- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 22:23:23.09 ID:Qi9W7KjU0
- view.( ФωФ) Sugiura Romanesque
自室のベランダから見る東方。
風が吹いてきていた。その風がいやな予感をかきたてるのは、数日前から変わらない。
( ФωФ)「悪い事が起きる……か」
「ベランダで物思いか、杉浦の孫よ。お前らしいが、どうもな」
( ФωФ)「俺が俺で居て何が悪いんだ……荒巻老。
それと、部屋に入るときはノックをしろと言っている筈だが」
振り向かずに答えると、老人が俺の横に並ぶ。
彼の名は、荒巻スカルチノフ。俺の爺さんの代から、杉浦が戦い続けてきた老将だ。
/ ,' 3「五十回は叩いたんじゃがな。まあお前がお前で居るのは構わん。
だがお前の態度は全体の士気に関わる。違うか?獅子王」
( ФωФ)「……老も、戦争が起こると思うのか」
/ ,' 3「まーね」
老は懐から紙を引っ張り出すと、俺に差し出してくる。
( ФωФ)「シュール・シベリアから"獅子王"杉浦・ロマネスクへ……
アスキーの軍がタシロ島へ向っている模様。飛行機械の修理が整い次第、シベリアはタシロ島の援護に向かいます」
音読し、思う。
ああ、シベリアの王はいつでも悠長だな、と。
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 22:26:05.91 ID:Qi9W7KjU0
- / ,' 3「ワシはシュール王の判断は正解だと思うぞ。
船なら一週間はかかるじゃろ。飛行機械の修理にどれだけ時間がかかるかはわからないが、飛ばしてしまえば二日かそこいらだ」
思う。
アスキー軍……恐らく、出てくるのは"狂王"ギコ・アスキー。
殆ど一人でニーソクの半分を叩き潰した鬼神に、俺達は敵うのだろうか。
/ ,' 3「またマイナス思考になっておる。そう言う所は、お前のクソジジイには似ないもんじゃな」
( ФωФ)「クソジジイ……か。そのクソジジイなら、こんな時どうしただろうな」
/ ,' 3「弱気じゃのぉ、現代の杉浦は。まっこと、弱気じゃ。
ま、お前のクソジジイなら敵の船まで泳いでいって船上でドンパチ仕掛けるだろうよ。一人で」
( ФωФ)「老。そのジジイは特殊だ。そいつの面影を俺に求めるのは止めて貰いたい」
/ ,' 3「昔似たような事があってのう。ワシは篭城してたんじゃが、お前のクソジジイは青い月も沈みかけた頃に一人で城壁よじ登ってきてのう。
全く、あの時ワシがションベンに起きてなかったら今頃ワシがこうして思い出話をしている事もなかったじゃろうなぁ」
駄目だ、聞いてねぇ。
全くジジイと言うのは独り善がりになるから困る。
伝聞による俺の爺さん像からして、もし奴が生きていたら相当面倒なジジイになっていただろう。
ああ、くたばっていて助かった俺の爺さん。
/ ,' 3「全く……今の杉浦にはそれくらいの覇気が足りんのじゃよ。
ま、そんな杉浦に負けたワシが言うのも説得力にかける気がせんでもないがな」
( ФωФ)「覇気、か。ジョルジュにも似たような事を言われたなぁ。
いっそ、俺と代わってくれれば良いのに……」
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 22:29:20.29 ID:Qi9W7KjU0
- / ,' 3「ほれ、また弱気になる」
( ФωФ)「俺が俺で居て何が悪いんだ……荒巻老」
/ ,' 3「ま、ワシもお前の行く末を強制したりはせんよ。
ただ、最初言ったとおりお前の態度が全体の士気に関わる事だけは覚えておくんじゃな」
カッカッカ、笑いながら老は部屋に戻って行った。
昇り切った青い月が、寒気を与えてくる。
( ФωФ)「……戻るか、俺も」
俺は散らかしてしまうタイプなので、部屋がいつも綺麗である事には感謝しなければいけない。
今も、ゴミを詰めた袋を抱えた少女が部屋から出ようとしていた所だ。
彼女は俺がベランダから戻ったのに気づいたのか、こちらを振り向いて頭を下げる。
| l| ゚ー゚ノl「お兄様……ノックしても返事が無かったものですから……」
( ФωФ)「気にしないで良い。ありがとうな、・」
| l| ゚ー゚ノl「はい。どういたしまして、なのです」
再び頭を下げると・はドアを押して出て行った。
部屋がいつも綺麗である事には感謝しなければいけない。
だけど、綺麗過ぎる部屋は今の気分とは合わない、気がする。
( ФωФ)「戦争、か」
悪い予感であればよかったのに、それは現実として迫ってきている。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 22:32:48.03 ID:Qi9W7KjU0
- _
( ゚∀゚)「自分に力が無いかもしれないだってぇ?またいつもの弱気発言か」
夕食の後、俺の部屋に酒盛りに来たジョルジュが言う。
( ФωФ)「ただ杉浦に産まれて、ただ運良く荒巻老を破っただけで、『タシロを平定した獅子王』と呼ばれる。
俺にはこれを親の七光りと言って貰ったほうが気が楽だよ。実際、俺は何もしていない」
グラスをちびちびと傾ける。
既に一杯を飲み干したジョルジュは新たに酒を注ぎながら、
_
( ゚∀゚)「それなんだよ、お前は杉浦だ。お前の親は偉業を成して来た。違うか?」
( ФωФ)「それが俺と不釣合い――」
_
( ゚∀゚)「違うな」
悪戯っぽくグラスを揺らし、氷でカランと音を立てると、ジョルジュはそれを一気に口に流し込んだ。
ゴトンと叩きつけるようにそれをテーブルに置くと、口元を袖で拭う。
_
( ゚∀゚)「親が偉業を成したからこそ子にもそれを求めるんだよ、人ってのはな。
その欲求が満たされなければ人は子を見捨てるし、満たされれば子を新たな代として認める」
( ФωФ)「成したのか?俺は……何かを」
ああ、とジョルジュは首肯する。
_
( ゚∀゚)「武芸においては"狂王"ギコに劣らず、西方唯一の魔術使い。
その二力を以って荒巻を破り、平定を成した。文字通りお前は杉浦"獅子王"ロマネスクだ」
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 22:35:19.05 ID:Qi9W7KjU0
- ( ФωФ)「違うんだよ……俺は、自分の力が解らない。
回りは俺を崇め讃える。だが、俺には解らない」
獅子王の名も、所詮は他人が与えた称号。
いわば俺は井の中の蛙。世界を知らない、ちっぽけな存在ではないのか?
