(,,゚Д゚) GIFTのようです

166 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:23:06 ID:u4ZdL.RU0

【政府軍特殊部隊 Side】 時刻 04:45

 現在、作戦開始から約十五分。
 政府軍の特殊部隊は、作戦における最も重要な時期に差し掛かっていた。
 この研究所は、名前とは裏腹にその守りはなかなか固く、シベリア側が関与しているのであろう錬度と装備だ。
 率直に言えばシベリア軍の小規模な軍事基地と言っても過言ではなかろう。

 しかも、作戦開始から数十分経過した現在は、こちらの奇襲攻撃における優位性が薄れてくる頃だ。 
 まだ研究所の警備兵の反撃が散発的とは言え、それも時間の問題であろう。
 少隊長として作戦を指揮するミルナ=タカギ(高木 海松南)大尉は、その足を持って研究所西に存在するAA(対空)兵器群の制圧に向かっていた。

 ミルナ大尉は十数名の部下を伴って研究所の敷地内を影から影へと走り抜ける。
 警備側のAA兵器は傭兵たちのハッカーである兄者という男が電子的に封鎖しているはずだが、彼が言うにはおそらく手動入力の発射が可能であるとの事だ。
 あと十分程で政府軍の回収ヘリがこの研究所に飛来するはずだ。
 その前衛である攻撃ヘリたちがやってくる前にAA兵器を制圧しなければならない。

 しかし、部下の半数以上は朝日の捜索に、まわしている。
 傭兵連中が朝日がいる可能性が最も高い研究棟を捜索し、ミルナの大半の部下が居住棟を捜索中だ。
 したがって今、ミルナと共に行動している隊員は十名ほどだ。
 今、ミルナ達は敷地内の大通りから外れた小さな建物の壁沿いの暗がりに隠れている。

167 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:24:41 ID:u4ZdL.RU0

( ゚д゚ )「あと200mほどで目標地点だ。
     各自スポットライトに注意しろ」

「「「了解」」」

 幸いにも闇夜に紛れたミルナ達の位置は警備側には漏れてはいない。
 おそらく兄者の偽装工作が効いているのであろう。
 付近の敵兵たちは皆、大暴れするギコ達とミルナの部下たちへと気を取られているようだ。 

( ゚д゚ )「!」

 ふとミルナが立ち止り、右手の拳を後方の部下へと振ると、そのまま手近な資材の影に隠れた。
 彼の部下たちもミルナに続くと、まさにその彼らが潜む暗がりへ向かって迫る二人分の人影が目につく。
 ミルナ達は暗がりに息を潜めつつ様子を窺うと、どうやら警備兵が正面ゲートの方角に向かっているようだ。

( ゚д゚ )「2、準備しろ。俺の合図を待て。残りは周囲を警戒」

「了解」

 ミルナとその副官である部下が膝立ちで、迫る敵兵へと小銃の狙いを付ける。
 心持軽く息を吸い込むと、やがて静かに呼吸を止める。
 やがてダットサイトに覗く敵兵の姿がどんどん大きくなってくる。
 
 もはやその距離が十数メートルというところで、件の敵兵は進行方向の暗がりに何かが潜んでいる事に気づく。
 まさに反射的とでもいうように、警備兵がその歩みを止め、棒立ちになった瞬間。
 ミルナは口元のインカムに向かって、肺に残した僅かな息を吐いた。

( ゚д゚ )「Fire」

 硬直した警備兵の身体に向かって数発の鉛弾が喰らい付く。
 まるでハンマーに殴られたかのように兵士の身体がよろめいて、力尽きた彼らはバタリと地面へ倒れ込んだ。
 減音器を取り付けた小銃のおかげで、辺りには微かな銃声と、人二人が倒れ込んだ音しか聞こえていないはずだ。
 ミルナは静かに周囲を一瞥し、立ち上がる。

( ゚д゚ )「Enemy down. Go」

168 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:26:46 ID:u4ZdL.RU0


 ミルナの合図に合わせて彼の部隊は前進する。
 彼の部下が素早く倒れた敵兵の死体を掴み、手近な物陰に引きずっていく。
 死体を隠すと、部隊は警備棟から伸びる灯光器の光を躱しながら、闇から闇へとその歩みを進める。
 お互いに警戒しあうことで死角をなくし、部隊は無言のハンドサインで意思疎通を図っている。

( ゚д゚ )「!」

 と、建物の影を縫うように進んでいた一行の目の前が空地のように開けた。
 どうやらAA兵器の20m手前まで到達したらしい。
 目の前には照明に照らし出された数台の装甲車両が見える。
 後方を部下に任せ、ミルナは懐から軍用の双眼鏡を取り出すと物影からその全貌を観察する。

( ゚д゚ )「ふむ、対空システムが三両。……あれはSA-22グレイハウンドか。
     奥にはツングースカ一両、情報通りだな。
     やはり、このままでは迎えのヘリがお陀仏になってしまうな」

 レーダーサイトに複数の対空機関砲と対空ミサイルによって研究所には高度な対空陣地が形成されており、それらはデータリンクによって統括されている。
 これによってこちらのヘリは空域に侵攻できず、ギコ達は地下水路による潜入を強いられたのだ。
 しかし、その肝心の情報能力は既に兄者の手によって奪われており、警備棟屋上に設置されたレーダーサイトは機能を停止している。

「隊長、どうやらシステム自体は生きているようですね」

( ゚д゚ )「いや、防空システムはビーグル2がダウンさせているはずだ。
     ……見ろ、おそらく車体ごと防空システムから切り離して作動させたのだろう。
     あれは単体でも十分に脅威になる代物だ」

169 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:28:47 ID:u4ZdL.RU0

 ミルナは右手の双眼鏡を副官へと手渡した。
 するとタイミング良く彼らの視線上の地対空ミサイルが作動し、その小型な防空用レーダーを回転させ始める。
 兄者の電子ロックも原始的な方法で遮断してしまったようだ。

「あー、兵士が5……、6人程度。
 やはり重要な機器はシベリア人が運用しているようですね。
 さっきのBTRといい、このSAMもシベリア製だ」

 副官の男はざっと辺りを見渡すと、双眼鏡をミルナへと返す。
 ミルナは副官から受け取った双眼鏡を腰のポーチへと戻すと、脇に置いた89式小銃を構えなおした。
 そのまま後方を警戒する部下をハンドサインで呼び寄せ、一座に固まる。

( ゚д゚ )「そうだな……。
     冬紛争のお礼に、棺桶に入れた連中を赤の広場に送り返すか」

「隊長。そりゃあ良いですね、クレムリン行きの手配はどうします?」

( ゚д゚ )「よし、5以下はそこの鉄条網沿いに反対側へ周れ。
     配置に付いたらこちらからの合図で撃て。
     素早く、慎重にやれ。いいな?」

「「「了解」」」

 ミルナの部下たちが次々と物陰から資材と鉄条網の間へと身を低くして飛び込んでいく。
 物陰を縫うようにして敵の死角を進み、やがて移動した部下全員がミルナたちの反対側へと到達する。
 するとミルナの無線に接続ノイズが聞こえてくる。

『配置に付きました。目標を複数確認、全て一度に撃てます』

( ゚д゚ )『消音された武器を使えよ。
     スタンバイ…………』

170 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:31:26 ID:u4ZdL.RU0
 ミルナと同時に部下もその獲物を構える。
 ミルナが狙うは地対空ミサイルの手前で機器の操作を行っている兵士だ。
 彼はすっと肩の力を抜き、膝立ちの状態で右側の壁へと身体を委託させた。
 ゆっくりと身体を安定させ、照準器を使用し僅か15m先の人間の頭部へ狙いを定める。
 肺に残った呼気を吐き出しながら口元のインカムへと呟く。

( ゚д゚ )『Fire』

 ミルナは引き金を引き、発射した5.56o弾で男の頭を柘榴のように破裂させた。
 合図とともに、辺りの静寂を破って微かな銃声が聞こえ、瞬く間に警備兵の命が奪われていく。
 同時に、狙いを僅かにそれた弾丸や敵兵を貫通したそれが車両に当たり軽快な金属音を奏でた。
 やがて辺りの暗闇に静寂が戻るものの、ミルナは小銃を構えながら視線のみを動かして周囲を警戒している。
 展開した部下が制圧を確認したのか、ミルナの無線が雑音を上げる。
 
『Clear right』『Clear left』

( ゚д゚ )『All clear.集合しろ』

 暗闇から部下たちが素早くその姿を現し、全員が地対空ミサイルの物陰へと集合する。
 そしてミルナの合図で各車両の底へと爆薬が仕掛けられていく。
 ふと、そこで副官の男が足元に倒れたままの警備兵の顔を覗き込んだ。
 
「隊長、こいつを見てください。やはり、東欧系でもアジア系でもありません」

( ゚д゚ )「やはりシベリア軍か。となると長居するとシベリアが増援をよこす可能性があるな。
     この国はシベリアの旧衛星国だ、急いだ方が良い。
     各自、至急死体から情報収集を。それと少尉、通信機を司令部に回してくれ」

171 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:34:45 ID:u4ZdL.RU0
 ふと、ミルナは足元の兵士の首元に光るドッグタグが目につき、それを引きちぎった。
 右手で僅かな光源に掲げると、その盤面に刻印されたシベリア語を呟く。

( ゚д゚ )「Служба внешней разведки(対外情報庁)?
     こいつらはKGBの亡霊か……」

「隊長、こちらです」

( ゚д゚ )「ん、ああ、すまない」
 
 ミルナはドッグタグを腰のポーチに入れ、副官から通信機の受話器を受けとった。

( ゚д゚ )『HQ、こちらホテル6。施設内に確認される全ての対空網を制圧し、爆薬を設置した』

『こちらHQ。良くやった。
 現在二機の攻撃ヘリがそちらの空域に向かっている。
 約五分で戦闘空域に到着する。コールサインはエコーだ。
 回収のヘリは四機のMH-60Jだ。その後方に続く。コールサインはキロ。
 可能ならばこのまま予定通り、LZの確保に向かえ』

( ゚д゚ )『了解、任務を続行する。オーバー』

172 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:35:37 ID:u4ZdL.RU0
( ゚д゚ )「よし、五分後にニンジャが援護にやってくるぞ。
     我々はこのままLZ(着陸地点)の確保に向かう。いいな?」

 現在、森林地帯を縫うようにしてこちらに高速で向かっているのはヤーパン軍の最新鋭攻撃ヘリだ。
 川崎重工製の偵察ヘリ「ニンジャ」を近代化改修し軽攻撃ヘリへと転用したものである。
 全身に黒色系の塗装を施し、ステルス性も考慮された設計の軽量重武装の最新機だ。
 武装は25oチェーンガン、ヘルファイアU対地ミサイル並びにロケットポッドと自衛用の対空ミサイルを装備する。
 通称はヤーパン国の歴史上の隠密兵士からとった「ニンジャ改」。
 
「「「了解」」」

 そのままミルナは兄者へと通信を続ける。
 辺りの暗がりには散発的に遠くから聞こえる銃声を除いて静寂が広がり、身体を冷やす夜風も少し強くなってきた。
 ミルナは戦闘服の襟を立てながら少し潜めた声で無線機へと呼びかける。

( ゚д゚ )『こちらホテル6、ビーグル2聞こえるか』

( ´_ゝ`)『聞こえるぞ』

( ゚д゚ )『たった今、AA兵器周辺を制圧した。これで防空網は全制圧を完了。
     支援機の攻撃ヘリが二機こちらに向かっている。五分で到着する予定だ。
     我々はこれよりLZの確保に向かう』

( ´_ゝ`)『了解。流石のお手際だな、こちらは朝日を捜索中だ。
      それと、敵に何人か手練れがいるようだ。注意してくれ、アウト』

 ミルナは通信を切ると時刻を確認する。
 作戦開始から約二十五分。
 東欧の奥地で繰り広げられる戦いは終盤へと向かう。
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173 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:36:19 ID:u4ZdL.RU0
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                  (,,゚Д゚) GIFTのようです Contract1−『ロンゲスト・プレゼント』 chapter6





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174 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:37:42 ID:u4ZdL.RU0
  
【Black Dogs side】 時刻04:45 研究棟14F(最上階)研究室にて

 ミルナ達とほぼ時を同じくして、Black Dogsの面々は研究棟で激戦を繰り広げていた。
 先ほどクーたちが簡易的な機関銃陣地と攻防を繰り広げた研究室前の通路を制圧し、まさに研究室内へと飛び込まんとする所であった。

 未だ非常灯のみが灯る暗闇の中、研究室と通路を隔てる扉の前にクー、ツン、ブーン、弟者の四人がいる。
 ブーンは少々頑丈な程度といった扉に突入用のフレーム爆薬を設置している。
 本来、有事の際に障害となるはずの分厚く頑丈な隔壁は兄者によって封鎖を解除されている。 

川 ゚ -゚)「よし、ブーンやってしまえ」

 クーの合図で小規模な隔壁がブーンの設置したフレーム爆薬によって爆破される。
 薄い隔壁は爆薬によってひしゃげて向こうへと吹き飛ぶ。
 そこに弟者が間髪入れず室内へフラッシュバンを放り込む。
 室内で閃光が輝いた直後に、ツンとクーを先頭に傭兵の面々が室内へとなだれ込んだ。
 
ξ゚听)ξ「!」

175 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:40:05 ID:u4ZdL.RU0
 何か様子がおかしい。
 室内は別の非常電源が生きているのか、先ほどの暗闇とは比較にならないほど明るい。
 面々はその眩く明るい室内に、勢いよく武器を構え飛び込んではみたものの、そこには人影が見当たらない。

 そこには咽るほどの血の匂いが充満していて、辺りに目につくのは血だらけで床に転ぶ白衣の死体のみ。
 ちょうど体育館ほどの広さの研究室の床には死体が転がっているだけで警備兵も朝日も見当たらない。
 研究室奥の小さなセーフルームも肝心の扉が開け放たれていて、その中には人っ子一人見えない。

(´<_`;)「ここは非常電源が生きているのか。
     だが、これは……」

(;^ω^)「口封じ、ってやつだおね?」

 四人は室内に入ると、事態を理解し、呆気にとられて周囲を見渡している。
 床に転がる死体には白衣と写真付きのカードキーを着けたままのようだ。
 死体の数は約十数名、恐らくは銃器で射殺されたのであろう。
 クーは手袋を外すと、近くに転がる死体の首筋に手を当てる。

