(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
456名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:04:02 ID:19kRDolY0












12 ホムンクルスと異質の傭兵

457名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:05:36 ID:19kRDolY0


(;´・ω・`) 「なんだよこれ……」

(; ー ) 「うう……っ」

吐き気を催すほどの死臭が、村全体を包んでいる。

荒れ果てたその場所は、この世の光景とは思えない。

人間の死体が、あちこちに腐ったまま放置され、家屋は好き放題に荒れている。

獣に食い荒らされて人の形状をしていない死体や、
白骨化してしまっているものまであった。

それら全てに共通して言えることは、既に死んでから日数が経過しているということくらいだ。

そして何軒かの家に入ってみて、わかったことがある。
ここには人の生活痕が数カ月から数年分存在しない。

つまり、少なくとも数カ月は人が生きていなかったことになる。

458名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:11:00 ID:19kRDolY0

(;´・ω・`) (それに……)

死臭の中に混じって、錬金術の残滓を肌に感じる。
それも、とても馴染みのある錬金術だ。

この村で行われていた研究は、おそらく不死を目的とした錬金術。
僕を生み出した錬金術師、そして僕と彼女しか知らないはずの秘術。

村の外側を囲むように柵があったのを思い出す。

(;´・ω・`) 「これじゃあまるで……実験場だ」

(; ・ー・) 「どういうことなの……ショボン……?」

(;´・ω・`) 「わからない……ここで何が起きたんだ……」

459名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:16:29 ID:19kRDolY0

僕らは教会のある村を目指していた。
勝手についてきたとはいえ、
やはりモララルドと一緒にセント領主家に近寄るのは避けたかったからだ。

道中で見つけた村はどこも教会を持たず、やっと見つけたのがここだ。
高い教会は遠くからでもよく見えていた。

それなのに……。

その足元にある村は生存者のいない廃村だった。
それも……明らかに人為的な原因がある。

今更ながらに思う。
この地に建つ教会にしては大きすぎる、と。

教会とは人のために造られるものであり、人なくして教会はあり得ない。
故に、教会の大きさは通常、その地域に住まう人々の人数と比例する。


にも拘らず、並ぶ家の向こうに見えるのは、教会というよりも城に近い。

460名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:18:30 ID:19kRDolY0

(;´・ω・`) (どうするべきだ……)

おそらくはあそこで実験が行われていたはずだ。
中に入ればそれなりの情報は得られるかもしれないが、
まだ人がいた場合、モララルドの身に危険が及ぶ。

出来れば中を調べておきたい。
もしセント領主家が実験を行っていたのならば、
その研究内容を知ることができるかもしれないからだ。

仮にそうでなかったとしても、これだけの大規模な殺人は当然騎士教会に報告する必要がある。

(; ・ー・) 「ショボン、あれ何?」

モララルドが小さな音をたてて震えていた樽に近づいていく。
家の隅に置かれたそれは、中から揺さぶられているように見える。

(;´・ω・`) 「おい待て……っ!」

制止をかける前に、倒れた樽からは小型犬が飛び出してきた。
一瞬心が緩むが、すぐに違和感に気づく。

顎は大きく開いており、目に生気がない。
そして、牙と爪は本来の大きさの倍近くもある。

(;´・ω・`) (まずいっ……)

461名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:19:49 ID:19kRDolY0

小さな眼球に映るのは間違いなく"食欲"だ。
一匹と一人の間に入ろうと、体を動かしながら剣を抜く。

(; ・ー・) 「ひっ……」

驚いて動けないモララルドと僕の間には、およそ三歩の距離がある。
獰猛な野犬は既に両の前足をそろえ、とびかかる準備ができていた。

(;´・ω・`) (間に合わない……っ!)

後悔の念が心の底から押し寄せてくる。
やはり連れてくるべきではなかった、と。

凄惨な光景を覚悟し、それでもまだ諦めずに剣を振り上げていた。


飛び上がった野犬は胴体部で両断された。
だけど、それは僕の剣ではなく、家の中から現れた男の刀によるものだ。


(;´・ω・`) 「……ッ!?」

ゆっくりと刀を仕舞い、大笑いする大男がそこにいた。

462名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:22:01 ID:19kRDolY0

〔 !゚ U゚!〕 「かっはっは。危なかったな少年!」
 
身につけている鎧には厚みはあるものの、動きを邪魔しないデザインがなされている。
黒を基調とした色に唐草の文様が書き込まれているそれは、
教会に属する正規の騎士のものではない。

腰に結んでいる武器も、手に持っている武器も、
どちらもこの地方では生産すらされていないものであることから、
正規軍というわけでもなさそうだ。

白髪の混ざる長い頭髪を全て後ろに流し、一本に纏めている。
顎鬚を蓄え、太い腕は年による衰えを感じさせない。

(;´・ω・`) 「どなたですか……?」

警戒を解かず、剣を握ったまま問う。
先ほどの腕を見ても、かなりの実力者なのは間違いない。

〔 !゚ U゚!〕 「何、ただの年寄りだよ。38歳だ、青年」

(´・ω・`) 「……その剣、この辺りの国のものではないですね?
       東洋のものと造形が似ています」

463名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:23:45 ID:19kRDolY0

〔 !゚ U゚!〕 「よく知ってるなぁ。その通り、これは東洋の武器だ」

昔一度だけ、はるか東方へ旅したことがある。
その時に東の果ての国で侍と呼ばれた男達が身に着けていたのとよく似ていた。

(; ・ー・) 「あ、ありがとうございました」

〔 !゚ U゚!〕 「気にするな」

(´・ω・`) 「どうしてこの町に来られたんですか?」

敵ではないことを確認できたため、剣を鞘に納める。

〔 !゚ U゚!〕 「騎士教会からの依頼だ。
        ここいらで怪しげな儀式が行われてるから調べてこいってな」

(´・ω・`) 「騎士教会が? 在籍の騎士はどうしたのですか?」

何か問題が発生した時、騎士教会が武力をもって解決に当たることがある。
小さなところで数十人、大きなところになると数百人は所属していて、
他の人間に解決されることをよしとしていない。

自分たちこそが平和の担い手だと信じている連中が、
誰かに解決を託すとは考えられない。

464名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:25:03 ID:19kRDolY0
〔 !゚ U゚!〕 「ん……それがな……十人が先遣隊として出てから一週間。
        音沙汰がなくてな、様子見も兼ねて俺が選ばれたってわけよ」

