(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
225 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/05/24(日) 16:20:42 ID:pz3qYf6M0

遠い、遠い昔
二つの相反する感情が混ざり合った記憶


希望 と 絶望


忘れてしまいたくもあり、覚えておきたくもある

大切でありながら、捨ててしまいたい過去


僕は、矛盾をはらんだそれを、ずっと抱えてきた



──────これは、僕というホムンクルスの始まりの物語



ホムンクルスは生きるようです


      【誕生編】

228 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 16:41:00 ID:pz3qYf6M0












22 アタラシキイノチ

229 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 16:42:23 ID:pz3qYf6M0


自らすすんで誰かに話したいものではない。
いっそのこと、第三者に語ってもらいたいとすら思う。
だけど、過去を語ることができるものは僕より他にいない。

敵を、敵として認識するために。


二人の頼りになる仲間と、超常の存在である古代錬金術師の番人がいる今だからこそ。



有難いことに、僕が考えている間は誰も何も言わない。
ただ僕の判断に任せる、とそう言われているような気がした。




(´・ω・`) 「……これから話すのは、僕というホムンクルスが生み出された時のこと。
       そして、不老不死に取りつかれた一人の悪魔の話だ」

230 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 16:43:13 ID:pz3qYf6M0


◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ついさっきまで何もなかったはず
ついさっきまで誰もいなかったはず

僕は、どこから来たのか
僕は、何者なのか

「こちらへおいで」

声がする
空に浮かんでいる暖かい光から



「……!!」


呼ばれているのは……僕?


「さぁ、おいで」

231 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 16:44:19 ID:pz3qYf6M0

再び聞こえる声
僕を、呼んでいる

黒い場所

寂しい場所

冷たい場所

ここは そういうところ

何もなくて

誰もいなくて


向こうは?

僕は近づく
宙に浮かぶ光に向かって


手を伸ばす


光に指先が触れた途端、黒は白くなった

232 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 16:47:09 ID:pz3qYf6M0

白の世界は色々なものに溢れていた
ひとつひとつを認識していては間に合わないのだと


   理解した


(`・ω・´) 「初めまして、私のことはわかるかね」

小柄な壮年の男は、ほっそりとした手を差し出してきた。

(´-ω・`) 「握手……?」

半ば強引に握られた手のひらは、暖かかった。
付近を見回していると、男に隠れるようにして立っている小さな少女がいた。

つぶらな瞳に映るのは、不安だろうか。
じっとこちらを見つめたまま喋らない。
僕の目線に気付いたのか、その小さな体をより縮めて、さらに隠れてしまった。

233 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 16:48:49 ID:pz3qYf6M0

(`・ω・´) 「君はショボン」

(´・ω・`) 「しょぼ……ん?」

(`・ω・´) 「名前だよ」

(´・ω・`) 「名前……あなたは?」


(`・ω・´) 「私か。私の名は……」



シャキン・フォン・ホーエンハイムだ



それが僕と彼のはじめての会話だった。
それから、わけのわからぬままに行われたのは、幾つかの試験。

最初は簡単なもの。

234 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 16:50:17 ID:pz3qYf6M0

人差し指と親指で物をつまんだり、歩いたり、跳ねたり。
立って座ってを繰り返したり、走ったり、前屈をしたり。

体の機能を一つずつチェックしているのだと、すぐにわかった。

(`・ω・´) 「ふむ、身体機能に問題はないな。
       自分でなにか違和感はあるか?」

(´・ω・`) 「いえ、御主人様」

(`・ω・´) 「では、引き続き錬金術の知識を試させてもらうよ」

僕が生まれた日、誕生日とでもいえばいいのだろうか。
その日はひたすら言われたことの繰り返しだった。
それをつまらないことだとはっきり理解することもなく、ただ事務的に従う。

夜になれば専用のベッドに寝るように言われ、目を瞑る。
寝る、ということがよくわからず、日が昇るまでただじっとしていた。
身体が少し重いが、どうということはない。
朝になればノックと共に御主人様が部屋に入ってきた。

(`・ω・´) 「おはよう、その様子だと寝ていないようだね」

235 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 16:54:09 ID:pz3qYf6M0

(´・ω・`) 「はい、寝る必要性が感じられませんでしたので」

(`-ω-´) 「うーん……まぁそのうちわかるか。
        さて、今日も試験の続きだ」

(´・ω・`) 「御主人様、その……」

試験をすることに不服はない。
ただ、今すぐにでもどうしても知りたいことが一つだけあった。
御主人様の計画に口を挟むことは恐れ多いことだとわかりつつも、僕は自分を抑えきれなかった。

(`・ω・´) 「なんだ、言いたいことがあるなら言ってみなさい」

だけど、そんな僕を邪険に扱うでもなく、御主人様は優しく聞いてくれた。

(´・ω・`) 「外の部屋に出してもらえないでしょうか」

(`・ω・´) 「悪いが、もう少し待ってもらう必要がある。君の身体が本当に安定しているのか。
       ショボンは自分自身のことを理解しているね?」

236 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 16:55:27 ID:pz3qYf6M0

(´・ω・`) 「シャキン錬金術師に造って頂いた人造の生命体。賢者の石を組み込まれた不老不死の生き物」

(`・ω・´) 「そう、私は、そして私たちはこれから君のような生命体のことをホムンクルスと呼ぶことに決めた」

(´・ω・`) 「はい」

(`-ω-´) 「ホムンクルスが実際に成功したのは、私の知る限りこれが初めてでね。
       すべてがうまくいっていればいいが、失敗していると……」

(´・ω・`) 「外に出ることで悪影響があるかもしれないと?」

驚いたような主人の顔。

(;`・ω・´) 「理解が早くて助かる、いや私の知識を与えてるのだから当然か」

(´・ω・`) 「わかりました、一週間ほどの辛抱ですね」

僕の中の知識が、それだけの期間が必要だという答えを出していた。
そして、それはどうやら当たっていたらしい。

237 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 16:59:30 ID:pz3qYf6M0

(`・ω・´) 「それでは、今日も頼むよ」

(´・ω・`) 「はい」

三日後の夜、僕は人間のいう"眠い"という不調を知識ではなく感覚として理解した。
試験や調整で常に動いたり考えたりする生活に慣れていたはずが、
体調がすぐれなくなってきた。
腕や脚を動かすのにも思い通りにいかなく、重さを感じる。

(`・ω・´) 「今日はよく眠れるだろうね」

(´-ω-`) 「そう……ですか……」

(`・ω・´) 「顔を見ればわかる。寝不足で疲れ切った人間の顔だ。
       思っていたよりも体は丈夫だね。さて、もうおやすみ」

(´-ω-`) 「そのようです。おやすみなさい」

238 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:00:39 ID:pz3qYf6M0

ベッドに入った時、頭に幕が下りて来る。
眼を開けていられなくなり、水の中に沈んでいくかのように意識が溶けていく。

目を閉じたことで辿り着く真っ暗な世界は、僕が生まれた場所。
今はもうあの時とは違う。
ここは、何もなくとも暖かい世界。



(´+ω-`) 「……」

(`・ω・´) 「おはよう」

(´-ω・`) 「………………お、お、ご・……ざいます……」

あたまがぼーっとする。
挨拶を返さねば失礼だと無理やりひねり出した音は、言葉の体を成していなかった。

(`・ω・´) 「よく寝れたようだね」

頬を上げて笑う御主人様。
どうやら、意図せずして楽しませてしまったようだ。

239 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:05:40 ID:pz3qYf6M0

(´-ω-`) 「そのようです……」

(`・ω・´) 「どんな気分だい?」

いい気分、なのだろうか。
悪い気分ではない。
やっと覚醒してきた意識は、寝る前よりもしっかりとしていて、身体は随分と軽く感じる。

(´・ω・`) 「まあまあです」

(`・ω・´) 「疲れきって寝床について、朝自然と目が覚める。
       それを人間はいい気分だと、そう思うんだよ」

(´・ω・`) 「そうなのですか」

(`・ω・´) 「もっとも、そろそろ起きてくれないかね?
       朝とは言ったがショボンが起きたのはもう昼前だよ」

話している間もずっとベッドの上に座っていた。
そのことに気付き、慌てて立ち上がる。

240 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:07:29 ID:pz3qYf6M0

(;´・ω・`) 「す、すいません」

どうやら寝過ごしてしまったようだ。
時間が決まっているのなら起こしてくれてもよかったのに、主人に気を遣わせてしまった。

(`・ω・´) 「なに、気にしないさ。知識と経験は違う。
       ショボンには、身をもって知ってほしいからね」

それから一週間、毎日いくつかのトレーニングを行い、
ホムンクルスの存在が安定していることを確認した。
錬金術の知識をいくつか試していた時、一人の少女が研究室に入ってきた。

