ミセ*゚ー゚)リ 怪異の由々しき問題集のようです

153 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 15:40:52 ID:RqAuxQOc0




ミセ*゚ー゚)リ 怪異の由々しき問題集のようです



※この作品には性的な描写が(たまに)出てきます。
※この作品は『天使と悪魔と人間と、』他幾つかの作品と世界観を共有しています。
※この作品は推理小説っぽいですが、単なる娯楽作品です。
※この作品はフィクションです。実在の逸話を下敷きにした記述が存在しますが現実とは一切関係ありません。





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154 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 15:42:03 ID:RqAuxQOc0




 第三問。
 線引き問題編。

 「カントールの楽園」





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155 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 15:43:05 ID:RqAuxQOc0




 今は斯く さみだるるのみ 藤葛





156 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 15:44:05 ID:RqAuxQOc0
【―― 0 ――】


「―――ラマヌジャンを知ってるかな? 知らない? ガロアさんは? D・D・パーマーは? 流石にメンデルは知ってるよね?」


 最後に彼女は、唐突にそんなことを言った。

 聞き覚えのない名前が多いが、メンデルを知っているか知っていないかと問われれば勿論知っている。
 グレゴール・ヨハン・メンデルはエンドウマメの勾配実験を元に遺伝の法則を発見した司祭さんだ。


(#゚;;-゚)「……それが今回の件と何か関係があるのですか?」

「直接的な関係はないよ。思い出しただけ」


 そう返して彼女はまた知ったように笑う。
 かつてと同じく凄惨な笑みを浮かべることも多いものの、今はもう、こういうイタズラっぽい笑顔をすることの方が多い。
 少しだけ変わった、けれど普通の少女のように。

 『一人生徒会』と呼ばれる彼女。
 この学校の生徒会長。
 今の彼女は、かつての私が憧れた人がそうであったようにこの学校を守っている。 
 燃え盛る太陽のような輝きと激しさを携えて。

157 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 15:45:04 ID:RqAuxQOc0

 彼女自身はどう思っているのか、少しだけ気になった。


「社会は正しい、科学は正しい、正義は正しい……。当たり前のように人間はそう主張するケド、それは本当にそうなのかな?」


 その言葉で彼女の言わんとすることが分かった。
 正しいこととそうでないことの境界線。

 彼女は続ける。


「それはきっと逆なんだよ。そしてそのことを錯覚した瞬間から輝かしい『正しさ』は空虚で無様なものに成り果てる」


 そうだ。

 社会は正しいのではなく――正しさを求めているだけ。
 科学は正しいのではなく――正しさを考えているだけ。
 正義は正しいのではなく――正しさを信じているだけ。

 それは、それだけのことなのに。
 どうしてか人間は間違いと勘違いを繰り返す。

158 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 15:46:04 ID:RqAuxQOc0

 ねえ、と彼女は問い掛ける。


「君は――正しいのかな?」

(# ;;-)「いいえ。私は正しくなんてありません、正しくなんてないのです」

「じゃあ君は、君達は――正しくありたいの?」


 それは……どうだろうか。
 私の一存では答えることができない問いだ。
 けれど。

 私の思いを、しいて言うならば―――。



(#゚;;-゚)「私は正しくないかもしれません。……ですが、正しくなくても良いので、誰かに優しく出来れば、助けてあげられれば良いと思います」



 そっか、と彼女は笑った。
 その笑みはあの凄惨な血塗れの哄笑ではなく慈しむような微笑みだった。

159 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 15:47:08 ID:RqAuxQOc0
【―― 2 ――】※閲覧注意


 薄暗い部屋の中で自分の鼓動と彼の吐息が頭に響く。

 もっとしっかり抱き着こうと腰を動かすと甘い刺激が感覚を蕩けさせていく。
 馬鹿みたいに勃起して反り返った肉茎が私の一番奥深く、子宮口の部分を擦って快楽を与えてくる。


「あっ……ん、っ……! はぁ……ぁ、きもちい……」


 不定期に、ゆっくりと、小刻みに。
 女の子の一番奥深くて一番大事な部分を弄られて私は小さく喘ぐ。
 耐えようとしても、喘ぎ声を出してしまう。

 気分を盛り上がらせる為の演技とかではなく。
 ただ単純に、気持ち良くて。


「ん、あ……あっ……! ひっ、ん……」


 女子は皆ガンガン突かれるのが好きだと勘違いしている男子がいるけど、実際はそうじゃない。
 少なくとも私はバックで責められる以外にも、こーゆー風に好きな男の子の上に跨って、抱き合って指を絡めて……じっくりと愉しむのも大好きだ。

160 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 15:48:08 ID:RqAuxQOc0

「あっ……ぁ、っん……。あぁ……っ……」


 イクちょっと前くらいの快感がジワジワとずっと続いて。
 身体の中で、男の子の大事な部分が脈動してて、その音が身体中に響いて。
 触れ合った部分から熱が伝わって交換して。

 そういう様々なことが気持ち良い。
 騎乗位で腰振ってる時も思っちゃうけど、本当にずっとこうしてたいくらいに気持ち良い……!


「はぁぁ……んっ、ぁ……」

「……ミセリ」

「…………何?」


 耳元で彼の声がする。
 それと同時に彼がちょっと動く。

 そんな些細な刺激の全部が気持ち良くて、また声が漏れる。

161 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 15:49:05 ID:RqAuxQOc0

「そろそろ出したい。あと胸触りたい」

「……んっ。さっき口でヌいてあげたしっ……。その後散々……ぁ、揉んでたじゃん……」

「あれは前戯だろうが」

「あんなに気持ち良さそうにしてた癖に? どろどろのやつ、びゅるびゅる口の中に出しちゃってさ」


 ビクン、と私のお腹の中のモノが膨らんだ気がする。
 彼は女の子が淫語言う様が大好きな変態だ。

 ……私も割と好きだけど。


「それとこれとは違うんだよ――ほらっ!」

「あ、ちょっと――ひっ、いあぁっ! やっ!もうっ! あっ、あっ、あぁぁ……っ!!」


 言葉と同時に彼が腰を突き上げて、それだけで私は反論できなくなる。
 卑猥な水音が響く。
 下から子宮が突き上げられて、膣の気持ち良い部分が剃られて、お腹の中を掻き回されてグチャグチャにされる。

162 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 15:50:03 ID:RqAuxQOc0

 快楽には相当な耐性のある私も予期せぬ攻撃に身体の力が全部抜けてしまう。
 もう気持ち良ければなんでもいいと、そんなことを言ってしまいそうになる。


「あっ、あっ、もうっ……んっ! 駄目だってぇっ! ひぃ、ん……!」

「ああもう――お前エロ過ぎだし無理!!」


 ……こういう時、男の子はズルい。

 我慢できなくなった彼が私の腰に手を回して持ち上げる。
 身体の重みで肉茎が更に深くまで刺さり、子宮口が押し込まれる。
 痺れるような暴力的な快感。


「あぁぁっ!! あっ、ぐうぅッ……!」


 そのまま彼は私をベッドに横たえる。
 対面座位から、正常位。

 どちらもが一番好きな体位だ。

163 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 15:51:06 ID:RqAuxQOc0

「ミセリ……。くそ、こういう時のお前はホントに可愛いな……っ!」

「いつも可愛い、でしょ…………やっ! ん、あぁっ!」


 そうして彼は大好きな私のおっぱいを撫で、揉み、舐め、噛み……。
 ゆっくりと愉しみ、それによって私の身体はじんじんと熱を帯びていく。

 味を、匂いを、触感を、私の声を。
 全部を堪能している。
 そうやって刺激が与えられる度に私は彼のモノを締め付けてしまって。
 まるで精液が欲しいとおねだりしているようで……我ながら凄く、いやらしい。

 一通り愉しみ終わった彼が、私の両乳首を指先でコリコリと刺激しつつ、訊いてくる。


「あっ、あっ、あぁっ……! それ好きなのッ、知ってる癖に……っ!ああッ!」

「知ってるからやってんだよ」

「もう……ばかぁ……っ」


 多分今自分滅茶苦茶エロい顔してるだろうなーと思いつつ、快楽に身を委ねる。

164 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 15:52:09 ID:RqAuxQOc0

「……なあ」

「んっ、なに……?」

「中に出したい。久々だし、出したい」


 出させても何も。
 元々私はそのつもりだったんだけど……わざわざ訊いてくれたのなら何かおねだりでもしてみようかな。
 いや、えっちぃ意味ではなくて。


「んー……んっ、じゃあね……。最近退屈だし、何か面白い話教えてくれたら、いいよ……?」

「面白い話? ……『絶対当たる占い師』の話とか?」


 え? 


ミセ*//-/)リ「『絶対当たる占い師』……?」

165 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 15:53:04 ID:RqAuxQOc0
【―― 3 ――】


 というわけで、駅前にやって来た。

 我ながら単純だと思うけど、このドキリワクワクマジカルフォースな心を誰が止めることができるだろうか、いやロマンチックが如く誰も止められない。
 反語及び直喩表現。


ミセ*゚ー゚)リ「えっと……どういう人だって言ってたっけ。帽子被った白髭のお爺さんだっけ? 美味しいオムライスの店からちょっと行ったところだよね?」


 このVIP州西部は別に都会ってわけじゃないけど、そこまで田舎というわけでもない。
 学校の周りは教育的影響を考えたのか建物も控えめだが、そこから少し先、この駅前の繁華街まで足を伸ばせば十分賑やかだ。
 VIP州中央(帝都)のような大都会も好きだけど私はこういう「そこそこ」な地方都市も好きだった。
 まあ、ここが私の生まれ育った場所だから、という理由も大きいのだろうけど。

 ……何が言いたいかと言えば、占い師一人探すのは都心部じゃなくても十分大変だってことだ。
 やれやれだぜ、"Give me a break"。

 何かヒントはないものかと雑踏を見つめ立ち尽くす。


ミセ*-3-)リ「考えるよりに先に行動かなぁ。それっぽい白い髭のお爺さんに片っ端から声を掛けていくしかないか」

166 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 15:54:04 ID:RqAuxQOc0

 無茶苦茶頭の悪い方法だが「大体は繁華街にいる」という噂が正しいなら夕方までには見つかるだろう。
 明日は月曜だけど、午前中の出席日数には余裕があるから多少帰るのが遅くなっても別にいいし。

 そう考えてふらふらと他人だらけの街を歩き出す。


ミセ*゚ー゚)リ「(露天はたまにあるけど、占いは見かけないなぁ。ブームが下火になったのかな?)」


 女子の多くは占いが大好きだ。
 けど、その女子達も最近は社会進出が進み、インテリな理系女子も増えてきたので占いなんて怪しげなものに興味のない子が増えたのかもしれない。

 私はもう、そういった諸々のモノ――迷信や妖怪や魔法が実在すると知っているけれど。
 でもやはり世に溢れるオカルトは大半が作り話や勘違いなんだろう。
 幽霊も正体見たりなんとやら、というやつだ。

 杯中の蛇影、疑心暗鬼、踏んだ蛙は茄子なのだ。
 "One always proclaims the wolf bigger than himself"。


ミセ*^ー^)リ「〜〜♪」


 鼻歌混じりで春は短し歩けよ乙女。

167 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 15:55:09 ID:RqAuxQOc0

 選曲はSty●ipS。
 歩みを進める。
 服装は最近買ったばかりのキャミソールにお気に入りのローライズ、ポシェットには元カレに貰った名前入りのアクセサリー(割と高い)。

 ガラスに移った自分の姿は読者モデル以上に決まってる。
 今日も私はとても可愛い。

 一歩一歩踏み出す度にポイントカットされたセミショートの髪が揺れる。
 小振りなヒップに、容易く挟め手に乗るサイズの胸、均整の取れたラインが出る服を着ても全然問題のない体型。
 明るい笑顔に軽やかな雰囲気。
 全く、我ながら困ったほどの美少女だぜ。

 そうしてナンパを軽く躱し、通りを右へと曲がる。


ミセ*^ー^)リ「(いや改めて考えると私ってアレだよね最強だよね、美少女だよねぇ。可愛いし胸大きいし頭は良いしセックス上手いし)」


 心の中で自画自賛。
 だが事実だ。
 なのでなんら恥じるべき部分はない!

