('A`)と歯車の都のようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 21:15:57.25 ID:IxYq8IBI0
降りやまぬ豪雨の中、都中が奇妙な空気に包まれていた。
これから何が起こるか解る者などいないのに、住人の多くが"これから起こるであろう何か"に恐怖しているのだ。
五年前の抗争以来、都の住人はそういった空気に非常に敏感になっている。

雨期を告げる豪雨は、断末魔の叫びでさえも掻き消す。
しかし、五年前の抗争を経験した者には、ある音が聞こえていた。
それは聞こえるはずのない、装填音、そして撃鉄を起こす音だ。
どこから聞こえているのかは分からない、しかし、確実にその音は聞こえているのだ。

クールノーファミリー本部は、裏通りの一等地に悠然と建っている。
建物の周りに広い庭園を有し、とても裏社会の三大勢力の本部とは言い難い華やかさがある。
降りやまぬ豪雨の中、クールノーファミリーの大幹部のペニサスは建物の入口から外を眺めていた。

('、`*川「はぁ… 雨、止まないわね…」

肩まで伸ばした黒髪を梳きながら、ペニサスは軽くため息をついた。
ゴッドマザーであるデレデレが私用で外出しているため、ペニサスは主人の帰りを今か今かと待っているのだ。
無論、片脇に手練であるギコを同行させているのは万が一を警戒してのことだ。
地面すれすれまでの長さの外套を羽織るギコは、クールノーの中でも指折りの手練である。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 21:19:56.97 ID:IxYq8IBI0
(,,゚Д゚)「ペニ姐さん、そろそろ中に入りませんか? 風邪ひきますよ?」

ギコをそこまで育てたのはペニサスであり、ギコを男にしたのもペニサスだ。
その事は意外と知られていないことであり、知っている者はクールノーの中でもデレデレぐらいだ。
そういったこともあるが、ペニサスを心配してギコの言ったことはもっともだった。
外套を羽織っているギコでさえ寒いのに、ペニサスは薄手のスーツを着ているだけなのだ。

('、`*川「だめよ。 デレデレ様が帰ってきたら、一秒でも早く顔を見たいもの」

(,,;Д;)「なんという愛…!」

デレデレの事を愛しているペニサスの発言は、ギコの涙腺を崩壊へと導いた。
ペニサスを敬愛しているギコは、自分の羽織っていた外套をペニサスに羽織わせた。
それをペニサスは無言で受け入れ、薄く微笑んだ。
その微笑みにギコは思わず見とれてしまった。

しかし、ペニサスが眼前に広がる庭の植え込みを睨みつけた時には、ギコはスーツの懐からサブマシンガンを取り出している。
一方、ペニサスは植え込みを凝視したまま動こうとしない。
ギコの構えたサブマシンガンに取り付けられたレーザーポインタは、ペニサスの視線の先に向けられている。
ゆっくりと静かに息を吐き、ペニサスは殺意を放つ。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 21:21:40.44 ID:IxYq8IBI0
並の者なら失禁しかねないその殺意は、ペニサスの美貌からは想像もできない。
だが、"リボルバー"ペニサスの名を知る者はペニサスの美貌の奥にあるものを知っている。
それは主君に仕える、忠実な番犬を彷彿とさせる忠誠心だ。
番犬と違うのは、主君の命より早く行動するところである。

('、`*川「そこにいるのは分かってるわ。 でてらっしゃい」

恫喝にも似たペニサスの声は、不思議と優しげだ。
すでにその時には、ペニサスの双眸は敵を刺し殺さんばかりに細められている。
ペニサスが植え込みに向かって話しかけたのに呼応して、植え込みが微かに揺れた。
そして、そこから一つの人影が現れた。

(,,゚Д゚)「手前は誰だゴルァ!」

ギコの恫喝にも動じず、人影はゆっくりとペニサスたちに歩み寄ってきた。
庭に備え付けられた街灯に照らされ、人影の姿が徐々に露わになってくる。
レインコートを被る男が現れ、男の口元が歪む。
次の瞬間、ギコのサブマシンガンが火を噴いた。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 21:24:38.86 ID:IxYq8IBI0
一つに繋がって聞こえるほど高速で放たれた銃弾が、驟雨となって男に降りかかる。
もしギコが一瞬でも引き金を引くのが遅れていたら、ギコは失明していただろう。
ギコの眼球を抉る代わりに、高速で投擲されたナイフはギコの顔に一筋の傷をつけた。
放たれた銃弾が男を穴だらけにするより早く、男は姿を消している。

(,,゚Д゚)「き、消えt」

('、`*川「…っ!」

男が消えたことに狼狽するギコは、一瞬息をするのを忘れた。
それはギコの横にいたペニサスの放つ殺意が、極限まで高まったからだ。
ペニサスが羽織っていた外套の裾を撒き上げ、両腰のホルスターから愛用のマグナム銃を抜き放つまでに要した時間は一瞬。
二丁のマグナム銃を抜き放つと同時に、高速連射をやってのけたペニサスの技量は一種の名人芸だ。

撃ち放たれたマグナム弾は、ギコの銃弾が抉った地面のすぐ後ろの空間に向かって吸い込まれる。
傍から見れば、その行動は理解できないものだったろう。
しかし、次に起こった事はペニサスの技量を垣間見ることになった。
一瞬、火花が散ったかと思うと、そこに幻のように男が姿を現している。

