( ^ω^)戦国を歩くギタリストのようです

360 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:30:11 ID:.21OI1/oO
***
第十一話 「復讐と野望の果て」

***
 

 時は少し前後する。

 ブーン達が宿屋の主人と出くわした頃。
 渚本介は地下牢から上がり、搦手門のあたりに居た。

 搦手門とは、簡単に言えば城の裏口のようなものだ。
 地下牢にブーンがいなかった為、もう逃げるのに成功したか、もしくは敵に捕まったかの二択しかない。
 まずは前者であることを考え、一旦は正門を見て、それからの搦手門を確認に来た。
 しかし、搦手門は厳重に鍵が閉められていた。

 
(;´・ω・`)(城外にいることは考えにくいな…)

 となると、ブーンは城内を隠れるか逃げ回っている、もしくは既に捕まっているかだ。

361 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:31:13 ID:.21OI1/oO
 
 いずれにしても、このままだと最悪な結末をブーンは迎えることになる。

 
(;´・ω・`)(休む暇は無いな)
 

 乱れた息を整え、疲労を訴える足を押さえる。
 早く行かなければ、と力無く走り出す渚本介。

 その直後だった。

 
(;´・ω・`)(擬古成か…?)

 
 渚本介の位置から五十メートルほど離れた、大手門近くの天守の下。
 あの擬古成が、フラフラと歩いているのが見えた。

362 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:32:12 ID:.21OI1/oO
 
 遠くてよく見えないが、何やら顔から血を流しているようだ。

 無二の好機だ、と虎恍丸を抜く。
 鞘から刀を抜く音が聞こえたのか、それともその殺気に感づいたのか。
 擬古成が、此方に気付いた。
 

(,;゚Д゚)「戦魔…!」

 擬古成が大手門近くまで降りていた理由。
 それは、比岐と戦っている間に逃げていった巳留那達を追う為だった。

 ところが下に巳留那達の姿は無い。
 代わりに、あの太田渚本介の姿がそこに在った。

 
(,;゚Д゚)「フ……」

363 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:33:20 ID:.21OI1/oO
 
 思わず、口元が緩んだ。

 面白いじゃないか、この巡り合わせ。
 これが、この天野擬古成と太田渚本介の、恐らく最後の戦いになるのだろう。

 ふらつく頭を押さえ、虎恍丸を構える渚本介を睨みながら、斬馬刀を抜いた。

 
(´・ω・`)「……」

 
 その擬古成に向かって、虎恍丸を手にしたまま歩き出す渚本介。
 二人の間の距離が、着実に縮まっていく。

 
(,,゚Д゚)「戦魔よ!」

(´・ω・`)「!」

 
 その距離が十メートル程に狭まった頃。
 突如、擬古成が口を開いた。

364 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:33:37 ID:.21OI1/oO
 
 突然の事に、渚本介の足が止まった。

 根十城にて漸く、落ち着いて対峙する二人。
 斬馬刀を持ったまま、擬古成が続ける。

 
(,,゚Д゚)「お前との長き戦いも、恐らくこれが最後。お前は今容易く逃げられる立場に無いからだ。勿論、それは俺もなのだが」

(´・ω・`)「……」

(,,゚Д゚)「故に、俺とお前は今より命の決着をつける。こうしてまともに話すのも、恐らく何れかの今生の最後だ」

(´・ω・`)「…そうだな」

(,,゚Д゚)「言い残すことは?」

 
 情けや慈悲ではなく、純粋に渚本介の言葉を聞こうとする擬古成。
 それを察し、渚本介も素直に言葉を並べていく。

365 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:34:38 ID:.21OI1/oO
 
