- 177 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:01:39 ID:IMU23ugAO
- ***
第六話 「人の子は人」
***
もう随分と根十城へと歩いていたが、ブーンはまったく進んでいる気がしなかった。
理由はわかっている。歩けど歩けど森や山が広がっているばかりで、変わらない景色の中を延々と進んでいるからだ。
渚本介曰く、根十城はもう少し歩けば着くそうだが、その「もう少し」が遠い。
しかし、山を降りて久しぶりに町が見えた頃、ブーンの疲れきった気持ちは一気吹っ飛んだ。
何故ならそこは。
(*^ω^)「海だお!!」
(´・ω・`)「ああ。ここは村田領の港町だ」
- 178 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:01:58 ID:IMU23ugAO
-
村田領須貝付(すかいふ)。
それほど大きくはない国だが、漁業の発達した景気の良い地域だ。
その漁業の中心となる地が、今回ブーン達が訪れた須貝付という港町である。
(*^ω^)「海!海だお!!」
(;´・ω・`)「魚かお前は…」
町に降りるなり、ブーンは浜辺に向かった。
久しぶりの海。ブーンは荷物を置き、パンツ一枚の姿になって狂ったように海に飛び込んだ。
近くにいた町の人達は、海で泳ぎ回る奇妙な人間に見入っていた。
(;´・ω・`)「おいブーン、頭がおかしくなったのか」
(*^ω^)「あっすいません、久しぶりの海なもんで!テンション上昇!今夜はパーリナィッ!」
(;´・ω・`)(ダメだこいつ…)
- 179 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:03:19 ID:IMU23ugAO
-
ブーンが泳ぎ回り、渚本介が見守る。
その後ろで、ブーンの荷物にコソコソと近づく少年が二人。
( ´_ゝ`)(行くぞ弟者)
(´<_` )(ああ)
渚本介はまだこっちに気づいていない。
少年はゆっくりとブーンのギターを掴むと、一目散に走り出した。
(;´・ω・`)「!!」
(;^ω^)「あっ!?」
(*´_ゝ`)「よっしゃあ走れ!!」
(´<_`* )「流石だよな俺ら!ひゃっほう!」
(;´・ω・`)「おい待t(#^ω^)「待ちやがれごらあああああ!!!!」
- 180 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:03:34 ID:IMU23ugAO
-
(;´_ゝ`)「うわ、なんか来るぞ!」
(´<_`; )「走れ兄者!!」
(#^ω^)「待てやクソガキ共ォォォォ!!!!」
すばしっこい二人の少年と、必死に追いかけるパンツ一枚のブーン。
重いギターを担いでいるのにも関わらず、少年達はとんでもない速さでブーンとの距離を離していく。
家や店の間。魚の干乾し場の柵。それらをスイスイと飛び越えていく二人。
(;^ω^)「待てや!!」
(;^ω^)「待……ハァ…!!」
やがて、少年二人の姿は完全に見えなくなった。
──
- 181 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:05:00 ID:IMU23ugAO
- ──
( ;ω;)「どうずりゃいいんだお゙お゙おおおじょぼんのずげざああああん゙!!!」
(;´・ω・`)「落ちつけ、とりあえず一緒に探しに行くぞ」
( ;ω;)「は、はいですお…」
ギターが盗まれた。ギターが友達と言っても過言ではないブーンにとって、これは大事件であった。
しかし、犯人がはっきりとわかっているのが不幸中の幸いだ。
薄い顔の、双子のようによく似た二人。恐らくまだ十歳を過ぎた辺りでは無いだろうか。
近くにいた町の漁師に聞くと、その二人はいとも簡単に特定できた。
- 183 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:05:22 ID:IMU23ugAO
-
話によると、二人はやはり双子であり、町では有名ないたずらっ子ということだった。
互いを兄者弟者と呼び合い、完璧なコンビプレイでいたずらを遂行する、町では完全にブラックリスト入りの二人であるらしい。
町の人間にはよくいたずらをするが、人の物を盗むのは何故か今回が初めてかもしれない、とその漁師は話してくれた。
ついでに二人の家の場所を聞くと、あっさりと答えてくれた。
