( ^ω^)常夜の世界のようです

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 23:31:06.91 ID:KwxlA9bV0
昔々、世界が空に覆われていた頃のお話。
ある国では、二人の姉妹が暮らしていました。

彼女達は本当の姉妹ではありません。
二人とも、親に捨てられた子供でした。

親に捨てられて路地裏生活を強いられていた後の姉は、モノクロームにも見える世界にただ一人で住んでいました。
それでも命を棄て切れないのは人間たる所以か。生きる為なら何でもしました――例えそれが他者に不幸を招く事であろうとも。

深々と雪の欠片の降り注ぐ日が、彼女達の出会いでした。
きちんとした文法が喋れるようになったばかりの後の妹は、親に見捨てられ路地裏で肩に雪を積もらせ、うずくまり震えていました。
路地裏ははみ出し者の聖地です。とは言え、そこで暮らす者にとってこんな少女の命など、奪う価値も無ければ養う価値もありません。
皆、自分の生きるのに精一杯なのです。

しかし、そんな少女を見た後の姉は、その少女を介抱し、自分の妹としたのです。
周りから見ればまさにばかげた事です。
盗みの技も覚えていない餓鬼を養う事ができれば、自分はその分贅沢が出来るんだから当然です。
姉の身に着けている魔術その他はみだし者の世界で生きる為に必要な技術は、
妹を養いさえしなかったら、彼女自身に必要以上に贅沢な生活を送らせることが可能なほど、優れていました。
事実、自分ともう一人を養い始めてからも彼女の生活水準は以前と大差はありませんでした。
それどころか、余剰が生まれてくる始末。その余剰は、全て妹の為に捧げていました。
彼女は妹を溺愛していたのです。
彼女の見ていたモノクロームの世界に、妹は彩を与えてくれました。

それでも、悲しいかな、悲劇と言うものは避けられないものです。
妹が出来てから二回目の雪の降る季節。妹は死んでしまいます。
それが他のはみ出し者の嫉妬からなのか、治安を維持する者の下した鉄槌によるものなのか、真実は定かではありません。
彼女は思います。妹は何も悪くない。じゃあ悪いのは誰か。
妹を捨てた親か?妹を養った私か?否、違う。妹にこのような運命を与えた――神だ。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 23:32:44.35 ID:KwxlA9bV0
万物の創造主にして全ての事象を手の平の上に収める神々。
人は生まれながらにして神の手の平の上で繰り糸で操られる存在だ。
原初の人間が生まれた理由すら、神の気まぐれだから。
彼女は神々を恨みました。そして、その繰り糸を断ち切ろうと、決意しました。

神々と彼女の戦いは、きっと前例どころか後にも例がないほどの壮絶な戦いでした。
その過程で世界は"神の住居"とされていた太陽を失い、永遠に夜の続く場所となってしまいました。
そしてついに、月において彼女は最後の神の喉元に剣を付き立て、全ての神を世界から殲滅しました。
しかしその神は、散り際に呟いたのです。

「罪深き者よ、我を殺めたとて、汝が願いは叶わぬ。
 太陽が神の住居ならば、その対たる月は、命散らした人間達が転生を待つ住居。
 神が死にさえしなければ、会えたかも知れぬな?汝が――想い人に」

彼女は目の前に幻を見ました。生前の姿そのままで、微笑みながら佇む妹。
彼女は妹に手を伸ばしますが、それを掴む事は叶わず、彼女の体は光の環にて捕縛されてしまいました。

「汝が罪は例え無きほど深し。我ら此処にて存在を失おうと、汝が罪に罰を与えん。
 闇より深き深遠の彼方にて、世界に刃向かいし罪を嘆け」

最後に彼女が見たのは、破裂するかのように掻き消える妹の姿。
それきり彼女は深遠に閉じ込められ、恐らくは今でも彼女はそこを彷徨っているのでしょう。
――彼女の手を染めたものと同じく、赤く輝く月の何処かで。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 23:34:55.24 ID:KwxlA9bV0
view.ハハ ロ -ロ)ハ Hello.

ハハ ロ -ロ)ハ「……して」

私は、厚手の絨毯の上に座る為に折った膝の上に乗った本から、暖炉の近くの椅子に座っているマスターに目を移します。
表情は窺えませんが、口の端に加えた煙草が緩やかに上下しながら煙を微かに昇らせています。

ハハ ロ -ロ)ハ「ハローにこれを読ませた意図は、どこにあるのでしょうか……?」

三秒。それだけ経ってもマスターは口を開こうとしません。
おかしく思った私は、マスターの顔にピントを合わせます。

ハハ ロ -ロ)ハ「……寝てますね」

爪'ー`)y‐「いや冗談だけど」

ぱちりと目を開いたマスターは、伸ばしていた足を組みながら私に言ってきます。

ハハ ロ -ロ)ハ「ハローに冗談を言う理由が、どこにあるのですか?」

爪'ー`)y‐「言うじゃん。好きな人には意地悪したくなるって」

ハハ ロ -ロ)ハ「……マスター、ハローはマスターのしもべで、マスターの事は全て受け入れる覚悟で居ます。
       ですが、意地悪は嫌いです。簡単に言えばハローは先の質問の返答を要求します」

爪'ー`)y‐「ゴメンねハローさん。僕の事嫌いにならないでね。
       まあ冗談はここまでにしておいてそうだね……強いて言えば久々にその話を聞きたかったからだろうかね」

ハハ ロ -ロ)ハ「……と言うと?」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 23:38:13.20 ID:KwxlA9bV0
爪'ー`)y‐「まず一つ」

握り拳から、親指を立てます。

爪'ー`)y‐「神は死んだ。今や僕達の運命は僕達のものだ。
       逆に言えば、信じたが故に護ってくれる存在も居なくなったわけだが」

そして次に人差し指を伸ばして、

爪'ー`)y‐「そして二つ。人を乗せた手の平はいずれ剣を突き立てられる」

ハハ ロ -ロ)ハ「……二つ目の意味する所とは、どういうことでしょうか?」

爪'ー`)y‐「さあね」

即答。
数を示す為に二本の指を立てていた拳を解き、膝上に戻しました。

爪'ー`)y‐「ただ、今の状況にちょっとだけ似ていると思っただけだよ。ラウンジは霊装を求めていたり、アスキーに手を貸していたりする。
       多くを巻き込んで……その目的は知らないが、そんな奴はいずれ僕が――思惑ごと崩壊させてやる」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 23:40:05.51 ID:KwxlA9bV0
view.( ^ω^) Horizon Naito.

