(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
- 147 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/03/21(土) 22:16:01 ID:vmHhj3yw0
21 ホムンクルスと戦争の終結
- 148 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 22:18:13 ID:vmHhj3yw0
(; ^ω^) 「……すげー威力だお」
(;´・ω・`) 「ここまでとは……」
白壁は粉々に砕け散り、二度と元の形に戻ることはなかった。
振り下ろされた斧槍は大地を激しく穿ち、巨大な裂傷を創り出す。
割れ目の底に見えるのは白い球体。
三度目の挑戦でようやく本体の破壊に成功した。
半分に割られて、中から真っ赤な液体が零れ出てきている。
空気に触れた赤い液体はゆっくりと蒸発していく。
セントショルジアト城を孤立させるようにあった白壁は、核を破壊されて溶けて消えた。
これで僕らを遮るものはなにもないはずだ。
川;゚ -゚) 「ただ素材を用意するだけ、か。古代錬金術の恐ろしいところだな」
( ´_ゝ`) 「もっと褒めてくれて構わない」
胸を張る小さな生き物。
アニジャと呼ばれている古代錬金術の≪番人≫
- 149 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 22:21:18 ID:vmHhj3yw0
(´<_` ) 「だからこそ、我らがいるということだ。
≪濫觴の双珠≫も我々無しではこれ程の効果を得られないであろう」
(´・ω・`) 「結局、どういう理屈なんだい?」
ハートクラフトのものであった研究室にたどり着いた僕らが行ったのは、
出来るだけ多くの錬金術素材を集めてくること。
十八日の期間で、海に山に僕らは足を運んだ。
それぞれが素材を集めて持ち寄り、兄弟に指定された粉末状へと錬成していく。
さらに十日以上が経過し、千以上の種類が揃えられた。
生物、植物、菌類、鉱石……。
近場で採取できるものは大凡揃えてしまったのではないかと思う。
(´<_` ) 「クールの持っている≪成形銀≫を釜で十分に熱して、
その中に必要な効能を生み出すために素材を投入する。
錬金術の理屈そのものであろう?」
- 150 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 22:24:13 ID:vmHhj3yw0
( ^ω^) 「そりゃあ……」
川 ゚ -゚) 「自動錬金術、ということだろうな。私も実際に行うのは初めてだったが……」
( ´_ゝ`) 「世界を焼き尽くすだとか、死人をを生き返らせるだとかは、流石な俺らをもってしても不可能だ」
(´<_` ) 「無論、ホムンクルスを生み出すこともな」
(;´・ω・`)(; ^ω^) 「!?」
弟は気づいていたのか。
僕らが人間ではないということに。
(´<_` ) 「何、アニジャを持っていたのだから、それを知っているというのは当たり前だろう?」
川 ゚ -゚) 「それを知ってもなお、協力してくれるのだな」
(´<_` ) 「我らの存在意義が御三方の目的と外れない、ということだ」
今回は、と弟の方が付け加えた。
それは例えばこの巨大な力を用いて僕らが暴走したとすれば、協力はしないということ。
それどころか敵にまわることだって有り得るだろう。
- 151 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 22:25:11 ID:vmHhj3yw0
(´<_` ) 「ゆっくり話している暇はないのではないか?」
(´・ω・`) 「そうだな」
僕らは遊びに来たわけではない。後ろに並び立つは数千の部隊。
戦争を終わらせに来たのだ。
その手段が戦争であることは、僕の失敗だけど……今はそれを隅にとどめておこう。
(´・ω・`) 「行く手を阻む壁は失われた!! 皆、明日のために進め!」
先頭を進むのは三人の不死者。
僕は斧槍≪エスタルート≫(アニジャの命名である)を担ぎ、腰には何の変哲もない剣を下げている。
ブーンとクールはそれぞれ、朱天と荊姫を借りてきた。
( ^ω^) 「さて、どう出てくるかお」
川 ゚ -゚) 「セント領主家にもはや普通の人間はいない。
正面衝突になるほどの戦力はないと思うが……」
- 152 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 22:28:13 ID:vmHhj3yw0
(´・ω・`) 「うん。昨晩話した通りに侵攻しよう」
( ^ω^) 「それじゃあ、ショボンは正面でクナド・オラト兵を。
僕は天嵐傭兵団と左を、クールは教会騎士と右を」
密集していた軍隊は、それぞれの指揮に従いゆっくりと拡がっていく。
訓練された兵たちの動きは所属が異なることを意に介さない。
空から見ることが出来れば、さぞ美しいことだろう。
と、何気なく空を見上げた時、塊がこちらに向かってきていることに気付いた。
(;´・ω・`) 「なんだ……あれは……」
形は歪、飛ぶ様は危うく、ふらふらと風に流されている。
だが、これほどまでに巨大な生物が空を飛ぶことができるのだろうか。
不揃いな牙、黒ずんだ皮膚、蛇の体に翼が背から生えたその姿は、空想の生物を想起させる。
物語で誰もが一度は耳にしたことが有るであろう
────竜という化け物を。
- 153 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 22:29:45 ID:vmHhj3yw0
兵たちの顔が恐怖に染まっていくのを止めることはできない。
死ぬことのない僕らでさえ、その存在感に圧倒されてしまっていた。
( ´_ゝ`) 「おーすげぇな」
(´<_` ) 「彼女の恐れていたことが起き始めている、か」
兄弟だけが、状況を冷静に判断している。
それを見て僕は落ち着きを取り戻す。
空を滑るように、僕らの前に着地した。
舞い上がる砂埃は少なく、腹に響く音は思っていたよりも小さい。
(´・ω・`) (確かめてみるか)
先頭を切って駆けだした時、同時に両翼の二人が動いた。
一番近い場所にいた僕が最初に、その足元にたどり着く。
(#´・ω・`) 「おおおおおおっ!」
巨大な刃を振り回し、その皮膚に突き立てた。
- 154 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 22:32:12 ID:vmHhj3yw0
(;´・ω・`) 「!」
想定していたような手ごたえはなく、ただバターを切り落とすかのように刃が抜ける。
蛇のような表皮を二つに割き、その首を真っ二つに断ち割った。
斧槍の持つ錬金術が発現した形跡は……ない。
首を落とされた竜もどきは、そのまま再生することもなく動かなくなった。
斧槍に錬成された効能は"接地面に力を浸透"させ"砕き割る"という特性の強化。
その力でもって白壁とその核を破壊することができた。
敵に対し錬金術が発動する間もなかったのは、ただ斧槍の刃の鋭さに蛇が耐えられなかっただけだ。
それほどまでに脆く、弱々しい化け物。
失敗作、なのだろうか。
川;゚ -゚) 「ショボン!」
駆け寄ってきたクールは竜の死体に荊姫を振り下ろした。
刃が引っ掛かった風もなく、血液が噴き出す箇所が増えただけだ。
( ^ω^) 「もう死んでるお……」
川 ゚ -゚) 「念の為だ」
- 155 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 22:33:47 ID:vmHhj3yw0
(´・ω・`) 「どうするべきだと思う?」
この竜もどきの襲来でわかったことがいくつかある。
錬金術による生体改造された化け物と、今後も戦わなければならない可能性が高くなったということだ。
その成果がこの竜もどき程度であるならば、恐れるに足らないが。
( ^ω^) 「今みたいなのが出てくれば士気にかかわるお」
川 ゚ -゚) 「とは言っても、進むしかないだろう。
それとも、この場で待機させておいて私たちだけで行くか?」
(´・ω・`) 「いや、彼らもこの数年で錬金生物との戦っているのだろう?