( ФωФ)「俺を超える偉業を成した者は居た筈だ。俺を超える力を持つ者も居るはずだ。
俺は……弱いんじゃないか?」
_
( ゚∀゚)「良いだろ、そう思えるならよ」
(;ФωФ)「は……?」
_
( ゚∀゚)「荒巻のジジイはお前のそういう弱気を良く言わないがよ、俺はそれこそがお前の強さだと思っている。
足りてない、必要だ、そう言う欲が、お前を高みに導いてくれると、俺は思ってるわけだ。
ま、実際そうだろ?杉浦に生まれたお前は自分に不足を感じ、自らを洗練させて行った筈だ。昔から、お前はそうだ」
( ФωФ)「強く……なれるのか、俺は」
_
( ゚∀゚)「ま、俺とか荒巻のジジイ以外に弱みは見せない方がいいと思うがな。士気に関わる。
特に・ちゃんなんかはお前の弱い所は見たく無いだろうな」
( ФωФ)「・……か」
_
( ゚∀゚)「可愛いよなあ、彼女。いつもお前に献身的でさ。
たまに俺と話すときも、いつもお前の自慢ばっかりしてるよ。"兄"のお前が、誇らしいんだろうな」
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 22:39:21.58 ID:Qi9W7KjU0
- 杉浦・・は俺の本当の妹では無い。
あれは、タシロ島北部のランナウェイ領に、父の交渉について行った――俺が十二歳の時か。
ランナウェイ領のある村は、士気高揚の為に焼き払われた。
領主の手により行われた、杉浦が為したと偽る自作自演。
その後の戦いでは、感情の爆発は圧倒的な力を生み出すということを痛いほどに経験した。
だが、・との出会いはその戦いではない。焼き払われた村の、唯一の生き残り。それが・。俺の――妹に限りなく近い存在となった少女。
―― 十三年前 ランナウェイ地方のとある村にて
(`・ω・´)「……酷い有様だ」
眼前に広がる焼けた村の光景を見て、父上は溜息を漏らした。
炭になった家屋は石壁の残りと思われる物だけを低く残している。
村の中央に位置する噴水には、水を求めたのだろうか、多くの人々が死骸となって折り重なっていた。
(`・ω・´)「……生き残りを探せ。何があったのか、知らなければいけない」
俯いた顔を支えるように、目に手を当てて父上は言った。
父上も、無駄に命を奪われるのは好きではなかったな。あれは、涙を隠す為だったのだろうか。
( ФωФ)「父上、私も生き残りを探して参ります」
ああ、と父上は短く答えた。
戦に出て剣を振るうことは許されていなかったが、このような雑事は許してくれていたし、俺も進んでやった。
それが経験になり、後に生きると、父は言っていたからだ。
( ФωФ)(それにしても、酷い有様だ……)
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 22:43:11.46 ID:Qi9W7KjU0
- 単なる火事で村だった場所が単なる焼け野原になるとは普通は考えない。
となれば、誰かが村を壊す事を目的に火を放ったか。
しかし、何故。
ランナウェイに敵対する領は、今の所平定を目的とするマーシィ以外には無いだろう。
しかし、マーシィはたった今ここにたどり着いたばかり。
例え焼き討ちの為の部隊を先行させる事が可能であったとしても、このような行為を父上が許すはずも無いだろう。
ごとん、と背後から何かが落ちる鈍い音が聴こえる。
( ФωФ)「誰か居るのか!?」
叫ぶが、返事は無い。
音のした先には、支柱も炭となってしまった家屋の焼け跡があるのみ。
しかし、俺はその家屋に何かを感じた。
( ФωФ)「居るのか!?居たら、返事をしてくれ!」
家屋に近づき、叫ぶ。
「う……うん……」
した。返事と呼べるかは危ういが、力を失った少女の声が。
恐らくは炭となった屋根が覆いかぶさっているのだろう。外からは見えないが、その屋根をどければそこに少女が居るはずだ。
( ФωФ)「生き残りが居たぞ!力を貸してくれ!」
兵達の力を借りて、屋根を持ち上げる。たった五人では重みが強い。
だが、その下の少女の苦しみを思えば、これくらいは――
(;ФωФ)「待ってろ……今、助ける……!」
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/20(日) 22:46:52.35 ID:Qi9W7KjU0
- 少女は助けられた。
そのワンピースは元の色が判らないほど黒く染まり、その華奢な手足も、元は白磁のような白だったのだろうが、黒く煤けてしまっている。
絹糸のような髪も、今では純極東系の黒髪と大差ない。実際の色がどうなのかは、判別がつきにくい。
そして何より、彼女は弱っていた。
(`・ω・´)「水と食料、それに寝床だ。すぐに用意しろ。
風呂は用意できるか?それと着替え……は流石に無理か。少し大きいが、ロマネスクの換え着で我慢してもらう他無さそうだ」
(;ФωФ)「え?私のを……?」
(`・ω・´)「仕方ないだろう。この軍の中で一番体が小さいのは、お前だからな。
にしても、この少女には大き過ぎるか。まだ言葉が喋れる様になったばかりじゃないか、きっと」
台詞に反して、ふざけた調子は一片たりとも含まれていなかった。
きっと怒っていたのだろう。理由はどうあれ、この村を燃やした者、それが居るならば許すわけにはいかない。
仮設した宿舎群に少女を抱きかかえて戻る父の背中が、暗にそう語っていた。
・ ・ ・
彼女は記憶を失っていた。
自分の名前から、親の顔まで、何もかも。
白磁のような肌、絹糸のようにさらりと長い金髪、青月のように深い青の瞳。
それらが語る"彼女が極東系で無い"と言うことだけが、俺達に与えられた彼女の情報だった。
(`-ω-´)「良かった。一人の命を救う事ができたのは――不幸中の幸い、か。