川 ゚ -゚)「ふむ、まだ温かい。
     殺されてからあまり時間はたってないな」
 
 床には血の海に混ざって、大量の薬きょうが転がっている。
 ふとツンが壁の方を見ると、そこには赤く塗装されたドラム缶がいくつか放置してある。
 少なくとも真っ当な研究室には似つかわしくない代物だ。

ξ;゚听)ξ「証拠隠滅は失敗したようね。
      ほらこれ。私たちの横やりで間に合わなかったんだわ」

 ツンが壁際のドラム缶まで近づき、それに取り付けられている爆薬を指し示す。
 おそらくはプラスチック爆弾の一種で、肝心の信管は付けられてはいない。
 先ほど通路の前で戦闘した警備兵の一団が設置したものなのか。
 しかし爆破までは間に合わなかったのであろう。 

(;^ω^)「ここまでするなんて、どれほど重要な研究なんだお?
      普通の神経なら爆破までしないお」

(´<_` )「それほどヤバい何かが此処にはあるって事だろうな。」

176 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:42:09 ID:u4ZdL.RU0
川 ゚ -゚)「ふむ、とりあえずは他に出入り口は無いな。ひとまず入口は私が見張ろう。
     ツンとブーンは死体を調べてくれ。朝日がいるかもしれん。
     それと、弟者はセーフルームを頼む」

 クーの言葉を受けて、呆気にとられていた残りの三人が動き出す。
 あくまでクーは冷静なのだ。
 クーの的確な指示に、この光景に動揺していた三人も気を取り直した。

ξ゚听)ξ「わかったわ」

(;^ω^)「了解だお……」

 ブーンとツンは辺りに転がる研究者風の死体を調べて、そこに朝日の死体がないか探している。
 また、弟者は研究室の奥に設置されているセーフルームに向かい、重要なデータや朝日の痕跡を調べ始めた。
 一方、クーは通路を警戒しつつも、今しがた破壊したばかりの扉の残骸に寄りかかってギコに無線を入れる。

川 ゚ -゚)『マスティフ6、聞こえるか?』

『―――√\……ザッ……後にしてくれ……オーバー……』

川 ゚ -゚)「まったく、あいつは……」

 クーは一見無表情に見えながらも、どこか不機嫌そうにかぶりを振り、床にころがる扉の破片を見つめる。
 そのまま、無線機のダイアルを回して兄者に無線を入れる。

川 ゚ -゚)『ビーグル2、研究室を制圧した。抵抗はなく、白衣の死体が転がっているだけだった。
     それと、ギコの方はどうなっているんだ?』

( ´_ゝ`)『ギコは今戦闘中のようだ。
      そっちが片付き次第援護に向かってくれ。
      それと、白衣の死体ってのは、そこに朝日の死体はあるのか?』

177 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:43:59 ID:u4ZdL.RU0
 ツンが最後の死体を改め終わり、クーへ叫ぶ。
 どうやら辺りに転がっている死体は朝日の部下の研究員のようだ。

ξ゚听)ξ「クー! 朝日の死体は無いわ!」

川 ゚ -゚)『いや、朝日の死体は無い。襲撃から急きょ連れ出された可能性があるな』

 するとセーフルームにいる弟者が無線に割り込んできた。
 右手には何か電子機器をもって、セーフルームのコンソールに接続しようとしている。

(´<_` )『ビーグル2、セーフルームで重要そうな情報を発見した。
     DSM(分散共有メモリ)を接続する』

( ´_ゝ`)『良くやった。DSMのデータ移動に数分かかるな。
       何人か残して、残りはギコの援護に向かってほしい』

 これで目標の一つである、データ奪取は成功だろう。
 しかし、肝心の朝日はまだ発見できてはいない。
 もうすでに脱出したか、それともギコのいる階に連れて行かれたか。

( ^ω^)『僕と2で残ろうかお?』

 まさに四人が次の作業に取り掛かろうと動き出した瞬間。

川 ゚ -゚)『そうだな……?』

 ふとクーが通路の奥に目を向けると、そこに黒く大きな物が現れたことに気づいた。
 全身黒尽くめで、アメフトの防具を巨大に肥大化させたような鎧を纏っている大男。
 その2m超はあろうかという大男は、鈍く輝く金属の棒のような物を構えている。
 瞬間、その棒の先端―――重機関銃の銃口―――が赤く煌めいた。

川;゚ -゚)「まずい! 伏せろ!!」

178 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:46:05 ID:u4ZdL.RU0
 クーの言葉に先んじるかのように、研究室一帯を凄まじい威力の弾丸の嵐が襲う。
 四人は咄嗟に伏せたものの、周囲の机やモニターといった調度品が弾丸に次々に引き裂かれ、まるで紙きれのように吹き飛んでいく。
 机などといったものはあっさりと貫通し、背後の壁面に巨大な着弾痕を生み出している。
 あまりにも強力な威力の弾丸は、確実に大口径の機関銃から発射されたものであることが解る。
 弾丸の嵐が襲う爆音の中、勇敢にも僅かに顔を出して奇襲者を目視したツンが声を荒げる。

ξ;゚听)ξ「強化外骨格よ!!」

(´<_`;)「何ぃ!?」

 まさにたった今現れた物は、シベリアの誇る「ツァーリ(皇帝)」こと強化外骨格兵である。
 全身に大量の装甲板をゴテゴテと取り付け、2m超という黒尽くめの巨体でこちらへと迫ってくる。
 両手で腰だめに構えているのはシベリアのKord重機関銃。
 これは特殊なケースを除いて、歩兵一人で運用できるような代物ではなく、強力な12.7mm弾を発射することができる。

 常人では考えられないほどの重装甲を施し、そんな重機関銃をあっさりと運用できるのはシベリアの強化外骨格技術の賜物である。
 腰だめに重機関銃を構え、その銃口から大量の弾丸を吐き出しながらゆったりと迫ってくるその様は、まさに『皇帝』の名に相応しい。

(;^ω^)『くそっ! 兄者、予定変更だお! 
      ツァーリがきやがった! 今は忙しいお!』

(;´_ゝ`)『くそっ!!』

 クーの周囲の物がどんどん弾丸に撃ち抜かれて破壊されていく。
 ちょうどクーの間近な机に着弾し、大小さまざまな破片が降りかかる。
 左手で破片を顔から逸らしつつ、クーは隣の机の影に隠れるブーンに向かって叫ぶ。

川; ゚ -゚)「ブーン! M320を使えるか!?」

(;^ω^)「いけるお!」

179 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:47:33 ID:u4ZdL.RU0
 ブーンの小銃のアンダーレールにはH&K社製40oグレネードランチャーであるM320が取り付けられている。
 装填している榴弾はHEDP(多目的榴弾)という種類で、軽装甲車や人員に対してきわめて脅威となりうる代物である。
 ブーンは隣で銃撃から身を潜めているツンに向かって合図を送る。

(;^ω^)「ツン! カバー」

ξ;゚听)ξ「コピー!」

 ツンがブーンの掛け声に応じて、果敢にも飛び交う弾丸の嵐の中で、物陰から小銃構えてツァーリの膝関節を狙い撃つ。
 着弾した7.62o弾の衝撃に、幸運にもツァーリはバランスを崩して僅かによろめいた。
 ブーンはその隙にM320グレネードランチャーを強化外骨格兵に狙いを付けて引き金を引く。
 
 まるで瓶の蓋を抜いたかのように軽い発射音と共に、グレネードが発射筒から飛び出して、強化外骨格兵の足元に着弾した。
 足元という至近距離で炸裂した40o榴弾の威力に、流石の強化外骨格兵も後方へと勢いよく倒れ込んだ。
 しかし悪名高い強化外骨格兵のことだ、この程度の攻撃では行動不能に至るにはまだ足りないはず。

(´<_` )「今だ!」

180 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:48:37 ID:u4ZdL.RU0
 機を逃すまいと、すかさず弟者たちが素早く各々の武器を構え、倒れこんだままの強化外骨格兵に大量の鉛弾を送り込む。
 全員がマガジン二個分ほどを撃ち終わると、辺りには濃い硝煙と不自然な静寂が漂っている。
 目の前に燻る硝煙に意も介さず、クーはピクリともせぬ強化外骨格兵に強い視線を向け続ける。
 皆一同にマガジンを交換し初弾を装填するが、その銃口は相変わらずツァーリに向けたままだ。

川 ゚ -゚)「……」

ξ;゚听)ξ「……」

(;^ω^)「ッ……」

(´<_`;)「……」

 無言で様子を見ている全員に緊張が走る。
 噂の強化外骨格もこの程度なのか?
 しかし皆、強化外骨格の放つ異様な威圧感に銃口の視線を外そうとはしない。

(;^ω^)「!」

 すると、ツァーリの右手がピクリと動き、その重厚な上半身を起き上らせようと手さぐりに辺りを確かめている。
 すくなくとも百発以上の弾丸を受けておきながら、何ら支障なく動くその姿にクーたちは絶句する。
 全身の装甲は確かに損傷しているように見えるが、まだ行動に支障はないらしい。

川;゚ -゚)「なっ……」

(´<_`;)「おいおい……、冗談だろう……」

181 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:50:09 ID:u4ZdL.RU0
 強化外骨格兵は右手に重機関銃を引き寄せると、ヘルメットのバイザー越しにジッと武器を眺めている。
 どうやら肝心の重機関銃は、ブーンの発射したグレネードの衝撃で破壊されているらしく、強化外骨格兵はそれを脇に放り捨てた。
 すかさず我に返った四人は再び引き金を引き、今だ地に伏せる皇帝に銃弾を浴びせる。
 そこは流石の防弾構造も、弾丸の衝撃までは逃がせないのか、襲い掛かる衝撃に強化外骨格兵はなかなか起き上れない。

ξ;゚听)ξ「クー、今の内に!」

川;゚ -゚)『兄者! 研究室入口に下ろせそうな隔壁はまだ残っているか!?』

(;´_ゝ`)『ああ、お前らが破壊したのとは別の一枚が残っているぞ。今下ろす』

 兄者の操作によって、新たに室内の入口に設けられた隔壁が下りていく。
 クー達はツァーリの姿が隔壁に遮られれて視界から消えるその瞬間まで弾丸を送り込み続けようとする。
 しかし、隔壁がツァーリの姿を覆い隠すその瞬間、ブーンにはツァーリが背中から何か筒状の物を取り出すのが見えた。

(;^ω^)(……? 今、何か……) 

 そして隔壁が完全に下がりきり、ブーンの視界から強化外骨格兵は完全に隠されてしまった。
 ブーンはどこか釈然としない顔で先程目にした筒状の物について考えている。
 あれは何であったか、と。
 しかし、彼の仲間は束の間の静寂の間に打開策を練っており、弾倉を交換しつつ弟者は嘯いた。
 
(´<_`;)「くそ、ツイてないぜ! 
      これで出口は塞がれた。どうする?」

 ブーンは考える。
 ―――あれは確実にどこかで見たことがある。
 そう、例えば……少し前に書籍で読んだあれに似ていた気がする。―――

ξ;゚听)ξ「そうね、それにギコの所に早く行かないと……」

 ―――数年前に勃発したヤーパンとシベリアの武力衝突、「冬紛争」を扱った軍事資料を読んだ時に見た兵器だ。
 あの、シベリア共和国製の開発した伝統の短距離対戦車ロケット弾発射装置に似ている。―――

川 ゚ -゚)「どちらにしろ、あの隔壁は長くもたないだろう。
     ブーン、何かトラップを作れるか? まだ爆薬が……」

 ―――そうだ! そのロケット弾シリーズの最新型、確か名前は……。――― 

(;^ω^)「いや、待ってくれお! 今さっきアイツ何かを……!」

 まさにその時、ブーンは隔壁のちょうど中央部分が眩い閃光を伴って赤く膨張し、そこを何かが貫通する瞬間を目視した。

(;^ω^)「RPG!!」

182 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/29(日) 23:51:22 ID:u4ZdL.RU0
 一瞬の間も置かず、ブーンの言葉を遮るように耳を劈く爆発音が響き渡り、目に見えぬ衝撃波が彼の身体を襲う。
 幸いにも目の前の大きなデスクが防波堤となったが、ブーンは辺りに飛び散る破片と衝撃に舞い上がった埃から顔を右手で守る。
 爆発の衝撃で室内の電源は全て落ち、部屋は暗闇に塗りつぶされる。
 巻き上がる煙の中で、視線を遮る指の隙間から爆発源を覗くと、隔壁のど真ん中に直径2mはあろう大穴が空いている。 
 
 そう、まさに研究室の隔壁に向かって撃ち込まれたのはRPG-32だ。
 シベリア製のそれは様々な弾頭を使用可能で、簡便で脅威的な威力を誇り、冬戦争に置いては対人から対戦車まで広く使用され、ヤーパン軍を苦しめたものだ。
 ブーンは顔に向かってくる破片を払いのけつつ、突然の衝撃に硬直しているであろう仲間たちに向けて声を上げる。
 
 しかし流石は全員が様々な修羅場を乗り越えてきた歴戦の兵士といったところか。
 彼らは並大抵ではないほど素早く反応し、既に手近な遮蔽物に身を隠して状況把握に努めていた。
 弟者は机の影に身を隠し、机越しに突如空いた大穴に注意を払っている。
 しかしその頬から一筋の血が流れ、床に小さな染みを作った。

(´<_`;)「何なんだ!? ……くそ、頬を軽く切ってしまった」

川;゚ -゚)「奴か、こんなに早く突破されるとは……」

 先程の爆発の勢いでブーンの口に何か砂利でも入ったのか酷く口腔内がざらついて不愉快だ。
 足元に唾を吐き捨てると、先程の爆発の衝撃で手放していた小銃をスリングで回して構えなおす。
 すると、2mほど向こうの物陰に隠れているツンがブーンに向かって叫んでいる。

ξ;゚听)ξ「ブーン! まだ40oは余ってる!?」

 薄暗い中でブーンは腰に吊るしたグレネード用の弾帯ポーチに手を触れ、その感触で残りの弾数を判断する。
 手には三つ分の感触が、そして今まで使用した種類を考える。

(;^ω^)「まだHEDP(多目的榴弾)が二個あるお!」

(´<_`;)「待てよ……、奴はさっきのグレネードでメインアームの重機関銃を失ったはずだ。
      仕留めるなら今がチャンスかもしれん」

 クーが腰を低く身体を隠しながらデスクの間を移動している。
 部屋の隅へ移動したことによって室内には四人が適度に分散した配置となった。
 未だ強化外骨格兵はその姿を見せようとはしない。
 きっと、悠然とそして威圧的にゆっくりとこちらへ向かってきているに違いない。

