- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 21:13:20.46 ID:PolcVfsG0
- 滝のように降り続く豪雨が、都に雨季の到来を告げる。
都の住人にとって、雨季は一年で最も心が安まらない時期だ。
滝のような豪雨は背後の足音を打ち消し、断末魔の叫び声すら掻き消す。
灰色の雲は日中を夜の様に黒く染め上げ、名物の濃霧が死体を優しく隠す。
唯一の救いは、濃霧が早朝にしか出現しないことだけだ。
そのため、都が最も賑わいを見せるのは日中の限られた時間だけ。
宵の帳が降りる頃には、ほとんどの住人が家にこもっている。
もし、外出している者がいれば、必ず武器を携行している。
一週間近く降り続く豪雨の中、日中にもかかわらず都の路地は多くの人で溢れていた。
しかし、彼らは決してただの住人などではない。
普通、傘も差さずに黒いスーツを着込んでいる住人がいるだろうか。
ましてや、物騒な物で左懐を膨らませ、その手にサブマシンガンを持っている住人などいるはずがない。
(,,゚Д゚)「ちっ、こいつぁ今までより一等ひでぇな」
そう言って、黒いスーツに身を包んだギコは足元に転がっている物を見た。
路地裏を出てすぐの場所に転がっているのは、醜い肉塊だ。
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 21:15:10.67 ID:PolcVfsG0
- (,,゚Д゚)「ったく、殺すなら目立たない場所でやれってんだゴルァ!」
今回は異臭が漂っていないだけまだましな方だ。
前回は表通りから軽く500メートルは離れているにもかかわらず、その異臭が表通りにまで漂ったほどだ。
手にしたAK-47を握りなおし、ギコは上からの指示を待つことにした。
( ゚д゚ )「ギコさん、上の方々が到着しました」
水平線会の幹部であるギコに対して、クールノーファミリーの幹部であるミルナが恭しく声をかけた。
今この場で黒いスーツを身にまとっている者たちは、決して治安維持隊などではない。
彼らは裏社会の中でも有力な三大勢力、水平線会、クールノーファミリー、ロマネスク一家の幹部だ。
手にしたAK-47の安全装置に指を伸ばし、ギコは今しがた到着した車に歩み寄った。
黒塗りの高級車から颯爽と下りたのは、一組の男女だ。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 21:17:54.19 ID:PolcVfsG0
- ζ(゚ー゚*ζ
豪奢な金髪を風になびかせ、赤いスーツに身を包む美女が降り立った瞬間その場に一瞬だけ華やかな風が流れた。
完璧としか言いようのない体型、全てが美女を体現した女性。
彼女こそがクールノーファミリーのゴッドマザー、"クールノー・デレデレ"だ。
しかし、もう一人の男の姿が見えた瞬間、空気が変わった。
(#゚;;-゚)
顔の半分以上に重度の火傷を負い、その体も半分以上が同じく重度の火傷で覆われている。
しかし、体の火傷はその身に羽織った黒い外套と、黒いスーツが覆い隠している。
彼こそが水平線会の会長、"でぃ"だ。
二人が雨に濡れるより早く、ギコとミルナは二人に傘をさした。
しかし、デレデレはミルナのさした傘に入らず、でぃと同じ傘に入った。
その辺を熟知しているミルナは、さした傘を閉じる。
でぃの腕に自らの腕をからめ、デレデレとでぃは肉塊に歩み寄った。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/11/05(水) 21:19:21.31 ID:PolcVfsG0
- (#゚;;-゚)「…… しばらく肉料理は食えないな」
無感情に肉塊を見咎め、でぃは肉塊を見下ろす。
前回はかろうじて人の形をしていたのだが、今回は人間の原型すらない。
所々から飛び出ている骨と、指のようなもの以外はただの肉の塊だ。
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ今夜は何にするの?」
昼御飯の内容を聞くような気軽さで、晩御飯の内容を尋ねる辺り、デレデレのすごさが窺い知れる。
(#゚;;-゚)「お前に任せる」
ζ(゚ー゚*ζ「スペアリブとか?」
(;,,゚Д゚)(えーっ?! これみてスペアリブっすか!)