しかし、一つ問題があった。
(=`Δ´)「あんたら、あの家族に会いに行くつもりか」
(´・ω・`)「そうだが、何かあるのか?」
(=`Δ´)「そうか…いや、何でもない」
言いづらそうに顔を伏せる漁師。
気になったので別の人間にも聞き回ってみたが、皆同じように口を閉ざす状態だった。
- 184 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:06:41 ID:IMU23ugAO
-
(´・ω・`)(何か変だな…)
( ;ω;)「しょ、渚本介さん、どうしたんでずがお?」
(;´・ω・`)「いや、例の二人のことが…ってまだ泣いてたのか」
( ;ω;)「すんませんそろそろ泣き止むので…」
何か変だ。
町の人間が、まるであの二人を、というよりあの二人の家族を極端に避けている様子だ。
いたずら好きな少年ならどこにでもいる。忌み嫌ったり、避けてしまう理由になんてなるはずがない。
なのに、この町の人間達の態度はどこかおかしい。
- 185 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:07:23 ID:IMU23ugAO
-
とにかく、まずは例の二人の家に行ってみるべきかもしれない。
先ほどの漁師が教えてくれた場所は、この町から少し離れた山の中だった。
(´・ω・`)「ブーン、あの二人の家に行こう。きっとそこにぎたーもあるはずだ」
( ^ω;)「はいですお!」
(;´・ω・`)「なんだその妙な顔は」
念のために町の商人達に話しかけて、ギターが売られていないかの確認をしながら、渚本介とブーンは双子の家に向かった。
──
- 186 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:08:07 ID:IMU23ugAO
- ──
夕方。
この場所から須貝付を見下ろすと、夕陽に照らされた町並みが綺麗に映えていた。
きっと、海側から上る朝陽に照らされた光景は、もっと美しいのだろう。
ブーンと渚本介の二人は少し傾斜の強い山を登り、例の双子の家に辿り着いた。
(;^ω^)「ああ疲れた…こんなところに家建てるとかドMだろ…」
(´・ω・`)「どえむ?」
(;^ω^)「あっ、いや何でもないですお」
(´・ω・`)「そうか、とにかく入るぞ」
その家はかなり老朽化した状態で佇んでいた。
家を支える木柱はところどころ虫に食われ、建築物としてはかなり危ない状態だ。
渚本介もそれを察してか、玄関の戸を優しく叩いた。
- 187 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:09:31 ID:IMU23ugAO
-
途端、家の中から二人分の足音が聞こえてきた。
こんな夕方の来客に何も怪しむことなく、相手は勢いよく戸を開けた。
(;´_ゝ`)「はい!……ってうわああああ!!」
(´<_`; )「ぎゃあああ!!さっきのキチガイ南蛮人だ!」
戸を開けるなり、何やら叫んで家の中へ駆け戻った双子。
ブーンの顔に再び怒りが浮き出る。
( ^ω^)「……誰が…」
(#^ω^)「誰がチキン南蛮じゃごらあああ!!」
(;´・ω・`)「待てブーン。お前今何か変なこと言ってたぞ」
(#^ω^)「渚本介さん!早くあいつら追いましょう!!急がないと逃げられて──」
('、`*川「あの…」
- 188 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:10:47 ID:IMU23ugAO
-
突然の女性の声に、暴れる寸前だったブーンはピタリと止まった。
見ると、玄関のすぐ手前にか細い女性が一人立っている。
歳は30代の半ばくらいだろうか。あの双子の母親だと予想できるその女性は、玄関先まで苦しそうに歩きつくと、ゆっくりと両膝をついた。
('、`*川「先ほどの楽器の持ち主でしょうか…息子達が迷惑をかけてしまい、申し訳ございませんでした」
(;^ω^)「あ、ハイ…」
('、`*川「どうぞお上がりください。私、あの双子の母親で、辺尼指(ペニサス)と申します」
(;^ω^)「あっ…その…」
(´・ω・`)「失礼致す」
あまりにも礼儀正しい辺尼指に、逆に申し訳なさを感じてしまったブーン。
しかし、渚本介が遠慮することなく家に上がったので、ブーンもその後に続いた。
- 189 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:12:00 ID:IMU23ugAO