結局、詳しい火災の原因を"聞き出す"ことは出来なかったが……鑑識を待つか」
その結果は、すぐに訪れた。
髪を片手に一人の兵がこの宿舎に駆け込んできて、それを父上に渡して告げた。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 22:47:39.47 ID:Qi9W7KjU0
- ν(・ω・ν;)「失礼します。焼け跡の識別、完了しました。
村の四隅にあった家屋を調べた所……それらはほぼ同時に発火したと推測されます!」
受け取った紙、それに目を通すと、父上はそれを握りつぶした。
(`-ω-´)「御苦労だった、相田。となると、何者かによる焼き討ちである事はほぼ確定か」
ふう、と溜息をつく。と、突然父は机を殴った。
その音に、相田と呼ばれた兵は驚き後ずさる。
(`・ω・´)「許さん……、誰であれ、このような悲惨な行い……絶対に、許しては置けぬ……!」
・ ・ ・
焼き討ちがランナウェイによる自作自演だということが判明したのは後のランナウェイ城攻防戦の時になってからだ。
交渉に赴いた父上が突然ランナウェイ兵に襲われた事をきっかけに、その戦いは始まった。
錬度に欠けるランナウェイの民兵がマーシィ軍を圧倒したのは、その士気による所が大きかったのだろう。
しかし、父上はそれに劣らぬ激情を抱いていた。それは、マーシィ軍の士気高揚にも繋がった。
父上が騙まし討ちを受けかけた事も、士気高揚の一因になっているには違いない。
しかしそれ以上に、マーシィの兵たちは焼き討ちを許しては置けなかったのだ。
戦いは若干此方の優勢のまま、ランナウェイ領主を討った事によりマーシィ軍の勝利に終わった。
しかし、ランナウェイはただでは下がらなかった。父上は重傷を負い、マーシィ軍も五分の一を失った。大勝というには遠い結果だ。
だが父は言った。一つの命を救えた事、それは十分に大勝に値すると。
彼女は杉浦家で面倒を見ることになった。
(`・ω・´)「名前を……つけなければいけないな。
そうだな……血の繋がりは無いものの、彼女は杉浦の一族となった。ロマネスクの妹、それに限りなく近い……・と名づけよう」
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 23:02:13.12 ID:Qi9W7KjU0
- _
( ゚∀゚)「どーしたー?」
ジョルジュの声に、俺ははっと我に帰る。
(;ФωФ)「いや、・と出合ったときの事を思い出してな」
_
( ゚∀゚)「ああ、ランナウェイか……。あん時は俺はまだ見習いだったな……交渉に連れて行ってもらえたお前を羨ましく思ったわ」
( ФωФ)「だが、あそこは……」
_
( ゚∀゚)「わーってる、わーってるって。きっとあの未熟な俺があんな所に行ってたら、怒りで我を失ってただろうよ。
そうなりゃ俺は自分で身を滅ぼす羽目になっちまってただろ。わーってる」
ジョルジュは酒を注ぎなおし、今度は味わうように少しずつグラスを傾ける。
半分辺りで口からそれを離すと、
_
( ゚∀゚)「……観測隊曰く、早くて明日の午後にはアスキーがマーシィ近辺に来る。
篭るか出るか……どちらを取る?」
思考する。
野戦で潰す事ができれば、それが一番被害が少ないだろう。
何故なら、マーシィは城壁で町を囲った都市。篭るとなると、城壁を破られた際に市民に被害が及ぶ。
だが、相手は"狂王"ギコ・アスキー。
鬼神とも呼ばれる猛将に、野戦で太刀打ちできるとは到底思わない。
( ФωФ)「……今から民をランナウェイまで避難させるとして、安全域に達するまではどれ位かかる?」
_
( ゚∀゚)「やっぱり。それを聞かれると思って、きっちり文官に聞いてきたぜ」
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 23:07:02.96 ID:Qi9W7KjU0
- _
( ゚∀゚)「まず、市民全員分の馬車を用意する事は可能。
市民にとっては急な事っつーか非常識甚だしいが、今から市民を馬車に乗せてランナウェイに出発させると……
明日、青い月が昇りきった辺りにはアスキーの早馬でも追いつけない所に行けるだろう、だってよ」
( ФωФ)「成程、赤い月が半分沈んだ頃にマーシィ草原で激突するとしたら……三時間耐えれば、篭城は可能か」
_
( ゚∀゚)「狂王相手に三時間、か。恐らく、守っても攻め潰されるだろうよ」
( ФωФ)「簡単な事だ。攻めに行けば良い」
_
(;゚∀゚)「は……?正気か、ロマネスク?狂王相手にガチでぶつかり合うつもりか?」
( ФωФ)「そんな事はしない。恐らく、相手の騎兵の数はそう多くは無い。
機動力が必要になる戦争ではないし、船舶に積むのも面倒だ。飼料も含めて、な。
そうなれば、弓兵が大いに役立つ。弓の雨を降らしてやれば、相手の手を進みにくくさせられる。
ギコも、うかつに前には出られないだろう。撃たれて死んでは元も子もないからな。
そうして出来るだけギコとの接触を避けてじわじわと城の方へ下がって行き、青い月の昇り切った頃にスムーズに篭城に移行。
後は、シベリアからの援軍を待つ。この策で行こう」
俺は空になっていたグラスに酒を注ぎ、それを軽く掲げた。
俺の意図を汲んだのか、ジョルジュはそのグラスに己のグラスを軽く合わせる。
からん、と小気味良い音が響いた。
_
( ゚∀゚)「マーシィの勝利に」
( ФωФ)「マーシィの勝利に」
青い月が、傾きかけている。窓から見える静まり返った城下町は、嵐の訪れを予期しているのだろうか。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 23:11:36.31 ID:Qi9W7KjU0
- view.(,,゚Д゚) Giko Ascii.
