('、`*川死神と手を繋いで

123 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 00:04:48 ID:STfrPGW20

少女はたくさんの貢ぎ物に埋もれながら天を仰いでいた。
果物や野菜、ワインボトルや魚の干物などの食べ物から、
煌びやかな装飾品まで用意されていた。


ただ少女の顔には絶望の色しか無く、
生気の無い表情には、光が埋もれた黒目がぽっかりと二つ空いていた。


('、`*川「楽しい? それ」


ペニサスが問うと、地面に寝転がったまま空を向いていた少女が、口を開いた。

消え入りそうな声で、殺して、とだけ言った。

125 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 00:05:41 ID:STfrPGW20





第四話「最果ての少女」

126 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 00:09:53 ID:STfrPGW20

lw´‐ _‐ノv「すまんね。私が殺せるのはペニサスだけなんだ」

('、`*川「そんな所で寝てたら風邪引くわよ」

(#゚;;-゚)「どうでもいい。そんなの」

泥だらけのボロきれを纏った少女は、投げやりな言葉でペニサスに応える。

陽は高く、突き刺さるような太陽光が肌を焦がした。
少女の黒く汚れた顔に、ぷつぷつと汗の玉が浮かんでいるのが見える。


ペニサスは貢ぎ物のビルマを手に取り、一口かじった。
果汁には熱が籠もっていて、爽快な味とは言えなかったが、数日ぶりの糖分は身にしみる味わいがした。


(#゚;;-゚)「お姉さん、誰?」

127 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 00:13:54 ID:STfrPGW20

少女は相変わらず、大の字で寝転がったままペニサスを見ようとしない。


('、`*川「旅人よ。ペニサス」

(#゚;;-゚)「ペニサス?」

('、`*川「私の名前」

(#゚;;-゚)「私は、でぃ」

('、`*川「いくつ?」

(#゚;;-゚)「十五」

ペニサスはでぃの傍に腰を下ろし、囓り痕のあるビルマに再度、大口を開けて噛みついた。

貢ぎ物は全て木の板の上に置かれており、木の枝で作られた神興樹が備えられていることから、
これがある種の儀式の様相を呈していることがわかる。

128 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 00:17:43 ID:STfrPGW20

(#゚;;-゚)「一人で旅をしているの?」

('、`*川「ええ」

lw´‐ _‐ノv「足が遅すぎるから見捨てたやつが、一人いたけどね」

('、`*川「見捨てた訳じゃないし、仲間でもなかったわ」

(#゚;;-゚)「え?」

その時初めて少女が振り向き、ペニサスと目を合わせた。

('、`*川「食べる?」

ビルマを差し出すと、幾ばくか悩むように目を迷わせた後、でぃがのそのそと半身を起こした。
背中は泥だらけで、髪も茶色くなっていたが、でぃは気にしている様子はなく、払う素振りも見せなかった。

130 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 00:21:34 ID:STfrPGW20




夕方近くになって、ようやく日差しの強さも収まってきた。

まばらに生えた周りの木々から、影が真っ直ぐ伸び、
貢ぎ物の中心で向かい合うペニサスたちを囲んでいた。


小高い丘の上なので、時折吹き抜ける風が髪をさらさらと泳がせる。
汗ばんだ体には、心地よい風だった。


でぃはこの近くの村に住んでいる者らしい。
今夜彼女は、生け贄として神に捧げられるとのことだ。

131 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 00:25:25 ID:STfrPGW20

('、`*川「悪いね。貢ぎ物食べちゃって」

七つ目のクラムリーに手を伸ばしながら、別段悪びれる様子も無いままペニサスが言う。
彼女のことを見ながらでぃが軽く笑った。


(#゚;;-゚)「ペニサスさん、自由だね」

('、`*川「あんたは違うの?」

(#゚;;-゚)「私は自由なんて無いよ。やらなきゃいけないことばっかり」

('、`*川「そう。若いのに大変ね」

(#゚;;-゚)「うん。大変」

('、`*川「生け贄って、言ったね」

133 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 00:29:17 ID:STfrPGW20

(#゚;;-゚)「うん」

('、`*川「何なの? 神さまって」

(#゚;;-゚)「私たちの村で、一番偉い人なんだよ」

('、`*川「生け贄を出さないとどうなるの?」

(#゚;;-゚)「わかんないけど、でも村の人が困るの」


泥で薄汚れたショートヘアをとかしながら、ぎこちなく笑うでぃを見ると、
何処かまだ幼さが漂うように感じた。

十五歳の頃、自分は何をしていたのだろうとペニサスは考える。
少なくとも、訳の分からないものの生け贄にはなっていなかった。

135 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 00:34:05 ID:STfrPGW20

lw´‐ _‐ノv「よくある話さ。伝統文化だよ。教養の無い人間には神の存在が必要不可欠。
       雨が降らないのも、子供が産まれないのも、作物が取れないのも、
       神が何とかしてくれるって考えれば、そこで考えるのをやめていいんだから」