-
囲炉裏のある部屋に通されると、すぐに辺尼指が茶を持ってきた。
足が悪いのか、その丁寧な仕草の一つ一つが危なっかしい。
辺尼指は二人に茶を淹れると、改めて深く頭を下げた。
('、`*川「息子達が盗みという悪行を働いたことを、まことに反省しております」
('、`*川「例の品は無事に預かっております。ですから、願わくば命だけはお許しを…」
(;^ω^)「いやいや命なんか取りませんお!僕はギターさえ無事に戻ってきてくれれば、それで良いんですお」
('、`*川「有り難き幸せ…感謝致します」
(´・ω・`)「……」
('、`*川「あんた達、アレを返しなさい」
( ´_ゝ`)(´<_` )「……はーい」
いつの間にいたのか。例の双子が此方を覗いたまま、元気の無い返事をした。
双子はすぐにギターを持って、ブーン達のもとに帰ってきた。
- 190 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:13:10 ID:IMU23ugAO
-
双子が持ってきたそれは、間違いなくブーンのギターだった。
無事でいたことにホッと息をつく。
辺尼指が双子を連れて奥で説教を始めたので、ブーンはギターを抱えながら渚本介に尋ねた。
( ^ω^)「それにしても、さっきの"命だけは"ってどういうことですかお?」
(´・ω・`)「え?」
( ^ω^)「さっき辺尼指さんが言ったことですお。盗んだくらいで命乞いなんて、昔よっぽど酷い経験でもしたんですかおね」
(´・ω・`)「何言ってるんだ。普通、盗っ人は即晒し首だぞ」
( ^ω^)「へえー……」
(;^ω^)「…え!?なんで?」
(´・ω・`)「なんでって、罪に罰を与えて公然に晒すのは当然だろう。これは平和というものに必要な、ある意味正当な犠牲だ」
- 191 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:14:39 ID:IMU23ugAO
-
(´・ω・`)「それが新しい罪への抑止になる。未来の日本にはこの制度はないのか?」
(;^ω^)「いやありますけど、死刑なんてよっぽどの罪じゃないとならないですお!盗みくらいじゃ、せいぜい罰金か短い懲役…幽閉ですお」
(´・ω・`)「何故だ?罪人は生きてる限り新たな罪を起こしやすいもんだろう」
(;^ω^)「そりゃそうですけど…」
この時代に飛ばされて、ブーンは現代とのギャップに度肝を抜かされることがしばしばあった。
今回もそうだ。現代との秩序観、罰則の違いに、ブーンは驚かされていた。
( ^ω^)「…こんな話がありますお。人々を殺していた悪魔を、罰として神様が殺した。では神様はその殺した罪に問われないのか。ってやつですお」
(´・ω・`)「ふむ…」
- 192 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:16:00 ID:IMU23ugAO
-
( ^ω^)「その神様が殺しの罪を働いたとなると、その神様も罰として殺されてしまうんですお」
( ^ω^)「つまり、罪を殺しで解決していくと、延々と殺しの螺旋が続いてくだけなんですお。盗っ人を罰として殺したとしても、殺したほうが間違いなく罪が重いんですお」
( ^ω^)「だから、日常的な晒し首とか死刑なんて、それこそ罪なんですお。罪には殺し以外の相応の罰があるんですお」
罪人を平気で消していくのは、正当な罰とは言えない。正しい秩序ではない。
もちろん、命を以て償われるべき罪もある。しかし、それは頻繁に起こり得る罪ではない。
いくら罪人と言えど、その命を無駄に切っていくべきではない。
それが秩序であり、命の在り方なのだ。
(´・ω・`)「……なるほどな」
- 193 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:17:12 ID:IMU23ugAO
-
(´・ω・`)「かなり勉強になったよ。そうか、未来とはやはり考え方が違うもんだな…」
渚本介はやけに納得した様子で、何度も頷いている。
奥でもちょうど説教が終わったらしく、双子がしょんぼりと部屋を出て行くところだった。
辺尼指はブーンと渚本介の所に戻ると、またも深々と頭を下げた。
('、`*川「いくらお二方がお許しになられても、此方は罪を働いた身。食事と寝床の用意をさせていただけますでしょうか」