船旅は苦手だ。
地上では味わう事のできない微妙な揺れが、気に食わない。
だが、そんな気分ももう終わりだ。
( <●><●>)「第一隊、上陸、隊列完了しました。指示をよろしくお願いします」
第一隊 ―俺の隊― の副官、ワカッテマスが問うて来る。
こいつとは、ニーソクを奪う時からの付き合いだ。言わなくても解っているとは思うが――望むのならば言ってやろう。
(,,゚Д゚)「このタシロ島東岸からマーシィ城までの最短ラインに……幾つか村があったな」
( <●><●>)「はい。全て非武装、自警団も大した錬度ではないと聞いております」
口の端が持ち上がるのを、自分でも感じる。
心地良い。狂気が俺を包み込んでくれる。
(,,゚Д゚)「皆殺しだ。使えない農民には、精々士気高揚程度には役立って貰おうか」
( <●><●>)「畏まりました」
一礼すると、ワカッテマスは下がり、俺の部屋から出る。
奴は解っている。この指示に恐れを抱く将 ―大半は元ニーソク― が多い事に、俺は疑問を抱く。
俺達は殺す為に戦争をやっているのだ。殺さずして何が戦争か。
思う、今回の俺の相手、"獅子王"杉浦・ロマネスクを。
奴も、血の池に築いた死体の丘の上に立つ、"狂王"だ。そう、聞いている。
楽しみだ。どちらが多くの人間を殺せるのか、非常に。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 23:15:25.34 ID:Qi9W7KjU0
- (,,゚Д゚)「さあ、俺も行くか」
揺れる木床の軋みを鬱陶しく思いながら、外へ。
海岸に整列した歩兵達が、全て此方に敬礼している。
(,,゚Д゚)「聞け、アスキーの狂狼ども」
しんと静まり返った闇。
波すらも声を自重し、俺の言葉を聴いているかのような錯覚を覚える。
(,,゚Д゚)「俺達は今日からこの血に塗れた闘争の島の支配者だ。
この島は、血に剣を濡らす俺達にこそ相応しい」
腰から、剣を引き抜く。
そのまま空を一文字に一閃、忌まわしい木床に突き刺す。
(#゚Д゚)「渇きを覚えたタシロの大地に!鮮血を放ち再び潤せ!
凍えに震えるタシロの大地に!焔を咲かせて狂気に揺らせ!」
剣の柄を荒々しく握り、前に歩く過程でそれを床から引き抜く。
折り畳みの階段を下り、砂浜に足を着く。地だ。今からこの地は血に染まる。
俺が歩めば、隊列を組んだ兵たちは俺に道を譲る。
左右を敬礼に囲まれ、俺はモーゼの如く拓かれた人の道を歩む。
(#゚Д゚)「喜べ狂狼!餌は無尽蔵だ!無邪気に跳ねる兎を喰らえ!犂に従ずる雄牛を喰らえ!
襲い掛かった猟犬を、千切り倒して骨まで喰らえ!」
人の海を抜けた。振り返り、剣を掲げる。赤い月光を受けて、血の色に煌く。
(#゚Д゚)「往くぞ"狂人"!タシロの大地に――紅を散らしに!」
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 23:20:01.11 ID:Qi9W7KjU0
- view.( ФωФ) Sugiura Romanesque.
(#ФωФ)「許せん……"狂王"ギコ・アスキー!!」
ハリケーン村が蹂躙された。
その知らせを聞くや否や、俺の中で何かが弾けた。
気づけば、俺は小隊一隊を招集し、それの待つ門前に向っていた。
_
(;゚∀゚)「待てロマネスク!熱くなるな!俺に命令を下せ!俺が代わりに行ってやる!」
ジョルジュが、俺の腕を後ろから掴んで前進を妨げる。
その腕を、俺は振り上げで振りほどいた。
(#ФωФ)「五月蝿い!そんなに命令が欲しいのならくれてやる!
長岡騎士団 ジョルジュ・長岡に弓兵隊の指揮権限を与える!これとお前の戦力を以って、マーシィ城を死守しろ!」
_
(;゚∀゚)「滅茶苦茶だ!殺されに行くつもりか!?」
(#ФωФ)「命令を復唱しろ、ジョルジュ・長岡!」
_
(;゚∀゚)「出来るかよ!」
(#ФωФ)「そうか……なら、仕方あるまい……!」
俺は腰の剣を抜いた。
その切っ先をジョルジュの首元に向ける。一瞬でその命を刈り取れる位置だ。
(#ФωФ)「復唱しろ、ジョルジュ・長岡!」
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 23:24:56.85 ID:Qi9W7KjU0
- | l|;゚ー゚ノl「何をやっているのです!?お兄様!」
突然突っ込んできた・により、俺は横に突き飛ばされた。
からんと、剣の落ちて回る音が石壁に反響する。
起き上がり、埃を払うこともなく俺は一喝する。
(#ФωФ)「・か……!俺の邪魔をしようものなら、例えお前でも容赦はせん……!」
| l|;゚ー゚ノl「……ッ!」
・は俯き、それきり何も言わなくなった。
俺は剣を拾い上げると、棒立ちになっているジョルジュの肩にそれを乗せる。
俺の求めぬ答えが出なかった場合……これで首を刎ねる。
(#ФωФ)「時間が無いんだ……!復唱しろ……ッ!」
く、とジョルジュは喉の奥から息を漏らす。
それから程なく、観念したかのように口を開いた。
_
(;゚∀゚)「長岡騎士団団長 ジョルジュ・長岡……王より賜った弓兵隊と共に、マーシィを死守致します……!」
(#ФωФ)「よく言った……!その命令、違えるなよ……ッ!」
俯くジョルジュと・をそのままに、俺は城の前に待機させてあった馬に乗り、兵たちの待つ門外へ走る。
(#ФωФ)「そこを開けろ……!」
門兵に怒鳴りつけると、それはゆっくりと開いた。
ぎりぎり馬一頭が通れる幅になったそこを駆け抜ければ、騎兵隊が隊列を組んで待っていた。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 23:30:23.15 ID:Qi9W7KjU0
- 馬を止め、馬上から俺は叫ぶ。
(#ФωФ)「"狂王"ギコ・アスキーは無抵抗な農民を惨殺し、村に火を放った……!
ここに"獅子王"杉浦ロマネスク、焼き尽くされた同胞に誓おう!この狂狼を狩り潰す!
俺に続け、タシロ島の守護者達よ!卑劣な狂王を、この手で討つ!」
馬の尻を叩けば、それは加速した。
俺の後ろに、無数の蹄の音が聴こえる。
向うは狂王の駐屯する、ハリケーン村跡。昇りきった赤い月が、全てを赤く染めている。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 23:35:17.37 ID:Qi9W7KjU0
- view.(,,゚Д゚) Giko Ascii.
