('A`)と歯車の都のようです

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:04:29.17 ID:TQlpylRn0
ラウンジタワーから都を見下ろすと、まるで天の川を見ているかのような錯覚を覚える。
しかし、それは九時を過ぎると少し淋しいものになり、やがて光源が無くなる。
それはまるで、歯車の都の歴史を垣間見ているようだ。

歯車が急速に発達、進歩したのは今から約500年前のことになる。
それは一人の天才科学者、"ノリル・ルリノ"の功績によるものだった。
二人の助手の助けを得て、十年懸けてノリルが生み出したのは、一つの歯車だった。
後に、"始まりの歯車"と呼ばれるその歯車は、同じくノリルが生み出した歯車を管理、監視する物だった。

ノ(^−^ノリル

ノリルが生み出した歯車は、人間の肉眼では視認できないものから、一つの大きな建物程の大きさまで様々だ。
それまで、歯車は摩耗により不具合が生じたり、思いもよらない問題が発生したりと、あまり多用途には向いていなものばかりだった。
しかし、"始まりの歯車"とその子機とも言える新型の歯車は、一切の不具合も問題も生じない。
"始まりの歯車"が子機を完全に管理し、千年使ってもほとんど摩耗しない子機の性能は、完璧だった。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:06:14.24 ID:TQlpylRn0
その歯車の発達と同時に、都の空は黒い雲に覆われることが多くなった。
さらに、不規則に発生し始めた濃霧の存在は、云わば一つの弊害だ。
ところが人間の欲望というか、執念は感心すべきもので、それらを都の名物として宣伝したのだ。

物好きな旅行客が増えた一方で、旅行客による犯罪も増えた。
それらを抑制するため、ノリルはもう一つの発明をした。
"DNA登録式犯罪抑止法"、それは物ではなく、法律だった。

しかし、その法律は結果を出し、ノリルは都中の人々から感謝された。
偉大な歯車を発明したノリルを、人々は尊敬の意を込めてこう呼んだ。
―――『歯車王』、と。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:08:06.35 ID:TQlpylRn0
秘書を一人だけ雇い、その余生をひっそりと過ごしたノリルの死後、新たな歯車王が誕生した。
奇妙な仮面をつけ、ノリルの後継者だと名乗り始めた者が登場したのだ。
最初、人々は胡散臭げに彼を見ていたが、新たな歯車王はすぐに人々に受け入れられた。

新たな歯車王が発明した物、それは"ナノギア"だ。
電子顕微鏡を用いてようやく確認できるほどのそれは、一種のナノマシンであるとさえ呼ばれた。
事実、ナノギアはそれまで夢でしかなかったことを次々と実現していったのだ。

ステルス迷彩、人体に手を加えた機械化など、漫画の世界でしかありえなかったことが実現した時、都中が彼を迎え入れた。
それは、今から約四百年前のことだ。
それ以降、その歯車王は今に至るまで生きている。
噂では、影で世代交代をしているとまことしやかに言い伝えられていた。

腰まである艶やかな黒髪、体全体を隠すほどの黒い外套、背中にある複椀。
機械で性別や年齢を偽る声、そして特徴的な仮面だけが変わらずに言い伝えられていることだ。
その素性は完全に不明で、一説では男、一説では女、機械だと言う者さえいる。

本当の答えを知っているのは、鋼鉄の仮面を被った歯車王だけだ。


( 'A`)と歯車の都のようです

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:10:23.07 ID:TQlpylRn0
ラウンジタワーは都の中で一番高いだけではなく、一番多くのガラスを使った建物としても名高い。
夕日が見える日は、その全面ガラス張りの建物に反射した夕日が都全体に黄昏時を伝える。
一種の灯台として、また展望台としての役割を持つそのガラスは腕のいい職人が丹精込めて作った物だ。
如何せん、あまりにもガラスの面が多いため、清掃業者を十件近く雇っているのだが掃除するのに一週間以上かかってしまう。

しかし、そんな面倒があるにもかかわらず、ラウンジタワーはいつも黒字経営を続けていた。
入館料という名目で、カップルや旅行者に法外な料金を請求する。
一種のテーマパーク並の料金がかかるのだが、特にカップルにはテーマパーク以上の人気があった。
地上9000メートルの展望台で愛を誓い合うと、そのカップルは永遠に結ばれる。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:12:41.25 ID:TQlpylRn0
そんな胡散臭げで吐き気を催すほど甘ったるい眉つば伝説が後押ししているのもあるが、そんな伝説抜きに展望台からの眺めは壮観だった。
それもこれも、清掃業者の方々が毎日ゴンドラに乗って念入りにガラスを掃除しているからである。
カップルに感謝されるのは気に入らないが、ホテルマンを首になったモナ―にとっては最高の職場だった。

( ´∀`)「モナアァァァァァがよなべーしてぇぇぇ 窓拭いてるモナあぁぁぁぁ」

前の職場のホテルでヘマをして首になる際、モナ―に新しい就職口を紹介してくれたクールノーファミリーのボスに心から感謝し、
モナ―は今日もサービス残業を申し出ていた。
給与には一切関係ない残業にもかかわらず、モナ―は生き生きとしている。
それまでは人に感謝されることはおろか、尊敬されるような職に就いたことがないモナ―にとって、人から感謝の眼差しを向けられるのが何よりの楽しみとなっていた。

( ´∀`)「このおおおおおおおおおおおおお塵いいいいいいい!! ねぇ、どこから来たモナアアアアアアアアアアアア?!」

五人乗りのゴンドラに、一人きりで乗り、窓拭きをするモナ―の歌声が夜空に吸い込まれていく。
それに天が呼応したのか、上空から声が聞こえてきた。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:17:15.71 ID:TQlpylRn0
『あああああああああああああああああああ!!』

男と女の声が入り混じったその声に、モナ―は思わず笑みを浮かべた。
その笑みは今までの仕事では決して浮かべる機会など無く、浮かべた笑みと言えば愛想笑いだけだ。
心から笑ったのは何年振りだろうか、モナ―は久しぶりにそんな感慨に浸っている。

( ´∀`)(こんな自然に笑えたのは、子供の時以来だモナ…)

かつて自分がワンパクで、周囲を笑顔にしていた子供時代に思いを馳せ始めたモナ―の耳に、天から声が聞こえてきた。
それも、さっきよりも声が"近く"なってきている。

( ´∀`)(蒼天已死! なーんて…)