(・∀ ・)「あははは! 流石にやるね!」

子供のように笑い声を上げる男が姿を見せたのと同時に、ペニサスのマグナムから空薬莢が排出される。
ローダーで素早く装弾し、手首のスナップだけで輪胴弾倉を元に戻す。
輪胴弾倉の強みは、装弾した後のアクションが速いことだ。
ペニサス程の速さではないが、ギコもサブマシンガンの弾倉を交換している。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 21:26:21.06 ID:IxYq8IBI0
('、`*川「ここがクールノーファミリーの本部と知っての狼藉かしら?」

言うより早くペニサスの構えたマグナムが吠えたかと思うと、笑い声をあげる男、―――またんきの両膝が弾ける。
膝小僧に撃ち込まれたマグナム弾は、またんきの骨と肉を抉った。
マグナム弾の直撃を受けた膝は、おそらくもう使い物にならないだろう。
流石にまたんきと言えど、その痛みに苦悶の声を抑える術は無かった。

(・∀ ・;)「い、いだだだだだ!!」

(,,゚Д゚)「手前にはいろいろ喋ってから死んでもらうぜゴルァ」

苦悶の声を上げるまたんきは、膝を押さえてのたうち回る。
ギコがまたんきに歩み寄ろうとした瞬間、ギコの視界が反転した。
もしペニサスの足払いがなければギコは、何が起きたか理解できないまま心臓を吹き飛ばされていただろう。
背後の扉に銃痕ができた時には、眼前にいたまたんきの姿は消えている。

('、`;川「ちぃっ!」

しゃがみながらも、素早く銃口を素早く横に向けたペニサスの行動の速さは称賛に値した。
銃口の先にいたのは紛れもなく、口元を歪めて笑うまたんきだ。
動揺も狼狽も見せずに引き金を引いたペニサスは、引き金を引くと同時に反動を利用して横に飛んだ。
その際、ギコを蹴飛ばしてギコの体に大穴が開くのを防ぐ。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 21:28:33.60 ID:IxYq8IBI0
ペニサスに蹴られても、ギコの思考はすでにペニサスのそれと同調していた。
長年、共に過ごした二人だからこそできる芸当だ。
ギコとて手練である以上、素早く立ち上がって銃口を敵に向けることぐらいは朝飯前である。
ペニサスの援護を受け、ギコは立ち上がりざまにサブマシンガンをフルオートで撃ち放つ。

(,,゚Д゚)「死ねやゴルァ!!」

またんきの代わりに、着ていたレインコートだけが穴だらけになって地面に落ちた。

(,,゚Д゚)「ペニ姐さん、あいつは一体…」

敵の気配が完全に消え、辺りには再び雨音だけが響く。
ギコが空になった弾倉を排出し、新たな弾倉を挿入する。
それに合わせ、ペニサスも輪胴弾倉から空薬莢を排出する。
ローダーで素早く装填し、輪胴弾倉を元に戻す。

('、`*川「さてね、鉄火場が増えるのだけは間違いないわ」
     (なるほど… あれがデレデレ様の言っていた…)

降り続く豪雨が掻き消すようにペニサスの言葉に上塗りされる。
ペニサスは無意識のうちに冷や汗をかいていた。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 21:31:03.94 ID:IxYq8IBI0
――――――――――――――――――――

水平線会の本部は、クールノーのそれとあまり距離が開いていないところに佇んでいる。
クールノーそれと同じ程の敷地があるのだが、建物の構造が根本的に違う。
クールノーが女らしい清楚な建物ならば、水平線会は男らしく堂々とした建物だ。
敷地全土を使った巨大な建物は、観光客が見れば高級ホテルと見違えるかもしれない。

一応、あまりにも勘違いが多いため、警告の看板を立てている。
しかし、それでも建物の中に入った観光客には悲惨な未来が待ち受けている。
若い女なら問答無用でミセリの手に渡され、風俗嬢のイロハを徹底的にその体に覚え込まされる。
ありとあらゆるプレイに対応できる人材にまで教育され、教育が終わる頃にはこの場に留まりたいと懇願するほどだ。

薬を一切使わずに女を快楽の虜にすることに関して言えば、ミセリの横に出る者はこの都にはいない。
故に通り名は"グレートピンクエロス"、本人は気に入っているとのことだ。
女ならまだいいのだが、男の方は文字通り悲惨な未来が約束される。
年齢を問わずに連れて行かれるのはミセリの弟子、"穴掘り"阿部の経営するゲイバーだ。

受けか攻めかを決める試験で、男たちの■■■に2リットルのペットボトルを無理やり■■■することだ。
大抵の男は■■■が拡張され、倫理を超えた何か(受け)に目覚める。
ごく稀に、■■■が拡張されずに裂けた場合、真理を超えた何か(攻め)に強制的に目覚めさせられる。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 21:33:36.63 ID:IxYq8IBI0
この話はとても有名で、都で名を馳せている天才デザイナー"ミディペット"も倫理を超えた何かに目覚めた者の最たる例としてしばしば名が出る。
それ故、悲惨な未来を迎える観光客は年に一人か二人に留まった。

その日、ミルナは建物外の巡回警備を手練のトラギコと共にこなしていた。
レインコートに身を包んでいるのは、傘を持つことで片手が塞がるのを防ぐためだ。
両者が構えているのは、このような中でも安心して使えるカラシニコフだ。

(=゚д゚)「おぉおぉおぉ… 寒いラギ…」

トラギコが音を上げるのも無理もない、ずっと降り続いている豪雨のせいで気温が極端に下がっているのだ。
太陽の光が届かないため、気温は下がる一方だ。
しかし、音を上げて警備を疎かにするほど二人は甘くはない。

