(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
393名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:26:40 ID:x1F3PxLs0












11 ホムンクルスと幽居の聚落

394名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:28:16 ID:x1F3PxLs0


「ねぇー」

「ねぇってばー」


(;・ー・) 「まだー?」

背中にかけられる声を無視しながら、森の中を馬をひいて進む。
鬱蒼と茂った木々が邪魔で、歩くのにも苦労する。

(´・ω・`) (山奥に里を置くのはいつものことだが……今回はまた随分辺鄙なとこだな……)

僕らが向かっているのは、錬金術師達の隠れ里。
普通の人はその存在すら知らないし、知っていたとしても決して近寄ることはできない。

(;・ー・) 「ねぇーまだー?」

森に入って既に3時間くらいが経過している。
モララルドの文句はだんだんと間隔が短くなってきていた。


そろそろだと思うんだが……。

395名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:29:43 ID:x1F3PxLs0


(´・ω・`) 「見えたよ」

(*・ー・) 「どれ……?」

坂を登りきったところに見える、一本の奇妙な形をした大樹の切り株を指さす。
太さは大人三人がようやく囲えるほどなのに対して、高さは子供と同じくらいしかない。

( ・ー・) 「ショボン! ただの木だよ?」

モララルドが駆け足で登っていき、幹を周回してから僕を呼ぶ。

当たり前だ。
入口がそれとすぐにわかるようでは、里を隠す意味がない。

(´・ω・`) 「これは僕ら錬金術師だけが入り方を知ってる特殊な扉だよ」

荷物袋から取り出したのは一枚の紙切れ。
ここに入るのに必要になるため、あらかじめ用意しておいたものだ。

( ・ー・) 「それは何?」

(´・ω・`) 「わかりやすく言うなら、鍵かな」

396名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:32:32 ID:x1F3PxLs0


表面には特殊な文字の羅列と記号が書き込んである。
それを幹の中心に置いた。

(;・ー・) 「!?」

それはゆっくりと水に沈むように幹に吸い込まれた。
数秒も待たずに、木の年輪の中心部から波紋が広がっていく。
それと同時に黒い穴が広がっていき、下へ降りる階段が表れた。


(*・ー・) 「すごい……これも錬金術なの?」

(´・ω・`) 「そうだけど、かなり特殊なものだよ。僕でも再現できないだろうね」

(*・ー・) 「降りてもいい?」

よじ登り、暗がりに向かう階段を見降ろして言った。
足を滑らせさえしなければ、別に普通の階段と一緒だ。

(´・ω・`) 「走るなよ。落ちたら怪我するから」

(*・ー・) 「はいはい、わかってるってー」

それだけ答えるとすぐに駆け下りていく。
ため息をつきつつ後を追った。


398名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:39:05 ID:x1F3PxLs0

馬の手綱は近くの木に結んでおく。
近くに姿は見えないが、以前来た時、世話係からそうするように言われていた。

長くも短くもない階段を降り切ると、目の前に突然開けた土地が現れ、
人々の暮らす音が聞こえてきた。
いくつもの家屋が丁寧な扇状に広がり、階段下からだと幾本もの道が見える。

(*・ー・) 「うわーっ」

モララルドは少し先で足を止めて感嘆の声を出していた。
初めて訪れた先がここでは少々刺激が強すぎるかもしれないが、
いい思い出になるだろう。

(´・ω・`) 「僕から離れるなよ。迷子になっても知らないからな」

(*・ー・) 「うん! でも、どうなってるの? なんで森の下に村があるの?
        なんでなんで?」

始めてみた時は僕もそれなりに驚いた。
モララルドがここまで興奮するのもわかる。

399名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:39:54 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「ここは森の中だよ。さっきいた場所と同じね」

( ・ー・) 「え?」

(´・ω・`) 「別に地下に降りてたりするわけじゃないんだよね。
       異界に移動してるわけでもない」

(´ ・ー・) 「わかりやすく説明してよー」

(´・ω・`) 「里の外側に背の高い木が見えるだろ? あれが外界との結界を担ってる。
       外から見れば、ここはずっと森が続いてるようにしか見えない」

人避けの錬金術もかかっていると聞くし、
侵入者対策は万全ってところかな。

(*・ー・) 「すげー。これからどうするの?」

(´・ω・`) 「これといって用があるわけじゃないけど、まずはいつもの所にでも行くかな」

隠れ里には何度か来たことがあるが、そのほとんどの目的は情報の収集と整理だ。
毎年何百、何千の新しい素材や、効果が見つけられ、
その中でも公開された情報はここに集められている。

400名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:43:00 ID:x1F3PxLs0

僕ですら知らない錬金術に関する知識が、ここにはある。

(´・ω・`) 「どこにあるかな……」

情報量の多さゆえに、その場所は誰にでもわかるような地図には書いてない。
錬金術は知識の結晶であり、悪用されることを防がねばならないからだ。

( ^ω^) 「あれ? ショボン! ショボンじゃないかお」

聴き慣れた声に僕の名前が呼れる。
向こうから手を振りながら走ってくるのは……ブーンか。

(´・ω・`) 「君か……こんなところで何をしてるんだよ」

( ^ω^) 「ショボンこそ、ってその子は?」

ブーンが僕の後ろにいたモララルドに気が付く。
僕の知り合いということに興味を持ったのか、後ろからこちらの様子をうかがっていた。


402名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:49:19 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「モララルド、こいつはブーン」