( ^ω^)「おっ、それなら遠慮なく泊まっていきたいお。大丈夫ですおね渚本介さん」
(´・ω・`)「ああ。宿屋代が浮くと思えばありがたいものだ」
('、`*川「わかりました。どうぞおくつろぎ下さい。食事が済んでから、風呂と寝床の案内をさせていただきます」
──
- 194 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:18:23 ID:IMU23ugAO
- ──
あまり豪華とは言えない食事をたいらげ、風呂を上がったところで、ブーンと渚本介は先ほどの囲炉裏のある部屋でコソコソと話をしていた。
須貝付の人間達がこの家族を避けている様子だったのを、渚本介が話題に出してみたからだ。
正直、この家族を避ける理由など全く思い当たらない。
むしろヘタな町人よりも礼儀正しく、好感の持てる女性が一家を担っているのだ。
不可解な状況下にあるこの家族に興味を持ったのか、渚本介はいつも以上に真剣に考えていた。
(´・ω・`)「ブーン、何かこの家族に違和感はあるか?」
( ^ω^)「…僕は無いと思いますお。どこにでもいる普通の家族だとしか…」
(´・ω・`)「ううむ…」
- 195 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:19:23 ID:IMU23ugAO
-
二人が黙って考えているところに、寝床の準備を終えた辺尼指が戻ってきた。
やはり本人に聞くしかない。あまり大きな声で言えない事かもと考えた渚本介が、少し身を乗り出した。
(´・ω・`)「少し答え難いことかもしれぬが…」
('、`*川「なんでしょう」
(´・ω・`)「須貝付の人間はこの家族に対して妙な態度をとっていたのだが、理由を教えてくれないか」
('、`;川「!……」
顔を伏せて黙り込む辺尼指。
マズい質問だったか、と少し後悔していると、辺尼指はぽつぽつと語り出した。
('、`*川「……私のせいなのです」
- 196 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:21:26 ID:IMU23ugAO
-
('、`*川「畜生腹、というものを御存知でしょうか」
(´・ω・`)「!」
(;^ω^)「あっ…」
聞いたことはあった。
昔の日本では、双子を産んだ女性のことを「畜生腹」と称し、忌み嫌う風習があったのだ。
それを避ける為に、双子の一方を捨てていた、なんて話も珍しくない。
「畜生腹」の風習は現代でも一部で存在しているらしい。
となると、辺尼指に何が起こったのかはある程度想像できる。
('、`*川「私はお産で足を悪くし、町の人間からはその畜生腹が原因で蔑まされてきました」
('、`*川「しかし、私の夫はそんな町の人間達にいつも反発しておりました。子を二人産んだくらいで何が悪いんだ、と」
- 197 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:22:50 ID:IMU23ugAO
-
('、`*川「しかし、夫が海難事故で死んでから、私達に対する町の人間達の扱いは更に酷くなっていきました。畜生の夫だから、海にも飲まれるんだ、って…」
('、`*川「それから私達家族は村八分にあいました。須貝付を追い出され、行くあてのなかった私達は、この廃屋に住まうことにしたのです」
(;^ω^)「……」
(´・ω・`)「……」
かける言葉が見つからなかった。
町の人間達は間違っている。いや、この習わし自体が間違っている。
しかし、どうすればいいのだろうか。
間違っているとしても、これからも町の人間達のこの家族に対する態度は、きっと変わりない。
二人が黙りこくっていると、辺尼指は笑顔を残して去っていった。
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「……」
これほどまでに寂しい笑顔を、ブーンは見たことがなかった。
──
- 198 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:24:25 ID:IMU23ugAO
- ──
夜も更けた頃。ブーンと渚本介は寝室にいながら、眠れない夜を過ごしていた。
二人共起きているのに、特に話をするわけでもない。
ただ眠れずに、この家族に起こっていることをひたすら考えていた。
この家族の為に、自分に何かできないことはないのか。
ただ天井をぼーっと眺めていると、その視界に急に双子が現れた。