( ゚д゚ )「時に会長、先ほどこの肉の身元が判明しました」
それまで沈黙を守っていたミルナが、一枚の紙を手にでぃに歩み寄る。
( ゚д゚ )「これが、DNA鑑定結果です」
その紙を受け取り、でぃは紙に目を走らせる。
そして、でぃが微かに眼もとを歪めた。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 21:21:09.36 ID:PolcVfsG0
- (#゚;;-゚)「……この事は誰にも公言するな。 この結果を知っている者に対して徹底的に緘口令をしけ」
でぃから紙を受け取り、デレデレも結果を見る。
ζ(゚ー゚*ζ「……あらあらまぁまぁ」
そこに記されていた名前は、歯車王最有力候補―――
流石兄者、その人だった。
( 'A`)と歯車の都のようです
- 10 名前:>>9 !!しまった!! 投稿日:2008/11/05(水) 21:23:30.21 ID:PolcVfsG0
- 現場検証が終わり、デレデレとでぃは二人揃って車に乗り込んだ。
それに合わせて二人を乗せた車が走り出す。
前後に護衛の車を付けて走っているため、速度は非常にゆっくりとしている。
ζ(゚ー゚*ζ「まさか兄者が殺されるとはねぇ…」
(#゚;;-゚)「なんだ、意外だったのか?」
運転席とは防音壁で仕切られているため、二人の会話が周囲に漏れる心配はない。
ζ(゚ー゚*ζ「だって、"歯車王最有力候補"だったんでしょ?」
(#゚;;-゚)「あぁ、確かモララーが調べたんだったな」
ζ(゚ー゚*ζ「果たしてそれが真実かどうか…」
(#゚;;-゚)「珍しいな、お前が疑うなんて」
ζ(゚ー゚*ζ「私も馬鹿じゃないわよ。 そうそう、でぃ」
(#゚;;-゚)「……解ってる。 雨だってのに、全くままならん」
でぃがため息をついたのと同時に、二人が乗る車が急停車した。
前後を走っていた車が止まり、車から次々と黒服の男たちが下りる。
その動きは統制がとれており、彼らが相当な場数を踏んでいることが窺い知れる。
開かれた車のドアを楯にして、周囲の建物に銃を向けている。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 21:25:15.90 ID:PolcVfsG0
- 雷が轟いたかと思うと、次の瞬間、黒服の男たちが血飛沫を上げて倒れ始めた。
ある者は心臓を、ある者は頭に大きな穴を開けている。
ζ(゚ー゚*ζ「狙撃ね。 そうね、射程は…100メートル以内」
(#゚;;-゚)「鉄火場は嫌いじゃない。 その時はお前も行くか?」
ζ(゚ー゚*ζ「最近は自前の狙撃銃を持ち歩かないからねぇ。 得物次第で」
二人がのんびり話している間にも、二人を乗せた車はおろか、周囲の車に銃弾の雨が降り注ぐ。
防弾使用のため、銃弾が穿つのは人間と地面だけだ。
(#゚;;-゚)「一応、PSG−1ならあるが?」
でぃが座席の下から取り出した狙撃銃に、デレデレは少し不服そうな声を上げた。
ζ(゚ー゚*ζ「私的には木と金属で作られた銃がいいんだけど、仕方ないわね」
PSG-1は木と金属製ではないが、オートマチック式のスナイパーライフルの中でも最高の精度を誇る。
デレデレがそれを受け取り、初弾を装填したのと同時に前に停まっていた車が爆発した。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 21:27:36.68 ID:PolcVfsG0
- (#゚;;-゚)「RPGまで持ち出してる… なんだ、ド素人か」
でぃがため息と同時に懐から取り出したのは、二丁の拳銃だ。
銀色に輝く世界最強の拳銃、デザートイーグルを両手に構え、でぃはゆっくりと外に出た。
( ゚д゚ )「か、会長! ここは危険です! 車内にお戻りください!」
狼狽の声を上げるミルナをよそに、でぃはゆっくりと歩み出す。
その後ろから続くのは、PSG-1を構えるデレデレだ。
両者の部下たちが驚愕に言葉を失ったのと同様に、襲撃者たちにも衝撃が走ったはずだ。
まさか要人の二人が揃って鉄火場に来るとは、誰が予想しただろうか。
(#゚;;-゚)「ミルナ、下がっていろ。 他の者たち全員にも伝えろ」
襲撃者にとって絶好の状況なのだが、如何せん相手が悪すぎた。
襲撃者が引き金を引きよりも早く、デレデレのPSG-1から放たれた銃弾が襲撃者の急所を寸分の狂いもなく穿つ。
他の者も同様に、でぃのデザートイーグルから放たれたマグナム弾によって即死する。
でぃが空になった弾倉を素早く交換し、構えるまでには三秒もかかっていない。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 21:29:12.41 ID:PolcVfsG0
- デレデレが敵の急所に照準を合わせてから引き金を引く、その動作すら美しい令嬢は、一体いつリロードしているのだろう。
ずっと撃ちっぱなしのようにも感じるのは、彼女のリロードの速度とタイミングが神技的だからだ。
しかし、襲撃者とて馬鹿ではない。
二人の死の二重奏が始まり、仲間が次々と死にゆくさまを見て何もしないようでは三流だ。
とは言うものの、すでに30人近くいた仲間が5人になった以上、悠長に考え事などしていられるはずがない。
<ヽ`∀´>(くっ、ウリとしたことが…!)
そんなことを思案している間にも、仲間の断末魔が聞こえてきた。
三人いた狙撃手は真っ先に撃ち殺されたため、今ある味方の得物はAK-47とRPG-7だけだ。
反対側の建物に隠れている仲間が、RPGを撃つタイミングを図っていることを見咎める。
アイコンタクトだけで会話を成立できるだけの仲ではないが、その時自分が何をすればいいかぐらいは分かる。
伏せながらカラシニコフを乱射し、仲間に時間を与える。
だが、建物から身を乗り出した仲間は、ついにRPGを撃つことはないまま死に至った。
デレデレかでぃかは解らないが、どちらかの放った弾丸が綺麗にRPGの弾頭に着弾し、爆発したのだ。
<;ヽ`∀´>(化け物ニダ…)
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 21:32:18.62 ID:PolcVfsG0
- 一方、デレデレは非常に退屈な気持ちで引き金を引いていた。
手練を何人か屠った狙撃手以外、チンピラ程度にしか感じない。