立ち上がったペニサスは、薪の材料を探しに近くの林へ出かけた。

数十分後には、枯れ木の山を抱えて再びでぃの前に戻ってきた。
枯れ木を積み上げ、たき火の準備をする。

空は薄暗くなっていた。


(#゚;;-゚)「何してるの?」

('、`*川「今日はここで寝ようと思って。たき火をね」

丸いでぃの目が大きく見開き、続いて呆れた表情になった。

136 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 00:39:05 ID:STfrPGW20

(#゚;;-゚)「駄目だよ。今日、神さまが来るんだ。私は生け贄になるの。ここは危ないよ」

('、`*川「興味がある。神さまってやつに。私も見てみたいんだ」

(#゚;;-゚)「駄目だってば! 神さまはとても怖い存在なんだよ」

('、`*川「そもそも、なんであんたが生け贄なのさ」

でぃが目を背けた。

ペニサスが小さな声で詠唱を唱え、薪に火をつける。
でぃが顔を上げる頃には、枯れ木がパチパチと音を鳴らせて火を上げていた。


(#゚;;-゚)「だって、私が一番下だったから」

火の様子を見ながら枯れ木の位置を調節する。
旅を始めた頃と比べて、野営の要領は格段に上手くなった。

137 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 00:43:15 ID:STfrPGW20

('、`*川「下って?」

積み上げた枯れ木の一部を僅かに横にスライドさせる。
火の勢いがさらに大きくなった。


(#゚;;-゚)「村で一番下なの。私が今年の生け贄。去年は弟だった」

('、`*川「権力のこと?」

(#゚;;-゚)「どう言ったらいいかわかんない。でも、他の人たちは私より上なの。
    だから、私は逆らえないの。お父さんもお母さんも、下の方。
    でも私はそれより下なの。だから私が生け贄にならないといけないの」

('、`*川「そう」


貢ぎ物の干し肉を手に取り、木の枝に刺して火にくべた。
待っている間、ビルマを手にとって、またかじり付く。

138 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 00:46:14 ID:STfrPGW20

('、`*川「じゃあ、神さまが一番上なんだ」

(#゚;;-゚)「そうだよ」

('、`*川「あんたの村、変」


でぃの表情から感情が消えた。
周りの時が止まったように、二人とも動かなくなる。

たき火の火が風で揺れ、互いの影だけが不安定に揺らめいた。

(#゚;;-゚)「変だと思う」

声に抑揚が無かった。

(#゚;;-゚)「弟も、去年そう言ってた。私は意味がわからなかったけど、今はそう思う。
    こういうのって、変だと思うの」

139 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 00:49:55 ID:STfrPGW20

('、`*川「どうして今まで気がつかなかったの?」

(#゚;;-゚)「だって、みんなそうしてたから」

('、`*川「弟が死んだとき、何か思わなかったの?」

(#゚;;-゚)「だって……」


会話が止まった。
肉の焼ける香ばしい匂いが立ちこめる。

火の中に入れていた枝を取りだし、焼けた干し肉に口を付ける。
固い肉だが、味は悪くなかった。

(#゚;;-゚)「今は、変だと思うよ」

('、`*川「もう遅いけどね」

でぃの瞳から光が無くなり、またぽっかりと穴が二つ空いた。
人形のような表情だった。

140 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 00:55:30 ID:STfrPGW20

(# ;;- )「死にたくないよ……」


涙混じりの声だった。

ペニサスは何も応えず、肉をかみ砕く作業に没頭している。


(#;;;-;)「どうして、私なの」

('、`*川「みんなそう思ってるよ」

黒に近い濃紺の空に、たき火の煙がもくもくと立ち上がっていく。
それらは星に届く前に、空中で四散していった。

('、`*川「神さまの生け贄になった人は、みんな」


(#;;;-;)「死にたくない……」

141 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 01:00:31 ID:STfrPGW20

('、`*川「私も死にたくない。誰だって生きたい」

(#:;;-;)「やだよお……」

('、`*川「だったら、逃げればいい」

(#;;;-;)「え?」

('、`*川「あんたには足がある。目もついてる。
     今夜なら月明かりで、遠くまで逃げることだってできるよ」

でぃの苦々しい表情には、死への恐怖ではない、表現しがたい
様々な感情が浮かんでいるようだった。


(# ;;- )「それは、できないよ」

('、`*川「どうして?」

142 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 01:04:34 ID:STfrPGW20

(# ;;- )「だって、私が逃げたら、お母さんが生け贄になるから」


弱々しい表情には違いないが、先ほどの人形のような目つきとは違い、
瞳の奥に小さな光が見えたような気がした。

たき火の光が反射するそれとはまた違う光だ。

小さく、微かではあるが、確かにそこに存在した。


('、`*川「あんたの弟も、同じようなことを思ったのかもね」

ペニサスは剣を引き抜いた。

木々の間を通り抜ける、巨大な何かの気配を感じていた。

143 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 01:11:31 ID:STfrPGW20

怯えるでぃの前に立ち、剣を構えた。

やがて気配の正体は、土埃を上げながらペニサスたちの前に現れた。


【+  】ゞ゚)「オマエ、ダレダ」


意外にも、それは人間の背丈と同じくらいの生物だった。

驚くべきは、筋肉の繊維がむき出しになった体表を除き、
青色の髪を生やし二本足で地面に立つその姿は、人とさして変わらない形(なり)をしていること。
そして、人間の言葉を喋っていることだ。


