( ^ω^)戦国を歩くギタリストのようです

2 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/02/20(日) 20:12:24 ID:xjlGxIHwO
 
 
 アルバイトから帰宅すると、ブーンはいつものように自室でギターを弾き始めた。
 一枚のルーズリーフとボールペンを用意し、頭の中に浮かぶイメージを音として感覚的に作り上げ、楽譜として具現化していく。
 
 
 内藤ホライゾン、通称ブーン。現在20歳のフリーター。
 将来の夢は「音楽界で生きていくこと」だ。
 
 
 
( ^ω^)「♪ふふんふんふん…」

( ^ω^)「…やっぱりこのAメロはC7からのがしっくりくるお」
 
 
 ピックを一旦手放し、ペンを握ってすらすらと音を綴る。
 そしてまたピックを取って、今綴ったイメージを再確認する。

3 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/02/20(日) 20:13:36 ID:xjlGxIHwO
 
 ブーンはこの調子で作曲するのが趣味であり、生きがいであった。

 音楽というものはいつも純粋に、しかし厭らしく、全てを表現することができる。
 20年間生きてきて、ブーンが心から信じているのはただ一つ、「音楽」──ギターだけだった。
 
 
( ^ω^)「もっと優しくならないもんかお…ちょっとテンポ落としてみるかお」
 
 
 だから、自分の持つ夢には確信があった。
 音楽を信じているからこそ、音楽界ではやっていける。
 少なくとも今は、このギターが楽しくて愛しくて仕方がない。

4 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/02/20(日) 20:14:00 ID:xjlGxIHwO
 
( ^ω^)「…お、良い感じだお!最初から流してみるお!」

( ^ω^)「♪ふふんふんふんふんふふーん」ジャンジャラランジャンジャラン
 
 
(*^ω^)「こいつぁ…来てるで…ワシの時代や……!」

(*^ω^)「…ん?」
 
 
 ふと、足元に目が行った。
 自分の足の裏が、小さい何かに触れた感覚がしたからだ。
 ブーンはそれを拾い上げ、まじまじと見つめた。
 
 
( ^ω^)「…なんだこれ」

 ギターのピックを大きくしたような、何やら変な物体だ。
 しかし、見覚えが無いわけではない…気がする。

5 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/02/20(日) 20:15:38 ID:xjlGxIHwO
 
( ^ω^)「見たことあるようなないような…」

 何だかよくわからないが、とりあえずギターのピックに形は近い。
 なんとなく、ただなんとなく、ブーンはそれでギターを鳴らしてみた。

 その直後。
 
 
 
( ゚ω゚)
 
 
 
 世界が、変わった。

6 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/02/20(日) 20:15:53 ID:xjlGxIHwO
 
 
 
 
( ^ω^)戦国を歩くギタリストのようです

7 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/02/20(日) 20:18:21 ID:xjlGxIHwO
***
第一話 「時間越え」

***
 
 
( ゚ω゚)
 
 
 気がつくと、ブーンは青空の下、森の中に腰を下ろしていた。
 積もった枯れ葉の上には先ほどのルーズリーフとペン、膝の上にはギター、そしてピックと先ほどの変な物体。

 涼しい風が微かに流れ、木々の間から見える空はとても綺麗だ。

 …いや、そんなことより。
 
 
 
( ゚ω゚)
 
 
( ゚ω゚)「……………え」
 
 
(;゚ω゚)「えええええええええええ!!???」

(;゚ω゚)「えええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!??????」

(;゚ω゚)「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!????」

8 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/02/20(日) 20:19:45 ID:xjlGxIHwO
 
(;゚ω゚)「いやいやいやいや!!!え、え!?え???」

(;゚ω゚)「え!ちょ、え、は!!?マジねーから!!ねーからこれマジでちょっと!!!!」

(´・ω・`)「おい、煩わしいぞ。何を喚いているのだ」

(;゚ω゚)「いやだって考えてみてくださいよ!!さっき私はバイト上がって夜に帰って自室でギター弾いてました!!!それが何!?何この青空!!わあ綺麗!!ここどこ!?」

(;゚ω゚)「てかお前誰!!!??何だよその剣豪みたいな格好!!今時アキバにもいねーよ!!」
 
 
(´・ω・`)(こいつ何を言ってるんだ?南蛮の言葉では無さそうだが…いや南蛮人がこんな所にいるはずないか…)

(´・ω・`)「まあ、俺の言葉がわかるのであれば、まず落ち着いて話し合おうではないか」

(;゚ω゚)「これが落ち着いていられますか奥さん!!!ああ待ってマジ頭が──」
(´・ω・`)「おい」
 
 
 
 シャリン、とテレビでしか聞いたことの無い音が聞こえた。
 ブーンの目の前に現れた、少しだけ年上に見える若い男は、素早く刀を抜いてブーンの喉元に突きつけた。

9 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/02/20(日) 20:20:58 ID:xjlGxIHwO
 
(;゚ω゚)「…………!!」

(´・ω・`)「首が愛おしければ、まずはその煩い口を閉じろ」

(;゚ω゚)「……は、ははは、は、は、はい」
 
 
 なんだこれは。本物か?本物なのか?
 外国人達が大好きな、本物の、日本刀というやつですか?

