- 22 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 03:07:07 ID:IsGkL0doO
- 雛多デレは臆病者だった。
いつ如何なる時も。
強者には、媚びへつらい。
弱者には、関わらず。
いかにして、己に被害が及ばないようにするか。
それだけを考え、実行し生きてきた。
偏に、誰にも嫌われないようにと。
何も持ち得ない、それは己さえも。
それが、雛多デレが今日まで生きてきて学んだ処世術。
- 23 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 03:07:55 ID:IsGkL0doO
- そんな彼女にとって、歌音つーは憧れだった。
いじめを意に介さない孤高な生き方。
それは、雛多デレにとても眩しく見えた。
けれど、歌音つーは自殺をしてしまった。
いじめを苦に、死んだようにも見える形で。
雛多デレの中で気高く、孤高の存在だった彼女への幻想は脆く崩れ去り。
よりいっそう、閉塞的な生き方へと雛多デレは向かっていった。
- 24 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 03:08:41 ID:IsGkL0doO
- 姦しい話し声。
三人寄れば姦しいとは言うが、教室の中では既にけたたましいまでになっていた。
そんな中、ふとした拍子にデレへと声が飛ぶ。
ζ(゚ー゚;ζ「……ふぇ?」
ただ、ぼうっとしていたので、うっかり聞き逃してしまった。まずい。
話が合わない、それだけで排斥された子もいるのだ。
ζ(゚ー゚;ζ「ごめん、ちょっとぼうっとしてた」
苦笑がその場を包む。
正直に告白し、なんとかその場を乗り切った。
ζ(゚ー゚;ζ「ちょっと頭を冷やしてくるね?」
そういって、その場を離れる。
行くあては、ない。
これが、雛多デレの日常。
- 25 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 03:09:20 ID:IsGkL0doO
- どこをどう歩いたのかは、覚えていない。
気付いたら、屋上へ続く階段の踊り場にいた。
どうせなら、新鮮な空気でも吸おうか。
歌音つーが飛び降りて以来、塞がれていた屋上。
しかし、生徒たちには関係がない。
興味本位で冷やかしにくる生徒の間で、扉の開け方は筒抜けになっていた。
ζ(゚ー゚*ζ「はあ……」
曇り空の下で、溜め息を一つ。
少しは紛れる閉塞感。
- 26 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 03:10:10 ID:IsGkL0doO
- ここが歌音つーが、いなくなった場所。
雛多デレは、ゆっくりとフェンスに近づいた。
ζ(゚ー゚*ζ「ここから、飛び降りたんだ」
地面が遠い。高い。怖い。
足がすくむ。
「何してるの?」
ζ(゚ー゚;ζ「ひゃっ!」
突然、背後から聞き慣れない声がした。
恐る恐る振り向くと、そこには。
(*゚ー゚)「何をしてるの?」
透明な女生徒がいた。
- 27 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 03:10:57 ID:IsGkL0doO
- 勿論、透明と言うのは比喩である。
現に、彼女の姿ははっきりと見えるし、声も聞こえる。ただ、生気がまるで感じられないだけ。
(*゚ー゚)「何をしてるの?」
もう一度、彼女が言った。
雛多デレの耳にだけ、届くかのようなシャープな声色。
ζ(゚ー゚;ζ「な、何もしてない……です」
慌てて敬語に直す。
相手の歳が分からない以上は、下手に出る、これも彼女の生き方。
(*゚ー゚)「そ、何もしてないんだ」
何の含みも感じられない、言葉。
ただ、指示通りに文章を音読しているかのよう。
- 28 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 03:11:30 ID:IsGkL0doO
- ζ(゚ー゚;ζ「貴女、お名前は?」
雰囲気に耐えられ無くなった雛多デレは、話題を逸らす。
それが、終りとは知らず。
(*゚ー゚)「為人しぃ」
(*゚ー゚)「貴女は?」
他意すら、感じられない。
文字の羅列とも感じられる音。
ζ(゚ー゚;ζ「私は、雛多デレ」
