(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
700 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/11/29(日) 21:25:59 ID:7UQzgeMs0












27 朽ちぬ魂の欲望 <下>

701 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 21:27:46 ID:7UQzgeMs0

大森林と草原の境界に位置する、見捨てられた地。
人が住まなくなってから既に百年以上経ち、街は大きく変わっていた。

入り口の前で立ち止まり、背の高いアーチを見上げる。
木材を繋ぎ合わせて作った簡素な看板には、コーフィリア、とだけ書かれていた。
緑の苔に覆われ、所々が雨で腐り落ちている。

今や、それを直す者は誰もいない。

廃墟となった街。

(´<_` ) 「これが……」

(´・ω・`) 「最初に起きたのは、たぶん地殻変動だと思う」

後になって知った話だ。
ウィムナース教会のあった街で大規模な地盤沈下と隆起が同時に起きた、と。
その時は、この場所のことをもう思い出したくもなかったし、
僕一人が向かったところでできる事なんてないと思って確かめもしなかった。

702 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 21:29:17 ID:7UQzgeMs0

この様子であるなら、最初の災害で多くの人が無くなったはずだ。

(´<_` ) 「当然のことだが……ひどく退廃しているな」

白色で整った建物は、その大部分が崩れ、赤褐色の地肌は大きく捲れ上がっている。
街の入り口を賑わしていた露店の残骸は、ほとんどが雨に流され、
土砂に塗れて大地の亀裂にただ積み重なっていた。

過ぎ去った年月の証として、それらは白と黒が混じり合い灰色になってしまった。

焼け焦げて炭になった布と、荒れ地で好き放題に根を張る植物。
辛うじて、石で造られた建物だけが残っている。

(´・ω・`) 「……おかしい」

これだけの天変地異でありながら、未だにその存在を確かにしている建物が瓦礫の中心に見えた。
青い空に突き刺さるかのような白の尖塔はくすんでその輝きを失い、
美しかったステンドグラスのあった窓には砕けて黒い穴が見えるだけ。
丁寧な彫刻で全体を覆われていた柱は、黒と緑の混じった色で見る影もない。
それでも、倒れることなく存在を誇示していた。

703 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 21:30:50 ID:7UQzgeMs0

かつて、観光地として隆盛を極めたその教会のことは覚えていた。

そこを目指して街中を歩く。
段差が多く、ぐらぐらと揺れる足場で走るのは憚られ、一歩一歩ゆっくりと、確実に。
宙に浮いているオトジャを阻む障害はないようで、僕の速度に合わせてついて来る。。


ウィムナース教会。

その廃れた扉を前にして、立ち止まった。
僕らは同時に明確な痕跡に気付いた。

(´<_` ) 「教会を中心にして……ここだけ被害がない、か」

オトジャの疑問には、僕も答えられない。
地殻変動の被害の痕跡がないのは、教会を中心にした半径数十歩の円形のみ。
教会広場の一部をはしる亀裂は、線をなぞったかのように明確に弧を描いている。

(;´・ω・`) 「こんなことはありえない」

(´<_` ) 「自然現象でありえないとすれば……人工的な何かがあるということだ」

(;´・ω・`) 「……だけど、この街が大災害に襲われたのはもう百年以上も前だ。
       その頃に、誰が、どうやってこんなことができた」

704 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 21:34:36 ID:7UQzgeMs0

(´<_` ) 「今は気にしても仕方ないだろう。そんなことより大事な目的があるのではないか?」

(´-ω-`) 「わかってるさ」

原因を解明しようにも、年月が経ちすぎているせいで容易ではない。
それに、オトジャの言う通り今の目的は別のこと。
ただ通り抜けるだけなのに、広場のあちこちに目が向く。

この辺りは、街の入り口に比べると遥かに被害が少ない。
そのせいか、教会の象徴たるウィムナースは無傷で残っていた。
だが、付近の売店で売られていたはずの玉は、地面に転がり泥にまみれて隅に固まっている。
誰もが願いをかけて狙ったウィムナースの器の中には、今は何もない。



その中の一つ。
比較的綺麗なボールを拾い上げる。

かつての自分がそうしたように、下から緩やかに放り投げた。
何の願いも、何の望みもなく、ただ機械的に器を狙って。


家族みなで幸せに暮らせるようにと。

そんな小さな幸せすらも、叶えてくれなかった神に、いまさら何を願うことがあるだろうか。

705 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 21:37:09 ID:7UQzgeMs0

(´・ω・`) (……)


人気のない教会の入り口で、ふわりと宙に浮いた球。
弧を描いて、ウィムナースと呼ばれた球体の上に置かれた皿の中へすいこまれていく。

溜まっていた水が跳ねる音がして、ボールは皿の淵に当たった。

(´-ω-`) 「デレーシア様、御主人様……」

皿の直上へと向きを変え、ボールはそのまま何度か跳ねて皿の中に落ちた。
あの時と違い、教会の入り口は静けさを保ったまま。

称賛も、喝采も、僕には必要ない。

全てを終わらせるのは、誰にも知られない森の中。
創森熊によって拡大され、家を、そして草原の大部分すらも飲み込んでしまった名も無き大森林。


(´・ω・`) 「行くよ。ここからまだしばらくの距離があるし、馬の足だと、森を進むのには時間がかかる」

706 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 21:38:16 ID:7UQzgeMs0

(´<_` ) 「七大災厄……いや、グローイング・グリズリーと言ったほうが分かりやすいか。
       あれは、今も森で暮らしているのか? 遭遇することなく目的地に着くことができるだろうか」

(´・ω・`) 「わからない。今どこにいて、何をしているのか。
       まだ新緑元素を護っているかもしれないし、とうに他の森へと住処を変えてしまっているかも。
       創森熊のことも知っているんだな

(´<_` ) 「昔、少し関わることがあっただけだ。それとは別の個体だと思うがな。
       知っているとは思うが、アレは下手に刺激すると手が付けられん。
       森がこれだけ拡がったのも、アレにしてみれば少し寝床が大きくなった、程度だろう」

