( ^ω^) ブーンが雪国の聖杯戦争に挑むようです
- 380 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:13:34 ID:1oiKVfdg0
******
空気が張り詰めていた。
冬の寒気によって凍てついてしまったせいではない、
周囲の者が放つ鋭利な殺気によるものだ。
歴戦の英雄であるサーヴァント達が睨み合っていればそうもなろう。
初めて殺し合いの場に立つことになったツンがいかに気丈に振舞おうとも、
この経験の差は埋められようにもない。
( ゚_ノ゚) 「マスター、指示を」
ξ;゚听)ξ 「……わかってるわよ!」
ライダーも場慣れしているらしく、呑気にも思える冷静さで言うが、
恐怖にも似た緊張を自覚しているツンの声には苛立ちが交じる。
状況から見ればツン達はさほど危険に晒されているというわけではない。
むしろ、下手に動かぬ方が安全である。突如乱入してきた黒い甲冑のサーヴァント、
ランサーの猛攻に襲われているのはブーンだ。
それを遠距離から彼のアーチャーが狙撃することで妨げているのだが、
ランサーの敏捷性に翻弄され、攻撃の手が追いつかず、
ブーンの逃走をサポートすることもままならない窮地に陥っている。
このままじっとしていれば、それともこのまま撤退すれば、
彼女らは何一つ危険を犯さずにここから脱出できることだろう。
- 381 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:14:16 ID:1oiKVfdg0
ただ、その判断をツンは下せずにいた。
望めばランサーと共にブーンを討つことも可能だ。
隙を突いてアーチャーがツンを狙うかもしれないが、
ブーンの守りが手薄となるためこれは暴挙とも言える。
彼らにとってはライダーがランサーに加担するなど詰みにも等しい。
追撃か、傍観か、撤退か。
いずれにせよライダーは彼女から命令が与えられるまで待たねばならなかった。
それはサーヴァントであり軍人であった彼の性質とも、
ツンに自分で選択させ後悔を味わわせぬ配慮とも呼べるであろう。
目,`゚Д゚目 「敵に背を向けるは万策尽きた者のすること!
恐れからくる逃走であるならば、なおのこと!!」
反面、ツンは焦っていた。
状況は刻一刻と進んでいき、逃げ出したブーンへとランサーが槍の柄を叩きつけたのだ。
地面を転げてうつ伏せになった彼に、ランサーは穂先を突きつける。
鋭き刃は殺意そのもので己の喉元に押し当てられた気持ちだった。
ツンの胸を何かが締め付けて息が詰まる。
ブーンの命は今やランサーの手の内にありほんの少し力を加えるだけで、
それは呆気なく砕け散ってしまうことであろう。
ガッと瞼が開かれ、碧眼が剥き出しとなり、ランサーを見た。
咆哮を耳で聞いた。
- 382 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:15:17 ID:1oiKVfdg0
目#`゚Д゚目 「無駄だ! アーチャーよ、遠矢からでは拙者を討ち取れぬぞ!?
出て参れ!! 主君の危機を眺めるだけの臣があろうか!?」
忠節の士であったのであろうランサーには、
アーチャーの主の危機に馳せ参ぜぬ忠義の無さに堪えられず、怒声を浴びせたのだ。
このままひと思いにブーンを刺殺しかねぬ剣幕で、思わずツンは拳を握った。
選択が迫られている。
あるいは選択の後に起こる出来事への覚悟を試されている。
ここで一つの命が奪われようとしているにも関わらずツンは冷たい目とも、
傍観の極みとでも言うべき気持ちで見ていた。
思考があまりにも複雑すぎて処理しきれずに脳が停止してしまっているのだ。
取るべき行動方針は四つのいずれか。
第一に、ライダーは動かさずランサーにブーンを仕留めさせ、その後の様子を窺う。
ランサーの能力を探るにはこれが一番であり、下手に動くよりは効果的で理性的と言える。
第二に、敵にこちらの情報を一切与えぬ為、追跡の手を伸ばせぬように即時に撤退。
最も安全な手でありリスクが少なく、臆病風に吹かれたと見られるかもしれぬが利口ではある。
第三に、ランサーと共闘を計りブーンとアーチャーを排除する。
ランサー乱入当初から考えていたことではあるが、勝負が決しようとしている今や、
手助けなど却って邪魔になるだけであり、ツンからライダーが離れることで危険が増す。
愚策であり頭の片隅に残ってはいるが取るべきではない行動だ。
- 383 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:16:50 ID:1oiKVfdg0
では、残る第四の方針とは――――
何秒経ったのであろうか、あるいは何分たったのであろうか。
1秒か、1分か。時間の感覚すら曖昧であるが、ランサーは待ってはくれない。
目#`゚Д゚目 「アーチャー、貴様! 腑抜けめッ!!」
怒声が上がった。
ついにランサーが動き出す。
ξ;゚听)ξ (駄目ッ!!)
反射的に叫びそうになるツンだったが、
(#゚_ノ゚) 「答えよマスター! 私が取るべき行動とは!?
貴様が与える命令とは!? 一体なんだ! "マイスター"ッ!!」
ランサーに負けじと吠えたライダーに掻き消された。
そして新たに、それこそ本命であった思いが口を突いて出た。
――――最も効率が悪く危険であるが、情に絆され友を救う手段である。
ξ#゚听)ξ 「ブーン!!」
先程の焦燥しきった顔はどこへやら、
一転して鬼の如き表情になったツンは彼へと叫んだ。
- 384 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:19:18 ID:1oiKVfdg0
(;^ω^) 「ッ!?」
槍を突きつけられ絶対絶命の窮地へ陥ったところに、
馴染みぶかい怒声で名を呼ばれたブーンはふと、
恐怖に凍てついた身に暖かいものが流れ込んでいく気がした。
ξ#゚听)ξ 「私と同盟を組みなさい! 早く!! 馬鹿!!」
白き鋼がブーンの喉元を貫く刹那、ランサーは少女の声を歯牙にもかけぬ。
戯言と一蹴し、耳にすら入れてはいなかった。
ブーンにはその返答をよこす間もなく、槍は肉を突き破るのみ。
しかしこの少女の傍若無人さはここで真価を発揮した。
ブーンはツンのほうへと、ほんの少しだけ首を傾けただけにしか過ぎなかったというのに、
ξ#゚听)ξ 「仕方ないわね、仕方ないわ。同盟相手が危険に晒されている。
盟約を結んだというのにその相手が目の前で殺されたとあっては私の面目が立たないわ!
