ミセ*゚ー゚)リ 怪異の由々しき問題集のようです
758 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:13:22 ID:FY4OK5Uo0



 落書き。 
 益体もない些細な出来事。

 「本日のオチというか、後日談」





.

759 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:14:07 ID:FY4OK5Uo0
【―― 0 ――】


「―――お葬式ってさ、嬉しくなるよね」


 久しぶりに学校の外で出会った会長は黒い服を来ていた。

 上下黒の喪服のような服装だ。
 話を聞くと、あの殺された大神さんという人の家に線香を上げにいった帰りなのだそうだ。
 剣道も嗜む会長は一、二度教えを受けたことがあったらしい。 
 だとしたら彼女は顔見知りを亡くしたわけだが、それなのにいつものように微笑んでいるのは何故なのだろう?
 
 私が疑問に思っている中、話が一段落したところで会長はそんなことを言った。
 表情に対して以上に疑問を抱かせる言葉を。


ミセ*゚−゚)リ「どういうことですか?」

「だってそうでしょ。お葬式に沢山の人が来たってことは、それだけの人との繋がりがあったってことだから」

ミセ*゚ -゚)リ「あ……」

「そこで流された涙はその人への想いの結晶なんだから」

760 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:15:05 ID:FY4OK5Uo0

 あなたが生まれた時に周りの人は笑っていたでしょう。
 あなたが死ぬ時には周りの人が泣いてくれるような人生を送りなさい。

 ……確か、そんな名言があったはずだ。
 だから会長は「お葬式は嬉しくなる」と言った。
 きっと大神という人の葬儀では沢山の人が泣いていたのだろうと考えて。


ミセ*-ー-)リ「お葬式は残された人間の為にやるものだって言葉も、そういう意味なんですかね……」

「そうかもしれないね」


 一拍置いて、彼女は続ける。


「アニメとかではさ、主人公の少年が世界の命運を左右したりするでしょ?」

ミセ*゚ー゚)リ「え? まあ、そういう話が多いですね……」


 いきなり話が飛んだ?
 まあ会長との会話ではいつものことなので先を促す。

761 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:16:05 ID:FY4OK5Uo0

「アレって思春期特有の自己拡散っていうか、『重要な存在になりたい』って気持ちに関係してると思うんだよ」


 一時期自分探しというものが流行ったけれどアニメを見る人達は擬似的な自分探しをしているのかもしれない。
 自分の価値を見つけたくて、自分の存在を認めてもらいたい。
 アニメを見る人間が皆自己投影してるとは言わないけど、だから一人の少年が世界の行方に関わるような作品が売れるのだとは思う。


「でもね。多分だケド……年を取るとね、自分が重要な存在じゃないことが嬉しく感じるんだ」


 ちょっと違うかな、と会長は笑う。
 そう、自分が重要な存在ではないことを嬉しく感じるのではなく―――。



「『自分は世界にとって不可欠な存在にはなれなかったけど、誰かにとって大切な存在になれたこと』――それを嬉しく思うんだ」



 子どもの頃は、自分が死ねば世界が終わってしまうほどに重要な存在になりたかったけれど。
 そしてそんな人間にはなれなかったけれど。 
 年齡を重ねていけば、自分が死んでも世界が続いていくこと――自分の死を悲しんでくれるような人達が生きていることを嬉しく思うようになる。

762 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:17:05 ID:FY4OK5Uo0

 誰かの死んでも世界は回る。
 だけど、その誰かの存在は他の誰かの心に残り続ける。

 あの大神さんという人は誰の心に残ったのだろうと、そんなことを思った。


ミセ*-3-)リ「そう考えると、私はなーんかそういう重要人物じゃなくて良かったなあと思います」

「そうだね。君が死んでも世界は終わらないし」

ミセ;-ー-)リ「ハッキリ言われると傷付きますけどね……」


 「たとえばあたしを殺してみろ。安心しろ、それでも世界は何も動かないよ」。
 好きなライトノベルにあった台詞だ。
 最初に聞いた時はあまりにも切ない言葉だと感じたが、会長とのやり取りでそうじゃないと思えるようになった。

 ひょっとして慰めに来てくれたのかな?
 そうだったら嬉しいけど。


「誰かが死んで……でも僕達は生きている。それだけなんだ。それだけで、いいんだ」

763 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:18:05 ID:FY4OK5Uo0
【―― 2 ――】


