(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
- 467 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/08/02(日) 14:09:56 ID:omP2D9aw0
25 シズカナムクロ
- 468 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:11:09 ID:omP2D9aw0
鳴り響く剣戟の音は、くぐもっていて鈍く重い。
刃の付いた金属の武器では、大怪我に繋がりかねないため、
今は木製の剣でぶつかり合っていた。
一歩踏み込み二・三度剣を振るえば、追撃を気にしながら後ろに下がる。
その繰り返しだ。
上段中断下段、横薙ぎ振り下ろし、突き足払い、
いくつもの攻め手は、やはり防ぎきられてしまう。
(;´・ω・`) 「ふぅ……」
休憩の意思を示すために、構えていた剣をおろす。
それに合わせるかのように、ワカッテマス様もまた構えを解いた。
振り回していた木刀は、重量も握った感触も本物と変わらず、技術を磨くのにはちょうどいい。
ほぼ一月前、ワカッテマス様がこれを用意してくださったときには驚いた。
そんな優しさがあるとは思っていなかったし、
金属武器では怪我をさせてしまうかもしれないほどには上達した、
ということを認められたようだったから。
- 469 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:14:38 ID:omP2D9aw0
袖で汗をぬぐい、日陰に腰を下ろす。
ワカッテマス様は、屋敷の方角を見ながら立っている。
研究の様子が気になるのかもしれない。
そんなことを思いながら、大きく息を吐いた。
剣の技術は、日増しに確実な上達をしている。
その実感を握りしめ、作ってもらった木刀を観察しながら寛ぐ。
御主人様の心配をよそに、ワカッテマス様は十日もしないうちに僕らの前に姿を現した。
単純に疲労によって熱が出ていたせいだそうだ。
それならそうと言えばいいのだが、大事ないと判断して一人で部屋にこもっていたという。
廊下にはその間もずっと錬金術の音が聞こえていたが、食事でも作っていたのかもしれない。
せめて話だけでもしてくれたらと思ったものだが。
こうして、剣の稽古を再び受け持ってもらい今に至る。
一つ気になることと言えば、やけに質問してくるようになったこと。
今までは一日まったく会話しないこともざらにあったが、今では御主人様とよりも長く喋っているかもしれない。
- 470 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:15:30 ID:omP2D9aw0
錬金術において言えば、御主人様の右腕として知識と経験を蓄えてきたワカッテマス様に、
つい数か月前に生まれたばかりの僕が敵うわけがないと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
記憶総量と検索時間は、ホムンクルスには全く及びません。
とは、ワカッテマス様の言葉。
錬金術そのものであるホムンクルスの身体は、その知識が染み込みやすく、
人間の脳を効率よく使えるため、検索の速度がけた違いに早い。
つまり
(;´・ω・`) 「辞書代わりですか……」
( <●><●>) 「時間がもったいないのです。人間の使える時間は限られているので」
(´-ω-`) 「僕の時間と権利は……」
- 471 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:16:50 ID:omP2D9aw0
深夜叩き起こされること三回。
食事中に研究室まで引っ張られていくこと八回。
新薬の実験と称して謎の薬品を飲まされること十五回。
これがたった一月の間に行われていた。
( <●><●>) 「この研究が終わるまでの辛抱です」
何か文句を言えばこの調子だ。
研究に利用されているにもかかわらず、一体何をしようとしているのか全く教えてもらえない。
不意を衝こうと、座った状態から一気に駆け寄る。
振りぬいた木刀は、しかし止められていた。
はぐらかされている苛立ちを剣にぶつけてみても、かえってくるのは虚しい打撲音と鈍痛。
(;´ ω・`) 「……っつつ」
( <●><●>) 「雑念は剣を重くするだけです」
- 472 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:18:32 ID:omP2D9aw0
腕をさすりながら立ち上がる。
服の袖から覗く青痣は、滲むように消えていく。
茂みに飛んでいった木製の剣は、すぐに拾いにいかなくてもいい。
(´・ω・`) 「大分上達したとは思うのですが……」
( <●><●>) 「正直、後数か月もすれば完全に上回られてしまうでしょう。
その学習能力の高さ、羨ましいですよ」
(´-ω-`) 「そう……ですかね……」
( <●><●>) 「血の滲む様な努力、そんな簡単なことは誰でもできます。
あなたのその能力は……努力すら必要としない」
(;´・ω・`) 「そんなことは……」
ない、と言い切れないほどには僕は自身のことを知っている。
成人男性よりも優れた筋肉。
繊細な指先は、微妙な数量調整が必要な錬金術には必須。
教えられたことをすぐに覚えることができる柔軟性。
- 473 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:21:18 ID:omP2D9aw0
そして……永遠に朽ちることのない精神と身体。
挙句、その知識の素は最高峰の錬金術師であるシャキン・フォン・ホーエンハイム。
このことを知れば、錬金術師は誰もが羨むだろう。
( <●><●>) 「その特長の一部でさえ手に入るのなら千金以上の価値があります。
到底無理な話ですがね」
(´・ω・`) 「ワカッテマス様なら、可能ではないのですか?」
( <●><●>) 「……」
御主人様と共に僕を創り出した錬金術師。
兄である御主人様に勝るとも劣らないほどの知識。
僕のぶしつけな質問に対する無言は、長く続いた。
( <●><●>) 「私は、ほとんど何もしていないのです」
- 474 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:22:33 ID:omP2D9aw0
(´・ω・`) 「……?」
僕の記憶には、御主人様とワカッテマス様が二人で研究をしている姿がある。
これは、ホムンクルスを生み出した時ではないのだろうか。
( <●><●>) 「ホムンクルスは……ショボン、あなたはシャキン兄さんが殆ど一人で創り出したのです。
私がしたのは、頼まれた調合品をいくつか用意しただけです。
ですから、不老不死の秘術については……全く知らないのですよ。全く、ね」
(´・ω・`) 「そうだったのですか……」
( <●><●>) 「兄さんも、一人だけで完成させたのではなさそうですが」
(´・ω・`) 「新緑元素、ですか」
御主人様はその素材をかつて扱ったことが有ると言っていた。
僕の記憶には直接残されていないけれど、恐らくホムンクルス錬成の時ではないだろうか。
なれば一つの疑問が浮かび上がる。
- 475 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:25:16 ID:omP2D9aw0
ついこの前、御主人様の娘であるデレーシア様を病から救うために僕たちは森の最奥に向かった。
そこにあったのは新緑元素と呼ばれる錬金術における最高の素材。
簡単に手に入るものではないことを、僕らはよく知っていた。
いくら優れた術師とはいえ、体力は人並み。
剣術はワカッテマス様に及ばない御主人様が、創森熊と出会って無事に戻ってこれるわけがない。
御主人様のことは勿論尊敬しているが、これは客観的な事実。
では、どうやって手に入れることができたのか。
( <●><●>) 「ショボン、あなたですら知らないのですね」
(´・ω・`) 「僕の記憶には……」
( <●><●>) 「隠されるだけの理由があるのでしょう」
胸が痛んだ。
針で刺されたほどの、ほんの小さな傷。
ワカッテマス様の言葉が、無意識に飲み込んでいた事実をじわりじわりと浸食していく。
- 476 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:26:59 ID:omP2D9aw0
たった一つの矛盾が、脳から全身に回る。
病毒がそうであるように、通り道にあるものを手あたり次第に壊しながら。
そこに正常な判断などなく、ただ流れるままに論理をくみ上げていく。
傷口を縫い合わせる様な、乱雑なやり方で。
( <●><●>) 「気にしても仕方のないことです。
答えなど……解るはずもないのですから」
背を向けて歩いていくその足音は、やけに大きく聞こえた。
- 477 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:28:46 ID:omP2D9aw0
・ ・ ・ ・ ・ ・
森の中、一人佇んでいた。
ホムンクルスの肉体には、どのような傷を残すことは出来ない。
手足を?がれようと、頭を跳ねられようと。
しかし、その精神は人間のように柔らかだ。
感情を得るために、人間と同じように考えることができるように、そう生み出された。
悩み、苦しむこともあれば、喜び、楽しむことができる。
だが、哀しみに暮れてしまえば不老不死の身体は地獄の檻となり、
忘れることが出来なければ、熱湯の窯で焼かれ続けるようなもの。
それ故に、御主人様はホムンクルスの精神を人間よりも優れたものにした。
人間のそれよりも、ずっと強靭に。
ホムンクルスは不安や心配で傷つくことがあっても、立ち直れるように。
破滅願望に押しつぶされてしまわないように。
- 478 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:30:42 ID:omP2D9aw0
今、僕が動けないのには……動かないのには別の理由があった。
ワカッテマス様が残した言葉。
一人だけで完成させたのではない、と。
その協力者の存在が、ワカッテマス様だけでなく僕にまで隠されているということ。
知る必要のないことなのか、知ってはいけないことなのか。
ワカッテマス様ですら知らないその人間。
(´・ω・`) (いや……協力者なんていなかったのかもしれない)
あくまで、ワカッテマス様がそう思った、というだけのこと。
それを証明するかのように、不老不死の秘術は確かに僕の中にある。
だから疑うことではない。
(´・ω・`) 「デレーシア様?」
ζ(゚ー゚*ζ 「ショボン、何をしているの?」
- 479 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:32:07 ID:omP2D9aw0
薬を飲んでからというもの、デレーシア様は一人で歩き回るようになった。
森の中でさえ、屋敷から近いところであれば許可されている。
出歩くことが増えたせいで、部屋に並べてある大量の書物を読み切る頃には、
もう大人になっているかもしれない。
それがいいことなのかどうかは、彼女が決めることだ。
(´・ω・`) 「訓練を終えましたので、少し休んでいました」
僕自身は、あれから錬金術に触れていない。
かなり長いこと研究室に篭っていたせいもあり、試験管を握る気になれなかった。
そんな中でも、御主人様は研究に没頭している。
デレーシア様のために創られた薬から、新たな効果を生み出すために。
今度こそ、完治した、とそう言えるように。
ζ(^ー^*ζ 「今度街に行ってきてもいいって言われたの。
