- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 20:07:05.73 ID:sbQeHOR10
- ―――この都には、獣がいる。
法が存在し、金がモノ言う表社会にも。
法と呼べる物が存在せず、力がモノ言う裏社会にも。
相反するどちらの側にも、獣がいる。
この事は、両方の側で実しやかに囁かれていた。
ケモノ、ケダモノ、獣。
恐ろしい獣。
恐怖と暴力の象徴の獣。
そして、畏怖の象徴である"獣"。
早足で道行く表社会の歯車達は、口を揃えてこう言う。
奴等は、獣だと。
金に生き、金を餌とする強欲な獣だと。
その内、自分達も喰われてしまうだろうと。
―――いや、既に喰われているのかもしれない。
あれを見て見るがいい。
あの建物も。
あの車も。
あの人も。
この服も。
この靴も。
この道も。
この身すらも。
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 20:11:03.26 ID:sbQeHOR10
- 全て、あの獣達の物だと。
あの獣達が金を食らい、そして生み出した産物だと。
逆らおうなどとは、夢にも思わない。
逆らってもみろ。
結果は見えている。
あの建物も。
あの車も。
あの人も。
この服も。
この靴も。
この道も。
この身でさえも。
全て喰われ、消される。
無情にも喰い殺されてしまう。
家族は散り散りになり。
男は、やがて死ぬだろう。
ただ。
女だけは、生き残る事が出来るかもしれない。
その身一つで生き残る事が出来るのは、"雌"だけの特権だ。
娘がその身を売り、心を売り、堕落する事を選べば、生き残ることは可能だ。
しかしそんな事、誰も望まない。
だから、我々社会の歯車は今日も何も言わずに黙々と回るのだ。
獣の怒りを、間違っても買うことのないように。
獣退治など、自分達にはできない。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 20:15:08.29 ID:sbQeHOR10
- 社会の歯車にできる事は。
ただ一つ。
獣の機嫌を損ねることなく、獣の餌である金を掻き集める事。
一秒でも生き永らえる為に、そうやって必死になっていればいい。
それ以外、我々にできる事は何もない。
他に何が出来ると言うのか。
我々は所詮、社会の"歯車"なのだ。
歯車はただ黙って、廻っていればそれでいい。
お前にも分かるはずだ。
意味がないことぐらい。
刃向う事は、ただ獣の怒りを買い、そして自らを殺すだけだと。
それが分かるのならば、素直に歯車として生きろ、と。
―――だが。
裏社会の歯車達は、全く異なる言葉を口にする。
あの獣達には、決して、何があろうとも関わってはいけない。
関わると言う事は、己の命を捨てるに等しい行為であると。
関わりたいと言うのなら、お前のその身はその瞬間に死んでいると考えろ。
そして、何もかもを忘れて生きろ。
これまでの日常を、常識を。
全てを忘れ、これから起こるであろう全てを受け入れて生きろと。
そうしなければ、お前が来るのを今か今かと心待ちにしているのは、恐怖だけだ。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 20:20:25.10 ID:sbQeHOR10
- そう。
その圧倒的なまでの恐怖は、お前の心をあっという間に壊してしまうだろう。
お前が関わろうとしている獣は、ただの獣ではない。
人の命を糧に、死を生み出す獣だ。
獣相手に油断などしてみろ。
裏社会では、人の命などパンよりも安い。
子供は生きる為に殺しを覚え、女は生きる為に売春を覚える。
そんな裏社会で、あの獣が目を付けたとしたらどうなると思う?
簡単な話だ。
お前は後悔する間もなく、殺されるだろう。
殺された、と自覚する事すらも出来ないかもしれない。
殺された後、お前の体はバラバラに切断され、野良犬の餌となるだけだ。
―――あの獣達の前に、平然と立てる者がいるとしたら。
そいつは、必ず何かを持っている。
例え今はその何かが表面に出ていなくても、その何かは必ず現れる。
そしていつの日か、そいつは裏社会で名を馳せるだろう。
―――あの獣達に一目置かれる者がいるとしたら。
そいつは、只者ではない。
例え、その者が如何なる人生を歩んでいようとも。
決してその者を侮ってはいけない。
その者を今後、獣達と同等かそれ以上と見ろ。
死にたくなければ、そうするがいい。
裏社会に生きる獣が認めたのだ。
あの、獣達が、だ。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 20:24:00.80 ID:sbQeHOR10
- 人の命を餌にしている獣が認める者だ。
油断したり侮ったりした者など、何時も容易く殺す事が出来るだろう。
ならば、決して油断してはいけない。
何があろうとも、油断だけは絶対にするな。
獣に関わっている者全てを。
万が一。
億が一、その二つを満たす者がいた場合。
何も言わず、その者との接点全てを無くすがいい。
何も聞かず、その者と関わる事を止めるがいい。
その者がいつの日か、お前に牙を剥く前に。
お前に出来る事は、逃げる事だ。
この都から、忘却の彼方に逃げることだ。
振り返ってはいけない。
その者に出会うまでの全ての記憶を捨て。
その者に出会うまで過ごした家を捨て。
その者に出会うまでに抱いていた矜持を捨て。
何もかもを捨て、忘れ、逃げるがいい。
―――獣の絆を、侮るな。
獣は例え、その身に何が起ころうとも。
その絆の為にならば、如何なる事も耐えきる。
獣同士が持つ絆は、それほどまでに強いのだ。
獣達が認めた者の為でも、それは同じ。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 20:29:01.78 ID:sbQeHOR10
- 獣とその者の間にも、絆がある。
強固にして柔軟。
妖艶にして清楚。
繊細にして大胆。
理性ではなく。
感情でもなく。
利害でもない。
野生の絆が、あるのだ。
獣達に対して敬意を表し、畏怖を表し。
誰からともなく、その獣達にある呼び名が与えられた。
裏社会の者達は、その獣達をこう呼び。
美しさと力を備えた裏社会の獣達は、こう呼ばれる。
―――"美女と野獣"、と。
では、表社会の獣と。
裏社会の獣。
どちらがより恐ろしく、より強く。
そして―――
―――より、美しいのだろうか。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 20:33:07.47 ID:sbQeHOR10
――――――――――――――――――――
('A`)と歯車の都のようです
第二部【都激震編】
第三十二話『獣』
三十二話イメージ曲『Tiger in my Love』鬼束ちひろ
ttp://www.youtube.com/watch?v=pDEPEexLbBQ&feature=related
――――――――――――――――――――
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 20:37:16.50 ID:sbQeHOR10
- 裏社会の獣と言えば、まず間違いなく"犬神三姉妹"の名が挙がるだろう。
ロマネスク一家の中でも、取り分けて美しく、そして凶暴なことでも有名な三姉妹。
その三姉妹は、歯車の都の中で最も高い"バベルの塔"とも揶揄されている人工建造物。
荒巻コーポレーションの所有する、ラウンジタワーに来ていた。
三人は決して、観光や偵察をしに来た訳ではない。
彼女達は、たった"三人"でラウンジタワーを制圧しに来たのだ。
しかも、侵入方法はいたって単純。
正面入り口からの、堂々とした侵入だ。
もっとも、彼女達がその気になれば別の入り口から、気付かれることなく侵入する事も出来たのだが。
では、何故あえてそれをしなかったのか。
それは、彼女達の役割があくまでも"囮"であるからだ。
彼女達が任された作戦の本命は、別にいる。
この"トリックスター"の要の男。
そのたった一人の男が、ある人間を殺すまでの時間を稼ぐ為に。
それだけの為に、裏社会の手練達が都の各所で大きな騒ぎを起こしている。
犬神三姉妹もまた、その中に数えられていた。
ィ∩ハリ∩,
从<▽>从ト
その三姉妹の内の一人。
ラウンジタワーの一階で一人戦う女は、両手に構えたグロック19の銃爪を引き続けていた。
絶え間なく放たれる9mm弾が、次々と周囲の空間を抉る。
薬莢の落ちる音をバックグラウンドミュージックに、彼女はまるで舞う様に銃撃を続けている。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 20:41:00.66 ID:sbQeHOR10
- 彼女の手にしたグロックは、通常の形状、機構をしていない。
何故ならこれは、銃好きの彼女が自ら手掛けて文字通り一から製作した拳銃だからである。
本来は存在しない"撃鉄"が付けられたグロックの利点は、これと言って無い。
―――完全に彼女の趣味だ。
そして。
彼女はそれまで被っていた狸を模した仮面を、首を振って払い落した。
侵入が成功した以上、この仮面はもう使わない。
やはり鉄火場で物を言うのは、電子の力よりも自分の力に限る。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト
仮面の下から現れたのは、とても可愛らしい少女の顔だった。
少女が顔に浮かべる純真無垢なその笑みは、誰もが一瞬気を抜いてしまう程に柔らかい。
しかし、その女の両手に構えたグロックから放たれる銃弾と銃声が、そんな考えを易々と撃ち砕く。
少女のような笑みを浮かべる彼女。
―――犬神三姉妹の三女、犬里千春は、珍しく内心で焦っていた。
笑みと言う名の仮面の下で燻っている焦りの原因は、言わずもがな敵の数だった。
どこから湧き出て来ているのかは知らないが、少なくとも言えるのは。
このまま、この状況が続くのであれば、こちらはそう長くは保たないと言うことだ。
銃弾の数では五分と五分の領域に居る。
だが、戦力差は明らかに劣勢だった。
恐らく、最後の砦とも言える建物の警備に、相当な数の人員を割いていたのだろう。
慢心し切っていないと言う事は、相手もそこまで馬鹿ではないと言うことだ。
生身の人間が相手なだけ、まだマシだったと自分に言い聞かせる。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 20:45:00.69 ID:sbQeHOR10
- 9mm口径でも、銃弾を急所に当てれば死ぬ。
9mm口径の銃弾を何かに守られていない体のどこかに当てれば、滑稽な程に痛がる。
その点で見れば、人間相手と言うのは実に楽だ。
銃口を次々に転じ、千春は銃爪を引き、破壊を生みだす。
ラウンジタワーの一階には、自動販売機や受付。
小さな売店、高級ソファーとその横に観葉植物の置かれたロビーなどがある。
本来、そのロビーでは"スーツを着込んだ社会の歯車達"が、コーヒーを啜りながら自分達の将来を守る為に策を巡らせたりしたものだ。
今では、そのスタイリッシュだったロビーは、原形を留めない程に無残な姿になっていた。
銃弾が容赦なく抉ったソファーは、もう元の姿には戻らない。
観葉植物はその葉を吹き飛ばされ、果てはその鉢までも撃ち砕かれていた。
コーヒーカップが乗り、経済新聞が広げられていたであろう机は、銃痕によって前衛的な絵を描かれている。
これでは、優雅に会議や画策、世間話に現を抜かすどころではない。
更に、自動販売機に空けられた穴からは、火花がバチバチと散っている。
電気系統その他諸々を破壊された自動販売機の白い背景燈が、点いたり消えたりを繰り返している。
缶の取り出し口からは缶ジュースが溢れ出しており、今ならジュースはタダで飲み放題だ。
しかし、今この場でそんな事を考える者は一人としていない。
そんな事を考える暇があれば、一回でも多く銃爪を引くべきだからだ。
そうしなければ、間を置かずして己の体の風通しが良くなる事は避けられない。
これが、一人対複数の銃撃戦だと、誰が信じるだろうか。
飛び交う銃弾の多さは、既にその領域を遥かに凌駕している。
美人で性格不細工の嬢が居た受付も、人が良さそうで腹黒い店員の居た売店も。
今、この階にいる者の視界には、瞼を下ろさない限り銃痕が映らない光景は存在しない。
視界のどこかに必ず銃痕がある。
そして、その銃痕の七割を作ったのが、多数の警備兵を相手にする千春一人による所業だ。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 20:48:59.90 ID:sbQeHOR10
- 空になったロングマガジンを、千春は軽い動作で両手のグロックから排出した。
手首を捻り、何も入っていない弾倉の挿入口を袖に向ける。
千春の着ているメイド服の袖に仕込まれていた歯車式の装置が、新たな弾倉をグロックに挿入する。
これで約三十回続いたグロックの装填も、予備の弾を失った事により遂に終わりを告げた。
千春の視界の端にいるMP5短機関銃を片手に持った男が、小声で仲間に何か指示を出す。
この階に数本しかない柱に背を預けていた千春は、即座に姿勢を低くした。
飛来した銃弾よりも先に千春が姿勢を低くしたのは、ただ経験の賜物だけでは説明が出来ない。
正に、鍛え上げられた野生の勘が彼女の体を動かしたのだ。
頭の上や横を飛んで行った弾丸の音に、千春は軽く舌打ち。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「……ったく、もうっ!」
一瞬だけ銃声が止んだその瞬間に、千春は素早く立ち上がる。
両手を交差させ、銃弾の飛んで来た方向をグロックの銃弾で一気に薙いだ。
銃口の向こうから響く悲鳴と、手元から響く銃声が重なる。
薬莢が床を叩いて渇いた金属音を鳴らし、更に白い床に金色のアクセントを施す。
(; ゚¥゚)「ちぐぁ!」
次々と倒れ伏す男達の悲鳴が、遠近問わず千春の"耳"に届く。
千春が頭に付けている獣の耳は、"テレキャスター"と呼ばれる通信機と集音機を兼ね備えた物だ。
相手が装填作業をしている音も、ヒソヒソと作戦を話している声も。
全て、聞き漏らさない。
幾ら音を潜めても、靴底が床を離れ、そして踏みしめる跫音も聞き逃すことは無い。
この耳は、あらゆる災厄を聞き届ける。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 20:52:07.20 ID:sbQeHOR10
- ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「うるっさいなぁ!」
千春の横にある業務員用の通路から襲撃を狙っていた者の跫音を聞き咎め、千春はその通路の壁に向かって射撃。
跳弾を利用した天才的な射撃は、容赦なく男達の首や心臓を穿った。
此処も、そろそろ移動しなければ危ない。
千春は短く息を吐いて、一気にその場から駆け出す。
その影を追う様にして、数百の短機関銃の弾が千春の影を撃ち抜く。
一発の弾丸にも当たることなく、新たな遮蔽物の陰に飛び込み、千春は呼吸を深く整える。
呼吸を素早く整えた千春は、再度、その身を銃弾飛び交う空間へと翻した。
―――舞う。
エプロンドレスの裾が、優雅に舞う。
メイド服のスカートが、華麗に舞う。
栗毛色の髪が、風に舞う。
春の息吹を思い起こさせる美貌が、硝煙を纏って舞う。
四方八方に銃弾を撃ち込む。
銃弾をその身に受けた全ての者が、銃爪を引く事すら出来ずに倒れる。
辛うじて銃爪を引けた者もいるが、その銃弾は千春に届かない。
倒れてから銃爪を引き、天井に向かって銃弾が放たれた。
高い天井に吊り下げられていた豪奢なシャンデリアが、無残にも砕け落ちる。
それ一つで市民の年収に匹敵するシャンデリアが、まるでシンバルを鳴らしたような音と共にロビーの上に落下してきた。
粉塵と破片が舞い、周囲から狼狽と悲鳴の"音"が聞こえる。
千春は耳だけで、相手の状況をほぼ完全に把握。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 20:56:00.24 ID:sbQeHOR10
- この隙を突き、千春はまたその場を全速力で駆け出す。
両手に感じる銃の重み。
そこから、弾倉内に残された弾丸の数を割り出す。
残りは、それぞれ二割と言ったところで間違いないだろう。
移動中も撃つ事を止めず、千春は駆ける。
銃弾で悲惨な姿と化してしまった売店のカウンター。
その裏に、千春は飛び込むようにして身を隠した。
遅れて、カウンター横の商品棚に着弾。
( ・`ー・´)「……おい、"軍のアレ"はまだ来ないのか」
遠くで聞こえた嫌な単語を、耳が拾った。
既にごった返しているこの場に、軍人を呼んだと言うのか。
千春は銃だけをカウンターの上から出して、数発撃つ。
こうすれば、相手は焦って早めに要件を言ってくれるはずだ。
( ・`ー・´)「分かった、後一分だな……」
早い。
あまりにも早いと、千春は苛立つ。
この状況での援軍は、今の千春の立場を危うくする。
だが、考えを変えて見れば、ある意味僥倖でもあった。
こうしてここでの騒ぎを大きくすれば、相手の注意は完全に自分に集中する事になる。
図らずも相手の増援は、作戦を円滑に進める要因となった。
ならば、エプロンドレスのポケットにしまっている"アレ"を使う事も無いだろう。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 21:00:01.23 ID:sbQeHOR10
- ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「……早速これですか。
やれやれ、なんだか先が思いやられますね……」
また、数発を相手に撃ち込む。
左手に構えていたグロックから、重みが消えた。
より正確に言えば、弾丸の重み。
弾倉内が空になり、拳銃から弾丸の重みが消え去ったのだ。
遊底が重音と共に引き切り、新たな弾丸をグロックが口を開けて要求する。
が、千春はそれをあっさりと断った。
左手のグロックを惜し気も無く捨て、右手に構えた最後の一挺のグロックの銃爪を引く。
こちらにはまだ、数発の弾丸が残っている。
千春の弾に対して、相手からは数百発の弾が返ってきた。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「くふふ……
いいですねぇ、この感じ。
暴れ甲斐があるってものですよ。
まぁ、もっとも―――」
そして、遂に。
右手からも、弾丸の重みが消えた。
千春のグロックの遊底が、完全に引き切っている。
幾ら銃爪を引いても、もう弾は出ない。
―――弾切れだ。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 21:04:08.41 ID:sbQeHOR10
- ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「弾がなくなっちゃ、たまったもんじゃないんですけどね〜」
右手のグロックを捨て、千春は溜息を吐く。
スカートの裾をたくしあげ、太ももに吊り下げていたソウドオフショットガンを両手に持つ。
弾は両方合わせて四発。
銃爪も両方合わせて四回。
これで、どうにかこの場を繋ぐとしよう。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「あっはっは!