 彼女が弓を引く姿は、これ以上なく綺麗だと思う。

 足踏み、胴造り、弓構え、打起し、引分け、会、離れ、そして残心に至るまでが繋がった一息。
 「一息の間で行なわれる」ということなのではなく、剣道で言うそれと同じく、挙動が断絶していないということだ。
 そして滑らかでありながらも節毎に動作が完結している。
 いや、「メリハリがあるのに流れるよう」という表現の方がしっくり来るかもしれない。

 その射形に見蕩れている内に道場に弦の音が響く。
 冬の早朝の空気のような澄んだ音が。


li イ*^ー^ノl|「どうしたんですか?」


 射を終えた彼女が振り返る。
 柔らかな笑み。
 僕はどう返すかを悩み、頬の古傷を掻いて言う。


(=-д-)「……外れないもんですね」

li イ*-ー-ノl|「良いところを見せられて良かったです」

764 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:19:05 ID:FY4OK5Uo0

 丸が幾つも重なったような模様の的――霞的の正鵠に、先ほど射られた矢が刺さっている。
 僕の知る限り彼女が射を外したことは一度もない。

 彼女、弓道部部長の幽屋氷柱は訊く。


li イ*゚ー゚ノl|「こんな朝早くにどうしたんですか?」


 僕はまた少し悩んで答えた。


(=-д-)「はあ、大したことじゃないんですが……。最近、大神先生が亡くなったじゃないですか?」

li イ*-ー-ノl|「そうですね」

(= д)「それで……。はあまあ、上手くは言えないんですが……。悲しいな、みたいな」

li イ*゚ー゚ノl|「分かりますよ。私もあなたと同じように、ほんの数回ですが指導を受けた身ですから」


 直接の弟子ではないし、そこまで深い仲ですらない相手だ。
 自分も剣道や居合道をやるのでその関係で何度か練習を見てもらったことがあっただけ。
 それだけだ。

765 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:20:06 ID:FY4OK5Uo0

 でも。
 それでも――悲しいものは、悲しい。

 上手くは表現できないんだけど。


(=-д-)「偲ぶとかそういうわけじゃないけど……ちょっと剣でも振りたいなー、と思って。そう思ってここに来ました」


 しいて言えば。
 自分の中に、仮にも自分の先生であった人の影響がどのくらい残っているのかが、気になった。
 あの人の剣に自分はどれくらい近付けたのだろうかと。

 氷柱さんは言う。


li イ*-ー-ノl|「どうか、偲んであげてください。きっとあの世で喜んでおられると思います」

(=゚д゚)「はあ、そうですかね?」

li イ*^ー^ノl|「ええ。だって、優しい先生だったでしょう?」

(= д)「まあ……そうでした」

766 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:21:06 ID:FY4OK5Uo0

 続けて彼女は呟く。
 「どうか私の分まで偲んであげてください」と。
 まるで自分はその資格がないみたいに。


(=゚д゚)「……今なんて?」

li イ*^ー^ノl|「なんでもありませんよ。鍛錬ならば歓迎しますし、お付き合いします。道場ですから」


 ありがとうございますと言うと「構いませんよ」と彼女は柔らかに微笑んだ。
 胸の鼓動が早くなる。
 僕は紅くなった頬を誤魔化すように目を伏せた。

 どうしてこの人はこんなにも魅力的なんだろうか。
 彼女が更衣室に向かい、一人きりになった淳高の道場で僕は思う。


(=-д-)「(きっと、真っ直ぐだからだ)」


 斬ることだけを追求した刀が美しいのと同じように、真っ直ぐに何かを貫く姿は美しいのだ。
 たとえ誰かを傷付けることになったとしてもその美しさだけは真実なのだろう。

767 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:22:05 ID:FY4OK5Uo0
【―― 3 ――】


 私がその報せを聞いたのは一週間ほど経った時だった。
 自宅の道場で男性が殺害された事件の捜査が打ち切られた。

 厳密に言えば打ち切られたわけではない。
 別の地方で過去に起きた事件と同一犯だと判明し、今後はその事件の捜査本部が捜査を担当するとのことだった。
 一方的な命令だが組織とはそういうものだ。
 そういったわけで、私達は初動捜査を済ませた段階でお役御免となった。


(‘、‘ノi|「素人探偵や絣には悪いことをしたな」


 捜査に協力してもらったというのに満足な成果も上げられないままに担当を外れてしまうとは。
 仕方のないことではあるものの申し訳なく感じる。

 医師が全ての患者を救えるわけではないのと同じように刑事も全ての犯人を捕まえられるわけではない。
 場合によっては、病気にしろ事件にしろ最後まで担当し続けることが難しいこともある。
 当たり前のことだ。