規格外の生物。
今にして思えば、デレーシア様のことがあったとはいえたった二人でよく立ち向かったものだ。
それも、ホムンクルスという特性があったからこそ。

ただの人間で、あの化け物を相手取るようなことは出来ない。

(´<_` ) 「警戒しすぎて無駄なことはない。こちらも出来るだけ周囲に気を配っておこう」

(´・ω・`) 「よろしく」

707 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 21:39:40 ID:7UQzgeMs0

街の外に出れば、すぐそこにある陽の光を遮るほどの高い木々が並ぶ森。
道などと呼べるものはなく、生い茂る草木の少ないところを踏み込む。

頼りになるのは太陽の方角のみ。

あの時、創森熊のせいで肥大化した森は、人を拒むかのように存在し続けてきた。
正確な地図がどこにもないのは、森へ入った者の誰一人として帰ってきていないからだろうか。

(´<_` ) 「場所はわかるのか?」

太陽が最も高く昇っている時間にもかかわらず、森の中は暗くて湿気ている。
人の歩んだ後はなく、鬱蒼と茂った草花を踏み分けて進む。

(´・ω・`) 「大体はね」

逃げ出した時のことは殆ど覚えていないし、あれから経っている期間を考えれば、
当時とは全く違う構造をしていてもおかしくはない。

創森熊の行動範囲は予測がつかないが、森の中を常に動き回っているとすれば、
相応の変化があるはずだ。

(´<_` ) 「ふむ……やはり植物が生き生きとしているな」

708 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 21:42:44 ID:7UQzgeMs0

(´・ω・`) 「創森熊の恩恵か」

(´<_` ) 「ああ、だがそれだけじゃない。これは何かがある。
       森の植物だけじゃなく、動物たちもなんというか……活動的すぎる」

(´-ω・`) 「うーん……」

付近を見回してみても、オトジャの言う違いは分からなかった。

幸い、食用の実が至る所に見える。
飢えて活動し難くなくなるようなことはないだろうが、あまり長い間彷徨っているわけにもいかない。

緑一色ではなく、多種多様な生物が共生している森の中。

草木をかき分けて進んでいれば、錬金術師としての心が試されているような気がしてくる。

白い蔦が絡みついた大樹は、透明な果実を実らせ、
その根元には大型の獣ほどありそうな葉を数十枚も束ねた、枕草が群生している。
葉の内部に豊富な繊維を含んでいるそれらは、柔らかく、そのまま枕として使うことができるために、そう呼ばれている。
ただ、ここにあるものは、今まで見たことがあるものの数倍の大きさがある。

709 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 21:43:32 ID:7UQzgeMs0

持って帰ることが出来れば、割と高値で売れるかもしれない。

(´<_` ;) 「止まれっ!」

(;´・ω・`) 「?」

急な静止に、思わず手綱を引いてしまった。
結果的には、命拾いをしたけれども。

落とすはずはないけれど、落ちるかもしれなかった。

馬を下りて茂みを抜けた途端、目の前がひらけた。
視界を埋め尽くしたのは、青い空と白い雲そして、緑の大穴。
光すら閉ざすような大森林の中に、あるはずもない環境。

(;´・ω・`) 「なんだ……これは……」

地割れだとか陥没だとか、そんな生易しいものではない。
向こう側は霞に覆われて見えず、一体半径がどれほどあるのかもわからない。
大地を丸ごと削り取ったかのように空いた大穴の斜面と底には、なぜかこちら側と同じ植物が生えている。

そのおかげで、原因はわからずとも、何が起きたのかは予測がつく。

710 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 21:44:47 ID:7UQzgeMs0

(´<_` ) 「沈んだ……いや、沈めたのか」

(;´・ω・`) 「有り得ない」

此方から向こう、下り坂は左右に弧を描いて拡がっている。
それは、目に見える範囲でゆっくりと遥か先の霞に消えていった。

自然の変化ではありえないような、人工的な形跡。
だが、それを素直に認めることができない自分がいた。

(;´・ω・`) 「こんなことは不可能だ……」

地上に生えた森林をそのままに、大地を削り取るなんて錬金術は。
そんなものが存在していいわけがない。

(´<_` ) 「はたして、人間の精神だけに形を与えて生かすことと、どちらが難しいだろうな」

(;´・ω・`) 「ッ!」

想像だにしていなかったことが、現実に今ここで起きているということ。
それこそが存在の証明。

711 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 21:47:58 ID:7UQzgeMs0
(;´・ω・`) 「……出来るのか?」

(´<_` ) 「出来るか出来ないかでいえば、恐らく可能だろう。その錬金術は、随分前に失われたと思っていたが……」

(´・ω・`) 「街の地殻変動は、これの余波で間違いなさそうだな」

これだけの大地が消滅ないし圧迫されたのだから、それ相応の歪みが発生してしかるべきだ。

(´・ω・`) 「まだ、これが起こるのか?」

(´<_` ) 「いや、これ限りだろう。もし原因が俺の知っているものだとすれば、あれは間違いなく三つしかなかった。
       一つは海に消え、一つは解体された。この原因は、失われていた最後の一つだろうな」

これと同じことが起きないと約束されるのはありがたい。
そんなものに巻き込まれれば何が起きるか……。

(´・ω・`) 「降りるか」

斜面は大した角度でないし、馬を連れながらでも降りることは出来そうだ。
これから先の道を考えると、ここで馬を置いていくのは避けたい。

712 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 21:48:48 ID:7UQzgeMs0

(´<_` ) 「窪んでいること以外はただの森だ。だが、大丈夫か?」

(´・ω・`) 「何が」

(´<_` ) 「これだけの変化、人間が巻き込まれて無事だとは思えないが」

(´・ω・`) 「……。あいつは生きている」

(´<_` ) 「根拠は?」

指さすのは、恐らく中心部に位置するであろう付近の中空。
見逃してしまいそうなほど小さな、白い塊が周回するように回っている。

(´・ω・`) 「あれは連絡用に飼われている鳥だ。
       この底にいるワカッテマスが、他の連中と連絡を取るために使っていたんだろう」

周回軌道には一定のリズムがあった。

楕円を描いたかと思えば、急降下、急上昇をして、大樹に宿る。
幾つかにグループ分けをされて訓練されている動き。

713 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 21:51:27 ID:7UQzgeMs0

(´<_` ) 「別の人間がいる可能性もあるだろう」

(´・ω・`) 「確かに、他の可能性を考えればいくらでも出て来る。論理的じゃないのはよくわかってるよ。
       復讐目的の旅なんだ。もともと理屈なんてないし、感情でしか動いていない」

