('A`)と歯車の都のようです

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 21:07:03.74 ID:41DBDfKT0

視界が黒一色に染まった。

あれは、夢ではない。
今まで見ていた光景こそが、夢だったのだ。
本来居るべき場所は、こんな場所ではない。
"歯車の都"こそが、ドクオの居場所であり、現実の世界である。

分かっていた。
こんなに幸せに溢れた温かな場所は、ドクオには相応しく無いことぐらい。
とても心地が良かったのだ。
思わず立ち止まってしまった程に、羨ましい物だったから。

でも、全てが違う。
本を書く約束など、狼牙と交わしてなどいない。
交わした約束は、もう泣かないと云う、ただその一つだけ。
狼牙の認めた男として、強く、強く生きる為の約束。

その約束が、あの日からドクオを変えた。
決して狼牙の信頼を裏切らないよう、何があっても絶対に諦めないと、自らに誓った。
夢の中とは云え、その事を思い出させてくれたのは、狼牙だった。
今でも狼牙の存在が、ドクオの精神的な支えである事の何よりの証拠だった。

笑い合える、温もりの溢れる優しい家族も。
平和な日常を、平穏に過ごす事も。

いずれも。
どちらの一つとして、ドクオには無かった。
愛情の欠片もない家庭に産まれ、平和とは無縁の都で育った。
ドクオは、全てを思い出していた。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 21:10:29.38 ID:41DBDfKT0
硝煙の匂い。
断末魔の叫び声。

血の味と匂い。
鮮血の赤さ。

殴られる痛み。
撃たれる痛み。

銃爪の硬さ、反動。
人を殺した時の感覚。

愛されない悲しみ。
必要とされない哀しみ。

誰かに差し伸べられた優しさの、その嬉しさ。
血の繋がらない家族の温もりに救われた事。

最愛の家族を殺した悲しみ。
最愛の家族と交わした約束。

青空とは無縁の、灰色の風景。
都中を覆い隠す濃霧。

無力さを棚に上げ、綺麗事を口にする人間の、その吐き気を催す忌まわしさ。
不純物があるからこそ美しい、あの都。

社会の歯車とは、自惚れた人間が口にする言葉だと云う事。
そんな大それた人間など、この世には存在しない事。
いるのは、誰かの歯車だけ。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 21:13:04.70 ID:41DBDfKT0



ようやく、自覚できたこともあった。
思い出せずとも、それは心と体に刻み込まれていた。
最早、それは記憶ですらなかった。
本能と同様か、それ以上の存在としてドクオを構成する一部になっていたのだ。



絶対に、諦めない事。
諦めた先には、何もない事。
だから、諦めない。



己の義に生きる事の難しさ。
揺るがぬ信念が、何よりも強い武器になる事。
プライドなど、邪魔な枷でしかない事。




―――ドクオを構成する全てが、ドクオに向かって叫ぶ。






11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 21:17:08.01 ID:41DBDfKT0







その心が諦めていないのなら。


その脚が、腕が僅かでも動くのなら。


今すぐ起き上がって動けと。








13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 21:20:06.10 ID:41DBDfKT0
黒い視界が一変して、ドクオは白一色の空間に居た。
何も無く、色の識別が出来るのは、自分が身に纏っている黒衣のおかげだった。
油断すれば、自分の存在さえ消えてしまうのではないか。
白い空間には、不気味な静寂が満ち溢れていた。

体は水の中に沈んでいるかのように、浮遊感が包んでいる。
脚は、果たして地に着いているのかは、分からない。
どこが地面なのか、分からないからだ。
まだ、完全に眼を覚ましていると云う訳ではなさそうだった。

意識とは裏腹に体が動こうとしない理由は、分かっている。
今起き上がっても痛むだけで、状況が何一つ進展しない事を体が理解しているからである。
一切の戦略も無しに起き上がってどうにかなる相手では無く、起きたとしても、死に急ぐ事になってしまう。
諦めかけている体でも納得できる方法で、裏を突くしかない。

その為には、まず排除しなければならない問題がある。
六本の副椀だ。
あらゆる攻撃を防ぎ、同時に、攻撃にも転じる厄介な代物。
全方位に自在に動き回り、この場所に居る限り、全ての場所が射程圏内だ。

銃弾を雨の様に撃ち込んでも悉く防がれた事を考え、手数で圧倒するのは無意味だと思い至った。
的確な場所に、的確な攻撃を。
事実、歯車王に後一歩の所まで到達できたのは、数百発の銃弾では無く、12発の銃弾による物だった。
副椀の存在さえなければ、と舌打ちをした。

自分の状態は最悪で、思うままに動けないのは明白だった。
M84の銃弾は底を突いていた。
一か八かに賭け、負けた。
一つの弾倉も、残されていない。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 21:24:24.21 ID:41DBDfKT0

―――持つ武器は、レッドホークだけだった。
六発だけだが、威力は絶大。
当たらなければ、M84と同じだ。
これらの弾を、全て副椀に注ぐ。

仮に全ての副椀を破壊できたとして、肝心の歯車王自身はどのように仕留めるか。
ナイフは無く、殴り合うだけの体力も、技量も無かった。
無謀な賭けではなく、歯車王が予想もしていない様な手段を択ばなければ、活路は見出せない。
でも、どうする。

どうにか、どうにかならないのか。
攻撃手段。
弾の無いM84、副椀を排除する為に使うレッドホーク。
体の各所のダメージのせいで、派手な動きは出来ないと云う問題。

特に、執拗に殴られ、蹴られた腹部の痛みは動きを極端に制限した。
一見して、どうしようもない。
しかし、頭は諦めていない。
と云う事は、何かがある。

気付けていない、何かが。
一つでいいのだ。
たった一つだけでも、相手の意表を突く攻撃があれば。
思い出す。

相手の言葉、行動。
そこに、何かヒントがあるかもしれない。
副椀は、遠距離、中距離、近距離からの攻撃に対して敏感に反応した。
だが、近距離で銃を使わない場合は手を出してこなかった。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 21:28:07.82 ID:41DBDfKT0

歯車王自身がその拳足を使って、ドクオを打ちのめしたからである。
何故、近距離で副椀が動かなかったのか。
鍵は、距離にある。
となれば、歯車王を倒すには近距離からの攻撃が有効だと分かる。

中途半端な距離では防がれるか、ロマネナイフが襲ってくる。
ただの近距離では無く、超近距離からの攻撃ならば阻害されずに確実に到達できる。
それを可能にする為に、一つだけ、有効と思える手段があった。
付け焼刃とは雖も、見てからまだ時間がそう経っていないし、何度か実際に試しもした。

再現は、不十分だが可能だろう。
残すは、武器だけだ。
何を武器に、歯車王に蝶至近距離からの一撃を叩きこむか。
考える。

思案する。
思考する。
考察する。
―――あった。

それは、全ての条件を完璧に満たしていた。
歯車王の意表を突き、また同時に、超至近距離からの攻撃も可能だった。
その為には、今思い出さなければならない事があった。
記憶を探る。

周囲の環境、ここまでに自分と相手がした動きがもたらす影響、ありとあらゆる条件、可能性を含め、推測した。
必要な答えが弾き出される迄に、一体どれだけ時間が掛かったかは分からない。
戦うのに必要な物は、これで全て揃った。
切り札は、思い出すまでも無かった。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 21:32:08.79 ID:41DBDfKT0


白い空間が、限りなく黒に近い深海の様な群青色に変わった。
仰ぎ見れば、そこには仄かな光が見える。
光の周りは宝石の様に美しい青色で、その光は水面の様に優しく揺り動き、輝いていた。
温かな光の溢れる世界が、あの夢の続きが、その先に待っているのだろう。


逆に、下を見る。
黒く、冷たい闇がそこにはあった。
だが、懐かしい空気がそこから溢れていた。
何も迷わず、ドクオはその闇に向かって意識を集中させた。


前に進む為に。
絶対に諦めないと、固く誓ったのだから。
意識が急速に浮上する感覚に、大人しく身を委ねた。



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23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 21:38:09.09 ID:41DBDfKT0
ドクオが眠る様に意識を失ってから、ここにまでに経過した時間は、コンマ1秒にも至らなかった。
そう。
これこそがドクオが気付いていない、天性の才能。
初代歯車王、ノリル・ルリノと同じ種類の才能でありながら、更にその上を行く才能だった。

思考の回転する速度が、常人と比べて桁違いに速いのだ。
幼少期、どの子供よりも思考が大人びていたのは、それが関係していた。
500年前、ノリル・ルリノはその類稀なる才能を発明に注いだ。
その結果は、現代でも十分通用する発明の数々に現れている。

彼女の発明した品々は、決して不具合が生じた例は無い。
それは、彼女の思考が誰よりも先の事を考えていたからだ。
だがしかし、その速さは精々が20倍以上。
段違いの才能を持つドクオは、約17年に渡る"偽りの"記憶を1秒未満に圧縮したにも拘らず、完璧に整理、把握、再現してみせた。