 あの天使みたいに蠱惑的な会長とかお淑やかなでぃちゃんとかとは違うかもしれないけど、私も可愛い。
 うむ。

168 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 15:56:12 ID:RqAuxQOc0

 ……あと三十分くらいでさっさと切り上げて服でも見に行こうかな。

 今でも十分可愛いけど私はようやく登り始めたばかりなのだ、この果てしなく遠い女坂を……!
 一流の女子力を更に向上させるべくそう考え始めた、


 ―――まさに、その時だった。



「……オジョウサーン」



 唐突に耳朶を叩いた声に振り返る。
 引き戻された。
 自画自賛が行き過ぎて乖離していた精神が街を行く私の身体に戻ってくる。

 その人は、私の右斜め後ろに座っていた。
 広い歩道の一角、市街並木を囲む煉瓦の上に腰掛けたその人は――茶のソフトフェルトハットを一瞬だけ持ち上げ、掲げた。


( ´W`)「そこの可愛らしいオジョウさん。占いなどに、キョウミはありませんか?」

169 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 15:57:09 ID:RqAuxQOc0
【―― 4 ――】


 私は一瞬だけ驚きに動きを止める。
 次いで、片足を斜め後ろの内側へと引き、もう片方の足の膝を軽く曲げて可愛らしく頭を下げた。

 その仕草を見ると中折れ帽のお爺さんは含み笑いをする。


( ´W`)「カーテシー。教養のあるオジョウさんだネ」


 年下である私が言うのもおかしいかもしれないが聡明そうな人だった。
 チェックのウェストコートにユニークな英国紳士的な振る舞い。
 脇にはパイプが置いてあり、それ等が某世界的な名探偵の姿を想起させたからかもしれない(尤もホームズが被ってるのは鹿撃ち帽だけど)。

 ……いやどちらかと言えば同じ知識人でもインディ・ジョーンズの方が近いのか。
 その瞳に宿った好奇心という光は。


ミセ*゚ー゚)リ「(……整えられた白い髭が生えてる。ということは、この人が……?)」


 あの『絶対当たる占い師』?

170 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 15:58:06 ID:RqAuxQOc0

( ´W`)「オジョウさん。占いは、お好きですカ?」

ミセ*^ー^)リ「勿論です」


 少しアクセントに妙なところがある。
 この国の人ではないのだろうか?

 そんなお爺さんは、帽子を脱いで引っくり返すと私の前に差し出した。


( ´W`)「三分、ワンコイン。私の話が面白いとオモったら、占いがアタってると思ったら、三分毎に入れてくれると嬉しいネ」

ミセ*゚−゚)リ「『面白くない』『当たってない』と思ったら入れなくて良いんですか?」


 私の挑発的な言葉にも動じず彼は返答する。


( ´W`)「……では最初の予言」


 そしてお爺さんは宣言した。
 「あなたは必ずこの中に硬貨を入れる」――と。

171 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 15:59:04 ID:RqAuxQOc0

 ……その自信にたじろぐ。
 まさか魔法が?と知っているが故の動揺が心拍数を上昇させる。
 「そんなことあるわけない」と私は切り捨てられない。

 傍らに置かれた鞄の上にあった折りたたみ式の簡素な椅子を私に手渡し、座るように指示する。
 そうして帽子を私との間の地面に起き、その隣に取り出した懐中時計を置く。

 お爺さんは言う。


( ´W`)「さて……お時間は大丈夫ですカ? カクゴはよろしですか? ミセリさん」

ミセ;゚ー゚)リ「はい――って…………え?」


 どうして――私の名前が?


( ´W`)「そうオドロかず。私にもワカルこと、分からないコトがあります。だから占いにキョウリョクして欲しいし……多少外れてもオオメに見て下さいネ?」

ミセ;゚ー゚)リ「は、はい……」

( ´W`)「ははは、キンチョウなさらず。普段のあなたは、周囲を気にし、場に合ったフルマイができる人でしょう?」

172 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:00:05 ID:RqAuxQOc0

 続けて言う。


( ´W`)「あなたにはポジティヴな面がある。それはとてもコノマシイ」

ミセ;*-ー-)リ「まぁ、ちょっと明る過ぎるとも言われますけど……」

( ´W`)「そうかもしれませんネ。あなたの快活さは、多くの人にはないものですから」


 ……そんな感じでお爺さんは次々と私の特徴を当てていく。
 三分間はあっという間だった。

 最後に懐中時計を伺うと、お爺さんは訊く。


( ´W`)「……サテ。三分が経ちました。私のお話は、オカネを出すに値するものでしたカ?」

ミセ*-ー-)リ「予言通りになるのは悔しいけど――うん、十分に面白かった」


 私は財布から硬貨を出し帽子の中へと入れた。
 それは良かった。
 と、お爺さんは柔和な笑みを浮かべた。

173 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:01:04 ID:RqAuxQOc0

 そうしてから次の三分はどうしますか?と訊ねてくる。
 答えは言うまでもない。


ミセ*^ー^)リ「じゃあ、あと何分か占って貰おうかな」

( ´W`)「……ワカリました。では次は、魔法の数式であなたの生まれたツキを当てましょう」


 生まれた月? 誕生月のこと?


( ´W`)「あなたの生まれた月に、4をカケテ下さい」

ミセ*-3-)リ「えっと……かけた」

( ´W`)「そのスウジに9を足した後、25をかけて下さい。最後に生まれた日を足す。ワタシに見えない場所でならデンタクを使っても良いデショウ」


 携帯で計算し、出てきた数字を伝えた。
 結果は言うまでもない――お爺さんは見事、私の誕生日(何月の何日かに至るまで完璧に)を言い当てた。

 そんな風に何分か過ごし、ファーストフード店で一番高いハンバーガーが一つ食べれるくらいのお金を使った後、そろそろお暇することにした。
 立ち去る私が手を振るとお爺さんも帽子を軽く掲げて返す。
 誰に今日のことを話そうかなと考えつつ、私はとても満足して帰路についたのだった。

174 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:02:04 ID:RqAuxQOc0
【―― 5 ――】


 翌日、たまたま朝早く起きれたので、いつもより早い時間帯に登校すると自販機前で我が校の生徒会長に出会った。
 太陽を想起させるような凄惨な美しさは今日も今日とて健在だ。

 聞くと弓道部の朝練だったらしい、ご苦労なことだ。


ミセ*゚ー゚)リ「そう言えば会長、昨日面白いことがあったんですよ」

「んー? 遂に異世界に召喚されたの? それとも異世界から誰か来ちゃった?」

ミセ;*゚ -゚)リ「私はここにいますし何人もの問題児もハンバーガー売ってる魔王さまも銀髪のニャルラトホテプも誰も来てないですよ」


 いや、最後は宇宙から来たんだったっけ。


「じゃあ面白いことって何なのかな?」

ミセ*^ー^)リ「それはですねー……」

175 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:03:04 ID:RqAuxQOc0

 私の話す昨日の出来事を、会長は最初の内は興味深そうに耳を傾けていた。
 しかしそれは「最初だけ」だった。
 話し終わった時には、会長はあの全てを見透かしたような特徴的な笑みを浮かべていた。

 嘲るようなのにこれ以上なく蠱惑的で。
 何処か、愉しむような、慈しむような笑みを。


「…………結論だけ言うとね、ミセリちゃん」


 と、会長は言う。


「ミセリちゃんの出会ったそのお爺さんは占い師じゃないし、超能力者でもない」

ミセ*゚ー゚)リ「え?」

「しいて言うなら――科学者だよ」


 科学者?
 あのお爺さんが?

176 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:04:19 ID:RqAuxQOc0

「ホームズ知ってるなら分かると思うケド、とっても頭の良い人はある種の人達は、他人の外見や仕草から内面を読み取ることができるんだよ」

ミセ;*゚ -゚)リ「そりゃ分かりますけど……心理学とかは科学ですもんね」

「心理学が科学かどうかは一部では議論があるケド、結局ね、今回の場合はそんなに大層なことじゃないよ」

ミセ*゚ー゚)リ「でも『男の子にモテる』とかは見た目で読み取れるかもしれませんけど私の名前なんてどうやったって無理でしょ?」

「できるよ」


 認識と観察は違うんだ、と会長は言って続けた。


「ミセリちゃんって可愛いポシェット持ってたよね?」

ミセ*^ー^)リ「持ってますよぉ。その日もアレでした」

「アレにさ、恋人から貰ったって言ってたアクセサリー付いてた気がするんだけど、それってまだ付いてる?」


 ………………あ。
 そう言えば、そうだ。

177 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:05:11 ID:RqAuxQOc0

 考えてみれば、あの時私は名前入りの装飾品を持っていたのだ。
 それを見れば私の名前なんてすぐに分かる。
 あの時、お爺さんはそれとなく私を観察して目聡く読み取っていたのだろう。


「眼鏡かけてる人って、たまにコンタクトにすると眼鏡取ろうとしちゃうことあるよね? それと同じなの」


 自分にとって当たり前のこと過ぎて、意識しなくなっている。
 心理学的な盲点。


ミセ*゚ー゚)リ「でもそれって『ミセリ』みたいな女の子の名前なら使えますけど、女の子にも男の子にも使える名前だと相手の名前かもしれないですよね?」


 もしくは私に『ミセリ』という女の恋人がいる可能性だって考えられる。


「そうだね。でも今回の場合、一緒に刻まれてた文字で分かるでしょ。覚えてる?」

ミセ*゚ー゚)リ「勿論覚えてますよ私が貰ったものですから」

「名前以外に何が書いてあったっけ?」

178 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:06:05 ID:RqAuxQOc0

ミセ*^ー^)リ「『You're so cute that you made me forget my pickup line.』ですよ!」


 英語を発音する為の口を作って、流暢に言った瞬間に気付いた。

 書かれていた台詞は"You're so cute that you made me forget my pickup line"。
 意味は「お前が可愛過ぎるから用意してた口説き文句飛んじゃったよ」。

