(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
784 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2016/03/06(日) 16:29:25 ID:UFe3axGM0












28 宴の夢

785 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2016/03/06(日) 16:32:29 ID:UFe3axGM0


コキラ一族。

錬金術師である家系で、最も有名な一族であろうことは疑いようがない。
もしこの一族を知らないという術師がいるのなら、さすがに勉強不足だろう。

記録に残されている限り、数百年間一度も途切れたことのない由緒ある血筋。
勿論、錬金術の実力は受け継がれるものではなく、世代によってはフラスコすら持たずに過ごしていたとも聞くが。

錬金術の歴史を語るうえで、欠かせないその一族の名が、
どうして死ぬ間際のワカッテマスの口から出たのか、それが分からなかった。

森での決着からほどなくして、ほぼすべての教会を破壊し終わった僕は、
当初の目的であるリリを探す旅に戻っていた。

十年以上も費やし、いくつもの国を渡り歩きながら。
ただ、その行方は杳として知れず、悪戯に時間を浪費していた。
旅の途中で得る物がなかったといえば嘘になるが、ただひたすらに徒労感だけが増していく。

ここにきて、立ち止まって考えることが多くなってきたのは、少し疲れてしまったからだろう。

一刻も早くリリを見つけ出さなければいけないと思う心と、
休み休みでも仕方がないと思う心の二つがせめぎ合い、前に進む足を絡めとってしまった。

786 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 16:33:58 ID:UFe3axGM0

考えることが多くなりすぎて、僕自身の行く先がブレている。
こういう時は、頭の中を整理する時間が必要だ。

行く道は何もない草原。
来た道に足跡は見えない。

荷馬車の通る道だけが轍の後を残し、腰よりも高いくらいの草が左右を埋め尽くす。
少しだけ考えた後、道を外れて天然の寝床に横になった。

夕焼けが空を燃やし、その火が消えてしまえば冷たい夜が来る。
太陽が完全に隠れるまで、まだいくらか時間はあるだろう。

(´・ω・`) (今日の夜はここで過ごすことになるかもしれないな。
       まぁ、自然の中で思索に耽るのも……悪くない)

吹き抜ける風が鼻先を軽く撫でる。
優しい香りがしたのは気のせいではない。
錬金術が一切存在しない自然の真ん中で、空を見上げる。

陽の光を求める鳥たちが一斉に西へと移動し始めた。
甲高い鳴き声と共に、大軍が細かな影を僕の上に落としていく。
道に迷わぬように、お互いが確認し合っているのだろう。

787 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 16:35:46 ID:UFe3axGM0

その行き先を目だけで追って、ゆっくり息を吐いた。

あの日、ワカッテマスがコキラ一族を探せといった理由。
いったい、コキラ一族を見つけたからといって、なにがわかるというのか。

そして大事に保存してある血液。
山奥で猫の番人と出会ったとき、確かに言っていた。

血のつながる祖先まで、と。

あの時は驚きで咄嗟にそこまで考えがまとまらなかったが、
だとすればつまり、ワカッテマスは何かを知っていた。
それを簡単に伝えることは出来ず、血液のメッセージとして残した、と。
……いや、飛躍しすぎだ。

そもそもの順番が違う。
ワカッテマスはディートリンデという名の猫の存在すら知らないはずだ。
それにあの猫とコキラ一族には何ら繋がりはない。

788 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 16:39:32 ID:UFe3axGM0

(´-ω・`) (コキラ一族……コキラ……!!)

忘れていた。こんなにも重要なことを。
コキラ一族と、僕は会ったことがある。

デレーシア様とコーフィリアに行った時、名前が思い出せないけれど。
もう何百年も前のことだし、仕方がないか……。

それまで穏やかに話していたはずなのに、急に雰囲気が変わったのが印象に残っている。
話の内容は覚えていないけれど、なんでも見透かしたような話し方をしていた……と思う。

彼女は人間であったし、もう生きていはいないだろう。
だが、今は何処にいるかもわからないその子孫なら、もしかすれば。

近年歩いた土地ではリリの情報は見つからなかった。
それなら、少し遠出してみるのもありだろう。
ついでに錬金術の盛んな都市に向かえば、コキラ一族の情報も手に入るかもしれない。

(´・ω・`) 「よしっ」

寝っ転がった状態から、勢いをつけて起き上がった。
やることが決まれば、行動するのも早いのが僕のいいところだ。
次の目的地無しにふらふらと彷徨うよりも、行きたい場所があって歩く方がずっとやりやすい。

ひとまずは先ほどまで歩いていた道に戻って、次の街を目指す。
そこで馬を手に入れたら、さらに東を目指そう。
向こうには、まだ一度しか行ったことのない国も、足を踏み入れたことのない地域もある。

789 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 16:46:56 ID:UFe3axGM0

・  ・  ・  ・  ・  ・


(;´・ω・`) 「遠かった……」

思い立ってからはや数ヶ月。
長い船旅と、長い馬車旅とを交互に繰り返し、やっとたどり着いたのは華国。
僕が生まれた大陸西方の国に住む人々とは、見た目も生活もその大部分が違う。
男女ともに小柄な人が多く、髪の毛の色は艶のある黒色。

クールを思い出すが、目鼻のくっきりとした彼女の顔立ちとは違い、
大人でも幼子のような顔をしている。

同じ大きさ、同じ様相の家がきっちりと区画通りに並んでいるため、街並みには統一感がある。
木材を利用した平屋の家は、此方の地方で頻繁に起こる地殻変動に耐えるようにできているのだろう。
弾力のある木材は衝撃を程よく吸収し、万が一崩壊してしまっても立て直しが容易い。
潮風の影響は受けにくい内陸部だし、何世代かごとに家を立て直すような生活様式が風土によく合っている。

ゆったりとした絹の服は、青や赤一色のはっきりとした色合いで、肌触りもよさそうだ。
西方では高級品である絹も、生産地であるこちらの方では一般流通しているのだろう。
夏は涼しいが、冬は風を通してしまうため、かなり寒い。
まだまだ汗ばむほどの暑い日が続いている。上着を見ることができるのはもうしばらく先だろう。

790 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 16:47:41 ID:UFe3axGM0

ここは、国としての規模が世界最大だと、ここに来る旅の途中で他の旅人が教えてくれた。
僕が依然訪れた時には小国が乱立いしていた状態であったが、
文武に秀でた一人の戦人によってまとめ上げられ、今の形になっているのだという。

陸路は一人で往くことが多かったけれど、海路はそうもいかない。
一人の為に長距離航海をしてくれるわけもなく、たいていは他の客や旅人と一緒だ。

長期間同じ船に乗っていれば、他の旅人と嫌でも顔なじみになる。
その中の一人が話し好きで、よく華国に出入りしているようだ。
時勢や歴史に詳しく、退屈しのぎに何人かはよく話を聞いていた。