それだけではなく、逆転の為の戦略を考え出し、必要な事を全て完璧に計算し、幾つもの仮定に基づき、最も可能性の高い答えを導き出した。
今と状況は異なるが、父親による度重なる虐待が、図らずもドクオのこの才能を誘発し、子供とは思えない思考を強い続けてた。
命が危険に晒され、体中の全細胞が死を回避する為に総動員された時、この才能は目を覚ます。
今が。

今が、正にその時だった。

('A`)「っ……!」

転がって、考えた通りの行動に移る。
直後、ドリルが地面を砕いた音が、背中の方で聞こえた。
回避は成功した。
では、次だ。

川 ゚ -゚)「……ほぅ、流石に早いな」

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 21:42:14.79 ID:41DBDfKT0
感嘆の声を上げた素直クールを無視して、ドクオは動いた。
まだ、立ち上がらない。
強かに打ちつけられた背中の痛みは、1秒以下の間では全く癒えていない。
当然だ。

体感時間は数時間に及ぶが、実際は1秒未満しか経過していないのだ。
這いずり、ドクオは地を進む。

川 ゚ -゚)「おい、逃げるのか?」

目指す先は、既に決めていた。

川 ゚ -゚)「生きる為に?」

腹を踏まれた時、ドクオは自分の居る位置を把握できた。
この空間で唯一の出入り口。
それが、ドクオの後ろにあったのだ。

川 ゚ -゚)「悪くない選択だ。
     問題なのは、誰が許すか、だがな」

副椀が空気を裂いて来る。
息の根を止められる前に、ドクオは回避しようとした。
無理だった。

(;'A`)「……ぬぐっ!」

何発殴られたかは、分からなかった。
考える必要が無かったからである。
今、ドクオの全神経の九割近くは視覚に注がれていた。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 21:46:05.19 ID:41DBDfKT0

川 ゚ -゚)「逃げ切れると思うか?
     私を殺そうとした男を、みすみす見逃すとでも?
     本気で、そう思っているのか?」

どれだけ罵られても、一向に構わない。
プライドなど、とうの昔に捨てたのだから。

川 ゚ -゚)「這いつくばり、惨めな姿を晒してでも生き残りたいか」

もう一発、背中に打撃を受ける。
体をくの字に曲げ、体を抱きしめる様にして苦悶の表情を浮かべる。
容赦なく、何度も背中を殴られた。
胸の中のM84の遊底のロックが、衝撃で外れた音がした。

('A`)「……あたり前だよ」

亡霊のように立ち上がり、振り返った。
ドクオの眼は、死んではいない。
気だるげに見開かれた眼には、目の前にいる素直クールだけが映っている。
狙うは、ただ一人。

ゆっくりと、右手で腰からレッドホークを抜き出した。
撃鉄を起こし、その輪胴弾倉に六発の銃弾が入っているのを、素直クールは確認した。


川 ゚ -゚)「六発か。
     それが、お前の切り札か?」


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 21:50:06.22 ID:41DBDfKT0











('A`)「どうだろうな。
   当ててみろ、王様」


川 ゚ -゚)「まずは、お前が弾を当ててみろ。
     遠慮はいらん、来い、ドクオ」












37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 21:54:08.53 ID:41DBDfKT0

これは。
一か八か、ではない。
歌にもある通り、全か、無か、だ。
それでは。

それでは、遠慮なく見届けるがいい。
そう、ドクオは心の内で叫んだ。
気分は文句なしに落ち着いている。
どちらかと言えば、不思議な気分だった。

これからドクオが殺そうとしているのは、ただの人間では無い。
歯車王と云う肩書を持つ、ドクオの家族に当たる人だ。
その事実を知った時に感じた気分は、嬉しさだったのだろう。
あまりにも遠過ぎて、実感が湧かない。

きっと、殺したら悲しい気分になるかもしれない。
家族を殺すのは、初めてではないのだから。
素直クールが垣間見せたあの眼は、ドクオと同じ、家族と会った嬉しさからくるものだったかもしれない。
今真っ先に殺すべきは、自分の心にある不要な気持ちだった。


一歩。
踏み出した。


迫る。
腕が。
迫る。
ドリルを備えた、異形の腕が。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 21:59:05.13 ID:41DBDfKT0

レッドホークを胸の高さに構える。

来る。
腕が。
来る。
唸りを上げて、異形の腕が。

進む。
足取りは確かに。
何よりも静かに、穏やかに。
一切の無駄を省き、最適な脱力を、最適な時に。

風の中を泳ぐような。
風と戯れ、踊る様な心地で。
最速を目指すのではない。
歩くだけでいい。


クレイドルの遣い手の、誰とも違う。
今まさに、産まれたばかりの新たな形のクレイドル。
見て、真似て、学習して、そして洗練された。
これは、ドクオのクレイドルだ。


狙うは、ドリル本体では無い。
蛇腹構造の副椀の、その蛇腹の継ぎ目を直接狙い撃つ。
素早く移動する目標。
そして、目標は硬貨程の太さしかない。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 22:03:11.09 ID:41DBDfKT0
鋭い。
何と鋭く、何と凶悪な力を秘めた攻撃か。
風の唸りが、その破壊力を雄弁に物語っている。
食らえば、無事では済まない。

だが。
ドクオは知っている。
ドクオは覚えている。
ドクオは忘れてはいない。

あれよりも鋭く。
破壊の象徴たる一撃を。

そして、それを放つ女性を。
―――素奈緒ヒートの一撃は、誰よりも鋭く破壊的である事を。

比べるまでも無い。
恐ろしさは、ヒートの方が上だ。
圧倒的破壊力を行使する姿を間近で見て、それが強烈な光景としてドクオの網膜に焼き付いている。
ヒートは、素手による一撃で人体を文字通り本当に吹き飛ばす。

精々石畳を砕く程度の攻撃ならば、恐れる必要は何処にもない。
一歩、二歩と歩みを進める中、首を横に動かしてドクオはその攻撃を避けた。
最小限の動作で。
最大限の成果を得た。

レッドホークの銃口を、ドリルを誘導していた副椀に向ける。
撃ち砕く。
大層な装甲を持っていた様だが、このレッドホークの前では無力だった。
撃鉄を起こす。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 22:09:03.34 ID:41DBDfKT0










    残り、五発。

相手の副椀も、残り五本。











47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 22:13:03.53 ID:41DBDfKT0
もう一本のドリルが、一直線にレッドホークを狙って迫る。
精確。
迷いも、躊躇いも無く、何と精確な攻撃であることか。
一ミリたりとも狂っていないと云う、自信に溢れた攻撃だ。

だが。
ドクオは知っている。
ドクオは覚えている。
ドクオは忘れてはいない。

これよりも精確で。
決して狙いを外さず、より遠距離からでも即座にそれを可能にする一撃を。

そして、それを放つ女性を。
―――クールノー・ツンデレの一撃が、誰よりも素早く精確無比である事を。

比較対象にすらならない。
精確さと速度は、圧倒的にツンの方が上だった。
ツンの狙撃は、相手が悟る暇さえ与えない。
銃弾に死を纏わせ、彼女は無情の死を与える。

狙われても尚生きているならば、臆する必要は何処にもない。
二歩、三歩と歩みを進める中、ドクオはレッドホークでは無く身を逸らす事で、その攻撃を躱した。
事も無げに。
無駄に精確な一撃を。

レッドホークの銃口を、最後のドリルを誘導していた副椀に向ける。
銃声と同時にその副椀が砕け散り、ドリルが地面に落ちた。
これで、ドリルは無くなった。
撃鉄を起こす。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 22:16:09.84 ID:41DBDfKT0






   残り、四発。

相手の副椀も、残り四本。







53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 22:20:08.20 ID:41DBDfKT0
銀色の爪が、縦横無尽に動き回ってドクオに迫る。
これより先は通すまいと云う、護りの意志の様な物が窺える。
まるで、忠実な番犬だ。
なるほど確かに、護りは固そうだ。

だが。
ドクオは知っている。
ドクオは覚えている。
ドクオは忘れてはいない。

これよりも堅牢で。
何があっても、決めた人を必ず護り抜くと云う鉄の意志を。

そして、それを実行する男を。
―――内藤・ブーン・ホライゾンと云う、最高の護衛を。

洗練された技術と鉄の意志は、護り抜く為に。
ただ、それだけの為に。
ブーンに比べれば、この副椀の護りは脆すぎる。
既に数発撃たせている時点で、それは明白だった。

ならば、躊躇う必要はない。
この程度の護りなら、支障はない。
障害にすらならない。
三歩、四歩と足を進める。

左手を軽く上げて、払い除ける様な動作で横に逸らす。
攻撃を外した副椀は地面に深く突き刺さり、ドクオは蠢く副椀を鬱陶しそうに撃ち壊した。
もう、その副椀は動かなくなった。
撃鉄を起こす。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 22:24:18.50 ID:41DBDfKT0