( ゚д゚ )「後でとっておきのウォッカでも飲むか…」

(=゚д゚)「最高ラギ!」

ミルナの魅力的な提案は、トラギコのやる気に火をつけた。
しかし、魅力的な提案すらも打ち消したのは、強烈な殺気だ。
微かに設けられた庭ではなく、その外、塀の外からその殺気は放たれている。
カラシニコフの銃口を上げ、いつでも撃てる状態にした二人の行動は手練だからこそとれる動きだ。

もし、不用心に塀に近づきでもしたら命は無かっただろう。
カラシニコフを構えたまま、互いの死角をカバーしながら近づき、二人同時に伏せた。
直後、二人の頭上を空気を裂いて何かが通り抜けた。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 21:36:38.54 ID:IxYq8IBI0
(;=゚д゚)「く、鎖分銅?!」

驚愕がトラギコの脳裏を過るより早く、鎖分銅が引き戻す勢いを利用してトラギコに迫る。
カラシニコフを咄嗟に構えたのが幸いし、鎖分銅は銃身に当たってトラギコの顔ギリギリを掠め飛んで行った。
しかし、本当の驚愕がトラギコを襲ったのは、構えたカラシニコフの銃身が無残に折れ曲がっているのを見咎めてからだ。

(=゚д゚)「ジーザスラギ…」

使い物にならなくなったカラシニコフを潔く捨て、トラギコは腰からクーガーを引き抜く。
一方、鎖分銅は塀の向こうに消え、トラギコ達に安心を与えようとしない。
ここで安心した空気を一瞬でも漏らせば、鎖分銅が容赦なく頭蓋を砕くだろう。

( ゚д゚ )「トラギコ!」

ミルナの警告より一瞬だけ早く、トラギコは横に転がりこんだ。
直後、それまでミルナの顔があった位置を鎖分銅が通り抜け、背後の壁に小さなクレーターを作った。
トラギコが避けたのを感触で感じ取ったのだろう、鎖分銅が勢いよく引き戻される。
その隙を見逃すほど、ミルナは落ちぶれてはいない。

( ゚д゚ )「そこか!」

敵の姿を視認せずとも、ミルナには敵の居場所が分かっていた。
鎖分銅は鎖が軌道を描き終わりの点につき、始まりの点に戻る得物だ。
ならば、戻る場所にこそ鎖鎌などという時代錯誤な得物を使う者がいるはず。
そう睨んだミルナは、カラシニコフをフルオートで射撃し、襲撃者の次の攻撃をけん制する。

その行動を当然のように読んでいた襲撃者は、空中で鎖分銅を縦横無尽に振り動かし、自らの位置を特定させまいとする。
だが、それはミルナの計算の内だった。
ミルナがフルオートで全弾撃ち尽くすより早く、トラギコのクーガーが火を噴く。
小型のクーガーを片手で撃ち撒く間にも、トラギコは次の弾倉を片手に歩み出している。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 21:41:10.57 ID:IxYq8IBI0
(=゚д゚)「ラギラギララギ!!」

素早く空になった弾倉を排出するトラギコの呼吸を読んでいたのか、襲撃者の鎖分銅がトラギコを目指して襲いかかってきた。
冷静に分銅を撃ち、起動を僅かに逸らす。
髪を僅かにかすめ取って分銅はトラギコのすぐ足元に落ちる―――はずだった。
鎖分銅の最大の利点は、攻撃最中に自由に軌道を変えられることだ。

まるで蛇のように分銅がうねり、トラギコの計算はわずかに外れた。
とはいえ、事前に銃弾を撃ち込んでいたことが幸いし、トラギコは分銅が肩に当たるだけで済んだ。

(=゚д゚)「くっ!」

激痛に声を上げる事を気合で抑え込み、トラギコは足元に落ちた分銅を負傷していない手で掴んだ。
鎖を思い切り引っ張り、敵から得物を奪い取ろうと試みる。
しかし、敵も馬鹿ではない。
鎖鎌の長所であり、また短所でもある鎖を敵が狙ってくることぐらい推測していた。

トラギコが引っ張るのと同時に、襲撃者の手から鎖が離される。
それを感触で察知し、トラギコは分銅を素早く手放した。
直後、トラギコの首元を鎌が勢いよく掠め飛んで行く。

( ゚д゚ )「ちっ、逃げられたか…」

忌々しげに舌打ちしたミルナは、落ちている鎖鎌を拾い上げる。
―――豪雨は降り続く。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 21:42:18.20 ID:IxYq8IBI0
――――――――――――――――――――

( 'A`)と歯車の都のようです

第二部【都激震編】
第二話『静動』

二話イメージ曲【Cage】 鬼束ちひろ

――――――――――――――――――――

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 21:44:54.62 ID:IxYq8IBI0
歯車の都のあまり目立たないところに、バーボンハウスはひっそりと建っている。
建物の大部分が木で作られているため、バーボンハウスには独特の温かさが宿っている。
店の設計上、窓は出入り口の扉に小さいのが一つきり。
出来るだけ周囲の視線を気にせずに酒や料理を楽しんでもらおうという、店主の粋な計らいだった。

その計らいは評判がよく、多くの要人が通い詰めている。
しかし雨季ともなると客足は遠のき、昼の売り上げはおろか、その日の売り上げすらも芳しくない。
とはいえ、バーボンハウスは別に黒字経営を続ける必要はなく、店主の余生の過ごす場所としての役目だけを果たしている。