俺の立つ大地は、焔にて土の色を焦がし血潮にて染めて再びその身を焦がした錆色の大地だ。
既に人の身長三倍より高い物は無い。家、貯蔵庫、馬小屋、畜生。全ては黒くその跡を燻らせている。
村だった場所だ。大地の錆色も、黒染めの構造物も、墨と焼けた血の香りも、全ては喰らい尽くされた証。
ここに人が住んでいたのは過去。所々見ることの出来る白い布を張って作った仮設宿舎のみが、現在だ。
(,,゚Д゚)「全く、斬り応えの無い虫共が」
右手の剣は十分に血を浴びた。その渇きを満たすほどには。
お前にはそれで満足なのだろう、下賎な者の、黒ずんだ不味そうな血で。
命を請う様すら、何の躊躇も、何の恥も知らない。命の惜しい人間など、畜生同然だ。
"俺が"斬りたいのは、自らを以って生き、自らを以って死ぬ事を志す人間。
人間の絶望に歪む顔が好きだ。特にこの種の人間の絶望には心が満たされる。
弄び甲斐のある命と言うのは、そういうものだ。
( <●><●>)「この村に村民はもう居ません。中央広場にて死骸を焼却致しますが」
気づくと隣に立っていたワカッテマスが、告げてきた。
答えは決まっている。死骸の利用価値など、存在しない。
(,,゚Д゚)「やれ。虫けらの類の死骸など、端ほどの価値も無い」
( <●><●>)「畏まりました。ところで、ラウンジの死霊術士からの報告ですが、杉浦率いる騎兵隊が此方へ向っているようです」
(,,゚Д゚)「ほう、杉浦が……そう言えばこの村から早馬で逃げた物が一人居たが、そいつが報告したか。数は?」
( <●><●>)「100ほどです」
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 23:40:38.21 ID:Qi9W7KjU0
- (,,゚Д゚)「若いな、杉浦ロマネスク。情にでも流されたか。恐らく100は知らせを聞いてすぐに用意できた数。
まあ、運が良かった、と言っておくべきか。騎兵に対抗できる武器は持ち合わせていない。向こうが突進でもしてこない限りはな」
( <●><●>)「騎兵の突進力を軽視するおつもりですか?」
(,,゚Д゚)「俺の手にかかれば、って事だ」
( <●><●>)「そう言うと思っていました。あの時――ニーソク攻めのギコ様の活躍を、隣で見ていた者でありますゆえ」
(,,゚Д゚)「まあ、一時だけでも花を持たせてやるのは悪く無いだろう。
歩兵500を村の外に配置しておけ。後、死霊術士……確か50人居たか。全員を俺の命令ですぐ動けるように待機させておけ」
( <●><●>)「畏まりました」
一礼して、ワカッテマスは下がる。
彼が見えなくなったのを確認して、俺は口を開いた。
(,,゚Д゚)「……俺も運が良い。ここに来てたったこれだけの時間で、獅子王と剣を交えることになろうとはな」
唇の端が吊り上がっているのが自分でも判る。
紅天の夜だと言うのに土地柄で吹く寒風が、歯に染み渡るほどに。
聴こえる。脈打つ鼓動が、歓喜している。
獅子王杉浦ロマネスク。情に流されて駆けつけるほどの青二才だ。きっとその血は赤く紅いに違いない。
(,,゚Д゚)「楽しませろよ……俺を」
村の中央広場から煙が上がる。
死骸の焦げる臭いが、鼻を貫き脳まで突き刺さり、形容し難い高揚感を与える。
何だ、虫けらの死骸にも利用価値があったじゃないか。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 23:46:38.25 ID:Qi9W7KjU0
- view.( ФωФ) Sugiura Romanesque.
( ФωФ)「煙が……」
村の方から、灰色を帯びた煙が立ち上っている。
明らかに今さっき燃やした煙だ。
続けて走る事二時間、煙はまだ立ち上っていて、その香りが窺える所まで来た。
(#ФωФ)(死骸を燃やす臭いか、これは……許せ、力及ばぬ王を!)
風を浴びる事で落ち着いていた怒りの炎が、再び心の中で燃え上がる。
マサシ村はもう目の前。落ち着ける時間は存在しない。
ν(・ω・ν;)「ロマの旦那、本当に俺達だけでやれるのか?」
(#ФωФ)「お前の背につけたものの存在を忘れたのか、相田?
俺とて、ただ怒りに任せて突撃して死にに行くことを部下に強いたわけではない」
そうだ。ただぶつかるだけではあの"狂王"に殺されるのが必然。
騎兵の突撃は槍以外に止められないと言えども、その槍が持ち出されていれば狂王にすら至らず俺達は全滅。
ならばどうすれば良いか、答えは簡単だ。ぶつからなければ良い。
そのための武器――弓を、俺は騎兵達に用意させていた。
その分軽装になってしまったが、もとより100の騎兵のみでアスキー軍を落とせるとは考えていない。
適当に削った所、運が良ければ将兵の一人二人を落としての撤退。俺の意図するところはそれだ。
相手が、ただ此方が玉砕覚悟で攻めてきたと勘違いしてくれればなおよし。
この交戦の意義は損耗に無し。向こうの思惑を潰せばメンタル面で優位に立てる。
冷静になってみればそういう策も思いつく。
チャンネル系ではなんと言ったか――結果オーライ?
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 23:51:46.22 ID:Qi9W7KjU0
- 見えた、敵軍。
見える限りでは軽装鎧、武器は剣のみの典型的な"使い捨ての"歩兵。
布陣はただそれをスクエアに並べただけ。その規模を見るに、兵数はおおよそ500。
言うなれば唯の壁にも見える。
そしてその壁の奥。見えはしないが、黒い覇気が空気を震わしている。
弓の射程範囲外からでも感じるこの瘴気、間違いなく"奴"だ。
近づく。
(#ФωФ)「構え!」
蹄の奏でる重奏に、引き絞りのメロディが重なる。
徐々に鮮明さを増す敵兵の輪郭。
依然として動かず。それならば良し。
(#ФωФ)「放て!狂える狼……その首を掻き落とせ!」
紅天。満つる赤月に鏃の嵐が突き刺さる。
それは急激な放物線を描き、矢の雨としてアスキー軍の頭上に降り注いだ。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 23:55:50.40 ID:Qi9W7KjU0
- view.(,,゚Д゚) Giko Ascii.