残り、三発。
相手の腕も、残り三本。
後半分。



川 ゚ -゚)「……」


流石の歯車王も、ドクオの豹変ぶりに口を閉ざした。
認められた事が、少し嬉しかった。


('A`)「……」


纏わりつく様に風が頬を撫でる。
四歩、五歩と進む。
自然な歩調で。
自然な動きで。


残り三本となった副椀は、それでも狼狽えない。
訓練された軍犬の様に、己の任務だけを守る。
犬に、ドクオは阻めない。
阻めなど、するものか。


59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 22:29:04.44 ID:41DBDfKT0
四本目。
闇夜に紛れて、姿を晦ませている。
風を切り裂く音さえ聞こえない。
それは、今までと違い、とても落ち着き払った攻撃だった。

だが。
ドクオは知っている。
ドクオは覚えている。
ドクオは忘れてはいない。

これよりも静かで。
存在さえ感知させない攻撃を。

そして、それを得意とする女性を。
―――犬瓜銀は、その技でドクオを救った。

確かに、その存在を把握するのは難しいだろう。
聴覚、視覚による発見は困難だ。
ドクオの感覚器官に、レーダーは無い。
人間に対する最大のステルス効果があると言っていい。

ならば、己が経験を信じるだけ。
ドクオを狙っている物がある事が分かれば、十分だ。
研ぎ澄まされ、経験を積んだ感覚が見つけ出す。
迂闊なり。

ほんの僅かに首を前に倒すと、風が首筋を撫でた。
後ろを見もせず、ドクオは銃爪を引いた。
銃声に混じって、何か硬い物が砕ける音がした。
撃鉄を起こす。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 22:34:02.07 ID:41DBDfKT0






残り、二発。
相手の腕も、残り二本。
距離が縮まる。
素直クールは、腕を組んで顔色一つ変えず、眉一つ動かさない。



代わりに動くのは、残された二本の副椀だ。
だが、まだだ。
完全に副椀を排除するまでは、何も始まらない。
地面を滑る様に、一本の副椀が素早く動く。







67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 22:38:10.23 ID:41DBDfKT0
狙いを定めさせないよう、それこそ蛇の様な動きで翻弄する。
難無く接近した副椀は、その鎌首をもたげ、刺突を雨の様に繰り出した。
何と言う手数。
下手に近付けば、肉片にされてしまうこと請け合いだ。

だが。
ドクオは知っている。
ドクオは覚えている。
ドクオは忘れてはいない。

これよりも遥かに多い手数で。
暴風雨の様な攻撃を。

そして、それを現実のものとする女性を。
―――犬里千春は、その技で波いる敵の中から銀とドクオを送り出した。

破壊力と手数、そして精確さを兼ね備えた銃撃。
正に、暴風と称するに相応しい攻撃。
雨の如く繰り出される刺突が、生易しく感じられる。
所詮、見かけ倒しだ。

ならば、止まる必要はない。
結局のところ、雨を作っているのは一本の腕。
瞬きもせず、ドクオは五歩、六歩と進む。
本命は一撃、他はフェイント。

偽りの雨で濡れはしない。
攻撃を見極め、ドクオの脚を貫こうとした一撃を、脚を上げて避けた。
足元を通過したばかりの副椀を踏みつけ、撃った。
貫通した弾丸が地面に作った着弾点は、まるで小さなクレーターの様になっていた。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 22:43:25.43 ID:41DBDfKT0

残り、一発。
これで、レッドホークの弾は最後。
相手も、残り一本。
これで、副椀は最後。

撃鉄を起こす。
輪胴弾倉が回転して、最後の弾薬が発射位置に固定される。
銀色の銃身は夜空を映す。
銃口は副椀を覗く。

心臓の鼓動が高鳴る。
血管を流れる血潮の音。
体を走る血の温度を感じる。
緊張感は、最高潮に達していた。

吹き荒ぶ風の音が聞こえる。
建物の間を吹き抜ける風の音。
突き刺すような冷たい風。
風は、ドクオの背中を押していた。

二人分のコートの裾が風に靡く音がする。
待つ者は、ただ一人。
進む者は、ただ一人。
阻む物は、ただ一つ。

最後の一本は、正面から襲い掛かって来た。
迎え撃つ。
五本の副椀が奪った男の闘い方を見て、どのように攻撃を仕掛けてくるか。
獣の様な爪を使うか、それとも掴むか。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 22:48:07.03 ID:41DBDfKT0

副椀が選んだ答えは、どちらでもなかった。
握りしめ、拳を作った。
口の端が、思わず吊り上がった。
直線的な攻撃。

何と、何と真っ直ぐな攻撃か。
愚直。
姑息な手段や、凝った攻撃では無く、正面から堂々と来るのか。
ならば、こちらも正面から撃ち砕くだけだ。




ドクオは誰よりも知っている。

ドクオは何時までも覚えている。

ドクオは死ぬまで忘れない。

ドクオは、その全てを受け継いでいるのだから。





自分の気持ちを貫き通して、真っ直ぐに生きた二人を。
僅かな可能性を信じて、命を賭けた男を。
ドクオの未来を信じて、それを見届ける為に命を懸けた女性を。
その、二人の生き様に比べれば、何と温い攻撃であろうか。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 22:52:00.61 ID:41DBDfKT0










―――ジョルジュ・長岡と云う男の生き様を。
夢の中でも、ドクオに優しく接してくれた男。
ドクオの義を認め、賛同してくれた男。
弟の行方を知る為に、その命を賭けた一人の男。




ジョルジュの生き様が、ドクオの背を押す。











83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 22:58:00.52 ID:41DBDfKT0










―――犬良狼牙と云う女性の生き様を。
夢の中でも、ドクオに愛情を注いでくれた女性。
ドクオの可能性を信じ、期待してくれた女性。
自分の信じた未来を見届け、その未来の手によって命を断たれた一人の女性だ。




狼牙の生き様が、ドクオの背中を叩いて気合いを入れた。











88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 23:03:00.67 ID:41DBDfKT0

二人の生き様が、ドクオを動かす。
信念を貫く強さ。
諦めない強さ。
そして、強さの中にある優しさが。

全身が痛い。
歩く動作はおろか、呼吸する事さえ辛かった。
それでも。
それでも、体は軽かった。

正面から来る拳に、ドクオは応じる事にした。
到達するより早く、ドクオはレッドホークの銃口を副椀に向け、狙いを定めた。
一瞬の内にそれら一連の動作を終え、銃爪に掛けた指に力を込める。
何の事はない。

直線に来るなら、その直線を断てばいい。
焦らず。
慎重に。
素早く、撃つ。

着弾の直前、副椀はこれまでの経験を生かして、その身を僅かだが横に逸らすと云う離れ業をやってのけた。
直線的な攻撃から、よくぞ動かしたと、ドクオは心から称賛した。
ドクオの射撃は、それを計算に入れていたのだから。
銃弾が予想よりも外側に向かってしまい、副椀の半分を抉り取るだけに止まった。

一撃で破壊できなかったとは言っても、機能はほぼ停止したも同然だった。
己の攻撃の勢いが災いし、その拳は副椀から千切れ飛んだ。
それは狂った砲弾の様に飛来して、ドクオの腹の横を殴った。
最後の一撃は、打撃を加えられ続けて来たドクオの内臓機関にとっては、致命的な一撃となった。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 23:08:13.09 ID:41DBDfKT0

内臓の一部が破裂して、一気にドクオの喉を血の塊がせり上がった。
堪え切れず、血を吐き出した。
赤黒い血が足元に落ちて、鮮血の華を咲かせた。
呼吸は、全く乱れなかった。

足取りも変わらず、ドクオは進んだ。
もう、阻む物は無い。
六本の腕の護りが消えた。
これが、最後の好機。

進む。
前に進む。
真っ直ぐに進む。
只管に進む。

全ての弾丸を吐き出したレッドホークから、手を離した。
地面に吸い込まれ、レッドホークは地面に横たわって沈黙することにした。
役目を終えた赤い鷹は、そこからドクオを眺める。
いや、結末の目撃者となるのだ。

一際強く風が吹き、ドクオの背中を押した。
これまでとは一変して、荒れ狂う風は今やドクオの味方だった。
ドクオを運ぶ風は、正に終焉の運び手。
風に乗って、終焉を導く男の身は進む。

恐れるな。
怯えるな。
躊躇するな。
目指す場所まで、進むのだ。

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 23:12:28.78 ID:41DBDfKT0

追い風がドクオの負担を軽減している今やらねば、何時やるのだ。
残り、五歩。
四歩。
三歩。

レッドホークを持っていた手を、左胸にするりと差し入れた。
一歩進み、残りは二歩。
歩く中、自然な仕草でそれを掴む。
拒むことなく、それはドクオの手に馴染んだ。

誰かの手と握手をしているかのような、そんな妙に馴染む握り心地だった。
この感触は、ドクオを裏切らない。
眼は、素早く、そして精確に狙いを定めていた。
この感覚は、ドクオを裏切らない。