ξ゚听)ξ「確かにさっきマシンガンが壊れるのが見えたわね。
      でもあのツァーリの事よ、油断は禁物だわ」

183 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:52:34 ID:u4ZdL.RU0

 四人は喉元のインカムを使って短距離通信で会話する。
 先ほどの銃撃の嵐と扉の爆発からはうって変って、室内は奇妙なほどの静けさに包まれている。
 外から聞こえてくる爆発音やヘリの飛行音が聞こえてくるのみである。
 これは闘いの束の間の休息なのか、それとも嵐の前の静けさか。
 窓から時折射し込む明りは、政府軍のヘリの灯光器であろうか。

川 ゚ -゚)「……そうだな、私たち三人で制圧射撃をして注意を引く。
     ブーン、お前がその隙に奴を狙ってM320を撃ち込むってのはどうだ?」

 しかし、段々と四人の顔には生気が戻ってきている。
 もはや彼らは野良猫によって袋小路に追い詰められた窮鼠ではない。
 その顔つきは、獲物を待ち構えて急所に一撃をもって仕留める手練れのハンターのものだ。

( ^ω^)「ふむ、やるしかないおね?」

(´<_` )「ブーン、やろうじゃないか。
      ここでお前が強化外骨格を仕留めたら話題になるぜきっと」
 
 その場にいる全員の目が光を帯びていく。
 ブーンはまるで全身に電流が走るかのごとく力が漲ってくるのが解る。
 もう、彼の心には動揺はない。

ξ゚听)ξ「そうね、どちらにしても手詰まりだし。
      やりましょう、ブーン」

( ^ω^)「うん、ここからじゃ安全距離ぎりぎりだおね、皆気をつけるお」

 と、扉の大穴の方からがさがさと物音がしてくる。
 おそらくはこちらに迫ってくる強化外骨格兵の踏んだ瓦礫の音であろうか。
 もはやすぐそこに敵はいる、と皆そちらに向けて警戒のまなざしを向けている。

川 ゚ -゚)「よし、私がフラッシュバン(閃光手榴弾)を投げたら射撃しろ。
     ……スタンバイ」

184 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:53:53 ID:u4ZdL.RU0
 僅かな間を置いて、まず最初に扉から強化外骨格兵の頭部ヘルメットが頭を出した。
 続いて現れた彼の右手には巨大な漆黒のバトルアックスが握られている。
 ヘルメットのバイザーに灯る淡い視覚センサーがクー達を仕留めんと輝いている。
 しかし赤外線センサーでは最新の戦闘服を身に纏ったクー達を見つけるのは少々時間がかかるのであろう。

 と、その視覚センサーが自分の目の前に飛んできた物体を認識する。
 手で握る部分がすぼめられた形をした手榴弾のような物。
 それは、驚異的な閃光と爆音をまき散らす,
閃光手榴弾。

「!」

 突如として閃光手榴弾は小爆発し、溢れんばかりの光の奔流を作り出した。
 100万カンデラの閃光が瞬き、強化外骨格兵の視覚センサーを焼付くそうとする。
 しかし、現代の暗視装置といった類の物は、過剰の入力に対する保護装置が付けられている。
 当然、強化外骨格兵の視覚回路がセンサー保護の為に感度の変更と回路の迂回が行われる。
 これで少なくともセンサーに支障はない。
 だがそこに、一瞬の隙となりうる視界の阻害が生じる。

川 ゚ -゚)「やれ!」

 閃光が止んだ瞬間、物陰に散らばっていたクーとツン、弟者が一斉に顔を出してその手の火器を発射する。
 強化外骨格兵とクーたちの距離は僅か30mほど。
 至近距離から大量の弾丸の集中砲火を受け、流石の強化外骨格兵の装甲も崩壊を始める。

(#^ω^)「伏せろ!!」

185 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:55:01 ID:u4ZdL.RU0
 ブーンの言葉に合わせて三人は射撃を止めて再び隠れた。
 今に発射される榴弾の破片から身を守るためだ。
 ブーンが引き金を引き、40oグレネードが強化外骨格兵に向けて飛翔する。
 
 40oの榴弾が強化外骨格兵の頭部へと直撃し、内蔵された炸薬が爆発する。
 流石の複合素材製のヘルメットも、榴弾の衝撃で歪みが生じる。
 強化外骨格兵はその巨体をゆらりとよろめかせた。

(´<_` )「もう一発だ!」

(#^ω^)「あいよっ!」

 続けて、再度ブーンが40oグレネードを発射する。
 軽い発射音と共に大きな銃口から飛び出した榴弾は、再び強化外骨格兵の頭部に着弾した。
 二度にわたる強力な榴弾の直撃に、もはや強化外骨格兵の全身はズタボロだ。

「ギギギ……ガ……」

 強化外骨格兵は鈍い動作音を上げてはいるものの、全身から黒い煙が昇っている。
 直撃を受けた頭部の装甲は原型を留めていないほど変形している。
 もはや中身の人間は虫の息も良いところだろう。
 
ξ゚听)ξ「……」

(´<_`;)「!」

 しかし、まだ中の人間は僅かに息が有ったのか、緩やかに一歩を踏み出そうとしている。
 その歩みを止めぬ皇帝の名は伊達ではない。
 ふら付きながらも、右手のバトルアックスを掲げ歩き出そうとしている。

ξ;゚听)ξ「クソッ!」

(;^ω^)「そんな……」

186 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:55:42 ID:u4ZdL.RU0
 その異様な姿に面々は衝撃を受け、身体を硬直させている。
 しかし、クーは落ち着いて右手に携えた小銃――VSSヴィントレス――を構える。
 装填されている弾丸は徹甲弾SP-6、特に貫通力にすぐれている。
 これならあの榴弾の衝撃に忌々しくも歪んだバイザーなら容易く貫通するだろう。

川 ゚ -゚)「いや……」

 クーは近くに落ちている白衣を素早く拾い上げ、机の上に丸めて置く。
 膝立ちの状態でVSSを構えると、丸めた白衣の上にライフルの前方部分を置き、二脚の代わりにする。
 これで小銃は安定し連射してもぶれる事はない。クーは親指を使ってセレクターをフルオートに切り替える。
 ふらつく強化外骨格兵を強く見据えてクーは呟いた。


川 ゚ -゚)「これで終わりさ」


 勢いよく引き金を引くと、フルオートで銃口から吐き出された弾丸が、一列にならんで獲物へと喰らい付かんとする。
 弾丸はちょうど人間でいうと額のど真ん中の部分にいくつもの着弾した。
 貫通力に優れる徹甲弾がその威力をもってぶ厚い頭部装甲を貫通し、中身を食い破らんと暴れまわる。
 後方の装甲を貫通せずに、複数の弾丸は強化外骨格兵のヘルメットの中で旋風のごとく暴れまわっている。
 僅かに一拍置いて、弾丸の衝撃で彼の頭は吹き飛び、辺りに汚く血をまき散らした。

 頭部を吹き飛ばされた強化外骨格兵はその身体をよろめかせると、ゆっくりと後ろへ倒れ込んだ。
 ついに、かの悪名高い皇帝は地に倒れたのだ。
 一人でヤーパン軍の一個小隊を全滅させた強化外骨格兵はたった四人の傭兵によって斃された。
 辺りにツァーリの倒れ込む鈍い音が響き、ブーンと弟者は歓声を上げる。

(#^ω^)「しゃあぁ!!」

(´<_`#)「よぉし!!」

187 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:57:14 ID:u4ZdL.RU0
 四人は物陰から身体をだし、倒れたツァーリのもとに歩み寄る。
 地面に四肢を力なく投げ出し、大の字に倒れているのはまさに「皇帝」に違いない。
 かの有名な「皇帝」も、喉元に喰らい付く優秀な猟犬達には勝てなかったのだ。
 強化外骨格兵を見下ろすクーの顔もどこか満足げだ。 

ξ゚ー゚)ξ「流石ね、クー」

川 ゚ -゚)「ふ、いや大した事じゃないさ。」

 しかし、クーの顔がすぐさま引き締まる。
 皆の雰囲気も一仕事を終えたものから、再び闘いへと赴く覚悟へと切り替わる。
 戦いはまだ終わっていないのだ。

川 ゚ -゚)「……よし、DSMを回収したら、もうここに用はない。
     ギコのもとに急ごうじゃないか」

(´<_` )「ああ、そうだな。まだ仕事は終わっちゃいない」

188 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:58:00 ID:u4ZdL.RU0
 弟者が後方のセーフルームに向かうと、データの移動が終わったDSMを回収する。
 と、弟者の耳に無線の呼び出し音が聞こえる。
 胸のスイッチを回し、無線に応答する。

(´<_` )『こちらシエラ2、DSMを回収した』

( ´_ゝ`)『こっちは監視カメラから見てたぜ。良くやったな。
       それと、そこの強化外骨格兵から情報収集を頼む』

川 ゚ -゚)『了解した。2、3は死体から情報収集だ。』

 クーは無線でしゃべりながらも室内に置かれたドラム缶に余ったC4爆薬を仕掛けている。
 これで脱出の際には派手な花火が上がることになる。

( ^ω^)『いやー、なかなか焦ったお』

 ブーンとツンは強化外骨格兵の装甲板を引き剥がして死体を検分する。
 まるで宇宙服や旧時代な潜水服のように重厚な装甲服を脱がすと、死体が露わになる。

( ´_ゝ`)『見てるだけのこっちの身にもなってくれよ。そうとう気を揉んだぜ。
      とにかく、ツァーリを仕留めるとは皆良くやった』

 ブーンはライトを逆手にもって死体を照らしだしている。
 全身の目立つ部分、例えば刺青や何かしらの身分を表すものを撮影し、ブーンとツンは立ち上がる。

ξ゚听)ξ「一通り終わったわよ」

川 ゚ -゚)『ビーグル、作業が終わった。
     私たちは次の仕事に取り掛かろうと思う。
     これより移動する、アウト』

 傭兵の面々は各自の装備を確認すると、血なまぐさい研究室を飛び出して、勢いよく外の暗闇に消えて行った。
 窓からは外の戦闘による閃光が瞬くように射し込み、暗い部屋を照らしだしていた。
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189 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/29(日) 23:58:48 ID:u4ZdL.RU0

 【タロウ・ギコーネ Side】 時刻04:45 研究棟13Fの研究用戦闘室にて

 少しばかり薄暗く、そしてビルには不釣り合いなほど広大な空間。
 そこにはいくつもの大小さまざまな構造物が鎮座している。
 まさに研究棟の13Fは全体が闘技場のような構造を呈しており、今そこは一方的な殺戮の場と化していた。

 そこで行われている殺戮の行為者はギコである。
 そして殺戮の対象となるは声も上げずに骸と成りゆく強化人間達。
 今、ギコは極限の集中力のなせる世界にいる。

 人の限界を超える能力。弾丸をも見切り、容易く人の視線を振り切るほどの瞬発力。
 この闘技場での戦闘が始まって僅か十分足らず。
 たったそれだけの短い時間で、当初は二十人以上いた強化人間の頭数は十人以下となっていた。
 今まさに闘技場の中央で、まるで殺陣を連想させるほどに、目まぐるしく立ち位置の入れ替わる戦いが繰り広げられている。
 
(,,゚Д゚)「……そこか」

 ギコは右手に構えた大口径対物ライフルで数メートル先の構造物に潜む強化人間に狙いを付けた。
 強烈な反動でゲパードM6「リンクス」から撃ち出された14.5oの徹甲弾は、難なくコンクリートを貫通しその背後に潜む標的を絶命に至らしめる。
 砕かれたコンクリートの破片や血飛沫、肉片といった諸々が周囲にまき散らされた。

190 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/30(月) 00:00:18 ID:1NUOd.zk0
 ギコはそのリンクスの強烈な反動を利用して、身体を軸に半回転し、素早く背後へ振り返る。
 回転中に逆手に持ち替えた左手の単分子ナイフを横一文字に薙ぎ払い、次々と死角から迫り来る弾丸を処理する。
 ギコの常人を越えた反射神経によって、飛来する弾丸を識別するどころか、弾丸の回転する軌跡すら手に取るように解る。

 そしてギコはスリングに任せてリンクスを手放し、素早く屈曲して強化人間の落としたA−91小銃を拾い上げる。
 その勢いを保ったまま、曲げた身体をバネのように伸ばして、目にも止まらぬ速さで構造物の影を目指し跳躍する。
 ギコの余りの行動の速さに、強化人間たちは追撃どころか、それを追うこともできずに、死角へ逃れたギコを見失ってしまう。

(,,゚Д゚)(弾はあるな)

 その隙を利用してギコは構えた小銃の装填を確認し、ギコの姿を探す強化人間の背後へ向かって物陰から飛び出す。
 隙だらけの強化人間の背後に静かに近寄ると、左手に握っていたナイフを喉元へと走らせる。
 分子レベルで超振動している単分子ナイフは、強化人間の喉元の装甲をまるでバターごとく易々と切り裂く。

(,,゚Д゚)「……」 

 頸動脈と気管を同時に切断されるも、その彼は即死には至らない。
 そのぱっくりと開いた喉からゴボゴボと音が漏れた。
 その音によって仲間の死に気づいた強化人間が、即座に振り返り、その手の小銃をギコへと向ける。
 そこでギコはすかさず目の前の死にゆく強化人間を掴み抱え、今まさに発射された銃弾からの盾とする。

(,,゚Д゚)「おっと、危ねえな」

191 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/30(月) 00:01:21 ID:1NUOd.zk0
 着弾の衝撃が、身体越しにギコに伝わるが、流石の強化人間の装甲ではギコまでは貫通しないようだ。
 ギコは右手の小銃を、物言わぬ死体の脇から突き出して、引き金を数度引く。
 小銃は多少暴れながらも、吐き出された鉛弾がギコを狙う強化人間の頭部へと着弾し、その黒々としたヘルメットを引き裂いた。
 ヘルメットに灯る視覚センサーの赤い光が消える。

 それに続いて、ナイフを腰だめに構えた強化人間が、ギコの右側の死角から襲い掛かろうとする。
 しかし、ギコは抱えたまま盾にしていた死体を、迫る奇襲者に向かって勢いよく放り投げた。