充分な戦力になると思う。なんにせよ、この場で足を止めてしまう方がよくない」
それこそ全体の士気に影響が出る。
立ち止まっていた隊列に再び声をかけた。
多くの兵士たちは今も恐怖の表情を浮かべている。
だが愚痴を言う者も、逃げ去る者も一人もいなかった。
セントショルジアト城は平野を超えた先にある。
白壁を突破した今、そこまで遮るものは何一つない。
川 ゚ -゚) 「ここまで見通しが良いのに……不気味な静けさだな」
- 156 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 22:35:49 ID:vmHhj3yw0
セントショルジアト城からこちらの状況が見えていないわけはない。
それでも進軍を妨害されないのは、もう諦めているからだろうか。
それとも……。
・ ・ ・ ・ ・ ・
城を包囲して一時間が経過する頃だろうか。
夕日が空を染めていく中、紅く照らされた城からの反応はない。
軍勢で城の中に攻め入るわけにもいかず、
各集団の代表数人に指揮を任せ僕らホムンクルス三人が城に乗り込むことに決めた。
川 ゚ -゚) 「前と同じことにならないようにしなければな」
(; ^ω^) 「耳が痛いお……」
(;´・ω・`) 「面目ない……」
- 157 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 22:38:41 ID:vmHhj3yw0
川 ゚ -゚) 「で、どこが玉座の間だ?」
門は押すだけで簡単に空き、中には何の罠も仕掛けられてなかった。
エントランスの造りは二十年前と全く変わらず、
ただ古びた絨毯や埃をかぶった置物だけが、漠然と時代の流れを感じさせる。
出迎えはなく、人の気配すら感じられない。
(´・ω・`) 「正面階段を上っていけばすぐだ」
三階まで上がった先にある天井まで届きそうなほど重厚な扉は、侵入者を拒むかのように鈍色に光る。
その先にあるのは、かつて王の為に造られた部屋。
(´・ω・`) (モララルド……)
両開きの扉を僕とブーンで強く押し、ゆっくりと開いていく。
鋼が軋む嫌な音が城内に響き渡る。
人が集まってくる様子はない。
面影はあった。
一番奥には巨大な窓と、砕けたバルコニー。
古びた椅子は、部屋の中心に相変わらず位置していた。
- 158 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 22:39:29 ID:vmHhj3yw0
だが、それよりも変わっていたことの方が随分と多い。
所狭しと机が並べられ、そのどれも複雑な実験器具が占拠していた。
火で炙られ煙を出している鉱石、水に沈められ溶かされている薬剤。
虫のような何かが蠢いている瓶、毒々しい紫色の液体。
僕ですら見たこともない器具もいくつかある。
隣にいるブーンも驚いているくらいだから、相当に珍しい物だろう。
机の間、白衣を着た男が一人。
痩せているのは研究室に篭っているからだろうか。
ゆっくりと振り向いた時、やっと男はこちらに気付いたのか、
緩慢な動きで机の間を抜けてきた。
「久しぶり、ショボン」
正面に立った男。
髪は好き放題に散らばっていて、無精ひげを生やし、爪も手入れをしていない。
だが、瞳に微かに子供のころの面影が残っていた。
(´・ω・`) 「モララルド……なのか……?」
- 159 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 22:45:33 ID:vmHhj3yw0
( ・∀・) 「そうだよ」
( ^ω^) 「無事でよかったお」
ブーンはかつて少年を一人、置いてきてしまったことに罪悪感を感じていたのだろう。
武器をしまい、すばやく駆け寄る。
彼の熱い抱擁をよけようとはせず、モララルドは流れに身を任せていた。
二十代の若者が三十過ぎた大人を振り回しているのは些か滑稽だな。
一方でクールは今も武器を構えたまま。
モララルドとは面識があるなしにかかわらず、
この状況でブーンのように警戒を解いてしまうことの方が問題だ。
僕もかつての少年の真意を測りかねていた。
( ・∀・) 「元気なようだね、二人とも」
(´・ω・`) 「ああ、モララルドは随分と大人になった」
( ・∀・) 「あれから二十年ほど経っているから、それも当然。
ショボンはやっぱり変わらないね。
そして初めまして、クルラシアのおねーさん」
- 160 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 22:47:33 ID:vmHhj3yw0
川 ゚ -゚) 「ああ……」
話しかけられたクールは合間に返事をする。
存在を知られていることに驚きはないようだ。
二十年、モララルドは何を思って過ごしてきたのか。
(;´-ω-`) 「っ……」
過去の少年の眼に映った絶望が頭をよぎる。
この膨大な実験の目的は一体何なのか。
僕たちはそれを聞かなければならない。
(´・ω・`) 「モララルド……この部屋で何をしている?」
( ・∀・) 「不老不死の研究」
(; ^ω^) 「!? それは駄目だお、モララルド」
( ・∀・) 「自らを不老不死としながら、他の人間がそうなるのは否定するのか?」
(; ^ω^) 「僕は……」
- 161 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 22:48:29 ID:vmHhj3yw0
ブーンは言葉の続きを口に出さなかった。
モララルドを否定することは、すなわち僕を否定することだと即座に気付いたからだ。
だが、それを知ってもなお続けることが出来る者がこの場所にはいた。
自らが不老不死であるが故に、最もその苦しみを理解している彼女だからこそ、
モララルドに問いかける。
川 ゚ -゚) 「不老不死を求めてなんになる?」
( ・∀・) 「錬金術の研究をするためには、人間の一生はあまりにも短い」
その質問には答えず、モララルドは独り語る。
