に絡め取られた"。

( ФωФ)「ふむ」
 。、。
( ,_ノ` )「ハカイ……セヨ……」

残った左腕で、渋沢はもう一度殴りかかる。
しかし、その腕も"12の刃"が止めた。
ロマネスクが両手に持っている得物の正体は、知る人ぞ知る特殊なナイフ。
同時に両手を下ろしたかと思うと、絡め取っていた腕が、バラバラと斬り落とされた。

反撃の隙を窺おうにも、ロマネスクの動きはあまりにも早すぎた。
手首のスナップを利かせ、ロマネスクはそのナイフを渋沢の首に絡めつける。
頭突きをかまそうとしていた矢先にそんな事をされては、渋沢は動けない。

( ФωФ)「……これではいかんな」

一気にそのナイフを引き、ロマネスクはナイフを振る。
金属同士が擦れ合って奏でる不思議な音色と共に、12の刃は一つに重なった。

( ФωФ)「運動にすらならん」

225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 01:24:08.43 ID:l083/cxH0
ナイフをしまい、丁度落ちて来た杖を掴み取る。
 。、。
( ,_ノ` )「……ハ…カ…イ……」

それだけ言うと、渋沢の首だけが地面に落ちた。
ロマネスクは杖をつきながら、ゆっくりとその場を後にする。
もうそろそろ、全てが終わる時間だ。
全てが終わり次第、祭りを再開しなければ。

あの祭りは、ロマネスクにとって。
"ロマネスク達"にとっては、かなり重要な祭りなのだ。
そう簡単に中止にさせはしない。

( ФωФ)「中止になど、させはしない……!」

強く、自分に言い聞かせるようにしてそう呟く。
ふと、ロマネスクはその雰囲気を一変させた。
"魔王"の本質とも言える、圧倒的な恐怖を身に纏い。
そして、どこか楽しげに。

( ФωФ)「では、期待させてもらおうか。
       ……ドクオ、お前の実力を」

―――この大騒動を終わらせる歯車に対して、ロマネスクはそう言葉を送った。

歯車に挑み、そして潰された者達は、知らない。
歯車に挑み、そして巻き込まれた者達は、知らない。
この都にある、巨大で強固な歯車を。
その存在にすら、気付かない。

228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/28(月) 01:28:22.85 ID:l083/cxH0
ある者は言う。
ここは、御伽の都だと。
美しい景色と、独自に発展した技術。
お伽話の中にしかないような、奇妙な均衡。

ある者は語る。
ここは、無法の都だと。
無法が法であり、銃こそが全てだと。
力こそが、絶対だと。

ある者は悟る。
ここは、紛う事無き歯車の都だと。
全ての出来事が。
全ての思惑が。



たった一人の王によって、掌握されている。
自分達など、ただの歯車にすぎないと。



第二部【都激震編】
第三十一話 了


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