(,,゚Д゚)「ほら、コイツをやるよ」

 素早く疾走していた所に仲間の死体が当たったため、強化人間はバランスを崩してギコの足元へと倒れ込んだ。
 そこでギコは右足で足元に転ぶ奇襲者の頭部ヘルメットをあらん限りの力で踏みしめる。
 ギコの脚力に軋むヘルメットを他所に、ギコは大腿のホルスターから拳銃を引き抜いて、足元の頭部へ向かって数度引き金を引く。 
 至近距離の射撃によって跳ねた返り血が、ギコの頬に一筋の汚れを作った。

 その瞬間、ギコの数メートル先の遮蔽物のかげから強化人間が顔を出して此方に向けて銃を構えようとしていることにギコは気づいた。
 通常なら確実に手遅れであろうタイミングでも、ギコの『能力』には何ら問題はない。
 ギコの足元に転ぶ死体が落としたナイフの柄を足のつま先で引っ掛けると、その足を物陰から狙う獲物へ向けて勢いよく蹴り上げた。
 
 ギコの人並外れた脚力で蹴りだされたナイフは、まるで弾丸のように恐ろしい速度で飛ぶ。
 それは物陰から顔を出したばかりの強化人間のヘルメットに、一直線に吸い込まれるように突き刺さった。
 ナイフが額に突き刺さった強化人間は、全身を力なく弛緩させてゆらりと後方へ倒れ込む。
 強化人間の死によって硬直した指は引き金を引き続け、彼の小銃は見当違いな方向に弾を吐き出し続ける。

 すると、その暴走する小銃の弾丸も底を尽き、辺りには薬莢の転がる音だけが聞こえてくる。
 しかしギコは動かない。敵の動きがないのだ。
 先ほどから続く連戦とは打って変って、突如とした仮初の静けさが、ギコに重く圧し掛かる。

192 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/30(月) 00:02:24 ID:1NUOd.zk0
 タイミング良く、ギコの無線が着信を示すコール音を鳴らす。
 クーからのものだ。

 だがギコは応答するも、一言呟いてすぐに無線を切った。
 ギコは僅かに苛立った面持ちで、周囲の構造物に隠れる敵兵に語りかけた。

(,,゚Д゚)「おい、また隠れんぼか? こっちは時間がねえんだ。
     ……聞こえてんのかよ、クソ野郎」

 しかしギコの挑発にも関わらず、息を潜め続ける強化人間に動きはない。
 ギコは気配を探して当たりを付ける。 
 おそらくはギコの前方に集まっているようだ。

(,,゚Д゚)「やれやれだぜ。もう三人ぐらいしか残ってないんだろ?
     そのままそこで文殊の知恵ってか? 
     ……泣けるぜ」

 ギコはこの隙に、腰のリンクスを構え直し、弾倉を交換する。
 大きな弾丸を内包するマガジンもやはり大きく、ギコは空の弾倉を腰のポーチに戻した。

 すると、ギコはゆっくりと一歩を踏み出した。 
 じゃり、じゃり、と床に散らばるコンクリートの破片を踏みしめる音が鳴る。
 無防備にも腕を下ろしたまま一切の構えを取らずに前進するギコの姿に、強化人間達は動揺する。

 そしてギコはちょうど彼の背丈と同程度の構造物の前でその足を止めた。
 右手の敵から奪ったA−91小銃を放り捨て、ホルスターから拳銃を抜く。
 左手のナイフを握り直し、ギコは呟いた。

(,,゚Д゚)「来いよ」

193 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/30(月) 00:04:17 ID:1NUOd.zk0
 その瞬間、ギコを囲むように三方向から強化人間が飛び出してくる。
 三人は空中でほぼ同時に銃弾を放ち、ギコに三次元的な襲撃を仕掛ける。

 しかしギコは軽く身をよじり、ナイフを背けた顔の真横に掲げた。
 三方向から放たれた弾丸は、ギコの身体を僅かに捉えきれず、その肌を掠める。
 すると一人の強化人間の放った弾丸がギコのナイフの切っ先を掠り、その軌道が僅かに左にそれる。
 その弾丸は同じくギコを狙っていた強化人間の頭部に吸い込まれるように直撃した。

 しかし強化人間達は怯まない。
 ギコに銃撃が無意味と悟るやいなや、彼らも長い刃物を腰から抜いて、ギコに飛びかかってくる。
 強化人間の構える刃物はまさにロシアンマチェットと呼ばれる刃物だが、ギコの構えるナイフと良く似た意匠をしている。

 右から迫る強化人間に向けて、ギコは拳銃を発砲する。
 しかしギコの左から襲い掛かる強化人間の斬撃によって、拳銃の狙いは外れ、鉛弾は強化人間の右肩に食い込む。
 肩に銃撃を受けた強化人間はバランスを崩して転倒した。
 同時にギコは左手のナイフで強化人間のマチェットを軽々と後方に捌く。

 しかし、強化人間は向き直り、ギコに向けてマチェットを上段から振り下ろそうとしている。
 そこでギコは片手でナイフの切っ先を強化人間の二の腕に向ける。
 マチェットを振り下ろそうとする勢いのまま、ナイフが強化人間の腕に深く食い込む。

 しかし強化人間は右腕に突き刺さる痛みを無視して、ホルスターから拳銃を引き抜く。
 すかさずギコは右手の拳銃の銃身を使って、相手の拳銃の銃口を逸らす。
 そこに、ギコと強化人間の間にまるで鍔迫り合いのような力の均衡が生まれる。

(;゚Д゚)(くっ……)

194 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/30(月) 00:04:57 ID:1NUOd.zk0
 互いに銃口を逸らしあい、ギリギリと拳銃が擦れあう耳障りな音が鳴る。
 ギコのナイフによって大動脈を切り裂かれた強化人間の右の二の腕からはどくどくと大量の血液が流れだす。
 すると、先程肩口を撃ち抜かれて倒れた強化人間がむくりと起き上る瞬間をギコは目にした。
 その瞬間、ギコは敢えて脱力し力の均衡をコントロールする。

 ギコは強化人間の上体を前のめりにさせ、素早くその足を払って体勢を崩させる。
 流れるように強化人間の右腕からナイフを引き抜き、相手の首元の頸動脈を狙って素早く刃を走らせた。
 そのまま体を左に滑らせ、力の抜けた強化人間の身体を後ろに受け流す。
 ギコは右手の拳銃を、強化人間の背中越しに、向こうで起き上ろうとしている強化人間に向ける。
 
 トリガーを数度引き、腹部、胸部、頭部に鉛弾を送り込む。
 そしてギコは力を失った目の前の強化人間を向こうに突き飛ばし、胸部に鉛弾を撃ち込んだ。
 ギコに返り血がパッと吹きかかり、まるで『鬼』の隈取のように顔を彩る。
 凄惨な面持ちのままギコは地面に転がる虫の息の強化人間に呟く。

(,,メД゚)「俺に対して刃物を使うのは悪くない選択だ。
     ナイフの軌道は意思を持つが、鉛弾にはそれが無い。
     視えてさえいれば弾丸を受け流すのは容易いもんだ」

 ギコは言葉を吐き終えると、おもむろに右手の拳銃を強化人間の頭部に向ける。
 互いが無言のまま、床に転がる強化人間とギコの視線が絡み合う。
 強化人間の視覚バイザーに灯る無機質な赤灯がギコを見つめる。

(,,メД゚)「先にあの世で待っていてくれ。…………兄弟」

 何故か酷く重く感じられる引き金を、思い切って引き絞る。
 床に血の華を咲かせると、ギコは顔の血を拭い、ぐるりと辺りを見渡した。
 そこら中に死体が転がっているが、もう動く者はギコただ一人である。

195 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/30(月) 00:05:42 ID:1NUOd.zk0
(#-Д-)「くそったれ……」

 ギコは顔をゆっくりと上げ、辺りに響き渡る様に叫ぶ。
 その顔はまさに憤怒の表情だ。

(#゚Д゚)「終わったぞ、出てこい!!」

 すると何処からともなく変声機越しの異質な声が聞こえてくる。
 
≪流石はギコーネ大尉。いや、元大尉と言うべきかな。
 それとも試験体一号の名が良いかい?
 二十体以上の強化人間をこうもあっさりと葬るとはね≫

 先刻聞こえてきた声とは、話す人物が変わったのであろうか話口調が変わっている。
 どこか嘲るような色を含んだ声がさらにギコを苛立たせる。

(#゚Д゚)「うるせえっ! 手前らの手の内は解ってんだ!
     これで終わりって訳じゃねえんだろう!?」

 ギコは何処となく天井を仰ぎながら吠える。
 すると、ギコの正面の方向の壁面に設置された巨大なモニターが点灯する。
 薄暗い室内で煌々と輝く画面が、一人の男を映し出した。

196 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/30(月) 00:07:33 ID:1NUOd.zk0
( <●><●>)『久方ぶりじゃないか、ギコーネ大尉。
          我々としても、そう安々と朝日を奪還されても面白くないんでね。
          せっかく試験体の君が現れたんだ。もう少し付き合ってくれ』

 画面に現れた黒髪の男は、異様にギラギラとした目付きをしている。
 どこか圧倒されそうな迫力を持った男は、薄い笑いを浮かべたままギコに語りかける。

(#゚Д゚)「…………そうか、お前はワカッテマスか。
     悪いが、俺はお前らの意思じゃ踊らない」

( <●><●>)『ふん、そんな態度で良いのかい? 
        今ごろ、君のお仲間の所に『皇帝』が向かった所だよ?』

 その男、ワカッテマスの口角が挑発するようにニヤリと上がる。
 まるでギコを値踏みし嘲るような黒々とした目つきが印象的だ。

(#゚Д゚)「強化外骨格兵? あいつらはそれ如きではくたばらない。
     お前らの人形ごときで俺たちを殺せるとでも?」

( <●><●>)『素晴らしい信頼関係だ。だが、強化外骨格兵は此処にもいる。
        電脳の一匹狼と、鋼鉄の皇帝、どちらが強いのかね』

(#゚Д゚)「電脳? そんなものはまやかしだ。
     俺はお前らの狂気に付き合うつもりは無い!」

( <●><●>)『だが君の意思に構わず、常に運命の歯車は回るのさ。
         身体に爆弾を抱えたままの君なら解るはずだ、その意味が』

(#-Д-)「ちっ……」

 ギコは顔を画面から背けて唾を吐いた。
 まるでその顔に浮かぶ複雑な感情ごと吐き捨てるかのように。

197 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/30(月) 00:08:18 ID:1NUOd.zk0
 
( <●><●>)『今、世界を動かす歯車は古く錆びついてしまった。
        もう使い物にならない。これまで世界は新たな規律、規範を求め血を流し続けてきた。
        まさにその血で錆びついてしまったんだ』

(,,゚Д゚)「……」

 ギコは押し黙る。
 画面に映る狂ったような微笑みを浮かべる男をただ静かに見つめ続ける。
 その顔には様々な感情の色が判別できないほど複雑に混ざっている。

( <●><●>)『我々はその血でもって新たな現実を贖う。そこには馬鹿げた境界線は無い。
         人類史において初めて、世界は一つに収斂するんだ』

( <●><●>)『国家、民族、宗教、人種、ヒトを隔て続けてきた境界線は消滅し、ヒトは真に解き放たれる。
        超越したテクノロジーは世界に安寧をもたらす。
        君なら解るだろう?』
 
(,,-Д-)「…………言いたい事はそれだけか?」
 
 再び顔を下げたギコは目を瞑り、まるで語りかけるように呟く。
 そして、キッと顔を上げワカッテマスの顔を睨みつける。
 その眼には燃え上がる闘志の焔が灯っている。

(,,゚Д゚)「俺はお前らの狂った妄想に興味はないし、あの事も忘れはしない。
     アレに関わった奴らが全て死ぬまで、俺は止まらない」

( <●><●>)『ははっ、そう言っていられるのも今の内さ。
        何も出来ずに傍観するんだな、これから始まる世界の崩壊と再生を。
        …………ただし、君が此処を生きて出られるのならね≫

(,,゚Д゚)「はっ、笑わせてくれるぜ。その面を一度でも見せてみろ。
     すぐに殺してやる」

( <●><●>)『おお怖い怖い。狂犬はすぐに始末しなければ。
        さあ、選手の入場の時間だ』

198 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/30(月) 00:09:11 ID:1NUOd.zk0
 すると、先程強化兵士が現れたように、ギコの反対側に位置する壁が変化する。
 ちょうどモニターの真下の部分が『棺桶』のように象られ、せり上がる。
 ただし、強化兵士の時とは違い、その『棺桶』はかなり大きい。

( <●><●>)『ああ、それと安心して欲しい。朝日は生きているよ。
        どうせ彼は計画の深部を知らない。
        仮に君たちに回収されても我々は何も困らないのさ』

 『棺桶』の蓋が開く。
 現れたのはまさに強化外骨格兵。
 先ほどクー達を強襲したものとまったく同じである。
 ただし、その手に握られているのはギコが今腰に吊っているものと同じ。
 その強化外骨格兵が構えている物はまさにMOM製ゲパードM6「LYNX」である。

( <●><●>)『彼は奥の部屋で拘束されている。好きにしろ。
         それじゃあ終劇まで、我々の人形と仲良く踊っていてくれたまえ。』

(,,゚Д゚)「……くそったれ」

 その瞬間、巨大なモニターは光を失い、また空間は静寂に包まれた。
 ギコは腰のスリングを回して再びLYNXを構える。
 すると、強化外骨格兵も一歩を踏み出す。
 互いが同じ武器を構え、睨みあう。
 その距離は約50mほど。
 ギコと強化外骨格兵の視線が絡み合い、殺気が辺りに広がる。

(,,゚Д゚)「なるほど。この武器はアイツらの代物って訳か」

 構造物の隙間を掻い潜って互いの射線は開いている。
 この武器の威力なら掠るだけでも命は無いだろう。
 既に互いの武器が互いを捉え、引き金を引くのみで全てが終わる。

(,,゚Д゚)「さあ……、来い!」

199 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/30(月) 00:09:51 ID:1NUOd.zk0

 瞬間、二つのLYNX――山猫――が火を吹く。
 まさに同時に発射された弾丸は互いの頭部を狙って放たれたが、ギコは既にその場にはいない。
 そして強化外骨格兵もまた、その巨体には似合わぬ動きで身をよじらせて回避した。

(#゚Д゚)「やるな!」

 二人の後方に存在する様々な物が外れた弾丸によって吹き飛ばされる。
 空中に破片が飛び散る、粉砕されたコンクリートや捻じれた金属片、粉々のセラミックス。
 まるで空中の浮遊物を掻き分けるようにギコは駆け抜ける。
 ギコにとってはそれらは余りにも遅すぎて空中に停滞しているかのように見える。

 一筋の光線のようにギコは移動する。
 そこら中に存在する障害物の間を縫うように駆け抜ける。
 強化外骨格兵には視界を遮るものが多すぎてギコの姿を捉える事は出来ない。
 仄かに紅く灯る視覚センサーを、きょろきょろと辺りに向けている。
 
 わずか数秒の隙、それは時に闘争の場において多大なリスクとなりえる。
 ギコは常人とは住まう時空を別としているようなものだ。
 その数秒が命取りとなりうる。

「!」

 すると、強化外骨格兵の視覚センサーが高速で飛来する物体を認識する。
 前方の構造物の影から強化外骨格兵の上方に向かって、高速で飛び出してきた何か。
 余りにも高度な反射能力が彼の腕を動かし、その物体に向かってリンクスを構えさせる。
 マズルブレーキから発射炎が噴きだし、飛び出した14.5mm弾によってそれは瞬時に引き裂かれる。
 流れるように行われた行動に隙は一切無い。
 その物体は抵抗する暇も無かったろう。

 しかし、引き金を引く直前、彼は目にした。
 それは金属製の箱状の物。
 まさに彼が構えている銃器LYNXに取り付けられた…………マガジン(弾倉)。

(#゚Д゚)「かかったなっ!!」

 まさに弾倉が飛び出してきた構造物の影からギコが飛び出す。
 強化外骨格兵は完全にブラフに気を取られて隙だらけだ。
 がら空きの胴体に向けて、リンクスを構える。
 再び銃火が轟き、必殺の徹甲弾が放たれる。

(,,゚Д゚)(殺った!)