そんな事を心で思った瞬間、モナ―の背後に何かが落ちてきた。
もしモナ―の乗っているゴンドラが五人乗りで無ければ、モナ―は天からフリーフォールクラッシュを喰らっていただろう。
代わりにフリーフォールクラッシュを受けたゴンドラが大きく揺れ、モナ―は危うくゴンドラから落ちるところだった。
ピカピカに磨かれたガラスに映る己の無様な姿よりも、背後に落ちてきた物に最大の関心を抱いたモナ―は恐る恐る振り返った。

ξ#゚听)ξ(^ω^;)

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:20:23.97 ID:TQlpylRn0
そこにいたのは一組の男女だった。
天使と天女にしては奇妙な格好をしているなと、モナ―は一瞬考えた。
だが、その天女の口から出てきた単語は天女にしては汚らしいものだった。

ξ#゚听)ξ「なぁにが『フリーフォールクラッシュ!』よ! ただ落ちただけじゃない! この糞野郎!」

胸ぐらを掴まれ、背中に奇妙なものを生やしている天使は、天女とは正反対に落ち着き払っている様子だ。

(^ω^;)「ただ落ちただけじゃないお! 格好つけて落ちただけだお!!」

ξ#゚听)ξ「同じことじゃない!! しかも何よ! 鉄板入りの防弾チョッキ着てるなら最初っから言いなさいよ!!」

(^ω^;)「敵を欺くにはまず味方から、って格言を知らないのかお!」

ξ#゚听)ξ「誰が仲間よ! それに欺く必要がどこにあるのよ! バーカバーカバーカ!!」

(^ω^#)「馬鹿って言った方が馬鹿なんだお! この巻き髪!巻き髪!巻き髪!」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:21:44.81 ID:TQlpylRn0
ξ#゚听)ξ「ファッキン野郎っ……! 乙女の髪を馬鹿にしたわねっ……! 中性脂肪星人のくせに生意気な!」

(^ω^#)「Aカップ! Aカップ! Aカップ!」

いつの間にか冷静さを失っている天使と、天女のやり取りを呆然と見ていたモナ―は、何事もなかったかのように窓拭きの作業に戻った。
後ろの二人の顔に見覚えがあったからなのもあるが、今は窓拭きの方が大事だと思ったからだ。

( ´∀`)(ダイヤモンドよりもツルツルにするモナ…)

ξ#゚听)ξ「え、Aカップですってぇぇぇ!? とうとう乙女の聖域までも馬鹿にしたわねっ……!!」

(^ω^#)「なーにが聖域だお! ただのツルツルツンドラ不毛地帯だお!」

( ´∀`)(傷一つなくて、まるで板みたいな芸術品だモナ…)

ξ#゚听)ξ「どうせあんたはあの脂肪の塊が好きなんでしょ!? やだやだ、これだから中性脂肪星人は嫌なのよ!!」

(^ω^#)「まな板ツルペタAカップ星人に何を言われても悔しくないおーだ!!」

( ´∀`)(ねんしょうけーねんしょうけー あーみどしきー)

ξ#゚听)ξ「久しぶりに切れちまったわ…! 今すぐその醜い脂肪をふっ飛ばしてやるっ……!!」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:24:07.51 ID:TQlpylRn0
(^ω^#)「やれるものならやってみるがいいお!! Aカップまな板ツンドラ不毛地帯女に何ができるか、見物だお!!」

ξ#゚听)ξ「墓にはなんて、刻めばいいかしら?」

(^ω^#)「Aカップに付けるブラは無いって、刻んどけお」

直後、モナ―が丹精込めて拭いていた窓ガラスがモナ―の目の前で砕け散った。
拭いている体制のまま固まっているモナ―をよそに、天女―――、ツンは手にしたデザートイーグルを連続して発砲した。
それを巧みに避ける天使―――、ブーンは背後のモナ―など眼中になかった。

( ´∀`)(へへっ… モナ―の夢が、誇りが、楽しみが散っていくモナ……)

乾いた笑いすら上げず、モナ―は固まっている。
モナ―の誇りであり、夢でもあったガラスは無残に砕け散り、目の前の室内に散乱している。
本当に虚しくて悲しいとき、人は涙が流れないという。
せめて夢の遺骨でも拾おう、そう自然に思ったモナ―は、目の前に落ちている一欠片のガラスに手を伸ばした。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:26:09.90 ID:TQlpylRn0
しかし、あと僅かというところでそれは無駄に終わった。
拾おうとしたガラスを乱暴かつ、無造作に踏みつけた足の主はそのまま室内に走って行った。
それを追うべく、ハイヒールを履いた足が更にガラスを踏みつけて行く。

( ;∀;)「ムオウナアァァァァァァ!!」

その時初めて、モナ―は泣き叫んだ。
その叫び声は虚しく夜空に吸い込まれていき、今度は天から何も聞こえてはこなかった。

背中に刺さったままだった戦斧を乱暴に引っこ抜き、ブーンは背後を見やった。
案の定、鬼でも悪魔でも裸足で逃げだしそうな形相でツンがやってきた。
どうにか足をその場に固めたブーンは、人の良さそうな笑みを浮かべてツンに向きなおった。

( ^ω^)「さて、話を…おうっ!!」

両手を上げておどけようとしたブーンの顔面に、ツンのハイヒールのヒールが突き刺さった。
スカートを押さえながらも飛び蹴りを喰らわせたツンは、ブーンの顔を踏み台に連続して蹴りを入れた。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:28:35.81 ID:TQlpylRn0
(;゚ω゚)「ちょ… 話を…! 聞いて…! お願い…! 後生ですお!」

無様にも吹き飛んだブーンの体は、空中で回転しながら床に落下した。
幸い、床に敷かれたカーペットが上質だったため、ブーンは顔だけに怪我を負っただけだ。
よろよろと立ち上がったブーンの胸倉を素早く掴み、ツンはブーンの顔を自分の顔に引き寄せた。

ξ#゚听)ξ「乙女のプライドを馬鹿にした罪は重いわよ?」

近くで見ても綺麗な顔立ちをしていて、うっすらと化粧がされただけのその美貌に、ブーンは思わず顔をそむけた。
それが気に入らなかったのか、ツンは強引にブーンの顔を自分に向かせ、睨みつけた。
ブーンより少し背が低いため、見上げる形になっている。

(;^ω^)「話を、話を聞いてくれお!」

ξ#゚听)ξ「遺言として聞いてあげる」

( ^ω^)「顔が近いんですけど」

ξ#゚听)ξ「はぁ?! 何…が…」

一瞬で顔を真っ赤にしたツンは、ブーンを突き放し、真っ赤な顔のままで睨む。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:31:03.17 ID:TQlpylRn0
ξ#///)ξ「こ、この…」