ショボン、一緒に行こっ」
- 480 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:34:00 ID:omP2D9aw0
(´・ω・`) 「わかりました。予定は決まっているのですか?」
ζ(^ー^*ζ 「ぜんぜん!」
(´・ω・`) 「では、屋敷に戻りましょう。予定を立ててからでないと、御主人様も許してくれないと思いますよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「わかったわ」
先程まで考えていたことなど、とうに頭の隅に追いやられていた。
デレーシア様が街に行って楽しむためには、どういう予定を立てたらいいか。
話を聞くと今までは菓子屋くらいにしか行ったことがないらしい。
街に何があるのか、僕はあまり知らないしそれも御主人様に聞いてみよう。
ζ(゚~゚*ζ 「でも、予定ってどうすればいいの」
屋敷に戻ってすぐ、デレーシア様の部屋に連れてこられた。
わざわざペンと紙を用意している。
- 481 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:38:05 ID:omP2D9aw0
(´・ω・`) 「そうですね、ではまず出発の日時を決めましょう」
ζ(^ー^*ζ 「明日朝!」
(´・ω・`) 「いきなりですね」
ζ(゚ー゚*ζ 「早い方がいいじゃない」
街に行くだけでも五日はかかる。
まずは馬車の用意、服の用意も必要だし、緊急時にための準備。
移動している間の食事にはお金も必要だ。
屋敷に飼っているのは馬一頭。
少女には馬で移動する旅は耐えられないだろう。
(;´・ω・`) 「せめて一週間以上先くらいですよ……」
ζ(゚Δ゚*ζ 「えー。まぁいいわ。それじゃあ来週ね!」
白紙だった予定表の一番上、来週、と少女が書く。
日付で書いた方がいいと思うが、訂正するほどのことではない。
- 482 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:40:28 ID:omP2D9aw0
ζ(゚ー゚*ζ 「それでそれでっ」
少女が予定を立てるはずが、何故か僕が予定を立てることになってしまっているようだ。
それでデレーシア様が納得いくのであれば、別にかまわない。
(´・ω・`) 「そうですね……滞在期間でしょうか」
ζ(´ー`*ζ 「一ヶ月くらい?」
(;´・ω・`) 「長すぎますよ……」
毎月、メイドが調味料や保存食を仕入に行くのに、街に滞在するのは二日。
合計で二週間ほどの旅路。
今回は遊びに行く旅行であることを考慮しても、滞在期間でほぼ一週間。
移動も合わせて三週間くらいが最大限だろう。
ζ(´ー`*ζ 「一週間かぁ……短いなぁ」
(´・ω・`) 「街に行く機会はこれからもずっとあります。今はこのくらいでいいのでは」
ζ(゚~゚*ζ 「むぅ……。ショボンが言うなら……仕方ないなぁ」
- 483 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:42:33 ID:omP2D9aw0
紙の真ん中に一週間、と書き込む。
後は街でしようと思うことなどを書いておけば大丈夫だろう。
デレーシア様に考えておくように言い、御主人様の部屋に向かった。
二人だけで相談したところで、許可が下りねば意味はなく。、
僕自身は街での過ごし方など、わからないことも多い。
(´・ω・`) 「すいません、よろしいでしょうか」
ノックと同時に声をかける。
中から聞こえていたペンの走る音が止まり、扉が開く。
(`・ω・´) 「どうしたんだね」
(´・ω・`) 「少し、お聞きしたことが有りましたので」
(`・ω・´) 「中に入りなさい」
勧められた椅子に座り、デレーシア様の旅行のことを聞く。
- 484 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:46:34 ID:omP2D9aw0
(`・ω・´) 「街に行きたがっていたからね、今なら大丈夫だし……。
それに、ショボンを誘うだろうと思っていたからね」
こうして訪ねてくることも予想通りだったようだ。
机の上は書きかけの錬金術書の束。
丸められ捨てられたど紙の量を見るに、どうやら捗っていないらしい。
それもそうだ。
新しい錬金術を発見することすら容易ではない。
それが、凶悪な病気の完治を目的とするもであれば、尚更。
(´・ω・`) 「一週間ほどを予定しているのですが」
(`・ω・´) 「そのくらいがいいだろうね。馬車はこちらで手配しておくよ
出発予定はいつかね」
(´・ω・`) 「来週中くらいかと思っています。
それで、お聞きしたいのは街に行ってどうすればいいかです」
- 485 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:48:30 ID:omP2D9aw0
(`・ω・´) 「基本的にはデレーシアの自由にさせてあげなさい。
錬金術師の店だけは絶対に訪ねていけないよ」
錬金術師の店の出入り禁止。それは予想してなかったことではない。
店の中に入って、他の錬金術師と話をしてみたいとは思っていたが、
それは許されないことだ。
僕の存在が知られてしまえば、もうここには住んでいられなくなる。
不老不死という、錬金術の最高峰。
その錬金術を知りたいと願う者は多く、少女や御主人様に危険が及んでしまう。
街にいる錬金術師のほとんどは有象無象であり、さして気に留める必要はない。
ちょっとした技術で日銭を稼いでいるだけ。
御主人様の足下にすら及ばない彼らに看過されることはないだろう。
だが、極僅か。ほんの一握り。街にも高名な錬金術師がいる。
各分野に特化した程度ではあるが、ホムンクルスに気付いてしまうかもしれないという。
- 486 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:51:21 ID:omP2D9aw0
(`・ω-´) 「それだけは、気を付けてくれ」
(´・ω・`) 「わかりました」
僕だってこの生活を奪われたくはないし、
捕まって実験動物以下の扱いを受けるのもごめんだ。
痛みには慣れたとはいえ、それを喜ぶほどの変態性も持ち合わせていない。
(`・ω・´) 「デレーシアなら服屋、菓子屋、本屋、花屋、飾り物屋、くらいだろうね。
今まではあんまり街で自由には出来なかったから、その反動で騒いでいるだけだ。
一週間もしないうちに飽きると思うよ」
(´・ω・`) 「食事や宿はどうすればいいでしょうか」
(`・ω・´) 「私の知り合いがやっているところがある。紹介文を書いてあげよう。
部屋は広いし、食事もおいしい」
(´・ω・`) 「有難うございます」
- 487 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:52:40 ID:omP2D9aw0
頭を下げている時に、ふと、今朝のワカッテマス様の言葉が脳内を過った。
顔には出さなかったつもりだけれど、御主人様は何かに気づかれてしまったようだ。
(`・ω・´) 「何か他に聞きたいことが有るかな」
(´・ω・`) 「いえ……それではお嬢様と相談してきます」
言葉を濁して退室した。
その質問には意味がないと、よくわかっている。
御主人様がわざわざ隠したことを教えてくれるわけもなく、
知ったところでなんだというのだ。
御主人様が最高の錬金術師だと常々思っているが、
世界の広さは頭の中に入っている。
そこには無数の人間がおり、それぞれの地に合った錬金術が行われているだろうことは、
予想に難くない。
これ程便利な技術が一カ所にとどまっていると考える方が無理がある。
- 488 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:55:23 ID:omP2D9aw0
だからこそ、御主人様が世界で最も優れていると、断定はできない。
それでもそう信じたい僕が、協力者の存在を拒む。
(´・ω・`) (プライド……かなぁ……)
自分の親が最も優れていてほしい。
自分を創り出した存在が誰にも負けないでほしい。
そうすることで、自らの優位性が認識できるから。
あまり自分の性格について考えたことはないが、
存外、負けず嫌いなのかもしれない。
(´・ω・`) 「お待たせしました」
少女はベッドで横になり、本を読んでいた。
僕が入ってきたことに気付くと、緩慢な動作で栞を挟みベッドに座る。
ζ(゚ー゚*ζ 「パパと話してきたの?」
(´・ω・`) 「ええ、色々と教えていただきました」
- 489 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 14:57:46 ID:omP2D9aw0
ζ(゚ー゚*ζ 「そっ、それじゃあこれで大丈夫かな」
少女が掲げたのは、予定がたっぷり詰め込まれた紙。
隅っこまで利用して事細かく書き込んである。
それを確認し、幾つかを訂正した。
錬金術の店には立ち寄れないし、サロンはまだ少女には早い。
ζ(゚Δ゚*ζ 「えー錬金術の店には行けないの?」
(;´・ω・`) 「すいません、御主人様が決められたことですので……」
ζ(-ー-*ζ 「うーん、仕方ないかなぁ。お金の管理とかはお願いね」
(´・ω・`) 「御主人様が、デレーシア様に幾らか自由に使わせてあげるように言われていました。
もう二、三日したら、八天極樹の≪双天聖鳳≫が咲きます。
その一部をもっていけば路銀には十分だと御主人様が」
ζ(^ー^*ζ 「そしたら、まずは採取に行かないとねっ」
- 490 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:00:38 ID:omP2D9aw0
明後日の約束を交わし、部屋を後にする。
少女が楽しむためには、自分に何ができるか考えながら。
・ ・ ・ ・ ・ ・
(`・ω・´) 「お金は持ったかね?」
(´・ω・`) 「はい」
(`・ω・´) 「何かあった時の連絡はこれでしなさい」
御主人様に手渡されたのは、薄い円盤の結晶。
内部に黒い塊が無数にありながら、表面はすべすべとして手触りが良い。
(´-ω・`) 「なんですか、これは」
- 491 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:04:12 ID:omP2D9aw0
(`・ω・´) 「共鳴石英に鳴黒曜を埋め込んだものだ。
共鳴石英は一塊から切り出した欠片全てに同じ響きを共振させる。
限界はあるのだろうが、以前街と屋敷で試した時には使えたから大丈夫だろう」
(´・ω・`) 「成程、鳴黒曜が音をより正確に伝えるのですね」
ζ(゚ー゚*ζ 「つまり、遠くの人と話せるということ?」
(´・ω・`) 「そのようです。持っていきましょう」
荷物用の袋に仕舞い、馬車の荷台を開ける。
デレーシア様が昇るのを手伝い、飛び乗った。
(`・ω・´) 「気を付けていってらっしゃい」
ζ(゚ー゚*ζ(´・ω・`) 「はい、行ってくるわ(きます)」
- 492 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:05:55 ID:omP2D9aw0
動き始めると不定期にがたがたと揺れ、初めての振動には強い不快感があった。
馬に乗るのとはまた違った揺れ。
慣れないうちは前を向いていないと酔ってしまいそうになるな。
そう思っていたのだが、如何せん、話しかけてくるお嬢様を無視するわけにもいかず、
その結果……
(;´ ω `) 「うえっぇ……」
十数分と経たずに、込み上げてくる嘔吐感を無理やり抑え込む羽目になった。