(´・ω・`) 「騎士が十人も……ですか……」

〔 !゚ U゚!〕 「そういうこった、お前さんがたも命を無駄にしたくないなら、ここから離れた方がいい」

(; ・ー・) 「どうするの、ショボン?」

(´・ω・`) (…………)

僕一人でモララルドの身を守りながら奥に進むのは難しいな。
だけど、ここでの情報は得ておきたい。

今後役に立つだろうし、モララルドを別の町に預けてくるだけの時間は無い。

465名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:26:41 ID:19kRDolY0

(´・ω・`) 「僕は錬金術師です。
       この村では異様な錬金術が行われているようですから、調べるつもりです。
       騎士教会から解決を依頼されたあなたと共闘できると思いますが……」

ものは試しだ。
無理なら、諦めるほかない。

〔 !゚ U゚!〕 「なんだぁ、青年、錬金術師か。ならまぁ共闘できるだろうな。
        だが、子連れでこの町の異変を解決しに来たのか?
        そんなふざけた錬金術師がいるとはなぁ……」

(;´・ω・`) 「……訳ありなんですよ。
        ですから、危ないと思ったらこちらはすぐにひかせてもらいますよ。
        それまで行動を共にしていただきたいのです」
 
〔 !゚ U゚!〕 「別にかまわない。ただ自分の身は自分で守ってくれよな」

大口を叩くだけのことはあり、この男の腕は相当だ。
一緒に行動していれば安全性もかなり高くなる。

(´・ω・`) 「部屋の中で何をされてたのですか?」

〔 !゚ U゚!〕 「何ってよ、後ろから声が聞こえてくるから、敵かと思って待ち伏せしてた」

466名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:28:24 ID:19kRDolY0

(´・ω・`) 「なるほど……それで今からはどうされる予定ですか?」

〔 !゚ U゚!〕 「正面から教会に向かうまでだ。俺は不器用だからな。
        さっきみたいな獣ぐらいなら怖いものはねぇ」

獣は餓えていれば人を襲う。それは自然の摂理だ。
だが、さっきの獣はいったいなんだ。

鋭い牙も、強靭な爪も、
明らかに常軌を逸している。

本来野生の獣に備わっているものよりも、ずっと殺傷力に優れていた。
まるで、長い年月をかけてより人を襲いやすいように進化したかのように。

無論、そんなことはありえない。
一代で体の構造を変化させる哺乳類なんていないからだ。

(´・ω・`) 「モララルド……僕から離れるなよ」

緩んだ気持ちを引き締めなおす。
ここから先は甘い気持ちで進まないほうがいい。

(; ・ー・) 「うん……」

467名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:29:12 ID:19kRDolY0

〔 !゚ U゚!〕 「それじゃあ行くぜ」

男を先頭にして僕とモララルドが後に続いた。
家の隙間や、散乱したごみ屑に注意を払いつつ教会に向かって進む。

〔 !゚ U゚!〕 「……おい、こいつを見ろ。専門家としてどう思うよ」

指さした先にあったのは、建物の影に倒れていた人間の死体。
その手の甲から掌二つ分ほどの長さのある、黒く鋭利な獣の爪が生えていた。



(;´・ω・`) 「……ここの教会の連中は禁忌を犯したのか」

(; ・ー・) 「禁忌?」

(´・ω・`) 「錬金術は万能であると言われているがゆえに、
       研究してはならないとする分野が存在してる。
       その内の一つは、隠れ里でも言った"対軍錬金術"だ」

悪用される可能性が高いため、分野としての研究を禁じられた。
そしてもう一つが─────

468名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:30:12 ID:19kRDolY0

(´・ω・`) 「人体禁術。人の体に対して錬金術を用いる一形態」

(; ・ー・) 「え? じゃあ、父さんの研究も禁忌だったの?」

(´・ω・`) 「いや……違う。人体禁術は医療錬金術を除いたものだ。
       定義が不明瞭なため、みな避けて通る。
       そのため医療錬金術師は非常に数が少ない」

この二つの研究は、構想や実験が見つかった瞬間に牢獄に繋がれる。
それほど危険な錬金術なのだ。

〔 !゚ U゚!〕 「青年、若いのによく勉強してるな」

実は全く若くないのだが、その説明は不要だろう。
無駄な混乱を引き起こすことは避けたい。

(´・ω・`) 「……接合部が完全に合一している。
       子供の時から体の一部としてあった可能性が高いですね」

〔 !゚ U゚!〕 「っち……。ここは人体実験場ってことか……」

探せばまだまだ異変のある死体が出てくるだろう。

469名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:31:29 ID:19kRDolY0

(´・ω・`) 「少し、死体の状態を調べてみませんか。それだけでも多くのことが分かると思います」

〔 !゚ U゚!〕 「ふむ、確かにそうだろうな。では手分けをして探そうか。
        青年と少年はあちらを、俺はこっちを探してくる」

僕らは二手に分かれて、小道に入る。
倒れている死体に近寄り一つずつ確かめていく。
教会に近づくほど、身体的特徴の変化が明らかになってきていた。

(´・ω・`) 「…………」

どす黒く変色した皮膚の女は、家屋に上半身が埋まっていた。
剣の鞘で叩くと、強い衝撃が腕にかえってくる。

(´・ω・`) 「堅いな……」

おそらく、この剣と僕の力では断てないだろう。
骨格はどうなっているのだろうか。

(´・ω・`) (皮膚だけを硬化したのか、それとも骨の構成も代わっているのか)