この程度なら自分の娘一人でも殲滅できるだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「ね〜、でぃ〜。 私飽きちゃった〜」
わざとらしく駄々をこねるデレデレとは対照的に、でぃは無感情に引き金を引いてそれに答えた。
屋根から二人分の人影が落下し、地面に叩きつけられる。
間髪入れずに、デレデレが振り向きもしないで銃口を背後に向ける。
至極自然に引き金を引き、二人にRPGを撃ちこもうと試みていた者を一撃で屠る。
そして、でぃが空になった弾倉を排出した最後の隙を、襲撃者は見逃さなかった。
建物から飛び出し、カラシニコフを乱射する。
しかし、そんな古典的な手が通用する相手なら誰も苦労しない。
五年前の抗争で、でぃに付けられた二つ名は"帝王"。
その所以を男は身をもって知ることになる。
<ヽ`∀´>「ウリイィィィィ!!」
飛び出した体勢のため、正確な射撃は望めない。
だが流れ弾の一つや二つは当たるだろう、そんな希望的観測を持ったのが男の最後の失敗だった。
でぃが羽織っていた外套を大きく巻き上げ、自身の姿を隠す。
男の予想通り数十発の弾丸が外套に吸い込まれる。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 21:35:44.55 ID:PolcVfsG0
- しかし、ただの一発としてでぃに傷を負わせることは無かった。
防弾繊維で作られた特製の外套の存在を男が知るはずもなく、また、でぃのデザートイーグルが一発だけ装填された状態だということなど、知る由もない。
自身の外套を貫通して放たれた一発のマグナム弾は、男の右肩の骨と肉を穿った。
<;ヽ`∀´>「いいいいいいい!?」
その反動と痛みで手にしていた得物を取り落とし、男は無様に地面に倒れこんだ。
この日の男は、運がいいとしか言いようがなかった。
一日で"帝王"と"女帝"の洗礼を浴びる事が出来たのだから。
ζ(゚ー゚*ζ「あーあ、つまんない。 これならゴキブリと戦う方がなんぼかましね」
目の前に転がってうめき声をあげる男の股間を蹴り上げながら、デレデレはため息をついた。
いつの間にかギコがデレデレに傘をさし、美貌が雨に濡れるのを防いでいる。
(#゚;;-゚)「さて、依頼主は誰だ?」
男の肋骨を踵で踏みながら、でぃはめんどくさげに尋ねた。
<ヽ`∀´>「う、ウリがそう簡単に喋るはずないニダ…」
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 21:38:51.75 ID:PolcVfsG0
- 男にもわずかのプライドがあるのだろう、瞳に宿る炎がそれを示している。
それが不運なことだと知らないのは男だけで、デレデレのことを熟知している者たちは心の中で同情しようか迷った。
しかし、仲間が殺された以上、道場など無用だと悟り、苦笑を上げることにした。
ζ(゚ー゚*ζ「あらそう? それじゃあ… ギコ、あれはあるかしら?」
(,,゚Д゚)「そう言うと思って、買ってきてあります」
ギコが渡した買い物袋を受け取り、デレデレは中身を確認する。
中身を確認した時のデレデレの表情をなんと表現すればいいのだろう、少なくとも、この場の誰もがそれを表現することはできない。
ζ(゚ー゚*ζ「ギコ、その他全員。 私がいちいち言わなければ次の行動もできないのかしら?」
デレデレの指示よりわずかに早く、ギコ達は男を取り押さえる。
そして、うつ伏せで男の腰を浮かせた状態で固める。
<ヽ`∀´>「ニダ?」
デレデレが買い物袋に手を突っ込んだのと同時に、ギコは男のズボンをパンツごと下ろす。
男が何か叫ぼうとするより早く、別の男が男の口に布を突っ込む。
ζ(゚ー゚*ζ「まずは一本」
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 21:42:33.24 ID:PolcVfsG0
- 男の肛門に容赦なく突っ込まれたのは、一本のニガウリだ。
<ヽ゚∀゚>「がごあああああああああああああああああああああああああああああ!?」
男が絶叫を上げるが、布のせいでろくな声にならない。
ζ(゚ー゚*ζ「続いて〜、二本」
足で一本目のニガウリを奥まで突っ込み、二本目をゆっくりと入れていく。
<;ヽ゚∀゚>「もがあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
肛門からおびただしい量の血が流れるが、デレデレは容赦なく三本目に手を掛ける。
ζ(゚ー゚*ζ「最高記録は四本、さて、あなたは記録に挑戦する?」
<ヽ ∀ >「も…が…」
ζ(゚ー゚*ζ「は〜い、勇敢な挑戦者に拍手〜」
デレデレの声に続いて、周囲から盛大な拍手が沸き起こる。
ζ(゚ー゚*ζ「は〜い、三本目」
音を立てて裂け始める男の肛門に、三本目のニガウリを乱暴に蹴りいれた。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 21:46:56.99 ID:PolcVfsG0
- <;ヽ゚A゚>「ひぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
入れた三本のニガウリを蹴りながら、デレデレはゆっくりと口を開く。
ζ(゚ー゚*ζ「で? 言う気になった?」
男の口に入っていた布をギコがとり、男の顔をデレデレに向けさせた。
<ヽ;∀;>「い、言うニダ! だ、だからもう…!」
ζ(゚ー゚*ζ「最初っからそう言えばいいのよ」
<ヽ;∀;>「あ…」
男が口を開いた瞬間、男の顔が吹き飛んだ。
(#゚;;-゚)「まだ狙撃手がいたか…」
ζ(゚ー゚*ζ「口封じとはまた、嫌なことしか起きないわね」
デレデレがめんどくさげにPSG-1の銃口を上げ、流れるような動作で引き金を引く。
ただそれだけで、建物に隠れ潜んでいた最後の襲撃者の命は散った。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 21:49:40.65 ID:PolcVfsG0
- (#゚;;-゚)「敵の死体は捨ておけ、味方の負傷者、死傷者は搬送しろ。」
ζ(゚ー゚*ζ「結局、何も手がかりは無し、ね」
(#゚;;-゚)「なぁ、デレ? 今日暇か?」
ζ(゚ー゚*ζ「え? あなたのためならいつだって暇だけど?」
(#゚;;-゚)「今日、バーボンハウスで一緒に飲もう」
ζ(^ー^*ζ「あらやだ、あなたからそんな御誘い受けるのなんて、何年ぶりかしら?