ξ#゚听)ξ「ファッキン野郎があああああああああ!!」

抜く手も見せずに、ツンが構えたデザートイーグルの銃口が火を噴く。
男は顔に大穴を開けて顔から倒れこみ、死体から赤黒い血が流れ始めた。
血溜まりに沈む死体を足で蹴り上げ、ツンは舌打ちをした。

ξ#゚听)ξ「ちいっ、大将じゃない!」

そこで死体になっていたのはブーンではなく、屋上で仮面を付けていた男だ。

( *)

物言わぬ死体のすぐ横で、ブーンはため息をついた。

(;^ω^)「後ろにいるなら後ろにいるで言ってくれお。
     本当に殺されるかと思ったお、それと…」

冷や汗を流すブーンが手を振り下ろし、ツンの横を何かが通り抜ける。
そして、ツンの背後で頭に戦斧が刺さった仮面の男が倒れこんだ。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:33:05.90 ID:TQlpylRn0
( ^ω^)「油断大敵だお」

ξ ゚听)ξ「感謝なんかしないわよ、糞野郎」

ツンがぶっきらぼうかつ、無愛想に口を開いた瞬間、ブーンが自身の背後に銃口を向ける。
それと同時にツンも自身の背後に振り向きざまに銃を構え、タイミングを計ったかのように双方の銃が火を噴いた。
同時に響いた銃声とは裏腹に、男が倒れこんだ音は一拍置いて響いた。
二体とも急所を一発で撃ち抜かれ、即死の状態だ。

まだ硝煙を上げる銃を構え、ツンは空になった弾倉を排出する。
片手で新たな弾倉を挿入し、すぐに装填する。
そうしてもう片方の弾倉も変え、ツンは二丁を腰の横に下げたホルスターにしまい込んだ。

ξ ゚听)ξ「さて、ブーン。 残りの敵は三人、どう戦うのか聞かせてもらおうかしら」

豪奢な巻き髪を躍らせながら振り向いたツンに、ブーンは弾倉を変えながら面倒くさげに答えた。

( ^ω^)「少なくとも、単体での行動が自殺行為だってことだけは確かだお。
     とどのつまり、ツーマンセルスタイルで上の階まで登って、残りの三人を撃滅するだけだお」

腰のダブルホルスターに得物をしまい込み、ブーンは懐から新たな拳銃を二丁取り出した。
それは装弾数が21発という拳銃離れした拳銃、スチェッキン・フル・オートマチックピストルだ。
それを一丁ツンに投げ渡し、両手で構える。
銃口を部屋唯一の出入り口である扉に向け、ブーンはゆっくりと歩み出した。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:35:05.88 ID:TQlpylRn0
その後にツンがブーンの死角をカバーしながら続き、両者の背中がつきそうな距離でゆっくりと進んで行く。
ブーンが素早くドアを開け放ち、すぐさま周囲の安全を確認する。
続いてツンが、ブーンと同じ手順で周囲の安全を確認した。
特殊部隊を彷彿とさせるその無駄の無い動きは、二人が戦闘のプロであることの裏付けでもある。

( ^ω^)「この廊下の先に、エレベーターがあるお。
     エレベーターまでは一直線に行って約150メートル。
     途中にある扉の数は5、曲がり角は6だお」

ξ ゚听)ξ「うぃ」

( ^ω^)「互いに左右を狙いながら走り抜ければ、十五秒でエレベーターに着けるお」

ξ#゚听)ξ(早い話が気合じゃないのよ! ファック!)

そして、ブーンが回り込むようにしてツンの横に付く。
それに合わせ、ツンもブーンの横に付き、正面にあるエレベーターの扉を確認する。
電燈の表示で、それがこの階に止まっているのを見咎め、どちらともなく駆けだした。

銃口を左右の扉と曲がり角に向けた状態で駆け抜け、扉まであと30メートルというところでそれは起きた。
まだボタンを押していないのに、突如としてエレベーターの扉が開いたのだ。
一瞬、その光景が何を意味するのか理解できなかったのはツンだけだった。
長年の護衛としての経験が、ブーンの体を自然と動かした。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:37:52.94 ID:TQlpylRn0
ツンを押し倒す形で倒れ込まなければ、ツンの首は宙に舞っていただろう。
それまでツンの首のあった位置を音を裂いて何かが通り過ぎ、横の壁を無残に切り裂いた。
よほど鋭利なものが通ったのだろう、一種の芸術のように壁に傷が走っている。

(;^ω^)「ちいっ!」

開かれた扉に向かって、スチェッキンをフルオートで全弾撃ち放つ。
結果として、その行動はブーンとツンに立ちあがる時間を与えた。
ブーンの撃ち放った弾丸が全て"切り払われ"、敵の次の攻撃を止めたのだ。

しかし、一瞬で全弾を撃ちつくしたブーンのスチェッキンには当然、弾が入っていない。
もしこれが、スチェッキンでなくてサブマシンガンだったのなら形勢はは変わっただろう。
空になった弾倉を交換する手間すらもどかしく、ブーンは急いでツンを抱き起こす。
だが、ツンが自慢の憎まれ口を叩くことは無かった。

ξ; )ξ「きゅう…」

可愛らしい声を上げて気絶しているツンの顔の横に、うっすらと赤い線が走っている。
先ほどの一撃がツンの顔のすぐ横を通り抜けたおかげで、ツンは脳震盪を起こしているようだ。
しかし、それでブーンは焦りを見せるほど未熟ではなかった。
素早くツンを抱き上げ、手近な扉ではなく、2つ前の部屋に飛び込んだ。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:40:06.70 ID:TQlpylRn0
敵の意表を突くその行動は、手練のそれだ。
だが、相手が手練の場合は意味を成さなかった。

( ∵)

仮面を被った男が、ブーンより早くその部屋にいたのだ。
無言のまま手にした戦斧を振り上げ、ブーンに襲いかかってきた。
ツンをお姫様だっこの形で抱いているため、ブーンに反撃をすることはできない。
舌打ちしながらも、ブーンは部屋を飛び出すという愚行をしない。

もし、焦って部屋の外に飛び出したら、あっという間に切り刻まれるだろう。
そうでなくとも、今の状況なら反撃する事などできずに切り刻まれる。
しかし、ブーンが"鉄壁"の二つ名を持っているのには理由があることを、仮面の男は知らなかった。

一般的に広く知られている理由は、その護衛の精度と成功率だ。
そしてもう一つ、あまり知られていない理由があった。

(#゚ω゚)「ちぇああああ!!」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:42:33.35 ID:TQlpylRn0
甲高い金属音が響いたかと思えば、仮面の男の首があり得ない方向に向いていた。
靴底に仕込まれた鉄板に弾かれた戦斧が、持主の仮面の男の心臓に突き刺さった。