(´<_` ) 「別に不安を煽っているわけじゃないから勘違いしないでくれ。
       ただ、これだけの環境変化があれば、錬金術の素材になる樹木や生物が、
       外界と全く異なる性質を持っていてもおかしくはない。充分に注意してほしい」

(´・ω・`) 「ああ、しっかりと心に刻んでおくさ。僕もさっきから肌で感じている。
       明らかに常軌を逸したこの大森林にね」

持ってきていた地図は、端から役に立たない。
知識と経験と勘。
それ以外に頼りになるものはない。

古代錬金術師の番人が共にいてくれることが、随分とありがたい。
覚悟を決めて、下り坂に足を踏み入れた。

714 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 21:53:45 ID:7UQzgeMs0

・  ・  ・  ・  ・  ・



(;´-ω・`) 「いつまで続くんだか……」

(´<_` ) 「感覚的には半分くらいだろうか」

(;´・ω・`) 「もう丸二日も降り続けてるのに……」

陽がのぼっているうちだけでなく、暗くなってからも僅かな灯りを頼りに降りてきた。
休憩もできる限り削ってきたが、それでもまだ半分か。

(´<_` ) 「少し休憩したらどうだ。その辺の果実は栄養価もたっぷりあるだろう」

(;´・ω・`) 「急ぎたいが……そうするよ」

生い茂った植物と、足場の悪い下り坂は思った以上に体力を消耗する。
万全の状態でワカッテマスと向かい合うためにも、ここらで一休みしておくのがいいか。

適当な枕草を引きちぎって頭の下に置き、目を閉じて眠っていたが、
一時間ほどで起こされた。

715 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 21:55:05 ID:7UQzgeMs0

(´<_` ;) 「おいおいおい……なんでこんな所にいる……」

囁くような声で目が覚めたのは、その声に含まれる焦りを感じたから。
古代錬金術師の番人ですら不安になる様ななにかが起きている。

(´-ω・`) 「……なんだ?」

(´<_` ) 「あれを見てくれ」

オトジャが指したのは、木の枝に逆さにぶら下がった梟。
茶と白の羽毛に、黒い眼。
体躯は普通のそれらと同じか、少し小さいくらい。

それとは不釣合いな鋭く光る大きな嘴。
ここからでも、触れたら切れそうなほどの鋭さがわかる。

その双眸が、僕らに向けられて離れない。

オトジャの緊張が、此方まで伝わってくる。
寝起きのはっきりしない頭で、よくわからない危機感を覚えていた。

716 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 21:56:19 ID:7UQzgeMs0

(;´・ω・`) 「普通の梟にしか見えないが……」

牙は無く、爪も脅威になるほどの大きさはない。
大きい嘴だって、人間にしてみれば手のひらほどであり、
創森熊のような命を脅かすような圧力もない。

(´<_` ;) 「いや、知らないのも無理はない。彼女でさえ、逃げるのがやっとだった。
       あんな静かで凶悪な生き物が、人間の歴史に残っているわけがない」

(´-ω・`) 「どうすればいい」

思い当たる脅威はないものの、オトジャの動揺から、
下手な動きは相当にまずいのだと判断し、無駄な動きはせずに指示を仰ぐ。
相変わらず、木に留まった梟はこちらを見つめて動かない。

(´<_` ) 「まずは起きて頭を下げろ。良いというまで絶対にあげるな」

仰向けだった体勢から体を起こし、脚を組み替えて地面に着くまで頭を下げる。
地面の冷たい感覚が両手と額に触れ、心臓の鼓動が体の芯に響く。
五分続いたのか、それとも十分か、時間の感覚が体と頭から消え去った。

717 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 21:57:47 ID:7UQzgeMs0

(´<_` ) 「……もういい」

その声を聞き顔をあげた時、梟は姿も形もなかった。
最初からなにもいなかったのだと言われても、疑わないほどに静かなままの森の中。

(´・ω・`) 「どういう事か教えてくれないか」

(´<_` ) 「彼女はイシファ・ココウヴィーヤと呼んだ。今風に言うなら静かな梟、か。
       だけどその本質は真逆のところにある。暴虐にして、高慢。王の名を冠した宵闇。
       一度怒らせてしまえば、その者の存在を消してしまうまで許しはしない」

(´・ω・`) 「そんな風には見えなかったが」

(´<_` ) 「それがあれの恐ろしいところだ。
       通常の梟と接するように腕でも差し出してしまえば最期、肉片すら残さず消滅する。
       非常にプライドが高く、好戦的で怒りやすい。最も危険な生物のうちの一匹。
       七大災厄にその名を連ねていたはずだが……」

(;´・ω・`) 「そういうことか! 文献には鳥とだけ表記されていて、梟とは記されていなかった……。
       あれが……エルファニア……宵闇の鳥」

718 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 21:59:16 ID:7UQzgeMs0

"七大災厄" を本で読んだのはもう遥か昔のこと。
人類では対抗することのできない、自然そのものが形どったとされる七種の生物。
他世界の存在とすら恐れられている。

一部はその姿こそ一介の動物と大差ないものの、持ちうる力は大災害級。
怒らせてしまえば、人類の版図は大きくそのエリアを縮めてしまう。

(;´・ω・`) 「誰も見たことがないことから、実在を疑われていた七大災厄……」

(´<_` ) 「成程、そう呼ばれているのか。
       その……エルファニアはな、錬金術の痕跡が好きなようだ。彼女が言うには。
       これだけ大規模な地殻変動を引き起こした錬金術だ。
       どこからか察して飛んで来たんだろう」

(;´・ω・`) 「あんなのが何羽もいるのか?」

(´<_` ) 「いや、あの一羽だけだと思う……。少なくとも、あの時はそうだった。
       どこかしらへ飛んで行ったが、まだ森の中にはいるだろう。気を付けて進もう」

