(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
628 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/09/23(水) 18:41:37 ID:d0CvKaZs0












26 朽ちぬ魂の欲望 <上>

629 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 18:42:17 ID:d0CvKaZs0

(´-ω-`) 「ふー……」

黒煙と瓦礫の中、焼け残った椅子に腰かける。
ここまで徹底的な破壊を受ければ、そう簡単に立て直すことは出来ない。

また一つ、教会を破壊し終わった。

(´・ω・`) 「神……ね……」

天井が半壊し、太陽が直接差し込む。
そのおかげか、陰湿な教会のステンドグラスは、多少なりとも鮮やかに見えた。
逃げ去った信者たちは、一体何を思っただろうか。

突然訪れた悲劇。神話の世界の最終決戦さながらに派手な破壊。
信ずるものが、ただ無様にその権限を奪われていく。

邪教であっても、彼らにとっては信仰の対象。
悪いことをしたと、思うところもある。

だからといって手を緩めることはない。
心折れた人々に手を差し伸べることもしない。

630 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 18:46:22 ID:d0CvKaZs0

僕自身の目的は復讐であり、悪徳宗教に嵌った人々の救済では断じてないのだから。


(´・ω・`) 「クールとブーンはうまくやっているだろうか……」

二人とも、今は遠く離れた所で戦っているはずだ。
頼りない方ではあるが精霊もどきもいるし、古代錬金術もある。
心配するようなことはないが、あいつらと敵対しているこの状況で、万全ということはない。

今頃は、港町あたりだろうか。
海岸沿いに幾つかの集落と、小さな教会が乱立していたはずだ。

よくもまぁ、これだけ多くの拠点を作ったものだと感心すらする。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

631 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 18:47:03 ID:d0CvKaZs0



川 ゚ -゚) 「で、どうするんだ?」

(´・ω・`) 「考えがある」

錬金術師の隠れ里、そこで僕は全てを話した。
過去にあったこと。

深く心に刻まれて、色褪せることのない幸せの日々と、
埋めることのできない深い傷を受けた悪夢のような事件。

静かに聞いてくれていたのは、四人。

二人のホムンクルスと、二人の古代錬金術師の番人。
僕の目的を話し、彼らは皆賛同してくれた。

だから、全てを終わらせるために、一つの作戦を提案した。

(´・ω・`) 「……まずは奴らの拠点を潰す」

( ^ω^) 「本拠地に乗り込んだら駄目なのかお?」

632 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 18:47:49 ID:d0CvKaZs0

(´・ω・`) 「それだと、逃がした時にまたすぐに力をつけてしまうんだ。
       教会がある限り、お金はほぼ無尽蔵に手に入るからね。
       だからこそ、そこを潰す。出来るだけ迅速に、かつ捕まらない様に」

今までにやってきた失敗。
追い詰めても、あいつさえを取り逃がしてしまえば意味はない。
どこか別の場所で、すぐに同じ研究を始める。

逃がすつもりなんか毛頭ないけれど、そうなってしまう可能性は視野に入れておいた方がいい。
敵の規模も当時とは比べ物にならないし、私設の軍隊まで持っている。
いくらホムンクルスで、錬金術師であったとしても、圧倒的な数の差は埋めがたい。

一撃必殺の強襲離脱でもしなければ、そもそもが立ち向かえる相手ではない。
無理を言っているのはわかっている。
それでも、やらなければならない。

シャキン様のために。デレーシア様ために。

関係がないのに協力を申し出てくれたことには感謝している。
一人よりも、五人の方がずっと心強い。

633 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 18:48:41 ID:d0CvKaZs0

川 ゚ -゚) 「なかなか難しいことを言ってくれるな。で、拠点とやらの目星はついてるのだろう?」

(´・ω・`) 「大体は。一ヶ月もあれば、この隠れ里からすべてを見つけてみせる」

( ´_ゝ`) 「一ヶ月か……長いな」

(´<_` ) 「そういうなアニジャ。敵の手足を?ぐのは基本戦術だ」

弟の方はこんなにもまともなのに、どうして兄の方はああなってしまったのだろうか。
以前は人間だったというが、彼らを生み出した術師でも間違いを犯すらしい。

( ´_ゝ`) 「何か失礼なことを考えているな」

(;´・ω・`) 「いや、そんなことはない」

( ´_ゝ`) 「俺は何も考えていないわけではないぞ? 常におっぱいのことを考えて生きている」

(;´・ω・`) 「……」

634 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 18:49:22 ID:d0CvKaZs0

兄の方はただの役立たずだとしか思えない。
濫觴の双珠がどちらか片方だけで効果を発揮するのなら、とっとと捨ててしまいたい。
残念ながら、そうはいかないが。

(´・ω・`) 「ひと月、隠れ里で隠れ過ごしてほしい。出来る限り人との接触は避けて。
       以前、ここを襲撃してきたこともある連中だ。何をしてくるか予想もつかない」

川 ゚ -゚) 「私の顔は割れていないのだろう? 私が基本的な物事はすべて済ませよう。
      目立つ豚と霊の二匹には大人しくしてもらわないとな」

( ´ω`) 「ひでぇお……」

(´・ω・`) 「一か月後、僕は右回りで、ブーンとクールは左回りで出発する。
       敵に見つからないよう拠点に向かい、アルギュール教会と確認したのち破壊。
       南の地で合流して、そのまま敵本拠と思われる家を攻撃する」

川 ゚ -゚) 「まて、聞きたいことがある。どうやって本拠地を知った?」

(´・ω・`) 「現時点じゃまだ憶測だけど、そこにいる自信はあるよ。
       合流予定地の近くに何があるか知ってる?」

川 ゚ -゚) 「いや……」

635 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 18:51:20 ID:d0CvKaZs0

地図をなぞっていく細い指。
それが指し示すのは巨大な森の一部。
そこに何があるか、二人は知っていて、知らない。

(´・ω・`) 「そこには、かつて僕らが暮らしていた家がある」

( ^ω^) 「それが何で本拠地を推察できる理由になるんだお?」

(´・ω・`) 「ワカッテマスは錬金術師だ。最も多種多様な素材が手に入る場所にいると考えられる。
       そして、あの森の中には、錬金術の奇跡が詰まっている。全く知らない新しい土地を探索するよりも、
       今既に知っている森の近くで採取をした方が効率がいいだろう。それに……」