ζ(゚ー゚*ζ 「パパ……」

(`・ω・´) 「おお、デレ。どうしたんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ 「あの……」

(´・ω・`) 「……?」

241 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:08:27 ID:pz3qYf6M0

少女の視線がこちらへと遠慮がちに送られてくる。
その正確な中身まではわからないまでも、
負の感情と正の感情が混じって、困惑しているだろうということはわかった。

少女の名前はデレーシア。
御主人様の娘で、今年で九つになる。
父親とは異なる金髪は、今はもう亡き母親から譲り受けたもの。
瞳の色だけが父親と同じ灰色。
白髪で年よりも老けて見える父親とは、似ても似つかないほど華奢で可憐な少女だ。

ζ(゚ー゚*ζ 「ショボン……」

(`・ω・´) 「私としたことが、そうだね。ちゃんと紹介するのを忘れていた。
       ショボン、この娘はデレーシア、もちろん知っているね?」

(´・ω・`) 「はい」

ζ(^ー^*ζ 「ショボン、よろしくね」

(´・ω・`) 「よろしくお願いいたします」

242 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:09:46 ID:pz3qYf6M0

(`・ω・´) 「試験ばっかりでつまらないだろう、少しデレーシアの散歩に付き合ってあげなさい」

(´・ω・`) 「いいのですか?」

ζ(゚ー゚*ζ 「いいの?」

(`・ω・´) 「家の近くだけだよ? 薬の時間になったら戻って来なさい。
       ここのところはデレーシアの相手もなかなかできていなかったからね。
       ショボンもこんな辛気臭い研究室に篭っていたんだ。息抜き位必要だろう」

ζ(^ー^*ζ 「はーい。行こっ、ショボン」

手を引っ張られて部屋の外に出る。
僕が生まれた、と表現しても問題のない部屋は狭く、
いくつもの実験器具や研究用の資料で汚れている。
一週間以上も同じ部屋にいるのは、流石に窮屈で飽きていたところだ。

243 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:11:09 ID:pz3qYf6M0

外の世界がどうなっているのか、それは知っている。
だが、実際に経験してみるのは大いに違っていた。

吹き抜ける風が肌を撫で、草原の香が鼻腔を擽る。

木造の家を背中に、目の前に広がるのは大草原。
遥か地平線までが新緑で覆いつくされ、優しく靡いている。

(´・ω・`) 「すごいな……」

ζ(゚ー゚*ζ 「どうしたの? ショボン」

心配そうに見上げてくる少女。
草原と同じように、彼女のウェーブがかった長い髪もまた揺れている。

(´・ω・`) 「いえ、デレーシア様はどちらにいかれるのですか?」

ζ(゚ー゚*ζ 「あまり遠くに行かないようにと、パパに言われてるので、あちらの塀の辺りまで」

少女が指さす先には、煉瓦を積み重ねて作られた低い塀。それらが家を囲むように建てられている。
よく、そこにもたれながら書を読むのだと教えてくれた。

244 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:12:20 ID:pz3qYf6M0

(´・ω・`) 「では、行きましょうか」

ζ(゚ー゚*ζ 「あっ、でもショボンは家の裏の森の方も見ておきたいんじゃ……」

(´・ω・`) 「僕はデレーシア様が行きたい方で構いませんよ」

ζ(^ー^*ζ 「では、森の方も見ておきましょう!」

相変わらず手を引かれたまま、家の裏側手に案内される。
子供か何かと勘違いされているのかもしれないが、知識だけでいえば立派な大人なのだ。
幼い子供に案内されているような現状は、どうにもこそばゆい。

家は一般的なものよりも大きく、ゆっくりと歩いて回り込んだその裏側には、予想だにしていない光景が広がっていた。

(;´・ω・`) 「これは……」

そこにあったのは、正面の草原と対称的に、きっちりと線を引かれたかのような森の入り口。
門扉とそれにつながる塀のように連なる木々は、自然に生み出されたわけではない。
森と家の敷地の境界がはっきりと分かれているのは、御主人様の錬金術のおかげだ。

245 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:16:31 ID:pz3qYf6M0

ζ(゚ー゚*ζ 「錬金術の素材とかがすごいんです」

彼女の言う通り、家の裏側に鬱蒼と広がる森は、錬金術の素材の宝庫になっているようだ。
入り口付近の木々ですら割と希少な種類であることは、一目見て分かった。
御主人様はこれらを研究に利用するために、この場所に家を建てたのか……。

最も、豊富な錬金術の素材が存在していることは二の次。
少しでもデレーシア様が落ち着いて暮らせるように願いを込めて、御主人様はこの場所を選んだのだ。
僕の中の、御主人様から与えられた知識はその理由を理解していた。

彼女の身体は重い病に侵されている。
それは錬金術師であり、医師でもある主人にすら治すことができないもの。
ホムンクルスという不老不死を生み出す実験はそんな彼女のためであった。

僕は、その実験の結果生まれた偶然の産物であることに何の不満もない。
人間でない僕に、人間のように接してくれる二人がいる限り、僕は生きていられる。

246 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:17:21 ID:pz3qYf6M0

(´・ω・`) 「すごい森だな……」

ζ(゚ー゚*ζ 「そうですね、入り口からでもたくさんの貴重な素材が見えますから」

デレーシア様は錬金術にさほど詳しくはない。
それでも、父親の影響があり、並みの錬金術師よりは遥かに詳しいかもしれないが。

(´・ω・`) 「!」

( <●><●>) 「……」

あっちこっち見回しているうちに、歩きながら森から現れたのは、黒装束で身を固めた男。
特徴のある両の黒目がはっきりとこちらを見た。

ζ(゚ー゚*ζ 「ワカッテマス? どこへ行ってたの?」

( <●><●>) 「……シャキン兄さんに頼まれて、少し素材を取りに行っていたのです。
          ホムンクルスが成功したので、ね」

無理やり口角を釣り上げたかのように笑う。
不気味だと、素直に思った。
それだけ言うと、男は幾つかの草を抱えたまま屋敷に入っていく。

247 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:18:10 ID:pz3qYf6M0

(´・ω・`) 「今のは、ワカッテマス様……か?」

知識にある人物とずいぶん違うように思う。

ζ(゚ー゚*ζ 「ええ……パパの弟よ。パパの錬金術に協力してくれてるの」

(´・ω・`) 「なるほど」

僕の知識は主人のものとほぼ一体であり、主人がワカッテマス様をよく思っているからこそ起きた違和感か。
僕自身の受けた第一印象は、頭の中の印象と真逆であった。
どうやら、男にデレーシア様も少なからずよくない印象を持っているようだ。