"鉄壁"と呼ばれているもう一つの理由、それは―――
全身の装備に仕込まれた金属による防御行動だ。
防弾チョッキには防弾繊維よりも信頼のおける鉄板を仕込み、靴底には鉄板を仕込む。
腕時計はジュラルミン製、万年筆ですら鋼鉄製という徹底ぶりだ。

ブーンの回し蹴りで首が曲がり、絶命した男の四肢が小刻みに痙攣している。
その光景を見ても、ブーンは張り詰めた緊張の糸を緩めようとはしない。
もし一瞬でも緩めてしまったら、全てが終わることを熟知しているからだ。

ブーンが入り込んだ部屋は、一目見てそこがレストランだと解るものだった。
ラウンジタワーの経営者の経営方針上、レストランは少し狭めである。
あまり大きいと展望スペースが減り、客に不満を抱かせる。
逆に小さ過ぎると客が減る。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:44:41.99 ID:TQlpylRn0
中途半端な大きさならば、傍から見れば常に満席のレストランにしか見えない。
そして、中途半端な空間を、食欲を誘う匂いで満たせば客は面白いように金を落とす。
さらに自慢の一品として、店で焼きたてのケーキを振舞う徹底ぶりだ。
ラウンジタワーの経営者、荒巻の経営戦略はそういった人間の欲望の的を刺激するものだった。

(;^ω^)「けっ、使えないお…
     戦斧一つとか、終わりすぎだお…」

仮面の男の装備を回収しようとしたが、戦斧以外に何もないため、ブーンはツンを抱えたまま厨房に入って行く。
調理機材の置き場には、フライパンやオタマに交じって包丁が置いてある。
そして迷わず調味料の棚を物色し、タバスコを一瓶手に取った。

( ^ω^)「中性脂肪星人と罵った罰、ここで受けるがいいお」

親指で蓋を外し、中身の2,3滴をツンの唇に垂らす。
このまま起きなければ中身全部を飲ませようか、そんな事をブーンが考えていると。

ξ#;;)ξ「か――ーら―――い―――ぞ―――!!」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:46:19.57 ID:TQlpylRn0
口から火を吹きかねない勢いで叫び、ツンがブーンの腕の中でもがき苦しんでいる。
とてつもない辛さのせいで、ブーンに抱かれていることなど眼中にないようだ。
暴れるツンを床に下ろし、ブーンは後ずさった。
この後に待ちかまえているのは、正気に戻ったツンの折檻だからだ。

案の定、正気に戻ったツンは目に涙を浮かべ、手近にあった消火器を手に取っている。
もし消火器で頭を殴られれば、いくらブーンといえどただでは済まない。
しかし、その消火器がブーンに与えたのは思わぬ閃きだった。

(;^ω^)「そ、それだお! その消火器を貸すお!」

ξ#゚听)ξ「自決するのならいいわよ」

( ^ω^)「人が助けてやったのに…」

そうして、ツンが殺意のこもった眼をブーンに向けていると、ブーンは手慣れた手つきで作業を進めていく。
いつしかその作業に目を奪われ、ツンは感心してしまった。

ξ ゚听)ξ(なるほどなるほど、小麦粉と消火器のコンボ……
       ついでにフライパンと包丁で……うわー、そうするのかぁ…)

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:48:44.57 ID:TQlpylRn0
そして、ブーンが全ての作業をやり終えたのと同時に、廊下から二人分の足音が聞こえてきた。
それは常人ならば風の音と聞き違える程小さなものだったが、手練の二人にははっきりと聞こえた。
ドアが蹴破られるのと同時に、二人分の人影が室内に踊りこんだ。

( ∵)

\(^o^)/

その頃、ツンは廊下で段ボールの中に隠れていた。
中にはブーン一人だけが残っている。

( ^ω^)「はろー」

一瞬、二つの人影はブーンの行動が理解できなかった。
そしてブーンは、部屋中を満たす消火剤を切り裂く勢いで包丁とフライパンを投擲した。
なんともなしに、仮面の男がそれを戦斧で弾く。
火花が散り、同時に仮面の男の命も散った。

部屋中に満たされていたのは消火剤と小麦粉、そしてガスだ。
粉塵爆発を利用しただけではなく、その爆発に可燃性のガスを混ぜたのだ。
当たり前のように、それまで部屋中を満たしていた物は爆発と炎に取って代わった。
暴力を象徴するその二つは、仮面の男の近くにいた男も巻き込み、二人の姿を爆炎が覆い隠す。

当然、ブーンにも爆炎が襲いかかる。
しかし、ブーンは紙一重で室内から逃げ出した後だった。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:52:26.50 ID:TQlpylRn0
( ^ω^)「さて、二人を始末したお。
     さっさと屋上に行って、状況を…」

そこまで言ってブーンは、全身に電流が走ったような感覚に襲われた。
それは悪寒や寒気を通り越し、恐怖や畏怖の類のものだった。
別に、立ち上がったツンの殺意に驚いたわけではない。
ツンの殺意など、ブーンからしたら小学生のパンチ程度の脅威でしかない。

ブーンが襲われた感覚、それは余程の強敵が放つ明確な殺意だ。
ツンが気付かない程度の殺意なのは、限界まで研ぎ澄まされた殺意だからだ。
腰のダブルホルスターから咄嗟に拳銃を抜き放ち、先ほど自分が出てきた扉に向かって撃ち放つ。
一拍置いて、ツンも今の状況が理解できた。

抜く手も見せずに構えた二丁拳銃を、未だに黒煙を吐きだす扉の向こうに撃つ。
そして、黒煙を切り裂いて現れたのは仮面の男だった。

( ∵)

全身を穴だらけにされ、無残な姿で倒れこむ。
そして、ツンとブーンは素早くその場を離れた。
もし、一秒でもその行動が遅れたていたら、ツンとブーンは喉に新しい口ができていただろう。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:55:10.01 ID:TQlpylRn0
倒れた男の上半身と下半身が別れ、血だまりを作ってゆく。
男の死体を楯にして、死体ごとブーンたちを切り裂こうとした男が、ゆっくりと黒煙の中から現れた。

\(^o^)/

両腕に両刃の長剣を付け、気味の悪い笑みを浮かべている。
背中を曲げ、脱力しているようにも見えるその構えは、素人眼に見れば隙だらけだった。
しかし、その構えには一つの隙もない。
剣豪、宮本武蔵が最終的にたどり着いた構え、それが脱力だ。