目一杯おめかしして行かなきゃ」
(#゚;;-゚)「お前はそのままで十分可愛いし、美しい。
それともう一つ」
(#゚;;-゚)「お前と飲むのは一日ぶりだぞ?」
――――――――――――――――――――
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 21:52:30.16 ID:PolcVfsG0
- 撃鉄を起こし、引き金を引く。
撃鉄が銃弾の雷管を叩き、弾丸を発射する。
照準が正確なら、その弾丸は自分の思い描いた通りに目標に当たるだろう。
しかし、わずかに照準がずれるだけで思わぬ結果を生む。
狙撃手にとって、照準は生命にかかわる重要な問題である。
一発外すだけで敵に反撃の隙を与え、自身の生命を脅かす。
そのため、腕のいい狙撃手は自身の命を託すに値する狙撃銃を選ぶのに余念がない。
狙撃手のえり好みとは文字通りの千差万別で、精度を重視する者もいれば、耐久性に重きを置く者もいる。
最近の狙撃銃はほとんどがオートマチック式のため、手動で排筴する手間が省けている。
だが、オートマチック式の弱点である弾詰まりだけは切っても切れないものだ。
それを懸念する狙撃手は、ボルトアクション式の狙撃銃を選ぶ。
とはいえ、ツンは一撃で相手を屠るのを常としているため、手間の省けるオートマチック式を好んで使っている。
ξ ゚听)ξ
SVD−ドラグノフ−、その耐久性と信頼性は業界屈指のものであると同時に、この銃の特徴そのものだ。
ツンが好き好んでこの銃を使うのは、母親の影響もあるのだが、何よりその耐久性と速射性に惚れこんでいるからである。
ツンの技量と専用の改造を施したドラグノフなら、1000メートル先のリンゴですら外すことはない。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 21:56:13.74 ID:PolcVfsG0
- ξ >听)ξ
低く、短く、一発の銃声が響き渡る。
豪雨の中でさえツンの腕が落ちることはなく、正確に標的の眉間を穿った。
ξ ゚听)ξ
スコープ越しに標的の死亡を確認し、ツンは溜息をついた。
ξ ゚听)ξ「はぁ… つまんない」
ツンにとって、500メートル程度の狙撃なら朝飯前だ。
実のところ、文字通り朝飯前のため、ツンのお腹がかわいらしい音を上げる。
ξ*゚听)ξ(むぅ…)
自分以外誰も聞いていないはずなのに、なぜだか急に顔を赤らめたツンは、急ぎ足で屋上の出入口に歩み出した。
肩に担いでいる通常より二倍近く延長した銃身のドラグノフは、まるで槍のようだ。
その為、五年前の抗争で得た二つ名は"神槍"。
その槍に狙われたら生き残ることはほぼ不可能、そんな風説の元に付けられた名だ。
そして、本人はその二つ名をひどく嫌っていた。
どう考えても過剰としか言いようのないその二つ名は、ツンにとっての枷でしかない。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:00:08.84 ID:PolcVfsG0
- ξ*゚听)ξ(朝ごはん…)
ツンが朝ごはんに思いを馳せ、屋上唯一の出入り口の扉に手を掛けた。
そこで、ツンは本能的に横に飛んだ。
もし一秒でも遅れていたら、ツンの美貌は醜い肉塊になっていただろう。
ツンの美貌の代わりに醜く変形した扉を視界の端に捉え、ツンはそのまま走りだす。
ξ;゚听)ξ(ファック! 狙撃手か!?)
豪雨のため、銃声が聞こえることはないがツン程の手練ならば相手の狙撃位地ぐらいは把握できる。
六時の方向、1000メートル先のビルの屋上。
そこから異様な殺気が漂っていることを、ツンはすぐさま理解した。
ツンが走り抜ける中、敵の狙撃の腕が休まることはない。
ξ#゚听)ξ(オートマチック式、おそらく… PSG-1!?)
その射撃間隔、そして感を頼りに敵の得物を即座に推測する。
そして、その推測は確信に変わった。
豪雨の中、聞こえるはずのない銃声を聞いたのだ。
銃声にはその銃独特の響きがある。
それについては母親からみっちりと教育を受けていたため、聞き間違えることはない。
ξ#゚听)ξ(ファック! 遮蔽物に隠れなきゃあっという間にハチの巣にされる!)