 ……丸分かりである(私に送られたものであるということも、私の馬鹿さも)。


ミセ;* -)リ「うぼぁー、馬鹿か私はー……」

「星座象ったアクセサリーとかにも応用できるよ。普通、天秤座のネックレスしてる人は9月か10月生まれだ」

ミセ;*゚ー゚)リ「あっ!でも! でも誕生日当てるのは凄いですよね!?」

「凄いケド、それに至っては『魔法の数式』って言っちゃってるじゃん。自己申告通りに数式だよ」


 初めに「誕生日の『月』の数字に4を掛ける」。
 次に「その数字に9を足し」、更に「25を掛け」て、最後に「誕生日の『日』の数字を足す」。
 これは占いでもなんでもなくただの数学的な法則によるものだと会長は説明する。

179 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:07:04 ID:RqAuxQOc0

「『10月10日』とかだと分かりやすいけど、4掛けて9足して25掛けた段階で生まれた月に225足した数になってるの」


 ……えーっと。

 10(生まれた月)×4=40。
 40+9=49。
 49×25=1225。

 本当だ。
 先に225を引いた後に日を足せば分かりやすい――1000+10=1010、10月10日。


「もっと分かりやすいやつもあるよ。1〜9までで好きな数字を一つ選んでみて」

ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ6」

「6を二倍して、10足して2で割った後に元の数を引いてみて。この場合は6で引くの」

ミセ;*゚ー゚)リ「えっと……5?」

「この数式だとどの数を選んでも最後は5になるよね。こういう数式にトランプとかコインとかを組み合わせると、それっぽいよね♪」

ミセ*-3-)リ「へぇ〜」

180 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:08:06 ID:RqAuxQOc0

 数学者っていうのは凄いなぁ。
 この場合だと、その後にやった「結婚すると幸せになれる年齢を当てる数式」っていうのも何か法則があるのだろう。

 そうして会長は言った。


「言葉の選び方にもトリックがあるよね。例えば『周りを気にする』って言葉とか」

ミセ*゚ー゚)リ「『外見を気にして可愛くしてる』ってことじゃないんですか?」

「勿論そういう風に解釈もできるケド、『他人を恐れてオドオドしてる』って意味にも『ルールをちゃんと守り誠実に生きてる』って意味にも取れるよね?」

ミセ*-ー-)リ「あー……そう言えばそうですね」


 観察で読み取ることに加え、上手い具合に話を運ばれてしまっていたのか。


「こういうのを『コールド・リーディング』って言ったりする。占い師だけじゃなく、社長さんとかカウンセラーとかも使う技術だね」

ミセ*-ー-)リ「頭の良い人もいるもんですねぇ」


 トリックを明かされても怒る気にはなれない。
 だって――魔法でこそなかったけれど、お爺さんの話が面白かったというのは紛れもない事実なのだから。

181 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:09:09 ID:RqAuxQOc0
【―― 6 ――】


 さて。

 私が本物の『占い』と遭遇することになったのは、会長からそんな種明かしがなされた――まさにその日だった。
 世間一般に行われている占いがただのトリックだと分かったその日に本物の魔法に出逢うことになるなんて、ある意味ではとても皮肉だ。 

 皮肉で。
 数奇で。
 滑稽で。

 そう、それが。
 その『占い』に端を発する事件で出逢うことになったものが。
 「魔法でありながら」――同時に「魔法ではないモノ」だったのだから尚更だった。


 この世が一つの記された物語で、筆を持つものを神と呼ぶのなら。
 それは、まるで。
 神様が「世界にはまだまだ神秘が多いのだ」と高らかに笑っているようだった。

 ……なんてね。


.

182 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:10:17 ID:RqAuxQOc0
【―― 7 ――】


 チャイムが鳴って、一日の授業が終わる。
 大きく伸びをすると気持ちが良い。

 まだ今日が月曜日で、あと何日も学校に来て授業を受けなければならないことは憂鬱だけど、それでも一段落だ。


ミセ*>ー<)リ「くぅ〜……っと」


 両手を伸ばしたまま少し背中を反らし、むっつりな男子の注目を軽く集めてから筆箱を鞄へと仕舞う。
 現代文の教科書とノートはそのまま机の中にオンだ。
 どうせ今日は宿題はないし、私は現文は得意中の得意なので予習をする必要もない。

 それはもう、とてもとても得意だ。
 畳語法。


 私のファースト幼馴染は騒がしい教室からさっさと鞄を持って出て行ってしまう。
 奴は放課後からティータイム、もとい軽音部の部室へとギターで遊びに行く。

 さて私の方はどうしようか。
 会員登録しているスポーツクラブに行って泳いだりジム友達と遊んだりするのも良いんだけど。
 そんなことを考えつつ、私は隣を伺う。

183 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:11:13 ID:RqAuxQOc0

 私の隣の席には一人の少女が座っている。
 朝比奈でぃ。

 女子にとって非常に重要と言える顔に大きな傷が残っているが、それでも彼女の清楚な可愛らしさは損なわれることはない。
 また女子にとって大切な髪(女子に大事なものは多いのだ)は一纏めにされていて柔らかに揺れている。
 全体的に清純な印象を与える彼女にもう心に決めた人がいて、しかもあーんなことやこーんなことをもうやっちゃってるのは信じられない。
 いやある意味では無茶苦茶信じられる、私が男子なら普通に結婚したいくらい可愛い。

 男子諸君は残念で仕方がないだろう。
 ……まあ、ほとんどの生徒はそのことを知らないけれど。


 そして、彼女が何者であるのかも――皆は知らない。


(#゚;;-゚)


 でぃちゃんはぎこちなくパカパカするケータイを見ていた。
 スマートフォンじゃないのは激しい動きをして落としてしまうことを懸念してだろうか。
 いやえろい意味じゃなくて。

 段々と皆が教室を後にし、私は部活に行ったり帰路に着く友人達に手を振っている。
 そんな中ででぃちゃんは帰る準備もせず、携帯の画面を睨んでいる。

184 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:12:11 ID:RqAuxQOc0

 何があったのかを訊くついでに私は問い掛けた。


ミセ*^ー^)リ「ねぇ、でぃちゃん。放課後暇なら遊びに行かない? 面白い占い師を見つけたんだけど」

(;#゚;;-゚)「……申し訳ありません。お誘いは嬉しいのですが行けません、用事ができたのです」


 ほら、やっぱりね。
 "just as I expected"。

 断られるのは予測通りなので更に訊く。


ミセ*゚ー゚)リ「何かあったの?」

(;# ;;-)「ええと……」


 顔を俯かせ、口元に手を当てて暫し思案する。
 言って良いものか考えているのか。
 それとも、どう説明したものかと思っているのかな?

 タップリ十秒ほど考えて、でぃちゃんは答えた。

185 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:13:09 ID:RqAuxQOc0

(#゚;;-゚)「お仕事です。あの人と」


 あの人……?
 お仕事ということから察するにギコさんのことかな?
 私の前なんだから恥ずかしがらずに「ご主人様」って呼べば良いのに、かわいーなー。

 茶化してやろうとも思ったけれど、明らかに急いでいるようなので自重する。
 机の教科書を次々と仕舞っていく彼女に更に訊ねた。


ミセ*-3-)リ「そんなに急いでるってことは、もうすぐ何か出現するから今から戦いに行くってこと?」


 深刻な内容(恐らく命懸け)と反比例するような軽い調子の言葉に、本当に痛切な感じででぃちゃんは返す。


(# ;;-)「そうだったらどれほど良かったことか……」

ミセ*゚ー゚)リ「え?」

(#゚;;-゚)「ミセリさんの言葉に二つ訂正です。一つ目は『もう出現した後であること』」


 そして二つ目は。
 でぃちゃんは言った――「私は戦いに行かずにバックアップなのです」と。

186 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:14:03 ID:RqAuxQOc0
【―― 8 ――】


 大家さんに連れられて踏み入れた屋敷内は「廃墟となった洋館」という文字から想像できる通りのおどろおどろしい空気が漂っていた。
 十数年という歳月の為か、館は使われていた頃が想像できないほどに荒れ果て、不気味な雰囲気を有している。

 そのことを手伝っているのは、微かに感じる瘴気。


(,,゚Д゚)「(大家さんは『気休め程度のお祓いをしてくれれば良い』って言ってたけど……)」


 それは常人の感覚での話だ。
 ここでは、ある程度の霊的感受性を持つ人間ならば恐らく気分が悪くなるだろう。
 そして俺のような専門家ならば低濃度だが魔力が感じ取れる。

 この場所が現場であることは間違いなく、大家さんが目撃したモノも勘違いではなかったということだ。
 だから俺は専門家としてお祓いをするだけでは済ませてはいけない。


(,,-Д-)「(感じ的には妖気じゃない。だから妖怪変化や悪魔の類じゃない……ということは、人間だよね)」


 一歩踏み出す度にギシギシと軋む廊下を残留した魔力を伝い進む。
 場に残った魔力や思念を読み取ることのできる専門家は、それを踏まえて怪異のような『形のないモノ』に対処する。

187 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:15:05 ID:RqAuxQOc0

 今回の場合は死者の霊だ。
 人間であっても強い怨念や無念を抱いて死んだ者は鬼や化物へと変わるのだが、この人はそうではないらしい。
 召喚の経緯上、当然と言えば当然だ。

 そうして俺は応接間の壊れかけた扉を開け放つ。
 ここが、この洋館の中でも最も濃く魔力の残る場所。

 躊躇いなく足を踏み入れる。


(;, Д)「くぅっ――!」


 身体そのものが感覚器になったかのような錯覚。
 一歩踏み出す毎に身体が共振を始める。
 残留した思念と魔力は全身に纏わり付き更には内部へと入り込んでいく。

 心が塗り替えられるような、感覚。
 鳥肌が立ち、冷や汗が背中を流れて行く。

 視覚と聴覚が現世から乖離する。
 何かのイメージが。
 誰かの心が心に溶ける。
 それらは「感じ取った」はずなのに「思い出す」かのように想起される。

188 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:16:17 ID:RqAuxQOc0

 落ち着け。
 落ち着け。
 いつものことだと言い聞かせ、拡散するような自分を繋ぎ止め、集中し神経を研ぎ澄ます。

 心の奥底から湧き上がるイメージに耳を澄ます。
 そう、それは音楽だった。


 ――喩えるならば、それは天使の囁き。
 ――美しく甘く。
 ――幾重にも重なり合う音。
 ――空気を震わす共鳴する旋律。


 何処かで似たような音を耳にしたことがあるような気がして、しかしそれが何かは全く分からない。


(;,-Д-)「(こんな感じの音を何処かで聞いた気がする……。何処だっけ……?)」


 悩むことを一旦止め、頭に流れ込んでくるイメージを携帯に打ち込んでいく。
 「音」「楽器」「和音」「人間」「共鳴」「綺麗な旋律」「異国の地」「ピアノ」「鉄の棒」。

 フラッシュバックのように想起される曖昧な映像を書き記し、一通り書き終えると俺は彼女の元へと送った。

189 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:17:24 ID:RqAuxQOc0
【―― 9 ――】