200 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/30(月) 00:10:38 ID:1NUOd.zk0
 
 強化外骨格兵に迫る徹甲弾、ギコは勝利を確信する。
 しかし『皇帝』の名も伊達ではない。

(;゚Д゚)「なっ!?」

 強化外骨格兵は振り上げたリンクスを使って徹甲弾を薙ぎ払う。
 すると弾はツァーリが右手に握ったリンクスの中央に着弾した。
 銃の金属がひしゃげ、弾丸の軌道を逸らそうとするが、構わず弾丸は突き進もうとする。
 僅かに軌道がそれた弾丸は、強化外骨格兵の左腕ごとリンクスを食い破った。
 千切れとんだ腕が空中を舞い、鮮血が辺りに散らばる。

 予想だにしない光景に、ギコの対応が一瞬遅れた。
 その隙に強化外骨格兵がギコに向かって突進を仕掛ける。
 巨体に似合わぬ俊敏さとその体格が相まって、ギコにはまるで巨石が迫ってくるように感じられた。
 強化外骨格兵は腰に差した戦斧・トマホークを引き抜き、硬直したままのギコに向かって振りかぶる。

(;゚Д゚)「くっそ!」

 しかし我に返ったギコは、超人的な反応速度で対応する。
 リンクスをジャンピングコードに任せ手放すと、腰のナイフシースから素早くナイフを引き抜く。
 振り下ろされる戦斧の切っ先に、逆手に構えたナイフの刃を掠らせて、ギコの右側に斬撃を逸らす。
 ギコの頭をかすめた斧の刃先が、その髪先を切り飛ばし、ぱらぱらと細かい髪が舞う。

 しかし強化外骨格兵は。ギコの回避を意に関さず、返し刀にトマホークを横殴りに叩きつける。
 ギコは間に合わず、それをナイフで捌こうとするが、叶わず戦斧はギコの身体に叩きつけられる。
 幸いにも斬撃こそナイフで防げたが、まるでボールのようにギコは横っ飛びに2mほど叩き飛ばされた。
 強化外骨格兵の増幅された腕力は凄まじく、ギコの身体は余りの衝撃に悲鳴を上げる。

(;=Д゚)「ぐっ……」

201 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/30(月) 00:11:27 ID:1NUOd.zk0
 しかし、それでもギコは怯まない。
 倒れ込みそうな身体に喝を入れ、隙を逃さず追撃を仕掛けてくるツァーリに向き直り、ナイフを構える。
 頭がズキズキと鈍く痛み、身体の関節は軋みを上げている。
 視界は少しばかり朧気だし、足元も怪しい。

(#゚Д゚)(……だが、身体は動く!)

 ギコは強化外骨格兵の上段から振り下ろされた斬撃を注視する。
 瞬時に力点を見定めて、効果的な位置にナイフを掠らせると、今度は斬撃をギコの左側に滑らせる。
 そのままギコは顔の横に振り下ろされた強化外骨格兵の右腕を掴み、勢い良く引き寄せる。
 それでバランスを崩した強化外骨格兵は前のめりにつんのめる。

(#゚Д゚)「うおおおおぉぉ!!」

 ギコは怒声を上げ、強化外骨格兵の懐に飛び込む。
 ナイフを逆手に握り込み、まるで拳で殴りつけるかのように腕を付き出して、ツァーリの無防備な首元を狙う。
 体制を崩した強化外骨格兵の首元の装甲に黒々としたギコのナイフが食い込む。

 しかし、人体の急所である頸部を守る装甲は厚く、そして固い。
 ギコの突き出す刃は喉元の装甲板の途中で勢いを失い、その半ばにして停滞しようとする。
 ちょうどナイフの刃先は、強化外骨格兵の喉に対してちょうど垂直に突き刺さった状態で、その動きを止めた。 

(#゚Д゚)「まだだッ!!」

202 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/30(月) 00:12:07 ID:1NUOd.zk0
 しかしこれでもギコは諦めない。
 パッと左手のナイフを手放すと、右手の拳をギリギリと力強く握り込む。
 腰を深く落とし、腕を勢いよく振りかぶって、強烈なストレートを突き刺さったままのナイフに向けて叩き込む。
 ナイフの柄にギコの拳が叩き込まれ、彼の並外れた腕力をもってそれを深部に向かって押し通す。

「ッ!」

 強化外骨格兵の喉元に突き刺さったナイフは、ギコの打撃によって勢いよく沈む。
 複合繊維からなる厚い装甲板を貫き、ナイフの刃先は強化外骨格兵の食道を容易く両断する。
 しかし、分子をも切り裂く鋭い刃はそれでも勢いを失わない。
 黒々とした刃は喉の奥の頸椎骨をも貫通し、その内部に存在する生命活動にとって重要な脊髄を切断した。

(,, Д゚)「はぁっはぁっ…………」
 
 皇帝と称されるほどの巨体が今、周囲に鮮血をまき散らしつつ、その身を揺らがせた。
 その身体をゆっくりと後ろへと倒し、鈍い音を立てて地に伏せる。 

 力を失った強化外骨格兵は、ギコの足元に倒れ込み、痙攣を起こしてその身体を小刻みに震わしている。
 だが、それでもまだ絶命には至ってはいない。
 もう長くはないが、それでも僅かに息は残っているのだ。
 ギコは未だ光を失っていない強化外骨格兵の視覚センサーを見つめる。

(,,゚Д゚)「……」

 ギコはホルスターから拳銃のP229を引き抜いた。
 足元に転がっている虫の息の強化外骨格兵の頭部に向けて、それを片手で構え、引き金に指を掛ける。 
 せめてもの情けか、それとも仕事の仕上げなのか。
 ギコは拳銃を構えたまま、ぽつりと呟く。

(,,゚Д゚)「……よう、プレゼントだ。受け取ってくれ」

203 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/30(月) 00:12:47 ID:1NUOd.zk0
 連続して引き金を引き、弾倉に装填された弾丸をすべて撃ち尽くす。
 至近距離から一点を狙って放たれた10oショート弾が、強化外骨格兵の堅牢な頭部装甲を貫通した。
 ギコは弾を撃ち尽くすと弾倉を交換し、ぐるりと辺りを見渡して一息ついた。

(,,゚Д゚)「ふーっ…………」

 ギコは額の汗を拭った。
 危ないところだった。強化人間との戦闘の余韻で身体はあちこちが悲鳴を上げている。
 周囲には重々しい静寂が広がっている。
 よくよく耳をそばだてると、建物の外からいくつかの爆発音が聞こえてくる。
 政府軍の特殊部隊が大暴れしているのであろうか。

(,,゚Д゚)「これで終わりか」
 
 そこら中に強化人間の死体が転がり、挙句の果てには強化外骨格兵の死体まで拵えてしまった。
 この光景の全てがギコ一人の手によって成し遂げられたのだ。
 その静寂を破るものはもうこの空間には存在しない。
 ギコは向かいのモニターを見つめるが、ついにそれが光を灯すことは無かった。

 ギコは足元の強化外骨格兵を蹴とばして、喉元に深く突き刺さったナイフを引き抜く。
 刃にべったりと付いた血液を振り飛ばし、腰のナイフシースに戻した。
 そして胸元の無線のスイッチを入れ、兄者に呼びかける。
 
(,,゚Д゚)『……ビーグル2、聞こえるか? 13Fの空間を制圧した』

 無線から聞こえてくる兄者の声は、少し焦りの色が見えていた。

204 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/30(月) 00:13:31 ID:1NUOd.zk0

(;´_ゝ`)『大丈夫だ、聞こえるぞ。
       ……良かった、さっきから急にお前をモニタリング出来なくなったんだ。
       何があったんだ?』

 ギコは無線を聞きつつ、前方に目を向ける。

(,,゚Д゚)『色々とあったが、強化外骨格兵とその他諸々を全員殺した。
     それと朝日の居場所の情報を入手。この階の奥との事。
     クー達の方はどうだ?』

 そこにはよく見ると、壁にうっすらと縦線の溝が入っている。
 そこが隠し扉のセーフルームになっているのようだ。
 だが、扉の取っ手は破壊されていて、押しても引いても動きはしない。

(;´_ゝ`)『結局、強化外骨格兵を一人で仕留めたか……、流石だな。
       クー達も今さっき強化外骨格兵を殺したところだ。
       朝日は発見できなかったんだが、今そっちに向かってるところだ』

 どうやら、この扉は簡単に開きそうにない。
 ギコは頭を振りかぶるが、ふと周囲の死体が目に入る。
 目を背けずにじっと死体を見つめ続ける。その表情はどこか暗い。

205 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/30(月) 00:14:30 ID:1NUOd.zk0

(,,゚Д゚)『そうか、クー達もやるな。
     ……それと、奴らが此処にいたんだ』

(;´_ゝ`)『奴ら? 奴らっていうと……』

(,,゚Д゚)『ああ、俺の身体を弄繰り回しやがった奴らだ。裏に奴らが糸を引いてやがる。
     俺がここで皆殺しにしたのも奴らの兵隊だった』

 ギコの言葉に兄者が僅かに言葉を無くした。
 兄者らしくない動揺した様な気配が無線越しのギコにも伝わる。

(;´_ゝ`)『………………なるほど、そういう事だったのか。
       もうすぐシエラがそこに着く。この話は今度にしよう。
       それと朝日はお前一人で確保できそうか?』

(,,゚Д゚)『そうだな、……ここは俺一人では無理だろう。
     扉を破壊するための爆薬がない。確かブーンが持ってたはずだ』

( ´_ゝ`)『それなら、そこで待機してくれ。今にアイツらがそこに着くさ。
      あと、外じゃ政府軍の攻撃ヘリが大暴れしてるぜ。
      奴らもやるな、なかなか見物だぞ。アウト』

 通信が終わると、ギコは改めて周囲を見渡して辺りに敵影がいないことを確認する。
 開けているのに遮蔽物ばかりのこの空間はどうも落ち着かない。
 ふらふらと歩き、ギコが落とした自分のライフルを探して拾い上げた。 
 そのままギコは目の前のコンクリート製の構造物にもたれ掛かって、どしっと腰を下ろす。

(,,゚Д゚)(はぁ……) 

(,,゚Д゚)(少し時間があるのか?
     …………なら、煙草が吸いてえなあ)

206 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/30(月) 00:15:19 ID:1NUOd.zk0

 ギコは胸のポケットに入った愛用の煙草の感触を確かめる。
 ポケットから取り出して、アルミ製の箱から一本だけ取り出す。
 それは過酷な戦場に耐えられるように超防水と耐衝撃に主眼を置いて設計された煙草缶だ。
 ギコが特殊部隊に在籍していた頃に、部隊のガンスミス(銃工)に無理を言って作ってもらった物だ。

(,,゚Д゚)(クーに怒られるか? ……まあ、いいや)

 ギコは煙草をそっと咥える。
 ジッポーを同じ場所から取り出して、小気味良い音を響かせ、煙草の先に火を着ける。
 ギコの愛用の銘柄はAmerican Spirit(アメリカンスピリット)だ。
 一般的なものに比べて、この銘柄は火が着きにくいのだ。ギコは丁寧に煙草の先を炙る。
 そしてようやく着火した煙草の煙を深くゆっくりと吸い込む。
 まず最初にジッポーの醸すオイルの香りが一瞬ギコの鼻腔をくすぐる。
 その後、煙草本来の香りがギコの胸を一杯に満たす。

(,,゚Д゚)「ふーっ……」

 ギコは天井を仰ぎ、肺に入れた白煙をゆっくりと吐き出す。
 長く長く吐き出すと、じっくりとじっくりと風味を味わう。
 この煙草の香りはタール量の関係で少し辛めだ。
 口一杯に煙草本来の風味が広がり、ニコチンが血管を通して全身を巡る。
 ギコはニコチンの作用で少しばかりぼやけた思考で考える。

(,,゚Д゚)(少し、疲れたな……)

 再び煙草に口を付けると、それは火先から少しずつ短くなる。
 煙がゆらりと上がり、狼煙はギコの上方で渦を作りながら昇って行き、やがて消えた。
 まるで弔いの煙を上げているのか。
 大量の死体が転がる凄惨な部屋に座り込んだまま、ギコは一人煙草を燻らせ続ける。
_____________________________________________________________

210 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:26:35 ID:2CPvT2JY0

【Black Dogs side】 時刻04:58 研究棟13F 非常昇降階段にて

 暗闇の中、クー達はギコも通った階段を駆け下りている。
 どうやらかなり急いでいるようで、皆重い装備をものともせずに足を繰り出している。
 皆、頭に付けた暗視装置を使っている。