デレーシア様の前で粗相をするわけにはいかない。
ζ(゚ー゚;ζ 「吐かないでよ……」
(;´ ω `) 「すぐに……慣れると思います……」
ζ(^ー^*ζ 「ショボンが馬車駄目だなんて知らなかった」
- 493 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:09:47 ID:omP2D9aw0
得意の再生力も継続的な揺れにはあまり意味をなさない。
外の風が少しでも通るように、馬車の横幕を持ち上げた。
頬を撫でる風のおかげか、幾分楽になる。
気を効かせてくれたのか、デレーシア様は暫く黙って外を眺めているだけだった。
ζ(゚ー゚*ζ 「ねぇ、ショボン」
小一時間もすれば慣れ、顔色もだいぶましになったように思う。
自分でそう判断しながら、返事をする。
(´・ω・`) 「なんですか」
ζ(゚ー゚ ζ 「変な話を……してもいいかな」
酔いでわずかに鈍った頭でも、先程からデレーシア様が何か考えていたことはわかっていた。
馬車の中には二人しかおらず、無言は長く続く。
街道をゆく外の景色は、先程から全く変わらない。
- 494 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:11:29 ID:omP2D9aw0
遠く森と山を後ろへ置き去りにして進む。
こちらに目を向けることもなく、少女は話を続ける。
ζ(゚ー゚*ζ 「あのね……眠っていた時なんだけど」
ひと月ほど前、少女は病魔に侵され深い眠りについていた。
全く目を覚ますことがなく、それこそ"死んだよう"に。
ζ(-ー-*ζ 「ぼんやりと夢の中でね……誰かに会っていたの。
起きてから夢だってことに気付いたんだけどね」
(´・ω・`) 「誰か……ですか。
それは御主人様では?」
ζ(-ー-*ζ 「ううん、パパじゃなかった」
少女は横に首を振る。
波打つ金髪がふわりと揺れ、肩に戻った。
躊躇いはなく、確固たる自信があるようだった。
- 495 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:13:24 ID:omP2D9aw0
ζ(゚ー゚*ζ 「パパはね、いつも手を握ってくれる時に両手で包んでくれるの。
夢の中の人は、片手で握ってくれてたから……」
(´・ω・`) (ワカッテマス様……は違うか)
あの人が病床の彼女の傍にいるはずもないし、
そんなイメージすらないのだから、夢には出てこないだろう。
同じように、僕も違う。
少女と出会ってまだ数か月。
打ち解けてもらっているためあまり気にしていないが、たったそれだけの期間しか経っていない。
ζ(゚ー゚*ζ 「誰だったのかなぁ……」
(´・ω・`) 「夢の中ですから、現実には存在しない人かもしれません」
ζ(゚ー゚*ζ 「うーん、なんとなくなんだけどね、私の知ってる人だと思ったの。
あっ、この人なんだって。もう会えないと思ってたけど、傍にいてくれてよかったぁって」
- 496 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:15:28 ID:omP2D9aw0
(´・ω・`) 「誰なんでしょうね」
少女からそれだけの信頼を得ている人間なんて、僕は知らない。
余計なことは言わずに黙っていたけれど、やっぱりそれは空想の人物だったのではないかと思う。
夢の中ではいくつもの記憶が混濁する。
性別が違ったり、背格好が違ったり、そんなことがよくあると、本に書いてあった。
ζ(´ー`*ζ 「やっぱり、わからないよね」
残念そうに肩を落とす少女。
僕が答えてくれると期待してくれていたのかもしれない。
なんとなく気まずくなり、無理やりに言葉を作った。
(´・ω・`) 「……双天聖鳳は綺麗でしたね」
旅に出る数日前、咲き誇った双天聖鳳の小さな花びらを二人で集めていた。
燈色の花弁は日に数度、柔らかく暖かな光を放つ。
枝から離れてしまえば、発光することもなくなってしまうが、
それでも結構な値段で売れる。
- 497 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:16:09 ID:omP2D9aw0
特殊な採取をしなければすぐに黒ずんでしまうため、
僕たちにとって丁度良い稼ぎになってくれる。
ζ(^ー^*ζ 「うん! 双天聖鳳が綺麗に咲くのは数年ぶりなんだって。パパが言ってた」
(´・ω・`) 「綺麗に咲かないことが有るのですか?」
ζ(゚ー゚*ζ 「えっとね……確か、雨の日に咲くと、葉が黒ずんじゃうの。
そのせいで、橙と黒がまばらになっちゃって、病気の木みたいになるんだって」
(´・ω・`) 「それはそれで興味ありますね。ぜひ見てみたいです」
ζ(゚ー゚*ζ 「私は去年見たけど、なんか変なだったよ。
すぐに散っちゃったしね」
「すいません、ホーエンハイム家の方」
会話に割り込んできたのは、御者の好々爺。
前の席に座っており姿は見えないが、
確かにホーエンハイムと名を呼ばれた。
- 498 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:18:17 ID:omP2D9aw0
その名を持つのは少女一人であるが、そんなことを御者は知らない。
呼びかけに答えるのは僕の役目だろう。
(´・ω・`) 「なんでしょうか」
一拍置いて返事をする。
仕切りの向こうにいるため、外の様子はわからない。
何かトラブルでも起きたのかと心配になったが、どうやら予想は半分当たってたようだ。
最悪から数えればだいぶマシな部類だろう。
「どうも人が倒れておりまして……乗せていただいてもよろしいでしょうか」
(´・ω・`) 「構いませんか?」
ζ(゚ー゚*ζ 「ええ」
(´・ω・`) 「大丈夫です」
暫くして馬車が止まり、後ろのカーテンが開かれる。
入ってきたのは、背の高い女性だった。
- 499 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:20:04 ID:omP2D9aw0
「すいません、街に向かっていたのですが、途中で意識を失ってしまいまして……」
(´・ω・`) (錬金術師……か……?)
紺の外套に動きやすい白シャツ長ズボン。
両手には革の手袋。靴は足首までを保護するブーツ。
それだけなら旅をするときの一般的な格好に過ぎない。
その腰のベルトに結ばれた短剣は、おそらく錬金術によるものであり、
抱えた鞄の中からは嗅いだことのある臭い。
揺れる度にガラスがぶつかるような音がしているのは、試験管が入っているからだろう。
lw´‐ _‐ノv 「街に着いたら何かお礼を……しますよ」
(´・ω・`) 「いえ、お気になさらず」
長い茶髪は肩までかかっており、蜘蛛の巣が張り付いている。
それに気づいた少女がひきつった笑みを浮かべているのを見て、指摘することにした。
lw´‐ _‐ノv 「あぁ、これはどうも」
- 500 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:21:15 ID:omP2D9aw0
ζ(゚ー゚*ζ 「ねぇ、お姉さんはどこから来た人?」
lw´‐ _‐ノv 「難しい質問ですねー。生まれ故郷は遠く離れたところにあります。
両親が旅行好きだったので。今はこの先の街で店を開いていますよ。
シウ・コークリアって言う名前で、」
ζ(゚ー゚*ζ 「なんのお店?」
lw´‐ _‐ノv 「錬金術ですよー。お二人とも錬金術師ではないのですか?
その服に錬金術の痕跡が見えますが……」
(´・ω・`) 「いえ、僕らの父親が錬金術師で、作ってもらった服なので」
旅に出ている間は、僕とデレーシア様は兄妹であることにしていた。
その方が余計な争いに巻き込まれにくいし、
連れの者がいる少女など、お金持ちの令嬢だとしか思われず、
盗人や悪人の標的になるおそれがあるからだ。
lw´‐ _‐ノv 「へぇ! 是非お話をしてみたいなぁ」
- 501 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:23:53 ID:omP2D9aw0
(´・ω・`) 「ところで、どうしてまた町の外へ?」
lw´‐ _‐ノv 「素材の採取ですよー。君も将来錬金術師になるのなら、
必ずやらなくちゃいけないことだからね」
(;´・ω・`) 「はぁ……」
おそらくこの女性よりも、僕の方が何倍も詳しいだろう。
それを知られるわけにもいかず、なんとも適当な返事をしてしまった。
だが、女性の錬金術師ということもあり、デレーシア様は興味があるらしく、
身を乗り出して次々と質問をしている。
それに嫌がることなく、女性は一つ一つ丁寧に答えてくれた。
ζ(゚ー゚*ζ 「なんの素材ですか?」
lw´‐ _‐ノv 「いやぁ、それがねぇ……」
鞄の中をひっくり返すように探し始める。
そんなに乱雑に扱って大丈夫なのか心配になるほどに。
それだけでも、女性の錬金術師としてのレベルがよくわかった。
- 502 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:24:34 ID:omP2D9aw0
だけど……
lw*´‐ _‐ノv 「これこれ! 採取に出て、記憶を失って……気づいたら持ってたんだよねぇ」
取り出されたのは貝殻。
二枚貝の形状をしているそれは、外は純白、内はこの世に存在する全ての色と言われている。
無限の光を放つその貝の名前は、天海珠殻。
(;´・ω・`) 「……ッ!」
思わず声が出そうになるのをこらえる。
ζ(゚ー゚*ζ 「きれーな貝殻」
lw´‐ _‐ノv 「ですねぇー一体何に使うのやら」
御主人様の持つ書物。
その後ろ三十枚の一つ。
新緑元素と同等レベルの素材。
- 503 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:25:36 ID:omP2D9aw0
内容をすべて覚えているわけではないが、天海と呼ばれる場所でしか採取できないはず。
天海もまた、唐突に現れては消え誰もその出現を特定できない。
lw´‐ _‐ノv 「助けてもらって、ご一緒させてもらったお礼で、この綺麗な貝殻をお嬢さんにあげます」
ζ(^ー^*ζ 「ほんとに? ありがとー!」
(;´・ω・`) (嘘だろ……価値もわからないのか……。
いや、そんなものかもしれない。天海珠殻それ自体は特別な性質を持っているわけではないし。
錬金術の素材として使わなければ、ただの貝殻だ)
lw´‐ _‐ノv 「お名前をお聞きしても?」
(;´・ω・`) 「あ……ええ……ショボンです。こちらが妹の」
ζ(^ー^*ζ 「デレーシア・アウレ・ホーエンハイムです」
lw´‐ _‐ノv 「よろしく、私の名前はシウル・スナオ・コキラ」
その名前を聞いた瞬間、頭に浮かんできた情報があった。
- 504 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:26:27 ID:omP2D9aw0
(;´・ω・`) 「もしかして、コキラ一族……」
lw;´‐ _‐ノv 「恥ずかしいなぁ……知ってたの?」
(´・ω・`) 「父親から聞いたことが有ります。初代錬金術師の一族だと」
この世で初めて錬金術を用いた一族。
コキラの名は最も有名な錬金術師と言って差し支えはない。
現在においては、うまく錬金術の継承が出来ていなかったのか、
その技術は他の術師と大差ない、そう御主人様は言っていたが……。
lw;´‐ _‐ノv 「私は末端の末端でねぇ……日銭を稼ぐのがやっとだよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「でも、女の人で錬金術師って少ないんですよね?