ある時、たまたま手持無沙汰にしていた僕は、男を囲む円の中に入る。
誰も嫌な顔をせずに座るだけの場所を開けてくれた。

「ここだけの話なんだが……」

そう言って男は語り始めた。
赤の他人がこれだけいる中で、内緒話の意味も無かろうかと思ったが、
そう断っておくことが男の癖の様だ。

「統一前、華国は九十九の小国から構成されていたのは話したと思う。
 今の華国は統一時から数えて十七代目に当たるようだが、その間国内の統治機構は様々な名称に変わっていた。
 その中でたった一つだけ変わらない役職がある」

792 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 16:55:15 ID:UFe3axGM0

「知らないぞ、俺は」

「私も。生まれも育ちも華国よ、私。聞いたことがない話だわ」

「皇帝の相談役、仙帝。表舞台に一切出てこない役職だから、聞いたことないはずだ。
 素顔や年齢だけれなく、性別すら不明。存在するかどうかすら疑わしいと言われている」

「仙帝って、噂じゃない。華国の人間なら一度くらい聞いたことがあるわよ」

「それが噂じゃないんだ。年も取らない、死にもしない男らしい」

(;´・ω・`) 「不老不死……!」

「っと、あんた声がでけぇよ。こんなこと話してんのがバレちゃ、俺は残りの一生檻の中よ」

(;´・ω・`) 「すまない……」

咄嗟に声をあげてしまったことを謝りつつも、頭の中をぐるぐると情報が回転していた。
男というなら、彼女ではないのかもしれない。
体格ですぐに女性と分かるほど華奢であるし、彼女なら皇帝の相談役なんてことはしないだろう。

793 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 16:55:57 ID:UFe3axGM0

いったい誰かと考え始めて、詮のないことだと気付いた。
ただの噂で推理するほど無意味なことはない。

実際に行ってみればすぐにわかることだ。

「だが、それも結局は噂だろ?」

「そうだな、あんたが直接見たのか?」

「ああ……」

誰もが否定すると思っていたのだろう。
にやりと笑った男に驚く者が半分、呆れ、席を立つ者もいた。

「信じない奴は与太話だと思ってくれていい。俺は酒も好きで呑みすぎることが往々にしてあるからな。
 だが、あれは夢じゃなかった。今もここに、その時手に入れた酒の空瓶がある」

男が懐から取り出したのは、手のひらよりも小さな瓶。
中には何も入っておらず、一見して普通の小瓶に見える。

794 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 16:56:41 ID:UFe3axGM0

他の者達も、からかわれているのだと一笑に付し誰一人として信じていない。
僕を除いては。
空き瓶から今も微かに感じる錬金術の痕跡。
この男は錬金術師ではないだろうから、何かしらの方法で手に入れたはずだ。

「今もこの酒の味が忘れられない。特別うまかったわけじゃない。むしろ、その辺でも売っていそうなほどの味だった。
 だが、妙に舌に残り、匂いは濃く、その風味はこの瓶を見ただけで思い出す。
 これほどまでに強く記憶に刻まれた酒はこれだけだ」

「そりゃあんたが酔っていただけだろう」

「違いない!」

「ああ、そうだ。だから酔っていたのかもしれないといっただろう」

「で、その場所は何処なんだ?」

「そいつがこの話の肝なんだが、どうやっても行けねぇのよ。
 華国の川を下っていたら両岸に桃の花の咲き乱れているところがあってな。
 時期が違ったんでおかしいなと思いつつも、そのまま流れに身を任せてたら、
 洞窟みたいなところを抜けた先に小さな集落があった」

「桃源郷……御伽噺ね」

795 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 16:58:08 ID:UFe3axGM0

「ああ、全くその通りさ。住んでいる人数こそ少なかったが、皆楽しそうに暮らしていた。
 誰もが笑顔の絶やさないないような村は、その頃の華国ではそこ以外では見たことがなかった。
 丁度その当時の皇帝が、有り得ないほどの悪令を出してな。人は皆俯いて生きていたくらいだ」

「会合令……」

「住んでたあんたなら知ってたか」

「私はその令が出されたとき、ほんの子供だったけどね。
 国境に近いところに住んでたから、すぐに婆様と爺様と一緒によその国逃げたのよ」

「なんでぇ、その会合令というのは」

僕も聞いたことがなかった。
華国の歴史は簡単に勉強していたつもりだったが、どうやら抜けがあったらしい。

「常日頃から話さない人間と集まるときは、必ず報告しろ。
 しなければ、集まった人間のうちから一人を打ち首とする、というものだった」

「そんなあやふやな……」

「あやふやだったからこそ、絶大な恐怖でもって民衆に拡がった。
 誰もが疑心暗鬼に陥り、ほとんど話すことすらなかった華国の最も暗い時代だ。
 だからこそ、だれかれともなく話しかけているその村は不思議だと、俺は思った」

796 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 16:59:01 ID:UFe3axGM0

「で、それが仙帝にどう繋がるんだ?」

「まぁ、焦るな。ここからだ。そこで狐の面をつけた女と、異国風の男が立ち話をしていてな。
 こちらに気付いたのか、狐の面をつけた女が手を振ってきた。
 俺も酔っぱらっていてな、思わず振り替えしたら話しかけてきた」

「それが、仙帝?」

「いや、女の名は……何と言ったか。確か……こ……こ はん。狐 范と書いたんじゃないか。
 字の方はあまり自信はないが、仙帝と旧知の仲だと言っていた」

「じゃあ、仙帝は」

「自ら名乗ったわけじゃない。狐面がそう呼んでいただけだ。名前を教えてもらったんだが……どうも覚えてない。
 確か、 徐 と言っていたように思うが……そちらの男の記憶は曖昧なんだ」

「なんだ、あんまり役に立たねぇな」

「そういうな、その後も注がれるがままに酒をあおっていたからな。
 で、その徐という男に悪令の話をしたんだ。そしたら、随分と焦っていた。
 なにか礼をしたい、と言われて、この瓶をもらった」

797 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:03:53 ID:UFe3axGM0

「なるほどねぇ」

「で、三日三晩宴を楽しんで、俺はそろそろ帰るといったら、舟に乗せてくれてな。
 確かに来る時に下ってきたはずの川なのに、出ていくときも下りになっていたんだ。
 その時は酔っているのかと思い、あまり気にしなかったが」

「で、三年経っていた、と?」

「ははは」

「いや、そんなことはなかったよ。皇都に戻ったら、令が撤廃されていて、皇帝も変わっていた」

「なかなか面白い話だったよ」

「そろそろ陸が近づいてきた。降りる準備をしないといけない」

一人が立ったのを皮切りに、皆が立ち上がる。
酔っぱらった男だけが、満足そうに座っていた。
その場に僕以外の誰もいなくなってから、うつらうつらしている男に話しかけた。