( ^ω^)「うーん」

僕らが今から侵入する、シベリアの国王をも震え上がらせる、ニーソク王子の住む鉄壁の要塞。
しかし、見た感じそれはただの屋敷だ。庭の広さとか、建物の大きさは、ラウンジ家のに敵いはしない。唯の金持ちの住居、といったイメージだ。

ξ゚听)ξ「いいじゃない別に」

( ^ω^)「いや……ダメだお」

どこが?と、御嬢様は首を傾げる。
わかってねぇなあ、いいとこ育ちの御嬢様は、青年の心って奴を。
良いかお?と顔の横に立てた指を運び、僕は語り始める。

( ^ω^)「こーいう無敵の要塞はまず見た目からして侵入者を圧倒するようなデザインでなくちゃなんねぇ。
      これはニーソクの王子を護るべき防衛装置だ。戦わずして済むならそれが最善じゃねぇか。
      そうすれば無謀な人間が突撃して中で死ぬ事もねぇし心も痛まねぇ。
      そもそも僕が来たのは嫌々ながらであって、そんな僕を満足で唸らせるような、そんな出来事があっても罰は当たらない――」

「あーあーーー、マイクテストマイクテスト」

(#^ω^)「るっせぇなあクソが!ちっとは僕の好きにもさせろお!!!」

僕の語りを邪魔するかのように響き渡る何者かの声。
その声はあまりにも大きすぎて、発生源がわからないほどだ。

「……ごめん」

(;^ω^)「あーいやその……申し訳ない。続けてくださいお……」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 23:42:42.33 ID:KwxlA9bV0
「あ、そうですか……そんじゃ……」

ξ゚听)ξ「ねーフォックス、何か凄い声が響いてるけどこれどういう仕組みなの?」

爪'ー`)y‐「拡声魔法の類らしいね。機械に組み込んで、屋敷の中に居ながら外部と会話が出来る装置を作ったらしい」
  _
(;゚∀゚)「お前らちょっとは人の話を聞いてやったらどうだ……?」

「……あー、その、良い?」

どこぞに取り付けられた拡声機械とやらから発せられる声は、戸惑いの色を帯びているようだった。

(;^ω^)「いや、こいつらの事は空気だと思っていただいて構いませんので……」

「あ、そ、そうかい。それじゃ改めて……」

なんという謙虚さ。
あの屋敷の主は、こいつら(御嬢様とかフォックスさん)には無いそれを身に付けている。
良い友達になれそうだ。苦労人という意味で。

「フフフ……良くここまでやって来たな……。
 君たちの目的は解っている。僕を此処から連れ出そうという算段だろう。
 だが、そうは行くかな……?君たちと同じように、僕にも理由があってここに居るん――」

爪'ー`)y‐「どーせ変人過ぎて友人ができねーとかそーいう理由だろー?」

「ちちちちち違う!!!そんな訳ないだろ!!!……すまない、取り乱した」

(;^ω^)(……えー……)

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 23:44:24.11 ID:KwxlA9bV0
「ともかく、この屋敷から僕を連れ出そうとシューは何回も干渉を試みたようだが……全て僕に辿り着く前に失敗したよ。
 君達に、僕まで辿り着く事ができるかな?フフ……フフフフフフ……!!!」

ξ゚听)ξ「……典型的引き篭もりね」

爪'ー`)y‐「可哀想に、理解を得られないからなおさら引き篭もるしかなくなるんだ。
       現代の忌むべき葛藤のスパイラルだね」

ξ゚听)ξ「ああいうのは甘やかしてるといっそうダメになるのよ。
       向こうが許可してるんだから、とっとと引きずり出して一発ぶん殴ってやりましょ」

爪'ー`)y‐「ねぇ今どんな気分?図星を付かれてどんな気分!?」

( ^ω^)(……味方ながらこいつはうぜぇ……)

ところがそれに対する返答は無く。

ξ゚听)ξ「ほら都合が悪くなるとすぐ黙る。行くわよホライゾン」

(;^ω^)「わ、ちょ……引っ張るの止めてください……おおおおおっ!?」

御嬢様に腕を掴まれ引っ張られて、僕が足を踏み出し、地面を踏むとかちりと音が鳴る。
それに対応して、何かが高速で僕の顔めがけて飛んでくる感覚を覚える。
反射的に腕を振り払い、腰からナイフを引き抜いてそれ目掛けて投げるまでが一瞬。
か、と高い金属音。地面に落ちたのは、一本の矢だった。まだ屋敷に入ってすら居ないのに、物騒な。

爪'ー`)y‐「本気で侵入を許さない心算だったらあれはスイッチ起動式の爆薬にしておくべきだったね。
       全く、あんな事言っておきながら本当は友達が欲しいんだろ?なぁ?」
  _
(;゚∀゚)「いや、俺が思うにもうお前の話は聞いてねぇと思うぞ?」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 23:45:38.23 ID:KwxlA9bV0
所変わって屋敷内。
絨毯すら敷かれていない大理石の内装は空気を冷やし、とても生活感を感じられない。
広々としたホールの向こう側には、階段と、その上のドアの組み合わせが三つ並んでいる。

「そのドアの向こうの部屋を抜ければ、僕の部屋に辿り着く事ができる。
 君たちは各々が一つずつの部屋に挑んでもいいし、一つの部屋を全員で攻略しても良い」

ま、出来るもんならね、と拡声器を通した引き篭もりの声は言う。
  _
( ゚∀゚)「……だそうだが、どうすんだフォックスさんよ」

爪'ー`)y‐「一つずつでいいんじゃね?」

ξ゚听)ξ「待って。全員で一つの所に行った方が早いんじゃないかしら。
       何が起こるか解らないとは言え、フォックスもホライゾンも霊装が使えるんだから、固めた方が早いわよ、きっと」