 歩き出したでぃちゃんに私も続く。


(#゚;;-゚)「ギコさんが神道系大学の学生ということはご存知ですか?」

ミセ*゚ -゚)リ「うーんと……うん、知ってる」


 教室での雑談だったか、あの日の車の中だったかで聞いた気がする。
 まぁ何処で聞いたかなんてどうでも良い。

 そんなことはどちらでも良いことだ、"It dose't make any difference"。


(#゚;;-゚)「では一般に神主さんが足りていない――神社の数に比べて神主さんが少ないことはご存知でしょうか」

ミセ*゚ー゚)リ「そうなの?」

(#゚;;-゚)「はい。そうです、足りていないのです。なので参拝者が少ない神社は無人になることが多いのです」

ミセ*-3-)リ「ふ〜ん。神職だって言うのに世知辛いなぁ」

190 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:18:11 ID:RqAuxQOc0

 何処かの腋巫女みたいに人の全然来ない神社に延々居続けることのできる神主さんは中々いないのだろう。
 神職者と言えども霞を食べて生きていけるわけではないのだから。


(#゚;;-゚)「この西部にある神社の幾つかも無人なので近所の方がお祓いを頼みたい際に困ることが多いのです」

ミセ*゚ー゚)リ「つまり、そういう時にはギコさんが代わりにやってるってこと?」

(#゚;;-゚)「はい……今時御札を買いたいと思う方や神棚を設置しようと思う方は少数なので、あくまで急場凌ぎのお手伝いですが」


 要するに神道系大学の学生として神社の手伝いをしているわけか。
 いやギコさんが怪異のプロだっていうなら、提携とか業務の委託になるのかな?
 まあ大体は分かった。

 歩みを止めることもなくでぃちゃんは話を続ける。
 私も何処に行くつもりかさっぱりだがとりあえず隣に並び歩く。


(#゚;;-゚)「私達が行なうお祓いは地鎮祭などではなく、ごく簡単なものです。『夜中に妙な物音がする』などに対してのお祓いなのです」

ミセ*^ー^)リ「そういうのって、たまにだけど気にする人もいるもんね」

(#゚;;-゚)「はい。ですが大抵の場合は杞憂です。多くが勘違いなのです」

191 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:19:10 ID:RqAuxQOc0

 "One always proclaims the wolf bigger than himself"。
 幽霊の正体見たり枯れ尾花。


(#゚;;-゚)「この周辺は霊的に安定しているので森の奥深くや山の中に行かなければ怪異は出て来ません。普通に暮らしていれば、まず遭わないのです」


 考えてみれば、そうだ。

 私はどうやら妖怪変化の類を視認することができるらしいけれど、神●ボイスの高校生みたいに妖に追いかけられて困ったことは一度もない。
 「あれ?変だな?」と思うことはたまにはあったが、それは本当にごく稀で、それも無視できるレベルのものだった。
 今までの人生の中で、はっきりとそういったものを――『怪異』を視たのはでぃちゃんとの出逢いを除けば、あの日だけだ。

 それは私にとって当たり前のことだったけれど。
 ……もしかしたら、とても幸せなことだったのかもしれない。


ミセ*-ー-)リ「ここって平和なんだ。何か理由があるの?」

(#゚;;-゚)「人ならざるモノだって命は惜しいのです」

ミセ*゚ー゚)リ「え?」

(#゚;;-゚)「…………この話はまた今度にしましょう。今はギコさんの話です」

192 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:20:03 ID:RqAuxQOc0

 それは良いんだけど――さっきからでぃちゃん、ちょっと変だ。


ミセ*゚ー゚)リ「ギコさんがお祓いをやってるってことは分かったんだけど、杞憂だって言うなら何をそんなに心配してるの?」


 そう、でぃちゃんは心配している。
 どころか、それを少し通り過ぎてちょっと怒っている感じなのだ。

 奥床しい感じだけど、実は過保護な子なんだろうか。
 いや「ラブラブ」なのかな?
 ギコさんもギコさんで、でぃちゃんのことを心配しているっぽかったし。

 私の疑問に、端的にでぃちゃんは答える。


(#゚;;-゚)「『普通に暮らしていれば怪異には遭わない』ということは――『異常な状況で怪異に遭遇することは大いに有り得る』ということなのです」


 でぃちゃんは言った。
 例えば前回の場合なら殺生石のように、基本的に人に害を及ぼす怪異が出現しにくい地域でも、強い依代があれば話は別なのだ。
 『普通に暮らしていれば』大丈夫だとしても『異常な状況で』ならば。 

 そして、『異常な状況を作り出した』のならば、尚更だ。

193 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:21:08 ID:RqAuxQOc0
【―― 10 ――】


 今回の依頼人はある地主さんだった。
 結構なお金持ちで、方々に土地や物件を持っていて、事件が起こったのはその多くある内の一軒だった。

 そこは十何年か前に持ち主が死に、売りに出されていた洋館だった。
 前の住人は発狂して死んだとか噂されてるけど定かではない。
 お金持ちな地主さんは数年前に購入したきりで、掃除や取り壊しもせず放置していた(地価の値上がりを見込んで買ってみただけらしい)。

 一応バックグラウンドはこんな感じだ。


 さて、本題。

 昨日の夜、仕事場から車に乗って帰っていた地主さんは、その洋館の前を通った。
 「改修して別荘にでもしようかな」と横目で伺いつつ考えていた時に気付いた。

 ―――廃墟となっているはずの屋敷の奥から、光が漏れていることに。

 聞く人によっては怖い話だけど地主さんはそんな風には全く思わなかった。
 土地を沢山管理していると、空き地などに勝手に車を停められていたり、子どもが遊んでいたりすることもしょっちゅうらしい。
 だから今回も中学生か高校生が夜遊びの拠点にでもしているんだろうと考えてクラクションを鳴らした。
 けどガキ共が慌てて飛び出して来るってことはない。

194 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:22:03 ID:RqAuxQOc0

 夜分に何度も大きな音を出すのも近所迷惑だし、仕方がないから直接注意しに行くことにした。
 ……そう決めたは良いんだけど、長い間放置していた所為で裏口や勝手口が何処だったかすっかり忘れてしまっていた。
 玄関はしっかりと施錠してあり入れない。

 幸い自宅は近くだったので、地主さんは一旦家に帰ると屋敷の鍵を持って戻ってきた。
 そうして誰に憚ることもなく玄関の扉を開けて奥に進み、そして最後に地主さんは度肝を抜かれることになる。

 応接間の壊れかけた扉の向こうにあったのは、怪しげな道具と魔法陣、消されたばかりの蝋燭の匂いが残る儀式場だったのだから。


(#゚;;-゚)「現場から推測する限りではどうやら交霊会(降霊術)に使われていたようです。『オートマティスム』と呼ばれるものですね」

ミセ*゚ -゚)リ「何それ?」

(#゚;;-゚)「霊的存在とチャネリング――交信することにより、無意識に記述などを行なうことです。『自動筆記』などとも呼ばれています」

ミセ*^ー^)リ「ああ、コックリさんみたいなやつ」


 霊を降ろして、質問に答えてもらう系の儀式か。
 一部では愛好者も多いと聞いたことがある。


(#゚;;-゚)「日本においては、巫女が行なう言語を用いたものを『口寄せ』と呼びますが、これも降霊術の一種です」

195 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:23:23 ID:RqAuxQOc0

 そんな儀式に自分の土地が使われていたと知ったら、気休めでもお祓いをしたくなるのもよく分かる。

 この地域では滅多なことがなければ怪異が出没することはない。
 しかし、人間の側が条件を整えた、『異常な状況で』ならば容易くそれらは姿を現す。


ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ今回は気のせいでも勘違いでも……ない?」

(#゚;;-゚)「そうです、その通りなのです」


 ……地主さんの話には更に続きがある。
 蝋燭などの火の始末を確認し、一先ず今日は帰ろうと振り返った、その時。

 後ろの廊下を――誰かが通り過ぎていった、

 らしい。
 オマケに水の入ったガラスを擦ったような妙な耳鳴り付きでだ。
 何か良からぬことが起こったということは最早確定的に明らかである。


ミセ*-3-)リ「ふ〜ん……。で、ギコさんは現場に行って情報を集めて、でぃちゃんが学校で補佐なんだ」

(#゚;;-゚)「そういうことなのです」

196 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:24:11 ID:RqAuxQOc0

 そして今、私達は図書館にやって来ていた。
 淳校の図書館は中高併設であることと地域の人に開放されていることもあり、私大にあるような立派でお洒落な建物だ。
 とは言っても、私はあまり来ないが。

 伝承や逸話などの本を集めた巨大な本棚の間で、でぃちゃんは話を続ける。
 周りに人はいないが内容が内容であり、また場所が場所なので二人共声を絞っている。


(#゚;;-゚)「ギコさんの使う『禁呪』という魔術は相手の名前を知っている場合に最大の効力を発揮します」

 
 あの時、九尾の狐に使ったように。
 相手の名前を知っていれば、最大の効力で相手そのものを『禁じ』ることができる。

 ……ううむ、何処かの神●ボイスの高校生を思い出す設定だ。


ミセ*-3-)リ「だから補佐のでぃちゃんがやるのは、」

(#゚;;-゚)「はい。現場の状況やギコさんが感じ取ったイメージを元に、『相手が何者であるのか』を推測することなのです」

ミセ*゚ー゚)リ「現場の状況は分かるけど……イメージって?」

(# ;;-)「……それが私が心配していることなのです……はぁ……」

197 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:25:04 ID:RqAuxQOc0

 手に取っていた本を棚に戻し、溜息を吐く。
 そんな仕草が外見に似合っていてとっても可愛い。


(#゚;;-゚)「先ほどチャネリングや口寄せの話をしましたが、そのように霊的な存在と交信できる人間を『霊媒』または『霊媒者』などと呼びます」


 『霊媒』――霊的な、触媒。


(#゚;;-゚)「ハッキリと怪異が視えるミセリさんも霊的感受性や親和性は高いと思います」

ミセ*-ー-)リ「そうなの?」

(#゚;;-゚)「はい。……ですがギコさんのそれは、ミセリさんの持つ霊能力とは別種なのです。あるいは一つ上、のような」

ミセ*゚ -゚)リ「どういうこと?」

(#゚;;-゚)「ミセリさんが持つ能力は認知能力ですがギコさんが有しているのは共鳴能力なのです」


 共鳴能力。

 それは単に「視る」のではなく「感じ取る」能力。
 その魔を取り込み、自分の内部から湧き上がるイメージを読み取る力だ。

198 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:26:29 ID:RqAuxQOc0

 日常的に使う言葉で言えば『共感能力』となるのだろう。
 私が単に、怪異という存在を視認するだけだとすれば、ギコさんは五感をフルに使い更に奥深くまで感じ取る。
 あるいはそれは意識を保ったままの簡易な憑依。