(´・ω・`) 「ちょっと話を聞きたいんだが」

「ああ、いいよ」

798 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:04:36 ID:UFe3axGM0

夢の世界から引き戻されたことに対する苛立ちを全く見せず、
男はさらに酒を飲みながら快く質問を受けてくれた。

(´・ω・`) 「錬金術って知っているか」

「勿論だ。幾つか作ってもらって持っているよ」

(´・ω・`) 「華国に高名な術師というのはいるか?」

「そうだなぁ……国お抱えの十二師が一番有名じゃないだろうか。
 俺たち旅の人間がそうそう会えるもんじゃないがな。他には……鄭 慶華(テイ ケイカ)。鄒 然弛(スウ ネンシ)。
 両翼の錬金術師と呼ばれている。二人の店に行って、それなりのお金を払えば大抵のものは手に入る。
 国賓のアリーゼ・キュート。運が良ければ皇都で会えるだろう。
 っと、そうだ。あの娘を忘れていた。天才術師、鈷雲英 周(コキラ シュウ)」

(;´-ω・`) 「まさか……」

「知っているのかい? 錬金術の始祖、西国のコキラ一族、その末裔らしい」

(;´・ω・`) 「っ!!! どうすれば会える!?」

「ん? 周さんなら皇都で店を開いてるよ。代価さえ支払えば、どんなものでも作ってくれる。
 もっとも、あまりに高すぎて店はいつも閑古鳥が鳴いていると聞いているがね」

799 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:11:22 ID:UFe3axGM0

(´・ω・`) 「ありがたい、他の町も回っていくつもりだったが、すぐに皇都に向かうことにするよ」

「ああ、いい旅を。俺は暫く地方でゆっくりしていくさ」

男に礼を言い、接舷していた船を飛び降りた。
各方面行の馬車が待っていたが、皇都行の便は二台とも満員。
仕方がなく、皇都の一つ北側に位置する街へ向かう馬車に乗り込んだ。

僕で丁度いっぱいになったようで、馬車はゆっくりと進み始める。
乗っているのは男が四人に女が二人。
空いていた席は女性の隣だけだったので、そこに座る。

同じ船に乗っていたのは確かだが、あまり見たことのない顔ぶれ。
彼らは与えられた船室からほとんど出てこなかったのだろう。
高揚しているのを悟られるのも癪なので、出来るだけ表情を変えずに座っていた。
誰も会話することなく、馬車の揺れる音だけが聞こえる旅。

景色を眺める以外にすることもなく、ひどく退屈なものだった。
よくもまぁ平気なものだと思ったが、僕以外の人達はそれに慣れているのかもしれない。
数時間ごとに一度の休憩が行われ、三日目に最初の町に着いた。

801 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:12:04 ID:UFe3axGM0

そこで一泊すると馬車の御者の男に言われ、皆、好き勝手宿に向かっていく。
特にめぼしいものはなく、港町からの旅人が泊まれるだけの宿屋がある程度。
どうしたものか考えていると、一人の少女が話しかけられた。

「何処から来たのー?」

(´・ω・`) 「外国からだよ」

「うちねー、パパが外国の人なんだよ」

(´・ω・`) 「そうなんだ」

他の住民達から感じる好奇の視線が少女に無いのは、それが理由だろう。
華国の端に位置する小さい町でも、異国であるということを強く感じられた。

「うちに来ない? たまにパパが旅の人を泊めてるから、大丈夫だと思うんだ」

(;´・ω・`) 「いや……それは……」

流石に少女に声をかけられて、と家に上がり込むのは気まずすぎる。
というより、父親もこれだけ小さい娘がいて旅人を家にあげているのもどうだろうか。
他所の家庭のことにケチをつけるつもりはないが……。

802 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:12:44 ID:UFe3axGM0

(´・ω・`) 「ありがたいけど、お断りするよ。明日の出発も朝早いしね」

「え~パパぜったい喜ぶのに」

(´・ω・`) 「ごめんね」

少女は残念そうに家の方に戻っていった。
それを見送って、自分も宿屋に向かう。





「すまないね、今は部屋を改装中でもう一杯なんだ」

(;´・ω・`) 「え……」

「ちなみに、この町には私のところしか宿屋はないよ」

(´・ω・`) 「……ありがとうございました」

野宿するしかない、と諦めていたところで先程の少女が父親と一緒に歩いてきた。

804 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:19:52 ID:UFe3axGM0

「宿屋に入れなかったのでしょう」

満面の笑みを浮かべている男性と、そっくりの笑顔を見せる少女。
人を疑わなすぎではないかと心配になるが、厚意に甘えることにした。
屋根の下で眠れるのなら、その方がいい。

案内された家は、他の家と比べて一回りほど大きく、
壁面に白い塗装がなされていた。

遠くから見れば、西方の建築様式に見えなくもない。

「どちらの国から来られたのですか?」

案内されるがままに部屋に進んで座ったところで、恐らくは妻であろう女性が熱いお茶を持ってきてくれた。
それに口をつけながら、主人の質問に答える。

(´・ω・`) 「西方の国です」

具体的にどこから、と聞かれると難しい。
生まれは郊外どころか、大自然の中ににぽつりと存在する一軒家、
育ちはあちこちだが、およそ国と呼ばれるところではあまり過ごしていなかった。

805 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:20:41 ID:UFe3axGM0

領主という考え方は、国王とは少し違う気もするし。

「なるほど、私の出はハルシア国ですが、御存じですか?」

(´・ω・`) 「昔、旅で寄ったことがあります。白い建物が綺麗な海沿いの国ですね」

僕がハルシアを訪れたのはリリを失ってすぐの時。
錬金術発祥の地と呼ばれる場所で、反不老不死の研究をするためだった。
この男性が生まれる遥か前であるが、話を聞く限り、今もあまり変わらないようだ。

「ええ! 海もきれいですし、食べ物もおいしい。国の人は皆親切ですから、とてもいい国ですよ」

(´・ω・`) 「機会があったらまた訪れたいと思います」

「ぜひ! いやぁ、まさか故郷を知っている人が来てくれるなんてね。
 よくやったぞ、蓉!」

「うんっ!」

「あなた、ご飯が出来たのだけれど」

(´・ω・`) 「それじゃあ、僕はそろそろ」

「どこいくんだい?」

806 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:21:23 ID:UFe3axGM0

(´・ω・`) 「食事を店で食べてこようと……」

「今日は一人分多めに作っているから、ぜひ食べていってくれ。
 もっと旅の話を聞きたいんだ。私も昔は旅が好きであちこち巡っていたからね。
 なに、君もすぐにいい人が見つかって落ち着くさ!」