五年前の抗争で片足を切断して現役を引退した店主、以前と比べるとシャキンはまるで人が変わったかのようになった。
それまでロマネスクの右腕として過ごしていたシャキンは、周囲から常に距離を取られていた。
脚だけで車を破壊したり、蹴りで酒瓶を割らずに切り裂くなど当たり前にできた。
シャキンの脚から繰り出される技は、その全てが完璧な美しさを持っていた。

片足を失うことになった経緯は未だに不明で、シャキンはそのことに関しては一切喋ろうとしない。
聞こうものならその者は自動的に命知らずとしてみなされ、翌日には精肉工場の廃棄処理物として処理される。
そんなシャキンも、やはり人間だ。
苦手なものの一つや二つは当たり前にある訳で、今バーボンハウスに漂っている空気もその一つだった。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 21:48:19.58 ID:IxYq8IBI0
( ФωФ)「失敗によって失われた四人の代わりに、新たなメンバーを参入させるのである」

その場の空気を知ってか知らずか、ロマネスクは変わらぬ陽気な調子で続ける。

( ФωФ)「あー、では… 吾輩は酒を飲んでるから自己紹介なりして親睦を深めてくれである」

そう言って焼酎のお湯割りを呷り、食べかけていたブリ大根を嬉しそうに食べ始める。
ロマネスクの指示とあっては、断る理由も術も無い。

从 ゚∀从「じゃあ俺からだ。 俺はハインリッヒ・高岡。 ハインとでも呼んでくれ」

左眼を覆い隠す銀髪、もう片方から覗く灼眼。
程よく形の整った乳房を揺らしながら、ハインと名乗る女は胸を張った。
  _
( ゚∀゚)「次は俺だ! 俺の名はジョルジュ長岡。 ナイスガイ・ジョルジュと呼んでくれ」

どこかの西部劇にでも出てくるかのような格好の男は、愛嬌たっぷりな眉毛をそう言って持ち上げた。
しかし、その視線はドクオたちの顔を見るより早く、ヒートとツンの胸に向けられている。
それを快く思わないツンは、憎々しげにジョルジュを睨みつけた。
  _
( ゚∀゚)「おいおい、Aカップには用はねぇ。 すっこんでろ。
     そこのHカップの女、手前に用がある」

ノハ ゚听)「殺すぞ、ゴミ虫が」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 21:49:57.92 ID:IxYq8IBI0
ドスの利いたヒートの恫喝は、少なくとも並の者なら失禁しかねないものだ。
ジョルジュとてそれは例外ではなく、ジョルジュはひきつった笑顔を浮かべるにとどまった。

【+  】ゞ゚)「棺桶死…オサムだ…」

顔面全域を覆い隠す包帯から聞こえてきた声は、尻つぼみになっている。
耳を澄ませていないと聞き取れないほどの声量なのは、ひょっとしたら包帯のせいかもしれない。
背中に背負った棺桶は、男の頭二つ分は高い。

( 'A`)「何を背負ってるんだ?」

ドクオの抱いた素朴な疑問は、少なくともその場のほぼ全員が抱いたものだった。

【+  】ゞ゚)「棺桶だ…」

男のそっけない回答に、ドクオは言葉を失った。
曲がりなりにも自己紹介を済ませた三人は、ドクオたちの座っている座席に近づいてくる。

バーボンハウスの中には、二種類の席が存在する。
一種類は、ドクオたちが腰かけているのと同じ種類の四人席。
もう一種類は、ロマネスク達要人が腰かけているカウンター席だ。
両方とも木から作られているため、使い込むにつれて味が出る。

ドクオたちの席の隣、もう一つの四人席に二人は腰かける。
オサムは背負った棺桶を置こうとせず、立ったままだ。
オサムの背負う棺桶は、怪しく黒光りして、その表面に周囲の様子を反射させている。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 21:52:35.72 ID:IxYq8IBI0
【+  】ゞ゚)「レモンハートを…」

相変わらず尻つぼみの単語で注文するオサム。

从 ゚∀从「ロンリコ」

何の迷いもなく注文をするハイン。
  _
( ゚∀゚)「ラッテ・リ・ソッチラをくれ」

キザったらしく指を鳴らしたジョルジュの注文。
それに対して文句一つ言わず、嫌そうな顔をしないのは単にシャキンの技量の問題だった。
最後のジョルジュの注文の仕方で堪忍袋の緒が切れたのだろう、ツンが露骨に舌打ちをした。

ξ ゚听)ξ「けっ、こっちも一応自己紹介しましょうか? "社交辞令"として」
  _
( ゚∀゚)「Aカップは黙って…ヴォア?!」

余計な事を喋ろうとしたジョルジュの顔面を殴りつけたのは、意外にもオサムの拳だった。
なおも悪態を付こうとするジョルジュの脛を、ハインが遠慮なしに蹴った。
  _
(; ∀ )゚ ゚

从;゚∀从「あー、すまないな。 俺から頼もう、自己紹介してくれ」

ハインに頼まれ、ツンは渋々自己紹介をすることにした。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 21:54:18.08 ID:IxYq8IBI0
ξ ゚听)ξ「クールノー・ツンデレ」

( 'A`)「ドクオ・タケシ」

ノハ ゚听)「素奈緒ヒート」

愛想とは無縁で簡潔極まりない自己紹介を済ませ、三人は昼食を続行することに心に決めた。
それと同時に、シャキンが片手にグラスを乗せた盆を乗せてやってくる。

(`・ω・´)「はい、お待たせしました」

音も上げずに置かれたグラスには、波一つ立っていない。
各々それを手にし、静かに中身を飲む。

从 ゚∀从「俺ぁどうにもこのロンリコの味が好きでね」

ロンリコを口にするハインの姿はどこか妖艶で、甘ったるいものがある。
手にしたグラスを弄び、ハインは眼を細める。
はたしてその眼は何を見ているのだろうか、少なくとも、グラスの中身を見ていないのだけは確かだ。