仕方ないから私が助けるしかないわね、ブーンッ!!」
それを強引に肯定とみなしてツンは早口でまくし立てた。
ξ゚听)ξ 「ライダーッ、アンタの宝具であいつを蹴散らしなさい!!」
ランサーを指差し、どこまでも合理主義者である彼女は命じる。
救いたければ救いたいと、そう言えばいいものを。
- 385 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:20:41 ID:1oiKVfdg0
ライダーはそれを口にはせず、ただ苦笑を浮かべて応えた。
ヤヴォールヘアマイスター
( ゚_ノ゚) 「Jawohl Herr Meister(了解したマスター)」
途端、空が割れた。
この世ならざる雷が幾重もの層となって門を成していく。
自然が超常の力によって歪められ"あちら"への道をこじ開けられると、
目を貫かれんがばかりの光量が襲いかかり、鼓膜が破られんばかりの大音が響いた。
目,`゚Д゚目 「ッ!?」
尋常ならざる気配に、ブーンへ槍を向けたランサーは思わず視線を寄せる。
ほんの一秒にも満たない些細な間でしかなかったが、
その些細な間は状況が引っ繰り返るには充分すぎるものであった。
死神がランサーに生まれた停滞を見逃すはずがなかったのだから。
雪風よりもなお凍てついた十六の風が吹き荒ぶ。
放った者の殺意と等しき必殺の風はランサーの首を狙った。
ライダーが引き起こした何ごとかへ目を傾けた彼に、気付けるはずもなく、
鋼鉄の死神は甲冑の最も薄い所へと突き立つ。
中世の日本で作られた金属が穿たれる硬い金属音が響き、
灼熱を帯びた飛沫が散った。確実に撃ち抜いたにも関わらず、
残る15の弾丸がランサーを狙う。
- 386 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:21:54 ID:1oiKVfdg0
しかしランサーは撃たれてもなお健在であった。
鋭い眼光を宿すランサーの面は不可視の死神へ振り向き、
笹の葉を模した槍の切先をそれへと突きつける。
と、同時に火花が散り、巧みに槍を操作するともう一度音が鳴った。
彼の目にはこの死神達が見えていたのだ。
真っ二つに切り裂かれて弾丸は雪の上に叩き伏せられた。
するとランサーは足に力を込めて飛び立つ。
暗き空に漆黒の武者が舞い踊り、追うようにしてアーチャーの弾丸が軌道を変えた。
夜空に光の筋が伸びていきその先をランサーが駆ける。
グリムリーパーバレット
これがアーチャーの宝具“白き死神の魔弾”である。
かつての大戦で150mの距離から1分間に16発の射的に成功した逸話から、
アーチャーの放つ弾丸は必中であるという概念が成立されたため、
宝具として具現化したものだ。
その為、この宝具はランサーに命中するまで追尾し続ける。
ランサーは自慢の俊敏さを活かして逃れるが、
- 387 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:24:35 ID:1oiKVfdg0
目;`゚Д゚目 「ぬぅッ!?」
頭上には時代遅れの機体であるにも関わらず、今世の冬空を我が物顔で飛ぶ、
夥しい魔力の塊となって現れた爆撃機があった。
ランサーが状況をする間もなくハッチが開き、
視線を覆い尽くすほどの黒い塊が現れていくと、
ファーツァーヘレッ
( ゚_ノ゚) 「地獄に落ちろッ!!」
金属の軋む音と共にランサーへ1000kg爆弾が叩き込まれた。
巨大すぎる爆炎はライダーの爆撃機をも飲み込む勢いで猛っていくが、
ライダーはその爆発ですら予め計算し、機体は爆風に載って悠然と羽ばたいていく。
月光に映し出されたその爆撃機はかつての大戦の空を跋扈していた、
第三帝国のものである。札幌の夜空に響き渡る甲高い風切り音は、
“死のサイレン”と仇名される所以だ。
――――ユンカース Ju-87
通称ストゥーカと呼ばれるこの機体は数多くの空のエースを輩出し、
ライダーもまたそのエース達の一人なのだ。
それも、大戦では比類なきほど戦車を撃破してきたスコア故に、
“破壊王”とまで恐れられた名パイロットだ。
ライダーが一度飛び立った以上、もはや誰も止めることなど出来ぬであろう。
- 388 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:26:39 ID:1oiKVfdg0
火の玉となって落下していくランサーを見下ろすライダーは険しい、
油断のない瞳で敵の撃破を見届けていく。
更に止めを刺さんとアーチャーの魔弾が突きたち、
地面に激突していくのをアーチャーもまた氷のような目で確認した。
が、しかし、次の瞬間には両者とも目を見張ることとなる。
目,`゚Д゚目 「笑止」
爆撃を、弾丸をものともせずにランサーは受身を取ってみせたのだ。
その鎧には焼け焦げた跡や何かが擦れたような跡が残ってはいるが、
ランサー自身は一切の傷を追ってはおらず、血の一滴たりとも流されてはいない。
(<`十´> 「おかしいのは貴様の方だ……」
全くの無傷である。
(;゚_ノ゚) 「ちっ! マスター!!」
流石に虚を突かれたようでライダーが叫ぶ。
ξ;゚听)ξ 「これ! どうすればいいのよ!!」
(;゚_ノ゚) 「十字に合わせてトリガーを引けばいい!!」
複座に乗ったマスターは初めて乗る爆撃機に戸惑っているようで、
それも承知の上だったのだが、まさか後方の機関銃を使用するとはライダーは思いもせず、
ツンは土壇場で初めて銃を撃つ羽目になってしまった。
- 389 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:28:24 ID:1oiKVfdg0
魔力の篭った弾丸を暴風雨の如く乱れ撃ちにするツン。
(;^ω^) 「おぉーんッ!?」
照準もデタラメで、流れ弾がブーンの足元に命中し死に物狂いで逃げる羽目になった。
高空から降り注ぐ弾が公園を蜂の巣にしていく。
地面に命中した弾が雪を続々と大量に散らせて粉塵となり、
ライダーにもツンにも公園の状況を窺えなくなってしまう。
(;゚_ノ゚) 「この劣等人種め! 粉塵でランサーが見えん!!」
公園は局所的な吹雪が訪れているのではないかと言うほどの雪に覆われた。
それをもたらしているのはツンの放つ機銃弾なのであるが、