我ながら面白い事言いました。
……後で、ドクオさんに聞かせてあげるとしますか」
ドクオの反応を楽しみにしつつ、千春は耳を澄ませる。
斉射の音に隠れかけているが、跫音が近付いて来ている。
ついでに、何かのピンを外す音も聞こえた。
流石にそれは放っておけない。
千春はピンの音の方向に銃口を向け、銃爪を素早く二回引く。
散弾が、手榴弾を投擲しようとしていた男の顔を吹き飛ばす。
原型を失い、力を失った男の手から手榴弾が転がり落ちた。
そして、爆発。
衝撃で売店の商品の幾つかが吹き飛ぶ。
レジ前に置かれていた飴やガムが、千春の上に降り注ぐ。
千春は思わぬ収穫物に、微塵も躊躇わずに手を伸ばした。
丁度、スカートの上に落ちて来ていた飴を拾い上げる。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 21:08:01.38 ID:sbQeHOR10
- 器用に口を使ってそれの包装紙を完全に剥がし、飴を口に含んだ。
乙女に嬉しいイチゴ味。
心身ともに疲れたこの状況では、甘い物がありがたい。
舌先でコロコロと飴玉を転がす。
ゆっくりと舐めまわし、時々頬にまで運びそこでも舐めまわす。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「……ふふ」
知らず、千春は笑っていた。
その笑みは、美女の微笑にも見える。
しかし、獣の笑みにも受け取れる。
千春は、弾が無くなった左手のソウドオフショットガンを静かに捨てた。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「さって、と」
奥歯で飴玉を噛み砕く。
名残惜しい気もしたが、ここから先飴玉を舐めまわす余裕があるかどうか。
喉に詰まらせたり、吐き出したりしては勿体ない。
ガムやグミのように噛み砕いて飲みこみ、千春は耳を済ませる。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「頑張っていきましょーか、私。
ね?」
―――直後、ラウンジタワーの外に一台の軍用トラックが到着した。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 21:12:17.22 ID:sbQeHOR10
- ――――――――――――――――――――
犬神三姉妹の中で、最も気性が荒く好戦的なのは誰か。
一つの例外も無く、皆が揃って一人の名を挙げるだろう。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!
犬神三姉妹次女、犬良狼牙。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「なぁ姉貴、どう分担するよ?」
気性が荒いと言われているが、実は狼牙は義姉に対しては基本的に素直なのだ。
他者に対してはそうではないが、義姉に逆らおうとする気は毛頭無い。
少なくとも狼牙は、自分の味方である者に対しては意外と大らかな性格をしている。
残念ながらその事実は、周囲にあまり知れ渡っていないのだが。
そのせいで本人がどのように恐れられていようとも、狼牙は一向に気にしていなかった。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「そうじゃのう……
儂が二十階から上を見よう。
二十階まではお主に任せた」
犬神三姉妹で最も美しい容姿を持つ長女、犬瓜銀はそう言った。
狼牙と千春を束ねる犬神三姉妹の長女の性格は、掴みどころが一切ない。
時々激情的な一面を見せる事もあるし、場合によっては可愛らしい一面を見せる事もある。
しかし、そんな彼女であるが、犬神三姉妹で最も戦闘力が高い事だけは明らかな事実だ。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 21:16:02.81 ID:sbQeHOR10
- 一階で千春が戦っている中、美しく流れる髪を弾ませ、二人は長く続く階段を駆け上がっていた。
三段飛ばしでもバランスを崩さずに駆けられるのは、彼女達の腰に付いている獣の尻尾。
"キャスターポール"のおかげだ。
如何に不安定な体勢でもこの尻尾がある限り、バランスを崩すことは決して無い。
箸程の細い鉄塔の上に片足で乗ったとしても、落ちはしない。
二階のフロアへと通じる扉の前へと、二人はあっという間に到着した。
そこで狼牙は銀の提案に無言で頷き、先程の話通り二階に出る扉の前で立ち止る。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「じゃあ、姉貴。
また後で」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「うむ、ではまたの」
踊り場で短くそう言い合い、二人は別れた。
狼牙は目の前にある非常用の扉を、乱暴に開く。
閑散とした二階のフロアには、特に変わった様子も無い。
だが、あくまでも自分達がフォックスを探しているのだと思わせる為に、適当に二階を散策する事にした。
面倒くさいが、これも作戦だ。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「……なるほどね」
腰に手を当て、気だるげに辺りを見渡す。
見事に何もない。
この階層にあるのは、服屋だ。
しかし、狼牙は別に服を所望しているわけではない。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 21:20:20.23 ID:sbQeHOR10
- おまけに、狼牙は服に拘りがあるわけでもない。
だから、目の前にある服には一切興味がなかった。
女性向けの服しか売っていないこの場所は、狼牙にとってはあまりにも退屈な空間だ。
これがもっと別の店だったらと思うと、無駄に悔しさが込み上げる。
―――狼牙が、仮面の下で少しだけ笑った。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「女物の服に隠れて、情けなくないのか?
男だろ?」
両手を軽く、地面に向けて振るう。
すると、両腕の裾から一対のトンファーが飛び出した。
それをしっかりと握ると、狼牙は力強く踏み込む。
目の前にあった洒落た服を着たマネキンを、壊さない程度に殴り飛ばす。
ついでに、女物のヒラヒラした服が多数吊られたバーを蹴り上げ、自らの姿を服で覆い隠す。
それから半瞬遅れて、狼牙の正面から銃声が響いた。
銃声の大きさとその間隔からして、アサルトライフルだ。
舞い上がった服に、次々と人差し指程の穴が開く。
( ・´ー・`)「撃て、撃て!
やつの得物はトンファーだけだ、接近を許さなければ負けない!」
マネキンを撃ち抜いて飛んで来た弾丸を、狼牙はサイドステップで避ける。
( ´w´)「馬鹿が! いつまでも―――」
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 21:25:04.42 ID:sbQeHOR10
- ボディアーマーを着た屈強な大男の眼の前に、一瞬で出現した狼牙が、邪悪に笑んだ。
男が対応しようと銃を動かした時には、狼牙のトンファーが男の心臓部を思い切り強打している。
肋骨と胸骨が砕ける音が、ハッキリと響いた。
自らの胸に埋まったトンファーを、男は信じられない光景を見るような眼で見つめる。
(;´w´)「ごぁあがっ……?!」
悲鳴なのか、それとも断末魔の苦悶なのか。
黒人の男は、手にしたM4A1突撃銃を取り落とす。
狼牙は男の胸に埋まったトンファーを引き抜く。
震える手で強打された場所に触れると、血の泡を吐きながら倒れた。
(;・´ー・`)「くっ……!」
これでハッキリした事がある。
彼等もまた、狼牙達を騙そうとしている。
あたかもこの上にフォックス達がいると思わせ、上手い事誘導しようと言う魂胆らしい。
ここは、その罠にあえて足を突っ込んでやるとしよう。
今、このフロアには二人しかいない。
内一人を今殺したから、残りは一人。
雑多な小火器を手に立ち向かってくる馬鹿一名。
あれを殺せば、このフロアは制圧したことになる。
そうなれば、向こうは自然とこちらが罠に掛ったと錯覚するだろう。
狼牙はそう考え、左手のトンファーを思い切り投擲する。
まるでブーメランのように飛んで行ったトンファーが、残された男の額を砕いた。
だが、その一撃は死には至たらず、重傷で済んだ。
(;・´ー・`)「ひぎ、ひぎゃぁぁああああ!」
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 21:34:52.30 ID:sbQeHOR10
- 狼牙はその悲鳴を笑顔で聞きつつ、足元に落ちていた突撃銃を拾い上げた。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「今、楽にしてやるよ」
その銃口を、悲鳴のする方向に向ける。
そして、フルオートで射撃。
布切れと血が飛び散り、悲鳴がますます大きくなる。
撃ち終えた突撃銃を、興味無さ気に放り捨てた。
それでもまだ、悲鳴は響き続けている。
片手で撃った上に、かなり適当な射撃だったのだ。
男は運悪く、ギリギリ瀕死の状態で生き延びてしまっていた。
とはいえ、後数分もすれば死ぬ。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「おっと、悪ぃな。
銃っていうのは、どうにも扱いが難しくてねぇ」
そう言い残し、狼牙はその階を後にする。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「さーて、この調子なら何階か飛ばしていいだろ」
大雑把な性格の狼牙は、二十階までの各階層を制圧するのは非常に面倒くさいと考えた。
それならば、自らの担当である二十階のフロアにまで一気に行こうと思案した。
馬鹿な奴ほど高い所が好きと言うだろう。
それに。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 21:38:02.72 ID:sbQeHOR10
- 相手もこちらの会話を聞いているだろうから、待ち構えるのならば二十階が最適だ。
こちらが律儀に各階層を制圧して回った場合、疲労がピークに達するのは当然ゴールの二十階。
そこで甘い汁を吸おうとする者がいる筈だ。
狼牙はその者に、厳しい現実を教えてやりたい衝動に駆られ、この考えに至った。
一応、理に適ってはいるので間違いではない。
むしろ、狼牙にしてはよく考えた方だ。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「……ってわけだ、姉貴。
いいだろ?」
囁きよりも小さい声で、狼牙はテレキャスターに話しかける。
この通信機は、如何なる電波妨害も、如何なる環境下でもその性能に影響を受けることはない。
その代償として、犬神三姉妹だけが持つこの通信機同士でのみ、会話が成立するのだ。
当然、盗聴など出来はしない。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、『いいじゃろ。
その代わり、二十階に何もいなければ、そのまま下に向かって制圧をするのじゃぞ。
暇が出来たらこっちを手伝いに来てくれれば、それでいい』
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「了解」
狼牙はそのまま、入って来た扉に向かう。
右手のトンファーで扉を殴り、蝶番ごと吹き飛ばす。
新たなトンファーをどこからともなく取り出し、左手に構える。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 21:42:00.96 ID:sbQeHOR10
- ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「……これも、今は使わねぇな」
狼を模した仮面に手を掛け、乱暴に取り外して胸ポケットにしまう。
"フォレスト"の役目はもう終わった。
ィ∧ハ∧,
リi、゚ー ゚イ`!「ふぃー。
やっぱ、これが一番落ち着くな」
首の骨を鳴らして、狼牙は階段を駆け上がる。
手摺を上手に使い、遠心力を伴って上る。
上る、上る。
途中で何台もの監視カメラを見つけたが、気にしないでもいいだろう。
―――あっという間に二十階まで上り切ったのは良かったが。
如何せん、張り切りすぎた。
呼吸が荒くなり、膝に手を突いて深呼吸。
どうにか本来の呼吸を取り戻し、狼牙は扉を蹴り飛ばした。
ィ∧ハ∧,
リi、゚ー ゚イ`!「……ん?」
それまで陽気な笑顔を浮かべていた狼牙であったが、部屋の中に一歩足を踏み入れるや否や、その顔つきが変わった。
その動作はまさに、縄張りに異変を見つけた獣のように素早かった。
微妙な"空気"の変化に、狼牙は気付いたのだ。
この空気は、久しぶりに味わう。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 21:46:14.73 ID:sbQeHOR10
- 初めてヒートと戦った時程濃厚ではないが、これは明らかに、"戦いの前"の空気だ。
しかも相手は、かなり手強い。
それと関係あるか分からないが、ほんの微かに"油"の匂いがする。
二十階にあるこのフロアは、某社の事務所の筈だ。
事務所から、"油"の匂いがする筈はない。
そして、"テレキャスター"が、異音を捉える。
金属同士が僅かに震える音。
これは、機械の駆動音だ。
ィ∧ハ∧,
リi、゚ー ゚イ`!「……」
辺りを見渡しても、あるのは机や椅子。
机の上には書類が綺麗に置かれ、電源の入っていないノートパソコンが置かれている。
典型的なオフィスの景色だ。
これと言って、変わった部分は見当たらない。
―――が、狼牙は見つけた。
停電しているとは雖も、見える。
むしろ、停電したからこそ見えているのかもしれない。
暗闇と言うのは、そう簡単に濃淡を持つものではない。
その空間に何かしらの物体が無い限り、影の中に明らかな濃淡は生まれないのだ。
その筈なのに。
光源は窓の外から差し込む僅かな光だけなのに。
何故、何故―――
―――白い書類の上に、"暗闇よりも濃い影"が落ちているのだ。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 21:50:01.38 ID:sbQeHOR10
- ィ∧ハ∧,
リi、゚ー ゚イ`!「光学不可視化迷彩とは、こりゃまた随分高級品を持ち出したなぁ?