(´・ω・`) 「わかってるさ」

719 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 21:59:57 ID:7UQzgeMs0

エルファニアは七大災厄の中で、最も資料が少ない。
かつて何度かあった天変地異のうちの一つ、
"陽の登らない一週間"の原因がそうではないかと言われているだけだ。
そもそも、本当にそんなことがあったのかさえ定かではない。

(´<_` ) 「あったよ」

心を読んだのか、オトジャはこちらを向かずに答えた。

(;´・ω・`) 「嘘だろ・……」

(´<_` ) 「彼女が怒らせてしまったんだ。知らなかったなんて言い訳が通るとは思わないが、
       皆が無知だった故に起きた悲劇だった。まぁ、この話はまた今度時間があるときにでもしよう。
       今はするべきことがあるだろう」

(´・ω・`) 「これが全て片付いたら、ぜひ教え欲しい」

(´<_` ) 「昔話はあまり好きではないのだがなぁ……アニジャなら喜んでしてくれるだろうよ」

(´・ω・`) 「僕としては過去の事実をありのまま知りたいんだけどね」

(´<_` ) 「アニジャが脚色すると……その通りだろうな」

720 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:00:40 ID:7UQzgeMs0

話しながらも、足を踏み外さないよう注意しておりる。
低い木の枝をかいくぐり、茂みを体で割りながら。

数回の休憩を挟んでいたが、陽が落ちる頃には太ももとふくらはぎが痛みを主張し出していた。
緩やかとはいえ、ひたすら続く長い傾斜は確実に体力を削っている。
下に降り切って終わりじゃないから、体力の使い方をもうちょっと考えないと。

窪み地になっているせいで、陽が傾いて来たらもう光は届かない。
星の光は弱すぎて足元が照らし出されず、諦めて腰を下ろし足を投げ出した。
恐らくは明日の日中に底にたどり着く。

あいつは、どうしているだろう。

生きているのか。それとも死んでいるのか。
不思議と、いないかもしれないという不安はなかった。

ワカッテマスと僕の間に血の繋がりは無いけれど、それ以上の縁がある。
切りたくても切ることのできなかった縁。
それが僕に確信させている。

721 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:03:42 ID:7UQzgeMs0

明日、僕はワカッテマスに会うだろう。

あいつは何というだろうか。

すまない?

それとも

赦してくれ?


どちらも違うだろう。たぶんあいつはこう言うと思う。





待っていた、と。





.

722 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:04:46 ID:7UQzgeMs0

・  ・  ・  ・  ・  ・


(´-ω・`) 「ここは……」

(´<_` ) 「随分と開けた場所に出たな。グローイング・グリズリーの影響を受けていない場所があるなんてな」

(´-ω-`) 「当然ですよ。最高の錬金術師が仕掛けた場所なんですから……」

あの頃と全く変わらない広場。
高い樹に囲まれた中に存在する安息地。
流石に体力の回復を助ける錬金術は失われているだろうが。

取り戻すことのできない、失われた日々。
眼を閉じれば、今でも思い出すことができる。


残念ながら、そんな時間は無さそうだが。

723 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:05:51 ID:7UQzgeMs0






( <●><●>) 「待っていました」






森に似合わない漆黒の鎧。
陽の光に反射するそれには、おろしたてのように傷一つ存在しない。
腰には長さの異なる二振りの剣。

(´・ω・`) 「オトジャ……下がっていてくれ」

(´<_` ) 「ああ……」

724 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:06:46 ID:7UQzgeMs0

いきなり襲い掛かってくる様子は無い。
生まれたわずかな時間で、僕は意識を切り替えるために目を閉じた。

そのせいで、僕はかつての時間軸に引き戻された。

男は剣の師として目の前に立っている。

これからの数刻は、男に剣術を鍛えてもらい。
それが終わり家に帰れば、少々元気のあり余った少女と、優しく穏やかなその父親が待っている。
温かなご飯と、柔らかな寝床で、また平和な明日を迎えるはずだ。


そんな空想から現実に這い戻ってきたのと、男が再び口を開いたのは全くの同時だった。

( <●><●>) 「それを使ってください。錬金術は、残念ながら失われていますが。研ぎは欠かさなかったので」

草原の中心にあるそれは、景色と一体化していて気づかなかった。
膝よりも低い台座の中心に眠る、見覚えのある白の鞘。
それは、偉大なる御主人様から頂いた剣。
護るための力。

725 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:07:45 ID:7UQzgeMs0

罠だろうか。
いや、わざわざこんなところで仕掛けるくらいなら、最初っからもっと凶悪なものを用意できただろう。

台座まで近づき、持ち上げて掲げると、腕にずっしりとくる重さ。
鞘から抜き放った刀身もまた、太陽の光の中輝く。

錬金術が失われてしまったのであれば、もうこれは何の力もない剣。
それでも感じる両手から溢れんばかりの温もりは、決して気のせいではない。

(´・ω・`) 「久しぶりだな」

怒りで溢れてしまって、自分を押さえられないかもしれない。
錬金毒を振り撒いて、周囲一帯の生物をせ殲滅してしまうか。
がむしゃらに切りかかって、無様な姿をさらしてしまうと。

そんな不安を通り越して、驚くほど穏やかな心境。

( <●><●>) 「何か言い残すことはあるでしょうか?」

(´・ω・`) 「死なない僕に遺言を聞くとは、噂通り耄碌してしまったんだな」

726 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:08:49 ID:7UQzgeMs0

                                  ・ ・ ・
( <●><●>) 「冗談を。この体が見えないのでしょうか。わたしが老いに屈するとでも?」

(´・ω・`) 「思っていないさ。別に、生きているのならどちらでもいいことだ。お前は、僕の手で殺す」

( <●><●>) 「出来ますかね」

(´・ω・`) 「出来なければ、生きてきた意味がない」

( <●><●>) 「まずは、ブランクがないか見てあげましょう」

言い終わる前に、黒剣は抜かれていた。

早い、が対応できない程ではない。
振り下ろしを弾き、喉元目掛けて突き出した。
それは、腕を伸ばしきったところで止まり、僅かに届かない。
ワカッテマスはその先で口元に笑みを浮かべている