彼女は敵を倒さんと躍起になってトリガーから指を離そうとはしない。
攻撃側からも見通すことが出来ないほどの銀幕の中、
アーチャーは某かの光を発見する。
謎の光は連続して散っていき、耳が馬鹿になるほどの銃声の中で音を混じらせる。
硬い、金属質な音だ。
アーチャーはそれをこの騒音を苦ともせずに聞き取っていた。
ストゥーカの弾が切れたのか、唐突に銃弾の嵐が止む。
散っていた大雪が粉雪となって消えていき、光と金属音の発生源が姿を現す。
黒き鎧に、鹿の角をあしらった兜を被った武者姿が槍を乱舞させていた。
その周辺には無数の金色の欠片が、まるで武者には近寄れないかのように転がっている。
- 390 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:32:36 ID:1oiKVfdg0
目,`゚Д゚目 「これで終いに御座るか?」
漆黒の武者が、ランサーが槍を構え直して声を発した。
先程の一体何発放たれたとも知れぬ弾丸を自分へ命中するものだけを見切り、
その全てを切り払って弾かれた破片が、周囲に転がる金属片だったのだ。
何という槍捌きか。
この槍捌きこそ戦国の世を生きてきた武士が技術である。
世界に名だたるランサークラスの英霊達の中でもその実力は非凡であり、
綺羅星の如く輝くほどだ。
彼の強さを前にして己自身も英霊であるに関わらず、
ライダーとアーチャーは息を飲んでいた。
高高度からでも、遠距離からでもその威圧感は肌を焼くほど苛烈である。
第二次大戦で活躍した両者と言えども、
肉眼で“武者”というものを初めて目にしたからだ。
鎧兜で戦う蛮人など歯牙にもかける必要はないなどと、
20世紀を生きていた彼らは聖杯戦争に望む以前はタカをくくっていたのだが、
その評価は妥当ではなかったと思わざるを得ない。
槍術の究極系が、そこにはあったのだから。
- 391 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:34:15 ID:1oiKVfdg0
まさに神武と言えよう。
ランサーが構えた槍の切っ先から放たれる純白の輝きが、
この場にいた全員の脳裏にそんな言葉を浮かばせる。
目,`゚Д゚目 「では――――」
( ゚_ノ゚) 「ッ!」
(<`十´> 「……」
ライダーがぎらりとブーンを見据え、槍を向けていく。
(;^ω^) 「おっ……」
雪原の上で尻餅を突いていたブーンは立ち上がろうともせず、
ただランサーに視線を釘付けにされていた。
ランサーの次なる行動にサーヴァント二騎が身を強ばらせ――――
- 392 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:37:41 ID:1oiKVfdg0
目,`゚Д゚目 「――――ぬぅ、ならば仕方があるまい」
先の言葉を飲み込み、独り言のように呟いたランサーが跳躍の姿勢を取った途端、
(;^ω^) 「おぉっ!?」
ブーンの左足から血の花が咲いた。
(;゚_ノ゚) 「何ッ!?」
ξ;゚听)ξ 「何が起きたのよ!?」
彼に起きた異変に空にいるライダーは何となく察しはついたが、
ツンには姿すら見えず全く理解することができなかった。
(<`十´> 「狙撃か」
この場で事態をよく理解出来たのはランサーを除くとアーチャーだけである。
それどころかアーチャーは狙撃位置とおおよその距離をたったの一発で割り出していたのだ。
モシンナガンの銃口をそちらへと向け、裸眼で望遠していくと姿が見えた。
- 393 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:38:34 ID:1oiKVfdg0
( A )
背格好からして男であろう。
既視感を覚える姿であった。
ほんの僅かな間ではあるがアーチャーにとっては常人の1分ほどにも感じられる。
遠距離の敵へ照準を定める時に溢れ出す脳内麻薬がそんな時間感覚の遅延をもたらすのだ。
――――あれは確か昼間に。
角度、風向き、湿度、その全てが絶好のタイミングであり、
アーチャーは思考をかなぐり捨てて引き金を引いた。
相手が何であろうと、関係はない。あれはただの標的である。
が、しかし。
目,`゚Д゚目 「無礼は承知であるが、君命である。御免!」
ランサーが地を蹴って駆け抜けるが早いか、唐突に濃い煙が辺りを満たしていった。
アーチャーの"照準"に収められていた男の姿も、白煙によって包まれてしまう。
(;<`十´> 「ちっ」
もはやなりふり構わず引き金を引いたアーチャーだったが、
モシンナガンの銃身に火花が弾けて狙いがズレた。
銃声は虚しく響き渡り、弾丸は明後日の方角へと飛んでいってしまう。
- 394 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:39:33 ID:1oiKVfdg0
ぎり、と思わずアーチャーは奥歯を噛んだ。
先手を打たれた屈辱からではない、敵の術中にはまってしまっていたことに、
全てのことが終わってから気づいた己の不甲斐なさ故にである。
敵はずっとこちらを監視し、こちらを全滅させる機会を伺っていたのだ。
ブーンとアーチャー、そしてライダー達をもランサーのマスターは一網打尽にしようとしていた。
あまつさえ非常時の撤退方法まで確保していた。
ランサーは既に霊体化しているのか見えなくなっており、
追跡しようにもマスターであるブーンが負傷してしまった為、
同盟を申し出てきたと言えどもツン達をまだ信頼出来るはずもなく、放置しておくわけにもいかない。
(<`十´> 「貴様が、そうなのか。貴様がランサーのマスターか。
これは……厄介なことになった……が、代償は高くつくぞ」
サーヴァントの武器となり現代兵器では決して傷をつけられなくなった、
愛銃モシンナガンに撃ち込まれ弾かれた弾丸を、雪の中から拾い上げたアーチャーはそう呟いた。
(<`十´> 「7.62……NATO弾……」
敵の使用火器と戦略、ランサーの戦闘能力、
そして、現状の自戦力を冷静に分析し、アーチャーは新たな戦略を組み立てていく。
―――もはや、己が全ての敵マスターを撃退してみせる。
などと大言壮語を吐く余裕は彼に無かった。
(<`十´> (しかし、何故敵は撤退したのだ……?)