ζ(゚ー゚*ζ 「さって、この辺でゆっくりしましょう」

家の表に戻ってきて、塀まで歩いてきた。
人が二人だけ背中を預けることが出来そうな幅の壁。
少女は座ると、隣に座るように合図してきた。

(´・ω・`) 「デレーシア様はよくここにいらっしゃるのですね」

ζ(゚ー゚;ζ 「どうして知ってるの!?」

(´・ω・`) 「御主人様が知っていらしたので」

ζ(゚ー゚*ζ 「なんだぁ、パパに聞いたのか」

248 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:19:02 ID:pz3qYf6M0

正確には聞いたわけではないが、そういう事にしておこう。
御主人は、病気である彼女から目を離すようなことはしない。
いくら薬が効いているとはいえ、何かあってからでは遅いのだから。

ζ(゚ー゚*ζ 「ショボンは本を読むの?」

(´・ω・`) 「文字の読み書きはこの国のものと他幾つかが可能です」

ζ(゚ー゚*ζ 「凄いわ、他の国の言葉がわかるなんて」

純粋な実力ではない。
人造であるが故の、埋め込まれた能力。
それを褒められたことを少しうれしいと思ってしまったのは、自分でも意外だった。

(´・ω・`) 「いえ、それ程でも」

ζ(゚ー゚*ζ 「他の国はどうなっているのか、教えて?」

デレーシア様は幼い頃、ほとんど家を出ることができなかった。
病弱な体のせいで、友達を作って遊ぶこともままならず、知識は父親と書物から得たものばかり。
だからこそ僕のように気兼ねなく話せる存在は、彼女にとってきっと喜ばしいことなのだろう。

249 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:26:33 ID:pz3qYf6M0

(´・ω・`) 「僕も直接行ったことがあるわけではないので……」

ζ(゚ー゚*ζ 「んーそれじゃあね、私がこの前読んだ本の話をさせて?」

デレーシア様が話し始めたのは、この国で一般的な物語。
大災害に巻き込まれた少年が、仲間たちと厳しい世界を生き抜いていく。
少女が一番のお気に入りだというのは、川に流されてしまった友人を助ける話。

(´・ω・`) 「その話は、確か友人が自分勝手なことをして川に落ちてしまったのが原因でしたよね」

ζ(゚ー゚*ζ 「違うよ、ショボン。彼はね、好きな人の為に花を取りに行っただけなの」

(´・ω・`) 「その結果、川に落ちて仲間に迷惑をかけています。
       危険を冒してまで好きな人に花を届けることに意味はあるのでしょうか」

ζ(゚~゚*ζ 「うーん、ショボンにはわからない? 好きな人の為に一生懸命になること」

わからないかと聞かれれば、知っていると答えよう。
特定の誰かの為に何かをしたい、与えたいと思う気持ちが恋や愛であることは知っている。
知らぬ間に難しい顔していたのか、少女が笑った。

250 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:27:20 ID:pz3qYf6M0

ζ(^ー^*ζ 「これからわかればいいと思うわ。さて、そろそろお薬の時間。屋敷に戻らなくちゃ」

(´・ω・`) 「そうですね」

二人並んで、家の裏口に向かう。その方が薬が用意してある食堂に早いのだという。
歩くペースを少女に合わせ、緑の絨毯を渡った。

(`・ω・´) 「おかえり」

ζ(゚ー゚*ζ 「ただいまー」

(´・ω・`) 「戻りました」

(`・ω・´) 「デレ、薬は机の上に用意してあるよ。水もグラスに注いでいるから、飲んできなさい」

ζ(゚ー゚*ζ 「はーい」

デレーシア様は小さな足音をさせながら隣の部屋に向かっていった。
家族が食事するために、大きな机といすが四脚と、調理をするための台所がある。
開けっ放しの扉を眺めていたら、御主人様に話しかけられた。

251 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:30:15 ID:pz3qYf6M0

(`・ω・´) 「さて、初めての外の世界はどうだった?」

(´・ω・`) 「とても、興味深い物でした」

(`・ω・´) 「そうか……この場所は自然に恵まれていていい。雑念が少なく、心休まる。
       だが、世界はそういう場所だけではない。いつか出会うことが有るだろう。
       良識を持たない、悪意だけが大きな人間と。
       その時、君はどう思うだろうか」

(´・ω・`) 「わかりませんが、それで人を恨んだりすることはないと思います」

御主人様の言葉は遠回りで、その真意を測るのは今の僕には難しい。
ホムンクルスの情緒の成長に関しての質問だと取った僕の答えは、あっていたのだろうか。

(`・ω・´) 「そうか……」

人ではない僕が人を憎めばどうなるか、そんなことはわかりきっている。
この世界で生きていくことが、あまりにも辛く苦しいものになってしまう。
そうならないようにしてくれているという希望的観測もあったし、
身の回りにいる人を嫌いだとは思わないから、
それが"その他大勢"だとしても大丈夫だろうという根拠のない自身もあった。

252 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:33:40 ID:pz3qYf6M0

ζ(゚ー゚*ζ 「パパ! 今日は薬多くなかった?」

(`・ω・´) 「すまないね、デレーシア。新しい薬が出来たから飲んでおいてほしかったのだよ」

ζ(゚~゚*ζ 「むーそれならそうと言ってくれればよかったのに」

(`・ω・´) 「苦くなかったかい?」

ζ(゚Λ゚*ζ 「まずかった!」

苦笑する御主人様。
この少女にとって苦いというのは不味いということと同義なのだろう。

(`・ω・´) 「次はもう少しマシな味のものにしておくよ」

ζ(^ー^*ζ 「ミカン味にして! 私ミカンが好きだから」

(`・ω・´) 「頑張ってみるよ」

( <●><●>) 「お話し中すいません兄さん、実験に変化がありました」

突然、ワカッテマス様が食堂に現れた。
手には小瓶を一つ。中には黒く歪んだ物質が僅かに入っているだけ。

253 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:34:26 ID:pz3qYf6M0

(`・ω・´) 「おお、ワカッテマス。任せきりにして悪いな。すぐに向かうよ。
       さて、パパは仕事の時間だ。今日はショボンと遊んでおきなさい。
       彼のすべての試験を明日以降にしよう」

どうやら退屈な試験は延期されたようだ。
御主人様の実験内容は多岐にわたるが、そのどれもがいつ変化を起こしてもおかしくない。
それを管理しているのは御主人様の弟であるワカッテマス様だ。
彼はほとんど実験室から出てくることがない。

ζ(゚ー゚*ζ 「だって、ショボン。よかったね」

(´・ω・`) 「明日にあるのでしたら、同じことです」

ζ(゚~゚*ζ 「そういうこと言うー。素直に喜んでおけばいいの」

(´・ω・`) 「そういうものですか」

今日やる試験が明日になったことで喜ぶ……か。
僕にとっては今日が明日になろうと明後日になろうと大した違いはない。
永遠の時を生きているのだから。

254 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:35:54 ID:pz3qYf6M0

ζ(^ー^*ζ 「そういうものよ! さ、着いてきて! 家の中を案内してあげるっ」

彼女に言われるまま、家の中を探索する。
研究室だけは父親である御主人様の許可がないと入れないらしく、それ以外の部屋を案内してもらった。
どうやってこれ程立派な家を建てたのか。
付近に人が住んでいる様子はないし、御主人様とワカッテマス様の二人ではさすがに無理がある。
その疑問にはデレーシア様が答えてくれた。

ζ(゚ー゚*ζ 「この家はね、昔偉い人が建てたんだけど、使わないからってパパが買ったの」

(´・ω・`) 「食事の準備とかはどうしているのです?」

ζ(゚ー゚*ζ 「気づかなかった? メイドさんが何人か住み込みで働いてるのよ。
        街には馬車で行って必要なものを買いに行くの。
        ちょうど今日がその日だから、皆出かけているけれど」

ふむ、御主人様はすべての知識を与えてくれたと言っていたが、
当たり前になってしまっていることや優先度の低いものは、記憶が移されたときに僕が忘れてしまっているのだろう。
結局その日は、ほぼ一日中デレーシア様に付き合わされた。