(,,゚Д゚)「成程。己を見失うほど愚かではないか、杉浦ロマネスク……」
目の前の肉壁は降り注ぐ鉄の雨に半ば崩されている。
ある者は矢を受け倒れ、ある者は隣の死人に心を脅かす。
最早整列と呼べるかも危うい。
足元に転がる兵は三人。一人は胸に二本、残りはどちらも頭に一本。
彼らは己が命を君主に託した。俺に代わり矢を受ける行為によって。
( <●><●>)「いかが致しましょう。このまま突撃されれば蹂躙されますよ?」
いつもながらこの男の突然俺の横に現れているのには肝を冷やす。
それでいて当然のように語り掛けたワカッテマスに、俺は指示を下す。
(,,゚Д゚)「突っ込んで来たなら来たで俺が殺せばいいだけの話だ。
だがこの獅子王、感情に動かされているだけでは無いらしい。俺の読みでは、確実に突っ込んでは来ない。
盾を配れ。退くまで凌いでおけ」
俺は踵で後ろに方向転換すると、その場を去る。
風斬りの音と倒れる音が背後に連続した。
( <●><●>)「どうするおつもりで?」
(,,゚Д゚)「何、奴の意図は読めた。網を張りに行く。
後発隊が到着したら兵を進めておけ。そのままマーシィを落としに行く」
歩いたまま、後ろからの問に答える。
返答は当然の「畏まりました」だった。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:00:32.40 ID:Qi9W7KjU0
- view.( ФωФ) Sugiura Romanesque.
(#ФωФ)「直接交戦は避けろ!射程範囲ギリギリで円を描く一撃離脱を取れ!」
100の騎兵隊を10ずつの招待に分け、それに楕円を描かせる。
敵に最も近い二小隊が矢を放ち、運動に従い後ろに下がる。
そして続く二小隊が矢を放つ。
この戦法ならば、相手が近づいてこられない限りにおいて何のリスクを負うこともなく攻撃が可能だ。
円を描くことで量は少ないながらも永続的に矢を降らせることが可能になる。
加えて、撤退の際もスムーズに移行可能だ。
矢の雨によって敵の前進力が削がれている事も相まって、圧倒的優位に立っていると言わざるを得ない。
敵に変化が現れたのは、五回目に矢を引き絞った時だ。
放ち、敵を見れば何と彼らは盾を構えているではないか。
成程、用意が良い。矢の雨を盾で防げば前進が可能になる。
だがその考えは大甘だ。
(#ФωФ)「前部二隊、後発は水平射撃を行え!」
盾を持ち出そうが所詮防げるのは前か上かの二択だ。
ならばその両側から攻撃してやればよい。
この判断は功を奏す。既に敵兵は盾を上下におろおろさせている者が大多数だ。
やれている。たった100の騎兵で、狂王とも呼ばれるギコ・アスキーの軍を相手に戦えている。
(;ФωФ)(違う……!常に最悪を予想しろ、杉浦ロマネスク……!
相手は"狂王"ギコ・アスキー……その狂たる所以は果たして武勇のみに依る事か……?)
疑念が募る。強大な勢力相手に、優位に立っているが故に。
敵兵は既に200を失っている。損傷にして四割、戦果にして大勝。喜ぶべき現実が、かえって俺を思考の渦に叩き落とした。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:05:30.70 ID:Qi9W7KjU0
- 相性による優位で済ますが増しか、敵を疑うが増しか。
相手は狂王ギコ・アスキー。武勇に優れた軍人王――思案をするは……
(;ФωФ)(待て、単に武勇に優れているだけと誰が決めた?)
敵の経歴。
最下層民を纏め上げニーソクへの反乱を起こす。
その際自ら前線に立ち、一人で斬ったニーソク兵の数はその半分を超える。
(;ФωФ)(真に恐ろしきは武勇に非ず!最下層民のレギオンと言う圧倒的弱者の戦力を率い、彼はどうやって旧ニーソクを落とした?)
伝聞に誇張と除外はつき物だ。
タシロ島にまでその名が知れるものの、タシロ島で実際にその戦いを見たものなど誰も居ない。
であるなら、可能性はある。ギコ・アスキーの"策士の面"が除外された可能性。
その"戦士の面"はあまりにも濃すぎるから。
矢筒に手を伸ばす。指先に覚える感触は後五本。
まだ遅くは無い。何か仕掛けられても抗える、今の内に――
(;ФωФ)「撤退だ!全速力で城を目指せ!」
踵を馬の横腹に叩き込めば、嘶きそれは加速する。
風の重奏は濃密に耳に響く。
前髪が煽りを受け持ち上がる。
一時間駆けた。何も居ない。勝ったか?
「撃て!死霊術士!」
黒い球状の何かが上空より殺到したのは、そんな考えがふと過ぎった瞬間であった。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:10:05.05 ID:EgAiMyhj0
- view.(,,゚Д゚) Giko Ascii.