(´・ω・`) 「年を重ねて遅くなったか?」

( <●><●>) 「あなたは昔と全く変わらないようですね……全く……羨ましい限りですよっ!」

727 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:11:30 ID:7UQzgeMs0

距離をとるのかと思いきや、左手の剣戟が視界を遮った。
それが届かない陽動だとわかりながらも、十分に距離をとる。
一撃が致命傷になりかねない。
瞬間でも意識を失えば、決着がつく。

だが、それは人間であるワカッテマスも同じ。

( <●><●>) 「引き際は潔いですね」

(´・ω・`) 「もう両手を使うのか?」

( <●><●>) 「手加減できないことは……ワカッテマス」

(;´・ω・`) 「っ! はっ!」

久しぶりに使う剣に、違和感はない。
思った通りの剣線を、ぶれることなくなぞってくれる。

胴体を真横に薙ぐ。
受けることはせずに躱された。
咄嗟に引き戻した剣に衝撃が走り、前髪が幾房か切り落とされる。

728 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:12:11 ID:7UQzgeMs0

二本の黒剣、それぞれの長さを生かした、異なる角度から打ち込みを何とか受けた。
厄介ななのは、剣術だけではない。

腰に結んである錬金術と思しき薬品にも注意を払わなければならない。

( <●><●>) 「気になるようですが……使うつもりはありませんよ」

(´・ω・`) 「どうだか」

話しながらも、切り結ぶ。
鋼で語る会話のように、応酬が続いた。
邪魔する者は何もなく、ただ相手の攻撃を往なし、自らの攻撃をそれに重ねる行為。

お互いの背景を理解する者が無ければ、台本の通りに身体を動かす演劇のようにでも見られるだろう。

驚きはあった。
僕自身の技術が磨かれているのは確信していたが、それについて来られるとは思っていなかったからだ。
ワカッテマスはあの時、実力の欠片すら見せていなかったのだと、
今になってようやくわかった。

729 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:13:03 ID:7UQzgeMs0

次第に早くなる黒剣の応酬。
防御に手いっぱいになり、反撃を打てない。

巧いのは剣術だけでなく、足運びや体幹の移動。
完璧なほどに、自らの身体をコントロールしている。

(´・ω・`) (押されている……が……)

( <●><●>) 「こんなところですか、腹の探り合いは」

一際大きな衝撃の後、ワカッテマスは距離を取った。
不意にできたその間に、飛び込むべきか躊躇した。

( <●><●>) 「もう充分でしょう」

動き続けたワカッテマスの額には、僕よりは少ないものの、
確かに汗が浮かび上がっている。

(´・ω・`) 「どういうことだ」
                                   ・ ・ ・
( <●><●>) 「そろそろ本気でやってくださいよ。でないと、わたしを殺せませんよ」

730 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:15:13 ID:7UQzgeMs0

(´・ω・`) 「……剣で決着をつけるつもりだったんだがな。たとえそれが錬金術師にあるまじき方法だとしても」

( <●><●>) 「なぜ使わないのです。その中に入っているのでしょう?」

(´・ω・`) 「入っているさ。人間ならほんの数秒で命を奪う劇毒が。
       ふたを開ければすべて終わる。お前が本当に手の付けられない化け物になっていた時の為に用意していた」
                     ・ ・ ・
( <●><●>) 「私の姿がかつてのわたしと重なりましたか。それで手を緩めたと、そういうことですか」

(´-ω-`) 「……。全て嘘だったらよかったのにと、今更ながら思ってしまう」

それは、剣を合わせることで生まれた確かな感情。
恨みも憎しみも全て飲み込んだ、過去に対する後悔。

あの時、自分は家族を、そしてこの男を救えたのではないか。
出るはずのない答えを探して彷徨い、毒を使えないでいた。

( <●><●>) 「あなたの納得がいくようにすればいい。私はただ、それに応えるだけの人形なのですから」

(´・ω・`) 「お前は……本当にワカッテマスなのか」

731 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:16:10 ID:7UQzgeMs0

見た目は全くあの頃と変わらず、他人の空似ではない。
喋り方も、声も、動作も、何一つとして変わらず、剣術の技量ですら。
            ・ ・ ・
( <●><●>) 「私はわたしです。それで十分でしょう」

(;´・ω・`) 「くそ……」

混乱する脳を無理やりただして、剣を握る力を込めた。
絡まった糸をほぐす方法は、たった一つしかない。

揺れてしまった心を固めるために、わざと口に出す。

(´・ω・`) 「お前はここで死ね」

( <●><●>) 「……」

互いの距離は一呼吸のうちに詰まり、火花を散らした剣。
鍔迫り合いになったところで、反対の手に握る剣が皮膚を割いた。

大きく横へ転がる。
背に感じた悪寒に剣を振るえば、鈍い衝撃音。

(;´-ω・`) (っふー……)

732 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:17:14 ID:7UQzgeMs0

剣での戦いは単純に力が強い方が勝のではない。

技術の巧拙、身体のコントロール、体力、気力、囮やフェイント、相手の心理から動きを先読する力。
それらの総合力が勝負の決着をつける。
そこにホムンクルスと人間の差はほとんどない。

ワカッテマスは二刀一体とした瞬発的なカウンター剣術を得意としていた。
それは今も同じようだ。

二刀対一刀。

その道の頂に至れば、どちらもさして違いはない。

(´・ω・`) 「!!」

( <●><●>) 「!!」

ワカッテマスの剣速は人間の限界に達しているといっても過言ではない。
受けきることもできず、何度も肉が削られる。
それが致命傷に至らないのは、それよりも早い剣を知っていたから。

733 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:18:05 ID:7UQzgeMs0

ほんの僅かな間隙を狙い、一太刀ずつ確実に返していく。
肉を抉られ、骨が穿たれても、再生が間に合うように立ち回る。

ワカッテマスが一番恐れているのは、一撃必殺のカウンター。
肉を切らせ骨を断つ攻撃は、ホムンクルス最大の武器。
いかに剣の達人と言えど、必然的に踏み込みは甘くなる。