並べられた料理はどれも見たことがないものばかり。
料理方法だけではなく食材もまるっきり違うのだからそれも当然か。

どれ片食べようか迷った挙句、ひとまずは香ばしい野菜の入ったスープに口をつけた。
ゴロゴロと転がる芋によく味が染みている。

(´・ω・`) 「美味しいですね」 

「お口にあってよかったです」

(;´・ω・`) 「すいません、色々とお世話になって」

「なに、気にしないでくれ。聞きたいことがあったらなんでも聞いてくれよな」

「なんでもー!」

807 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:22:08 ID:UFe3axGM0

(´・ω・`) 「ところで、まだ名前を聞いていないのですが……」

「おお、そうだったな! 改めて、私は崔 袁寧(サイ エンネイ)。
 こちらの国に住むと決めた時に、この名前に決めた。昔はアーナイという名前だったけどね。
 妻の香(コウ)と娘の蓉(ヨウ)だ」

「ようだー!」

(´・ω・`) 「ショボンです。ハルシア国ということは、袁寧さんも錬金術に詳しいのですか?」

「いやいや、私は使ったことがある程度だよ。この国でも一般的な技術として認められている」

(´・ω・`) 「昔からなのですか?」

「どうだった?」

主人は、食器をかたずけていた奥さんに問いかける。

「私はあまり知りませんので……。
 ただ、ここがまだ嬰という小国であった頃から、錬金術の存在はあったと聞いています」

(´・ω・`) 「そういえば、華国は小国が統一されたんでしたっけ」

808 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:23:04 ID:UFe3axGM0

「歴史か。それなら私もそれなりに詳しいよ。
 楼と広陵の二国が突然一つの国となり、華と名乗ったのが始まりだった」

(´・ω・`) 「前兆とかはなかったんですか?」

「全く。後になって聞いた話だが、当時の二国の者達にも寝耳に水だったらしい。
 百近くの小国があったのだから、たった二つがくっついたところで大した変化はない、と当時の人々は皆が思っていた。
 しかし、僅か二年で領土は五倍に膨れ上がり、この地域で一番の大国になった」

(´・ω・`) 「確か、付近の数国を一気に合併したと」

「ああ。戦争を仕掛けた国は悉く打ち負かされ、刺客を送り込めば、逆に利用された。
 周辺の国王たちは随分と慌てただろう。十一年と八か月。この地域をまとめ上げるのにかかった期間だ。
 驚きなんてものじゃない。よその国でもこれほどのことは起きていない」

(´・ω・`) 「確かに、西方の国々がここまで大きな一国としてまとまったことはないです。
       その偉業を成し遂げたのは、結局、楼の人間だったのですか? それとも広陵?」

「今もそれははっきりとしていない。幾つかの説があって、全く関係のない第三者だとする歴史家もいる。
 そして国名を華国とし、王ではなく皇帝と称するようになった、ということだ」

809 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:23:58 ID:UFe3axGM0

(´・ω・`) 「成程……。っと、話し込んでいる間に随分と暗くなってきましたね」

「明日の朝は早いんだっけか」

(´・ω・`) 「ええ、陽の登る前に出発ですので」

「なら、自分のタイミングで出ていくといい。俺はちょっと飲みすぎてて起きれそうにない」

(´・ω・`) 「全然平気そうに見えますが……」

足元に転がっている大樽は半分ほどが空になっている。
今日減った分の八割九割は主人が飲んでいたが、顔色は全く変わらず、口調もはっきりとしていた。

「いや、それがな。いったん寝てしまうと駄目なんだ」

膝元では蓉が寝息を立てている。
錬金術や歴史の難しい話が続いたので、退屈だっただろうに。
無理して話についていこうとして、眠りに落ちてしまったようだ。


(´・ω・`) 「それでは、僕はもう寝ますね」

「ああ、明日はたぶん言えないだろうから先に言っとくぞ。旅は色々と大変だが体に気を使ってな」

(´・ω・`) 「ありがとうございます」

わざわざ別の部屋に用意してくれた寝具に横になった。
こうして旅人の為の部屋を作っているのだから、変わり者の男だ。
おかげでゆっくりと夜を過ごすことができた。

810 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:24:50 ID:UFe3axGM0

・  ・  ・  ・  ・  ・



「お客さん、申し訳ないがこれ以上は進めない」

町から町へ、山はゆっくりと赤く色づいていく。
季節の移ろいを日々の中に見つけた頃、御者から声をかけられた。
馬車に乗っているのはもはや僕一人だけ。
それは間違いようがなく、僕にかけられた言葉だった。

(´・ω・`) 「どういうことです?」

泊まった馬車から外に降りると、目の前に広がったのは咲き誇る無数の桃花。
薄く色づいたそれらは、昨日までと別世界に迷い込んだかの様。

「桃園の入り口が開いてしまったようで」

(´・ω・`) 「桃園……?」

「宴の夢のことです。この地域に古くから伝わる現象です。
 入ってしまえば、楽しさに囚われて二度と戻ってこれないと聞きます」

811 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:29:23 ID:UFe3axGM0

船の上でおしゃべりな男が言っていたことは、事実だったのだと確信した。
蜃気楼のように揺らめく季節外れの桃の花。
それは、桃源郷への目印。

(´・ω・`) 「ああ、ここまでで結構です」

「次の町まではまだまだかかりますよ?
 いったん引き返せば、二、三日のうちに通れるようになりますので」

どうやら、現象というだけあって迂回などは出来ないらしい。
ただ、それは僕には関係なかった。

(´・ω・`) 「気にしないでください。せっかくの機会なので、ちょっと中を覗いてきます」

「悪いことは言いません。やめときなさい」

(´・ω・`) 「忠告を有難うございます。僕のことは気にしないでください。
       自分で何とかしますので」

御者の男は諦めたように御者台に着いた。
次の町までの金は払っているので、途中下車したところで責められるいわれもない。

812 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:30:40 ID:UFe3axGM0

「それじゃ、お元気で」

引き返していく馬車を見送った後、正面に向き直った。
依然として桃園の入り口は開いたまま。

男は川を下っていたと言っていたが、出現場所は様々なのかもしれない。
運よく巡り合えたことを喜びながら、その中へと一歩を踏み出した。

奥に進むにしたがって風景がぼやけ、全身の感覚が緩やかに抜けていく。
思考もぼんやりとして、操られているかのように歩く。

瞼を閉じたくなるほどの強い発光に全身を包まれて、気づいた時には森の中の広場に立っていた。

桃園の入り口にあったのと同じように、無数の桃の木が辺りを覆い尽くし、
あちらこちらで人々が酒を手に語り合っていた。

華国に一般的な服装で、老若男女、皆が酒を楽しんでいる。
幸せそうな笑い声が絶えず、男の話の通りの場所であった。


「ようこそ、桃園に」

話しかけてきたのは、狐の面をした人間。
紺色の着物を着た小柄な女。
派手めな装飾をされている華国の物とは、少し違ったもののようにも見える。

813 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:31:41 ID:UFe3axGM0

(´・ω・`) 「あなたは」

イ从 ー ノi、 「桃園の主、狐 范 (コ ハン)と申します。
        西国の出身の方が呼びやすいようにということであれば、キツネと呼んでいただいても構いません」