( ・∀・) 「無限の可能性が存在していながら、
僕ら人間が触れることができるのはその表層の極々一部分にすぎない。
一言でいうと、何も知らずに死ぬのが惜しい。
全てを知りたい。ショボン、あなたのように」
(´・ω・`) 「全てを知っているなんてことはない。
何百年経っても新鮮なことばかりだ。
その知識欲には終わりがない……それを解っているのか?」
- 162 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 22:59:27 ID:vmHhj3yw0
( ・∀・) 「寿命さえあれば、そのすべてが錬金術で補完可能だと考えている」
何の前兆もなく、唐突に机にあったガラスの容器が粉々に吹き飛んだ。
零れ出た液体は机を溶かし、床を黒く染めていく。
それを一瞥すると、モララルドは小さく溜息をついた。
( ・∀・) 「ふー……っ。
また失敗か。いや、もう自分で実験する必要はない。
教えてくれ、ショボン。ホムンクルスの錬金術を」
(´・ω・`) 「断る、といったら?」
( ・∀・) 「人質が大変な目に会うだろうね」
モララルドの指さした先にある鏡は、外に残してきた兵士達を上空から映していた。
先程の竜もどきのような大きさの生物が三体。
彼らを取り囲むように現れている。
黒光りする巨大な鋏を複数もった蠍。
白く小柄だが鋭利な爪牙を備えた狼。
複数の動物の特徴が混ざり合った不可解な生物。
- 163 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 23:00:13 ID:vmHhj3yw0
川 ゚ -゚) 「ショボン」
(;´・ω・`) 「わかっている」
鏡に映っているのが幻覚という可能性もある。
理論はわからないが、錬金術であることは間違いない。
それなら、実際に確認すればいいだけだ。僕らがここにとどまっている理由はない。
引き返そうとした僕らに、後ろから声がかけられた。
( ・∀・) 「現実さ。疑わなくてもいい」
(´・ω・`) 「それを確かめに行くだけだ」
( -∀-) 「無駄な手間を省いてあげただけなのに」
玉座の間を出て、そのまま三階廊下を進む。
割れたステンドグラスのところからであれば、外の様子は十分に窺える。
(; ^ω^) 「まじかお……」
モララルドの言葉に偽りはなかった。
鏡に映されていたのと全く同じ状況が、城の前で待つ兵士達を囲んでいた。
- 164 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 23:01:47 ID:vmHhj3yw0
( ・∀・) 「だから言ったでしょ。
さ、不老不死、教えてくれる気になった?」
川 ゚ -゚) 「あれは何だ」
( ・∀・) 「前王の置き土産さ。動物の強制的な合成錬金術。強化兵士研究の副産物。
もっとも、完成させたのは僕だけれどね」
(´・ω・`) 「それじゃあ、セント領主家の生態系がおかしくなっているのは」
( ・∀・) 「僕のせいだね。失敗作は全部野に放ったから」
川 ゚ -゚) 「なんだ、つまりこいつを殺せば、全て終わるじゃないか」
クールは荊姫を抜く。
毒々しい刀身がモララルドに向けられる。
(;´・ω・`) 「待て待て待て」
川 ゚ -゚) 「何を待つというんだ」
(´・ω・`) 「あの三体がモララルドに操られているのだとすれば、ここで殺してしまってはまずい」
( ^ω^) 「クール、結論は急がなくてもいいはずだお」
- 166 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 23:07:36 ID:vmHhj3yw0
川 ゚ -゚) 「二人とも甘い。こいつが元凶なのは明らかだ。
昔の知り合いだからと言って見逃せと?」
( ・∀・) 「落ち着いてよ。僕は不老不死になりたいだけだ。
敵対するつもりはないし、人類に害するつもりもない」
川 ゚ -゚) 「信じろと? 到底無理な話だ」
切っ先から零れた滴が絨毯を溶かす。
焦げた臭いが鼻をつく。
川 ゚ -゚) 「教えるのか? 禁術を」
(´-ω-`) 「……いや、教えるつもりはないさ」
( ・∀・) 「残念だな、人を殺すつもりはなかったのに」
ゆっくりと片手を上げるモララルド。
その手の中には、青い宝石片。
- 167 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 23:13:04 ID:vmHhj3yw0
(#^ω^) 「やめるお!!」
( ・∀・) 「もう遅い」
静かに宝石片は砕け粉末が足元に散らばった。
城門の前からは金属音と叫びと悲鳴が入り乱れて聞こえてくる。
三体の化け物と兵士たちの交戦が始まった。
(;´・ω・`) 「っ! ブーン!」
(#^ω^) 「わかってるお!」
声をかけた時には、ブーンは既に窓ガラスを破って飛び降りていた。
三階の高さから落ちれば無事ではないだろうが、その程度の傷なら即座に治る。
そちらに気を取られていて、僕はもう一人の動きを完全に見逃していた。
- 168 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 23:15:54 ID:vmHhj3yw0
川 ゚ -゚) 「これで終わりだよ」
気づいた時には遅かった。
振り下ろされた荊姫からは赤黒い血が滴る。
跪き、荒い息をするモララルドが肩口を抑えながら苦しそうに笑った。
(;´・ω・`) 「モララルドっ!」
(メ・∀・) 「ここまで……容赦ないと……は思わ……なかったよ。
くそー……あと少しだっ……たのになぁ」
(#´・ω・`) 「喋るな、毒消しすればまだ助かる!」
川 ゚ -゚) 「助けてどうする? 同じことを繰り返すのか?」
(;´・ω・`) 「だけど……」
川 ゚ -゚) 「まぁいい、好きにしろ。戦って死んだ者達に顔向けできるなら、な。
私も下に向かう。こうしている間にも犠牲は増え続けるから」