すごいと思いますっ!」
lw´‐ _‐ノv 「いやぁーたまに貴重な素材を持って帰れるから、それを売っているだけだよ。
ほんと、意識がないので二度と取りに行けないのが残念……」
突然の同乗客だったが、
夜に馬車を止めた時は食事の準備を手伝ってもらい、
昼はデレーシア様の止まらない質問攻めに、飽きもせずに答えてくれた。
シウルという名のその女性のおかげで、少女は道中を退屈せずに過ごせたようだ。
- 505 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:27:44 ID:omP2D9aw0
・ ・ ・ ・ ・ ・
小刻みな振動にとっくに慣れた頃、鐘の音が微かに聞こえた。
草木が踏みつぶされ轍の残った土道が終わり、切り出された四角い岩で舗装された道路に乗る。
揺れが細かくなり、車輪と蹄音が大きくなった。
lw´‐ _‐ノv 「もうすぐ街ですね」
ζ(゚ー゚*ζ 「大鐘楼だっ!」
何度か来たことが有るデレーシア様は、その音をよく知っているようだ。
きっかり三回鳴り終わった後、ゆっくりと草原にとけていった。
(´・ω・`) 「時刻を報せる鐘ですか?」
lw´‐ _‐ノv 「大鐘楼が鳴らされる時は決まって、人が死んだ時。それも、偉い人がね」
- 506 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:28:47 ID:omP2D9aw0
ζ(-ー- ζ 「……」
lw´‐ _‐ノv 「気にしないで。この音を観光に来ている人がほとんどだから。
広場のしらせを見ないとわからないけど、たぶんコキラ爺さんでしょ」
(´・ω・`) 「コキラってことは……」
目の前に座る女性と同じ苗字。
恐らくは親戚だろうが、どうしてこうも落ち着いていられるのか。
lw´‐ _‐ノv 「あー気にしなくていいよ。有り得ないくらい長寿だったし、そろそろだと思ってたんだよね。
コキラ一族は何故かみんな長生きだから、死とかの間隔も薄れちゃうんだ」
ζ(゚ー゚ ζ 「そんな……」
lw´‐ _‐ノv 「さって、私は戻ったら葬式に出ないといけないからね。御二人とも、どうもありがとう。
もし滞在中に暇が有ったら、私の店に顔出してよね」
いつの間にか街の門にたどり着いていたらしく、女性は軽やかに馬車から飛び降りていった。
店を訪ねろと言われても、その場所すら聞いていないのだが、
どうせ僕らが向かうことはない。
- 507 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:29:54 ID:omP2D9aw0
門を過ぎれば、商業区に差し掛かる。
馬車はここまでで、後は歩いて宿まで向かわなければならない。
御者にお礼を言い、馬車を下りる。
騒がしい声と人波に流されそうになりながら、少しずつ中心街に向かっていく。
デレーシア様とはぐれてしまわない様に、手を繋ぎながら。
ζ(゚ー゚*ζ 「あの……お、お兄ちゃん!」
(´・ω・`) 「デレーシアさ……」
途中まで言いかけて止める。
今は兄と妹なのだから、様づけで呼ぶのはどう考えてもおかしい。
デレーシア様が急に立ち止まり、軽く手を引かれる。
ζ(゚ー゚*ζ 「どこまで行くの? お店すぎちゃったよ?」
(´・ω・`) 「まずは宿に向かいましょう。荷物も置かなければ」
ζ( ー *ζ 「ぷっ……ふふふっ……」
- 508 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:31:42 ID:omP2D9aw0
急に笑い出すデレーシア様。
訳も分からず困惑していると、しばらくしてようやく笑い止んでくれた。
ζ(^ー^*ζ 「敬語は変だよ。兄妹なんだから、ね? お兄ちゃん」
兄と呼ばれることにこそばゆく思いながらも、少女の言う通りだと思う。
妹に敬語で話す兄は少なかろう。
(´・ω・`) 「宿は昼のうちに入っておけば鍵がもらえるからね。
夜に向かって宿屋の主人が寝ているようなことが有れば、野宿をしなきゃいけない。
それは嫌だろ?」
ζ(゚Δ゚*ζ 「いやっ!」
(´・ω・`) 「まぁ、商業区から近いみたいだし……」
右手に地図を持ちながら、入り組んだ道を歩く。
太陽の角度で何度か方角を修正しながらたどり着いた宿屋は、豪華絢爛な外装をしていた。
扉をくぐってみると、飾りっ気がなく質素だが、しっかりとした造りをしている。
外見で客を呼び寄せ、宿泊は気楽にしてもらおうというのだろう。
- 509 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:32:31 ID:omP2D9aw0
「らっしゃい、夫婦かな? いや、兄妹で旅行かな?」
この地方は昔から戦争や飢饉がなく、他所に比べるとかなり安全だ。
僕らのような若い二人組で歩いていても、さほど不思議には思われないほどには。
宿屋の主は、フロントに座ったまま出迎えてくれた。
(´・ω・`) 「いえ、案内状を持ってます。父のシャキンからです」
「ん? シャキンってぇと錬金術師のシャキン・ホーエンハイムか?」
(´・ω・`) 「はい」
「なんだ、随分と久しぶり手紙をよこすと思ったら、子供二人に旅行させてるのか。
後で読んどくよ。おいで、部屋に案内してあげよう」
(´・ω・`) 「お願いします」
恰幅のよい宿屋の主は、その髭をいじりながら、ずんずんと歩く。
置いて行かれない様に若干足早になりながらその後を追う。
- 510 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:34:13 ID:omP2D9aw0
ζ(゚ー゚*ζ 「パパの知り合いなんだね」
(´・ω・`) 「うん、長年の付き合いだって言ってたよ」
話が聞こえたのか、尋ねもしないのに主人は教えてくれた。
「俺とシャキンの野郎が知り合ったのは、今からもう三十年以上前になる……。
ここじゃなくてもっと戦乱にまみれた国だった。
当時は結構無茶をしたもんだ。あいつはこっちに来た途端ささっと結婚しちまったがな。
俺は未だに独り身よ。っと、この部屋だ」
足元まで丁寧に掃除しているのだろう。
南向きに窓のある部屋は、汚れ一つない。
ζ(゚ー゚*ζ 「きれーな部屋!」
「ほんとは予約客限定なんだが、まぁ丁度空いていたところだ。
好きに使ってくれ。あんまり汚さないでくれよ」
- 511 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:34:59 ID:omP2D9aw0
(´・ω・`) 「ありがとうございます」
「あ、あと、食事は朝晩出している。必要なら食堂まで食べにおいで。
街の地図は部屋の机に置いてあるから、それは自由にしてくれて構わない」
玄関から入って右側にあるのが食堂だと教えてもらった。
ここら一帯の商業中心区であるため、様々な種類の食材を取り扱っているのだということも。
ζ(゚ー゚*ζ 「今日夜から行く?」
(´・ω・`) 「オーダー制だからなぁ……まぁ、二人ならそんなに食べないか」
宿屋の食事は、テーブルに向かいルームナンバーで食べられるのだそうだ。
お金は退去時にまとめて支払う必要がある。
つまり、その分は計算して残さなければならないということだ。
年端もいかぬ少女と、ホムンクルス。
必要な食事量は、一般の宿泊客よりもはるかに少ないだろう。
それならば、多少値のはるものであっても旅行費用を圧迫したりはしないはずだ。
- 512 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:35:49 ID:omP2D9aw0
「どうぞごゆっくり。困ったことが有ればいつでも声をかけてくれ」
御主人はご機嫌な鼻歌まじりにフロントに戻っていった。
どすどすとうるさい足音が次第に小さくなっていく。
ζ(゚ー゚*ζ 「ねぇ、お店に行こうよ!」
(´・ω・`) 「荷物は隅に集めておいてください。貴重品は僕が持ちます。
何か持って出るものはありますか」
ζ(゚ー゚*ζ 「鞄ならもったわよ?」
肩掛けの鞄は少女の父親手作りのもの。数冊の本が入るほどの大きさで、薄いピンク色。
持ち手の辺りに兎のような二つの耳が誂えられた品で、少女のお気に入りだ。
なかなか外に持っていくこともできなかったそれを、嬉しそうに肩から下げていた。
(´・ω・`) 「では行きましょうか」
- 513 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:37:16 ID:omP2D9aw0
鍵をしっかりと閉め、宿を後にした。
商業区に向かう道は大きく分けて二つ。
宿が面したメインストリートを真っ直ぐ南下する道と、
大鐘楼を経由して向かう道。
後者の方は遠回りになるが、幾つかの観光施設も一緒に回ることができる。
(´・ω・`) 「どちらがいいですか」
ζ(゚ー゚*ζ 「大鐘楼!」
少女は、問いかけに被せる様にして答える。
街で最も有名な大鐘楼は、錬金術で造られたものだと地図の備考欄に書かれていた。
数百年以上前、それこそ錬金術の概念が普及する前から存在したものであり……
と説明されているが、その真偽は定かではないようだ。
- 514 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:51:22 ID:omP2D9aw0
大きさも、重さも、その当時の技術力では造れなかったのではないか。
その疑問を解消するための一つの道筋が錬金術によるものだということだろう。
ζ(゚ー゚*ζ 「それから、錬金術歴史館と大図書館には行きたいかな」
(´・ω・`) 「時間はたっぷりあります。一つずつ回っていきましょう。
まずは、大鐘楼からですね」
大鐘楼は宿から歩いて十数分の所にあるウィムナース教会に飾られている。
入り口には白い球体が飾られており、それを目的に観光に来るものも少なくない。
表面は流れる水のようなデザインで、夏でもひんやりとした冷気を発している。
その直径のゆうに三倍はあろうかという池の中で、上半分を覗かせていた。
ζ(゚ー゚*ζ 「投げた球をウィムナースに乗せることができた人には幸せが訪れるんだって!」
観光客向けのガイドブックを読みながら説明してくれるデレーシア様。
どこで手に入れたのか、全く気が付かなかった。
付近を見渡すと、幾つか小玉の売り場がある。
- 515 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:52:35 ID:omP2D9aw0
(´・ω・`) 「あっちで球を売っているみたい」
ζ(゚ー゚*ζ 「なら二つ買いましょ」
(´・ω・`) 「わかったよ」
列に並んで待っている間も、多くの観光客がチャレンジしては失敗している。
球体の表面は見た目よりも滑りやすいらしく、小玉もまた跳ねてしまう。
皿状の台の上とはいえ、乗せるのはなかなか至難の業のように思えた。
「次のお客さん、どうぞ」
(´・ω・`) 「二つください」
「はい、これで名前を書いてから投げるんだよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「ありがとう」
- 516 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:53:54 ID:omP2D9aw0
受け取った白球にペンで名前を書く。
球面に文字は難しく、歪なサインになってしまった。
デレーシア様も納得がいかないのか、自分の分をじっと見つめていた。
ζ(゚ー゚*ζ 「まぁいいわ。投げましょ。ショボンからどうぞ」
(´-ω・`) 「じゃあ……ほっ!」
下投げで、ふわりと浮かせるように手を振りぬいた。
軽い玉はそれだけでウィムナースの頂点へと浮き上がり……
ζ(゚ー゚;ζ 「あっ!」
そのまま超えて向こう側へと落下した。
ζ(´ー`*ζ 「惜しい……」
(´・ω・`) 「うーん、もうちょっと弱く、か」
- 517 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:55:09 ID:omP2D9aw0
球体の頂点に着地させるためには、高い軌道では駄目だ。
そう思って投げたつもりだったけど、まだ高かった。
恐らく、十数回チャレンジすることが出来たら綺麗に乗せることができるだろう。
それがホムンクルスの持つ学習能力。
だけど、こういうのは一回勝負というものだろう。
あまりむきになってもしょうがない。
ζ(゚ー゚*ζ 「それっ!」
続けざまに投げられた少女の玉は、そんな計算などは全くしていなかったのだろう、
高い軌道を描いてウィムナースの頂点に落ちた。
跳ねて落ちてしまうかと思われた玉は、後からやってきた別の玉とぶつかりその勢いを殺され、
頂点付近にある小さな器の中に納まった。
途端、教会の入り口一帯は盛大な拍手に包まれた。
- 518 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:56:36 ID:omP2D9aw0
ζ(゚ー゚*ζ 「???」
その原因を引き起こした少女が、この場において最も困惑していた。
(´・ω・`) 「おめでとう」
やっと状況を飲み込めたのか、顔を真っ赤にして下を向いてしまう。
(´・ω・`) 「照れてるの?」
ζ(/ー//*ζ 「ぅ……うるさいっ!! 行きましょ!」
歓声と拍手と指笛に見送られながら、教会の扉をくぐった。
一転して、暗く静かな室内の荘厳な雰囲気にのまれる。
声が出せなかった。
隣にいる少女も同じだけの衝撃を受けたようで、口をぱくぱくとしている。
一見して質素な教会内には、規則正しく柱が並んでいる。
一本一本、全く異なる細かな装飾が根元を覆っており、
巨大な円形のステンドグラスは、外の光をほとんど遮って薄く光る。
過剰に存在を目立たせず、ふと頭上を見上げた時に気付く程度の見事な演出。
- 519 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:58:14 ID:omP2D9aw0
ζ(゚ー゚*ζ 「きれい……」
(´・ω・`) 「そうだね……」
同意することしかできなかった。