(´・ω・`) 「……ここは?」

はたして目の前にいるのが、人間なのか、それともそれ以外なのか判別がつかなかった。
それをいきなり聞くのも躊躇われ、とりあえず別の質問をする。

イ从 ー ノi、 「桃園にございます。華国全土と繋がっていて、繋がっていない場所。
        お酒はいくらでもありますので、好きなだけ寛いでいただければ幸いです。
        それとも、別な要件がおありでしょうか……不死のお客様?」

(;´・ω・`) 「っ!?」

イ从 ー ノi、 「ええ、わかっていましたとも。あなたと似たような方を存じておりますので、ね」

不死を知られていたことに驚いていたが、聞き逃すことはなかった、"似たような"という言葉。
それが一体誰のことかわからないが、歓迎されているあたり、悪い出会いではなかったのだろう。

814 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:32:46 ID:UFe3axGM0

(´・ω・`) 「何の目的で、このような場所を?」

イ从 ー ノi、 「目的などありません。訪れた人がいい夢を見てくださればそれで結構です。
        たまに帰れなくなる方がいらっしゃいますが……ね」

(´・ω・`) 「まぁいいや、噂の酒を一杯いただけないか」

イ从 ー ノi、 「どうぞ、こちらにご用意しております」

薄紅の絨毯の上、汚れ一つないクロスがかけられた二人掛けのテーブル。
そこにはあらゆる種類の酒が並べてあった。
まるで、僕が来るのを待っていたかのように。

イ从 ー ノi、 「おかけになってください。酒を飲みながら語らうこともあるでしょう」

(´・ω・`) 「いただくよ」

どれも飲んでみたかったが、並んでいた中で唯一、桃の花がデザインされた陶器の入れ物を取った。
持ってみると仄かに暖かく、猪口に注いだ酒に色は無い。辺りの雰囲気すら変えるほどに香りたつ。
それは決して強いわけではなく、むしろ薄いとすら感じるほど。
しかし、はっきりと味を思い起こさせる不思議な魅力があった。

815 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:33:29 ID:UFe3axGM0

イ从゚ ー゚ノi、 「まずは一献」

いつの間にか外され、机の上に置かれていた狐面。
顔は想像していたよりもずっと幼く、十といくつかの少女と大差ない。
僕と同じ猪口に入った酒を掲げ、そういうと一息に飲み干した。

(´・ω・`) 「……おいしい」

つられて同じように飲み干す。



身体の芯から湧き上がる様な熱は、一瞬で全身に回った。
酔いに相当強い筈のホムンクルスであるのに、顔が上気している。

それ程に強い酒をキツネは平気な風で呑んでいた。

イ从゚ ー゚ノi、 「さて、何から話したものでしょうか」

816 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:34:10 ID:UFe3axGM0

(´・ω・`) 「……何を知っているんだ?」

イ从゚ ー゚ノi、 「あなたが来るかもしれないという事。そして、あなたに任せてもよいものかの判断を」

(´・ω・`) 「任せる? 何を」

イ从゚ ー゚ノi、 「もうお会いしているのでしょう? でぃには」

(´・ω・`) 「でぃ……?」

イ从゚ ー゚ノi、 「覚えていませんか? 彼女が聞いていればさぞ憤慨しているでしょうね。
        鈴の番人ですよ。ディートリンデ・クリンゲル。思い出しませんか?」

(´・ω・`) 「古代錬金術師の番人……あの猫か……」

十年以上前、とある山中で出会ったしゃべる猫。
古代錬金術の施された鈴を護る番人。
言いたいことだけ言って、彼女はすぐにどこかに消えてしまった。

イ从゚ ー゚ノi、 「存外、早くお会いできてよかったです。私も忘れ性なものですから」

(´・ω・`) 「ということは……」

イ从゚ ー゚ノi、 「ええ、お察しの通り。私は古代錬金術師の番人、夢幻乃扇の護り手、狐 范。
        またの名を、亡夢のキツネ」

817 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:34:53 ID:UFe3axGM0

(´・ω・`) 「もはや呪いか何かじゃないか……ただでさえ希少な古代錬金術。
       どの文献にも記されていない、その番人もこれで四人目」

イ从゚ ー゚ノi、 「あなたが私たちと出会うのには、何か理由があるとは考えないので?」

(´・ω・`) 「御伽噺の魔王を倒しに行けと言われても驚かないよ」

イ从゚ ー゚ノi、 「ふふふ……笑えない冗談でございますね」

笑える冗談、ではない。
それならば聞き流して済ませたはずだ。

イ从゚ ー゚ノi、 「倒して……いえ、言い換えましょう。殺してほしいのは、私たちの友人です」

見た目からは想像ができないような物騒な言葉。
それは、決して冗談などではない。
その証拠に、静かで柔らかな瞳には確かな意志があった。

イ从゚ ー゚ノi、 「信頼できると決まったわけではありませんのに、全てを話すわけにも参りません。
        なのでここは一つ、試練を受けていただきましょう」

(;´+ω・`) 「え?」

なぜ協力を求めるのに試練を課されなければならないのか。
その疑問が解消されることは無く、僕の意識は断たれた。

818 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:38:31 ID:UFe3axGM0

・  ・  ・  ・  ・  ・



(´・ω・`) 「ここは……」

気づいた時には、見覚えのある家の前に立っていた。
それは、かつてあった通りの我が家。

玄関の前には二つの人影が見えた。
線が細く背の高い男と、幼い少女。

(;´・ω・`) 「御主人様! デレーシア様!」

呼びかけても二人は、不思議そうにこちらを見るだけ。
二人には二度と会うことは出来ない。失われてしまった命を取り戻すことなど、出来はしないとわかっていた。

それでも、もし可能なら少しだけでいい。話がしたい。
これが夢だとしても、躊躇いは無く、もし悪魔に魂を奪われたとしても、後悔は無い。
たった数歩の距離を駆け寄り、もう一度声をかけた。

(;´・ω・`) 「御主人様! デレーシア様! 僕です! ショボンです!」

(`・ω・´) 「……。君は……誰だね」

819 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:39:11 ID:UFe3axGM0

返ってきたのは、冷たい視線と予想していなかった返答。
思考がフリーズする。

(;´・ω・`) 「え・……?」

(`・ω・´) 「私の息子は……もう何年も前に死んだよ」

ζ(゚ー゚ ζ 「パパ……この人、誰?」

(`・ω・´) 「家の中に入っていなさい、デレーシア」

(;´・ω・`) 「ま、待ってくださいデレーシア様。僕です! ショボンです!
        忘れてしまったのですか?」



ζ(-ー-*ζ 「……知らない」


少女はそのきれいな金髪を左右に揺らす。
御主人様も、後を追うように家の中に入っていく。
扉の閉まる拒絶の音が、空虚な心に大きく響いた。

820 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:39:53 ID:UFe3axGM0

せめて夢であるならば幸せだったあの頃を。
その願いは聞き届けられなかった。

視界は渦巻いて、世界が変化する。
吐き気がひいてようやく周りを見回すことができた。
見覚えのある田園風景と、ぽつぽつと散在する家と隣接した山々。

小さな農村で目の前に立っていたのは……


(;´・ω・`) 「リリ……ッ!」

⌒*リ´ ・-・リ 「ショボン……」

名前を呼んでもらえたことに安堵していたのも束の間、僕を見るその瞳は恐ろしく冷たかった。
紅潮した頬はみるみる痩せこけ、此方へ向けて差し出された両腕は皺だらけに。
艶やかだった髪の毛は、ぼろぼろになっていく。