はるか前方には土煙が濃密な壁を模っている。
打ち上げられた土塊が、にわか雨の如く降り注いでいるのが見える。
(,,゚Д゚)「死霊術、これほどまでの力が――」
噂には聞いていたが、何と強力であろうか。
あの様子なら土塊の暗幕の向こう側には人馬が散乱している筈。
生き残りなど皆無だ。居たなら居たで首を刎ねればよし。
だがしかし、土塊がカーテンをかける前に見た何かは何だ。
麦粒の如く微小であったが、何かが光った気がする。
「おおおおおおお―――ッ!!」
カーテンを突き破り何かが跳び出たのは、回想を始めた瞬間。
視認。吊り上がる口元。
(,,゚Д゚)「生きていたか……杉浦ロマネスク!!」
それに続き、次々跳び出る人馬。
その数は総勢10ほど。皆、飛び出た瞬間に引き絞っていた弓を放つ。
後方に黒いローブの男達が驚く声を聞く。
無駄だ、お前達はもう間に合わない。
殺到する鏃に、そいつらは貫かれた。だが――
(,,゚Д゚)「俺に通用すると思うか、それが?」
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:15:42.10 ID:EgAiMyhj0
- やや上方から迫る矢の数は三つ、配置は横一列。
鞘走りの音を伴う剣の一閃で、その全ては弾けて落ちた。
(#ФωФ)「死ね……ギコ・アスキー!」
彼の引く矢には光が宿っている。
篭手から流れ出た幾筋もの光が螺旋を描きながら矢を伝い、鏃に集中しているのだ。
魔術か。恐らく死霊術を凌いだのも、魔術。
極東系は概して魔術は不得手と聞いていたが、成程彼は例外のようだ。
ならば。
(,,゚Д゚)「お前に俺が殺れるかよ?獅子王杉浦ロマネスク――ッ!」
柄を握る右手から、黒がにじみ出る。
それは粘性の液体が自我を持ったように刃に纏わり付き、這い上がる。
敵を見る。杉浦ではなく、彼含む十の騎兵の布陣だ。
杉浦を先頭に置き、その後ろに五人と四人の二列。
彼らは無手。恐らく先程ので矢を全て使い果たしたか。
杉浦の一撃で俺を殺して城まで逃げる心算だろう。
そうはいくか。
既に黒は剣の形を変えるまでに至っていた。
極東の刀を長くしたような形が、俺の手には握られている。
左腰から後ろに流した構えは、極東流に言えば居合い。
杉浦から光が放たれた。流星の如き一撃は、水を弾いたような快音を伴い、飛沫を散らしながら疾駆する。
(,,#゚Д゚)「ここが貴様の墓場だ、杉浦ロマネスク!!」
その流星を横一閃に割る軌道で、俺は黒の一撃を放った。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:20:00.33 ID:EgAiMyhj0
- 黒の刃が流星の頭に当たる。流星は前進の勢いで自分から刃に食い込み、真っ二つに割れた。
光が視界を蹂躙する。終わらない夜の世界が目の前だけ真っ白に染まった。
爆発系の魔術だ。しかし光を放つだけ。構うものか。黒の刃を振り抜いた。過程でいくつもの何かを切り裂く感触を覚えた。
顔にかかる飛沫は命の証か。
(,,;゚Д゚)「ぐっ……!?」
左肩に冷たい感触がめり込んだ。
その力を受け、身が反時計回りに回転する。
半回転の時点で右脚を強く地に打ち付けて体制を固定。左肩が熱い。衣類の腕の部分が濡れている。指先から滴り落ちる。
光が収束した。
ペンキをぶちまけたかのように赤い液体を身に乗せて倒れる馬が二頭、一頭の傍には一人の男が倒れている。
そして、片膝をつき立ち上がろうとしている杉浦ロマネスク。
俺の向いている方向にいるのはそれだけだ。残りの八は、後ろに散乱しているに違いない。
(;ФωФ)「痛み分け、と言った所か……」
(,,゚Д゚)「この期に及んで強がりを言える元気が残っているか、獅子王」
唯の銀に戻った剣を、俯く杉浦の肩に乗せる。
刃はその首を浅く裂き、僅かに赤い色が乗る。
杉浦を見る為に俯きになる事で、杉浦の足元に血の付いた短剣が転がっているのが見えた。俺の左肩をやったのは、これの一撃か。
( ФωФ)「……ふ、ふふふふ」
突然、杉浦が笑い出す。
否、湧き上がる笑いを抑えきれなくなった、と言う感じか。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:26:35.77 ID:EgAiMyhj0
- (,,゚Д゚)「……何が可笑しい?それとも、死が恐ろしくなったか?」
( ФωФ)「まさか。命が惜しいのは当たりだが。
一つ教えてやろう、孤独な狼。戦いは一人でやるもんじゃあないんだよ」
「総員、放ちなさい!」
(,,;゚Д゚)「何……だと!?」
背後より、矢の放たれる音が幾重にも重なる。
慌て飛びのけば、さっきまで自分の居た所を横に一閃するように矢が付き刺さっている。
見れば、騎馬がざっと見るだけで2000騎。それを後方に待たせ、一組の男女が騎上より降り、杉浦に一礼する。
_
( ゚∀゚)「長岡騎士団、マーシィの具現たる国王杉浦ロマネスク殿を命によりお守りするべく参上いたしました」
( ФωФ)「全く詭弁だな、ジョルジュ。まあ助かったからよしとするか。何故・が居るのかは不明だが」
| l| ゚ー゚ノl「マーシィの軍隊を動かす権限は、杉浦にしか御座いませんので」
( ФωФ)「そうかそうか。ま、今回だけにしておけな」
男の肩を借りて、杉浦が立ち上がる。
そのまま此方を指差して、
( ФωФ)「舞台から降りるときが来たぞ、狂王。
死んで殺した御霊に詫びろ、ギコ・アスキー」
死ね、か。
今度は此方が笑いを溢す番だ。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:31:03.87 ID:EgAiMyhj0
- ( ФωФ)「何が可笑しい?好き好んで戦場に出て命を刈り取るお前が、今更死など恐れているとは考えにくいが」
(,,゚Д゚)「いやいや、たかが騎兵2000如き、俺一人でも全て血祭りにあげる事は容易い。
だが、良い言葉を教わったのでな……お前にも聞かせてやろう」
息を吸った。血のこぼれる左の人差し指を、杉浦に向ける。
(,,゚Д゚)「戦いは一人でやるもんじゃねぇんだよ―――撃て、ワカッテマス!」
「畏まりました」
眼前が土煙に包まれた。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:35:11.56 ID:EgAiMyhj0
- view.( ФωФ) Sugiura Romanesque.
(;ФωФ)「クソ……ジョルジュ、どうなっている?」
土煙の中でも、辛うじて隣に居るジョルジュと・は見える。
_
(;゚∀゚)「わからねぇ。だがどうも嫌な予感がする。この一撃、魔術か?」
(;ФωФ)「否、魔力は感じられなかった。恐らくは噂に聞く砲撃兵器……!