最後の一歩を踏み出す。
間合いに入る。
歯車王は動かない。
ロマネナイフを動かそうともしない。

滑らかな動作で抜き放たんとするのは、ベレッタM84。
撃鉄が起きている事が、掌から伝わる。
安全装置が掛かっていない事が、指から伝わる。
遊底はしっかりと閉じている事が、腕から伝わる。

狙うは、零距離。
絶対回避不可能の距離に、飛び込む。
銃把を掴むその手に、指に、腕に、力を入れる。
M84の銃口を、素直クールに向ける為に。

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 23:17:04.93 ID:41DBDfKT0




ここまで来たのだ。


ならば。


越えて行く。
そして、届かせるだけだ。


抜き放つと同時に、その銃口を届かせる。


たった一つ。
最後の一手が、ここにある。





全ての妨害を越え、遂に、銃口が素直クールの心臓の真上に届いた。





109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 23:21:21.66 ID:41DBDfKT0

川 ゚ -゚)「……やればできるじゃないか。
     で、弾の無い銃で撃って、何ができる?
     これでお前は一回死んだ、などと云う糞みたいな話なら、容赦なくタマを潰すぞ」


素直クールの言う事は、全くもって正しかった。
弾倉を全て使い果たしても、ドクオは素直クールに一発の銃弾を撃ち込む事は出来なかった。
現に、今ドクオの持つM84の弾倉も空だった。
それは、撃ち尽くした際に遊底が引き切って、スライドストッパーが掛かった事で証明されている。

しかし今は、その遊底は閉じている。
原因を、素直クールは知っていた。
ドクオを殴った際、その衝撃でストッパーが外れたのだ。
故に、今ドクオが向けているM84は虚仮威しに過ぎない。

そう結論を出すのは、ごく自然な話だ。
弾の装填されていない銃の銃爪を引いたところで、撃鉄が音を立てるだけ。
何の意味もない。
賭けはドクオの勝ちだが、勝負は素直クールの勝ちだ。

それでも、ドクオの眼は素直クールの眼を真っ直ぐに見詰めていた。
眼には、終わる事の安堵感や、死ぬことへの恐怖感はない。
別の。
もっと別の感情が、ドクオの眼には宿っていた。

素直クールは、その理由と正体が分からなかった。
胸部に突き付けられている銃口は、ドクオの努力を称賛する意味を込めて、払い除けない。
せめてもの努力の証として、残しておこうと思ったのだ。
宣言通り、ドクオの睾丸を潰すため、脚に力を入れる。

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 23:25:36.77 ID:41DBDfKT0










('A`)「これで」



そんな素直クールの思惑を裏切って、ドクオは口を開いた。



川 ゚ -゚)「……?」











120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 23:31:00.85 ID:41DBDfKT0







銃爪に掛けた指に、力を込める。
この時を。
この時を、待っていた。
全ては、この瞬間の為に。


切り札は、M84でも、レッドホークでもない。
そう、切り札は"物"ではなかった。
最後に決断して行動するのも。
体を動かし、この距離に来るのも。


全ては、ドクオあっての事。
徹頭徹尾、ドクオがいなければ成立しない話だ。
つまり、切り札は他でもない、ドクオ自身なのだ。
最後の一手を、"切り札"は解き放つ。







126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 23:34:08.34 ID:41DBDfKT0












              刮目せよ!

            これが、"切り札"!

            これが、ドクオだ!













132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 23:38:34.01 ID:41DBDfKT0
















                ('A`)「俺の勝ちだ!」













139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 23:42:17.97 ID:41DBDfKT0





直後。
有り得ない筈の事態が、素直クールの身に起きる。



―――乾いた銃声が、辺りに木霊したのだ。



音と衝撃。
その直後に、驚愕が素直クールの背中を駆け廻った。
一発。
たった一発の、銃声。





それは、都の終わりを告げるには十分だった。






147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 23:47:07.97 ID:41DBDfKT0
川 ゚ -゚)「……っ!」

弾切れしていた筈の銃で、何故撃てたのか。
一発の銃弾も、弾倉に残されていなかったと云うのに。
何故。
答えは、時間を遡ることで見つけられた。

この場所で、ドクオは弾倉の中を全て撃ち尽くすまで銃爪を引いていた。
一発たりとも銃弾を無駄にしない戦いを、ドクオが心掛けていたからである。
それは、確かな事実だ。
しかし。



一回だけ、例外的な行動をしていた。
殆ど無意識の内に起こしたその行動は、確実に歯車王、素直クールに銃弾を撃ち込む為に行っていた。
遊底を引いて。
未発砲の弾を排莢した、あの瞬間。



素直クールとの殺し合いの始まりを告げる事になった、あの弾丸だ。
あれを利用する事を、ドクオは思いついたのだ。
幸いにも、遊底は開き切っている。
撃ち尽くした状態のまま、ドクオはM84をホルスターに戻していた。

オープンスライドと云う特徴を利用すれば、銃弾を薬室に送り込むのは容易だ。
後は、その一発の銃弾を探すだけだった。
その為、ドクオは地を這った。
自分が最初居た地点、あの、遊底を引いた場所を思い出し、そこに向かったのだ。

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 23:52:10.79 ID:41DBDfKT0

想像し得る全ての影響を計算に入れて場所を割り出し、眼を細めて探した。
何度も殴られる中、遂に見つけた。
覆いかぶさる様にその上に乗り、次に受けた攻撃で、ドクオは一芝居打った。
半ば芝居ではないが、体をくの字に曲げ、苦悶の表情を浮かべた。

体を抱きしめるふりをして、さり気無く弾丸を薬室に送り込み、衝撃で外れたかのように見せかけ、遊底を閉じた。
故に、一発だけ弾が入った状態でM84の遊底は閉じていた。
レッドホークの六発で副椀を排除。
素直クールの予想を覆し、M84の一発が全てを終わらせたのである。

出来る事全てをやり終えたドクオは、とうとう体のバランスを自分で保てなくなってしまった。
弾丸を撃ち込まれた素直クールは、何も言わない。
ふらり、ふらり、とドクオは前に倒れる。
その体が、優しく抱きとめられた。






川 ゚ -゚)「……よくやった」






これまで殺し合いをしていたのが、嘘のようだった。
まるで、あの夢で狼牙がしてくれたのと同じ様に、優しさが溢れていた。

163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/01(金) 23:56:02.98 ID:41DBDfKT0













川 ゚ -゚)「これで……」




耳元に口を寄せ、素直クールが人間らしい、慈愛に満ちた声で囁く。











172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 00:00:12.74 ID:Yj2YvGML0















               川 ゚ -゚)「私の勝ちだ」














183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 00:05:25.66 ID:Yj2YvGML0
その言葉の意味が、理解できなかった。
どうしてだ。
確かに、ドクオの銃弾は素直クールの胸を撃ち抜いた。
ならば、ドクオの勝ちではないのか。

それとも、あの程度では死なないのか。
だとしても、もう、ドクオには何もできない。
減らず口を叩く事も、理由を尋ねる事も。
優しさに抱かれ、ドクオの体からは力が抜けて行く。

川 ゚ -゚)「強く育ったな、ドクオ。
     傷は痛むか?」

(;'A`)「あ……たりまえだ」

川 ゚ -゚)「ふふっ……それはそうか。
     まぁ、一日ぐらい経てば治るだろう」

(;'A`)「俺を何だと思ってやがる……」

川 ゚ -゚)「私の家族だ」

からかっている様子も、何か打算的な物言いでもない。
素直な気持ちを、心のまま語っている様に聞こえた。
口の端に付いていた血を、親指で拭いとってくれた。


(;'A`)「そうかい」


188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 00:09:06.83 ID:Yj2YvGML0

照れ臭かった。
しかし、最後に家族を殺そうとして、家族に殺されるのも、存外悪くない。
赤の他人に殺されるのに比べれば、遥かに気が楽だ。
最期の瞬間まで意地を通せて、少しだけ、ジョルジュと狼牙に近付けた気がした。

もう。
憧れた二人に恥じないよう、出来る事は全てした。
何一つ、何一つとしてやり残したことは無い。
これ以上、ドクオは何もできない。

闘うだけの体力も、武器も無いのだから。

川 ゚ -゚)「どうやら、誤解して……いるようだな」

気のせいか、素直クールの声が力を失っている様に聞こえた。

川 ゚ -゚)「確かに私の勝ち……だが、お前の勝ちでもある。
     誰も、お前が……負けたとは言っていないぞ」

いや、気のせいでは無い。
鉄の様に冷たかった声に、苦しげな響きが含まれている。

川 ゚ -゚)「これこそが、私の……望んだ結末なの……だから」

(;'A`)「何言ってるのか、わかんねぇよ」

川 ゚ -゚)「それでいい。
     分かったら、ふふ……
     それはそれで、良かったかも……しれないな」

192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 00:14:31.25 ID:Yj2YvGML0
では、素直クールにドクオが与えた一撃は、確かに意味を成していた事になる。
負けてはいない。
だが同時に、素直クールの勝利条件を満たすとは、どう云う訳か。
こうして殺される事が、望みだったと云うのか。