急いで手近な遮蔽物、出入口の建物の影に隠れたことは正解だった。
途端に銃弾が地面のコンクリートを抉る音が止み、豪雨の音だけが響き渡る。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:02:06.04 ID:PolcVfsG0
- ξ ゚听)ξ(1000メートル、しかも相手は屋上か…)
並の狙撃手ならここで諦めてしまうだろう、だが、ツンにとってはどうということはない。
ξ ゚听)ξ(そして得物はPSG-1、何だ、ゴミか)
最新鋭の狙撃銃に頼っている者には分かるまい、ドラグノフが何故優れた名銃として名を馳せているかを。
ツンはひとまず、懐からフラスクを取り出し、中身を一杯呷った。
雨で冷えた体を芯から温めるには、やはりラムに限る。
高いアルコール度数の銘柄が多いラムは、ツンが密かに集めている物でもあった。
三十分ほどラムを楽しんだ後、ツンはゆっくりと影から出てきた。
しかし、敵の銃弾がツンに放たれることはない。
ξ ゚听)ξ(馬鹿が、この雨の中三十分も晒しておけば得物がイカれることぐらい解るだろうが)
冷静に、しかし迅速にドラグノフを構える。
照準に映る男の狙撃手は、狼狽の表情のままだ。
いくら引き金を引いても放たれることのない得物をいじっているため、ツンが自分の眉間に照準を合わせているなど気が付いていないようだ。
容赦なく、油断なく引き金を引き、ツンは男に引導を渡した。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:05:08.11 ID:PolcVfsG0
- 血の混じった脳漿を背後にぶちまけ、男は屋上から落下した。
ξ ゚听)ξ(ったく、なんだってのよ…)
ツンが何かを思案しようとしたとき、再びツンのお腹がかわいらしい音を上げた。
ξ*゚听)ξ(ぐぅ…)
ツンはひとまず行きつけの店でコンソメスープセットを頼むことを心に決め、今度こそ屋上を後にした。
――――――――――――――――――――
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:09:22.75 ID:PolcVfsG0
- 降りやまぬ豪雨の中、ヒートは商店街を何んともなしに歩いていた。
ヒートの私服は、素性を知らぬ者にとっては目の毒だった。
犯罪と言っても過言ではないほどに大きくははだけさせた胸元、そして限界ギリギリまでに切り詰められたズボン。
売春婦とてこのような格好はしないだろう。
しかし、ヒートの素性を知っている者にとってはなんてことはなく、むしろヒートを見たら逃げ出す者の方が多い。
ヒートの私服がこのような格好であるのには、至極簡単な理由があった。
それは単に、"動きやすいから"、その一つだけだ。
己に素直なヒートは、その事を隠そうとも偽ろうともしない。
ただ、周囲の視線が不快かと言えば、その通りだった。
周囲から浴びせられる視線のほとんどが、ヒートの体、おもに胸部に向けられる下心丸出しのものばかりだからだ。
それを快く思わないのは女として当然の事であると同時に、ヒートの集中力を乱す存在だからだ。
ノハ#゚听)「だーもー! こっちみんじゃねーよ!」
怒鳴り散らすが、結局全ての視線を無くすことは不可能だった。
ヒートを見ていたのは何も下劣な視線だけでなく、殺意が込められた視線も含んでいたからだ。
ノハ#゚听)(数は三、いや、五十か)
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:12:07.09 ID:PolcVfsG0
- ヒートは歴戦の猛者である。
そのヒートにとって周囲の敵の数を窺い知ることなど、朝飯前だった。
むしろ、昨夜の晩御飯すら食べていない。
ノハ ゚听)「あー、腹減った…」
思ったことのほとんどを口に出してしまう性格のため、ヒートはあまり考え事が得意ではなかった。
昨夜の晩御飯を食べていないのは、ヒートの行く先々で殺意に満ちた店主があからさまな毒入り料理を振舞ってくれているからである。
まともなものを口にしたのは、ヒートの服の内ポケットに後生大事にしまってあるフラスクの中身だけだ。
その中身は時価総額で換算するならば、100万円はくだらない酒が入っている。
ヒートに残された最後の安息の地、それはバーボンハウスだ。
追っ手を撒きながらそこを目指しているのだが、どうにも離れない輩がいる。
追手が五十人と読み取ったヒートの感覚は正確で、実際、ヒートを追っていたのは五十人だった。
ノハ ゚听)(路地裏で一網打尽に… いや、室内で一網打尽だな)
頭の中で至極簡単な計画を練り、ヒートは近くの路地裏に入って行った。
それを追って、屋根伝いに、下水道の下から、背後からぞろぞろと人がヒートの後を付いて行く。
ヒートが手近な廃屋に入り込んだのを確認し、追跡者たちは続いて廃屋に入り込んだ。
もし、その場にヒートの事を熟知する者がいたならば、少なくとも追跡などという自殺行為はしなかっただろう。
勢いよく廃屋に入り込んだ10人の内、五人は何が起きたか理解する間もなく胴体を鉄パイプに貫かれた。
五人同時に倒れた時には、背後に続いた五人はその首があり得ない方向に向いている。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:14:25.84 ID:PolcVfsG0
- ノハ ゚听)「けっ、雑魚かよ」
つまらなさそうにヒートが舌打ちするが、ヒートを追跡していた者は全員その手のプロだった。
最低でも戦場に5年はいた猛者達だったのだが、運悪くヒートを知る者はその中にいなかった。
('_L')「ぎゃヴぉあ!?」
フィレンクトは何が起きたか理解した時には、すでに首が背後を向いていた。
かつて抗争で死んだ双子の弟、フィレクントに思いをはせながらフィレンクトは絶命した。
ノハ ゚听)「もう少し骨のあるやつを連れて来い! 手前等じゃあ相手にならん!」
ある者は懐から、別の者は腕の裾から、また別の者は腰から巨大なナイフを取り出し、ヒートに襲いかかった。
その行動はこの場において最も有効な手段ではあったが、少なくともヒートに対して効果は皆無だった。
ノハ ゚听)「はぁ… つまんないんだよ、あんたらは」
ヒートの手が閃いたかと思うと、その手には一本のペンが握られている。
しかし、追跡者が瞬きをして、再びヒートの姿をとらえることは遂に無かった。
ノハ ゚听)「剥ぎ取ろうにも、ろくなもん無いんだろ?」
ため息まじりに空中にペンを走らせているかのように見えるヒートの行動は、動体視力が並の者では視認もできない。
動体視力が並み以上でも正確な動きまでは分からないだろう。
そのヒートの行動は、相手の獲物の軌道を僅かにずらし、そして相手の眼を使用不可能にしているのだ。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:16:56.13 ID:PolcVfsG0
- ノハ ゚听)「そういえば飯、何にしようかな〜」
ペン先が駄目になったのを感触で確認し、ペンを投げ捨てる。
そのペンは視力を奪われた者の眉間に突き刺さり、絶命に追いやった。
ノハ ゚听)「やっぱりコーンポタージュかな〜」
真っ直ぐに突き出した抜き手が、ヒートに迫っていた者の胸部を貫く。
心臓を貫かれては、生きているはずがない。
さらに、その死体を振り払い、ヒートが背後に裏拳を繰り出した時には、顔面を陥没させた死体が一つ出来上がっていた。
ノハ ゚听)「朝はコーンポタージュにパン。 これだな!」
朝御飯の献立が決まり、ヒートが無造作に足を上げる。
正面から見ればヒートの下着が見えるのだが、それが生涯最後の映像になることは、蹴られた本人が一番理解していた。
首にハイヒールが突き刺さり、そのまま死体を天井に叩きつける。
続けざまに回し蹴りで三人まとめて屠り、ヒートが拳を突き出した時には、追跡者は半分以下に減っていた。
( `ハ´)(なんてことアル…! たかが女一人にここまで!)