 しかしそれでも少しだけ嫌な気分だった。
 警察を辞めて探偵にもなろうかと考えてしまうくらいには。

768 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:23:06 ID:FY4OK5Uo0

 たとえ私が何かの事件を担当しその犯人を捕まえたとしても全てそれで終わりというわけではない。
 そこからは裁判が行われ、裁判が終われば何らかの刑が下される。
 あるいは被害者やその関係者からすれば事件が終わることなど一生ないのかもしれない。

 そう考えると警察は本質的に無責任だ。
 無責任という言い方が相応しくなければ「自らの責任を果たすことしかできない」と言おう。

 きっと究極的には、人間そのものがそうなのだろう。
 私は私の責任を果たすことしかできない。
 私は私の人生を生きることしかできない。
 そういうものだ。

 だから。


(‘、‘ノi|「(私はせめて、私の意思で犯人が捕まるように祈っていよう)」


 そして私は私の責任を果たし続けよう。
 私の人生を生き続けよう。

 慰めのようにそう思いつつ、私は今日も私として現場へと向かう。

769 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:24:06 ID:FY4OK5Uo0
【―― 4 ――】


 結局今回の一件で俺は何もできなかった。

 何もしなかったわけではないが、結果を見ればいてもいなくても同じような有り様だった。
 俺がいなかったらどうなっていただろう?
 きっと俺がいなくても事件は起こって、多分氷柱ちゃんは俺がいなくても上手く対処して文書を取り返していた。

 だとしたら俺がいた意味はなんだろう?
 でぃちゃんやミセリちゃんに迷惑を掛けただけじゃないのか。


(# ;;-)「……また落ち込んでいらっしゃいますね、憂鬱そうなのです」

(,,-Д-)「うん……。少しね」


 真後ろからでぃちゃんの声が届く。
 背を向けて座っているので顔は見えない。
 だが明るい表情はしていないだろう。

 暫く経ったある日の夜。
 俺は上半身裸で寝室の椅子に座って手当てを受けていた。

770 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:25:06 ID:FY4OK5Uo0

 氷柱ちゃんの寄絃は想像以上に強烈で、服こそ全く被害はなかったが、背中には火傷の痕のような傷が残った。
 それ以外にも身体の節々が鈍く痛む。
 あんなに冷たく澄んだ音なのに火傷みたいになるなんて可笑しいねと俺が言うと「笑い事じゃないのです」と怒られた。

 数日経って痛みは治まったが傷は癒えていない。
 当日は仰向けで寝るのが辛いくらいだったのでかなり楽にはなったけど。


(,,-Д-)「(でもミセリちゃんは無傷らしいし、やっぱり人以外のモノを対象にした清めの音だったんだろう)」


 だとしたら咄嗟にでぃちゃんを庇って正解だった。
 半分は人間と言えど半分は妖怪だし、それにあの時は戦う為にかなり妖怪側に寄っていた。
 直撃していればただでは済まなかっただろう。