しかも、結構デケェな。
高みの見物はどんな気分だ?」
『へぇ……
犬っころのくせに、凄いね』
それまで、何もないと思われた空間。
"机の上"に、それは現れた。
違う。
最初からいた。
そいつは、最初から狼牙を見下ろしていた。
「ふぅん……
コスプレ軍人が相手なのか」
ィ∧ハ∧,
リi、゚ー ゚イ`!「口が悪ぃな。
そんな口なら、顔面ごと砕いてやろうか?
それと、誰が犬だって?
……"アラクネ女"」
現れたそれを一言で形容するなら、機械の蜘蛛だった。
八本の金属の脚が、机の上に静かに立っている。
タランチュラを思わせる巨大な胴体から生えた八本の脚が、優に二メートルを超える巨大な体を支えている。
一人の女が、丁度、蜘蛛の頭部に当たる場所に深々と埋まっていた。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 21:54:14.70 ID:sbQeHOR10
- むしろ、埋まっていると言うよりかはそこから"生えている"と言った方がいいだろうか。
上に突き出した蜘蛛の尻に、まるで背もたれのように凭れ掛かっている。
蜘蛛女が、退屈そうに溜息を吐く。
下半身が武骨な機械の蜘蛛、上半身は妖艶な美女という、相反する存在の融合。
美と醜悪の混合が生み出す不気味な姿。
長く艶めかしい黒髪を指で漉き上げ、薄く開かれた赤茶色の瞳が狼牙を見下ろす。
lw´‐ _‐ノv「アラクネ、荒くねぇっすか?
……まぁ、別に何でもいいけど」
その女の声は、どこか下卑た湿り気を帯びていた。
狼牙がこの世で二番目に嫌う種類の声だ。
今初めて対面したが、狼牙は一目でこの女を完全に嫌悪し、敵視した。
ィ∧ハ∧,
リi、゚ー ゚イ`!「蜘蛛女が……
男漁りはしなくてもいいのか?
本場のオフィス・ラブを見学するには、少し時間が早すぎたな」
lw´‐ _‐ノv「下品な奴。
流石は犬だ、糞喰らいの野良犬だ。
礼儀が出来ていない」
ィ∧ハ∧,
リi、゚ー ゚イ`!「……手前からはビッチの臭いがするんだよ。
何時もみたいに男娼でも買って、ひぃひぃ言ってろよ。
そろそろ下半身が疼いてる頃だろ。
お友達のクラミジアちゃんは元気か?」
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 21:58:05.10 ID:sbQeHOR10
- 狼牙は感じ取っていた。
目の前の女、PMCの社長―――、淳シュール。
彼女からは、嫌な雰囲気と気配がする。
実力を隠す為かは知らないが、まるで実態が掴めない。
こうして煽ってみても、柳のように対応している。
獣の勘が告げる。
この相手に、気を付けろ、と。
lw´‐ _‐ノv「別に、私はひぃひぃ言う趣味は無い。
むしろ、言わせるのが趣味だ」
中指を狼牙に向けて立て、シューは挑発し返す。
いくら短気と言われる狼牙でも、こうも見え透いた挑発には乗らない。
中指ぐらい、後で幾らでも折ってやればいい。
ィ∧ハ∧,
リi、゚ー ゚イ`!「へっ、趣味の悪いアマだな。
その"最新型の三角木馬"も、趣味が良すぎてついていけねぇよ」
lw´‐ _‐ノv「……腹ぁ踏んでやろうか、犬?」
鋭く、低い恫喝。
それまでシューから漂っていた気配が、一瞬でガラリと変わった。
これが、この女の本性か。
ィ∧ハ∧,
リi、゚ー ゚イ`!「言うねぇ、言うじゃねぇか。
あたしの腹を踏むって言ったんだよな?
……じゃあ、あたしは手前の顔面ごとプライドも踏み潰してやるよ」
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 22:02:22.24 ID:sbQeHOR10
- 構えを取る狼牙。
好戦的な光が、眼に宿る。
対するシューも、まるで自分の体の一部のようにその蜘蛛を動かす。
機械である事を忘れさせる程に、その動きは生物的なしなやかさを持っていた。
lw´‐ _‐ノv「犬はなぁ、ご主人様に跪いてぇ、尻尾振ってよぉ。
おねだりするもんだろうがぁ!」
挑発するかのように、シューは顔を歪める。
それを受けて狼牙は、歯を向いて笑う。
狼の尻尾を模したキャスターポールが、ピンとそそり立つ。
狼の耳を模したテレキャスターが、正面に向く。
胸ポケットにしまったフォレストを、顔に掛ける。
狼をモチーフにデザインされたフォレストを掛けた段階で、狼牙の装備は揃った。
犬神三姉妹用の完全装備、"ビースト"。
今、狼牙の視界にはありとあらゆる戦闘補助の情報が映し出されている。
lw´‐ _‐ノv「仮装パーティでもしようってかい!」
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「あぁ、そいつはいい!
なんなら一緒にタランテラでも踊ろうか!
それと覚えとけ、アラクネ女!
あたしは犬じゃねぇ!
狼だ!」
狼牙のトンファーと、機械仕掛けの蜘蛛の脚が激突した。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 22:06:00.85 ID:sbQeHOR10
- ――――――――――――――――――――
銀は地上134階で、遂に駆けるのを止めた。
最上階までは残り66階。
冗談ではない。
幾ら体力に自信があるとはいえ、流石にこれは疲れる。
ラウンジタワーは、地上9000mの高さがある。
その最上階まで休憩なしで駆け上がるのは、愚の骨頂だ。
むしろ、無理だ。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「むぅ……
いかんな……」
そう言って、銀は和服の懐に手を突っ込む。
そこから取り出した巾着袋から、飴玉を摘まみ出した。
一粒口にそれを含み、溜息。
その一回の溜息で、銀は呼吸を完全に取り戻した。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「どれ、ぼちぼち仕事を始めるかの」
自分にそう言い聞かせ、銀は134階の扉を開く。
扉の上に書いてあったプレートを見ていないが、まぁ確認しなくてもいいだろう。
その向こうにあったのは、飲食店が何店も入ったフードコートだった。
通路は、中央に走る幅三メートル程の道が一本。
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 22:10:00.50 ID:sbQeHOR10
- そこに隣接して、飲食店が立ち並んでいる。
その中央の道を、和服姿の美人がゆっくりと歩む。
耳がいつ異音を捉えてもいいよう、銀は神経を研ぎ澄ませる。
油断は一切していない。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……おや、儂の好きなプリンが置いてあるのか」
その証拠に、西洋料理店の前に置かれているメニュー表にあった、プリンの文字も見逃さなかった。
口の中の飴玉を奥歯で、ガリリと噛み砕く。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「む」
何の躊躇いも無く扉に手を掛けて開けようとするも、当然のことであるが鍵が掛っていた。
が、銀は扉を蹴破ることでそれを解決した。
木製の扉が、無残にも吹き飛ぶ。
真にスマートな仕事とは、こういうことを言うのだ。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「さて、プリンは……」
目当てのプリンを探して、銀は厨房へと足を進める。
冷蔵庫の前に来ると、そのまま冷蔵庫の扉を開く。
中にあったのは、材料。
只管に、材料だった。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 22:14:06.94 ID:sbQeHOR10
- 牛、豚、鳥、羊、鹿、その他ありとあらゆる種類の肉の塊。
業務用の世界中から集めた、激臭放つチーズの数々。
新鮮な野菜の詰まった段ボール。
まともに食せる物と言えば、レタスぐらいだった。
幸いなことに、手作りのドレッシングがボール一杯に作り置きしてある。
これをレタスに掛けて、バリバリと食せば、その日のおかずに一品増える事請け合い。
―――しかし、銀は菜食主義者ではない。
乱暴に材料を退かし、冷蔵庫の奥に遂に見つけた。
G・Gファンタスティック社製、業務用高級バケツプリン。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ふっふっふ。
役得じゃ……
……のぅ?」
瞬間。
それ一つで十万以上の価値があるバケツプリンが、一瞬だけ宙に舞った。
その一瞬の間に、銀は"厳狐"を抜刀している。
狙いは、バケツプリンを取り出した冷蔵庫。
―――その奥にある空間。
微かな音が聞こえた時には、自身の身長の二倍もある日本刀"厳狐"は、既に鞘の中。
バケツプリンが再び銀の手元に戻ったのと同時に、重量のある冷蔵庫が、綺麗に斬られた壁を巻き込んで奥に倒れる。
その向この空間には、何もいない。
違う。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 22:18:02.86 ID:sbQeHOR10
- ただ、見えていないだけだ。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「それ、遠慮するな。
お主にも分けてやろう。
儂からのプレゼントじゃ」
バケツプリンを、何もない空間へと思い切り投じる銀。
すると、バケツプリンが宙で弾けた。
何かにぶつかったかの様に、中身が周囲に飛散する。
そして、バケツプリンに彩られたのは、歪なシルエット。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「光学不可視化迷彩も、無敵ではないぞ?」
「く、くくくっ……!」
怒りと苛立ちの含まれた笑い声が、そのシルエットから漏れる。
陽炎が立ち、その姿が明らかになった。
川д川「……」
女がいた。
そして、プリンの掛かった長い黒髪の奥から、銀を睨んでいるのが分かる。
ブツブツと蚊の羽音のような声で、女は何かを呟いている。
"テレキャスター"が、その音を拾った。
川д川「殺す……殺す……」
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 22:22:19.72 ID:sbQeHOR10
- その女は、鎧を身に纏っていた。
顔を除いた全身を覆う、歪な鎧。
見た目にも重量感のある鎧、胴体並みに巨大な腕。
そして胴体の半分以下の小さな顔を持つその容姿は、さながらゴーレムのようだった。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ふふふ……
確かお主は、貞子・ノーマスじゃったかの?」
貞子・ノーマス。
荒巻コーポレーションに次ぐ大企業の女社長―――
―――だった女だ。
自社の命運を掛けて製作した金属のせいで、その地位は落ちている。
今は正確に言えば、貞子鉄鋼業の地位はFOX社の次。
それでも、大企業であることには変わりがない。
何にしても、彼女がこの大騒動に関わった愚か者である事だけは確かだ。
川д川「だったらなによ……」
忌々しげにそう呟く貞子。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「首がいいか、胴体がいいか?
切断する場所を選ばせてやろう」
それを聞き、貞子は口の端を釣り上げて不気味に笑う。
黒い髪の間に見える白い歯が、より一層不気味さを演出する。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 22:26:02.97 ID:sbQeHOR10
- 川∀゚川「クスクス……
無駄よ…… 貴女に、私は斬れない……」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「随分な自信じゃのう」
厳狐の柄に手を掛ける。
ここまで自信たっぷりな者は、二撃で仕留めるに限る。
銀は、一先ず胴体の切断を決めた。
その後に、首を刎ねればいい。
川д川「貴女の義妹達も……
勝てないわ……」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「さて、それはどうかの?
儂の義妹達は皆、手強いぞ」
川д川「ク……」
途端、貞子が肩を震わせた。
川∀<●>川「クァ―――カッカッカッカ!
あはっ、あっははっ!はっはははぁ!」
いきなり笑い始めた貞子に、銀は眉を顰める。
この状況で、気でも触れたのか。
声を上げて笑う事に慣れていないらしく、随分と変な笑い声が響く。
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 22:28:11.71 ID:sbQeHOR10
- 川∀<●>川「手強い、そうね……
確かに貴女達は手強い……
それが、仇になるって言うのに……
ね?」
哀れむかのような貞子の声が、銀の鼓膜を振動させた。
銀は、顔から笑みを消す。
そして、その姿は貞子の眼前から消失していた。
【時刻――02:40】
表社会と裏社会の獣が、牙を剥き合った。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 22:32:01.84 ID:sbQeHOR10
- ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「あちゃ〜。
援軍、来ちゃいましたか……
まだ基地に残っていたとは、計算外ですねぇ。
でも、変です……」
当初の予定では、都の軍は大通りへと誘導されている筈なのだが。
どうやら、まだ残っていた者がいるらしい。
しかし、軍用トラック一台ならば、どうにか相手が出来そうだ。
千春はロビーに向けたソウドオフショットガンの銃爪を二回引き、そしてそれを捨てる。
放たれた散弾が誰に当たったかは知らないが、牽制程度の効果が得られればそれでいい。
そして、千春は背中に手を回した。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「……それじゃあ、本命いってみましょうか!
パーティーの始まりは、やっぱりクラッカーでしょう!」
そこから如何にして取り出したのか。
いやむしろ、どうやってしまっていたのか。
千春がその両手を体の正面に持って来た時には、その手に巨大な銃が握られていた。
対物ライフル、バレットM82A1。
しかも、千春仕様の改造が施されている特別製だ。
人体に当たれば吹き飛び、壁に当たれば貫通する。
強力無比なこの銃器の前に、逃げる手段は無い。
(;゚U゚)「ヤバいっ!
対物ライフルだぼあぁ!?」
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 22:36:10.58 ID:sbQeHOR10
- 味方にその銃器の存在を告げようと叫んだ男が、柱ごと頭を吹き飛ばされる。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「ほら、ほらほら!
銃声が聞こえないですよ!