(; ・ー・) 「よ、よろしくお願いします」

緊張しているのか……僕の時はそんな様子は欠片もなかったのに。
まぁ、太ってる人間はそれだけで威圧感があるし、
子供なら恐れるのも仕方ないか。

( ^ω^) 「ブーンって言うお、よろしくだお」

にやにやと下品な笑いをしながら、耳打ちをしてくるブーン。
内容は予想できたが、最後まで聞いてやってから判断を下してやってもいい。

( ^ω^) 「ショボンにそんな趣味があったとは知らなかったお」

(´・ω・`) 「……」

(; ^ω^) 「あ、ちょっとタンマ! それはやばいお」

403名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:50:38 ID:x1F3PxLs0

錬金術師の里と言えど、僕らのことを知っている人間は極僅かだ。
隠れ家と共に移動する術師は世代交代で変わっていくし、
客人もまた長くは留まらないからだ。


取りあえず抜き身の剣を鞘にしまう。

( ^ω^) 「で、実際はどうなんだお? 弟子かお?」

(*・ー・) 「はい! そうです!」

(´-ω-`) 「勝手なことを言うな……。弟子にした覚えはない」

油断も隙もない奴だ。
ここまで来るたびの間も、延々と錬金術の話をさせられた。

( ^ω^) 「そういえば……最近、ちょっと騒がしいことになってるお。知ってるかお?」

(´・ω・`) 「いや……何があったんだ?」

( ^ω^) 「錬金術師の集団失踪だお。それに加えていやーな噂話もあるお。
       戦争をするための武器を製造しているって話も……」

404名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:51:58 ID:x1F3PxLs0

……戦争か。
人間は本当に学ばないな。
資料に残っているだけでも、千年以上前から人は争っている。

その度に国は衰退し、民は疲弊するというのに。
長い目で見れば損失でしかない。

そんな長期間も見れるものがいないからこそ、戦争はなくならないのだろうが。

( ^ω^) 「どうも、今回はやばそうだおー」

(´・ω・`) 「やばいって……また抽象的な……」

( ^ω^) 「錬金術を使って戦争を企んでるらしいお。
       戦闘に特化した特殊な装備なんかを作ってるらしいお」


( ・ー・) 「戦闘に特化したって、そんなことできるんですか?
        錬金術は科学ですよね?」

モララルドが口を挟んでくる。
気になったことは聞かずにいれないのだろう。
僕もそれはよくわかるので、叱責しにくい。

邪魔者扱いするのではなく、丁寧に説明してやることにした。

405名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:53:25 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「そうだ。モララルドの言うように、錬金術はれっきとした科学であり、
       そして技術でもある。
       戦いに転用しようと思えば、いくらでもできるだろうね」

( ^ω^) 「錬金術は抽象性を扱うことはできないお。
       なんでも切れるナイフ、絶対に砕かれない盾、なんてのがそうだお」

ふむふむ、と頷きながら真剣なまなざしで話を聞いている。
ブーンも説明好きのきらいがあり、こうなると止まらない。

( ^ω^) 「でも、逆に言えば、モノによるけれど、具体性は付与できるんだお。
       折れにくい刃や、軽くて堅い盾みたいなね」

( ・ー・) 「でも、それだとそこまで大した戦力にはならないですよね?」

(´・ω・`) 「そうだ。やっかいなのは、対軍錬金術という錬金術の一分野だ。
       僕は嫌いだし必要ないと思ってるから、その手の研究はしたことがないけれど」

( ・ー・) 「対……軍……?」

406名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:56:04 ID:x1F3PxLs0

来る途中に話していてわかったことだが、モララルドは情報の整理が異様に早い。
複数の情報をたった一度聞くだけで理解してしまう。

(´・ω・`) 「戦場に敵にだけ見える煙が蔓延したらどうなると思う?」

( ・ー・) 「……連携が取れなくて……混乱する?」

(´・ω・`) 「そうだ、そういう、多数に対して効果を持つ錬金術の中で、
       特に戦争用に生み出されたものを対軍錬金術と呼ぶ」

( ^ω^) 「対軍錬金術を研究している錬金術師はほとんどいないお。
       それは、錬金術は平和の礎であり、人々の生活を豊かにするもの、
       という大前提を破ることになるからだお」

そう。それ故に対軍錬金術は禁術の一つに数えられる。
それらに関する情報も少なく、術師の一人二人程度では実践に使えるまで至らないだろう。

( ・ー・) 「でも、相当難しいですよね? 特定の人にだけ影響を与えるなんて」

( ^ω^) 「そうだお、だから普通はちょっと強い武器、くらいしか使われないお。
       今回は、何人かの錬金術師が共同で錬金術を開発してるかもしれないから、
       厄介なんだお」

407名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:57:52 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「で、首謀者はわかってるのか?」

( ^ω^) 「セント領主家がその隠れ蓑だと言われてるお」

セント領主家といえば、海に面した高い崖の上に城を持つ昔からの名家だ。
領民からの信頼も高かったはずだが……。

(´・ω・`) 「理由は?」

( ^ω^) 「まだわかんないお。今調べてるはずだけど」

( ・ー・) 「もし、その人たちが戦争をする準備をしていたら、どうするんですか?」

( ^ω^) 「近くに住む錬金術師と騎士教会が共同で対応するお。
       この二つ、今は物凄く仲が悪いんだけど、
       こういうときには協力する協定が昔からあるんだお」


騎士教会と錬金術師は考え方が真逆だからな……。

騎士は錬金術師を引きこもりと嘲り、
錬金術師は騎士を馬鹿と笑う。

408名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:59:02 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「ま、なんにせよ僕らには関係のない話だ」