 それにしても、もうほとんど力が残っていない俺なら大丈夫だと思ったんだけど……。


(,, Д)「『人間の成り損ない』ね……」


 あの魔術師は誰から俺の正体を聞いたんだろう。
 何にせよ言い得て妙だと笑みが零れた。

771 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:26:05 ID:FY4OK5Uo0

 巻かれていた包帯が解け、ガーゼが外されて傷跡が空気に晒される。
 でぃちゃんは濡らしたタオルで背中を軽く拭いていく。

 と。


(# ;;-)「ご主人様……」


 その手が止まった。
 次いで、後ろから抱き締められた。
 鼻腔をくすぐる彼女の匂いや肌に伝わる柔らかさが心地良さを与えてくる。

 ……俺の背中に彼女の胸が、つまり傷跡に胸部が当たってるわけで、痛いのか気持ち良いのか分からない。


(,,^Д^)「どうしたの? そんなに強くギュッとされると、痛いよ」

(# ;;-)「痛くしています、お仕置きなのです」


 そう言うと、彼女は更に俺を抱く両腕に力を込めた。
 決して離すまいという意思が伝わる強さ。

772 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:27:05 ID:FY4OK5Uo0

 耳元で彼女の声が聞こえた。


(# ;;-)「あまり、無茶をしないでください……。あなたが死んでしまったら、私はどう生きていけば良いのですか……」


 縋るような声だった。
 泣きそうな声だった。
 俺は、静かに言葉を返す。


(,,-Д-)「ありがとう……でもね、でぃちゃん。俺は、でぃちゃんが傷付くのが嫌なんだ。でぃちゃんの代わりになら、俺はいくらでも傷付くよ」

(# ;;-)「それは私だってそうです。同じなのです。私は、あなたの為なら死んでも、いい」

(,, Д)「でぃちゃんがいなくなっちゃったら俺は生きていけない」

(# ;;-)「それも……同じなのです」


 ごめん、と俺は言った。

 でぃちゃんがいない日々なんて俺は考えられない。
 それは彼女だって同じで。

773 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:28:04 ID:FY4OK5Uo0

 だとしたら――俺はどれほど酷いことをしてしまったんだろう。


(,, Д)「ごめん……」


 もう一度俺は謝った。
 もういいですよ、と彼女は笑った。

 そうして俺以上に俺を大切にしてくれている人は、俺の背中に口付け、つーとそのまま傷跡を舐め上げた。
 淡い痛みとくすぐったいような快楽に思わず声が漏れてしまう。
 次いで彼女は色っぽい笑みを小さく漏らす。

 こういう部分は淫魔っぽいよなあと感想を抱く俺の耳元で、彼女が囁いた。


(# ;;-)「…………愛しています。あなたが、どんな存在であろうとも」

(,,-Д-)「……うん。俺もだよ」


 俺は振り返って彼女を抱き締める。
 お返しと言わんばかりに強く。

 傷はまだ完治していないけれど、一晩くらい、少しくらい無茶をしても大丈夫だろう―――。

774 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:29:05 ID:FY4OK5Uo0
【―― 5 ――】


 本日のオチというか、後日談。

 時間という概念はあらゆるものを彼方へと押し流していく。
 あの一連の事件から数週間の時が流れ、ニュースでの報道もほとんどなくなった。
 私にしたって、あれほどに衝撃的だった出来事はすっかり心の何処かに埋没してしまっていた。

 そんな頃のことだった。
 学校帰りにショツピングに出掛け、一時間程度買い物を楽しみ、日も暮れてきたのでそろそろ帰ろうかなと思った――その時。



リパ -ノゝ「…………おや、」



 私は、あの死神のような少女に再会した。

 街を歩いていて向こう側からやって来たものだから思わず「あっ」などと声を漏らしてしまったのが悪かったのか。
 驚いて立ち止まってしまったところに声を掛けられた。

775 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:30:09 ID:FY4OK5Uo0

リパ -ノゝ「…………お久しぶりです、」

ミセ;゚−゚)リ「……どうも」


 街で出遭った彼女は、清楚というか、大人しい感じの格好をしていた。

 服装で目立つのは黒壇のように黒い髪と合わせたような黒のジャケットくらいだ。
 無論、刀なんて持ってない。
 左目に付けていた眼帯も包帯に変わっていて、全体的に暗いファッションだからメンヘラっぽく見えるかもしれない。

 あの時と変わらないのは庇護欲を唆る可愛らしい顔立ちと、蚊の鳴くように小さく砂糖菓子のように甘い声音。
 漂わせていた妖刀のような鬼気も薄まっていて、彼女の本性を知らない人ならば気付かないだろう。


ミセ;゚ー゚)リ「なんで、こんな所に?」

リパ -ノゝ「…………あなたも勘違いしていらっしゃるようですが、私達も常時ああいったことを行っているわけではありません、」

ミセ;゚−゚)リ「買い物をしたり、ご飯を食べたり、友達と遊んだりするってことですか?」

リパ -ノゝ「…………そうです。あなたが一緒にいた、あのお二人と同じように、」

776 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:31:07 ID:FY4OK5Uo0

 あのお二人――ギコさんやでぃちゃんと同じように。
 常に非日常的な仕事をしているのではなく、オフの日には普通に学校に行ったり友達と談笑したりして過ごしている。

 彼女、ギコさんからは『ユキちゃん』と呼ばれていた少女は語る。


リパ -ノゝ「…………私はこれでも、数年前まではあなたと同じように学校に通っていました、」

ミセ;゚ー゚)リ「へぇ――って、じゃあ年上!?」


 そうです、と事もなげに言いつつ彼女は街路樹の木陰に入る。
 私も他の歩行者の邪魔にならないように位置を変える。

 ……あんな風に人を殺した少女が、立ち話をする為に歩道の端に寄ったということ。
 その行動が彼女の発言の正しさを証明しているようだった。
 彼女もこうして、普通に生きている人間なのだ。