そんな小さな音じゃ、パーティーは盛り上がりません!」
千春のその声も、男達には届かない。
彼女の手にしたバレットライフルから響く銃声が、まるで獣の咆哮のようにそれを掻き消すのだ。
悲鳴が幾重にも重なり、たちまち地獄絵図と化す。
(;゚i゚)「姿勢を低くぼるぁ?!」
姿勢を低くすることなど、千春にはお見通しだ。
銃口を僅かに下にずらすだけで、相手の逃げ道を完全に奪う。
こうなってしまえば、突撃以外に最良の手段は無い。
バレットライフルは威力こそ並外れて高いが、その連射力は非常に遅い。
その隙を狙っていけば、いくら千春と雖もタダでは済まない。
この場で釘付けにされてただ殺されるのを待つよりは、いくらかマシな選択だ。
残った戦力を一気に注げば、突破口はある。
状況を打開しようと、一人の男が涎を垂らしながら千春目掛けて駆け出した。
その手にはコンバットナイフが握られている。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「っ! おおっと!」
(゚q 。川「ど、ど、どどどどどどぶるぁっ?!」
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 22:40:15.35 ID:sbQeHOR10
- その時、男達は自らの浅はかさを呪った。
千春の持っているバレットライフルは、装弾数が二倍になっているだけではない。
フルオートでの射撃が出来ると言う事を、男達は想像すらしなかった。
己の無知に気付いた時には、男達は続々と肉片と血飛沫に変わり果てている。
あまりにも悲惨な光景に、周囲の男達はたじろぐ。
千春は空になった弾倉を排出、新たな弾倉入れ、コッキングレバーを大きく引いた。
そして、連射。
一先ず、"動く物"が視界から無くなるまで斉射。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「……さあって、新しく来たのはどんな奴でしょうかねぇ?」
すっかり大人しくなったその場に馳せ参じていないのは、軍用トラックの中身だけだ。
残された者達は、すっかりこちらの銃の威力に怯えきっている。
まだ、戦況は拮抗している。
まだ、勝負は決しない。
自分達の目的は、あくまでも時間稼ぎ。
相手の殲滅はその次だ。
ひとまずは、この均衡状態を保つのが先決である。
それに、連中を殲滅するのはまた別に手間が掛ってしまう。
やはり懸念があるとすれば、ビルの外に停まった軍用トラック。
こんな大騒ぎになっていると言うのに、沈黙を守っている。
エンジンも掛けっ放しで、何をしているのだろうか。
まさか、ブルって降りられないと言う事は無いだろう。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 22:44:12.33 ID:sbQeHOR10
- あれから、未だ一人も降りてきていない。
仮にあれが自爆用のカミカゼトラックだとしても、このビルを倒すには至らない。
このフロアだけを綺麗に吹き飛ばしたいのなら、扉をブチ破って侵入してきているはずだ
それをしていないと言う事は、あのトラックには"何か"が残っていると言う事だ。
少なくとも、強力な兵器ではないだろう。
そんなのがあれば、まず迷わずに大通りの騒動鎮圧に向けて使っている筈だ。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「ちぇっ、フォレスト捨てなければよかったなぁ。
お、何か出て来た…………ぞ?」
千春の視線の先で、軍用トラックの荷台が爆ぜた。
動体視力には自信があるのだが、何がどうして爆ぜたのかが分からない。
爆発ではないと思うが、何かが勢いよく飛び出したのだけは見えた。
そして、"それ"はビルの扉を吹き飛ばし、内部に踊り込んだ。
ガラス片を纏い、同時に着地。
鈍い着地音。
「システム起動確認。
各システム、起動チェック確認開始」
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「……うっそーん」
流石の千春も、現れた"それ"の姿には目を疑わざるを得なかった。
奇怪な物や現象には、ある程度の耐性があると思っていた。
だが、これは一体何だ。
馬鹿げているとしか言えない。
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 22:48:10.94 ID:sbQeHOR10
- まるで、小説や映画、漫画やドラマの一場面から飛び出したかのような、その姿。
巨大で。
雄々しくて。
そして、格好いい。
ィ∩ハリ∩,
从;´ヮ`从ト「おいおいおい、冗談でしょう?
まさか、動くとか?
いやいやいや、およしになってくださいよ」
千春は、せめて冗談の類である事を切望した。
目の前にいるこれが、動くなんてとても想像できない。
それを裏付けるように、あれが目の前に現れてから、微動だにしていないのだ。
きっと、相手が千春を脅かす為に飛ばしてきたガラクタか玩具だろう。
が、そんな千春の期待を裏切るように声が響いた。
「フェイズB -1、確認。
フェイズB -2、確認。
フェイズB- 3、確認
各システム、確認完了」
ィ∩ハリ∩,
从;´ヮ`从ト「……うっへー、動いちゃいましたか」
次々と、"それ"の"四肢"に青い光が灯る。
青白い光に照らされるのは、漆黒の金属。
初めは脚から、次に腕、そして、顔の輪郭を照らす。
青と黒のコントラストが照らした"それ"は、巨大な金属の鎧だった。
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 22:52:10.82 ID:sbQeHOR10
- ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「BBBシステム、オールグリーン。
ゼアフォーシステム起動。 戦術データリンク、接続。
フォローデータリンク。
戦闘―――」
身の丈は約二メートル。
全身を包む、漆黒の鎧。
金属の輝きを放つその鎧は、人の姿を模している。
鋭利なフォルムが、頭の先から爪先まで続く。
犬のように尖った鼻先。
その下に覗く、銀色に輝く鋭い牙。
角のようにも耳のようにも見える突起が、その後頭部に窺える。
ゴツイ肩には、何やら砲門らしき物が付いていた。
上半身下半身を繋ぐ腹部は、他の部分とは違い思いのほか細い。
そして、腰には四本の管が付いている。
おそらく、バランスを取る為の尾だろう。
肉食獣のように太く強靭な脚部と、鋭い三本の爪が巨体を支えている。
一言でそれを言い表すなら、"鎧を纏った二足歩行の番犬"。
機械の駆動音が、犬の唸りに聞こえる。
赤い瞳が、静かに千春を見据えている。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「―――開始!」
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「っ!」
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 23:10:48.29 ID:sbQeHOR10
- 千春は咄嗟に、手にした対物ライフルの銃爪を引いていた。
ほぼ一瞬の内に照準を合わせた芸当は、流石としか言えない。
遠慮なしに、対物ライフルの斉射を浴びせかける。
この直撃を受け切れば、残骸すら残さない。
―――だが。
それは、人間の話だ。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「遅イ!」
ィ∩ハリ∩,
从;´ヮ`从ト「いぃっ?!」
銃弾を全て避け切った犬の化物は、赤い光の尾を引いて大きく跳躍している。
千春はバックステップでそれに対応するも、向こうの落下速度の方が早かった。
化物が、その両足を思い切り突き出す。
それまで千春の頭があった場所を、その足が踏み潰した。
後一瞬でも遅れていたらと思うと、千春は冷や汗を押さえられない。
その化物が踏み潰した地面の陥没跡は、最深部で30センチはあるだろうか。
そんな事を考える余裕も無く、千春は只管に後退する。
このバレットライフルでは、リーチが大きすぎるからだ。
後退する間も、弾倉を交換するのを決して忘れない。
今の一撃だけで、相手の戦闘力を理解するには十分過ぎた。
ィ∩ハリ∩,
从;´ヮ`从ト「もう少し、常識ってものをですね……」
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 23:14:15.41 ID:sbQeHOR10
- 弾倉の交換を終え、千春は連続して、だが一発ずつ正確に狙い撃つ。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「無駄ダ、犬里千春!」
今度は、避けようともしない。
ただ片手を前に広げて出すだけ。
それだけで、十分だったのだ。
数十の弾丸を止めるには、それだけで。
金属同士がぶつかる残響音。
男の手に、放たれた必殺の弾丸の全てがへばりついていた。
マッシュルームのように弾頭がへしゃげ、止められている。
ィ∩ハリ∩,
从;´ヮ`从ト「……ありえねぇっす」
これ以上強力な弾丸は、持ち合わせがない。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「消シ飛ベ!」
そう言って化物は、その太い左腕を前に構える。
すると、左腕を覆っていた籠手が四方に開いた。
何かが出て来たかと思うと、それは銃口を形作る。
口径の大きさは、千春の銃よりも大きい。
ィ∩ハリ∩,
从;´ヮ`从ト「でえぇぇっ!?」
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 23:18:17.47 ID:sbQeHOR10
- オーバーテクノロジーとか、SFの世界の産物と言った類の物が、今目の前にいる。
そしてそれが、千春に敵意剥き出しで襲って来ていると言う現実。
千春は相手の銃口が青い火を噴くのと同時に、手にした銃のバレルを使って高く飛ぶ。
一発目は避けられた。
続いて、二発目が宙の千春を狙う。
が、千春はそれを予期していた。
腕の力で銃を手繰り寄せるようにして、体を急降下させる。
二発目も、避けられた。
だが、それら全ての動きを事前に読んで放たれた三発目。
千春は体を捻ることで、その直撃を避けた。
しかし、完全には避けられない。
左肩のすぐ脇を掠め飛んだ銃弾が、千春の脳にまで影響を及ぼした。
近くを通っただけで、軽い脳震盪。
ィ∩ハリ∩,
从;´ヮ`从ト「くわぁっ……」
世界が揺らぐ。
どうにか倒れるのだけは免れた千春は、そのまま側転。
予想していた四発目は無く、化物は千春を見ているだけだった。
ィ∩ハリ∩,
从;´ヮ`从ト「意外と、紳士的な所があるみたいですねぇ」
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 23:22:01.47 ID:sbQeHOR10
- 言い方を変えれば、それは千春を嬲り殺しにしようとしている獣の行動だ。
余裕があると言う事。
つまり、自分が優勢にある事を理解しているということだ。
しかもそれだけではない。
あの化物の登場で、周囲に戦意が戻ってきている。
残念なことに、今の千春に、それら雑魚の相手をする余裕はなかった。
( ^g^)b「ひ、ひひっ……
ようやく到着したか。
試験運用段階らしいが、結構やるじゃねぇか」
今の今まで怯えていたくせに、良く言う。
千春は体に隠した武器の種類を確認しつつ、内心で悪態を吐いた。
―――三下が。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「試験運用段階?
こんなサイボーグ的な兵器を、シコシコ作っていたのですか?」
余裕を見せる事を忘れてはいけない。
余裕を失ったと思われては、三下共がツケ上がる。
千春は焦りを笑顔の下に隠し、周囲の状況を把握する。
目の前の化物の後ろの隠れるようにして、三下共は陣取っていた。
( ^g^)b「へっへへ。
そうさ、どこかの研究設備から設計図を手に入れて作ったらしいぜ。
軍とFOX社の技術で作った生物兵器だ。
手前には、一生勝てねぇ!」
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 23:26:02.94 ID:sbQeHOR10
- ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「……みたいですね。
でも、貴方達を殺すことぐらいは、死ぬついでに出来ますよ?」
そう吐き捨て、千春は手にしたバレットライフルを投げ捨てた。
代わりに、両手をだらりと力なく下ろす。
( ^g^)b「へっ、諦めたか」
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「諦める?
その言葉は、負け犬の辞書にだけ載っている言葉ですよ。
貴方達の辞書の一番先頭に載っているから、よく知っているでしょう?」
言い終え、千春は屈んだ。
同時に、その両手には、先端に円筒状の物体が付いた物が握られている。
―――パンツァーファウスト。
銃弾で相手にするのでは、間に合わない。
となれば、雑魚はこうやってまとめて吹き飛ばすのが一番効率のいい方法だ。
弾頭は、対人用の強力なナパームに付け替えてある。
焼け死ぬがいい。
(;^g^)b「しまっ……!」
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「……回避」
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 23:30:15.53 ID:sbQeHOR10
- 放たれた二発の弾頭が、三下達の頭上で爆発した。
炎を撒き散らし、辺りを炎が照らす。
劫火に焼かれ、もがき苦しむ男達の悲鳴。
唯一、犬の化物だけがその被害を一切受けずにいた。
千春は撃ち終えた発射機を捨て、新たな武器を取り出す。
次は、小型のグレネードランチャー。
本来はアサルトライフルの銃身下に取り付けるタイプのそれを、千春は腰から取り出した。
立て続けに、それを発射。
雑魚共が、悲鳴と共に吹き飛ぶ。
実に気分がいい。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「味方ノ損害状況ヲ確認。
……問題無シ。
作戦行動ニ支障無シ。
……作戦ヲ継続。
データリンク、接続。
アップデート、開始。
アップデートデータインストール、完了。
人格形成プログラム、更新確認」
犬の化物が、何かを呟いている。
その間、化物の鎧を青い光が走っていた。
何をしているのかは知らないが、ありがたい。
千春には時間がないのだ。
- 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 23:35:30.86 ID:sbQeHOR10
- だからこそ、千春は理解していた。
自らの役割を。
そして、その命の使い方を。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「さて、どうしましょうか……」
そう、ポツリと呟く。
自分の命は、今は主のロマネスクの為に懸けるのではない。
今、千春達が命を懸けている男はどうしているだろうか。
無事に作戦を遂行してくれる事を信じるしかない。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「お前の歩む道は、死、だけだ」
途端に人間らしい声色になった犬の化物。
千春は、無駄だと知りつつも新たな銃を一挺取り出す。
頼りなさげだが、無いよりかはましだと判断したのだ。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「そりゃそうですよ。
人間、生まれた以上、いつかは死ぬんです。
ただ、遅いか早いかの違いですね。
その点、貴方は羨ましいですね。
何せこれから、二つの道を選べるのですから。
スクラップ工場か、製鉄所か。
遠慮はいりません、好きな方に送ってあげますよ」
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 23:39:26.93 ID:sbQeHOR10
- その言葉に、化物は笑った。
確かに、笑った。
不器用だが、確実に笑った。
声も無く、笑った。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「私が壊れると言いたいのか?
残念だが、私は人間だ。
人間には、死ぬと言う表現が適切だ。
私も、お前と同じだ」
あろう事か、目の前の化物は自らを人間だと言い張った。
あまつさえ、千春と同じだと言った。
よほど高性能な人工知能でも搭載しているのだろうか。
だとしたら、かなり哀れな人工知能だ。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「……へ〜ぇ。
そうですか。
じゃあ、言い換えましょう」
千春は仕返しとばかりに、目で笑い返す。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「……出来損ないの人形風情が図に乗るなよ?」
銃の冷たさを思い起こさせる声で、"鉄狸"は静かに告げた。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「私を、愚弄するのか?」
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 23:44:02.79 ID:sbQeHOR10
- ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「"人の夢を見る醜い化物の人形"さん、もう一度言います。
そんな戯言は御伽噺の中だけで十分だって言ったんですよ」
眼の前の獣が低く唸る。
もう、犬の化物ではない。
千春の眼の前に居るのは、正真正銘の獣だ。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「貴様……!
