( ^ω^)戦国を歩くギタリストのようです

323 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:06:50 ID:vluT4a/oO
***
第十話 「戦の道は死境の道」

***

 
 根十城城門付近。
 天野勢はもう全隊が根十城に進入してしまった為、ここには無数の死体が転がっているのみだ。

 しかし、その奥からは大勢の怒号と刃を交える音が聞こえる。
 内部がやけに明るく見えるのは、城内の所々に火の手が上がっている為だろう。

 
 堂土狗久流を倒し、城門まで走り戻った渚本介。
 馬でもあれば、と辺りを見渡すが、生きてる者の姿は無い。

 
(;´・ω・`)(地下牢か…)
 

 とりあえず、ブーンがいる可能性が高いのは地下牢だ。
 天野勢に捕まる前に、地下牢からブーンを助け出す必要がある。

324 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:08:11 ID:vluT4a/oO
 
 地下牢の場所はあやふやだが、とりあえず建物内にあるのは確かだ。
 誰か味方に遭遇すれば、そいつに聞けばいい。

 渚本介は疲れを訴える足に鞭を打ち、根十城内部へと走り出した。

 
(;´・ω・`)(待ってろブーン…)

 ブーンを必ず助け出す。願わくば、ブーンが元の時代へ戻る為、尾付出麗と共に。

 擬古成を逃してしまった先程の失態を、悔やんでいないわけではない。
 しかし、擬古成を討つのは後でもいい。

 肺が痛い。足が重い。
 それでも渚本介は走り続ける。

 乱戦となった、根十城の中心へと。
 

 
──

325 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:10:04 ID:vluT4a/oO
──
 

(;^ω^)「出麗さん、僕の後ろに隠れるお!」

ζ(゚ー゚;ζ「は、はい!」

( ゚д゚ )「……」

 
 根十城大広間。
 ブーンは絶望感に浸りそうになるのを堪え、出麗を庇うように立ちはだかった。
 そのすぐ傍らで、既に負けを覚悟している男、城主の巳留那がじっと座っている。

 あっさりと彼らを追い詰めた擬古成は、三人に向かって悠々と歩き出した。
 三人が三人とも無力だと確信したからか。斬馬刀の峰を肩に乗せ、余裕を見せながら近付いてくる。

326 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:12:04 ID:vluT4a/oO
 
(,,゚Д゚)「二茶根瑠領領主、二茶根瑠巳留那よ。俺は今よりお前を殺し、この城と領をまるまる頂く」

(,,゚Д゚)「だから最後に聞かせてくれ。この二茶根瑠領、お前にとってどういう国なんだ」

(;^ω^)「……」

ζ(゚ー゚;ζ「……」
 

 巳留那には悪いが、ブーンはほんの少しだけ安堵感を得た。
 恐らく、擬古成は最初に巳留那を討ち、そのついでに自分達を殺すつもりなのだろう。
 上手く行けば、隙を見て逃げ出すこともできるかもしれない。

 擬古成の問いに、少し考えるように黙る巳留那。
 暫く黙ると、威厳の保った低い声で、ゆっくりと返した。
 

( ゚д゚ )「…この国は余の全て、そのものだ。貴様如きに渡すのが惜しいほどに、余はこの国を愛しておる」

(,,゚Д゚)「ハッ、言うじゃねえか」

327 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:13:18 ID:vluT4a/oO
 
(,,゚Д゚)「なれば、俺は貴様の全てを剥ぎ取り、蹴落とし、この国を奪う」

 
 巳留那のすぐ手前まで歩み寄った擬古成が、斬馬刀を構える。
 それでも巳留那は動じる事なく、じっと擬古成を見据える。

 近くに居てはいけないと感じたブーンが、出麗と共に後退った。

 
(,,゚Д゚)「二茶根瑠巳留那。その首、頂戴致す」

(#ー_ー)「させるかァ!!」

(,,゚Д゚)「!」
 

 斬馬刀を振り下ろそうとする擬古成の腕が止まった。
 その一瞬後、擬古成が振り向くと同時に、小さな懐刀がその胸部目掛けて飛んできた。
 反射的に斬馬刀を下向きに構え、盾のようにその懐刀を防ぐ。