 ……でぃちゃんが心配している理由が、分かった気がする。
 古いニュータイプの例を引くまでもなく他者の思念や意思を飲み込み続けていて本人に負担がかからないわけがない。

 人間は他人の心が分からない。
 だが皮肉なことに、本当に他人の心が分かるようになった際に待っているのは自我の崩壊だ。
 私達は他人の心が分からないからこそ生きていけるのだ。


(#゚;;-゚)「ミセリさん。あなたが怪異を視ないことができないように、ギコさんは生きているだけで周囲の魔力と共鳴を起こす」

ミセ*゚ -゚)リ「…………なら、それって『能力』じゃなく『体質』って呼ぶんじゃない?」

(# ;;-)「そうですね、そうなのです。でもあの人はそういう体質を生かして生きていくことに決めてしまった。だから私は心配なのです」


 だから私は心配なのです、と。
 もう一度でぃちゃんは言った。

 私はどう返答すべきか迷い、結局当たり障りのないことを言った。

199 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:27:14 ID:RqAuxQOc0

ミセ*^ー^)リ「じゃあ、早く調べ終えて少しでも負担を軽くしてあげないとね」


 はい、とでぃちゃんは答えた。
 心なしか嬉しそうば声。

 私は彼女の事情も心情も分からないけれど、どうやら、少しは気持ちを楽にしてあげられたらしい。


ミセ;*゚ -゚)リ「そうと決まれば私も手伝いたい……んだけど、今回って死者の霊が呼び出されてるんだよね?」

(#゚;;-゚)「はい、恐らくは」

ミセ*゚ー゚)リ「…………『どういう怪異か』じゃなくて『どの人か』を探し当てるのは常識的に考えて無理じゃない?」


 そう。
 そうなのだ。

 話を聞く中で気になっていたけど、今回の件は前回と違い「相手がどういった怪異か」は既に判明している。
 降霊術で呼び出されているわけだから十中八九死んだ人間の霊魂――『死霊』である。
 もう既に問題を解決する為の必要最低限な情報は出揃っていて、ギコさんがやるべきなのは「その霊を探し出してお祓いしお帰り頂く」という一点。

 それこそ神主さんよろしくだ。

200 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:28:22 ID:RqAuxQOc0

(# ;;-)「まず最初に訂正しておきます。『呼び出されたのがどの人であるか』は探しようはあります」


 私の問いにでぃちゃんは視線を伏せ気味に答える。


(#゚;;-゚)「交霊会で呼び出された霊は『参加者の知り合い』か、『歴史上で有名な人物』かのどちらかです。見ず知らずの人を呼ぼうとは思わないのです」

ミセ*-3-)リ「う〜ん、それもそうかな?」

(#゚;;-゚)「そして今回の場合は単にお帰り頂くことが目的ではない。ギコさんの目的は、呼び出された霊に成仏して貰うことなのです」


 ただ祓ってしまうのではなく。
 少しでも満足してさせ――その後に帰ってもらう。

 つまり。


(#゚;;-゚)「…………私は今、説得の材料を探しているのです」


 私は口を噤んだ。
 「それって単に相手が誰かを探すよりもよっぽど難しくて面倒じゃない?」と素直な感想を言ってしまいそうだったからだ。
 やれやれ。

201 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:29:11 ID:RqAuxQOc0

 これからすべきことを整理してみよう。

  ・交霊会で呼び出された霊が何処の誰なのかを探し出す
  ・その霊が遺恨なく帰れるような説得材料を探す

 ……いや。
 いやいやいやいや……難しくない、これって?
 どうすりゃ良いのさ。

 ド●クエで言えばZだ。
 私達は本題に入る前段階でうろちょろしているに過ぎない(まあリメイク版は長いオープニングも短くなったらしいけど)。


(#゚;;-゚)「更に時間制限があるのです。今は霊魂は大人しい時間帯ですが、逢魔時――午後六時前後になれば本格的に動き出すでしょう」

ミセ*゚ー゚)リ「夜になればどっかに行っちゃうってこと?」

(#゚;;-゚)「そうです。今はギコさんが注意していますが、長引くと誰かに目撃されることもあるでしょう。……誰かに悪い影響を与えることも」


 時計を伺う。
 現在四時半。

202 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:30:13 ID:RqAuxQOc0

 難問の上に時間がなさ過ぎる。
 "ASAP(As soon as possble)"である。

 早く呼び出された霊の正体を突き止め、説得材料を探さなければならない。


ミセ*゚ -゚)リ「ギコさんからのメールを見る限り……音楽に関係してる人、だよね?」

(#゚;;-゚)「はい。『多くの人が集まる様子を視た』らしいので、それもある程度は有名な方でしょう。今回の場合は『歴史上で有名な人物』なのです」


 というか『参加者の知り合い』だとしても、交霊会をやってた連中が何処の誰かが分からない以上はどうしようもない。


(#゚;;-゚)「見当は付きますが。……きっと魔術に興味のある方々やニューエイジ系の思想を持つ方なのです」

ミセ*゚ -゚)リ「まぁ魔法とか神秘に興味がある人は分かるけど、もう一つの方は?」

(#゚;;-゚)「カウンターカルチャーの一つですね。アメリカの西海岸では勢力も強く根強く残っているそうなのです」

ミセ*゚ー゚)リ「新興宗教系?」

(#゚;;-゚)「そうなるのでしょうか? イメージとしてはもう少し広い感じがしますが……」

203 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:31:15 ID:RqAuxQOc0

 でぃちゃんは小首を傾げた。
 ……どうやらそこまで詳しいわけではないらしい。

 考えてみれば世界中に宗教はあるのだから、「どの宗教がどんな教義を持つのか全て把握していろ」という方が無理な話だ。
 第一、私も自分の家が何なのか知らない(無宗教ではないと思うけど)。
 『怪異の専門家』だっていうギコさんも世界中の怪異を知っているわけではないのだろう。


ミセ;*-ー-)リ「『音楽に関係した人』で『ある程度知名度がある』って……」


 ヒントが少な過ぎる。
 そして該当者が多過ぎる。


(#゚;;-゚)「ギコさんの視たイメージはヨーロッパ風の街並みだったそうです。ただあの人は海外の文化に詳しいわけではないので具体的にどの地域なのかは……」

ミセ*゚ー゚)リ「こう言っちゃなんだけど、歴史に名を残すような音楽家って大抵ヨーロッパの人だよね?」

(# ;;-)「……そうですね、その通りなのです」


 …………ヒントになってなーい。

204 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:32:13 ID:RqAuxQOc0

ミセ*゚ー゚)リ「よし、なら違う方面からアプローチしてみよう。私もでぃちゃんも音楽に詳しいわけじゃない――だよね?」

(#゚;;-゚)「そうですね。詳しいとは言い難いのです」

ミセ*-ー-)リ「だから、この学校の音楽に詳しそうな人に訊いてみるのはどうかな?」

(#゚;;-゚)「その方が可能性は高そうですね。名案なのです」


 私は鞄からノートを取り出すと白紙のページのあちこちに出てきたキーワードを書いていく。
 言わば逆マインドマップである。
 中央が空けてあるので、周囲に書かれた用語全てと関係する人物が真ん中に入れば良いってわけだ。


ミセ*^ー^)リ「これを物知りそうな人に見せて『真ん中に入る人名はなんですか?』って訊ねていこうよ」

(*゚;;-゚)「……凄いです」


 やはりミセリさんは頭が良いですね、なんて言ってでぃちゃんは笑った。
 いやぁ、それほどでもある。
 自分で言うのもなんだが私は頭の良い方だ――そしてこのマンモス校には私より頭の良い人間がごまんといる。

 きっと呼び出された幽霊が誰なのか分かるはずだ。

205 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:33:14 ID:RqAuxQOc0

 一応。
 本格的に動き出す前に気になっていたことを私は訊いておいた。


ミセ*゚ー゚)リ「ちなみになんだけどさ。これって名前が分からなかった場合や説得出来なかった場合――どうなるの?」

(#゚;;-゚)「……その場合、幽霊は私がお帰しします。力尽くで、です」


 たとえギコさんに嫌われたとしても。
 あの人が傷付けられる前に力技で消し去ります、と。
 そんな風にでぃちゃんは言った。

 私の脳裏に浮かぶのは彼女が橙色の魔力を纏い日本刀を大上段に振り上げるイメージ。
 そういうバトル展開の方が少年マンガ的には受けそうだけど、生憎これは現実だ。

 それに。


ミセ*^ー^)リ「……そっか。それは大変だね、幽霊もでぃちゃんも。だったら頑張らないと」


 可愛い女の子が好きな人に嫌われて涙を流す姿なんて乙女で美少女好きな私としては見過ごせない。
 ストレスよりロマンスだ、ラブラブな結末があるのなら――どう考えたってそっちの方が良いのだから。

206 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:34:18 ID:RqAuxQOc0
【―― 11 ――】


 作戦の方向性は決まったが、今からの問題は誰に訊くかだ。


(#゚;;-゚)「ミセリさんの幼馴染さんは軽音楽部ではなかったですか?」

ミセ*-3-)リ「あー、アイツ等は駄目駄目。訊くだけ無駄だよ」

(;#゚;;-゚)「そうなのですか? なら、吹奏楽部の方はどうでしょうか?」

ミセ*゚ -゚)リ「うーん……詳しいのかな?」


 私は吹奏楽部には一人二人しか知り合いはいない。
 けど、例えば選択科目が同じなアリスちゃんは音楽は得意でも音楽史について詳しいって感じじゃなかった気がする。

 ……そうだ。


ミセ*゚ー゚)リ「会長に訊いてみれば良いんじゃない?」

(;#゚;;-゚)「会長さんですか?」

207 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:35:07 ID:RqAuxQOc0

 所謂「かいちょーお願いします」ってやつ?