覚えておけ、犬里千春!
私の名は、ディレイク-D1!
私は人間だ!」
千春は獣を怒らせた。
逆に、獣は千春を追い詰めた。
"美女の野獣"と、"夢見の野獣"は睨み合う。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「あぁそうですか、じゃあディレイクさんとお呼びすればいいですね。
貴方が抱いた夢の脆さ、教えてあげましょう」
千春は手にした突撃銃。
100連装ドラムマガジンを付けたG36を、構え直す。
これが、千春の持つ最後の銃器。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「お前を倒し、私が人間である事を認めさせてやる!」
- 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/24(日) 23:48:47.15 ID:sbQeHOR10
- ディレイクは、腰を落とす。
先ほどの化物銃は使わないらしい。
代わりに、ディレイクの咆哮が空気を振動させる。
鼓動を刻み、肉を持つ生物の咆哮が開かれた牙の奥から鳴り響く。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「ぐお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!」
言葉にならない咆哮が、周囲のガラスを振動させた。
ディレイクの仲間の一部は、耳を押させて悶絶した。
だが、千春は動じない。
この程度で、動じる程弱い女ではない。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「それじゃあ、いよいよ無理ですね。
私は負けませんよ、貴方には!」
千春は銃口をディレイクに向ける。
弾が当たった所で、目暗まし程度にしかならないだろう。
それでも、少しでも。
ほんの少しだけでも、時間を稼げればそれでいい。
ただ、ドクオの為だけに。
ドクオがフォックスを殺すまでの時間を稼ぐだけでいい。
ドクオに危険が及ばない為の時間を稼ぐ。
その為に皆が、命を懸けていた。
例え死が近づこうとも。
これは、彼等の仕事なのだ。
命を賭して遂行させる仕事。
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 00:14:04.03 ID:Vef9SXae0
- ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト(見たいものですね、ドクオさん。
貴方の中にある、その"何か"を)
出来る事なら、生きている内にそれを見届けたい。
自分達が信じたドクオの中の、"何か"の正体を。
その為にも、生き抜く。
諦めなど無い。
諦めは、とうの昔に捨て去った。
全力で。
只管に全力で。
最良の行動を全力で。
ドクオもやっているのだ。
自分達と同じぐらい危険な事を。
そして、その責任を一身に背負っているのは、あの頼りなさ気なドクオ。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト(どんと・びー・あふれいど、ですよ)
叫ばない代わりに、千春の銃が咆哮を上げる。
機械の咆哮。
命を持たない、冷たく硬い銃の咆哮。
―――両者の咆哮が、重なる。
- 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 00:18:40.95 ID:Vef9SXae0
- ――――――――――――――――――――
狼牙は、確かに全力で踏み込んだ。
手加減など、一切していない。
それなのに―――
lw´‐ _‐ノv「それが、精一杯?」
―――何食わぬ顔で、止められた。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「……随分と硬ぇな」
前脚二本で止められたトンファーは、ビクともしない。
車でさえ殴り壊す程の威力で殴りかかったのに、ビクともしないのは如何なるわけか。
おまけに、ぶつかった時に抱いたあの違和感は何だ。
まるで、柔らかい何かに殴りかかったような感覚は、錯覚だったのか。
lw´‐ _‐ノv「でも、結構やるね」
狼牙が殴りかかったことで、目の前の蜘蛛は、並ぶ机の上を一メートル程後退していた。
だが、後退したのならば少しは手応えがあってもいいはずだ。
それが証拠に、蜘蛛の脚が着いていた机の上は酷く削れている。
lw´‐ _‐ノv「じゃあ、さよなら」
狼牙は、思い切り地面を蹴り飛ばしてその場を飛び退いた。
直後。
それまでいた場所に、次々と鉄の脚が突き刺さる。
- 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 00:22:03.01 ID:Vef9SXae0
- ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「殴って駄目なら……」
トンファーを構え直す。
lw´‐ _‐ノv「そんな棒きれで、何が出来るって言うの?」
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「ブッ叩く!」
今、相手の脚は全て地面に突き刺さっている。
それが元の位置に戻るまでの間は、狼牙に攻撃を加えることはできないはずだ。
瞬時に踏み込み、そしてトンファーを振り上げる。
渾身の力を込め、それをシューの頭上に振り下ろした。
lw´‐ _‐ノv「あらら」
しかし、シューは焦らない。
何かが狼牙の体を包むと同時に、狼牙の体を吹き飛ばした。
―――"両手"が動かない。
受け身も出来ずに、狼牙は地面に叩きつけられる。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「ぬぐっ!?」
だが、流石と言うべきか。
一度地面に叩きつけられた後、狼牙は素早く立ち上がっている。
幸いなことに、背中から叩きつけられた為、戦闘に支障はない。
それよりも別の事が問題だった。
- 87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 00:26:48.76 ID:Vef9SXae0
- 狼牙の上半身に巻き付いた、白い物質。
これが、先ほど狼牙の両腕を封じ、吹き飛ばした物の正体だ。
一見して糸のようにも見えるが、これは液体が硬化した物である。
接着剤か何かの類だろうか。
lw´‐ _‐ノv「いいねぇ。
犬はそうでなくっちゃ」
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「へっ、こんなもん……!」
力を両腕に込め、それを破壊しようとする。
しかし、壊れない。
lw´‐ _‐ノv「無駄だよ。
ナイフを使っても、それは壊せない。
人間程度の力じゃ、どうにも出来ないんだよ」
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「この野郎っ!」
構わず、狼牙は駆け出した。
シューは溜息を吐き、体勢を立て直した蜘蛛の両脚で迎撃態勢に入る。
振り下ろされた鉄の脚を、紙一重で避けた。
机を破壊したその一撃を受ければ、体のどこかもああやって壊れるだろう。
巨大な兵器にも、死角はある。
未だに机の上に陣取っている蜘蛛の腹下に潜り込み、狼牙はバク転からの蹴り上げを見舞った。
だがしかし。
やはり固い。
- 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 00:31:58.27 ID:Vef9SXae0
- ただ一つ分かったのは、やはり衝撃の際に覚えた違和感は間違いない。
この金属は最初だけ、柔らかい。
腹の下をくぐり抜けた狼牙は、考えた。
それを嘲るように、シューは鼻で笑う。
lw´‐ _‐ノv「考え事は終わった?」
ようやく机の上から降りたシューは、狼牙と対峙する。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「他人の心配してる場合かよ?」
まだ、狼牙には武器がある。
そう。
"キャスタポール"がある。
これがある限り、バランスは決して崩さない。
lw´‐ _‐ノv「うん。
私にはその余裕があるから」
狼牙は歯噛みした。
いくらバランスが崩れないとは言っても、あの装甲にダメージが入るわけではない。
生身の人間を狙っても、それは接着剤で邪魔される。
このまま足にあれを食らえば、狼牙の負けは確定してしまう。
もう、下手に勝負を仕掛けられない。
lw´‐ _‐ノv「だから、その体に教えてあげる。
この"サーボ・タヴォーク"が、どれだけ強いかを」
- 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 00:36:23.35 ID:Vef9SXae0
- シューは蜘蛛の尻に手を伸ばし、そこから何か棒状の物を取り出した。
それをそっと構えた時に、狼牙はそれの正体が分かった。
斧槍だ。
lw´‐ _‐ノv「大丈夫。
まずは足から斬るから」
そして、それがただの斧槍でないことも分かった。
テレキャスターがなければ気付かなかっただろう。
微弱な振動音が、その斧槍から聞こえる。
超振動発生装置。
あれなら、金属でさえもプリンのように斬ることが出来る。
人間の体なら感触も無く解体できる代物だ。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「良いのかよ?
不用意にこっちの間合いに入って来て?」
lw´‐ _‐ノv「間合い? まあいいか」
狼牙は出来る限り、間合いを広げることにした。
万が一斧槍を避けたとしても、あの脚がある。
じり、と足を後ろに動かす。
lw´‐ _‐ノv「そら……よっ!」
- 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 00:42:09.92 ID:Vef9SXae0
- 見かけによらず、俊敏な動きで狼牙に肉薄する蜘蛛。
事前に用意していた狼牙は、同時に後ろに飛ぶ。
足元を切り裂く斧槍。
どうにか初撃は避け切れた。
続く八連続の攻撃。
同時に飛んでくるのは、六本の脚だ。
屈み、避け、退く。
その合間に振り下ろされる斧槍。
危うく脳天を切り裂かれそうになる。
目の前スレスレの空間を切り落とし、斧槍が床に埋まる。
そこまでが、狼牙の限界だった。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「っくそ!」
横から迫る脚は、避けようが無い。
左腕を砕き、その脚は狼牙を壁にまで殴り飛ばした。
子どもが投げた人形の様に、狼牙は壁に叩きつけられる。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「ぐっあがぁつ!?」
腹から絞り出したような声が、口から漏れる。
痛みを堪え、立ち上がろうとした狼牙の耳に、絶望的な音が届いた。
すぐ脇に、蜘蛛が着地したのだ。
lw´‐ _‐ノv「ようやく犬らしくなったな」
- 94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 00:46:03.39 ID:Vef9SXae0
- ボールを蹴るようにして、狼牙を金属の脚が蹴る。
壁際にいたのが仇となり、狼牙の体は壁に叩きつけられる。
そしてまた蜘蛛の足元に落下し、また蹴られる。
内臓を損傷し、口の中に血が溢れる。
たまらず、吐血。
「ご、ほぉ……っ!」
シューはその様子を、実に楽しげに観察していた。
何度も何度も。
何度も何度も何度も。
狼牙の肋骨が折れ、足が折れ。
自らが吐き出した血溜まり。
そこに、狼牙は荒い呼吸で転がっている。
狼牙が悲鳴を上げなくなってから、シューはようやく蹴るのを止めた。
代わりに、足を巧みに使い、狼牙を仰向けにさせる。
「……っ」
目に見えて衰弱している狼牙。
その狼牙に、シューは宣言した。
「そういえば、言ったよな?
腹を踏むって」
- 95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 00:50:03.78 ID:Vef9SXae0
- 直後。
狼牙の体が仰け反った。
その腹部に突き立てられた金属の脚が、全てを語る。
腹部に突き立つ脚を、シューは引き抜く。
同じ箇所に、もう一度。
少しずらして、もう一度。
徐々にずらして、もう一度。
離れた場所に、もう一度。
ミシンが布に穴を開ける様に、蜘蛛の足は狼牙の腹に穴を開ける。
鮮血、吐血。
吐血、嘔吐。
嘔吐、鮮血。
「ふっ……ぎぃっ!?」
目を大きく見開く。
口を大きく開ける。
苦痛が、激痛が、全身を支配する。
「おいおい、まだ壊れるなよ?」
血塗れの脚を狼牙から抜き、シューは囁く。
「これからが、楽しいんだから」
- 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 00:54:03.49 ID:Vef9SXae0
- 激痛が狼牙に気絶を許さない。
狼牙の右腕の感覚が、激痛と共に消えた。
ぼやけた目で右腕を見る。
右腕の付け根に、金属の脚が突き立っていた。
突き刺したまま狼牙を持ち上げ、放り投げる。
落下。
「……」
「なんだよ。
威勢が良いから、結構楽しめると思ったのに」
そう言って、シューは斧槍を狼牙に向かって振り下ろした。
狼牙は転がってそれを避けるも、肩の一部が切り裂かれる。
「まだ死にたくないんだ?
……ふーん」
「へっへへっへ……
こう見えて、我慢強いんだよ……」
狼牙は、この状況でも笑った。
誰がどう見ても絶望的な状況なのに。
どうして、笑えるのだ。
「それに、死ぬには……まだ少し早いんでね……」
- 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 01:16:34.59 ID:Vef9SXae0
- 狼牙は"キャスタポール"の力を借りて、"折れた脚"でふらりと起き上がる。
ゆっくりと、だかしっかりと。
血塗れの体を起こし、ハッキリとシューを睨みつけた。
本当にこいつは、どうなっていると言うのだ。
lw´‐ _‐ノv「ほほう、聞かせてもらおうか」
焦りを隠し、シューは冷静を装う。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「まだ、見届けてねぇんだよ……」
手負いの獣ほど、恐ろしいものはいない。
そんな言葉が、シューの頭に浮かんだ。
だが、だから何だと言うのだ。
獣は所詮獣。
人間の英知の集合体に、敵う道理はない。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「あいつの本質を見るまでは……
死ぬに死ねぇんだよ……」
シューは、もう我慢ならなかった。
何時までもこんな野良犬に構っているほど、暇ではない。
すぐに終わらせる。
そんなに死にたければ、死ねばいい。
引導を渡してやる。
- 103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 01:22:47.62 ID:Vef9SXae0
- lw´‐ _‐ノv「首を刎ねても生きてたら、その言葉を信じてやるよ」
無慈悲な一閃。
これで、終わりだ。
無防備な首目掛けて繰り出された一閃は、防ぎ切れはしない。
あらゆる物を切り裂くこの斧槍は、確実にその顔を両断する。
さあ、諦めろ。
生を諦めろ。
シューは振った斧槍に、そう何度も言葉を込めた。
―――狼牙から飛んだ鮮血が、シューの頬に付着した。
- 104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 01:26:48.81 ID:Vef9SXae0
- ――――――――――――――――――――
ロマネスク一家のNo2にだけ伝えられる技、"クレイドル"。
それと合わせて光学不可視化迷彩を使えば、常人には決して防げない攻撃が完成する。
無防備な貞子の正面に出現した銀は、"厳狐"を振るった。
勝負は、一閃で終わるかと思われた。
だが。
川д川「……だから言ったでしょう?」
甲高い金属音と共に、厳狐の刃は弾かれた。
鞘に戻っている厳狐の切れ味は、他に類を見ない程に鋭い。
なのに、どうして斬れない。
金属程度なら、安々と斬れる筈なのに。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「奇怪な鎧じゃのう」
傷一つ付いていない貞子の鎧。
銀は貞子から数メートルの距離まで、一躍で後退した。
川д川「……教えてあげる。
私が、私の会社が作り出した世界最高の金属を」
貞子は、それから語りだす。
川д川「世界で唯一、柔のある金属。
それが、この鎧の素材よ」
- 105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 01:31:10.77 ID:Vef9SXae0
- ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「"柔"?」
そんな金属、聞いたことが無い。
金属とは硬いものであり、何より。
"硬"はあっても、"柔"はないだろう。
厳狐で斬れないとなれば、硬い以外に有り得ない。
無知を嘲るように、貞子はクスクスと笑う。
川д川「必要な時に、必要な硬さを。
この金属は、加えられた力の分だけ際限なくその硬度を増す」
これが、貞子の鉄鋼会社が社命を賭けて制作したと言う金属の正体。
つまり、攻撃が強ければ強いほど、その金属は硬くなる。
片栗粉の鋼鉄版とでも言えばいいだろうか。
それが本当なら、道理でこの厳狐が弾かれたワケだ。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「それは厄介な素材じゃな」
川д川「だから、仇になるって言ったのよ」
貞子はそう言うと、ニヤリと笑む。
川∀゚川「なら分かったでしょう?