なんにせよまともな研究ではないのは確かだ。
この女も、おそらく苦しんだ末に死んだのだろう。

470名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:32:38 ID:19kRDolY0

(; ・ー・) 「ショボン、あれ……」

モララルドが見つけたのは這うように動いている黒い塊。
それが体毛に覆われた人間だと気付くのに少し時間がかかった。

「ゴロ……ジ……テ……」

喉の奥底から声をひねり出しながら、
ゆっくりと、こちらに近づいてくる。

「ッロ……ジ……テ……」

長く伸びすぎた体毛が邪魔で、食事すらまともに行えなかったはずだ。
ずるずると、体よりも重いはずの毛を全身を引きずりながら前に進む。

(´-ω-`) 「今……楽にしてやる……」

腰紐に結び付けた薬品を手に取った。
隠れ里で手に入れたこれは、皮膚から吸収され、数滴で人間を昏睡状態に陥らせる。
数分で効果は切れるが、今はそれだけあれば十分。

471名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:33:47 ID:19kRDolY0

(; ・ー・) 「助けられないの?」

(´-ω-`) 「……無理だ」

全身の体毛が伸びているから、切り落とせばいいという単純な問題ではない。
体組織を根本からいじられなければ、ああいう風にはならない。

壊すのは簡単だが、戻すのは難しい。
だからこそ人体禁術は"禁忌"なのだから。

(´・ω・`) 「摂取した栄養が体毛の成長に使われている。体の中はボロボロのはずだ」

(; ・ー・) 「そんな……」

「アリ……ガ……ト……」

試験管を横にし、液体を上からかける。
震えていたような動きが完全に止まった。

(´・ω・`) 「……せめて寝ている間、安らかに」

優しく、剣を振り下ろした。
赤い血だまりが、じんわりと広がっていく。
この薬の効果は強力だ。痛みもなく、眠っている間に逝けるだろう……。

472名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:35:31 ID:19kRDolY0

(´・ω・`) 「……戻ろう。生きている人間がいたということは、
       実験はまだ行われているかもしれない」

(  ー ) 「うん…………」

合流地点にある瓦礫の上に、男は座って待っていた。
足元には人間だったと思えるものの一部が転がっている。

〔 !゚ U゚!〕 「おお、遅かったな。そっちはどうだった?」

(´・ω・`) 「それなり……ですよ。
       生きた人間を見かけました。研究はつい最近まで続いていた恐れがあります」

〔 !゚ U゚!〕 「そうか……俺も何体か持ってきた。
        こいつらも見てくれ。俺はこういうのはどうも苦手でな。
        できるだけわかりやすい部分を持ってきたつもりだ」

473名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:36:26 ID:19kRDolY0

血管が太く、異常なほどに浮かび上がった右腕。

一度に大量の血液を全身に運ぶことができるようになり、
もし筋肉と骨格が同様に変化していたならば、人間本来の倍程度の力が発揮できるだろう。

それはもはや、人ではなく獣と言った方がいいかもしれない。

それだけではない。

(´・ω・`) (これは……肋骨か?)

緩やかに曲がった一本の骨は牙のようにも見える。
通常の人間のものよりもはるかに太く、軽い。

たたき割られた表面から見ると、中が空洞になっているわけではないことがわかる。

〔 !゚ U゚!〕 「そいつは、俺の刀でも苦労したぜ。欠けるかと思うほどにな」

(´・ω・`) 「これは……太ももですか?」

〔 !゚ U゚!〕 「そうだ。筋繊維の数が普通の人間の比じゃない。
        実際に動いているのを見たわけじゃないが……、相当速いぞ、おそらく」

474名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:37:45 ID:19kRDolY0

人々の肉体は全て異なる方向へ錬金術を用いて"深化"されている。
だけど、今回見つけた死体には一つの共通点がある。

〔 !゚ U゚!〕 「気づいたか……青年? 人の形を失っているものが一つないんだな」

(´・ω・`) 「恐らくですが、人のまま人を超えるそういったことを研究しているんでしょう。
       それならばある程度の賛同者が集まることは理解できます」

(; ・ー・) 「……どうするの、ショボン?」

出来れば、教会に入って中も調べたいところだが……。



〔 !゚ U゚!〕 「……引き際を誤ったな青年」

(;´・ω・`) 「……ッ!」

いつの間にか、僕らを囲うようにローブを着た人影が現れていた。
侍は自らの腰に結んだ内の一本の刃を静かに抜く。

475名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:38:42 ID:19kRDolY0


「動かないでいただきたい。我らは争うために来たのではありません」

〔 !゚ U゚!〕 「そいつはぁ、どうだか。
        そんなに殺気を出されてたら、こちらも対応せざるをえないなぁ」

「騎士教会から派遣されてきた木偶では役に立たなかったのでね……」

ローブの男達は合わせて10人。
走って抜けるのなら一度に4人ほどを相手にするだけで済む。

(´・ω・`) 「一体彼らに何をした」

「別に何もしていませんよ、彼らが少し……弱すぎただけです」

(;´・ω・`) 「……ッ!」

「我らの長きにわたった研究もそろそろ完成へと近づいてきました。
 そのテストをさせていただいただけですよ」

話しながらも突破のタイミングを窺う。

「ああ、それでは少年は預かっておきましょう。怪我をさせてもつまらないですしね」

(;´・ω・`) 「何を……」

476名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:39:55 ID:19kRDolY0

言っているんだ、とは続けられなかった。
そもそも、僕がこの一連の流れに巻き込まれたのは、
最初にモララルドが狙われているのを助けたからだ。

僕がモララルドをここに連れてきた時点で、
彼らの狙いは、研究の成果の試用だけではなくなっている。

「あなたは今の状況を理解していない。
 単に囲まれているだけではないのですよ?」

「ああ、別に人質にする気はありません。
 思う存分戦ってください、その"結果"が知りたいのですから」

(; ・ー・) 「ショボンと離れたくないっ!」

〔 !゚ U゚!〕 「やつらは見たところ錬金術師だろう? 斬るのは簡単だ。
        少年を行かせておけ。護りながらでは戦えんかもしれん」

(;´・ω・`) 「くそっ……すまない、モララルド。少し……離れていろ」

侍の言う通りだ。
護ろうと躍起になって、それでモララルドを傷つけてしまっては意味が無い。

背を押し、囲いの外側へ行くように指示する。
一人の男がモララルドの腕をつかむが、それだけだ。
先程の言葉に嘘はなく、傷つけるつもりはないようで安心する。

477名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:25:08 ID:19kRDolY0

(; ・ー・) 「ショボンッ!」

「うるさい、寝てろ」

(; ー ) 「うっ……」

何かを嗅がされたモララルドは、その場で力なく座り込んだ。

(#´・ω・`) 「モララルドッ!」

「安心しろ、気絶させただけだ」

モララルドは男にもたれるように意識を失っている。
そちらへ近づこうとした一歩は、止めざるを得なかった。

(#´・ω・`) 「!?」

大きな音とともに、一軒の家の壁に穴が開く。
土煙を振り払うように現れたのは、銀色の装束を身にまとった銀髪痩躯の男。

見た目は人間と変わらないが、明らかに錬金術の恩恵を受けている。

両腕には刀身の細い剣が握られている。
レイピアと呼ばれる、刺突攻撃を主とする武器だ。

478名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:26:10 ID:19kRDolY0

〔 !゚ U゚!〕 「ほう……つまりあの段階までは成功してるということか?」

余裕をもった声が前に立つ侍の背中から聞こえる。
まるで観察はこちらの役目だと言わんばかりだ。

(´・ω・`) 「……レイピアなんてまともに武器で受ければ折れます。何かあると思ってください。
       それに、身に付けているのは鎧ではなく、ただの服です。こちらにもご注意を」