そのまま黙っていれば、心まで奪われてしまうような気がして、
ふと、思い出したことを口にする。
(´・ω・`) 「そういえば、先程は何を願っていたのですか?」
ウィムナースの球体に玉を乗せることができたものは、投げた時の願い事が叶う
それは、少女の後ろからガイドブックを覗き込んだ時に見つけた一文。
ζ(゚ー゚*ζ 「えっとね……ずっと家族で幸せに暮らせますように!って」
- 520 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 15:59:13 ID:omP2D9aw0
・ ・ ・ ・ ・ ・
(´・ω・`) 「どういったご用件ですか?」
乱入者は二人。
どちらも顔を隠すよう面をつけている。
剣の構え方から判断するならば、双方とも腕に相当な覚えがあるのだろう。
じっとこちらに向けられた剣先は微動だにしない。
(´・ω・`) 「どういった用件か聞いているんだが」
背に少女を庇う。
眠りから覚めたばかりだが、唐突な状況に意識はしっかりとしている。
部屋に唯一ある出入口を押さえられているので、逃げ出すことは出来ない。
いや、窓からなら飛び出すことは可能だが、背の低いデレーシア様は手間取ってしまうだろう。
- 521 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:00:12 ID:omP2D9aw0
その間に足止めすることは出来なくもないが、こんな時間に襲撃。
たった二人だけとは考えにくい。
であるならば、外に待ち伏せがいたとしてもおかしくはない。
僕らをホーエンハイム家と知っての襲撃なのか、それともただの通りすがりの強盗なのか。
「少女を、此方へ渡してもらおう」
(´・ω・`) 「断る」
「では、貴様の意識を断ってからそうするだけだ」
掛け声もなしに同時に向けられた殺気。
無音の踏み込みと、両側から迫る二本の剣。
避けるには部屋が狭く、背には少女もいる。
受けるには、あまりに息の合ったタイミング。
剣が一本しかなく、腕が二本しかないのでは同時に受けきるのは不可能。
- 522 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:00:52 ID:omP2D9aw0
(´・ω・`) 「と、思ったか?」
静かな夜に響き渡る二重の金属音。
「ッ!?」
(´・ω・`) 「狭い部屋だからと油断したな」
二刀を弾き、驚く隙すら与えずに一人を切り捨てた。
叫ぶ間もなくうつ伏せに倒れ、そのまま動かない。
ζ(゚ー゚*ζ 「ねぇ……ショボン……?」
(´・ω・`) 「黙っていてください」
床に染みわたっていく血液は、留まるところを知らない。
絨毯は最初からそうであったかのごとく真っ赤に色づいている。
殺さずに、そう思っていても、手加減する余裕はなかった。
一瞬の躊躇いが、デレーシア様の身の安全にかかわることだから。
怖気づいたのか、もう一人の息は荒い。
- 523 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:01:33 ID:omP2D9aw0
(´・ω・`) 「なぜ僕らを襲った」
先程の金属音はきっとフロントまで聞こえているだろう。
少しすれば、人が来るかもしれない。
どちらにも時間はない。
(#´・ω・`) 「答えろ」
「……護衛がいるとは聞いていたが、ここまでとはね」
(#´・ω・`) 「誰に!!」
「おーい、さっきの音は……ひぃい、なんだこれ……」
「ちっ!」
宿の従業員が来たのと同時に、廊下を逃げ去った。
(´-ω-`) 「……ふー」
- 524 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:02:13 ID:omP2D9aw0
「どういう……ことですか?」
(´・ω・`) 「説明します。ご主人を呼んでもらっても?」
「今、もう一人が……起こしに行っています……。
もうじき来ると……思いますので、そのままお待ちください」
緊張から解き放たれ、従業員の視線の先に気付いた。
真っ赤に汚れた剣。
足元には血だまりの中に沈むピクリとも動かない人の躰。
剣についた血液をふき取り、鞘に仕舞う。
右手を動かした時、従業員がその動作におびえているのが見えたが、
それを気にしていても仕方ない。
震える少女を励ましながら、襲撃の意図を考えていた。
少女を狙ったのは、誰かに依頼されたからか……?
でも誰が。
- 525 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:03:58 ID:omP2D9aw0
彼女を狙うことで利益を得ることができる人間がいるとは思えない。
それに、僕たちはお忍びでこの旅行に来ている。
どうやって僕らがそうだと特定したのか……。
宿の主人が来たのは、十分後のことだった。
「何があったんだ?」
鋭い目つきは、迎え入れてくれた時の主人とは全く違った。
寝巻ではあったが、腰には一本の剣を結んでいる。
かなりの修羅場を経験してきたのだと、雰囲気ですぐに分かった。
御主人様の知り合いというだけはあり、こういった荒事の対応もできるのだろう。
(´・ω・`) 「謎の二人に襲われまして、やむを得ず……」
「襲われてたのは……本当です。大きな音がしたので来てみれば、男が逃げていきました」
「ふむ……心当たりは?」
- 526 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:05:40 ID:omP2D9aw0
僕らへの疑いが晴れたのか、肌がひりつくような殺気は抑えられた。
ワカッテマス様はあまり好戦的な雰囲気を出さないため、単純な比較はできないが、
主人には同程度の実力があるのではないかと思う。
(´・ω・`) 「いえ……」
「っつーことはシャキンの関係かねぇ」
僕らはそのことを主人以外の誰にも話していない。
かといって、主人がもし首謀者であるならば、もっとタイミングはあったはずだ。
今日、ウィムナース教会に向かった後は、人通りの少ない道を通って移動していたし、
その時であったら、大多数で襲うことができる。
だから、彼らは僕らの宿だけを知っていて、行動予定を知らなかった。
そう推測することができる。
(´-ω-`) 「すいません」
- 527 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:06:57 ID:omP2D9aw0
「なに、気にすることはない。部屋のことは何とかしておこう。
ランクは落ちるが、別の部屋を用意しておく。明日、騎士教会に連絡をするから、その時にまた声をかけよう。
必要なら護衛もつけておこうか?」
(´・ω・`) 「いえ、今夜の襲撃はもうないと思います。有難いですが、お気持ちだけで結構です。
明日、騎士と話が終われば家に帰ろうかと思います」
「その方がいいだろうな。おい、部屋に案内しなさい。
片づけは私がしておくよ。なに、従軍経験があればこのくらいはなんでもないさ」
「は、はい……」
顔を真っ青にした従業人に案内され移動した先は、ランクは一つ二つ落ちるものの、綺麗な部屋だった。
心が落ち着きますから、そういって用意してくれたホットミルクを二人で飲み、
デレーシア様はベッドで横になった。
恐怖心か、なかなか寝付けなさそうにしている少女の手を握ってやり、そのまま一晩を明かした。
暖かな日差しが差し込んでくる頃には、静かな寝息を立てて少女は眠っていた。
カーテンで陽を遮り、そのまま寝かせておく。
昼過ぎに、部屋がノックされ二人の騎士が入ってきた。
- 528 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:07:46 ID:omP2D9aw0
事情を説明し、ようやく解放されたのは夕方。
宿屋の主と従業員のおかげで、僕の行為は正当なものだと証明された。
本来であれば騎士同行で数日間の取り調べがあるはずなのだが、
主人が手を回したのだと、二人の騎士がこぼしていた。
旅行の二日目はそうして終わりを迎えた。
(´・ω・`) 「デレーシア様、御話ししなければならないことがあります」
ζ(゚ー゚ ζ 「わかってる」
こんなことになってしまっては、せっかくの旅行だが仕方ない。
これ以上の滞在は危険だ。
泣きそうな顔になりながら、少女はただただ頷く。
(´・ω・`) 「先程、宿屋の主にに馬車の予約をしてもらいました。
明日の朝一番で、家に帰りましょう。
家に帰れば、御主人様も、ワカッテマス様もいます。百人力ですから!っとそうだ」
僕も動揺していたのだろう。
大事なものを忘れていた。
- 529 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:11:26 ID:omP2D9aw0
(;´・ω・`) 「御主人様?」
黒い袋から取り出したのは、出発前に御主人様からいただいた共鳴石英。
袋から出せば、此方の音が向こうに届くようになる。
「……ボン、ショボンか。旅行はどうだね?」
(´・ω・`) 「それが……」
昨晩に起きた一部始終を話した。
御主人様にも、全く予想が出来なかったようだ。
「デレーシア狙いの……仮面……全く身に覚えがない」
(´・ω・`) 「それで、明日馬車で帰ることにしました」
「それがいいだろう。街に行く機会はまたある。気を付けて帰って来なさい。
明日の道中は特に、ね」
(´・ω・`) 「わかっています」
- 530 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:12:45 ID:omP2D9aw0
連中が諦めていないとすれば、帰りの馬車は絶好の機会だ。
街を離れてしまえば人通りはほとんどなく、障害となるものは何もない。
馬車の遅い脚では、馬から逃れることもできない。
「それなら、二人で馬に乗った方がいいのではないか?」
(´・ω・`) 「一頭を買うお金には少し足りないぐらいです」
「何か売れそうなものは?」
(´-ω・`) 「えーっと……あっ!」
街に入る前、一人の錬金術師と出会った。
その女性が価値もわからずにデレーシア様にくれたものがある。
袋の底にしまってあるのは≪天海珠殻≫
錬金術師であれば、喉から手がでるほど欲しい素材なはず。
最も、これをまともに錬成出来る者がこの町に何人いるだろうか。
- 531 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:13:26 ID:omP2D9aw0
「天海珠殻……俄かには信じられんが、ショボンが言うのなら間違いはないだろう。
ぜひ持って帰ってきてほしいところだが、背に腹は代えられない。
どこかの錬金術の店でお金に換えなさい」
(´・ω・`) 「わかりました」
「帰路についたらまた連絡をしなさい。こちらからもワカッテマスを向かわせますから」
(´・ω・`) 「お願いします」
通話を終え、街に出た。
陽が落ちてきてはいるが、まだ明るい。
多くの観光客で賑わっているし、昨日のことが有ったからか、
メインストリートのあちこちに装備を整えた騎士達が立っている。
僕らは、表通りに面した大きな錬金術師の店を回っていた。
二桁の店は訪ねただろうか。
誰一人として、天海珠殻の存在を知らず、もしくは僕らがその価値を知らないと思い、
二束三文で買い叩こうとしてきた。
そんな店で売れるわけもなく、時間は刻一刻と経っていく。
- 532 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:14:06 ID:omP2D9aw0
日が暮れるまでには帰ろうと思っていたが、それも難しそうだ。
(´・ω・`) 「次の店で最後にしましょう」
人通りは少なくなってきているし、これ以上宿から離れるのは危険だ。
ζ( ー ζ 「……ええ」
(´・ω・`) 「すいません」
扉を開けると、ベルの音でこちらに気付いたのか術師の女性がこちらを振り向く。
「もう閉めようと思うんだけど……っと、あれ?」
ζ(゚ー゚*ζ 「あ! おねーさん!」
幸か不幸か、最後に訪ねたのはシウルの店だった。
丁寧に並べられた商品が、窓際に並んでいたこともあり中の様子を見ていなかった。
lw´‐ _‐ノv 「まぁまぁ、ゆっくりしていって」
(´・ω・`) 「いや、そういう訳にもいかなくて」
- 533 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:14:46 ID:omP2D9aw0
lw´‐ _‐ノv 「んーなんか事情がありそうだね。困ってる時はお互い様。何か協力できることはある?」
察しが良くて助かるのだが、全てを説明するわけにもいかない。
それに、いただいたものをくれた当人に売るなんてできるはずもなく。
どう答えたものか悩んでいると、女性は奥の部屋に歩いていった。
lw´‐ _‐ノv 「コーヒーとホットミルク、どっちがいいかな」
声だけがこちらに飛んでくる。
断ろうかと思った矢先、少女が注文してしまった。
仕方なく、自分も同じように向こうの部屋に声をかける。
ζ(゚ー゚*ζ 「ホットミルク!」
(´・ω・`) 「……コーヒーをお願いします」
「はいはーい。ちょっと待ってて」
- 534 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:19:20 ID:omP2D9aw0
知り合いの女性と出会ったことで、デレーシア様の様子が少しマシになったことは有難い。
あのまま塞ぎ込んでいられるのは見るに堪えない。
さて、どう説得したものか。
いきなり金を貸してくれなど、流石に調子が良すぎるだろう。
馬車で運んであげた恩を無理やり返してもらうことも出来なくはないが、やりたくはない。
だけどこの緊急時、あまり手段を選んでいる余裕がないのも事実。
(´-ω-`) (うーむ……)
考え事をしている間鳴っていた、
食器を並べるような音が途中で止み、女性は何も持たずに奥から出てきた。
先程の明るい雰囲気はそこに無く、カウンターの椅子に座るその挙動は、まるで別人のようであった。
不躾に僕の全身をじろじろと見て、肘をつく。
「ふーん、完成させたんだ」
.