- 395 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:40:59 ID:1oiKVfdg0
******
身に纏う白きローブが凍りつくほどの速度で落下するアサシンは腕を伸ばし、
鈍い輝きを放つ仕込み刃が、ギコの喉元へと吸い込まれるかのように飛び出していく。
気配遮断スキルによってアサシンは夜空と同化しており、
ギコから彼の姿を見ることは出来ず、
ただビルの頂上にいるクーだけを睨み、バイクのエンジンを唸らせていた。
一陣の風と化したギコはアサシンにとって火に飛び込んでくる羽虫も同然で、
その命を刈り取るなど熟練した暗殺者である彼にとって赤子の手を捻るほど容易いことだ。
しかし、刹那の間に予想だにもしなかったことが起きた。
それはまず音となってアサシンに伝わり、仕込み刃を通じてきた衝撃が驚愕をもたらす。
ロー・アイアス
(,,゚Д゚) 「熾天覆う七つの円環ッ」
静かに詠唱の声が響き渡り、ギコとアサシンの視線が重なった。
アサシンの瞳孔が見開かれていく。馬鹿な、とでも言いたげな表情で。
|/▼) 「宝具をッ!? 貴様ッ」
七つの花弁の如き盾が一瞬で目前に展開され、
仕込み刀を弾かれたアサシンは呟くが、その先の言葉を次ぐことは出来なかった。
敵の攻撃を瞬時に理解したギコが宝具を展開すると共にバイクの機首を上げ、
アサシンの胴体にタイヤを炸裂させたのだ。
雄叫びをあげるエンジンに力を与えられてタイヤがアサシンの肉体を食んでいく。
- 396 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:43:19 ID:1oiKVfdg0
肉を打つ音が街中を轟いてゆき、胴を衝撃が貫くも、
アサシンの左腕がギコの眼前に突き出される。
(,,゚Д゚) 「ッ!」
直感がギコの身体を突き動かしていた。
ハンドルを振るうが早いかアサシンの右腕から乾いた音が響き、
ギコの左頬を何かが掠めていく。
その何かが通過した後には赤い線が残り、硝煙と血の匂いが鼻腔をくすぐった。
(,,゚Д゚) 「仕込み拳銃とは、小賢しい」
呟き、アクセルを思い切りかけたギコはアサシンを捉えた愛車から手を離していく。
車体を蹴り上げ、宙に飛び上がった彼は、
(,,゚Д゚) 「―――I am the bone of my sword.」
黒白の二刀を作り出しアサシンへ投擲した。
空中へ大型バイクに押し上げられたアサシンの目には、
双刃が映ってはいるが、地に足が着かぬこの状況では身動きが取れない。
そしてその黒白の夫婦剣は更なる驚きをアサシンへ与える。
- 397 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:44:28 ID:1oiKVfdg0
|/▼) (またしても宝具をッ!)
アサシンには理解ができなかった。
彼の魔術の知識では到底追いつけぬ神秘がそこにはあるのだ。
何故、宝具を一介の魔術師如きが所持している?
アサシンは困惑せざるをえない。
宝具とは打ち立てられた伝説から生み出される、
人々の信仰によって宝具足る力を得る英霊と対となるものだ。
故に伝説の担い手でもないただの凡人が宝具を手にしたとて、
その真価を発揮することは出来ず満足に振るうことすら不可能であろう。
宝具を呼び出し、宝具を使用する、この男は一体?