(´・ω・`)「今の俺は復讐心のみで生きていると言っても過言ではない。貴様の顔を見る度、声を聞く度、憎悪と殺意が我が体躯を啄む」

(´・ω・`)「そして、今ここで貴様の首を取ったとして、その後の俺は生きていけまい」

(,,゚Д゚)「……」

(´・ω・`)「どうせ死に行くなら、貴様を地獄に送ってからだ。…最後に、貴様に率直な心の内を述べよう」

 
 虎恍丸を構え直し、一呼吸置いた渚本介。
 対する擬古成も、斬馬刀を静かに構えた。

 
(´・ω・`)「……殺してやる」

366 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:35:37 ID:.21OI1/oO
 
 一瞬後。二つの刃が、轟音をあげて交わった。

(#´・ω・`)「ハァッ!!」

(,#゚Д゚)「ゴルァッ!!」

 斬馬刀の重みに勝てず、虎恍丸はやはり弾かれた。
 そこに擬古成の素早い返し手が迫るが、渚本介はそれを潜り込んで避ける。
 がら空きの腹に虎恍丸を伸ばすも、擬古成がそれを飛び上がってかわした。

(;´・ω・`)「!?」

(,#゚Д゚)「フンッ!!」

 そのまま空中で回転しながら斬馬刀を払う。
 その攻撃をなんとか虎恍丸で受け流し、擬古成の首へと刃を伸ばす。
 しかし、今度は擬古成がそれを潜り込んでかわした。

367 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:36:45 ID:.21OI1/oO
 
 地面についた斬馬刀を、持ち上げるように渚本介に向ける。
 途端、渚本介がその刃に足を乗せた。

(,;゚Д゚)「ム…!?」

(#´・ω・`)「ハッ!!」

 予想外だった渚本介の動きに反応できず、そのまま斬馬刀を振り上げた擬古成。
 斬馬刀の刃に乗った渚本介が、その頭上を越え、擬古成の背後に着地した。

 勝ちを確信し、その背中に虎恍丸を突き伸ばす。
 しかし、その視界から擬古成が消えた。
 渚本介の攻撃が当たる前に、地面スレスレまで一瞬で伏せたのだ。

 そのまま仰向けになりながら、渚本介の脇腹に蹴りを喰らわす。
 それをまともに受け、渚本介は数メートル吹っ飛ばされた。

368 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:37:46 ID:.21OI1/oO
 
(;´・ω・`)「く…はっ……!」

(,;゚Д゚)「ハァ…ハァ…ッ」

 
 脇腹を押さえて立ち上がる渚本介。呼吸を整えながら起き上がる擬古成。
 睨み合いながら、再度武器を構え直す。

 二人の力は、確実に拮抗していた。

 
(;´・ω・`)「……」

(,;゚Д゚)「……」

 
 長くは戦えないと悟った二人。
 短時間で勝負をつける為、次の動きを目で探り合う。

 いざかかろうと渚本介が一歩踏み出した。
 その途端、渚本介のすぐ横に兵が落ちてきた。

(;´・ω・`)「!」

 その兵に一瞬気を取られ、動きを止めてしまった渚本介。
 その首に、斬馬刀が勢い良く迫る。

369 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:38:39 ID:.21OI1/oO
 
(;´・ω・`)(しまっ…!!)

 咄嗟に虎恍丸を向け、直撃を避ける。
 しかし、斬馬刀の力に押され、そのまま体ごと飛ばされた。

 大手門の方に飛ばされ、運良く壁にぶつかることなく門をくぐり抜けた渚本介。
 どうにか体を起こし、顔を上げる。
 

(;´・ω・`)「くっ…」

(,#゚Д゚)「ゴルァッッ!!」

(;´・ω・`)「!!」

 擬古成も門を抜け、そのまま飛び込むように斬馬刀を振り下ろす。
 今度はまともに虎恍丸で攻撃を止めるも、渚本介の体はそのまま後ろへ流れた。

 休む暇なく、またも渚本介に斬馬刀が横から迫る。

370 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:39:50 ID:.21OI1/oO
 
(;´・ω・`)(間に合わない…)