追跡者のリーダー、シナーが思案している間にも次々と仲間の命がゴミのように消されていく。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:19:27.00 ID:PolcVfsG0
- ( `ハ´)「素直ヒート! ワタシと一騎打ちするアル!」
気がつけば自分を残して全滅した仲間をよそに、シナーは腰から二つのヌンチャクを取り出した。
それはシナーが数々の戦場で敵の頭蓋を砕いてきた得物であると同時に、シナーの必殺の得物でもあった。
( `ハ´)「ワタシ、強いヨ! いざ正々堂々勝負アル!」
そのヌンチャクはただのヌンチャクではない、先端に仕込まれた強烈な発光装置は序の口で、他にも正々堂々とは言い難い装置が数多く仕込まれている。
先端に仕込んだ爆発物と刃物が必殺の装置であるそれを、シナーは華麗に振り回し、ヒートに向かい合った。
これまでこのヌンチャクの仕組みに気づいた者は、この得物の真価をその身に浴びた者だけだ。
ノハ ゚听)「ふーん、そんな得物使って正々堂々、ねぇ?」
しかし、ヒートの目はそんな陳腐なものに騙されるほどヤワではない。
死体からナイフを一本取り上げ、逆手に構えたのを始まりに、シナーは雄叫びをあげながらヌンチャクを最大のリーチで振り下ろす。
ヒートがそれを避けようが、ナイフで受け止めようが仕込まれた装置で一撃のもとに屠るだけである。
案の定、ヒートはナイフで受け止めた。
それと同時に、仕込まれた装置のスイッチを入れ、ヒートの視界を奪う。
ヒートが視界を奪われ、困惑しているところでヒートの眼前で爆発物を爆発させる。
それにより、ヒートの顔面は醜く吹き飛ばされ、ヒートは倒れ伏した。
( `ハ´)「やっぱり中華は最強アル!」
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:21:01.01 ID:PolcVfsG0
- 声高らかに勝利を宣言し、幻視したままシナーの意識は現実に戻ることは無かった。
ノハ ゚听)「歯ごたえねぇな」
シナーがヌンチャクを振り下ろすより早く投擲されたナイフは、シナーの眉間に突き刺さっている。
気味の悪い笑顔を浮かべたまま絶命しているシナーは、何か夢でも見たのだろう。
ノハ*゚听)「やっぱりコンソメスープセットにしよう」
ノハ*゚听)「マスタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
何故だか無性にマスターの作ったコンソメスープが食べたくなり、ヒートは急ぎ足でバーボンハウスに向かった。
――――――――――――――――――――
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:22:42.67 ID:PolcVfsG0
- まるで大樹が地に根を張るように。
まるで川が流れて海になるように。
まるで血潮を求めるように。
ありとあらゆる方向にその刃は伸びている。
その異形のナイフは怪しい輝きを放っている。
一本のナイフに"生えている"刃の数は実に12本。
異形のナイフの名前は"ロマネ・ナイフ"。
ロマネスクが腕利きの職人に頼んで作らせた、この世に二本しかないナイフだ。
日本刀と同じ素材で作っているため、金属ですら楽々と切断することができる。
無粋な装置は取り付けず、持主の腕が試される逸品だ。
折りたたみ式で刃を展開するため、コンパクトに携帯することが可能である。
使用の際に取り出して一振りするだけで、花が咲くように刃が展開する。
振りの強さによって常に形を変えるため、切り合っている間でさえ形を変え続ける。
かつてロマネスクが愛用し、ロマネスク専用の獲物として名高い。
しかし、今そのナイフはロマネスクの手元を離れ、一人のさえない男の手にゆだねられていた。
( 'A`)
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:24:45.41 ID:PolcVfsG0
- 都中に降り続く雨の中、ドクオは傘もささずに路地裏を歩いていた。
無論、無防備な姿をしているドクオを路地裏の住人達が見逃すはずがない。
ナイフでも突き付ければ簡単に金を出すだろう、そう読んで自称路地裏の王、セントジョーンズは下品な笑いを浮かべた。
('e')「くふふふ」
これまで馬鹿な観光客を脅し続けた愛用のナイフを手に、セントジョーンズは意気揚々とドクオに歩み寄った。
もし、セントジョーンズにまともな危険察知の本能があれば、セントジョーンズはその命をなくさずに済んだだろう。
('e')「うヴぉあ?!」
突如セントジョーンズの"頭上"から鳴り響いた銃声は、セントジョーンズが聞いた最後の音となった。
脳漿を派手にぶちまけながら地面に倒れこんだセントジョーンズの死体を踏みつけて、降下してきたのは黒ずくめの男だ。
(-@∀@)「へへぇ? なんでぇ、こんなガリガリ野郎が獲物かよ」
つまらなそうに声を上げたのは、裏社会で殺しを請け負っている"四つ目"アサピーだった。
その名ぐらいはドクオも知っているが、今のドクオにとってはどうでもいい事でしかなかった。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:26:36.65 ID:PolcVfsG0
- ( 'A`)「なるほど… 本当に来るとはな」
ドクオがロマネスクから請け負った仕事の内容は、最近調子に乗っているアサピーの殺害だ。
路地裏で適当に歩いていれば出会える、そのふれこみ通りに現れたアサピーにドクオは内心ほくそ笑んでいた。