川 ゚ -゚)「見えた! あれが隔壁だ」

 と、階段の終わりが見える。
 とにかく大きな隔壁が13Fの入口に鎮座している。
 四人はその前で立ち止まると、軽く息の上がった身体を落ち着かせる。
 この先では何が起きているのか、これはまだ解らない。

(;^ω^)「長い階段だったおね」

(´<_` )「ここにギコがいるな。それと朝日も……」

 ブーンは少し疲労の色を見せている。
 ツンは無線のスイッチを入れ、兄者に連絡を入れる。

211 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:27:39 ID:2CPvT2JY0
ξ゚听)ξ『ビーグル2、13Fの隔壁の前まで来たわ。
       マスティフ6はどうなってるの?』

( ´_ゝ`)『おお、ちょうど良かった。今無線が入ってきたところなんだが、そこはもうマスティフが制圧済みだ。
      合流して、朝日を捜索してくれ』

 クーが無線に割って入る。

川 ゚ -゚)『一足遅かったか。だが、強化外骨格兵は?』

( ´_ゝ`)『あいつが一人で仕留めたようだ。そこから先はこっちからモニタリング出来ないんだ。
      すまないが、中はお前らの目で確かめてくれ。
      今そこの隔壁を開ける。オーバー』

 無線が終わると、皆驚いた表情をしている。
 何せ、四人であれほど苦労して倒した強化外骨格兵と言う壁を、ギコはたった一人で乗り越えたというのだ。
 にわかには信じがたいものである。

(;^ω^)「ほんとに、あの強化外骨格兵を一人で倒したんだお?」

ξ;゚听)ξ「常人離れしてるわね……」

(´<_`;)「この目で見るまでは信じられんが、とりあえず中に入ってみよう」

川 ゚ -゚)「ああ、そうしよう。ほら、開くぞ」

 目の前の隔壁が滑らかに横にスライドする。
 かなり大がかりな仕様だ、皆緊張している。
 どうやら中は大分暗いが、天井の照明がささやかに灯されており、そこまでは暗くない。
 全員が己の銃器を構え、内部を警戒している。

212 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:28:41 ID:2CPvT2JY0

 扉が完全に開ききると、内部の咽るような血の匂いが鼻につく。
 パッと見て、目につく者は辺りに転がる大量の死体と、少しばかり奥で座り込んでいるギコの姿だった。
 ギコはこちらに気づくと、口に咥えた煙草を離して、首だけ回してこちらを向く。

(,,゚Д゚)「ふーっ……、ようお前ら。すこしばかり遅かったな」

 ギコは呑気に紫煙を吐き出しているが、そこら中に死体が転がっている状況において、かなり異常な光景だ。
 皆の頭に疑問がよぎる。まずこの死体は誰が作り出した物なのか。
 少なくともその数は二十を下らないだろうが、この空間は広く、薄暗いため判然としない。

 挙句の果てには、ギコの近くには横たわる巨体も見える。
 どうやら本当に強化外骨格兵の死体のようだ。
 四人は警戒することも忘れ、ゆっくりと中に足を踏み入れる。

ξ;゚听)ξ「これは……」

(´<_`;)「Oh……」

(;^ω^)「……なんちゅう死体の数だお」

 ツン達は銃の構えを下ろし、その光景に圧倒されている。
 しかしその状況においてもクーは至極冷静だ。
 煙草を吸い続けるギコにどこか咎めるような視線を向けている。

213 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:29:25 ID:2CPvT2JY0

川 ゚ -゚)「……」

 しかし、ギコもそんなクーの視線には慣れているのか、気にせず立ち上がる。
 携帯灰皿を懐から取り出して、ちょうど今しがた吸い終わった吸殻をそこに捨てた。

(,,゚Д゚)「クー、ちょうど一本吸い終わった所だ。そんなに睨まないでくれよ」

川 ゚ -゚)「色々と言いたいことはあるが……。
     ギコ、任務中の煙草は止めろと言ったじゃないか」

 どうやら、二人の間にはいくつかの約束があったらしい。
 クーの表情に普段との変わりはないが、どこか怒りのような雰囲気を漂わせている。

(,,゚Д゚)「安心してくれ、これで終わりだ」

 しかしギコはあくまでクーの怒りを意に介さない。
 足元のライフルを拾い上げると、弾倉を一旦は外し、弾丸を確認すると再度装着する。
 コッキングレバーを軽く引き、薬室を確認する。
 お構いなしの態度をとるギコにクーはさらに苛立ちを見せる。

川 ゚ -゚)「この馬鹿め。次、約束を破ったら撃つぞ」

(,,゚Д゚)「へいへい、いつも通りバーボンハウスの奢りで勘弁してくれ」

 普段と何ら変わりない二人の態度に、残りの三人は驚きつつも話に割って入る。

214 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:33:20 ID:2CPvT2JY0
(;^ω^)「おいおい、待ってくれお!
      この光景を見てクーは何も思わないのかお?」

川 ゚ -゚)「確かに驚いてはいるが、ギコがやったんなら不思議じゃないな」

(´<_`;)「いかれてんのか? もう少しは驚けよ……」

ξ;゚听)ξ「本当に強化外骨格兵の死体もあるわね」

(,,゚Д゚)「ああ、そいつはなかなか手ごわかったな。」

(;^ω^)「そんなあっさりと……。
      何か、驚いているのが馬鹿みたいだお」

川 ゚ -゚)「とにかく時間がない。
     ギコ、朝日は何処だ?ここには見当たらないんだが」

(,,゚Д゚)「おう、この奥に扉が有るんだが、爆薬を何も持っていなくてな。
     お前らを待っていたんだ。
     さ、移動しよう」

 ギコは空間の奥を指差す。
 確かにそこには取っ手などと言ったものは無いが、壁にドア状に囲まれたくぼみが見える。

215 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:34:26 ID:2CPvT2JY0
ξ゚听)ξ「……そうね、頭を切り替えましょう。
       ブーンがチャージを持ってるわよね」
 
(;^ω^)「あ、ああ。持ってるお」

(´<_` )「そうだな、確かに夜明けが近くなってきてる。急ごう」

 五人は辺りに転がる死体を避けて歩き、その扉の前に集った。
 ギコはブーンから爆薬を受け取ると、壁に触れて材質と強度を確かめている。
 クーは無線越しに小声で聞く。

川 ゚ -゚)『ギコ、やれそうか?』

(,,゚Д゚)『ああ、そんなに厚くなさそうだ。いけるぞ』

 ギコは爆薬を扉の溝に沿って、薄く長く配置する。
 信管を取り付けると、扉の横に移動して爆発の危険区域を避ける。
 そしてギコは起爆装置をブーンに渡す。 

(,,゚Д゚)(よし、全員準備しろ)

 ギコのハンドサインに対して、全員が無言で頷き、配置に付く。
 扉の左側に並んだ先頭がギコ、続いて弟者、クー、ツンと並び、ブーンは扉の右側で起爆装置を握っている。
 ツンがクーの背中に吊るされたフラッシュバンを掴みとり、クーの肩を二回叩いて合図する。
 そのまま、クーは弟者の肩を叩き、同様に弟者はギコの肩を叩く。
 こうして準備が整ったことがギコに伝えられる。

(,,゚Д゚)(ブーン、やれ)

216 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:35:38 ID:2CPvT2JY0
 ギコはハンドサインでブーンに合図を送ると、ブーンは起爆装置を押した。
 扉に沿って小さな爆発が生じ、セーフルームと通じる扉は支えを失って奥に倒れ込む。

 扉の爆破と同時にツンが身を乗り出して、フラッシュバンを部屋の内部に放り込む。
 フラッシュバンの炸裂を確認すると、まずギコが部屋に突入する。

 ギコは部屋の内部を素早く確認し、敵性の人員を探しながら右側に進む。
 後ろに続いた弟者はギコと反対の左側を進み、クーはギコ同様にツンは弟者の後を追う。
 ブーンは扉の前に残り後方を警戒する。

 しかし、室内に敵の姿は見当たらない。
 ただ中央に椅子に目隠しされて拘束された人間が一人居るだけだ。
 ギコは制圧を確認すると声を上げる。

(,,゚Д゚)「クリア!」

(´<_` )「こいつが例の朝日か?」

(,,゚Д゚)「罠かもしれん。注意しろ」

 まさにその部屋はセーフルームといった様相で、様々な備蓄品や生活雑貨が所狭しと置かれている。
 ギコ達は拘束されている人間に近づき、全身をくまなく調べ、トラップの有無を確認する。
 男は目隠しの状態で後ろ手に縛られており、両足は椅子の足にくくりつけられている。
 昔ギコは中東の任務で、罠として人質に爆弾が隠されているケースを見た事があった。

217 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:37:26 ID:2CPvT2JY0
ξ゚听)ξ「Ok、トラップは無いわ」

(,,゚Д゚)「ブーン、開放してやれ」

 ブーンが目隠しを外し、弟者が身体の拘束を外してやる。
 どうやらその男は気絶しているようで、特に反応は無い。
 ギコは男の顔を覗き込み、起動させたPDAの画像と見比べている。
 事前に提供された資料では眼鏡をかけているが、この男の顔は間違いない。

(,,゚Д゚)「よし、朝日と確認した。ブーン、診てやれ」

(´<_` )「大丈夫か? 意識がなさそうだが」

 弟者は慎重に拘束から解放された朝日を床に寝かせて、ブーンが診察する。
 脈や呼吸の有無を調べ、容体を確認している。
 その間にギコは無線を開き、仲間の全無線に接続する。

(,,゚Д゚)『All team, Head up!
     JACKPOT! JACKPOT! JACKPOT!』

 「JACKPOT」とは事前に取り決めて置いた合図で、それは朝日の確保を意味する。
 この合図で作戦は最終段階に移り、各部隊は脱出の準備と攪乱を始めるはずだ。

( ^ω^)「ギコ、意識は無いが、容体は安定しているお。
      すこし脈が弱いから薬剤で眠らされている可能性があるお」

 ギコは言葉の代わりにブーンに親指を立てると、そのまま兄者の無線の周波数に切り替える。

218 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:38:56 ID:2CPvT2JY0

(,,゚Д゚)『ビーグル2、カナリアを確保した。意識は無い。
     安定しているが、急ぎたい。脱出のヘリは?』

( ´_ゝ`)『了解した。
      あと約三分で迎えに行く。予定通り、地点ブラヴォーで待機してくれ
      脱出は政府軍の攻撃ヘリが護衛に付いてくれる』

(,,゚Д゚)『了解した、すぐに移動する。アウト』

 ギコは無線を切ると、武器を確認しつつ全員に移動を告げる。

(,,゚Д゚)「よし、朝日を拘束し、屋上のLZに向かうぞ。
     俺がフロントマンだ、後に続け。
     クーはテールガンを頼む」

 ギコの言葉に、にわかに全員が装備を確認し始め、次の移動に備える。
 すると、建物の外から一際大きな爆発音が聞こえ、建物がその衝撃に振動した。
 断続的な発砲音の中、複数のヘリの音が響き渡る。

ξ゚听)ξ「……最後の攻撃が始まったわね」

( ^ω^)「そうか、政府軍も撤収の準備に入っているおね」

川 ゚ -゚)「弟者、朝日を頼む」

(´<_` )「おk、任せろ」

219 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:41:11 ID:2CPvT2JY0
 クーは朝日をコードで後ろ手に拘束し、目隠しと猿轡を噛ませる。
 これは朝日が意識を取り戻しても、暴れたりして移動の邪魔にならないようにするためだ。
 弟者は身動き一つしない朝日を肩に担ぎ上げると片手で拳銃を抜いた。

(´<_` )「よし、大丈夫だ。行こう」

 弟者の言葉を聞くと、ギコは扉の影に取りついて部屋の向こうを見渡す。
 その後ろにツン、朝日を担いだ弟者、ブーン、そして後衛を務めるクーが並ぶ。

(,,゚Д゚)「Move!」

 ギコは声を上げると、部屋から先程の闘技場のような空間に戻る。
 それに合わせてツン達は周囲を警戒しつつ、足早に部屋から立ち去って行った。
 五人は立ち止ることなく広い空間を横切り、開いたままの隔壁を通り抜けて、屋上を目指して階段を駆け上がる。

 後には生きる者一人居ない空間に静寂が残った。
 惨状の中に転がっている物言わぬ死体だけが、そこで何があったのかを知っている。
___________________________________________________________

220 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:41:51 ID:2CPvT2JY0

【Black Dogs side】 時刻05:00 目標施設近傍空域を飛行するヘリコプター機内にて

 闇夜を切り裂きながら飛び続ける黒塗りの大型強襲ヘリコプター。
 目標の降着地点を目指して飛行するそのヘリの中、兄者は副操縦席にてその身体を揺らしていた。
 またしても、コクピットから遠くの方から爆炎が上がったのが目に入った。
 隣の座席でヘリを操っているジョルジュが爆発に合わせて気勢を上げている。

( ´_ゝ`)「まったく、政府軍の連中も派手にやっているな」

 暗視装置越しによく目を凝らすと、その向こうにヘリらしきものが飛行しているのが見えた。
 おそらく政府軍の攻撃ヘリだろう。
 細見の機体からは独特の威圧感が見て取れる。
  _
( ゚∀゚)「すげえな。このままじゃあ、ギコ達も焼き殺されたりしてな」

 ジョルジュは操縦桿を握りながら軽口を叩いているが、今このヘリは地形追従飛行を実施している。
 攻撃による被害のリスクを最小限にするために、森林地帯を超低空飛行している。
 兄者は横の窓から外を眺めると、すぐ足元と言ってもいい高さを木々の切っ先が掠めていく。
 いい加減慣れたとは言え、やはりあまり気分のいいものではない。
 兄者は視線を逸らして手近な計器を眺めることにした。

( ´_ゝ`)「そうなると人をこき使う五月蠅い口が減って助かるぜ」
  _
( ゚∀゚)「はっ、まったくだ」

221 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:46:11 ID:2CPvT2JY0

 一方のジョルジュはふざけてはいるものの、操縦に関しては一切のミスがない。
 夜間の地形追従飛行とはかなりの危険が伴うものだが、ジョルジュは難なくこなしている。
 しかし、そろそろあらかじめ設定された戦闘空域のはずだ。
 味方の誤射を避けるために、ジョルジュは機内の無線のスイッチを捻る。
  _
( ゚∀゚)『エコーチームへ、こちらビーグル1。
     現在、南西よりそちらの空域に侵入中。留意せよ』