川 ゚ -゚) 「態度の変化の原因、か」

流石に察しがいい。
話を聞いただけでそこまで予測できたのはクールだけだろう。
二人の方を見ると、何を言っているのかわからない、といった顔をしていた。

(´・ω・`) 「ワカッテマスの様子が明確に変わったのは、森の深部に潜ってからだ。
       僕は、あそこに何らかの原因があったと考えている。
       頭のいいあいつのことだ。望む望まずに関わらず、自らが変調を来した理由には気づいているだろう。
       人間にそれだけの変化を起こす、何かがあると」

636 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 18:52:13 ID:d0CvKaZs0

それだけではない。
御主人様に協力したと思われる第三者の存在。
あいつは、それを疑っていた。
近くにある都市で、今も探し続けているかもしれない。

川 ゚ -゚) 「その男……ワカッテマスは不老なだけで人間なのだろう?
      もし私なら、リスクしかない旅なんかには出ないね。代わりに動く手足があるならなおさらだ」

( ^ω^) 「確かに……」

そして、これはわざわざ言うまでもないこと。
僕は、あの場所で



"生まれた"



素材を求めて移動することこそあれど、あの地以外に本拠地を置く理由はない。

637 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 18:53:02 ID:d0CvKaZs0

思考を巡らせていると唐突に、雷鳴の如き大きな音で遮られた。
それがブーン腹の音だと気付くまでに時間はかからなかった。

(; ^ω^) 「すまんお……」

川 ゚ -゚) 「では、私は買い物に行ってくる。どこか集合場所だけでもきめておいてくれないか」

(´・ω・`) 「わかった、それでは穴熊宿で二部屋取っておく。そこに来てくれ。
       合言葉は……なんでもいいか。フラスコ、にしよう」

川 ゚ -゚) 「わかった。それじゃ、また後で」

クールは足早に部屋を出ていく。
お金に関しては何も言っていなかったから、それなりに持ち合わせがあるのだろう。

(´<_` ) 「我らは一度双珠に戻ろうか」

(#´_ゝ`) 「くっ……あのおっぱい、俺が声かける前に出ていきやがった」

無念そうな顔をしながら、番人の兄は珠の中に入り込む。
その兄を見て残念な顔をした弟も、すぐに見えなくなった。

638 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 18:54:29 ID:d0CvKaZs0

(´・ω・`) 「もう夜だから、一目にはつかないと思うけど気を付けて」

( ^ω^) 「おーわかってるお」

いくつもの厚い扉を抜け、僕とブーンは無音館を出た。
一番外側のノブに使用終了のタグプレートをかけておく。
すっかり日は落ちてしまったようで、外灯が無ければ足元も見えない。

何かもわからない鳥が鳴く夜道を、宿に向かう。
幸い人とすれ違うこともなく、目的の場所に着くことができた。

穴熊宿は、隠れ里内にいくつか存在する宿の一つ。
警備は厳重で、合言葉を知らないものは扉をくぐることができない。
最も、無理に破ろうと思えば可能だが、時間をかけている間に人が来る仕組みになっている。

カーテンの向こうの店主に声をかけ、合言葉を二枚の紙に書いて渡す。
それをそれぞれ薄茶色の瓶に入った液体に沈め、液体の色が白になるまでかき混ぜた後、渡してくれる。
それを部屋の入り口に設置された盆に注げば、穴熊宿を利用できる。

錠前はなく、ただ合言葉によって開閉される扉。
壁と同じ紺色で、指がかかるだけの窪みがある。
一見するだけでは、ここに扉があることにすら気づかない。

639 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 18:55:38 ID:d0CvKaZs0

( ^ω^) 「ショボン……大丈夫かお」

(´・ω・`) 「何が?」

( -ω-) 「いや……嫌なこと思い出したから……」

(´・ω・`) 「……大丈夫だよ」

( ^ω^) 「それならいいお。
       クールが戻ってきたら、細かい作戦を練らないといけないし、少し休んでおくといいお」

質素な部屋の中には、シングルベッドが二つ。
ローテーブルに燭台と蝋燭が幾つか置かれていた。
二人で暮らすには少々手狭だが、仮の宿だし仕方ない。

二部屋とってはいるが、基本的には一つの部屋に集まることになるだろうな。
相談しておく内容は山ほどあるし、あまり廊下をうろうろしたくない。

クールに気を使って一応二部屋にしておいたが、必要なかったかもしれない。

640 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 18:56:18 ID:d0CvKaZs0

ブーンにとってクールは家族だという感覚だろうし、その逆もまた然り。
どちらかと言えば、クールが姉だろうか。
三人は同時に生まれたのだから、特に上下はないけれども。

考え疲れたのか、喋りつかれたのか、どうにも疲労感がぬぐえない。
言葉に甘えて、ベッドに座ることにした。

腰を下ろしただけで、心地よい眠気がゆっくりと頭に広がっていく。
それに抵抗しながら、思考を進める。

ワカッテマスとの過去を話した時に思い出した、疑問。
その当時にはそんな余裕はなかったが故に忘れていた。

一言で言うならば、異常。
あの日、戻ってきてからの数日間、ワカッテマスの様子はおかしかった。
研究室に閉じこもるだけならいつものことであったが、
時折のうめき声と、誰かと会話しているような声。

部屋の前を通った時に聞こえていたし、御主人様やデレーシア様も気にされていた。
会話の内容は、もう覚えていない。

641 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 18:57:03 ID:d0CvKaZs0

(´-ω-`) (あー……どうだったかなぁ……)