アサシンが理解の及ばない不条理な事態を前に、
己へと迫る二刀の存在など彼にとっては些細な問題にしかすぎなかった。
白いローブに覆われた両腕を広げたアサシンの眼前で、火花が散っていく。
甲高い音と共に黒白の二刀はあらぬ方向へと飛び去った。
ローブの袖から伸びた、二つの仕込み刃によって弾かれたのだ。
難なく二刀を防いだアサシンは間を置かずしてバイクを蹴り上げた。
この上なく邪魔だったのだ。敵へと斬りかかっていくには。
- 398 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:45:21 ID:1oiKVfdg0
彼にとっては大した障害でも無く、大した攻撃でもなかった。
ただ、宝具を次々に繰り出してくるこの魔術師、
ギコの不可解さに思考を奪われ、合理的な解を導き出す時間が欲しかったのだ。
先程の夫婦剣の投擲も何ら危険を及ぼすものではなく、アサシンにとっては二の次であった。
蹴り上げられた赤い車体は持ち主のほうへ落下していき、
高速で迫ってくる愛車へとギコは向かっていった。
疾走し、跳躍する。
自分へと宙より落ちてくるバイクを、足場にして更なる跳躍。
高く高く飛び上がったギコは黒白二刀、干将莫耶を大上段に掲げアサシンを捉えた。
空中に浮かぶアサシンもまた彼を捉えている。
そして、抜き放たれたのは無数の短刀であり、その全てがギコへ切先を向けて殺到した。
ほんの一瞬で投擲された十を超える短刀を干将莫耶でギコは防ぐ。
あまりの速さで短刀が弾かれた為に、
連続して発された金属音が重なってほぼ一つに聞こえた。
- 399 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:46:10 ID:1oiKVfdg0
しかし、それでも左肩と右足に一つずつ短刀は突き立ってしまう。
迸る鮮血にギコは目もくれず、アサシンだけに目をやっていた。
アサシンもこれで仕留められるとは思っていないようで、
ギコから目を離さず、止めを刺すとでも言わんばかりにギコを睨む。
いつの間にか抜き放たれた大振りの両刃剣をアサシンは構え、
両者は渾身の力を込めて剣を振りかぶり、叫んだ。
(#゚Д゚) 「お前と遊んでいる暇はないッ!」(▼\|
互いに、優先するべき敵があった。
その的に比べれば、今己の眼前に立つ敵などただの障害でしかなく、
障害を排除するべく放った剣は激突しあい、街を震わせていく。
- 400 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:47:14 ID:1oiKVfdg0
川 ゚∀゚) 「ははっ」
紅い双眸は血に飢えた肉食獣の物に等しく、それが彼女の行動原理を物語っていた。
食欲を満たすにはまず獲物を仕留める必要がある。
罠を仕掛け、猟犬に追い立てさせ、銃で撃つというのが狩りであるが、
食欲を満たす為という目的を達する点において、
彼女が行おうとしていることは狩りに他ならず戦闘などではない。
食料を得るべく魔術という道具を用い、クーは魔力を最速で練り上げて右手をジョルジュへ向けた。
川 ゚∀゚) 「は?」
右腕は地面を向いたままだ。
掌へ凝縮された魔力は放たれようとしているが、手が動いてはいない。
ふと視線を腕へと落とすと、
川 ゚ -゚) 「なんだこれは」
細く、視認が困難な糸が二つ絡みついていた。
不思議そうに糸の伸びる先をクーが眺めていくと、ジョルジュが映る。
彼はコートの袖から伸びる何かを両手で握りしめており、
それがクーの腕を締め上げるピアノ線であることは明白だった。
- 401 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:54:18 ID:1oiKVfdg0
- _
( ゚∀゚) 「"流体魔術"なら通じねーぞ?」
川 ゚∀゚) 「小癪な!!」
こんな非力なピアノ線など吸血鬼であるクーの怪力にすぐさま引きちぎられてしまうことだろう。
現に彼女はそうしようとしたが、魔術の発動直前であることが災いしてしまった。
光にも匹敵する魔力の雷が足場を破壊してしまったのだ。
容易にコンクリートを溶解させて大穴は広がり、音を立てて屋根が崩れ落ちていく。
その上に立つクーもまた溶解液と化したコンクリ片と共に落下していった。
七階建てビルの屋上から放たれた魔の雷は、最下層に到達してなお勢いを衰えさせなかったようで、
クーの落ちていった穴はまるで奈落の底まで続いているようにジョルジュには感じられた。
_
( ゚∀゚) (やはり真祖には遠く及ばねえ。スペックは匹敵するが、死徒共と変わりやしねえ)
数分ほどの戦闘を経てジョルジュはそう結論づける。
死徒、グールの上位に立つ存在、真祖。
他者の血液を得ることで悠久の時を生きる存在。
人の一生を凌駕する時間を以て身につけたその魔術は人知を超えた域に達する。
到底人間一人で手におえる相手ではないが、クーはまだその域には達してはいない。
真祖ほどではないが、グールほど劣ってもいない。
だからこそ、そこにジョルジュが付け入る隙があった。
そして彼女の扱う魔術を知っているからこそ裏をかけた。
- 402 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:55:25 ID:1oiKVfdg0
勝てる。
その確信がジョルジュにはあった。
_
( ゚∀゚) 「死んでもらうぞ化物。異教は排斥されるべきなんだよ」
黒鍵を再び構えたジョルジュは袖から伸びるピアノ線を辿り、
クーを追跡せんと焼き切られた穴へと向かって駆け出すが、腕が突然引っ張られた。
この強引で暴力的な力は明らかにクーのものだ。
_
(;゚∀゚) 「強化の魔術を使ってこれかよ。馬鹿げてやがる!」
万力で腕を押し潰されているのではないかと錯覚するほどの痛みに、
ジョルジュは素早くピアノ線を左手の黒鍵で断ち切ろうとしたが、
右腕に引っ張られて地面へと叩きつけられた為それは叶わなかった。
強化を施された肉体に大したダメージは被らなかったが、
地に這いつくばっているジョルジュの眼前には、より危険なものが広がることとなる。
川 ゚∀゚) 「ははっ」
クーが、ジョルジュのピアノ線を引っ張り上げることで屋上へと舞い戻ってきたのだ。