雛多デレはまた、終りへの一歩を踏み出す。
無知は罪。そんな言葉のお手本のように。
- 29 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 03:12:46 ID:IsGkL0doO
- それ以降、雛多デレは。
息詰まる度に屋上を訪れていた。
何気なく知り合った為人しぃとの会話が、彼女にとってなくてはならないものへとなった。
相手を気遣わずに話せる、雛多デレが初めて経験すること。
何よりも大切なこと。
(*゚ー゚)「これ、持っていって」
一枚の紙を手渡された。
ポケットに入るくらいの大きさの。
ζ(゚ー゚*ζ「なあに、これ?」
(*゚ー゚)「お守りよ。大切にしてね」
ζ(^ー^*ζ「そう。ありがとう」
ここに来て以来、初めて心から笑った気がする。
- 30 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 03:13:34 ID:IsGkL0doO
- きっかけは、些細な事だった。
いや、デレにとっては些細では済まされない。
彼女が、為人しぃから貰ったお守り。
それをうっかり落とし、クラスの人間に見られ、彼女の前で拾われてしまったのだ。
あわてふためく彼女に矢継ぎ早に、声が飛ぶ。
それは何か。
大事な物なのか。
何故、焦っているのか。
そして、決定的な一言。
ただのゴミじゃない?
ζ(゚ー゚#ζ「返して!」
大声で叫び、引ったくるように取り返す。
そこで、やってしまったと気付いた。
雛多デレを見つめる、クラスメイトの目。
そこには今までにない、侮蔑の色が見て取れた。
- 31 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 03:14:04 ID:IsGkL0doO
- また逃げ出していた。
為人しぃがいる、屋上へと。
ζ( ー *ζ「やっちゃった……」
明日からの生活を考えると、気が狂いそうになる。
ζ( ー *ζ「どうしよう……」
フェンス越しの風景が、ぼやけ始めた。
ζ(;ー;*ζ「……うぅ」
これなら、死んだ方がマシかも知れない。
ζ(;ー;*ζ「……あぅ」
フェンスは簡単に乗り越えられた。
遠い。高い。怖い。
- 32 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 03:15:30 ID:IsGkL0doO
- (*゚ー゚)「どうしたの?」
為人しぃがいた。
フェンス越しにいる雛多デレを、何も変わらない態度で見つめている。
ここで初めて、雛多デレは、為人しぃに違和感を覚えた。
けれど、今はどうでもいい。
ζ(;ー;*ζ「私、死んじゃおうと思ってるの」
ただ、自分を引き止めて、慰めて、居場所をくれれば。それだけで。
けれどそれは。
- 33 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 03:16:10 ID:IsGkL0doO
(*゚ー゚)「そう。じゃあね」
.
- 34 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 03:16:51 ID:IsGkL0doO
- 叶わぬ願いだった。
あっさりと、まるで何でもないように、為人しぃは言った。
ζ(;ー;#ζ「なんで!どうして!助けてよ!」
ζ(;ー;#ζ「友達でしょ!」
雛多デレの内から絞り出された慟哭。
しかし、彼女の期待は叶わない。
(*゚ー゚)「いやよ。貴女のこと、大嫌いだもの」
(*゚ー゚)「じゃあね、ばいばい」
そう言って、為人しぃはその場から掻き消えた。
まるで、初めから存在していなかったかのように。
- 35 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/09/29(木) 03:17:22 ID:IsGkL0doO
- ζ(;∀;#ζ「あははははははは、そう!そういう事なのね!」
一瞬にして、全てを失った。
ζ(;∀;#ζ「最初から、全部!」
否、初めからなかったのだ。
ζ(;∀;#ζ「もういい!もういいわ!」
雛多デレは、何も持っていなかった。
ζ(;∀;#ζ「ばいばい!皆、大嫌いよ!」
地面は遠くない。
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