ブーンの後を追うように割れた窓から一階へ飛び降りた。
後に残されたのは僕ら二人だけ。
- 169 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 23:18:03 ID:vmHhj3yw0
呻きながら苦痛に顔を歪めるモララルド。
顔色が良くないのは出血のせいだけではない。
こうしている間にも荊姫に仕込まれている毒物が全身に回っているはずだ。
(メ-∀・) 「短い人生……だった……」
クールとブーンはもうこの場にいない。
二人とも下で未知の生物と戦っている仲間を助けに向かった。
僕だけが、この場所から動けないでいた。
クールの行為は大局的に見れば正しい。
唯一、モララルドが嘘をついている場合を覗いて。
(;´・ω・`) 「それは……」
胸の傷跡から垣間見えた朱色の異物。
人の躰には存在するはずのないもの。
荊姫により汚染されているのか、赤黒く変色していている。
(メ-∀-) 「あいつは……地下にいる。
助けてやって……くれねぇか……?」
- 171 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 23:26:02 ID:vmHhj3yw0
(;´・ω・`) 「何を……」
(メ-∀-) 「頼んだ……」
モララルドはそれ以上言葉を発することはなかった。
何故彼が死の間際に頼みごとをしたのかはわからない。
黙っていてもどうせ知られると思ったのか、それとも自分自身を助けたかったのか。
これから戦いに行くためにも、混乱する頭の中を無理やり整理しておかなければならない。
地下にいるのは、おそらく……。
すぐにでも探しに行きたい気持ちを押さえつける。
彼を助けに行くのはこの戦闘が終わった後だ。
(´-ω-`) 「ブーン、クール、待たせた!」
(メ^ω^) 「やっと来たかお、早く向こうを助けてやってくれお」
戦場を見回し、状況判断を一瞬で行う。
ブーンが対していたのは巨大な蠍。
その甲殻のせいで朱天の刃が通らず、また傭兵団の武器も致命的な傷を与えていないように見えた。
- 172 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 23:32:12 ID:vmHhj3yw0
吹き飛んだのは兜だけだったことに安心するが、それも束の間のこと。
肩口で切りそろえられた黒髪、その後姿には見覚えがあった。
全力で駆けつけ、肩で息をしながら化け物の前に立つ。
満身創痍の彼女は、その場で腰を落としてしまう。
無理もない。
目の前にいるのは化け物なのだから。
むしろ数分持ちこたえたことすら奇跡だ。
(´-ω-`) 「すまない、戦わせてしまって」
(;゚ー゚) 「来てくれて助かりました……」
エスタルートの代わりに朱天を構え、背中にしぃを庇う。
「あ……が……が……」
- 173 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 23:34:32 ID:vmHhj3yw0
(;´・ω・`) 「なんだ?」
膨れていた肉が収縮していき、四足歩行の獣と人間を足したかのような姿を変える。
その顔には、見覚えがあった。
後ろでしぃもそれに気づいたのか、小さな悲鳴を漏らす。
( !pⅡ〕 「じょ……ぼ……」
(;゚ー゚) 「っ!」
(;´・ω・`) 「っ!」
偽物のモララルドの手によるものなのだろうか。
今はもう確かめる術はない。
肉塊の中から溢れるように現れたそれは確かに、ハートクラフトの顔だった。
・ ・ ・ ・ ・ ・
- 174 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 23:38:18 ID:vmHhj3yw0
(;´・ω・`) 「とまれっ! ハートクラフトっ! っそ!」
人間台の大きさになったこともあり、化け物の動きが格段に早くなった。
両手と一体化した鎌のような鈍器が振り回される。
避け、弾き、受け、立ち回りながら声をかけているが、反応はない。
( !pⅡ〕 「じょぼ……ぼ……」
(*;ー;) 「お師匠様!! 」
しぃの声に反応したのか、座り込む彼女に襲い掛かろうとする。
それを遮り、朱天で切り付けた傷はすぐに再生した。
(´<_` ) 「ショボン、これ以上犠牲が出る前に止めろ」
(#´・ω・`) 「くそっ……」
殺すしかない。
そんなことはわかっていた。
錬金術で肉体や精神に無理やり干渉したのだ。
あちこちボロボロで、到底もとに戻すことなどできはしない。
( !pⅡ〕 「ぐぅぅ……」
(´-ω-`) 「悪い……ハートクラフト……」
- 176 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 23:46:49 ID:vmHhj3yw0
頭部を狙って振り下ろした朱天は、二つを分かった。
吹き出る血液は大地を濡らし、草花を枯らしていく。
(*;ー;) 「そんな……お師匠様……」
泣き崩れるしぃ。
どうにもできなかったとは言え、とどめを刺した僕が声をかける事は憚られた。
(´-ω-`) 「ブーンとクールを助けに行かなきゃ……」
(; ´_ゝ`) 「ショボン!!」
(*;ー;) 「ぁっ…………」
視界が回転し、暗転した。
たった一瞬の隙で断ち切られた数秒の意識。
気づいた時には、獣だった大男が、しぃの首を掴んでいた。
(* ー ) 「が……ぁ……」
- 177 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 23:49:51 ID:vmHhj3yw0
(;´・ω・`) 「やめろっ!!」
騒がしいはずの戦場で、その音ははっきりと聞こえた。
重たい命を奪われるには、あまりに軽い音。
(; ´_ゝ`) 「おいおい……」
(#´・ω・`) 「何があった、兄弟」
(´<_` ) 「ショボンが回復するまで、といってもたった数秒だが、彼女が化け物に立ち向かった。