だが、何故魔術にも技術にも秀でているわけで無いアスキーがその両方を……?」
煙が徐々に薄まる。
見えたのは、いつの間に現れたのか大量の歩兵と、砲台二機。
ギコの隣には黒いマントを羽織った男が立っている。
( <●><●>)「後発隊1500を先発隊2000に加え、さらに砲撃兵器を引いて参上しました。
後発隊残り5000は指揮権をミルナに移譲しキャンプにて待機させてあります」
マントの男がギコに対し口早にそう告げた。
(,,゚Д゚)「結構。さあ殺り合おうかタシロ島の守護者達。
俺を楽しませろよ、獅子王」
敵兵力は現在3500。数だけで既に此方に勝っている。
加えてわが軍に砲撃兵器を防ぐ手立ては無い。
先程のはただ土煙を起こす為に放たれたものだったが、次もそう使われるとは限らない。
( ФωФ)「……ジョルジュ」
_
(;゚∀゚)「辞世の句を聞くのは勘弁だぜ?」
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:41:12.52 ID:EgAiMyhj0
- ( ФωФ)「・と長岡騎士団、マーシィ軍の撤退志願者を連れて撤退しろ。
シベリアからの飛行機械を待って、一緒にシベリアまで飛べ。向こうもそのつもりだろう」
_
( ゚∀゚)「……逃げろって、言うのか?」
( ФωФ)「解れ、ジョルジュ。今は逃げる時だ。
俺達ではこれには勝てない。ここでシベリアと組んでぶつかっても、今は殺されるだけだ」
はあ、と溜息が聞こえた。
_
( ゚∀゚)「大人になると物分りが良くなるのが良くねぇ。お前の言ってる事が正しいとかな。
わーったよ、逃げてやるよ。さしずめ俺達は最後に残された希望――チャンネル風にラスト・ホープって所だな」
ジョルジュは馬にまたがり、下がる。
( ФωФ)「……・。俺が死んだ後、タシロを再び一つにできるのは杉浦であるお前しか居ない。
これは頼まれてくれなくても良い。だが一つだけ命令させてもらおう。生きろ。ここで命を無駄にするな」
彼女は黙って頷き、馬にまたがってジョルジュに続いた。
これで心残りは無い。
(#ФωФ)「マーシィ軍、死にたい奴は残って戦え!そうでない奴は後に備えてシベリアへ飛べ!
逃げを恥ずかしがる事は無い、それは後ろへ向けた全力前進であると俺が保障しよう!
だが崖に向って前進したい奴が居るならば、俺と共に逝こう――!」
(,,#゚Д゚)「面白い!殺せ狂狼!破れ狂狼!緑の大地を血に染めろ!」
吸った。澄んだ空気が肺を満たす。
(,,#゚Д゚)「全軍突撃!」(ФωФ#)
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:45:17.81 ID:EgAiMyhj0
- view.Another.
マーシィ軍対アスキー軍 ハリケーン村の戦い
杉浦・ロマネスク率いるマーシィ軍は、兵数差及びアスキーの砲撃兵器、加えて"狂王"ギコの戦闘能力の前に、あっけなく敗れた。
アスキー軍はその後後続の二隊と合流し、マーシィ城を攻め落とすべく西へ向かう。
彼らはマーシィ城包囲の後たった二時間でマーシィ城を陥落させ、タシロ島支配の足掛かりを得た。
何故二時間と言う短時間で制圧を完了できたか。その理由は単純。住民、兵員。あるべきそれらが、マーシィ城にはなかった。
二時間を費やしたのはその事実の確認にのみ。
全て人間は既に脱出を完了していた。住民は老将荒巻スカルチノフと共に北へ、兵員は飛行機械に乗り、シベリアへ。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:50:21.60 ID:EgAiMyhj0
- view.( ^ω^) Horizon Naito.
(;^ω^)「……何て事だお」
マーシィ城に篭城していた兵員を全て搭載し、飛行機械は北東、シベリアへと飛んでいる。
(;^ω^)「……僕達が戦わなかったから良かった、なんて考えてる場合じゃありませんおね……」
_
( ∀ )「否、それで正解だろうよ。実際、あの場に居たらお前らも全員死んでいただろう。
俺達は馬でマーシィ城まで逃げたんだが……聞こえるんだよ、後ろから。
爆ぜる音とか千切れる音とか断末魔とか、あの憎たらしい哄笑とかがよ……」
今僕と話しているのは、行方不明の"獅子王"杉浦さんに代わって、兵の全権を委譲されている長岡さんだ。
_
( ∀ )「行方不明?否、あれは死んだ。
振り向かなくても戦場がどうなってるかはわかるんだァよ……恐ろしい、ああ恐ろしい」
ξ゚听)ξ「……そっとしておいてあげなさい、ホライゾン。
シュール王のところに着いたら、まとめて話をして貰いましょう」
御嬢様が僕を諭す。
聞く所によれば彼は、杉浦さんとは幼い頃からの友人だったと言う。
(;^ω^)「……申し訳なかったお。ゆっくり休んでいて欲しいお」
おうよ、と言う声を背後に聞き、僕は彼を後にした。
(;^ω^)「それにしてもこの空気……怯え、かお?よほど恐ろしかったのかお、ギコ・アスキーは」
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 01:00:07.80 ID:EgAiMyhj0
- 座席に座るマーシィの兵士達は、皆塞ぎこんでいた。
仲間であるはずなのに会話すら交わさず、俯いて地面とブツブツ語り合っているものすら居る。
そして僕は見た。
隅のほう、席にも座らずに三角座りで壁に面した、金髪の少女の姿を。
( ^ω^)「誰だお……?市民、は皆北に逃げたって言うし……」
ξ゚听)ξ「……知りたがるのは良いけど、そっとしておきなさい。
きっと誰も思い出したくは無いわよ、ギコ・アスキーのことは」
――( ^ω^)常夜の世界のようです opening-3 end.
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 01:00:27.99 ID:EgAiMyhj0
- 次回予告
――シベリア、雪の大地。
(ii ゚ω゚)「ギャー寒い!死ぬ!死んじゃう!」
ξ;゚听)ξ「ほんと寒いわよこれ、洒落にならん。死んでしまうわ!」
( <●><●>)「貴女はもう死んでいることくらいワカッテマス。
……一応私のアイデンティティなのでここで言っておきますか」
――カキ氷、食べ放題。
('A`)「はいはーい、まだいっぱいありますから押さないでくださーい」
( ^ω^)「何とあちらに見えます白い山、全部カキ氷!」
ζ(゚ー゚*ζ「……おなか壊しますよ?」
――そして決着。
(゚、゚トソン「私への求愛は、私を押し倒してからして頂きたいものですね」
_、_
( ,_ノ` )y━・~「え?そんなこと言われてもお前からは魅力を感じないんだが?」
爪'ー`)y‐「全くだよ。チャンネル系に生まれ変わって出直してきて欲しいね」
(゚、゚トソン「そうでしたね……お二人とも愛人持ちでしたね……」
――次回、( ^ω^)常夜の世界のようです 序章四話 『50匹の王子』
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