クールが戻ってくるまでの間、天井を見つめて物思いに耽っていた。

新緑元素を手に入れる道中、何かおかしなことはなかっただろうか。
創森熊と戦っている時は……。

もう何百年も前の話だ。
思い出せるはずもない。


……。



川 ゚ -゚) 「起きろ。食べるものを買ってきた」

(;´-ω-`) 「っ! ……寝てたのか」

唐突に呼びかけられて、意識がはっきりとする。
考えているうちに睡魔に負けてしまったのか。

( ^ω^) 「起こさなくてよかったのに……」

642 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 18:58:33 ID:d0CvKaZs0

川 ゚ -゚) 「せっかく買って来たんだ。冷める前に食べないともったいないだろう」

( メ_ゝ`) 「お帰りー……ごぇぇ」

赤く明滅する珠から、アニジャが飛び出してくる。
それにカウンターをきっちりと当てて、クールは机の上にまだ湯気の出ている食べ物を並べた。

寝ぼけ眼でスプーンを手に取り、ゆっくりと食事を口に運ぶ。
口いっぱいに広がる温かな味付けは、蜂の巣の料理に違いない。
クールなりに気をきかせてくれたのかもしれない。

ブーンの食事が終わるまで待っていたクールが口を開く。

川 ゚ -゚) 「食べ終わったことだし、話をもどそうか。具体的な手段が聞けてなかったな」

(´・ω・`) 「五年」

気の遠くなる年月だろうか。

否。

僕らホムンクルスにとっては短い時間だ。

643 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 18:59:14 ID:d0CvKaZs0

(´・ω・`) 「五年後、敵本拠地から最も近い街に集合する」

( ^ω^) 「この街かお?」

ブーンが地図上の一点を指さす。
書かれたその名前はコーフィリア。

今になって知ったのだが、どうやら名前が変わってしまったようだ。
それも当然か。
もうあれから何百年以上も経っている。

川 ゚ -゚) 「拠点の潰し方は?」

(´・ω・`) 「任せる。可能な限り一般人の被害者を出したくないが……ブーンが一緒に行動していれば無駄な心配か」

( ^ω^) 「任せろお!」

川 ゚ -゚) 「はぁ……先が思いやられる……」

(メ;_ゝ`) 「よっと……俺が心配を埋めてやろうか?
       いや、むしろ俺をその胸に埋めぎゃっ……」

644 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:00:16 ID:d0CvKaZs0

唐突に飛び出してきたアニジャはその勢いのまま壁にぶち当たった。

(´<_` ) 「すまない、話の邪魔をするつもりはなかったのだが……」

川 ゚ -゚) 「いや、いい。もう話は終わったさ」

夜は充分に更けた。
今ならば少々で歩いたところで、目立たないだろう。
闇と見紛うようなローブを頭からかぶり、目元まで覆い隠す。
有事の為に、腰には剣を結ぶ。

(´・ω・`) 「さて、ちょっと調べごとに出て来るよ」

川 ゚ -゚) 「護衛はいるか?」

(´・ω・`) 「それじゃあ、弟精霊の方だけ。目立たない様にできる?」

(´<_` ) 「こういう事程度なら」

空気にとけるかのように、すっと実体がぼやけていく。
殆ど透明に近い色になり、闇夜の中では目を凝らしても見えない。

645 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:00:57 ID:d0CvKaZs0

(´・ω・`) 「少し聞きたいこともありますし、行きましょう」

(´<_` ) 「クール、アニジャを少しの間頼む」

( ´_ゝ`) 「頼まれてー」

川 ゚ -゚) 「断る」

( ´_ゝ`) 「そんなぁ……」

川 ゚ -゚) 「石に戻ってろ。私はブーンと話がある」

そっけない態度のクールに、諦めずにしがみついていたアニジャ。
外に出て扉を閉める直前に、鈍い音が三度聞こえたが、振り向かないでおく。

余計なことを気にする前に、さっさと情報収集をしておかないと。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

646 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:01:40 ID:d0CvKaZs0


  
隠れ里を出発してから、丁度三年ほど。
これまでに潰した協会は七つ。

動きを悟られない様に、わざと遠いところを襲撃したりもした。
そのかいあってか、今のところ教会での待ち伏せにあったことはない。

人的被害はゼロに抑え、完膚なきまでに教会を破壊する。
各教会の代表者には申し訳ないが、物忘れの香をかがせ、教会のことを忘れてもらう。
地下に蓄えられていた金貨は、簡単に動かせない様に錬金術の薬品で固めておく。
一枚一枚に大した重量はなくとも、数十袋分の金貨が一つになっていれば、
大人が数人いても引っ張るのがやっと。
階段を持ち上げることはまずできないだろう。

隠れ里にいるとき、騎士協会への対応は決めていた。
治安維持組織である騎士協会が、こんな大規模の破壊活動を見逃すわけがない。
特に、宗教の自由が認められている地区では尚更。

まず、教会の研究内容を騎士協会総本山に報告した。
紆余曲折あり、僕らは複数の条件を飲むことで、なんとか許可を得ることができた。

647 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:02:50 ID:d0CvKaZs0

一つ、人的被害を出さないこと

二つ、教会にある金銭を移動させないこと

三つ、破壊前に直近の騎士協会支部に連絡し、目的達成後は速やかにその場を離れること

四つ、教会を破壊した地区には、今後十年は寄らないこと

これらを厳守することで、僕らは見逃されている。
一度破ってしまえば、騎士協会から追われる身になってしまう。

向こうとしては人的被害を出したくない、こちらとしては行動が阻害されるは避けたい。
お互いの意見が重なる場所を見つけることで、何とか折り合いをつけることができた。
その調整にもずいぶん時間をかけてしまったが。

(´・ω・`) (大体、騎士協会のシステムがめんどくさいんだよなぁ……)

各地に点在している騎士協会と連絡を取るには、エリアの主協会に向かわなければならない。
そのエリアすらも越えて今回のような決め事をする場合、エリア長が集まる騎士長会議に参加する必要がある。

648 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:03:34 ID:d0CvKaZs0

騎士長会議は年に一回。
当初の予定を超えても隠れ里に潜み続ける必要があったのは、騎士長会議に参加するためだ。
いけ好かない騎士のお偉方と話すのも、まったく面倒だった。

錬金術師というだけで毛嫌いをされるし、教会を破壊するなどもっての外だったろう。
幾つかの証拠を持って行ったが、納得していないエリア長も何人かいる。
その人のエリアで活動する時は、少々気を使わなければならない。

(´・ω・`) (面倒だけど……)