ペニサスの姿を見つけると、その奇妙な生物は即座に敵意を感じ取り、
直立した姿勢からやや前屈みの格好を取り、戦闘態勢となった。

145 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 01:18:40 ID:STfrPGW20

彼らは数秒の間、にらみ合ったまま対峙したが、
先に動いた神さまに反応し、カウンターのタイミングでペニサスが剣を振り切った。


耳鳴りがしそうな風切り音と共に、横薙ぎで振り抜かれた剣は神さまの髪の毛を数本切ったが、
刃が届く寸での所でしゃがんで躱していた。

ペニサスたちは横向きに並行して走り出す。


彼らの間を木々が数本通過したとき、神さまの姿が揺らめきながら消えた。

僅かな残像のみしか捉えられなかったが、神がかった反応で
真上から襲いかかってきた神さまの攻撃を横っ飛びで避ける。

華曲を用いたペニサスの動きは、常人を遙かに超える身体能力を発揮するが、
神さまは互角の動きで対応している。

147 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 01:24:58 ID:STfrPGW20

体勢を持ち直し、剣を高く構えると、いつになく早口で詠唱を始めた。

('、`*川「"落ちよ雷の滴" "鳴けよ雷鳴の声"」

【+  】ゞ゚)「! オマエ……」

('、`*川「"消えなチカン野郎"」


逆手に持ち替えた剣を勢いよく地面に突き刺す。

ペニサスを中心に地面が八方に割れ、そこから黄色い放電が起こり、
暗闇だった辺りを明るく照らした。

直後、神さまが立っていた地面が発光し、光の柱が点を突いた。
神さまの姿がまばゆい光の中に包まれていく。

149 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 01:35:55 ID:STfrPGW20

ペニサスの顔が苦々しく歪んだ。
閃光が起こる瞬間、神さまが後ろに飛び退いたのが見えたからだ。


('、`*川「"火は火と重なり炎として"」

剣の柄から手を離し、両の手を胸の前で合わせた。

('、`*川「"水は天を衝く霧として"」

辺りに巻き起こった風が渦を巻き、土埃を上げて草木を巻き込んだ。

('、`*川「"命芽吹かせる風が吹くとき"」


【+  】ゞ゚)「ナゼ、オマエホドノ……」

('、`*川「"それがテメーの寿命となる"」

150 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 01:45:02 ID:STfrPGW20

極大の魔力が手のひらに集束していくのを、神さまは止められなかった。

離した両手を地面にたたき付けると、辺りの地面が円状にせり上がり、
盛りだした土の中に神さまの体が埋もれた瞬間、土中から爆発した魔力が辺りを消し飛ばした。


ペニサスが立っている、中心部分の地面だけを残し、辺りの地面が大きくえぐれる。
放心円状に吹き飛んだ地面と草木が、数十メートルの綺麗なサークルを作った。


周りの木々と共に、神さまの気配も無くなった。
そこにあった存在全てを巻き込み、細胞一つ残さず、消滅したのだ。


lw´‐ _‐ノv「環境破壊だよ!」

('、`*川「もう……二度と使わないから許して」

151 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 01:50:23 ID:STfrPGW20

おぼつかない足取りでえぐれた地面を乗り上げ、でぃの元へ戻る。

不安そうな顔をしたでぃが、たき火の前でじっとペニサスの帰りを待っていた。


(#゚;;-゚)「神さまは、どうなったの?」

('、`*川「天に帰ったよ。もういない」


話すのも億劫だといった様子で、その場に座り込み足を投げ出した。

昼間、でぃがやっていたように大の字で地面に寝転がり、
片腕だけを動かしてビルマを手に取った。

小さく囓り、果肉を歯ですり潰し、無理矢理飲み込む。
甘酸っぱい香りが口の中に広がると、少しだけ体力が回復した。

152 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/07/30(月) 01:57:06 ID:STfrPGW20

(#゚;;-゚)「ペニサスさんが、神さまになったの?」


もう一度噛みつく。
先ほどよりも強い力で果肉をかみつぶした。


('、`*川「そんなに神さまが必要なら、あんたがなればいい」

気だるい体を動かして、ビルマを一つ食べきると、眠気が襲ってきた。
たき火の火は頼りない揺らぎ方をしているが、枯れ木をつぎ足す気力は無かった。

天を仰ぐと、ちょうど月が雲に隠れた所だった。
月が隠れたことで、周りの星々がいっそうはっきりと見える。


(#゚ー゚)「神さまなんて……いらない」


でぃが喋ったのと、ペニサスが寝息を立て始めたのは、ほとんど同時だった。


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