- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/11(土) 14:29:24.18 ID:4rNE69sLO
Final Case:( ^ω^)
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/11(土) 14:31:58.03 ID:4rNE69sLO
- 一輪の薔薇が咲いていた。
真っ黒なアスファルトの上に孤高に咲くそれは、周囲に鉄の匂いを撒き散らせながら、力強く、そして哀しげに、ただそこに在った。
「…………」
種は恋人。
咲かせたのは、僕。
「………」
知覚することは出来ても理解することが出来ない。
頭が必死に拒絶する。理解することから必死に逃げる。
僕の心に住まう恐ろしい何かが、じわりじわりと這い出ててくる。
僕の心の一番柔らかい場所に巻き付き、ただただこの身を締め付ける。
僕の身体をギシギシと締め付け、そしてそいつは僕にこう言うんだ。恐ろしく尖った目で僕を睨み据え、侮蔑に満ちた口振りで何度も何度も、僕に嘘を押しつける。
僕が何度違うと叫んでも、ボクはその度口角を釣り上げ妖しく笑う。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/11(土) 14:35:05.42 ID:4rNE69sLO
- “お前だ、お前が彼女を殺した”
“ちがう!!僕じゃない!!”
“嘘を吐くな、じゃあお前はなぜ今苦しんでいる。お前は彼女を殺したことを悔いている、だから苦しい”
“違う!!急に運動をして……そう、だから疲れただけだ!!”
“じゃあお前はなぜ今震えている”
“それは……全力で走ったから膝が笑っているだけだ!!”
“じゃあお前はなぜ今泣いている”
“違う!!違うんだ!!”
“違わない、何も違わない。お前の考えていることは全てわかる。ボクにはわかる。なぜならボクはお前で、お前はボクだから、お前の考えている事はボクが考えている事”
“嘘を吐くな!!”
“そうだ、ボクは嘘つきだ。お前と同じ、な。
なら、どうしてお前の隣にいるはずの彼女がいない”
“あ……あぅ……”
それを見たボクの目線は、まるで舞落ちる枯葉のようにヒラヒラと、そして不規則に宙を泳いだ。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/11(土) 14:38:43.96 ID:4rNE69sLO
- “なんだ、答えられないのか”
“………”
“……なら、最後の質問だ”
――“お 前 の 右 手 に あ る モ ノ は な ん だ”――
ボクが言う。僕を責めるように、諸悪の根源である僕を卑下するように、ボクの目線が僕を捕らえて離さない。
そして彼は彼自身をも怨んでいる。
彼の目に光はない。今ここで自分が生き続けていることが、一生の生き恥だとばかりに。
彼は口を堅く閉じる。いや、堅くなんて生易しいものではない。
彼の唇が裂けた。尖った犬歯がぷっくりとふくれた彼の唇肉に深々と突き立てられている。
これ以上は喋らないという強固な意志を自らの歯に乗せて、自分の口を食い破ろうと力を込める。
時間が止まったように思えた。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/11(土) 14:43:32.83 ID:4rNE69sLO
- でも違う、今この瞬間にも僕の心臓は動きを止めない。
生きるために脈を刻む。
必死に僕の身体は働いている。
僕という形を保つために。
やめてくれ、どうしてそんな恥ずかしい事をする。
何故僕は生に執着する。
そんな恥ずかしい事はやめてくれ。
僕の前に立ちふさがった僕は笑っていた。
ニィ、そう僕に笑ってみせた。心底嬉しそうな笑みだ。まるで自分の罪の意識が少し軽くなったような。
今まで彼の下唇だったものがぽとりと音を立てて落ちた。
彼の歯はどこにも見当たらない。
瞳に映る闇はどんどん酷なっていく。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/11(土) 14:45:38.21 ID:4rNE69sLO
―――嗚呼、彼はもうなにも見えないのか
彼女と見たあの日の景色を、もう二度と彼の目は映さないだろう。
視界が暗転する。
そうか、彼は僕なんだから。僕は彼じゃないか。
―――嗚呼、僕はもう何も見えない
- 18 名前:>>16 諸事情により中止になりました 投稿日:2009/07/11(土) 14:50:12.47 ID:4rNE69sLO
- あの時の感覚が蘇る。
彼女の軽い身体。
叩けば砕け、捻れば折れてしまうような、可細い身体。
幾度も触れた彼女の身体。何の抵抗もなく入っていく鋭利な刃。
あの感触が離れない。
彼女の身体に、するすると入っていく。
一体、彼女はどういう気持ちで僕の凶刃を受け入れ、僕の凶行を見ていたのだろう。
見るのも怖かった。
だから目を瞑っていた。
その時、彼女は僕に何かを呟いていた。
それがどういう言葉だったのか、僕にはわからない。
ただ、確かに聞いたのだ。
崩れゆく彼女の身体から、僕に発せられた最期の言葉を。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/11(土) 14:55:36.45 ID:4rNE69sLO
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
彼女とはもう付き合って五年になる。