一瞬だったよ。化け物が人の形をとり、彼女が油断して捕まるまで」
( !pⅡ〕 「………………」
男はしぃの落とした剣を拾う。
確かめるように二、三度振るい奇怪な笑みを顔に浮かべた。
その体には、確かに剣がしっくりくるだろうな。
- 178 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 23:52:13 ID:vmHhj3yw0
(#´・ω・`) 「頭を落としてもダメなら、再生できなくなるまで細かくしてやる」
(´<_` ) 「怒りで自分を見失うなよ」
(´・ω・`) 「……わかってるさ」
一気に距離を詰め、朱天を振り下ろした。
がき、という音と共に紅い軌跡は易々と防がれた。
一度剣を引き、再び打ち込むも鋼の鳴る甲高い音が響く。
( !pⅡ〕 「ぐぐぐ……ぎぃ」
辛うじて認識できたのは、真横に薙ぎ払われた一撃だけ。
膝が崩れ落ちて初めて、身体中が傷だらけであることに気付いた。
(; ´_ゝ`) 「ショボン!?」
(´<_` ;) 「ただの化け物ではないということか……」
(;´・ω・`) 「心配するな、止めてみせる」
- 179 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 23:54:30 ID:vmHhj3yw0
ほんの数秒で傷口は完全回復する。
それを不可解に思うことすらなく、化け物となった男は再度刀を構える。
(´・ω・`) (人の形を模している以上、朱天が効いてくるはずだ)
( !pⅡ〕 「っ!」
喉を狙って突き出した刃は、かすり傷程度。
反撃は数倍の痛みになってかえってくる。
(´-ω・`) 「はっ……」
いくらハートクラフトの体を使っていようと、
その技術まで完璧に再現できるわけではない。
現に、彼ならば物ともしなかったであろう攻撃は確実に肉をそぎ、骨を断つ。
( メ!-Ⅱ〕 「ぎぎ……ぎ……」
もう何度切り結んだだろうか。二桁を超えてから数えるのもやめてしまった。
切り落とされた腕の再生を終え、振り向けば両手を地面につけた化け物がいた。
心なしか、苦しんでいるようにも見える。
(´-ω-`) 「終わりだ」
- 180 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/21(土) 23:59:00 ID:vmHhj3yw0
・ ・ ・ ・ ・ ・
(; ^ω^) 「ショボン!」
(´・ω・`) 「ああ。これで最後だ」
クールが戦っていた狼を三人で囲い、追い詰める。
朱天で腹を切り裂き、エスタルートで頭を叩き割りとどめを刺した。
川;゚ -゚) 「すまない、手こずった」
食いつかれていたクールの腕には既に傷跡はない。
鋭い牙には毒物は仕込まれていなかったようだ。
( ^ω^) 「仕方ないお」
柔らかい狼の毛は斬撃すらも吸収し、全身を使った移動は騎士たちを易々と飛び越えてしまう。
僕とブーンは同時に敵を倒したが、狼には致命傷を与えることができていなかった。
クールが自ら囮になってくれなければ、まだ犠牲者は増えていただろう。
- 181 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/03/22(日) 00:00:54 ID:RGz2qn.c0
( ^ω^) 「何があったのか話してくれお、ショボン」
(´-ω-`) 「何もなかったさ……」
(#^ω^) 「嘘をつくなお。何かあったことぐらい、顔を見ればわかるお」
こういう時だけは本当に察しがいい。
僕はあきらめて口を開いた。
しぃが殺されたこと。
ハートクラフトの身体を利用された敵だったこと。
話している自分でも信じられないような出来事だった。
人の死体を錬金術に組み込むことは決して不可能なことではない。
但しそういった利用方法は、ほぼ全て"素材"としてであって、
その死人の経験や技能などを取り出すことは僕にはできない。
それに、あれ程までに生前の動きを再現するなんて……。
(´<_` ) 「口を挟むようだがな、死人の動きを再現することは古代錬金術でも不可能だ」
( ´_ゝ`) 「つまり、こういうことだ」
── 生きたまま錬金術の実験素体にした
- 182 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:06:29 ID:RGz2qn.c0
兄弟の声は重なって一つの言葉となった。
川 ゚ -゚) 「それも、モララルドがやったことか?」
(;´・ω・`) 「っ! そうだ、モララルドを助けないと」
川 ゚ -゚) 「もう死んでるだろう」
(´・ω・`) 「いや、あれは偽物だった。本物のモララルドは恐らく、城に隠されている」
( ^ω^) 「どういうことだお?」
ブーンはいち早く戦場に向かっていたせいで、あの時の状況を知らない。
説明しようにも、全てを話せばきっとクールに対して激しく怒るだろう。
これから何が起きるかわからないこの場で、チームワークが乱れることは避けたい。
(´・ω・`) 「あのモララルドは、おそらく錬金術で造られたホムンクルスもどきだと思う。
血液や細胞を用いて生み出された本人と全く同じ存在。
モララルドの頭脳は欲しい、だけど協力の申し出は断られた、といったところか」
- 183 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:07:53 ID:RGz2qn.c0
川 ゚ -゚) 「だから偽物、いやこの場合は本人か? を複製したと」
(; ^ω^) 「まじかお……」
(´・ω・`) 「多少は違うだろうけどね。成長速度は倍加してるだろうし、運動能力なんかは個体差があると思う」
( ´_ゝ`) 「で、その予想が正しかったとして、誰がそんなことを?」
(´<_` ) 「………………」
(´・ω・`) 「こんなことをする奴も出来る奴も、一人しか知らない」
その男は自分の欲の為に、周りの人間を犠牲にすることすら厭わない。