迅速にして最速の一撃を見舞うためには、全身の力を抜き、一瞬にだけ力を込める。
いくらその原理を用いているとしても、男の一撃は異常だった。
剣先が届いていないはずの壁に、鋭利な切り傷ができているのだ。
顔の近くを通っただけでも脳震盪を起こす一撃であることは、ツンで証明されている。

(;^ω^)「最悪だお…」

無残に銃身を切り裂かれた獲物を投げ捨て、ブーンはスチェッキンに持ち替えた。
素早く弾倉を交換し、ツンを見やった。

ξ;゚听)ξ「最悪ね…」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:57:32.58 ID:TQlpylRn0
同じ事を考えていたのだろう、ツンもスチェッキンに持ち替えている。
足元に落ちている弾倉から、ツン自慢の二丁拳銃の弾倉が交換されていることが窺い知れる。
ツンとブーンの両者に挟まれるような形で位置しているにもかかわらず、男は焦っている様子がない。
何故こいつはこんなに余裕なのだろう、そうツンが思った瞬間だった。

\(^o^)/「こんにちわ」

何の脈絡もなしに男が突如、挨拶の言葉を発したのだ。
問答無用でツンは引き金を引き、男の顔に弾丸を撃ち込む。
しかし、男の顔に弾丸が当たることはなく、男の手にした長剣に貼り付いている。

\(^o^)/「無駄」

男が長剣を一振りし、貼り付いた弾丸を払い落す。
乾いた音を立て、弾丸が床に落ちたのと同時に、ツンは駆け出した。
ツンの駆けした先にあるのはエレベーターの扉だ。

\(^o^)/「不許可」

駆けだしたツンを追おうとした男を止めたのは、ブーンの撃ち放った弾丸だ。
男が一瞬だけ気を取られた隙に、ツンはすでにエレベーターに乗り込み、扉を閉めている。

\(^o^)/「不覚」

もう間に合わないと判断したのだろう、男はブーンに向きなおった。
両手の長剣を交差させ、不気味な不協和音を奏でる。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 22:59:08.45 ID:TQlpylRn0
( ^ω^)「…久しぶりだおね、オワタ」

\(^o^)/「何故知ってる?」

それまで浮かべていた笑みを消し、オワタは両手を下ろした。

( ^ω^)「さてね、案外、ブーンが歯車王だからかもしれないお」

オワタの両腕が消失したのと同時に、ブーンは横に飛んだ。
半瞬置いて、ブーンの立っていた地面が切り裂かれた。

\(^o^)/「あの方がお前のわけがない」

オワタの表情はいまだに冷たい笑みを浮かべているが、声には明らかな殺意と敵意がこもっている。
冷たい殺意と、それを遮る鉄壁が激突した。

――――――――――――――――――――

四話「鉄壁」

 四話イメージ曲「奇跡」The Back Horn

――――――――――――――――――――

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:01:57.03 ID:TQlpylRn0
ブーンが"鉄壁"の二つ名を与えられたのは、五年前の抗争時だった。
当時、ブーンは水平線会の一員として参加していた。
都中が恐怖のどん底に突き落とされている中、ブーンはその日はサプレッサーを装着をしたAK-47を片手に路地裏で息をひそめていた。
その日のブーンたちの仕事は、クールノーファミリー本部への直接の襲撃。

つまり、一気に今日で全てを終わらせる作戦なのだ。
抗争の開始から三か月、都の住民全員の生活を変えるほどの抗争に終止符を打つべく、ブーンたち水平線会全員が集まっていた。
月の見えない夜、総勢で200人を超す水平線会の全員が、路地裏で銃の状態を見ている。
ここぞという時で問題が生じないように、全員が手にしているのは信頼性と耐久性があるAK−47かドラグノフ、そしてRPGだ。

顔面凶器の者からひ弱そうな者まで、末端の幹部まで全員を含めたその一団は、ほとんどがこれまでの激戦を生き抜いてきた者たちばかりだ。
顔面凶器の者、ひ弱そうな者の多くは全身に多くの傷を負っている。
ブーンも生き抜いてきた者の一人だったが、傷を負うには至っていない。
というのも、孤児だったブーンを優れた兵士として育ててきた副会長の教育の賜物だった。

兵士以上の教育を受け、戦闘の教育が終わる頃にはブーンは歴戦の兵士並の実力を手にしていた。
その頃には全身に受けた傷も、心に負った傷も体になじんでいた。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:04:29.37 ID:TQlpylRn0
だから歴戦の猛者の中にいても、ブーンは決して臆することはない。
そして、この作戦の指揮を執ることになった者が手を上げ、全員に緊張と静寂が訪れる。
合図を見咎め、全員が軍隊並の動きで路地裏を飛び出した。

('_L')「ぎゃヴぉあ!」

突如、先陣を切って飛び出したフィレクントの叫び声が響いた。
それはフィレクントの断末魔であり、他の全員に戦慄を与える音でもあった。
脳漿をまき散らし、フィレクントの死体が倒れこんだ時にはブーンたち手練は他の者よりも早く行動していた。
何が起きたか分からない者たちの眉間に穴が次々と開いた時には、ブーンたち手練は路地裏に戻っている。

それが狙撃であることを全員が無言の内に確認し合い、RPGを持っていた男二人が頷いた。
他の者が囮になり、狙撃手の位置を特定する作戦を無言で実行したのは、全員が手練でなければできないものだった。
RPGを手にした二人を残し、全員が一気に路地裏から全速力で飛びだした。
並の狙撃手なら、地面を抉るに留まっただろう。

しかし、相手は余程腕のいい狙撃手だったのだろう、飛びだした150人の内、60人が急所を撃たれて即死した。
反対側の路地裏にどうにか滑り込んだのはブーンたち20人だけだった。
残りはたどり着く間もなく死んでいた。
サプレッサーを付けた機関銃の掃射を受けたのだろう、倒れこんでいる全員が無音で全身を撃たれている。

無音で地面を耕していた機関銃の掃射が止み、路地に残されたのは手練達の死体だ。
反対方向のRPGを手にした者が頷き、ブーンたちは援護するべく狙撃手と機関銃手のいるであろう方向に向かって弾丸を撃ち込む。
それを契機として、RPGを手にした者たちが路地を飛び出す。
だが、敵の狙撃手も相当の腕で、RPGを手にした男を一人撃ち殺した。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:06:07.74 ID:TQlpylRn0
横で仲間が殺られたことにも動揺せず、冷静に照準を狙撃手の位置に合わせる。
もしこの時、RPGを手にした男が驚愕しなければこの抗争は全く違う終わり方をしただろう。
RPGを手にした男が照準越しに見たのは可憐で、そして美しい少女の顔だった。
それが生涯最後の映像となり、男はRPGを撃つことなく驚愕の表情を浮かべたまま眉間を撃たれて絶命した。