そろそろ立ち去ろうと瓦礫から腰を上げたとき、視線に気づいた。
先程からその場所にいたのか、全く近づいてくる気配はなかった。

「随分暴れてくれたな」

風の音に紛れて届いたのは、男の声。
若いようにも、年を取っているようにも聞こえる不思議な声だ。

よくわからない民族文様の面をつけ、東洋の国で見られるものと似たような服。
上下共に真っ赤な絹で仕立てられた、相当な上物。
それらは、こちらの地方では、金持ちですらなかなか手にいれることができない貴重な品だ。

649 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:05:30 ID:d0CvKaZs0

(´・ω・`) 「何の用だ」

( /‰Θ) 「いやいや、暴れているやつがいると聞いて、待ち伏せていたんだ。
        数週間前に着いたんだが、なかなか来ないものだから、昼寝をしてしまっいて……。
        気づいたらこの有様だ」

(´・ω・`) 「ということは……アルギュール教会の人間だな」

( /‰Θ) 「その通り、っと、剣は抜かないでおくれ。戦っても勝ち目がないのでね」

よっこらしょ、といういかにもな老人の掛け声と一緒に、瓦礫の山に腰を下ろす。
争うつもりはないようで、剣にかけた手を引いた。
そもそも襲うつもりであれば、僕が教会を破壊するのを黙って見ているわけもなく、
わざわざあの男が姿を見せる必要もない。

話しをしに来た、というよりは、警告をしに来た、だろうか。

( /‰Θ) 「なぜ、教会を破壊する?」

650 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:07:22 ID:d0CvKaZs0

(´・ω・`) 「教会がやっていることは知っているんだろう。それを止めるためだ」

( /‰Θ) 「なるほど、なるほど。その通りだ。私としては別に好きにしてくれたら構わないんだが……。
        うるさくてなぁ。次にどこを狙うつもりか知らないが、抵抗はさせてもらう」

(´・ω・`) 「あんた何者だ?」

うるさく、直接言われるだけの立場にあるということ。
にも拘らず、教会は破壊されてもいいという。
こちらの襲撃をよんでおきながら、兵は配置していない。

言っていることとやっていることがバラバラだ。
無能で思慮が浅いのかとも思ったが、そうは見えない。

( /‰Θ) 「今は【眠り翁モンド・ラー】と呼ばれている。かつて巻き込まれた事件のせいでね、
        人よりも少々長めに睡眠時間が必要なのだよ。
        そういえば……サヴァレには会ったことがあるだろう?」

651 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:10:30 ID:d0CvKaZs0

(;´・ω・`) 「まさか……不老の錬金術師・……」

( /‰Θ) 「私も、そのうちの一人だよ」

人をくったようなサヴァレの言葉を信じるのであれば、
あの時奴は"我らに力を与えてくれた"と言っていた。
つまり、他にも不老の錬金術師がいるということ。

(#´・ω・`) 「いったい何人に罪を与えている!」

( /‰Θ) 「私の知る限り……ワカッテマスは三人にしか与えてないよ。
        私はその中で一番の新参だから違うかもしれないがね
        薬をもらったのだってついこの前だ。しかも当人からではなかったしね」

(;´・ω・`) 「……」

素直に答えられるとは思ってなかった。
反応に困って無言になってしまう。

( /‰Θ) 「会ったことはないが、女性だという。まぁ、あまり興味はない。
        他に、聞きたいことはあるかね」

652 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:11:10 ID:d0CvKaZs0

何の抵抗もなく、情報を隠しもしない。
騙されているのかと警戒しながら聞くが、答える男にそんな様子もない。

おかしな仮面のせいで表情は読み取れないが、声の調子は飄々としていて、
正直に、思ったことを口に出している風に感じる。
そんなやつが、あのワカッテマスからの信頼を得られるのだろうか。

(´・ω・`) 「今ここで、ワカッテマスのことを全て話せ」

疑問は疑問のままにしておけばいい。
話してくれるというのだから、今は聞いておく。
嘘だとしても真実だとしても、重要な情報になる。

( /‰Θ) 「それは困る。ワカッテマスのことはあまり知らないんだ。
        私の役割は素材の採取をして送ることだからね。だからこんなに面倒なことになっているんだ。
        教会を破壊して回る何者かを殺せ、と人伝に言われてね。
        この一年、東に西に大忙しなんだ」

(´・ω・`) 「あいつはどこにいる?」

653 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:14:15 ID:d0CvKaZs0

( /‰Θ) 「調べて行動しているんじゃないのか? というか、目的はやはりそっちか。
        教会を善意で潰してまわるようには見えないしね。ワカッテマスは今も南の森にいるんじゃないかな
        リアルタイムで報告を受けているわけじゃないから、知らないけども」

(´・ω・`) 「じゃあ、そこまで案内してもらおうかな」

剣を抜けば、すぐさま兵士達が顔を出した。
銀の蛇の装飾された鎧。
アルギュール教会直属の戦力。
切り抜けられない数ではないが、少々手間取るだろう。

( /‰Θ) 「襲うつもりはないといったよ。ホムンクルスと喧嘩をして痛い目を見るのは損だからね。
        ここにきている兵士の連中にも家族がいるのだし、今日はここで帰らせてもらえないかな」

(´・ω・`) 「殺してやりたいほど憎いワカッテマスの……アルギュール教会に協力する人間を許すと思うか?」

( /‰Θ) 「許すよ。だってそういう顔をしている。戦うつもりのない人間を、自分から斬り殺すようなことはしない」

(´-ω-`) 「……」

よく知ったようにモノを言うやつだと、そう思った。
達観しているように見えて、どこかぎこちない。
仮面をつけているのにも、何らかの理由があるのだろう。

( /‰Θ) 「まぁ、そういうことで。できれば教会を破壊するのはやめてほしいかな。
        それに、話してみたかったんだ」

654 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:16:33 ID:d0CvKaZs0

(´・ω・`) 「それは約束できないな。アルギュール教会の金の流れがある限り……。
       もう一つ、聞きたいことがある」

( /‰Θ) 「何かな?」

(´・ω・`) 「何のためにアルギュール教会にいる?」

話してみれば、ただ不死に眼が眩んだ悪い男のようにはどうにも思えない。
しかし、教会の悪事は知っている。
ならばなぜ、ワカッテマスに協力をするのか。

( /‰Θ) 「何のため、か。……人助け、かな」

(´・ω・`) 「は?」

( /‰Θ) 「教会の本当の姿を知っているのは、多くても全体の一割。信者を含めたらもっと少ない。
        そんな悪事に巻き込まれない様に、守ってやるのさ。出来る範囲でね。
        もっとも、教会に所属している自己矛盾は解決されないが……」