821 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:42:53 ID:UFe3axGM0

⌒*リ´ - リ  「どうして……」

目玉が腐り落ち、闇のような眼窩が露になる。
骨になってしまった片腕を、何も存在しない穴の中に突き刺す。

⌒*リ´ - リ 「どうして死ねないの……こんなにも」

目を瞑っても、耳を塞いでも
かき混ぜる音が、残酷な光景が、脳に直接入り込んでくる。
逃れることのできない悪夢となって、僕を埋めつくす。

(;´ ω `) 「やめろ…………」

⌒*リ´ - リ 「こんなにも苦しいのに……」

⌒*リ´ - リ 「お前のせいで……お前のせいで……!」

腐臭を漂わせ、リリであった骸骨は、腰が抜けてしまった僕に覆いかぶさる。
力で抑え込まれているわけではないのに動けない。

(;´ ω `) 「やめろ……やめてくれ……」

822 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:43:38 ID:UFe3axGM0

首を押さえられ、息が出来なくなる。
薄れゆく意識の中で、ただひたすらに謝罪の言葉を並べていた。

強い衝撃と共に、硬い地面に投げ出された。
リリの幻影は無くなっていたが、首の痛みも涙の痕も消えてはいない。
足元も見えない黒の世界で、手の届かない程遠くに三つの光があった。

それらは同じ速度で近づいてくる。
だんだんと大きくなり、人型へと変化しながら。
  _
( ゚∀゚) 「はっ……生まれてこなきゃよかったよ。こんなにもお前を憎むことになるならな」

ひとつはジョルジュに。

川 - ) 「私は一体なんだ? 身体も精神も与えられた私は、人ではない私は……私は何者なんだ……。
      こんなにも、こんなにも苦しいなら……自意識などいらなかったのに……」

ひとつはクールに。

( ^ω^) 「大好きな人間に疎まれるくらいなら……生きている意味なんてないお」

ひとつはブーンに。

823 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:44:35 ID:UFe3axGM0

(´・ω・`) 「ブーン……クール……ジョルジュ……」
  _
(#゚∀゚) 「どう責任を取ってくれる? 俺らの為に世界を終わらせてくれるのか?」

川 - ) 「殺してくれ……殺してくれ……もう何も見たくない、何も聞きたくない、何も知りたくない」

( ^ω^) 「ショボン……もう、一方的な愛なんて与えられないお。
       人間なんて、全て無に変えてしまうお」

(;´-ω-`) 「違う! そんなつもりだったんじゃない!」


  _
( ゚∀゚)( ^ω^)川 ゚ -゚) 「お前は、自分の為だけに不死を生み出した」




(#´-ω-`) 「違う! 違う違う! ちがうちがうチガウ違うちがうチがう……」



目を瞑っても目の前の三人は消えない。
ただ視界を塞いだだけでは、自らの過去の罪から逃げることができるはずもない。

824 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:47:58 ID:UFe3axGM0

ふと気づいた時、僕は右手に鋭いナイフを握っていた。
何一つ迷うことなく、それを心臓にたたき込んだ。

鼓動が、冷たい金属を通って腕に拡がる。
暖かい液体が、何度も、何度も、何度も何度も噴き出す。
痛みは無く、傷口は、ふさがらない。

次第に、鼓動はゆっくりになっていき、完全に止まった。
瞬間、ブーンとクール、そしてジョルジュを象った光は、捻じれて溶けて消えた。

後に残ったのは、何もない空間。
一寸先すらも見えない暗闇。

四方に浮かび上がってきたのは、無数の肖像画。
口々に言葉をまくしたてる。

825 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:51:07 ID:UFe3axGM0

 
「どうして。私たちを見捨てるの」       「死を選べば楽になる」

                                  「お前なんか生まれてこなければよかった」
       「やめろ、やめてくれ」                

 「死んで詫びろ」                         「気が狂いそうだ」
             「あああああああああああああああああああ」
      「恨んでやる、一生、死ぬまで」
                         「生きている価値はない」         「今すぐに死ね」

  「お前のせいで、俺の息子は死んだ」   「悪魔め」   
                                  「絶対に許さない」
    「くたばれ」    「自分勝手で我儘な男だ」
                            「この殺人者」
                                                   「鬼」
           「化け物め」                      「罪を償え」
                       「人殺し」     「父さんを返せ!」
                    「あなたがいなければ」
       「殺せ! 殺せ!」
                                          「どうして俺ばっかりこんな目に……」
                   「嫌だ、死にたくない」         「息が苦しい」

「助けて……助けてよ……」                  「金だ!金が欲しい!」

                        「痛い!痛い!痛い!痛い!」
             「苦しい……」                             「地獄に落ちろ」

826 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:51:48 ID:UFe3axGM0













               リノ´ -川 「助けてほしくなんてなかった」










.

827 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:53:01 ID:UFe3axGM0

(´ ω `) 「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



耐えられない。僕はもう、この地獄には耐えられない。
僕を恨む人々の怨念が渦巻く中での生は、もう……。

生きていることが間違いだったのに。

生きてきてしまった。


愛する人を失ってから

多くを奪い、多くを傷つけ

それを人の為と、大義を振りかざし

自己満足に浸り

自らの罪を他の者に与え

生きていた

828 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:53:46 ID:UFe3axGM0

(´ ω `) 「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


耐えられない。僕はもう、この地獄には耐えられない。
僕を恨む人々の怨念が渦巻く中での生は、もう……。

生きていることが間違いだったのに。

生きてきてしまった。


愛する人を失ってから

多くを奪い、多くを傷つけ

それを人の為と、大義を振りかざし

自己満足に浸り

自らの罪を他の者に与え

生きていた

そんな生は……いらなかった



存在してはいけなかった





                         「ショボン! しっかりして!」

(´;ω・`) 「っ!」

829 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:54:28 ID:UFe3axGM0

・  ・  ・  ・  ・  ・



イ从゚ ー゚ノi、 「やはり、戻ってこられましたね」

そこは桃の木の立ち並ぶ庭園。
その中心に置かれた、シミ一つないクロスのかけられた机と並ぶ多様な酒。

ゆっくりと蘇ってくるのは、悪夢の前の記憶。

(;´・ω・`) 「……何をした」

イ从゚ ー゚ノi、 「試練、でございますよ。あなたが相応しいかどうかの」

(;´・ω・`) 「相応しい? その人殺しの依頼とやらに?」

イ从゚ ー゚ノi、 「何も告げずに試したことは謝ります。ですが、聡明なあなたのこと。
        全てを説明してからでは何の試練にもならないのですよ」

(´・ω・`) 「僕がさっき見た光景は……」

830 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:55:08 ID:UFe3axGM0

イ从゚ ー゚ノi、 「お酒の中に天帝の鏡、またの名をポルタツィア・カサレプティスという素材をそのまま入れてました。
        聞いたことがあるかもしれませんが、これはその者の内面にある後悔や懺悔、怨恨の記憶を強く引き出します」