\(^o^)/「オワタ…」

倒れた男の仇討をしようと、路地裏を飛び出した未熟者たちは尽く射殺された。
そうやって散っていった仲間を冷静かつ客観的に見咎め、ブーンは手にしたAK-47を握りしめた。
それは存在の確認であり、また、自身の意識を確かめるものであった。
金属と木で出来た銃の信頼性は、少なくともグロックのものよりも置けるものだ。

その事を熟知している手練の者たちの中で、ブーンだけが全く違う考えを抱いていた。
これまで敵を尊敬することは多々あったが、これほど尊敬することは無かった。

( ^ω^)(クールノー本部までの距離は約800メートル。 相当な腕の狙撃手だお…)

それまでブーンは、幾度となく凄腕の狙撃手と相見えたが、今回の狙撃手の腕は神業的だ。
何せ、都の名物の霧が出ているだけでなく、北から冷たい風が吹いている。
狙撃手にとって風ほど厄介なものもないだろう、いくら正確に照準を合わせても、風によって弾道が変わってしまう。
今夜の風はいつもより強めで、風を計算に入れて照準を合わせないと正確な狙撃などできない。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:08:11.24 ID:TQlpylRn0
しかし、この狙撃手はフィレクントとオワタの眉間を一撃で撃ち抜いている。
風を熟知している狙撃手でもこうはいかないだろう、その事を知らない者はこの場に一人しかいなかった。

/ ,' 3「何を隠れておる! さっさとあのクソ尼を連れてこんかい!」

水平線会会長、荒巻スカルチノフは鉄火場に立った事など一度もない。
荒巻が金と、卑怯な手で会長の座に就いたことは明白だった。
それを知っていても、誰も文句を言えない。
荒巻に意見した女が、その日の内に薬漬けにされて売春宿に売り飛ばされてことなどまだ序の口。

意見した男は生きながら、自身の頭蓋を切開された。
当然、局部麻酔を使って男が痛みで死なないようにし、鏡で切開される様子を見せつけられて狂い死んだのは言うまでもない。
その工程全てを男の家族にやらせるあたり、荒巻の人格がいかに狂っているかが窺い知れる。

しかし、この日この時この場所にいたことが、ブーンの後の人生に大きな影響を与えた。

――――――――――――――――――――

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:10:22.89 ID:TQlpylRn0
オワタの手にした長剣を紙一重で避け、ブーンはその体制からスチェッキンの照準を合わせようと試みる。
しかし、スチェッキンの引き金を引くよりも早くオワタの斬撃がブーンの鼻先を掠め飛んで行った。
辛うじてその衝撃を緩和したおかげで、ブーンは脳震盪によって倒れるという最悪の状況を免れた。
オワタの長剣の射程範囲外にいるとは言え、ブーンとの戦力差は全くない。

むしろブーンの方が不利だ。
剣は刃さえ欠けなければいくらでも使用が可能だが、銃は弾が無くなればそれまでだ。
銃剣でもついていれば話は違うが、仮に付いていたとしてもオワタの斬撃を受け切れるはずがない。

\(^o^)/「お前誰だ?」

( ^ω^)「元同僚、といったところだお」

質問をしながらも、オワタの斬撃の手は一向に緩まない。
飛び退いて距離を開けながら、ブーンは手にしたスチェッキンの引き金を引く。
フルオートで射撃したとしても、オワタに対してはあまり意味がないだろう。
その事を理解していたブーンは、一発一発慎重に撃つ。

\(^o^)/「同僚?」

( ^ω^)「なるほど、記憶までは作れなかったようだおね」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:12:05.70 ID:TQlpylRn0
五年前に眉間を穿たれて即死した同僚に対し、ブーンは親しみよりも憎しみをこめて引き金を引く。

( ^ω^)「死体を機械化したなんて聞いたことないお。
     でも、歯車王ならあるいは…」

\(^o^)/「…」

無言のまま男が繰り出す斬撃は、傍から見ればそれまでのそれとは変わらない。
しかし、ブーンからしてみれば僅かの隙を孕んだその斬撃は容易に避けきれるものだった。
スチェッキンの残弾数を重みで確認し、懐に入れた予備弾倉の数を確認し終わった時には、オワタの斬撃には隙が無くなっていた。

( ^ω^)(残弾数15、予備弾倉5かお……)

スチェッキンに入る弾の数は最大で21発、弾倉に入るのは20発だ。
その装填数とフルオート射撃が最大の売りであるスチェッキンは、白兵戦でこそその真価を発揮する。
しかし、白兵戦であるにもかかわらず、ブーンは一向に活路を見いだせないでいる。
五年前の抗争でも味わったことのある感情に、ブーンは舌打ちした。

焦燥と尊敬の入り混じった感情は、かつての狙撃手に抱いたものだ。
その狙撃手によって殺された男に、ブーンは同じ感情を抱いた。
長剣という癖の強い武器で、拳銃相手に互角に渡り合うなど普通ではできない。
機械化されているとはいえ、オワタの攻撃は手練のそれだった。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:14:47.40 ID:TQlpylRn0
いつの間にか空になった弾倉を排出し、新たな弾倉を装填したとき、ブーンにある考えが浮かんだ。

( ^ω^)「おい、聞こえてるかお?」

\(^o^)/「?」

( ^ω^)「今から言うことを紙に書き写すか、よく聞いておくお!」

\(^o^)/「意味不明」

ブーンが次の言葉を紡ぐより早く、オワタは長剣を交差させて踏み込んだ。
直後、長剣にブーンがフルオートで放った銃弾が貼り付く。
その隙を利用して、ブーンはあっという間に空になった弾倉を交換する。
間髪入れずに、踏み込んできたオワタに対して容赦なく銃弾の雨を降らせる。

(;^ω^)「三時におやつで文明堂を食え!
     時間を守って楽しくおやつを食べれ!
     にくまんあんまんピザまんだべ!
     六時のご飯を食いきれないー!
     調子に乗った!
     整えよう、食生活ーっ!」

\(^o^)/「意図、意味共に不明」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:16:34.97 ID:TQlpylRn0
意味不明なことを口走ったブーンに対して、オワタの反応は真っ当なものだった。
当然のように隙の生まれたブーンは、新たな弾倉に交換することすらできないまま、背後に飛び退く。
しかし、その行動を読んでいたオワタは、強烈な突きをブーンの着地点に放つ。
避けることすらままならないまま、ブーンの胸にオワタの長剣が突き刺さる。