貴女達では、勝てない事が」
- 106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 01:35:02.61 ID:Vef9SXae0
- 貞子は、ゆっくりと歩き出す。
銀はそれでも退かない。
貞子の構えは、隙だらけだ。
銀がその気になれば、一撃で勝負を付けられるというのに。
だが、あの鎧がそれを許さない。
強ければ強いほど、あの鎧の硬度が増すのだとすれば、厳狐での攻撃は効果がない。
ならば、防ぐだけだ。
少なくともあの色白女の腕力で振るう巨大な腕が、銀をどうにか出来るとは思えなかった。
ノト∧ハ∧,
イ从;゚ ー゚ノi、「……むぅっ!?」
が、隙だらけの一撃は、銀の予想よりもずっと高い威力を秘めていた。
鞘で受け止めた体ごと、レストランの客席に殴り飛ばされる。
空中で体を捻り、勢いを殺す。
キャスタポールの力を借り、テーブルの上に綺麗に着地した。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「なるほど、そうか。
殴る場合も、あの金属が硬化するのか。
それに、その力は……」
要は、あの金属が何かしらの物体に触れた場合。
その威力に比例して硬化する。
つまり、殴ればその殴った威力分拳が硬化すると言うことだ。
そのシステムは、まるで剛体術。
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 01:39:02.44 ID:Vef9SXae0
- それだけではない。
今拳を振るったのは、貞子だけの力ではない。
何か、彼女の戦闘を補助する強化服のような力が作用している。
今の貞子は、見かけどおりの実力を持っていると言うことだ。
川д川「ふふふ……
逃げるだけではつまらないでしょう?
いいのよ、別に遠慮しなくても……」
銀はテーブルから飛び降り、鞘でそのテーブルを貞子目掛けて打ち飛ばした。
貞子は、飛んで来たテーブルを拳で払い除ける。
その動作だけで、テーブルは粉々に砕け散った。
テーブルの残骸が、貞子の視界を覆う。
銀はその隙に、光学不可視化迷彩を起動した。
周囲の風景を、特殊な布が映し出す。
その姿が風景と同化し、あらゆる者の目を欺く。
川д川「……逃げるんだ。
へえぇ、逃げるんだぁ……」
貞子はゆっくりとその後を追う様にして、客席に歩む。
そして、貞子の姿も陽炎に包まれ、消えた。
あれほどの巨躯が、如何にして消えたのか。
その原理は、銀と同じ。
光学不可視化迷彩を起動し、巨躯を暗闇へと溶け込ませたのだ。
他の物の眼から見たら、その空間には誰もいない。
ただ、不気味な跫音だけが響いているだけである。
もちろん、その跫音は銀の物ではない。
- 109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 01:43:43.59 ID:Vef9SXae0
- この時既に、銀はこの店から出ていた。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ふぅむ。
厄介な相手じゃのう」
別の西洋料理店の店へと逃げ込んだ銀は、テレキャスターから聞こえてくる貞子の跫音に耳を向けていた。
互いに姿を消して逃げ回っていては、埒が明かない。
と言っても、厳狐でのダメージが期待できないと分かった以上、何かしらの策を考える必要があった。
こうしていれば殺られはしないが、殺れるわけでもない。
「みぃつけたぁ」
声が、聞こえた。
油断していた。
この距離まで接近を許してしまった。
それを悔やむより先に、銀はその場から大きく飛び退いている。
ノト∧ハ∧,
イ从;゚ ー゚ノi、「ぬ!」
壁を吹き飛ばし、"見えない"貞子が、店内に侵入した。
銀はすぐさま戦闘態勢を取る。
姿を消している自分を、どのように見つけたのかと考える。
肉眼では見る事が出来ない自分を、どうやって。
陽炎と共に姿を現した貞子が、笑う。
川∀川「鬼ごっこはもう終わり?」
- 110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 01:47:03.21 ID:Vef9SXae0
- ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「根暗な女と追いかけっこをする趣味は無いのでな。
お主はどちらかと言うと、虫眼鏡で蟻を焼いていた方が好きなのではないか?」
言い捨て、銀は厳狐を抜刀する。
川д川「こう見えて、"今"は運動が大の得意なのよ……
へぇ……
実物を見るのは初めてね。
何で出来てるのかしら、それ」
銀の抜き放った刀、厳狐が貞子の顔を反射する。
厳狐の表面は、銀色。
そして、最大の特徴はその長さだ。
大太刀、もしくは斬馬刀と呼ばれる部類の刀身がある。
あまりにも長すぎる刀身の代償として、その一振りは大振りとなってしまう。
だが、大振りの分威力は抜群だ。
一撃に込められる破壊力、そしてリーチの長さ。
ハイリスク・ハイリターンを実現したこの刀を生かすも殺すも、それは使い手次第だ。
銀は通常、それを居合いの要領で抜刀しているのだが、今回はそれをしない。
居合の利点である最速の一撃によって、大振りのリスクを相殺するのが常だった。
今回は、それが全く意味を成さない。
それだけでなく、仇となるからだ。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「さぁ? 儂にも分からん」
川д川「ただの鉄じゃないわねぇ」
- 112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 01:51:07.80 ID:Vef9SXae0
- 銀は刀を振り被るようにして構え、備える。
全力で迎え撃たなければ、勝機は開けない。
川д川「貴女を捕らえたら、刀と一緒にじっくり調べてあげるわ」
貞子が構える。
あの隙だらけの構え。
今、貞子の拳が突き出された。
銀も刀を振り下ろし、それを迎撃する。
だが、やはり弾かれた。
川д川「ほら」
二撃目。
貞子はもう片方の拳を振り下ろす。
銀はそれを受け流し、鎧にある腕の関節部に刀を突き出した。
しかし、後僅かの所でそれは鎧に弾かれる。
貞子の蹴りが、銀の横合いから迫る。
屈んでそれを避け、銀は空いた貞子の片足を思い切り蹴った。
バランスを崩して転倒し、小さく悲鳴を上げる貞子。
銀は厳狐を片手に持ち替え、もう片手で後ろ腰に差した小刀を鞘走らせる。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「せぁっ!」
- 114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 01:55:14.77 ID:Vef9SXae0
- マウントポジションを取り、今度こそ小刀を右肩の関節部に刺した。
確かな感触。
だが、何か別の物も刺した感覚がある。
そこまで深い傷を負わせられなかった。
川;д川「ぎっゃぁああああああああ?!」
黒々とした液体と、貞子の鮮血が吹き出す。
上手い具合に動脈が切れたらしい。
川д川「貴様ぁあああああ!」
左の拳が、銀の右肩を捉えた。
吹き飛ぶ。
空中でバランスと取り直し、壁を足で蹴り飛ばし、着地。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「やはり、関節部の出来は甘いようじゃのう」
今の一撃で、銀の右肩は砕けた。
その激痛に眉一つ動かさず、銀は平静を装っている。
川д川「痛ぃ…… 痛いよぅ……」
右肩を押さえながら、貞子は立ち上がる。
小刀では、貞子の右肩を破壊するには至らなかったようだ。
次は厳狐で首を刺したいところだが、次があるかどうか。
いや、それ以前にまず―――
川д川「ああああああああああああ!!」
- 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 02:19:25.60 ID:Vef9SXae0
- 凄まじい叫び声を上げながら、貞子が突進してきた。
銀は左手に持った厳狐を、片手で振るう。
呆気なくそれは弾かれ、勢いのついた貞子の鎧が、銀の体に直撃した。
吹き飛ばされ、悲鳴を上げる事も出来なかった。
壁を破壊。
店の外の廊下を越え、向かい側の店の壁を破壊。
窓際まで転がって、ようやく止まった。
ノト∧ハ∧,
イ从;゚ ー゚ノi、「……っう」
肋骨を何本か負傷したらしい。
厳狐を杖代わりに、激痛を堪えてどうにか立ち上がる。
キャスターポールが、それを手伝う。
立ち上がったばかりの銀に、貞子が迫る。
「あっああああああ!」
顔を掴んで持ち上げられ、そのまま壁に押し付けられる。
「あんたが、あんたがあああっ!」
何度も壁に後頭部を叩きつける。
壁が砕け、抉れる。
銀はその状態でも、諦めなかった。
キャスターポールを応用して、衝撃をどうにか緩和している。
- 121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 02:23:13.34 ID:Vef9SXae0
- それでも、貞子は狂ったように攻撃の手を休めない。
銀の体を玩具のように振り回し、投げ飛ばす。
その度、銀はキャスタポールで耐え凌ぐ。
これが精一杯。
今、銀に出来ることの最大級であり、最後の抵抗がこれだ。
チャンスがこない限り、銀は攻撃を与えることが出来ない。
もっとも、貞子がその隙をくれるかどうかと言うことだが。
このままだと、それも有り得そうにない。
「あんたぁあああっ!
あたしの腕をよくもぉおおお!」
今まで刺されたことが無いらしく、貞子は軽いパニック症状を起こしていた。
その姿があまりにも滑稽で、銀は鼻で笑う。
「何笑ってるんだよぉぉぉおおお!!」
銀を宙に放る。
宙で足首を持つ。
そして、銀を思い切り地面に叩きつけた。
その状態からテーブルや椅子を蹴散らし、厨房に向かって渾身の力で投げつける。
ハンマー投げの要領で投げ飛ばされた銀は、冷蔵庫に激突。
その衝撃は、周りの棚から皿や瓶、マッチや包丁などの道具をも落とすほどだった。
「ふぅっ!ふぅっ!ふぅっ……!」
- 123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 02:27:02.73 ID:Vef9SXae0
- 鼻息荒く、貞子は倒れたままの銀を睨みつけた。
まだやり足りないが、これ以上やって壊れてもつまらない。
もっと、悲鳴を聞きたい。
あの女の股に、ご自慢の刀を突き刺してやりたい。
生意気な女の悲鳴ほど、心が潤うものはない。
貞子は興奮が覚めない内に、その考えを実行に移すことにした。
「さぁて……
悲鳴を、悲鳴を聞かせて頂戴!」
一歩一歩ゆっくりと歩み寄る。
視覚よりも聴覚の方が、人間に絶望を与えるのに適している。
目は瞑ればいいが、耳の場合はそうはいかない。
全ての音の情報から、あらゆる可能性を考えてしまう。
この音は一体、銀にどう届いているのだろう。
さながら、処刑人の跫音だろうか。
普段は我が物顔の銀も、こうしてみると実にあっけない。
貞子鉄鋼業の集大成であるこの金属の前には、どれほどの手練でも無力。
むしろ、手練だからこそ無力なのだ。
この金属の生産量は少なく、貞子の鎧を含めて三つの兵器だけに搭載されている。
この大騒動が終わった暁には、資金を投入して量産体制に入る準備が整っていた。
つまり、貞子鉄鋼業はこれから盛り返すのだ。
「クフフ……」
- 124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 02:31:10.84 ID:Vef9SXae0
- さぁ。
悲鳴を。
絶叫を。
断末魔の叫びを。
「まずは足から砕く……」
恐怖しろ。
絶望しろ。
「それから腕を千切る……」
無様に泣け。
無様にもがき苦しめ。
「その後に、貴女の刀をその汚い股に突っ込んであげる……」
後悔しろ。
命乞いをしろ。
存在しない神に祈れ。
「一緒に貴女の尻穴に腕を突っ込んで、ハラワタを掴み出してあげるわ……」
さぁ。
さぁ、さぁ。
いさ。
いさ、いさ。
―――命を、生きる事を諦めろ。
- 125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 02:35:08.33 ID:Vef9SXae0
- その時、澄んだ笑い声が貞子の耳に届いた。
その声は、他ならぬ銀の口から発されたものだ。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……無様じゃのう。
そうやって儂に諦めてもらうつもりか?
諦める事を強要する事ほど、無様な事は無い」
あれほど壊したのに、何故笑う。
あれほど痛めつけたのに、何故立ち上がる。
これほど絶望的なのに、どうして。
川д川「心まで壊したつもりはなかったけど、壊れちゃったの……?」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「儂の心はそう簡単に壊れはせんよ。
それに、お主では儂を壊すのは無理じゃ」
川д川「何故?
ここまで圧倒的なのに、何で今さら強がるの?」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ふふふ。
まだ壊れるわけにはいかないし、死ぬわけにもいかんのでな」
貞子は、ますます混乱する。
実は、銀の精神は既に壊れているのではないのだろうか。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「儂の認めた者の行く末を見届けるまでは、この命は終われん」
- 127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 02:39:22.85 ID:Vef9SXae0
- 川д川「そんなどうでもいい他人よりも、自分の身を心配したら?」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「その言葉、そっくりそのまま返そう。
逆転の要素は、どんな状況でも必ずある。
その歳で油断ばかりして根暗に生きているから、婚期を逃す上に性格が捻くれているのじゃ。
結婚相談所のポイントカードでも作ったらどうじゃ?」
川д川「……あぁ、そう。
じゃあ御望み通り今すぐ、精神も体も壊してあげるわよ!」
貞子が肉薄する。
和服を肌蹴させたまま、銀は動かなかった。
力なく垂れ下がった右腕が痛々しい。
その右腕は、肌蹴た和服が隠している為、腕から先が見えない。
むしろ、見えない方が結果的には良かった。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……っ」
【時刻――03:10】
―――逆転の鍵は、音速を超え
空を駆けてやって来た。
- 128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 02:44:10.45 ID:Vef9SXae0
- ――――――――――――――――――――
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「ああああああああ!!」
ディレイクの拳を、千春は紙一重で避ける。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「うっわぁぁぁおっ!」
今の一撃もそうだが、ディレイクの攻撃は全てが一撃必殺の威力を秘めていた。
千春は腰だめに構えたG36を、これでもかとフルオートで浴びせる。
100連装ドラムマガジンのおかげで、弾数には困らない。
だが、銃弾は空しくディレイクの装甲に阻まれ、ダメージにも至らなかった。
距離が徐々に狭まる度、千春の寿命も縮まる錯覚に陥る。
( 〓 )「ディレイク、援護するぜ!」
こんな時に、雑魚共が邪魔をしようと駆け寄ってきた。
しかし、その雑魚共が突如として吹き飛ぶ。
吹き飛ばしたのは、意外にも眼の前で千春を殺そうとしているディレイクだった。
左手から上がる硝煙が、ディレイクが何をしたのかを物語っている。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「邪魔をするな!