リパ -ノゝ「…………あなたは私に二度と遭いたくなかったと思いますし、私もできることならば再会したくはなかった、」


 私に遭うということは誰かが死ぬということですから、と彼女は付け足す。
 誰かが死んで、誰かが殺されなければならない状況に現れる死神のような少女。

777 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:32:04 ID:FY4OK5Uo0

 ですが、と彼女は続ける。


リパ -ノゝ「…………こうして縁があり出遭ってしまったわけですから、二つほど、伝えておきたいと思います、」

ミセ;-ー-)リ「はあ……」


 私からは何も伝えたいことはないし、言ってしまえば二度と会いたくないどころか顔も見たくないような相手なんだけど……。
 そういう機微は分からないのだろうか?
 心中を知らずか、それとも察した上で無視してか、彼女は言う、 


リパ -ノゝ「…………一つ目に。あの文書を奪おうとした男は雇われですが、その裏には組織があります、」

ミセ*゚ー゚)リ「組織?」

リパ -ノゝ「…………そしてその組織はあなたの過去にも関わっている、かもしれません、」

ミセ;゚ー゚)リ「!!」


 私の――過去に?
 あの出来事に……?

778 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:33:07 ID:FY4OK5Uo0

ミセ;゚ー゚)リ「あなた、私の過去を……。それ以前にその『組織』って……?」

リパ -ノゝ「…………申し訳ありません、少し調べさせた頂きました。そして重ねて申し訳ありません、私の担当ではないことなので、詳しいことは、」


 そして「あくまでも可能性の話です」と彼女は付け加えた。
 それでも、私は動揺を隠せない。

 しかし彼女は淡々と話を続けていく。


リパ -ノゝ「…………二つ目ですが、あなたの目の話です、」


 私の目。
 怪異が見えるという瞳。


リパ -ノゝ「…………まず名称をご存知ですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「名称? ええっと、名前ってことですか?」

リパ -ノゝ「…………その瞳は『浄眼』と呼びます、」

779 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:34:04 ID:FY4OK5Uo0

 ……ゲームやマンガで聞いたことがある名前だった。
 微妙にテンションが上がってしまう。


リパ -ノゝ「…………中国の伝承に登場する異能らしいです。曰く、その瞳を持つ者は、『人ならざるモノ』を見る力を持つ、」


 人ならざるモノ――怪異。


リパ -ノゝ「…………そもそも魑魅魍魎を視認できる人間は道士等の魔術を専門にする者か、先天的にそういう才能を持つ者に限られます、」


 あるいは「自分自身が半分怪異である者か」。
 つまり言うまでもないが、普通の人間には妖怪は見えないのだという。
 ちなみに心霊スポットで幽霊が見えるのは大体が勘違いで、本当に見えた場合は幽霊側が見せているか、たまたま幽霊と波長が合ってしまった場合らしい。

 とにかく。


リパ -ノゝ「…………その瞳は、かなり珍しい代物ということは覚えておいてください、」

ミセ;゚ー゚)リ「分かりました」

780 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:35:05 ID:FY4OK5Uo0

 いつだったかでぃちゃんも「ハッキリと怪異が見える人は珍しい」とか言っていた気がする。
 素人ではまずありえないレベルの精度のようだ。
 まあよく分からないけど……。

 街が夕闇に染まり始めた頃。
 最後に、彼女は言った。


リパ -ノゝ「…………私の友人にも、仇敵にも、同僚にも。目の能力を持つ人がいました、」

ミセ*゚ー゚)リ「私のように怪異が見える目の人も?」

リパ -ノゝ「…………はい。未来や死あるいは心、因果……視えるものは様々でしたが、完全に普通の人生を送れた人間は一人もいません、」


 その目の所為で死に掛けた人間も生命を散らした人間もいます。
 彼女は淡々とそう続け、「けれど」と。


リパ -ノゝ「…………ですが、その目があったからこそ見つけられるモノもあると思います、」


 あると良いと思いますなんて呟き、彼女は少しだけ微笑んだ。

781 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/11/12(火) 03:36:08 ID:FY4OK5Uo0

 そうして彼女は宣言する。


リハ -ノゝ「…………もしも、あなたが自分の目を嫌いになった時。私はあなたの目を殺しに来ます、」


 そう言い切って。
 でも次いで死神の少女は言うのだ。
 「そんな日が来ないことを私は祈っています」と。

 それだけを最後に告げて彼女は夜の帳が下り始めた街に消えて行く。
 私の帰り道は逆方向、共に歩むことはない。
 
 私はこれから何を見るのだろう?
 あの過去に向き合ったところでこの目がなくなるわけじゃないし、況してや人生が終わるわけでもない。
 これからも私が生きている限り私の物語は続いていく。
 私はこれから何を見るのだろう?

 それはまだ分からないけれど、でも生きていこうと――そんなことを私は思った。






【――――落書き、終わり】



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