655 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:18:18 ID:d0CvKaZs0

(´・ω・`) 「………………」

( /‰Θ) 「人間一人のできる事っていうのは、すごく、すごく小さい。
        時間も、範囲も、制限だらけだ。だからこそ、自らの"分"を弁えているのさ。
        それに……いや、この場での発言はよそうか。さて、それではお別れだ。
        もう会わないことを願うよ」

周りを囲んでいた兵士達も、それぞれ引いていく。
後に残されたのは、瓦礫の上に立ち尽くす僕だけだった。

教会にまともな人間がいたことにも驚きだ。
話し合いで資金流用を止めることが出来ればどれだけ楽か。

(´・ω・`) (いや……無理だろうな)

教会の絶対的な権力者はワカッテマスであり、
あの男がいくら頑張ったところで大した抵抗にはならないだろう。
残念なことだが、手のひらの上ですら守り切れるかどうか。
余計なことをすれば殺されるのがおちだろう。

656 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:20:16 ID:d0CvKaZs0

それが男の言っていた"分を弁える"ということか。

どのみち、此方で男を止めている分にはいくらかクール達がマシになるだろう。

(´<_` ) 「待たせたな。……何か騒がしかったが、大丈夫のようだな」

瓦礫でふさがれた地下室の、僅かな隙間から出てきたのは半透明な霊体を持つ古代錬金術師の番人。
オットリーノ・ジュエロウ・サスガ。
宝石の名が冠されたのは、その宿る魂蔵からだろうか。

二手に分かれて行動すると決めた時、一番揉めたのはそのチーム編成だ。
クールはアニジャと絶対に別がいいと言い、
アニジャはクールと一緒でなければ働かないとまで言い切った。
ブーンはどちらでもよさそうだったが、僕と二人での旅はクールが反対した。

以前、セントショルジアト城でのことをクールが言っているのはわかったし、
確かに油断が生まれてしまう。

そして決まったのが、僕と番人の弟。
ブーンとクールと番人の兄。

657 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:22:49 ID:d0CvKaZs0

戦争の時に力を発揮した宝玉は、今は珠の状態で僕の手元にある。
武器の形状はとっていないが、必要であればいつでも利用できるように少しの成形銀を持ち歩いていた。

(´・ω・`) 「何事もなかった、かな。次の予定だけど……」

(´<_` ) 「その前に、ここを離れよう。いつまでも瓦礫の中にいるのは不味い」

(´・ω・`) 「少し感覚が鈍ってきたかもしれないな。まさか遥か昔の人間にそんなことを言われるとはね。
       その通りだな。場所を変えよう」

瓦礫の山と化した教会から離れること一時間。
このひと月を過ごした宿に戻ってきた。
ここを利用するのも、今日が最後の夜になる。

堅くて寝心地が悪いベッドを椅子代わりにし、グラスの水を一口だけ飲んだ。
朝、井戸から組んできた水は、今の今まで外気にさらされていたせいで生温い。
それでも、一心地つくには充分。

枕元に広げたままの地図に、新たにもう一つ、バツ印を書き込む。

658 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:23:35 ID:d0CvKaZs0

(´<_` ) 「それで、誰と話していた?」

(´・ω・`) 「わからない。顔を隠していたから。ただ、教会側の人間で、破壊行為をやめろと」

(´<_` ) 「破壊行為……ね……その通りだな。それで、どうする」

(´・ω・`) 「続けるさ。でも、次の襲撃地は予定とは変えよう」

次に目的としていたのは南西にある小さな教会。
集めている金の規模でいえば、全土で最も少ないだろう。
この街から近くにあるし、この襲撃が終わればすぐに向かう予定にしていたが、
順番を組み替えた方がいい。

五年の約束にはまだ時間があるし、再建されつつある教会もあるらしい。
騎士協会との取り決めがあるから、そちらに向かうわけにはいかないが……。

(´<_` ) 「なら、さっさと街を出た方がいいんじゃないか?」

(´・ω・`) 「いや、こちらを襲ってくるつもりは無さそうだった。別に問題ないと思う」

(´<_` ) 「それは話した男が、だろう? その男がいて、他に教会のお偉方がいないと思うのは早計じゃないか」

(´・ω・`) 「確かにそれは……」

659 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:27:36 ID:d0CvKaZs0

教会の人間と言えば、問答無用で襲い掛かってくるような奴ばっかりだったせいで、
どうにも感覚がくるっていたのかもしれない。
あの男が善人である。そう感じたからそれが間違いない、
と言い切れるほど僕に人を見る目があるわけでもない。

(´・ω・`) 「わかった、今すぐ出発しよう。今日は野宿になるだろうけど」

(´<_` ) 「俺は構わないぞ」

番人は、どういう仕組か珠の中に入ることができる。
彼らにも詳しくはわからないようだが、ただただ驚くことばかりだ。

今の僕をもってしても、同じものは作れないと断言できる。
それほどまでの技術……錬金術。

(´・ω・`) 「誰が作ったんだ?」

何回目だろうか、数えるのもやめてしまった質問。
返ってくる答えは、やはりいつもと同じ。

(´<_` ) 「言わない約束だ。
       彼女を超える術師はこの星の寿命が尽きるまで現れないだろう」

(´・ω・`) 「星の寿命が……」

660 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:33:02 ID:d0CvKaZs0

彼女、と。オトジャは言う。
古代錬金術の担い手たるその術師は女性であるということ。
別におかしな話ではない。

男の錬金術師が大多数を占めるが、女性だからできないとうことはないからな。
現に、優れた女性術師も何人か知っている。

(´<_` ) 「悲観するなよ、彼女の存在が間違いだったのだからな」

(´・ω・`) 「間違いだったとは……いや、どうせ教えてはくれないのだろう。
       話に夢中になって片付けが全然できていない。
       すぐに終わらせるから待っていてくれ」