力なくうつむくブーンの耳からインカムがとれ、床に落ちた。
しかし、オワタはその手に奇妙な感触を感じていた。
オワタの技量ならブーンの心臓を貫くことができるのだが、何故かブーンの背中から自分の長剣が顔をのぞかせていない。
剣先に感じる硬い感触が鉄板入り防弾チョッキの物だとしても、あまりにおかしい。

ブーンの口元が小さく上がったのと同時に、オワタは本能的に飛び退いた。
引き抜いた剣先には、血の代わりに黒い何かが付着している。
同じくブーンの胸元を染めるそれが、"万年筆"のインクであるなど、オワタは想像し得なかった。
オワタの長剣による突きは、鋼鉄製の万年筆を貫いたが、その後ろに控えていた鉄板入りの防弾チョッキを貫くには至らなかった。

(;^ω^)「"鉄壁"をあまり無礼(なめ)ない方がいいお」

次の瞬間、ブーンは手にしたスチェッキンの弾倉を交換し、狼狽するオワタに撃ちこむ。
フルオートで放たれた弾丸を全て切り払うなどオワタにとっては簡単なことだったが、狼狽していたオワタにはそれは困難なものだった。
顔面に撃ちこまれた弾は切り払ったが、足の付け根に撃ちこまれた弾丸は切り払えなかった。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:18:09.67 ID:TQlpylRn0
\(^o^)/「不覚…っ! この状況でまさかの不覚…っ!」

思わず膝をついたオワタを尻目に、ブーンは駆け出した。
魔法のように弾倉を交換し、ブーンが向かったのはエレベーターの扉だ。
ちょうどエレベーターが下りて来たのだろう、到着を知らせるランプが点滅している。
後はブーンがボタンを押せば扉が開くだけだ。

しかし、それを許せばオワタは職務怠慢のため上司に廃棄処分される。
それだけは御免こうむるため、オワタは死に物狂いで駆けだした。
もしオワタが万全の状態だったならば、一瞬でブーンの首を切り落としていただろう。
足の負傷のため、オワタが繰り出した斬撃はブーンの背中を切り裂くにとどまった。

そして、ブーンが振り向きざまにオワタの足もとに銃弾を撃ち込む。
その場に釘付けとなったオワタに対し、ブーンは最後の弾倉を装填して再び銃弾の雨を浴びせる。
これ以上足を撃たれれば、オワタは本当に歩けなくなるため、足もとに撃ちこまれる銃弾を切り払う。

( ^ω^)「アディオス、オワタ」

一瞬、オワタはブーンの言っている言葉の意味が理解できなかった。
ただ、開かれたエレベーターの扉から、拳銃を真っ直ぐに構える金髪碧眼の少女の姿だけが見えた。
眉間を穿たれ、仰向けに倒れこんだオワタの眼は驚愕に見張られたままだ。
生前に最後の映像として見た少女の姿は、年を経てもなお、可憐で美しいままだった。

そして、エレベーターから降りてきた少女、ツンはゆっくりと拳銃を下ろした。
ブーンが言った一見意味不明な言葉は、ツンに対する指示だった。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:21:29.32 ID:TQlpylRn0
ξ ゚听)ξ「もう少しまともな指示の仕方は無かったのかしら?」

何事もなかったかのようにブーンの元に歩みやってきたツンは、そっけなく言い放った。

( ^ω^)「無茶言うなお、あの状況でまともな縦読みの文章が作れるわけないお」

ξ ゚听)ξ「だからって、あれは無いわ」

( ^ω^)「結果オーライだお」

ξ ゚ー゚)ξ「そうね」

不覚にも、ツンが見せたその微笑に、ブーンはときめいた。
あぁ、やっぱり美しいな、そんな事をブーンが思っているとは知らないツンは、微笑を崩さない。

ξ ゚ー゚)ξ「何でにやけてるのよ?」

(;^ω^)「な、なんでもないお!」

その微笑にときめいていました、などと言えるはずもなく、ブーンは話題をそらすことにした。

(;^ω^)「そ、そういえば! 後で言うことがあるとか言ってなかったかお?」

ξ ゚听)ξ「あぁ、それね」

ξ ゚听)ξ「あんた、前にあたしと会ったことない?」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:23:06.46 ID:TQlpylRn0
(;^ω^)「え゛っ!?」

それは全くの不意打ちで、咄嗟にブーンはツンを押し倒していた。

(;゚ω゚)「ぐがぁ!?」

楯とは、身を挺して自らの主人を護るものである。
例え撃たれようと、切られようと、貫かれようとも命を賭して主人を護る。
即ち、ブーンはツンの楯なのだ。
ブーンの背中を貫いたのは、オワタの手にした長剣だった。

もし、ブーンが身を挺してツンを護っていなければ、代わりにツンにその長剣が刺さっていたはずだ。
急所を貫かれはしなかったものの、ブーンの内臓は間違いなく切り裂かれている。
口元から血を垂らし、ブーンはツンの顔を見た。

ξ;゚听)ξ

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:25:06.66 ID:TQlpylRn0
 あぁ、やはり美しい。
 この女性を護れたことを誇りに思う。
 あの人との約束も守り、これで鉄壁の名を捨て去ることができる。
 最後に、この女性に悲しい思いをさせないように、楯としての役割を果たそう。

 思えば一目惚れだったのかもしれない。
 五年前の抗争で、あの人に頼まれたことを抜きにしても、護りたいと思うほどに。
 ロマネスクの所で会った時には思わず驚いてしまった。
 あの時よりも可憐に、より美しくなったその姿に。

立ち上がり、自らの腹から飛び出している剣を離さないように握りしめる。

 掌が切り裂かれるが、もう構わない。
 これが"鉄壁"としての最後の仕事なのだから。

背後にいるオワタは、すでに息絶えていた。
オワタは最後の力で任務を完遂しようとしたのだ。
その顔にはやり遂げた充実感が浮かんでいる。
一方、ツンは何が起きたか理解できていない顔をしている。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:27:44.92 ID:TQlpylRn0
 敵ながら感心してしまう。
 それほど歯車王は素晴らしい人間なのだろう。
 できれば、一目見てみたかった。