左手には莫大な量の魔力が込められており、それが今まさに放たれようと輝きを放っていた。
剣を複製するわけでもなく炎を巻き起こすでもなく、ただ単純に魔力に指向性を持たせて放つ術式。
魔力放出によってジョルジュは貫かれようとしていた。
瞬きする間もなく発動するそれを避ける術は彼にはない。
- 403 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:57:49 ID:1oiKVfdg0
- _
(;゚∀゚) 「ホントに馬鹿げてやがるぜ」
ならばと、せめて致命傷を避けるべく身を捩らせて覚悟を決めるも、杞憂に終わった。
クーの左腕の肉と血が炸裂し、収束されていた魔力があらぬ方角へと向けて放たれたのだ。
夜空を一筋の雷光が照らしていき、ほんの少し遅れて銃声が二人の耳朶を打っていく。
続けざまにジョルジュの耳へある声が届いた。
(⊆、⊇トソン 『I(インビジブル)2、支援します。
速やかにランデブーポイントへ移動してください』
魔術を用いた一種のテレパシーによって乗せられた、トソンの声だ。
街中に放った使い魔から異変を感じ取ったのか、ジョルジュの帰還の遅れを察してか、
インビジブル1の傭兵達は既に戦闘態勢をとってクーを包囲しているようだった。
その証拠に、クーの目からジョルジュを逃れさせる為ビル屋上へスモークが散布されている。
狙撃とほぼ同時に白リン手榴弾を放っていたのだろう。
_
(;゚∀゚) 『I2了解。悪い、助かった。その後のプランは?』
念波で交信しながらジョルジュはピアノ線を切り落とし、駆け出していく。
戦闘中に咄嗟に思いついた、黒鍵と右腕にピアノ線を巻きつけ、
"流体魔術"を逆に利用してクーを縛り付けるという戦法は、発想は良かったが失策であった、
とジョルジュは肉に食い込んだそれを切り落としながら悔やんだ。
- 404 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:59:04 ID:1oiKVfdg0
- _
(;゚∀゚) 「ちっ、アサシンの野郎は何してやがんだ!」
クーを挟撃し各個撃破に当たっていれば、こんな事態にはならなかっただろう。
ジョルジュ一人には荷が重すぎる役目であったのだ。
アサシンはサーヴァントであるが故にギコとクーの戦闘力を過小評価しすぎ、
連携もとれずギコも討ててはいないという体たらくである。
慢心と言われても弁解はできまい。
そのツケを一挙に回されたジョルジュはたまったものではない。
脱兎のごとく逃走する醜態を晒す事態に、舌打ちをついた。
だが、"煙幕をはられ狙撃を受けている"というだけの理由で、逃がすクーでもない。
(⊆、⊇トソン 「目標、左半身を仰け反らせ落下。ビル屋上へ着地までおよそ4秒。
ヘッドショットエイム――――」
_、_
( ,_ノ◎) 「ヘッドショットエイム」
スポッターを務めるトソンの傍ら、L96A1構えた澁澤がクーに狙いを定め、
引き金にかけた指へ力をこめたその時、
(⊆、⊇;トソン 「―――ッ!?」
トソンの目に異形が飛び込んできた。異形としか形容の出来なかった。
トソンもとっさにはそれが何であるか理解が追いつかず、ただ呆然とする他なかった。
クーの銃撃によって失われた肘から無数の黒く蠢く物が這い出てきたのだ。
- 405 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:59:57 ID:1oiKVfdg0
蟲である。
鎧のような甲殻で身を多い、鞭のごときしなやかさを誇る無数の触手を伸ばした“魂蟲”が、
女体より這い出てくる姿はトソンに生理的嫌悪をもたらし、それを認知することを心が拒んだ。
魂蟲の一部はそのままクーの血肉へとなっていき、腕を形成していく。
余った蟲達は甲殻を断ち割り、六枚羽根を広げて煙が立ち込める夜空を舞う。
群をなし、ジョルジュを発見するべく街中へと広がっていった蟲達を見て、
ようやっとトソンは己を取り戻したが、澁澤はとっくに銃弾を放っていた。
トソンが気付いた時にはもうクーの頭部から血飛沫が飛び散っており、命中したのだと彼は確信する。
(⊆、⊇;トソン 「ヘッドショットヒッ―――いえッ!」
澁澤が予想していた言葉は遮られ、代わりに起こるはずのなかった事態がスコープに映っていた。
弾丸がクーの眼前に現れた魂蟲が盾となり、蟲達の血飛沫が散ったのだ。
雪のように白い肌は無傷で、赤き瞳が澁澤とトソンを睨む。
川 ゚ -゚) 「そんなオモチャじゃ私は殺せやしない」
次の瞬間には、周囲に青白い光と蟲を纏わせたクーが立ちはだかっていた。
欠損した部位を黒々とした蟲が蠢き合い、それぞれが結集して一つの生物となったような奇妙な光景。
たまらずトソンは足に装着していたホルスターからハンドガンを抜き、乱射した。
- 406 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 01:01:25 ID:1oiKVfdg0
刹那の間に瞬いた銃火三つに遅れ、三つの虚しい金属音と火花が散っていく。
魂蟲達の甲殻がトソンの持つUSPの9mm弾を弾いたのだ。
本来、人間の体内に潜り込ませその者の生殺与奪を得、
魔術回路として与えられるこの蟲はこれほどの硬度を持たないのだが、
クーの吸血鬼としての体質と魔力を貪ることにより、
今や魂蟲達はより獰猛により狩猟に適した形に進化していったのだ。
その結果甲触手は剣の如く鋭く、甲殻は鎧の如く発達し、
拳銃弾程度ではもはや彼らは止められなくなった。
次いで、触手が鉄のような冷たい輝きを放ち、クーの腕から一斉にトソンへと蟲達が飛び立っていく。
_、_
( ;_ノ` )「ちっ!」
群をなして殺到する蟲達へ渋澤が冷静に手榴弾のピンを引き抜いて投げ込むも、
蟲の群れに飲まれた手榴弾は爆発する直前にズタズタに切り裂かれ、
その威力を発揮することはなかった。
小さな爆発が黒い塊となった蟲達の中で沸き起こるも、勢いを彼らが衰えさせることはなく、
トソン達は咄嗟に身を伏せた。這い蹲る形となった彼女らに蟲達が容赦するはずもなく、
降伏を示した獲物達を貪らんとするだけだ。
蟲達が羽音を一層耳障りに響かせ加速した直後、何かが飛来する音がした間もなく大爆発が巻き起こった。