軽くショックを受けた表情を見せるジョルジュさんをカバーする方法は僕には無い。触れてやらないのが一番だろう。
ともかく、僕も御嬢様の意見には同意する、が――

爪'ー`)y‐「あの引き篭もり、一つクリアしただけで会見したらきっと『他の奴を選んでたら――』とか言うよ?つまりはそういうこと」

ξ゚听)ξ「――おっしゃホライゾン、左の扉、行くわよ」

(;^ω^)(心変わりはえーよ……)
  _
( ゚∀゚)「じゃー俺は真ん中だな。向こう側で会おうぜ」

御嬢様に引きずられ階段を登りながら、ジョルジュさんが隣の階段を一歩踏んだのを見た。
残るはフォックスさんだけだが――なんで動く気配すらないんだ?

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 23:47:12.34 ID:KwxlA9bV0
爪'ー`)y‐「かもーん」

彼が指を一つ鳴らせば、そこから光の霧が生まれる。
それは中空で人の形に収束。フリル装飾過多のドレスを纏った少女が視覚化される。
着地。僅かに乱れた着衣を整えると、彼女はフォックスさんのほうを向き、

ハハ ロ -ロ)ハ「お呼びですか、マスター」

爪'ー`)y‐「話は聞いてたね?」

ハハ ロ -ロ)ハ「はい」

爪'ー`)y‐「そんじゃあ僕はみんなの為にスイーツ(笑)でも買ってくるから、ハローさん後は頼んだよ」

ハハ ロ -ロ)ハ「畏まりました、マスター」

(;^ω^)(え、ちょ……別に自分に関わりはしないからかまわないんだけど、これは……えーー?)

そのまま、フォックスさんは入り口を押し開いて外へ出て行ってしまった。
躊躇いの様子など微塵も感じられない。
ハローちゃんの方は、何の疑問もなく階段を登り始めた所だ。

ξ゚听)ξ「……あの子、フォックスの言いなりになんかなって……ストレス過多で早死にするのが怖くないのかしら?」

階段を登り終えた御嬢様は僕を引きずり上げながら言う。
うつ伏せに投げ出された僕は立ち上がり、服の埃を払った。

( ^ω^)「……まあ、彼女とフォックスさんのもともとの関係とか、気になるところですお……ね」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 23:48:30.92 ID:KwxlA9bV0
ξ゚听)ξ「ま、そこは他人が干渉する所じゃないわよね……」

霊装(の魂)と霊装使いの間には、密接な関係があることが多い。
あくまで多いだけで、全てがそうとは限らないとだいぶ前にフォックスさんは言っていたが――

ξ゚听)ξ「使い手の近くに、そいつが死ぬまでずっと一緒にいなきゃならないって言うんだからそりゃあ……」

くるり、と御嬢様は扉の方へ体ごと向ける。
顔色を窺えなくなったが、その耳が僅かに赤く染まっているのを僕は見逃さなかった。

( ^ω^)「そりゃあ?」

ξ////)ξ「べ、便利じゃなきゃ困るわよねって……事!」

語尾を強めて、御嬢様は言った。

( ^ω^)「いぇすいぇすそーですね。察しておきますお」

ξ////)ξ「何のことよっ!」

( ^ω^)「さあねー♪ともかく、お部屋攻略と行きますかお」

ノブに手を掛け下げる。
押せば、何の音も立てずに滑るようにそれは開いた。

( ^ω^)「うわー、暗っ……なんも見えないお……」

こういう時は慌てず騒がず、暗視能力強化を施術する。
徐々に、部屋の全貌や配置物が浮かび上がってくる。が、

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 23:50:39.22 ID:KwxlA9bV0
(;^ω^)「うわ、きもっ」

思わず声に出てしまうほどの衝撃を、僕は受けた。

ξ;゚听)ξ「ちょ……どういう趣味よ、これ?」

部屋を埋め尽くすほどに配置されているのは……裸のマネキンだ。
それだけなら別に声に出すことはない。ギリギリだが。
一番衝撃的だったのは、僕が暗視能力強化を掛け終わった、部屋が普通に見えるようになったそのタイミングで、
それらマネキンの顔が全て、此方を向いた事だ。
一部無茶な首の捻り方になっているのがまた気持ち悪さを増している。

「気に入って貰えたかな?僕が開発した半自立型機械人形……五十体だ」

館の主が、拡声機械を通して言葉を並べる。

( ^ω^)「悪いけど、あんたの趣味は異常だと言わざるを得ないお」

「ま、そうだろうね。腕をもがれようが首を刎ねようが戦意を失わない戦士だ――」

(;^ω^)「……今何て言った?」

「あ?戦士だよ。君が僕に会いたいというのならば、此処の五十体を全て撃破して貰おう。
 今ならまだ引き返しても良いけど……どうする?」

成程、殺しても死なない兵士と言う訳か。
もしこれが実用レベルである、若しくは今後実用化されたならば、圧倒的な力となる。
シュー様がこういった高度な技術を欲しがる理由も、頷ける。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 23:51:38.02 ID:KwxlA9bV0
ξ゚听)ξ「……やるわよね?」