(´-ω・`) 「七大災厄のポルタツィアを聞いたことはあるが、その素材については初めて聞いた」

七大災厄の素材ともなれば、たった一欠片すら手に入れることが難しい。
その使い道や効能が明らかにされていないものも多くあるはずだ。
天帝の鏡という名前の素材は、見たことも聞いたこともない。

イ从゚ ー゚ノi、 「あなたの心の強さを知るには最も適していると、判断したものですから。
        勿論、これに耐えることが出来なければ、不老不死の廃人となっていたのでしょうかね」

小さく笑う彼女。
その様子は美しくも可憐な少女そのものであったが、言葉の内容は笑うに笑えないものだった。

(;´・ω・`) 「物騒なものを試してくれたものだな……」

イ从゚ ー゚ノi、 「本当の心の強さと、全てにおいて優先されるような大事なものがあれば、
        天帝の鏡による悪夢から抜け出すことは容易いのです。
        現に、あなたもそれがあったのでございましょう?
        目覚める一瞬前に呟かれていましたよ」

831 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:57:42 ID:UFe3axGM0


リリ────────と。


その言葉の感触は覚えている。
終わることのない絶望に苛まれている中で、確かに聞こえた彼女の声。

忘れるはずがない。


彼女が僕を呼んだのであれば、僕は何処であろうと向かう。
どんなことでもすることができる。

彼女が、たった一人の愛した人であるから。

イ从゚ ー゚ノi、 「今、私の話せることを全てお伝えいたしましょう。
        どうぞ、どのお酒でもお飲みください。もう何も入っていませんので」

(´・ω・`) 「……もらうよ」

イ从゚ ー゚ノi、 「事の始まりは、千年以上も前のことでございます。とある一人の女性がいました。
        その女性は、並々ならぬ錬金術の知識を持ち、およそ凡人には浮かびもせぬ数千の調合を自在に行い、
        一つの大陸に存在した四つの国を治めていました。今となってしまっては滅びてしまったその国々の名は」

(´・ω・`) 「タントス、ナークラッド、ワーキルリマ、べン。錬金術書の伝説……。
       錬金術の始まりの地であって、未だ数多くの遺跡を残しておきながら、誰も近づけない大陸」

832 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 17:59:28 ID:UFe3axGM0

言葉を奪う形で僕は続けた。
もし、過去のどこかの時点で古代錬金術師が栄えていた土地があったとすれば、
そこ以外にはありえない。
仮に文明が滅びたとしても、その足跡は必ず残る。
それが、これだけ多くの土地を歩き、見聞きしてもその欠片すら手に入らないのだから。

イ从゚ ー゚ノi、 「ええ、巨大な渦のせいでございましょう?
        その四か国が滅びた際、誰も近づけない様にと彼女が施した仕掛けこそがそれです」

(´・ω・`) 「なぜ……」

殆どの書物には碌な情報が載っていないが、何故かどの本を読んでも、数夜にして滅びたとだけ書かれている。
この大陸の錬金術の原点だと言われている、海を渡った先にある錬金術大陸。
今をしても、まだ当時の四か国の足元にすら及ばないとする学説もあるくらいだ。
それほどまでに錬金術を使いこなすような国々が、たった数夜で滅びるだろうか。

イ从゚ ー゚ノi、 「あまり本筋には関係がありませんので、簡単に説明いたしますと、
        彼らは大自然の怒りに巻き込まれてしまったのです。彼女の行わなければならなかった錬金術。
        その素材を手にするために彼女が相対した七大災厄の怒りに」

833 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 18:01:40 ID:UFe3axGM0

(´・ω・`) 「七大災厄……随分なものに喧嘩を売ったんだな」

イ从゚ ー゚ノi、 「直接の原因は七大災厄のシスターヴァでございますが……。
        さて、その超自然災害を生き抜くことができたのは、
        女王として君臨していた女性一人とその友人五人だけでございました。
        彼女は、その国々の錬金術が外の世界に広がることを怖れ、海流を利用してすべての行き来を断絶たのです」

(;´・ω・`) 「そんなことが……」

旧大陸と呼ばれている大陸。
その大陸のことを記した書物は少なく、そのどれもが遥か昔に書かれたもの。
現在出回っているものはそれらの写本に過ぎず、新しい情報が書かれているものは見たことがない。

キツネのいう巨大な大渦と複雑な潮流により、旧大陸は完全に孤立してしまっているのが原因だが、
それほどまでに自然環境を変えてしまう知識など存在し得るのかどうか。

イ从゚ ー゚ノi、 「彼女にはそれ出来たのですよ。それほどまでに圧倒的な錬金術の技能を持っていたのです。
        私たちは四国が滅ぶ前に、彼女の治める旧大陸に招かれ、皆で技術を研鑽しながら暮らしておりました。
        その時には既に不老不死のような錬金術で自らの身体を強化していましたよ。
        最も、あなたほど完璧なものではなく、度々調整を必要としていましたが」

834 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 18:03:06 ID:UFe3axGM0

(´・ω・`) 「その彼女を殺すというのは、どういうことだ。僕は暗殺者じゃないんだ。
       そもそも殺害の依頼なんて請けはしないが、何故友人を殺す」

イ从゚ ー゚ノi、 「彼女が彼女でなくなってしまったからでございます。
        今の彼女は、肉体の死を恐れ人としての身体を捨て、精神だけの存在になってなお生き延びており、
        善意と悪意の境界線を躊躇なく踏み越え、自らの欲望を満たそうとするためだけに自己を確立しているのです。
        生前、ええ、敢えて生前と申しましょうか。彼女が最も恐れていたことでございます」

(´・ω・`) 「そんなことが本当に起きるとは俄かに信じられないが……。
       自我の暴走により理性と欲望の境目がなくなってしまったと」

イ从゚ ー゚ノi、 「左様でございます」

(´・ω・`) 「だが、優秀な錬金術師である彼女自身が、
       それをかねてから予測していたのなら放っておいても大丈夫なはずだが」

イ从゚ ー゚ノi、 「それが私どもでございます。
        もし彼女の悪意が暴走してしまったときに、それを消滅させる役割を与えられたのが、
        あなた方の言葉でいう、古代錬金術。
        そして、道具でしかないそれらを正しく使いこなすための道標となるのが私ども番人」