何が起きたかようやく理解したツンは、ブーンに手を伸ばそうとした。
しかし、それを止めたのはブーンだった。

(;゚ω゚)「な、なにしてるお……
    さっさと先に帰れお!」

 せめて、悲しい思い出を作らないように。

ξ;゚听)ξ「あんた馬鹿?! 腹刺されてるじゃない! 一緒に病院に……!」

(;゚ω゚)「残念ながら、そうもいかないお……」

 あの人の描いたシナリオ通りに、立ち振舞おう。
 それが彼女を一番悲しませないで済むのだから。

(;^ω^)「後で合流するから先に行けお」

 せめて、最後は笑顔で見送ろう…

ξ;゚听)ξ「わ、わかったわよ…
       必ず来なさいよ!」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:29:33.37 ID:TQlpylRn0
戸惑いながらも、ツンはエレベーターで降りて行った。
それを見咎め、ブーンは安堵のため息をついた。

( ^ω^)「……また…いつ…か」

 次に会う時は、義務や義理に縛られないで―――
 純粋な守護の楯として、また会おう―――
 いつの日か、必ず―――

(  ω )

ブーンの声が聞こえたような気がして、ツンは下って行くエレベータの中で見上げた。
そして、エレベーターの中でツンが聞いたのは、上から響いた爆発音だ。
それが"鉄壁ブーン"の最後だった―――


四話 了

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:31:14.41 ID:TQlpylRn0
歯車の都の住人の朝は早い。
早寝早起きという健康的な生活を送っている住人にとって、朝は一日で最も心が安らぐ時だ。
日中の日差しが差し込まない程の濃霧は当然、朝日も遮断する。
しかし、昨晩起きた事件までは隠せない。

昨晩起きた歯車王暗殺未遂事件は、都中に広まっていた。
一体誰が情報を流したのかは解らないが、その衝撃は都の隅から隅にまで広まっている。
高級売春宿の社長、"グレートピンクエロス"ミセリにも当然その話は飛び込んできた。

ミセ*゚ー゚)リ「あら、それは本当なのですか?」

(゚、゚トソン「はい、その筋の情報屋から仕入れたので、まず間違いありません」

ミセ*゚ー゚)リ「むぅ…」

この都の裏社会の住人の一人として、今回の事件は相当な波紋を生むものだった。
裏社会の三大大手が手を組み、なぜ歯車王の暗殺を目論んだのかは分からないが、この事件が何か別の事件に繋がることだけは分かる。
それは、裏社会に身を置いていれば三日で理解できることだ。
無論、この事件がミセリに繋がる可能性は少ないが、無視できないのも確かだった。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:32:32.82 ID:TQlpylRn0
ミセ*゚ー゚)リ「ねぇ、トソンさん」

(゚、゚トソン「はい?」

ミセ*゚ー゚)リ「ロマネスクさんに電話をつないでもらえますですか?」

(゚、゚トソン「そう言うと思って、つないであります」

ミセ*゚ー゚)リ「あら、優秀ですわね」

ミセリの側近であるトソンから電話を受け取り、ミセリは少し緊張した面持ちで口を開いた。

ミセ*゚ー゚)リ】「ロマネスクさんかしら?」

( ФωФ)】『おぉ、ミセリであるか。 吾輩になんのようなのだ?』

ミセ*゚ー゚)リ】「噂は聞きましてよ、歯車王の話」

( ФωФ)】『おぉ、もう聞いたのか。 ならば話は早い、ナースを何人かこっちによこしてくれ』

ミセ*゚ー゚)リ】「はい?」

( ФωФ)】『ナースのコスプレをした美人を何人かよこしてくれと言ったのだ。
        無論、トソンを入れ忘れるなよ』

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:34:25.88 ID:TQlpylRn0
ミセ*゚ー゚)リ】「あらあらまぁまぁ、それは急ですわね。
      どうにか手配しますわ」

( ФωФ)】『色は白だ、間違えたらただではおかないのである』

それだけ言うと、ロマネスクは電話を切った。
ミセリは軽くため息をつくと、机に突っ伏した。

ミセ;゚听)リ「わけわかんないですわ…」


――――――――――――――――――――

第一部エピローグ 『そら』

 第一部エピローグイメージ曲『美しい名前』The Back Horn

――――――――――――――――――――

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:36:48.48 ID:TQlpylRn0
歯車王の暗殺が失敗し、ドクオたちはロマネスクの隠れ家に集まっていた。
全員、満身創痍を絵に描いたような姿をしている。
ミセリの電話から二分で送り込まれた看護婦たちの手際は手慣れたもので、全員適切な処置を受けた。
中でも一等ひどい怪我をしていたドクオだったが、顔を歪めているのは怪我のせいだけではなかった。

( ФωФ)

それはその場にいる全員が同じ気持ちだった。
仕事を失敗し、ヌケヌケとロマネスクの元に帰ってきたのでは生きた心地がしない。
看護婦など、仕事をやり終えると一人残らず逃げ帰ってしまった。
好き好んで惨劇の場に居合わせたくない気持ちは、誰だって理解できる。

(((((;'A`))))(落ち着け、落ち着くんだ俺!)

その場にいる"五人"の中でも、ドクオの狼狽っぷりは見ていて清々しいほどだ。
ドクオほどの醜態を晒してはいないが、兄者も手にしたコップを握りつぶすほどの狼狽を見せている。

( ФωФ)「あー、諸君。 今回は残念だったな。
        二人の犠牲で済んでよかった」

ロマネスクの言葉は、その場の全員の予想を裏切った。
産業廃棄物、よくて生ゴミとして処分されるかと恐れていた全員が自らの耳を疑った。

ノハ ゚听)「あれ? 産業廃棄物コースじゃないの?」

( ФωФ)「次に失敗した時は覚悟してもらおう」

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:38:19.10 ID:TQlpylRn0
――――――――――――――――――――

自分の姿さえ分からない程の暗闇の中、機械で変えられた声が響く。

『ロマネスクが失敗したか…』

【歯車王とて、馬鹿ではないというわけか】

「しかし、これでは歯車王に余計な警戒をされるのでは?」

[何のために■■■を雇ったと思ってる?]

【五年がかりで集めた精鋭ぞろい…
 今回のロマネスクのとは規模も戦力も違うぞい】

「武器も揃えた、後は何を揃える?」

『計画は慎重に進めなければならない、つまり後は…』

[タイミングだけだな]

自分の姿さえ分からない暗闇の中、機械で変えられた含み笑いが響く。

【わしらで新たな都を作るため、全てを揃えた】

『忌々しい歯車王とも、この計画を機にさよなら…クククッ』

ロマネスクの歯車王暗殺失敗を契機に、五年がかりで張り巡らされた陰謀の糸がゆっくりと繋がってゆく。
誰もが予想もしないその計画は、新たな陰謀の歯車として動きだした。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/10/28(火) 23:39:27.63 ID:TQlpylRn0









                 第一部『歯車王暗殺編』 完


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