ロマネスクから与えられたナイフの柄にさりげなく手を伸ばし、ドクオはいつでもアサピーと戦える状態に入る。
その事を知ってか知らずか、アサピーは無防備にも笑いながらドクオに近づいてきた。
(-@∀@)「あれ? お前ドクオか? なんでも屋の? 役立たずのドクオ?」
罵倒文句を並べ、ドクオの集中を乱そうとするアサピーの作戦は、ドクオには何の効果もない。
アサピーが言葉を紡ぎながらも、ドクオのナイフに伸ばした手をさりげなく見ていることぐらい、今のドクオには簡単に見抜けることだった。
アサピーが瞬きをしたその一瞬、ドクオの手が閃いた。
抜ききったとこで展開された12の刃は、アサピーの手の甲を切り裂いた。
一瞬、アサピーは何が起きたか理解できなかった。
それもそうだ、ドクオがナイフを引き抜いたのは時間にして一秒未満。
調子に乗ってドクオを甘く見ていたアサピーにとっては、それを見切ることなど不可能なのだ。
(;-@∀@)「い、いって―――!! な、なにしやがんだ! この、ウジ虫野郎が!!」
負傷していない方の手で抜き放ったオートマグの照準を、ドクオの顔に合わせる。
オートマグは世界で初めてマグナム弾をオートマチックで撃てる得物として、その名を響かせている。
今ではデザートイーグルの影に隠れているが、その銃の威力は折紙つきだ。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:28:19.18 ID:PolcVfsG0
- (;-@∀@)「あ、あれ?」
アサピーのオートマグは確かにドクオの顔を捉えたのだが、それは一瞬だけだった。
瞬く間にオートマグの照準から消え失せたドクオは、"思い切りしゃがみ込んで"肉食獣を彷彿とさせる構えを取る。
それは渡辺が、ドクオに対して使用した原初の加速方法だ。
ナイフを鉤爪として加速要因の一部に転換し、ドクオは踏み込んだ。
その速度はアサピーの動体視力を遥かに凌駕しており、アサピーがオートマグの引き金を引いたのは、ドクオがオートマグの銃身を切り落とした後だ。
(;-@∀@)「ば、馬鹿な…! ドクオのくせに、ドクオのくせにぃぃぃぃぃぃぃ!!」
アサピーが怒りと狼狽の混じる声で怒鳴ったのは、間違いだった。
その一瞬の間に、ドクオの手にしたナイフはアサピーの手首ごとオートマグを地面に落とした。
( 'A`)「お前じゃ練習相手にもならないんだよ」
逆手に構えたナイフで、アサピーの腕を切り落とす。
絶叫を上げるアサピーの口を躊躇なく切る。
後退し始めた足を思い切り蹴り飛ばす。
気がつけば、アサピーはドクオに触れることすら敵わぬまま地面に倒れ伏していた。
(;-@∀@)「あり得ない… 役立たずのドクオが! 何故っ!?」
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:30:34.63 ID:PolcVfsG0
- なおも狼狽の声を上げるアサピーに、ドクオは至極冷静に答えた。
( 'A`)「腕の差じゃね?」
(#-@∀@)「畜生! 畜生! 畜生! 手前ドクオのくせに生意気なんだよ!」
アサピーが狼狽の声を上げる中、ドクオは手にしたナイフでアサピーの眼を切り裂いた。
眼鏡ごと切り裂かれたアサピーの痛みは、尋常ではない。
絶叫を上げるが、豪雨がそれすらかき消す。
( 'A`)「さて、云い残すことはそれだけか?」
(#-+A+)「死にさらせ! 必ず復讐してやる!必ずだ!」
そこまで言って、アサピーは次の言葉を紡ぐことは無かった。
ドクオのナイフが、アサピーの喉元を綺麗に切り裂いている。
そこからおびただしい量の血が噴き出すが、豪雨によってドクオに降りかかった血は流れ落ちた。
( 'A`)「けっ、こんなんじゃあいつに勝てない… そして…」
(;゚A゚)「ロマネスクに殺されちまうよ! 俺が!」
文字通り必死でアサピーと戦ったドクオだったが、やはりいくらロマネスクが怖くても腹は減る。
バーボンハウスのマスターが作るコンソメスープセットが無性に食べたくなり、ドクオはバーボンハウスに向かうことにした。
(*'A`)「マスタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:32:43.18 ID:PolcVfsG0
- ――――――――――――――――――――
第二部【都激震編】
第一話『胎動』
――――――――――――――――――――
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:36:21.96 ID:PolcVfsG0
- その日、バーボンハウスは昼にもかかわらず盛況だった。
いつもなら退屈しのぎに音楽を流しながら、グラスをガラスのようにピカピカに磨くのだが、今日は違った。
マスターであるシャキンは全ての料理、おつまみを含むその全てに徹底的なこだわりを持っている。
その為、シャキンの作る料理は中毒性が高いと一部で評判だった。
しかし、雨季になると客足は遠のき、ランチが一食も出ないこともざらだ。
今日に限って客が六人も来ているということは、雨季の中でも最高記録といえよう。
だが、来ているメンバーがメンバーだけに、あまり歓迎できるものでもない。
裏社会の三大勢力の首領が全員揃っているのに加えて、歯車王暗殺に失敗したメンバーが揃っているからだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ〜でぃ〜。 今夜あたり一緒に、…どお?」
(#゚;;-゚)「それは昨日も聞いたぞ。 そして俺はそれを断るほど馬鹿ではない」