(´<_` ) 「手伝えれば楽なんだがな」

アニジャとオトジャの二人は、物体に触ることもできるし、匂いも、味もわかる。
だけど、その基礎能力値は子供よりはるかに小さいようで、
剣を振り回すなんてことはできない。

それでも、部屋に散らかっていた錬金術の素材を幾つか拾い集めてきてくれた。
古代錬金術の知識の集大成である番人に、こんな雑用をさせてもいいのだろうか。
随分贅沢な使い方だが、当人の意志でやってくれているのだから別にかまわないか。

(´・ω・`) 「次はアゾルフに向かう」

661 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:34:53 ID:d0CvKaZs0

(´<_` ) 「随分離れるんだな」

地図は頭の中に入っているようで、即座にその位置関係を理解するオトジャ。
確かに、合流予定地点に一気に近づくことになるし、
その後の行程が逆走になるからできればもっと後で行きたかった。

だけど、無理をしてもこの地に行くのには、一つ理由がある。

(´・ω・`) 「あそこは停戦協定を結んだばっかりなんだ」

(´<_` ) 「成程、確かに戦争中であれば、教会を破壊するのも気が引けるな」

教会は宗教的施設ではあるが、有事の際は避難所になることもある。
アルギュール教会もその例に洩れず、そういうことをして地域に根付こうとしていた。

アゾルフ = ゲルト 戦争

十五年もの間、争い続けた両国。
既に国民の疲弊は限度を超え、国家の備蓄も底をつき、両国ともに戦争を行えなくなっていた。
そこで騎士協会が間に入り、紆余曲折あった末に、なんとか取り決めをした。
それがつい一週間前のこと。

662 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:35:56 ID:d0CvKaZs0

(´・ω・`) 「今も国境付近では小競り合いをしているらしいが、小康状態といったところか」

(´<_` ) 「ここからどのくらいかかる?」

(´・ω・`) 「二週間ぐらいじゃないかな。別に急ぐ必要もないし、ゆっくり行こう。
       ここら辺は、山菜を使った料理が有名なんだ。食べ歩きでもしようじゃないか」

(´<_` ) 「えらく余裕だな……あんな顔をしていたのに」

(´-ω-`) 「……」

オトジャが言っているのは、生まれた時の話をした晩のことだろう。
自分でもわかるくらいひどい顔をしていたと思う。

怒りや憎しみに限らず、喜びや楽しさといった感情は、長続きしない。
それらの感情を維持するのにだって多大なエネルギーを使うのだから、当然のこと。
かと言って、ワカッテマスを赦すかと言えば別の話。

必ず殺すと、そう決めた。

663 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:37:58 ID:d0CvKaZs0

それは、何があろうと変わりはしない。
ただ、その前準備を今はしている。
それに負の感情は必要ない。ただ黙々と役目を果たすだけ。

過度な憎しみや怒りは判断を狂わせる。

(´-ω・`) 「冷静でないと、簡単なこともうまくいかない」

(´<_` ) 「もともと、あまり気にしてはいないが、その様子だと大丈夫なようだな」

(´・ω・`) 「ふぅー終わった。……さて、夜のうちに出よう」

アゾルフまでは長い道のりになる。
道中にもある程度気を使わなければならない。
アルギュール教会の人間が、どこかで待ち伏せしている可能性もあるのだから。

その点、寝ることなく行動できるこの体はありがたい。
オトジャに頼めば、誰にも見つかることなく付近の捜索もできる。

(´・ω・`) 「よっし」

664 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:41:04 ID:d0CvKaZs0

金の支払いを終え、馬の背に跨る。
オトジャは慣れたもので、肩に腰のあたりをおろす。
ふわふわと浮いて移動するのにも限界速度があるようで、
馬に乗って移動する時は決まってこの体勢になる。

それを確認し、手綱を強く引いた。



・  ・  ・  ・  ・  ・



「だからいったのによ、それ以上動くな、ってな」

頭の上から響くのは、聞き覚えのある憎たらしい声。
サヴァレという名の、不老を得た錬金術師。

瓦礫に遮られて、その顔を見ることがないのはありがたい。
そう強がってみるものの、如何せんどうしようもない状況であった。

「さって、氷漬けにした後に屋敷まで運んでやるよ」

665 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:41:51 ID:d0CvKaZs0

(;´-ω・`) 「くそっ……」

苛立つ笑い声が、足音と共に遠ざかっていく。
どうやら"氷漬け"の仕掛けを取りに行ったようだ。

(´<_` ) 「予想外だったな、あの男がここまでの仕掛けを用意しているとは」

(;´・ω・`) 「確かに見縊っていたけど、この程度、出ようと思えばすぐに出れる」

床板が偽装されて、錬金術を使わずにで固められてたとは言え、
落とし穴に引っかかるなんて、いくらなんでも気が緩みすぎていた。
頭の上にある大量の瓦礫は、ネットで支えられている。
押しつぶしてしまわない様に、逃げ道を塞ぐつもりだったのかもしれないが、それでは甘い。

(´・ω・`) 「いろいろと頭を使ったようだけど……」

どれだけの苦労をしようと、長々と準備をしようと、錬金術の優劣には常に発想が最も大きな采配を受ける。
勿論、その発想を形にできるだけの技術と知識は必要だけれど。

(´・ω・`) 「瓦礫の山なんて紙屑同然だよ」

666 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:43:03 ID:d0CvKaZs0

天井に向けるのは、錬金術で造った特別製の筒。
高火力の大バーナーを放出する、一回きりの錬金術。
もともとは教会を破壊するために用意していたものだけど、
向こうから壊してくれたので使う機会が無くなってしまった。

だから今使ってしまっても問題ない。

(´・ω・`) 「離れていてくれ」

オトジャは、返事もなく珠の中へと身を隠した。
筒の尾から伸びた紐を引く。
中で錬金反応が起こり、二つの物質が接触することで、天井の瓦礫に青色の火炎が突き刺さる。
瞬間の光が散り、火炎が通り抜けた部分は何も残っていない。

(´<_` ) 「生きてるか?」

(´・ω・`) 「一度死んだよ……」

激しい火炎が吹き出るのだから、それを持っている僕が無事なわけがない。
溶けて死ぬというのは、あまり気分のいいものではないな。
そのことがよくわかっただけでも良しとしよう。