〔 !゚ U゚!〕 「なんだ、意外とありきたりの分析しかできんなぁ」

(´・ω・`) 「それだけ普通の見た目だということです」

一歩踏み込みが見えた。
その直後に、侍が刀を振り抜いていた。

(;´・ω・`) 「なっ!?」

相手の動きが全く見えなかった。
十数歩分の距離を一瞬で詰められ、それに対して侍が牽制に刀を振るったのだ。
その行動がなければ、僕の胸に剣が突き刺さっていただろう。

(;´・ω・`) (戦闘能力が無いと思われてるな……)

銀装の男は同じ地点まで戻り、そこで動いていない。
その目は侍を注視している。

479名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:28:26 ID:19kRDolY0

1対1の戦闘でも常に相手の裏をかくように戦って来た。
人間を超えた化け物と正面から相対するのは、僕では役不足だ。

〔 !゚ U゚!〕 「なんだぁ、意外と大したことないな青年」

(;´・ω・`) 「申し訳ないです、僕は錬金術師ですから」

普通の人間よりはずっと動ける自信がある。
だけど肉を切らせて骨を断つ戦いをしてきた僕にとって、
スピードのある相手は天敵のようなものだ。

それも人間の限界を超えるような速さともなれば、なおさら。

〔 !゚ U゚!〕 「それなら、しばらく見とけ」

銀髪の男は力強く一歩を踏みこみ、袈裟懸けに切りおろした。
それを受けることはせず、身を引いて避ける。

「ァガァ……ッ!」

意味不明な言葉とは裏腹に丁寧な突きを胸元に繰り出す。
意識はあるように思えるが、どうだろうか。

敵味方の区別はついているだろうから、その程度の知識は残っている……か。

480名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:30:19 ID:19kRDolY0


二度


三度


両手から繰り出される鋭い突きは、恐ろしく早い。
にもかかわらず、侍は体を揺らすだけで剣先から逃れる。

大型の刀を持つ侍は、それを振るう隙が無いのか、若干押されているように見えた。

「ギィ……」

口の端を歪める、銀髪の男。
それに対して、侍は表情を変えない。

鋭い攻撃を受け流し、弾き、逸らす。

(´・ω・`) (様子見か……?)

敵のレイピアには何の変化も見えない。
ただの剣だったのかと思いかけた時、相手が動きを大きく変えた。

両手の突き攻撃が当たらないと判断したのか、
大きく振り上げ、侍を切りつける。

481名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:31:34 ID:19kRDolY0

侍は確かにその攻撃を避けたはずだ。
それなのに、鎧にいくつもの筋状の傷が入った。

即座に剣の持つ効果を判断する。
金属の一撃であれば、鎧は音を立てる。
それが無かったということは……

(;´・ω・`) 「斬撃が風を巻き込んでます!
        一回の攻撃に約二、三回の斬撃が含まれているはずです!」

〔 !゚ U゚!〕 「おう」

振り下ろしに紛れて、油断を誘うための突きが繰り出された。

「グガァッ……!」

その刀身を侍は指で掴んだ

(;´・ω・`) 「なっ!?」

482名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:32:22 ID:19kRDolY0

〔 !゚ U゚!〕 「ふっ……!」

「グァ……?」

パキン

綺麗な音を立てて、レイピアは真っ二つに折れた。

(;´・ω・`) 「嘘っ!?」

「なに……ッ!」

「ほう……」

観客となっていた集団からすら、感嘆の声が漏れる。

〔 !゚ U゚!〕 「少し期待してたんだがなぁ、人間の……その先。この程度では話にならんな」

そのまま右手一本で刀を振り下ろした。
腕を伸ばしきっていた敵の男に、その刀筋を避ける術はない。
肩口から刃が侵入し、そのまま右脇下へと抜けて行った。

483名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:33:23 ID:19kRDolY0


「ギィァ…………ア゙ア゙ァァ……」


断末魔の叫び声さえ、あげさせることはなかった。
男は真っ赤な血を噴き出し、その場に崩れ落ちる。


「……想像以上だ」

〔 !゚ U゚!〕 「確かに堅く、速い。だが、この程度ではまだ相手にならんな。
        少年を返してもらおうか」

「それはできない相談だな」

「さてまぁ、仕方ありませんな。我らの研究成果が甘かったということです」

(´・ω・`) 「随分と余裕なようだけど、あなたがたをそのまま逃がすとお思いですか?」

人数の上ではこちらが圧倒的に不利だが、
実力の差は先ほど示された。
それに、錬金術師でまともに戦えるやつがいるとは思えない。

484名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:34:31 ID:19kRDolY0


「さてさて、どうしましょうか」

「研究資料の処分は終わっている」

「それでは、御機嫌よう」

10人が一斉に何かを投げつけてきた。
体にあたりそうなものを、剣で弾く。

(;´・ω・`) 「しまっ……!」

その瞬間に猛烈な勢いで白い煙を吐き出し始めた。
一呼吸のうちに視界が真っ白に覆われていく。

〔 !゚ U゚!〕 「動くなっ!!」

直前に気付いたのか、近づいてきた侍の手によって地面にたたきつけられた。
煙が晴れたのは数分後。
その場には四人の男が残っていた。

485名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:35:26 ID:19kRDolY0

それぞれが実験体だったのだろう。
異常に太い腕、鋭い爪、獣のような脚。

体の各部が統一感無く変化している。

(;´・ω・`) 「やられましたね……」

〔 !゚ U゚!〕 「まずはこいつらを片付けてからだ」

「アァー……ア……」

「グギギg……g……」

さっきの個体よりは明らかに知能が低そうに見える。
これが薬による弊害なら、未だ薬を恐れる必要はない……か。

(´・ω・`) 「二人任せてください」

〔 !゚ U゚!〕 「いや、一体だけ任せよう」

(´・ω・`) 「……わかりました」

足の遅そうな一体に目をつけ、そちらに向かう。
その分両腕が発達しているが、僕にはちょうどいい。

486名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:36:17 ID:19kRDolY0

〔 !゚ U゚!〕 「それじゃあ……よろしく頼むよ」

三人も押しつけるのは気がひけたが、先ほどの動きを見ればこのくらい大丈夫なはずだ。
全身がより人間の形に近い先程の銀髪の男の方が、より完成形に近い。
人型を外れているこの四人は実験段階の産物か。