『エコー2ラジャー』

『エコー1コピー。支援はこちらに任せて、存分に飛んでくれ』

 無線から明瞭な音声が入る。
 通信しているのは政府軍の攻撃ヘリチームだ。
 彼らは今、施設の味方を支援している。
  _
( ゚∀゚)『了解した、支援に感謝する。ビーグル1、アウト』

 ジョルジュは通信を切断すると、横目に隣のシートに座る兄者にニヤリと笑いかける。
 戦闘中にも薄ら笑いを浮かべるジョルジュはスリルを感じているのか普段よりも興奮しているように見える。
 だが、彼もまたプロの傭兵だ。
 おそらく薄皮一枚下の頭脳は冷静で緻密な計算をこなし続けているのであろう。
  _
( ゚∀゚)「兄者、もうすぐ着陸地点だぞ」

( ´_ゝ`)「……見えた。あれが研究所だな」

222 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:47:37 ID:2CPvT2JY0

 コクピットの兄者の目に暗闇の中、遠方で炎が輝いているのが映る。
 木々の向こうから次第に研究所の全貌が目に入る。
 至る所で炎上し漆黒の闇の中、黒々とした煙が上がっている。
 兄者は目の前に設置されたコンソールに触れ、ギコ達の回線に繋ぐ。
 この機体の副操縦席には兄者のための電子機器が搭載されている。

( ´_ゝ`)『こちらビーグル2、聞こえるか?』

 数秒間の間を置いて、兄者のヘッドホンからギコの声が聞こえた。

(,,゚Д゚)『――――……ああ、聞こえるぞ!』

( ´_ゝ`)『今そっちの空域に入った。LZ(着陸地点)はどうなっている?』

(,,゚Д゚)『今LZを掃除中だ! 
     だが抵抗が激しい。何か支援はないか!?
     …………おい、ブーン! 右に行ったぞ、潰せ!』

 どうやらギコ達は施設の警備兵の攻撃を受けているようだ。
 無線越しに断続的な銃声や怒声が聞こえてくる。
 しかし兄者は冷静さを失わず、ギコに提案する。

( ´_ゝ`)『そうだな、政府軍の攻撃ヘリに支援を要請してみよう。少し待て』

(,,゚Д゚)『解った! 少し急いで欲しい。
     なかなか仕事が多いんでね! 回線はシエラ2に回してくれ』

223 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:48:23 ID:2CPvT2JY0

 兄者は無線の周波数を先程の攻撃ヘリチームに合わせた。
 するとちょうどギコ達が戦っているであろう研究所本棟が見えてきた。
 ジョルジュは機の速度を僅かに落とし、基地を周回する軌道に移した。

( ´_ゝ`)『エコーチーム、こちらビーグル2だ』

『こちらエコー1、どうした?』

 間髪入れずに明瞭な声がヘッドホンから聞こえてきた。

( ´_ゝ`)『そちらの近接航空支援を受けたい。研究所本棟の屋上は見えるか?』

 施設の上空をぐるりと旋回飛行する。
 隙が有ればいつでもギコ達を回収できるように備えているのだ。
 これで屋上で戦っているギコ達も良く見えるようになった。
 ギコ達はヘリポートの隅で遮蔽物の影から応戦しているが、エレベーターから次々と現れる警備兵に苦戦しているようだ。

『了解した。こちらからも良く見えるぞ』

 兄者は暗視装置を航空ヘルメットの上方へスライドさせ、その眼でギコ達の戦いを眺める。 
 今まさにギコの薙ぎ払うような水平射撃で数人の警備兵が地に倒れた。
 しかし、屋上に設置されたエレベーターからは続々と敵の応援が現れ、数の理をもってギコ達を物陰に釘付けにしている。

( ´_ゝ`)『よし、無線をそこにいる兵に回す』

『コピー』

224 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:49:30 ID:2CPvT2JY0

 またもや断続的な火線が飛び交っている。
 ある種、幻想的に見える曳光弾のきらめきが暗視装置越しの緑色の世界に慣れた目には眩しい。
 今度はクーの放ったであろう銃火が、一人の警備兵を打ち倒したようだ。
 だが、それでも屋上に存在する警備兵の数は多い。
 おそらく十数人はいるだろう。

( ´_ゝ`)『シエラ2、今攻撃ヘリの回線をそっちに回すぞ。
      コールサインはエコー1だ。
      俺たちは今、基地の上空を周回している』

(´<_`;)『解った!』

 兄者は自らの仕事を終えると黙り込む。
 これ以上屋上に接近すると、警備兵の攻撃がヘリに集中してしまう。
 だから兄者は戦闘の場から一歩下がった空中の機内から、戦う仲間をもどかしそうに眺める事しかできない。
 
(´<_`;)『こちらシエラ2、聞こえるか?
     現在、多数の敵兵に追い詰められている。近接航空支援を頼みたい』

『エコー1、コピー。目標は?』

 兄者には直接銃火を交えるような芸当はできない。
 いつも戦う仲間たちを見守ることしか出来ないのだ。 
 兄者は無線越しに聞こえる双子の弟の音声に耳を傾ける。

(´<_`;)『研究所本棟の屋上だ! 
     ヘリポート南東側には赤外線ビーコンを装備した味方が五人いる。
     反対の北西側にいるやつは全員敵だ。やってくれ!』
 
『北西側だな? 了解だ。
 五秒後に30oを屋上に撃ち込む。安全な遮蔽物に隠れていろ』

225 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:50:11 ID:2CPvT2JY0

 上空をホバリングしているNinja攻撃ヘリが30oチェーンガンを発砲する。
 ダン、ダン、ダンと断続的に発砲し、狙われた屋上の一区画が吹き飛び、土煙が上がる。
 あまりの衝撃に屋上のエレベーターは崩壊し、周辺にいた警備兵は人の形を留めていない。
 ヘリポートの外れにある大型の換気装置の影に隠れていたギコ達が歓声を上げる。

(´<_`#)『Year!! 素晴らしい射撃だ! 
      エコー1、支援に感謝する!』

『また何かあったら呼んでくれ、エコー1、アウト』

 すると、兄者の無線機に、弟者から続けざまに通信が入る。

(´<_` )『ビーグル1、今がチャンスだ。
      屋上はクリア。回収を頼む』

 攻撃ヘリの射撃で、屋上の警備兵は全滅していた。
 屋上に唯一通じている連絡用エレベーターも崩壊し、今なら増援が押し寄せる事も無いだろう。
 弟者が緑のフレアを焚いてこちらに合図している。
  _
( ゚∀゚)『了解、屋上に着陸する』

 ジョルジュがヘリを屋上の上空に移動させる。
 ゆっくりと降下していき、やがて機体はヘリポートの真ん中に着陸した。
 機体から巻き起こる強烈なダウンウォッシュが屋上の埃を巻き上げる。

(´<_` )「乗れ!」

(,,゚Д゚)「おうよ!」

226 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:51:54 ID:2CPvT2JY0
 すかさずキャビンのドアが弟者によって開かれ、ブーンによって拘束された朝日が機内のシートに乗せられる。
 続いてBlackDogsの面々が乗り込んできた。

 皆、顔に疲労の色が見え隠れしていてるが、まだ闘争による興奮でハイになっているようにも見える。
 無理も無い、今の今まで銃撃戦を繰り広げていたのだ。
 兄者はコクピットの座席から身を乗り出して振り返る。

( ´_ゝ`)「お前らお疲れだったな!」

(;^ω^)「まったくだお。今回の仕事はハードだったお」

ξ゚听)ξ「確かに久々の大仕事だったわね」

 ブーンはやはり顔に出易い。
 まさに一仕事を終えた達成感と疲労がありありと見える。
 シートにドカッと座り込んで一息ついている。
  
川 ゚ -゚)「おいおい、お前らまだ仕事は終わってないんだ。
     気を抜かない方が良いぞ」

(,,゚Д゚)「ああ、それにまだ贈り物も残ってるしな」

 クーに続いて、ギコが気だるげに機内に乗り込んで来た。
 椅子に座ると、腰のポーチからC4の無線起爆装置を取り出して、右手で弄っている。

227 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:54:03 ID:2CPvT2JY0
  _
( ゚∀゚)「気を付けてくれ。
     俺はこういう雰囲気の時に撃墜されたことがあるぞ。」

(;´_ゝ`)「頼むから、それだけは勘弁してくれ」
  _    
( ゚∀゚)「よし、全員乗ったか!?」

(´<_` )「ああ、俺が最後だ。行こう」

 弟者は最後に機体の座席に乗り込むと、サイドドアを滑らせて閉じた。
 それを後ろ目に確認したジョルジュはエンジンの回転数を上げ、離陸体制に移る。
 ヘリは離陸や着陸の際が最も不安定で、敵の攻撃にも晒されやすい。
  _
( ゚∀゚)「兄者、無線を頼む」

( ´_ゝ`)「おう」

 兄者は無線の周波数を切り替えた。
 作戦の総指揮を執る政府軍の高級将校に一報を入れるのだ。
 
( ´_ゝ`)『HQ、こちらビーグルチーム。
      カナリヤ、並びにマスティフチームを回収した。
      繰り返す、カナリアを確保した。我々はこれより離陸し、戦闘区域を離れる』

228 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:55:32 ID:2CPvT2JY0

 無線から明瞭な音声が兄者の耳に聞こえる。
 おそらくは初老といった年頃の男性の落ち着いた声だ。

『了解した、エコー1を直援に回す。
 こちらの兵も既に回収のヘリに搭乗している。
 貴機はこれより方位2-0-5へ進み、国境を越え、アメリシア空軍基地に着陸せよ。
 素晴らしい活躍だったぞ、BlackDogs』

( ´_ゝ`)『了解した。方位2-0-5へ進む。
      こちらも色々と助けてもらったよ、ありがとう。ビーグル、アウト』

( ´_ゝ`)「聞こえたなジョルジュ、方位2-0-5だ。国境を越えるぞ」
  _
( ゚∀゚)「ああ、一時間程度のフライトだ。楽しんで行こう。
     ……さあ離陸するぞ」

 ガスタービンエンジンの回転数が上昇し、それが奏でる唸り声がどんどん甲高くなる。
 そして身体の浮き上がる感覚と共に、機体が空中へと舞い上がった。
 ヘリは空中でその向きを変え、国境を目指してフライトを始める。
 高度を上げ、今まさに施設上空を脱しようという時、ギコはC4の起爆装置を握り直した。

( ^ω^)「お? ギコ、それは……」

(,,゚Д゚)「ああ、今回もいろいろあったが贈り物を置いてきていてな」

229 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:56:17 ID:2CPvT2JY0

ξ゚听)ξ「例のあれね」

(,,゚Д゚)「そうだ。立つ鳥跡を濁さずだっけか? 
     ま、……贈り物さ」

 そう言って、ギコは起爆スイッチを勢いよく押し込んだ。
 その瞬間、研究所で大きな爆発が生じた。
 爆炎が建物の上下から吹き出し、その衝撃は空中のヘリ機内にも感じられるほどだ。
 おそらく証拠隠滅に設置された大量のガソリンに引火したのだろう。
 といっても研究のデータは既に弟者によって回収されている。

( ´_ゝ`)「はっ、汚ねえ花火だ」

川 ゚ -゚)「あの威力はガソリンに引火した分か」
  _
( ゚∀゚)「悪くない眺めだ」

 朝の近づく薄闇の中、煌々と燃え上がる爆炎に機内の面々の顔が照らし出される。
 火勢を上げる火の手は次々と延焼していき、恐らくは大量に転がっている死体も判別付かぬまで燃えるのだろう。
 まるで命を吸って燃え上がっているような炎にみな目を向け続ける。

(´<_` )「もうあの施設はもう終わりだな。
      しかし、今更なんだがここまで大騒ぎになって大丈夫なのか?」

(,,゚Д゚)「知らねえな。
     その仕事は政府の分だ。俺たちの山じゃない」
  _
( ゚∀゚)「そういうこった。
     大方、適当なカバーストーリーが付くだけじゃねえの?」

230 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:57:04 ID:2CPvT2JY0

 少しずつ施設からヘリが遠ざかっていく。
 遠ざかる戦いの地に、皆少しずつリラックスした表情を見せている。

川 ゚ -゚)「治安の良くない国だ。
     深夜の政府管理施設の爆発事故だとかで済まされるんだろう」

( ^ω^)「そんなもんかおね」

ξ゚听)ξ「ま、報酬さえもらえれば関係無いわね」

( ∀ )「……ん」

 すると、ブーンの横で拘束されたままの朝日がもぞもぞと動き始めた。
 どうやら薬物によって眠らされていた意識が覚醒してきたようだ。
 先程の爆発が気付けになったのか、微かにうなされた声を上げている。
 
(´<_` )「おいブーン、荷物のお目覚めだぞ」

(,,゚Д゚)「拘束を解いて様子を見てくれ」

( ^ω^)「了解だおー」

 ブーンが腰からナイフを抜き、朝日の拘束を解いていく。
 両足に括り付けられている結束バンドに似た樹脂製拘束錠をナイフの刃で切るが、念のために手錠の拘束は開放しない。
 眼鏡越しに顔を覆っている目隠しをゆっくりと取り外すと、朝日の素顔が露わになる。

(-@∀@)「……ここは?」

231 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:59:02 ID:2CPvT2JY0

 多少、朦朧としているようで、うっすらと開けた瞳は辺りをゆっくりと見渡している。
 落ち着いた所で改めて朝日を眺めてみる。
 くたびれた白衣を身に纏い、少し神経質そうで縁の厚い眼鏡を掛けた、いかにも研究者風の男である。
 だが事前の資料の顔写真とは違い、少しやつれていて、目の下のクマも酷い。

( ^ω^)「いくつか質問に答えるお。名前と年齢は?」

(-@∀@)「僕は朝日……朝日祐介。歳は……、33歳だ」

 多少は意識が混濁しているようだが、薬物が残っているだけであろう。
 ブーンはひとまず安心し、次の質問を重ねる。

( ^ω^)「ふむ、意識は大丈夫おね。
       ここがどこか解るかお? いままで何をしていたのかも」

(-@∀@)「ああ、僕は、…………っ!!」

 しかしブーンが言葉を掛けると、朝日の顔がみるみる青ざめていく。
 辺りを勢いよく見渡し、後ろ手に拘束されていることに気づくと一層取り乱し始める。

(;-@∀@)「なっ! ここは一体!? お前らは……!!」

川 ゚ -゚)「落ち着け、我々は敵じゃない。
      君からの連絡を受けて、救出にきたヤーパン国の特殊部隊だ。
      ここは脱出のヘリ内だ、安心してくれ」