何度切り結んだか、額を汗が流れる。
それをぬぐう暇すらなく、白刃と黒刃がその身を削り合う。

(;<●><●>) 「はっ……はぁ……」

(;´・ω・`) 「ふっ……く……」

お互いの息遣い以外に聞こえる音は無く、この世界に生きているは僕ら二人だけ。
決闘を邪魔する者は無く、森ですら息をのむかのような静寂を保っている。
戦いとは別の思考しながも、身体は動く。

734 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:19:48 ID:7UQzgeMs0

疲労からだろうか、ワカッテマスの足元がぐらつき、一歩下がった。
その時に生まれた僅かな隙を狙い、胸元目指して真っ直ぐに突きを放つ。


御主人様


それをさらに後ろに下がって避けようとするワカッテマス。


デレーシア様

腕は伸びきった。反撃の黒刃が視界の端に映る。
受ければ必然、意識は立たれ敗北に終わる其れを、もはや避けるには間に合わない。
ならば、この目の前の剣は……届かない。いや、届かせる……!


(#´・ω・`) 「あああああああああああ」

735 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:20:40 ID:7UQzgeMs0

復讐など、二人は望まないかもしれない。
もしも僕が、再び会うことがあれば、怒られるかもしれない。悲しまれるかもしれない。


それでも、僕はこの男が許せない。
かけがえのない命を奪ったこの男を。


ワカッテマスを


(#´・ω・`) 「ああああああああああああ」


輝きを失っていた白い剣は、僅かにその光を取り戻す。
何百という打ち合いの中で、ただの一度も作用しなかった錬金術。

白刃の描く線が、大気を歪め、傷跡を残す。


それは、反撃とばかりに振り下ろされていた黒き刃を、弾いた。

736 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:21:28 ID:7UQzgeMs0

(;<●><●>) 「ッ!?」

(#´・ω・`) 「はっ!!」

中段から振り上げた白刃の両手剣は、森の静寂すら立ち割った。
黒い欠片が、空に舞う。

バランスを崩し、草原に倒れ込む。
咄嗟に振り向きつつ起き上がるが、背中を襲う刃はなかった。

陽の光のような白刃の軌跡は、溶けるように消えていく。
別れを惜しむかのように、ゆっくりと。

広場の中心で仰向けに横たわる男がいた。

(;< ><●>) 「はぁっ……予想外の……邪魔が入ったものですね……」

胸部を護っていた鎧の隙間から、大量に流れ出る血液。
黒剣の一本は砕け、もう一本は転がっていた。

737 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:22:20 ID:7UQzgeMs0

(´・ω・`) 「なぜ……」

ワカッテマスはもう長くない。傷跡は深く、放っておけば数分で事切れる。
その前に、どうしても聞きたいことがあった。

(´・ω・`) 「なぜ、二人を殺した」
                 ・ ・ ・
(;< ><●>) 「は……全てわたしが知っている。会いに行け。かつての場所に」

ずっと感じていた違和感。
パズルのピースが噛み合わないような、決定的に欠けてしまっているかのような不安。

それが今、はっきりした。

血塗れで倒れているワカッテマスは、姿も形も、声も動きもすべて本人と全く同一で、
偽物などと疑う余地などなかった。

その言論を除いては。

738 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:23:03 ID:7UQzgeMs0

思えば、モララルドの時に同様の錬金術を行っていたのだから、
ワカッテマスがそれを行えないわけがない。

わからないのは、なぜわざわざそんな手間のかかることをしたのか、だ。

老いてしまった不老者。
その男が何を知り、何を忘れ、何が変わったのか。

息も絶え絶えな男をその場に残し、覚えている建物の場所へ向かう。
背から掛けられた言葉には、何故か安堵の響きがこもっていた。



( < >< >) 「行け……ずっと……待っていた……」

739 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:23:59 ID:7UQzgeMs0

・  ・  ・  ・  ・  ・



創森熊の襲撃の傷跡はすさまじく、身体を滑り込ます隙間すらないような密林の中、それはそこにあった。
人が住むには、余りにも不便で異様な建屋。
大小さまざまな樹に貫かれ、地面から幾分か浮き上がっている。

玄関は歪み、扉は曲がり、二階の窓からは赤い果実がいくつも見える。
強い風が吹くたびに、家全体がギシギシと軋む。

ぐるりと一周回ってみたが、入れそうな場所は、家の横壁に開けられた穴だけ。
人間大の大きさがあるのは、偶然ではないだろう。

(´・ω・`) 「オトジャ……錬金術の痕跡を感じるか?」

(´<_` ) 「……これ程濃く残っているものはこの姿になってから初めてだ。
       一体どんな研究をしていた」

(´・ω・`) 「中にいるワカッテマスは……並みの錬金術師じゃない。気づいたことがあればすぐに教えてくれ」

(´<_` ) 「わかった。こちらで対処できることは手伝おう」

740 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:25:02 ID:7UQzgeMs0

横穴から、家の中に踏み込む。
底板もかなり傷んでいるようで、歩くたびに激しく鳴った。

邪魔な枝や葉を切り落としながら、廊下を進む。
一番奥にあったのは、御主人様とワカッテマスの部屋。

御主人様の部屋には、錬金術の痕跡以外何もなかった。
反対側の戸を開けると、簡素な部屋の中心に、小さなベッドが一つ。
そこを中心にして、いくつもの細長い管が伸び、部屋のあちこちへと繋がっている。

静かな部屋の中で聞こえるのは、今にも途切れそうな弱々しい呼吸音。

( <○><●>) 「きましたか……」

(´・ω・`) 「ワカッテマス……!」

( <○><●>) 「まっていました……これで終わりです……」

(´・ω・`) 「なぜ……。お前なら、その程度どうにでもできたはずだ。
      それこそ、あの男に研究を引き継がせることくらいは……」

( <●><●>) 「っ! ……ショボンですか。やっと来てくれましたね。
         歳を取って……多くのものを失いましたが、一つだけ得たものがありました。
         自分自身の時間です。ショボン、よく聞いてください」

741 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:25:51 ID:7UQzgeMs0

肉が落ち、骨が浮かんだ胸に、刃を突き立てれば全てが終わる。
それを分かっていても、ワカッテマスの言葉を遮ることができなかった。
見えない糸で縛られたかのような言葉の魔力と言えば、他の錬金術師には笑われるだろう。