(#゚;;-゚)「あの会長さんは、それほどまでに幅広い知識を有しているのでしょうか?」

ミセ*-ー-)リ「淳校の一会長四委員長は箱●学園ほどじゃないけど、それぞれ凄い人らしいよ?」


 風紀委員会委員長。
 自治委員会委員長。
 保健委員会委員長。
 図書委員会委員長。
 そして、生徒会執行部の『一人生徒会』。

 ……まぁ実際は風紀委員長・自治委員長・生徒会長のインパクトが強過ぎて残り二人の影が薄くなってるけど。
 「超高校生級」という言葉があるが、その三人は「超人間級」というような、希●ヶ峰学園に在籍してても全くおかしくないような天才だ。


ミセ*-ー-)リ「その三人に訊ねて分からないことがあるとしたら……多分、この高校の誰も分からないと思うし」


 勿論、教師陣も含めて、だ。


(#゚;;-゚)「そうなのですか……。なら最初はその三人に当たるということでよろしいでしょうか?」

ミセ*^ー^)リ「私の顔が効きそうなのは会長だけだし、会長からにしよっか」

208 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:36:03 ID:RqAuxQOc0

 他の二人は……どうだろう。
 どちらも「淳校の全生徒の顔と名前を覚えている」と言われているので、会いに行けば分かってもらえるとは思うが。
 それは快く協力してくれることとイコールではない。

 いや、協力はしてくれるだろうけど、あまり親しくない相手に頼るのは最後の手段にしたい。


(#゚;;-゚)「では、向かいましょう」

ミセ*^ー^)リ「会長の手を借りるとか……なんだかいきなり反則使う感じになっちゃって、ごめんね?」


 あの人の二つ名の一つは『歩く校則』だが、私としては『歩く反則』の方がよっぽど相応しい気がする。
 それくらいに会長はなんでも出来てしまう人だ。


(#゚;;-゚)「構いません。私は、謎解きがしたいわけではないのです」


 と、でぃちゃんは言って、続けた。


(# ;;-)「私はただ……あの人がもう傷付かなければ、それで良いのです……」

209 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:37:07 ID:RqAuxQOc0
【―― 12 ――】


 我が校の黒神●だかこと『一人生徒会』は、用事がない限りは淳校で最も空に近い場所――旧生徒会室にいる。
 五階六階に相当するその一室は天使を想起させる魅力と天上を連想させる名前を持つ生徒会長には相応しい場所なのかもしれない。

 なんて、そんなことを思った。


(#゚;;-゚)「ミセリさんは会長さんと親しいのですか?」

ミセ*^ー^)リ「まーねー。結構前だけど、駅前の美味しいオムライスのお店の近くで出逢って、友達になった感じ?」

(;#゚;;-゚)「……オムライスですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「会長、好きらしいよ? オムライス」


 雑談をしながら時計塔へと続く廊下を進む。
 ふと前を見ると、こちらへと一人の少女が歩いてきている。

 最近流行りの多人数のアイドルグループにいそうな普通に可愛い感じの子だ。
 一重でシャープ気味な顔立ちに、纏めた部分だけを伸ばしたツインテールのような黒のツーサイドアップ。
 彼女は、こちらに気付くと目礼をした。

210 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:38:07 ID:RqAuxQOc0

 そうして向こうが道を譲ろうと脇に避け。
 その時に、彼女が思い至ったように口を開いた。


リi、゚ー ゚イ`!「あー、生徒会長にご用ですか? だとしたら今は不在みたいですよ」

ミセ;*゚ー゚)リ「え?」


 立ち止まり、その少女の方へ身体を向け訊く。


ミセ;*゚ー゚)リ「会長……いないの?」

リi、゚ー ゚イ`!「そうみたいです」


 やべぇ。
 早くも詰んでしまった。

 楽をしてはならないという神様からのお叱りだろうか?
 ばんなそかな。
 そんなわけはないけれど運が悪過ぎる。

211 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:39:16 ID:RqAuxQOc0

 と、振り向き私がでぃちゃんと顔を見合わせた――その時だった。


リi、゚ー ゚イ`!「……あー、それってクイズですか?」


 その女の子が私の持っているノートの一ページに気付いた。
 興味があるの?と訊ねると「兄が好きなんです」とはにかむ感じで微笑んだ。
 確かに連想クイズにも見えなくはない逆マインドマップが書かれた紙を彼女に渡す。

 ……私はゲーセンのQ●Aでも連想クイズは苦手だけど、ああいうのって分かる人には分かるらしいし。
 ダメ元で意見を求めてみる。


ミセ*゚ー゚)リ「その答え、何か分かる?」


 少女はなんてことはない風に笑って、言った。


リi、゚ー ゚イ`!「…………分かった、と思います。そのクイズ好きな兄が特に専門とする分野の方なので」


 人物名ですよね?と少女は確認するように曖昧な笑みを浮かべる。
 私は思わず思った(冗語法的表現)。

 ―――神様、グッジョブ。

212 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:40:16 ID:RqAuxQOc0
【―― 13 ――】


 午後六時前後の日の入り間近から日没直後の一時のことを『逢魔時』と呼ぶ。

 その黄昏時は怪しいモノ達が活発になる時間帯だという。
 ギコさんは言った。
 「『黄昏』って言葉はね、『たそかれ(誰そ彼)』から来たって説があるんだよ」と。

 『誰そ彼』――「そこにいるのは誰ですか?」。
 そんな風に訊ねてしまうくらいに薄暗く怪しい時間。

 「そこにいるのが誰かは分からない、分からないんだけど誰かがいる――もしかするとそこにいる人は怪異なのかもね」。
 なんて続けてギコさんは笑う。
 「元々『黄昏』は『こうこん』と呼ぶ漢語の言葉です、無関係なのです」。
 そう返してでぃちゃんは笑わなかった。


 ……この三つの単語、『逢魔時』『黄昏』『誰そ彼』がどれかからの派生ならば、どれが最初だったんだろう。 
 もし無関係なんだとしたら、それはなんて偶然だろう。

 結局そこにいた人は誰だったんだろうか。
 人間か、怪異か。
 いやもしかすると――そこにいた人間がいつの間にか怪異に変わってしまったのかもしれない。

213 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:41:03 ID:RqAuxQOc0

 私達は子どもの頃に「暗くなる前に戻って来なさい」と教わるけれど。
 それは、あるいは。

 人間と怪異と。
 昼と夜と。
 此方と其方。
 境界線の上で子ども達が迷ってしまわないかと、昔の人が心配していた名残りなのかもしれない。

 そう――私達は現代でも、線を引く度に迷ってばかりだ。



(,,-Д-)「……行き止まりだよ」



 田舎道で、山道だった。
 トンネルの出口、闇が途切れるその場所にギコさんは立っていた。

 紅く黄色く染められる世界の中で。
 闇と光の境界線を渡るようにして立っている。
 不思議とそんな姿がよく似合う。

 職業はともかくキャラ的には完全に光サイドだと思うのに、どうしてなんだろう?

214 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:42:22 ID:RqAuxQOc0

 そして――相対するその人はトンネルの中で足を止めた。



(  ゚¥゚)



 電灯の類がない短いトンネル。
 薄暗いその場所に、一人の男性が立っている。

 ここから(ギコさんの後ろ)ではよく見えないけれど、なるほど確かに西洋っぽい服装だ。
 それに「なるほど」なことがもう一つある。
 その人の輪郭はぼんやりと揺らいでいて、その人の姿形は透けていたのだ。

 幽霊。
 死霊。
 ……彼はきっと、夜の世界の人間だ。


ミセ; ー)リ「っ……」


 そんな風に私が思った瞬間――私の頭の中に小さくだが、奇妙な音が響き始めた。

215 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:43:21 ID:RqAuxQOc0

 聞いたことのないような、でも何処かで聞いたことのあるような、奇妙な旋律。
 その美しいのに何故か妖しい音は彼から伝わるイメージか。
 どうやら私も認知だけではなく、多少は共感もできてしまうらしい。

 ギコさんも音が聞こえるようで目を細める。
 だけど、すぐに続けた。



(,,-Д-)「君の……あなたの名前は―――フランツ・アントン・メスメル。科学と魔術が線引きされていなかった時代に生きた、医者だ」



 フランツ・アントン・メスメル。

 独逸人。
 医師。
 そしてニューエイジのある書物で思想の重要性を説かれた人物の一人。

 ……聞き覚えのない人の方が多いだろう。
 だけどクイズ好きじゃないとしても、ある分野を学んだ人ならば聞いたことがあるかもしれない。
 きっと答えを教えてくれた女の子のお兄さんもそうだった。
 だから彼女も知っていた。

216 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:44:25 ID:RqAuxQOc0

 メスメルは動物磁気法という治療法を編み出し、次々と様々な病気の患者を診察し回復に導いたという。
 その中で最も有名な逸話の一つは「盲目のピアニストを治療した」というものだ。

 また彼は治療を行なう中で、グラス・ハーモニカを演奏していた。
 それはガラスを擦り共鳴させることで音を出す楽器。
 今私の中に響いている音楽や、ギコさんがあの儀式場で感じた旋律はそれによるものなのだろう。
 グラス・ハーモニカが精神をおかしくする悪魔の道具だと法律で禁止された後もメスメルは演奏を止めなかったという――それほどまでに、大事な。

 ……しかし何人もの患者を治癒させた彼は、祖国を追放され、当時の科学アカデミーにも理解されないまま生涯を終えた。


(   ¥)『――――』


 彼が口を開く。
 その言葉は肯定か否定か、分からない。

 私は気付く。


ミセ;゚ー゚)リ「(そっか……! 向こうはドイツの人だから、こっちが何言ってるか分からないんだ!!)」


 次いで気付くのが遅過ぎたことにも気付いた。

217 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:45:28 ID:RqAuxQOc0

 たとえ相手が誰か分かったとしても、どれほど説得材料を揃えたとしても。
 それは「言葉が通じる」「会話ができる」という前提があってこそ有益なものであり、この状況では全く意味を成さない。

 でぃちゃんは気付いているのだろうか。
 いやそれよりもギコさんだ。
 対話を試みている本人が気付いてないはずがないんだけど……。

 そして―――。



(,, Д)『……はじめまして。会えて光栄です』



 ―――次の瞬間には。
 不思議なことが起こっていた。

 会話ができていた。


(  ゚¥゚)『分かるのか……私の言葉が?』

(,, Д)『なんとなくですが、一応は』

218 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:46:30 ID:RqAuxQOc0

 ギコさんの言葉に相手が答える。
 そんな当たり前なことが可能になっている。

 しかも――周囲で聞いている私達にもその意味が分かるのだ。


(  ゚¥゚)『ならばそこを退いてくれ。私は唯一の後悔を、無念を果たしに行く途中だ』

(,,-Д-)『できません』


 それは頭の中に響く声で。
 それは心に語りかける声だった。

 直感的に理解する。
 ……これは、ギコさんの力なんだ。
 『共鳴能力』とまで言われる霊的感受性を最大限にまで生かし、周囲の人間にまでイメージを伝播する――そんな能力。