 流れた体のバランスを保つのに必死で、手が空いていた渚本介。

 体を反らしてその攻撃を避けようとするも、斬馬刀は渚本介の顔面を捕らえた。
 

(,,゚Д゚)「…勝負あった」

(;´メω `)「……」


 渚本介の右頬から額に向けて、斬馬刀は深い爪痕を刻み込んだ。

 右目を失い、顔から大量の血を流しながら、よろよろと数歩歩み。
 渚本介はゆっくりと膝をついた。
 

 ブーン達が大手門の方へ飛び出してきたのは、ちょうどその時だった。
 

 
──

371 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:40:11 ID:.21OI1/oO
──
 

(;゚ω゚)「…渚本介さん……?」

 
 何が起こったのか、すぐには理解出来なかった。
 ただ目の前の現実に、ブーンは固まるしかなかった。

 
(;´メω `)「……」

(;゚ω゚)「そ…んな…」

(,,゚Д゚)「哀れな男よ」

 
 斬馬刀の峰を肩に乗せながら、擬古成が口を開く。
 膝をついた渚本介の背中を見下ろすその目は、異様なほどに冷たい。

372 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:41:25 ID:.21OI1/oO
 
(,,゚Д゚)「たかが復讐の為だけに、俺を追う為だけに、当て所ない旅を続けてきた」

(,,゚Д゚)「それがこのザマだ。殺す為だけに刀を振り回し、闇雲に走り回り、この男は生涯を終える」

(;´メω `)「……」

 
 擬古成の言葉に、渚本介は何の反応も示さない。

 攻撃の兆しのないその後ろ姿へと近付き、擬古成は斬馬刀を振り上げた。
 

(;゚ω゚)「……やめろお…」

(,,゚Д゚)「さらばだ。太田渚本介」

(;゚ω゚)「やめ………!」


 ブーンにはその瞬間が異様なほどゆっくりと見えた。

 斬馬刀が、渚本介の首を目掛けて振り下ろされた。

 

──

373 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:44:18 ID:.21OI1/oO
──
 

 
 応仁元年。
 十一年もの間継続し、その規模は全国にまで広がった、所謂応仁の乱の始まった年。
 戦国時代と呼ばれる始まりの年に、太田渚本介は武家として生を受けた。

 応仁の内戦が広がっていくなか、渚本介の住む国も、否が応に争いに巻き込まれた。

 

 これは、渚本介が十歳になった時のことだ。

 
(`・ω・´)「渚本介、もう日が暮れるぞ。稽古ならまた明日にしろ」

(´・ω・`)「待ってください兄上、もう少し…」

374 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:45:17 ID:.21OI1/oO
 
 幼くして、刀に強い興味を持っていた渚本介。
 武家に生まれたことに感謝しながら、家の庭で刀を振る。それが日課であり、幼心なりの生きがいであった。

 
 渚本介より六つ離れた兄の紗衿丈(しゃきんのじょう)はそんな渚本介を微笑ましく眺めていた。

 その剣術が讃えられ、若くして仕官の職が決まった紗衿丈。
 愛しい弟が一生懸命に刀を振る姿も、もう沢山は見れない。
 そう踏んでいた紗衿丈は、なるべく渚本介の傍にいるよう努めた。