先の男と比べれば、戦力は格段に落ちているだろう。

だからこそ、この四人が逃げるための時間稼ぎに当てられた。

(´・ω・`) 「……かかってきなよ」

人間をやめて、感覚が鋭くなったのか安易に襲ってはこない。
それは正しい判断だろう。


(´・ω・`) 「っと」

頭の真上から振り下ろされた右腕は、地面を砕いた。
数歩下がって避けつつ、敵の状態を観察する。

(´・ω・`) (皮膚は裂け、骨が見えているのに痛みは感じないのか……?)

487名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:37:06 ID:19kRDolY0

試しに剣を振り下ろしてみたが、腕の筋肉に阻まれ浅い傷しかつかなかった。

(´・ω・`) 「狙うなら……頭か……」

もしくは筋肉の薄い足でもいいが、両腕の攻撃を避けるよりは頭の方がいい。

「…………ッ!!!」

必殺の一撃を何度も避ける。
腕や脇腹などに一時的な負傷はするが、戦闘不能にならないように動く。

(´・ω・`) 「ふっ!」

振り下ろした攻撃はやはり腕に防がれた。

(;´・ω・`) (埒が明かない……少しリスクを冒すか……)

両腕の攻撃による衝撃を覚悟し、踏み込んだ。

「…………ァ?」

が、腕が振り下ろされることはなかった。
男の頭が肩から転がり落ちてくる。

〔 !゚ U゚!〕 「危ないなぁ。見ていたんだが、思わず手を出してしまった」

488名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:39:32 ID:19kRDolY0

(´・ω・`) 「どうも……」

男の側には、無残な三つの死体が転がっていた。

一つや二つではない、無数の切り傷。
それが、男の実力を物語っていた。


(;´・ω・`) 「くそ……僕のせいで……モララルドが……」

〔 !゚ U゚!〕 「しっかりしろ、奴らの本拠地のことが教会に残っとるかもしれん。
        さっきの様子を見ても、すぐに何かするようには思えんしな
        今できることをするぞ」

その必要はないだろう。
あのローブは隠れ里を襲い、モララルドを狙った男達と同じもの。
セント領主家がこの件にも関わっているのは明らかだ。

だけど、まだ知りたいことがある。
彼らの研究内容そのものだ。


(´・ω・`) 「ええ、教会に行きましょう」


490名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:41:15 ID:19kRDolY0

残った情報を探すために教会に行く。
"処分した"とは言っていたが、あの不気味な男を倒されることは想像以上だ、とも言っていた。
それならば、逃げるための準備はされてなかったのかもしれない。

それに、情報は資料から得られるものではない。
これだけ大きな教会だということは、それ相応の役割があったはず。

例えば監禁するための牢屋。

例えば実験するための密室。

その一つ一つから小さな手がかりを積み上げていき、
必要な答えを予測することも不可能ではない。

教会まではすぐに着いた。
流石に町中には何の仕掛けも歩起こされていない。

〔 !゚ U゚!〕 「開いてないな」

巨大な金属の扉は、中から閂が下ろされているのだろう。
侍が押しても引いてもビクともしない。

〔 !゚ U゚!〕 「どうするよ、青年。なんなら開くまで蹴り続けてもいいが?」

(´・ω・`) 「いえ、任せてください」

491名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:42:04 ID:19kRDolY0

それでも開けることはできるだろう、と思わせるのがこの人の異常なところだ。
だけどまぁ……もっと賢くあける方法があるなら、それを使わない手はない。

荷物から取り出したのは【 滲み腐液 】を固めたもの。
細い円柱状のそれは、ペンのように白い線を引くことができる。

扉の右端に、人が通れる大きさの白い枠を描く。
地面を一辺として、残りを白い線の三辺とする長方形だ

〔 !゚ U゚!〕 「なんだそれは。錬金術……だよな……? 見たことも聞いたこともねぇ」

(´・ω・`) 「当然ですよ、僕のオリジナルですから」

数分待ち、剣の柄を白い線に重ねて思いっきり削り取った。
白線の表面はバターのように柔らかくなっていて、簡単に抉ることができる。

〔 !゚ U゚!〕 「ほう……」

(´・ω・`) 「このくらいの厚さの鉄板だと五度くらいですね」

その動作を繰り返すこと五回。
予想通り剣の柄は金属の扉を貫通した。

後はその長方形を正面から蹴り飛ばすことで、その部分だけが内側に倒れ込んだ。

492名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:42:54 ID:19kRDolY0

(´・ω・`) 「簡単にいえば金属を食べる虫の成分を用いて、柔らかくしているんです。
        特殊な金属でない場合にはかなり役に立ちます」

〔 !゚ U゚!〕 「ふむ……便利なものだなぁ……」

(´・ω・`) 「行きましょう」

扉にあけた穴を潜り、教会の中に一歩踏み込む。
ステンドグラスを通して差し込む光が、教会内を仄かに照らしていた。

中は吹き抜けになっていて、入口から何列も長椅子が並び、一番奥に教壇がある。
それが一般的な教会の造りだ。

それを想像して中に入った僕らは驚かされた。
長椅子はすべて撤去され、いくつもの柱が二階や三階の位置に部屋を支えていた。

それらは木の枠や階段、橋でつながれている。

〔 !゚ U゚!〕 「まるで迷路だなぁ……こんな複雑なものを良く作ったもんだ」

(´・ω・`) 「必要に応じて作り足して言ったんでしょう。
       探索には手間がかかりそうですね……」

493名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:44:41 ID:19kRDolY0

正面の仮組みされた階段に足をかける。
体重をかけ、強度を確かめた。

(´・ω・`) 「二人程度なら問題なさそうですね、一緒に来ますか?」

〔 !゚ U゚!〕 「勿論だ。拙者は細かい作業には疎いからな。戦いになれば任せてくれ」

二階の高さにある、階段を上ってすぐの部屋は、ただの物置だった。
錬金術で用いるような貴重な素材が、山と積まれている。
一応いくつかの箱をひっくり返してみたが、特に変わったものはない。