232 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 00:59:47 ID:2CPvT2JY0

 クーは顎で機外で追従しているヘリを指し示す。
 政府軍のヘリにはロービジ(低視認)塗装でヤーパン国の日の丸国旗が描かれている。
 朝日はクーの視線を追って国旗をみると、自分の身の回りを確かめる。
 自分がヘリに乗っていることを理解し、キャビンの窓から遠く施設の至る所で炎が上がっている事を目にすると、事態を把握した様だ。

(;-@∀@)「あ、ええと……。
     …………つまり僕は、助かった?」

(,,゚Д゚)「ああ、今国境を越えた友好国に駐留しているアメリシアの空軍基地を目指して飛行中だ」

 一気に落ち着きを取り戻した朝日は自分の周囲に座るギコ達の顔を見回している。
 その疲れの浮かぶ顔には、安堵の表情が見える。
 無理も無い、彼からしてみればつい先程まで得体のしれない集団に拘束され研究を強いられていたのだ。

(-@∀@)「そうか……。ちゃんと助けに来てくれたんだな」

(,,゚Д゚)「そうだ。おそらく数日中にヤーパンに帰れるぞ」

(-@∀@)「でも、君たちは良くあの警備を……」

 しかし朝日の顔がサッと青ざめる。
 向かいに座るギコに掴み掛らんばかりの勢いで身を乗り出す。

(;-@∀@)「そうだ! 強化人間も居たはずだ! 大丈夫だったのか!?」

233 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 01:00:28 ID:2CPvT2JY0

ξ゚听)ξ「強化人間? 何よそれ」

 しかし皆反応が薄い、ただしギコを除いては。
 ギコは僅かに顔を動かして、横目で朝日の反応を窺っている。

(,,゚Д゚)「……」

(;-@∀@)「人為的に身体能力を向上させた兵士の事だ。
     ぼくの身辺を監視していた連中だよ」

(´<_` )「いや、俺たちは見てないな。
      ギコは見たか?」

(,,゚Д゚)「……いや、見ていないな」

川 ゚ -゚)(?)

 ギコの曖昧な反応にクーだけが気づくが、周囲の会話に流されて口をはさめなかった。
 クーの頭にはギコの不自然な反応に、僅かな疑問符が残った。

234 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 01:01:15 ID:2CPvT2JY0

ξ゚听)ξ「じゃあ気づかないうちに倒しちゃったのかもね」

(;-@∀@)「そんな……あの強化人間を!?」
  _
( ゚∀゚)「あんた、その強化人間ってのに詳しそうだな」

 ジョルジュがオートクルーズに切り替えた余裕からか、操縦席から口をはさんだ。 

(-@∀@)「…………君たちに言っていいのか解らないが……。
      僕は奴らに拉致されてその強化人間の研究をやらされていたんだ」

(,,゚Д゚)「……」
 
 ギコはあくまで先程と同様に押し黙り続けている。

(-@∀@)「彼らはシベリアのクローン兵士なんだ。その脳神経部分の調整と補助薬の研究をしていた」

 しかし朝日の口から出たクローン兵という単語に皆驚きを隠さない。

ξ;゚听)ξ「……なっ!」

川 ゚ -゚)「クローン兵士、噂には聞いていたが……」

(´<_`;)「やはりシベリアが絡んでいたのか」

 現在もヒトクローンの研究や作成は国際的に厳しく禁止されている。
 しかし国際的な紛争や小競り合いの多発している世界において、優秀なクローン兵の噂は至る所から聞こえてくる。
 何でもシベリアやヤーパンがヒトクローン研究に乗り出してなどというものだ。

235 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 01:02:40 ID:2CPvT2JY0

(;^ω^)「つまり、貴方のナノマシン研究はカバーストーリーだお?」

(-@∀@)「ナノマシン? 僕はナノマシンは専門じゃない。
     ……でも、奴らに拘束された時は口封じで殺されるのかと思ったよ。
     君たちのおかげで助かったよ、ありがとう」

 しかし朝日の感謝を他所に、ギコはこの話題を終わらせに掛かる。

(,,゚Д゚)「礼はまた今度にしてくれ。
     これ以上の詮索は俺たちの仕事じゃない。
     後の話は基地に付いてからお偉いさんに話してくれ」

(-@∀@)「ああ、わかったよ。それと、この手錠を外してくれたりはしないよね?」

( ^ω^)「危険防止の為だお。申し訳ないけど我慢して欲しいお」

(-@∀@)「そうか、解った。助け出してくれたんだ。文句は言わないよ」

( ^ω^)「君は薬剤で眠らされていたんだお。
      ヘリの機内だけど、なるべくゆっくりしといた方が良いお」

ξ゚听)ξ「まだ目的の飛行場には着かないわ。
      慣れないヘリでしょうけど、なるべく体を休めておいた方が良いわ」

(-@∀@)「そうさせてもらうよ……」

 そういって朝日は目をつぶり、静かになった。
 軽い睡眠状態に入ったようだ。
 いくら疲弊しているとはいえ、この酷く煩い軍用ヘリコプターの機内で眠りにつくことが出来るとは、見た目に反して神経が図太いのかもしれない。

(,,゚Д゚)「寝やがった。意外と根性あるなコイツ」

ξ゚听)ξ「疲れてるのよ。起こさないでおいてあげましょう」

236 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 01:04:47 ID:2CPvT2JY0

(´<_` )「しかし、俺たちも疲れたな」

川 ゚ -゚)「ひさびさの大舞台だ。仕方ないさ」

 ヘリは静かな大空を意切り裂くように、依然国境を目指して飛び続けている。
 辺りは早朝の薄闇に包まれ、東の空は太陽の放つ明るさに滲み始めている。
 兄者は機内用のインカムにぼそりと呟いた。

( ´_ゝ`)「さあ、もうすぐ日が昇る。
       …………夕方までには家に帰れそうだ」

 早朝の優しい光に包まれながら、ヘリは一路基地へ飛ぶ。
 時刻は午前六時前。

 作戦項目の残すところは基地への到着を残すところまでである。
 少なくともこの戦いは終わった。
 深い破壊の傷跡を残して、「黒犬」の面々は帰還の道筋をたどる。 
__________________________________________________________

237 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 01:05:29 ID:2CPvT2JY0
Contract1−『ロンゲスト・プレゼント』


 -Epilogue-

238 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 01:06:41 ID:2CPvT2JY0
 遠く東欧での朝日の奪還作戦が成功に終わった、その約一週間後。
 ヤーパン国のバー「バーボンハウス」の店内。
 そこには会話を邪魔しないような適度な音量で、軽快な音楽が流れている。
 淡く滲む間接照明の下、カウンター席で煙草を燻らせ、一人グラスを傾けるギコがいた。
 いつも通りくたびれた黒のスーツを身に纏い、度数の高い酒をあおり続けている。
 店内にはギコ以外の来店者はいない。

(,,゚Д゚)「ふー…………」

 その真向いにはこのバーの店主であるショボンの姿があった。
 彼はギコの秘密を全て知りつつも、彼に協力する友人の一人である。
 かっちりと固めた服装で、グラスを磨きながらギコに語りかける。

(´・ω・`)「それで? 君は見知らぬ場所で一人して敵と戦ったって訳だ」

(,,゚Д゚)「ああ。クー達がいなくて良かった。
     さっき話しただろ? 
     あの場所で俺が相手に回したのは例の連中だった。
     俺の身体の事がクーに知られてでもみろよ。何が起きるかわからん」

 そう言い放って、ギコはグラスを傾ける。
 顔を背け、ゆったりと店内に流れるJAZZのスウィングに耳を傾ける。
 一方、ショボンは磨き終わったグラスを後ろの棚に戻すと、ギコに向き直る。

239 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 01:07:35 ID:2CPvT2JY0

(´・ω・`)「そうでもないんじゃない? 
      彼女は賢明だ。きっと理解してくれるさ。
      それに重大な事なのに隠し事なんかしたままで良いのかい?」

(,,゚Д゚)「おい、何が隠し事だ。
     元から他人のアイツにそんな事を話す義理は無いんだよ」

 ギコはショボンに顔を背けて煙草をぷかぷかと燻らせている。
 素直じゃないギコの反応にショボンは苦笑いを浮かべる。
 いつもそうだ、クーの事になると途端にギコは弱くなる。

(´・ω・`)「まったく……。同棲までしておいて何言ってるんだ。
      ホントは心配させたくないから言わないでしょ?」

(,,゚Д゚)「同棲なんかしてないぞ。
     アイツが勝手に転がり込んできただけだ。
     勘違いするなよ、それ以外に何の関係も無い」

 ギコは顔を背けたまま、向こうに並ぶ酒類のボトルをぼんやりと眺める。 
 店内に流れていた曲が終わり、次の曲が流れだした。
 印象的なテーマから始まるこの曲の名前は、かの有名なPat Martino演奏の「Sunny」。
 そのどこか悲しげでいて情熱的な演奏がギコの胸を震わせる。

240 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 01:08:32 ID:2CPvT2JY0
 
(´・ω・`)「君は相変わらず素直じゃないね。
      可哀そうに、これじゃあクーも報われないよ。
      それに心配云々は否定しないんだ」

(,,゚Д゚)「そんなもん知るか。もう酒が無くなった。次をくれ」

 ギコはグラスの酒を飲み尽くすと、新しい酒を要求する。
 ショボンはギコらしい態度に苦笑いしつつ、後ろの棚から黄金色の液体が込められたボトルを手に取る。
 新しいグラスを手に取って、ギコに先程の話の続きを問いかける。

(´・ω・`)「はいはい、じゃあエヴァン・ウイリアムズの23年にしようか。
      それと話は戻るけど、朝日のデータはどうしたの? 
      君に役立つこともあったかもしれないよ?」

(,,゚Д゚)「ああ、あれか。兄者がこっそりコピーしていてくれてな。
     今精査しているところだが、今の俺に役立つことはあまり無さそうだとよ」

 ショボンは23年物バーボンのストレートをギコの前のテーブルに置く。
 ケッパーと呼ばれる植物の蕾のピクルスを皿に寄せて酒のつまみとして一緒に出した。

(´・ω・`)「はい。ストレートで、ケッパーのピクルスと一緒に呑むといいよ。
      でも、何だか釈然としないね。
『たまたま』君たちに周ってきた依頼に『彼ら』が関わっていたなんて」

241 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 01:09:13 ID:2CPvT2JY0

 ギコは短くなった煙草を灰皿でもみ消すと、出された酒をちびちびと呑み始める。
 やにわに下を向くと、酒によって管を巻くかのように静かに呟いた。

(,,-Д-)「さあな。モナーの野郎も腹に一物抱えてそうだが、それこそ神のみぞ知るってやつだ。
     第一、解った所でこの俺に何ができるっていうんだ。
     所詮俺は一介の戦争の犬。……そう、ただの犬なんだ」

 ショボンは落ち込んだように顔を上げないギコに語りかける。
 出来の悪い友人を慰めるかのようにその口元には寂しげな微笑みが浮かんでいる。

(´・ω・`)「こんだけ色んな大仕事を仕上げて置いて、何が一介の犬だって?
      どっちかというと地獄の番犬ってところじゃないか」

(,,-Д-)「買い被るな。そんな大層な物じゃない。
     …………そういえば、朝日と直接接触してみようと思う」

 しかしギコが吐いたセリフにショボンは柄にもなく驚く。
 ギコはショボンの珍しい表情をすまし顔でしげしげと眺めている。

(;´・ω・`)「え、それって大丈夫なのかい?」

 ショボンが驚くのも無理はない。
 何せ朝日はヤーパン政府が大規模な作戦を通じて奪還した人員なのだ。
 研究していた内容も含めて、そう安々と接触できる人物でもない。
 場合によってはただでさえ派手な活躍をしているギコが、政府に対する危険分子と認められる可能性もある。
 しかしギコはいつも通り飄々とした態度でグラスを傾けている。

242 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 01:11:20 ID:2CPvT2JY0

(,,゚Д゚)「モナーに掛け合ったんだ。あの爺があっさりと話を通してくれたぜ。
     おそらく朝日に利用価値はあまりなかったんだろう、好きにしろとの事だ。
     だが、俺にも奴に個人的に聞きたいことが有る」

 結局、朝日は政府の保護プログラムの下にいるが、ギコが接触することもそう難しいことではないらしい。
 ギコ達に良く依頼を持ち込む政府高官のモナーを伝手に手を回させたらしい。
 その事を聞くと、先程の驚きから立ち直ったショボンは悪戯げにギコを眺める。

(´・ω・`)「結局、『奴ら』を追及する気満々じゃないか。
      ただあくまで深追いは止めてくれよ。
      いまさら長年の友人を失いたくはない」

(,,゚Д゚)「引き際ぐらいは把握しているさ。
     でも、死ぬときは簡単に死んじまう。それが俺たちの世界だろ? 
     その点じゃ、『外套と短剣』の世界も『銃と血』の世界も変わらない。
     シャンペン・スパイなら良く解っているはずだ」

 ギコは再度グラスを呷り、少し酒焼けした声でショボンに話しかけた。
 ショボンは呆れたように肩をすくめる。

(´・ω・`)「ははっ、『外套と短剣』か、僕には懐かしい響きだ。
      でも僕はそこまで地味な仕事内容じゃなかったよ。
      それに、そんな事を言っても、君は殺そうにも殺せなさそうだけどね」

243 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/01(火) 01:12:00 ID:2CPvT2JY0
 ショボンは冗談交じりにそう言うと、ギコを尻目に自らもグラスを出して年代物のバーボンを注ぐ。
 一方、ギコは静かにグラスを机に置く。
 そこには無表情にも悲しげにも見える表情。
 無言でショボンの所作を眺めていたギコは、彼が振り返るとぼそりと呟いた。


 
(,,゚Д゚)「……そりゃそうさ、俺は誰にも殺されやしない。
     死線なんて目で見て躱すことだってできる、いかれた紛い物の人間」



(,,゚Д゚)「……体の半分が機械の、『強化人間』なんだからな」




 ショボンが片手で持ったグラスをゆっくりと机の上に置いた。
 グラスの中の角氷がからりと小気味の良い音を立てる。
 店の外の深い暗闇では、夏の終わりを感じさせる冷たい風が吹いていた。


 This contract is end.
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