255 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:36:51 ID:pz3qYf6M0

夜、自分の部屋に戻りベッドに横になる。
灯りを消して眠ろうとしたとき、ノックをして御主人様が入ってきた。

(`-ω-´) 「明日は……きつい実験になると思う」

顔を歪ませながら、主人は小さな声で言った。
その表情の意味はよくわかっている。


≪不老不死≫というホムンクルスとして、僕は完成された。

明日は、そのテストが行われるということだ。
本当に死なないのか、本当に老いないのか、本当に衰えないのか。
何故御主人様がつらそうな顔をするのか、僕にはわからない。

僕は御主人様に生み出された命だ。それをどうするも御主人様の自由だろう。

そう言うと、御主人様は目を伏せた。

256 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:44:29 ID:pz3qYf6M0

(` ω ´) 「恨んでくれても構わない。君の人格を、私は自分のために利用するのだから……。
       邪魔をしたね。明日までゆっくり寝てくれ」

(´・ω・`) 「ごゆっくりお休みください、御主人様」

閉じられた扉の音は、いつもより深く響いた。
暗闇に慣れた目で、僅かな月明かりで照らされる室内を見回す。

棚の上に飾られている小さな欠片。
裏の森に落ちているそれは、
空から降り注ぐ塊の中に極稀に含まれているもの。
輝く粉が散りばめられているかのように、光を反射する。

僕の身体を構成している≪賢者の石≫と主人が名付けた錬金術の素材だ。
どういう原理かわからないが、僕の存在が近くにあることで同調して明滅している。
おそらく、ここに置いてあることも実験のうちなのだろう。

なかなか眠る気分にはならなかったが、目を閉じていると自然に意識が遠のいていった。

257 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:45:50 ID:pz3qYf6M0
翌日、僕は御主人様に呼び出された。
聞けば、デレーシア様は街に出かけるようだ。

実験にはうってつけの日、ということか。

(`・ω・´) 「デレーシアは買い物に行ったメイド達と合流するようにしておいた。
       ワカッテマスもついているから、心配はない」

(´・ω・`) 「そうですか」

あの男の異様な視線に強い違和感を覚えたことを、御主人様に話す意味はない。
僕の警告など何の役にも立ちはしないし、ただの勘違いの可能性が大いにある。
御主人様がワカッテマス様を信じているのだから、人形としての分を弁えなければ。

(`・ω・´) 「実験は、地下で行う。ついてきなさい」

御主人様の後をついて歩けば、研究室の床にある隠し階段を下りていく。
冷たい金属に覆われた部屋は、檻のようなものだろう。
熊よりも巨大な獣でも閉じ込めることが出来そうだ。

258 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:48:47 ID:pz3qYf6M0

部屋の中心には簡易ベッドが置いてあった。
取り換えられたばかりなのか、シーツには皺一つない。

(´・ω・`) 「ここで……?」

(`・ω・´) 「ああ、そのベッドに座ってくれ」

言われるがままに、ベッドに腰掛ける。
御主人様は何も言わずに鋭いナイフを取り出した。

(` ω ´) 「…………腕を出してくれないか?」

(´・ω・`) 「わかりました」

左腕を差し出したのは、利き腕である右腕を守ろうとした無意識が働いたのかもしれない。
どうせ回復するのだから、どちらを傷つけようと同じことなはずだが。

(´-ω・`) 「っ!」

腕にはしった赤い線。
鋭い痛みは、夢を見てたかのようなほどの一瞬で消えた。

259 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:51:42 ID:pz3qYf6M0

(`・ω・´) 「この程度の傷であれば再生に遅延はないようだな」

(´・ω・`) 「もう少し大きな刃物を用いて深くすべきでは?」

食事用のナイフと刺して大きさの変わらないそれでは、どうやったって致命傷を与えることは出来ない。
心臓や、それに類するところを狙うのなら話は別だが。
御主人様は、未だに悩んでいるようだった。

(´・ω・`) 「御主人様、その鉈を僕に貸してもらえませんか?」

御主人様の背中側の机にそれが置かれているのは、部屋に入ってきた時に気付いていた。
喜び勇んで使われたらどうしようかと少しは不安だったが、そんな人ではない。
人間のカタチをしただけの生き物にすら、慈しみの心を持ってしまう優しい人だ。
それならば、僕が自らの意志で御主人様の研究を手伝うまで。

(`・ω・´) 「しかし……」

(´・ω・`) 「僕自身も興味があるんです、この体の耐久度に。
       知っておきたいんです、自分のことは……」

260 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:53:46 ID:pz3qYf6M0

(`-ω-´) 「……無理はするな」

主人から渡されたのは大型の鉈。
重さもさることながら、刃は鋭く研いである。
これなら、さほど苦労することなく腕の切断くらいはできるだろう。

(´・ω・`) 「少し、離れていてください。返り血が飛ぶかもしれませんので」

(;`-ω-´) 「あ、ああ……」

一呼吸置き、鉈を振り下ろす。
吹き飛んだ左腕は、地面に落ちる前に粒子となって消えた。

(;´-ω・`) 「ぐっ!!」

(;`・ω・´) 「だい……回復はやはり、再生型か……痛みは?」

(´・ω・`) 「人間と比較することは出来ませんが、気絶するほどではありません。
       ところで、再生型とは……?」

261 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:56:43 ID:pz3qYf6M0

嘘だ。
叫びたいほどの激痛があった。だが、意識をしっかりと保てている分、人間と比べればやはり鈍いのだろう。
再生し終わった今でも、背中を流れる冷や汗が止まらない。
話題を逸らしたのは、それに気づかれないようにするためだった。

(`・ω・´) 「私とワカッテマスの研究では、不死には幾つかのパターンが予測されていた。
       大きく分ければ二つ。再生型と再構成型だ」

再生型は欠損した部位を放棄し、新たに生み出すもの。
再構成型は欠損した部位がそのまま元の肉体に戻ってくること。
再構成型の回復であれば、失った部位をそのまま隔離されてしまえば、治癒が不可能になるという欠点がある。

(`・ω・´) 「つまり、ショボンの不死は最高レベルに設定されているということだ。
       極端な話、全身を細切れにされても回復する。さらに、存在固定によって核を不要としているから……」

有難いような、知りたくないような情報だった。
人間のような化け物だと、今まで自分のことを理解していたが、
そんなのはまるっきり勘違いだ。

262 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 17:58:10 ID:pz3qYf6M0

この回復性能は、ただの化け物だ。
その事実が重くのしかかり、思わず閉口した。
それが心配をかけてしまうことはわかっていたが、受けた衝撃はあまりにも大きい。

(´・ω・`) 「……」

(`・ω・´) 「いや、余計な説明だったな。すまない、こんな実験に突き合わせてしまって。
       もう上にあがってゆっくり休んでくれ」

(´・ω・`) 「いいのですか? 必要なら……」

(`-ω-´) 「君自身に左腕を切り落とさせたことで、私の罪悪感はもう振り切れそうだ。
       これ以上の再生試験は必要ない」

(´・ω・`) 「失礼します」

自分の部屋に戻り、ベッドに横になる。
まだわずかに左腕が震えていた。
死なないからと言って、死の恐怖がないわけではない、か。

263 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:00:21 ID:pz3qYf6M0

自分自身のことですら、わからないことがまだ多くある。
その説明もいずれ御主人様がしてくれるだろう。
僕は彼の知識をすべて与えられているが、まだそれに慣れていない。