( ^ω^) 「だおだお。さ、帰って研究の続きでもするお」

(´・ω・`) 「なんだ、もう帰るのか? 久し振りに会ったんだ、話くらいしようじゃないか」

とはいえ、数年ぶりぐらいだろうか。
今までと比べるとはるかに短い期間だ。

( ^ω^) 「んーじゃあ、店でも取って待っとくお。
       用が済んだら酒屋"蜂の巣"にでも来てくれお」

(´・ω・`) 「そうする。モララルド、君はどうする? 
       僕についてきてもいいけど、面白くないと思うよ」

( ・ー・) 「んーいや、ショボンについていくよ」

できればブーンと話していてほしかったのだが、そううまくはいかないか。
久し振りにあの人に会わなきゃいけないからなぁ……。

409名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:59:42 ID:x1F3PxLs0

ここに始めて来るまで想像すらしなかった。


僕より長く存在している"個"があるなんて。

(´・ω・`) 「ともあれ、最初に向かうのは錬金術師の知恵の結晶、"大罪館"だ」



・  ・  ・  ・  ・  ・

410名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:00:51 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「お邪魔するよ」

息の詰まるような埃のにおい。
中に日の射さない暗い館は"大罪館"と呼ばれ、
里の術師によって選ばれた一人の司書が管理している。


無数にある錬金術の情報を管理しているただ一つの場所であり、
寿命の短い人間の錬金術師は重宝しているようだ。

「お初お目にかかります。ショボン様ですね?」

(´・ω・`) 「そうだけど、どうして名前を?」

「先代から話を伺っております。
 この書庫の半分はショボン様が見つけられたと言っても過言でないと」

(´・ω・`) 「それは過言だと思うが……」

「第十三代目、書庫番です。以後お見知りおきを」

床まで届く長い髪の女性は、軽く頭を下げた。
応えるようにこちらも挨拶する。

411名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:02:48 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「まずは蓄積を頼む」

( ・ー・) 「蓄積ってなんですか?」

(´・ω・`) 「僕の持ってきた情報を受け取ってくれ、ということだよ。
       書庫番の実力にもよるけれども、そんなに時間はかからないはず」

僕は公表してもかまわない情報を書き写した紙の束を差し出した。
書庫番の娘はそれを受け取り、次々とチェックを入れていく。

「こちらの兎草の新用途、老化の抑制という項目ですが、
 書庫AJ−163 兎草の項目、老化の促進と矛盾します」

(´・ω・`) 「ああ、それか。兎草の持つ本来の用途は毒消し、
       細胞活性化による回復、老化の抑制だ。
       だけど、極度の低温など限定条件下で老化を促進するということが分かった」

「了承しました」

412名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:04:58 ID:x1F3PxLs0

「次に、斑鉱の有効利用法、食べるとうまい、ですが
 何かほかに書き方はなかったのでしょうか」

(´・ω・`) 「ああ……食べるとうまいんだが、
       吸収に時間がかかるからなかなか次のものが食べられない。
       腹が重たくなる不快感がある。それも明記しといてくれ」