気まぐれで命を弄び、情の欠片すらも持たず。
悪夢のような実験を繰り返し続ける男。
(´・ω・`) 「ワカッテマス・ヴァン・ホーエンハイム」
- 184 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:11:10 ID:RGz2qn.c0
川 ゚ -゚) 「私たちが知らない人間だな」
(´・ω・`) 「君たちにあいつに関する記憶は存在しない。僕が与えなかったからね。
どうせすぐに死ぬだろうとたかを括っていたし、知る必要はないとも思っていた」
不老不死のなりそこない。
老いることなき身体だけを手にし、不死を求め続けていた。
自らの兄を手にかけ、僕からすべてを奪ってまで。
このセント領主家を中心とした事態も、あいつの関するところだろう。
だとすれば、未だに不死になるために手を尽くしているということか。
( ^ω^) 「ショボン、とりあえずモララルドを探しに行くお」
(´・ω・`) 「あ、あぁ。そうだな」
(´<_` ) 「城のどこにいるのか検討はついてるのか?」
(´・ω・`) 「いや、虱潰しになる。手伝ってくれるか?」
(メ)´_ゝ`) 「おっぱいを揉ませてk……ぐほっ……」
ボディーに強力な一撃を食らい、アニジャは地面に伏して細かく震えている。
このサイズ、この姿で小動物的可愛さを一切感じないのも凄いな。
そもそも古代錬金術の番人がこんなに浮ついていていいのだろうか……。
- 185 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:12:06 ID:RGz2qn.c0
踵を返し城門に向かうクール。
アニジャの災難はまだ終わらなかった。
(メ)-_ゝ-) 「ぶぎゃ……」
川 ゚ -゚) 「む、何か踏んだな」
くっきりと顔に靴跡が刻まれている。
アニジャは何かぶつくさと呻いているが、関わるだけ時間の無駄だとよくわかった。
(´<_` ) 「真に申し訳ない」
(;´・ω・`) 「気持ちはよくわかる……」
城門をくぐって、再び中にはいる。
戦争の勝利の喜びと失った命を嘆く外と異なり、不気味なほど静まり返った城内。
蟻一匹すら存在していないのではないかとすら思わせられる。
(´・ω・`) 「さて、ここからは別行動だ。
敵の残党には十分に気を付けてくれ」
- 186 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:13:07 ID:RGz2qn.c0
川 ゚ -゚) 「私はブーンと地上を探す。道案内は頼んだぞ」
(; ^ω^) 「そんなに覚えてないお……」
川 ゚ -゚) 「なら思い出してもらうさ」
二人は背中を向けて城の奥に進み始めた。一階部分から探すつもりだろう。
クールの鋭い言葉に嫌な顔をするブーンが目に浮かぶ。
(´・ω・`) 「僕らも行くか」
( ´_ゝ`) 「不服であります!」
(´・ω・`) 「却下」
城の構造に変化は見られないし、地下に向かう道は変わっていないだろう。
二階通路の一番端に飾ってある絵画の裏、そこに変わらず隠し扉はあった。
多少警戒しながら開けるが、何も起きない。
足元に気を付けながら、ひんやりと冷たい階段を下りていく。
幾つかの扉を超えて、四角い部屋に出た。
- 187 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:14:53 ID:RGz2qn.c0
かつて巨大な化け物と戦った部屋は、その時のまま残されていた。
唯一違うのは、閉じ込められているのが痩せ細った男だということ。
四角い穴から見える部屋の中は暗がりで辛うじてシルエットが見えるのみ。
「ああ、来てくれたんだ。久しぶりだね」
(;´・ω・`) 「モララルド……か……?」
「元気そうだね、ショボン」
(;´・ω・`) 「待ってろ、今助け出す」
「駄目だよ」
否定の言葉を想定していなかったせいで、一瞬思考が止まる。
纏めてある縄梯子を落とすだけで彼を助けることができるの・……。
「偽物の命を維持するのに血液を抜かれ、痛めつけられた片腕はまともに動かない。
眼もほとんど見えないし、もう長くはないんだ」
(´・ω・`) 「まだわからない。今、有能な錬金術師が三人もいる。
救える手だってあるかもしれない!
だから助けに行く。ちょっと待っててくれ」
- 188 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:15:51 ID:RGz2qn.c0
「ショボン! 来てくれて本当にうれしかった。
だから……早く逃げて! これは罠な……がっ」
(;´・ω・`) 「モララルド!?」
細い男の身体は突然現れたもう一人に殴り飛ばされた。
壁際に打ち付けられ、苦しそうに呼吸をするモララルド。
「黙って従ってりゃあ痛い目は見なかったんだがな」
(#´・ω・`) 「誰だ!」
「そんな上から見下ろしてないで、こっちにこいよ」
(;´・ω・`) 「なっ!」
突然足元が崩れ、数秒の浮遊感ののち地面にたたきつけられた。
骨が何本か折れたろうが、それはすぐに再生する。
- 189 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:19:32 ID:RGz2qn.c0
(メ´-ω・`) 「がっ」
「動くんじゃあない」
うつ伏せのまま、地面に縫い付けられるように刀が突き立てられた。
肩にある大きな骨が抜かれているせいで、身動きが取れない。
僅かに動く首を持ち上げて、見えたのは見覚えのある顔。
「おっと、どうも思い出せてないみたいだなあ。
こうしたら思い出すか? ん? ほらほら」
(#´ ω `) 「があああああああああああ」
鋭利な刃物で内臓が引っ掻き回される。
再生する間もなく、数分間も刻まれ続けた。
嫌な汗が滴り落ちる。
ナイフが身体を離れれば痛みは無くなるが、それは忘れるということではない。
(;´ ω `) 「イカサマ野郎……か……」
( ^ν^) 「正解!