子供に良く切れるナイフを与えたようなものだ。
御主人様の下で、僕はこれから多くのことを学ばなければならない。

この力の使い方を。

264 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:01:29 ID:pz3qYf6M0

・  ・  ・  ・  ・  ・



ζ(´ー`*ζ 「しょーぼーん!!」

(´・ω・`) 「なんでしょう、デレーシア様」

彼女が屋敷に帰ってきたのは三日前。
両腕で大量の買い物を抱え、ひどく御主人様に怒られていた。
暫く不貞腐れて部屋にこもっていたようだが、ようやく出てきたようだ。

ζ(゚ー゚ ζ 「ショボンからもパパに言ってもらえない?
        少しお菓子を買いすぎただけなのに……」

(´・ω・`) 「あれほどの量を買ってこられては、御主人様が怒るのも仕方ないかと思いますが」

僕らが生活するための資金は、全て御主人様の錬金術で賄われている。
彼が発明した薬や道具は非常に高く売れるが、その一方で素材を仕入れるのにもお金がかかっているのだ。
一歩間違えれば生活が立ち行かなくなる可能性もあり、浪費は咎められるべきことだろう。

265 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:02:10 ID:pz3qYf6M0

ζ(゚ー゚#ζ 「ショボンもパパの味方なの!? バカ! 嫌い!」

だが、それを幼いデレーシア様に伝えるのは難しい。
乱雑に叩き付けられた扉で、部屋の中の小物が幾つか被害を受けたようだ。
倒れた飾りつけを元通りに起こし、少女の後を追うべきか考えていた。
追いかけたところで、彼女を説得するだけの技量はない。

(`・ω・´) 「はっは、ショボンも駄目だったか」

ベッドに座り込んで考えていると、御主人様が部屋に入ってきた。
どうやら考え込みすぎて扉を叩く音には気づかなかったみたいだ。

(´・ω・`) 「申し訳ありません」

(`・ω・´) 「なに、あの頃の子供は扱いが難しいものだ。せめて母親がいてくれればいいのだが……」

デレーシア様の母親は、数年前に病で亡くなっている。
幼い彼女はその事実を受け入れられず、塞ぎ込んでしまっていた。
そんな彼女も時と共に自然と笑顔を取り戻す。

266 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:03:26 ID:pz3qYf6M0

(`・ω・´) 「ショボン、デレーシアと話をしに行ってもらえるか?」

(´・ω・`) 「ですが、僕は彼女を説得する術を持ちません」

(`・ω・´) 「彼女と話してやるだけでいいんだ。父親では、駄目なときもある」

(´・ω・`) 「……わかりました」

どのような気持ちで御主人様はそんなことを言われるのか。
彼女にとって唯一無二の肉親に勝るものなど、僕にはないと思う。
それでも、頼られたのならばこたえなければいけない。
それが僕自身の役目であるから。

(`・ω・´) 「彼女は自分の部屋にいるだろう。階段を上がって突き当たり右側の部屋だ」

頷き、言われた場所に向かう。
二階の一番奥、右側の部屋の前で少し考える。
来たはいいものの、どう声をかけたものか。

267 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:04:36 ID:pz3qYf6M0

考えていても動けないし、取り敢えず軽く扉を叩く。
人が来たのには気づいていたのか、返事はすぐにあった。

「誰……?」

(´・ω・`) 「ショボンです、デレーシア様。先程はすいませんでした」

何故謝っているのか自分でもわからなかったが、自然と口をついて出てきた。
どうせ対策を考えてきているわけでもないので、勢いに任せることにする。

「入っていいわ」

(´・ω・`) 「失礼します」

女の子らしい部屋のベッドで、布団にくるまって丸まっている少女がいた。
顔が隠れて見えないが、恐らく泣いていたのだろうと声から察しが付く。

(´・ω・`) 「デレーシア様……?」

ζ( ー *ζ 「なに?」

268 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:05:36 ID:pz3qYf6M0

呼びかけにはこたえてくれるが、布団から顔は出してくれない。

(´・ω・`) 「お菓子、少しいただけますか?」

ζ( ー *ζ 「机の上にあるから、好きなだけ持っていって」

少女の机の上に山と積まれたお菓子は、日持ちのするものばかり。
確か、前回彼女が町に行ったのは……。
その時、僕はまだ生まれていなかったが、二月以上前だと思い出すことができた。

それから体調を崩し、随分と長いこと療養生活を余儀なくされていたのだ。
少女が少しでも楽しいものを買い込みたいと思うのも仕方がない。

(´・ω・`) 「御主人様には、僕から話してみます」

ζ(゚ー゚*ζ 「ほんと……?」

(´・ω・`) 「わかってくれると思いますよ」

ζ(-ー-*ζ 「うん……」

269 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:07:42 ID:pz3qYf6M0

やっと布団から顔を出した少女。
涙の痕で目が腫れているが、少しだけ笑ってくれていた。

少女を説得し、一緒に階段を下りて主人の部屋に向かう。
手をつがなぐようにせがまれて、小さな温もりを包み込む。

(´・ω・`) 「失礼します、御主人様」

(`・ω・´) 「ショボンか、入ってくれて構わないよ」

いつもより少し重たく感じる扉を開けると、椅子に座って研究書を書き込んでいた。

(´・ω・`) 「御主人様、差し出がましいことを言うようですが、
       デレーシア様が買い込んだお菓子のこと、許してあげてください」

ζ(゚ー゚ ζ 「パパ……ごめんなさい……」

(`・ω・´) 「ふー……わかった。丁度いい。ショボン、そのお菓子分だけ稼いでみなさい」

(;´・ω・`) 「稼ぐ、ですか?」

(`・ω・´) 「裏の森には錬金術の素材になるものが多くある。
       それを採取し、錬成することで街で販売できるものを作ってみるということだ。
       身体の方はどうもないようだから、一つのテストだと思ってくれ」

270 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:09:01 ID:pz3qYf6M0

その提案は唐突なものであったが、僕自身が望んでいたことでもあった。
自分の持ちうる知識でどれほどのことができるのか。
コピーされた知識で新たな発見が出来るのかどうか。

恐らく、御主人様も同じことを考えているだろう。
僕を見つめる眼が悪戯っぽく光ったのを見逃さなかった。

(´・ω・`) 「では、早速行ってきてもいいでしょうか?」

(`・ω・´) 「研究室は私の部屋の方を使いなさい。器具は好きに使っていい。
       私は暫く資料を纏めることに専念するから」

(´・ω・`) 「ありがとうございます」

(`・ω・´) 「ああ、それと、森に入るときは二つ気を付けておくべきことがある。
       一つ目は、肉食植物が群生しているエリアに近づかないこと。
       二つ目は、未発見の素材を見つけた時は、その扱いに細心の注意を払うこと。
       わかっているね?」

(´・ω・`) 「はい」

271 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:12:20 ID:pz3qYf6M0

裏の森は広大で、御主人様ですら探索しきれないほど。
弟のワカッテマス様の方が詳しいようなのだが、生憎とまだ戻っていないらしい。
近場で素材を探せば、別段危険なことはないだろうし、
そもそも死にはしないのだから、何事も試してみるのがいいだろう。

(´・ω・`) 「では、行ってきます」

ζ(゚ー゚*ζ 「ショボン……気をつけてね……」

(´・ω・`) 「ええ、行ってまいります。デレーシア様」

裏口から外に出ると、目と鼻の先に森へ通じる道がある。
長い年月をかけて、御主人様が創り出した探索用の道。
有害な植物が生えないよう、凶暴な獣が近づかないよう、錬金術の仕掛けが施されている。

道なりに進んでいけば、すぐに森の中へと足を踏み入れることになる。
陽の光が葉の隙間から零れ、多様な緑の世界を照らし出す。

この森の中では五感がより一層刺激される。
それがひどく心地いい。

272 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:14:19 ID:pz3qYf6M0

(´・ω・`) (さて、何を創ろうか……)

考えなしに館を出てきてしまった。
歩いていれば何か面白いものが見つかるだろう、とか考えながら。
別に期限を設けられたわけでもないし、取り敢えずは散策してからでも遅くはない。