火炎に飲まれた虫たちは六枚羽を燃え滾らせてぼとりと落ちていき、
爆発を避けた虫たちも鉄片によってズタズタに切り裂かれてしまった。
鮮血と炎の紅き乱舞がクーの目前で繰り広げられ、彼女は宙に尾を引いた白煙を辿っていく。
- 407 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 01:02:29 ID:1oiKVfdg0
川 ゚ -゚) 「またエサが増えたか。捕食出来ず少々焦れている、逃げるなよ?」
その先にはビルがあり、ちょうどこちらを見通せる階層の窓が割られているが、誰もいない。
既に、そこには。
('、`*川 「逃げるですって? 随分な口を聞くようになったじゃない。
逃げるのは貴女のほうよ、"クーちゃん"。
既に貴女は私達に囲まれ銃口に晒されている―――"逃げるなよ"?」
クーの目の前に彼女はいた。
炎の中に"隠れ"潜んでじっと隙を伺っていたのだ、ペニサスは。
気付いた時にはクーの身体は二つの黒鍵によって切り裂かれていた。
川 ゚ -゚) 「クー……ちゃん? 誰だ、貴様は?」
しかし両腕を切り落とされてなお、彼女は余裕を崩さない。
両腕を失うよりも、まるで己の名を知るこの女のほうが重大であるかというように。
('、`*川 「……何も、何も覚えてないのね。なら、何も思い出せぬままに死んで逝きなさい」
突如として幾重もの銃声が響き渡る。まるで一つの音のように感じられるほどそれは同時であった。
そしてクーの身体中に風穴が無数に空いていき蜂の巣となってしまう。
川.゚。-・゚o) 「ナ……ニ……ヲ……? ペ――――」
喉を撃ち抜かれた彼女の声は言葉にはならず闇へと消えていくが、
依然倒れるということはせず平然と立ち尽くしている。
だが、その目からは以前の貪欲な肉食獣の輝きが失われてしまっていた。
- 408 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 01:05:01 ID:1oiKVfdg0
かのように思われた。
四方八方より殺到する弾雨によりズタズタに引き裂かれたクーは、
肉片へと変貌していったが、いまだ銃火が止むことはなかった。
だが、吹きす荒ぶ弾雨の中彼女の砕けた足が、胴から溢れた臓物が、
弾け飛んだ腕が、穴だらけの顔が再生していき、立ち上がる。
歯をギリ、と噛み締めたクーは口から血反吐を漏らし、キッとペニサスを睨みつけ―――
川#゚ -゚) 「バーサーカー!!」
令呪を用いて己のサーヴァントを呼びつけた。
雷鳴と白光が辺りを包み込み、一瞬後に闇が現れる。
夜と一体化する、漆黒の巨躯と鎧。
浮かび上がる面は、怒り一色に染まった獰猛な獣のモノ。
以#。益゚以 「―――――――――ッ!!」
召喚と同時に振り上げられる邪悪な剣が、ペニサスを捉える。
慌てて仲間たちが銃撃を浴びせるもバーサーカーにそんなものは効かず、
虚しく火花を散らしていくのみだ。
- 409 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 01:06:42 ID:1oiKVfdg0
- 川 ゚ -゚) 「雑魚はお前にくれてやる。私は逃げた奴を追おう」
ペニサスに刃が振り下ろされるのを見届けもせず、
クーは身体中に青白い魔力を纏わせてその場を去っていく。
魔力をジェット噴射のように放出することで高速移動を行う、魔力放出を応用した移動法だ。
('、`*川 「時間を掛けすぎたようね……」
諦観の篭った瞳でバーサーカーを見届けるペニサスだが、
('、`*川 「"貴女”も、"私たち"も」
その諦めは全く別の次元へと向けられているようだった。
バーサーカーの凶刃が彼女の身に触れることはなく、
圧し切られた刀身が宙を舞った。
刹那、清澄な空を切り裂く音色がたつ。
刃は鏡のように曇りがなく、表がペニサスの顔を、裏がバーサーカーの紅き瞳を映し出した。
そしてその刃を備えた槍を構える者もまた、闇を纏ったかのような漆黒の鎧を身に包んでいた。
鹿角の兜を被った男は黒き巨人と対峙し、闘気が滾る眼で敵を貫く。
目,`゚Д゚目 「槍が英霊ランサー! 参上仕った!!」
構えた槍は切先を敵へと向けた。無論、己の敵へとだ。
連戦にも関わらずランサーの闘志は衰えることなく疲労もない。
いや、それどころか益々盛んである。
不完全燃焼で終えた先の戦いの凝りを、晴らさんかの如く彼は吠えた。
- 410 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 01:09:15 ID:1oiKVfdg0
ランサーと対峙するバーサーカーは新たに現れた獲物に歓喜し、
ただ叩き潰さんがため力の限り剣を振り払う。
腹から先が折れたその刀身は凄まじい風切り音を立て、虚空を裂いた。
手応えが感じられず、バーサーカーは本能的に上を見た。
ランサーはそこにいた。
槍を片手に持ち替え、もう片方の手でペニサスを抱えた彼は、
バーサーカーの顔面を脚絆で踏みつけて再び跳躍する。
理性など残っていないバーサーカーはその程度の痛みでは怯みもせず、
それどころか踏みつけられた衝撃を利用し、
振り返りざまに黒剣を叩きつけようとした。
しかし、折れた刀身ではもはや届かずランサーの具足を掠めることすら出来ない。
逃げる獲物に怒り、吠え、バーサーカーは屋上から飛び降りたランサーを追う。
その後ろ姿を息を飲んでトソン達には眺めることしかできなかった。
優先順位だ。トソン達はバーサーカーにとっては脅威に値せず、目もくれる必要はない。
いや、もしかしたら他のサーヴァントを倒すという目的を以て召喚された英霊としての、
意思がこの狂ったサーヴァントにほんの僅かにでも残っていたのだろうか。
- 411 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 01:09:55 ID:1oiKVfdg0
着地したランサーはペニサスを下ろし、
('、`*川 「私達は引き続きバーサーカーのマスターを狙うわ。ランサー、貴方は―――」
目,`゚Д゚目 「ペニサス、主は撤退をお望みである。引くのだ」
意気揚々と何か焦りのようなものを見せる彼女に、そう告げた。
('、`*川 「相手は死徒だと、ボスには伝えたはずよ?