だが、この時の僕は確かに動けなかった。

( <●><●>) 「何者かが……私を動かすのです。私の欲望を駆り立て、私の心を殺そうと。
         私自身の中にいる、私ではない何者か。あの日、森で創森熊にあった時から」

(#´・ω・`) 「今更、言い逃れを……!」

( <●><●>) 「あれはすべて、私の弱さが招いたことです。私がやったことです
         それを否定するつもりはありません。ただ一つ、大罪を犯してしまった私ではなく、
         シャキンの弟であるワカッテマスとしての願い……。私の中に存在する、この悪魔を逃がさないで下さい」

(#´・ω・`) 「悪魔だと……。それはお前自身のことではないのか!
        兄である御主人様と、姪であるデレーシア様の命を奪った!
        お前がそうでなくて、他に誰がいる!」

742 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:27:09 ID:7UQzgeMs0

( <●><●>) 「……ええ、私はそうなのかもしれません。もう、私にはわからないのです。
         あれは……兄さんを殺したのは、私なのかどうか。
         何者かの声が聞こえ、頭の中に響き、遂に私の中の知りたいという欲望は、
         もはや抑えることができなくなった。
         良識も、信念も、全て知識欲に沈められてしマッタタタ……」

ワカッテマスはゆっくりと立ち上がった。
それは老人とは思えないほど力強く、僕は無意識のうちに剣の柄に手をやっていた。
いつでも抜ける様に、強く握り込む。

( <●><●>) 「あ……ア……早く……早く……殺してください……あいつが……あいつが目覚め……」

急に震えだし、膝をついた。
掴めば折れそうなほど細い腕が、その顔を覆い尽くし、
何かわけのわからぬことを呟く。

目の前で起きた突然の光景に、思わず後ずさりしていた。

(;´・ω・`) 「おい! ワカッテマス!」

( <○><●>) 「あ……ぶ……ぶぐ…………ああ……」

743 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:27:58 ID:7UQzgeMs0

やっと起き上がったかと思えば、その眼に生気はない。
ぶつぶつと口から音声まがいのものを吐き出すだけ。

辛うじて聞き取れたのは、不老不死という言葉。
それは演技のようには見えなかった。

自分の中に何者かがいる、と言ったその言葉を鵜呑みにするわけではなかったが、
この変わりようを見てしまったら、易々と否定はできない。

立ち上がったまま、見えない何者かに話しかけ続けるワカッテマス。
いくら話しかけても反応は無く、

(´<_` ) 「ショボン……」

黙ってやり取りを聞いてくれていたオトジャが口を開いたその理由は察しがついた。

(´<_` ) 「もう、寿命が近い……」

744 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:30:22 ID:7UQzgeMs0

ワカッテマスが立ち上がった時に、幾つかのホースが抜けた。
それは、彼の生命を維持するのに必須な薬剤だったようで、
ゆっくりと、しかし確実にワカッテマスの呼吸は荒くなっていく。

肌が黒く変色し出し、先程までに輪をかけて声が聞きとれなくなった。
それも次第に小さくなり、今にも消えそうになる。

僕は、覚悟を決めなければならない。

いや、決めてきたはずだった。


それが、たった数度の会話で揺らいでしまっていた。
この期に及んで嘘をついたのか、それとも、真実の内容だったのか。
ゆっくりと考えている時間は既になく、為すべきことを成すことにした。


もはや何も告げることはない。
静かに、一歩一歩近寄る。

745 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:34:55 ID:7UQzgeMs0

逃げる様子も、抗う様子もない。
老人は、ただ静かに立ち尽くす。
その瞳は、どこかこの場所ではない遠くを見つめていた。

手が届く距離に立っても、もうその男は言葉を発しない。
行為に躊躇いなどなく、腕に幾許かの衝撃があっただけ。


目の映るのは、老いた身体を貫いた鋼。

そこに何の感情もなく、ただ、自然と腕が動いていた。
思っていたよりも、ずっと冷静な自分がいた。

怒りのままに喚き散らすこともなく、憎しみで老人を切り刻むわけでもなく。

ただ静かに、柔らかい肉を貫いて真っ赤な鮮血が流れ出るのを見ていた。

( <●><●>) 「……っ……はぁ……」

(;´・ω・`) 「っ!」

( <●><●>) 「……しょ……しょぼんですか……」

746 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:35:44 ID:7UQzgeMs0

幽かに腕が震える。
痛みがあったのか、深く皺の刻まれた顔がさらに歪んだ。

(;´・ω・`) 「お前は……」

( <●><●>) 「しょぼん……」

掠れ消えゆく声に、小さくなる命の灯。
その最後の言葉は、聞く必要などないと思っていた。

謝罪にしろ、恨み言にしろ。

聞きたくはなかった。
これ以上心が荒れてしまうことを畏れていたのかもしれない。
非道で残虐な行為を、赦してしまうことに怯えていたのかもしれない。

だから目を逸らし、耳を閉じようとした僕は、けれどもその黒い瞳から目が離せないでいた。
言葉に、耳を傾けてしまっていた。

気が狂ってしまった哀れな老人の末路ではなく、
一人の旧知の仲である人間の最期として。

( <●><●>) 「こきら……一族を探せ……」

747 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:36:37 ID:7UQzgeMs0

(;´・ω・`) 「どういうことだ」

( <●><●>) 「そして……どうか……わたしの過……ちを、
         自らの……欲にの……まれた男の……非道を……赦さないで、ほしい……。
         けっして……けっして……赦さな……いで……く……」