何故か心配そうな声色で、御嬢様は僕に問う。
いつも通り、無理を通してくれても構わないのに、と僕は思う。
それに――

( ^ω^)「当然ですお」

今回ばかりは、そんな無茶も僕の同意の範疇だ。

( ^ω^)「最近腹立たしい出来事が立て続けに起こりましたお。
      体を動かしてストレスを発散する良い機会ですお、これは」

ξ゚听)ξ「……何の事を言っているのかは聞かないで置いてあげるわ」

「おや、そんな軽い気持ちで良いのかい?
 一応は僕が何年にも及ぶ研究の末に――」

まずは投擲。それはベルトからナイフを引き抜く行為からの一連の動作。
しなる右腕から放たれた、空を切り裂く銀の一閃は、一体のマネキンの頭部を弾き飛ばす。

( ^ω^)「――末の結果が、これかお?」

「……良いだろう。今、戦闘モード起動の指令を下した。精々頑張ってくれよ?」

その言葉と同時に響く発砲音。

( ^ω^)「舐めんな、見えてんだよ」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 23:53:20.32 ID:KwxlA9bV0
エイミングが甘い。不意打ちのつもりだったのだろうが、それは顔を横に逸らすだけで回避できる。
続く発砲を、地面を蹴り左に飛ぶことで回避。過程でナイフを右手で引き抜き着地と共に進行方向に投擲。
おおよそ人間に当てたのとは違う音を立ててそれはその方向に居たマネキンの左胸を貫いた。

( ^ω^)「成程、その程度じゃ死なねーかお。なら徹底的に壊す」

そいつの放った頭狙いの銃弾は、身を屈めて前に飛ぶことで頭上を抜ける。
既に両手には四対計八本の銀の刃を挟んでいる。
距離残り三歩と言う所で、僕はそれを放つ。四本は頭に、四本は胴体に突き刺さり、電流の漏れる音を聞いた。
そのまま踏み込み、残り一歩で発砲を聞く。方角は僕の右手側、このマネキンに止めを刺そうと近づいてきた僕を穿つ算段だ。

( ^ω^)「そんな痩せた考えが、人間様に通用すると思うな――おッ!」

構わず踏み込み、跳ぶ。八本のナイフを身にくわえ込んだマネキンに、思い切り溜めた蹴りを加えた。
内部構造を踏み躙る感覚を得ると共に、僕の身はその反動で後ろに大きく飛んだ。足先を横殴りの銃弾が掠める。

( ^ω^)(間に合った……!)

飛びながら懐に手をやる。既に持ち合わせのナイフは投げきってしまったようだ。
こうなると予測できれば戦闘用の装備をしてきたのに。仕方ない。

( ^ω^)「世の中ってのは復讐で出来てんだお……!」

着地と共に左手に産み出した光のナイフを投擲。狙いは先程僕を撃って来たマネキンだ。
そのナイフを防ごうと伸ばした右手は貫かれ、続いて頭も貫いた。

ξ゚听)ξ「ホライゾン、後ろよ」

僕の頭に振り下ろされんとした剣の一閃を、振り向きざまに光のナイフで受け止める。
鍔迫り合いなどする時間も惜しい。腹部に蹴りを食らわせ、穴を穿った。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 23:55:17.65 ID:KwxlA9bV0
足を引き抜くと共にマネキンは爆発。風圧で僕は後ろに飛ばされる。
宙を舞う僕の足先を掠める銃弾。これすらも予想通り。
曲げた背で着地、伸ばす力で後方回転、銃弾の飛んできた方向への投擲を経て直立に着地。
しかし僕が新たなナイフを生成して構える前に、四方から銃を構える音を聞く。

「……君は良くやった。が、チェックメイトだ。何、麻酔弾だ。当たっても死にはしないさ」

( ^ω^)「ハッ、下らないお。そうやって言ってる暇があったら僕に銃弾の一つでもぶち込ませてみろ。
      後思い上がったガキに一つ言って置く事があるとすれば――霊装使いの僕が、本気を出していたと思うなお?」
                                           ~~~~~~~~~
指を弾けば光が爆ぜる。髪が、着衣が爆風に踊る。
その光が晴れてみれば、僕の周りには四つのマネキンの残骸が倒れているのみとなった。

( ^ω^)「何体倒した?九体?後四十一体も居るのかお。
      ――おいヒキオタ、聞いてんだろ?何も一体ずつチマチマ襲わせなくても良いんだ。
      今生きてる四十一体、全部に指令を下せ。『殺して死ね』ってな」

言い放つと共に、部屋中を駆け回るモーターの駆動音。同時に放たれた何対もの赤い光は、特攻の意思の現れだろうか。
――尤も、機械に意思なんてあるわけはない。どちらかと言えば、拡声機械の向こうで顔面赤くしてるヒキオタの本気だろう。

顔面に向け放たれた銃弾を、ナイフの振り上げで断つ。
割れた銃弾の転げる音が、静寂に響き渡る。

( ^ω^)「死なないしメシも必要ない。確かに優れた兵士だ。量産されれば他国にとって脅威になるのは違いないお。
      だがなヒキオタよ、足りてねぇんだよ――開発者であるお前の『戦い』に関するセンス、これが、圧倒的な、差だ」

ベルトのホルダーの留め金を外す。左手に落ちてきたのは金色の短剣。御嬢様を現世に止める霊装。
手首の振りで逆手から順手に握り直し、その切っ先を、残り四十体となったマネキンの群れに向ける。

( ^ω^)「殺って見ろ。素人が玄人に敵うわけねーんだ」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 23:56:19.09 ID:KwxlA9bV0
     _
view.( ゚∀゚) George Nagaoka.

「何、君のやるべき事は簡単。向こうのドアまで歩いて行けば良い」

声が響けば、暗闇だった空間に証明が灯る。
音の響きでは結構な広さと踏んでいた部屋だったが、その実態は――
  _
( ゚∀゚)「何だこれ……?糸?」

部屋中に赤い糸のようなものが張り巡らされている。
その出所は天上、側壁、床など様々。
此処は訳の解らない技術が満載された館だ。恐らくはただ向こうのドアまで歩いて行く事は不可能だろう。
解決策を探る為にはこの糸に触れて見なければならない。
  _
( ゚∀゚)「そーーっと……」

手近な一本に指を伸ばす。触れる。
  _
(;゚∀゚)「あれ……?」

あるべき感触がない。
まるで幻影に挿したかのように、俺の指は糸をすり抜ける。
途端、鳴り響く音。赤く明滅する室内。そしてふと感じた――殺気。
慌てて飛びのけば、俺のさっきまで居た足元には穴が穿たれていた。
そしてその穴の脇に転がる小さな鉄の弾。
  _
( ゚∀゚)「……なるほど、アレに触れたらこいつが飛んできてグサッと行くわけだ」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 23:57:21.92 ID:KwxlA9bV0
用はあの糸に触れずに向こうまで辿り着けば良い訳だが……
ここで、解決策を導き出すために室内を観察する。