667 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:44:03 ID:d0CvKaZs0

未だ真っ赤に爛れる岩石の道を、走り抜ける。

(;´・ω・`) 「っ! 熱いっ!」

(´<_` ) 「もっと別の脱出方法もあっただろう」

(; ^ν^) 「なんだこりゃ……何しやがった!」

騒がしいのが戻ってきた。
ここまで派手にやれば、それも当然だが。

(´・ω・`) 「まさか、最初っから教会を崩すつもりで待ってるとは思わなかったよ」

( ^ν^) 「俺様の策だったからな、凡人には予測すらできねーよ」

(´・ω・`) 「で、こうして脱出したわけだが、まだやるか」

腰の剣を抜けば、サヴァレは一歩下がる。

668 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:47:01 ID:d0CvKaZs0

剣で斬られれば死ぬ。

病に侵されれば死ぬ。

不老の錬金術師は、不老であるがゆえにより死を恐れるのだろう。

(; ^ν^) 「っち……まぁいいか。おい、退くぞ」

応戦の構えをしていた兵士達は、錬金術の痕跡を見て呆気にとられたのか動かない。
威嚇をするように大きく剣を振ったことで、緩慢な動きで退散を始めた。

(´<_` ) 「意外と素直に引き下がったな」

(´・ω・`) 「あいつらだって馬鹿じゃない。実力差は知っているだろうし、
       一対多だろうが何人かは犠牲になるのが見えている。
       さて、その状況で最初に突っ込んでくるやつはいるか。
       答えは否。押し付け合いの膠着状態。ただひたすらに士気だけが下がっていく。
       それを知っているのさ」

(´<_` ) 「人間は今も昔も臆病で狡賢いな」

(´・ω・`) 「そう簡単に本質は変わらないさ。さて、相手が目的を果たしてくれたし、僕らもすぐに逃げよう。
       あれ以上仲間を連れて来られれば流石に厄介だし」

669 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:47:54 ID:d0CvKaZs0

・  ・  ・  ・  ・  ・



教会を後にし、すぐに宿に戻る。
幸いにして此方に襲撃はなかったようで、馬やその他の荷物は無事だった。

(´・ω・`) (読まれていたのか、それとも手当たり次第に罠を仕掛けているのか……)

後者なら面倒なことだ。中に人がいれば破壊に巻き込む可能性があるし、
どうしても確認のために教会内に入る必要がある。

(´<_` ) 「生物以外を破壊する薬品でも作ればいいのではないか?」

(´・ω・`) 「古代錬金術の番人でも冗談を言うのだな」

難しいどころではない。
少し考えただけでも大凡不可能と分かる錬金術。
そんな夢のようなものを創り出すための、時間も知識も技術も何一つない。

(´<_` ) 「アニジャは冗談だらけだ」

残念ながら、その一言に反論の余地はなかった。
無駄な会話を切り上げ、宿を出る準備を進める。

(´<_` ) 「……客が来たみたいだ」

670 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:50:17 ID:d0CvKaZs0

散らかったままの素材の瓶、干しておいた薬草。
旅の服に、錬金術で創り出した便利道具。

それらが全て、一瞬で吹き飛んだ。
唐突に巻き起こった激しい爆風に、為すすべなく壁に叩き付けられる。
それでも、剣が手元にあったのは運が良かった。

再生していく身体を無理やり動かし、吹き抜けとなった窓から建屋の外に飛び出す。
背後でドアを破壊するような音が響く。

(´<_` ) (篭らなかったのは正解だったな)

胸の辺りから響くのは、珠に姿を隠したオトジャの声。

(; ^ν^) 「なっ!?」

立てこもりを予想していたであろう間抜けな指揮官は、数人の護衛と窓の外に立っていた。
剣を抜く隙すら与えず、駆け寄りその首元に刃を当てる。

671 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:52:28 ID:d0CvKaZs0

(´・ω・`) 「動くなよ」

(; ^ν^) 「くそっ……」

護衛の男達は、武器を振り上げたまま動かない。
こいつの命にどれだけの価値があるかわからないが、少しはゆっくり話をする時間がありそうだ。

(´・ω・`) 「しつこい奴だな。失敗したんなら大人しくしてなよ……」

(#^ν^) 「っち。うるせー殺すんなら殺せ」

(´・ω・`) 「思っても無いこと言うなよ。ちょっと聞きたいこともあったんだ」

(; ^ν^) 「何も答えねーぞ」

強がっている言葉とは裏腹に、額に汗が浮かんでいた。
抵抗する様子が無いのは、無駄だとわかっているから。
さして強い力で拘束しているわけではないが、錬金術師であって、
そのうえこの状況で抗うことが出来る者は限られている。

(´・ω・`) 「焦ってるのか?」

672 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:54:13 ID:d0CvKaZs0

作戦が失敗した後の無理やりな襲撃。
それも、ただ宿に爆発物を投げ込むだけの粗末なもの。

それでも、部下にだけ実行させていればこんなことにはならかなった。
そう考えれば、リスクを冒しても一刻も早く、僕を捉えたいという思いがあったということ。

( ^ν^) 「……」

(´・ω・`) 「だんまりか……」

首を押さえていた剣を足に向け、その右太腿にゆっくりと突き刺す。
服が破れ、鋭い剣先が肉を割いて埋まっていく。

(; ^ν^) 「いてえぇええ!! ま……まてっ! 話す! 話す!」

(´<_` ) 「平気な顔をして、恐ろしいことをするんだな」

(´・ω・`) 「殺すつもりはないさ」

(; ^ν^) 「な……なんだそいつは!」

珠から出てきたオトジャに驚いているが、説明するつもりはない。
此方が聞きたいことだけを話してくれさえすればいいのだ。

673 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:56:13 ID:d0CvKaZs0

(´・ω・`) 「お前が知る必要はない。それで、何から話してくれる? 僕の荷物を粉々にしてくれたんだ。
       もう一回作り出す為にどれだけの時間がかかって、どれだけ苦労するかなんて知らないんだろう?
       生半可なことじゃ、僕の意志も変わってしまうかもしれない」