「はい」

(´・ω・`) 「そのくらいかな?」

「ええ、確認完了がされ次第、書庫に追加させていただきます。
 いつも貴重な情報ありがとうございました」

(´・ω・`) 「いや、別に気にしないでくれ」

(*・ー・) 「ここにはどのくらいの情報があるんですか?」

(;´・ω・`) 「おい、こらっ」

こちらの話が終わったと見るや、すぐに質問を始める。
多少驚いだ様だが、書庫番は仕事を全うする。

413名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:07:50 ID:x1F3PxLs0

「現在、素材、約8460万種、用途、約3億2119万種ほどあります。
 その全てを管理するのが私たち書庫番の役目です」

( ・ー・) 「ということは、どこにどの情報があるのかすぐにわかるの?」

「わからなければ、書庫番にはなれません」

これには流石のモララルドも驚いたようだ。
理解力はかなり高いが記憶力は並以上ぐらいだからな。

書庫番の連中は錬金術で脳みそをいじっているのだが、それは教えないでおこう。

「ショボン様が子連れだとは知りませんでした」

(;´・ω・`) 「いや、違うから……」

「そうなのですか、それは失礼しました」

(´・ω・`) 「書庫番も冗談を言うのか……」

確か先々代の書庫番の爺は、頑固で必要最低限しかしゃべらない人だった。
先代の書庫番も厳格なおっさんだったな。

414名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:14:23 ID:x1F3PxLs0

「何のことでしょう……?」

(´・ω・`) 「まぁいいよ。それじゃあ失礼する」

「良いお旅を」

(´・ω・`) 「うん」

僕らは大罪館を後にした。
気が進まないけれども、行かざるを得ない。

隠れ里の最奥にある建物の中に"その人"はいる。

部屋が一つしかない、小さな掘立小屋のようにも見えるそれは、
ここで最も偉い人物がいる場所とは到底思えない。


 「ひっさしぶり〜」


真っ赤なカーテンをくぐろうか悩んでいたところで、向こうから声をかけられた。
息をするのも苦しいほど、煙が充満している。

僕は最後の抵抗を諦め、奥に進んだ。

415名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:16:22 ID:x1F3PxLs0

部屋の中央には複雑な円形陣と、小さな台があり、
その上には掌よりも大きいくらいの水晶玉が置いてある。

声はそこから直接響いてくる。


始まりの錬金術師

水晶の魂

神の声


人はみな自分勝手に彼女を呼ぶ。



从'ー'从 「ワタナベクスだよー、はじめましてモララルド君」

(; ・ー・) 「え!? え!?」

416名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:17:53 ID:x1F3PxLs0

驚くのも無理はない。
この水晶玉……いや、この人は近くにいる人間の心ならよむことができるのだから。
僕も初めて会ったときは正直、何かの仕掛けを疑ったものだ。


僕よりも長生きしている"個"が存在しているなんて


从'ー'从 「ふふ……ショボン君も随分音沙汰なかったねー」

(´・ω・`) 「……すいません、忙しかったもので」

从'ー'从 「ふーん……研究でー?」

やりにくいなぁ。
聞きたいことだけ教えてくれればいいのに。


从'ー'从 「でも駄目ー。ワタちゃんも暇だからねっ☆」

(´・ω・`) (…………)

417名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:19:58 ID:x1F3PxLs0

頬がひきつる。
こんな水晶玉ぶっ壊してもいいのだが、ちょっと僕の力ではどうしようもない。
無造作に置いてあるように見えるが、
僕レベルの錬金術師が数人、72時間程度ぶっ通しで攻略しななければ、
傷一つつけることはできないだろう。


(; ・ー・) 「えっと、わたなべくすさん?」

从'ー'从 「ワタちゃんでいいよー」

( ・ー・) 「ワタさんはどうして僕の名前を知っていたのですか?」

从'ー'从 「あれ? ショボン君に教えてもらってないの?」

ああ、教えてないよ。
話してみればすぐにわかることだからね。

从'ー'从 「私はねー近くにいる人の心が読めるんだー」

( ・ー・) 「えっ!?」

从'ー'从 「ふふーん、そしてなんと初代錬金術師でもあるのです!」

(´・ω・`) 「そんなことはどうでもいいので、本題に入らせてもらえないですかね」

418名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:20:50 ID:x1F3PxLs0
从'ー'从 「若い子の疑問に答えるのは大人の仕事だよ、ショボン君」

さいですか。
それならどうぞ続けてください。

( ・ー・) 「初代ってことは500歳くらいですか?」

从;'ー'从 「…………ッ!」

さすが子供。人の聞かれたくないところをずけずけと。
まぁこの場合良くやったと褒めてやりたい。
そしておそらくだけど、もっと高齢だろうな。

視線の無いはずの水晶から嫌な雰囲気を感じるが気のせいだろう。

从;'ー'从「じ……18歳!」

(´・ω・`) 「…………」

( ・ー・) 「…………」



从;'ー'从「…………」

419名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:21:57 ID:x1F3PxLs0

从'ー'从「で、ショボン君何の用?」

まさかそのまま流すとは……、精神力も流石ですね。
伊達に歳を食っているわけではないらしい。

从#'ー'从「な ん の よ う ?」

(´・ω・`) 「先ほどブーンから聞いたのですが、どうも妙な動きをしている領主がいるようです。
       出来れば巻き込まれたくないので、今後荒れそうな地域を教えてもらえませんか」

从'ー'从 「ワタちゃんの未来予知はそんなに的確じゃないからなー。
       まぁ、セント領主家の辺りはあまり近寄らないほうがいいよ」

初代は自分の精神を個の水晶玉に宿らせる過程で、
様々な錬金術を用いて自らの能力を強化している。

その内の一つに未来予知があるのだが、
やはりいつも通り役に立ちそうもなかった。

(´・ω・`) (ほとんど"勘"みたいなものだしなぁ……)

从'ー'从 「まぁ、セント領主家が何かしているのは確かなようだし、
       早めに対処しとくよー」

420名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:23:34 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「よろしくお願いします。
       さて、用も済んだしブーンと待ち合わせしてる場所に帰るよ」

( ・ー・) 「はーい」

从'ー'从 「ああそうだ、ショボン君。未来に妙な闇が見えるよ。十分に注意してね」

(´・ω・`) 「……気をつけますよ」

部屋を後にして向かう先は蜂の巣。
ここの里で一番有名な酒処だ。

酒は文句なしに美味しいし、料理もかなりいいものを出してくれる。
その中身は錬金術だらけの加工料理だから、嫌う人も多いようだけど。

僕やブーンみたいなのは、うまい食べ物であれば調理法なんて気にしないしなぁ。

(*・ー・) 「蜂の巣ってどんなところ?」

(´・ω・`) 「どんなって、普通の店かな。
       別に隠れ里だからって変な場所ばっかりじゃないからな」

目を輝かせても無駄だ。
残念ながら本当に普通の店だからな。

421名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:26:19 ID:x1F3PxLs0

さっき行った二つが飛びぬけて変わった場所なだけで。

(´・ω・`) 「ここだ」

木造のそれは自然に溶け込むように建っている。
玄関には"蜂の巣"と書かれた看板が飾ってあり、
中からは食事の音と楽しそうな会話が聞こえてくる。

(´・ω・`) 「ブーンは……と」

カウンター席の真ん中に堂々と座っていた。
隣に腰掛けて注文を頼む。

ブーンはもう何杯かの葡萄酒を飲んでいた。
机の上には空になったグラスがいくつも並んでいる。

( ^ω^) 「遅いおー」

(´・ω・`) 「まぁ、そういうな。いろいろと時間がかかったからね。
       君と違って僕はいろんな研究をしているし」

( ^ω^) 「僕だってそれなりに研究してるお? 
        この前は飲んだら服が脱ぎたくなる薬も作ったし、
        臭いを嗅いでいる間の記憶を次の日に忘れてしまうお香もあるお?」