成程、まるで未完成の繭か何かのように張り巡らされた糸だが、観察してみれば人一人通れる隙間があるにはある。
しかも、それは人為的に作った道のようになっている。これを通って行けば辿り着ける訳だが、
  _
(;゚∀゚)「……何この嫌がらせ」

見るに、それは明らかに蛇行している。
隙間も通るのにギリギリなゆえ、もし集中力が切れて足の運びを少しでも間違えれば、鉄弾の餌食となってしまうだろう。

よし、仕組みはわかった。だが問題は攻略方法だ。
普通に歩いて行けばまあ問題はないんだが、たぶん集中力が足りなくなる。
  _
( ゚∀゚)「クソォッ……こんな時、先人達ならどうするんだ……?」

ケース1……杉浦の爺さんの場合。
彼は自分の力に重きを置く人物だった。荒巻老の護る城に単身乗り込んできたことからもそれは明らかだろう。
そんな彼ならこんな時どう言うか……

『ハハハーッ!力こそすべてだ!俺は超高速で走り抜ける!』
  _
( ゚∀゚)「……ありかもしれねぇな」

再び、そっと糸に指を伸ばす。警報。飛びのけば鉄弾が床に突き刺さる。
  _
(;゚∀゚)「……いや、これを『走って』抜けるのは……無理だな」

ならば別の先人の知恵を借りるとしよう。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 23:58:29.92 ID:KwxlA9bV0
ケース2……荒巻老の場合。
彼は無茶を好まない人物だ。だから、俺もタシロ島本土で彼にギコの足止めを頼める。
恐らく普通の将だったらギコを相手にしたらすぐに死んでしまうだろう。しかし彼なら引き際を解っている。
そんな彼ならこんな時どう言うか……

/ ,' 3『悪いのは"一気に通り抜けてしまおう"と言う根性じゃ。普通に安全地帯を通って、疲れたら休めば良い』
  _
( ゚∀゚)「……もっともだ。よし、それで行こう」
  _
( ゚∀゚)「……楽な仕事だなぁ……」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 23:59:54.34 ID:KwxlA9bV0
view.ハハ ロ -ロ)ハ Hello.

「君は運が良い。嗚呼、非常に」

暗闇に視覚を適応させていると、拡声機械を通して声が響きます。
先程、庭で聞いたものと同じ。館の主の声です。

「まだ研究中なんだけどね、完全に戦闘行為に特化した自律機械。君にはそれの相手をして貰おう」

ハハ ロ -ロ)ハ「……動作テストが行いたい、そういう事でしょうか?」

ははは、と主の声は笑います。
それには嘲りの色が多少となく含まれているように、私は感じました。

「――そうだね。だけどそれは君が"持てば"の話だけど。
 幼女だろうが何だろうがここに来たからにはやるべき事はやって貰う。
 大丈夫。装填してある銃弾は全部麻酔弾だし、殴打攻撃も殺傷能力はかなり下げてある。気絶するだけだ」

ふっふっふ、と言う笑い。だけどそれは拡声機械から響いたものではありません。
念話を通した、マスターの声です。

『随分と舐め腐った態度じゃないか。ハローさん相手にそんな態度をとるとはね。
 ま、良いでしょ。本気でやって構わないよ。見た感じ、まず負けることはないだろーからね』

ハハ ロ -ロ)ハ『……了解しました、マスター』

部屋の向こう側に眼を向ける。暗視適応を行った視覚なら、照明の入った部屋同然にモノが見えます。
佇んでいたのは、おおよそ狼に似た四足の自律機械。細身の身体から、速度を重視した機体であると判断します。
そして両腰に備えられた砲門。恐らくはあれが主武装。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/10(火) 00:01:34.89 ID:KwxlA9bV0
ハハ ロ -ロ)ハ『あ、マスター』

『何だい?』

ハハ ロ -ロ)ハ『私はシュークリームを所望します。それでは』

念話を切り、私は駆けます。すでに向こう側もこちらへ駆けているようです。
僅かに挙動を右にずらし、袖の内から左手に落とした短剣ですれ違いの一撃を狙います。

ハハ ロ -ロ)ハ(速いですね……)

瞬時に詰まる距離。しかしこれも計算の範囲内です。
位置をずらしている為に向こうの突進には当たらない。しかし、私が左腕を振るえば短剣の一撃が向こうには当たる。
振り抜きに対する抵抗と、それに伴う金属音を耳に聞き、一合目を終えました。
踏み出した右脚を軸にくるりと方向転換し、敵機を視界に捕らえて左手の短剣を確認します。

ハハ ロ -ロ)ハ(成程。細身の分は使用する素材の剛性を高める事によって耐久力を補っているようですね……)

刃は欠けていました。この分では、斬撃での破壊は困難であると判断します。
不要になった短剣を地面に転がし、踏み潰しました。

近接戦闘に限れば、有効な攻撃手段は恐らく鈍器による一撃。
ただ、私の今の装備に鈍器はありませんから――

ハハ ロ -ロ)ハ(これが一番の手段ですね)

両腕を勢いよく広げれば、袖の中に仕舞ってあった拳銃が私の両手に握られます。
これで装甲の隙間を狙い撃つ、それが妥当でしょう。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/10(火) 00:05:08.12 ID:elmBuklN0
敵も黙っていてはくれません。
双の砲門が、私に向けて火を吹きます。
それを横跳びに避け、駆け足で接近しながら思考します。

ハハ ロ -ロ)ハ(成程。遠距離なら砲、近距離ならその機動性による格闘。
        確かに目立った隙はありませんね――攻撃に限っては)

私の背後の床が着弾で爆ぜます。
砂煙に僅かに視界を曇らせられるものの、両手で振り払い目標を視認。
此方の、砲撃回避を確認した敵機は近接戦闘に移行する算段でしょう。
第一段階として、私の行き先を阻む経路での突進を行いました。

ハハ ロ -ロ)ハ(ただそれは弱点をカバーしているに過ぎない。真に克服した訳ではない。
        攻め続ければ此方が攻められる事はない――そういう事でしょう?)