歩きやすいように整えられた道は、奥に奥にと進んでいく。
曲がりくねった道のせいで、背中の屋敷は森に隠れて見えなくなった。

森の中は錬金術の為に造られたのかと思うほどに、多種多様な植物がある。
市場には行ったことがないが、植物系のものであれば、こちらの森で採取したほうが確実に品数が多いはずだ。

足元には黄色く小さな花を咲かせる緋蜜花。
繁栄するために得た、獣が嫌う匂いを出す蜜は、逆に自らの首を絞める結果になった。
生き物が近寄りたがらないせいで受粉できず、その姿を見なくなってきている。

この森で生き残っている理由は、御主人様からの知識の引継ぎがなければわからなかっただろう。
花の周りを飛んでいる黒い小さな蝶が、その受粉を助けている。
烏蝶は御主人様が研究の副産物で生み出した新種。

研究で使うための緋蜜花を裏の森で栽培するために創り出された。

向こうの樹に巻き付いてるのは首狩り草。
丁度人間の首の高さくらいに鋭利な葉を生やすため、森の中では気を付けなければならない。

273 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:15:42 ID:pz3qYf6M0

天の滴、七星テントウ、鋸草、獅子草、狐樹、三ツ眼甲、針金蟲……

奥に進めば、選びきれないほど次々に素材が見つかる。
この中からいくつかを使って、売れるようなものを作らなければならない。
高価ではなく、理解しやすく、使いやすく。

辺りを見回しているとき、後ろから物音が聞こえ振り返る。
獣でも迷い込んできたのだろうと、借りた剣の柄に手をかけていたが、全く予想外だった。

(;´・ω・`) 「デレーシア様!?」

ζ(^ー^*ζ 「ショボン……来ちゃった」

(;´・ω・`) 「この森は安全ではありません。何かある前に帰りましょう」

ζ(゚ー゚*ζ 「でも、素材を持って帰らなきゃ……」

(´・ω・`) 「また来ればいいことです。さ、屋敷に戻りましょう」

デレーシア様の病状は決して軽くない。
最近は落ち着いてきているため、外出も許可されているが、それにも多くの条件がある。
危険な森の中へ一人で向かうことを御主人様が許可するわけもなく、
勝手に僕を追ってきたのは明らかだった。

274 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:18:05 ID:pz3qYf6M0

連れ帰るために、振り返って二、三歩歩いた時、
茂みから黒い影が飛び出して来て、突然の衝撃に為すすべもなく、突き飛ばされた。
何が起きたのか気づいた時にはもう遅く、少女の華奢な喉元に銀色の刃があてがわれていた。

ζ(゚ー゚;ζ 「っ!!」

気が緩んでいたとはいえ、こんな状況になるなんて予想できたはずもない。
僕ら以外の人間が、見ず知らずの人間が、この森にいたなんてことは。

「はぁ……はぁ……へへへ……やった……おい……お前」

(#´・ω・`) 「その娘を離せ!」

どこか虚ろな男の眼は焦点があっていない。
僕の方を見ているようで、眼球は細かく震えている。

「お前っ、命令するな。俺はお前に用がある」

ζ( ー *ζ 「ショボンっ!」

「喋るな!! て、手が滑ったら困るだろうが」

275 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:19:25 ID:pz3qYf6M0

(;´・ω・`) 「何の用だ」

どう見てもまともじゃない男の相手をするつもりはないが、
何かの拍子で、デレーシア様に危害を加えられるわけにはいかない。
大人しく話を聞いてやることで少しでも落ち着くなら、その方がいい。

「け、剣を捨てろ……」

(´・ω・`) 「抵抗はしない、だからその娘を離してやってくれ」

腰に結んでいた剣を解き、投げ捨てる。
鞘に入ったまま地面に転がる剣を、男は森の茂みに蹴り込んだ。

これで僕は丸腰。
対して相手は白銀のナイフ。
背負った荷物の中にもまだ武器が入っているのだろう。
これだけの明白な差がありながら、未だ声が掠れているのは何故だ。

「はぁ……う、動くなよ……」

276 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:20:06 ID:pz3qYf6M0

デレーシア様が人質に取られている限り、抵抗する気など毛頭ない。
どうせ痛みも傷も一瞬で消えるのだから。

(´・ω・`) 「何が目的だ」

「し、質問には答えない。そのまま、跪け」

言われた通りに、両膝を地面に落とす。
男は慎重に一歩ずつ近づいて来る。

ζ(;ー;*ζ 「ショボン……逃げ……」

「ひひっ……これで……」

(;´メω・`) 「がぁっ!!」

衝撃と激痛。
男のナイフが心臓を貫いていた。

(´-ω・`) 「……」

277 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:21:11 ID:pz3qYf6M0

「は?」

それでも倒れない僕に、男は顔をみるみる引き攣らせていく。
心臓の鼓動に合わせて、真っ赤な血液が傷口から溢れる。
ナイフが引き抜かれた瞬間、再生する。

(´-ω-`) 「はぁっ……まだ、やるか?」

男が驚愕している隙に、その拘束を逃れたデレーシア様は、向こうの茂みからこちらを窺っていた。
それでいい。彼女さえいなければ、何も躊躇うことはない。

「ど、どういうことだよ……お前……ば、化け物!!」

(;´・ω・`) 「っ!!」

闇雲に振り回されるナイフが、目を抉り、鼻を削ぎ、頭蓋に当たって割れた。
武器を失った男は、顎を震わせながらその場に立ち尽くす。

再生を終えた僕は男を組み伏せ、その首に体重を用いて圧力をかける。
抵抗らしい抵抗をせず、泡を吐いて意識を失った。

278 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:22:08 ID:pz3qYf6M0

僕を襲ったことをどうというつもりはないが、デレーシア様を襲ったことは許しがたい。
このまま森の肥料にしてしまうのがいいだろうか。

ζ(゚ー゚;ζ 「ショボン!」

(´・ω・`) 「なんでしょうか、デレーシア様」

両腕で男の首を押さえたながら、少女の方に振り向く。

ζ(゚ー゚;ζ 「その人、どうするの?」

(´・ω・`) 「このような危険な人間は放っておけませんので……。ひとまず、屋敷に戻って頂けませんか?
       ここからはさほど遠くないはずです」

複数犯の可能性も考えたが、こんな会話もまともにできない奴と組もうとする奴などいないだろう。
安全のために、先に屋敷に戻ってもらうように話した。
これから起こることをデレーシア様には見てもらいたくない。

ζ(゚ー゚*ζ 「ショボン、大丈夫よね?」

(´・ω・`) 「ええ、勿論」

279 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:22:48 ID:pz3qYf6M0

「ぐぐげげ……」

じたばたと両手両足を振り回して抵抗する様は、子供に捕まった虫のよう。
デレーシア様の姿が見えなくなってから、僕は右手を振り下ろした。



・  ・  ・  ・  ・  ・



(;`・ω・´) 「ショボン、何かあったのか?」

森から戻ってきた時、玄関で御主人様に会った。
僕の服は泥まみれなだけでなく、何か所も切り裂かれていたこともあり、驚かせてしまったようだ。
その状態で隠し通せるわけもなく、デレーシア様についてのこと以外をすべて話した。

(;`・ω・´) 「そんなことが……この場所を知っている人間は多くないんだが……」

(´・ω・`) 「男は正常な判断能力をほとんど失っているようでした。
       自力でここまで来るのは不可能かと思います」

280 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:25:05 ID:pz3qYf6M0

(`・ω・´) 「わかった、気を付けておくよ。
       ところで、課題の方はどうだね?」

(´・ω・`) 「一応、いくつかの試案があります。早速試させてもらってもいいでしょうか?」

トラブルがあったとはいえ、その後に必要な素材の採取はきちんと行ってきていた。
アイデアを出来るだけ早く形にしたいとも思う。
この"好奇心"と呼ぶ気持ちは何とも度し難いのだと、僕は御主人様に話した。