(´・ω・`) 「碌な目的につかってなさそうだな……」

422名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:27:35 ID:x1F3PxLs0

相変わらず女の子を手籠めにする研究ばっかりかこいつ……。
というか、そろそろ捕まれ。
騎士教会で異端審問されたほうがいいんじゃないか。

( ・ー・) 「ショボンとブーンさんはどういう関係なんですか?」

(´・ω・`) 「腐れ縁ってやつかな……同じホムンクルスだし」

(; ・ー・) 「えっ!?」

( ^ω^) 「そうだおー。もうかれこれ何百年か生きてるお」

周りの話声がきゅうに小さくなった気がする。
興味をもたれるのはあまり好きではないが、仕方のないことか。

(´・ω・`) 「初代と話してきたよ」

( ^ω^) 「あの人は相変わらずだったお?」

(´・ω・`) 「ブーンの話も割と信憑性が高そうだってことがわかった。
       セント領主家が何かしてるらしいって」

423名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:29:36 ID:x1F3PxLs0

( ^ω^) 「他にも色々と厄介なことが動きがあるみたいだお。
        さっき聞いた話だけどね」

(*・ー・) 「あ、これ美味しいっ!」

モララルドが食べてるのは魚のミンチに特殊な味付けをして、パンで挟んだものだ。
味付けの中身はとてもじゃないが聞いたら食べれなくなるだろうな。

(´・ω・`) 「好きなだけ食べたらいいよ」

(*・ー・) 「うんっ!」

( ^ω^) 「人喰い教会だとか、首切り連続殺人だとか」

(´・ω・`) 「物騒なことになってきてるなぁ……。しばらく海でも渡って別の土地に行こうかなぁ」

モララルドをどこかの教会に預け、一人になってからになるけど。

( ^ω^) 「だから、しばらくは武器を持ち歩いた方がいいお。
       普通の剣じゃなくてそれなりに仕組みのあるものだお」

(´・ω・`) 「とは言ってもなぁ……」

424名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:31:07 ID:x1F3PxLs0

僕が持つのは身を護るための剣だ。
錬金術を用いた殺傷力の強化なんかしたくない。

( ^ω^) 「気持ちはわかるお。僕も錬金術を戦いには使いたくないから。
       でも話を聞いといて損はないと思うお」

(´・ω・`) 「そんなものかなぁ……」

(*・ー・) 「おじさん、これおかわり」

「はいよっ!」

まだ食べるのかこいつは……。
僕よりも食べてる量が多いぞ。

(´・ω・`) 「で、誰に話を聞くんだ? 一応それだけ聞いとくことにする」

( ^ω^) 「近くに住んでるやつだと……ああ、あの人がお勧めだお」

(´・ω・`)( ・ー・) 「誰?」

( ^ω^) 「ショボンはもっと錬金術師のネットワークを有効利用するべきだお。
       年に二回出される名鑑とか購読すればいいのに……」

425名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:32:24 ID:x1F3PxLs0

今年の大発明一覧とか、便箋交換彼女募集とか、
くだらないことをやっているあれか……。
一度買ってみたけどそれっきりだな。

(´・ω・`) 「旅をしてるから毎回手に入れるのも面倒だしね……」

( ^ω^) 「まぁそんなのはどうでもいいお。
       数年前くらいから、あっちこっちの戦場で戦ってる男がいたんだお。
       それくらいなら別に気にしないんだけど、その男が鍛冶錬金術師だって話を聞いて、
       確かめに会いに行ったんだお」

引きこもり錬金術師がわざわざ出て行ったんだな。
珍しいこともあるもんだ。

(´・ω・`) 「それで?」

( ^ω^) 「あんまり詳しくは教えてもらえなかったけど、
       鍛冶錬金術の応用と、自らの異国風剣術を掛け合わせて戦ってるらしいお」

426名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:34:35 ID:x1F3PxLs0

( ・ー・) 「その人どのくらい強いんですか?」

( ^ω^) 「どのくらいって言っても……んー……。
       相当強かったお? 十数人の騎士程度なら相手にならなかったから」

(´・ω・`) 「ブーン……お前……」

どおりでわざわざ研究室から出てたわけだ。
さてはまた何かやらかして騎士教会の連中に追われてたに違いない。

(; ^ω^) 「いや、違うお? その時は女の子に何かしたわけじゃないお?」

(´・ω・`) 「で、その彼が近くにいるってわけね。機会があったら会ってみるよ」

他にもいくつかの情報を交換する。
長く話すつもりはなかったけれど、気がつけば日が落ちて夜になっていた。

(´・ω・`) 「そろそろ宿に行く?」

長話に付き合いきれなくなったモララルドは席で舟をこいでいる。

( ^ω^) 「そうするかお」

427名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:36:08 ID:x1F3PxLs0

小さい体を背負って蜂の巣を出た。
里のあちこちに生えている木には明かりが灯され、
狭い道を照らしている。

(´・ω・`) 「ブーンは明日からどうするつもりだ?」

( ^ω^) 「決めてないおー。適当なところで研究でもしようかなーって。
       拠点を決めるためにもしばらくここにいるんじゃないかお?」

(´・ω・`) 「あーそれなら、こいつ預かってよ」

背に乗せたモララルドを軽く揺らす。
こいつにとっても、腰を落ち着けて錬金術の勉強ができるのなら、
きっと喜ぶはずだ。

( ^ω^) 「んー僕は別にいいお? でも、その子が嫌がるんなら駄目だお。
       女の子だったら確定だったんだけどね」

(´・ω・`) 「女の子ならそもそも君に預けようとは思わない」

( ^ω^) 「……。まぁ、その子が起きたら聞いてみればいいお」

428名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:38:26 ID:x1F3PxLs0

ブーンに預けるにしても、どこかの教会に預けるにしても、
それ以降二度と会うことはないだろうな……。
モララルドは嫌がるかもしれないが、僕はもう……そういう生き方しかできない。