川 ゚ -゚)「自分の眼で……見てみるか?」

抱きとめていたドクオを解放して、素直クールは眼下に広がる光景を見るよう、眼で指示した。
どうにかバランスを取りつつ、ふらふらと進んで屋上の端に行き、縁に凭れかかる様にしてその光景を見た。
違和感があった。
何かが足りていない。

それは、すぐに分かった。
光の数が、減っている。
遠くに見える場所は暗闇で覆われ、光さえ見えない。
見ている間にも、一つ、又一つと光が減って行く。

停電にしては、妙な消え方をしていた。
影がこちらに向かってくるような、異様な消え方だった。
音も無く。
静かに。

(;'A`)「なんだ、これ……」

川 ゚ -゚)「これが、私とお前の……勝利の証拠だ」

高層ビルも。
小さなビルも。
アパート、マンション。
街灯に至るまで、ありとあらゆる光が消える。

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 00:18:16.23 ID:Yj2YvGML0


唯一の例外は、大通りを走っている車だけだったが、光は止まっている。
爆破の影響で、暫くの間は通行止めになっているからだ。
疎らに続く一本の光の帯だけが、真っ直ぐに続いている。



川 ゚ -゚)「ふふ……
     これで最後なんだ、そろそろ……意地悪は止めておくか。
     なぁ?」


その声は、ドクオでは無く、此処へと続く入口に向けられていた。
誰か、いるのか。
跫音が聞こえて来た。
一人、二人、三人。



川 ゚ -゚)「ドクオには……知る権利がある。
     そして、我々には教える……義務がある。
     そうだろう、我が友よ」



合計で三人分の跫音だと云う事が分かり、ドクオはそちらに視線を転じた。
素直クールの物言いからすると、今回の顛末を知る人間で間違いなさそうだ。
そして、現れた三人の姿を見て、ドクオは我が目を疑い、絶句した。

204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 00:22:14.00 ID:Yj2YvGML0
ζ(゚ー゚*ζ「そうね、ここまで頑張ってくれたんですから。」
       教えないのは、流石にかわいそうね」

"女帝"クールノー・デレデレ。

(#゚;;-゚)「……ん」

"帝王"でぃ。

( ФωФ)「そうだな、巻き込んだ以上、話すのが道理だ」

そして、傷だらけの"魔王"杉浦・ロマネスク。
彼の背には、幸せそうな顔を浮かべて身じろぎ一つしない渡辺・フリージアの姿があった。
裏社会を代表する御三家が、一堂に会していた。
素直クールを含めて、都を牛耳る全ての王がこの場に揃っている。

川 ゚ -゚)「予想通りの……反応だな」

息継ぎをする度、素直クールは苦しそうに言葉を区切った。
その横に、三人の王が寄り添う様に立ち並ぶ。

川 ゚ -゚)「さて、どこから説明……したものか」

ζ(゚ー゚*ζ「私が言うわ、クー」

デレデレは、素直クールに肩を貸して、そっと座らせた。
背負っていた渡辺の亡骸を抱え直し、ロマネスクは身を寄せ合う様にして素直クールの横に腰を下ろす。

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、ドクオちゃん。
       まずは、私達の関係から話した方がいいかしら?」

207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 00:27:31.39 ID:Yj2YvGML0

まだ衝撃から立ち直れていないドクオに変わって、デレデレが続ける。

ζ(゚ー゚*ζ「私達四人はね、幼馴染なの」

もう一度、ドクオを衝撃が襲った。
幼馴染は、三人だけではないのか。
であれば、都を支配していたのは全員が幼馴染。
しかし、納得できる点が多い。

素直クールの死亡に関する書類は、ナイチンゲール。
即ち、水平線会が提出していた。
モララーも、またんきに関する書類もそうだ。
遺伝子情報を改ざんする事など、朝飯前だろう。

幼馴染は、四人いる。
四人。
ロマネスクがさり気無くその情報をドクオに教えていた事を、今になって思い出した。
あれは、大通りでの騒動の後、狼牙の墓参りを終えてから帰ろうとした時の事。

狼牙の死を知るのは、ドクオを除いた六名だと言っていた。
その時にドクオは、違和感を覚えていたが、その正体が分からずじまいだった。
今なら分かる。
ドクオの持っている情報と人数が合わなかったのだ。

ドクオ、千春、そして銀。
これで三名。
そして、ロマネスクとその幼馴染と言えば、デレデレとでぃしかドクオは知らない。
故に、ドクオの情報では六名になる筈だった。

214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 00:31:10.78 ID:Yj2YvGML0

だが、ロマネスクはドクオを除いた六名、つまり合計で七名と言った。
知らない人間が入る余地があったのは、ロマネスクの幼馴染と云う部分だった。
勝手にロマネスクの幼馴染は三名だと決めつけたせいで、死角が生まれてしまったのだ。
幼馴染は三名だけだと、明言されていないにも拘らず。

とすると、だ。
最初から、全てが仕組まれていた事。
掌の上で踊っていた事になる。
では、それは一体誰の掌の上なのか。

四人が最初から繋がりがあるとしたら、どうして、歯車王を暗殺しようなどと考えたのか。
一体、誰が。

ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ、二つ目。
       ここに至るまでの計画の発案者は、クーよ」

自らの暗殺を、自ら計画した。
理由が、皆目見当もつかない。

ζ(゚ー゚*ζ「そこから先は、本人が話した方がいいんじゃないかしら?」

川 ゚ -゚)「そう……だな。
     単刀直入に尋ねよう、ドクオ。
     始まりの歯車を、知っているな?」

曰く、全ての歯車を統率、管理が可能なシステム。
それは、神話の様に語り継がれてきた一つの噂だ。
ドクオも、ここに住んでいる以上、その話は何度も聞いた事がある。
眉唾な風説とは言い切れないが、実物を見た事がある人間が皆無である為、その存在の真偽は謎だ。

218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 00:34:32.56 ID:Yj2YvGML0

川 ゚ -゚)「あれは、実在する」

馬鹿な、とは言えなかった。
ナノギアの発明が実在する事を考えると、おかしな話ではない。
ただし、誰も見た事がない噂だけのシステム。
第一、そのシステムがあったからこそ、今日までこの都は繁栄する事が出来たのだ。

川 ゚ -゚)「ここで……一つ訊こう。
     システムの最も安全な……状態を、知っているか?」

他の外部と一切の繋がりを断ち、何にも頼らず、独立して動作が可能な状態。
孤立こそが、最も安全だと云う考えだ。

(;'A`)「スタンドアローン、だっけか?」

川 ゚ -゚)「そうだ。
     あのシステム……は、完璧なスタンドアローンの状態で……管理されている」

誰も見た事が無いのがそう云う理由なのであれば、得心が行く。
人目につけば、それを奪おうとする不逞に輩が絶対に湧いて出てくる。


川 ゚ -゚)「そして、それは……今、お前の眼の前にある」


にやり、と素直クールが勝ち誇ったように口元を笑みの形にした。
答えが、分かった様な気がした。
だがしかし、そんな事が有り得るのだろうかと、疑わずにはいられなかった。
つまり、始まりの歯車は―――

224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 00:37:19.38 ID:Yj2YvGML0










              川 ゚ -゚)「ふふ、そうだ、私が……
                   私こそが、始まりの歯車だ」






それから、素直クールはゆっくりと話を始めた。
いつの間にか、風は凪いでいた。










228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 00:40:11.31 ID:Yj2YvGML0


――――――――――――――――――――


今から約530年前。
一人の天才が、この都に生まれた。
後に、歯車王の名で呼ばれるノリル・ルリノその人である。
彼女は、この都で生まれ育った科学者だった。

幼い頃からその才覚を発揮して、周囲をよく驚かせていた。
誰よりも先の事を考え、多くの発明を生み出した。
当然、両親は彼女を持て囃した。
この才能は、天より授かった才能である、と。

近い将来、我が子が歴史を変えると確信していた。
学校の成績は常に首位を独走していただけでなく、教師よりも授業内容を深い意味で理解していた。
12歳の時には、学校側の強い要望によってその大学へと飛び級で進む事が出来た。
学費や生活費、必要な研究費も、全て大学が負担する代わりに、50年間在学する事を条件に提示され、ノリルは快くそれを承諾し、そして研究に没頭した。

当時、彼女によって作り出された新しい発明は、有名な物だけでもその数は百を下らないとさえ言われている。
中でもノリルが興味を示して熱心に研究を進めていたのが、歯車だった。
単純な構造の歯車にノリルが惹かれた理由は定かではないが、彼女は歯車に何らかの可能性を見出したのだろう。
取り憑かれたように新しい機構を考え、定義を見つけ、しかしそれは公表されなかった。