( ФωФ)「…時にシャキン。 今日は団体客の予定はあったか?」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 21:56:10.21 ID:IxYq8IBI0
唐突に、それまで酒を楽しんでいたロマネスクの様子が一変した。
店の出入り口を開かれていない目で睨みつけ、ロマネスクは立て掛けてあった杖を手にする。
ほぼ同時に、シャキンはカウンターの下からショットガンを取り出した。
黒光りするそれは、通常のショットガンより一回り大きい。

シャキン程の反応の速さではなかったが、ツンたちも各々の得物に手を掛ける。
―――二人を除いてだが。

(;'A`)「え?」

【+  】ゞ゚)「…」

完全に出遅れたドクオは遅れながらも両腰のナイフの柄を掴む。
しかし、オサムは立ち上がったままで、得物を構える仕草一つしない。
でぃとデレデレは先ほどまで乳繰り合っていた様子など微塵も見せない険しい表情で、得物を構えている。

唯一の窓越しに人影が映ったかと思うと、店の照明が消えた。
静寂と暗闇が訪れ、誰かが息をのむ。
雷が轟音を上げた次の瞬間、雷音と共に出入口の扉が吹き飛んだ。

ξ ゚听)ξ「っ!」

咄嗟に目を細め、閃光弾などによって視力を奪われることを防いだツンの判断は流石だった。
この暗闇の中、下手に強烈な光を見てしまえば狙撃手の命である眼がわずかの間だが、使い物にならなくなるからだ。
それは爆発の際の炎も例外ではなく、それを警戒したツンの行動は母親から教わった物だ。
爆煙の上がる出入口にドラグノフの銃口を向け、敵を視認次第引き金を引くだけだ。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 22:01:53.07 ID:IxYq8IBI0
ζ(゚ー゚*ζ「っ」

デレデレは爆発する前から目をつぶっていたため、爆発と同時に活目するだけで事足りた。
一児の母はいかなる状況でも、常に最適な行動を選択する。
ツンの生みの親であると同時にクールノーファミリーのゴッドマザーであるデレデレは、決して選択を間違えることはない。
PSG-1の照準を、爆煙の立ち上る入り口に向けた。

ツンの構えたドラグノフが火を吹き、最初の侵入者が悲鳴を上げる。
半瞬遅れてデレデレのPSG-1が、二人目の侵入者を屠った。
そして、シャキンがショットガンの銃口をまだ吹き飛んでいない壁に向けて撃つ。
木製の壁に大穴があき、壁を爆破しようとしていた襲撃者を吹き飛ばす。

瞬間、バーボンハウスの路地に面していた壁が吹き飛んだ。
雷光がそこにいる襲撃者たちを照らし出し、ツンは眼を瞠った。

( ∴)∴)∴)∴)∴)∴)∴)∴)

全部で三十人以上はいるだろうか、それぞれが手にしている武器は違うが、全員同じ仮面を被っている。
近接用のナイフや刀を構えた襲撃者たちが駆けだしたのと同時に、ドクオも駆けだしていた。
否、駆けだしていたのはドクオだけではなく、ハインも同じく駆けだしていた。

从 ゚∀从「新入りの実力を見せるには、ちょうどいい!!」

次の瞬間、ハインは両腕の裾から怪しい輝きを放つ得物を取り出した。
チンクデアと呼ばれる大振りのナイフを素早く逆手に構え、ハインの手が消失する。
消失したと錯覚するほど素早く振られたチンクデアの刃は、仮面を被った襲撃者の顔を両断した。
もう片手に構えたチンクデアの刃先を、別の襲撃者の喉に突き刺す。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 22:03:03.86 ID:IxYq8IBI0
喉元を切られ、声にならない絶叫を上げ襲撃者は自ら作った血だまりに崩れ落ちる。
素早くナイフを元に戻し、順手で構えたかと思うと、チンクデアを構えた手が掻き消えた。
空気を切り裂く音さえ聞こえてくるその一撃により、日本刀を振り下ろそうとしていた者は刀ごと上半身を切り裂かれた。
腸を引きながら落下した死体を蹴り上げ、ハインは飛来した銃弾をそれで防ぐ。

ドクオも負けじとナイフの刃を展開し、襲撃者に切りかかる。
不気味に輝く刃先が、襲撃者の姿を反射している。
必殺の一撃を見舞うため、ドクオは最大のリーチで斬撃を繰り出した。
だが、ドクオのナイフが襲撃者を屠ることは無かった。

ノハ#゚听)「でりゃあああああああ!!」

ドクオのナイフの刃先が襲撃者に届くより早く、ヒートの"槍"が敵を貫いた。
背後にいた別の襲撃者も一緒に突き刺し、ヒートは槍を横に振る。
軽く振っただけの動作にもかかわらず、襲撃者は胴体を引き裂かれた。
上半身は壁に叩きつけられ、下半身だけが崩れ落ちる。

ノハ#゚听)「噴!」

気合いの掛け声と共に、ヒートは片手で槍を薙ぐ。
ヒートが敵を三人まとめて薙いだ時、ヒートの獲物の全貌が明らかになった。
異常なほど長い柄と、尋常ではない長さの刃を備えた槍こそが、ヒートの得物だ。
突き刺すことに特化した両刃は、襲撃者のナイフや銃ごと貫き、切り裂いている。