対処として、踏み出した足で思い切り体を後ろに蹴り返します。
ぶわ、と私の体は宙に浮きます。足先を、ブレーキをかけて停止せんとする敵機が掠めます。
私の前進停止は彼の人工知能にとっては突然だったようです。首に当たる部分をきょろきょろとさせ、目標を見失っている様子。

ハハ ロ -ロ)ハ(その機動性を生かす為には――機動の柔軟性を欠かない工夫が必要不可欠。
        故に、関節部分に派手に装甲強化は施せません……)

後ろ右脚の、膝の隙間にめがけて両の拳銃の引き金を引きます。
四度響いた銃声に伴い飛び出した左右合計四つの弾は、全てその隙間に吸い込まれるように直撃しました。

ハハ ロ -ロ)ハ(どうでしょう……?人間と違いダメージが外見に現れることはありませんが……効いている筈です)

機動力を生み出すのは四本の脚。推進力の後ろ脚と制動の前脚。それらは一つとして欠けてはならない。
故に、そのうちの何れかを半壊まで追い込むことは、機動力――即ちこの機械の戦闘能力――を奪うに当たり、非常に効果的です。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/10(火) 00:09:44.15 ID:elmBuklN0
着地。その音に反応したのでしょう。敵機が体ごと頭をこちらに向けます。
しかしその旋回に、右後ろ足を破壊する前ほどの速度はありません。

ハハ ロ -ロ)ハ(大当たり、ですね)

次に敵機の取った行動は、前脚を推進力とした後ろへの跳躍です。
機動力を生かした近接戦闘の効率が半減した上に、その機動力そのものを生み出す後脚をやられたので無理の無い行動です。
恐らくは砲撃中心の戦闘スタイルに人工知能が移行したのでしょうが――

ハハ ロ -ロ)ハ(まあ全く問題はありません。壁際に追い詰められた時が楽しみです……)

飛来する砲弾を左に見送り、体を拳銃の射程距離内まで飛ばします。
このまま脚を集中的に止めても良いのですが、さらに効率の良い事を私は思いつきます。

ハハ ロ -ロ)ハ(観察結果、敵機の目標識別は視認……故に)

生物で言う目に当たる場所。
そこに弾を撃ち込む事で目標の視認を不可能にし戦闘能力を著しく下げることが可能なはずです。

目の前には砲身を一部開き冷却をしている敵機。

ハハ ロ -ロ)ハ「それでは、取って置きを見せて差し上げましょう」

右足を床に強く打ち付ければ、取り付けてあった煙幕弾が衝撃で地面に落ち、煙を撒き散らします。
敵機が感知魔術等を所持している場合は危険ですが、観察では視認による感知に頼り切っている筈。
――案の定、敵機は私を見失いました。それが私の居場所に気づくのは……私が両の銃口を両目に突きつけた時。

ハハ ロ -ロ)ハ「――更なる内部崩壊を狙い、炸裂弾を装填させて頂きました」

――恐らく、人の言語までは感知できないでしょうが。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/10(火) 00:15:01.31 ID:elmBuklN0
ハハ ロ -ロ)ハ「それでも、ハローは勝利を告げます。――――チェックメイト」

両の引き金を引けば、発射された弾丸が眼部の硝子を突き破る音が続きます。
さらに弾丸は内部で炸裂。金属の弾ける音が連鎖します。
そのまま敵機は活動停止。四の足を全て延ばして倒れました。

ハハ ロ -ロ)ハ「――任務、完了致しました」

『いやあ、遅いね。こんなタイムじゃあシュークリームはお預けだね』

ハハ ロ -ロ)ハ『……む。タイムを引き合いに出してくることが解っていれば、もっと早く仕留めていました』

『ごめんごめん。ちゃんと買ってきてあげてるからさ。……もしかして怒ってる?』

ハハ ロ -ロ)ハ『……別に。ハローはその程度で気分を害したりはしません』

『そりゃ良かった。それじゃ、先に行って待ってるから』

ハハ;ロ -ロ)ハ『は……"先に"……?』

『そう。実は裏口を発見してね。特定の数字列を入力する事で開く奴だ。
 何か心当たりは無いかってシュー様に問い合わせてみたら、ビンゴさ。とにかく先に待ってるよ』



ハハ ロ -ロ)ハ「要するに、無駄な努力だった訳ですか……」




32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/10(火) 00:21:27.20 ID:elmBuklN0
view.( ^ω^) Horizon Naito.

機械兵の胸に付き立てた短剣を引き抜けば、それは眼から光を失い一拍の間を置いてくず折れる。
蹴り飛ばす。ジャンクと化した機械兵は壁にぶつかり派手な音を立ててあちこち千切れた。
全くの無音。この部屋に五十居た機械兵は、すべてが完全に活動を停止した。
頭、腕、胴、脚。潰れていようが潰れていまいがバラバラだろうがくっついていようが床に散らばるそれらは紛れもない"残骸"。
まさしく、殲滅を物語る小道具の群れであった。

機能停止の経緯に差違はある。
思考を司っている何かが搭載されているらしい頭を潰され、或いは胴から切断されて活動不能に陥ったもの。
動力を司っている何かが搭載されているらしい胴を貫かれ、或いは両断されて機能停止に陥ったもの。
四肢を切断或いは破壊され、転がっている事しかできなくなったもの。

油のべっとりと付着した手に、浄化を施術する。
光に包まれてすぐ、元の綺麗な手に戻った。

( ^ω^)「これだけ殺したのは、産まれて初めてだお」

ラウンジの死霊術士……特に僕のような位の高いのに課せられる任務は、主に要人の暗殺などだ。
僕らが邪魔な貴族一家や組織を潰しているから、ラウンジ家はあの領のトップになり、領に自分の家の名前をさせていられる。
無論、彼らも死霊術士を抱えてはいるが、一度に交戦するのは多くて五人。
――まあ僕の場合は、大抵は交戦前に暗殺できてしまう。

( ^ω^)「……さて、と」

課題は既に達成した。この部屋に留まる意味なんか僕にはない。出口の方のドアを蹴り開ける。

( ^ω^)「うおっまぶし」

魔術にて視界を暗所に過剰適応していた僕には、照明が眩しかった。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/10(火) 00:26:37.13 ID:elmBuklN0
爪'ー`)y‐「やあ、遅かったじゃない」

( ^ω^)「……は?」

魔術を解いた僕は、自分の目を疑った。
だってあんた、スイーツ(笑)でも買いに行くとか言ってどっか行かなかったか……?