扉の無い部屋を出て、隣の正方形の足場に移動する。
ここは壁すらなく、踊り場のような場所だろうか。

(´・ω・`) 「規則性が無さそうに見えますが……。一体何の用途に作られたのでしょう」

〔 !゚ U゚!〕 「下を見ろ、青年。入り口の扉を上から見やすい場所になってる。
        監視と、迎撃かな。ちょっと失礼」

左手を木の床に当てて隅まで歩いてく。
何をしているのか分からず、無言で見守っていた。

494名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:45:33 ID:19kRDolY0

〔 !゚ U゚!〕 「ふむ、すこーし人の気配を感じるな。やっぱり中に誰かいると見る」

(´・ω・`) 「そうですか。捕まえることはできますか?」

〔 !゚ U゚!〕 「やってみないとわからないが、たぶん無理だろうな。
        この狭い足場では満足に力をふるうこともできんし、相手が慣れているなら尚更だ」

この空中にある迷路のような部屋の数々は、一本道で繋がっているわけではない。
今日来たばかりの僕らを出し抜く方法などいくらでもあろう。

それならば、地道に、できるだけ早く、手がかりを探すまでだ。

踊り場からさらに階段をのぼって、上の構造物へ移動する。
三階に当たるこの場所は、教会の内壁まで足場が敷き詰められていた。

ここは地上からは全く見えない。
だからだろうか、錬金術の研究痕が多く残っている。

〔 !゚ U゚!〕 「おい、こいつはぁ……実験体を拘束していた牢じゃないのか、青年」

侍の調べていた場所は、金属の棒で天井まで囲われた空間。
床一面を黒く染めているのはおそらく血痕だ。

495名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:46:25 ID:19kRDolY0

砕かれたガラス製の容器の欠片が無数に散らばっていて、
紙が積み重ねられ、炭になっていた。

(´・ω・`) 「暖かい……先程処分したばかりのようですね」

〔 !゚ U゚!〕 「やはり残っていたか。どうだ、何か見つけられそうか?」

(´・ω・`) 「いえ……燃え残りはほとんど読めません。
       かろうじて人体禁術のデータが読み取れるくらいでしょうか」

最初に研究されていたのは不老不死だった。
どれだけ期間を重ねようとも、一歩も完成には近づかないため、
彼らは目標を変えた。

"死なない"研究から"殺せない"研究へと。

これにはその一部が載っている。

〔 !゚ U゚!〕 「ほとんど読めないが……とんでもないことをしていたのはわかったな」

(´・ω・`) 「ええ……それも、多くの人を犠牲にしたうえに、です」

496名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:47:13 ID:19kRDolY0

個人で人を越えようとするならば、僕は憤ったりはしない。
かつて"血金術"として自らの肉体を変質させた女性がいた。

彼女のように、自分を実験体とし、変化の全てを受け入れているのなら、
わざわざ騎士教会に報告を入れたりすることもない。

一錬金術師として、興味があることを試したいという気持ちはよくわかるからだ。

だが、こいつらは違う。

無関係な人々を無理やり実験台にし、人としての人生を奪って来た。
それだけは許せない。

必死に資料を読んでいると


カタン


と、何かが倒れる音出した。

音のした方向には木箱が積まれているだけで、誰もいない。

497名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:48:01 ID:19kRDolY0

(#´・ω・`) 「……誰だっ!?」

〔 !゚ U゚!〕 「ああ、そんな所にいたんかな」

侍が一つずつ、木箱の蓋を取り外していく。
最後の一つを開けた時、中から銀の刃が突き出された。

勿論、その程度の攻撃が当たるはずもなく、
侍は何事もなく深緑のローブを着た少女を樽から取り出した。

〔 !゚ U゚!〕 「こんな娘が今回の事件の首謀者の一人たぁ、……驚いたな」

(´・ω・`) 「いえ……ただの少女ではなさそうです」

ローブの裾から見える両には、複雑な文様が浮かび上がっていた。
心臓の鼓動と合わさっているのだろうか、脈打つ力の流れを感じる。

「離せよい! 離せったら!」

〔 !゚ U゚!〕 「逃げたらどうなるかわかってるんだろうな?」

そう言って、侍は掴んでいた襟を離した。
今の脅しが効いたのか、少女はそのままへたり込む。

「…………」

498名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:49:03 ID:19kRDolY0

(´・ω・`) 「その腕……錬金術だよね? それもたぶん……医療系で複雑なものだ」

「殺すなら殺せっ! 何も喋らないからな!」

〔 !゚ U゚!〕 「と言ってるが、どうする? 拷問はあまり得意な分野じゃないからな。
        殺してしまうかもしれん」

三本の刀のうち、一番刃が短い刀の柄に手をかける。
柄に巻かれた細紐を解き、静かに抜かれた刀身は、親指ほどの長さしかなかった。

断ち割られたかのように刃は終わっていて、切っ先がない。

「っ……!」

(´・ω・`) 「待ってください」

人を切ることを目的としていないはずの刀なのに、
背筋の凍るような異様な雰囲気が滲み出ていた。

使わせてはまずい、そう思わせるほどに。

〔 !゚ U゚!〕 「別に青年が話を聞き出せるのなら、拙者はどっちでもいいがな」

499名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:50:09 ID:19kRDolY0

(´・ω・`) 「拷問までする必要はないですし……この娘からある程度のことが分かりますから」

「!?」


(´・ω・`) 「ちょっとごめんね」

「離せっ!」

すぐにひきはがされたが、掌で少女の片手を触ることができた。
生きた人間の温もりはそこにはなく、冷たい肉の感触があるだけだ。

ならばやはり、両腕に刻まれた文様は神経接続だろう。

(´・ω・`) 「病気で動かなくなった腕を、錬金術で補助しているようです。
        ……なぜ、セント領主家は人体に関する錬金術師の専門家を集めている?」

「言わないったら!」

(´・ω・`) 「そうか……。この実験の首謀者もセント領主家で間違いないですね」