328 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:14:08 ID:vluT4a/oO
 
 一つ舌打ちをし、懐刀を投げてきたその男を睨む。

 
(,,゚Д゚)「…貴様、誰だ」

(ー_ー)「二茶根瑠家近習頭、尾付比岐」

 
 鞘から刀を抜き、擬古成を睨み返す。
 途端、ブーンの後ろで、出麗が声をあげた。
 

ζ(゚ー゚;ζ「父上!」

(;^ω^)「!?」

(;ー_ー)「なっ…!?」
 

 重くなりつつあった空気が、一気に別の緊迫へと変わった。

 尾付家は二茶根瑠家の近習を務めている。
 出麗も尾付家の一員であり、近習頭の比岐の実の娘なのだ。

 何故お前が此処にいる。そう言いたげに出麗を見るが、すぐに別の言葉を投げた。

329 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:15:09 ID:vluT4a/oO
 
(;ー_ー)「早く此処から去ね!そこの南蛮人は出麗と共に殿をお守りしろ!」

ζ(゚ー゚;ζ「で、できません!父上を見捨てるなど、私にはとても…」

(#ー_ー)「去ねと言っているのが聞こえぬか!!」

 
 比岐の怒声が大広間に響く。
 押し黙った出麗に、更に続ける。
 

(#ー_ー)「殿をお守りするのが、我ら近習の定め!命などとうに捨て置いている!!」

(#ー_ー)「お前は女子だ!戦に慣れぬ、琴を嗜む女子!しかし、まごうことなく近習一族!」

(#ー_ー)「殿を連れ、守り抜いてみせよ!早く此処から去ね!!」

ζ(゚ー゚;ζ「……」

 
 擬古成に刀を向けながら、巳留那を連れて逃げるよう出麗に命じる。
 目に涙を浮かべながら、出麗が小さく頷いた。

330 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:16:51 ID:vluT4a/oO
 
 巳留那を立ち上がらせ、ブーンに託し、自らは先導の位置に着いた出麗。
 擬古成に背を向け、比岐が入ってきた入り口とは反対側の外回路へと進み出す。

 外に出る間際、出麗が少しだけ振り向いた。
 

ζ(゚ー゚*ζ「御達者で、父上」

(ー_ー)「……」

 
 恐らくはこれが今生の別れとなる。
 しかし、その別れを惜しむ間など在りはしない。

 比岐は改めて擬古成に目を向けた。

 
(,,゚Д゚)「ハッ、良いじゃねえか。涙のお別れってか」

(ー_ー)「ぬかせ」

331 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:18:02 ID:vluT4a/oO
 
 刀を握る手に力が入る。

 巳留那を一時的に逃がすことに成功した。娘と顔を合わせて別れることも出来た。
 もう、怖いものは何もない。
 

(ー_ー)「天野擬古成。根十城に気安く攻め入った下賤者を、いざ討たん」

(,,゚Д゚)「…やってみろ」

 
 静かに睨み合っていた状態が、一瞬で変わった。
 刀を構えた比岐が、一気に擬古成に飛び込んだのだ。
 思わず防御の姿勢をとった擬古成に、小刻みな突きの攻撃を繰り返す。
 

(,,゚Д゚)(チッ…)

332 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:20:11 ID:vluT4a/oO
 
 あまりにも小刻みに、正確に繰り出される突きに、擬古成は反撃の手が出ない。

 実は、これこそが斬馬刀の弱点だった。
 刃同士を合わせる攻防なら、間違いなく厚みも重みも格段に違う斬馬刀の勝利だ。相手の体ごと刀を弾き飛ばし、その隙に斬り伏せることも出来る。
 しかし、相手の攻撃が小刻みな突きだったら、反撃する隙がない。
 一度防御に入ってしまえば、相手の攻撃を喰らい続ける他無いのだ。
 