835 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 18:04:04 ID:UFe3axGM0

(´・ω・`) 「いや、待て。それだと僕の協力を乞う必要はない。違うか?
       豊富な錬金術の知識を持つその女性が仕組んだことであれば、自動的に処理されているはずだ」

古代錬金術ほどのものの創造主である女性が、仮に自らの死期を誤ったとしても、
そのために対策を講じているのであれば、何事も起きないのが当たり前だ。
時間差で発動する錬金術は、場合にもよるがそこまで難しくはない。

イ从゚ ー゚ノi、 「彼女とて人間でございました。過ちは犯すものです。自らが死に、その悪意のみが生き残った時、
        最初にすることは想像できても、既に存在する悪意に対処することは出来ませんでした。
        それに気づけなかったのは、私どもの落ち度でございます」

(´-ω・`) 「つまり、自身の悪意に対する策である古代錬金術に対して、悪意側からのアプローチがあったという事か」

イ从゚ ー゚ノi、 「察しが良くて助かるのでございます」

(´・ω・`) 「成程、言いたいことはわかった」

回りくどい言い方をするのが慣れているのか、それともこういう性格なのか。
この古代錬金術師の番人は、なかなか思うところを口にしない。
それでも、その話の内容が大体理解できたのは、僕が錬金術師であったからだろう。

836 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 18:05:26 ID:UFe3axGM0

彼女の二つの精神を善意と悪意としよう。
善意と悪意は裏表ではなく、言うなれば空に浮かぶ雲のように斑に、混じり合って存在していた。
対策は、それ故に悪意側にも知られるところとなり、
錬金術の完成段階に細工をされた、というところか。

(´・ω・`) 「なかなか面白い話が聞けたよ。錬金術創世の物語。
       もし僕が本を書くようなことがあれば、その一ページに書き記しておくよ。
       お酒をご馳走になった、ありがとう」

酒の肴には些か重い話いが、興味深い話だった。
機会があれば、旧大陸に行ってみるのも悪くない。

席を立った僕は、来た道を戻ろうと背を向けた……はずだった。

(;´・ω・`) 「!?」

イ从゚ ー゚ノi、 「どうぞ、おかけください」

確かに振り返ったはずなのに、テーブルは目の前にあり、少女は依然として座ったまま。
所狭しと並べられている酒瓶と徳利は、先程と全く同じ場所にあった。
背中側を見れば、そこには花の咲いた桃が立ち並ぶ。

837 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 18:06:08 ID:UFe3axGM0

イ从゚ ー゚ノi、 「まだ話は終わっておりませんのに、聞いていたよりも気が短いのでございますね」

(´・ω・`) 「あなたの願いは断ったはずだが」

イ从゚ ー゚ノi、 「短気であれば損をいたしますよ。私は、あなたが不老不死であるから声をかけたのではありません。
        強い心と大事にするものを持っていると知っていたので、この桃園にお呼びしたのでございます」

(´・ω・`) 「……」

一度たった席に再び座る。
僕が不老不死であるからでないとしたら、他に何が求められているのだろうか。

イ从゚ ー゚ノi、 「ええ、引き延ばすのはやめにしましょう。端的に申しますと、
        あなたの大切なもの、取り戻したいものを、彼女が所持……いえ、隠しているのです」

(´・ω・`) 「僕の……大切なもの……」

イ从゚ ー゚ノi、 「魂のみとなって封印され千年、彼女の次なる目的は人間としての再誕でございましょう。
        勿論、其れには様々な条件がありますし、簡単ではありません。
        条件のうち一つ、彼女のための肉体はどうするつもりだと思いますか」

838 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 18:07:11 ID:UFe3axGM0

(´-ω-`) 「……その辺の娘でも攫ってしまえばいいだろう。別に拘る必要もない」

イ从゚ ー゚ノi、 「彼女は知らないのでございます。あなたのように"完璧な"不老不死の錬金術を。
        ですから、用意されたものがあれば、それを使うのが道理ということでございましょう」

(;´・ω・`) 「用意された……っ!」

キツネの言葉を与太話と切って捨てないのであれば、一つの結論にたどり着く。

(;´・ω・`) 「リリが……いるのか?」

イ从゚ ー゚ノi、 「私の得た情報によりますと、ほぼ間違いないでしょう。
        長年、あなたが探し続けても見つからないのは当然の結果だった、ということです」

(#´・ω・`) 「彼女は今どこにいるんだ!」

イ从゚ ー゚ノi、 「分かっていれば苦労はしないのでございます。
        ただ、彼女が再生の錬金術を行うには、まだ幾許かの余裕がありますので、探してもらっているところです」

839 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 18:11:10 ID:UFe3axGM0

(#´・ω・`) 「誰に」

イ从゚ ー゚ノi、 「あなたのまだ会ったことのない番人がそのようなことに秀でておりますので」

(#´・ω・`) 「そいつはどこにいる?」

イ从゚ ー゚ノi、 「あまり、会うことは勧めませんが……華国よりさらに東の島国におります。
        向かうのであれば、華国の都、華洛より船に乗るのが良いでしょう。
        出口は、都に繋げておきます。くれぐれも独断専行することのないようにお願いいたします。
        人の躰を失ったままとは言え、彼女はあなたでは及びもつかぬ錬金術師でござます」

(´・ω・`) 「……約束はできないな。だけど、僕はその女の居場所も名前も知らない。
       キツネはあえてそうしたんだろ。本当に、番人はどれもこれも一筋縄じゃいかないな」

リリとやっと会えるかもしれないと思えば、途轍もなく面倒な障害があったものだ。
だけど、何が起きようと必ず助け出す。


待っててくれ、リリ……

840 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 18:12:30 ID:UFe3axGM0

イ从゚ ー゚ノi、 「華洛から出る船に乗るには、高官の許可がいります。
        行くというでしょうから、手筈は整えております。そろそろ、華洛の役人が来ることでしょう。
        あなたには驚きかもしれませんが……」

(´・ω・`) 「?」

気づいた時には、キツネがその名を表す面をつけていた。
聞けば、華国の役人には、その姿を明かしていないという。



「おいおいおい、神州に行きたいっていう物好きがいると聞いて、どんな奴かと思ってきてみれば」


(;´・ω・`) 「その声……」

桃園の入り口らしきところに立っていたのは、民族的な面で顔を隠した男。
華国の衣装をその身に纏い、高級そうな装身具がちらほらと見える。

  _
( ゚∀゚) 「けっ……胸糞わりぃ。お前にだけは知られたくなかったんだがな」

面を外したその男は、見紛うことなくジョルジュであった。

841 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/06(日) 18:13:23 ID:UFe3axGM0













28 宴の夢  End



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