手が、暖かいもので包まれていく。
それは、傷口からとめどなく溢れ出てくる血液。
真っ赤な、人間の血。

( <●><●>) 「ち……ちを……」

その骨と皮だけの手が、僕の腕に重ねられた。
どこにそんな力があったのか、熱いと錯覚するほど強く握られ、ワカッテマスは事切れた。

その瞬間に、亡骸から黒く澱んだ液滴が零れ、浮かび上がった。
それが尋常でないものであることはわかったが、ただ身の危険を感じ、咄嗟に半歩下がる。

瞬間、一切の光が消滅。
視力を失ったのかと疑ったが、そんなことはありえない。
指先も見えないような暗闇の中で、全身から汗が噴き出しているのが分かる。

748 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:37:33 ID:7UQzgeMs0


(´<_` ;) 「避けろおおおおおおおッ!」


同時に、今まで聞いたことのないようなオトジャの大声。

(;´メω・`) 「がっ……!」

もう半歩足を下げた時、何かが目の前を貫いた。
身体が二つに千切れるかのような轟音と衝撃。

ほどなくして世界は光を取り戻し、自らの惨状を理解する。

どうやら何かが体に掠っていたようで、腹部と片腕が無くなっていた。

(´<_` ;) 「大丈夫か!?」

(メ´・ω・`) 「あぁ……なんとか……」

とめどなく溢れ出る血液。
視界が朦朧とし、再生が思うようにできていないことを知る。

749 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:44:43 ID:7UQzgeMs0

(´<_` ;) 「くそっ……」

(;´・ω・`) 「なんだ今のは……」

(´<_` ;) 「あれこそが怒っている時のエルファニア。
       通り過ぎた後に衝撃と旋風が巻き起こるほどの速度。
       貫けないものはないであろう、災害クラスの突進。
       それがあれの持つ特性と合わさって、単体ではほぼ最強の生物だと思う」

(;´メω・`) 「馬鹿げてる……」

(´<_` ) 「ああ、そうだ。
       ゆっくりだが再生もしているようだし、しばらくすれば完治するか」

(;´・ω・`) 「……正直、直撃したらどうなってたかわからないな。
       あれがエルファニア……しかし、なぜいきなり」

(´<_` ) 「それは……わからない」

ワカッテマスの肉体は、その破壊の線の中心にあった。
とてもじゃないが、原形を保ってはいない。

750 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:45:32 ID:7UQzgeMs0

(´・ω・`) 「血……か……」

その最期の瞬間まで、呟いていた言葉。
その真意は測りかねるが、意味はわかった。

部屋を見回すと、丁度いいサイズの瓶がいくつも置いてあった。
その中には、凝固剤で固められた血液が幾つか並べてある。
まるで最初からこの状況を想定していたかのように。


(´-ω-`) 「ああ……言われなくても赦しはしない」

小指の先ほどの瓶の中、固まった血液は鈍く光を反射する。
それを懐に仕舞い、部屋を後にした。

751 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:46:26 ID:7UQzgeMs0

・  ・  ・  ・  ・  ・



(´-ω-`) 「すまない!」

( ^ω^) 「いや、いいお。別に気にしてないお……僕は」

全て終わった後、僕はコーフィリアに戻ってきた。
ルートを逸れていることにやっとアニジャが気づいたらしく、そこで僕らは合流することができた。

川 ゚ -゚) 「別に構わないさ。協力を乞っておいて、自分一人ですべて解決したとしても。
      どうせ君には解決する権利があるんだからね。正しいと思ったことをしてくれればいいさ。
      その間、私は執拗に相手の手足をもいでおくことにするよ」

クールが怒っていた。

(;´・ω・`) 「いや……あの……」

川 ゚ -゚) 「まぁ冗談はさておき、これで終わったのか?」

冗談だと思えない辺りが少し怖い。

752 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:47:07 ID:7UQzgeMs0

(´-ω-`) 「終わった……と思う」

いくつもの不明な点を残してはいるが、問題の根幹は解決した。
復讐も終わった。
後、僕がすることがあるとすれば彼女を見つけることだけだろう。

( ^ω^) 「ならいいお。それで、皆これからどうするんだお」

川 ゚ー゚) 「私はまた、隙にやらせてもらうよ」

( ´_ゝ`) 「じゃあ、ついていくか」

(´<_` ) 「すまないがクール、もう少し一緒に行動させてもらえないだろうか。
       少し、気になることがある」

川 ゚ -゚) 「……好きにしろ、それじゃあ、二人とも元気でな」

クールは片手をあげて去っていった。
二人の番人と共に。

753 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:49:08 ID:7UQzgeMs0

( ^ω^) 「また会おうお」

もう少しゆっくりしていけばいいのだが、これもクールらしい。
残っている残党処分の面倒を押し付けられることを避けたのかもしれないが。

(´・ω・`) 「ブーンはどうする?」

( ^ω^) 「うーん、ちょっとやりたいこともあるし、錬金術師の里までくらいなら行けるお」

(´・ω・`) 「そうか、それじゃあ一緒に向かおう。
       途中、ちょっと寄り道してもいいかな」

( ^ω^) 「別にいいおー。長い戦いがやっと終わったんだし、少しくらいゆっくりしたって罰は当たらないお」

(´・ω・`) 「そうだな……」

754 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 22:50:25 ID:7UQzgeMs0













27 朽ちぬ魂の欲望 <下> End


757 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/29(日) 23:13:51 ID:7UQzgeMs0
【時系列】

0 記録 → ???
   ↑
   ↓
22 アタラシキイノチ 誕生編
23 フシノヤマイ
24 テニイレタキセキ
25 シズカナムクロ
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです 少女編
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです   
8 ホムンクルスと少女のようです
   ↑
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   │
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   │
3 ホムンクルスは抗うようです
   │
4 ホムンクルスは救うようです
   │
5 ホムンクルスは治すようです
   │
9 ホムンクルスは迷うようです
   |
10 ホムンクルスと動乱の徴候 戦争編・前編
11 ホムンクルスと幽居の聚落
12 ホムンクルスと異質の傭兵
13 ホムンクルスと同盟の条件
14 ホムンクルスと深夜の邂逅
15 ホムンクルスと城郭の結末

17 ホムンクルスと絶海の孤島 戦争編・後編
18 ホムンクルスと怨嗟の渦動
19 ホムンクルスと戦禍の傷跡
20 ホムンクルスと不在の代償
21 ホムンクルスと戦争の終結
   │
   │
26 朽ちぬ魂の欲望  <上>
27 朽ちぬ魂の欲望  <下>
   │
   │
16 ホムンクルスは試すようです



戻る  次へ

inserted by FC2 system