この時既に、ノリルは自分の目指す物が見えていた。
全ての素材が揃い、それが完成してからノリルは発表しようとしたのだ。
研究の片手間に出来た発明を発表して、学会の人間を黙らせ続けた。
そして、両親の死後、若きノリルは最後の一つの機関の発明に着手する段階にまで到達する事が出来た。

230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 00:43:16.30 ID:Yj2YvGML0

それが、始まりの歯車と呼称される機関である。
これまで発明して来た新しい形の歯車の全てを統括、管理、制御するだけでなく、様々な機能を備えた完璧な機関だった。
始まりの歯車は、ノリルが魅せられ続けていた歯車の技術の集大成とも言える発明であり、周囲には決して知られない様に研究は進められた。
学会でノリルに散々舌を巻かされ続けてきた事情を知らない研究者達は、流石の彼女もとうとう気が狂ったのだと噂した。

一人で暗い研究所に籠って研究する様子を、事情を知らない人が見れば、確かに狂ってしまったのだと思うだろう。
ノリル自身もこの研究の難しさを分かっていたが、頭はこれまでにないぐらい冴えていた。
機関の構想は出来上がっている。
その為の下準備も、全て完成している。

ただ、実用化に際して問題が幾つか浮上していた。
完璧主義とプライドの塊であるノリルは、失敗は元より、それを導きかねない問題さえも許さなかった事から、その存在は伏せ続けられた。
余計な邪魔が入らないよう、これまでに得た莫大な金で自分だけの研究所を作り、そこに全てを移した。
有り得なかった話だが、問題に目を瞑ればこの段階で始まりの歯車は実用化が可能だった。

許されなかった問題とは、システムの自己進化、及び管理方法だった。
小型化及び軽量化、最適化も済み、残ったこの二つの問題を解決するだけになっていた。
多くの自己進化の方法を考え、生体を利用する事が最も適している事に辿り着いた。
密かに動物実験にも着手したが、マウスや犬の脳細胞を利用しても、自己進化には限界があった。

与えられた単純なプログラムをこなすのが精一杯で、何一つ目ぼしい進化をしなかったのだ。
動物実験は始まりの歯車と同様、極秘裏に行われていて、ノリル以外、誰も知らなかった。
どちらか一つを知られただけでも、歴史は大きく変わってしまう。
歴史の変動は確実にノリルの実験に支障をきたすので、今はまだ、歴史を変える時ではないとの判断だった。

不眠不休の状態は何ヵ月も続き、目の下には隈が絶えなかった。
人に近いと言われている猿の脳細胞を利用しても、ノリルが思った通りの成果は得られなかった。
目指していたのは、ノリルの死後も一人で進化を続けるシステムだった。
誰かの踏み台にされ、過去の遺物として終わるのでは無く、常に歴史の終着点として先行するシステム。

232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 00:46:33.28 ID:Yj2YvGML0

誰にも、ノリルの先を歩ませない。
他の研究者が見るのは、ノリルの後塵だけでいいのだ。
その一心で、ノリルは研究を続けた。
遂に、ノリルは禁忌に手を出す事を決意した。


人体実験である。


この人体実験を行うには、どうしてもノリル一人では力が足りなかった。
そこで、ノリルは信頼を置く優秀な二名の助手にこの事を話した。
無論、信頼性に欠ける"男"ではない。
男は、女よりも劣った生き物であると云うのが、ノリルの持論だったからだ。

ノリルの思想に共感する二名の助手は、快くその誘いを受け入れた。
オーケンとマッドである。
恋人もおらず、結婚もしていない。
何より、ノリルの指示に文句一つ言わずに研究を手伝うところを、ノリルは他の人間よりも評価していた。

二人の力を借り、金で買った人間の脳細胞を使用して、多くの実験を行った。
何度も実験を重ねる内、ノリルは一つの考えに至った。
何も、脳細胞だけを利用するのではなく、人体その物も利用すれば、と。
始まりの歯車を人体に移植すると云う構想は、こうして生まれた。

正に、それは完璧だった。
理想的なスタンドアローンを可能にする一方で、これ以上に無いぐらい完璧な自己進化も行う。
自己進化の更なる研究を続けながら、次にノリルは管理方法についての研究も同時並行で進めた。
どれだけ完璧なシステムでも、それを盗んだり、破壊したりと狙う人間が必ずいる。

234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 00:49:33.03 ID:Yj2YvGML0

必要としたのは、自己防衛システムだった。
何人たりとも触れ得ぬ防衛システムを持ち、完璧なスタンドアローンの状態を保つ。
"孤独の王"と名付けた防衛システムの開発は、既に構想を含めた全ての下準備が完成していたので、後は実用化するだけとなっていた。
遂に完成したのは、蛇腹構造を持つ、六本の副椀だった。

自己学習、自己判断、自律行動、自動防御、始まりの歯車との連動。
背中に移植する事によって、あらゆる攻撃から始まりの歯車を防衛する。
そしてこれは、驚異を自動で排除する機能を備えていた。
攻守をより完璧にする為に、もう一つ、ノリルが用意していた物があった。

長距離からの攻撃に備えた、索敵装置との連動である。
ナノギアと呼ばれる極小の装置を都中に散布して、それから伝えられる情報を元に防御行動を取る様にしたのだ。
霧の様に細かなナノギアは、銃の存在等を精確に伝え、的確な行動を起こすよう設定された。
他にも天候の操作など、ナノギアは幅広い用途に仕える事から、基本的にナノギアはそれ単体で動くように設計する事にした。


正に、完璧なシステムだった。


人々が知る歴史とは異なり、実は、ナノギアはこの時に完成していたのだ。
オーケンとマッドは、このシステムの存在に感動した。
自分達が生きている時代よりも、遥か先。
想像も出来ないほど先の未来の技術が、たった一人の手によって生み出されている。

その研究に携われる事は、彼女等にとって最高の栄誉だった。
二人の内どちらも、この情報を外に流そうとは思わなかった。
副椀の完成と共に、三人は最後の実験に移行した。
ここでようやく、オーケンとマッドが研究に大きく携われる事が出来た。

238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 00:52:18.56 ID:Yj2YvGML0

人体実験には、普通の人間を使わなかった。
遺伝子情報を操作して産んだ、完璧な存在でなければならないからである。
この結論に至るまでに、彼等は100人以上の人間を実験材料として廃棄処分にしてきた。
並みの人間では、始まりの歯車の移植以前に行ったテストの段階で耐えきれなかったのだ。

ナノギアから伝えられる情報は、常時数兆を超える。
それらを一瞬で同時に処理しようとすると、多くの人間の脳は数秒で焼き切れ、狂って死んだ。
また、運よく数分間だけ生き延びた人間もいたが、体が拒絶反応を示して悶絶した末に息絶えた。
必要だと思われる大まかな数字が導き出され、それを現実化する為に遺伝子操作と云う方法を思い付き、この時に体外受精と云う方法も考え付いた。

世界各国から、優れた能力を持つ人間を集め、その遺伝子情報を採取した。
まだ当時では遺伝子の事は解明されていなかった為、誰も何も思わなかった。
無料で招待され、高価な料理や酒が振る舞われた。
その見返りは、毛髪を数本と血液を少量採取されただけだった。

こうして、優秀な遺伝子情報をノリルの下に続々と集める事が出来た。
当時の技術を遥かに上回る実験が、密かに始められた。
優れた遺伝子を組み合わせた子供を産ませ、何度も試行錯誤を繰り返した。
実験に協力した母体は、実験が終わると同時に処分する事で、機密を守り続けた。

最初に生き延びる事が出来たのは、大量の筋肉を備えた男児だった。
生まれながらにして持ったその肉体は、拒絶反応を完璧に押さえ込むのには十分過ぎた。
だが、その代償として脳の処理能力が若干弱かった為、移植は見送られた。
遺伝子情報の提供者から名を取り、クックル・アームストロングと名付けられた。

次に生き延びたのは、一卵性の双子だった。
拒絶反応を押さえ込めるだけの体力があったが、最大の特徴は情報の分担処理だった。
一つの脳に負担させるのではなく、二つの脳で負担を分散させると云う考えは、だがしかし、能力の大きなバラつきによる不具合を懸念して、これも見送られた。
二人は、兄をワカッテマス・ビロード、弟をワカンナイデス・ビロードと名付けられた。

241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 00:55:01.55 ID:Yj2YvGML0

四番目の子供は、他とは若干異なっていた。
前回の事を踏まえて、今回は同じ情報から能力を高めに設定した二人の兄弟を作り出した。
基本となる遺伝子は同じだが、産まれる順番によっては、能力値に違いが見られるかもしれないと考えたからだ。
先に生まれた兄は、理想的な体力を備えており、情報処理の能力も悪くはなかった。