 戦に出向かった父親の代わりになれればと、紗衿丈なりの配慮であった。

 
(`・ω・´)「うむ、振りが鋭くなったな」

(*´・ω・`)「本当ですか!?」

(`・ω・´)「ああ、しかし体の回転が遅いな。回転が遅いと刀が速く届かない上に、視界も格段に狭くなる」

(`・ω・´)「もっと腰を落として、足を速く動かせるようにしろ。そうすれば自然と腰が回り、体も速く回る」

(´・ω・`)「なるほど…ありがとうございます」

375 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:46:05 ID:.21OI1/oO
 
(`・ω・´)「さ、今日はもう終わりだ。飯が待ってるぞ」

(*´・ω・`)「はい!」

 
 男子は剣の達人に育つと言われるほど、太田家は武家として達者な存在だった。

 父親が特別席で戦場に出向くのも当然であり、長男の紗衿丈が仕官に決まるのも当然。

 そして。

 
(´・ω・`)「?」

(`・ω・´)「この音は…」

 
 他勢に狙われるのも、当然であった。

 
(;`・ω・´)「……逃げろ渚本介!!」

376 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:47:06 ID:.21OI1/oO
 
 空気を裂く音が二人を振り向かせ、その正体が二人の背筋を凍らせた。

 夕焼けに染まる空には、数えられぬ程の赤い流星。

 火矢が、此方に向かってきていた。
 

(;´・ω・`)「あ、兄上!」

(;`・ω・´)「フンッ!!」

 歯を食いしばり、家の中へと渚本介を突き飛ばす。
 そのまま紗衿丈も屋根の下へと飛び込んだ。

 直後、屋根と庭が勢いよく燃え上がった。

 
(;´・ω・`)「あ、兄上…」

(;`・ω・´)「いいから隠れるんだ!!」

 
 紗衿丈が声をあげた。
 一瞬体をビクッと浮かし、渚本介は奥の棚の中に転がり込んだ。

377 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:48:14 ID:.21OI1/oO
 
 先程渚本介が振っていた刀を拾い、庭の柵の向こうを睨む。
 その目線の先で、鎧を纏った兵達が、柵を破壊しながら庭に飛び込んできた。
 

(;`・ω・´)(多いな…)

 
 何が起こっているかなど、すぐに理解できた。
 この太田家を、何者かが急襲してきたのだ。


 戦の為、家には紗衿丈と渚本介、そして母親と何人かの召使がいるだけだ。

 相手にできるのは自分しかいない。
 刀を構え、庭とその向こうにいる兵達を睨む。

 その数、およそ百人強。

378 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:49:21 ID:.21OI1/oO
 
 敵からしてみれば、相手はまだ十代の子供一人だ。
 様子見の必要もない、と前列の兵が縁側に乗り込んできた。

 
(´・ω・`)「ハッ!」

 向かってきた刀をかわし、その腹部に蹴りを喰らわす。
 蹴られた兵はそのまま庭へと飛ばされ、何人かの兵を巻き添えに転んだ。

 今だ、と刀を持って飛びかかろうとする紗衿丈。
 その動きが、突如、ピタリと止まった。

 それは、ある男の声が紗衿丈の耳に届いたからだ。

 

「待て」

(;`・ω・´)「!!」

379 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:50:04 ID:.21OI1/oO
 
 その声に聞き覚えがあるわけではない。
 ただ、その声の冷たさに体が固まってしまったのだ。

 兵達の間から、声の主である一人の男が姿を現した。

 
(,,゚Д゚)「太田紗衿丈。今日は貴様に用があって来た」

 
 この戦乱にあやかって、戦を続ける武将。
 天野擬古成の姿が、そこにあった
 

(;`・ω・´)「……用とは?」

 何故か、自らの声が震えてしまう。
 それほどまでに、目の前の男の威圧感は凄まじかった。


(,,゚Д゚)「簡単だ。我が配下に加われ」

380 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:51:18 ID:.21OI1/oO
 
(;`・ω・´)「!?」

 
 予想外の台詞だった。
 しかし、擬古成が無言の条件を出していることはすぐにわかった。

 まずはこの家に火矢を浴びせたのがその証拠だ。
 恐らく擬古成はこういう条件を出している。

 「断るなら、太田家を潰してやる」と。

 
(,,゚Д゚)「太田家の実力には一目置いている。我が臣下に考えてもいいほどにな」

(,,゚Д゚)「大人しく加わるがいい。さもなくば、貴様ら太田家を壊滅させん」

(;`・ω・´)「……」

 
 どうする。どうすればいい。
 天野は太田家とは敵対の仲。天野に寝返ることは死んでもしたくない。
 しかし、そうしなければ太田家は滅んでしまうかもしれない。

381 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:52:09 ID:.21OI1/oO
 
(;`・ω・´)「……」

(,,゚Д゚)「…答えよ」

 
 少し苛立った様子で、擬古成が返事を促す。
 紗衿丈が、ゆっくりと顔を上げた。

 なんだ、考えるまでもないじゃないか。
 紗衿丈は口角を上げ、刀を逆手に持った。

 
(,,゚Д゚)「!?」

(`・ω・´)「貴様ら下賤共に、太田家が惑わされることはない!他をあたれ!!」

 怒声とともに、刀を振り上げる。
 途端、紗衿丈は擬古成に向かって刀を投げた。
 

(,;゚Д゚)「く……」

 紙一重でその攻撃をよけ、少しよろけた擬古成。
 その額に、青筋が浮かぶ。

382 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:53:18 ID:.21OI1/oO
 
(,#゚Д゚)「……」

 そのまま振り返り、兵達の後ろへと戻り出す擬古成。
 その去り際、小さく呟くように、兵達に命令を下した。
 

(,#゚Д゚)「……殺せ」

 