(#ー_ー)「ハッ!!」

(,;゚Д゚)「クソッ…」

 
 頭、手、足。
 斬馬刀では隠せきれない箇所を、徹底的に突いてくる。

333 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:21:36 ID:vluT4a/oO
 
(,#゚Д゚)「…図に乗んじゃねえ!!」

(;ー_ー)「!!」

 
 慣れない防御戦に痺れを切らし、擬古成が斬馬刀ごと比岐に飛び込んだ。
 タックルのような攻撃を受け、比岐の体が倒される。

 
(,#゚Д゚)「ゴルァッ!!」

 その体に、斬馬刀の上段からの一撃が迫る。
 咄嗟に体を回し、斬馬刀を避けながら立ち上がる。

 
(;ー_ー)「ハァ…ハァ……ッ」

 危ないところだった。
 擬古成と距離を取り、刀を構え直す。

 しかし、何故か刀をうまく構えられない。
 不思議に思いながら、比岐は自らの腕へと視線を落とした。

334 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:22:59 ID:vluT4a/oO
 
(ー_ー)「あ……?」

 
 比岐が刀を構えられないのは当然だった。
 視線を擬古成へ戻すことも忘れ、比岐はそのまま固まった。

 比岐が目にして、思わず固まってしまうほどの光景。

 自らの左肘から先が、無くなっていた。

 
(;ー_ー)「う、あ、あ゙あ゙あ゙あ゙ああああ!!」

(,,゚Д゚)「一介の近習にしては、なかなかの腕前だったぞ」

(;ー_ー)「腕が!!ああああ!畜生!畜生!」
 

 片膝をつき、左腕を押さえて悶える比岐。
 もはや反撃の兆しすら感じられないその姿に、擬古成が迫る。

335 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:24:07 ID:vluT4a/oO
 
(;ー_ー)「ああ、ハァ、ハァ…!!」

 目の前の擬古成が斬馬刀を振り上げる。
 途端、比岐は時間が止まったかのように感じた。

 もはや擬古成を倒すことはほとんど叶わない。
 しかし比岐は考える。
 娘の出麗と例の南蛮人は、巳留那を連れてまだそう遠くまで逃げきれていないはず。
 ここで自分があっさりと負けてしまえば、すぐに擬古成は三人を追い、捕まえてしまうだろう。

 それだけは何としても避けたい。
 無事に逃がす為には、まだ時間を稼ぐ必要がある。

 
 此方を見据え、斬馬刀を振り上げている擬古成。
 世界が、動き出した。
 

(,,゚Д゚)「楽に送ってやる。尾付比岐よ」

336 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:25:50 ID:vluT4a/oO
 
 足に力を入れ、笑う膝を抑える。
 擬古成が斬馬刀を振り下ろそうとした瞬間、比岐は擬古成に飛びかかった。
 
(,;゚Д゚)「なっ…!?」

(#ー_ー)「うおおおおお!!」

 
 強引に肩から懐に飛び込み、擬古成を仰向けに倒した。
 そのまま馬乗りの体制で擬古成を押さえ、顔面に向かって何度も拳を打ち込む。

 あまりにも想定外な反撃に、為す術無く殴られる擬古成。
 その顔面が、赤く染まっていく。
 
(#ー_ー)「おおおおおおおおお!!!」

337 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:27:07 ID:vluT4a/oO
 
 激しい運動を続けているせいで、おびただしく出血する左腕。
 必死に殴り続けるも、やがて力が入らなくなってきた。

 
(;ー_ー)「ハァ…クソ……クソッ…」

 
 血が足りないせいで、筋肉が言うことを聞いてくれない。
 比岐の最後の一発。渾身の拳は、ぺちんという音を擬古成の頬に鳴らしただけだった。

 
(;ー_ー)「ハァ……ハァ……」

(; _ )「ハ………」

 
 もう、全身に力が入らない。
 思考すら叶わない。

 擬古成の横に転がるように、比岐は倒れ込んだ。

 暗くなる視界で、ゆっくりと起き上がる擬古成の姿が、最後に映った。

 