从 ゚∀从「流石さね、俺よりもずっと強い!」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 22:05:56.01 ID:IxYq8IBI0
そう言うハインも、チンクデアの姿が視認できないほどの速度で捌いている。
ヒートに目を奪われていたハインの背後で、仕留め損なった襲撃者がゆらりと立ち上がった。
手にした短機関銃の引き金を引き、ハインの美貌を醜い肉塊にする―――、その瞬間。
それまで特に何もしていなかったジョルジュの手元から、数発の銃声が響く。
  _
( ゚∀゚)「また一つ、無駄な命を…」

いつの間にか深々と被ったテンガロンハットを、ジョルジュは銃口でそのツバを持ち上げる。
どこか悲しげで、演技めいたため息を吐く。
銃口から上がる硝煙に軽く息を吹きかけ、ジョルジュは悦に浸る。
煙が消えた頃には、ハインを襲おうとしていた者は口から血を吐いて倒れた。
  _
( -∀-)「あぁ… クールすぎるのが罪なのか、罪深いのがクールなのか…
      GOD(God of Death) はどうして俺にこんな…
      そんな罪よりもオッパイをくれってんだ」
  _
( ゚∀゚)「そうだよな! あんたもそう思うだろ?!
     女の子の胸にはよぉ、夢が詰まってるんだよ! はち切れんばかりの夢が!」

愛嬌たっぷりの眉毛をワナワナと震わせ、ジョルジュは自分の胸を揉み始めた。
完全に変なスイッチの入ったジョルジュの顔面を、ツンの回し蹴りが容赦なく襲った。
変なスイッチが入っていたジョルジュにそれを回避する事など到底できず、敵の銃弾で頭が吹き飛ぶ代わりに鼻血を噴出して壁に叩きつけられた。
  _
(; ∀ )゚ ゚「イヤッフウウウウウウウウウウウウ!!」

絶叫を上げながらジョルジュは力なくへたり込み、白目をむいてしまった。
その様子を見咎め、ツンはジョルジュの顔面に唾を吐きつけた。
その余計な行動が仇となり、ツンは自分に銃口が向けられていることに気付かなかった。
ツンが気づいた時には、敵の構えた銃口から火が上がっている。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 22:08:51.81 ID:IxYq8IBI0
ξ;゚听)ξ(ファック!!)

【+  】ゞ゚)「…っ」

不可避かと思われたツンの死を止めたのは、オサムの背負う棺桶だった。
甲高い音を立てて銃弾をはじき返し、ツンを死の一撃から護ったオサムの顔は暗闇と包帯のせいで解らない。
しかし、ツンは構えたドラグノフの金属照準器で敵を狙い、オサムが自分を庇った理由を考えることはしない。
照準が合うのと引き金を引くのはほぼ同時、敵が脳漿をぶちまけるのと絶命するのもほぼ同時だ。

ノハ#゚听)「破!」

多くの屍を足元に作り、それを足場にヒートは決して衰えない斬撃を繰り出し続ける。
しかし、敵も際限なく人員を導入してくる。
飛び道具が効かないと理解したのだろう、敵のほぼ全員が近接用の得物を持ち出している。
だが、ヒートの槍に死角などという言葉は存在せず、ヒートの辞書にも載っていない。

リーチが大きすぎることが最大の欠点であるはずの槍なのだが、ヒートの操る槍にはそれがない。
最大限のリーチで突き出した槍に五人ほどが串刺しになり、ヒートの背後と言わず、全方向から隙を狙った者たちが飛びかかる。
ナイフや戦斧を手に、ヒートに襲いかかった者のほとんどが、何が起きたか理解できないまま顔が吹き飛んだ。
それが、ヒートの裏拳による一撃であると気付いた者は、次の瞬間には首だけが一回転している。

串刺しにした死体を振り飛ばし、ヒートは再び切りかかる。
ヒート相手では分が悪いと睨んだ者は、ヒートの横にいるハインに襲いかかった。
しかし、事態が都合よく好転するはずもない。
ヒートの一撃が力なら、ハインの一撃は技だ。

从#゚∀从「ちぇあああ!!」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 22:10:38.76 ID:IxYq8IBI0
残像を残して振り下ろされたチンクデアは、襲いかかった者を悉く切り伏せている。
ハインのチンクデアによって急所を切り裂かれ、派手に血を噴き出しながら倒れこむ者のせいで、バーボンハウスは文字通り血の海と化した。
圧倒的な力と技を前に、仮面を被った者たちの間にたじろぐ様子はない。
まるで機械のように臆する事のない彼らは、死と恐怖の概念が欠如しているだけでなく、感情すらないのかもしれない。

ζ(゚ー゚*ζ「オサムちゃん、お願いね」

ヒートたちの奮闘のおかげで、狙撃の手間が省けたデレデレが、オサムの元に歩み寄って小さく囁いた。
それを受け、オサムは無言で頷き、ヒートたちの元に歩み寄る。
時折飛んでくる血がオサムの包帯を赤く染め、あっという間にオサムの包帯は真っ赤になった。
しかし、それを気にも留めずに歩みながらオサムは、いつの間にか手にした"弓矢"を構える。

【+  】ゞ゚)「っ…」

構えた矢を弓に番え、弦と共に矢を引く。
人差し指と眼で狙いを定め、殺意と共に矢を解き放つ。
発砲音を上げない矢による攻撃を想定した者など、おそらくその場にいなかった。
仮面ごと頭蓋を貫通し、矢じりが後頭部から飛び出した死体が倒れこむ。