爆破された部屋の中には、いくつもの貴重品があった。
最重要なものは無事だろうけど、それ以外は軒並み用意しなきゃいけない。

(´<_` ) 「そちらに怒っているように聞こえるが……」

(; ^ν^) 「時間がねーんだよ……」

(´・ω・`) 「時間? なんのことだ」

(; ^ν^) 「あんの糞野郎。不老だとか言って俺たちを騙しやがってよ。
        自分はよぼよぼで今にも死にそうじゃねぇか」

咳を切ったように話し始めるサヴァレ。
死の恐怖を怒りが上回ったのか、声が荒々しくなっていく。

(´・ω・`) 「それは……ワカッテマスのことか?」

674 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 19:59:14 ID:d0CvKaZs0

(#^ν^) 「ああそうだよ。
        それでで、早急に本物の薬が欲しいってわけ。ま、もう終わりだがな。
        どうせ教えてくれるつもりはねーんだろ。糞が。
        俺らもあと百年かそこらで、ああなっちまう」

(´・ω・`) 「それで、今は何処にいる」

( ^ν^) 「誰も知らない森の家だ……」

(#´・ω・`) 「言え! どこの森だ!」

思わず力が入り、サヴァレの首筋に赤い線がはしる。
痛みに顔を歪め、吐き捨てるようにその名を明かした。

(; ^ν^) 「ひぃ……───コーフィリアの近くにある森の中だ」

それは、僕の生まれ故郷のもので間違いない。
隠れ里での調査では、居場所の予測が出来ても、確実ではなかった。
もしかしたらいないかもしれない。

その不安は、払拭された。
この男は、既にワカッテマスを見切ったのだ。
不老の約束が嘘であったこと、そして既にまともに行動することもできないということ。
ワカッテマスの下で研究することをやめ、教会を隠れ蓑として利用しながらだから、自分で解決しようとした。

百年かかっても、この男には不老不死の完成は無理だろうが。

(´・ω・`) (殺しとくか……?)

もし、まだ人を犠牲にして錬金術を無理やりするつもりであるなら、それも止む無し。

675 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 20:01:58 ID:d0CvKaZs0

(;´-ω・`) 「っ!」


サヴァレを押さえていた左腕に突き刺さったナイフ。
投擲用の小型なものであったが、一瞬だけ力が抜ける。

(; ^ν^) 「っち、おせーよ」

その隙に羽交い絞めを抜けだされ、サヴァレの顔に強気が戻ってくる。
わかりやすいやつだ。

(´・ω・`) 「……あんたか」

( /‰Θ) 「そいつを殺されたら困るんでね」

( ^ν^) 「ったくよー。誰が糞野郎の代わりに教会を纏めてると思ってんだ」

( /‰Θ) 「悪かったよ」

( ^ν^) 「ってなわけだ。あいつに会いたいならさっさとした方がいいぜ」

(´<_` ) 「あの男……」

(´・ω・`) 「どうした」

(´<_` ) 「いや……」

676 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 20:04:20 ID:d0CvKaZs0

サヴァレともう一人の男は兵を連れて引き揚げていく。
それを止めることもなく、僕は思考の泥沼に沈んでいた。

ブーンとクールの約束にはまだ日がある。
サヴァレの言うように、ワカッテマスの様子がおかしいのであれば、待っている余裕はない。
問題は、何らかの策略が張られている可能性。

(´・ω・`) (……本当に見捨てたといった感じだったけど、それすらも演技だとすれば……)

(´<_` ) 「悩んでいるようだな」

(´・ω・`) 「ああ。どうするのが正解なのだろう」

(´<_` ) 「正直な意見を言えば、クールとブーンとの合流を待つべきだろうとは思う。
       もし仮に罠であった場合、我々だけでは対抗することが難しい。
       だが……」

そう。
もし二人を待って、ワカッテマスに何かあったとすれば。
仇を取る前に憎しみの対象を失ってしまう。
そうなれば、僕は永遠に後悔し続ける。

677 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 20:07:34 ID:d0CvKaZs0

協力を申し出ておきながら、最後には単独行動。
クールは怒るだろうな。

死にたがりだった彼女は、今はなりを潜めている。
何があったのか彼女は言わないし、僕も聞かない。
それでも、生まれてきたことを恨むことをやめてくれたのなら、それ以上にうれしいことはない。

ブーンは相変わらずだ。
勢いだけで生きているように見えて、情に厚く、いつも助けてくれる。
もし僕の立場にいれば、彼なら全部飲み込んで生きているかもしれない。

(´・ω・`) 「……行こう。決着をつけに」

罠であろうが、全て突破する。
その覚悟がなくて、どうして教会を終わらせることが出来ようか。

(´<_` ) 「ついていこう。アニジャとはお互いの位置がなんとなくだがわかるように繋がっている。
       そのことに気付いてくれれば、後からでも追いかけてきてくれる」

(´・ω・`) 「向かうのはコーフィリア。大森林のすぐ近くにある都市だ」

678 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 20:08:34 ID:d0CvKaZs0













26 朽ちぬ魂の欲望 <上>  End


683 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 21:11:56 ID:d0CvKaZs0
【時系列】

0 記録 → ???
   ↑
   ↓
22 アタラシキイノチ 誕生編
23 フシノヤマイ
24 テニイレタキセキ
25 シズカナムクロ
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです 少女編
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです   
8 ホムンクルスと少女のようです
   ↑
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   │
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   │
3 ホムンクルスは抗うようです
   │
4 ホムンクルスは救うようです
   │
5 ホムンクルスは治すようです
   │
9 ホムンクルスは迷うようです
   |
10 ホムンクルスと動乱の徴候 戦争編・前編
11 ホムンクルスと幽居の聚落
12 ホムンクルスと異質の傭兵
13 ホムンクルスと同盟の条件
14 ホムンクルスと深夜の邂逅
15 ホムンクルスと城郭の結末

17 ホムンクルスと絶海の孤島 戦争編・後編
18 ホムンクルスと怨嗟の渦動
19 ホムンクルスと戦禍の傷跡
20 ホムンクルスと不在の代償
21 ホムンクルスと戦争の終結
   │
   │
26 朽ちぬ魂の欲望  <上>
   │
   │
16 ホムンクルスは試すようです


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