──

338 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:28:08 ID:vluT4a/oO
──
 

(;^ω^)「ま、まだ下につかないのかお…」

ζ(゚ー゚;ζ「そろそろ次の階段に着くわ!そこから下に降りられる!」

( ゚д゚ )「……」

 
 大広間から外回路へと抜け、そのまま下へと進んでいく三人。

 既に多くの天野の兵が建物内へ進入したのだろう。
 城内のあちこちから、大勢の怒号が聞こえる。

 
(;^ω^)「それにしても、敵兵に見つかりはしないかお?」

ζ(゚ー゚;ζ「わからないわ。なるべく難しい道を使ってるけど…運次第ね」

339 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:29:17 ID:vluT4a/oO
 
 ブーンが最も懸念し、恐れていること。
 それは、今のこの状況で敵に出くわしてしまえば、あっさりやられてしまうだろうということだ。
 ブーンも出麗も武器を持っていないし、巳留那は刀を持っているものの、何か不安だった。

 
ζ(゚ー゚;ζ「よし、もうすぐ階段よ!」

(;^ω^)「了解だお!さ、急ぎますお」

( ゚д゚ )「ああ」

 
 先導する出麗の背中を追い、巳留那を連れて走り続けるブーン。

 広い廊下の奥に、とうとう下へと続く階段が見えてきた。
 足を速め、階段へと急ぐ三人。

 しかし、その足はすぐに止まった。

340 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:30:25 ID:vluT4a/oO
 
ζ(゚ー゚;ζ「あ……」

(;^ω^)「……」

 
 足を止め、肩で息をしながら、前方に視線を向ける。

 三人が目を向ける先。
 廊下の奥の階段から、十数人の敵兵達が現れた。

 
ζ(゚ー゚;ζ「そんな…」

(;^ω^)「…最悪だお……」

 
 恐れていた事態になってしまった。
 どうする。引き返して逃げるか。
 いや、それでは体力が持たない。

 冷静に回らない頭で、必死に考えるブーン。
 敵兵達が、三人に気付いた。

341 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:31:44 ID:vluT4a/oO
 
 何かを叫びながら、三人へと迫る敵兵達。

 もう考える暇などない。
 ブーンは出麗の腕を掴み、巳留那を庇いながら、元来た道を走り出そうと振り返った。

 しかし、その敵兵から聞こえてきたある言葉に、ブーンは思わず足を止めた。

 
「旦那様…?」


(;^ω^)「……え?」
 
 聞き覚えのある声。聞き覚えのある呼び名。

 ブーンはゆっくりと振り向き、目を見開いた。

 
(;゚∀゚)「旦那様…ですよね…?どうして…」

342 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:33:38 ID:vluT4a/oO
 
(;^ω^)「ご、ご主人!?」

 
 敵兵の格好をした男は、紛れもなくブーンの知り合いだった。
 天野勢に焼き討ちをされた二子厨の庄、そこで宿屋を営んでいた男。

 かつてブーンを殺そうとし、改心した男が、そこにいた。
 

(;^ω^)「ど、どうして天野勢の格好なんかしてるんだお!」

(;゚∀゚)「旦那様こそ、どうして根十城なんかにいるんですかい!?」

 
 根十城の城主を連れて逃げているブーン、根十城を攻める天野勢の一員になっている宿屋の主人。
 理由はわからないが、間違いなく二人は敵対する立場にあった。

 あってはならない形で、二人は再会してしまった。

343 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:34:42 ID:vluT4a/oO
 
 実のところ、天野勢が二子厨の庄を襲った際、宿屋の主人は捕虜として天野勢に捕まっていたのだ。

 すぐに処刑はせず、捕虜は戦力にしてしまうのが擬古成のやり方だ。
 主人も天野勢に加わらされ、訓練を受けさせられ、この根十城攻めに参戦させられていた。

 
(;゚∀゚)「……」

(;^ω^)「……」

 
 ブーンも、主人も、兵達ですら、この奇妙な状況に固まっていた。

 しかし、この均衡は長くは続かなかった。
 構うことない、殺せ、といきり立った兵が、刀を抜いて走り出したのだ。

 その直後。
 構えていた槍で、主人がその兵の背中を貫いた。