(`・ω・´) 「その気持ちが強い人間ほど、錬金術師として大成する。
       それだけの知識を持つ君なら、なおさらだ。
       研究室はすぐにでも使ってくれて構わないよ」

(´・ω・`) 「有難うございます」

初めての錬金術への期待を胸に、研究室へ向かう。
屋敷の一番奥にある二つ並んだ部屋。

左側にある片方はワカッテマス様が使用している。
常に鍵がかけられていて、本人以外は誰も入ることができない。
何を研究をしているのかは、御主人様ですら知らないようだ。

右側の扉を開け、中に集めてきた素材を持ち込む。

281 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:26:01 ID:pz3qYf6M0

(´・ω・`) 「よし、始めよう」

煙雀の巣を丁寧にほぐす。
この雀が巣を作るために分泌する特殊な素材は、糊としての役割を果たす。
蝋樹の樹液と混ぜて二、三日置くことで、その効果はさらに強力になる。

(`・ω・´) 「ショボン、いつまでしているんだ?
       そろそろ晩御飯の時間だが……」

錬金術に没頭していると、御主人様に声をかけられた。
どうやら集中しすぎて、時間の経過に全く気づかなかったようだ。

(´・ω・`) 「もうそんな時間になるのですか?」

(`・ω・´) 「デレーシアも待っている。早く来なさい」

(´・ω・`) 「わかりました」

食堂に向かうと、机には既に料理が並べられていた。
そのどれもが、普段のものよりも若干形が悪い。

(´・ω・`) 「これは……?」

ζ(^ー^*ζ 「私が作ったのよ」

(;`・ω・´) 「どうやら本当らしい。さっきメイドの一人に聞いてみた」

282 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:26:55 ID:pz3qYf6M0

(´・ω・`) 「美味しそうですね」

ζ(-ー-*ζ 「私はショボンのこと手伝えないし、少しでも助けになればと思って……」

今朝、森の中でのことを言っているのだとすぐに分かった。
僕が彼女のことを話していれば、御主人様に大分怒られていただろう。

(`・ω・´) 「だ、そうだよ。錬金術の方はうまくいきそうかね?」

(´・ω・`) 「ええ、二週間もあれば完成すると思います」

(`・ω・´) 「せっかくデレーシアが作ってくれたんだ。冷めてしまう前に食べよう」

開いたままの椅子が一脚。
ワカッテマス様の席は、いつも空のままだ。
その視線に気づいたのか、御主人様がその理由を教えてくれた。

研究室に篭り気味で、好き嫌いが多いワカッテマス様は、どうやら錬金術で食事を作っているらしい。
僕の知識の中にはその類のものはなく、一体どんなものを食べているのか気になる。
その心を読まれたようだ。

283 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:27:48 ID:pz3qYf6M0

(`・ω・´) 「何、見た目はなかなかだが、口にすれば味と栄養は抜群だ」

ζ(゚Λ゚*ζ 「私の料理より?」

若干不貞腐れたように口をとがらせるデレーシア様。
それを宥めるように、御主人様は首を振った。

(`・ω・´) 「錬金術の料理は確かに美味しいが、料理に一番必要なのは愛情だよ」
 
ζ(^ー^*ζ 「私のはあいじょーがたっぷり入ってるもの!」

実際に、少女の料理は美味しかった。
メイドも手伝ったのだろうが、それをわざわざ言うのは野暮というものだ。
一時間ほど談笑し、料理もほぼすべての皿が空になった。

デレーシア様は慣れない料理をして疲れたのか、さっきからうとうとしている。
御主人様に頼まれて、そんな彼女を二階の部屋まで運び、再び食堂に降りてきた。

(´・ω・`) 「僕は研究室に戻ろうと思います」

(`・ω・´)「人間よりは丈夫だが、あまり無理はしないようにな。私は寝室にいる。
      何か困ったことが有ればいつでも来なさい」

(´・ω・`) 「はい」

284 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:55:23 ID:pz3qYf6M0

研究室では、採取してきたものをいくつか加工しておく。
保存に適した形状にしたり、効能を高める薬品に漬けておいたり、だ。
今回の錬金術では使うつもりはないが、他の用途は数多くある。

深夜遅くまで小瓶の様子を見守り、状態が安定したのを確認してから少しだけ寝ることにした。
御主人様に錬金術を課されてから、食事や風呂、排泄の時間以外は、常に研究室にいた。
素材に対する研究をしているだけで、時間はあっという間に過ぎていく。

下準備で一週間以上が経過した。
小瓶の錬金術が完成し、ここからは僕のオリジナルになる。
まさに錬金術師としての実力が問われるところだ。
確実に成功させるために、幾つかのストックを用意しなきゃいけない。

捕まえてきた生きた水蜥蜴の腹を割ると、透明の液体が溢れ出て来る。
水蜥蜴の体液はキラキラと小さな粒子が輝く特殊なもの。
それを三つの小瓶に分けて、それぞれ異なった作業を行った。

弱火で長く温め続けた瓶、氷水に着けて冷やした瓶、藁束を入れて常温で放置していた瓶。

一週間が経過して最も想定していた状態に近くなったのは、予想通り、温め続けた瓶だった。
液体がほとんど蒸発し、残ったのは柔らかい小粒。

285 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:56:38 ID:pz3qYf6M0

これに加えて、初期のころに作っていた煙雀の錬成品と複数の素材を混ぜ合わせる。
粒状の物質が見えなくなるまで続ける。

これは、人間の皮膚とほとんど同じ成分になっているはずだ。
肌色に染めるためのエキスを少し、そして固形にならないように研究室にあった不乾剤を加える。

(´・ω・`) 「……できたっ!」

|゚ー゚*ζ 「ショボン……?」

デレーシア様が、扉から顔を半分だけ覗かせている。
ここ二、三日はずっと来ていたが、邪魔をしないようにと気を使ってくれていたのか、
部屋に入ってくることも、話しかけられることもなかった。

(´・ω・`) 「デレーシア様」

ζ(゚ー゚*ζ 「入ってもいい?」

(´・ω・`) 「どうぞ、危ないのであまり机には近づかれないように」

ζ(゚ー゚*ζ 「何を作ったの?」

286 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:57:19 ID:pz3qYf6M0

(´・ω・`) 「そうですね……解りやすく言うのなら傷隠し、です」

特性のケースに入った粘性のある肌色の物質。
指に少し取り、それを肌の上に塗るように引き延ばす。

(´・ω・`) 「こうやって、肌に直接塗ることで大きな傷を隠すことができます。
       僕のようなホムンクルスには必要ありませんが、人間には役に立つかと」

ζ(´ー`*ζ 「ん~~~~~」

デレーシア様は酸っぱい物食べたかのように口をへの字にして、眉間に皺ができるほど眉を寄せる。
そうまでして言ったのはたった一言。

ζ(^ー^*ζ 「びみょー」

(;´・ω・`) 「ぐっ……」

流石にこれは効いた。
二、三週間の努力の結果が、その評価なのは納得もできない。

287 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:57:59 ID:pz3qYf6M0

(;´・ω・`) 「いえ、これは別に洗って落とす必要もありませんし、肌に塗る違和感もないです。
       健康を害すわけではなく、臭いも当然なく……」

必死の言い訳は、途中で断ち切られた。

ζ(゚ー゚*ζ 「ショボン……もっと派手なのかと思った」

露骨に肩を落とす少女。
彼女とて錬金術師の娘である。
この錬金術がそこまで大きな仕掛けのないものであると見抜いているだろう。

だけど、大事なのは派手さではない。
新たな発想を求められての結果なのだから、別に問題はないはずだ。
この錬金術ならば巷で売れるだろうとも思う。

(´・ω・`) 「今から、御主人様に見せるつもりです。一緒に行きますか?」

ζ(゚ー゚*ζ 「いえ、私は読みかけの本があるから。
        部屋に戻ることにする。パパがなんて言ったか、結果は聞かせてね」

(´・ω・`) 「わかりました」

288 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 18:58:40 ID:pz3qYf6M0

随分と長いこと錬金術に打ち込んでいたし、彼女なりに心配してくれていたのかもしれない。
二階の部屋に戻っていく少女を見送ってから、御主人様の部屋を叩いた。

「入りなさい」

いつもと同じ優しい声。
錬金術を行っている間はずっと、頭の中で他のことを考えながら聞いていた。
たった二週間だが、ちゃんと面と向かって話すのは久方ぶりにも思える。