- 535 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:20:51 ID:omP2D9aw0
(´・ω・`) 「え?」
lw´‐ _‐ノv 「いやいや、こっちの話だよー。うん、お金が欲しいんだよね?」
驚き、声も出せない僕の前に置かれたのは、金貨の入った一袋。
(;´・ω・`) 「いや、受け取れませんよ……」
彼女にいったい何の変化があったのかわからないが、
唐突に差し出されたお金を受け取れるほど、僕の性格は大雑把ではない。
lw´‐ _‐ノv 「んー、これはこの娘が知らない場所に隠してある分だから、別にこの娘は困らないよ」
(´・ω・`) 「どういう……」
lw´‐ _‐ノv 「いろいろ大変だったみたいだし、今もなんか巻き込まれてるみたいだし。
過去のそれは私のせいもあるから、ちょっとはね」
シウルの別人格とでもいうのだろうか、どうやら人の話を聞くタイプではないらしく、
自分勝手に話を進めていく。
こちらは完全に置き去りにされていて、何が何だかさっぱりだ。
デレーシア様も隣で固まっていた。
- 536 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:22:27 ID:omP2D9aw0
lw´‐ _‐ノv 「クマの背中についてたのは、私の黒い意識。その一部。
切り取って封印してたんだけどね……。まさかあれと相対するなんて思わなかったよ」
(´・ω・`) 「クマというのは……」
lw´‐ _‐ノv 「知ってるでしょ? グローイング・グリズリー。
まぁいいや。お金は受け取ったら鞄に隠して。シウルが怪しむから。
こんなとこで会えるなんて、ラッキーだった。
それじゃ、シャキンによろしくね、ショボン君」
(;´・ω・`) 「なっ……名前……」
lw´‐ _‐ノv 「ん……あーまた意識を失ってたみたいです。
お二人がいるということは、そんなに時間も経ってないのかな。
コーヒーとミルクが冷めてないといいけど……」
それは、さっきまでのシウルで、先程まで話していたものの面影は全くなかった。
頭をかきながら奥の部屋に行くのを見届けて、隠していた袋を鞄に仕舞う。
来た時よりもずっしりと重くなった鞄が、夢や幻ではなかったことを証明していた。
- 537 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:23:07 ID:omP2D9aw0
ζ(゚ー゚;ζ 「ショボン……」
(´・ω・`) 「飲み物を飲んだら帰りましょう」
ζ(゚ー゚ ζ 「うん……」
lw´‐ _‐ノv 「お待たせしましたー。特別なものじゃないけど、どうぞ」
出されたコップの中身を飲み干してから、僕らは礼を言って店を出た。
翌日朝、僕らは予定通り街を出発した。
ただ一つ、用意してもらった馬車を使わずに馬を買ったことを除いては。
馬車は馬車で、誰も載せずに僕らの家の方に向かっている。
シウルの店でもらった金貨は、これだけのことをしてもお釣りが出るくらいにはあった。
次来ることが有れば、もっとちゃんとお礼をしたい。
彼女は一切覚えていないのだろうけど。
(´・ω・`) 「お嬢様、馬は御身体への負担が大きいので、休み休み行こうと思います。
それでも、馬車よりは先に家に着きますから」
- 538 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:24:02 ID:omP2D9aw0
ζ(゚ー゚*ζ 「ショボンに任せるわ」
(´・ω・`) 「はい」
連絡用の水晶を用いて、御主人様に今から出発するとだけ伝えた。
ワカッテマス様は、昨日のうちに此方へ向かってきてくれているらしい。
合流予定地点だけを聞き、連絡を終えた。
手綱を引き寄せれば、高く嘶き走り出す。
もう一人のシウルから受取った金で、出来る限り足の速い一頭を購入した。
風になったのかと錯覚するほど、風景が後ろへ吹き飛んだ。
(´・ω・`) 「しっかり捕まっていてください」
ζ(゚ー゚*ζ 「うん……っ!」
(´・ω・`) (これで追手は馬車を狙うはず。時間を稼ぐことができれば……)
ζ(゚ー゚ ζ 「ショボン……なんで、私たちだったのかな?」
(´・ω・`) 「デレーシア様」
ζ(゚ー゚ ζ 「折角の旅行だったのに……」
- 539 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:25:14 ID:omP2D9aw0
何故、僕たちがこんな目に合うのか。
それを説明できる者がいるのならば、僕もぜひ話を聞きたい。
別段恨みを買った覚えはないし、お金をたくさん持ち歩いていたわけでもない。
(´・ω・`) (そもそも……)
いくらなんでもタイミングが良すぎる。
僕らが街についてすぐの襲撃。
宿の情報を知っていたとしか思えない。
(´・ω・`) 「今は急いで帰りましょう」
数時間に一度のペースで休憩をしながら、真っ直ぐ合流予定地点に向かう。
特に問題が無ければ、二日後には落ち合えるはず。
- 540 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:26:07 ID:omP2D9aw0
・ ・ ・ ・ ・ ・
(;´・ω・`) 「くそっ!!」
焦る気持ちを押さえながら、手綱を引く。
既にやられてしまったのか、ワカッテマス様の姿は何処にも見えない。
予定していたポイントを、予測通りの時間にたどり着いたはずなのに。
後ろを追ってくるのは十数人の蛮族。
普段は山道で追いはぎをしているような連中だ。
何故か、そんなやつらがこんなただっぴろい草原にまで出張ってきている。
(;´・ω・`) 「お嬢様、しっかり捕まっていてください」
馬の腹を蹴れば、一段と速度を上げる。
少女の両手は、力をこめすぎて青白くなっていた。
- 541 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:32:30 ID:omP2D9aw0
(;´・ω・`) (限界か……)
追いかけられ始めてから、既に数時間。
一向に諦める様子もなく、ずっと後ろについて来る。
引き離そうとするが、此方は子供とは言え二人分の重さがあり、差が開かない。
二、三時間で今までは休憩していたのだから、既にかなりの無理をさせている。
敵は十人以上いるが、一対一に持ち込むことが出来れば、何とか対処できるはず。
そのために僕が取れる手段は一つ。
前方に見える森は、道を選ばなければ馬で通ることは出来ない。
ならば、逆にそれを利用する。
枝葉に妨害された狭い視界と、速度の出せない不安定な山道。
ワカッテマス様との合流は難しくなるが、致し方ない。
(´・ω・`) 「お嬢様、もう少しだけ耐えてください」
ζ(-ー- ζ 「うん」
森の入り口は、すぐ目の前にあった。
頭を下げ、全速力で飛び込む。
- 542 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:33:44 ID:omP2D9aw0
「追えっ!」
「森の中に入ったぞ!」
「逃げ道は他にない! 囲んでしまおう」
背後で叫ぶ声が聞こえる。
追い込まれたのはどちらか、教えてやろう。
(´・ω・`) 「お嬢様、手綱を強く握ってください」
ζ(゚ー゚*ζ 「こう?」
(´・ω・`) 「絶対に離さないで、必ず追いつきますから」
ζ(゚ー゚ ζ 「え?」
聞き返した少女の言葉に答えることはなく、頭の上の枝を掴む。
ぐっと強くしなり、跳ね上がったと同時に僕は馬の上から樹に身体を移した。
数秒も経たず、荒々しい男たちが森の中へと入り込んでくる。
- 543 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:34:25 ID:omP2D9aw0
彼らは、この道が一本道であると知っているのだろう。
だからこそ、僕らが真っ直ぐ逃げているだけだと思っている。
「あ……」
「!!!」
枝の弾性を利用して、馬上の首目掛けて剣を振りぬいた。
一切の抵抗を見せず、首が胴体から離れる。
二人目だけが何が起きたのかを理解し、叫んだ。
重りを失った馬が、急に方向転換をする。
先頭を走っていたその馬にぶつかり、二人目は地面に投げ出された。
その上を走り抜けるようにして、一撃。
喉を抉った。
痛みを感じる間もなく絶命するはずだ。
四人目の両目を潰したところで、全員が僕の存在を認識した。
樹上をかける何者かがいる、と。
- 544 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:35:15 ID:omP2D9aw0
「止まれ!止まれ!」
「上にいるぞ!」
「ボスがやられた! どうすればいい!」
混乱が伝播し、一つの群れとして機能しなくなる。
狙ってやったことではないが、どうやら既に仕留めた中にリーダー格の者がいたらしい。
こうなってしまえばただの烏合の衆だ。
「生け捕りなんてやめようぜ。殺しちまおう」
「そうだ、女は一人奥にいる! 二手に分かれろ!」
(´・ω・`) 「……」
そんなことはさせない。
飛び降りて気を引こうと思ったが、その必要はなかった。
何の前触れもなく、デレーシア様を追おうと抜け出した男の胸から生えた黒剣。
- 545 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:41:17 ID:omP2D9aw0
(´・ω・`) 「ワカッテマス様!」
( <●><●>) 「遅くなったのはわかってます」
「なっ!」
(´・ω・`) 「命が惜しければ引き揚げろ」
たったその一言を言うまでに、三人が黒剣の餌食となっていた。
血だまりの中に立つワカッテマス様の様子は、鬼ですら逃げ出してしまいそうなほどの形相。
( <●><●>) 「相手が必要ならうけます」
それが引き金となり、散り散りに逃げ去った。
無事なものは半数ほど。
恐怖に引きつった顔を見れば、二度と手を出してこないだろうことは想像に難くない。