敵が飛び道具に手を伸ばすより早く、オサムは次の矢を番える。
最初に飛び道具を手にした者の側頭部を貫いた矢は、その者の小脳をも貫いた。
オサムが矢を番えながら背を向けた時、背負った棺桶に次々と銃弾が当たる。
甲高い音が止んだその一瞬、オサムは再び敵に対面した。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 22:14:16.22 ID:IxYq8IBI0
【+  】ゞ゚)「遅い…」

弓を横に構えて三本いっぺんに番えられた矢を、一気に解き放つ。
三本全ての矢がそれぞれ異なる急所に突き刺さり、三人いっぺんに倒れこむ。
だが、一人の手にした銃が暴発し、弾丸が狙撃に専念していたツンに向かって凶弾が放たれる。
しかし、オサムはそれを自らの腕で受け止めた。

苦痛の声一つ上げずにオサムはツンの無事を見咎め、安堵のため息をついた。
それを聞いていたのはデレデレだけで、当のデレデレはでぃの腕にしがみついている。
でぃはそれを気にもせず、片手で正確な射撃を敵に浴びせている。
デレデレがでぃの腕に強くしがみつくたび、豊満な胸が次々と形を変えていく。

ζ(^ー^*ζ「でぃ格好いい!!」

あまつさえ嬌声を上げるデレデレを、誰も咎めようとはしなかった。
先ほどまで津波のように押し寄せてきていた敵が、だいぶ減ってきたからだ。
それもこれも、前線で戦っている二人の乙女の力のおかげだった。
返り血で化粧を施すその二人の乙女は、まるで地獄からの使者だ。

( ∴)

最後の一人がヒートに切りかかろうとしたとき、その首と言わず、全身が一瞬でバラバラに切り裂かれた。
今までどこにいたのか、ロマネスクが崩れる肉塊の後ろから現れた。
杖に仕込まれた刀についた血を振り飛ばし、刀を杖にしまいこむ。
閉じられている目でも迷いなく、つまずくことなくヒートのそばに歩み寄る。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 22:16:19.50 ID:IxYq8IBI0
( ФωФ)「うむ。 一応全滅、であるな」

ねぎらいにも聞こえるロマネスクの言葉を、ヒートは軽く笑って受け止めた。
清々しいまでの笑顔は、異性なら惹かれずにはいられないものだ。
如何せん、顔の半分以上を血で染めているため、それほどの効果は得られない。
しかし、ヒートはそんなことを気にも留めない様子でいる。

一方、ハインは顔を血以外の何かで赤く染め、俯いてしまっている。

从//∀从「ぇ…ぁぅ…にゅ…」

その様子を見れないロマネスクは、優しくハインの髪を撫で、シャキンがいるカウンター席に歩み寄った。
背後でハインが卒倒しかねないほど顔を真っ赤にしていることを知っているのは、ヒートだけだ。
ロマネスクは自分が座っていた席に腰かけ、グラスを探して手を彷徨わせる。
やがてグラスに指が触れたのだが、銃弾によってロマネスクが飲んでいた酒とグラスは台無しになっている。

ロマネスクが割れたグラスを悲しげにつまみ、ため息をついた。
壁際で無様に気絶しているジョルジュに向かってそれを投げつけ、ロマネスクは吹き飛ばされた壁を見つめる。
閉じられている目が見つめる先には、夜のように暗い闇が広がっている。
雨の軌跡がかろうじて見えるぐらいの暗さだが、ロマネスクにはそれすら見えないはずだ。

ζ(゚ー゚*ζ「あーあ、せっかくのデートだったのに…」

心底残念そうにため息をついたデレデレは、自分の巻き髪を指でいじり回す。
それはクールノーファミリーの者なら誰もが知っている、デレデレがいじけた時の癖だ。
その事を知っているのは何もクールノーの者だけでなく、親しい者も同様に知っている。
無論、でぃは誰よりもデレデレの事を理解している。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 22:18:47.02 ID:IxYq8IBI0
(#゚;;-゚)「なに、また明日デートすればいい」

自分の意見と、デレデレが望む答えを率直に口にするのはでぃの美徳だ。
デレデレは当然、いじっていた髪など忘れ、でぃに抱きついた。
忘れたのはいじっていた髪と不機嫌なことだけで、残念ながら人目の存在は覚えている。
そんな事を気にしないことは、娘であるツンは重々承知しているだけに、ため息が出てしまう。

ζ(^ー^*ζ「あーん、でぃったらもぅ… はぁはぁ…」

乳繰り合いを続行し始めた二人をよそに、ツンは足元に転がる死体の仮面を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた仮面の下から覗く顔には、当然血の気がない。

<ヽ`∀´>

だが、ツンはある違和感を持った。
男の顔の大部分が"鉄板"で覆われて―――否、顔の下から鉄の何かが覗いているのだ。
すぐさましゃがみ込み、鉄を覆う"人工皮膚"を剥がす。
そして、ツンは息をのみ込んだ。

ξ;゚听)ξ「何これ… 機械化じゃない…? 機械化以上の…」

ツンの異変に気づいたのだろう、乳繰り合って周りが見えていないかと思われたデレデレが、ツンの手元を覗き込む。
そして、デレデレの表情が一変した。
それまで溶け落ちそうなほど幸せそうな顔をしていたデレデレの顔に、明らかな驚愕の色が浮かんでいる。