 だから。


(,,゚Д゚)『一つだけ言わせて下さい。あなたは間違ってなんかいなかった』

(  ゚¥゚)『…………』

219 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:47:27 ID:RqAuxQOc0

 きっとその人にも、多少のニュアンスの違いこそあれど伝わるはずだ。


(,,-Д-)『あなたの技術は魔法ではなかった。ひょっとすると、科学でさえなかったかもしれない』


 だけど。
 そうだったとしても。


(,,゚Д゚)『でも――あなたがいたことで、心理学は少し進歩した。解析不能な症状に苦しむ人達が沢山助かった』


 そう。
 そうなんだ。
 彼の名前は心理学を学ぶ人間なら誰でも知っている。

 ジャン・マルタン・シャルコーと並び、心理学における催眠療法の祖となった人物であると。
 投薬でも手術でも治癒しない、悪魔祓いに頼るしかなかった数々の精神病が治せるようになったのだと。

 だから。


(,,-Д-)『だから、あなたは間違ってなんかいなかった。……それだけは覚えていて欲しいんです』

220 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:48:09 ID:RqAuxQOc0

 そう言ってギコさんは黙った。
 彼も黙ったままだった。

 やがて、世界が夜に染まり始めた頃――口を開く。


(  -¥-)『…………そうか。なら、あの後悔は後悔のままで、良いのかもしれない』


 そう一言呟いて。
 彼は背を向ける。
 最早こちらとの境界は闇に溶けなくなってしまったけれど、彼はここに来ようとはしなかった。

 ただ背を向け。
 歩き出し。



(   ¥)『ありがとう。……世話をかけたな』



 そうして闇の向こうへと――消えて行った。

221 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:49:10 ID:RqAuxQOc0
【―― 14 ――】


 後日談というか、本日のオチ。

 あの後、でぃちゃんは後始末が残っていたギコさんと別れ一人で帰ったらしいが、帰る途中に会長と会って話したらしい。
 今回の件の概要を聞いた会長はまた見透かしたような見通したような笑顔で知った風なことを語ったようだ。

 そうそう、あの廊下であった女の子は自治委員会委員長の妹さんだった。
 会長よりも物知りだという自治委員長なら、心理学の発展に多大な貢献をした医師のことを知っていてもおかしくはないだろう。
 そして妹であるあの子が話に聞いていたとしても妙ではない。

 そして――私の話。


ミセ*゚ー゚)リ「…………あれ?」


 交霊会は占いの為に開かれるものだ。
 なら現代の占い師である、あの心理学に詳しそうなお爺さんならどう思うのだろうと次の日に会いに行くと――そこにはもう、誰もいなかった。


ミセ*゚ー゚)リ「まさか、実はあの人も怪異でしたーってオチ?」

( ・∀・)「……よ!」

222 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:50:07 ID:RqAuxQOc0

 そんな風に考える私に後ろから声がかかる。
 振り向くと、そこにはあの紅い人。

 いつだったかギコさんを手伝っていた悪っぽい感じのイケメンさん。
 請負人、何でも屋である彼が立っていた。
 時間も空いてしまったことなので先日あったことのさわり(御用ではない意味)を話すと、お兄さんはなんとも悔しそうな顔をする。


( -∀-)「うわー、マジかよ。俺も会いたかったのに……そんなに早く成仏しなくても良いのになー」

ミセ*^ー^)リ「お兄さんも心理学に興味があるんですか?」

( ・∀・)「興味があるも何も俺の大学時代の専攻って心理学」


 なるほど、そういうことか。


ミセ*゚ー゚)リ「大先輩ってわけですねぇ」

( ・∀・)「そーだな。俺は催眠療法は使えねーけどさ。それでも、どんだけ凄い人かは知ってるさ。たとえピアニストを治すことはできなかったとしても」

ミセ;*゚−゚)リ「え?」

223 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:51:11 ID:RqAuxQOc0

 あれ?
 おかしいな?

 盲目のピアニストなら治癒したんじゃ……?


( ・∀・)「『治癒した』んだっけ? 俺の知る限りじゃ『治療を試みたが精神を害したと訴えられた』って話なんだが」

ミセ;*゚ー゚)リ「え、そうなんですか?」

( -∀-)「そーだよー? ま、どっちにしろ裁判沙汰になったのは確かだよ。有名な話だし」

ミセ;*゚ー゚)リ「あれ……じゃあ、もしかして……」

( ・∀・)「どうかしたか?」


 すみません、またいつか!と私は別れを告げて駆け出していた。
 お兄さんの引き止める声を置き去りにして走り出す。

 メスメルは盲目のピアニストを治療した。
 治ったのかは分からない。
 けれど、最終的には「精神を病んだ」と訴えられてしまった――なら。

224 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:52:06 ID:RqAuxQOc0
【―― 15 ――】



 ―――先輩、知っていますか?

 メスメルというお医者様は「人間の身体には『流体』が流れていて、それが滞ることで病気になる」と考えていたんです。
 鉄の棒を使ったり磁石を使ったりしていたのは、その流れをどうにか正常に戻そうと試行錯誤していたからだそうで。

 あー、東洋医学的に言えば『気』になるんでしょうか。
 そう言えば患者の自己治癒力を促進するって考え方は西洋では珍しいものですよね?
 そういう意味でも先進的と言えるかもしれません。


 私達は人間には『気』なんてものはないって知っています。
 ……あー、いやあるかもしれないですけど、現在の科学では立証されていないですよね?

 東洋医学における気を刺激するツボはリンパ腺を刺激するツボです。
 押して症状は良くなりますが、でもそれは『気』は関係ない。


 でも、ちょっと面白いと思いませんか?
 何故って?

 だって――リンパ腺って、つまり『流れ』じゃないですか。

225 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:53:16 ID:RqAuxQOc0

 血管だってそうですよね。
 あれは血液が流れる管です。

 他には……私達の意識に関係するアルファ波とかベータ波とか、ああいうのだって電流なんだから『流れ』ですよね?

 脳内の電気信号で言えばてんかんだってそうですよ。
 てんかん発作はてんかん放電という異常活動により神経が過剰に反応することで起こるらしいです。
 ……あー、神経系だって『流れ』ですかね?

 私達の身体の根幹である心臓だって『流れを生み出す機関』と考えることもできますね。
 血液を送り出し、鼓動を刻む。
 その音が乱れる時って不整脈とか、あるいは心停止みたいな病気です。
 これも『流れ』と言えると思いませんか?


 他にもあります。
 会話が滞りなく流れていかなければ二人の間には異常が生じている、とか。

 あと、社会学における閉鎖系(外部との交流がない組織)は不健全なコミュニティとして知られているんですが、これは「人の『流れ』がない」ということ。

 人間関係は影響の与え合いとも言えます。
 気持ちが伝わることが大切。
 だとしたら相互理解もできず共感も不可能な関係では心の『流れ』が断絶している。

226 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:54:10 ID:RqAuxQOc0

 私もメスメルさんが言っていたことの全部が全部正しいとは思っていません。 
 でも、比喩としてなら的を射ていると思います。

 斯く言う私達だって、ああいう人達が生きた歴史の先に、歴史の『流れ』の中に生きているんですから―――。



ミセ; ー)リ「―――……はぁ、はぁ、はぁ…………」


 私の脳内で。
 血液と共に記憶が駆け巡った。

 遥か昔にドイツで生きた医師のことを教えてくれた女の子の言葉が駆け巡った。


ミセ; ー)リ「はぁ、はぁ、はぁ……!」


 ……熱い。
 心臓が張り裂けそうだ。
 久々の全力疾走は辛過ぎて、死にそう。

 疲れるのはえっちぃことだってそうなんだけど、走るのは辛いだけで全然気持ち良くない
 マラソンランナーは一体何考えて走ってるんだろう?

227 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:55:11 ID:RqAuxQOc0

 私はあの人が立っていたトンネルを抜けて、あの時私達が立っていた場所も過ぎて、その先に立っていた。
 そうして少し盛り上がった道の上から、そこを見下ろした。

 そこにあるのは――隣町の特別支援学校。


ミセ;*^ー^)リ「……ははっ。っは、はっはっは……!」


 思わず笑いが出てしまった。
 肩で息をしつつ笑う。

 ああ、そうか。
 そうなのか。
 「後悔」とか「無念」とかそういう言葉の意味は「当時社会に認められなかったから現代で見返してやりたい」ってことだと思っていた。

 だけど違ったのだ。


ミセ*^ー^)リ「どうでも良かったのかもなー……そんなコト」


 医者とか学者さんには偏屈な人が多いと聞くし。
 自分が社会に受け入れられたかなんて、どうでも良かったのかもしれない。

228 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:56:07 ID:RqAuxQOc0

 だけど、だけど、だけど。


ミセ*-ー-)リ「お医者さんなんだから、そうだよね……。自分の治療で苦しんだ人がいたと思ったなら後悔するよね……」


 後悔するし。
 無念だっただろう。
 だから。

 ……私はあえて、その先の言葉は口にしなかった。
 少し野暮だと思ったし、本人が考えていたこととは全然違うかもしれないと思ったからだ。


 空を見上げると光が眩しい。
 宇宙から見る限りではこの地球には国境線はないらしい。

 ただ一つ私にも言えることは――全てに等量に降り注ぐこの光の中には、神様から見た世界の中には、境界線なんてないってことだけだろう。






【――――そこまで。第三問、終わり】

229 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/25(土) 16:57:08 ID:RqAuxQOc0


 「今は斯く さみだるるのみ 藤葛」


【歌意】
私の人生ももう終わりだ、五月の雨が降るばかり、今となってはもうひたすら藤や葛が乱れているだけだ。
(古語ではこれだけの意味だが、藤と葛が心理学における『葛藤』の由来になったことを踏まえれば「私の心はとかく乱れている」と解釈できる)

【語法文法】
冒頭の『今は斯く』は「今は斯う」とも書かれ「最早これまでである」「今となっては」「別れの時だ」というような意味の決まり文句。
『さみだるる』はラ行下二段活用「五月雨る」の連体形。掛詞であり、同じくラ行下二段活用の「さ乱る」と掛かっている。
前者は文字通り「五月雨が降る」という意味。対し、後者は「乱る」に接頭語の「さ」が付いたもので「乱れる」という風に訳す。
この接頭語の『さ』に意味はない。語調を整える為に付けるか、意味を強めるか、くらいのもの。
次の副助詞『のみ』は様々な用語に付き、また意味も多い。限定用法としては「〜だけ」「〜ばかり」となる。
強調では「特に」「とりわけ」と訳し、用言を強める場合には「〜しているばかりだ」「ひたすら〜である」で、ただの断定として「〜だけだ」を意味する。
今回は『五月雨る』に対しては限定用法として、『さ乱る』に対しては用言を強める形で訳してみた。
また『葛』は古典世界では一般的に秋を表す植物であり『五月雨』は田植えの季節(旧暦の五月)に降る雨のことなのは留意すべきだろう。

【特記】
参考にした歌は和泉式部日記より「おほかたに さみだるるとや 思わらむ 君恋ひわたる 今日のながめ」。
事前知識がなければ歌意が分からない和歌は多いが、この歌も藤と葛が『葛藤』と関係していることを理解しないと真意が分からない。

余談だが、何かの動詞や体言に「る(り)」を付けて新しい動詞としたり「〜している」と訳すのは割と昔からある文化で、言葉の乱れとは言えない。
「五月雨」に「る(り)」を付けて動詞化する、というこの方式は「Google」に「る(り)」を付けて「ググる」という動詞を作るのと同じである。
昔から日本人はこんな感じだったようで、古文でも外来語(当時の漢語)に「る(り)」や「す」を付けでっち上げた動詞が出てくることがある。

しかし「さみだる」で「五月雨が降る」って昔の人凄いな……。

235 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/26(日) 16:33:31 ID:ddSiRgaw0



 第三問。
 模範解答。





.