344 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:35:37 ID:vluT4a/oO
 
 走り出していた兵が、静かに崩れ落ちた。

 
(;^ω^)「ご主人!?」

(;゚∀゚)「あ……」

 
 やってしまった、という顔を自らの槍に向ける。
 その後ろで、十人ほどの兵が一気に騒ぎ出した。

 
(;゚∀゚)「う、うおおっ!!」

 その兵達に向かって、今度は槍を横に払った。
 数人の兵が倒れ込み、それに押されて更に何人かが転ぶ。

 
(;゚∀゚)「旦那様!!今のうちに降りてくだせェ!」

(;^ω^)「な、何言ってんだお!」

(;゚∀゚)「いいから早く!!」

345 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:37:13 ID:vluT4a/oO
 
(;^ω^)「ご主人…」

(;゚∀゚)「…あん時、旦那様はもう後悔はしないでくれって言ってくれやした」

(;゚∀゚)「約束通り、俺ぁ後悔なんてしません!これが俺の選んだ道なんだ!さあ、早く逃げてくだせェ!!」

(;^ω^)「…わかったお!」
 

 主人が槍で兵達をどかした隙間を、出麗て巳留那を連れて走り行くブーン。
 三人の姿が見えなくなると同時に、主人の横腹を、槍が貫いた。

 「謀反者を殺せ」という誰かの掛け声と共に、兵達が刃を向けてきたのだ。

 腹に、胸に、肩に、容赦なく槍が突き刺さっていく。

346 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:38:08 ID:vluT4a/oO
 
(; ∀ )「う……あ…」

(; ∀ )「…だ、旦那…様……」

 
 力無く倒れ込みながら、主人は力を振り絞って手を動かした。

 右手を懐に入れ、中をまさぐる。

 …良かった。無事だったか。
 言葉にならない言葉を吐き、主人は目を閉じた。
 その右手には、かつてブーンから貰った品、ボールペンが握られていた。

 無二の宝物が無事だったことに、安堵の表情を浮かべる主人。
 直後、その首と胴が、兵が振り下ろした刀によって分かれていった。

 

──

347 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:39:10 ID:vluT4a/oO
──

 
(;^ω^)「ようやく下に着いたお…」

ζ(゚ー゚;ζ「あとは馬を取って逃げるだけね」

 
 近くに人の気の無い、根十城大手門付近。
 この大手門を抜けると兵士宿舎がある。そこに隣接する馬小屋に行けば、逃げきる為の馬も確保できるはずだ。

 いざ門を抜けようと三人が進み出す。
 途端、何やら鉄同士がぶつかるような、重い轟音が門の向こうから聞こえてきた。

 
(;^ω^)「この音は…?」

 
 まさかの事態が脳裏をよぎる。
 音のした方、大手門の向こうへと、ブーンは急に走り出した。

348 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:40:30 ID:vluT4a/oO
 
ζ(゚ー゚;ζ「あ、ちょ、待ちなさいよ!」

 
 出麗の制止も聞かず、ブーンは躊躇いなく門をくぐっていく。

 門を抜け、目前に広がる光景に、ブーンは思わず立ち尽くした。

 結論から言うと、例の音の正体は、ブーンの予想通りだった。
 鉄同士がぶつかるような轟音の正体は、かつてブーンが二子堂城で聞いた、虎恍丸と斬馬刀が刃を合わせる音。
 そして、その音から連想できる通り、そこには渚本介と擬古成の姿があった。

 
(;゚ω゚)「え…あ……?」

(,,゚Д゚)「ハッ、生きていたか南蛮人」

 
 擬古成が静かにブーンに目を向ける。
 しかし、ブーンの視線は別のものを捕らえていた。

349 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:41:21 ID:vluT4a/oO
 
(;゚ω゚)「そんな……嘘だお…」

 
 信じられない光景だった。
 冷や汗が全身を流れ、気が遠くなるのを弱々しく堪えながら、ブーンは小さく声を洩らした。
 

(;゚ω゚)「…渚本介さん……?」

(;´メω `)「……」

 
 震えた声が辺りに響く。

 ブーンの目線の先で、頭部から血を流した渚本介が、ゆっくりと膝をついた。

 

第十話 終

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