まだ、不完全な吸血鬼。今なら充分、仕留められると教えたはず」
目,`゚Д゚目 「一体どれほどの死者を出せばその者を討てる?
主は損害を望んでいない。こちらの存在が他のマスター共に知れ渡ることも、現段階では」
目,`゚Д゚目 「各自の安全を確保し情報収集に努めよ、後は俺に任せろ」
目,`゚Д゚目 「との言伝を拙者は賜った。蛮勇は匹夫のすることぞペニサスよ」
"インビジブルワン"
('、`*川 「……ボスは、I1は今どこに?」
苦虫を噛み潰したような顔をして、去り際にペニサスが問う。
- 412 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 01:10:37 ID:1oiKVfdg0
目,`-Д-目 「見えぬが、既に到着しておられる」
( 、*川 「そう……“Holy shit”」
槍を構え直し、気を練り上げたランサーは上空を向く。
以#。益゚以 「――――――――――ッ!!」
天から響き渡る獣の雄叫び。
月夜に浮かび上がる黒き巨躯が、大上段に折れた剣を構えて降りかかる。
未熟な隠匿の魔術によって姿が消えていくペニサスに目をやらず、
ただランサーはそちらを一直線に向き、突きを放った。
刃と刃が激突し、衝撃波が周囲に轟いていく。
僅かの遅れで、鼓膜を突き破るほどの金属音が街中を震わせていった。
聖杯戦争開始二日目、第二夜の終局の始まりである。
- 413 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 01:11:26 ID:1oiKVfdg0
******
闇夜に咲く火花。火花に次ぐ火花。
それらは連続して咲き乱れる。
次いで音が来る。硬い、金属同士のぶつかり合う音だ。
電灯の薄明かりのもとで彼らの一帯だけまるで照明が当てられてるかのように、
二人の男は絶え間無い剣戟を繰り広げていた。
|/▼) 「ッ!」
翻るは両刃の剣。鉛色の刃が男の首を狙う。
風を薙ぎすすむ刃を相手のが白の短剣で受け止める。
(,,゚Д゚) 「シィッ!!」
息吐く暇なしに対となる黒の短剣で白ローブの男の腕を切りつける。
が、ローブの袖を覆う篭手から仕込み刃が伸びて、短剣を凌いだ。
その隙に片手で構えた剣を白ローブの男が一閃。
今度は黒白双刃を交差させて男が鉛色の両刃を受け止め、そのまま押し込めていく。
|/▼) 「ギコよ、無謀だぞ。サーヴァントに身体能力で敵うとでも?」
白ローブの男、アサシンはフードで見えなくなった顔を苦笑させ、
両刃剣を受け止められたにも関わらず落ち着いて言い放つ。
- 414 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 01:12:29 ID:1oiKVfdg0
(,,゚Д゚) 「なに……?」
ギコは驚きを隠そうともしなかったが、全身に篭った力を緩めはしなかった。
いや、それどころか強化の魔術を用いて益々力を強めていった。
無論ギコが驚いたのはそんなことではない。
アサシンが、彼の名を知っていたことが全くの予想外であったのだ。
(,,゚Д゚) 「何故、貴様が俺の名を?」
両者の力はなんと拮抗した。
三つの剣が停滞し、そのまま二人は凌ぎを削り合う。
四つの瞳が睨みを効かせ、
|/▼) 「わかるさ、シィは私のマスターだからな」
(,,゚Д゚) 「シィの? シィが俺の命を狙うとでも?」
|/▼) 「お前の命を狙うのはこの私で、もはやシィはこの世にはいない」
(,,゚Д゚) 「……貴様が殺ったのか?」
|/▼) 「殺ったのは穏田ドクオさ」
(,,゚Д゚) 「ほう……それで、それを伝えて貴様は何がしたい?」
アサシンはフードに隠れた顔を笑みで満たし、その場を飛び退った。
招かれざる客が現れ、アサシンに斬りかかったのだ。
- 415 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 01:13:22 ID:1oiKVfdg0
<人リ゚‐゚リ「……」
現れたのは甲冑を装備した金髪の少女。
セイバーである。
セイバーはギコを護るかのように立ちはだかり、剣を構えた。
最も優れたサーヴァント、セイバー。
アサシンが真っ向から対峙して敵うような相手ではなく、
その実力の差を身に纏う魔力の高さから彼は察していた。
故に彼は逃走を選択する。彼がもし、一人であったのならば。
だが彼は一人ではない。それを今知るのはこの場でアサシンのみであった。
同じ気配遮断の能力を持つ、"彼"をここで認識できるのはアサシンだけだ。
そして彼はいる。ギコの背後にいる。
(#'A`) 「ギコォォォォォォォォォォォォォ!!」
|/▼) 「ッ!?」
莫大な魔力を発露させて、ドクオは姿を現した。
(,,#゚Д゚) 「ドクオッ!!」
憤怒の表情をしたギコは、彼へと振り向き咆哮を轟かせていく。
積もりに積もった恨みと怒りを、数年ぶりの再会を果たした宿敵へ剣と共にぶつけていった。
- 416 名前:◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 01:17:02 ID:1oiKVfdg0
第七話「"holy――――shit"」乱世エロイカpart5
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