ζ(^ー^*ζ「いやん。 でぃってば、ダ イ タ ン」
仲睦ましい二人をよそに、襲撃に失敗した"三人"は黙々とシャキンの作ったコンソメスープセットを頬張っている。
ノハ*゚听)「なんだこの味は!? 口の中で広がるコンソメの風味! 一口噛むたびにその風味が増しているが、決して素材の味を殺さない!」
ξ*゚听)ξ(うまうま)
( '∀`)(うまいのぅ、うまいのぅ)
"いなくなった"者を除けば、全員その場に集まっているのは、何かの冗談なのだろうか。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:38:43.88 ID:PolcVfsG0
- (*ФωФ)(ほくほく)
その場にいる全員が例外なく幸せそうに自分の作った料理を食べるさまを、シャキンは非常に幸せな心地で眺めていた。
もしこの都に、マフィアなんてものがなければ、シャキンは有名料理店の店長になっていたかもしれない。
所詮は"if(もしも)"の話、現実ではない。
(*`・ω・´)(いや〜、いいねぇ…)
しかし、一時とはいえ幸せな時間を楽しむことはシャキンにとっては久しぶりのことだった。
ノハ*゚听)「マスタアアアアアアアア!! コンソメおかわり!!」
(;`・ω・´)「それで13杯目ですけど、大丈夫ですか?」
ノハ*゚听)「マスタアアアアアアアア!! 大好きだああああああああ!!」
(*`・ω・´)「も、もう… 仕方ないですね…」
いつの間にかツンデレキャラになりかけたシャキンは、ヒートのコンソメスープをよそいながら、ロマネスクの方にも目を配る。
その動作はシャキンが手慣れたバーテンダーであると同時に、いかにすぐれた集中力の持ち主であるかを証明するものだ。
ロマネスクが頼んだのは、シャキンが最も得意とする焼酎のお湯割りだ。
たかが焼酎のお湯割りと侮るなかれ、お湯割りは水割りよりも遥かに神経を使う物なのだ。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:41:46.34 ID:PolcVfsG0
- お湯割りに合わせるつまみ、お湯割りに最適な水、お湯割りに最適な比率、お湯割りに最適な温度。
それら全てを熟年の勘と経験で補わなければ、最高のお湯割りなど到底できない。
水割りよりも遥かに神経を使うそれを、シャキンが得意とするのは、シャキンが長年戦場と抗争で培った経験が役立っているからだ。
ヒートのコンソメスープを作る間にも、シャキンはロマネスクのお湯割り用のお湯を沸かしに掛る。
ただヤカンに水を入れ、沸かすだけでは落第だ。
ヤカンの中に備長炭を入れておくだけで、水の味は格段に違ってくる。
その辺りに関して、シャキンの知識と経験は十分すぎるほどあった。
ζ(^ー^*ζ「ねぇ〜、でぃ〜」
(#゚;;-゚)「ん?」
ζ(^ー^*ζ「大好き」
ξ;゚听)ξ
(*'∀`)(うまいのぅ、うまいのぅ)
ノハ*゚听)「ごーはん、ごーはん!!」
ヒートが行儀悪く茶碗を叩いている中、ロマネスクはゆっくりとシャキンの作ったおつまみを咀嚼している。
ホカホカのブリ大根から上がる湯気は、上品に立ち上る。
箸で小さく切り裂き、味がたっぷりしみ込んだ大根を口に運ぶ。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:43:57.72 ID:PolcVfsG0
- (*ФωФ)(ほくほく)
口中に広がる旨みに頬をゆるませ、手にした焼酎のお湯割りを呷る。
見ていて気持ちのいいぐらいに酒を楽しむロマネスクは、世間話をする気軽さでとんでもないことを口にした。
(*ФωФ)「そういえばホク 武器屋のモララーだけどホク 行方不明になってホク しまったぞホク」
ちょうど出来上がったばかりのコンソメスープを嬉しそうに受け取ったヒートを除いた二人、ツンとドクオは同時に声を上げた。
(;'A`)「えぇえ?!」
ξ;゚听)ξ「えぇぇ?!」
ノハ*゚听)「きゃっほう!! コンソメーコンソメー!!」
狼狽の声を上げる二人と、歓喜の声を上げる一人に対してデレデレが付け足すように言った。
ζ(゚ー゚*ζ「兄者は今日、死体が上がったわよ」
(;'A`)「おぉお?!」
ξ;゚听)ξ「おぉお?!」
ノハ*゚听)「う―ま―い―ぞ―!!」
降り続く豪雨の中、バーボンハウスの中を異様な空気が満たす。
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/05(水) 22:47:00.17 ID:PolcVfsG0
- ( ФωФ)「つまり、初期襲撃メンバーの内、四人が消えた。
明日にでも集めて話そうと思ったのだが、ちょうどいい。
さて…」
そう言って、ロマネスクが軽く手を叩く。
それに呼応してバーボンハウスの入り口から、一つ分の足音が聞こえた。
从 ゚∀从
【+ 】ゞ゚)
_
( ゚∀゚)
いつからそこにいたのだろうか、最初からそこにいたかのように立っている人影は三つ。
左だけ長く伸ばした髪が、左眼を隠している女。
顔全体に包帯をぐるぐる巻きにした、棺桶を背負う小柄な男。
太いまゆげを愛嬌たっぷりに持ち上げ、笑顔を絶やさない男が、そこにいた。
降り続く豪雨は、歯車の都に忍び寄る不穏の足音を掻き消す。
全ては巨大な歯車の上で起こっているのか、それとも誰かの手の上で踊っているのか。
その答えを知っている者がいるとするならば、それは…
第二部【都激震編】
第一話 了
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