236 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/26(日) 16:34:13 ID:ddSiRgaw0

・《降霊術(交霊術)》
 占いなどの目的の為に死者の霊を呼び出す魔術のこと。「交霊術」と書く場合は概ねウィジャ盤などを用いる交霊会で行われる儀式のことを指す。
 世界中に似たような文化が分布しており、日本の場合は巫女やイタコが行なう『口寄せ』に相当する。 
 交霊会が流行った背景には疫病や戦争があり、親しい相手を不慮に亡くした人々は、もう一度だけで良いからその人に会いたいと真剣に願っていたのである。
 その為、ヴィクトリア朝(植民地紛争後)や第一次及び第二次世界大戦後は特に盛んだったと言われている。

 一般に『降霊術』と呼ぶ際は招致するモノは死者の霊である。
 悪霊や悪魔を呼び出す儀式は『召喚魔術(喚起)』とする。

 馴染み深いものでは『コックリさん』と呼ばれるものも降霊術の一種ではあるが危険なので興味本位では行わない方が良い。
 余談だが、西洋召喚魔術で地面や羊皮紙に魔法陣を描くのは「何かを呼び出す為」ではなく「術者の身を守る為」であるとされる。
 コックリさんが危険なのは呼び出した人間の身を守る方法がないからだとも考えられる。


・《オートマティスム》
 先述した降霊術で「意識に関係なく身体が動くこと」をこう呼ぶ。
 日本語では『自動筆記』『自動書記』などと訳され、英語での別名は『オートマチック・ライティング』。
 この状態は「何かに憑依されている」と表現されることが多い。

 ちなみに心理学においても使われる用語であり、この場合は純粋に「無意識で身体が動く症状のこと」である。
 分かりやすいものは『他人の手症候群(エイリアンハンド・シンドローム)』という片方の手が意識を離れて動いてしまう病気。
 これは高次脳機能障害の一種と考えられている。

237 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/26(日) 16:35:21 ID:ddSiRgaw0

・《チャネリング》
 非科学的な(若しくは超科学的な)手段を用いて特定の相手とコミュニケーションを取ること。
 チャネリングを行なう人を『チャンネル』または『チャネラー』と呼ぶ。
 降霊術にも近いが、このチャネリングの場合は霊以外に宇宙人や未来人などを対象にすることもある。
 そもそも最も有名なニューエイジ運動のチャネリング(リーディング)で対象とされたアカシックレコードはただの概念である。


・《霊媒》
 霊的存在と直接に媒介することができる人物のこと。また魔術では単純に霊的な触媒もこう呼ぶ。
 前述の言葉で表現すれば『チャネラー(チャンネル)』と呼ばれる人々のこと。
 超心理学やサイ科学においては心霊的能力を持つ人全般をこう呼び、チャネリングを『心理的霊媒能力』、その他アポートなどを『物理的霊媒能力』と言う。

 口語的には「霊媒体質である」と言う場合には霊的感受性が高い、つまり思念や瘴気に影響を受け易いという意味になる。
 戦没者の慰霊施設などに塩が置いてあるのは平均よりも霊媒寄りな人間の為である(心霊的な意味でも、無論心理的な意味でも楽になるらしい)。


・《グラス・ハーモニカ》
 別名『アルモニカ』。通称『悪魔の楽器』。
 グラス・ハープ(グラスに水を貯めそれを擦り音を出す楽器)を改良したものでガラスの方が回転しているので使いこなせば和音を奏でることも可能。
 『悪魔の楽器』と呼ばれている割には音色は天使のように美しい。

 この楽器が忌避されるようになった背景には長いストーリーがあるのだが、ここでは省略する。
 後述する医師メスメルが精神病の治療で用いたことでも有名。

238 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/26(日) 16:36:04 ID:ddSiRgaw0

・《フランツ・アントン・メスメル》
 『動物磁気法』と呼ばれる治療法を編み出したドイツの医師。
 ニューエイジ系の書籍や疑似科学の文脈で言及されることも多いが、彼はそもそもは普通の医師である。
 グラス・ハーモニカや鉄の棒を使った一風変わった手法で患者を治療したと伝わる。
 彼の逸話の中で最も信じられないもの(言い換えればオカルト的な話)は「盲目の人間の視力を回復させた」という話だろう。
 ……だが、そんな彼が最後の二十年間、何処で何をして過ごしたのかは記録に残っていない。

 メスメルは人間の身体の中には流体が流れており、その流れが滞ることで病気が起こると考えていた。
 彼の『動物磁気法』は対症療法中心の西洋では珍しい患者の自己治癒力を高めることを主眼に置いたものだった。

 現代の精神医学や心理学的に解釈すると、メスメルは内因性または心因性の疾患に対し催眠をかけることで治療したのではないかと考えられる。
 実際、現在の催眠療法では患者を変性意識状態(トランス状態)に置く為に音楽を流すことは方法の一つ。
 その人生は報われたとは言い難いが、その存在は今の心理学に繋がっており、それは彼の名前が“催眠術(mesmerize)”の由来になったことからも窺い知れる。


・《ニューエイジ》
 アメリカ西海岸発祥の社会運動であり社会思想。単なる宗教よりは一回り二回り広い概念(というよりも『宗教』の定義自体に議論がある)。
 特徴だけを述べると「物質的な思考だけではなく精神的な思想を踏まえることで科学技術や現代社会を見直そう」というもの。
 カウンターカルチャーの一つであり現在の政治思想的に言えば自由主義に属する。

 「精神性を重視する」という考え方に関連してチャネリングなどオカルト的な手法を取ることもあるが、それは一側面に過ぎない。
 エコロジー運動や女性の権利向上運動、人間性回復運動なども有名で、やはり『宗教』というよりも『思想』という方が正しい気がする。
 ……しかし一方でニューエイジからカルト宗教が派生発生することがあるのも事実ではある。
 ちなみに、メスメルが触れられるのは『ニューエイジ 〜四つの重要な予兆』という本の中でである。

239 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/26(日) 16:37:03 ID:ddSiRgaw0

・《カントールの楽園》
 数学における集合論の異称。現代数学の父とされるダフィット・ヒルベルトの言葉から。
 対角線論法で有名なゲオルグ・カントールは集合論を提唱するのだが、周囲の数学者からは理解を得られないままにこの世を去る。
 そして集合論を擁護する為にヒルベルトが言ったとされる言葉が「カントールの作り出した楽園から我々を追放することは誰にもできない」という一文である。

 先進的な発想が主流派に拒絶されることは昔からよくあることだ。 
 極めて論理的な数学の世界でさえそうなのだから、仕方のないことなのかもしれない。

 余談だが、カントール死去直後の時代においても似たような事例がある。
 ガロア理論の提唱者であるガロアは当時他の数学者に受け入れてもらえなかったと伝わっている。
 ……こういった人々の研究は死後五十年くらいで再評価されることが多い。


・《黄昏》
 日没直前から直後の暗くなる時間帯のこと。『黄昏時』とも言い大体『逢魔時』と同じ意味合い。
 「相手の顔がよく見えなくなる一時」のことであり、昼と夜、現世と常世の境が曖昧になる時間なので怪異が活発になると伝わる。
 元々は漢語であり、『黄昏(こうこん)』と読み、『たそがれ(誰そ彼)』とは無関係な言葉だったらしい。
 その為、古文の中でも平安以前と以降で意味が違う(平安時代以前での「たそかれ」は文字通りに「あなたは誰ですか?」という意味である)。

 余談だが明け方のことは『彼は誰時(かはたれどき)』と呼ぶ。
 ちなみに、この単語も「る(り)」を付けた『黄昏る』という動詞型がある。

240 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2013/05/26(日) 16:38:49 ID:ddSiRgaw0

・《催眠》
 暗示を受けやすい変性意識状態のこと。またその状態に至らせる技術のこと。
 勘違いされている方も多いが、催眠状態はオカルトでもなんでもなく現在においては脳科学で検証できる現象の一つである。

 歴史上において催眠で有名な人物はメスメル以外にはフランスの神経科医ジャン・マルタン・シャルコーがいる。
 元々が神経科医であり神経病を専門としていたシャルコーは医長として膨大な患者のデータを収集する過程で催眠療法や解離のデータを集めた。
 また精神分析の祖であるフロイトの師でもあり、メスメルやシャルコーがいたからこそフロイトがおり、フロイトの次にユングが存在し、遥か先に現在の精神医学がある。
 こういった催眠療法が確立されるまでは精神病は悪魔祓いに頼るしかなかったことを考えれば、その影響の絶大さは語るまでもない。

 世間一般でこの催眠の評価が低い理由としては二つ考えられる。
 一つ目がショー催眠などの見世物で、やらせを行った人間が多く存在したため。
 もう一つがカルト宗教などで悪用されることがあるためだ。


・《線引き問題》
 別名「境界設定問題」。『科学』と『科学ではないモノ』の線引きを何処でどうするか、という科学哲学における問題。
 一般的には「検証ができる」「反証可能性がある」という二つの条件があるが、分類に苦しむグレーな分野は数多く存在する。
 近年でもフロイトの精神分析などの精神医学や心理学は科学ではないという意見もあった(今もあると言えばある)。
 現在では、脳科学の進歩によって催眠状態の脳波が計測できるようになったので、精神医学や心理学の多くの部分は科学とする見方が一般的。

 この問題を語る上で極めて重要なことが二つあり、一つ目が「『科学』は現在も進歩し続けており現在の常識が覆されることも十二分にありえる」ということ。
 もう一つが、「検証する科学者も人間なので心情・世相・常識・思想・周囲といった諸々のことに影響を受ける」ということである(尤もこれは社会科学的な視点なので異論もあるだろう)。


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