(;゚ω゚)「あ、ああ、あの…」

(´・ω・`)「なんだ」

(;゚ω゚)「これ、本物ですか?」

(´・ω・`)「本物?この虎恍丸のことか?…こいつの贋があるなんて話は聞いたことないぞ」

(;゚ω゚)「えっと、じゃあやっぱりそれって人を斬れるんですか」

(´・ω・`)「さっきから何を言っているんだ、名刀虎恍丸を馬鹿にしているのか」

(;゚ω゚)「いいいやいやいや滅相もないです!」

(´・ω・`)「ふむ…」

10 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/02/20(日) 20:22:14 ID:xjlGxIHwO
 
 ブーンに敵意が無いことを察し、男は刀を戻した。
 涙目のブーンに少し笑いかけながら「悪かったな」と呟く。
 
 
(´・ω・`)「幾らか聞きたいことがある。答えられるな?」
 
 顔を真っ青にしたまま、ブーンがコクコクと頷いた。
 その様子を確認し、男が続ける。

(´・ω・`)「うむ。では、お前の名前はなんだ」

(;゚ω゚)「内藤…内藤ホライゾンですお。ブーンと呼んでくださいお、へへへ」

(´・ω・`)「内藤ホライゾンブーン?変わった名だな」

(´・ω・`)「それでブーン、お前のその持ち物はなんだ。武器にしてはいびつだな…あとその変な衣は南蛮のものなのか?」

11 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/02/20(日) 20:23:41 ID:xjlGxIHwO
 
 まったく状況が読めていないのは確かだが、とりあえずこの男の質問に正直に答えようと、まずは頭を落ち着かせた。
 何か変なことをすると、今度こそ殺される気がしたからだ。
 
 
(;^ω^)「えっと、このデカいのはギターという楽器です。このピックで弾くんですお」

(´・ω・`)「楽器?…やはりただの農民では無さそうだな。お前ほどの身分の奴が、どうして刀も持たずにこんなところを出歩いてるんだ」

(;^ω^)「へ、身分?」

(´・ω・`)「信じられんほどの無知無学だな…この時代にそこらの農民が琴を弾いてみろ、即晒し首だ」

(;^ω^)「な、なんでですかお!?そんな話どこの世界でも聞いたことないお!」

(´・ω・`)「芸能を嗜むというのは高貴なことなんだ。俺もこの制度には少し疑問があるが…少なくともこれは常識だ」

(;^ω^)「そんな…」
 
 
 そんなふざけた話があるだろうか。
 何の冗談か知らないが、この話にはちっとも納得いかない。
 ブーンは初めてこの男に対してまともに話しだした。

12 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/02/20(日) 20:24:56 ID:xjlGxIHwO
 
(;^ω^)「そんなの絶対に間違ってますお!音楽や芸能というものは人間すべてが楽しめるもので、愛すべきものなんですお!その自由が身分ごときに縛られるなんて意味がわかりませんお!」

(´・ω・`)「ふむ…」
 
 
 この男からみれば、わけのわからない格好をした男が自分に対してまくし立てているような状態だ。
 しかし男は嫌な顔一つせず、ブーンの話を最後まで静かに聞いた。
 
 
(;^ω^)「はぁ…はぁ…」

(´・ω・`)「まあ、お前の言いたいことはわからんでもない」

(;^ω^)「だ、だお?」

(´・ω・`)「しかし自由と幸福は違う。仮に農民に音楽が許されたとして、農民は幸福を得られるのだろうか」

(;^ω^)「あ…」

(´・ω・`)「一つ二つの自由が許されたところで、彼らが農作業を強いられる現状は変わらない。そりゃ気は楽になるかもしれんがね」

(´・ω・`)「ところで、お前は音楽に相当惚れ込んでいるようだな。どれ、その"ぎたー"とやらを弾いてみてはくれないか」

13 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/02/20(日) 20:26:01 ID:xjlGxIHwO
 
(;^ω^)「えっ…」

 
 男の提案は、あれほど熱弁したブーンの楽器の腕前を確かめたかったのもあるが、まずはブーンの愛する音楽で本人に落ち着いてもらおうと思ったからだ。
 ブーンの真正面にしゃがみこんで、男は完全に聴き手の側に回った。
 
 
(;^ω^)「えっと、何を弾けばいいのかな…」

(´・ω・`)「お前の好きにしてくれ」

(;^ω^)「わ、わかりましたお。じゃあさっき作曲したやつを」

(´・ω・`)「作曲?ほう、曲作りを手掛けるということか。聴かせてくれ」

(;^ω^)「わかりました…いきますお」
 
 
 ライブハウスでのライブよりも妙に緊張したが、ピックを摘むと自然に落ち着いていった。
 先ほど楽譜を書いていたルーズリーフを見ながら、ブーンは演奏を始めた。

14 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/02/20(日) 20:27:09 ID:xjlGxIHwO
 