( <●><●>) 「お待たせしてすいませんでした」
(´・ω・`) 「いえ、助かりました……っとお嬢様を」
( <●><●>) 「さっきすれ違いましたので、隠れて待っていてもらってます」
- 546 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:43:30 ID:omP2D9aw0
(´・ω・`) 「それはよかった……」
( <●><●>) 「もう仕掛けてはこないかと思いますが、早く家まで帰りましょう」
お嬢様と合流し、三人で家を目指した。
ワカッテマス様の言う通り、その道中で僕らを襲ってくる者は誰もいなかった。
・ ・ ・ ・ ・ ・
(`・ω・´) 「おかえり、怪我はなかったかい?」
ζ(;ー;*ζ 「パパ……っ!」
少女は父親に飛びつき、そのまま動かない。
声は出さないが、小さく震えているおり、泣いているのだろうと察しが付く。
僕とワカッテマス様は、いったん二人だけにするために、それぞれの部屋に戻った。
僕らが呼び出されたのは、その日の晩、
デレーシア様が眠りに落ちてからであった。
- 547 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:46:09 ID:omP2D9aw0
(`・ω・´) 「黙っていたことがある……」
御主人様は背もたれに身体を預け、深い溜息を吐く。
僕らはその様子を黙って見つめていた。
(`-ω-´) 「手紙が届いたのは、もうひと月以上前にもなるか」
机の引き出しから取り出したのは、一枚の便箋。
配達された印鑑がないのは、直接投函された証。
手に取って中身を読むように促された。
(´・ω・`) 「……秘術を教えよ、だけですか」
(`・ω・´) 「それが一枚目に届いた手紙だ。
つまらない悪戯かと思って放置していた」
( <●><●>) 「一枚目ということは」
(`・ω・´) 「ああ、勿論その後にも届いている。用心なのか、毎回筆跡は違ったが、内容から同一人物だろう」
御主人様は、本棚から紙の束を取り出す。
細紐で一つにまとめられたそれらの中身は、どれも同じもの。
書きなぐったような字であったり、丁寧な字であったり。
その全てが、一つの内容を示唆していた。
即ち、不老不死の錬金術。
- 548 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:46:49 ID:omP2D9aw0
(`・ω・´) 「ショボンのことがいつかは漏れると覚悟していた。
だからこその対策も考えてはいたし、必要ならば転居もやむを得ないと思っていた。
だが、想定よりも明らかに早く、奇妙な点がいくつかある」
(´・ω・`) 「方法、ですね」
(`・ω・´) 「ああ。送り主の連絡先すらわからない。こんな状況でどうやって教えろというのか」
( <●><●>) 「教えるつもりがあるのですか……?」
(`-ω-´) 「わかっているとは思うが、そんなつもりは毛頭ない。
……ただ、この送り主がこんな手に出て来るとは思っていなかった」
先日の襲撃。
僕とデレーシア様は、旅先で何者かに狙われた。
(`・ω・´) 「仮面の二人、か。全く身に覚えがないし、恐らくはただの身分隠し」
(´・ω・`) 「正体が割れると困る連中の仕業ということですか?」
(`-ω-´) 「というよりは、身の安全ではなかろうか。恐らくその二人、そしてその後の賊は雇われたのだろう。
予め私を脅しておき、交渉のテーブルにデレーシアを用意する。
そんな場に出てしまったら私は……」
- 549 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:52:49 ID:omP2D9aw0
最後まで聞かずともわかる。
御主人様にとってデレーシア様以上に大切なものなどない。
条件付きであればすぐにでも交渉を受けてしまうだろう。
(´・ω・`) 「これから、どうされるつもりなのですか」
(`・ω・´) 「しばらく隠れるしかないだろう。デレーシアには苦労させるかもしれないが……」
( <●><●>) 「しかし、どこへ?」
(`・ω・´) 「以前から用意していた場所がある。私はデレーシアとそちらへ向かう。
ショボン……無理を言ってもいいだろうか?」
(´・ω・`) 「勿論です」
相手がお嬢様を狙う理由。
それは、御主人様しか不死の錬金術を知らないと思い込んでいるから。
であれば、顔が割れているとはいえ僕は自由に動けるはずだ。
- 550 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:53:37 ID:omP2D9aw0
(`・ω・´) 「この家に残って様子を見てほしい」
(´・ω・`) 「それくらいのこと、任せてください」
( <●><●>) 「私は、護衛として兄さんと一緒に行きましょう」
(`・ω・´) 「いや、ワカッテマス。今回は隠れながらの移動になる。別行動をとろう」
( <●><●>) 「しかし、それでは……」
ワカッテマス様であれば、数人程度なら一蹴できるだろう。
それでも断った御主人様には明確な意図がある。
男二人と少女一人では目立ちすぎるし、移動は基本的に見つからないような深夜の時間帯。
いくらワカッテマス様とは言え、闇夜ではその実力の半分も発揮できない。
珍しいと思ったのは、いつも御主人様の言う通りにするワカッテマス様が反抗したこと。
それでも御主人様の決心は揺るがないようで、結局二人で待機することに決まった。
(´・ω・`) 「どのくらいの期間で考えていますか?」
(`・ω・´) 「半年ないし一年ほどだろうか。連絡用の水晶で、会話もできるだろうしそう寂しいこともないだろう
迷惑をかけるが、二人ともよろしく頼む」
- 551 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:55:43 ID:omP2D9aw0
- 深く頭を下げる御主人様。
御主人様たっての申し出を、断るわけがない。
(´・ω・`) 「出発はいつでしょうか?」
(`・ω・´) 「一週間後にしよう。幾らか準備は必要だ」
(´・ω・`) 「分かりました」
陽が沈んでから既にだいぶ経つ。細かい打ち合わせは明日決めることにし、部屋を離れた。
ベッドに横になってウトウトしていると、ノックの音で覚醒させられた。
入ってきたのは、ワカッテマス様。
( <●><●>) 「少しよろしいでしょうか」
(´・ω・`) 「ええ」
眼を擦りながら起き上る。
ワカッテマス様は許可もとらずに丸椅子に腰を掛けた。
( <●><●>) 「一つ、聞きたいことがあります。
不老不死とは、教えることが出来るものなのでしょうか」
- 552 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 16:59:07 ID:omP2D9aw0
- (´・ω・`) 「どういうことですか?」
( <●><●>) 「錬金術そのものが継承不可能なものである場合、
逃げ隠れするよりも私たちが戦った方がいいと思うからです。
兄さんの口からはきいていませんが、二度とできない錬金術では」
(´・ω・`) 「……」
( <●><●>) 「いえ、そんなことをあなたに聞いても仕方がありませんね。
知りたいことがあるのなら、本人に聞くべきでしょう。
急に邪魔をしましたね」
独り言のように呟きながら、部屋を出ていった。
その瞳の奥で揺らめく暗い炎に気づけなかったせいで起きた惨状を、僕は忘れることができないだろう。
- 553 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 18:43:32 ID:omP2D9aw0
・ ・ ・ ・ ・ ・
(#´ ω `) 「答えろッ!!!」
鳴り響く光。
雨と共に激しく降り注ぐ。
それに負けない様に、喉が潰れるほど大きな声で叫んだ。
「……」
暗闇の中立つ人影は、何も話さない。
ただその手に二振りの刃を握りながら。
本来は黒いはずの刃が、真っ赤に染まっている。
認めたくはなかった。
だが、滴り落ちる液体が、部屋の惨状が、雷光によって幾度となく照らし出されている。
- 554 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 18:44:55 ID:omP2D9aw0
真っ赤な血液。
無残に放置されている死体。
それは、屋敷で雇っていた家政婦達。
損壊がひどく、まともな形を残していない。
こみ上げる怒りを無理やり抑え込みながら、窓際に立つ男を睨む。
(#´ ω・`) 「ワカッテマス!!!」
( <○><●>) 「煩いですね……」
- 555 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 18:46:09 ID:omP2D9aw0
長い、長い沈黙を破って、やっと答えた一言。
(#´ ω・`) 「っ!!」
鞘から抜き放った白刃。
頭部目掛けて振り下ろしたそれは、易々と防がれた。
武器を構えた数人に囲まれている状況であることなど、怒りで吹き飛んだ。
見知った顔がいるのは、そういうことだろう。
今までの全てが、一つに繋がった。
再び振り上げ、角度を変え脇腹を狙った一撃。
(#´ ω・`) 「どうしてっ! 御主人様を殺したっ!!」
だが、配下の兵は動かさずワカッテマスは自らの剣で受け止める。
- 556 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 18:48:14 ID:omP2D9aw0
( <○><●>) 「欲しかったからですよ。不老不死の法がね。
残念ながら、兄さんはそれを半分ほどしか知らなかったようですが」
(#´・ω・`) 「どういう事だ」
( <○><●>) 「賢者の石の錬金術は……兄さんが完成させたのだとずっと思っていました。
ですが、やはり違ったようです。そもそもおかしいと思いませんか?