最大の特徴は、彼らがESPと呼ばれる能力を有するとされている人物から採取した遺伝子を使った事だ。
催眠術の様に、起きている状態の相手に幻覚を見せる事が出来るのだが、二人は僅かに処理能力が理想の値に足りなかった。
その為、一人は手間を省く為に生まれる前の状態で冷凍させ、もう一人はサンプルとして生かされた。
彼等は、兄をショボン・ションボルト、弟をシャキン・ションボルトと名付けた。

四人のサンプルが生まれたが、一人として、ノリルを満足させる数値を出さなかった。
必要な情報を全て採取してから、ノリルは彼等の成長速度を落として保存する事にした。
子供の世話をする気は無かったが、ゆっくりとでも成長させておけば、まだ実験素材としての使い道があるからである。
研究は、最後の壁に直面していた。


処理能力だ。
たったそれだけ。
体力面では、クックルのデータを元に必要な値が出されている。
ESPと呼ばれる能力も、遺伝子操作によって付与できる。


その後も、ありとあらゆる遺伝子で実験を繰り返したが、廃棄の量が増えるだけだった。
名前を付けることも無く、管理番号で呼ぶだけになった。


ノ(゚−゚#ノリル「どうしてだ!
      どうして、どいつもこいつも頭が悪いんだ!
      頭が悪いなら、産まれてくる意味など無い!」

244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 00:58:25.62 ID:Yj2YvGML0

失敗が続く度、ノリルは苛立ちを覚えた。
他の国で、天才と呼ばれる発明者の遺伝子を使っても、結果は変わらなかった。
彼らが持っていたのは処理能力では無く、閃きの才能だった。
何年も研究所に籠って作業をしている為、ノリルの顔は病的なまでに白かったが、怒った時はその顔が赤く染まった。

最終段階に来てから、時間を惜しんで一度も学会に新しい研究を発表していない。
事情を知らぬ研究者達の間では、彼女の時代は終わったと囁かれ始めた。
それが彼女のプライドを傷つけ、より一層ノリルを怒らせた。
ノリルを馬鹿にする研究者達が嬉々として進めている研究は、全てノリルにとっては既に通過した物だった。

何も知らない無知な馬鹿共が、好き勝手に言って回る。
所詮は通過点。
彼等は、後世の踏み台になる研究をしているのだ。
今すぐにでも、彼らの研究を根底から否定してやりたい。

新しい研究を発表して、その研究が如何に無駄だったかを知らしめたい。
努力が無駄だったと罵ってやりたい衝動は、強くなる一方だった。
怒りのあまり自分の唇を噛み切って、その血が机の上に滴り落ちた時、彼女は閃いた。

ノ(゚−゚ノリル「そうか……
      私の遺伝子を使えばいいのか」

利に適った結論だった。
誰かに頼ったせいで、このような事態に陥ったのだ。
ならば、自分の遺伝子を使えばいい。
誰よりも優れた自分の遺伝子なら、失敗は無い。

「え、えぇ。
構いません、これで、実験が成功するのであれば」

248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 01:01:13.36 ID:Yj2YvGML0
実験が始まった当初は、やや太っていたオーケンだったが、連日の実験で頬が痩けていた。

「無論です!
ノリル様の実験の為なら!」

眼を怪しげに輝かせるマッドは、壊れたメガネの淵を上げた。
二人とも、髪はボサボサで、白衣は乾いた血と新しい血で染まっていた。
研究者冥利に尽きる。
それが、二人を動かす原動力だった。

こまで採取した情報から、必要な物を選別。
それをノリルの遺伝子から取り出した物と組み合わせ、優れた遺伝子へと変えた。
夢見心地のまま、オーケンとマッドは体外受精を済ませた卵子を受け入れた。
三人は子を身籠り、保険の為、別々の場所で一人二回の出産する運びとなった。

"No-A001"
オーケンの産んだ女児は、産まれて間もなく死亡した。
免疫力が弱い上に、体力が無かった為と思われる。
死体は、焼却処分された。

"No-A002"
次に、男児が生まれた。
腕が一本で、両目が潰れている事を除けば健康体だった。
無論、産まれてすぐに殺された。
結局、オーケンは適合する子供を生むことは出来なかった。

"No-B001"
マッドの産んだ男児は、ひ弱だった。
確かに遺伝子情報は受け継いでいるが、母体が悪かったのか、上手くそれが反映されていなかった。
未来の暗い男児は、生きる事を許されなかった。

251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 01:04:32.62 ID:Yj2YvGML0
"No-B002"
次に生れたのも、男児であった。
健康体、そして、頭脳も問題は無かった。
重度の知的な障害を持っていなければ、この男児は毒殺される事は無かった。

"No-C001"
"No-C002"

そして、ノリルは二人の女児を無事に出産した。
最初に出産した女児は、全ての能力を完璧に満たしていた。

致命的な欠陥は何一つ見受けられず、一先ず、次の女児が生まれるまで移植を待つ事となった。
しかし、次に生れた女児と能力を比較した時、No-C001の方が優れている事が分かった。
ノリルは何の迷いも無く、二人目の女児を処分するように病院側に言い渡した。
結局、残ったのはNo-C001だけとなった。

改めて、神童と呼ばれる子供と比較してみても、その体力、処理能力。
感情の制御、学習能力、ひらめき等。
全てが圧倒的だった。
移植が可能になる年齢が来て、早速移植手術を施し、実験の成果を確認した。

脳が焼き切れ、発狂する事も無い。
実験は、成功であった。
遂に、彼女達の実験は成功したのだ。
それから二人の助手の力を借りて、その女児を育てる事になった。

発表できるまでに必要な時間は、およそ10年。
十年間の中で不具合が生じなければ、この実験は世に発表できる。
都中、いや、世界中の研究者が誰も到達できない様な領域に、彼女は行けるのだ。
生き延びたその女児に、ナンバーから文字った名を与えた。

253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 01:07:38.26 ID:Yj2YvGML0














                クールノー、と。















260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 01:10:50.81 ID:Yj2YvGML0

普通の子供としてではなく、道具としての教育を施した。
言語が理解できるようになると、様々な計算や現象を教え始めた。
兎に角、ありとあらゆる知識を教え込んだ。
目論見通り、10年が過ぎる頃には、ノリルの持つ知識の全てを習得していた。

寿命を無くすためにクールノーの体の殆ど全てを機械に置き換え、そして、世に始まりの歯車を発表した。
必要な事以外、何も説明はしなかった。
言わずもがな、姿形等は一切説明せず、ただ、始まりの歯車と云う装置を発明した事だけを伝えた。
あまりにも劇的な発明に、説明は全く不要だった。

発表された歯車は、都に驚異的な発展を促した。
ナノギアの存在はあえて発表せず、自分の歯車が都中に広まった時期を見計らって誰にも知られないよう散布した。
様々な観測データを収集する為に散布したナノギアの為に濃霧が頻繁に発生し、都の空が雲に覆われたのは、天候操作の為に撒かれたナノギアが原因だった。
これが、今から約500年前の事である。

後に、ノリルは歯車王と呼ばれ、都中から称賛された。
彼女の事を狂っているなどと言った研究者は、一人の例外無く彼女に頭を垂れ、許しを請うた。
ノリルは、これでもまだ満足しなかった。
より終着点に達する事を目指し、遺伝子情報を利用した法律を作った。

誰も、彼女と同じ領域には脚を踏み入れられなくなった。
クールノーと名付けた始まりの歯車を身近に置いて、ノリルはその後も研究を続けようとした。
しかし、彼女はこれ以上の想像が出来なくなりつつあった。
出来たのは、今あるシステムをよりよく改良する事だけ。

自ら到達点を目指した末に、彼女は目標を見失いつつあった。
これまでは、純粋に発展の到達点と云う物を見ていたが、それが無くなった今、彼女には目標が無かった。
初めて焦りを覚えたノリルは、改良点を探す以外にすべき事を見出せなかった。
挫折を知らない人間は、今感じている感情が何であるかさえも分からなかった。

262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 01:13:20.58 ID:Yj2YvGML0
そこでノリルが至ったのは、自己保身の考えだった。
完璧な自己学習機能を備えた始まりの歯車だが、何らかの不具合。
例えば、反抗や反逆を起こさないとは限らない。
幾つかの危険性を考え、ノリルはそれらの可能性を完全に封じる為の方法を考えた。

遺伝子情報を利用する事で、その問題は解決する事が可能となった。
特定の遺伝子を持つ人間に対して、孤独の王の起動を制限した。
完全に制限するのではなく、殺す、と云う一点だけをその対象とした。
今後、自分が発狂して始まりの歯車を破壊しないとも限らない。

自分の心が日々壊れて行くのを、ノリルは痛いほど感じていた。
せっかく完成させた到達点を自分の手で破壊するなど、愚行としか言えない。
であれば、例え製作者と雖も排除する必要性が生まれる可能性があった。
殺す事は出来ないが、殺さない範囲でなら、ノリルの遺伝子情報を持つ人間に手出しが出来るようにした。