一目惚れだった。
君に聞けば「もう忘れたわ」と言ってとぼけるかもしれない。
でも僕は鮮明に覚えているよ。
君のあの時の表情は僕の心のアルバムにしっかりと焼き付けられている。
高校に入ってすぐ、僕は君を見かけた。その時は名前すらわからなかったけど。
でも、衝撃的だった。
朝靄立ちこめる校庭の真ん中で一人たたずむ君は、神秘的で、どこか頼りなく、そして美しかった。
そのまま君と僕は何の関わりも、まして会話すらなく、高校二年生になった。
三月。冬の寒気が居座り続けた寒い日。
体育館の前に張られていたクラス分表の前で、僕は小さくガッツポーズした。
だって僕の憧れていた君の名前が、同じ列にあったんだから。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/11(土) 14:59:59.88 ID:4rNE69sLO
- すぐさまドクオとショボンに報告したよ。
「やったお!!ついにツンさんと同じクラスになれたお!!」
「おー、良かったじゃねーかw」
「頑張りなよ」
二人は自分の事のように喜んでくれた。
二人とも無謀だとか、無理だとか、そんな言葉は一言も言わなかった。
君は自分が地味だと何度も自嘲していたね。
でも、決してそんな事はなかった。
入学してから告白された回数は両手じゃ足りない。
風の噂できいただけだから、実際手紙等を含めるともっと多かったんだろうね。
それを全て断った君は、いやが上に目立っていた。
でも、僕は諦めなかった。
何度も何度もチャンスを窺って君に話し掛けた。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/11(土) 15:03:46.93 ID:4rNE69sLO
- 何度も何度もチャンスを窺って君に話し掛けた。
最初君は「別に」だとか「そう」としか返事してくれないものだから、僕はずっと落ち込んでいたんだよ。
でも君の態度はまったく変わらず、誰に対しても長い言葉を話すことはなかった。
そして君の周囲からは誰もいなくなった。
だからこそ、僕は諦めなかった。
もし君が、僕以外の人に違った態度をとっていたら、きっと僕は諦められた。
でも、違った。
だから諦めなかった。諦められなかった。
もしかしたら、君が振り向いてくれるんじゃないか、そんな希望が尽きなかった。
そんな事を言ったら、きっと君は笑うだろうね。
“私にそんな価値はないわ”って。いかにも自嘲しながら。
でもね、一つだけ。一つだけ、僕は誇りを持って言える。
僕は、君を一人にしたくなかった。
君に孤独を感じてほしくなかったんだ。
きっと僕が居なくなれば、君はクラスの浮いた奴ってレッテルを貼られていただろう。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/11(土) 15:05:28.80 ID:4rNE69sLO
- でもね、勘違いしないで欲しいんだ。
別に、僕に君が救えるなんて、そんな大それた事を考えていたわけじゃない。
ただ、そうしたかったんだ。
僕のエゴの為に。
僕は歩いていた。
あそこには、もう一秒たりとも居たくなかったから。
僕は逃げた。あの場所から。あの事実から。
ねぇ、ツン。君は許してくれる?僕のことを。
君を――――しまった、僕のことを。
人通りがめっきり少なくなった、というか誰も居ない商店街のアーケードを、ただひたすらに歩いていた。
ふと、立ち止まってみると、もう一本、凄く細い脇道があった。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/11(土) 15:09:38.94 ID:4rNE69sLO
- ここが僕の分岐点。
僕は迷わず脇道を選んだ。
こんな大通りのど真ん中を歩けるような人間ではない。
そう思ったから。
『イヒヒヒ……イヒヒヒひひ』
暫く歩いていると、酷く気分を害する、男の引きつった笑い声が聞こえてきた。
なんて事はない。
今日はこの星最期の日。
所謂、無礼講って奴だ。
人を殺しても誰も咎めない。
人を犯しても誰も咎めない。
だから、僕は見ないフリをするつもりだった。
その光景を目の当たりにするまでは。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/11(土) 15:11:48.88 ID:4rNE69sLO
ζ(゚ー゚*ζ
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/11(土) 15:18:33.68 ID:4rNE69sLO
- そっくりだった。
他人の空似だとか、遠い親戚だとか、そんなチャチなもんじゃ断じてない。
恐ろしいくらい似ていた。
そして、その少女が今
『ひゃはは、ひゃははは、ははは』
襲われていた。
考えてなどいなかった。
ただ、体が動いた。
右手を振り上げ、今、少女に向け狂った目を向ける男にソレを突き立てる。
ただ、それだけの事。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/11(土) 15:21:29.17 ID:4rNE69sLO
- 男はあっけなく目を剥いて、仰向けに倒れた。
首筋を刺したので、思いの外、いや、想像以上の血が噴き出た。
―――あぁ、まるで噴水だな
沸き上がる血潮が、僕と彼女を真っ赤に染めた。
彼女は、ただ笑っていた。
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