しっかし、ホムンクルス一人捕まえるのにわざわざ俺様が出張ってくる必要があるのかね」
- 190 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:20:26 ID:RGz2qn.c0
(;´ ω・`) 「お前……何者だ……」
( ^ν^) 「不老を与えられし錬金術師、【人喰いサヴァレ】。
ワカッテマスは、我らに力を与えてくれたのだ。
不死を得るために協力する見返りとしてな」
(;´ ω・`) 「それはいい話だ。あいつは結局一人では何にも出来なかったんだな
ぐぁ……」
肩を貫いている剣が左右に振られ、傷口が抉られる。
( ^ν^) 「強がるだけ無駄だ。さてさて、一緒に来てもらおう。
人相書きを見てから来ればよかった。それならあの漁港で捕まえていたものを」
(;´ ω・`) 「はっ……間抜けめ」
( ^ν^) 「ま、結果はおな」
(; ^ω^) 「ショボン!」
叫び声が会話に割り込んでくる。
兄弟が助けを呼びに行ってくれたのだろう。
- 191 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:21:21 ID:RGz2qn.c0
(; ^ν^) 「むっ。思ったより来るのが早かったな」
上から聞こえてきたのはブーンの声。
クールと兄弟も近くにいる。
いち早く飛び降りてきたブーンは、着地に失敗し嫌な音が聞こえた。
冷や汗を流しながら、震える両手でエスタルートを構える。
( ^ν^) 「参ったな、多勢に無勢。今回は引き下がろう。
あぁ、そうだ。いいこと教えてやるよ」
肩から異物が取り除かれ、傷口は瞬時に修復される。
前を見れば、マルタスニムと名乗った男は壊れた壁を背に立っていた。
( ^ν^) 「不老不死が完成するまでは、もう時間の問題だ」
(´・ω・`) 「!!!」
( ^ν^) 「あとはサンプルが欲しかったんだがな……。
また会うこともあるだろうよ」
それだけ言い残すと、そのまま壁向こうに走って行き、
姿は闇の中に見えなくなった。
(´・ω・`) 「追わなくていい、二人とも」
追いかけようとしたブーンとクールを静止する。
どうせ逃げれるだけの段取りはしているはずだし、今はモララルドを助けられただけで十分だ。
- 192 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:23:34 ID:RGz2qn.c0
(´<_` ) 「これからどうする?」
(´・ω・`) 「モララルド、歩けるか?」
(メ-∀・) 「少しなら」
(´・ω・`) 「クール! 何か上に上がるものを用意してくれ」
川 ゚ -゚) 「わかった、少し待ってろ」
クールが戻ってくるまでの間、僕らは語り合った。
と言っても、メインで話すのはほとんどがブーン。
モララルドはずっと幽閉されていたみたいだし、
僕に至ってはずっと海底に沈んでいたわけだから、それも当然か。
意外にも、番人である兄弟もいろいろと話してくれた。
元はただの人であったこと、とある女性との約束で今の姿をしていること。
二人は僕よりもずっと年上で千年単位で生きていた。
人間の身体を残すのは難しいが、魂を残すのは意外と簡単らしい。
(´<_` ) 「肉体も魂もを永遠に維持することは出来ない。
既に知っているかもしれないが」
(´・ω・`) 「……僕の主人が考え出した錬金術だ。間違いはないと信じている」
( ´_ゝ`) 「間違い、というならば、それは錬金術ではなくて考え方であろう。
永遠という言葉の意味を人間は十分に理解していない」
- 193 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:24:16 ID:RGz2qn.c0
(´<_` ) 「我らも元は人間だったから説得力がないぞ、アニジャ。
まぁ、つまりはこの姿になってわかったこともあるということだ」
( ^ω^) 「? 永遠とは無限に続く、ということだお?
ホムンクルスの不死性はそういう意味で永遠じゃないのかお?」
(´<_` ) 「その錬金術が完成されていたとすれば、千年単位の話よりもさらに長い期間先のことになる。
今から心配することではなかろう。
そういえば我らがまだ人であった頃、我らに不死の魂を与える前に彼女はこう言っていた」
死なないということは、苦しみ続けるということ。
それでも、私の為に生きてくれるのですか。
(´<_` ) 「そういう意味で、永遠ではないというのは幸せなことなのだよ
ホムンクルスであっても、肉体をもつ限りいつか終わりが来る。
それを心に刻んでおくべきだ」
- 194 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:25:59 ID:RGz2qn.c0
突然空から落ちてきた梯子が、両手を広げて語るアニジャを押し潰した。
川 ゚ -゚) 「待たせたな」
(´・ω・`) 「いや、ちょうどいい頃合いだ。モララルド、背中に捕まってくれ」
(メ-∀・) 「ありがとう」
(´・ω・`) 「ゆっくりできる場所まで連れていく。
暫く……回復するまでは面倒を見てやる。それからは好きにするといい」
(メ-∀・) 「あの頃に戻ったみたいだ」
(´・ω・`) 「僕からすれば未だに子供さ」
ゆっくりと、背負うモララルドに負担にならないよう梯子を登る。
もう三十近いはずだが、小柄な体は想像以上に軽い。
過酷な時間は二十年以上もあっただろう。
謝まって許されるとは思わないが、その原因の一端は間違いなく僕にある。
- 195 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:26:40 ID:RGz2qn.c0
(´-ω-`) 「すまない……モララルド」
(メ-∀-) 「ショボンは悪く……ないよ……」
言葉を返そうと思った直後、背中から聞こえたのは静かな寝息。
背負った子供を起こさないように、城を出た。
傷だらけの兵士達が、城門の前で僕らを待っていた。
生き残った者達により失われた命は丁重に弔われ、海の望める丘の下に眠っているそうだ
(´・ω・`) 「戦争は終わりだ。みんな……帰ろう」
・ ・ ・ ・ ・ ・
戦争の終結から数か月が経った今も、僕らはクナドに滞在していた。
モララルドの容態は回復したものの、今後の方針で僕らの意見は全く纏まらない。
もしサヴァレの発言が事実なら、僕らは行動を共にし暫くは大人しくしとくべきだと思う。
- 196 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:27:24 ID:RGz2qn.c0
川#゚ -゚) 「だから言っているだろう! 逃げ隠れしていたところで、
結局、不老不死を完成されてしまったらどうする?