(`・ω・´) 「出来たかね?」

(´・ω・`) 「はい、これです」

完成品を差し出す。

(`・ω・´) 「どんな効果かな」

僕は、デレーシア様にしたのと同じ説明を繰り返す。
御主人様は確かめるように肌に塗った後、入れ物を机の上に置いた。
試験ではなかったはずだが、どのような感想がもらえるのか、僕は珍しく緊張しているらしい。

289 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 19:00:53 ID:pz3qYf6M0

一拍置いて発現された御主人様の一言に、流石の僕も動揺を隠せなかった。

(`・ω・´) 「売れるか売れないかは……実のところ、どうでもいいのだよ」

(;´・ω・`) 「えっ」

(`・ω・´) 「この課題はね、今までにないようなものを作る、ということをして欲しかった。
       勿論、十分な結果を出してくれた。
       傷を治す錬金術は数多くあれど、できてしまった傷を隠す錬金術は私は聞いたことがない。
       これは人体に害はないのだろう?」

そうとわかっているかのように聞いてくる。
そこらの術師程度では、見ただけで錬金術の中身までわかるとは思えない。
御主人様の錬金術師としての才は、誰も届かないところにあるのではないだろうか。

(´・ω・`) 「勿論です」

(`・ω・´) 「せっかく作ってくれたのだから、街に持っていってみよう。
       デレーシアはあまり興味がなかったのは、彼女がまだ若いからに他ならない。
       街の女性には、この錬金術は喜ばれると思うよ」

290 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 19:01:44 ID:pz3qYf6M0

(´・ω・`) 「出来上がった錬金術は小さな木箱に積め、保存しておけば日持ちします」

今まで通りの予定なら次の街行き便まで、まだしばらくある。
腐るようにはなっていないはずだが、日光や空気で劣化するかもしれない。

(`・ω・´) 「後でやっておいてくれ。
       さて、話は変わるが……」

僅かに、御主人の顔色が険しくなった。
先程との雰囲気の変化を肌で感じ、頬を引き締める。

(´・ω・`) 「なんでしょう」

(`・ω・´) 「今日からはしばらく、二つの日課を過ごしてもらう。
       ……一つ目は察している通り、錬金術の向上だ。
       君はいずれ私すら届かない高みに登っていくことだろう」

(´・ω・`) 「いえ、御主人様を越えるなんてことは……」

(`・ω・´) 「私は今この時が全盛期になる。だけど、君はこれからもずっとそうだからね。
       たゆまず努力しなさい。それこそが未来を切り開く力になる」

291 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 19:03:09 ID:pz3qYf6M0

(´・ω・`) 「……わかりました」

(`・ω・´) 「二つ目は……生き残るための力を得るために時間を割いてもらう」

生き残る、といってもホムンクルスは不死の存在であり、誰にも殺すことはできないはず。
御主人の言っている意味僕にはがわからなかった。

(`・ω・´) 「戦う力を身に付けなさい。誰かを守れるような強さを」




(`・ω・´) 「不老不死では、誰も救えない」

292 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 19:06:13 ID:pz3qYf6M0













22 アタラシキイノチ  End


295 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/05/24(日) 19:09:04 ID:pz3qYf6M0
【時系列】

  ???
   ↑
   ↓
22 アタラシキイノチ 誕生編
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです 少女編
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです   
8 ホムンクルスと少女のようです
   ↑
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   │
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   │
3 ホムンクルスは抗うようです
   │
4 ホムンクルスは救うようです
   │
5 ホムンクルスは治すようです
   │
9 ホムンクルスは迷うようです
   |
10 ホムンクルスと動乱の徴候 戦争編・前編
11 ホムンクルスと幽居の聚落
12 ホムンクルスと異質の傭兵
13 ホムンクルスと同盟の条件
14 ホムンクルスと深夜の邂逅
15 ホムンクルスと城郭の結末

17 ホムンクルスと絶海の孤島 戦争編・後編
18 ホムンクルスと怨嗟の渦動
19 ホムンクルスと戦禍の傷跡
20 ホムンクルスと不在の代償
21 ホムンクルスと戦争の終結
   │
    │
16 ホムンクルスは試すようです

303 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/05/27(水) 22:35:14 ID:7DIHY55g0

・緋蜜花 血のように紅く濁った蜜が抽出できる、小型の宿根草。
     蜜は甘いが強力な中毒性があり、食用にはできない。常飲すると目が真っ赤になり錯乱状態に陥る。
・烏蝶 大人の爪ほどの大きさしかなく、赤い眼以外は真っ黒な蝶。一般的な烏蝶は眼の色も黒である。、
    シャキンの家の裏で繁殖しているのは、錬金術によって緋蜜花の中毒になっている。
・首狩り草 森の中で所々に生えている鋭い葉。樹木に寄生して成長している。
      別名、死神の鎌とも呼ばれ、森の中で迷う大人が何人も犠牲になった。
・天の滴 とある植物の茎に溜まった水。正しく採取しなければ毒素があふれ出てしまい、人間の生命を脅かす。
     根を傷つけずに採取することが条件であるが、非常に精緻な作業で難易度が高い。
・七星テントウ 真っ黒な羽に、七つの黄色い点が浮かんだテントウムシ。他のテントウムシとの違いは、
        その美しさだけである。錬金術の素材としては、代わりがきく下等なもの。
・鋸草 ギザギザの葉を生やす草。見た目は鋭く見えるが、強度が全くないため実際には紙も切れない。
    空気中の水分をよく吸うため、錬金術では主に乾燥材として用いられる。
・獅子草 森の中、決まった場所に鬣のように荒々しく生えており、その錬金術的用途は幅広い。
     獅子草が生えるところには必ず死体が埋まっている。つまり、彼の草は森の中で力尽きた人間の墓標である。
・狐樹 幹の中に大きな空洞がある円筒形の樹木。動物の住処となっていることが多く、
    そのほとんどが狐であるため、こう呼ばれている。非常に柔らかいが対候性は高い。
・三ツ眼甲 他種のカブトが持つ角のある場所に、眼球に似た水晶のようなものがあるカブトムシ。
      液体の錬金術に素材として用いると、水晶が色を吸い込み透明に変えてしまう。
・針金蟲 針金のように細く、硬い虫。動いている状態を見たことが有る者はおらず、
     どうやって移動しているのか、何を食べているのか、個体数の増減はあるのか、未だ不明。
・煙雀 灰色の雀。飛ぶ時は翼にある器官から煙を出すために煙雀と名付けられた。
    煙には諸説あり、同種のつがいへのメッセージだとする説が現在最も濃厚。
・煙雀の巣 泥や藁で造られているとは思えないほど艶やかな巣。一切の凹凸がなく、鏡のように反射する。
      煙雀の唾液は全く異なる素材同士を親和させ、整える効果があるためだ。
・蝋樹 樹液はアルコール分を含み、良く燃える。細いため、一本あたりから採取できる量は少ない。
    蝋樹の樹液を用いて造られたお酒は、最高級品である。呑みすぎれば財布と口から火を噴くだろう。
・水月蜥蜴 身体のほとんどが水分だという蜥蜴。生きたまま捕まえることが出来る者は、
      錬金術師から多額の富を得ることができる。死んでしまえば貴重な体液が漏れ出してしまうからだ。



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