「……っ! 騙したなっ!」

500名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:50:52 ID:19kRDolY0

簡単なひっかけに気づかないということは、精神面では普通の少女か。
ならば、両腕を治してくれていた術師に付き従っていたと考えるのが妥当だ。

〔 !゚ U゚!〕 「やはりセント領主家かぁ……そろそろ本格的に手を打たんといかんなぁ
        で、その少女はどうする」

(´・ω・`) 「放っておきますよ。彼女には錬金術の知識はなさそうです。
        おそらく、この場所の後片付けに使わされただけでしょう」

〔 !゚ U゚!〕 「捨て駒……か……こんな少女を使うとは……やりきれんな……」

「ッ! ジェイはそんなことしない! 迎えに来てくれるって約束したんだから!」

涙をこぼしながら少女は叫ぶ。
それをきいてやる必要はない。

(´・ω・`) 「上に……行きましょう。ここに隠れていたということは、
       ここから先の資料は残されている可能性があります」

僕は次に向かう場所を意図的に声に出した。
それに反応し、僅かに少女の肩が震える。
上の部屋にはまだ何かありそうだ。


〔 !゚ U゚!〕 「よし、行くか」

501名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:51:47 ID:19kRDolY0


少女をその場に残し、僕らはさらに奥へと階段を上った。
屋根裏のような、天井とのわずかな隙間に、数枚の紙が無造作に置いてある。

中身は手紙だった。


   「    不死の研究をする必要はもうない。
       そちらに医療錬金術の専門家を何人か送った。
       彼らの知識を利用し、人体の強化を研究せよ。
       必要であれば、支援は惜しまない。連絡を密にせよ        JJ  」
    

   「    経過報告を見た。
       研究が進んでいるようで安心している。
       こちらで少々厄介な事件が発生した。
       前々から噂になっていた不死のホムンクルスと接触したようだ。
       さらに騎士教会にも我々の動きが怪しまれつつある。
       例の薬を可能な限り早く完成させろ                  JJ  」


   「    薬の効果を確認させてもらった。
       最低限の使用効果はあるようだが、
       さらに強力なものをより短時間で作れるようにしろ。
       戦争は間近に迫っている。                       JJ  」


三通とも「 JJ 」というサインが文末を飾っていた。
思い浮かぶのは、先ほど少女が口にしたジェイという名の錬金術師。

502名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:52:36 ID:19kRDolY0

が、それではこちらに送られてきた手紙に書かれている意味がわからない。
文面から見ても、この教会ではなくセント領主家の城にいるはずだ。

(´・ω・`) (別人か……?)

〔 !゚ U゚!〕 「青年、これからどうするつもりだ?」

彼らの研究内容の十分な証拠は手に入れた。
後は本拠地に乗り込み、全ての元凶を捕らえてしまいさえすればいい。

(´・ω・`) 「そうですね……一旦、どこかで錬金術の準備をしたいと考えています。
       そのあとに、セント領主家にいる首謀者を狙うつもりです」

〔 !゚ U゚!〕 「……そんな簡単だとは思えないがな。さっき逃げて行った10人の錬金術師、
        人体強化の薬を摂取させられた兵士、純粋な人間の兵力、
        セント領主家は徹底的に襲撃に備えているだろうな」

(´・ω・`) 「わかってますよ……でも、やらなければなりません。
       このままにしておけば、やがて数百人どころではない犠牲が出ます」

もし、セント領主家が他領主に対して戦争を仕掛けたらどうなるか。
この辺りでも有力貴族であるセント領主家の武力は、周辺諸侯を敵に回しても余りある。

さらに、錬金術の力を用いた戦略を展開すれば、瞬く間に戦火は広がるはずだ。

503名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:53:22 ID:19kRDolY0

それに危機感を覚え、遠方の力ある領主達は、錬金術を戦に用いようとするはず。
そうなってしまえば、大陸全土が戦乱に巻き込まれる可能性すら出てくる。
それだけは避けなければならない。

〔 !゚ U゚!〕 「あのなぁ……全部一人で背負い込もうとするなよ、青年。
        拙者だってなぁ、まぁ領地の境界の小競り合いに参加して金を稼いでるが、
        大規模な戦争はもちろん反対だからな。協力できる立場にいるじゃないか」

(´・ω・`) 「この戦いは……圧倒的不利な状況のものです。
       その途中で命を落とすかもしれない。
       無関係のあなたを巻き込むわけにはいきません」

この男がどれだけ斬りあいに強かろうと、
どれほどの力と技術を持っていようと、百の敵、千の武器相手には為す術もない。

一度死ねばそこで終わる人生なのだから。

だけど僕は違う。

諦めさえしなければ、何度でも戦える。
失敗しても犠牲にすらなることはない。

ならば捨て石としては上等じゃないか。

僕が時間を稼ぎ、その間に他の者が万全の準備を持って相対する。

504名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:54:10 ID:19kRDolY0

〔 !゚ U゚!〕 「なぁ、青年。人を信じるのは、そんなに難しいか?
        青年は他人を守ってるつもりかもしれないが、
        そうやって守られただけの人間が強くなれるのか?
        自分が傷つけばそれで終わりだと、本当にそう思っているのか」

(´・ω・`) 「…………」

〔 !゚ U゚!〕 「拙者とは初対面だからなぁ、信じろと言っても難しいだろう。
        だけどな、俺だって戦争は止めたい。
        拙者に協力させてくれよ」

それなりに役に立つぜ、と彼は言った。

僕は人間としてではなくホムンクルスとして生きてきた。
人と共に戦うのではなく、人を守ろうと戦って来た。

それは……間違っていたのか?