 怒号。刀を振る音。刀を合わせる音。
 それらが一気に、まるで爆音のように、辺りに鳴り響いた。

 

(;´・ω・`)(兄上……)

 じっと棚の中に隠れているのに耐えられず、渚本介は棚の扉に手をかけた。

 しかし、勇気が出ない。
 もし敵に見つかってしまえば命はない。
 それでも兄の様子が気になって仕方がない。

 ゆっくりと、ほんの少し、渚本介は扉を開けた。

383 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:54:30 ID:.21OI1/oO
 
 これほど現実味の無い光景を、渚本介は見たことがなかった。
 扉の隙間から、はっきりと見えたその瞬間。

 
(;` ω ´)「───!!」

 
 血まみれの兄の紗衿丈。
 その首が、あっけなく落ちる瞬間だった。

 

(;´・ω・`)「…あ…?」

 自らが隠れていることも忘れ、渚本介は声を洩らした。

 有り得ない光景だったのだ。
 強く、たくましく、面倒見のいい兄の紗衿丈が、命を失うなど。

 
 現実を理解するのに、かなりの時間がかかった。
 兄が殺された。その現実が理解できた途端、渚本介は棚を飛び出していた。

384 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:55:57 ID:.21OI1/oO
 
(#´;ω;`)「うわあああああああ!!!」


 棚を飛び出し、落ちていた刀を拾い、渚本介は撤退しかけていた兵達に向かって走り出した。

 驚いて振り向いた手前の兵に、まずは刀を刺し込んだ。

 
(#´;ω;`)「うわあああああ!!!ああああああああ!!」

 
 すぐに状況を理解し、刀を持って暴れまわる子供を押さえようと兵達が飛びかかる。
 しかしその兵達は、次々と渚本介に斬り伏せられていく。

 
(,,゚Д゚)「あれは…」

 事態を察し、擬古成は目を細めてその姿を視認しようとした。

 しかし、その幼い姿に見覚えはない。
 強いて言うなら、紗衿丈に似たその容姿に、恐らく当てはまる名前があった。

385 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:57:15 ID:.21OI1/oO
 
 太田紗衿丈の弟、太田渚本介。
 まだ十に達したかどうかの子供が、この太田家にいるはずだった。

 もし、今暴れまわっているあの子供がそうだとしたら。
 兄を殺された天野に対する復讐に燃え、そのまま剣豪として成長してしまうならば。
 間違いなく、太田渚本介は天野家の驚異となってしまうだろう。