( ´_ゝ`)「……」
(´<_` )「…おい南蛮人、起きてるか?」
(;^ω^)「うわっ、なんだお急に」
(´・ω・`)「こんな夜中にまだ起きていたのか…」
( ´_ゝ`)「武士様も起きてたのか、ちょうどいいや」
(´<_` )「なあ、頼みがあるんだ」
- 199 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:25:34 ID:IMU23ugAO
-
突然現れたかと思うと、何やら頼み事を言おうとする双子。
とりあえず、黙って聞いてみることにした。
( ´_ゝ`)「南蛮人の持ってるそれ、琴っていう楽器なんだろ?琴を母ちゃんの前で弾いてほしいんだよ」
(´<_` )「母ちゃんは俺らが生まれる前から琴に憧れてたらしいんだ。だから是非弾いてくれよ」
( ^ω^)「……」
心優しい少年達だ、とブーンは思った。
ということは、昼間の双子の行動は、母親の為に刑を受ける覚悟で盗みを働いたのだろう。
疲れきった母親に、琴を聞いて元気になってもらう為に。
ただのいたずらっ子なんかじゃない。本当は、常に母親を想っている優しい子供達なのだ。
しかし、彼らは一つ大きな間違いをおかしていた。
( ^ω^)「これ琴じゃねーお」
- 200 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:26:53 ID:IMU23ugAO
-
( ´_ゝ`)「……」
(´<_` )「……」
(;´_ゝ`)「……えっ」
(´<_`; )「なん…だと…?」
そう、これは琴ではなく、ギターなのだ。
琴を見たことのない双子にとっては当たり前の間違いかもしれないが、それにしても痛い。これは痛い。
(;´_ゝ`)「…じゃ、じゃあさ、これを琴だと言って母ちゃんに聴かせてやってくれよ!」
(´<_`; )「そうだよ!嘘でもいいから弾いてくれ!」
(;^ω^)「うんまあ…いいけど…」
('、`*川「こんな夜中にどうしたんだい」
(;´_ゝ`)(´<_`; )「!!」
('、`;川「…ってあんた達何してるの!!申し訳ございません、息子がまたも非礼を…」
(;^ω^)「ちょ、ちょっと待ってくださいお!」
- 201 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:28:16 ID:IMU23ugAO
-
急いで双子を連れ戻そうとする辺尼指を、ブーンが呼び止める。
少し驚いたように辺尼指が振り向いた。
( ^ω^)「僕は子供達に頼まれたんですお。僕の持ってるギ…琴を、辺尼指さんに聴かせてやってくれって」
('、`*川「!」
目を丸くした辺尼指が、双子の方を向いた。
双子は嬉しそうにニヤニヤしている。
('、`*川「あんた達…」
( ^ω^)「ではいきますお」
いつものように渚本介がブーンの見える位置に座り、ブーンがギターを構える。
相変わらず目を丸くしている辺尼指と、わくわくした顔を向ける双子。その真正面で、ブーンは演奏を始めた。
曲は久石譲の「summer」のギターアレンジバージョン。
ゆったりと流れる時間や思い出、そして人の優しい感情を、ギターの音色に乗せて響かせていく。
- 202 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:29:03 ID:IMU23ugAO
-
('、`*川「……」
( ´_ゝ`)(´<_` )「……」
うっすらと涙を浮かべる辺尼指。
その両手には、双子の手がしっかりと握られていた。
子が何人いようと、子供達は間違いなく親を愛している。
それさえ親がわかれば、これ以上の幸せなんてないものだ。
町の人間にいくら蔑まれようと、忌み嫌われようとも構わない。
自分にはこの子達さえいればいい。
と、そう思っているに違いない。
辺尼指の頬をつたう雫が、それの何よりの証明になっていた。
──
- 203 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:30:34 ID:IMU23ugAO
- ──
翌朝。
ブーンと渚本介が寝床を出ると、既に朝食の用意ができていた。
辺尼指が腫れた目で挨拶をし、そのまま三人で食事を始めた。
(´・ω・`)「ん?子供達はどうなされた?」
('、`*川「まだ寝ております。あんな夜中まで起きるもんだから…」
そう言うと、辺尼指は小さく笑った。
ブーンと渚本介にも、自然と笑顔がこぼれる。