ζ(゚ー゚;ζ「ちょっと、こいつ… でぃ、来て」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 22:21:45.34 ID:IxYq8IBI0
珍しく真剣な声で呼ばれたでぃが、すぐに駆け寄った。
ただならぬ空気に、ツンの元にジョルジュを除いた全員が集まる。
全員ツンの指先を凝視し、デレデレが次に口にする言葉に耳を傾けた。

ζ(゚ー゚;ζ「こいつ、今日頭を吹き飛ばされて死んだはずよ… それに…」

(#゚;;-゚)「これは機械化じゃない。 機械化に必ず用いる歯車が"ただの一つも"使われていない」

デレデレを抱きよせ、でぃはロマネスクを見やる。
ロマネスクは事態を耳で聞くことしかできないため、でぃの報告を待っているのだ。
軽く息を飲み、でぃは重い口を開いた。

(#゚;;-゚)「死体に手を加えた新たな機械化の技術。 これは間違いなく…」

(#゚;;-゚)「第三勢力の仕業だ」

そのでぃの言葉を、ロマネスクは黙って聞き、杖先で地面を軽く叩く。
そして、叩くのが止んだかと思うと、ロマネスクが口を開く。

( ФωФ)「歯車王の暗殺はしばらく先送りにするのである。
        今の最優先事項は、この第三勢力の殲滅である!」

"殲滅"の部分を強調した際、ロマネスクの杖先が転がっていた男の頭を砕いた。
そこから出て来たのは、わずかの脳漿と人工血液と、ネジやチューブが姿を見せた。
そこには歯車は無く、配線などがあるだけだ。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 22:23:36.64 ID:IxYq8IBI0
――――――――――――――――――――

都の中心に位置する歯車城は、尖塔と円蓋で構成されている。
立ち並ぶ尖塔は全部で13本、その中心の尖塔は都の中で二番目に高い建築物だ。
建築物であると同時に、都唯一の時計塔の役割を果たしている。
一日の決まった時間になると、都の隅々に鐘の音が響き渡る。

雨季の時期ともなると、その鐘の音はいつもより大きくなる。
鐘が鳴るたびに、音の衝撃が都中の窓ガラスを振動させる。
それは無論、都で一番高い建造物であるラウンジタワーとて例外ではなかった。
振動する窓ガラスを背に、一人の男が立っている。

9000メートルという常識破りの高さを有するラウンジタワーは、歯車城から5キロ以上離れている。
その最上階に設けられた部屋にはその男以外にも、三人の人影が椅子に腰かけている。
窓際にいる男の顔は、暗闇のためよく見えない。
9000メートルの最上階とはいえ、都を覆い隠す分厚い黒雲の中にある。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 22:26:04.66 ID:IxYq8IBI0
【ちっ、役立たずどもめ… あれだけ数を導入したにもかかわらず、なぜあっさりと殺られるか!】

人の顔をかろうじて視認できるほどの明るさしかない部屋で、その声の主の顔は暗闇に溶け込んでいる。
忌々しげに舌打ちをした男に対して、腰かけていた女が口元を微かに歪めて笑った。
その声は蜂蜜のように甘く、粘りっぽい。
妖艶な声の持ち主は、手にした蜂蜜入りの高級葉巻を口にくわえて燻らす。

爪'ー`)y‐「ははは。 まぁ落ち着きたまえよ。
      ゼアフォー達はまだ試作段階だったんだしさ。
      それに、彼らは所詮捨て駒も同然、いくらでも代わりはいる」

ゆっくりと甘ったるい香りの紫煙を吐き出した女は、空いた手で耳にかかる髪を掬い上げる。
怪しげな色の口紅を塗り、その指には魔女のような爪が付いている。 
彼女は表社会の三大財閥の第三位、Fall On X-ratedネットワークの社長、フォックスだ。
葉巻の紫煙の向こうから、一人の女の顔が浮かび上がった。

川∀川「クククッ… ゼアフォーの材料、また沢山仕入れちゃったから…
     いくらでも、ね…」

口元を上げただけの邪悪な笑いを浮かべた女からは、その表情が読み取れない。
両眼を覆い隠すほどに長くの伸ばした髪の下で、不気味な光が灯る。
彼女は表社会の三大財閥の第二位、貞子鉄鋼業の創始者、貞子だ。
貞子の影に隠れるように座っていた女が、闇から産み落とされたかのように出現した。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/11/19(水) 22:27:41.40 ID:IxYq8IBI0
lw´‐ _‐ノv「どうでもいい。 さっさと話を進める」

女はそっけなく声を上げ、つまらなさそうに貞子たちを見やる。
愛想とは無縁のようにも見えるが、彼女はただ、好きでもない面々に対して愛想を振りまきたくないだけなのだ。
それでも彼女は、表社会の三大財閥の第四位の女社長、淳(すなお)シュールである。
その場の全員を統括するのは、窓辺にいる男だ。

【ふんっ、貴様ら忘れてはいないだろうな。 一人でも失態を見せれば、ワシらはみな破滅じゃ】

男の声には焦りと怒りが孕まれている。
窓際にいた男が、三人の腰かける椅子に歩み寄る。
直後に、窓の外が明るく光り、男の顔を露わにした。
初老の男の顔には、大きな傷が付いている。

/ ,' 3「五年間、わしらが味わった屈辱と汚辱を、思い知らせるまでは終わるわけにはいかん!」

しわだらけの顔に負った傷の形は、まるで獣に切り裂かれたかのようだ。
年老いても怒りだけは忘れないように心に復讐を決め、初老の男は眼を見開いた。
最後に声を荒げたのは、三大財閥の第一位、荒巻コーポレーション社長、荒巻スカルチノフ、その人だった。


第二部【都激震編】
二話 了


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