部屋の借り受けをブーンに任せ、今後のことを考える。

(´・ω・`) (初代の言っていた闇とはなんだろうか)

僕がセント領主家を避けるとするならば、そこでの争いは起きないはずだ。
あの適当な占いを気にするのもあほらしいが……。

先日も少年を狙ったセント領主家の襲撃に巻き込まれた。
それならば、僕の意思とは関係なく物事が進んでいくということか……?

( ^ω^) 「部屋とれたお、ショボン。……ショボン?」

(´・ω・`) 「ああ、ごめん。それじゃあ、また明日」

( ^ω^) 「考え事のしすぎはよくないお? それじゃ、おやすみだおー」

429名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:39:57 ID:x1F3PxLs0

ブーンは考えなさすぎだと思うが、素直に受け取っておく。
部屋はベッドが二つ並んでおり、最低限の家具だけが置かれていた。

そのうちのひとつにモララルドを寝かせ、自分も旅の道具を置く。
剣だけはすぐ手の届くところに立てかけた。

(´・ω・`) 「……何もなければいんだが」

窓の外から、夏独特のにおいをした涼しい風が吹き込んでくる。
里が森の中にあるだけのことはあり、虫の鳴き声も盛んだ。

ゆっくりと目を瞑り睡眠を取ろうとした瞬間、鐘の音が響いた。
ベッドから飛び起き、剣を構えて扉と窓を交互に注視する。

(; ^ω^) 「ショボン!」

ブーンが隣の部屋から駆け込んできた。
手には彼の槍が握られている。

(#´・ω・`) 「わかってる! ここは任せた!」

430名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:40:58 ID:x1F3PxLs0

窓を開けて外に飛び出した。
カンカンと何度も打ち鳴らされる鐘の音は、侵入者の襲撃を意味するもの。

ここの警戒網を潜って来るなんて俄かには信じられない。
が、襲撃があったのは事実。

(´・ω・`) (狙いはなんだ……?)

ここにあり、ここにしかないものを頭の中でリストアップしていく。
初代は短時間でどうにかするのは不可能だ。
ならば、ここで狙われているのはおそらく────

(´・ω・`) (大罪館!!)

裏道を全速力で走り、大罪館に駆けつけた。
入口の前に数人の死体が地面に打ち捨てられている。

深い緑色のローブを頭から被った三人の人物。
ローブはモララルドの屋敷を襲ったあの男と同じものだ。
その中で一番大柄な影が、髪の長い女性を抱いていた。

(;´・ω・`) (書庫番ッ!)

431名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:44:08 ID:x1F3PxLs0

(#´・ω・`) 「くそっ……! 書庫番を離してもらおうか」

(   ) 「ショボン……っ?」

(;´・ω・`) 「なっ!?」

「行くぞ、人が集まる前に」

(   ) 「ああ」

(;´・ω・`) 「待…………て……っ!?」

叫び前に出たときに、突然首筋に冷たい何かを感じた。
そのまま地面にたたきつけられて、僕は意識を分断された。



・  ・  ・  ・  ・  ・



,

432名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:45:35 ID:x1F3PxLs0


「……ボン」


「……ョボン!」


(#^ω^) 「ショボン!」

(´・ω・`) 「……ここは?」

( ^ω^) 「やっと目を覚ましたかお。大罪館の司書室だお。
       ホムンクルスだってあんまり知られないほうがいいと思ったから、
       悪いけど移動させてもらったお」

部屋の中には何もなく、僕が横になっている場所も床の上だ。
堅い床に全身をあずけているせいで、背中が痛む。

(´・ω・`) 「今何時だ?」

( ^ω^) 「ショボンが出て行ってから一時間くらいしか経ってないお。
       心配になって出てきたら、大罪館の前で倒れてたんだお」

433名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:46:39 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「そうか……。襲撃者を見つけて……名前を呼ばれた。
       奴らのうちの一人が……僕の名前を知っていた」

( ^ω^) 「顔は見たのかお?」

(´・ω・`) 「いや、見えなかった」

( ^ω^) 「これ……何かわかるかお?」

ブーンの掌にあったのは小さな銀のナイフ。
おそらく、僕の首筋に打ち込まれたものだろう。

( ^ω^) 「頸椎に刺さったままになってたお。
       もしかしたらだけど……こういう攻撃を受けることで、
       僕らの回復に時間がかかると知ってた可能性があるお」

ホムンクルスは不死だ。
煮ても焼かれても、刺されても斬られても、絶対に死なないと断言できる。

だけど、体の再生にかかる時間は状況によって異なる。
切り傷や打ち身程度ならほぼ一瞬のうちに、
腕や足などが欠損すれば、少しの時間で再構成される。

434名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:47:49 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) (ホムンクルスの……唯一の弱点と言えるかもしれない点……)