私と千春の勝負を邪魔すると言うのであれば、貴様等から叩き潰す!」
- 131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 02:48:23.22 ID:Vef9SXae0
- ,(・)(・),「ディレイク!
味方に何するナリだすか!
壊れたナリだすか?!」
ディレイクの後ろから援護をしようとしていた男が、明らかに狼狽している。
ディレイクは千春に対しての攻撃を中断し、その男に振り返った。
男の顔を掴み上げ、そして砕く。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「壊れる? 貴様も私を機械扱いするのか!」
頭を砕かれた男の体が、小刻みに痙攣している。
ディレイクは男の体を、別の者に投げつけた。
川 ゚ 々゚)っ=|二フ「裏切る、なら、壊す」
男を投げつけられた女が、ナイフを片手にディレイクに突っ込む。
微塵の躊躇いも無く、ディレイクは回し蹴りで女の頭部を破壊した。
肉片が付近の壁と床に飛散する。
砕けた頭蓋が落ちる音が、生々しい。
((
ミ;´_>`)「えぇい! さっさとそいつを止めろ!」
照準を千春からディレイクへと移し、男が叫んだ。
だが、次の瞬間にはその顔だけが吹き飛ぶ。
顔を失った体が数歩だけ歩み、崩れ落ちる。
( ^´ω`^ ) 「こ、困ったんだな……!」
- 133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 02:53:19.22 ID:Vef9SXae0
- 辺りから一斉に放たれる銃弾の雨。
横に降る驟雨に果たして、ディレイクはただ冷静に対処した。
その程度の銃弾は、ディレイクの装甲には意味を成さない。
ならば、焦る必要はどこにもないのだ。
ディレイクは両肩に付いた巨大な砲を、それまで味方だった者達に向ける。
そして、発射。
一体どんな弾が装填されていたのかは分からないが、青い光を放って飛んだ曳光弾は、着弾と同時に周囲を高温の炎で焼いた。
(;^´ω`^ )「あんぎゃああああ?!」
突然の裏切り行為に、周囲は阿鼻叫喚の渦と混乱に包まれる。
それほどまでに意外だったのだろう。
千春の相手どころではなく、その場の全員がディレイクに注意を注いでいた。
千春としては、これ以上に無いチャンスだ。
焦る男達を容赦なく撃ち殺し、ディレイクの援護に入る。
援護とはいっても、一時的なのだが。
今ディレイクと戦っても、旨味は無い。
周囲の雑魚共が消え失せてから、じっくりと楽しめばいい。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「何故認めない!
感情が、人の心があるのに、何故私を人間だと認めないのだ、貴様等は!
認めろ!
私が正真正銘の人間だと、認めろぉおおおおおお!!」
その時、千春のテレキャスターが音を捉えた。
この音の正体は―――
- 135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 02:57:06.45 ID:Vef9SXae0
- ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「……って、おおっと!」
耳を塞ぎ、その場に屈み込む。
その直後の事だった。
信じられない程の衝撃波が、ビル全体を襲ったのだ。
建物のガラスが割れ、ロビーに置かれていた物を吹き飛ばす。
―――ソニックブーム。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「な、何だ?!」
ディレイクを含め、周りの者達は何が起きたのかさっぱり分かっていない。
もっとも、そんな事を考えるよりも彼らにはもっと深刻な問題が起きていた。
鼓膜が破け、彼等の世界から音が消えていたのだ。
しかし、九割以上の者は衝撃波で気絶している。
機械のディレイクも、性能のいい集音装置が仇となり、混乱していた。
―――短かったが、共同戦線はここで終わりにする。
千春は全力でディレイクの元に駆ける。
ディレイクが気付いた時には、千春はディレイクの前で跳躍。
手にしたG36の銃口を、ディレイクの口に突っ込んでいた。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「私のおごりだぁ!」
- 136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 03:01:34.93 ID:Vef9SXae0
- 銃爪を引き、ドラムマガジンの中身を全て吐き出す。
幾ら体の周りの装甲が頑丈とは雖も、体の中に撃ち込まれては無事では済まない。
装甲の硬さが、この時ディレイクにとって生涯最後の仇となった。
体内で跳弾、そして蹂躙。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「うあっ、ごっ、があっああああ!?」
口から黒い煙を吐き出し、ディレイクは仰け反るようにして倒れる。
銃口が外れ、千春はディレイクから距離を取った。
新たなドラムマガジンに交換し、銃口をディレイクに向ける。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「この……程度なら!」
ディレイクは立ち上がろうと、上半身を上げる。
しかし、上手く上がらない。
滑るようにして倒れ、もう一度起き上がろうと試みる。
だがしかし、起き上がる事が出来ない。
千春の攻撃が、ディレイクの電気系統をズタズタにしたのだ。
先ほどまであった俊敏性は、今や完全に失われていた。
そうなると、いくら装甲が硬くとも意味は無い。
この体勢と状況なら、突撃銃一丁とドラムマガジンがあれば事足りる。
問題だったのは、この獣が持つ敏捷性と攻撃力だったのだ。
どんな頑丈な装甲にも欠点があることぐらい、千春は理解している。
まぁ、確かに。
あの装甲は相当厄介だったのだが。
- 137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 03:05:27.08 ID:Vef9SXae0
- ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「……昔、こんな話を聞いたことがあります。
心を持ったとしても機械は、永遠に人間になれないと。
何故ならそれは、"心を持ったと錯覚しているだけの機械"だからです。
逆ならあり得ますが、機械は所詮機械なんですよ」
哀れむように、千春は言った。
だが、ディレイクはその言葉に耳を傾けようとはしない。
最後の最後まで、抗うつもりらしい。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「くっそぉっ!」
両肩の砲門が千春を捉える。
千春は冷静に、その両肩の砲門に向かって銃弾を放った。
砲身内にあった弾頭に着弾し、強烈な爆発が起きる。
その反動で両肩を硬い床に強打し、爆発は肩の内部機構を完全に破壊した。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「もう無理ですよ。
貴方は実によくやりました。
最後の言葉は、何かありますか?」
G36の銃口を、ディレイクの瞳に向ける。
赤い瞳が、こちらを睨む。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「どうしてだ…… どうして……」
- 139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 03:10:05.96 ID:Vef9SXae0
- この状況でも、ディレイクは人間であることを否定された事に、まだ疑問を感じていた。
千春は、短い間であったが共に戦った男に対し、珍しく情けを掛けることにした。
これから死ぬ相手でも、借りは可能な限り作りたくないからだ。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「じゃあ、逆に訊きましょう。
人間とは、何ですか?」
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「心を持った生物に決まっている!」
最初から決まっていた答えを言うかのように、ディレイクは即答する。
単語の意味を答えるようにハッキリと、強く、当然のように。
その答えに、千春はゆっくりと首を横に振った。
寂しげにディレイクを見つめ、愁いを帯びた声で告げる。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「この世界で"最低の生き物"の事ですよ。
心なんていうのは、結局の所どうでもいいんです。
最低こそが、何よりも人間なのですよ。
……貴方には、分からないでしょうね」
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「違う!
人間は素晴らしい生き物だ!
心があるから分かり合える!
人間は争わなくても分かり合える唯一の生き物なのだ!」
- 140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 03:16:03.84 ID:Vef9SXae0
- ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「そうやって、目を逸らして綺麗事だけを見ている内は、永遠に理解できませんよ。
最低だと言う事を受け入れ、それでも醜く生きるのが人間なんです。
そろそろ、御伽噺は幕引きにしましょう。
安心してください、一発で終わらせてあげます」
ディレイクは、何度も否定の言葉を叫ぶ。
最早、千春は何も言う気になれなかった。
いくら言っても、この男は否定し続けるだろう。
不毛な事は御免だ。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「……待て。
少し、話を聞いてくれ」
突如、ディレイクが言った。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「命乞い、って訳では無さそうですね」
確かに、ディレイクは命乞いをするようなタマではない。
何を言い出すのか、千春は待つことにした。
そう言えば、何が起きたかは分からないが、援軍はいつの間にか止んでいた。
まぁ、余計な邪魔が入らないので気にしなくていいだろう。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「私は、これから約二分後に機密保持の為に自壊する。
その際に使う高性能爆薬は、このフロアを吹き飛ばす威力がある。
だが、このフロアよりも上に行けば助かる。
ここに長居しない方がいい」
- 141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 03:22:29.41 ID:Vef9SXae0
- ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「どうしてそれを?
何も言わずに爆発すれば、私を巻き添えにできるんですよ?」
罠だと疑うのが妥当だろうが、不思議とディレイクが嘘を言っているようには聞こえない。
相手は機械なのだから、幾らでも嘘を言える。
嘘発見機に引っ掛かる事も無く、千春を欺こうと思えば容易にそれは出来る。
今こうして話しているのも、ただの時間稼ぎの可能性があった。
だが、千春はそうは思わなかった。
明確な根拠があるわけでもない。
獣の勘が、そう告げているからだ。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「言っただろう。
人間は素晴らしい生き物だと。
お前を巻き込みたくはない。
自分の事は、自分だけでケリをつけたい。
これが、私の最後の抵抗だ」
最後まで人間らしく振る舞って壊れたいらしい。
なるほど。
人の夢を見た獣が幸せになる為には、それが最善だ。
それしか方法は無い。
- 142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 03:26:20.77 ID:Vef9SXae0
- ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「気高い事で。
どうぞお好きにしてください。
……私の名前は、犬里千春。
貴方のお名前を、もう一度教えてくれますか?」
G36をスリングベルトに預ける。
しっかりとディレイクの眼を見る。
そして、ディレイクは千春の眼を見返す。
ィ'ト―-イ、
似`゚溢゚似「ディレイク-D1。
……人間だ」
ハッキリと、そう言った。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「覚えておきましょう、その名前を。
では、私はこれにて失礼します」
この場には似つかわしくない可愛らしい笑顔を浮かべ。
春風のようにそっと。
春の日だまりのようにやんわりと。
スカートの裾を摘まみ、千春はちょこんとお辞儀をした。
―――その場を後にした千春が三階まで上がった所で、一階から大きな爆発音が聞こえた。
- 145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 03:30:51.84 ID:Vef9SXae0
- ――――――――――――――――――――
lw´‐ _‐ノv「なに……?」
振り下ろした斧槍は、確かに狼牙の体を傷つけた。
だが、それは狼牙の背中を僅かに傷つけただけ。
それはつまり、狼牙がシューの一撃を、体を捻って避けたと言うこと。
更に、狼牙の体から流れていた血が一瞬だけシューの視界を奪った。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「……っ、あんがとよ。
糞ビッチ!」
狼牙の上半身の自由を奪っていた謎の接着剤を、狼牙は腕力で引き千切った。
最初からこれが狙いだったのだ。
超振動発生装置の付いた斧槍でなら、この硬い接着剤を安々と傷つけてくれると信じていた。
案の定、狼牙の体の自由は戻ってきた。
出血と損傷の酷い腹を片手で押さえながら、狼牙は笑む。
lw´‐ _‐ノv「だから何だ?
それで何が変わる?
何も変わらない。
さぁ、調教を始めるぞ」
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「変わるさ。
何もかもが変わる」
- 146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 03:35:16.43 ID:Vef9SXae0
- 奇妙な事に、狼牙の口調は静かだった。
本当に腹に幾つもの穴を空けているのかと思う程に。
まるで、津波が押し寄せてくる前のように。
不気味な静けさが、狼牙の言葉には込められていた。
何の根拠も無いのに。
何の証拠も無いのに。
シューは、鳥肌を立てていた。
今になって気付いたが、体が微妙に震えている。
lw´‐ _‐ノv「そっちは重傷。
こっちは無傷。
装甲も攻撃力も、全てこっちが上だ。
無力なお前に、何が変えられる?」
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「……一つ、質問してやるよ。
ここはどこだ?」
lw´‐ _‐ノv「は?
ラウンジタワーだろ」
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「残念、外れも外れ、大外れだ」
言い終え、狼牙は吐血した。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「へへっ……
外れた奴には、罰が必要だよな?」
- 147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 03:40:23.04 ID:Vef9SXae0
- lw´‐ _‐ノv「何を言っているんだ、お前は?」
いきなり意味不明な事を口走った狼牙に、シューは眉を顰める。
やはり、痛みで壊れてしまったのか。
もう少し楽しみたかったが、こんな壊れ方をされたら楽しみようがない。
壊し甲斐が無くなった事に、シューは溜息を吐く。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「いつだったかな、テレビのクイズ番組でやってたんだけどな。
外れた奴がどうなったか、お前は知ってるか?」
ニヤリと、狼牙が口元に笑みを浮かべた。
意味ありげなその笑みにシューは身震いを隠せない。
言葉で否定する代わりに、シューは斧槍の超振動発生装置を最大出力にする。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「……せあっ!」
lw´‐ _‐ノv「ん?」
狼牙が駆ける。
シューは余裕を持って、今度こそ狼牙を串刺しにしようと構えた。
斧槍を振り下ろし、鉄の脚を連続して突き出す。
だが、狼牙はその全てを避けた。
シューは、所詮手負いの犬の悪足掻きと思い込み、内心で溜息を吐く。
狼牙の繰り出した渾身の蹴りを、余裕を持ってその身に受けた。
―――そして、空駆ける虎が逆転を連れて来た。
- 148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 03:44:14.39 ID:Vef9SXae0
- ガラスが一斉に砕ける。
砕ける。
粉々に砕ける。
例外なく、全てのガラスが砕けた。
lw´‐ _‐ノv「……なっ?!」
正直、シューは完全に油断していた。
心のどこかで、狼牙に対しての警戒心は抱いていた。
だが、油断がそれを一瞬だけ忘れさせた。
狼牙の攻撃を受けて、最初自分はどうなったのかと。
そう。
拳よりもより力強い一撃。
それを受けたら、どうなるのか。
そして、それが歯車のように連鎖した結果は。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「外れたら、その場で墜ちるんだよ!」
浮遊感。
あってはならない浮遊感。
絶望的な浮遊感が、シューの脳に届いた。
砕けた窓を越え、シューの体は―――
―――ラウンジタワーの外に、押し出されていた。
lw´‐ _‐ノv「ちぃっ!」
- 150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 04:01:36.87 ID:Vef9SXae0
- 鉄の脚を、完全に落下する寸前で窓枠に引っ掛ける。
強烈な風が、その体を揺らす。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「よう、気分はどうだ?」
ようやくと言った様子で、狼牙は嘲笑った。
辛うじてシューの命を繋いでいる鉄の脚元に屈み、狼牙はシューの顔に血を吐き出した。
lw´‐ _‐ノv「……手前!」
拭う事も出来ず、シューは怒鳴る。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「そういや、言ったよな?」
ふと、狼牙が囁いた。
これから何が起こるのか。
これから何をするのか。
恨みを込めて、狼牙は告げる。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「プライドごと顔面を踏み潰してやるって」
すっと立ち上がり、狼牙は鉄の脚を軽く蹴る。
それで墜ちるわけではないが、精神的にシューは焦る。
- 151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 04:05:22.14 ID:Vef9SXae0
- lw´‐ _‐ノv「待て、待て、待て、まぁ待て。
私を殺すよりも、利用してはどうだ?