わからない。
あの時こうしていたら──その仮定に答えはないからだ。

(´・ω・`) 「わかりました……。僕が一人で戦うと言う理由をお見せします」

505名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:55:06 ID:19kRDolY0

こうでもしなければ、この男は共に戦うことを諦めないだろう。
人と共に戦う、か。

それができるかどうか、僕は考える必要がある。

でも今回は、やはり僕一人でするべきだ。

剣を引き抜き、逆手に持って、左胸部に思いっきり突き刺した。
筋肉を引き裂き、心臓を貫き、背中から刀身が生える。

〔; !゚ U゚!〕 「なっ!?」

(;´-ω・`) 「ゴフッ……これが……理由……です……」

力任せに引き抜いた。
飛び散る鮮血は、音を立てて床を汚す。

(;´-ω・`) 「……僕は……不死のホムンクルスです。
        死ぬことがないのですから、今回の役にうってつけというわけです」

話し終わるころには、傷は完全にふさがっている。

〔 !゚ U゚!〕 「……ほう……さすがに驚いたぞ、青年。噂には聞いたことがあったが、実在したとはな。
        確かに、青年にとってそこらの人間は命を持っているだけで邪魔だと言うのは理解した。
        だが…………」

506名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:55:47 ID:19kRDolY0

侍は、最も短い刀を再び鞘から取り出した。
刀身の無いそれは、やはり不気味な様相を呈している。

〔 !゚ U゚!〕 「っふ」

僕の腕に向かって刀が振り下ろされた。
刃物が通る感覚こそなかったが、一瞬後に僕は斬られたことを知った。

(#´ ω `) 「ッ!? あああああっ!!」

〔 !゚ U゚!〕 「痛みは感じるではないか。人が死ぬほどの痛みを受けても、死ぬことはない。
        それは……とても辛いと……拙者はそう思う」

(´ ω `) 「……ッ……ァ……ハッ……」

痛みは、実際に斬られた時と同じようにすぐにひいていった。
感覚は元通りになり、思った通りに指先は動く。

〔 !゚ U゚!〕 「……拙者も共に戦う理由を提示しよう。
        遥か東の地から父母に連れられてこの地に参った。
        心衛門、武士でござる。こちらではハートクラフトと名乗っているが。
        旅の地で知った錬金術を礎に、自らの刀剣に工夫を施している」

507名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:56:30 ID:19kRDolY0

(;´・ω・`) 「では、あなたが、異国の刀鍛冶……今のは……」

〔 !゚ U゚!〕 「知っていたか、青年。
        鍛冶錬金術の担い手をさせてもらっている。
        先程の武器は拙者の最高傑作である三本の内一本」

〔 !゚ U゚!〕 「”夢現”。
        人を傷つけずして、痛みを与える刀だ。
        これで切られれば、たいていの人間は二、三日動けない。
        ホムンクルスには、やはり大して効果はないか」

太刀筋が無いがゆえに、防ぐこともできない必殺の刃。
自身も受けることができないから、相当の遣い手でなければ使えないはずだ。

およそ数十年前辺りから現れ始めた鍛冶錬金術。
特殊な技能ゆえ、担い手は医療錬金術同様、非常に少ない。

これほどまでに恐ろしいものができるのか。

〔 !゚ U゚!〕  「どうだ、これでもまだついてくるなと言うか?」

(´・ω・`) 「……わかりました」

侍の実力は僕が思っていたよりもさらに数段上だった。
自分の命を自分で守れる実力は持っている。
これでもう、断る理由はない。

508名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:57:10 ID:19kRDolY0

(´-ω-`) 「協力をお願いします」

〔 !゚ U゚!〕 「最初からそう言っていれば話は早かったのになぁ。
        拙者の工房がある場所へ行こうか。
        セント領主家の本拠地、セントショルジアト城に近づくことにもなるしな」

それならば是非もない。
書庫番やモララルドのことも気になるし、早めに行動するに越したことはない。

(´・ω・`) 「では、案内をお願いします」

〔 !゚ U゚!〕 「かっはっは! いい顔になった! さあ行こう、拙者の工房へ。
        おっと、青年の名前を聞いていなかったな」

(´・ω・`) 「僕はショボンと言います」



〔 !゚ U゚!〕 「改めて、よろしくだな、ショボン」

509名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:58:07 ID:19kRDolY0











12 ホムンクルスと異質の傭兵  End

510名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:59:25 ID:19kRDolY0


【時系列】

ホムンクルス生誕
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです   
8 ホムンクルスと少女のようです
   ↑
   |
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   │
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   │
3 ホムンクルスは抗うようです
   │
4 ホムンクルスは救うようです
   │
5 ホムンクルスは治すようです
   │
9 ホムンクルスは迷うようです
    |
10 ホムンクルスと動乱の徴候
    |
11 ホムンクルスと幽居の聚落

511名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 23:05:13 ID:19kRDolY0

【錬金術派生】


古代錬金術
 |
 ├────────────┐
 |                  │
近代西洋錬金術     近代東洋錬金術
   │  
   ├ 対軍錬金術 
   │
   ├ 鍛冶錬金術 
   │
   ├ 医療錬金術
   │   │
   |   ├ 人体禁術
   │
   ├


【素材一覧】


・月光草 月明かりの下に生える黄色い花を咲かせる草。
       解毒や気つけなど様々な用途に用いられる。
・兎草  二本の葉が兎の耳のように地面から生えている草。
       多様な地域で群生しており、生命力は非常に強い。
・星藻  水の中に生息する藻の一種。
       常に光を発している。
・夢宿り木  強力な睡眠作用を持つ宿り木。
         宿主の一切の成長を止めてしまうため名付けられた。
・夢宿り木の白液果  夢宿り木の成分の中でも、最も強力なのがこれ。
               皮膚からすら体内に侵入する。
・活力草 食べると力漲る草。
       人だけではなく、素材の効力を強めたりするのにも使われる。

・月光石 月明かりを発する石。
       太陽光にあたらない場所で保存する必要がある。
・火石  紅く熱を持つ石。
      水の中に保存しなければ、火を噴き危険。
・時鉱  薄緑色に光る鉱石。
      いまだ多くが謎に包まれた物質。
・紫珀  様々な昆虫の死骸が高温高圧にさらされてできたもの。
      透明な紫色で、猛毒を持つ。

・千年蝉 その名の通り千年生きるらしい。
       ちなみに999年は土の中で暮らしている。
・渦を巻く海牛  渦巻いた体を持つ海牛。
            永続と永遠の象徴で、作用や効果を持続させる。
・腐食虫 金属を腐らせて食べる虫。
       とある森の奥深くに金属片を置き捕まえる。

・冷土  水分中の熱を吸収する粘土のようなもの。
       空気中に放置すると、ゆっくりと排熱する。
・凝固蝋 液体の物質を固体にしたいときに用いる。
       持ち運びしやすくなるため、旅人の錬金術師に重宝される。
・純化溶剤  物質の効力を限定するのに用いる。
         複数の効果を持つ物質でも、一つの効果だけを取り出せる。


【錬金術一覧】

・夢見薬 明晰夢を見ることができる。
・種火  火を点けることができる。
・蛇口  水分を植物から取り出すことができる
・賢者の金属 体内に摂取すれば不老不死の存在になる。


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