さっさと潰してしまえばいいのだ、そのなんやら教会など」
( ^ω^) 「クールは乱暴すぎるお……。
教会がどういったものなのか、僕らはもっと知る必要があるお」
(´<_` ) 「我らも興味がある。そのアルギュール教会がどういうものなのか。
場合によっては、惜しまず協力させてもらおう」
( ´_ゝ`) 「彼女と関係があるってことか?」
(´<_` ) 「その可能性はないとは言えない」
(´・ω・`) 「二人は何を危惧しているんだ?」
(´<_` ) 「知らなくていい」
( ´_ゝ`) 「知れば懸念が増えるだけだ。起きるかどうかもわからないことだからな。
で、教えてくれるのか?」
- 197 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:28:28 ID:RGz2qn.c0
(´・ω・`) 「……場所を移そう。誰も聞かれない場所がいい」
川 ゚ -゚) 「では、東に向かおう」
(´・ω・`) 「東?」
( ^ω^) 「錬金術師の隠れ里があるのを忘れたのかお?
そこでだったら、誰にも聞かれずに話ができるお」
錬金術師の隠れ里には、大罪館を筆頭として僕らの役に立つ施設が数多くある。
ブーンが言っているのは無音館のことだろう。
外部に音が漏れ聞こえることはなく、誰が入ってるかもわからないようになっている。
会議がダブルブッキングしないように事前の予約制なのが面倒なところだが……。
(´・ω・`) 「わかった、モララルドに話してくるさ」
開いていた扉の陰には、いつの間にかモララルドがもたれていた。
話の内容はほとんど聞かれていただろう。
- 198 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:29:35 ID:RGz2qn.c0
( -∀・) 「ショボン……」
(;´・ω・`) 「モララルド……」
( -∀・) 「僕はもう大丈夫。一人でもやっていけるさ」
モララルドの傷はほとんど治っている。
それも当然だ。
最高の錬金術師が三人もいるし、頼りになる精霊もどきもいるのだから。
唯一、腐り落ちてしまった片目だけは治すことができなかったが……。
( -∀・) 「助けてもらったお礼は必ずする。いつか、必ず」
(´・ω・`) 「お礼なんて気にしなくていいよ。それより、この研究所……。
ハートクラフトという人間が使ってたんだけど、今は亡き人になってしまった。
彼の傭兵団も散り散りになってるから、ここには誰も来ないんだ。
モララルドが使うといい。優秀な術師に使ってもらった方が彼も喜ぶだろう」
( -∀・) 「いいのかな……」
(´・ω・`) 「ああ。それと……わかってると思うけど、アルギュール・フィズィには気を付けてくれ」
- 199 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:32:05 ID:RGz2qn.c0
( -∀・) 「了解」
気を聞かせてくれたのか、ブーンとクール、そして番人の二人は既に外で待機していた。
外への扉を開ければ、差し込んでくる暖かい光。
雲一つない空に太陽が昇った平原は、絶好の旅立ち日和。
彼と別れればもう二度と会うことはないだろう。
人間の寿命は有限で、とても儚く短い。
(´・ω・`)
( -∀・)
急に別れが惜しくなり、最後の一言が言えないでいた。
それは、どうやらモララルドも同じだったらしい。
親子のような、兄弟のような、不思議な絆。
僕らはそれを確認するかのように握手を交わした。
そこに言葉は必要ない。
別れの挨拶は、済ました。
馬に飛び乗り、ブーン達と肩を並べた。
僕らは馬の嘶きを置き去りにして、東へ向かった。
再び平和が訪れた地に背を向け。
これからもずっとそうであることを願いながら。
- 200 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:33:52 ID:RGz2qn.c0
21 ホムンクルスと戦争の終結 End
- 205 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/03/22(日) 00:37:07 ID:RGz2qn.c0
- 【時系列】
ホムンクルス生誕
↑
↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです
8 ホムンクルスと少女のようです
↑
|
|
↓
1 ホムンクルスは戦うようです
│
2 ホムンクルスは稼ぐようです
│
3 ホムンクルスは抗うようです
│
4 ホムンクルスは救うようです
│
5 ホムンクルスは治すようです
│
9 ホムンクルスは迷うようです
|
10 ホムンクルスと動乱の徴候 戦争編・前編
11 ホムンクルスと幽居の聚落
12 ホムンクルスと異質の傭兵
13 ホムンクルスと同盟の条件
14 ホムンクルスと深夜の邂逅
15 ホムンクルスと城郭の結末
17 ホムンクルスと絶海の孤島 戦争編・後編
18 ホムンクルスと怨嗟の渦動
19 ホムンクルスと戦禍の傷跡
20 ホムンクルスと不在の代償
21 ホムンクルスと戦争の終結
│
│
16 ホムンクルスは試すようです
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