脳や頸椎などを破壊された場合、治癒にかかる時間は長くなる。
体内に異物が残されていた場合はなおさらだ。

僕は今回、このケースの攻撃を受けたのか。
それも意図して攻撃された可能性がある……ね。

(´・ω・`) 「……敵は?」

( ^ω^) 「不明だお。誰一人捉えられず、こちらの犠牲は死者11名。行方不明者1名」

(´・ω・`) 「書庫番か……」

( ^ω^) 「今、捜索してるけど……たぶん連れ去られたお」

彼女を担いでいたのを見たし、間違いない。
その膨大な知識を利用するために拉致したのか。

この隠れ里に入るための錬金術師がいて、
それでいて攫ってまで書庫番の知識を必要とするのは……

435名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:49:10 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「セント領主家か……」

( ^ω^) 「おそらくそうだお……」

ゆっくりと立ち上がる。
全身の動きを試し、問題がないと確認した。

(´・ω・`) 「初代の所に行く。……モララルドは?」

( ^ω^) 「見張りをつけて寝かせてるお」

(´・ω・`) 「助かる」

初代の館には数名の見張りが立っていた。
その誰もが、見たことのない形状の武器を持っている。

( ^ω^) (あれだお……武器の錬金術付加)

(´・ω・`) (大層な武器だな……)

(´・ω・`) 「初代錬金術師、ワタナベクス様と話をするために来た」

「あなた方のお名前は? 今は緊急時により無名のものを通すことはできないので」

436名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:49:59 ID:x1F3PxLs0


从'ー'从 「んー。ショボン君にブーンちゃんいらっしゃいー」

ブーンが何か言いかけた時、屋敷の中から声が響いてきた。
見張りが驚き制止しようとしたようだが、無視して奥に進む。

(´・ω・`) 「どういうことでしょうか?」

从'ー'从 「いやーショボン君、勘がいいから困っちゃう」

( ^ω^) 「どういうことか聞いてるんですお」

从'ー'从 「んー……もうわかってると思うけど、十三代ちゃんが攫われちゃったのね。
       実行犯はセント領主家おかかえの錬金術師かなー」

こんな状況でも相変わらずこの人は自分のペースを崩さない。
もしくは全て知っていたのかもしれないと、そう思うほどに。

それならば、なぜ対策を打たなかったのかという話になるが。

(´・ω・`) 「それで、どうされるつもりですか?」

从'ー'从 「あれ? ショボン君、巻き込まれたくないんでしょー。
       聞いても仕方のないことだよ。大丈夫、大丈夫なんとかするから」



(´・ω・`) 「…………」

437名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:51:15 ID:x1F3PxLs0

(#^ω^) 「わかりましたお。では、僕は僕の勝手でやらせてもらいますお」

(´・ω・`) 「ブーン……?」

怒りながら外に出ていくブーン。
ほんとにこいつは……すぐに怒ったり、悲しんだり、喜んだり。

後を追って、宿屋に向かうブーンの横に並んだ。

(´・ω・`) 「勝手にやるって、何をするんだ?」

( ^ω^) 「これから考えるとこだお。セント領主家の居城を一撃で海の藻屑に変えてやるお……」

(´・ω・`) 「……無茶苦茶だな」

ブーンならそのくらいのことは実行できるだろう。
怒りのままに逆襲をするのでは、僕らが行動する意味がないから止めるけれども。

(´・ω・`) 「他にも連れ去られた人がいたらどうするんだよ……」

( ^ω^) 「その時はまた別の方法を考えるお」

438名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:52:58 ID:x1F3PxLs0

なら僕も勝手に行動するとしよう。
すべて終わった後に得られるのが、徒労だけだとしても。


歴史に名が残るわけでもない。

人々に感謝されるわけでもない。


未然の戦争を防ぐというのは、そういうことだ。




それに……僕の名前を知っていたのも気になる。

(´・ω・`) (モララルドの屋敷を襲った男もホムンクルスの存在を知っていた。
       目立つようなことはしていないんだがな……)

439名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:55:32 ID:x1F3PxLs0

( ^ω^) 「ショボンはこれからどうするんだお?」

(´・ω・`) 「十三代書庫番の無事を確認するために後を追うつもりだ。
       その後、セント領主家の領地に向かう」

場所はわかっている。乗り込むのは簡単だが、まずは現状を調べるのが先だ。
彼らの研究はどこまで進んでいて、一体何を目的にしているのか。

( ^ω^) 「一人でかお? やめといた方がいいと思うお……」

(´・ω・`) 「正面から乗り込んだりはしないよ。色々と調査でもやってみようと思う。
       危険な旅になるだろうから、モララルドは置いていきたい」

( ^ω^) 「僕は構わんお」

宿にある自分の部屋から旅用の荷物をまとめた。
モララルドは静かに寝ている。

(´・ω・`) 「それと、夜中でも空いている店を知ってるか?」

( ^ω^) 「んー……出口近くの”森の妖精”ならたぶんやってるお。
        しっかりと準備していけお」

440名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:56:57 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「ああ……助かった。それじゃあ、また連絡する」

森の妖精は、錬金術師に関連するものはすべて取り扱っている店だった。
様々な道具や素材、調合マニュアルまで置いてある。

深夜にも関わらず、三階まである建物の全てに灯がついていた。

(´・ω・`) 「失礼、店主はいますか」

「ワシだ。……欲しいものがあるならさっさと言え」

カウンターの奥から出てきたのは、杖をつきながら歩く老人。
腰はほぼ直角に曲がり、顔に刻まれた皺は深く表情が読みにくい。

(´・ω・`) 「そうですね……」

今の僕に必要なものは何だろうか。
ざっと頭の中で状況を整理する。

(´・ω・`) 「夢宿り木の白液果、凝固蝋、そうだなぁ……」

「どちらもある。他にいるもんは?」

442名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:58:39 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「純化溶剤、腐食虫の粉末、活力草……ありますか?」