完全な孤立、即ちスタンドアローンが完成した瞬間でもあった。
手に入れた莫大な資金を利用して、ノリルは研究所のあった場所に城を建築した。
この城は権力の象徴では無く、ノリルが残った人生を安全に過ごす為に作った、巨大な避難所としての意味合いの方が強かった。
誰も信じず、誰にも頼らず、始まりの歯車を秘書として周囲に紹介して、ノリルはその余生を過ごした。


ところが。
ノリルの予想を裏切る出来事が、この時すでに起きていた。
病院側に処分を依頼していた女児が、生きていたのだ。
それは、一つの欲望が関係していた。

当時はまだ経済が活発で無かった都では、子供を売り買いする商売が平然と行われていた。
子供が欲しいが、体質で子を持てない親や、跡継ぎのいない富豪が跡継ぎを作る為に等、理由は様々だった。
特に、女児は様々な理由から買い手が多かった。
成長してからも、成長途中にあっても、その需要は変わらない。

265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 01:16:41.54 ID:Yj2YvGML0

眼の前で処分するように言い渡されたが、それを受けた中年の看護婦が密かに自分の家に持ち帰っていたのだ。
人身売買に詳しかったこの看護婦は、どのぐらいの年齢になれば高値で売れるのかを把握していた。
十二年も育てれば、十分な高値がつく。
最初は、そのつもりだった。

周囲には孤児を拾ったのだと説明して、誤魔化してきた。
最低限の教育を受けさせていたのは、売る際に不都合な事がないようにするためだ。
無知な女児よりも、少しは教養のある方が何かと買い手が多いのだ。
変態の考えを理解するつもりはなかったが、これは確かな事実だった。

だが、事態が変わったのは皮肉にも、ノリルの発表だった。
彼女はこれまでの都の歴史を一変させ、一夜にして都市国家へと導いた。
正に、神にも等しい存在として、その名を馳せた。
看護婦は持ち帰った赤ん坊の親の顔と名前を覚えていた為、すぐに自分が育てている子供がノリルの子供である事が分かった。

発表を知った看護婦は狂ったように喜び回った。
遂に、自分にも運が廻って来た。
ノリルの死後に、この子供が彼女の子供である事が分かれば、どうなるか。
莫大な遺産が転がり込んでくる。

輝かしい未来が、看護婦には容易に想像出来た。
その日は都が偉大な発展を遂げた一方で、自分の欲望を叶える為に、一つの歯車が廻り始めた日にもなった。
看護婦は子供に、事実を告げ、そしてそれが如何に素晴らしいかについて教育を施した。
始まりの歯車とほぼ同等の能力を持つその子供は、すぐに事情を理解した。

ノリル譲りの過大な自信とプライドを持って、その子供は成長した。
結論から言うと、その看護婦の淡い夢は叶わなかった。
叶える前に、心筋梗塞で死亡してしまったからである。
その後、残された子供は高い自尊心を持ちつつも、いつか来る日を夢見ていた。

266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 01:20:33.82 ID:Yj2YvGML0
子孫を残す為、30歳年上の実業家の男と結婚もした。
当然だが、その結婚は愛し合ったからでは無く、単純な利益を見込めるから結婚しただけの話。
虎視眈々とノリルが死ぬのを待っていたが、そう簡単にノリルは死ななかった。
子供が生まれ、その子供に、自分達がどれだけ特別な存在なのかを教え込んだ。

自分の知らぬところで予想外の出来事が起きているとも知らず、ノリルは正気を失い、やがて孤独に死んだ。
世間に向けての発表では、静かに死んだとされているが、実際は狂い死に近い形だった。
何も考えが浮かばない恐怖に、肉が削げるのも構わずに体を掻き、髪を毟った。
歯はボロボロになり、歯茎からは常に血が滲んでいた。

対照的に眼は輝いていたが、焦点が合わず、どこか別の場所を見ていた。
口からは涎と血が混じった液体が垂れ、ぶつぶつと呟く事が多かった。
幻覚と幻聴が彼女の精神を蝕み、妄想がそれを加速させた。
排泄物を垂れ流しても気にせず、クールノーが買ってくる食事を獣の様に貪った。

体調を管理する為のナノギアを毎日接種していなければ、三日と持たずに衰弱死することは必至だった。
歳を重ねても、彼女の症状は一向に変わらなかった。
齢90を目前にした夜、一際大きな奇声を上げ、眼を大きく見開いたまま死んだ。
都の歴史を変えた天才科学者の末路は、あまりにも惨めだった。

世間にノリルの死が発表されると、ノリルの子孫にチャンスが廻って来た。
チャンスが来たのだが、それが活かされる事は無かった。
この時、ノリルの子孫は悲惨な状態にあったのだ。
実業家の男が妻の我の強い性格に嫌気がさし、殺し屋を仕向けて殺害させていた。

そして残された子供だが、父親の厳しい監視の下での生活を余儀なくされ、名乗りを上げるどころでは無かった。
何をするにも、父親の許可が必要だった。
父親が死ぬまでの20年間、何もできなかった。
政略的な結婚を強いられ、それを拒否できる筈もなく、会社を存続する為にそれを受け入れるしかなかった。

268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 01:24:11.04 ID:Yj2YvGML0
子を産み、自分が受けた様に自分達に流れる血の尊さを教えこんだ。
この段階で名乗り出ていれば、都の歴史はまた大きく変わっていたかもしれない。
だが、そうはならなかった。
成功が保証されていなければ行動を起こさないと云う、完璧主義の考えが、この代の子孫の欠点だったのだ。

歴史に新たな転換期が訪れた時でさえも、まだ行動を起こそうとは考えていなかった。

新たな歯車王の登場と共に、都の歴史は動き始めた。
奇妙な仮面を付け、腰まである黒髪。
誰もが、偽者だと苦笑した。
しかし、歯車城に立ち入る事が出来るのは、その関係者以外にいない。


ノリル・ルリノが死亡してから、幾度となく各国の諜報員が侵入を試みたが、帰ってきた者は皆無だった。
現れた歯車王が周囲に認められるまでには、それほど時間が掛からなかった。
現代から約400年前、ナノギアの存在が初めて世間に公表された。
奇跡に等しい発明として認知されたが、それが既にノリル・ルリノによって発明されていた事は、誰も知らない。


この新たな歯車王こそが、"始まりの歯車"、クールノーであるなどと、誰も想像しなかった。



――――――――――――――――――――



271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 01:27:32.40 ID:Yj2YvGML0

素直クール―――"クールノー"―――の話は、嘘を吐いているようには聞こえなかった。
疑いたい気持ちは、心の片隅に確かにあるが。
それ以上に知りたいことが、山のようにあった。
例えば、デレデレとの関係がそうだ。

川 ゚ -゚)「そんな顔をして、どうした?」

(#゚;;-゚)「クー、これだけではまだ説明が足りない。
    ……ドクオ、次は何を知りたい?
   悪いが、時間があまりないんだ」

ロマネスクの傍らで腕を組んでいたでぃが、そう言葉を掛ける。

(;'A`)「計画って、一体……」

知りたい事のほぼ全ては、そこに集約される。
この計画の立案者、クールノーが何を望み、何を目的にしていたのか。
何故ドクオが巻き込まれ、撃たれる事が勝利だと言ったのか。
理由と、その意味を知りたかった。

( ФωФ)「先程、孤独の王にノリルが仕掛けた機能を覚えているか?」

('A`)「えぇ、覚えています。
   あれが何か……」

ドクオが破壊した、六本の副椀の名称が、孤独の王。
自動で防御と攻撃の二つの役割を担う、防衛システム。
その威力は、身をもって体感している。
そして、クールノーが言っていたもう一つの機能。

274 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/04/02(土) 01:30:08.36 ID:Yj2YvGML0
特定の遺伝子を持つ人間を迎撃は出来るが、決して殺せないと云う物。
推測であるが、ドクオがその特定の遺伝子を持っていると見て、まず間違いなさそうだった。
そうであれば、何度も殺す機会があったにも関わらず例のドリルがドクオを穿つのではなく、殴った事に説明がつく。



ζ(゚ー゚*ζ「そう、ドクオちゃんが思った通りよ。
       あれはね、ノリルの遺伝子情報を受け継いでいる人間に手出しができないようになってるの。
       まぁ、つまりは子孫ね。
       言い換えれば、あのシステムを掻い潜れるのは、今この世にドクオちゃん以外いないのよ。

       計画の要は、正にその点だったの。
       あなたが、私達四人にとっての切り札だったのよ」



川 ゚ -゚)「ここから先は……私が話そう」



それから、クールノーは事の経緯をドクオに話し始めた。
この時、都の明かりの半分以上が消えていた事に、ドクオは気付かなかった。



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