 出る杭は打たねばならない。
 擬古成は慌てふためく兵達に向かって声を上げた。

 
(,,゚Д゚)「その童を殺せ!!首を取り、丹生捉城へ持ってくるのだ!!」

 そう言い放つと、擬古成は数人の家臣と共に、自らが居城する丹生捉へと馬で駈けていった。

 残るは、まだ幼き太田渚本介。
 そして、対する天野勢百弱。

 結果は明らかに目に見えていた。

386 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:58:21 ID:.21OI1/oO
 
 …はずだった。

 
(#´;ω;`)「うわああああああああああ!!!!」

 怒り狂った渚本介が、大勢の兵に対し、臆することなく刀を振るう。

 我を忘れながらも、全身に刀傷を負いながらも、渚本介は兵達を問答無用に襲い続けた。

 
(#´;ω;`)「ああああああ!!!うわあああああああああああああ!!」

 
 対する兵達も、この小さな相手の恐ろしさに、ようやく気づき始めた。
 大の男よりも速く、低く、鋭く、刀が繰り出されていく。

 引け、引くんだ、という誰かの怒号が辺りに響いた。
 それでも、逃げようとする兵達を更に襲い、渚本介は暴れ続ける。

 天野勢が渚本介から逃げ切った頃には、兵の数は五十ほどにまで減っていた。

387 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:59:17 ID:.21OI1/oO
 
(#´;ω;`)「殺してやる…殺してやる……」

 兵達の背中が見えなくなるまで、渚本介は刀を離さなかった。
 今生の全て賭しても構わないほどの復讐心。ただそれだけを胸に、渚本介は意識を失った。

 
 百人の兵を、十歳にして追い返した渚本介。
 この事件こそ、彼が「戦魔」と唱われるきっかけであり、天野家に対する復讐を誓った由縁でもある。

 

──

388 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 23:00:12 ID:.21OI1/oO
──

 
 根十城大手門付近。

 背を向けて膝をつく渚本介と、斬馬刀を振り上げた擬古成。
 

(;゚ω゚)「やめ……」

 
 やめろ。やめてくれ。
 掠れた声が、ブーンの意志の一部だけを拾い、擬古成に浴びせようとする。

 しかし、擬古成はブーンの訴えに耳を傾けず、無表情で渚本介を見下ろしている。

 
 長い戦いだった、と擬古成は思いふけていた。

 幼き渚本介に目をつけられてから、もう二十年弱。
 擬古成の予想通り、渚本介は天野家の驚異となり、天下統一への道を何度も防いできた。

389 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 23:01:08 ID:.21OI1/oO
 
 その戦いも、これで終わる。
 ようやく天下統一へ大きく踏み出せる。
 

(,,゚Д゚)「さらばだ、太田渚本介」

 
 敵ながら見事な男だった。
 だからこそ、一刀のもとに終わらせてやる。

 上段に構えた斬馬刀を、渚本介の首を目掛けて、一気に振り下ろした。

 

(;゚ω゚)「──!!」

 
 ざくり。

 斬馬刀から、物を斬る音が鳴った。

390 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 23:02:06 ID:.21OI1/oO
 
(,,゚Д゚)「……」

(;゚ω゚)「渚本介…さ……」


 斬馬刀が斬ったのは、固く踏みならされた地面──


(´メω・`)「心配は無用だ」

 
 ──それだけだった。

 
( ;ω;)「渚本介ざぁん……」

 渚本介が無事であることに安堵し、へなへなと座り込むブーン。

 その先で、今度は擬古成が膝をついた。

391 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 23:03:13 ID:.21OI1/oO
 
(,;゚Д゚)「きさ…ま……!」

(´メω・`)「長きに渡ったこの戦いも、これで終わりだ」
 

 擬古成が斬馬刀を振り下ろす瞬間、渚本介は横に回るように避け、そのまま擬古成の腹に虎恍丸を刺したのだ。

 腹から血を流し、膝をつく擬古成。
 その目の前に立ち、虎恍丸を上段に構えながら、渚本介が静かに言葉を向ける。
 

(´メω・`)「貴様の首を取る為だけに今日まで生き長らえてきた。貴様の野望も、その魂も、これで終わりだ」

(,; Д )「く……は…」

392 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 23:06:09 ID:.21OI1/oO
 
 本丸の建物のほうから、何やら大声が聞こえてきた。
 見ると、兵達が此方を指差しながら、慌てふためいている様だった。

 渚本介はそこには目を触れず、躊躇いなく虎恍丸を振り下ろした。

(´メω・`)「──さらばだ」

 この瞬間を、どれほど待ちわびただろうか。
 生きる上での最大の目的を、渚本介は確かに果たした。

 胴から離れた擬古成の首を掲げ、本丸を向く。
 肺いっぱいに空気をため、渾身の大声を、本丸の兵達に向けた。

 
(#´メω・`)「天野擬古成が首!!ここにィッッ!!!」

 この瞬間を、どれほど夢見ただろうか。

 渚本介の声は、根十城中に鳴り響いた。

 
(#´メω・`)「取ったぞォォォォッッ!!!!」

 
 明応五年。
 天野擬古成、根十城にて散る。

 
第十一話 終

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