( ^ω^)♪〜♪♪〜

(´・ω・`)「……」
 
 
 落ち着いたテンポの、優しい音色が森中に響いていく。
 今回作った曲のイメージはこうだ。孤独な男が街の中をひたすら歩いている。その景色の一つ一つの優しさと、孤独な自分への嫌悪感で、男は悲しいような切ないような、胸が締め付けられるような想いに駆られていく。

 孤独で、優しくて、切ない音色が、森の中に鳴り響いていく。
 最後のゆっくりとしたF♯のアルペジオで、曲は終わった。
 
 
(´・ω・`)「……」

( ^ω^)「…終わりですお」

(´・ω・`)「……」

( ^ω^)「あのー…」

(´゚ω゚`)「素晴らしいッ!!!」

(;^ω^)「うおっ!?」

15 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/02/20(日) 20:28:38 ID:xjlGxIHwO
 
 男は勢いよく立ち上がり、ブーン背中や肩をバシバシと叩いた。

(;^ω^)「ちょww痛いですお!」

(´゚ω゚`)「素晴らしい!素晴らしいじゃないかブーン!!まさか曲一つにここまで聴き入るとは…!」

(´゚ω゚`)「おい、今日は同じ宿に泊まってくれ!お前の演奏をもっと聴きたい!!」

(*^ω^)「えへへ、恐縮ですお…」

( ^ω^)「あ、でもブーンは家に帰らなければならないんですお…夕方からバイト入ってるし」

(´・ω・`)「そうか、残念だな…家はどこだ?送ってやるぞ」

( ^ω^)「僕の家は赤坂ですお。でもこんな森あったっけな…」

(´・ω・`)「赤坂?なんだそれは」

( ^ω^)「え?赤坂は東京の…」

(´・ω・`)「トーキョー?」

( ^ω^)「えっ」

(´・ω・`)「えっ」

16 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/02/20(日) 20:29:57 ID:xjlGxIHwO
 
 二人の間に、妙な空気が流れる。
 
 
( ^ω^)「えっ、と…ここは日本ですおね」

(´・ω・`)「もちろんだ」

( ^ω^)「…この森はどこですかお?」

(´・ω・`)「どこって、二子堂城近郊の弧面十山だ」

( ^ω^)「二子堂城…」
 
 
 聞き覚えはある。二子堂城といえば、大戦前まで家の近くにあったらしい、元指定文化財の小さな城だ。
 ということは、この山を下れば家の近くにつくはずだ。
 
 
( ^ω^)「…あ、じゃあ家の近くですお。この山を下ったら街がありますかお?」

(´・ω・`)「ああ、静かな町があるぞ。ちょうど俺もそこに行くところだ、共に行こうじゃないか」

( ^ω^)「はいですお」

17 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/02/20(日) 20:30:52 ID:xjlGxIHwO
 
 ブーンは紙とペンをジーンズのポケットにしまい、先ほどの変な物体とピックをギターに挟んだ。
 ギターのストラップを肩にかけていざ立ち上がろうと前を見ると、男が手を差し伸ばしていた。
 
 
(´・ω・`)「俺は太田渚本介(しょぼんのすけ)だ。宜しくな」

( ^ω^)「…よろしくですお」
 
 
 手を握り返し、勢いよく立ち上がる。

 渚本介はブーンのギターに興味津々で、歩きながらギターについての質問ばかりをブーンにぶつけた。
 何故か会話が噛み合わない時がいくつかあったが、それでもブーンは悪い気はせず、生き生きと答えていった。

18 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/02/20(日) 20:32:13 ID:xjlGxIHwO
 
 そして、歩くこと約30分。
 森がだいぶ開けてきた頃、渚本介が前を指差した。
 
 
(´・ω・`)「見えてきたぞ、あれが二子堂城の城下町だ」

( ^ω^)「へーあれが……」

( ^ω^)「……え?」
 
 
 二人の目の前に広がっているのは、静かな城下町だった。
 ブーンにとってはテレビでしか見たことないような、何百年か前の日本の木造の家や店が並んでいる。
 そして道行く人々の格好。まさに大河ドラマで何度も見たそれだ。
 
 
(´・ω・`)「ふむ、思っていたよりは賑わいのある町だな」

( ゚ω゚)

19 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/02/20(日) 20:34:06 ID:xjlGxIHwO
 
 ここが赤坂?いやいやいやそんなわけがない。
 ほら、だってこの町の向こうにはビルが……
 
( ゚ω゚)「無い」

(´・ω・`)「え?」
 
 無い。何も無い。
 見渡す限り、森と山しかない。

 
( ゚ω゚)
 
 まさかとは思っていた。しかしそんなはずが無いから何度も払拭していた。
 しかし、もはやそれ以外に考えられない。
 
 内藤ホライゾン、20歳、フリーター。
 彼は突然。
 

(;゚ω゚)「……過去の日本にきちゃったああああああ!!!???」

(;´・ω・`)「!?」
 
 タイムスリップしてしまったようだ。
 明応五年。1496年の日本へと。
 
 
第一話 終



戻る 次へ inserted by FC2 system