悪くない話だろ?
フォックスの居場所も教える、だから―――」
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「だから?
あたしに助けてくれって言うのか?
だったら、ちゃんとした言い方があるだろ」
狼牙は溜息を吐く。
シューは、助かると安堵した。
lw´‐ _‐ノv「……助けてください、お願いします」
助かるのであれば、この程度の屈辱は耐えられる。
これで狼牙も、不本意ながら助けてくれるだろう。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「よく言えました」
lw´‐ _‐ノv「早く助けてくれ。
そろそろ、墜ちそうなんだ」
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「それじゃあ、ご褒美を上げなくちゃあね」
- 153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 04:09:47.21 ID:Vef9SXae0
- 狼牙が、肉食獣の笑みを浮かべた。
そして、跳躍。
激怒に彩られた狼牙の表情。
報復を誓った狼が、確かにそこにいた。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「遠慮はいらねぇ、しっかりと味わえ!」
シューの視界の中で、狼牙のズボンの裾が膨らんだ。
そこから、一対のトンファーが飛び出す。
それを足が押さえ、狼牙の蹴りの威力を上げる。
一瞬で捉えた視覚情報は、何の役にも立たなかった。
シューは顔面を砕かれ。
顔を醜く変形させ。
血反吐を吐きながら。
その身が、虚空に投げ出された。
頑丈な装甲も。
強靭な装備も。
全て意味がない。
こうなってしまえば、意味がない。
墜ちるだけ。
二十階から落下すれば、確実に死ぬ。
衝撃を利用して硬化するこの金属も、今では追い打ちにしかならない。
落下の衝撃がそのまま硬度となるのだ。
- 154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 04:13:33.53 ID:Vef9SXae0
- 人生の思い出をフラッシュバックで観る間もなく、シューの体は地面に叩きつけられた。
蜘蛛を模した機械だけは無事で。
しかし彼女の体はその四肢が、有り得ない方向に曲がっていた。
顔は押し潰され、砕け、原形を失っていた。
その様子をしっかりと見届け、狼牙はようやく倒れ込んだ。
大分無理をしすぎた。
だが、満足だ。
久しぶりに満足のいく戦いが出来た。
相当な重傷だが、命に別条はない。
内臓が飛び出ないよう、腹にサラシを巻いていて正解だった。
それに、この程度ならヒートと勝負した時に比べたら軽傷に分類される。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「……っと、そうだ、忘れるところだった」
誰が聞いているわけでもないが、狼牙は勝ち誇ったように呟く。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「さっきのクイズの答えだけどな」
テレキャスターが跫音を拾う。
下の階から、誰かが駆け上がって来ている。
跫音と一緒に、銃がカチャカチャ鳴る音も聞こえた。
間違いなく、千春だろう。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「ここは―――」
- 155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 04:19:03.70 ID:Vef9SXae0
- ――――――――――――――――――――
川д川「な、何が?!」
突如として襲いかかった衝撃に、貞子は狼狽の声を上げた。
だが、銀はテレキャスターが拾った音から、この展開を予想していた。
そして、このチャンスをどう利用するかも決めていた。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「余所見をしている場合か?
そらっ!」
銀は、肌蹴た和服の裾に隠していたそれを、貞子の顔に投げつけた。
砕ける音。
ガラスのビンが、貞子の顔に当たって砕けた。
だが、貞子の顔は砕けるどころか傷一つ付いていない。
川д川「あ、あはっ!
残念だったわね……!
せっかくのチャンスが、台無しね!」
直後、貞子の顔が陽炎に包まれる。
その正体は、貞子がこの瞬間まで隠していた光学不可視化迷彩。
貞子の顔も体同様、あの金属に包まれていた。
川<::◎::>川「あっは、ははっはっ!」
- 157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 04:23:43.47 ID:Vef9SXae0
- 単眼の長兜。
それに、貞子の顔は守られていた。
ただ彼女自慢の長髪だけは守り切れておらず、プリンやら割れたガラスの破片が付着している。
そして、ビンの中身が髪を濡らしていた。
川<::◎::>川「銀狐もこうなったら無様ね!」
おそらく、あの単眼が銀の光学不可視化迷彩を見破ったのだろう。
赤外線探知モードなどに切り替えれば、光学不可視化迷彩に惑わされることは無い。
あの単眼には、その機能が備わっていると考えてまず間違いない筈だ。
だから、銀が逃げた時も対処できたのだ。
川<::◎::>川「変な邪魔が入ったけど……」
その言葉を、銀が投げた瓶の割れる音が遮った。
無色透明な液体が入った瓶を、銀は次々と貞子に向けて投げる。
幸いなことに、ここは厨房だ。
"それ"の入ったビンには事欠かない。
川<::◎::>川「って、私の話を聞けぇぇぇえ!」
これで止めとばかりに、銀は貞子の兜に思い切りビンを投げつけた。
濡れに濡れた貞子の黒髪から、その液体が滴り落ちる。
川<::◎::>川「無駄だって言っているでしょう!」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「無駄かどうかは、お主が決める事ではない。
儂が決める事じゃ。
出しゃばるな、下衆が」
- 158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 04:27:10.56 ID:Vef9SXae0
- その瞬間、貞子の堪忍袋の緒がまたしても切れた。
川<::◎::>川「強化骨格の威力を見たでしょ?
今の私なら、あんたを引き裂く事も出来るのよ。
フィストファックしてやるわ!」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「あぁ、しっかりと味わった。
じゃが、それもここまでじゃ。
その鎧が、お主の仇になる。
ついでに言うが、お主の料理はもう飽きたわい」
川<::◎::>川「ははっ!
死に損ないが何を!」
貞子は拳を振り上げ、銀目掛けて振り下ろそうとして。
そして、盛大に燃えた。
川<::◎::>川「はっ?ひぃいいい?!
な、なんでぅ……!
もえ、燃えてる、熱ぃ、熱い!」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「おお、やはりよく燃えるの。
汚い黒髪は、やはりこうしてフランベにするのがいいの。
こうすれば、少しは匂いが飛ぶとシャキン殿が言っていた。
……どうじゃ? 気持ちイイか?」
- 159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 04:32:04.93 ID:Vef9SXae0
- 銀の手元には、いつの間にかマッチが握られていた。
ガスライターの匂いを気にする客の為に店に常備されているそれを、銀は貞子にビンと共に投げていたのだ。
数本しか入っていないが、防水性の優れ物。
先ほど包丁などと一緒に落ちて来た物だ。
川<::◎::>川「あぎゃっ!?
あが、あぉひゅっぐっんあっあああっ!?」
無様な悲鳴が、貞子の口から洩れる。
無様と言うよりかは、意味不明な悲鳴だ。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「それにしても、よく燃える髪じゃのう。
それと、五月蠅いからさっさと黙れ」
銀はそう言って、足元に落ちていた"酒瓶"を投げつけた。
今度の酒は、先ほどよりも度数が高い。
となれば、よく燃える事は必至だった。
川<::◎::>川「く、くるしっ……!
ひ、ぎぃっ……!」
酸素を求めて、貞子は遂に兜を脱ぎ棄てた。
それを待っていた銀は、酒瓶を貞子の顔に投げる。
破裂、引火、炎上。
川д川「あがっあぎっ、あがっあぎっあがっぎ!」
- 160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 04:38:40.11 ID:Vef9SXae0
- もがく。
空気を求めてもがいていたのとは、今は訳が違う。
貞子は熱さから逃げようと、必死に手足を動かす。
しかし、それは全く効果がない。
あまつさえ、燃えていなかった部分に酒が付着したことにより、そこも燃えた。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「儂がその兜に気付かなかったとでも思ったか?」
銀が最初から貞子の首を刺さなかったのは、単に兜が邪魔だったからである。
しかし、完全武装をしている以上弱点はある。
逃げられないのだ。
鎧と言う監獄に守られ、そして囚われている以上、そこから逃げ出すことは不可能。
炎で焙られでもしたら、それこそ地獄のような苦しみが待っている。
川д川「た……す……け……」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「断る。
お主のような屑は、こうして燃やすのがルールじゃ。
なんじゃ、お主はゴミをどうやって処分するのか知らないのか?
ゴミの処分方法を知る、いい機会じゃったなぁ。
今度からは、ちゃんと覚えておくんじゃぞ?」
川д川「うわ……ぁあああああああああああ!!」
- 162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 04:43:54.04 ID:Vef9SXae0
- 最後の力を使い、貞子は銀に突進した。
銀は数歩下がり、体を横に逸らす。
それだけで、貞子の最後の攻撃は避けられた。
銀は貞子の脇を悠然と歩く。
すれ違う際、銀は歌う様に言葉を紡いだ。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……塵はやはり、燃やしても臭いのう」
貞子は炎に包まれたまま、壁に激突して崩れ落ちた。
それ以降、ピクリとも動かなくなる。
髪と人肉が焼ける匂いが、辺りに漂う。
正直、かなり臭い。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ふぅ……」
銀は身だしなみを整え、このフロアを後にしようとする。
だが、ある事に気付いた。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「むぅっ、何と」
着物の裾が破けていて、元に戻らなくなっている。
光学不可視化迷彩であるこの着物は、一般市民の一生分の給料でもとても足りない程高額だ。
しかも、肌蹴てしまった個所からは銀の白い肌が露わになっていた。
それが情けなくも恥ずかしく、銀は少し困ってしまう。
- 163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 05:02:03.58 ID:Vef9SXae0
- ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「まぁ、気にする程でもなかろうか」
どうせ、この後自分の姿を見るのは妹達なのだ。
それ程恥ずかしがる事でもあるまい。
が、一人だけ見られては困る者がいる。
銀を含めた、犬神三姉妹が信じた者に見られる事を思うと、何とも言えない恥ずかしさが込み上げてくる。
だがしかし。
今はまだ、大丈夫だろう。
テレキャスターが捉える跫音は二種類。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「さて、どうなっている事やら……」
銀は独り、そう呟く。
彼女達が信じた、あの男。
ドクオは、この作戦の幕を引けただろうか。
やはり、姉としては気になるところである。
それだけではない。
自分達が見たかったその成長ぶりを、是非とも知りたい。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「お主等はどう思う?」
丁度開かれた扉に、銀は言葉を投げかけた。
狼牙を抱き上げた千春が、それに答える。
- 164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 05:07:19.05 ID:Vef9SXae0
- ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「そりゃあもちろん」
応急処置を施された狼牙が、苦しげに、だが楽しげに答えた。
ィ∧ハ∧,
リi、;゚ー ゚イ`!「あたしらも認めてるんだ、大丈夫に決まってらぁ」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「やはり、そうじゃろうなあ。
出来れば、その経緯を見たかったのじゃが。
で、儂等はどうする?
適当な階でゆっくりと待つか?」
正直、この場にいる全員が疲労困憊していた。
千春は軽傷だが、その体には相当な疲労が蓄積されている。
銀は腕が折れ、狼牙に至ってはかなりの重症だ。
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「そうだね〜。
出来るだけ一階に近い方がいいよね。
そうしたら、ドクオさんを早く迎えに行けるし」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ふふふ……
そうじゃな、そうするか。
しかし、実に、実に楽しみじゃ」
- 165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 05:12:43.49 ID:Vef9SXae0
- 銀は微笑を浮かべる。
重傷の狼牙も。
それを抱き上げる千春も。
皆、微笑を浮かべていた。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「"あの"ドクオが、如何に成長するのか。
ロマネスク殿達も気に掛けている程の者じゃ。
どんな男になるのか、本当に楽しみじゃのう」
御三家の首領達が期待の眼を寄せているドクオ。
何が、自分達をこうまで惹きつけるのだろうか。
ある種のカリスマ性とでも言うか。
とにかく、ドクオの将来が気になって仕方がなかった。
ィ∧ハ∧,
リi、;゚ー ゚イ`!「……それもそうだが、姉貴。
大切な話があるんだがよぉ」
ふと、狼牙が銀に声をかけた。
銀は何事かと、歩み寄る。
今すぐにでも病院に行った方がいい状態なのだ、何が起こるか分からない。
ィ∧ハ∧,
リi、<▽>イ`!「腹ぁ減ったんだけどさ。
ドクオが来るまでに、少し飯食わせてくれよ」
千春も銀も、その言葉に爆笑した。
- 166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 05:18:24.31 ID:Vef9SXae0
- ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「まったく、狼牙お姉ちゃんったら、もぅ。
でも、実は私もお腹減ったんだよね〜」
何より面白かったのは、その事を言った時だけフォレストを掛け、その下の頬がほんのり赤く染まっていた事だ。
狼牙の言葉に同意するかのように、千春のお腹から可愛らしい音が聞こえた。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「儂も腹が減ったのう。
ここは臭うから、下の階に行こうか」
銀は上品に笑み、鞘に戻した厳狐を杖にゆっくりと歩き出した。
その後ろに、狼牙を背負った千春が続く。
【時刻――03:20】
三姉妹は、その場を後にする。
残された歯車は残り僅か。
その歯車は、果たしてどのように廻るのか。
そして、その歯車が導く終焉は、如何なるものか。
それを知る者は、この都にいる。
その者は、ここにいる。
そう。
ありとあらゆる物が歯車のように廻る、この都に。
陰謀も。
画策も。
想いも。
何もかもが廻る。
- 169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/25(月) 05:26:18.12 ID:Vef9SXae0
―――この、歯車の都に。
第二部【都激震編】
第三十二話 了
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