不老不死の法が作れて、どうしてたかだか病気の一つや二つ治せないのでしょう」
(#´・ω・`) 「……お嬢様は複雑な病気だった。それを治すことは簡単ではなかった!」
拮抗したまま動かない剣。ホムンクルスの全力を傾ければ、すぐにでもこの状態を脱することができる。
今すぐ切り殺してやりたい衝動の一方で、話の内容に心揺さぶられている僕がいた。
( <○><●>) 「老衰や死よりも難しい病気だったと?」
(#´ ω `) 「それは…………」
- 557 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 18:49:22 ID:omP2D9aw0
( <●><●>) 「もう一つ、あなたが知らない事実を教えてあげましょう。
その代わり、あなたが知る限りの不老不死の術を全て、こちらに明け渡すことです。
抵抗するのは構いませんが、いいことにはなりませんよ」
(#´・ω・`) 「デレーシア様には手を出すな。その約束は守ってもらう」
こんな夜更けなら彼女は寝ているし、階下の騒ぎも雷雨に紛れて聞こえてはいないはずだ。
( <●><●>) 「不老不死の法さえ知ることができるなら、あんな小娘には興味ありません」
もう一つの事実」
「 あなたは……既に一度し 」
激しく明滅した一瞬後に轟音。
ワカッテマスの声はかき消された。
- 558 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 18:50:57 ID:omP2D9aw0
(´・ω・`) 「何だって?」
そして、細い糸でつながっていた希望もまた、断ち切られた。
「ワカッテマスさん、このガキの死体はどうしますか」
( <○><●>) 「ちっ……!」
(´ ω `) 「今なんて言った?」
「あん? なんだテメーガキと同じように殺されてーのかよ」
( <○><●>) 「黙れ……っ!」
気づいた時には、身体が勝手に動いていた。
ワカッテマスの気が一瞬だけ逸れた隙に、鍔迫り合いから脱し男の首を刎ねた。
創森熊にすら傷を与えた剣。
人間の首を薙ぐのに力を込める必要はない。
( <○><●>) 「止めろっ!」
- 559 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 18:51:42 ID:omP2D9aw0
後ろで叫ぶ声が聞こえるが、追っ手は素人に毛が生えた程度。
振り向きざまの一撃で二つの首を落とす。
角を曲がった先にあったのは、絶望的な光景。
(´ ω `) 「………………………………」
「手 な部下 てね、私 少女に 手 すなと った ですが……」
こいつは何を言っている……?
- 560 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 18:52:33 ID:omP2D9aw0
揺らぐ蝋燭の火で照らし出されていたのは、人形を抱えた、小さな身体。
見覚えのある寝巻。
黒く染まった水溜りの中に、静かに倒れていた。
頭部だけを失った姿で。
.
- 561 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 18:53:44 ID:omP2D9aw0
(´ ω `) 「あ…………あ…………」
( <○><●>) 「取り押さえてください、少々手荒でも構いません」
「くそっ………ぎっ」
(´ ω `) 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
- 562 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 18:55:00 ID:omP2D9aw0
ただひたすらに剣を振り回した。
型だとか、防御だとか、隙だとか、そんなことは一切考えずに。
斬る 斬る 斬る 斬る
返り血で全身染まろうが、恐怖で竦んで動けない奴だろうが、赦しを求めようが、そんなことは関係ない。
執拗に、目に映るすべての物を壊し、すべての者を殺すために。
(;´・ω `) 「はっ…………はっ…………はっ…………」
( <○><●>) 「随分暴れてくれましたね」
- 563 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 18:56:07 ID:omP2D9aw0
生き残りはいくらか。
その中で全く無傷の者はたった二人。
( <○><●>) 「頭の中を洗い出すことは難しくてね……不老の法が入っただけでもなにより。
後欲しいものは一つだけ、わかりますよね」
(#´ ω `) 「殺す!」
ワカッテマスに大きく踏み込んだ。
直線的な振り下ろしなど、もとより当たるはずもなかった。
回避され、追撃に向けてもう一歩前に出る。
直後、右足に激痛を感じた時には遅かった。
細身の黒剣が太ももを貫通していた。
(#´ ω `) 「っがああああああああああああああああああ」
血液を吹きだしながら無理やり引き抜く。
足を犠牲にした不意打ちも、ワカッテマスには通じない。
( <○><●>) 「不死ですよ。怪我や事故、病にすら打ち勝つ不死。
それさえ手に入れれば、死者であっても蘇らせてみせましょう。
さて、あなたは知っているのですか?」
- 564 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 18:56:47 ID:omP2D9aw0
(#´ ω `) 「っああ!」
その質問には答える意味がない。
どうせここで殺してしまうのだから。
止むことのない連撃であれば、ワカッテマスの疲労を誘うことができる。
回復力に優れたホムンクルスにしかできない泥沼の戦法。
起死回生の一手は、しかし見透かされていた。
(#´ ω `) 「がぁぁ」
背後からの一撃。
胸から生えているのは、鋭い鉄の塊。
そう、ワカッテマスは別に一人で相手をするとは言っていない。
囲んだ有利を生かさないはずがないのだ。
(#´ ω `) 「くそっ……たれ……」
- 565 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 18:57:37 ID:omP2D9aw0
( <○><●>) 「さて、脳をいただきまし……」
両手両足を貫かれ、磔刑にされ身動きが取れない僕の頭を狙う黒剣。
その切っ先が激しく震えたように見えたのは恐怖心が見せた幻ではなかった。
( <○><●>) 「っ!」
立っていられなくなるほどの地震。
ついで響き渡ったのは、怒号。
こんな状況にありながらも、聞き覚えのある声だと、悠長にもそんなことを考えていた。
「ワカッテマスさん! 外にバババ・……化物が!」
- 566 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 19:00:43 ID:omP2D9aw0
柱という柱にぶつかりながら部屋の中に転がり込んできた男。
その男の通った道からは、一斉に植物が噴き出した。
高く成長し、屋根を貫いて様々な形を実らせる。
こんなことができるのはたった一つの存在しかありえない。
歩いた地に災厄という名の変革をもたらす獣。
生きる大自然の意志。
グローイング・グリズリー
( <○><●>) 「森を徘徊する者!!」
グローイング・グリズリー
(;´・ω・`) 「森を徘徊する者……」
- 567 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 19:01:58 ID:omP2D9aw0
拘束が緩んだのを感じ、両腕両足を引き抜いた。
鮮血が舞い、激痛が奔るも、そんなことは気にしていられない。
再度聞こえた叫び声で、すぐ屋敷の裏に来ているのだと確信する。
創森熊が自らが守護する森から出る理由は何か、想像もつかないが、
この機を逃すわけにはいかない。
( <○><●>) 「っ! 逃がすな!!」
雨が破られた屋根や窓から差し込み、豪風が部屋の中をかき回す。
足場からは無数に生え続ける植物。
急がなければ。この屋敷は、数分もしないうちに森に飲み込まれる。
リビングから廊下に走り出て、御主人様の研究室だった部屋の戸を破る。
後ろから叫び声が聞こえるが、それを無視して中に入った。
棚の一番奥に、目的の物はあった。
新緑元素の満たされた小瓶。
- 568 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 19:03:41 ID:omP2D9aw0
それと、机の上の冊子だけ掴み、窓から外に飛び出した。
この二つが無ければ、ワカッテマスとは言え不老の法を完成させられないはずだ。
今は敵わない。
向こうは万全の態勢を敷いていたにも拘らず、僕には何の準備もないのだから。
仇は必ず取る。そう誓って、森になっていく草原を走る。
背後から追いかけてくる圧倒的な質量は、一瞬で僕を飲み込み、視界埋め尽くした。
それでも止まらずに走り続ける。
前を見ずに転んでも、成長した木々で腕や脚が傷ついても。
時間の間隔すらなくなって、ただ限界を超え続けた。
雷雨は止まず、すでに体力が底をついた身体を気力のみで動かす。
自分がどこにいるのかは皆目見当もつかないまま、ただ前だと思われる方向へ。
屋敷からは相当離れたと確信した途端、脚は鉛のように重くなり全く動かなくなってしまった。
雨に濡れて冷えた身体と、心を凍りつかせるような絶望で、僕はその場に倒れて意識を失った。
- 569 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 19:04:21 ID:omP2D9aw0
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(´・ω・`) 「………………」
( ;ω;)
川 ゚ -゚)
( ´_ゝ`)
(´<_` )
- 570 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 19:05:01 ID:omP2D9aw0
話し終えてから幾分かの沈黙。
(´・ω・`) 「その後は二人とも知っている通りだ。冬が来て、ただ死ぬために彷徨っていた僕はリリと出会った。
これが銀の蛇が出来る前の話。ワカッテマスが不老の知識を得た時のことだ」
( ;ω;) 「うぅぅ……ショボン辛かったおね……泣いていいおぉぉ」
川 ゚ -゚) 「鬱陶しい。それから、不老の力を得たワカッテマスが銀の蛇を作った、と」
(´・ω・`) 「ああ。リリが行方不明になった後、二・三回ほど殺してやろうとしたけれど、どちらも結局失敗した。
ワカッテマスの不死が完成してからでは手が打てなくなる。正直に言えば、今度こそ殺してしまいたい。
だけど、かなりの危険を伴う。君たち二人には隠れてやり過ごしてもらいたいんだけれど……」
( ;ω;) 「何言ってるんだお!勿論協力するおぉぉ」
川 ゚ -゚) 「まぁ、私も乗り掛かった舟というやつだ」
(メ´_ゝ`) 「おっぱいが行くなら俺も行こぶげらっ」
錐もみ状態で吹き飛んでいく精霊もどき。
裏拳をお見舞いした当の本人は、何事も起きていなかった、というような顔をしていた。
- 571 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 19:08:17 ID:omP2D9aw0
(´<_` ) 「……所有者はクールだ。我々は彼女の意思に従おう。それに少々思うところもある」
(´・ω・`) 「個人的な、それも復讐に巻き込んでしまって申し訳ないと思ってる。
だけど、ワカッテマスを殺さなければもっと多くの人が不幸になる。
だから……協力してくれ」
( ^ω^) 「ばっちこいだお」
川 ゚ -゚) 「仕方のない奴だ」
( ´_ゝ`) 「俺達に」
(´<_` ) 「任せておけ」
今まで、僕一人の力では足りなかった。
喉元にまで届きこそすれ、致命傷を与えるには至らなかった。
だけど、今度は違う。
頼りになる仲間がいる。
これで終わらせる。
- 572 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 19:09:47 ID:omP2D9aw0
今度こそ、全ての元凶……
ワカッテマス・ヴァン・ホーエンハイムを
必ず、殺す。
- 573 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 19:11:03 ID:omP2D9aw0
25 シズカナムクロ End
- 575 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/02(日) 19:14:22 ID:omP2D9aw0
- 【時系列】
???
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↓
22 アタラシキイノチ 誕生編
23 フシノヤマイ
24 テニイレタキセキ
25 シズカナムクロ
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↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです 少女編
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです
8 ホムンクルスと少女のようです
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↓
1 ホムンクルスは戦うようです
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2 ホムンクルスは稼ぐようです
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3 ホムンクルスは抗うようです
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4 ホムンクルスは救うようです
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5 ホムンクルスは治すようです
│
9 ホムンクルスは迷うようです
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10 ホムンクルスと動乱の徴候 戦争編・前編
11 ホムンクルスと幽居の聚落
12 ホムンクルスと異質の傭兵
13 ホムンクルスと同盟の条件
14 ホムンクルスと深夜の邂逅
15 ホムンクルスと城郭の結末
17 ホムンクルスと絶海の孤島 戦争編・後編
18 ホムンクルスと怨嗟の渦動
19 ホムンクルスと戦禍の傷跡
20 ホムンクルスと不在の代償
21 ホムンクルスと戦争の終結
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16 ホムンクルスは試すようです
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