――否、彼が両手から提げてる紙袋。
そこにプリントされているシンボルは、紛れもなくスイーツ(笑)店のそれである。
つまりはスイーツ(笑)を買いに行く事と此処に辿り着く事を両立させた訳だが――

ハハ ロ -ロ)ハ「……その説明は、私からさせて頂きます」

右の扉が開いて、ハローちゃんが出てきた。
塵や埃といった汚れどころか、服の乱れすら見られない所から、恐らくは僕の所よりは楽なものだったのだろう。
僕のところまで歩み寄ると、彼女は説明を始めた。

・ ・ ・

( ^ω^)「慣れって恐ろしいね。非現実的であると解っていても、受け入れられてしまう自分がここにいる」

爪'ー`)y‐「それだけ僕が凄い人だってことかな?な?」

( ^ω^)「ああ、もうそういうことにしといてください」

奇跡を体現したかのような男の事は置いておいて、今のところ部屋を抜けたのは僕とハローちゃん。
ジョルジュさんがまだ抜けていないのが理由か、さらに奥に続く扉はノブすら回らない。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/10(火) 00:30:17.20 ID:elmBuklN0
     _
view.( ゚∀゚) George Nagaoka.

正直、俺はこの部屋を舐めていた。
タネが解ってしまえばなんてことはない唯のイライラ棒。
俺が間違ったのはその"唯"の認識だ。

簡単に言えば、俺は今非常に疲れている。
少しでも脚の踏み込みがずれれば即アウト。
休む為に座り込むにしても膝だけを正確に真っ直ぐ折り曲げなければいけない。
精神的にも身体的にも俺は今ボロボロである。

「そろそろ諦めない……?あの、麻酔銃だからさ……死なないよ?」
  _
(;゚∀゚)「ならねぇ。それはならねぇ。もう五分の四は超えたんだ。こんな所まで来て諦められる方がおかしい」

「そう言うなら止めはしないけど……」

心配する様を見せてはいるが、俺の見込みでは恐らくこの男、とんでもなく性格が悪い。
何せこんな仕掛けを作るような男だ。きっと他の所はもっと恐ろしいだろう。
碁盤目状の道を作った挙句全部の交差に方向を換える床を配置したり、部屋に入っていきなり隠し扉探しをしなければならないとか。
  _
(;゚∀゚)「……ふぅ、作戦は成功した」

思考に神経を集中しているうちに時間が過ぎ去ってしまうのは良くある事だ。
それを用いたわけだが、『残りが全部直線』、『動きが完全にパターン入ってた』この二つの要因がなければ俺は今頃ねんねしていた。
そして意気揚々とドアを開ければそこには

爪'ー`)y‐「おいすー」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/10(火) 00:35:55.62 ID:elmBuklN0
  _
( ゚∀゚)「……若いうちの苦労は買ってでもしろ」

爪'ー`)y‐「一応、君より一個年上なんだけどなぁ」

この常識を逸脱した変人は置いておいて、どうやら俺が最後だったらしい。
内藤は壁に腰掛け羊羹を齧っていたし、ハローとか言う少女はその隣でシュークリームを齧っていた。

爪'ー`)y‐「そしてこれが君の分」

そう言ってフォックスが俺に渡してきたのは、煎餅の袋だった。三枚。
  _
( ゚∀゚)「なあ、これのどこがスイーツ(笑)なんだ?しかも七味唐辛子味だし」

爪'ー`)y‐「いや、ちょっと朦朧としているであろう意識をはっきりさせて置かないときついだろうなと思って」
  _
(;゚∀゚)「あんた……もしかして俺の部屋の事、解ってたのか?」

確かにシベリアの人間であるし、シベリアの者がこの屋敷に潜入した記録はある。
主が仕掛けを変えていなければ、まあ知っていてもおかしくはないと思うが――

爪'ー`)y‐「否全然。単なる僕の予測だよ」
  _
(;゚∀゚)「そいつはすげー予測能力だなおい……」

まあ貰ったものは食っておこう。煎餅の袋を開けて一枚を齧る。
  _
(;゚∀゚)「辛っ……」

最近の俺はついていないなと、本気で感じた一瞬であった。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/10(火) 00:41:02.31 ID:elmBuklN0
view. ???

全くの暗闇の中、がちゃ、と言う音が二度した。
一度目は、僕が部屋のロックを解除した音。二度目は、扉が開いた音。

「やれやれ、来ちゃったか」

誰に向けて、と言う事もなく呟く。
この部屋には僕しか居ない。何年も、そうだった。
開いた扉より差し込む光。眩しいかどうかと聞かれると、そうでもない。
何故ならさっきまで僕の顔は、目の前に広がる巨大なモニターの灯りに照らされていたから。
今はそのモニターは停止状態。故に部屋が暗闇な訳だ。