('、`*川「…昨晩は本当にありがとうございました。息子達の嘘にも付き合ってくれて」
(;^ω^)「あれっ、バレてたんですかお?」
('、`*川「ええ。実は、私の父が琴作りの職人だったのです」
- 204 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:31:48 ID:IMU23ugAO
-
ほう、と呟く渚本介。
辺尼指は笑顔のまま続けた。
('、`*川「幼子の頃から、私は父の作る琴に強い興味がありました。しかし、これは偉い人が使うものだから、と絶対に触らせてくれなかったのです」
('、`*川「ですから私は琴に憧れのようなものを抱いておりました。それを息子達に話したのは随分前の事ですが…まさか覚えていたとは」
(´・ω・`)「……」
( ^ω^)「本当に優しい息子達ですお」
気分の良くなる、爽やかな朝。
三人は温かい雰囲気の中、朝食を食べ終えた。
しばらくすると、廊下の方から二人分の騒がしい足音が聞こえてきた。
- 206 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:33:02 ID:IMU23ugAO
-
( ´_ゝ`)「おはよう母ちゃん!!見て見て、弟者とこれ作ったんだ!」
(´<_` )「名付けて"木の実鉄砲"!!兄者!狙いはあのキチガイ南蛮人だ!」
('、`;川「こ、こら…」
( ´_ゝ`)「バアアアン!!」
(;゚ω゚)「ぎゃあああああ!!」
朝早くにも関わらずテンションの高い双子。
いつの間に作ったのか。双子は自ら編み出した武器「木の実鉄砲」を構え、たくさんの木の実を放出させた。
直後、その全てがブーンの顔面に命中した。
( ´_ゝ`)「やりい!!」
(´<_` )「流石だよな俺ら!!」
('、`;川「あ、あんた達何やってんの!」
- 207 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:34:08 ID:IMU23ugAO
-
( ^ω^)「……」
前言撤回。こいつらを優しい子だなんて言った自分がバカだった。
この双子はまごうことなくクソガキです。本当にありがとうございました。
( ^ω^)「てめえら……」
(#゚ω゚)「ちょっとそこ座れやあああああ!!」
(;´_ゝ`)「うわっ!逃げるぞ弟者!!」
(´<_`; )「おう!!」
(#゚ω゚)「待てやごらあああああああ!!!」
('、`;川「ああ、もうあんた達!」
(´・ω・`)「ははは」
爽やかな朝は、一変して騒がしい朝になった。
小さな双子を追いかけるブーン。オロオロする辺尼指。それを見て楽しそうに笑う渚本介。
そこは、須貝付の町よりも賑やかな場所だった。
──
- 208 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:35:53 ID:IMU23ugAO
- ──
(´・ω・`)「随分と世話になった」
('、`*川「いいえ、こちらこそ。またお越しください」
( ´_ゝ`)「じゃあね武士様!あとキチガイ!」
(´<_` )「また来…いやなんでもない」
(#^ω^)「クソガキが…」
('、`;川「ああもう!…申し訳ございません」
(´・ω・`)「ははは、もう行くぞ」
( ^ω^)「わかりましたお。…覚えてろよ」
三人の親子が見送るなか、ブーンと渚本介は歩き出した。
須貝付の町とは反対側に、山を登っていく。
ふと振り向くと、水平線から上る朝日に照らされた須貝付の町が、ブーンの目に飛び込んできた。
- 209 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:37:48 ID:IMU23ugAO
-
( ^ω^)「……」
綺麗な港町だ。町は賑わい、人々は元気に行き交っている。
しかし、すぐそこに見える辺尼指とその息子達が住むボロボロな家のほうが明るく見えるのは、果たして気のせいなのか。
(´・ω・`)「?どうしたブーン」
( ^ω^)「…なんでもないですお。行きましょうお」
活気のある港町だろうと、陰気な山の中だろうと、人が住めば明るくなるものだ。
そう、「人」が住むのだから。
相変わらず傾斜の強い山道だったが、ブーンは昨日ほど苦しくなかった。
白い朝の光が、なんだかやけに眩しかった。
第六話 終
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