「腐食虫か……珍しいものだが、うちに無いものは無い。今全部用意する」

(´・ω・`) 「お願いします」

待つこと数分で、頼んだものが全て運びやすい形で並べられた。
それを全て旅の袋に詰め、代金を支払う。

値段は張ったが、装備としては十分なものが手に入った。
旅の途中で錬金術を用いながら、必要な品を創り出せばよい。

(´・ω・`) (行くか……)

里の出口は入り口とは真逆の方向にあり、一方通行となっている。
いったん出れば、再び入るために入口の木まで戻らなければならない。
面倒な仕組みだが、僕ら旅行者にとっては都合いい。

出るときは森外れに続く一本道に出れるのだから、非常に便利だ。

(´・ω・`) 「ふぅ……」

里の端にある扉は一見普通のものと変わらない。
ドアを押して開け、小屋の中に一歩を踏み出した。

443名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 15:00:54 ID:x1F3PxLs0


・  ・  ・  ・  ・  ・



蝋燭の灯が一本だけ小屋の中を照らしていた。
後ろを見ればそこには普通の扉があるだけだ。

その向こうは壁があるように見え、こちら側からはどこにも繋がっていないと勘違いさせる。
実際は何もなく、強引に抜けようと思えば抜けられるのだが。

ルールを守らなければ錬金術が綻び、
里の人間に迷惑をかけてしまう。

(´・ω・`) 「……ん?」

再び扉が向こうから開く。
他の利用者だろうと、特に気にせず、小屋から出るための扉に手をかける。

「ショボン!」

444名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 15:02:20 ID:x1F3PxLs0


聞き覚えのある声を聞いて振り向くと、
眠そうに眼を擦りながら出てくる少年の姿があった。



(;´・ω・`) 「……は?」


( -  -) 「おいてかない……で」


それだけ言うとゆっくりと体が傾いていく。
近寄ってその体を受け止めた。

モララルドは僕の腕の中で、安心しきった顔を浮かべて静かに眠っていた。

445名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 15:04:49 ID:x1F3PxLs0












11 ホムンクルスと幽居の聚落  End

446名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 15:08:01 ID:x1F3PxLs0


【時系列】

ホムンクルス生誕
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです   
8 ホムンクルスと少女のようです
   ↑
   |
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   │
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   │
3 ホムンクルスは抗うようです
   │
4 ホムンクルスは救うようです
   │
5 ホムンクルスは治すようです
   │
9 ホムンクルスは迷うようです
    |
10 ホムンクルスと動乱の徴候
    |
11 ホムンクルスと幽居の聚落


449名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 15:28:36 ID:x1F3PxLs0

【錬金術派生】


古代錬金術
 |
 ├────────────┐
 |                  │
近代西洋錬金術     近代東洋錬金術
 │  
 ├ 対軍錬金術 
 │
 ├ 鍛冶錬金術 
 │
 ├
 │
 ├
 │
 ├

450名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 15:33:41 ID:x1F3PxLs0


【素材一覧】


・月光草 月明かりの下に生える黄色い花を咲かせる草。
       解毒や気つけなど様々な用途に用いられる。
・兎草  二本の葉が兎の耳のように地面から生えている草。
       多様な地域で群生しており、生命力は非常に強い。
・星藻  水の中に生息する藻の一種。
       常に光を発している。
・夢宿り木  強力な睡眠作用を持つ宿り木。
         宿主の一切の成長を止めてしまうため名付けられた。
・夢宿り木の白液果  夢宿り木の成分の中でも、最も強力なのがこれ。
               皮膚からすら体内に侵入する。
・活力草 食べると力漲る草。
       人だけではなく、素材の効力を強めたりするのにも使われる。

・月光石 月明かりを発する石。
       太陽光にあたらない場所で保存する必要がある。
・火石  紅く熱を持つ石。
      水の中に保存しなければ、火を噴き危険。
・時鉱  薄緑色に光る鉱石。
      いまだ多くが謎に包まれた物質。
・紫珀  様々な昆虫の死骸が高温高圧にさらされてできたもの。
      透明な紫色で、猛毒を持つ。

・千年蝉 その名の通り千年生きるらしい。
       ちなみに999年は土の中で暮らしている。
・渦を巻く海牛  渦巻いた体を持つ海牛。
            永続と永遠の象徴で、作用や効果を持続させる。
・腐食虫 金属を腐らせて食べる虫。
       とある森の奥深くに金属片を置き捕まえる。

・冷土  水分中の熱を吸収する粘土のようなもの。
       空気中に放置すると、ゆっくりと排熱する。
・凝固蝋 液体の物質を固体にしたいときに用いる。
       持ち運びしやすくなるため、旅人の錬金術師に重宝される。
・純化溶剤  物質の効力を限定するのに用いる。
         複数の効果を持つ物質でも、一つの効果だけを取り出せる。

451名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 15:35:58 ID:x1F3PxLs0

錬金術一覧

・夢見薬 明晰夢を見ることができる。
・種火  火を点けることができる。
・蛇口  水分を植物から取り出すことができる
・賢者の金属 体内に摂取すれば不老不死の存在になる。


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