爪'ー`)y‐「観念したかい?引き篭もりクン」

「騒々しい人だね。僕は約束は破らないよ」

ξ゚听)ξ「と言われても、こんな暗闇で顔も見えない奴にそんな事を言われても、ねぇ」

「――そうだね」

椅子の肘掛に仕込んである灯りのスイッチを入れる。
魔力を動力源とする青白い灯りが、部屋を照らした。
そして僕は、椅子をくるりと回して訪問者達と対面する。

大人しそうな顔をして、狂気じみた台詞を吐きながら機械人形どもを滅茶苦茶にした青年。
そしてその隣に浮かぶ少女。散々僕を罵倒したのはこの女。
もう一人の少女は、さらに幼い。しかしその成りからは想像出来ない戦闘能力を持っていた。
そして青年がもう一人。彼が凄まじい根性をしてトラップ部屋を抜けた者か。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/10(火) 00:45:10.16 ID:elmBuklN0
そしてもう一人。何故か僕の仕掛けた暗号を知っていた、散々僕を罵倒していた"男"のほう。
それが、訪問者の全て。この屋敷が出来てから、此処に初めて足を踏み入れた僕以外。
敬意を持って、彼らを迎え入れよう。

(´・ω・`)「やあ、遠路はるばるご苦労様。
      僕がこのからくり屋敷の主にして失われしニーソクの正当な王位継承権所持者……ショボン様さ!!!!」

……あれ?額が冷たい。
眼を上向けて見れば、そこに突きつけられているのは銃口。そしてそれを握るのは幼い少女。
まさか彼女は、一瞬で入り口から僕の額に銃を突きつけられる距離まで移動してきたと言うのか。

ハハ ロ -ロ)ハ「用件は一つです」

淡々と、少女は述べる。
見た目から推定する歳の少女に相応でない洞察力及び、観察力を彼女は備えている。そう直感した。
だって、彼女の眼は僕を見ていない。見ているのは――僕の手元。操作パネルを組み込んだ、椅子の肘掛だ。
否、もっと言うならば、そのうちの一つのボタンに伸びようとしていた――僕の指先。

ハハ ロ -ロ)ハ「大人しく、シベリア城まで着いて来てください」

(´・ω・`)「――やれやれ。解った。僕の負けだよ」

僕がひねり出せる言葉はこれだけ。
後は従って、シベリア城に連れて行かれる。
……ああ、シューに怒られるんだろうな。今のうちに、言い訳を考えておかないと――

その言い訳も考えないうちに、それは突然やってきた。
突然扉の開く音がして、突然誰かが飛び込んできた。僕の目の前の少女は振り向き入り口に銃口を向けるが、すぐにそれを降ろした。
入ってきた彼女は、まるで突然の知らせを聞いて駆けて来たかのように、身に纏う物と、息を乱して僕と対峙した。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/10(火) 00:49:37.09 ID:elmBuklN0
(´・ω・`)「……どうしたんだい?君らしくないよ……シュー」

彼女が息を荒げているのなんて、僕は――少なくともシベリア城にいた間には――見たことがない。
運動は苦手だったし、幼くして国王とならなければいけなかった彼女は学問漬けで、運動をしている暇もなかったからだ。

lw;´‐ _‐ノv「ショボン……君の事……私は、誤解してたよ……」

息も絶え絶えに、彼女は言う。

lw;´‐ _‐ノv「此処に篭ったのは……現実から逃げたいから……そう思ってた……けど……」

大きく息を吸う。それは次の言葉を一息に述べる為か。

lw;´‐ _‐ノv「本当は違ったんだろ……?自分の力で、国を取り戻したかった」

(´・ω・`)「……全く、何のことか解らないね」

嘘だ。
彼女の言っている事は本当だ。だから僕は、僕に与えられた才能をこの屋敷の中で発揮していた。
それでも嘘をつきたくなるのは――性分だからか。
正直な生き方は、僕には出来ない。

lw´‐ _‐ノv「あの扉の番号……ショボンが私にこう言った時の日付だ。
       『いつかあの地を、僕の手でニーソクに取り戻す』。あの時、私が何て答えたか、覚えてる……?」

(´・ω・`)「いや」

勿論、嘘で返す。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/10(火) 00:53:39.57 ID:elmBuklN0
ぱちん。右の頬に、痛みを感じる。
彼女が、張ったのか。

lw´‐ _‐ノv「そんな事、一人で出来る訳ない。私が助けてあげるから、二人で国を取り戻そう。
       私はそう言ったんだ。今のはそれを忘れていたショボンを叱る一撃」

続いて、左の頬を彼女が張る。

lw´‐ _‐ノv「この一撃はあの時君が次に言った言葉の分。『君にそんな事できる訳無いだろ?』
       ……今は私も国王だよ?兵力位君に貸してあげられるよ……今は出来ないけど」

それを聞いて、思わず、噴出してしまった。

lw#´‐ _‐ノv「な、何がおかしいんだよ」

(´・ω・`)「結局、君は今でも役立たずじゃないか。
      ……恐らくは僕の助けが要る位にはね」

lw´‐ _‐ノv「そうだね。理解の早いところは昔から変わらなくて助かる。それに、君にとっての利益にもなるはずだから」

(´・ω・`)「褒められてるのか良く解らないが、成程興味深い話だね。
      それで、どんな事を君はやろうとしているんだ、シュー?」

lw´‐ _‐ノv「うん。アスキーを叩き潰す」

――おいおい、それはまさに僕がやろうとしてる事じゃないかよ。
ともかく、そういうことなら僕も力を貸そう――否、十分に力になってもらおうか。

――( ^ω^)常夜の世界のようです opening-5 end.

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/10(火) 00:54:22.22 ID:elmBuklN0
次回予告

( ^ω^)「と言う訳で序章が終わった訳ですが、次からは何かが進むんでしょうかね」

( ФωФ)「むしろ進んでくれないと困る。そうは思わないか?」

| l| ゚ー゚ノl「まあでも、次回はまだ静的な話らしいです……
      何でも、シベリアがタシロ島に攻め入るまでの準備期間と、その間のタシロ島の話だとか」

('A`)「それでも"act"って入ってきたくらいなんだから、新たな流れが出来て欲しいモンですよね。
    例えば名前しか出てない僕の出番とか」

爪'ー`)y‐「それは流石に僕達にはわかりかねない内容だなぁ。世界がどう動くかなんて、僕達には知りようも無いんだよ」

ミセ*゚ー゚)リ「でもこれ……"次回予告"です……よね?」

爪'ー`)y‐「あ」

opening part END. next part->act1:bloodless princess.


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